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特開2023-133570ラミニン511産生促進剤、表皮基底膜安定化剤及び/又は表皮幹細胞減少抑制又は増加促進剤のスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133570
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ラミニン511産生促進剤、表皮基底膜安定化剤及び/又は表皮幹細胞減少抑制又は増加促進剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20230914BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/4166 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230914BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20230914BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K31/4166
A61P17/00
C12N9/99
C07K14/78 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127301
(22)【出願日】2023-08-03
(62)【分割の表示】P 2021182208の分割
【原出願日】2017-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2016207027
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】入山 俊介
(72)【発明者】
【氏名】丹野 紗織
(57)【要約】
【課題】本発明は、MCSP陽性表皮基底幹細胞を増殖させる薬剤、又は減少抑制する薬剤のスクリーニングを簡単に行う手法を提供し、それにより表皮幹細胞の減少抑制又は増大することを目的とする。
【解決手段】ラミニン511の発現を指標とした、ラミニン511発現促進剤のスクリーニング方法を提供する。また、当該スクリーニング方法により、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを有効成分とする、ラミニン511の発現促進剤を提供する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを有効成分とする、ラミニン511の発現促進剤。
【請求項2】
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを有効成分とする、ラミニン511の発現促進による表皮基底膜安定化剤。
【請求項3】
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを有効成分とする、ラミニン511の発現促進による表皮幹細胞の減少抑制又は増加促進剤。
【請求項4】
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを含む、細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤。
【請求項5】
細胞外マトリックス分解酵素が、マトリックスメタロプロテイナーゼ又はヘパラナーゼである、請求項4に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤。
【請求項6】
細胞外マトリックス分解酵素が、マトリックスメタロプロテイナーゼ9である、請求項4に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤を含む、ラミニン511分解抑制剤。
【請求項8】
請求項4~6のいずれか一項に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤を含む、表皮幹細胞の減少抑制又は増加促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮基底膜における表皮幹細胞の減少抑制又は増加促進の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮は、皮膚最外層に存在する皮膚組織である。表皮は、角層、顆粒層、有棘層、及び基底層から主に構成されている。基底層に存在する基底細胞が分裂し、外層へと移動する。この移動の過程で細胞において脱核が生じて扁平化し角層へと分化し、角層は最終的に剥がれ落ちる。このターンオーバーの期間はおよそ45日程度といわれている。しかし、老化した皮膚では、ターンオーバー速度が遅くなり、表皮全体が薄くなる。その結果、バリア機能低下、水分含量の低下などの皮膚機能の低下が生じることが知られている。基底細胞は、分裂性に富む細胞であるが、無限に増殖を繰り返す訳ではなく、一定回数分裂すると分裂しなくなる。基底細胞は、基底膜上に存在する表皮基底幹細胞の一部が分化することにより、新たに供給される。しかしながら、老化に伴い、表皮基底幹細胞の数が減少することが知られており、表皮基底幹細胞の数が減少すると、表皮の薄化、表皮の乾燥、バリア機能低下などの老化の徴候を示すようになる。
【0003】
近年、表皮基底幹細胞マーカーであるMCSP抗体が開発されており、この抗体を用いることで、表皮基底幹細胞の識別が可能になっている。各年代の男女の非露光部の皮膚において、MCSP抗体を用いた表皮基底細胞可視化が行われており、老化に伴いMCSP陽性の表皮基底幹細胞数が減少することが示されている(非特許文献1)。MCSP陽性表皮基底幹細胞数の増加の促進作用又は減少の抑制作用を有する薬剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Giangreco A, et al., J Invest Dermatol. 2010, 130(2): 604-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、MCSP陽性表皮基底幹細胞数を増加促進させるか、又は減少抑制する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、MCSP陽性表皮基底幹細胞について鋭意研究を行ったところ、MCSP陽性表皮基底幹細胞と基底膜付近に存在するラミニン511との関係性を見いだした。すなわち、基底膜付近のラミニン511が減少すると、それに応じてMCSP陽性表皮基底幹細胞の数も減少し、ラミニン511の発現量を増加させることで、MCSP陽性表皮基底幹細胞数を増加できることを初めて見いだした。また、ラミニンは、ラミニンα、β及びγの複合体であるところ、ラミニン511の存在量を、ラミニンα5、β1、及びγ1の発現量を指標とすることで決定することができることを見いだした。
【0007】
この知見に基づき、ラミニン511の発現を指標とした、ラミニン511発現促進剤のスクリーニング方法に関する発明に至った。ラミニン511発現促進剤は、基底膜を安定化することができることから、ラミニン511発現促進剤のスクリーニング方法は、基底膜安定化剤のスクリーニング方法ということもできる。また、ラミニン511の存在量が増し、基底膜が安定化されると、表皮基底幹細胞を増加作用又は減少抑制作用が生じることから、ラミニン511発現促進剤のスクリーニング方法は、表皮基底幹細胞の増加促進剤又は減少抑制剤のスクリーニング方法ということもできる。
