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特開2023-133449圧延鋼板、コイル材、及びブランク材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133449
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】圧延鋼板、コイル材、及びブランク材
(51)【国際特許分類】
   B23D 19/06 20060101AFI20230914BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B23D19/06 A
B23Q11/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124655
(22)【出願日】2023-07-31
(62)【分割の表示】P 2023515335の分割
【原出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛介
(72)【発明者】
【氏名】山本 清志
(72)【発明者】
【氏名】田中 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 義彦
【テーマコード(参考)】
3C011
3C039
【Fターム(参考)】
3C011EE01
3C039CB23
(57)【要約】
【課題】更なる刃欠け頻度の改善を行い、鋼板製造の歩留まりを高める。
【解決手段】トリム前の鋼板(1)に潤滑油を直接塗布することで、油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制する。すなわち、鋼板(1)のエッジ部を回転刃(2)で切断する処理を有する鋼板(1)の製造方法であって、上記鋼板(1)を上記回転刃(2)で切断する処理において、切断前の鋼板(1)の表面(1a、1b)における、上記回転刃(2)で切断する位置に潤滑油を付着する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、
上記鋼板の引張強度TSが、590MPa以上980MPa未満であり、
上記切断面のうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が式(1)を満たし、
上記第1の切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である、
ことを特徴とする圧延鋼板。
19-0.0146×TS≦せん断面比率≦48-0.0300×TS
・・・式(1)
【請求項2】
幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、
上記鋼板の引張強度TSが、980MPa以上1180MPa未満であり、
上記切断面のうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が式(2)を満たし、
上記第1の切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である、
ことを特徴とする圧延鋼板。
10-0.00526×TS≦せん断面比率≦36-0.0180×TS
・・・式(2)
【請求項3】
幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、
上記鋼板の引張強度TSが、1180MPa以上1320MPa未満であり、
上記切断面のうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が式(3)を満たし、
上記切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である、
ことを特徴とする圧延鋼板。
10-0.00526×TS≦せん断面比率≦ 27-0.0108×TS
・・・式(3)
【請求項4】
幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、
上記鋼板の引張強度TSが、1320MPa以上1850MPa未満であり、
上記切断面ののうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が、式(4)を満たし、
上記第1の切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である、
ことを特徴とする圧延鋼板。
3 ≦せん断面比率 ≦16-0.0254×TS・・・式(4)
【請求項5】
板厚方向で対向する鋼板表面のうちの、少なくとも一方の鋼板表面の塗油量について、
上記第1の切断面で構成される幅方向端面から5mmまでの領域の塗油量が、幅方向中央の位置での塗油量より、0.2g/m以上多い、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の圧延鋼板。
【請求項6】
上記第1の切断面で構成される幅方向端面から5mmまでの領域の鋼板表面の塗油量が、2.7g/m以上である、ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の圧延鋼板。
【請求項7】
上記第1の切断面で構成される幅方向端面から5mmまでの領域の鋼板表面の塗油量が6.5g/m以上である、
ことを特徴とする請求項6に記載の圧延鋼板。
【請求項8】
上記鋼板の組成成分は、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:0.50%以上3.50%以下、Al:0.001%以上1.000%以下、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、N:0.0200%以下を含み、更にB:0.0050%以下、Nb:0.100%以下、Ti:0.200%以下、Cr:1.000%以下、Mo:1.00%以下、Cu:1.000%以下、Ni:1.000%以下、Sb:0.200%以下、Zr:0.100%以下、V:0.200%以下、W:0.100%以下、Sn:0.200%以下、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる、ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した圧延鋼板。
【請求項9】
上記鋼板の組成成分は、質量%で、C:0.10%以上0.35%以下、Mn:1.00%以上3.50%以下である、
ことを特徴とする請求項8に記載した圧延鋼板。
【請求項10】
上記鋼板の組成成分は、質量%で、Mn:2.20%以上である、ことを特徴とする請求項9に記載した圧延鋼板。
【請求項11】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した圧延鋼板をロール状に巻いたコイル材。
【請求項12】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した圧延鋼板を加工してなるプレス用のブランク材であって、
少なくとも一辺の端面が、上記第1の切断面からなる、
ことを特徴とするブランク材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼板のエッジ部(板幅方向端部)の切断技術及び切断処理を含む鋼板の製造、製造された鋼板及びその鋼板からなるコイル材やブランク材に関する技術である。特に、本開示は、例えば引張強度が590MPa以上の高張力鋼板(ハイテン材)であって、板厚が例えば0.4mm以上の鋼板の製造に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
例えば、溶融亜鉛鍍金工場や冷延工場では、製品巾に合わせて鋼板のエッジ部(幅方向端部)をトリムする工程(設備)を有する。近年、自動車や建材等の分野において、高張力鋼板の需要が高まっている。このため、鋼板の製造において、高張力鋼板を回転刃(トリマー刃)で切断する処理を実行する場合もある。
しかし、高張力鋼板(以下、高強度鋼板とも呼ぶ)を切断する場合、回転刃が鋼板からの荷重に耐えられずに刃欠けし、トリム未実施材(ノートリム材)が発生するおそれがある。特に、引張強度が590MPa以上の高張力鋼板であって、例えば板厚0.4mm以上の鋼板を切断する場合を想定すると、トリム時に刃に掛かる負荷が高く、刃欠けが避けられない状況である。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1に記載されているように、回転する回転刃に対し切削油(潤滑油)を塗布することで対応する方法がある。特許文献1では、回転刃に対し直接切削油を吹き付けて塗布することで、刃と鋼板との間に潤滑性を持たせて摩擦の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-153116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切断による回転刃の刃欠けは、刃の角部(刃部)で応力が集中した際に発生すると考えられる。刃に発生する負荷としては、せん断荷重に伴う垂直抗力と、鋼板-刃間の摩擦に起因する側方力との2種類があると推定される。
このうち側方力については、鋼板-刃間の摩擦を低減することで抑制することができると考えられる。
特許文献1のように、回転刃に直接切削油を供給する方法は、刃-鋼板間の潤滑性が向上し、摩擦を低減するという対策として用いられている。しかし、更なる刃欠け頻度の改善が要望されている。
【0006】
また、発明者の検討によれば、切断時に回転刃に刃欠けが生じることで、鋼板側に損傷が生じる場合も想定される。鋼板の端面に損傷が生じた場合、回転刃での切断処理以降の工程や、製品としての圧延鋼板やコイル材を購入した自動車会社等の製造メーカにおける加工ラインで、鋼板の損傷部分から剥脱した鉄粉が加工中の鋼板に付着することで、鋼板に押し疵を発生させやすくなる。また、加工設備への鉄粉の付着によるトラブル発生のおそれもある。
【0007】
本発明は、上記のような点に着目したもので、更なる刃欠け頻度の改善を行い、鋼板製造の歩留まりを高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、回転刃に直接切削油を塗布することによる切断時の効果について検討したところ、更なる刃欠け頻度の改善が必要であるとの知見を得た。
すなわち、回転刃に直接切削油を塗布する技術の欠点として、次のような知見を得た。
(1)回転する回転刃に直接切削油をした場合、回転刃の回転の遠心力により油が飛散して、切断部への切削油の供給が不足の状態となる。なお、切断部に近づけた位置で刃に対し油を供給することも考えられるが、他の機器との干渉を考えると困難である。また、回転刃に直接油を多量に供給しても、刃が鋼板を切断する過程では、刃が鋼板と接触した後の鋼板上で刃が摺動する現象が発生する。そして、この刃の摺動により刃先では油が即座に除去される。
【0009】
(2)またこのことは、刃-鋼板間の油の浸透が不足した状況を引き起こす。したがって、刃に油を多量に塗油しても刃欠けの改善効果は小さく、特に、590MPa以上の高強度鋼板では、切断時の刃欠けを十分に抑制するには至らない。
そして、刃欠けによる上記の鉄粉発生による問題が発生する。
(3)これに対して、回転刃でのトリム前の鋼板に潤滑油を直接塗布することにより、刃が鋼板と接触した後の鋼板上で刃が摺動する過程においてもトリム刃の刃先に油切れを効果的に抑制することが可能であり、高強度鋼板の切断においても刃欠けを大幅に抑制できる。
【0010】
本発明は、このような知見に基づき、トリム前の鋼板に潤滑油を直接塗布する(付着させる)ことで、油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制する技術を確立したものである。
また、本発明の手法を適用して製造された鋼板においては、刃欠けした回転刃で切断することで生じる鉄粉の悪影響を抑制することででき、エッジ切断後の鋼板製造ラインや自動車プレスライン等での押し疵の発生を大幅に抑制する技術を確立したものである。
【0011】
