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特開2023-133565カチオン性大環状ペプチドの全身送達性、忍容性、および有効性を向上させる組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133565
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】カチオン性大環状ペプチドの全身送達性、忍容性、および有効性を向上させる組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20230914BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230914BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A61K38/12
A61K38/10
A61P29/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P1/04
A61P35/00
A61P3/10
A61K9/08
A61K47/10
C07K7/08 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127202
(22)【出願日】2023-08-03
(62)【分割の表示】P 2021520316の分割
【原出願日】2019-10-09
(31)【優先権主張番号】62/743,243
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522188026
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF SOUTHERN CALIFORNIA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】トラン、ダット
(72)【発明者】
【氏名】シャール、ジャスティン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】トラン、パティ
(72)【発明者】
【氏名】セルステッド、マイケル イー.
(57)【要約】
【課題】組成物は、非経口投与に大いに好適なθ-ディフェンシンおよび/またはθ-ディフェンシン類似体の製剤のために提供される。
【解決手段】そのような製剤は、プロピレングリコールを含むわずかに酸性の緩衝液中のθ-ディフェンシンおよび/またはθ-ディフェンシン類似体を提供する。驚くべきことに、発明者らは、そのような製剤が、そのように提供されたθ-ディフェンシンおよび/またはθ-ディフェンシン類似体の生物学的利用能を従来の等張性生理食塩水溶液に比べて少なくとも10倍増大させること、および、そのような製剤が動物モデルに比べてヒト対象において生物学的利用能を劇的に改善させることを見出した。発明者らはまた、そのような製剤は、有利には高ペプチド濃度において低粘度を示し、注入量を減らし、簡単な濾過による滅菌を可能にすることを見出した。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の注射可能な製剤を提供するとともに前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の改善された生物学的利用能を提供するよう構成された、慢性炎症症状の治療のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、0.5%~1.5%v/vプロピレングリコールであって、プロピレングリコールの濃度は前記医薬組成物に105mPa・s(105センチポアズ)までの粘度を提供するように選択された前記プロピレングリコールを含む水性緩衝液中に12.5mgmL-1までの濃度で前記θ-ディフェンシンをまたは天然のθ-ディフェンシンペプチド配列と40%またはそれより高い配列同一性を有する環状ペプチドである前記θ-ディフェンシン類似体を含むものであり、前記医薬組成物はpH6.0~7.0を有し、非経口投与のために製剤される、慢性炎症症状の治療のための医薬組成物。
【請求項2】
前記濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同様の濃度の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて、前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力が少なくとも10倍増大するように選択される請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同様の濃度の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて、前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力が少なくとも40倍増大するように選択される請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記慢性炎症症状は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患からなる群から選択される請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
非経口投与は、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射からなる群から選択される請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記θ-ディフェンシン類似体は、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、および環状テトラデカペプチドからなる群から選択される請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
θ-ディフェンシンをまたは天然のθ-ディフェンシンペプチド配列と40%またはそれより高い配列同一性を有する環状ペプチドであるθ-ディフェンシン類似体を含み、前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の注射可能な製剤を提供するとともに前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の改善された生物学的利用能を提供するよう構成された水性調製物の滅菌方法であって、
少なくとも1mgmL-1の濃度の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体と0.5%~1.5%v/vのプロピレングリコールとを含む水性緩衝液中の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を提供することと、
0.2μm以下の孔径を有するフィルタを通して前記水性緩衝液を通過させること
とを含み、
前記プロピレングリコールの濃度は医薬組成物に105mPa・s(105センチポアズ)までの粘度を提供するように選択される、方法。
【請求項9】
前記水性調製物はpH6.0~7.0を有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、10mgmL-1以上で提供される請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、カチオン性ペプチド薬の全身送達性または薬理効果の向上、特に大環状θ-ディフェンシンおよび/またはその類似体の向上である。
【背景技術】
【0002】
以下の記載は、本発明の理解に有用であり得る情報を含む。本明細書に提供される情報のいずれかが先行技術であるか、または現在クレームされている発明に関連していること、または、具体的または黙示的に参照されている任意の刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0003】
炎症は、血管の変化、免疫細胞の動員、および様々な化学的およびペプチドメディエーターの放出を含む、病原体、組織の損傷、および刺激物への曝露への複雑な防御反応である。炎症は、細胞傷害の初期原因の除去および損傷した組織から壊死細胞を排除するのに役立つが、炎症反応は、それ自体有害であり得る。例えば、自己免疫疾患から生じる慢性炎症は、冒されている組織の損傷に寄与し得る。同様に、ウイルス感染または細菌感染などの急性プロセスから生じる炎症は、組織の損傷および敗血症性ショックを生じ得、これは、初期傷害が長引く消散されない炎症を生じた場合、慢性炎症によって悪化される。慢性炎症は、組織の瘢痕、線維症、および機能の喪失にしばしば繋がる。それに加えて、炎症に伴う痛みおよび腫れは、特にそれが慢性症状の結果であるとき、衰弱をもたらし得る。
【0004】