【0008】
より具体的には下記の発明に関する:
[1] 表皮細胞におけるラミニン511の発現量を指標とする、ラミニン511発現促進剤のスクリーニング方法。
[2] 候補薬剤を含む培養培地中で表皮細胞を培養する工程、
表皮細胞におけるラミニン511の発現量を測定する工程、
対照におけるラミニン511発現量と比較して、ラミニン511の発現が増加した場合に、候補薬剤がラミニン511発現促進効果を有すると判定する工程
を含む、項目1に記載の方法。
[3] 前記ラミニン511の発現量が、ラミニン511のタンパク質量又はラミニンα5のmRNA量、ラミニンβ1のmRNA量、及びラミニンγ1のmRNA量からなる群から選ばれる1以上のmRNA量から決定される、項目1又は2に記載の方法。
[4] ラミニン511の発現量が、ラミニンα5のmRNA量、ラミニンβ1のmRNA量、及びラミニンγ1のmRNA量の合計量から決定される、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記ラミニン511発現促進剤が、表皮基底膜安定化剤である、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
[6] 表皮基底膜安定化剤が、表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加剤である、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
[7] 表皮細胞が表皮幹細胞を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
[8] 表皮幹細胞が表皮基底幹細胞を含む、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
[9] 表皮細胞がMCSP発現細胞を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
[10] 表皮細胞が、さらにインテグリンを発現している細胞を含む、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
[11] 表皮細胞が胎児由来である、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
[12] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを有効成分とする、ラミニン511の発現促進剤。
[13] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを有効成分とする、ラミニン511の発現促進による表皮基底膜安定化剤。
[14] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを有効成分とする、ラミニン511の発現促進による表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加剤。
[15] 1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを含む、細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤。
[16] 細胞外マトリックス分解酵素が、マトリックスメタロプロテイナーゼ又はヘパラナーゼである、項目15に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤。
[17] 細胞外マトリックス分解酵素が、マトリックスメタロプロテイナーゼ9である、項目15に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤。
[18] 項目15~17のいずれか一項に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤を含む、ラミニン511分解抑制剤。
[19] 項目15~17のいずれか一項に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤を含む、表皮基底膜安定化剤。
[20] 項目15~17のいずれか一項に記載の細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害剤を含む、表皮基底幹細胞減少抑制又は増加促進剤。
[21] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを投与することを含む、表皮においてラミニン511の発現を亢進方法。
[22] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを投与し、ラミニン511の発現促進作用によって、表皮基底膜を安定化する方法。
[23] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを投与し、ラミニン511の発現促進作用によって、表皮基底幹細胞の減少を抑制するか又は増加を促進する方法。
[24] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを投与し、表皮においてラミニン511の発現を亢進させる、美容方法。
[25] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを投与し、表皮においてラミニン511の発現を亢進させ、ラミニン511の発現促進作用によって表皮基底膜を安定化する、美容方法。
[26] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンを投与し、表皮においてラミニン511の発現を亢進させ、ラミニン511の発現促進作用によって表皮基底幹細胞の減少を抑制するか又は増加を促進する、美容方法。
[27] ラミニン511の発現促進するための化粧品又は医薬品を製造のための、褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンの使用。
[28] 表皮基底膜を安定化するための化粧品又は医薬品を製造のための、褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンの使用。
[29] 表皮基底幹細胞の減少を抑制するか又は増加を促進するための化粧品又は医薬品を製造のための、褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンの使用。
[30] ラミニン511の発現促進を介して抗老化治療に用いるための褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン。
[31] 表皮基底膜安定化を介して抗老化治療に用いるための褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン。
[32] 表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加を介して抗老化治療にもちいるための褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキス又は1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン。
[33] 細胞外マトリックス分解酵素の活性阻害を介して抗老化治療にもちいるための1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン。