すなわち、課題解決のために、本発明の一態様は、鋼板のエッジ部を回転刃で切断する処理を有する鋼板の製造方法であって、上記鋼板を上記回転刃で切断する処理において、切断前の鋼板表面における、上記回転刃で切断する位置に潤滑油を付着する、ことを要旨とする。
また、本発明の態様は、搬送されてきた鋼板のエッジ部を回転刃で切断するトリミング装置であって、回転刃よりも上流に、上記回転刃で切断する鋼板の位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える、鋼板の製造装置である。
更に、本発明の一様態は、幅方向の切断面に平滑な端面(第1の切断面)を有する圧延鋼板、コイル材、ブランク材である。
圧延鋼板とは、圧延工程を含む製造ラインで製造された鋼板を指す。また、本実施形態の圧延鋼板は、幅方向の少なくとも一方の端面が切断面からなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、刃-鋼板間への潤滑油の供給をより確実に実行可能となり、更なる刃欠け頻度の改善を行い、鋼板製造の歩留まりを向上させることが可能となる。
また、本発明の態様によれば、エッジ(幅方向端部)の切断面に平滑な端面(第1の切断面)を有する鋼板やコイル材を提供可能となる。この結果、本発明の態様によれば、鉄粉の剥脱を抑制して、鋼板製造ラインや自動車プレスラインでの押し疵を抑制した鋼板などを提供可能となる。
すなわち、本発明の態様の切断手法を適用して得た鋼板やその鋼板からなるコイル材やブランク材においては、刃欠けした回転刃(トリマー)で切断することで生じる鉄粉の発生を抑制することでできる。この結果、エッジ切断後の鋼板製造ラインや自動車プレスライン等の加工ラインでの、押し疵の発生を大幅に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に基づく実施形態に係る鋼板のトリミング装置を説明するための側面図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る鋼板のトリミング装置を説明するための平面図である。
図3】潤滑油付着装置の他の構成例を説明する側面図である。
図4】せん断面(切断面)をSEM観察した図で、(a)は比較例2の場合、(b)は比較例7の場合である。
図5】せん断面(切断面)をSEM観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、鋼板製造における表面処理鋼板製造ラインのトリマー設備(トリミング工程)を例に挙げて説明する。本発明は、冷延鋼板・熱延鋼板などの圧延鋼板の製造工場であっても適用することができる。
【0015】
「処理対象の鋼板について」
本実施形態は、処理対象として高張力鋼板、特に引張強度が590MPa以上の高張力鋼板であって、板厚が0.4mm以上の鋼板であっても適用可能となる。本実施形態は、例えば、板厚が4.0mm以下の高張力鋼板に適用してもよい。
回転刃で切断される鋼板の例としては、GI、GA、EG、CRS、錫めっき鋼板、Zn系めっき鋼板、Al系めっき鋼板等が例示できる。しかし、鋼板は、これに限定されず、任意の鋼鈑で適用可能である。本実施形態は、例えば、GI、GAに固体潤滑皮膜を付与した鋼板や有機被覆を施した鋼板でも適用可能である。
【0016】
更に、発明者らが調査したところ、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板を切断する場合には、製造コイルの8%程度という極めて高い頻度で刃欠けによるトリム不良材が生じ、不良材のオフラインでの再トリム処理が必要となるという新たな課題も見いだされた。この課題に対し、本開示を適用した場合、従来、刃欠けによるトリム不良の著しい発生を生じていた1180MPa級や1470MPa級の高強度鋼板で且つ板厚が0.4mm以上の鋼板においても、トリム不良の発生率を顕著に低減することができることを確認した。
【0017】
本実施形態が処理対象とする高張力鋼板は、その組成成分が例えば、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:0.50%以上3.50%以下、Al:0.001%以上1.000%以下、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、N:0.0200%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
なお、本明細書で、成分に関する%表示は、特に断らない限り、質量%を意味するものとする。
【0018】
次に、鋼板の組成成分の限定理由について説明する。
・C:0.03%以上0.35%以下
Cは鋼帯の強度を高める効果を有する。そのためには、Cは0.03%以上必要である。一方で、Cが0.35%を超えると自動車や家電の素材として用いる場合に必要である溶接性が劣化する。したがって、C量は0.03%以上0.35%以下としてよい。
引張強度1180MPa以上の高強度材を得る観点からは、C量は0.10%以上とすることが好ましい。また、引張強度1320MPa以上の高強度材を得る観点からは、C量は0.13%以上とすることが好ましい。
【0019】
・Si:0.01%以上3.00%以下
Siは鋼を強化し、延性を向上させるのに有効な元素であり、そのためにはSiは0.01%以上が必要である。一方で、Siが3.00%を超えると、Siが表面に酸化物を形成し、めっき外観が劣化する。したがって、Si量は0.01%以上3.00%以下としてよい。
【0020】
・Mn:0.50%以上3.50%以下
Mnは、焼入れ性を高め鋼板の強度を高めるために有用な元素である。その効果は、Mnが0.50%未満では得られない。一方、Mnの含有量が3.50%を超えるとMnの偏析が生じ、加工性が低下する。したがって、Mn量は0.50%以上3.50%以下が望ましい。
引張強度1180MPa以上の高強度材を得る観点からは、Mn量は1.00%以上とすることが好ましい。ガスジェット冷却設備のような冷却速度の比較的緩やかな設備で焼鈍後の冷却を行う場合において、1180MPa級の鋼板を得る観点からは、Mnは2.20%以上とすることが更に好ましい。
【0021】
・Al:0.001~1.000%
Alは溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、Alの含有量が0.001%未満の場合、その目的が達成されない。一方、Alが1.000%を超えると、Alが表面に酸化物を形成し、めっき外観(表面外観)が劣化する。したがって、Al量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0022】
・P:0.100%以下
Pは不可避的に含有される元素のひとつであり、Pを0.005%未満にするためには、コストの増大が懸念されるため、Pは0.005%以上が望ましい。一方、Pの増加に伴いスラブ製造性が劣化する。更に、Pの含有は合金化反応を抑制し、めっきムラを引き起こす。これらを抑制するためには、Pの含有量を0.100%以下にすることが必要である。したがって、P量は0.100%以下としてよい。好ましくは0.050%以下である。
【0023】
・S:0.0100%以下
Sは製鋼過程で不可避的に含有される元素である。しかしながら、多量に含有すると溶接性が劣化する。そのため、Sは0.0100%以下としてよい。Sを0.0002%未満にするためには、コストの増大が懸念されるため、Sは0.0002%以上とすることが好ましい。
【0024】
・N:0.0200%以下
Nは製鋼過程で不可避的に含有される元素である。しかしながら、多量に含有すると延性が劣化する。そのため、Nは0.0200%以下としてよい。下限は限定されないが、0.0005%以下に低減するには多大なコストを要するので、下限は0.0005%程度である。
【0025】
その他の添加可能な組成成分について説明する。
本実施形態が処理対象とする鋼板は、下記を目的として、B:0.0002%以上0.0050%以下、Nb:0.005%以上0.100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Sb:0.001%以上0.200%以下、Zr:0.005%以上0.100%以下、V:0.005%以上0.200%以下、W:0.005%以上0.100%以下、Sn:0.001%以上0.200%以下、Ca:0.0002%以上0.0050%以下、REM:0.0002%以上0.0050%以下、Mg:0.0002%以上0.0050%以下の中から選ばれる1種以上の元素を必要に応じて含有してもよい。
【0026】
これらの元素を添加する場合における適正含有量、及びその限定理由は以下の通りである。
・B:0.0002%以上0.0050%以下
Bは0.0002%以上で焼き入れ促進効果が得られる。一方、Bの含有量が0.0050%を超えると、鋳造性や化成処理性が劣化する。よって、Bを含有する場合、B量は0.0002%以上0.0050%以下としてよい。十分な焼き入れ性促進効果を得る観点からBは0.0005%以上とすることが好ましく、介在物を低減する観点からBは0.0025%以下とすることが好ましい。
【0027】
・Nb:0.005%以上0.100%以下
Nbは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Nbが0.100%を超えるとコストアップを招く。また、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、含有する場合、Nb量は0.005%以上0.100%以下としてよい。組織を微細化して強度上昇の効果を得る観点、耐遅れ破壊特性を改善する観点からNbは0.01%以上添加することがさらに好ましい。また、介在物を低減する観点からNbは0.06%以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
・Ti:0.005%以上0.200%以下
Tiは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Tiが0.200%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。また、化成処理性の劣化を招く。よって、Tiを含有する場合、Ti量は0.005%以上0.200%以下としてよい。組織を微細化して強度上昇の効果を得る観点、耐遅れ破壊特性を改善する観点からTiは0.01%以上添加することがさらに好ましい。また、介在物を低減する観点からTiは0.15%以下とすることがさらに好ましい。
【0029】
・Cr:0.005%以上1.000%以下
Crは0.005%以上で焼き入れ性効果が得られる。一方、Crが1.000%を超えるとCrが表面濃化するため、化成処理性、めっき性、溶接性が劣化する。よって、含有する場合、Cr量は0.005%以上1.000%以下としてよい。
【0030】
・Mo:0.005%以上1.000%以下
Moは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Moが1.000%を超えると化成処理性の劣化やコストアップを招く。よって、含有する場合、Mo量は0.0005%以上1.000%以下としてよい。
【0031】
・Cu:0.005%以上1.000%以下
Cuは0.005%以上で耐遅れ破壊改善効果が得られる。一方、Cuが1.000%超えると化成処理性の劣化やコストアップを招く。よって、Cuを含有する場合、Cu量は0.005%以上1.000%以下としてよい。耐遅れ破壊特性を向上させる観点から、Cuは0.05%以上添加することがさらに好ましい。また、化成処理性の劣化を防止する観点からCuは0.2%以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
・Ni:0.005%以上1.000%以下
Niは0.005%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、Niが1.000%を超えるとコストアップを招く。よって、Niを含有する場合、Ni量は0.005%以上1.000%としてよい。
【0033】
・Sb:0.001%以上0.200%以下
