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特開2023-133446生物製剤の制御送達用の自己組織化ゲルおよびその製造方法
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  • 特開-生物製剤の制御送達用の自己組織化ゲルおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133446
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】生物製剤の制御送達用の自己組織化ゲルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20230914BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230914BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/70
A61K9/70 405
A61K39/395 M
A61K45/00
A61K47/14
A61K47/22
A61K47/26
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023124313
(22)【出願日】2023-07-31
(62)【分割の表示】P 2020554077の分割
【原出願日】2019-04-04
(31)【優先権主張番号】62/652,548
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519396429
【氏名又は名称】アリヴィオ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー ティー. ズゲイツ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア ワン
(72)【発明者】
【氏名】デレク ジー. ヴァン デル ポル
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ジェイ. ブラシオリ
(57)【要約】
【課題】生物製剤の制御送達用の自己組織化ゲルおよびその製造方法の提供。
【解決手段】ゲルは、自己組織化プロセスにおいて、一般に安全と認められる(GRAS)低分子量両親媒性分子に基づいて形成される。生体高分子などの治療薬または予防薬は、生物製剤および/またはそれらの活性を分解または破壊する可能性のある温度および/または有機溶媒に曝されずに充填される。結果として生じる自己組織化ゲル組成物は、その内部に細孔および水性ドメインを有するミクロ構造を含み、それらを親水性および疎水性分子に対して透過性にする。この透過性により、生体高分子の隔離が可能になる。隔離されると、生体高分子と両親媒性ゲル化剤の間の静電的、疎水性-疎水性相互作用などにより、不安定なペイロードは、ミクロ構造が崩壊するまで高い安定性で封入されたままになる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、本明細書に組み込まれる、Julia Wang、Derek G.van der Poll、Dominick J.Blasioli、およびGregory T.Zugatesにより2018年4月4日に出願された米国特許出願公開第62/652,548号「SELF-ASSEMBLED GELS FOR CONTROLLED DELIVERY OF BIOLOGICS AND METHODS OF MAKING THEREOF」に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本願は、一般に、生物製剤、治療薬、または予防薬の制御送達の分野にあり、より詳細には、封入/捕捉された不安定な治療薬または予防薬の安定性および/または活性を損なわない、自己組織化ゲルからの応答性の高い送達に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
薬物送達のために生体内で安定している自己組織化ゲルは、米国特許出願公開第2017/0000888号に記載されている。分子により規定された高次構造を形成する自己組織化は、主に非共有相互作用に依存している。自己組織化から形成された構造は、組織化(assembly)プロセス中に分子を溶液中で捕捉することが可能である。これらは、乾燥され、再水和されてゲルを形成するか、または機械的にゲル粒子に破壊され、疎水性および親水性の薬剤の送達のために注射され得る、ゲルの形で投与され得る。大部分の自己組織化ゲルは、両親媒性化合物から形成され、理論的には親水性-疎水性相互作用に起因して自発的に組織化することができる。
【0004】
これらの両親媒性の薬剤を媒体に均一に分散させるためには、一般に、37~40℃を超える加熱および/または有機溶媒の添加が必要であり、その結果、冷却すると、両親媒性の薬剤は組織化して規則正しいナノおよびミクロ構造となり、これは次に自己支持性のゲルを形成することができる。このゲルは、薬剤の制御放出のためのリザーバとして薬物送達に有用であり、組織修復のための足場として望ましい生化学的および機械的性質を有し得る。
【0005】
生物製剤などの多くの治療的、予防的、または生物学的に活性な薬剤は、熱および/または有機溶媒に感受性である。核酸、小さい化合物、ペプチド、およびその他の生体由来の成分は、加熱および/または特定の種類の溶媒への曝露に対して不安定である可能性がある。これらの薬剤は、有機溶媒への溶解および/または体温を超える温度への加熱によって活性を失う場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0000888号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、本発明の目的は、自己組織化ゲル組成物と、その中に高レベルの薬剤を充填するための、体温または有機溶媒を超える温度に加熱されないように制限されたプロセスを提供することである。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、自己組織化ゲル組成物と、薬剤を充填するためのプロセスを提供することであり、この際、薬剤は、不安定な薬剤、特に生物学的薬剤の活性を分解または破壊し得る有機溶媒に曝されないことに限定されている。
【0009】
本発明のさらにもう一つの目的は、制御放出時に不安定な捕捉および/または封入された薬剤の活性を維持する自己組織化ゲル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
両親媒性化合物の自己組織化によって形成され、生物製剤などの不安定な治療薬または予防薬をその中に封入および/または捕捉したナノ構造を含む制御放出ヒドロゲルは、不安定な薬剤が活性を保持するような方法を使用して製剤化されてきた。ゲルは、自己組織化プロセスにおいて、一般に安全と認められる(GRAS)低分子量両親媒性分子に基づいて形成される。生体高分子などの治療薬または予防薬は、生物製剤および/またはそれらの活性を分解または破壊する可能性のある温度および/または有機溶媒に曝されずに充填される。結果として生じる自己組織化ゲル組成物は、その内部に細孔および水性ドメインを有するナノおよび/またはミクロ構造を含み、それらを親水性および疎水性分子に対して透過性にする。この透過性により、これらの構造を備える生体高分子の隔離が可能になる。隔離されると、生体高分子と両親媒性ゲル化剤の間の静電的、疎水性-疎水性相互作用などにより、不安定なペイロードは、高い安定性で、構造が崩壊するまで封入されたままになる。
【0011】
放出は、自己組織化してゲルを形成する薬物とゲル化剤との間の酵素切断可能な結合を使用することにより、疾患の重症度に起因して上昇した酵素のレベルの関数として調節することができる。これらのレベルが低下すると、酵素の切断が減少するために放出量は減少する。有機溶媒と高温を使用して自己組織化ゲル封入剤を形成する以前の方法とは対照的に、ヒドロゲル形成プロセスの後に薬剤を組み込むためのプロセス条件が開発された。これは、事前に形成した構造化ヒドロゲルの中に薬剤を「封入」するための重要な方法である。それは予想外に高い薬物充填量をもたらし、ゲル特性を保ち、そして、抗体および核酸などの多くの生体高分子などの不安定な薬物に重要である、薬物充填時の高い溶媒/温度条件および有機溶媒を回避する。リドカインなどの一部の薬物の場合、充填機構は、アニオン性両親媒性物質の頭基とカチオン性薬物との間の静電相互作用に基づき得る。これは、高い塩濃度を加えてこれらの相互作用を破壊し、薬物を放出することに示される。一部の抗体などの他の薬物の場合、薬物と両親媒性物質の親油性尾部との間に相互作用が生じ得る。競合する界面活性剤を加えてこの相互作用を破壊することができ、薬物を放出する。親油性領域は自己組織化/規則化され、ヒドロゲルに埋め込まれているため、この最後の結果は予想外であった。おそらく、これらの領域は薬物の結合/充填にアクセスできないであろうが、これは特に抗体(150kDa)と同じ大きさのもので行うことができることが見出された。
【0012】
製剤は、ゲルの形態で提供されてもよいし、投与部位で再水和させるか投与用に水和させる乾燥形態での投与用に凍結乾燥されてもよいし、崩壊させて粒子または分散物としてもよいし、1またはそれを超える追加の治療薬または予防薬と同時投与されてもよい。両親媒性化合物は、機械的混合により、必要に応じて加熱により水性溶媒に、かつ/または加熱により有機溶媒に溶解され、次いで水溶液に希釈される。ゲルは混合物が冷えると形成される。ゲルは通常、初期溶媒を除去するために濾過され、遠心分離され、乾燥または洗浄されるため、最終的なゲル製剤には、有機溶媒の残渣はたとえあったとしても検出できるほどの量はないか、またはごく少量の残渣(すなわち、結果として生じるゲルの約5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.5%、または0.1重量%未満)しか存在しない。
【0013】
形成されたヒドロゲルは、不安定な治療薬または予防薬を大量に含んでいる。ゲルは自己支持性である、すなわち、室温で反転に対して安定している。封入された薬剤は、薬剤およびそれが保存される温度に応じて、冷蔵、周囲温度、および/または37℃で、少なくとも1日、2日、3日、1週、2週、1ヶ月、またはそれを超える間、その活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、もしくは90%またはそれを超える活性あるいは自己組織化ゲル内での固有の構造的配置を維持することができる。一般に、ゲル化剤の濃度を増加させると、自己組織化ゲルに存在する封入および/または捕捉された薬剤の封入効率が増加する。
【0014】
ゲルは、一般に安全と認められる物質(GRAS)、またはGRAS成分に関する米国食品医薬品局の要件に準拠する分子、一般に少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20重量/体積%の濃度の低分子量両親媒性分子の自己組織化によって形成される。ゲル形成中、最初に有機溶媒を使用して、例えばゲル化媒体の体積の約15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、35%、40%、45%、または50%の量のゲル化剤を溶解してもよい。ゲル化剤とゲル化媒体中の混合溶媒の種類に応じて、ゲル化剤が均一な溶液を形成することを保証するために、最小体積パーセントの有機溶媒が必要となり得、それにより、冷却されて室温で反転した時に反転に対して安定しているゲルが形成される。有機溶媒が少なすぎると、ゲル化(すなわち、ゲル化剤の流動性のある質量または沈殿物)またはゲル化剤の固化/硬化が生じず、水または水溶液が添加されるとゲル化が起こらないことがある。有機溶媒が多すぎると、ゲル化が起こらないか、または、ゲル形成後にゲルおよびナノ構造から十分に除去されない場合、封入される不安定な生物剤に損傷を与える可能性もある。自己組織化ゲルを形成する際に使用される有機溶媒は、除去されるか、または残留量が米国食品医薬品局(FDA)による医薬品の定められた限界内に収まるレベルまで実質的に除去される。乾燥、溶媒交換、または凍結乾燥を用いて過剰な有機溶媒を除去してもよい。
【0015】
自己組織化ゲルには、37℃またはそれ未満の温度で、緩衝液などの水性環境に、1または複数の有機溶媒を含まないかまたは実質的に含まないゲルを懸濁し、得られた懸濁液を1またはそれを超える薬剤を含む水性混合物と混合することによって、治療薬または予防薬が充填される。一部の例では、1または複数の有機溶媒を含まないかまたは実質的に含まない自己組織化ゲルを、薬剤をゲル粒子およびその中のナノ構造に封入および/または捕捉するために、均質化するか、超音波処理するか、またはそうでなければ分散させて、緩衝液などの水性環境に懸濁した粒子(すなわち、ナノ粒子またはミクロ粒子、あるいはそれらの組合せ)を最初に形成し、結果として生じる懸濁液を1またはそれを超える薬剤を含む水性混合物と混合してもよい。
【0016】
1またはそれを超える薬剤が充填された自己組織化ゲルは、投与のために薬学的に許容され得る担体に懸濁させてよい。均質化するか、超音波処理するか、またはそうでなければ粒子として分散させた自己組織化ゲルは、乾燥させるか、懸濁させるか、またはゲルの状態で投与されてよい。自己組織化ゲル、その懸濁液製剤、または粒子製剤はまた、包帯、創傷被覆材、パッチ、または注射器もしくはカテーテルに組み込むこともできる。