残念なことに、炎症治療のための現在の方法は、多くの欠点を被る。例えば、従来の薬学的アプローチ(例えばステロイドまたは非ステロイド炎症薬での治療)は短期的な緩和を提供するのみであり、それも、しばしば、そのような薬の使用を制限する重大な副作用という犠牲を払っている。より最近では、「生物製剤」(例えば、炎症誘発性サイトカインに対するヒト化モノクローナル抗体)は、炎症によって特徴づけられる特定の慢性症状を治療するために使用されているが、そのようなアプローチは必ず単一の炎症メカニズムのみを標的にし、治療される個人の免疫抑制、または免疫不全状態にさえ繋がり得る。それに加えて、抗体ベースの生物製剤は、比較的大きい体積の流体の静脈内投与を必要とし得、それは訓練された医療関係者のケアの下、一般に注入によって投与される。
【0005】
哺乳類のディフェンシンは、3つの構造的に別個の、異なるサブファミリーを含むカチオン性の、トリジスルフィド含有ペプチドである。αおよびβディフェンシンは、遊離アミノおよびカルボキシル末端アミノ酸のある、29~約60アミノ酸の範囲内の長さの直鎖ペプチドである。α-およびβ-ディフェンシンは類似した三次元トポロジーを有するがジスルフィド結合が異なる(非特許文献1)。対照的に、天然に存在するθ-ディフェンシンは、構造的および機能的の両方でαおよびβディフェンシンとは別個のペプチド骨格環化18アミノ酸ペプチドである。ディフェンシンは、抗菌剤として(非特許文献2)および、炎症の調節によって(非特許文献3)および適応免疫応答の調節によって(非特許文献4)宿主防衛に寄与する。本明細書の全ての刊行物は、個々の刊行物または特許出願が参照により援用されることが具体的かつ個別に示されている場合と同程度に、参照により援用される。援用された参照内の用語の定義または使用が、本明細書に提供されるその用語の定義に矛盾するか、または反する場合、本明細書に提供されるその用語の定義が適用され、参照内のその用語の定義は適用されない。
【0006】
θ-ディフェンシンは旧世界ザル(例えばマカクおよびヒヒ)において発現され、動物において唯一知られている環状タンパク質である(非特許文献5)。基本的なθ-ディフェンシンの骨格構造は2つのノナペプチド前駆体のヘッド・トゥ・テール(head-to-tail)スプライシングによって生成される。アカゲザルにおいて、3つの前駆体遺伝子によってコードされるノナペプチドの選択的バイナリスプライシング(alternate binary splicing)は6つのθ-ディフェンシンアイソフォーム、アカゲザル(rhesus)シータ-ディフェンシンRTD-1~RTD-6(配列番号1~6)を提供する(非特許文献6、非特許文献7)。ヒヒにおいて、選択的ノナペプチドスプライシングは、10個のθ-ディフェンシンアイソフォーム、ヒヒシータディフェンシンBTD-1~BTD-10(配列番号7~16)を生成する(非特許文献8)。θ-ディフェンシンは、これらの種の好中球の顆粒中、および単球中において高レベルで発現される。これらのθ-ディフェンシンはアカゲザル好中球顆粒抽出物の抗菌活性に主要な役割を果たす。RTD-1アイソフォームは、マカクにおいて最も豊富なθ-ディフェンシンであり、アカゲザル好中球のθ-ディフェンシンの全含有量のおおよそ55%を構成する(非特許文献9)。
【0007】
ヒトおよび他の類人猿は、これらの種においてθ-ディフェンシン遺伝子のプレプロコーディング配列内にストップコドン変異が存在することによってθ-ディフェンシンが欠けている(非特許文献10)。旧世界ザルにおけるθ-ディフェンシンの発現がこれらの非ヒト霊長類の免疫応答および炎症反応とヒトのそれらとの違いに関係していることが示唆されている(非特許文献5)。
【0008】
α-、β-、およびθ-ディフェンシンは、当初は広域スペクトル抗菌特性に基づいて特定されたが、その後の研究によって、異なる別個の免疫制御の役割が開示されてきた(非特許文献11)。例えば、いくつかのα-およびβ-ディフェンシンは、T細胞、好中球、樹状細胞および単球に対し走化性をもたらし(非特許文献4、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14)、活性化された樹状細胞、末梢血単核細胞、および上皮細胞から炎症誘発性サイトカインの分泌を誘導する(非特許文献3、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20)。
【0009】
そのような炎症誘発性活性とは対照的に、θ-ディフェンシンはインビトロとインビボの両方で抗炎症特性を有することが最近報告されている。例えば、RTD-1は、多様なToll様受容体(TLR)アゴニストで刺激されたヒト末梢血白血球によるサイトカイン分泌の強力な阻害剤であることが分かった(非特許文献21)。天然に存在するθ-ディフェンシンアイソフォーム(RTD1~6)は、リポ多糖刺激または大腸菌(E.coli)刺激された白血球のTNF減少において様々な効力を有する(非特許文献21)。RTD-1はまた、SARSコロナウイルス感染のマウスモデルにおいて(非特許文献22)、ならびに、大腸菌腹膜炎においておよび多菌性敗血症において(非特許文献21)、TNF-α、IL-1β、およびいくつかのケモカインを含む炎症性サイトカインを減少させることが分かっている。
【0010】
最近、SelstedおよびTran(特許文献1)は、θ-ディフェンシンおよびθ-ディフェンシンコア構造を保持するθ-ディフェンシン類似体は関節リウマチなどの慢性炎症症状の治療において有効であることを示した。しかしながら、これらの小さい環状ペプチドのどの製剤が、皮下投与後の注射部位反応に付随するものを含む潜在的な有害事象を制限するのに十分に低い薬物曝露における治療有効性を達成するために、最適であるか不明である。
【0011】
Jeongらの特許文献2は、水性溶液中の界面活性剤および有機溶媒の存在下でエマルジョンを形成し、その後、投与の前に有機溶媒を除去することによって、いくつかのペプチド薬の薬力学的効果の改善方法を記載している。プロピレングリコールを含む様々なアルコールおよびポリオールは、投与の前に除去される好適な有機溶媒として挙げられている。しかしながら、このアプローチがθ-ディフェンシンなどの小さい、塩基性の、環状ペプチドで有効であるかどうかは明らかではない。
【0012】
特許文献3(Engeludら)および特許文献4(Knudsenら)は、等張性剤として非経口投与のためのペプチド医薬製剤における様々なポリオールの使用を記載している。同様に、特許文献5(Pedersenら)、様々な特定のペプチド薬の投与に利用される機器およびニードルの機能と干渉し得る堆積物の形成を防ぐために、等張性剤として様々な糖類の代わりのプロピレングリコールの使用を記載する。しかしながら、この参考文献には、そのような製剤によって提供される固体残留物の減少以外の影響は全く記載されず、そのような化合物の使用が、そのように調製されたペプチド薬の生物学的利用能または薬力学的効果に何らかの影響をもたらすという証拠または示唆はない。
【0013】
特許文献6(Sonavariaら)は、高濃度(99%まで)の有機溶媒(ポリオールを含む)を含有するペプチド薬のための注射可能な製剤を記載し、それはペプチドの安定性を改善するとして記載されている。しかしながら、そのような高濃度の有機溶媒の注射は、痛みや腫れを含む重大な負の影響に関連する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0157964号明細書
【特許文献2】国際公開第02/064166号
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/084605号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0287221号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0010424号明細書
【特許文献6】国際公開第2016/059593号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】SelstedおよびOuellette、Nat Immunol 6:551-557(2005)
【非特許文献2】Ericksenら、Antimicrob Agents Chemother 49:269-275(2005)
【非特許文献3】Khineら、Blood 107:2936-2942(2006)
【非特許文献4】Chertovら、J Biol Chem 271:2935-2940(1996)
【非特許文献5】Lehrerら、J Biol Chem 287:27014-27019(2012)
【非特許文献6】Tangら、Science 286:498-502(1999)
【非特許文献7】Leonovaら、J Leukoc Biol 70:461-464(2001)
【非特許文献8】Garciaら、Infect Immun 76:5883-5891(2001)
【非特許文献9】Tongaonkarら、J Leukoc Biol 89:283-290(2011)