Sbは鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有することができる。窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、Sb:0.001%以上で得られる。一方、Sb:0.200%を超えると靭性が劣化する。よって、Sbを含有する場合、Sb量は0.001%以上0.200%以下としてよい。耐疲労特性を改善する観点からSbは0.002%以上添加することが好ましく、高い靭性を得る観点からSbは0.100%以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
・Zr:0.005%以上0.100%以下
Zrは、0.005%以上で高強度化の効果が得られる。一方、Zrが0.100%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、Zrを含有する場合、Zr量は0.005%以上0.100%以下としてよい。
【0035】
・V:0.005%以上0.200%以下
Vは、0.005%以上で高強度化の効果が得られる。一方、Vが0.200%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、Vを含有する場合、V量は0.005%以上0.200%以下としてよい。
【0036】
・W:0.005%以上0.100%以下
Wは、0.005%以上で高強度化の効果が得られる。一方、Wが0.100%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、Wを含有する場合、W量は0.005%以上0.100%以下としてよい。
【0037】
・Sn:0.001%以上0.200%以下
Snは、鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から、含有することができる。窒化や酸化を抑制することで、鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止する。この結果、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、Sn:0.001%以上で得られる。一方、Sn:0.200%を超えると靭性が劣化する。よって、Snを含有する場合、Sn量は0.001%以上0.200%以下としてよい。耐疲労特性を改善する観点からSnは0.002%以上添加することが好ましく、高い靭性を得る観点からSnは0.100%以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
・Ca:0.0002%以上0.0050%以下
Caは、介在物の形態を球状化して曲げ性や耐遅れ破壊特性を改善する効果がある。このような効果を得る観点から、Caは、0.0002%以上添加することができる。しかし、Caを多量に添加すると、コストアップにつながるので、Caは0.0050%以下とすることが好ましい。
【0039】
・REM(Rare Earth Metal):0.0002%以上0.0050%以下
REMは、介在物の形態を球状化して曲げ性や耐遅れ破壊特性を改善する効果がある。このような効果を得る観点から、REMは0.0002%以上添加することができる。しかし、REMを多量に添加すると、コストアップにつながる。したがって、REMは0.0050%以下とすることが好ましい。
【0040】
・Mg:0.0002%以上0.0050%以下
Mgは、介在物の形態を球状化して、曲げ性や耐遅れ破壊特性を改善する効果がある。このような効果を得る観点から、Mgは0.0002%以上添加することが好ましい。しかし、Mgを多量に添加すると、コストアップにつながるので、Mgは0.0050%以下とすることが好ましい。
【0041】
以上説明してきたような成分組成の鋼板は、公知又は任意の方法で製造することができる。例えば、上記成分組成を有するスラブを加熱し、熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、必要に応じて熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とすることができる。更に、鋼板表面に、上述のような表面処理を実行する場合もある。
【0042】
「第1実施形態」
図1は、トリマー設備に設けられたトリミング装置の構成を説明する図である。
図1に示すように、本実施形態では、めっきその他の表面処理が施された鋼板1が、搬送ラインに沿ってトリマー設備に搬送され、搬送中の鋼板1の板幅方向端部(エッジ部)に対してトリム処理が実行される。
【0043】
(構成)
本実施形態のトリミング装置は、回転刃2と、押さえロール7と、潤滑油付着装置とを備える。また、本実施形態のトリミング装置は、膜厚均一化器具を備える。押さえロール7及び膜厚均一化器具の少なくとも一方を有しなくても良い。なお、本実施形態では、押さえロール7が膜厚均一化器具を兼ねる。
【0044】
<回転刃2>
回転刃2は、図1及び図2に示すように、鋼板1を挟んで対向可能な一対の回転刃2A、2B(上刃2A及び下刃2B)を有し、その一対の回転刃2A、2Bで鋼板1を板厚方向から挟み込んで切断する構成となっている。図2のように、一対の回転刃2A、2Bの刃先同士の接触位置が切断位置となる。
図2における符号Lは、切断位置を通過すると想定される切断前の鋼板1の位置を示す。また、図1及び図2における符号10は、潤滑油付着装置にて鋼板1に付着した潤滑油を示す。
一対の回転刃2A、2Bは、図1に示すように、切断位置での回転方向が搬送方向と同方向となる順方向に設定されている。
回転刃2は、例えば、出側検査前にて、製品巾に合わせて鋼板1のエッジ部(端部)を切断するトリム処理を実行する。
【0045】
<潤滑油付着装置>
潤滑油付着装置は、図1に示すように、鋼板搬送方向における回転刃2の設置位置よりも上流位置、すなわち切断前の鋼板1の表面1a、1bと対向可能な位置に配置されている。潤滑油付着装置は、図2に示すように、鋼板1の表面1a、1bにおける、回転刃2で切断される位置(符号Lの位置)を含む領域に対し事前に潤滑油10を付着する装置である。
本実施形態の潤滑油付着装置は、噴霧装置3(噴射ノズル)を有し、噴霧装置3は、鋼板1の表面1a、1bに向けて潤滑油を噴霧することで、鋼板1の表面1a、1bに潤滑油を付着する。噴霧装置3には、潤滑油を貯蔵した油タンク4と、空気を供給するコンプレッサその他のエア供給装置5が接続されている。噴霧装置3は、コントローラ6からの指令に応じて、ノズル先端部で潤滑油に空気を混合して、潤滑油を霧状にし、その霧状の潤滑油を鋼板1の表面1a、1bに向けて噴霧可能に構成されている。
【0046】
[潤滑油の水分含有量]
潤滑油の含有水分量は、3000ppm未満であることが好ましい。
そのままでは、回転刃2で切断後の鋼板の端部には、潤滑油が付着したままとなる。その付着している潤滑油の含有水分量が3000ppm以上と含有水分量が多い場合、回転刃2での切断から、自動車メーカや家電メーカ等で鋼板を製品に加工される迄の間に、潤滑油に含有する水分によって、鋼板の平坦面あるいは切断面に錆が発生するおそれがある。このことは、自動車用途や家電用途の鋼板の製造に、本実施形態が使用し難しくなることに繋がる。
【0047】
一方、潤滑油の含有水分量を3000ppm未満とすることで、鋼板の平坦面あるいは切断面での錆の発生を抑制することができる。
より長期間に渡って錆の発生を抑制する観点を考えると、潤滑油の含有水分量は、2000ppm以下であることが更に好ましい。
また、潤滑油の含有水分量の下限は0ppmである。脱水に要するコストを考慮すると、潤滑油の含有水分量の下限は、20ppm以上が好ましい。
なお、本明細書のおける「ppm」は、重量ppmを表す。
【0048】
[噴霧量]
噴霧量とは、鋼板表面への付着量と同義である。
自動車製造業等の鋼板を加工する製造メーカでは、例えば、鋼板若しくは鋼板からトリムしたブランク材にプレス加工を施した後、化成処理・電着塗装工程の前に、鋼板に付着した油(プレス油や防錆油)をアルカリ洗浄液で脱脂する洗浄工程を備える。このとき、油の付着量が多くなるほど、脱脂工程での脱脂性が著しく劣化し、化成処理性や塗装性に悪影響を及ぼす。したがって、このような用途の鋼板を製造する場合、従来のように、回転刃に直接油を塗布して鋼板を切断する方法では、更に多量の切削油を供給することは、回転刃から鋼板に油が過剰に転写されて脱脂不良を招くので、困難である。
【0049】
一方で、発明者らが種々検討したところ、トリム前の鋼板に潤滑油を直接塗布して(付着させて)切断する方法を採用した場合、以下のような効果が得られるという新たな知見を得た。
すなわち、発明者らは、鋼板への潤滑油の供給量が同じであっても、トリム用の回転刃に直接油を塗布する場合に比べて、鋼板に直接潤滑油を供給(付着)して切断した方が、刃欠けの頻度が抑制されることを確認した。
この理由は必ずしも明らかではないが、次に示すような、刃先で油を保つ新たな機構が生じる事が理由と考えられる。
すなわち、従来のように回転刃に直接塗布する場合、刃が鋼板に接触した後、新たな潤滑油の供給が生じない。このため、刃のコーナ部、つまり刃先が鋼板上を摺動しながら鋼板を変形させて切断に至る過程において、刃先の油切れを抑制できない。このため、この過程で、刃には、鋼板-刃間の摩擦に起因する側方力が強く作用すると推定される。
【0050】
一方、トリム前の鋼板に直接塗布(付着)した場合、刃が鋼板に接触した後も、刃先が鋼板表面を摺動して切断する過程で、刃先が摺動した先の新たな鋼板表面の領域にも、塗布された(付着した)潤滑油が存在する。このため、潤滑油が供給され続けることになる。この結果、油切れが抑制され、鋼板-刃間の摩擦も低減されることで、鋼板に直接潤滑油を塗布(付着)する場合に刃欠けが著しく抑制されると考えられる。また、摺動過程で刃先と鋼板の間に局所的に堆積する油は、トリム除去される切り屑側に生じるので、堆積した油による脱脂不良も生じにくい。
【0051】
以上のことから、油を回転刃に直接塗布する場合に比べ、鋼板に直接潤滑油を塗布(付着)させる場合、トリムのために鋼板に供給される潤滑油の量を抑えることが可能となる。
なお、鋼板全体に多量の塗油を行うと、脱脂ラインで大量の潤滑油の除去が必要となり、薬液交換頻度が著しく増大する。このため、コストやライン操業性の面から、現実的に実施するのは非常に難しい。また、鋼板全体に塗布した場合には、地球環境への負荷増大も顕著である。本開示の切断手法では、回転刃の近傍の領域のみに塗布することで顕著な効果が得られるので、かかる問題も解決できる。
【0052】
すなわち、本実施形態を適用することで、顕著な刃欠けの抑制効果を得るのに多量の油の塗布(付着)を必要としない。この結果、自動車メーカなどから求められる脱脂性を損なわない範囲の油の付着量で、その効果が得られるという有利な点がある。
このように、本開示によれば、回転刃に直接油を塗布して鋼板を切断する方法に比べて、少ない潤滑油の付着量で、刃欠けの頻度が抑制される。この結果、本開示によれば、自動車骨格・ボディ部品用等の用途に適用できる利点を有し、環境保全の面においても優れている、との知見を得た。また、本開示によれば、飛散することが防止され、鋼板への潤滑油の付着領域も限定的にすることも可能となる。
【0053】
ここで、潤滑油の噴霧量は、鋼板1の表面1a、1bのエッジ部に対し、連続的かつムラなく塗布(付着)できるように、油流量などを調整する。
例えば、噴霧量は、鋼板1の表面1a、1bに対して一定以上の塗油密度を確保するために、下記(1)式のように設定する。
すなわち、噴霧量の下限値は、鋼板の搬送速度に応じて、例えば下記(1)式によって設定する。より好ましくは、噴霧量の下限値は、(2)式によって設定する。
噴霧量の下限値=1.00[mL/m
×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(1)
噴霧量の下限値=7.24[mL/m
×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(2)
【0054】
噴霧量を、片面あたり(1)式で規定する量以上に設定することで、特に優れた刃欠けの抑制効果が得られる。なお、(1)式で規定される噴霧量の下限値は、1.00mL/mの塗油密度に対応する。塗油密度は、単位面積当たりの鋼板表面における潤滑油の付着量である。更に、噴霧量を(2)式で規定する量以上に設定することで、更に優れた刃欠けの抑制効果が得られる。このため、噴霧量の下限値はこの範囲とすることが好ましい。なお、(2)式で規定される噴霧量の下限値は、7.24mL/mの塗油密度に対応する。刃欠けの初期発生箇所となる上刃側(上面)の鋼板面で、上記塗油密度とすることが好ましい。上刃側と下刃側の両鋼板面で、上記塗油密度とすることが更に好ましい。