【0017】
自己組織化ゲル、その懸濁液製剤、または粒子製剤は、疾患または障害の1またはそれを超える症状を緩和、予防、または処置するため有効投薬量の1または複数の治療薬または予防薬を送達するために投与される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、インフリキシマブ(IFX)およびアダリムマブ(ADA)を充填したパルミチン酸アスコルビル(AP)ゲルの充填および放出プロフィールを示すグラフである。x軸は時間(時間)を示し、y軸は放出率を示す。
【0019】
図2図2は、L929生存力アッセイ(2%血清中1ng/mL TNF-α)でTNF-αに対して活性のあるパルミチン酸アスコルビル(AP)ゲルから放出されたインフリキシマブ(IFX)およびアダリムマブ(ADA)の抗体活性を示す棒グラフである。
【0020】
図3図3は、HPLCで測定した、パルミチン酸アスコルビル(AP)繊維へのインフリキシマブ(IFX)の充填率(y軸)を経時的に(x軸)示すグラフである。
【0021】
図4図4は、パルミチン酸アスコルビル(AP)ミクロ粒子懸濁液への薬剤のpHおよび/または電荷の関数としての薬剤の充填率依存性を示す非限定的な図である。
【0022】
図5図5は、パルミチン酸アスコルビル(AP)自己組織化ゲルと非自己組織化AP粉末懸濁液との相互作用におけるインフリキシマブ(IFX)とアダリムマブ(ADA)の封入効率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
I.定義
「ゲル化剤」という用語は、1またはそれを超える溶媒中での、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、イオン相互作用、π-πスタッキング、またはそれらの組合せなどの非共有相互作用によって自己組織化できる分子を指す。ゲル化剤は、例えば毛管力によって溶媒を固くすることによってゲルを形成することができる。ゲル化剤は、ヒドロゲル化剤(例えば、ヒドロゲルを形成するゲル化剤)および有機ゲル化剤(例えば、有機ゲルを形成するゲル化剤)を含み得る。一部の実施形態では、ゲル化剤は、ヒドロゲルと有機ゲルの両方を形成することができる。
【0024】
「自己組織化」という用語は、適した環境で分子が自発的に集合または組織化して、ヒドロゲルなどのより高次の規則正しい構造を形成する能力を指す。
【0025】
「ヒドロゲル」という用語は、水が主成分であるところで、共有結合によって(例えば、ポリマーヒドロゲル)、または非共有結合によって(例えば、自己組織化ヒドロゲル)結合している分子の三次元(3D)ネットワークを指す。ゲルは、ゲル化剤の自己組織化を介して、またはゲル化剤の化学架橋を介して形成することができる。水性ゲル化剤を使用してヒドロゲルを形成することができる。
【0026】
「共集合(co-assembly)」という用語は、適した環境での自発的な集合、またはヒドロゲルなどの高次規則構造を形成するための少なくとも2つの異なる種類の分子の組織化のプロセスを指し、構造内の分子は一般に規則正しい方法で組織化されている。
【0027】
「有機溶媒」という用語は、その液相で固体物質を溶解できる任意の炭素含有物質を指す。有機化学で慣用される例示的な溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジクロロメタン、およびヘキサンが挙げられる。
【0028】
「水混和性」という用語は、あらゆる割合で水と混ざり、単一の均質な液相を形成する溶媒を指す。これには、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、メタノール、およびジオキサンなどの溶媒が含まれるが、通常、ヘキサン、オイル、およびエーテルなどの溶媒は含まれない。また、酢酸エチルおよびジクロロメタンなどの、実際には非混和性と見なされる、水への混和性または溶解性が非常に限られている溶媒も除外される。
【0029】
「封入パーセント(%)」、または「封入率」は、一般に、封入%=封入された薬剤の重量÷1または複数の薬剤(封入+非封入)の合計重量×100%として計算される。
【0030】
「薬物充填効率(w/w)」という用語は、薬物重量/(薬物重量+両親媒性物質重量)を指す。
【0031】
「ゲル重量パーセント(w/v)」という用語は、1または複数のゲル化剤の総質量を、総溶媒体積(すなわち、1または複数の有機溶媒+ヒドロゲルの場合は水)の百分率として指す。
【0032】
本明細書において使用される「薬学的に許容され得る」とは、米国食品医薬品局などの機関のガイドラインに従って、過度の毒性、刺激作用、アレルギー反応あるいは合理的な利益/リスク比に見合ったその他の問題または合併症がなく、健全な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適した化合物、材料、組成物、および/または剤形を指す。
【0033】
本明細書において使用される「生体適合性」および「生物学的に適合性」という用語は、一般に、代謝物またはその分解産物とともに、一般にレシピエントに対して無毒であり、レシピエントに重大な有害作用を引き起こさない材料を指す。一般的に言えば、生体適合性材料は、患者に投与されても重大な炎症または免疫応答を誘発しない材料である。
【0034】
本明細書において使用される「親水性」という用語は、水に対して親和性を有する性質を指す。例えば、親水性ポリマー(または親水性ポリマーセグメント)は、主に水溶液に可溶性である、および/または水を吸収する傾向があるポリマー(またはポリマーセグメント)である。一般に、ポリマーの親水性が高いほど、ポリマーは水に溶解する、水と混ざる、または水に濡れる傾向が高い。
【0035】
本明細書において使用される「疎水性」という用語は、水に対する親和性を欠く、または水をはじく性質を指す。例えば、ポリマー(またはポリマーセグメント)の疎水性が高いほど、ポリマー(またはポリマーセグメント)は水に溶解しない、水と混ざらない、または水に濡れない傾向が高い。
【0036】
本明細書で使用される「界面活性剤」という用語は、液体の表面張力を低下させる薬剤を指す。
【0037】
「治療薬」という用語は、疾患または障害の1またはそれを超える症状を予防または処置するために投与することができる薬剤を指す。治療薬は、核酸またはその類似体、小分子(分子量が2000ダルトン未満、より一般的には1000ダルトン未満)、ペプチド模倣物、タンパク質、またはペプチド、炭水化物または糖、脂質、またはそれらの組合せであり得る。一部の実施形態では、細胞または細胞材料が治療薬として使用され得る。
【0038】
疾患、障害、および/または症状の素因となり得るが、まだそれを有すると診断されていない動物において、疾患、障害、および/または症状が発生することを「処置する」または「予防する」という用語;疾患、障害、または症状を阻害すること、例えば、その進行を妨げること;そして、疾患、障害、または症状を緩和すること、例えば、疾患、障害、および/または症状の退行を引き起こすこと。疾患または症状を処置することには、例えば、たとえ鎮痛剤が疼痛の原因を処置しない場合でも、鎮痛剤の投与によって対象の疼痛を処置することなど、たとえ根底にある病態生理が影響を受けない場合でも、特定の疾患または症状の少なくとも1つの症状を改善することが含まれる。
【0039】
「治療上有効な量」という用語は、自己組織化ゲル組成物の中および/またはその上に組み込まれると、あらゆる処置に適用可能な妥当な利益/リスク比で何らかの望ましい効果を生じる、生物学的薬剤などの治療薬または予防薬の量を指す。有効量は、処置される疾患または症状、投与される特定の製剤、対象のサイズ、または疾患または症状の重症度などの要因に応じて変化し得る。
【0040】
「組み込まれた」、「封入された」および「捕捉された」という用語は、治療薬または予防薬が組み込まれる、封入される、および/または捕捉される方法にかかわらず、1または複数の治療薬または予防薬をゲル組成物またはその中に形成されたナノ構造の中に組み込み、かつ/または封入し、かつ/または捕捉することを指す。
【0041】
「GRAS」は、Generally Recognized As Safe(一般に安全と認められる)という語句の頭字語である。連邦食品医薬品化粧品法(以降、該法)の201(s)条および409条の下、意図的に食品に添加される物質は食品添加物であり、これは、その物質が、その意図された使用条件下で安全であることが適切に示されていると適格な専門家の間で一般に認識されたものでない限り、または、その物質の使用が食品添加物の定義から除外されていない限り、FDAによる市販前の審査および承認の対象となる。該法の201(s)条および409条および21 CFR 170.3および21 CFR 170.30のFDAの施行規則の下、食品物質の使用は、科学的手順によるか、または、1958年以前の食品で使用された物質の場合は、21 CFR 170.30(b)の下、食品での一般的な使用に基づく経験によるGRASであってよく、科学的手順による安全性の一般的な認識は、物質の食品添加物としての承認を得るのに必要であるのと同じ量および質の科学的証拠を必要とする。科学的手順による安全性の一般的な認識は、通常公開されている、一般に利用可能であり受け入れられている科学データ、情報、または方法の適用、ならびに科学的原理の適用に基づいており、未公開の科学データ、情報または方法の適用によって裏付けられることがある。21 CFRによって定義された要件に適う化合物のデータベースは、表題21:食品および医薬品、パート184に見出される。
【0042】
数値範囲には、限定されるものではないが、温度の範囲、重量濃度の範囲、分子量の範囲、整数の範囲、および時間の範囲等が含まれる。範囲には、その中に包含される部分範囲および部分範囲の組合せが含まれる。「約」という用語の使用は、述べられた値よりも上または下の値を記述することを意図し、「約」という用語は、およそ+/-10%の範囲で変更する;他の例では、値は、およそ+/-5%の範囲で述べられた値よりも上または下の値の範囲内であり得る。「約」という用語が数字の範囲の前(すなわち、約1~5)または一連の数字の前(すなわち、約1、2、3、4、等)で使用される場合、別に指定されない限り、それは数字の範囲の両端、または一連の数字の各々を修飾することを意図する。
【0043】
II.自己組織化ゲル
1.ゲル化剤
ゲルを形成するための自己組織化に適している、一般にセーフドとして求められる(Generally Required as Safed)(「GRAS」)安全米国食品医薬品局のリストの要件を満たす両親媒性ゲル化剤(本明細書中では「GRASゲル化剤」と総称)は一般に2,500Da未満であり、好ましくは酵素切断可能であり得る。GRAS両親媒性物質ゲル化剤は、ミクロ/ナノ構造(例えば、ラメラ、ミセル、小胞、および/または繊維構造)から形成され、これらの構造を含むゲルに自己組織化する。
【0044】
好ましいGRAS両親媒性物質ゲル化剤には、アルカン酸アスコルビル、アルカン酸ソルビタン、モノアルカン酸トリグリセロール、アルカン酸スクロース、グリココール酸、またはその任意の組合せが含まれる。一部の実施形態では、GRAS両親媒性物質ゲル化剤には、パルミチン酸アスコルビル、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸トリグリセロール、パルミチン酸スクロース、またはグリココール酸が含まれる。
【0045】
アルカン酸塩には、不安定な結合(例えば、エステル、カルバミン酸塩、チオエステルおよびアミド結合)を介してアスコルビル、ソルビタン、トリグリセロール、またはスクロース分子に結合した疎水性C1~22アルキル(例えば、アセチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、カプリリル、カプリル、ラウリル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、アラキジル、またはベヘニル)が含まれ得る。例えば、アルカン酸アスコルビルは、パルミチン酸アスコルビル、デカン酸アスコルビル、ラウリン酸アスコルビル、カプリル酸アスコルビル、ミリスチン酸アスコルビル、オレイン酸アスコルビル、またはその任意の組合せであり得る。アルカン酸ソルビタンは、モノステアリン酸ソルビタン、デカン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、カプリル酸ソルビタン、ミリスチン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、またはその任意の組合せであり得る。モノアルカン酸トリグリセロールには、モノパルミチン酸トリグリセロール、モノデカン酸トリグリセロール、モノラウリン酸トリグリセロール、モノカプリル酸トリグリセロール、モノミリスチン酸トリグリセロール、モノステアリン酸トリグリセロール、モノオレイン酸トリグリセロール、またはその任意の組合せが含まれ得る。アルカン酸スクロースには、パルミチン酸スクロース、デカン酸スクロース、ラウリン酸スクロース、カプリル酸スクロース、ミリスチン酸スクロース、オレイン酸スクロース、またはその任意の組合せが含まれ得る。
【0046】
代表的な低分子量GRAS両親媒性ゲル化剤には、パルミチン酸アスコルビル(ビタミンC前駆体)、酢酸レチニル(ビタミンA前駆体)、および酢酸α-トコフェロール(ビタミンE前駆体)などのビタミン前駆体が含まれる。
【0047】