【非特許文献10】Nguyenら、Peptides 24:1647-1654(2003)
【非特許文献11】Yangら、Annu Rev Immunol 22:181-215(2004)
【非特許文献12】Yangら、Science 286:525-528(1999)
【非特許文献13】Grigatら、J Immunol 179:3958-3965(2007)
【非特許文献14】Soruriら、Eur J Immunol 37:2474-2486(2007)
【非特許文献15】Boniottoら、Antimicrob Agents Chemother 50:1433-1441(2006)
【非特許文献16】Itoら、Tohoku J Exp Med 227:39-48(2012)
【非特許文献17】Yinら、Immunol 11:37(2010)
【非特許文献18】Niyonsabaら、J Immunol 175:1776-1784(2005)
【非特許文献19】Liら、Invest Ophthalmol Vis Sci 50:644-653(2009)
【非特許文献20】Syedaら、J Cell Physiol 214:820-827(2008)
【非特許文献21】Schaalら、PLoS One 7,e51337(2012)
【非特許文献22】Wohlford-Lenaneら、J Virol 83:11385-11390(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、十分な治療効果を達成するのに適した、投与されたディフェンシンの薬力学的効果を提供する方法および組成物が未だ必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の主題は、θ-ディフェンシンおよびθ-ディフェンシン類似体の注射可能な製剤を提供する組成物および方法を提供し、それは従来の等張性生理食塩水溶液に比べて改善された生物学的利用能を提供する。そのような製剤はまた、低粘度を有し、濾過によるスケーラブルな滅菌を可能にする。
【0018】
本発明の概念の一実施形態は、θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体と0.5%~1.5%v/vプロピレングリコールとを含み、かつ、pH5.0~7.0を有する水性溶液としてθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を提供することと、治療を必要とする個体に皮下注射によってその水性溶液を投与することとによって、慢性炎症症状(関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および/または調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患など)を有する個体を治療する方法である。いくつかの実施形態において、当該水性溶液は酢酸塩を含む。当該水性溶液は、通常の生理食塩水中のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の溶液に比べて、θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力または治療効果の増大を提供する。θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬力学的効果は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同様の濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも10倍から40倍増大され得る。θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、50mgmL-1までの濃度で提供され得る。本方法において利用されるθ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド(cyclic icosipeptide)、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、または環状デカペプチドであり得る。好ましい一実施形態において、当該水性溶液は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する。
【0019】
本発明の概念の別の実施形態は、少なくとも1mgmL-1から50mgmL-1(またはそれより多い)の濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体と、0.5%~1.5%v/vのプロピレングリコールとを含む水性緩衝液中の上記θ-ディフェンシンまたはθ-類似体とを提供することと、0.2μm以下の孔径を有するフィルタを介して水性緩衝液を通過させることとによって、水性θ-ディフェンシン調製物を滅菌する方法である。当該水性緩衝液は酢酸塩を含み得、結果として生じるθ-ディフェンシン調製物はpH5.0~7.0を有し得る。
【0020】
本発明の概念の別の実施形態は、慢性炎症症状(関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および/または調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患など)の治療のための医薬組成物であって、医薬組成物は50mgmL-1までのθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体と、0.5%~1.5%v/vでプロピレングリコールとを含み、酢酸塩を含み得る。当該医薬組成物はpH5.0~7.0を有し得、非経口投与時にプロピレングリコールなしに調製された対応する医薬組成物に比べてθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬力学的効果の増大を提供する。θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同一の濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも10倍~40倍に増大する。そのような医薬組成物は皮下注射、筋肉内注射、および/または静脈内注射のために製剤され得る。好適なθ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、または環状デカペプチドであり得る。好ましい一実施形態において、当該医薬組成物は1%v/vプロピレングリコールと20mM酢酸塩とを含み、pH6.0を有する。
【0021】
本発明の概念の別の実施形態は、慢性炎症症状(関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および/または調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患など)の治療のための、50mgmL-1までの濃度で、かつ、0.5%~1.5%v/vでプロピレングリコールを含有する溶液中でのθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の使用法である。当該溶液は、酢酸塩を含み得る。当該溶液は非経口投与のために製剤され、5.0~7.0を有し得、プロピレングリコールなしに調製された対応する量のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて、θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬力学的効果の増大を提供する。θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同様の濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて非経口投与時に少なくとも10倍~40倍に増大され得る。非経口投与の好適なルートは皮下注射、筋肉内注射、および/または静脈内注射を含む。好適なθ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、および/または環状デカペプチドを含む。好ましい一実施形態において当該組成物は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する。
【0022】