【0055】
ここで、(1)式及び(2)式での規定は、噴霧領域(付着領域)の幅が鋼板エッジ部から0.04mの範囲を前提としたものである。その幅が異なる場合は、0.04mに替えてその値を代入することで噴霧量を求めることができる。[mpm]は、一分間当たりの鋼板の通過距離(m)である。
噴霧領域の幅を0.01m、搬送速度を40mpmとすると、(1)式では0.02L/hr、(2)式では0.17L/hrとなる。これらの値が、優れた刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値、及び、更に刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値と考えることができる。なお、塗油密度に換算した場合の値は、上述の通りである。
【0056】
噴霧量の上限値については、特に規定は無い。
ただし、過剰塗油の場合、鋼板1のエッジ部に付着した油10が鋼板から落下し、以降のライン機器に悪影響を及ぼす懸念がある。このため、噴霧量は極力少量が望ましい。このような観点から、潤滑油の噴霧量は、両面合計で60L/hr未満とすることが望ましい。両面合計の噴霧量とする理由は、油が上下面の両面から流れ出てくるためと、コイルとした場合には両面の油が一体化して流れ出るためである。両面合計で60L/hr未満の噴霧量は、両面へ噴霧する場合、片面あたり15mL/m未満の塗油密度に対応する。片面のみに噴霧する場合、30mL/m未満の塗油密度に対応する。ここで、噴霧領域の幅は0.15m、鋼板の搬送速度は230mpmとした。これは噴霧領域の幅と鋼板の搬送速度の上限相当の条件である。
【0057】
また、自動車用鋼板で必要とされる優れた脱脂性を確保する観点からは、塗油密度は10mL/m以下とするのが好ましい。これは、脱脂時間は塗油密度の影響を顕著に受けるためである。塗油密度が10mL/m以下は、片面噴霧の場合、20L/hr以下に対応し、両面噴霧の場合、40L/hr以下の潤滑油の噴霧量に対応する。ここで、前記潤滑油の噴霧量は、噴霧領域の幅0.15m、鋼板の搬送速度230mpmとして算出される潤滑油の噴霧量である。より優れた脱脂性を確保する観点からは、塗油密度は5mL/m以下とするのがさらに好ましい。これは、片面噴霧の場合、10L/hr以下の潤滑油の噴霧量に対応し、両面噴霧の場合、20L/hr以下の潤滑油の噴霧量に対応する。塗油密度をこの範囲に制御することで、自動車メーカ等で実施する脱脂処理に要する時間を削減できる。
【0058】
なお、この実施形態では、潤滑油をそのまま噴射すること無く、霧状として供給する。このため、潤滑油の給油が自ずと抑えられる。
ここで、潤滑油の塗布(付着)を滴下で実行した場合、その滴下量の範囲は、上記の噴霧の場合と同様の範囲となる。なお、滴下の場合、(1)式や(2)式において(噴霧領域の幅)を(滴下領域の幅)に置き換えて算定すればよい。
【0059】
[噴霧圧力]
噴霧圧力は、例えば0.09MPa以上0.12MPa以下とする。
噴霧圧力は、規定する噴霧領域に均一塗油可能となるように設定されれば、特に限定は無い。
【0060】
[噴霧領域]
噴霧領域は、切断位置となる位置Lを基準として、鋼板1の巾方向へ±20mmの領域を有することが好ましい。
噴霧領域の巾(噴霧巾)が40mm以下の噴霧巾になると、切断位置において、十分な潤滑領域を確保できず、刃欠けのおそれが発生する。
噴霧領域の巾の上限値については特に規定はない。ただし、過剰塗油の場合、鋼板1のエッジ部に付着した油10が鋼板から落下し、以降のライン機器に悪影響を及ぼす懸念があるため、噴霧領域の巾は極力少量が望ましい。
【0061】
製造された鋼板を自動車用途へ適用する場合には、脱脂速度向上、脱脂不良削減、薬液交換頻度削減、環境負荷低減の観点から優れた脱脂性が求められる。このため、噴霧領域の幅は極力低減することが望ましい。このような観点から、塗布領域の幅は±100mm(200mm幅)以下とすることが望ましい。また、噴霧領域の幅は、鋼板への潤滑油塗布密度を精密に制御することにより、±40mm(80mm幅)以下とすることが好ましい。更に、噴霧領域の幅は、±20mm(40mm幅)以下とすることがより好ましく、±10mm(20mm幅)以下とすることが更に好ましい。
【0062】
[噴霧装置3の噴射部と鋼板1との距離]
噴霧装置3の噴射部と鋼板1との距離は、40mm以上離すことが好ましい。40mm未満の場合、鋼板形状が悪形状の鋼板1が通過する時に、噴霧装置3のノズル部が鋼板1と干渉するおそれがある。
噴霧装置3の噴射部と鋼板1との距離の上限値については、特に規定はない。距離を離すほど、鋼板1の表面1a、1bに付着する潤滑油の密度(塗油密度)が低くなると共に、噴霧領域の巾が広くなる。しかし、塗油密度と噴霧領域とが予め設定した目的とする範囲に確保できる距離の範囲であれば、距離の上限値に規定はない。
本実施形態では、噴射ノズルは、鋼板1の上面1a及び下面1bに対向させて配置されて、鋼板1の表裏両面における、回転刃2で切断する位置に潤滑油を付着する構成となっている。
噴射ノズルは、鋼板1の表裏表面1a、1bのうちの、一方の面のみに配置されていても良い。
【0063】
[潤滑油の粘度]
潤滑油の粘度は、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、3mm/s以上、130mm/s以下であることが望ましい。3mm/s未満の場合、回転刃の切断面と鋼板が高い面圧で作用する。このため、油切れにより回転刃と鋼板が直接接触する恐れがある。1180MPa以上の強度の高強度鋼板の切断においては、より高い面圧となっても油切れを抑制する観点からは、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、潤滑油の粘度は8mm/s以上が更に好ましい。
【0064】
また、滑油の粘度が130mm/sより大きい場合、潤滑油が鋼板面に付着した後に鋼板面での拡散・浸透が不足し、局所的に潤滑油が不足する恐れがある。また、回転刃が鋼板を切断する過程で潤滑油の回転刃側面への供給が不足し、回転刃側面と鋼板が直接接触する恐れがある。したがって、滑油の粘度は、130mm/s以下とすることが好ましい。更に、付着した油をより均一に分布させる観点からは、潤滑油の粘度は潤滑油の液温が40℃のときにおいて、100mm/s以下とすることが更に好ましい。なお、粘度の測定は、JIS Z8803に基づく。粘度の測定は、例えば、回転粘度計で測定できる。
潤滑油の種類は特に規定しない。例えば、潤滑油として、プレス油、防錆油、切削油等が例示できる。高強度鋼板を切断する場合においても安定して刃欠けを抑制する観点から、これらの潤滑油に対し、極圧添加剤を添加したものとすることもできる。
【0065】
[潤滑油の粒径]
噴霧後のミストの平均直径は、例えば1μm以上2000μm以下の範囲とする。ミストの平均直径について、下限の制約は特にない。ただし、粒径が小さすぎると、周囲へ飛散し鋼板への付着率が下がる。また、飛散した油が周囲へ飛び散り、防災の観点からリスクが発生する、などの懸念がある。ミストの平均直径について、上限の制約も特にない。ただし、付着量が不均一になり、刃欠けが生じやすくなる懸念がある。刃欠け抑制の観点から、ミストの平均直径のより好ましい範囲は、100μm以下である。
【0066】
[潤滑油の鋼板への付着後、切断が開始されるまでの保持時間]
潤滑油の鋼板への付着後、切断が開始されるまでの保持時間は特に規定しない。ただし、鋼板表面に付着した油の粒子を鋼板表面に分散させて均一な付着状態とする観点から、該保持時間は1秒以上とすることが好ましい。付着した潤滑油の粒子の直径が大きい場合は、鋼板表面に付着した油の粒子が鋼板表面に分散して均一な付着状態となる時間が長くなる。このため、潤滑油の粒径が2000μmを超える場合は、該保持時間は3秒以上とすることが望ましい。
【0067】
[回転刃の構成材]
回転刃の構成材については特に規定しない。回転刃の構成材の例としては、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼等を挙げることができる。引張強度が1180MPa以上の高張力鋼板の切断において歯欠けを安定して抑制する観点からは、回転刃の構成材として、合金工具鋼や高速度工具鋼を使用するのが好ましい。また、回転刃の表面に、焼き入れ処理、窒化・浸炭、TD処理等の表面硬化処理や、PVD、CVD、めっき、溶射等の表面被覆処理が施されていることが、更に好ましい。
【0068】
<押さえロール7>
一対の押さえロール7は、鋼板1を挟んで当該鋼板1を把持可能に配置されている。
一対の押さえロール7は、鋼板1の搬送方向における、回転刃2と、潤滑油付着装置による潤滑油の付着位置との間に設定されている。
この一対の押さえロール7で把持する鋼板1の領域は、少なくとも上記回転刃2で切断される鋼板1の位置を含むように設定される。
この一対の押さえロール7は、鋼板1の振動を抑えて、回転刃2による切断をより安定して実行可能とする。
また、鋼板1に付着した潤滑油10を、鋼板1の表面1a、1bに押しつけて引き伸ばして、付着した潤滑油10を均一化すると共に鋼板への密着度を高める役割も有する。
【0069】
[膜厚均一化器具]
膜厚均一化器具は、回転刃と潤滑油の付着位置との間に配置され、鋼板表面に付着させた潤滑油の膜厚を均一化する器具である。すなわち、膜厚均一化器具は、滴下や噴霧により付着させた潤滑油が不均一に分布していた場合に潤滑油の付着領域とりわけ切断箇所近傍(10~100mm幅)の付着量を均一に調整する器具である。
この膜厚均一化器具によって、潤滑油の鋼板への付着後、回転刃で切断されるまでの間に、膜厚を均一化することが好ましい。
本実施形態では、膜厚均一化器具は、潤滑油の噴霧装置又は油滴下装置と回転刃との間に設置される。
【0070】
本実施形態では、膜厚均一化器具の例として、一対の押さえロール7が例示されている。
膜厚均一化器具としては、刷毛又はフェルト、ゴム、樹脂、金属の1種又は2種以上で構成される平面部材もしくはロール形状の部材を用いることができる。これらの膜厚均一化器具は、固定したもの、又は潤滑油の膜厚をより均一化する目的で回転もしくは揺動するものとしてもよい。潤滑油の表面を押圧するもしくは掻くことで鋼板表面の潤滑油の付着量を均一化する構成となっていればよい。
潤滑油が不均一に分布すると刃欠けを誘発する原因となる。これに対し、膜厚均一化器具の利用によって、刃欠けを顕著に抑制する作用があり、安定して刃欠けが抑制することができる。また、潤滑油が不均一に分布すると脱脂性が劣化する原因となる。しかし、膜厚均一化器具の利用によって、それを抑制することができる。
【0071】
<その他の構成>
本実施形態は、潤滑油を含浸させたフェルト9を有する。フェルト9は、回転刃2に直接、潤滑油を供給する。なお、フェルト9には、適宜、潤滑油が供給される。回転刃2に直接、供給した潤滑油は、回転刃2の回転の遠心力により飛散してしまうため、フェルト9によって供給される潤滑油の量よりも、噴霧装置3によって供給される量を多くすることが好ましい。
本実施形態では、このフェルト9は、無くても良い。
【0072】
[回転刃2の上刃2Aと下刃2Bのクリアランス]
回転刃2の上刃2Aと下刃2Bのクリアランスは、鋼板1の板厚に対し5%以上19%以下の範囲であることが好ましい。引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においては、従来の軟質な鋼板で問題とならなかった20%程度のクリアランスでは、刃欠けが生じやすくなる。回転刃2の上刃2Aと下刃2Bのクリアランスを5%以上19%以下の範囲制御することで、引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においても、トリム刃欠けとそれによる鉄粉発生が抑制される。この結果、切断以降の処理での押し疵が抑制される。回転刃2の上刃2Aと下刃2Bのクリアランスは、引張強度980MPa以上の高張力鋼板の刃欠けを抑制する観点からは、5%以上14%以下の範囲が更に好ましい。更に、引張強度1180MPa以上の高張力鋼板の刃欠けを抑制する観点からは、5%以上13%以下の範囲が更に好ましい。