一部の形態では、GRAS両親媒性物質ゲル化剤は、C~C30基を有する1またはそれを超える飽和または不飽和炭化水素鎖を、エステル化またはカルバミン酸塩、無水物、および/またはアミド結合によって、低分子量の、一般に親水性の化合物と合成によってコンジュゲートすることによって形成される。C~C30の範囲には、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19等からC30までと、例えばC~C29、C~C30、C~C28等のC~C30の中にある範囲が含まれる。
【0048】
一部の実施形態では、酢酸αトコフェロール、酢酸レチニル、パルミチン酸レチニル、またはそれらの組合せは、ゲル化剤と共集合することができる。
【0049】
一部の実施形態では、反転に対して安定な粘性ゲル(例えば、室温、約25℃で反転した場合のレジストフロー)を形成するために、3%、4%、5%(重量/体積)またはそれを超えるゲル化剤を液体媒体に完全に溶解する。ゲルは、独立に、重量/体積で約4、約5、約10、または約15から)約40パーセントまで(約40、約30、約20、約15、約10、5まで)のGRAS両親媒性物質ゲル化剤を含むことができる。
【0050】
一部の形態では、自己組織化ゲル組成物は、分子量が2500またはそれ未満であり、酵素切断可能な、一般に安全と認められる(GRAS)第1のゲル化剤と、同じくGRAS剤である非独立性の第2のゲル化剤を含む。非独立性のゲル化剤は、酵素切断可能なGRASゲル化剤と組み合わせた場合に、一般に自己支持性のゲルを形成する濃度で自己支持性のゲルを形成しない。例示的な非独立性の第2のゲル化剤には、酢酸αトコフェロール、酢酸レチニル、およびパルミチン酸レチニルが含まれる。非独立性のゲル化剤は、GRAS第1のゲル化剤と共集合して自己組織化ゲルを形成する。
【0051】
ゲルは、独立に、ゲルの体積あたり約3から最大30~40パーセント、より好ましくは約4%~10重量%のゲル化剤を含むことができる。30~40%を超えると、ゲルは溶液から沈殿し始めるか、または注入性が低くなる。
【0052】
2.ゲル化媒体
ゲル化剤が自己組織化ゲルを形成するための液体媒体には、一般に、有機溶媒と水(または塩水溶液)の水溶液または二溶媒系、または水性有機混合溶媒系が含まれる。ゲル化の後、1または複数の有機溶媒は実質的に(すなわち、結果として生じるゲル中の重量で1または複数の有機溶媒の約5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%またはそれ未満)除去される。
【0053】
一実施形態では、GRASゲル化剤は、好ましくは強力な機械的混合および/または加熱を用いて、水溶液に均一に混合および/または溶解される。もう一つの実施形態では、水(または水性緩衝液または塩溶液)と水混和性有機溶媒の両方を含む共溶媒媒体がゲル化溶液を形成するために使用される。
【0054】
あるいは、GRASゲル化剤を最初に有機溶媒に溶解して、GRASゲル化剤を溶質として溶液(「ゲル化剤溶液」と呼ばれる)を形成し、その後に水(または水性緩衝液または塩溶液)を添加してゲル化媒体を形成することができる。
【0055】
ゲル化媒体で使用される1または複数の有機溶媒は、その中のゲル化剤の溶解度、その極性、疎水性、水混和性、および場合によっては酸度に基づいて選択されることができる。適した有機溶媒としては、水混和性溶媒、またはかなりの水溶性(例えば、5g/100g水よりも大きい)を有する溶媒、例えば、DMSO、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、酪酸ヘキシル、グリセロール、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、またはイソプロピルアルコールなどのアルコール、ならびに低分子量ポリエチレングリコール(例えば、37℃で溶融する1kD PEG)が挙げられる。その他の形態では、自己組織化ゲル組成物は、極性または非極性溶媒、例えば、水、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、アセトニトリル、グリセロール、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、メタノール、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、N、N’-ジメチルホルムアミド、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、テトラヒドロフラン、キシレン、メシチレン、および/またはその任意の組合せなどを含むことができる。ゲル化のための有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、酪酸ヘキシル、グリセロール、アセトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、エタノール、およびメタノールが挙げられる。別のクラスの有機溶媒である、脂肪アルコールまたは長鎖アルコールは、通常、高分子量の直鎖第一級アルコールであるが、天然油脂に由来する、4~6炭素程度のものから22~26炭素程度のものに及び得る。いくつかの商業的に重要な脂肪アルコールは、ラウリル、ステアリル、およびオレイルアルコールである。不飽和のものもあれば分枝しているものもある。
【0056】
水性溶媒は、一般に、滅菌され、蒸留水、脱イオン水、純水または超純水から選択され得る水である。一部の例では、第2の溶媒は、生理食塩水などの水溶液、塩および/または緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液、および等張食塩水などを含有するその他の生理学的に許容され得る水溶液、あるいは、動物またはヒトなどの対象への投与に許容され得る任意のその他の水溶液である。水などの水性溶媒の量は、一般に、使用される第1の有機溶媒の量に基づき、1または複数の有機溶媒の選択される総体積または重量百分率が、水または水溶液の体積または重量百分率を決定した(すなわち、有機溶媒が30v/v%の場合は、水は70v/v%)。
【0057】
一部の例では、有機溶媒の量は、水溶液(例えば、必要に応じて1またはそれを超える追加の薬剤を含有する水、水性緩衝液、水性塩溶液)の体積と比較して1:1以下、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、またはそれ未満である。つまり、均一なゲルを形成する際に使用される液体の総量中の有機溶媒の体積の量は、一般に約50%、33%、25%、20%、17%、14%、12.5%、11%、10%、または9%未満であり、粒子の場合には著しく少なく、一般に1%未満である。典型的な範囲は、1:1から1:5までである。
【0058】
ゲル化は、ゲル化媒体を約30~100℃、約40~100℃、約50~100℃、約60~100℃、約70~100℃、約90~100℃、約30~90℃、約40~90℃、約50~90℃、約60~90℃、約70~90℃、約80~90℃、約40~80℃、約50~80℃、約60~80℃、約70~80℃、約30~70℃、約40~70℃、約50~70℃、約60~70℃、約30~60℃、約40~60℃、約50~60℃、約30~50℃、または約40~50℃の間の範囲の温度に加熱することを必要とし得る。一部の実施形態では、加熱は約60~80℃の温度範囲で行われる。一部の実施形態では、加熱は約80℃で行われる。
【0059】
一部の例では、加熱は必要でない、または、必要であれば、ほぼ体温(37℃)に加熱することにより、反転に対して安定している均一な自己支持性のゲルが生成される。いずれの例でも、ゲル化媒体は加熱されて溶解を完了し、続いて約37℃、または約20℃~25℃の室温に冷却される。
【0060】
ゲル化は、加熱の有無にかかわらず行うことができる。加熱した場合、ゲル化は加熱したゲル化溶液が冷める時に起こる。ゲルを安定した表面の上に約1~2時間室温で放置すると、一貫した自己支持性のゲルが得られる。自己支持性のゲルは、沈殿が最小限の、規則正しく集合したミクロ構造またはナノ構造を含む。これは一般に光学または電子顕微鏡を使用して確認される。
【0061】
ゲル化剤および溶媒は、適切なゲル化剤濃度および水性有機混合溶媒系の適切な体積および比、またはその両方で、自己支持性のゲルを形成するように選択される。好ましくは、ゲル化剤溶液は、水溶液を添加する前に固化または沈殿するべきではない。有機溶媒の量を増加させること、または有機溶媒中のゲル化剤の濃度を低下させることにより、ゲル化剤溶液の固化を防ぐことができる。ゲル化剤溶液(有機溶媒中)を水溶液と混合すると、流動性の塊/凝集体ではなく、反転に対して安定した自己支持性のゲルが、(必要であれば加熱後に)形成される。
【0062】
自己支持性のゲルの形成後、ゲル中の有機溶媒は、製薬用途に適した残留レベルまで除去され得る。一部の例では、ゲル化の後、1または複数の有機溶媒は完全に除去されるか、または実質的に(すなわち、結果として生じるゲル中の重量で1または複数の有機溶媒の約5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%またはそれ未満)除去される。透析、遠心分離、濾過、乾燥、溶媒交換または凍結乾燥などの1またはそれを超える精製技法を使用して、1または複数の有機溶媒を除去することができる。残留有機溶媒は、米国食品医薬品局(FDA)により規定される医薬品の制限内であるか、または米国薬局方協会、国際調和会議ガイダンスによる判定基準を下回っている。例えば、ジクロロメタンは600ppm未満、メタノールは3,000ppm未満、クロロホルムは60ppm未満である;そして、GMPによる制限内、または他の品質に基づく要件内である。
【0063】
3.治療薬および/または予防薬
治療薬および/または予防薬、例えば1または複数の生物学的薬剤などは、上記のゲル中のナノ構造によって物理的に捕捉され、封入され、および/または非共有結合によって結合され得る。好ましい実施形態では、それらはゲル組成物の集合した規則正しいラメラ、小胞、および/またはナノファイバー構造に組み込まれるか、または集合した構造の表面に位置する。
【0064】
1または複数の薬剤は、最初にゲルを形成することにより、自己組織化ゲルのナノ構造によって物理的に捕捉され、封入され、および/または非共有結合によって結合される。緩衝液などの水性媒体へのゲルの懸濁では、1または複数の薬剤をゲル粒子およびその中のナノ構造に封入および/または捕捉するために、ゲルを必要に応じて最初に破壊して粒子(すなわち、ナノ粒子および/またはミクロ粒子)を形成し、その後、結果として生じるゲル粒子懸濁液と1またはそれを超える治療薬または予防薬を含有する第2の懸濁液とを混合する。
【0065】
単一ステップで1または複数の薬剤と組み合わせてゲルを形成することとは対照的に、最初にゲルの形成を開始するか、または薬剤を充填せずにゲルを形成し、その後、1または複数の薬剤を自己組織化ゲルに(バルクで、またはその粒子に破壊して)充填する(すなわち、封入する、かつ/または捕捉する)ことにより、ゲルの性質を維持することが可能であると考えられている。
【0066】
薬剤の充填レベルは時間依存性であることが示されており、その充填レベルは、1またはそれを超える生物学的治療薬または予防薬を含有する第2の懸濁液とゲル懸濁液を混合した後の充填/インキュベーション時間の関数として制御および/または最適化することができる。一部の例では、充填/インキュベーション時間は、約0.1~48時間、0.1~36時間、0.1~24時間、0.1~20時間、0.1~15時間、0.1~10時間、0.1~5時間、0.1~1時間の範囲、またはその中の範囲の期間から選択され得る。一部のその他の例では、充填/インキュベーション時間は、少なくとも約0.1時間、0.2時間、0.3時間、0.4時間、0.5時間、0.6時間、0.7時間、0.8時間、0.9時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、またはそれを超える期間から選択され得る。
【0067】
最大封入効率は、100%にもなり得るが、一般に約70%から最大約95%である。薬物充填(重量/重量)は最大約50重量/重量%である。薬物充填の好ましい範囲は、最大20%w/wであり、一般に最大約30%w/wである。
【0068】
薬剤充填レベルは、pHおよび/または電荷依存性である可能性もあり、1または複数の薬剤の充填量は、薬剤のpKaおよび等電点(pI)を使用して制御および/または最適化することができる。図4に示されるように、薬剤充填量および封入効率は、パルミチン酸アスコルビル(AP)のpKaよりも高くIFXまたはADAのpIよりも低いpHで最も高く、静電相互作用が寄与メカニズムであることを示している。したがって、薬剤充填量および封入効率は、1または複数のゲル化剤のpKaよりも高いpHと、ゲルに充填される1または複数の薬剤の等電点(pI)よりも低いpHでゲル懸濁液を充填することによって最適化/最大化することができる。1または複数のゲル化剤および1または複数の薬剤のpKaおよびpIは、既知技術で公知の値であるか、または既知の技法を用いて決定することができる。4.4のAPのpKaと、8.2~8.7の間のインフリキシマブおよびアダリムマブのpIに基づいて、4.4~8.7の間のpH範囲が好ましい。
【0069】
適した生物製剤としては、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体、免疫グロブリン、およびその抗原結合フラグメント)、増殖因子(例えば、組換えヒト増殖因子)、抗原、インターフェロン、サイトカイン、ホルモン、およびその他のタンパク質、アミノ酸、およびインスリンなどのペプチド、ならびにそれらの組合せ、一般に、広範な混合および/または約37℃への加熱に曝された場合に構造的完全性、結合能および/または生物活性を失うものが挙げられる。一部の例では、生物製剤は、インフリキシマブ(レミケード(登録商標))、アダリムマブ(ヒュミラ(登録商標))などのモノクローナル抗体(mAb)、またはそれらの組合せである。