[34] 細胞外マトリックス分解酵素が、マトリックスメタロプロテイナーゼ又はヘパラナーゼである、項目33に記載の1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン。
[35] 細胞外マトリックス分解酵素が、マトリックスメタロプロテイナーゼ9である、項目33に記載の1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン。
[36] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキスを含む、皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症の改善剤。
[37] 褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキスを含む、炎症抑制剤。
[38]皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症の改善剤の製造のための、褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキスの使用。
[39]炎症抑制剤の製造のための、褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキスの使用。
[40]褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキスを含む化粧料を皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症の改善を必要とする対象に適用することを含む、皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症の改善のための美容方法。
[41]炎症を患う対象に褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキスを含む化粧料を適用することを含む、炎症抑制のための美容方法。
【発明の効果】
【0009】
MCSP陽性表皮基底幹細胞を増加させる薬剤のスクリーニングを、ラミニン511を指標とすることでより簡単な細胞実験で行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、20代の腹部(非露光部)及び顔面部(露光部)と、60代の腹部(非露光部)及び顔面部(露光部)におけるMCSPの発現を示した図である。図1Bは、各年代の被験者の腹部(非露光部)及び顔面部(露光部)の皮膚切片において、基底膜の長さに対するMCSP陽性細胞の数を計測し比較したグラフである。図1Cは、各年代の被験者の皮膚切片におけるMCSPの発現量を比較したグラフである。
図2図2Aは、20代の腹部(非露光部)及び顔面部(露光部)と、60代の腹部(非露光部)及び顔面部(露光部)におけるラミニン332、ラミニン551、及びβ1インテグリンの発現を示した図である。図2Bは、各年代の被験者の皮膚切片におけるラミニンα5の発現量を比較したグラフである。
図3図3Aは、表皮培養の際に、培養プレートをラミニン511でコートした場合の、MCSPの発現に対する影響を示す図である。図3Bは、表皮培養の際に、培養プレートをラミニン511でコートした場合の、CD46、Lrig1、DLL1、CD44からなる幹細胞マーカーの遺伝子発現に対する影響を示すグラフである。
図4図4Aは、ヒト皮膚組織培養によりラミニン511が減少することを示しており、MMP阻害剤(N-hydroxy-2(R)-[[(4-methoxy- phenyl)sulfonyl](3-picolyl)amino]-3-methylbutanamide hydrochloride、以下CGS27023A)及びヘパラナーゼ阻害剤(1-[4-(1H-Benzoimidazol-2-yl)phenyl]-3-[4-(1H-benzoimidazol-2-yl)phenyl]urea、以下BIPBIPU)を添加した場合に、ラミニン511が増強されていることを示す図である。図4Bは、ヒト皮膚組織培養によりMCSPが減少することを示しており、MMP阻害剤(CGS27023A)及びヘパラナーゼ阻害剤(BIPBIPU)を添加した場合に、MCSPが維持又は増強されていることを示す図である。
図5図5Aは、アルジェレックスの添加により、ラミニンα5、ラミニンβ1、及びラミニンγ1の遺伝子発現が、用量依存的に増加することを示すグラフである。図5Bは、アルジェレックスの添加により、ラミニンα5鎖のタンパク質量が、用量依存的に増加することを示すグラフである。
図6図6は、アルジェレックスの添加による遺伝子発現の変化を示すグラフである。ヘパラナーゼ(HPA)遺伝子(図6A)、PDGF-BB遺伝子(図6B)、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)遺伝子(図6C)、ヒアルロニダーゼ1(HYAL1)(図6D)、及びインターロイキン8(IL-8)遺伝子(図6E)の発現量の変化が調べられた。
図7図7は、ex vivoヒト皮膚の器官培養における1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)の添加による、ラミニン511及びMCSPのタンパク質発現に対する影響を示す図である。
図8図8は、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)のヘパラナーゼ阻害活性を示すグラフである。
図9図9は、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)のMMP9の阻害活性を示す図である。
図10図10Aは、ex vivoヒト皮膚の器官培養における1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)の添加による、フィラグリンタンパク質発現の変化を示す図である。図10B及びCは、ex vivoヒト皮膚の器官培養における1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)の添加による、TEWL及び角層水分含量の変化を示すグラフである。図10D及びEは、in vivo一重遮蔽ヒト連用試験における1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)による、TEWL及び角層水分含量の変化を示すグラフである。
図11図11Aは、皮膚組織の器官培養において、MMP阻害剤(CGS27023A)及びヘパラナーゼ阻害剤(BIPBIPU)を添加した場合に、基底膜直下における電子顕微鏡写真である。基底膜の下部にコラーゲン線維の断面が写っている。図11Bは、電子顕微鏡写真上で測定されたコラーゲン線維の直径と頻度を示すヒストグラムである。図11Cは、電子顕微鏡写真上における線維の直径の平均値を示す。図11Dは、電子顕微鏡写真上における線維の密度の平均値を示すグラフである。
図12A図12Aは、若齢(29歳)と老齢(60歳)の対象から取得された皮膚試料における、V型コラーゲンの発現と、ケラチノサイトを示すK-14の発現とを示す蛍光顕微鏡写真である。
図12B図12Bは、若齢対象から取得されたケラチノサイト及び線維芽細胞、並びに老齢対象から取得されたケラチノサイト及び線維芽細胞におけるV型コラーゲンに対する遺伝子COL5A1の発現量を示すグラフである。