【0073】
[回転刃2の回転方向における上刃と鋼板の垂直方向接触角]
回転刃2の回転方向における上刃2Aと鋼板1の垂直方向接触角は、3度以上13度以下であることが好ましい。引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においては、従来の軟質な鋼板で問題とならなかった、14度程度の接触角では刃欠けが生じやすくなる。接触角が13度超では、回転刃2と鋼板1の接触面積が小さくなることに加え、曲げ変形を切断屑に与える必要が生じて変形抵抗が高くなる。このことにより、高張力鋼板の切断においては、非常に高い応力が回転刃2の刃先に集中することになり、刃欠けが顕在化する。接触角が3度未満では、板厚方向に十分な切断深さが確保できず、切断不良が生じる。接触角を3度以上13度以下の範囲に制御することで、引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においても回転刃2の刃欠けとそれによる鉄粉発生が抑制され、押し疵が抑制される。
【0074】
[回転刃2の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角]
回転刃2の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角は、搬送後方側に開き角となる方向に、0.01度以上0.5度以下であることが好ましい。引張強度590MPa以上の高張力鋼板の切断においては、回転刃2と鋼板1の切断端面の再接触により高い面圧が生じて刃先に凝着物の堆積が生じやすくなる。刃先に凝着物の堆積が生じると、局所的なクリアランスの狭小化を通じて大きな応力が刃先にかかり刃欠けを誘発する。このような現象を回避する観点から、回転刃2の回転方向と鋼板1の搬送方向のなす角は、搬送後方側に開き角となる方向に0.01度以上0.5度以下であることが好ましい。
【0075】
(変形例)
(1)上記説明では、潤滑油付着装置を噴霧装置3で構成する場合を例示した。潤滑油付着装置の他の例を、図3を参照して説明する。
図3に示す潤滑油付着装置は、油滴下装置20を備え、リザーブタンク21から供給される潤滑油を、コントローラ22からの指令に応じて、鋼板1の上面1aに向けて潤滑油の油滴を連続的に滴下する構成となっている。なお、鋼板1の下面1bに対して潤滑油を滴下させることはできない。したがって、更に、鋼板1の下面1bに対向させて噴霧装置3を配置し、下面1bへも潤滑油を噴霧することがより好ましい。
鋼板1の表面1bに対し搬送方向に沿って滴下された油滴23は、押さえロール7で引き伸ばされて、鋼板1に付着した油滴が、搬送方向に沿って均一化する。
【0076】
(2)また、潤滑油付着装置を、刷毛から構成し、刷毛によって、鋼板1に潤滑油を付着させる構成でも良い。
ただし、刷毛による塗布の場合、非接触で潤滑油10を供給する噴霧装置3などと異なり、鋼板1の表面1a、1bに刷毛を直接接触させる。このため、刷毛による塗布の場合、鋼板1が高速で搬送されて振動する鋼板製造ラインで刷毛を適用するのは難しい。例えば、塗布時にラインを止める必要があったり、ライン内に作業員が入る必要があったりするなど、適用に対する課題がある。
【0077】
(3)また、潤滑油付着装置を、フェルト、ゴム、樹脂、金属の一種もしくは二種以上から構成される平面部材もしくはロール形状部材としてもよい。そして、これらに潤滑油を付着させたのち、当該潤滑油を鋼板1に付着させる構成でも良い。更に、これらの潤滑油付着装置は、固定したもの、又は油の付着をより均一化する目的で回転もしくは揺動するものとしてもよい。
例えば、潤滑油付着装置をロール形状とする場合は、押さえロール7は、潤滑油付着装置としても利用することができる。押さえロール7の外周面に潤滑油を付着させて鋼板に潤滑油を供給することで、上述の押さえロールの機能と潤滑油付着装置としての機能の両機能を受け持たせることができる。
【0078】
(4)更に、鋼板の進行方向における回転刃の設置位置の前もしくは後の位置に、余分な潤滑油を除去する潤滑油除去装置を有していてもよい。この場合、回転刃での切断の前もしくは後において、鋼板に付着した潤滑油の一部を除去することで、潤滑油の付着量を調整可能となる。
例えば、製造した鋼板を自動車用等の優れた脱脂性が求められる用途で使用する場合、トリム刃欠け抑制の観点から潤滑油を10mL/m以上付着させた後、潤滑油除去装置により潤滑油の付着量を10mL/m以下に調整することが好ましい。ただし、この場合、潤滑油除去装置を備える必要があるので、コスト増となる問題が生じる。
(5)更に、除去した潤滑油を潤滑油付着装置に循環させ、再利用してもよい。
【0079】
(圧延鋼板、コイル材、及びブランク材)
次に、本開示に基づく、本実施形態の圧延鋼板その他について説明する。
本実施形態の上記の鋼板製造方法は、圧延鋼板の製造に好適な技術である。
本実施形態の圧延鋼板は、スラブを圧延機で圧延する圧延工程と上記の切断工程を有する設備にて製造されて、形状が帯状となっている。なお、以下、圧延鋼板を、単に鋼板とも記載する。
ここで、上述の切断方法では、回転刃2で切断する前に、切断予定の鋼板箇所に油を塗布している。この本実施形態の切断方法で切断された鋼板幅方向の端面は、平滑な切断端面となっている。本実施形態では、この平滑な切断端面の部分を、第1の切断面と呼ぶ。第1の切断面は、後述のような規定の構成となっている。
【0080】
ここで、鋼板幅方向に形成された切断端面は、鋼板長手方向全体にわたって、第1の切断面であることが好ましい。ただし、鋼板幅方向に形成された切断端面は、鋼板長手方向の一部だけが第1の切断面であっても良い。例えば、切断時の搬送速度が非定常となりがちな、鋼板の先端部及び尾端部の切断面は、第1の切断面でなくても良い。また、長手方向の一部の切断面についても第1の切断面で無くても良い。例えば、部分的に油の塗布量が少な過ぎて、第1の切断面の規定を満たさない端面部分があっても良い。ただし、鋼板幅方向に形成された切断端面の、長手方向50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上が、第1の切断面であることが好ましい。
【0081】
また、その帯状の鋼板を巻取り装置にて、ロール状に巻かれることでコイル材となる。
更に、上記の圧延鋼板、又はコイル材を巻き戻してなる鋼板を、適宜、切り出すことで、プレス用のブランク材となる。本実施形態のブランク材は、鋼板の幅方向両端部の少なくとも一方の端面が第1の切断面からなる。
ここで、回転刃2の刃欠けは、鋼板強度や設定条件等にも依存するので、厳密には特定されないが、数百m~数万mの切断長の中で発生する。このため、生産性向上の観点から、鋼板長手方向において数百mの範囲で部分的に塗油を行わない領域を作ることが可能である。部分的に塗油を行わない領域が存在しても、本開示の要件を満たす領域が存在することで、刃欠けの抑制効果やそれによる押し疵の抑制効果、更には搬送トラブル、コイル巻き形状不良、プレス寸法精度不良の抑制効果は得られる。
【0082】
また、鋼板やコイル材において、上記の効果を十分に享受する観点からは、先端(コイル材の長手先端から5~10m中央側)、長手中央、尾端(コイル材の長手尾端から5~10m中央側)の3カ所を測定し、50%以上の領域で、下記の第1の切断面の規定を満たすことが好ましい。ここで、該当領域の比率は、合格箇所と合格箇所で挟まれる領域は合格とし、合格箇所と不合格箇所で挟まれる領域はその区間の半分の領域が合格、半分の領域が不合格とし、不合格箇所で挟まれる領域は不合格として算出する。上記箇所で測定が不可能な場合は、隣接する領域で測定を行う。
【0083】
また、ブランク材の場合、第1の切断面を有する幅方向の端部は、直辺であり圧延方向に平行である。更に、ブランク材は、第1の切断面の下記の規定を満足する必要がある。ブランク材は、プレス加工を施すことを前提とするため、平坦な板材である。ブランク材の第1の切断面からなる端面の長さは、例えば、100mm~2500mmであり、例えば、矩形形状の板材である。ただし、ブランク材は、ピアス穴などの打ち抜き穴を有しても良い。
【0084】
また、本実施形態の鋼板は、引張強度TSが590MPa以上の高張力鋼板からなる。
上記鋼板は、熱延鋼板、冷延鋼板、熱延鋼板もしくは冷延鋼板に表面処理を施した鋼板、熱延鋼板を冷間圧延したフルハード材のいずれでもよい。なお、フルハード材は、トリムの後の焼鈍を行った後の強度ではなく、トリムを行う工程での素材のTSが590MPa以上であればよい。
【0085】
本実施形態の鋼板の表面に表面処理が施されていても良い。表面処理が施された鋼板としては、GI、GA、EG、CRS、錫めっき鋼板、Zn系めっき鋼板、Al系めっき鋼板等が例示できる。しかし、これに限定されず、鋼板として、任意の鋼鈑を適用可能である。本開示は、例えば、GI、GAに固体潤滑皮膜を付与した鋼板や有機被覆を施した鋼板でも適用可能である。上記表面処理は、鋼板エッジ部の切断処理よりも前に行われていることが好ましい。
本実施形態では、鋼板の板厚は、切断荷重が高くなり、刃欠けが顕在化しやすい0.4mm以上を対象とし、0.8mm以上が更に適している。一方、板厚が4.0mm以下でも本開示の効果が十分得られるので、その範囲も、本発明の範囲とする。
【0086】
[せん断面比率]
鋼板の上記の切断面のうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、鋼板の引張強度TS(MPa)に応じて、せん断面比率(%)が、以下の式(3)~(6)の範囲とする。
<TS:590MPa以上980MPa未満>
19-0.0146×TS≦せん断面比率≦48-0.0300×TS
・・・式(3)

<TS:980MPa以上1180MPa未満>
10-0.00526×TS≦せん断面比率≦36-0.0180×TS
・・・式(4)
【0087】
<TS:1180MPa以上1320MPa未満>
10-0.00526×TS≦せん断面比率≦27-0,108×TS
・・・式(5)

<TS:1320MPa以上1850MPa未満>
3 ≦せん断面比率≦ 16-0.0254×TS ・・・式(6)
【0088】
ここで、潤滑油を鋼板1に直接塗布せず回転刃2に塗布する場合は、前述の通り刃先で油切れを生じやすく、その結果、せん断断面に大きな摩擦力が生じて大きな塑性変形を生じる。このため、切断面が、せん断面比率の高い破面形状となる。このように大きな塑性変形を伴った切断面は、残留延性が乏しい。このため、端面からの鉄粉の剥脱が切断工程以降の処理で生じやすく、剥奪した鉄粉が押し疵を招いて表面欠陥の発生率を増加させる。その作用は、980MPa級以上の高張力鋼板で特に顕在化し、1180MPa級以上の高張力鋼板で一層顕在化する。
一方で、本開示に基づき、潤滑油を鋼板に直接塗布して切断した場合は、590MPa級以上の広い範囲の強度の高張力鋼板において、第1の切断面での摩擦力を軽減する。
【0089】
このため、発明者は、本開示の切断方法を適用することで、第1の切断面でのせん断面比率を式(1)~(4)で記述する範囲に抑えることができるとの知見を得た。その結果、本開示の切断方法を適用することで形成した鋼板、及びその鋼板からなるコイル材やブランク材は、切断工程以降の搬送工程、圧延工程、焼鈍工程、鋼板巻き取り工程などにおいて、端面からの鉄粉の剥脱を従来よりも抑制することができ、各工程で剥脱鉄粉の再付着に起因した押し疵の削減が可能である。
なお、式(1)~(4)のせん断面比率の下限は、鉄粉剥脱抑制の観点からは限定する必要はなく、本開示の切断手法で得られる下限を記したものである。
【0090】
また、せん断面比率をこのような範囲に制御することで、端面の鉛直方向の材料の塑性流動が抑制される。この結果、ダレ、バリ、かえりも小さく抑えることができ、高い寸法精度の端面形状の鋼板とすることができる。このような鋼板では、切断以降の搬送工程、圧延工程、焼鈍工程、鋼板巻き取り工程などにおいて、搬送トラブル、巻き取り形状不良を防止することができる。また、自動車メーカでのプレス工程においても、プレス部品の寸法精度不良を抑制することができる。
【0091】