【0070】
当技術分野で公知のその他の抗体としては、限定されるものではないが、Kaplon
Hら、MAbs.10(2):183-203(2018)に考察されるものが挙げられる。例示的な抗体としては、ラナデルマブ、クリザンリズマブ、ラブリズマブ、エプチネズマブ、リサンキズマブ、サトラリズマブ、ブロルシズマブ、PRO140、サシツズマブゴビテカン、モキセツモマブパスドトックス、セミプリマブ、ウブリツキシマブ、ランパリズマブ、ロレデュマブ、エマパルマブ、ファシヌマブ、タネズマブ、エトロリズマブ、NEOD001、ガンテネルマブ、アニフロルマブ、トレメリムマブ、イサツキシマブ、BCD-100、カロツキシマブ、カメレリズマブ、IBI308、グレンバツマブベドチン、ミルベツキシマブソラブタンシン、オポルツズマブモナトックス、L19IL2/L19TNFが挙げられる。
【0071】
その他の抗体は、国際公開第2017186928号、同第2018007327号、同第2018031954号、同第2018039247号、同第2018015539号、および米国特許出願公開第20180037634号、同第20180000935号に開示されている。
【0072】
その他の例示的な生物製剤は、FDA承認の治療用モノクローナル抗体であってよく、それには、限定されるものではないが、アクテムラ(登録商標)(トシリズマブ、ジェネンテック)、アドセトリス(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン、シアトル・ジェネティクス)、アムジェビタ(登録商標)(アダリムマブ-atto、アムジェン INC)、アンセム(登録商標)(オビルトキサキシマブ、ELUSYS THERAPEUTICS INC)、アーゼラ(登録商標)(オファツムマブ、GLAXO GRP LTD)、アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ、ジェネンテック)、バベンチオ(登録商標)(アベルマブ、EMD SERONO INC)、ベンリスタ(登録商標)(ベリムマブ、HUMAN GENOME SCIENCES INC.)、ベスポンサ(登録商標)(イノツズマブ オゾガマイシン、WYETH PHARMS INC)、BLINCYTO(登録商標)(ブリナツモマブ、アムジェン)、キャンパス(登録商標)(アレムツズマブ、ジェンザイム)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブ・ペゴル、UCB
INC)、シンクエア(登録商標)(レスリズマブ、TEVA RESPIRATORY LLC)、コセンティクス(登録商標)(セクキヌマブ、NOVARTIS PHARMS CORP)、CYLTEZO(登録商標)(アダリムマブ-adbm、ベーリンガーインゲルハイム)、サイラムザ(登録商標)(ラムシルマブ、イーライリリー・アンド・カンパニー)、ダラザレックス(登録商標)(ダアラツムマブ、JANSSEN)、DERMABET(登録商標)(ベタメタゾン吉草酸エステル、TARO)、デュピクセント(登録商標)(デュピルマブ、REGENERON PHARMACEUTICALS)、EMPLICITI(登録商標)(エロツズマブ、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)、エンタイビオ(登録商標)(ベドリズマブ、TAKEDA PHARMS USA)、エルビタックス(登録商標)(セツキシマブ、イムクローン)、ファセンラ(登録商標)(ベンラリズマブ、アストラゼネカAB)、ガザイバ(登録商標)(オビヌツズマブ、ジェネンテック)、ヘムライブラ(登録商標)(エミシズマブ、ジェネンテックINC)、ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ、ジェネンテック)、ヒュミラ(登録商標)(アダリムマブ、ABBVIE INC)、イラリス(登録商標)(カナキヌマブ、NOVARTIS PHARMS)、イルミア(登録商標)(チルドラキズマブ-asmn、メルクシャープドーム)、イミフィンジ(登録商標)(デュルバルマブ、アストラゼネカUK LTD)、INFLECTRA(登録商標)(インフリキシマブ-dyyb、CELLTRION INC)、IXIFI(登録商標)(インフリキシマブ-qbtx、ファイザー INC)、カドサイラ(登録商標)(ado-トラスツズマブエムタンシン、ジェネンテック)、ケブザラ(登録商標)(サリルマブ、SANOFI SYNTHELABO)、キイトルーダ(登録商標)(ペムブロリズマブ、メルクシャープドーム)、LARTRUVO(登録商標)(オララツマブ、イーライリリー AND CO)、LEMTRADA(登録商標)(アレムツズマブ、ジェンザイム)、ルセンティス(登録商標)(ラニビズマブ、ジェネンテック)、MVASI(登録商標)(ベバシズマブ-awwb、アムジェン INC)、マイロターグ(登録商標)(ゲムツズマブオゾガマイシン、WYETH PHARMS INC)、MYOSCINT(登録商標)(イムシロマブペンテタート、CENTOCOR INC)、ヌーカラ(登録商標)(メポリズマブ、グラクソスミスクライン LLC)、OCREVUS(登録商標)(オクレリズマブ、ジェネンテック INC)、OGIVRI(登録商標)(トラスツズマブ-dkst、MYLAN GMBH)、オプジーボ(登録商標)(ニボルマブ、ブリストル・マイヤーズ スクイブ)、パージェタ(登録商標)(ペルツズマブ、ジェネンテック)、ポートラーザ(登録商標)(ネシツムマブ、イーライリリー CO)、プラルエント(登録商標)(アリロクマブ、SANOFI AVENTIS)、PRAXBIND(登録商標)(イダルシズマブ、ベーリンガーインゲルハイム)、PROLIA(登録商標)(デノスマブ、アムジェン)、PROSTASCINT(登録商標)(カプロマブペンデチド、CYTOGEN)、ラキシバクマブ(登録商標)(ラキシバクマブ、HUMAN GENOME SCIENCES INC.)、レミケード(登録商標)(インフリキシマブ、CENTOCOR INC)、RENFLEXIS(登録商標)(インフリキシマブ-abda、SAMSUNG BIOEPSIS CO LTD)、レオプロ(登録商標)(アブシキマブ、CENTOCOR INC)、レパーサ(登録商標)(エボロクマブ、アムジェン INC)、リツキサン(登録商標)(リツキシマブ、ジェネンテック)、SILIQ(登録商標)(ブロダルマブ、VALEANT LUXEMBOURG)、SIMPONI ARIA(登録商標)(ゴリムマブ、JANSSEN BIOTECH)、シムレクト(登録商標)(バシリキシマブ、ノバルティス)、ソリリス(登録商標)(エクリズマブ、アレクシオンファーマ)、ステラーラ(登録商標)(ウステキヌマブ、CENTOCOR
ORTHO BIOTECH INC)、ステラーラ(登録商標)(ウステキヌマブ、JANSSEN BIOTECH)、SYLVANT(登録商標)(シルツキシマブ、JANSSEN BIOTECH)、シナジス(登録商標)(パリビズマブ、メディミューン)、トルツ(登録商標)(イキセキズマブ、イーライリリー AND CO)、テセントリク(登録商標)(アテゾリズマブ、ジェネンテックINC)、トレムフィア(登録商標)(グセルクマブ、JANSSEN BIOTECH)、TROGARZO(登録商標)(イバリズマブ-uiyk、TAIMED BIOLOGICS USA)、タイサブリ(登録商標)(ナタリズマブ、バイオジェンアイデック)、ユニツキシン(登録商標)(ジヌツキシマブ、UNITED THERAP)、VECTIBIX(登録商標)(パニツムマブ、アムジェン)、XGEVA(登録商標)(デノスマブ、アムジェン)、ソレア(登録商標)(オマリズマブ、ジェネンテック)、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)、ゼバリン(登録商標)(イブリツモマブ・ティウキセタン、SPECTRUM PHARMS)、ZINBRYTA(登録商標)(ダクリズマブ、バイオゲン)、ジーンプラバ(登録商標)(ベズロトクスマブ、メルクシャープドーム)が挙げられる。
【0073】
一部の実施形態では、2またはそれを超える薬剤は、自己組織化ゲルのナノ構造によって物理的に捕捉され、封入され、および/または非共有結合によって結合され得る。1つの薬剤は、別の封入された薬剤の効力を増強することがある。あるいは、薬剤の混合物(例えば、タンパク質のカクテル)を同時に封入して、連続送達を提供することができる。
【0074】
増殖因子およびサイトカインおよび核酸などのその他の不安定なタンパク質は、ゲルに組み込むか、または即時放出のためにゲルと同時投与されることができる。これらは、小分子、タンパク質、ペプチド、糖類および多糖類、脂質およびリポタンパク質またはリポ多糖類、および核酸、例えば低分子干渉RNA、マイクロRNA、PiRNA、リボザイム、およびタンパク質またはペプチドをコードするヌクレオチドなどであってよい。一部の例では、細胞を送達することができる。
【0075】
不安定でない化合物、例えば抗炎症薬、副腎皮質ステロイド、リドカインなどの局所麻酔薬、鎮痛薬、抗菌薬などの抗感染症薬、抗真菌薬、避妊薬、および化学療法薬などは組み込むことができる。
【0076】
一部の薬物の場合、充填機構(すなわち、封入および/または捕捉)は、両親媒性ゲル化剤のアニオン性両親媒性物質頭基とカチオン性の治療薬または予防薬(すなわち、薬物)との間の静電相互作用に基づく。これは、高い塩濃度を加えてこれらの相互作用を破壊し、カチオン性の治療薬または予防薬を放出する際に示され得る。
【0077】
抗体などの特定の種類の薬剤の場合、治療薬または予防薬(すなわち、薬物)と両親媒性ゲル化剤の親油性尾部との間で相互作用が起こり得ることが見出された。競合する界面活性剤を添加してこの相互作用を破壊することができ、治療薬または予防薬(すなわち、薬物)を放出する。当初、自己組織化/規則化されたゲル化剤の親油性領域はヒドロゲルに埋め込まれているため、これらの親油性領域は薬剤の結合または充填(すなわち、封入および/または捕捉)にアクセスできないと仮定されていたが、事前に形成された「空の」または「無充填」ゲルへの薬剤の後充填または結合は、特に抗体と同じ大きさの薬剤(最大150kDa)で達成できることが見出された。
【0078】
治療または予防のための生物学的(biologica)薬剤は、一般に約0.1mg/mL~約100mg/mLの間、約0.1mg/mL~約10mg/mLの間の濃度、他の例では約0.1mg/mL~約5mg/mLの間の濃度で封入される。
【0079】
4.ゲルの性質
機械的性質と注入性
自己組織化ゲル組成物では、容器を室温で少なくとも10秒間、場合によっては約1時間、3時間、1日、2日、3日、1週またはそれ以上の間、反転させても重力の流れは観察されない。自己組織化ゲルは、ゲル化領域(非流動性)と非ゲル化液体領域(流動性)の混合物である不均一材料とは異なり、均一で反転に対して安定している。自己組織化ゲルは、リポソームまたはミセル懸濁液とも異なる。リポソームまたはミセル懸濁液は、自己支持性でなく、容器を反転させると流動し得る。
【0080】
一部の実施形態では、自己組織化ゲル組成物は、回復可能なレオロジー特性を有する、すなわち、自己組織化ゲルはずり流動化しており、注射に適し、剪断力の停止後に自己支持状態に回復する。自己支持状態は、一般に10~10,000パスカルであり、粘性率よりも大きい弾性率を特徴とする。ゲル化剤とカチオン剤の集合のための非共有相互作用に起因して、バルクゲルは、剪断力(例えば、注入中)下で変形および押出されることがあり、ゲル化剤およびカチオン剤は、剪断力が停止すると再集合して、自己支持性で、反転に対して安定している状態になる(例えば、弾性率G’が粘性率G’’よりも大きい)。
【0081】
自己組織化ゲル組成物の粒子は、薬学的に許容され得る担体、すなわち懸濁媒体に懸濁した状態で注入可能である。ミクロ粒子またはナノ粒子は、均質化、超音波処理、または懸濁媒体への分散の他の手段によってバルクの自己支持性ゲルから形成することができる。
【0082】
ミクロ構造および/またはナノ構造
薬剤は、封入することができ、かつ/あるいはナノ構造内またはナノ構造間で、ナノ構造に非共有結合させることができる、あるいはその両方を行うことができる。
【0083】
ゲル化剤分子の疎水性部分と親水性部分は、相互作用して、ゲル化剤分子のナノ構造(ラメラ、シート、繊維、および/または粒子)を形成する。薬剤は、ナノ構造に挿入してその一部を形成するか、ゲルのナノ構造に封入および/または捕捉されるか、あるいはその両方を行うことができる。ヒドロゲルでは、ゲル化剤の疎水性部分は所与ナノ構造の内部領域に位置し、親水性部分はナノ構造の外面に位置する。数十または数百のナノ構造が束ねられて、繊維およびシート状構造などのミクロ構造を形成することができる。
【0084】