本発明の概念の別の実施形態は、慢性炎症症状(関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および/または調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患など)の治療のための有用な組成物の調製のための50mgmL-1までにおけるθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体および0.5%~1.5%v/vでのプロピレングリコールの使用法である。当該溶液は酢酸塩を含み得る。当該組成物は非経口投与のために製剤され、pH5.0~7.0を有し得、プロピレングリコールなしに調製された対応する量のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて、θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬力学的効果の増大を提供する。θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同様の濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて非経口投与時に少なくとも10倍~40倍増大され得る。非経口投与の好適なルートは、皮下注射、筋肉内注射、および/または静脈内注射を含む。好適なθ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、および/または環状デカペプチドを含む。好ましい一実施形態において、当該組成物は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する。
【0023】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様および利点は、同様の数字が同様の構成要素を表す添付の図面の図とともに、好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】関節リウマチの動物モデルにおける生理食塩水中のRTD-1の皮下注射の効果を示す典型的なデータを示す図。
図2】関節リウマチの動物モデルにおける1%(v/v)プロピレングリコールを含有する生理食塩水中のRTD-1の皮下注射の典型的な効果を示す図。
図3】関節リウマチの動物モデルにおける1%(v/v)プロピレングリコールを含有する生理食塩水中または1%(v/v)プロピレングリコールを含有する20mM酢酸Na中のRTD-1の皮下注射の典型的な効果を示す図。
図4A】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の1日目のオスのラットの血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す図。
図4B】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の1日目のメスのラットの血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す図。
図5A】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の13日目のオスのラットの血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す図。
図5B】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の13日目のメスのラットの血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す図。
図6A】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の41日目のオスのラットの血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す図。
図6B】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の41日目のメスのラットの血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す図。
図7A】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の1日目のオスおよびメスのラットのCmax対θ-ディフェンシン用量の直線性研究の結果のグラフを示す図。
図7B】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の41日目のオスおよびメスのラットのCmax対θ-ディフェンシン用量の直線性研究の結果のグラフを示す図。
図8A】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の1日目のオスおよびメスのラットのAUC0-TLast対θ-ディフェンシン用量の直線性研究の結果を示すグラフを示す図。
図8B】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射された研究の41日目のオスおよびメスのラットのAUC0-TLast対θ-ディフェンシン用量の直線性研究の結果を示すグラフを示す図。
図9】本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤が皮下注射されたヒト臨床試験において異なる処理群の経時的な血漿中のθ-ディフェンシン濃度(ng/mL)測定の典型的な結果を示す図。
図10A】ヒト臨床試験で皮下注射された本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤の用量(μg/kg)に対するCmax(ng/mL)の典型的な依存性を示す図。
図10B】ヒト臨床試験で皮下注射された本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤の用量(μg/kg)に対するAUC0-TLastの典型的な依存性を示す図。
図11A】ヒト臨床試験で皮下注射された本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤の総θ-ディフェンシン用量(mg)に対するCmax(ng/mL)の典型的な依存性を示す図。
図11B】ヒト臨床試験で皮下注射された本発明の概念のθ-ディフェンシン製剤の総θ-ディフェンシン用量(mg)に対するAUC0-TLastの典型的な依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の議論は、本発明の主題の多くの例示的実施形態を提供する。各実施形態は、発明の要素のうちの単一の組み合わせを表すが、本発明の主題は、本開示の要素の全ての可能な組み合わせを含むとみなされる。したがって、一実施形態が要素A、B、およびCを備え、第2実施形態が要素BおよびDを備える場合、明示的に開示されていなくても、本発明の主題はまた、A、B、C、またはDの他の残りの組み合わせを含むとみなされる。
【0026】
本発明の主題は、わずかに酸性(例えばpH5~7)水性溶液中の0.5%~1.5%のプロピレングリコールが、驚くべきことに、従来の中性等張性生理食塩水溶液に比べて少なくとも20倍、非経口投与されたθ-ディフェンシンおよび/またはθ-ディフェンシン類似体の前臨床の有効性を増大させることが分かった装置、システム、および方法を提供する。これにより、関節リウマチ、炎症性腸疾患、または糖尿病などの慢性炎症症状、またはヒトにおける調節不全の炎症反応から生じる他の症状の治療に有効な量で、比較的少量(例えば約1mL)のθ-ディフェンシンの便利な皮下投与が可能になる。これらの濃度でのプロピレングリコールの追加は、予期せずに、θ-ディフェンシンの濃縮された(例えば10mgmL-1以上)溶液の粘度を劇的に下げ、濾過による簡単で便利でスケーラブルな滅菌を可能にすることも分かった。さらに、θ-ディフェンシンの製剤の注射部位反応は、等張性生理食塩水が製剤ビヒクルとして使用されたときに観察されたものに比べて著しく減少した。
【0027】
好適なθ-ディフェンシンは、天然のθ-ディフェンシンを発現している哺乳類において見られるこれらのペプチドを含み、いくつかの霊長類種(例えばホモサピエンス)に存在する翻訳されていない遺伝子由来の1つ以上のθ-ディフェンシンを含み得る。本発明の概念のいくつかの実施形態において、1つ以上のθ-ディフェンシンはアカゲザル(Macaca mulatta)において見られるもの、例えばRTD-1(配列番号1)、RTD-2(配列番号2)、RTD-3(配列番号3)、RTD-4(配列番号4)、RTD-5(配列番号5)、および/またはRTD-6(配列番号6)に対応し得る。本発明の概念の他の実施形態において、1つ以上のθ-ディフェンシンは、アヌビスヒヒ(Papio anubis)において見られるもの、例えばBTD-1(配列番号7)、BTD-2(配列番号8)、BTD-3(配列番号9)、BTD-4(配列番号10)、BTD-5(配列番号11)、および/またはBTD-6(配列番号12)、BTD-7(配列番号13)、BTD-8(配列番号14)、BTD-9(配列番号15)、および/またはBTD-10(配列番号16)に対応し得る。
【0028】