ここで、切断面のせん断面の面積率は、図4に示すように、切断面を板厚の2~2.5倍の範囲の領域が観察できる倍率でSEM観察し、圧延方向における合計長さが100mmとなる長さを観察して行う。観察用のサンプルは、分割して採取してよいが、圧延方向に150mmを超えない長さの範囲から採取する。せん断面の面積率は、測定した、せん断面の合計面積をせん断面と破断面の合計面積で除した値とする。
なお、図4(a)は、鋼板への直接塗布がない従来例の場合であり、P1はせん断面と破断面との境界の中心線を、P2は、P1の位置を、「板厚×4%」だけ破断面側にシフトした線である。また、図4(b)は本開示に基づき、鋼板に塗布した場合の例である。
【0092】
ここで、通常の抜き型によるブランク加工、シャーによる切断、打ち抜きポンチによるピアス穴加工の場合では、切断刃と鋼板のなす垂直角が0~2度程度である。これに対し、本開示のような回転刃2による切断においては、ある曲率の回転刃2で鋼板1を挟み込む機構であるので、一般に当該角度が上記より大きくなる。本開示においては、上記の通り当該角度を3度以上13度以下に制御することが望ましく、その結果、図4の(b)および図5に矢印と破線にて示すように、切断破面の破断面に切断時の角度に対応したかすかな縞模様が互いに平行に現れる場合がある。本開示において、この破断面に生じる縞模様の発生は許容され、縞模様の方向と鋼板厚さ方向の側面視でのなす角は、3度以上13度以下である。縞模様の方向と鋼板厚さ方向の側面視でのなす角は、せん断面の面積率の測定と同様のSEMを用いた方法で計測することができる。
【0093】
[せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数]
第1の切断面での、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数は、5個/100mm以下とする。せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数は、せん断面の、当該せん断面と破断面との境界での乱れ具合に相当する。
ここで、潤滑油を鋼板に直接塗布せず刃に塗布する場合は、前述の通り刃先で油切れを生じやすく、刃が欠けやすい。また、鋼板と回転刃の接触面圧が高くなることで切断された鋼板の新生面の一部が金型に凝着する現象が起きやすい。このような刃欠けや凝着が生じると、切断端面のせん断面と破断面の境界線が波状の形状になる(図4(a)参照)。また、波状の形状となった場合には、特にその部分から鉄粉の剥脱が生じやすくなり、押し疵の発生頻度を増加させる。
【0094】
一方、切断端面のせん断面と破断面の境界における凸部の存在個数を5個/100mm以下とする(図4(b)、図5参照)ことで、押し疵の発生頻度を大幅に抑制できる。
また、かかる境界線が波状の領域では、局所的に大きなダレ、バリ、カエリが生じやすい。この結果、そのような領域を有するコイル材では搬送トラブルや、自動車メーカでのプレス工程において、プレス部品の寸法精度不良を生じやすい。凸部の存在個数を上記範囲に制御したコイル材では、これらの課題を解決することができる。
【0095】
凸部の個数は、SEMを用いてせん断面比率の測定と同様の倍率、観察長で測定を行う。各観察視野で、せん断面と破断面の境界線を直線で描画し、境界線より板厚の4%以上破断面側に張り出した、せん断面の個数を凸部として計測する。すなわち、凸部とは、板厚の4%以上破断面側に張り出した張り出し形状からなる。
境界線の位置は、せん断面の上端部とほぼ平行になる線を設け、その線より下に位置する、せん断面の面積と、その線より上に位置する破断面の面積が等しくなるように線の高さを設定する。凸部の個数は、凸部の合計個数を合計観察長で除した値とする。
【0096】
第1の切断面で、切断端面のせん断面と破断面の境界における凸部の存在個数を5個/100mm以下に制御することは、本開示の切断方法を適用することで実現可能である。例えば、潤滑油を、エッジ部のトリム前の鋼板に直接0.900g/m以上の塗油密度(1.00mL/mの塗油密度に対応)で塗布し、回転刃2のクリアランスと、回転刃2の上刃と鋼板1が接触する時の接触角度を調整することが好ましい。回転刃2のクリアランスが小さいと、2次せん断面が形成されて凸部の個数が増大する。クリアランスが大きいとせん断面比率が増大して工具の損耗が顕著になり、切断長が増加すると刃欠けが高い頻度で発生するようになり、凸部の個数が増大する。回転刃2と鋼板1の接触角度が小さいと、同時に切断する範囲が広範囲化して破面形態が安定しにくい。一方、接触角が大きいと、曲げ変形荷重が大きく重畳して刃先に大きな荷重が加わり、刃欠けが生じやすくなる。このため凸部の個数が増大する。
【0097】
[切断面から5mmまでの領域の塗油量]
前述した通り、本開示を適用する場合、回転刃2の周辺領域(切断される領域近傍)のみに潤滑油を塗布することで、効果的に刃欠けを抑制できる。したがって、優れた脱脂性を確保する観点から、エッジ部のみに潤滑油を多く塗布して切断して製造した鋼板が好ましい。また、第1の切断面付近の油の塗布量を鋼板幅方向中央部より多く残存させることで、切断以降における、鋼板1のエッジ部分で鉄粉が剥脱して飛散することを、より効果的に防止できる。したがって、鋼板1の切断端面のうち、第1の切断面の端面から、鋼板幅中央方向へ5mm内側までの領域の塗油量が、圧延鋼板幅中央位置の塗油量より0.2g/m以上多くすることが好ましい。ここで、塗油量は片面あたりの付着量を表す。
【0098】
上記の塗油量の制御は、鋼板表裏面の少なくとも片側面で実施するのが好ましい。刃欠けの発生に対する影響は、上刃側の鋼板面、すなわち、上面であり、せん断面側の鋼板面が特に大きいので、上刃側の鋼板面において、エッジ部の塗油量を多くすることが好ましい。刃欠けを特に安定して抑制する観点からは、上刃側と下刃側の両鋼板面でエッジ部の塗油量を多くすることが好ましい。ただし、脱脂工程での薬液交換頻度を削減する観点からは、影響の小さい下刃側の鋼板面への付加的な塗油は行わず、上刃側の鋼板面のみの塗油量を多くすることができる。
【0099】
一般に、鋼板1の普通塗油の上限は2.5g/m程度である。第1の切断面位置の端面から5mmまでの領域の鋼板表面の塗油量は、2.7g/m以上とすることが好ましい。ここで、塗油量は片面あたりの付着量を表す。上記の塗油量の制御は、鋼板表裏面の少なくとも片側面で実施するのが好ましく、せん断面側の鋼板面において塗油量を前記範囲に制御することが好ましい。
更に、刃欠け抑制効果をより一層享受する観点からは、切断時において、7.24mL/m以上の潤滑油の噴霧量とすることが好ましい。これは、6.5g/mの塗油量に対応する。したがって、第1の切断面から5mmまでの領域の塗油量は6.5g/m以上とすることが一層望ましい。ここで、塗油量は片面あたりの付着量を表す。上記の塗油量の制御は、鋼板表裏面の少なくとも片側面で実施するのが好ましく、せん断面側の鋼板面において塗油量を前記範囲に制御することが好ましい。
【0100】
一方で、過剰塗油の場合、エッジ部の油が落下してライン機器に悪影響を及ぼす懸念がある。このため、第1の切断面から5mmまでの領域の塗油量は27g/m未満(30mL/m未満に対応)とすることが好ましい。また、自動車用鋼板で必要とされる優れた脱脂性を確保する観点からは、第1の切断面から5mmまでの領域の塗油量は9g/m以下(10mL/m以下に対応)とすることが望ましい。脱脂時間をより削減する観点からは、第1の切断面から5mmまでの領域の塗油量は4.5mL/m以下(5mL/m以下に対応)とすることがさらに好ましい。ここで、油の密度は0.9g/cmである。
【0101】
圧延鋼板幅中央位置の塗油量の上限はおよそ2.5g/mであるので、エッジの塗油量が上記の範囲をとするために、第1の切断面の端面から、鋼板幅中央方向へ5mm内側までの領域の塗油量を圧延鋼板幅中央位置の塗油量より増加させる量は、24.5g/m未満であることが望ましく、6.5g/m以下であることがさらに望ましく、2.0/m以下であることがさらに望ましい。
ここで、塗油量は、切断端面と鋼板幅中央のそれぞれから幅5mm、長さ200mmのサンプルを6枚採取し、アルカリ脱脂の前後でのそれぞれの重量変化を測定して算出した。ブランク材においてサンプルが十分な量を確保できない場合は、膜厚を測定し、油の密度を0.9g/cmとして単位面積あたりの付着重量に換算することができる。
【0102】
(作用)
本実施形態では、トリム前の鋼板1に潤滑油を直接塗布する(付着させる)ことで、切断位置での油の供給不足を解消する。これによって、本実施形態では、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制して、仮に回転刃を高速回転させて切断を行う必要があっても、鋼板製造の歩留まりが向上する。
例えば、鋼板1の表裏両面1a、1bに対し連続的に塗油できるような噴霧装置3をトリマーの前に設置する。そして、この噴霧装置3を用いて切断前の鋼板1の切断される位置に塗油することで、切断位置での油浸透不足を解消できる。このため、切断対象の鋼板1を高張力鋼板1としても、一対の回転刃2A、2Bを構成する上刃及び下刃共に連続的にかつムラなく十分に塗油できた。このため、油の浸透不足は解消され、刃欠けは抑制される。
【0103】
また、本実施形態では、回転刃に潤滑油を供給する場合に比べて、鋼板に付与する潤滑油の量を抑えることが出来る。このため、製造した鋼板での錆発生を、回転する回転刃に潤滑油を供給する場合に比べて抑えることができる。
更に、押さえロール7で油を押さえることで、より安定して切断位置に対し油を供給可能となる。
【0104】
同様に、図3に示すような、油滴下装置20によってトリム前の鋼板1の端部に塗油することでも、切断位置での油浸透不足を解消できる。このため、切断対象の鋼板1を高張力鋼板1としても、一対の回転刃2A、2Bを構成する上刃及び下刃共に連続的にかつムラなく十分に塗油できたため、油の浸透不足は解消され、刃欠けは抑制された。
ここで、潤滑油の噴霧量や滴下量は、鋼板の搬送速度に応じて、鋼板1の表裏両面とも潤滑油が連続的にかつムラなく塗布(付着)できるように、供給エア圧や油流量、油消費量を設定することが好ましい。
【0105】
また、本開示の切断方法で形成された第1の切断面を有する圧延鋼板、コイル材、及びブランク材では、平滑な端面となる第1の切断面を有する。このため、切断後の鉄粉の剥奪が従来よりも抑制されて製造されるため、鉄粉剥奪による押し疵の発生が抑制することが可能となる。つまり、品質の良い圧延鋼板、コイル材、及びブランク材を提供可能となる。
【0106】
(実施例)
次に、本実施形態に基づく実施例について説明する。
「第1の実施例」
第1の実施例では、切断対象の鋼板1を、溶融亜鉛鍍金鋼板(引張強度1180MPaの板厚1.2mm)として、トリマー設備でのノートリム材(トリム未実施材)の発生状況について実験を行った。
トリムの条件として、次の条件で実行した。
・鋼板1の搬送速度:最大230[mpm]
・板端部のトリム代:10~20[mm]
【0107】
<実施例1>
実施例1では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:230[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から40[mm]、上面のみ
・油使用量:4.0[L/hr](塗油密度:7.25[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
【0108】
<実施例2>
実施例2では、潤滑油付着装置として上記の油滴下装置20を用いた(図3参照)。
油滴下装置20の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:80[mpm]
・塗油範囲:鋼板巾方向の端面から40mm
・油使用量:0.8[L/hr](塗油密度:4.15[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
【0109】
<実施例3>
実施例3では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:60[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から40[mm]、上面のみ
・油使用量:4.0[L/hr](塗油密度:14.0[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・油の水分含有量:700ppm