図13A図13Aは、皮膚組織の器官培養及び皮膚三次元モデルにおける、MMP阻害剤(CGS27023A)及びヘパラナーゼ阻害剤(BIPBIPU)の添加による、V型コラーゲンの発現と、ケラチノサイトを示すK-14の発現とを示す蛍光顕微鏡写真である。
図13B図13Bは、皮膚三次元モデルの真皮におけるV型コラーゲンの遺伝子COL5A1発現を示すグラフである。
図13C図13Cは、皮膚組織の器官培養において、MMP阻害剤(CGS27023A)及びヘパラナーゼ阻害剤(BIPBIPU)を添加した場合に、基底膜直下の線維芽細胞に着目した電子顕微鏡写真である。
図14図14は、MMP阻害剤(CGS27023A)及びヘパラナーゼ阻害剤(BIPBIPU)を添加されて培養された皮膚三次元モデルの培養物から採取された培養上清を、培養された真皮線維芽細胞に添加した場合のV型コラーゲンの遺伝子COL5A1発現を示すグラフである。
図15図15は、培養ヒト線維芽細胞に対して、PDGF-BBを添加した場合における、V型コラーゲンの遺伝子COL5A1発現を示すグラフである。
図16A図16Aは、若齢(32歳)と老齢(68歳)の対象から取得された皮膚試料における、PDGFRβの発現と、ケラチノサイトを示すK-14の発現とを示す蛍光顕微鏡写真である。
図16B図16Bは、各年齢の正常ヒト表皮細胞におけるPDGF-BBたんぱく質の遺伝子PDGFBの発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、表皮細胞におけるラミニン511の発現を指標とした、ラミニン511発現促進剤のスクリーニング方法に関する。より具体的には、ラミニン511発現促進剤のスクリーニング方法は、以下の:
候補薬剤を含む培養培地で表皮細胞を培養する工程、
表皮細胞におけるラミニン511の発現を測定する工程、
対照におけるラミニン511発現量と比較して、ラミニン511の発現が増加した場合に、候補薬剤がラミニン511発現促進効果を有すると判定する工程
を含む。さらに、培養表皮細胞に対し、紫外線を照射する工程を含んでもよい。紫外線の照射により、ラミニン511の発現量は減少する。紫外線の照射は、一例として、培養細胞に対し、1mJ/cm2~200mJ/cm2で照射することにより行われうる。紫外線の照射は、マトリクスメタロプロテイナーゼの活性を増強し、ラミニンの分解をもたらしうる。よって紫外線照射下において、候補薬剤が、ラミニン511のタンパク質量の減少を抑制できる場合には、候補薬剤がラミニン511の分解抑制効果および発現促進効果を有することがわかる。候補薬剤によるマトリクスメタノプロテイナーゼの活性に対する阻害効果を調べることで、候補薬剤がラミニン511の発現促進効果を有することを決定することができる。
【0012】
候補薬剤を含む培養培地で表皮細胞を培養する工程は、候補薬剤を含む培地と培養表皮細胞が接触すれば任意の方式で行われてもよい。培養している培地に候補薬剤又はその希釈液を直接添加してもよいし、候補薬剤が含まれた培地に置換されてもよい。培養は、ヒト表皮細胞の培養に用いる通常の条件下で行われる。一例としては、37℃、5%CO2加湿雰囲気下のインキュベーター内で培養される。候補薬剤の添加後の培養時間は、候補薬剤の効果に応じて任意に設定することができる。候補薬剤の効果を十分に発揮させる観点から、例えば300分以上、好ましくは6時間以上、より好ましくは48時間以上培養することができる。また、候補薬剤の効果の飽和を防ぐ観点から、例えば7日以下、好ましくは5日以下、より好ましくは72時間以下の期間培養することができる。
【0013】
培養表皮細胞におけるラミニン511の発現の測定は、ラミニン511を認識する抗体を用いて、分子生物学の任意の手法を用いて測定することができる。ラミニン511のタンパク質量の測定には、例えばウエスタンブロットや免疫染色法を用いることができる。また、ラミニン511の発現は、ラミニン511の構成サブユニット(α5、β1、γ1)のmRNA転写量に基づき測定することができる。mRNAの転写量は、一例として、ノーザンブロットや定量的PCRを行うことにより測定することができる。構成サブユニットは、任意の1つの転写量に基づき測定することもできるし、2つ又は3つの転写量の組合せとして測定することもできる。1の態様では、ラミニンα5、ラミニンβ1、及びラミニンγ1のそれぞれの発現量を合計することで、発現量を測定することができる。また別の態様では、最も低い発現量の構成サブユニットの量を、ラミニン511の発現量とすることもできる。
【0014】
対照におけるラミニン511発現量と比較して、候補薬剤を含む培養培地で培養された表皮細胞においてラミニン511の発現が増加した場合、候補薬剤がラミニン511発現促進効果を有すると判定することができる。一の態様では、発現量に有意差がある場合に、候補薬剤がラミニン511発現促進効果を有すると判定することができる。また、別の態様では、発現量が、所定の割合で増加した場合に、候補薬剤がラミニン511発現促進効果を有すると判定することができる。所定の割合は、当業者であれば任意に決定することができるが、例えば対照の発現量に比較して、10%、より好ましくは20%、さらに好ましくは30%、さらにより好ましくは50%を、所定の割合として選択することができる。この判定は、実験者が行ってもよいし、ソフトウェアが解析することで行ってもよい。本発明のスクリーニング方法を大規模に行う観点から、判定工程は、発現測定を行った機器、又は当該機器からデータを取得したプロセッサを含むコンピュータにより行われることが好ましい。対照におけるラミニン511発現量とは、候補薬剤が含まれない点を除いて、同じ操作を行った表皮細胞におけるラミニン511の発現量のことをいう。したがって、前述の培養工程及び発現測定工程は、候補薬剤を含まない培養培地で対照の表皮細胞を培養し、対照の表皮細胞におけるラミニン511の発現を測定する工程が含まれてもよい。対照についての培養工程及び発現工程は、候補薬剤を含む培養培地を用いた培養工程及び発現工程と同時平行で行われてもよいし、予め行われていてもよい。
【0015】
本発明のスクリーニング工程は、前述の工程の他に、候補薬剤を含む培養培地で表皮細胞を培養する工程の前に行われる前培養工程、候補薬剤を含む培養培地で表皮細胞を培養する工程の後にさらに候補薬剤を含まない培養培地で培養される後培養工程、細胞を回収する回収工程、回収された細胞、或いは回収された細胞から抽出されたタンパク質、mRNA、若しくはmRNAから逆転写されたDNAを貯蔵する工程といった任意の付加的工程を含むことができる。
【0016】
ラミニンは、ラミニンファミリーに属するタンパク質であり、基底膜を構成するタンパク質の一つである。ラミニンファミリーの中で、特にα3β3γ2のサブユニットから構成されるラミニン332やα5β1γ1サブユニットから構成されるラミニン511が、基底膜に存在することが知られている。ラミニンは、細胞上に発現するインテグリンにより認識され、細胞足場として機能する。基底膜に存在するラミニンを足場にして、表皮基底細胞が層を形成する。
【0017】
ラミニン511は、細胞接着や増殖に関与するタンパク質であり、主に表皮基底膜に存在する。ラミニン511は、β1インテグリン、特にα6β1インテグリンと結合性を有する。細胞実験では、β1インテグリンを発現する幹細胞の増殖と関与しており、iPS細胞やES細胞の培養に用いられている。生体では、ラミニン511は、老化とともに減少することが知られている。本発明者らは、ラミニン511が、老化以外にも紫外線の影響により、減少することを明らかにした(図1)。理論により制限することを意図するものではないが、紫外線により、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)が活性化され、それによりラミニン量が減少すると考えられる。ところが、本発明者らにより、ラミニン332は加齢や紫外線による影響が少ない一方で、ラミニン511は加齢に伴い減少し、さらに紫外線の影響により減少することが示された(図2A)。この傾向は、幹細胞において発現されるβ1インテグリンと同傾向を示しており、さらにMCSP発現幹細胞についても同傾向が見られた(図1A)。