本出願内のθ-ディフェンシンを記載し、θ-ディフェンシンを使用する複数の実施形態はθ-ディフェンシン類似体を含んでいる。用語θ-ディフェンシン類似体は、天然のθ-ディフェンシンペプチド配列と約40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより高い配列同一性を有する環状ペプチドを表す。θ-ディフェンシン類似体は、天然のθ-ディフェンシンの中心的な特徴のうちの1、2、3、またはそれ以上を包含し得る。例示的な中心的な特徴は、環状構造、ペプチド内の1、2、3、またはそれ以上のジスルフィド結合の存在(例えば類似体のシステインペア間)、生理学的な条件下の溶液中の場合正電荷を有すること、およびベータプリーツシート二次構造の存在を含む。そのようなθ-ディフェンシン類似体は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または20より多いアミノ酸を含み得、いくつかの実施形態において天然に存在しないアミノ酸を組み込み得る。θ-ディフェンシンの類似体は、1つ以上のL-アミノ酸、1つ以上のD-アミノ酸、および/またはL-アミノ酸およびD-アミノ酸の混合物を含み得る。いくつかの実施形態において、非ペプチド結合はθ-ディフェンシン類似体の隣接するアミノ酸残基間で利用され得る。θ-ディフェンシン類似体は、天然のθ-ディフェンシン配列のアミノ酸の1つ以上の欠損または置換を表し得る。そのような置換は保存的であり得る(例えば置換されたアミノ酸は電荷、疎水性、親水性、および/または立体特性を保持する)。いくつかの実施形態においてθ-ディフェンシン類似体は、例えばポリエチレングリコールおよび/または他の親水性ポリマーなどの非ペプチド部分、細胞受容体標的化部分、および/またはプロセシング/精製を補助する部分のグラフト化または結合を含み得る。RTD-1(配列番号1)に基づいた好適なシータディフェンシン類似体の例は、配列番号17(RTD-1-27)、配列番号18(RTD-1-28)、および配列番号19(RTD-1-29)として提供される。
【0029】
慢性炎症症状(例えば関節リウマチおよび/または糖尿病)の治療において利用されるθ-ディフェンシンおよび/またはθ-ディフェンシン類似体の薬理効果を高めるための組成物および方法が本明細書に提供される。そのような組成物は、弱酸性水性溶液(例えば約pH5~7)中に約0.5%~約1.5%プロピレングリコールを含み、50mgmL-1までの濃度でθ-ディフェンシンの皮下注射に好適である。そのような製剤は、驚くべきことに、従来の生理食塩水溶液中および/またはプロピレングリコールを含まない溶液中の同じまたは同様の濃度で提供されたθ-ディフェンシンに比べて、投与されたθ-ディフェンシンの薬理効果または効力が劇的に(例えば少なくとも10倍より大きい)増大することが分かった。これは以下の図1、2、および3に示される。そのような製剤は、同様の濃度で、従来の通常の生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水、pH7~7.5)中に提供されるθ-ディフェンシンに比べて、粘度が大幅に減少し、濾過による滅菌を可能にすることも分かった。さらに、クレームされた組成物は、等張性生理食塩水ビヒクルと比較して注射部位反応が著しく減少した。
【0030】
図1、2、および3は、動物モデルの関節リウマチのθ-ディフェンシンRTD-1の皮下注射による処理の結果を示し、θ-ディフェンシンは、従来の通常の生理食塩水ビヒクル中または低濃度(1%v/v)のプロピレングリコールを含有する通常の生理食塩水中のいずれかに提供されている。確立されているプリスタン誘導された関節炎を有するラットを毎日、示される用量で通常の生理食塩水中(図1)、または1%プロピレングリコールを含有する生理食塩水溶液中(図2)に製剤されたRTD-1の皮下注射で毎日処理した。通常の生理食塩水希釈液中の最も低用量の有効なRTD-1は1mg/kgであり、最大の明白な効果は3mg/kgであった(図1参照)。ビヒクルに1%プロピレングリコールを含有することで、有効なRTD-1用量が著しく減少し(0.08mg/kgに、図2参照)、0.08mg/kg(試験した最低用量)では、生理食塩水中のRTD-1の3mg/kg用量と同等の(すなわち観察された最大の効果)、最大の抗関節炎効果を生み出した。薬理効果における同等の改善は、RTD-1が1%プロピレングリコールを含有する緩衝化(20mM酢酸ナトリウム)水性希釈液中に製剤された場合に得られた(図3)。出願人らは、同様の効果がより低用量のθ-ディフェンシンで達成され得ると考えている。
【0031】
驚くべきことに、そのような製剤は、従来の通常の生理食塩水溶液(例えば等張性リン酸緩衝生理食塩水、pH7~7.5)中に同様の濃度で提供されるθ-ディフェンシンに比べて、粘度が大幅に減少し、濾過による滅菌を可能にすることも分かった。
【0032】
発明者らは、θ-ディフェンシンおよびθ-ディフェンシン類似体(例えば、環状オクタデカペプチドおよび/または環状テトラデカペプチド)がプリスタン処理されたラットなどの動物モデルの慢性炎症性疾患における炎症を減少させる重大な効果を有することを以前述べた。θ-ディフェンシンは、水性溶液中に容易に溶解できる。初期研究において、θ-ディフェンシンは従来の通常の生理食塩水溶液中に調製され、マウスにおいて明らかな全身性の悪影響なく皮下注射によって容易に投与されたが、高濃度のθ-ディフェンシンでは、皮下組織における脂肪壊死が観察された。同様に、ラットおよびイヌの動物モデルにおいて、低濃度のθ-ディフェンシンでは、全身的および局所的に忍容性が良好であった。しかしながら、高濃度において、通常の生理食塩水中のθ-ディフェンシンの注射は、用量依存的に注射部位において局所的な炎症および腫れを生じた。腫れおよび炎症は、数週間持続することも分かった。しかしながら、比較的高濃度のθ-ディフェンシン(例えば約10~50mgmL-1)は、ヒトの療法において、皮下注射に適切な体積を維持しながら必要なθ-ディフェンシン投与量を提供するために必要である可能性がある。
【0033】
従来の生理食塩水溶液中でθ-ディフェンシンが投与された注射部位の顕微鏡的研究によって、イヌおよびブタの試験対象の注射部位における局所的な炎症および壊死変化が示された。理論に縛られることを望まないが、発明者らはθ-ディフェンシンは、皮下注射深度でいくつかの動物の皮膚内に見られる細胞外マトリックスの構成要素と相互作用し得、この組織層内でθ-ディフェンシンの沈殿および/または沈殿複合体の形成を引き起こし得ると考えている。全血、抗凝固剤による処理後に回収された血漿、および血清とRTD-1との相互作用の研究により、θ-ディフェンシンはフィブリノーゲンと相互作用して不溶性複合体を形成することが示された。したがって、発明者らはθ-ディフェンシンが細胞外マトリックスに付随するフィブリノーゲンおよび/またはフィブリノーゲン様タンパク質と相互作用し得ると考えている。
【0034】
発明者らは、ポロキサマーを添加した低張性生理食塩水の使用および他の従来の賦形剤の使用が、このθ-ディフェンシンにより誘導された注射部位の炎症および組織傷害を低減または排除しないことを見出した。驚くべきことに、低濃度のプロピレングリコールは、高濃度(例えば10mgmL-1以上)のθ-ディフェンシンの溶解性の提供、および影響を受けやすい種への高濃度のθ-ディフェンシンの皮下注射時の腫れおよび/または炎症の減少または予防の提供にも有効であった。プロピレングリコールは水と自由に混和し、医薬品グレードの滅菌液体として入手可能であり、一般に安全であると認識されている。高濃度のθ-ディフェンシンの注射時の副作用の減少および/または排除に有効な範囲のプロピレングリコール濃度は比較的狭いことが分かった。いくつかの実施形態において、水中のプロピレングリコールの有効な濃度は約0.4%~約1.6%(v/v)であることが分かった。他の実施形態において、水中のプロピレングリコールの有効な濃度は約0.5%~約1.5%(v/v)であることが分かった。好ましい一実施形態において、水中のプロピレングリコールの有効な濃度は約1%(v/v)である。
【0035】
さらなる研究により、驚くべきことに、弱酸性pH(例えばpH約5~7)のプロピレングリコール/水溶媒を使用することによって、結果がさらに改善されることが示された。好ましい一実施形態において、プロピレングリコール/水溶媒のpHは約6.0であり、約180~230mOsmの最終浸透圧濃度を有する。低モル濃度(例えば約50mM未満)で緩衝液の種を使用することにより、プロピレングリコール/水溶媒のpHを維持することができる。好適な緩衝液濃度は、例えば、1mM~50mM、5mM~35mM、10mM~30mMの範囲、または約20mMであり得る。好適な緩衝種は、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、HEPES、MESなどの有機酸の塩であり得る。他の実施形態において、緩衝液の種は、好適なpKaを有する双性イオン種であり得る。好ましい一実施形態において緩衝液の種は、約20mMの濃度の酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)であり、pH約6.0を提供する。驚くべきことに、発明者らは、少量(例えば50mM未満)でさえ生理食塩水(例えばNaCl)の使用がθ-ディフェンシンの皮下注射に対する副作用を生じることを見出した。皮下投与に使用される水性溶媒系の好ましい複数の実施形態は、NaClおよび類似の塩を除外し得る。