ここで、実施例3の方法で製造した鋼板を巻いてコイル材とし、100日間倉庫に保管した後、潤滑油付着領域での錆発生の有無を確認したが、錆は認められなかった。
100日間としたのは、コイル材を自動車メーカなどのメーカにおいて、鋼板をプレス成形するまでの保管期間を想定したものである。
【0110】
<実施例4>
実施例4では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:40[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から11[mm]、上下面
・油使用量:片面あたり0.05[L/hr]、両面で0.1[L/hr]
(塗油密度:1.88[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・油の水分含有量:700ppm
ここで、実施例4の方法で製造した鋼板を巻いてコイル材とし、100日間倉庫に保管した後、潤滑油付着領域での錆発生の有無を確認したが、錆は認められなかった。
【0111】
<実施例5>
実施例5では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:80[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から80[mm]、上面のみ
・油使用量:11.1[L/hr](塗油密度:29.0[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・油種:NOX-RUST550(日本パーカライジング株式会社製)
・油の粘度:17.0mm/s
【0112】
<実施例6>
実施例5では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:80[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から15[mm]、上下面
・油使用量:片面あたり0.58[L/hr]、両面で1.16[L/hr] (塗油密度:8.00[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・油種:NOX-RUST550(日本パーカライジング株式会社製)
・油の粘度:17.0mm/s(潤滑油の液温が40℃)
・油噴霧後のミストの平均粒径:5.0μm
・油が鋼板に付着してから切断までの保持時間:1秒
【0113】
<比較例1>
比較例1では、潤滑油付着装置を使用しなかった。代わりに、一対の回転刃2の両方に対し、フェルト9によって潤滑油を給油した(フェルト9の配置位置は、図1を参照)。
比較例1では、鋼板の搬送速度を60mpm、回転刃に対する潤滑油の供給量を、上刃と下刃の合計で4.0L/hrとした。塗布幅を上下の刃それぞれに対して12mm(塗油密度:46.3[mL/m])
【0114】
<評価>
評価は、ノートリム材によるアップ落ち発生確率の改善で評価した。
アップ落ち発生確率は、適用材のトリム材装入量(製造したコイル材5~10本の全重量)のうち、刃欠けによりノートリム材となりアップ落ち(不良材と判定)した量(不良コイル材の全重量)の割合である。
評価結果は、次の通りである。
比較例1(フェルト9のみでの塗油時)…8.2%
実施例1(油噴霧時)…0.0%
実施例2(油滴下時)…7.1%
実施例3(油噴霧時)…0.0%
実施例4(油噴霧時)…0.0%
実施例5(油噴霧時)…0.0%
実施例6(油噴霧時)…0.0%
【0115】
この評価から分かるように、本開示に基づく実施例1~6では、比較例1に比べ、トリマーの刃欠けの頻度を抑制できた。この結果、本開示では、鋼板製造の歩留まりが向上できることが分かった。
ここで、実施例2が、実施例1、3~6に比べ、アップ落ち発生確率が悪かった原因としては、以下2点が考えられる。
すなわち、(1)油滴下装置20は滴下であるため表面1a、1bのみしか塗油できず、裏面(下刃)での刃欠けは減らなかった。(2)また、滴下であるため連続的に塗布(付着)ができていなかったため未塗油部分で刃に負荷が掛かり、表面1a、1b(上刃)での刃欠け頻度は著しく減ったがゼロにはならなかった。
【0116】
「第2の実施例」
次に第2の実施例について説明する。
<比較例2>
比較例2では、鋼板として、以下を用いた。
・鋼板:TS1020MPa、板厚1.8mm
組成成分:
C:0.09%、Si:0.60%、Mn:2.50%、P:0.012%、S:0.0013%、sol.Al:0.045%、N:0.0025%、Nb:0.040%、Cr:0.550%、Cu:0.006%、Mo:0.010%、Ni:0.010%、Ti:0.025%、B:0.0016%、残部Fe及び不可避的不純物
【0117】
比較例2では、潤滑油付着装置を使用せず、一対の回転刃2の両方に対し、フェルト9によって直接に潤滑油を塗布して給油した。
比較例2の実験条件は次の通りである。
・鋼板の搬送速度:180[mpm]
・回転刃への潤滑油の供給量:上刃と下刃の合計で6.0[L/hr]
・塗布幅:上下の刃それぞれに対して12mm(塗油密度:23[mL/m])
・鋼板幅中央部での塗油密度:1.5[g/m
・回転刃径:φ300mm
・回転刃のクリアランス:鋼板板厚の12%
・回転刃のオーバーラップ量:0.3mm
・上刃と鋼板の垂直方向接触角:11度
・回転刃の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角:搬送後方側に0.15度
・切断位置:エッジから12mm
【0118】
<実施例7>
実施例7では、鋼板として、以下を用いた。
・鋼板:TS1020MPa、板厚2.0mm
組成成分:
C:0.09%、Si:0.60%、Mn:2.50%、P:0.012%、S:0.0012%、sol.Al:0.044%、N:0.0026%、 Nb:0.040%、Cr:0.550%、Cu:0.006%、Mo:0.010%、Ni:0.010%、Ti:0.025%、B:0.0016%、残部Fe及び不可避的不純物
また、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
【0119】
実施例7では、噴霧装置3の条件は次のように設定し、トリム前に潤滑油を塗布した。
・鋼板の搬送速度:230[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から20[mm]、上面のみ
・油使用量:2.0[L/hr](塗油密度:7.25[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・鋼板幅中央部での塗油密度:1.5[g/m
・エッジ5mmの範囲の塗油量
:上面4.9[g/m]下面1.5[g/m
トリム後に上面に塗布した潤滑油の一部(1.6g/m)を除去
・潤滑油噴霧領域:両エッジで実施。
全長900mに対して、先端150mと尾端150mはエッジ部への噴霧は無し。
(中央部の塗油量と同じ)それ以外噴霧実施。
・回転刃径:φ300mm
・回転刃のクリアランス:鋼板板厚の9%
・回転刃のオーバーラップ量:0.3mm
・上刃と鋼板の垂直方向接触角:11度
・回転刃の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角:搬送後方側に0.15度
・切断位置:エッジから10mm
【0120】
<実施例8>
実施例8では、鋼板として、以下を用いた。
・鋼板:TS1220MPa、板厚1.2mm
組成成分:
C:0.12%、Si:0.45%、Mn:2.50%、P:0.008%、S:0.0012%、sol.Al:0.030%、N:0.0020%、Nb:0.040%、Cr:0.400%、Cu:0.010%、Mo:0.010%、Ni:0.010%、Ti:0.017%、B:0.0012%、残部Fe及び不可避的不純物
また、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
【0121】
実施例8では、噴霧装置3の条件は次のように設定し、トリム前に潤滑油を塗布した。
・鋼板の搬送速度:230[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から20[mm]、上面のみ
・油使用量:0.9[L/hr](塗油密度:2.8[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・鋼板幅中央部での塗油量:1.5[g/m
・エッジ5mmの範囲の塗油量
:上面2.5[g/m]、下面1.5[g/m
・潤滑油噴霧領域:全長、上面、両エッジで実施。
・回転刃径:φ300mm
・回転刃のクリアランス:鋼板板厚の9%
・回転刃のオーバーラップ量:0mm
・上刃と鋼板の垂直方向接触角:7度
・回転刃の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角:搬送後方側に0.09度
・切断位置:エッジから10mm
【0122】
<実施例9>
実施例9では、鋼板として、以下を用いた。
・鋼板:TS1480MPa、板厚1.4mm
組成成分:
C:0.20%、Si:0.95%、Mn:3.20%、P:0.008%、S:0.0009%、sol.Al:0.025%、N:0.0020%、 Nb:0.013%、Cr:0.050%、Cu:0.150%、Mo:0.100%、Ni:0.080%、Ti:0.012%、B:0.0012%、Sb:0.005%、残部Fe及び不可避的不純物
また、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
【0123】
実施例9では、噴霧装置3の条件は次のように設定し、トリム前に潤滑油を塗布した。
・鋼板の搬送速度:115[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から40[mm]、上下面
・油使用量:片面あたり3.1[L/hr]、両面で6.2[L/hr]
(塗油密度:11.2[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・鋼板幅中央部での塗油量:1.5[g/m
・エッジ5mmの範囲の塗油量:3.8[g/m2]
トリム後に塗布した潤滑油の一部を除去。
・潤滑油噴霧領域:全長、上下面、両エッジで実施。
・回転刃径:φ300mm
・回転刃のクリアランス:鋼板板厚の9%
・回転刃のオーバーラップ量:0.1mm
・上刃と鋼板の垂直方向接触角:8度
・回転刃の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角:搬送後方側に0.20度
・切断位置:エッジから20mm
【0124】
<実施例10>
実施例10では、鋼板として、以下を用いた。
・鋼板:TS1220MPa、板厚2.0mm
組成成分:
C:0.12%、Si:0.45%、Mn:2.50%、P:0.008%、S:0.0012%、sol.Al:0.030%、N:0.0020%、Nb:0.040%、Cr:0.400%、Cu:0.010%、Mo:0.010%、Ni:0.010%、Ti:0.017%、B:0.0012%、残部Fe及び不可避的不純物
また、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(図1参照)。
【0125】
実施例10では、噴霧装置3の条件は次のように設定し、トリム前に潤滑油を塗布した。
・鋼板の搬送速度:230[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から20[mm]、上下面
・油使用量:片面あたり0.8[L/hr]、両面で1.6[L/hr]
(塗油密度:2.8[mL/m])
・供給エア圧:0.4~0.6[MPa]
・鋼板幅中央部での塗油量:1.5[g/m
・エッジ5mmの範囲の塗油量:2.5[g/m2]
・潤滑油噴霧領域:全長、上下面、両エッジで実施。
・回転刃径:φ300mm
・回転刃のクリアランス:鋼板板厚の4%
・回転刃のオーバーラップ量:2.5mm
・上刃と鋼板の垂直方向接触角:14度
・回転刃の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角:搬送後方側に0度
・切断位置:エッジから10mm
【0126】
<評価>