一部の実施形態では、ナノ構造には、ナノ粒子、ミセル、リポソーム小胞、繊維、および/またはシートが含まれる。一部の実施形態では、ナノ構造の最小寸法は、2nmまたはそれを超える(例えば、50nmまたはそれを超える、100nmまたはそれを超える、150nmまたはそれを超える、200nmまたはそれを超える、250nmまたはそれを超える、300nmまたはそれを超える、350nmまたはそれを超える)寸法かつ/または400nmまたはそれ未満(例えば、350nmまたはそれ未満、300nmまたはそれ未満、250nmまたはそれ未満、200nmまたはそれ未満、150nmまたはそれ未満、100nmまたはそれ未満、または500nmまたはそれ未満)の寸法であり得る。一部の実施形態では、ナノ構造(例えば、繊維、シート)は、数ミクロン(例えば、1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、10ミクロン、20ミクロン、または25ミクロン)またはそれを超える長さおよび/または幅を有する。ナノ構造は凝集してネットワーク化してもよく、かつ/または液晶、エマルジョン、フィブリル構造の形態、またはテープのような形態をとってもよい。ナノ構造が繊維の形態である場合、繊維は約2nmまたはそれを超える直径を有することができ、数百ナノメートルまたはそれを超える長さを有することができる。一部の実施形態では、繊維は、数ミクロン(例えば、1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、10ミクロン、20ミクロン、または25ミクロン)またはそれを超える長さを有し得る。
【0085】
分解(切断可能な結合)
放出を誘発する刺激は、投与部位または放出が望まれる場所、例えば腫瘍または感染領域での特徴に起因して存在し得る。これらは、血液または血清に存在する状態、あるいは細胞、組織、または器官の内側または外側に存在する状態であり得る。これらは、低pHおよび分解酵素の存在を特徴とする。ゲル組成物は、細胞、組織または器官の疾患状態、例えば炎症に存在する条件下でのみ脱組織化するように設計されてよく、したがって標的化された組織および/または器官での薬剤の放出を可能にする。これは代替手段であり、ゲル浸食に媒介される薬剤放出および受動拡散に媒介される薬剤放出と組み合わせて使用されてもよい。
【0086】
この応答性放出は、分解可能な化学結合(または官能基)および/または調整可能な非共有結合力(例えば、静電力、ファンデルワールス、または水素結合力)から形成された結合に基づく。一部の実施形態では、これらの結合は、(1)両親媒性ゲル化剤の親水性セグメントと疎水性セグメントとの分解可能な共有結合であり、(2)切断時に活性薬物を放出するプロドラッグ型ゲル化剤に配置され、かつ/または(3)ゲル化剤と治療薬との共有結合または非共有結合力である。これらの結合の切断または解離は、(1)受動拡散に媒介される薬剤の放出と比較して、より急速であるかまたはそれを超える封入または捕捉された薬剤の放出をもたらし;かつ/あるいは(2)プロドラッグゲル化剤を放出用の活性薬物に変換する。
【0087】
放出を誘発する刺激には、生体内での固有環境およびユーザが加えた刺激、例えば、酵素、pH、酸化、温度、放射線照射、超音波、金属イオン、電気刺激、または電磁刺激が含まれる。典型的な応答性結合は、エステル、アミド、無水物、チオエステル、および/またはカルバミン酸塩を伴う化学結合に基づく、酵素および/または加水分解によって切断可能である。一部の実施形態では、リン酸ベースの結合は、ホスファターゼまたはエステラーゼによって切断され得る。一部の実施形態では、不安定な結合はレドックス切断可能であり、還元または酸化の際に切断される(例えば、-S-S-)。一部の実施形態では、分解可能な結合は、生理学的温度(例えば、36~40℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃)で切断することができる。例えば、結合は、温度を上昇させることによって切断することができる。薬剤は必要とされる部位でのみ放出されるため、これにより低い投薬量の使用が可能になる。別の利益は、他の器官および組織に対する毒性を低下させることである。特定の実施形態では、刺激は、超音波、温度、pH、金属イオン、光、電気刺激、電磁刺激、およびそれらの組合せであり得る。
【0088】
制御放出
ゲル組成物は、投与部位の条件に基づいて、送達部位での、または一定期間後の制御された分解用に設計することができる。溶液中の遊離薬剤と比較して、自己組織化ゲルからの封入および/または捕捉された薬剤の放出ははるかに遅く、例えば、封入および/または捕捉された薬剤の30%未満は最初の3日間で放出され、70%未満は7日間で放出される。酵素などの刺激の存在下では、酵素分解性結合をもつゲル化剤から形成された自己組織化ゲルは、酵素を欠く媒体中のゲルと比較して、薬剤をより急速に放出する。
【0089】
ゲル組成物は、一定期間にわたる制御放出および/または分解用に調製することができる。分解は、ゲルを形成するために使用されるゲル化剤の酵素切断可能な結合の切断時に、1または複数の封入および/または捕捉された薬剤の放出をもたらすことがある。自己組織化ゲルは、最大約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または本質的にすべてのゲル中の薬剤の累積放出を、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24時間以内にもたらすことができる。一部の例では、最大約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または本質的にすべてのゲル中の薬剤の累積放出は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10日以内に行われる。さらに他の例では、最大約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または本質的にすべてのゲル中の薬剤の累積放出は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8週以内またはそれよりも長期間行われる。他の例では、最大約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または本質的にすべてのゲル中の薬剤の累積放出は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、または約12ヶ月以内に行われる。特定の実施形態では、ゲルには、存在する制御放出剤の量に基づいて、封入および/または捕捉された薬剤の放出速度を増加または低下させ得る1またはそれを超える制御放出剤が含まれてよい。例示的な制御放出剤は、コレステロールである。
【0090】
一部の実施形態では、薬物の放出速度は、1またはそれを超える上記のGRAS両親媒性物質などの追加の共ゲル化剤を含めることによって調整することができ、これはゲルの繊維などのナノ構造内に封入および/または捕捉された薬剤の放出速度を増加または低下させるために使用することができる。
【0091】
安定性
1または複数の薬剤の安定性は、一定期間後のゲル中の活性の百分率として求めることができる。特定の例では、ゲルに存在する1または複数の薬剤は、室温で保存し、4℃でインキュベートするか、または37℃で保存した場合に、少なくとも約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、または約12週間安定なままであり得る。特定の他の例では、ゲルに存在する1または複数の薬剤は、室温で保存し、4℃でインキュベートするか、または37℃で保存した場合に、少なくとも約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、または約12ヶ月間安定なままであり得る。本明細書において使用される「安定なままである」とは、その1または複数の薬剤の損失率が定義された期間にわたって約10%、約9%、約8%、約7%、約6%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、約0.5%、または約0.1%未満であることを指す。
【0092】
5.ゲル製剤
自己組織化ゲル製剤は、乾燥粉末製剤または液体製剤に調製され得る。ゲルは一般に滅菌済みであるかまたは無菌である。例えば、無菌製剤は、最初にゲル化剤、カチオン剤、ならびに封入させる薬剤の滅菌濾過を行い、続いて無菌環境でゲルを調製するプロセスを行うことによって調製することができる。あるいは、すべての処理ステップを非無菌条件下で行った後、最終滅菌(例えば、ガンマ線または電子ビーム照射)を、結果として生じるヒドロゲルまたはその生成物に加えてもよい。
【0093】
乾燥製剤は、溶媒が除去されるとキセロゲルをもたらす凍結乾燥された自己組織化ゲル組成物を含む。キセロゲルは粉末形態にすることができ、粉末形態は、貯蔵中の薬剤の無菌性および活性を維持するため、および所望の形態に加工するために有用であり得る。キセロゲルは無溶媒であるため、貯蔵寿命が向上し、比較的簡単に輸送および保存することができる。自己組織化ゲルを凍結乾燥するために、ゲルを(例えば、-80℃で)凍結させ、一定期間真空乾燥させるとキセロゲルを得ることができる。
【0094】
あるいは、乾燥製剤は、ゲル化剤、カチオン剤、1またはそれを超える治療薬の乾燥粉末成分を含み、これらは別々の容器に保存されるか、または特定の比率で混合されて保存される。一部の実施形態では、適した水性溶媒および有機溶媒が追加の容器に含められる。一部の実施形態では、乾燥粉末成分、1またはそれを超える溶媒、および集合したナノ構造を混合および調製するための手順に関する説明書がキットに含まれている。
【0095】
液体ゲル製剤は、液体の医薬担体に懸濁した自己組織化ゲル組成物を含む。一部の形態では、投与を容易にするため、および/または毒性を最小限にするために望ましい濃度に達するために、自己組織化ゲルは水性媒体に懸濁または再懸濁されている。
【0096】
液体製剤は、体液に対して等張性であり得、約pH4.0~約pH8.0、より好ましくは約pH6.0~約pH7.6の範囲のほぼ同じpHであり得る。液体の医薬担体は、1またはそれを超える生理学的に適合性のある緩衝液、例えばリン酸塩または重炭酸塩緩衝液などを含むことができる。当業者は、意図された投与経路に適した水溶液に適した生理食塩水含有量およびpHを容易に決定することができる。
【0097】
一部の例では、液体製剤は、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、またはレシチンなどの1またはそれを超える懸濁剤を含むことがある。液体製剤はまた、エチルまたはn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエートなどの1またはそれを超える防腐剤も含むことがある。
【0098】
III.作製方法
1.自己組織化ゲルの作製
一般に、水混和性有機溶媒を使用してゲル化剤を溶解し、ゲル化剤溶液を形成する。水性媒体(例えば、水、低張液、等張液、または高張液)を添加し、ゲル化溶液と混合する。有機溶媒と水溶液の適切な体積比で、水性媒体がゲル化剤溶液と混合されるとすぐにゲル化が始まる。時間が経つにつれて、ゲルは一貫するようになる。ゲル化は、ゲルが自己支持性であり、室温での反転に対して安定である場合、すなわち、重力に起因する「ラニー」または流れではなく、好ましくは、沈殿物がほとんどまたはまったくなく、その中に凝集物がほとんどまたはまったくない場合に完了したと見なされる。自己組織化ゲルは、ゲル化領域(非流動性)と非ゲル化液体領域(流動性)の混合物である不均一材料とは異なり、均一で反転に対して安定している。
【0099】
ゲル化媒体で使用される1または複数の有機溶媒は、その中のゲル化剤の溶解度、その極性、疎水性、水混和性、および場合によっては酸度に基づいて選択されることができる。適した有機溶媒としては、水混和性溶媒、またはかなりの水溶性(例えば、5g/100g水よりも大きい)を有する溶媒、例えば、DMSO、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、酪酸ヘキシル、グリセロール、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、またはイソプロピルアルコールなどのアルコール、ならびに低分子量ポリエチレングリコール(例えば、37℃で溶融する1kD PEG)が挙げられる。その他の形態では、自己組織化ゲル組成物は、極性または非極性溶媒、例えば、水、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、アセトニトリル、グリセロール、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、メタノール、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、N、N’-ジメチルホルムアミド、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、テトラヒドロフラン、キシレン、メシチレン、および/またはその任意の組合せなどを含むことができる。ゲル化のための有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、酪酸ヘキシル、グリセロール、アセトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、エタノール、およびメタノールが挙げられる。別のクラスの有機溶媒である、脂肪アルコールまたは長鎖アルコールは、通常、高分子量の直鎖第一級アルコールであるが、天然油脂に由来する、4~6炭素程度のものから22~26炭素程度のものに及び得る。いくつかの商業的に重要な脂肪アルコールは、ラウリル、ステアリル、およびオレイルアルコールである。不飽和のものもあれば分枝しているものもある。最小の量が好ましく、すべてではないとしても大部分がゲル形成後の蒸発および/または洗浄によって除去される。