【0036】
驚くべきことに、発明者らは、θ-ディフェンシンがそのような酸性プロピレングリコール/水溶媒系に自由に溶解できることと、ラットおよび犬のRTD-1の皮下注射の後に、12.5mgmL-1までの濃度において一過性皮膚反応のみ見られ、50mgmL-1の濃度において軽微な副作用のみ見られることとを見出した。これは、ヒト治療に適した投薬の提供に必要であると予期されるθ-ディフェンシンの推定10mgmL-1の濃度をサポートする。
【0037】
上述したように、発明者らは予期せず、プロピレングリコール/水溶媒系の使用が、生理食塩水ベースの製剤に付随する炎症の排除に加えて、従来の生理食塩水製剤に比べて皮下に投与されたθ-ディフェンシンの薬理学的効力を劇的に増大させることを見出した。確立されているプリスタンで誘導された関節炎における、弱酸性プロピレングリコール/水の前臨床の有効性の増大は、従来の生理食塩水溶液中に提供された同様の量に比べて、少なくとも5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、またはそれより大きい可能性がある。例えば、1%プロピレングリコール+20mM酢酸塩、pH6中で、0.08mg/kgにおいて提供されたRTD-1の皮下注射は、関節リウマチの症候の緩和において、等張性生理食塩水中で、3mg/kgにおけるRTD-1の投与と同等の効果を有することが分かった。これは薬理学的効力における少なくとも37倍の増大を示唆するが、提供された症候の緩和は、等張性生理食塩水中で投与されたθ-ディフェンシンによって与えられる利益の上限であるので、薬力学的効果における実際の増大は37倍より大きい(例えば40倍、50倍、70倍、100倍、またはそれ以上に大きい)可能性がある。これは、適した治療を提供するために必要なθ-ディフェンシンの量を有利に減少させる。
【0038】
注射に利用される従来の溶液の滅菌は、一般的に、例えば0.2μm以下の孔径を有するフィルタを使用して、濾過によって実施される。しかしながら、タンパク質薬溶液は、通常、少ない注入量を提供するために望まれる高タンパク質濃度において、効率的な滅菌濾過には粘性が高すぎるので、この濾過による滅菌プロセスは、そのような溶液には問題がある。本明細書に使用されるとき、そのような粘性のある溶液は、流れに対する内部抵抗が高すぎて濾過が難しいか、または不可能である(例えば濾過膜の破裂圧力を超える圧力が必要な)溶液または分散を表す。そのような粘性のある溶液の粘度は、105mPa・s(105センチポアズ(cp))以上であり得る。一実施形態において、そのような粘性のある溶液の粘度は少なくとも約90~約95mPa・s(約90~約95cp)である。別の実施形態において、そのような粘性のある溶液の粘度は、少なくとも約40mPa・s(約40cp)である。さらに別の実施形態において、そのような粘性のある溶液の粘度は、少なくとも水の粘度より高い(すなわち約1.0mPa・s(約1.0cP)より高い)。
【0039】
研究の過程で、発明者らは、θ-ディフェンシンは非常に溶解性が高いが、タンパク質濃度が増加するにつれて、水性溶液は非常に粘性が高くなり得ることを見出した。実際のところ、2%w/v以上のθ-ディフェンシンの従来の生理食塩水溶液は、合理的および/または製造可能なスケールで濾過による滅菌を可能にするには粘性が高すぎることが分かった。驚くべきことに、プロピレングリコール/水溶媒中で調製された同様の溶液は高いθ-ディフェンシン濃度(例えば2%w/v、5%w/v、10%w/v、またはそれ以上)において低粘度を有した。これは、約0.2μm以下の媒体を介する従来の濾過を使用した、そのような調製物の簡単でスケーラブルな滅菌を可能にする。
【0040】
本発明の概念の複数の実施形態は、0.5%~1.5%でプロピレングリコールを含有する酸性水性溶液中の1つ以上のθ-ディフェンシンを含む薬組成物の皮下注射による慢性炎症に付随する症状の治療方法を含む。好適な症状は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、糖尿病、および調節不全の炎症反応から生じる他の症状を含む。薬組成物は単一の種のθ-ディフェンシンまたは2つ以上の種のθ-ディフェンシンを含み得る。薬組成物は、約0.1mL~約2.5mL、約0.25mL~約2mL、0.5mL~約1.5mL、または約1mLの範囲の体積で投与され得る。薬組成物におけるθ-ディフェンシンの濃度またはθ-ディフェンシンの種の総濃度は約1mgmL-1~約50mgmL-1の範囲であり得、好ましくは約12.5mgmL-1以下である。θ-ディフェンシンの濃度および/または注入量は、約0.001mg/kg~約3mg/kg、約0.01~約1mg/kg、または約0.08mg/kgの用量を提供するように調節され得る。
【0041】
いくつかの実施形態において、薬組成物は、1つ以上のθ-ディフェンシンおよび/またはθ-ディフェンシン類似体およびプロピレングリコールに加えて、追加の治療化合物を含み得る。例えば、薬組成物は、抗炎症効果を有する1つ以上のステロイド、非ステロイド抗炎症薬、炎症誘発性サイトカインに方向づけられる抗体または抗体フラグメント、および/または1つまたは鎮痛性の化合物を含み得る。
【0042】
そのようなθ-ディフェンシンの調製物は、任意の好適なスケジュールを使用して投与され得る。皮下注射は、所望の治療効果を確立または維持するために必要なように、週に1回、週に2回、週に3回、隔日、毎日、12時間ごと、8時間ごと、または6時間ごとの頻度で提供され得る。治療の期間は、所望の治療効果を確立または維持するために必要なように、約1週間、約2週間、約4週間、約8週間、約12週間、約16週間、約20週間、約6ヶ月、約12ヶ月、約18ヶ月、約24ヶ月、または24ヶ月より長い範囲であり得る。いくつかの実施形態において、θ-ディフェンシンの投薬は、症候の寛解または部分的寛解を確立するために治療の初期段階中、より高くおよび/またはより頻繁であり得、その後、θ-ディフェンシン用量および/または投与の頻度のいずれかまたは両方の点で、症候の寛解を維持するために減らされ得る。
【0043】
実施例
ラットにおける薬物動態研究
θ-ディフェンシンRTD-1を上記したように、プロピレングリコールを含有する弱酸性緩衝液中に製剤し、オスおよびメスのSprague-Dawleyラットに皮下投与し、その後θ-ディフェンシンの血漿中濃度を決定した。ラットに1~4mg/kgの範囲で用量を与えた。用量の体積を0.32mL/kgで一定に保ち、したがって、θ-ディフェンシンの濃度は3.125~12.5mg/mLの範囲であった。用量は、週に3回、6週間投与された。例示的な結果を表1(オスのラットの結果を提供する)および表2(メスのラットの結果を提供する)に示す。表1および以下の表は、以下の頭字語を使用する。
【0044】
AUC0-TLast 0時間(投与前)から最後の測定可能な濃度の時点までの血漿濃度対時間曲線下の面積
Last 定量限界を超えて測定された最終血漿濃度
max 最大血漿濃度
MRTLast 分析物の血漿濃度が測定された最終時点までの平均滞留時間
Last 定量限界を超えた最終血漿濃度が測定された時間
max 最大濃度の時間。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表3、4、および5は、それぞれ、1mg/kg、2mg/kg、および4mg/kgを与えられたオスのラットにおけるθ-ディフェンシンの血漿濃度(ng/mL)の動態研究からの典型的な結果を示す。表6、7、および8はメスのラットで行われた同様の研究からの典型的な結果を示す。図4Aおよび4Bは、それぞれオスおよびメスのラットのそのような研究の1日目の血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す。図5Aおよび5Bは、それぞれオスおよびメスのラットのそのような研究の13日目の血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す。図6Aおよび6Bは、それぞれオスおよびメスのラットのそのような研究の41日目の血漿θ-ディフェンシン濃度(ng/mL)対時間(時間)のグラフを示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
表9はオスおよびメスのラットのCmaxおよびAUC0-TLastに関する用量比例性の典型的な結果を示す。
【0055】
【表9】
【0056】
図7Aは、1日目におけるオスおよびメスのラットのCmax対θ-ディフェンシン用量の直線性の研究の結果を示すグラフを提供する。図7Bは、41日目におけるオスおよびメスのラットのCmax対θ-ディフェンシン用量の直線性の研究の結果を示すグラフを提供する。図8Aは、1日目におけるオスおよびメスのラットのAUC0-TLast対θ-ディフェンシン用量の直線性の研究の結果を示すグラフを提供する。図8Bは、41日目におけるオスおよびメスのラットのAUC0-TLast対θ-ディフェンシン用量の直線性の研究の結果を示すグラフを提供する。