【0018】
ラミニン511発現促進剤とは、最も広義に解釈することができ、ラミニン511のタンパク質量を増大させることができる薬剤であれば、任意の薬剤を含むことができる。したがって、単にラミニン511の遺伝子発現を促進することができる薬剤のみならず、ヘパラナーゼ阻害作用やMMP阻害作用により、ラミニン511のタンパク質量を増大させる薬剤もラミニン511発現促進剤ということができる。ラミニン511の発現は、タンパク質量又はmRNA量により決定できる。ラミニン511は、複合体タンパク質であるので、ラミニン511発現促進剤は、構成サブユニットの各mRNAをそれぞれ発現促進することができる。ラミニン511発現促進剤は、表皮基底膜におけるラミニン511の発現を増加させることにより、表皮基底膜安定化作用、表皮幹細胞減少抑制作用、及び表皮幹細胞増加促進作用を発揮することができる。したがって、ラミニン511発現促進剤は、表皮基底膜安定化剤、表皮幹細胞減少抑制剤、又は表皮幹細胞増加促進剤と言うこともできる。
【0019】
表皮基底膜は、表皮最下層に存在し、表皮と真皮の境界を構成する。表皮基底膜は、コラーゲン、プロテオグリカン、エンタクチン、ラミニンから主に構成される薄い膜状の細胞外マトリックスである。基底膜上に、基底細胞が配置されており、基底膜と基底細胞を含めて表皮の基底層と呼ばれる。基底膜には、コラーゲンとしてI型コラーゲン、IV型コラーゲン、及びVII型コラーゲンが主に含まれる。基底膜には、ラミニンとしては、ラミニン511やラミニン332が主に含まれる。基底膜は、マトリックスメタロプロテイナーゼやヘパラナーゼなどの細胞外マトリックス分解酵素の影響により、部分的に分解されて不安定化する。不安定化された基底膜では、ラミニンが減少し、ラミニンを細胞足場として増殖する表皮細胞、例えばβ1インテグリン発現細胞が失われうる。表皮細胞の中では、表皮幹細胞、特に表皮基底幹細胞がβ1インテグリン発現細胞と考えられており、ラミニン減少と共に、これらの細胞が失われうる。
【0020】
真皮に含まれるコラーゲンは、真皮中の位置に応じて形状が異なり、構成するコラーゲンの種類も異なる。表皮基底膜領域には、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、及びVII型コラーゲンが含まれており、基底膜直下の領域には、線維細網板と呼ばれる細いコラーゲン線維束が位置し、深部にいくにつれて、コラーゲン細線維が位置し、最深部には太いコラーゲン線維が位置する。基底膜直下領域の線維細網板は、主にV型コラーゲンにより構成され、コラーゲン細線維は、III型コラーゲンとV型コラーゲンにより構成されており、最深部のコラーゲン線維は、I型及びIII型コラーゲンにより構成される。
【0021】
基底膜直下のV型コラーゲンは、真皮層の真皮線維芽細胞により産生されるが、本発明者らの研究により、年齢依存的に減少することが示された(図12)。さらに、驚くべきことに、V型コラーゲンの存在が、基底膜の存在と密接に関わっていることを見出した(図13A)。その一方で、真皮層全体としてのコラーゲン産生量は、基底膜を保護するMMP阻害剤やヘパラナーゼ阻害剤の添加による影響を受けなかった(図13B)。これらの結果を受けて、本発明者らは、基底膜側からなんらかの因子が分泌されることで、基底膜直下の真皮線維芽細胞のみが活性化され、V型コラーゲンを産生するという仮説に至った。この仮説を実証するため、真皮層、基底膜、及び表皮層を含む皮膚三次元モデルにおいて、培地に基底膜を保護するMMP阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤を添加した培養物の培地を採取し、かかる培地を線維芽細胞培養物に添加することで、V型コラーゲンの発現を調べたところ(図14)、基底膜を保護するMMP阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤を添加した培養物から得た培地が、V型コラーゲン発現促進作用を有することを見出した。
【0022】
基底膜を保護するMMP阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤を添加した皮膚三次元モデルの培養物から表皮を回収し、阻害剤の添加の有無で発現が変化した成長因子に着目したところ、PDGF-BBを、V型コラーゲン発現促進作用を有する成長因子として特定した(図15)。PDGF-BBの受容体であるPDGFRβは、基底膜直下の真皮線維芽細胞において発現することが示された。理論に限定されることを意図するものではないが、これらの知見から、老化にしたがい、基底膜がダメージを受けると、PDGF-BBの産生量がへり、それに伴いV型コラーゲンの発現量が低下することで、皮膚のハリが失われるという老化モデルを説明することができる。この老化モデルを参照すると、本発明により特定されたラミニン511発現促進剤、表皮基底膜安定化剤、表皮幹細胞の減少抑制または増加促進剤は、PDGF-BBの産生促進剤ということもでき、またコラーゲン産生促進剤、特に好ましくはV型コラーゲンの産生促進剤として用いることもでき、ハリ改善剤として、化粧料に配合しうる。
【0023】
表皮基底膜安定化剤とは、表皮基底膜を安定化できる薬剤をいう。基底膜安定化剤は、基底膜を分解する細胞外マトリックス分解酵素の阻害剤であってもよく、また基底膜構成分子の発現促進剤であってもよい。細胞外マトリックス分解酵素の阻害剤としては、ヘパラナーゼ阻害剤が挙げられ、例えばムクロジエキスパウダー、カノコソウエキスE、陳皮エキスBG、ホワイトリリー、長命草エキス、IBR、S-173、BIBIPUといった薬剤が知られている。また、細胞外マトリックス分解酵素の阻害剤として、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤も挙げられ、例えばウコンエキスBG、トルメンチラエキス、マンゴスチンエキスBG、CGS27023Aといった薬剤が知られている。表皮基底膜の安定化を介して表皮基底幹細胞の減少抑制、又は増殖させることができる。したがって、表皮基底膜安定化剤は、表皮基底幹細胞の減少抑制剤、又は増加促進剤ということもできる。表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加促進剤は、表皮基底幹細胞の増殖、減少の抑制、又は維持作用を発揮することができる薬剤をいう。また表皮基底幹細胞の減少抑制剤又は増加促進剤を介して、表皮の老化防止作用を発揮することができる。したがって、表皮基底膜安定化剤は、皮膚老化防止剤ということもできる。
【0024】
本発明の表皮幹細胞減少抑制又は増加促進剤とは、皮膚において表皮幹細胞の減少抑制、維持、又は増加促進することができる薬剤をいう。表皮幹細胞は、老化や紫外線照射にともない数が減少するが本発明の表皮幹細胞減少抑制又は増加促進剤を適用することで、表皮幹細胞の減少抑制又は維持することができる。また別の態様では、表皮幹細胞の数を増加することもできる。
【0025】