【0100】
水性溶媒は、一般に、滅菌され、蒸留水、脱イオン水、純水または超純水から選択され得る水である。一部の例では、第2の溶媒は、生理食塩水などの水溶液、塩および/または緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液、および等張食塩水などを含有するその他の生理学的に許容され得る水溶液、あるいは、動物またはヒトなどの対象への投与に許容され得る任意のその他の水溶液である。水などの水性溶媒の量は、一般に、使用される第1の有機溶媒の量に基づき、1または複数の有機溶媒の選択される総体積または重量百分率が、水または水溶液の体積または重量百分率を決定した(すなわち、有機溶媒が30v/v%の場合は、水は70v/v%)。
【0101】
一部の例では、有機溶媒の量は、水溶液(例えば、必要に応じて1またはそれを超える追加の薬剤を含有する水、水性緩衝液、水性塩溶液)の体積と比較して1:1以下、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、またはそれ未満である。つまり、均一なゲルを形成する際に使用される液体の総量中の有機溶媒の体積の量は、一般に約50%、33%、25%、20%、17%、14%、12.5%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満であり、粒子の場合には著しく少なく、一般に10%またはそれ未満である。
【0102】
ゲル化は、ゲル化媒体を約30~100℃、約40~100℃、約50~100℃、約60~100℃、約70~100℃、約90~100℃、約30~90℃、約40~90℃、約50~90℃、約60~90℃、約70~90℃、約80~90℃、約40~80℃、約50~80℃、約60~80℃、約70~80℃、約30~70℃、約40~70℃、約50~70℃、約60~70℃、約30~60℃、約40~60℃、約50~60℃、約30~50℃、または約40~50℃の間の範囲の温度に加熱することを必要とし得る。一部の実施形態では、加熱は約60~80℃の温度範囲で行われる。一部の実施形態では、加熱は約80℃で行われる。いずれの例でも、不安定な薬剤が組み込まれると、ゲルまたはゲル開始試薬は体温またはそれ未満に冷却される。
【0103】
一部の例では、加熱は必要でない、または、必要であれば、ほぼ体温(37℃)に加熱することにより、反転に対して安定している均一な自己支持性のゲルが生成される。他の実施形態では、ゲル化媒体は加熱されて溶解を完了し、続いて約37℃、または約20℃~25℃の室温に冷却される。
【0104】
ゲル化は、加熱の有無にかかわらず行うことができる。加熱した場合、ゲル化は加熱したゲル化溶液が冷める時に起こり得る。ゲルを安定した表面の上に約1~2時間室温で放置すると、一貫した自己支持性のゲルが得られる。自己支持性のゲルは、沈殿が最小限の、規則正しく集合したミクロ構造またはナノ構造を含む。これは一般に光学または電子顕微鏡を使用して確認される。
【0105】
2.自己組織化ゲルへの1または複数の薬剤の充填
好ましい実施形態では、1または複数の薬剤は、最初にゲルを形成し、次にゲルを緩衝液などの水性媒体に懸濁することにより、物理的に捕捉され、封入され、および/または自己組織化ゲルのナノ構造と非共有結合的に結合され得る。ここでゲルは必要に応じて最初に破壊されて粒子(すなわち、ナノ粒子および/またはミクロ粒子)を形成する。好ましくは、形成された自己組織化ゲルは、1または複数の有機溶媒を含まないか、または実質的に含まない。その後、結果として生じるゲル懸濁液(ゲル粒子懸濁液であり得る)を、本明細書に記載される1またはそれを超える薬剤を含有する第2の溶液または懸濁液と混合する。一般に、第2の溶液または懸濁液は、1または複数の薬剤を含有する緩衝液である。混合は、任意の適切な手段によって実施されてよい。限定されない混合手段には、ピペット操作および/またはボルテックスが含まれる。混合は、室温で実行されてよい。一部の例では、混合時に加熱は必要ではない。
【0106】
一部の形態では、1または複数の薬剤を充填する前のバルク自己組織化ゲルを、最初に水、リン酸緩衝生理食塩水、またはその他の生理食塩水に懸濁し、これを均質化または超音波処理して、バルクゲルで形成された繊維状ナノ構造を保持する粒子にバルクゲルを破壊する。これらの粒子は、1または複数の薬剤を充填する前に、収集され、保存され、精製され、再構成されてよい。異なる種類のゲル粒子には、異なる量または種類の薬剤を充填することができる。
【0107】
限定されない例では、自己組織化ゲルを形成し、ゲル組成物に生物製剤などの1または複数の薬剤を充填する方法は、以下のステップを含み得る:
(a)水または水溶液、必要に応じて有機溶媒を含む媒体中で2,500またはそれ未満の分子量を有するゲル化剤を含む溶液を形成するステップ;
(b)必要に応じて溶液を加熱し、次に溶液を冷却して自己組織化ゲルを得るステップ;
(c)必要に応じて、自己組織化ゲルからすべてまたは実質的にすべての有機溶媒を(存在する場合)、除去するステップ;
(d)自己組織化ゲルを水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水に懸濁し、必要に応じて、自己組織化ゲルを均質化または超音波処理して、自己組織化ゲルを粒子(例えばミクロ粒子および/またはナノ粒子)に破壊するステップ;
(e)1またはそれを超える薬剤(例えば、治療薬、予防薬、および/または生物製剤)の水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水中の溶液または懸濁液を提供するステップ;および
(f)自己組織化ゲル懸濁液と薬剤含有懸濁液を混合して、生物学的薬剤を自己組織化ゲルに充填するステップ。
【0108】
別の限定されない例では、自己組織化ゲルを形成し、ゲル組成物に生物製剤などの1または複数の薬剤を充填する方法は、以下のステップを含み得る:
(a’)水または水溶液、必要に応じて有機溶媒を含有する媒体中で2,500またはそれ未満の分子量を有するゲル化剤を含有する溶液を形成するステップ;
(b’)必要に応じて溶液を加熱し、次に溶液を冷却して自己組織化ゲルを得るステップ;
(c’)自己組織化ゲルを水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水に懸濁し、必要に応じて、自己組織化ゲルを均質化または超音波処理して、自己組織化ゲルを粒子(例えばミクロ粒子および/またはナノ粒子)に破壊するステップ;
(d’)必要に応じて、有機溶媒のすべてまたは実質的にすべてを、存在する場合に、懸濁した自己組織化ゲルから遠心分離、接線流濾過、蒸発、またはその他の適切な手段などによって除去するステップ;
(e’)1またはそれを超える薬剤、例えば、治療薬、予防薬、および/または診断薬などの水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水中の溶液または懸濁液を提供するステップ;および
(f’)自己組織化ゲル懸濁液と薬剤含有懸濁液を混合して、生物学的薬剤を自己組織化ゲルに充填するステップ。
【0109】
さらに別の限定されない例では、自己組織化ゲルを形成し、ゲル組成物に生物製剤などの1または複数の薬剤を充填する方法は、以下のステップを含み得る:
(a’’)水または水溶液、必要に応じて有機溶媒を含有する媒体中で2,500またはそれ未満の分子量を有するゲル化剤を含む溶液を形成するステップ;
(b’’)必要に応じて溶液を加熱し、次に溶液を冷却して自己組織化ゲルを得るステップ;
(c’’)自己組織化ゲルを水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水に懸濁し、必要に応じて、自己組織化ゲルを均質化または超音波処理して、自己組織化ゲルを粒子(例えばミクロ粒子および/またはナノ粒子)に破壊するステップ;
(d’’)1またはそれを超える薬剤(例えば、治療薬、予防薬、および/または生物製剤)の水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水中の溶液または懸濁液を提供するステップ;
(e’’)自己組織化ゲル懸濁液と薬剤含有懸濁液を混合して、生物学的薬剤を自己組織化ゲルに充填するステップ;および
(f’’)必要に応じて、有機溶媒のすべてまたは実質的にすべてを、存在する場合に、自己組織化ゲルから除去し、必要に応じて、封入されていないおよび/または捕捉されていない過剰な1または複数の薬剤を、洗浄または他の精製手段などによって除去するステップ。
【0110】
有機溶媒を使用する場合、有機溶媒は、一般に凍結乾燥または乾燥ステップによって、好ましくは完全にまたは実質的に除去される。結果として生じる自己組織化ゲルからの有機溶媒の除去は、その1または複数の有機溶媒の完全または実質的な除去であり得る。実質的な除去とは、結果として生じる自己組織化ゲルの重量で約5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%またはそれ未満の有機溶媒を指す。
【0111】
一部の例では、ゲルの形成で使用される1または複数の有機溶媒は除去されないが、代わりに、十分な量の水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水で希釈することによって、1または複数の有機溶媒の濃度が低下する。限定されない例では、結果として生じる1または複数の有機溶媒を含有する自己組織化ゲルは、水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水に懸濁され、1または複数の有機溶媒の量は、懸濁液中の1または複数の有機溶媒の有効濃度が、懸濁液の体積で約5%、4%、3%、2%、1.5%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%またはそれ未満になるように、追加された水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水によって希釈される。一部の例では、懸濁液中の1または複数の有機溶媒の有効濃度は、懸濁液の約2~約4体積%の間である。1または複数の有機溶媒の量を希釈する目的で水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水を添加する方法では、希釈後の有機溶媒の量は、一般に5体積%、10体積%、15体積%、または20体積%以下である。
【0112】
水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水に懸濁した自己組織化ゲルの量は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60または70mg/mLである。一部の例では、水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水に懸濁した自己組織化ゲルの量は、約10~約20mg/mLの間である。
【0113】
水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水に溶解または懸濁した1または複数の薬剤の量は、約0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mg/mLである。好ましい範囲は、10mg/mLまたはそれ未満である。
【0114】
自己組織化ゲルの水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水への懸濁、あるいは1または複数の薬剤の水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の何らかの生理食塩水への懸濁は、撹拌、アジテーション、ボルテックス、または任意のその他の適した方法によって行ってよい。
【0115】
一部の実施形態では、粒子は、流体力学的直径が100nm~990nmの間、好ましくは500nm~900nmの間のナノ粒子であり、ナノ粒子は、血清中で少なくとも2時間にわたって少なくとも50、60、70または80%のサイズを維持する。その他の実施形態では、粒子は、直径が1μmから数百ミリメートルの範囲のミクロ粒子である。粒子は、約0.1~3000ミクロン、より好ましくは約0.5~1000ミクロンの範囲内のサイズを有し得、より大きい粒子および/またはその凝集体は、必要に応じて破壊して、約0.5~200ミクロンの範囲に縮小することができる。一部の実施形態では、ナノ粒子および/またはミクロ粒子の最小寸法は、2nmまたはそれを超える、50nmまたはそれを超える、100nmまたはそれを超える、150nmまたはそれを超える、200nmまたはそれを超える、250nmまたはそれを超える、300nmまたはそれを超える、350nmまたはそれを超える、500nmまたはそれを超える、1,000nmまたはそれを超える、5,000nmまたはそれを超える、または10,000nmまたはそれを超える)かつ/あるいは400nmまたはそれ未満(例えば、10,000nmまたはそれ未満、5,000nmまたはそれ未満、1,000nmまたはそれ未満、500nmまたはそれ未満、350nmまたはそれ未満、300nmまたはそれ未満、250nmまたはそれ未満、200nmまたはそれ未満、150nmまたはそれ未満、100nmまたはそれ未満、または500nmまたはそれ未満)である。粒子は凝集してネットワーク化してもよく、かつ/または液晶、エマルジョンの形態、または他の種類の形態をとってもよい。
【0116】