【0057】
ヒトでの臨床試験
θ-ディフェンシンRTD-1を上記したように、プロピレングリコールを含有する弱酸性緩衝液中に製剤し、23~73歳の範囲の年齢の男性および女性の対象に皮下投与し、θ-ディフェンシンの血漿中濃度を決定した。皮下注射により、20μg/kg、40μg/kg、80μg/kg、160μg/kg、または325μg/kgのθ-ディフェンシンを対象に与えた。これらの用量は、上記した動物実験において使用されたものより比較的、実質的に少ないことを理解されたい。20~80μg/kgを与えられた対象は、用量を単一の部位で送達された。より大きい量を与えられた対象は、2つの部位間でその用量を分配された。図9は、異なる処理群の経時的な血漿中のθ-ディフェンシン濃度(ng/mL)測定の典型的な結果を示す。示されるように、皮下注射時の生物学的利用能はラットに比べてヒトにおいて劇的に増大した。同様に、イヌおよびブタの動物モデルのRTD-1の皮下注射に比べて、ヒト対象の改善された結果が示された。Cmax(ng/mL)のRTD-1用量(μg/kg)への依存性を図10Aに示す。AUC0-TLastのRTD-1用量(μg/kg)への依存性の同様の研究の結果を図10Bに示す。Cmax(ng/mL)の投与された総RTD-1(mg)への依存性を図11Aに示す。AUC0-TLastの投与された総RTD-1(mg)への依存性の同様の研究の結果を図10Bに示す。AUC0-TLastおよびCmaxの両方はθ-ディフェンシン用量のおおよそ線形関数であった。意外なことに、ヒトにおいては同様の血漿濃度に達するために、試験動物で示されたものよりもはるかに低用量のθ-ディフェンシンを必要とする。発明者らは、θ-ディフェンシンの類似体で同様のまたは改善された結果が観察されるであろうことを見込む。
【0058】
本明細書の本発明概念から逸脱することなく、すでに記載されたもののほかに、より多くの修正が可能であることは、当業者には明らかであるはずである。したがって、本発明主題は、添付の特許請求の範囲の趣旨を除いて制限されるべきではない。また、明細書および特許請求の範囲の両方を解釈する際に、すべての用語は、文脈と一致する可能な限り広い方法で解釈されるべきである。特に、用語「含む(「comprises」および「comprising」)」は、非排他的な方法で要素、構成要素、またはステップに言及するものとして解釈されるべきであり、参照される要素、構成要素、またはステップが存在し、または利用され、または明示的に言及されていない他の要素、構成要素、またはステップと組み合わされ得ることを示す。明細書クレームがA、B、C…およびNからなる群から選択されるものの少なくとも1つに言及する場合、その文は、AプラスN、またはBプラスNなどではなく、その群から1つの要素のみを必要とするものとして解釈されたい。
【0059】
[付記1] 慢性炎症症状を有する個体を治療する方法であって、θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体と、0.5%~1.5%v/vプロピレングリコールとを含む第1水性溶液として、ある量の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を提供することであって、前記第1水性溶液はpH5.0~7.0を有することと、治療を必要とする個体に皮下注射によって前記第1水性溶液を投与することとを含み、前記第1水性溶液は、通常の生理食塩水溶液中の前記量のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含む第2水性溶液に比べて、前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力または治療効果における増大を提供するように製剤される、方法。
【0060】
[付記2] 前記水性溶液は、酢酸塩をさらに含む付記1に記載の方法。
[付記3] 前記量θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬力学的効果は、通常の生理食塩水溶液中に提供される前記量の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも10倍増大される付記1または2に記載の方法。
【0061】
[付記4] 前記量の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬力学的効果は、通常の生理食塩水溶液中に提供される前記量の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも40倍増大される付記1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0062】
[付記5] 前記慢性炎症症状は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患からなる群から選択される付記1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0063】
[付記6] 前記第1水性溶液は50mgmL-1までの濃度で前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含む付記1~5のいずれか1つに記載の方法。
[付記7] 前記θ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド(cyclic icosipeptide)、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、および環状デカペプチドからなる群から選択される付記1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0064】
[付記8] 前記第1水性溶液は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
[付記9] 水性θ-ディフェンシン調製物の滅菌方法であって、少なくとも1mgmL-1の濃度のθ-ディフェンシンと0.5%~1.5%v/vのプロピレングリコールとを含む水性緩衝液中のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を提供することと、0.2μm以下の孔径を有するフィルタを通して前記水性緩衝液を通過させることとを含む水性θ-ディフェンシン調製物の滅菌方法。
【0065】
[付記10] 前記水性緩衝液は、酢酸塩をさらに含む付記9に記載の方法。
[付記11] 前記水性θ-ディフェンシン調製物はpH5.0~7.0を有する付記9または10に記載の方法。
【0066】
[付記12] 前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、50mgmL-1以上で提供される付記9~11のいずれか1つに記載の方法。
[付記13] 0.5%~1.5%v/vプロピレングリコールを含む水性溶液中に50mgmL-1までの濃度でθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含む慢性炎症症状の治療のための医薬組成物であって、前記医薬組成物はpH5.0~7.0を有し、非経口投与のために製剤される、医薬組成物。
【0067】
[付記14] 酢酸塩をさらに含む付記13に記載の医薬組成物。
[付記15] 前記濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同様の濃度の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて、前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力が少なくとも10倍増大するように選択される付記13または14に記載の医薬組成物。
【0068】
[付記16] 前記濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、通常の生理食塩水溶液中に提供される同様の濃度の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて、前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力が少なくとも40倍増大するように選択される付記13~15のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0069】
[付記17] 前記慢性炎症症状は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患からなる群から選択される付記13~16のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0070】