評価は、同一の製造条件でコイル材(品種:GA)をCGLにて20本通板して全コイルで全長両エッジのトリムを行った後に軟鋼を約500トン通板した時の軟鋼における押し疵(炉内ピックアップを除く異物押し込み要因)の発生率を評価した。押し疵の発生率は、軟鋼の通板コイル材のうち、押し疵が認められ、除去されたコイル材部位の重量割合である。なお、押し疵部を除去した後の1本あたりのコイルの重量が1.5トンに満たないコイルの部位は、製品重量として不十分であるので、不合格対象とした。また、通板コイル材の長手中央部でせん断面比率、凸部の発生頻度を評価した。
【0127】
比較例2と実施例7の鋼板について、SEM観察した例を図4に示す。図4(a)が比較例2に対応し、図4(b)が実施例7に対応する。
図4から分かるように、潤滑油をフェルトでトリム刃のみに塗布した鋼板では、せん断面比率が大きく、せん断面とは断面の境界が波状に入り組んだ形状である(図4(a))が、潤滑油を鋼板に直接塗布した鋼板では、せん断面比率が小さく、せん断面と破断面の境界が著しく直線的になっている(図4(b))。
各鋼板の評価結果を表1に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
本開示に基づく実施例7~9では、せん断面比率、凸部の発生頻度が発明範囲にあり、押し疵の発生率も1.0%以下に抑えられている。一方、潤滑油の塗布を鋼板に直接行っていない比較例2では、クリアランス、上刃と鋼板の垂直方向接触角、回転刃の回転方向と鋼板の搬送方向のなす角が適正でない。
なお、実施例10では、本開示の切断方法を使用しているが、鋼板としては、せん断面比率、凸部の発生頻度が発明範囲外であり、押し疵発生率が1.0%を超えている。ただし、実施例10は、比較例2に比べて、せん断面比率、凸部の発生頻度が小さい。
このように、本開示の切断方法で第1の切断面が形成された鋼板は、従来のように回転刃に直接に潤滑油を塗布する場合に比べて、切断後の鉄粉の剥落が抑制されて、従来よりも高品質の鋼板を提供できることが分かった。
また、実施例7、9の鋼板については、自動車部品のプレス前の脱脂ラインでアルカリ脱脂処理を行い、脱脂不良が生じないことを確認した。
【0130】
(その他)
本開示は、以下のような構成も取ることができる。
(1)本実施形態は、鋼板のエッジ部を回転刃で切断する処理を有する鋼板の製造方法であって、上記鋼板を上記回転刃で切断する処理において、切断前の鋼板の表面における、上記回転刃で切断する位置に潤滑油を付着する。
この構成によれば、回転刃の遠心力で、仮に回転刃に付着した潤滑油が飛んでしまっても、鋼板の表面に潤滑油を付着することで、切断位置における油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制して、鋼板製造の歩留まりが向上する。
【0131】
(2)本実施形態では、上記回転刃は、鋼板を挟んで対向可能な一対の回転刃を有し、その一対の回転刃で鋼板を挟み込んで切断する構成となっており、上記潤滑油の付着は、上記鋼板の表裏両面のうちの、少なくとも一方の面に対して付着を行う。潤滑油の付着は、上記鋼板の表裏両面ともに実行することが好ましい。
この構成によれば、一対の回転刃を用いることで、より安定して鋼板の切断が可能となる。
【0132】
(3)上記潤滑油の付着は、例えば、鋼板の表面に向けて潤滑油を噴霧することで行う。
この構成によれば、鋼板の表面に対し、より均一に潤滑油を付着させることが可能となる。
上記潤滑油は、噴霧後のミストの平均直径が1μm以上2000μm以下であることが好ましい。
【0133】
(4)上記潤滑油の付着は、例えば、鋼板の表面に向けて潤滑油を滴下することで行う。
この構成によれば、鋼板の表面に対し潤滑油を付着させることが可能となる。
ここで、鋼板の上面側に潤滑油の付着を付着する付着方法と、鋼板の下面側に潤滑油の付着を付着する付着方法とは異なっていても良い。
例えば、上記潤滑油の付着は、鋼板の上側の面に向けて潤滑油を滴下し、鋼板の下側の面に潤滑油を噴霧することで行う、構成でも良い。
【0134】
(5)上記潤滑油の付着量を、30mL/m未満となるように調整する。
(6)上記潤滑油は、水分含有量が3000ppm以下である。
(7)上記潤滑油は、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、粘度が3mm/s以上、130mm/s以下である。
(8)上記回転刃と上記潤滑油の付着位置との間に、上記鋼板表面に付着させた上記潤滑油の膜厚を均一化する膜厚均一化器具を備える。
【0135】
(9)本実施形態では、上記回転刃と上記潤滑油の付着位置との間に上記鋼板を把持する一対の押さえロールを備え、上記一対の押さえロールで把持する鋼板1の領域は、少なくとも上記回転刃で切断される鋼板1の位置を含む。
この構成によれば、鋼板に付着させた潤滑油が押さえロールで引き伸ばされる。この結果、付着した潤滑油が、鋼板搬送方向に沿ってより均一化する。
(10)本実施形態では、上記鋼板を上記回転刃で切断する処理は、鋼板を搬送中に行われ、上記回転刃は、鋼板の搬送方向に対して順方向に回転して切断を行う。
この構成によれば、回転刃を逆方向に回転させる場合に比べて、回転刃に対する負荷を小さく抑えられる。
【0136】
(11)切断対象の鋼板は、高張力鋼板であり、且つ、例えば鋼板の板厚が0.4mm以上であってもよい。
本実施形態の鋼板の製造方法によれば、切断対象の鋼板は、高張力鋼板であり、且つ、鋼板の板厚が0.4mm以上であっても、歩留まり良く連続して切断が可能となる。
(12)本実施形態は、搬送されてきた鋼板のエッジ部を回転刃で切断するトリミング装置であって、回転刃よりも上流に、上記回転刃で切断する鋼板の位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える。
この構成によれば、回転刃の遠心力で、仮に回転刃に付着した潤滑油が飛んでしまっても、鋼板の表面に潤滑油を付着することで、切断位置における油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制可能となる。
(13)本実施形態は、上記のトリミング装置を備える鋼板1の製造装置である。
この構成によれば、トリマーの刃欠けの頻度を抑制されて、鋼板製造の歩留まりが向上する。
【0137】
(14)上記鋼板の組成成分は、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:0.50%以上3.50%以下、Al:0.001%以上1.000%以下、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、N:0.0200%以下を含み、更にB:0.0050%以下、Nb:0.100%以下、Ti:0.200%以下、Cr:1.000%以下、Mo:1.00%以下、Cu:1.000%以下、Ni:1.000%以下、Sb:0.200%以下、Zr:0.100%以下、V:0.200%以下、W:0.100%以下、Sn:0.200%以下、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
【0138】
(15)上記回転刃は、鋼板を挟んで対向可能な一対の回転刃を有し、その一対の回転刃で鋼板を挟み込んで切断する構成となっており、上記一対の回転刃の上刃と下刃のクリアランスが5%以上19%以下であり、上記回転刃の回転方向における上刃と上記鋼板の垂直方向接触角が、3度以上13度以下であり、上記回転刃の回転方向と上記鋼板の搬送方向とのなす角が、搬送後方側に開き角となる方向に、0.01度以上0.5度以下である。
(16)搬送されてきた鋼板のエッジ部を回転刃で切断するトリミング装置であって、回転刃よりも上流に、上記回転刃で切断する鋼板の位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える。
(17)本開示の鋼板のトリミング装置を備える鋼板の製造装置。
【0139】
(18)幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、上記鋼板の引張強度TSが、590MPa以上980MPa未満であり、上記切断面のうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が式(1)を満たし、上記第1の切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である。
19-0.0146×TS≦せん断面比率≦48-0.0300×TS
・・・式(1)
【0140】
(19)幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、上記鋼板の引張強度TSが、980MPa以上1180MPa未満であり、上記切断面のうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が式(2)を満たし、上記第1の切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である。
10-0.00526×TS≦せん断面比率≦36-0.0180×TS
・・・式(2)
【0141】
(20)幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、上記鋼板の引張強度TSが、1180MPa以上1320MPa未満であり、上記切断面のうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が式(3)を満たし、上記切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である。
10-0.00526×TS≦せん断面比率≦ 27-0.0108×TS
・・・式(3)
【0142】
(21)幅方向両端の少なくとも一方の端面が切断面からなる圧延鋼板であって、上記鋼板の引張強度TSが、1320MPa以上1850MPa未満であり、上記切断面ののうちの鋼板長手方向の少なくとも一部の切断面である第1の切断面は、せん断面比率(%)が、式(4)を満たし、上記第1の切断面の、せん断面と破断面の境界における凸部の存在個数が、5個/100mm以下である。
3 ≦せん断面比率 ≦16-0.0254×TS・・・式(4)
【0143】
(22)板厚方向で対向する鋼板表面のうちの、少なくとも一方の鋼板表面の塗油量について、上記第1の切断面で構成される幅方向端面から5mmまでの領域の塗油量が、幅方向中央の位置での塗油量より、0.2g/m以上多い。
(23)上記第1の切断面で構成される幅方向端面から5mmまでの領域の鋼板表面の塗油量が、2.7g/m以上である。
(24)上記第1の切断面で構成される幅方向端面から5mmまでの領域の鋼板表面の塗油量が6.5g/m以上である。
【0144】
(25)上記鋼板の組成成分は、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:0.50%以上3.50%以下、Al:0.001%以上1.000%以下、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、N:0.0200%以下を含み、更にB:0.0050%以下、Nb:0.100%以下、Ti:0.200%以下、Cr:1.000%以下、Mo:1.00%以下、Cu:1.000%以下、Ni:1.000%以下、Sb:0.200%以下、Zr:0.100%以下、V:0.200%以下、W:0.100%以下、Sn:0.200%以下、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
【0145】
(26)上記鋼板の組成成分は、質量%で、C:0.10%以上0.35%以下、Mn:1.00%以上3.50%以下である。
(27)上記鋼板の組成成分は、質量%で、Mn:2.2%以上である。
(28)本開示の圧延鋼板をロール状に巻いたコイル材。
(29)本開示の圧延鋼板を加工してなるプレス用のブランク材であって、少なくとも一辺の端面が、上記第1の切断面からなる。
【符号の説明】
【0146】
1 鋼板
1a、1b 鋼板表面
2 回転刃
2A、2B 一対の回転刃
3 噴霧装置(潤滑油付着装置)
7 押さえロール
9 フェルト
20 油滴下装置(潤滑油付着装置)
図1
図2
図3
図4
図5