好ましくは、1または複数の薬剤のゲルへの充填は、1または複数の薬剤を、薬剤またはそれらの活性を分解または破壊する可能性のある1または複数の有機溶媒に曝露せずに、または最小限しか曝露せずに行われる。好ましくは、1または複数の薬剤の自己組織化ゲルへの充填は、1または複数の薬剤を、薬剤を分解または破壊する可能性のある加熱温度に曝露せずに、または最小限しか曝露せずに行われる。一般に、ゲルおよびその中の構造に封入および/または捕捉された1または複数の薬剤は、ゲル内で安定したままであり、ゲルに充填する前の薬剤の活性と比較して、ゲルからの放出時に少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれを超える薬剤活性を本質的に100%まで保持する。
【0117】
ゲルは、1またはそれを超える薬剤の薬物充填効率が、最大約50重量/重量%、約45重量/重量%、約40重量/重量%、約35重量/重量%、約30重量/重量%、約25重量/重量%、約20重量/重量%、約15重量/重量%、約10重量/重量%、または約5重量/重量%の1または複数の薬剤/ゲルであることを実証する。この方法は、自己組織化ゲルの形成前にゲル化媒体に充填された場合の同じ1またはそれを超える薬剤の充填効率よりも高い、ゲルへの1またはそれを超える薬剤の高い充填効率(事前に形成されたゲルを後充填することによる)を可能にする。
【0118】
ゲルは、最大約100重量/重量%、99重量/重量%、98重量/重量%、97重量/重量%、96重量/重量%、95重量/重量%、94重量/重量%、93重量/重量%、92重量/重量%、91重量/重量%、90重量/重量%、約80重量/重量%、約70重量/重量%、約60重量/重量%、約50重量/重量%、約45重量/重量%、約40重量/重量%、約35重量/重量%、約30重量/重量%、約25重量/重量%、約20重量/重量%、約15重量/重量%、約10重量/重量%、または約5重量/重量%までの1またはそれを超える薬剤の封入効率を実証することができる。
【0119】
薬剤充填レベルは、時間依存性である可能性があり、上記方法における充填レベルは、上記の混合ステップのいずれかにおける充填/インキュベーション時間によって制御および/または最適化することができる。一部の例では、充填/インキュベーション時間は、約0.1~48時間、0.1~36時間、0.1~24時間、0.1~20時間、0.1~15時間、0.1~10時間、0.1~5時間、0.1~1時間の範囲、またはその中の範囲の期間から選択され得る。一部のその他の例では、充填/インキュベーション時間は、少なくとも約0.1時間、0.2時間、0.3時間、0.4時間、0.5時間、0.6時間、0.7時間、0.8時間、0.9時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、またはそれを超える期間から選択され得る。
【0120】
薬剤充填レベルは、pHおよび/または電荷依存性である可能性があり、充填は、上記の混合ステップのいずれかの間にpHを制御することによって制御および/または最適化することができる。一部の例では、ゲル懸濁液あるいは1または複数の薬剤を含有する溶液または懸濁液の一方または両方のpHを所望のpHに改変し、その後混合する。一部のその他の例では、ゲル懸濁液あるいは1または複数の薬剤を含有する溶液または懸濁液を混合し、形成された混合物のpHを必要に応じて改変する。薬剤充填量および封入効率は、1または複数のゲル化剤のpKaよりも高いpHと、ゲルに充填される1または複数の薬剤の等電点(pI)よりも低いpHで記載のゲル懸濁液を充填することによって最適化/最大化することができる。1または複数のゲル化剤および1または複数の薬剤のpKa’およびpI’は既知技術で公知の値であるか、または既知の技法を用いて決定することができる。
【0121】
好ましいpH範囲は4.4~8.7である。
【0122】
好ましい実施形態では、上記の方法は、ゲル化剤のマイクロファイバーへの自己組織化プロセスに起因して、1または複数の薬剤のより大きい封入効率を示し、これはゲル化剤-薬剤相互作用に利用可能な表面積が大きいためであると考えられている。以下の実施例で考察されるように、これは、非自己組織化ゲル化剤の粒子状懸濁液の使用とは対照的である。
【0123】
一部の実施形態において1または複数の薬剤が充填された自己組織化ゲルは、患者への投与(例えば、飲用または注射による)を容易にするために、かつ/または毒性を制御するための望ましい薬物濃度を得るために、薬学的に許容され得る中に懸濁される。
【0124】
3.ゲル精製
蒸留、濾過、透析、遠心分離、接線流濾過、蒸発、その他の溶媒交換技術、真空乾燥、または凍結乾燥を、1またはそれを超える繰り返されるプロセスで用いて、1または複数の有機溶媒あるいは/または封入されていないおよび/または捕捉されていない過剰な1または複数の薬剤あるいは存在する任意のその他の封入されていないおよび/または捕捉されていない薬剤を、医薬製品の要件の記載される限界よりも下回ってゲルから除去することができる。溶媒の除去ならびに封入されていないおよび/または捕捉されていない1または複数の薬剤の除去は、形成直後に、ゲル懸濁液の形成後に、あるいは1または複数の薬剤がゲル懸濁液に充填された後にゲル上で行うことができる。
【0125】
一般に、精製(洗浄)媒体は、ゲルの溶媒が少なくとも部分的に精製媒体で置き換えられるように、投与に適したものである。
【0126】
一般に、自己組織化ゲル組成物を作製するプロセスは、ゲル化剤、カチオン剤、および溶媒を組み合わせて混合物を形成すること;混合物を加熱および/または超音波処理すること;均質な溶液を形成するのに十分な時間、混合物を撹拌または振盪すること;および自己組織化ゲル組成物の形成を可能にするのに十分な時間、均質な溶液を冷却することを含む。
【0127】
4.滅菌
無菌製剤は、最初に処理溶液(例えば、薬物およびゲル化剤溶液)の滅菌濾過を行い、続いて無菌処理条件下(under aseptic procession condition)でゲル調製、懸濁、精製および凍結乾燥を行うことによって調製される。あるいは、すべての処理ステップを、非無菌条件下で行った後、最終滅菌(例えば、ガンマ線または電子ビーム照射)を凍結乾燥ヒドロゲル生成物に加えることができる。再懸濁用の無菌溶液も同様の方法を用いて調製することができる。
【0128】
IV.使用方法
ゲル組成物、繊維懸濁液、またはゲル粒子懸濁液は、例えば口腔または頬の表面、鼻道または気道、腸管(経口的にまたは直腸的に)、膣、または皮膚などの粘膜への注射、移植、局所適用をはじめとする、様々な既知の局所送達技術によって投与することができる。安定化されたナノ構造のその場での自己組織化により、特に感染、外傷、炎症または癌の領域への、組成物の局所送達および活性剤の刺激応答性送達が可能になる。
【0129】
送達された1または複数の薬剤は、標的放出のための刺激に応答して、ゲル組成物から制御可能に放出され得る。刺激がない場合、薬剤は持続的に放出され、バースト放出はほとんどまたはまったくない。例えば、封入された薬剤は、ある期間(例えば、数時間、1日、2日、3日、1週間、1ヶ月、またはそれを超える期間)にわたって徐々に放出され得る。パラメータに応じて、例えば、ゲル組成物が生理学的条件下(pH約7.4および温度約37℃)で投与される場合、放出は数分から数日から数ヶ月に遅延または延長され得る。
【0130】
例えば、非経口投与は、注射による、皮内、腹腔内、筋肉内、皮下、接合下への患者への投与を含む。
【0131】
この組成物は、その遊離溶液形態で送達される薬剤と比較して、標的化効率、有効性、安全性および、単回投与、持続性作用または組織特異的製剤から利益を得るコンプライアンスを改善するのに有用である。一部の実施形態では、組成物は、組織再生の異なる段階と相関する薬剤を放出するのに有用であり得る。
【0132】
集合したナノ構造で処置される例示的な疾患または障害としては、限定されるものではないが、アレルギー(例えば接触性皮膚炎)、関節炎、喘息、癌、心血管疾患、糖尿病性潰瘍、湿疹、感染症、炎症、歯周病、乾癬、呼吸器経路疾患(例えば、結核)、血管閉塞、疼痛、移植片対宿主病、口内炎、粘膜炎、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、潰瘍性直腸炎、嚢炎、食道炎、間質性膀胱炎、ブドウ膜炎、鼻炎、細菌性の症状、ウイルス性の症状が挙げられる。
【0133】
一部の形態では、自己組織化ゲル組成物は、有効量の自己組織化ゲル組成物を投与して有効量の1または複数の薬剤を送達することにより、対象において例示的な疾患または障害のいずれか1つである1またはそれを超える症状を予防または処置する方法で使用される。
【実施例0134】
本発明は、以下の限定されない実施例を参照することによって、さらに理解されるであろう。
【0135】
実施例1:パルミチン酸アスコルビル(AP)ゲルにおけるインフリキシマブおよびアダリムマブの充填、放出、および活性
方法:
APゲルのミクロ粒子懸濁液の調製:
10mg/mLのパルミチン酸アスコルビル(AP)のミクロ粒子懸濁液を、撹拌棒を備えた20mLバイアル中で200mgのAPを700μLのDMSOに溶解することにより調製した。2.8mLの水を添加し、バイアルを80℃の水浴に入れ、240rpmで6分間撹拌した。続いて、バイアル内の混合物を室温の水浴中で一晩冷却してゲルを形成した。最後に、17.5mLのPBS緩衝液を混合物に添加し、かき混ぜてゲルを懸濁した。
【0136】
APゲルのミクロ粒子懸濁液へのモノクローナル抗体(mAb)の充填:
上記で調製した10mg/mLのAP懸濁液500μLを遠心管に添加した。PBS緩衝液中2mg/mLのインフリキシマブ(IFX)またはアダリムマブ(ADA)500μLをこの管に添加した。穏やかなピペッティングまたは穏やかなボルテックスによって混合を行って、IFXを充填したAPゲルミクロ粒子懸濁液(IFX/AP)とADAを充填したAPゲルミクロ粒子懸濁液(ADA/AP)を形成した。IFXおよびADAコントロールは、充填を評価する目的で、前のステップを繰り返して、ただし500μLのPBS緩衝液をAPゲルの微粒子懸濁液の代わりに使用して調製した。
【0137】
モノクローナル抗体(mAb)の充填の測定:
IFX/AP、ADA/AP、IFXコントロール、およびADAコントロールの試料を20,000xgで5分間遠心した。クーマシープラスアッセイを使用して(キットの使用説明書に従って)または較正されたHPLC法を使用して、各上清を総タンパク質についてアッセイした。IFXコントロールとIFX/AP試料、ならびにADAコントロールとADA/AP試料との間のmAb含有量の相違は、それぞれのAPゲルに充填されたmAbの量に対応した。
【0138】
IFX/APゲルおよびADA/APゲル試料からのmAb放出の測定:
遠心管内で、500μLのIFX/APゲル試料またはADA/APゲル試料を、0μg/mLかまたは50μg/mLのリパーゼ(シグマアルドリッチ L0777)を含む500μLの絶食状態の模擬腸液(FaSSIF;BioRelevant)と混合した。選択された時点で、それぞれのゲルから試料を採取し、5,000xgで5分間遠心し、クーマシープラスまたはHPLCによるmAb定量のために少量の試料を取り出した。
【0139】
IFX/APゲルおよびADA/APゲル試料から放出されたmAbの活性の測定:
線維芽細胞L929細胞を用いるTNF-a活性アッセイ(組換えタンパク質のGibco細胞毒性アッセイ)を使用して活性を測定した。
【0140】
結果
充填されたAPゲルからのインフリキシマブ(IFX)とアダリムマブ(ADA)の充填および放出を調査した。図1に示されるように、IFX抗体とADA抗体の両方が90%を超える封入効率を有することが示された(0時の測定)。封入率に基づいて、ゲルの約15~20重量%のmAbの充填があったことが計算された。
【0141】
リパーゼを含む試料とリパーゼを含まないFaSSIFの試料において、24時間および48時間の遊離mAbの割合が高いことに示されるように、ADA/APおよびIFX/APゲルは、FaSSIF中のリパーゼに応答性であった。
【0142】
図2に示されるように、ゲルから放出されたIFXとADAの両方が、IFXコントロールおよびADAコントロールと比較して同様の応答で示されるように、L929生存率アッセイでTNF-αに対して活性であった。
【0143】
実施例2:インフリキシマブおよびアダリムマブのパルミチン酸アスコルビル(AP)ゲルへの時間依存性充填
抗体(すなわち、IFXまたはADA)のパルミチン酸アスコルビルマイクロファイバー懸濁液への時間依存性の充填最適化を、実施例1に記載された方法に従ってIFX/APゲルおよびADA/APゲル試料を調製することによって試験した。
【0144】
結果
抗体(すなわち、IFXまたはADA)のパルミチン酸アスコルビルマイクロファイバーへの充填効率は、時間に依存することが見い出された。図3に示されるように、インフリキシマブ(IFX)の充填は、22℃で10分の充填/インキュベーション後に(そして5000rpmで10分間4℃で遠心分離してPBSで3回洗浄した後に)7%(重量/重量%)である。しかし、充填/インキュベーション時間を20時間(22℃で2時間、4℃で18時間)延長することにより、充填は14%(重量/重量%)に増加した。理論上の最大充填は、充填プロセス中に組み合わされたインフリキシマブ(IFX)とAPの量に基づいて、約16.7%(重量/重量%)と計算され、これは約84%の充填荷効率に等しい。
【0145】
実施例3:インフリキシマブおよびアダリムマブのパルミチン酸アスコルビル(AP)ゲルへのpHおよび/または電荷依存性充填