[付記18] 非経口投与は、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射からなる群から選択される付記13~17のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[付記19] 前記θ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド(cyclic
icosipeptide)、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、および環状デカペプチドからなる群から選択される付記13~18のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0071】
[付記20] 前記医薬組成物は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する付記13~19のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[付記21] 慢性炎症症状の治療のための、0.5%~1.5%v/vプロピレングリコールを含む水性溶液中に50mgmL-1までθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含む組成物の使用法であって、前記組成物は非経口投与のために製剤され、pH5.0~7.0を有し、およびプロピレングリコールなしに調製された対応する医薬組成物に比べて前記θ-ディフェンシンの薬力学的効果の増大を提供する、使用法。
【0072】
[付記22] 前記組成物は酢酸塩をさらに含む、付記21に記載の使用法。
[付記23] 前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力は、通常の生理食塩水溶液中に提供される前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも10倍増大される、付記21または22に記載の使用法。
【0073】
[付記24] 前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力は、通常の生理食塩水溶液中に提供される前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも40倍増大される、付記21~23のいずれか1つに記載の使用法。
【0074】
[付記25] 前記慢性炎症症状は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患からなる群から選択される付記21~24のいずれか1つに記載の使用法。
【0075】
[付記26] 非経口投与は、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射からなる群から選択される付記21~25のいずれか1つに記載の使用法。
[付記27] 前記θ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド(cyclic
icosipeptide)、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、および環状デカペプチドからなる群から選択される付記21~26のいずれか1つに記載の使用法。
【0076】
[付記28] 前記組成物は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する付記21~27のいずれか1つに記載の使用法。
[付記29] 慢性炎症症状の治療に有用な組成物の調製のための、0.5%~1.5%v/vプロピレングリコールを含む水性溶液における50mgmL-1までのθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の使用法であって、前記組成物は非経口投与のために製剤され、pH5.0~7.0を有し、およびプロピレングリコールなしに調製された対応する医薬組成物に比べて前記θ-ディフェンシンの薬力学的効果の増大を提供する、使用法。
【0077】
[付記30] 前記組成物は、酢酸塩をさらに含む付記29に記載の使用法。
[付記31] 前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力は、通常の生理食塩水溶液中に提供される前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも10倍増大される、付記29または30に記載の使用法。
【0078】
[付記32] 前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体の薬理学的効力は、通常の生理食塩水溶液中に提供される前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体に比べて少なくとも40倍増大される、付記29~31のいずれか1つに記載の使用法。
【0079】
[付記33] 前記慢性炎症症状は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患からなる群から選択される付記29~32のいずれか1つに記載の使用法。
【0080】
[付記34] 非経口投与は、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射からなる群から選択される付記29~33のいずれか1つに記載の使用法。
[付記35] 前記θ-ディフェンシン類似体は、環状イコシペプチド(cyclic
icosipeptide)、環状エニアデカペプチド、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、環状テトラデカペプチド、環状トリデカペプチド、環状ドデカペプチド、環状ヘンデカペプチド、および環状デカペプチドからなる群から選択される付記29~34のいずれか1つに記載の使用法。
【0081】
[付記36] 前記組成物は1%v/vプロピレングリコールおよび20mM酢酸塩を含み、pH6.0を有する付記29~35のいずれか1つに記載の使用法。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
【配列表】
2023133565000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射可能なθ-ディフェンシン製剤の生物学的利用能を増大させるためのプロピレングリコールの使用であって、前記θ-ディフェンシン製剤は、ある濃度のθ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含み、プロピレングリコールの含有により、前記注射可能なθ-ディフェンシン製剤の薬理学的効力が、前記濃度の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含む、通常の生理食塩水溶液中に提供される対応する製剤に比べて少なくとも10倍増大する、使用。
【請求項2】
前記注射可能なθ-ディフェンシン製剤の生物学的利用能は、前記濃度の前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含む、通常の生理食塩水溶液中に提供される対応する製剤に比べて少なくとも40倍増大する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、癌関連の炎症、糖尿病、および調節不全のまたは未消散の慢性炎症によって特徴づけられる慢性疾患からなる群から選択される慢性炎症症状の治療に効果的である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記注射可能なθ-ディフェンシン製剤は、環状オクタデカペプチド、環状ヘプタデカペプチド、環状ヘキサデカペプチド、環状ペンタデカペプチド、および環状テトラデカペプチドからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
プロピレングリコールは、0.5%v/v~1.5%v/vで提供される、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体を含む水性調製物の粘度を減少させるためのプロピレングリコールの使用であって、プロピレングリコールは0.5%v/v~1.5%v/vで提供され、環状ペプチドである前記θ-ディフェンシン類似体は、天然のθ-ディフェンシンペプチド配列と40%以上の配列同一性を有し、
粘度が最大105センチポアズである、使用。
【請求項7】
前記水性調製物は、pH6.0~7.0を有する、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記θ-ディフェンシンまたはθ-ディフェンシン類似体は、1mgmL -1 ~50mgmL -1 で提供される、請求項6に記載の使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023133565000001.xml