本発明に使用される表皮細胞は、培養表皮細胞を用いることができる。培養表皮細胞は、分化誘導を行って得られた3次元表皮モデルを用いることもできる。表皮細胞は、ケラチノサイト、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞、メラノサイト、表皮基底細胞を含むことができ、さらに、表皮幹細胞を含むことが好ましい。さらに好ましくは、かかる表皮幹細胞は、MCSPを発現する表皮幹細胞、すなわち表皮基底幹細胞であることが好ましい。表皮細胞の中には、表皮基底幹細胞の他にも、バルジ領域や皮脂腺にも表皮幹細胞が存在すると考えられるが、これらの中で、表皮基底幹細胞のみが、MCSPを発現することができる。したがって、MCSP発現表皮幹細胞は、通常、表皮基底幹細胞のことを指す。
【0026】
表皮細胞は、インテグリンを発現していることが好ましい。発現されるインテグリンとしては、αインテグリン、βインテグリンなどがあげられる。特に表皮幹細胞は、β1インテグリンを発現しているものが好ましい。表皮細胞は、任意の動物種由来の細胞であってよいが、種毎の影響を排除する目的で、ヒトの細胞であることが好ましい。ヒト培養細胞は、成人、小児、幼児、乳児、新生児、胎児など任意の由来であってよいが、基底幹細胞が多く含まれる細胞を用いる観点から、胎児由来であることが好ましい。
【0027】
表皮細胞において発現されるインテグリンは、細胞膜に存在し、細胞外マトリックスのレセプターとして機能する分子をいう。インテグリンは、α鎖とβ鎖とから構成される。α鎖は、18種ほど見つかっており、β鎖は8種ほど見つかっている。β1インテグリンとは、β鎖が、β1サブユニットであり、α鎖は任意のサブユニットであるインテグリンをいう。β1サブユニットを含むインテグリンは、ラミニンとの結合性が高い。理論に限定されることを意図しないが、老化や紫外線の影響によりラミニン511が失われることで、β1インテグリンを発現する幹細胞も失われ、結果としてMCSP発現幹細胞の数が減少すると考えられる。
【0028】
候補薬剤は、化粧品や医薬品の任意のライブラリーに含まれる薬剤を用いることができる。これらのライブラリーとしては、化合物ライブラリー、抽出物ライブラリーなど任意のライブラリーを用いることができる。候補薬剤のうち、ラミニン511の発現を増加できる薬剤を選択することで、ラミニン511発現促進剤、表皮基底膜安定化剤、表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加促進剤としてスクリーニングすることができる。
【0029】
対照とは、判定工程において候補薬剤のラミニン511発現促進効果を判定するために使用される比較のための基準となるラミニン511発現量をもたらす実験群を指す。したがって、候補薬剤のみを含まずに、同条件で、同期間培養された培養細胞を用いて決定されたラミニン511の発現量が、対照の発現量として比較のために供される。このような対照の発現量は、候補薬剤を含む培養培地で表皮細胞を培養する工程と平行して細胞を培養し、ラミニン511の発現を測定することで決定されてもよいし、予め別に同条件で同期間培養し、ラミニン511の発現を測定することで決定されてもよい。
【0030】
本発明のスクリーニング方法を、化粧品原料に対して行ったところ、アルジェレックスがラミニン511産生促進効果を有する薬剤として選択された。このようにして選択された薬剤は、ラミニン511の発現促進剤であり、表皮基底膜安定化剤でもあり、また表皮基底幹細胞の減少抑制剤でもあり、また表皮基底幹細胞の増加促進剤でもある。
【0031】
アルジェレックスとは、一丸ファルコス株式会社から販売される化粧品原料であり、海藻抽出エキスに関する。より具体的に、アルジェレックスは、褐藻・紅藻・緑藻の混合抽出エキスに関する。褐藻の全藻を、50%1,3-ブチレングリコール中に3日間浸漬をし、ろ過してえられた褐藻抽出液と、褐藻、紅藻、及び緑藻の全藻を、50%1,3-ブチレングリコール中に3日間浸漬をし、ろ過してえられた褐藻、紅藻、及び緑藻の抽出液とを混合して得られる。アルジェレックスは、水分含量を改善し、また肌荒れに対する抑制効果を発揮すると考えられている。アルジェレックスに用いられる褐藻は、コンブ属及びワカメ属の藻類であり、一例としてミツイシコンブやワカメである。アルジェレックスに用いられる紅藻は、ムカデノリ属の藻類であり、一例としてキリンサイやヒジリメンである。アルジェレックスに用いられる緑藻は、アオサ属の藻類であり、一例としてウスバアオノリである。
【0032】
本発明において、海藻抽出エキスは、褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の藻類から抽出されたエキスに関する。さらに好ましい態様では、海藻抽出エキスは、褐藻、紅藻、及び緑藻の抽出エキスに関する。さらにより好ましくは、コンブ属及びワカメ属の褐藻、ムカデノリ属の紅藻、及びアオサ属の緑藻の抽出エキスであり、最も好ましくは、アルジェレックスである。使用される溶媒は、任意の溶媒であってよく、水、アルコール、エーテル、エステルなどを単独で又は混合して用いることができる。使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの2価アルコール、及びグリセリンなどの3価アルコールが用いられてもよい。エーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフランなどが用いられてもよい。エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチルなどが用いられてもよい。混合物として使用される場合、任意の混合比で使用することができる。例えば水と1,3-ブチレングリコールの混合液は、1:10~10:1の範囲で使用することができ、さらに好ましくは3:10~10:3の範囲で使用できる。1:1混合液を使用してもよい。海藻抽出エキスは、化粧料に配合することができる。例えば0.0001%~10%の量、好ましくは0.001%~1.0%の海藻抽出エキスを化粧料に配合することができる。一例として、0.01%の海藻抽出エキスを、例えば美容液、化粧水、乳液、クリーム等の化粧料に配合することができる。
【0033】
ラミニン511発現促進剤として、スクリーニングされた本発明の海藻抽出エキスは、ラミニン511発現促進効果、基底膜安定化効果、及び表皮幹細胞増殖促進又は減少抑制効果を発揮する。また、これらの効果に起因して、又は独立に、海藻抽出エキスは、ヘパラナーゼ遺伝子の発現を抑制する。これにより、皮膚バリア機能の改善作用を発揮する。したがって、海藻抽出エキスを含むラミニン511発現促進剤は、ヘパラナーゼ遺伝子の発現抑制剤又は皮膚バリア機能改善剤として使用することもできる。また、これらの効果に起因して、又は独立に、海藻抽出エキスは、ヒアルロン酸合成酵素2遺伝子の発現を増加するとともに、ヒアルロニダーゼ遺伝子の発現を抑制する。これにより、肌のうるおいが向上する。したがって、海藻抽出エキスを含むラミニン511発現促進剤は、ヒアルロン酸増加促進剤又は肌うるおい向上剤として使用することもできる。また、これらの効果に起因して、又は独立に、海藻抽出エキスは、PDGF-BBの発現を増加する。PDGF-BBは、真皮線維芽細胞に作用することで、コラーゲン、特にV型コラーゲンの産生を促進することから、海藻抽出エキスを含むラミニン511発現促進剤は、ハリの改善作用を発揮する(生体医工学(2017) 55(2):97-102)。また、PDGF-BBは、間葉系幹細胞の安定化に寄与することが知られている。間葉系幹細胞には真皮幹細胞も含まれ、PDGF-BBは真皮幹細胞に作用して、ハリの改善作用を発揮する。したがって、海藻抽出エキスを含むラミニン511発現促進剤は、PDGF-BBの発現促進剤又はハリ改善剤として使用することもできる。また、これらの効果に起因して、又は独立に、海藻抽出エキスは、IL-8の発現を抑制する。これにより、炎症抑制作用を発揮する。したがって、ラミニン511発現促進剤は、IL-8の発現抑制剤、炎症抑制剤として使用することもできる。したがって、海藻抽出エキスは皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症の改善剤ということもでき、皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症を患うか、又は改善を必要とする対象に適用されうる。