抗体(すなわち、IFXまたはADA)のパルミチン酸アスコルビルマイクロファイバー懸濁液へのpHおよび/または電荷依存性の充填最適化を、実施例1に記載された方法に従ってIFX/APゲルおよびADA/APゲル試料を調製することによって試験した。
【0146】
結果
その帯電している性質に起因して、IFXやADAなどの抗体は、パルミチン酸アスコルビル(AP)の酸性頭基とpH依存性の相互作用を有する。そのpKaが4.4を超えると、APは正味の負電荷を有する。インフリキシマブ(IFX)とアダリムマブ(ADA)はどちらも約8.2~8.7の等電点(pI)を有する。pHの封入効率への影響を図4に示す。最大充填量および封入効率は、APのpKaよりも高いがIFXまたはADAのpIよりも低いpHで観察される。このことは、静電相互作用が充填効率に寄与するメカニズムであることを示している。
【0147】
実施例4:非組織化パルミチン酸アスコルビル懸濁液と比較した、自己組織化パルミチン酸アスコルビル(AP)マイクロファイバーへの抗体の高い封入効率
材料および方法
パルミチン酸アスコルビル(AP)マイクロファイバー懸濁液は、実施例1に記載の自己組織化プロセスを使用して、または代わりに、製造業者からそのまま使用される非組織化AP微粒子(USPグレードのパルミチン酸アスコルビル、シグマアルドリッチ)を使用して調製した。10mg/mLの自己組織化懸濁液と非自己組織化懸濁液の両方を、PBS緩衝液中2mg/mLの等量のIFXかまたはADAのいずれかと混合した。22℃で2時間充填/インキュベーションした後、懸濁液を20,000xgで10分間4℃で遠心した。次に、上清を取り出し、クーマシーアッセイを介して可溶性タンパク質について試験して、封入効率を決定した。
【0148】
結果
図5に示されるように、自己組織化APマイクロファイバー懸濁液は、非自己組織化AP粉末の懸濁液と比較して、抗体(IFXおよびADA)のより多くの封入をもたらした。AP懸濁液(自己組織化マイクロファイバーまたは非自己組織化粒子のいずれか)を1分間均質化すると、おそらく自己組織化APマイクロファイバー懸濁液中でのAP-抗体相互作用によって利用可能な表面積が大きくなったことに起因して、抗体の封入がより多くなった。このデータは、APマイクロファイバーの自己組織化プロセスが抗体の封入効率を改善することを示す。
【0149】
実施例5:色素標識IgG抗体の封入
材料および方法
実施例1に記載される方法を用いてFITC-IgG(シグマアルドリッチ)を封入し、精製した。抗体を充填したマイクロファイバー懸濁液の顕微鏡画像を、EVOS FL2Auto顕微鏡で40倍の倍率で撮影した。
【0150】
結果
顕微鏡画像は、オーバーレイ画像で蛍光抗体とパルミチン酸アスコルビル(AP)マイクロファイバーの共局在を実証した。コントロールとして、試験したFITC-IgGを含まないAPマイクロファイバーは、緑色蛍光タンパク質(GFP)フィルタで自己蛍光を示さなかった。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
37℃を上回る加熱に曝された場合、および/または1またはそれを超える有機溶媒に曝された場合に活性を失う1またはそれを超える薬剤を送達するための自己組織化ゲル組成物であって、
一般に安全と認められる(GRAS)化合物の要件に適合し、2,500またはそれ未満の分子量を有し、加熱された後に水性媒体を含む溶液中で冷却された場合にヒドロゲルを形成する1またはそれを超えるゲル化剤であって、前記ヒドロゲルが、親水性および疎水性分子に対して透過性であり、薬剤とゲル化剤との間の静電的な疎水性-疎水性を介して薬剤を保持する、細孔および水性ドメインをその内部に含むナノまたはミクロ構造を含み、前記ヒドロゲルが、25℃で反転するまで少なくとも10分間安定している、1またはそれを超えるゲル化剤と;
ゲル形成後に有機溶媒の不在下で充填することにより、前記ゲルおよび/またはナノ構造の内部で封入、捕捉、および/または結合された薬剤であって、前記封入、捕捉、および/または結合された薬剤が、封入、捕捉、および/または結合の前のその活性の少なくとも50%を有する、薬剤と;
を含み、前記ヒドロゲルが有機溶媒を含まないかまたは実質的に含まない、自己組織化ゲル組成物。
(項目2)
前記薬剤が37℃を上回る温度に対して安定でない、1またはそれを超えるゲル化剤の均質な溶液から形成される、項目1に記載のゲル組成物。
(項目3)
前記均質な溶液を37℃またはそれ以上に加熱し、次に、薬剤を前記ゲルまたはゲル化混合物に添加する前に冷却することによって形成される、項目2に記載のゲル組成物。
(項目4)
前記封入および/または捕捉された薬剤が、その活性の少なくとも50%を4℃または体温(37℃)で少なくとも3日間維持する、項目1~3のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目5)
前記1またはそれを超えるゲル化剤が、水性媒体中に少なくとも4重量/体積%またはそれを超える濃度で存在する、項目1~4のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目6)
前記1またはそれを超えるゲル化剤が、パルミチン酸アスコルビル、デカン酸アスコルビル、ラウリン酸アスコルビル、カプリル酸アスコルビル、ミリスチン酸アスコルビル、オレイン酸アスコルビル、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアルカン酸アスコルビルである、項目1~5のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目7)
前記1またはそれを超えるゲル化剤が、モノパルミチン酸トリグリセロール、モノデカン酸トリグリセロール、モノラウリン酸トリグリセロール、モノカプリル酸トリグリセロール、モノミリスチン酸トリグリセロール、モノステアリン酸トリグリセロール、モノオレイン酸トリグリセロール、およびそれらの組合せからなる群から選択されるモノアルカン酸トリグリセロールである、項目1~5のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目8)
前記1またはそれを超えるゲル化剤が、パルミチン酸スクロース、ステアリン酸スクロース、デカン酸スクロース、ラウリン酸スクロース、カプリル酸スクロース、ミリスチン酸スクロース、オレイン酸スクロース、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアルカン酸スクロースである、項目1~5のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目9)
前記1またはそれを超えるゲル化剤が、モノステアリン酸ソルビタン、デカン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、カプリル酸ソルビタン、ミリスチン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアルカン酸ソルビタンである、項目1~5のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目10)
前記薬剤が、モノクローナル抗体またはその断片もしくは一本鎖である、項目1~9のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目11)
前記モノクローナル抗体が、インフリキシマブ、アダリムマブ、またはその組合せからなる群から選択される、項目10に記載のゲル組成物。
(項目12)
前記ヒドロゲルを形成するために使用される任意の有機溶媒が、薬剤の添加前に、凍結乾燥、乾燥、または濾過によって除去される、項目1~11のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目13)
前記ヒドロゲルに残留する有機溶媒の総量が約1%未満である、項目1~12のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目14)
前記ヒドロゲルが分散されているか、または粒子に破壊されている、項目1~13のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目15)
前記粒子がミクロ粒子および/またはナノ粒子である、項目14に記載のゲル組成物。
(項目16)
前記ゲル組成物が、前記ゲルを破壊または分散させることによって形成された、分散した粒子、シートまたはテープの形態である、項目1~13のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目17)
必要に応じて前記ゲル組成物または精製されたゲル組成物が均質化されるか、またはそうでなければ薬学的に許容され得る担体に分散されている、薬学的に許容され得る担体を含む、項目1~16のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目18)
1またはそれを超える薬剤が充填された自己組織化ゲルを形成する方法であって、前記方法が、
(a)水または必要に応じて有機溶媒を含む水溶液を含む媒体中で、2,500またはそれ未満の分子量を有するゲル化剤を含む溶液を形成するステップと;
(b)前記溶液を必要に応じて加熱し、次に前記溶液を37℃またはそれ未満に冷却して自己組織化ゲルを生成するステップと;
(c)必要に応じて、存在する場合に、前記有機溶媒のすべてまたは実質的にすべてを前記自己組織化ゲルから除去するステップと;
(d)前記自己組織化ゲルを水溶液に懸濁し、必要に応じて均質化または超音波処理して、前記自己組織化ゲルを粒子に破壊するステップと;
(e)有機溶媒または体温を超える温度に曝されると活性を失い、必要に応じて水溶液に懸濁または溶解されている1またはそれを超える薬剤を提供するステップと;
(f)前記自己組織化ゲル懸濁液と薬剤を含有する懸濁液または溶液を混合して、前記1またはそれを超える薬剤を前記自己組織化ゲルの中に充填するステップとを含む、方法。
(項目19)
ゲルを形成するゲル化剤の均質な溶液を形成するために、前記溶液を60~80℃の温度に加熱すること、次に、薬剤を添加する前に体温またはそれ未満に冷却することを含む、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記ゲル化剤が前記媒体中に少なくとも4重量/体積%またはそれを超える濃度で存在し、前記有機溶媒が前記媒体の体積の15%~50%の間である、項目18~19のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
水、リン酸緩衝生理食塩水、または他の生理食塩水に懸濁した前記自己組織化ゲルの量が、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、または最大70mg/mLである、項目18~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記水溶液に懸濁または溶解している前記薬剤の量が、約50mg/mL未満である、項目18~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
前記懸濁された自己組織化ゲルが粒子に均質化または超音波処理される、項目18~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記粒子がミクロ粒子および/またはナノ粒子である、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記薬剤がモノクローナル抗体、またはその断片である、項目18~24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記モノクローナル抗体が、インフリキシマブ、アダリムマブ、またはその組合せからなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
ステップ(d)がステップ(c)の前に行われる、項目18~26のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
ステップ(f)が、得られた混合物のpHを、前記ゲル化剤のpKaより高く、前記1またはそれを超える薬剤の等電点より低いpHに改変することを含む、項目18~27のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記1またはそれを超える薬剤の封入効率が最大約90重量/重量である、項目18~28のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
項目1~17のいずれか一項に記載のゲル組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、薬剤を投与する方法。
(項目31)
前記ゲル組成物が注射または移植によって投与される、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記ゲル組成物が注射によって投与される、項目30に記載の方法。
(項目33)
前記ゲル組成物が粉末または乾燥分散物として投与される、項目30~32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記ゲル組成物が、鼻粘膜、口腔粘膜、頬粘膜、肺粘膜、膣粘膜、腸粘膜、および直腸粘膜からなる群から選択される粘膜表面に投与される、項目30~33のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】