【0034】
本発明の別の態様では、本発明は、皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症のうちの少なくとも1、好ましくは全ての改善のための美容方法に関する。かかる美容方法は、褐藻、紅藻、及び緑藻からなる群から選ばれる少なくとも1の抽出エキスを含む化粧料を、皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症の少なくとも1、好ましくは全てを患うか、又は改善を必要とする対象に適用することを含む。このような対象は、1)皮膚におけるヒアルロン酸低下、2)皮膚バリア機能の低下、3)炎症の開始、4)乳頭層における線維量の低下、及び 5)PDGF-BB産生低下のうちの少なくとも1、または全ての症状を有しうる。さらに別の態様では、皮膚バリア、ハリ、潤い、及び炎症の少なくとも1、好ましくは全てを患うか、又は改善を必要とする対象は、皮膚水分量低下、肌荒れ、色素沈着及び肌の黒化、皮膚の柔軟性の低下などの症状を患っている対象でもある。本発明の美容方法では、かかる対象に対し、1日少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回、適量を顔面及び体表面に適用することができる、特に好ましい態様は、入浴後、就寝前、及び/又は起床後に適用することができる。
【0035】
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)は、下記の化学式:
【化1】
で表される化合物である。HEIは、ヘパラナーゼ阻害活性及びMMP9阻害活性を有することが示された(図8及び9)。また、HEIは、ラミニン511の発現促進効果及びαMCSP陽性の幹細胞維持効果を有する(図7)。理論に限定されることを意図するものではないが、ヘパラナーゼ阻害及びMMP9阻害活性により、ラミニン511の発現促進効果を発揮し、それによりαMCSP陽性の幹細胞維持効果が発揮されうる。よって、本発明は、HEIを含むラミニン511発現促進剤に関する。ヘパラナーゼとMMP9は、ともに細胞外マトリックス分解酵素であるため、HEIは、細胞外マトリックス分解酵素阻害剤ということもできる。ヘパラナーゼやMMP9は、癌が転移する際に発現する際に利用されることが知られている。癌細胞がこれらの酵素の働きにより基底膜を破壊して血流にのり転移が生じる。またMMP9は、血管新生にも関与している。したがって、MMP9阻害剤は、血管新生抑制剤として使用することができ、それにより癌細胞の増殖抑制作用を有する。したがって、本発明におけるヘパラナーゼとMMP9の活性阻害剤、基底膜安定化剤は、化粧料への配合のみならず、癌の転移抑制剤、血管新生抑制剤、癌細胞増殖抑制剤として医薬に使用することもできる。化粧料や医薬品に配合される場合には、一例として、0.00001%~10%の範囲、好ましくは0.0001%~5%の範囲、より好ましくは0.001%~3%の範囲で配合することができる。一例として、化粧水、美容液、乳液、クリームなどの化粧料にたいし、1.5%で配合することもできる。
【0036】
本発明でスクリーニングされた、ラミニン511の発現促進剤、表皮基底膜安定化剤、及び表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加促進剤は、それぞれ、化粧品素材として化粧料に配合することができる。この化粧品素材が配合された化粧料は、ラミニン511の発現促進を介して、表皮基底膜の安定化を介して、又は表皮基底幹細胞の減少抑制若しくは増加促進を介して、表皮に対して抗老化作用又は抗紫外線作用を発揮することができる。化粧料としては、任意の化粧料に配合することができ、例えば美容液、化粧水、乳液、クリーム、ボディミルク、入浴剤、日焼け止め、化粧下地、メークアップ商品、ローション、アフターシェービングクリームなどに使用することができる。また、医薬品、医薬部外品などに配合することもできる。こうした医薬品は、経口、経皮、筋肉内、静脈内など、任意の経路で投与することができるが、皮膚に直接作用される観点からは、経皮投与で投与することが好ましい。経皮投与で投与するための、皮膚外用剤、皮膚パッチなどに剤形されることが好ましい。特に皮膚外用剤に配合することができる。これらの化粧品や医薬品に一般に添加できる薬剤、例えば保湿剤、美白剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、着色剤、香料、水、溶媒、防腐剤、保存剤、pH調整剤、ゲル化剤、その他活性成分を含むことができる。
【0037】
HEIの投与により、フィラグリンの遺伝子発現量が増加し、また皮膚バリア機能の向上、水分含量の向上が確認された。これらの作用は、ラミニン511の発現促進により、基底膜が安定化したことに起因すると考えられる。表皮幹細胞の減少は、あらゆる面から表皮の老化現象に関わりうる。表皮の老化とは、一例として、潤いの低下、肌荒れ、色むら、及び皮膚のハリの低下などが挙げられる。これらの老化現象は、それぞれ、ヒアルロン酸低下、皮膚バリア機能の低下、炎症惹起、及び乳頭層線維やPDGF-BBの産生減少が原因となって生じている。これらの老化現象は、すべて表皮基底幹細胞の数の減少抑制又は増加促進により解決することができる。したがって、ラミニン511発現促進剤、表皮基底膜安定化剤、及び表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加促進剤は、それぞれ、フィラグリン遺伝子発現促進作用、皮膚バリア機能向上作用、水分含量向上作用、ヒアルロン酸増加作用、炎症鎮静作用、及び乳頭層線維やPDGF-BB産生促進作用からなる群から選ばれる1以上の作用を有する抗老化剤ということもできる。また、ラミニン511発現促進剤、表皮基底膜安定化剤、及び表皮基底幹細胞の減少抑制又は増加促進剤は、それぞれ、フィラグリン遺伝子発現促進剤、皮膚バリア機能向上剤、水分含量向上剤、ヒアルロン酸増加剤、炎症鎮静剤、及び乳頭層線維やPDGF-BB産生促進剤ということもできる。
【実施例0038】
実施例1:ヒト皮膚におけるMCSP陽性表皮基底幹細胞の加齢変化及び紫外線の影響の測定
サンプル
インフォームドコンセントを行った20代から70代の被験者(20代:9名、30代:10名、40代:10名、50代::9名、60代:10名、及び70代:9名)の顔面及び腹部の皮膚サンプルを取得し、AMex法に従って冷アセトンを用いて固定し、そしてパラフィンに包埋した。
【0039】
包埋された組織を厚さ3μmの切片にし、メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)抗体(MAB2029,Chemicon, Billerica, MA)を1次抗体として用い、2次抗体としてAlexa488標識抗マウスIgG抗体(Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて染色した。さらにDAPIを用いて核染色を行い、さらに抗α6インテグリン抗体(GOH3, SantaCruz, Dallas, TX)を1次抗体として用い、2次抗体としてAlexa594標識抗ラットIgG抗体(Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて染色した。Olympus BX51顕微鏡を用いて可視化し、画像をDPコントロールデジタルカメラで取得した。20代の被験者及び60代の顔面部及び腹部の染色結果を図1Aに示す。
【0040】
図1Aの結果から、20代の被験者と、60代の被験者において、表皮基底層に存在するMCSP陽性の基底細胞(以下、表皮基底幹細胞という)の数は、顔面部及び腹部の両方で、加齢により減少することがわかった。また、同じ被験者における顔面部(露光部)と腹部(非露光部)との比較から、顔面部(露光部)において表皮基底幹細胞の数が少ないことがわかった。また、各被験者において、基底膜の長さに対する表皮基底幹細胞の数を測定し、その平均をグラフ化して示した(図1B)。
【0041】
次に、0才から60代の各年代の被験者から取得されたケラチノサイトを培養後、分離・回収し、RNeasy mini kit (QIAGEN, Tokyo, Japan)を製品説明書に従って使用して、mRNAを抽出・精製した。
ケラチノサイトにおけるMCSP遺伝子の発現量を、Platinum SYBR Green qPCRsuper MIX-UDG (Invitrogen Japan, Tokyo Jaqpan)を用いて定量的PCRを行った。使用したプライマーは下記の通りである:
【表1】
各年代における発現量の変化を図1Cに示す。
【0042】
図1Aの結果から、加齢と紫外線は、それぞれ、表皮基底幹細胞の数の減少に寄与することがわかった。また、図1B及びCの結果から、加齢により、MCSP陽性細胞の数が得ると共に、MCSPの発現量も低下することが示された。
【0043】
包埋された組織を厚さ3μmの切片にし、抗ラミニン332抗体(作成:BM165, mouse monoclonal antibody)、抗ラミニン511抗体(4C7、Abacam, Cambridge, UK)、及び抗β1インテグリン抗体(販売元:P5D2, Santa Cruz, CA)をそれぞれ1次抗体として用い、2次抗体としてAlexa488標識抗マウスIgG抗体(販売元:Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて染色した。さらにDAPIを用いて核染色を行った。Olympus BX51顕微鏡を用いて可視化し、画像をDPコントロールデジタルカメラで取得した。20代の被験者及び60代の顔面部及び腹部の染色結果を図2Aに示す。
【0044】
また、各年代の被験者から取得されたケラチノサイトを分離・回収し、RNeasy mini kit (QIAGEN, Tokyo, Japan)を製品説明書に従って使用して、mRNAを抽出・精製した。ケラチノサイトにおけるラミニンα5遺伝子の発現量を、Platinum SYBR Green qPCRsuper MIX-UDG (Invitrogen Japan, Tokyo Jaqpan)を用いて定量的PCRを行った。使用したプライマーは下記の通りである:
【表2】
各年代における発現量の変化を図2Bに示す。図1A~C、並びに図2A及び2Bの結果から、加齢及び紫外線に対する影響について、ラミニン551及びβ1インテグリンの発現量と、表皮基底幹細胞の数とは同傾向を示すことが分かった。
【0045】
実施例2:ラミニン511と、幹細胞マーカーとの関連
ヒト表皮ケラチノサイトを、Humedia-KG2培地(Kurabo Col, Ltd, Japan)を用い、iMatrix-511(和光純薬工業株式会社)でコートされたPrimeria フラスコ(Coaster, Tokyo, Japan)中で6日培養した。対照として、未コートのフラスコ中で培養した。サブコンフレントまで増殖した細胞をTypsin(Nakarai co, ltd, Japan)で剥がし、iMatrix-511でコートしたchamber slide(Thermo Fisher Science, Waltham, MA)に播種し、培養した。対照群は、未コートのchamber slideで培養した。
【0046】
培養後、細胞を4%PFAで固定し、MCSP抗体(MAB2029,Chemicon, Billerica, MA)を1次抗体として用い、2次抗体としてAlexa488標識抗マウスIgG抗体(Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて染色した。さらにDAPIを用いて核染色を行った。Olympus BX51顕微鏡を用いて可視化し、画像をDPコントロールデジタルカメラで取得した。未コート対照と比較して、iMatrix511コート群では、MCSP陽性細胞がより多く維持されていることがわかった(図3A)。
【0047】
次に培養後に培地を捨て、PBSで洗浄した。RNeasy mini kit (QIAGEN, Tokyo, Japan)を製品説明書に従って用いて、回収された細胞からmRNAを抽出・精製した。幹細胞マーカーであるCD46、DLL1、Lrig1及びCD44の遺伝子の発現量を測定するため、Platinum SYBR Green qPCRsuper MIX-UDG (Invitrogen Japan, Tokyo Jaqpan)を用いて定量的PCRを行った。使用したプライマーは下記の通りである:
【表3】
対照におけるCD46、DLL1、Lrig1及びCD44の遺伝子の発現量と比較して、ラミニン511コート群では、CD46、DLL1、Lrig1及びCD44の遺伝子の発現量が増加しており(図3B)、ラミニン511が、幹細胞の維持に寄与することが示された。
【0048】
実施例3:ラミニン分解抑制剤の添加によるMCSP陽性表皮基底幹細胞数の維持
インフォームドコンセントを行った被験者(20代から30代)の腹部の皮膚サンプルを取得した。取得されたサンプルをMMP9阻害剤であるCGS270234(10μM)及びヘパラナーゼ阻害剤であるBIPBIU(10μM)を含む培養培地で4日間培養した。培養培地は、William‘s E培地( Thermo Fisher Science, Waltham, MA)を用いた。CGS270234及びBIPBIUは、それぞれ下記の化学式により表される化合物であり、MMP9阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤として使用できることが知られている(Iriyama S, et al., Exp Dermatol. 2011; 20 (11): 953-5)。
【化2】
培養前の皮膚サンプル、4日間培養後のサンプル(対照:溶媒DMSOを等量添加)、及び4日間培養後のサンプル(薬剤添加)を、AMex法に従って冷アセトンを用いて固定し、そしてパラフィンに包埋した。
【0049】
包埋された組織を3μmの切片にし、抗ラミニン551抗体(4C7、Abacam, Cambridge, UK)を1次抗体として用い、次に2次抗体としてAlexa488標識抗mouseIgG抗体(販売元:Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて共染色した。さらにDAPIを用いて核染色を行った。結果を図4(A)として示す。次に、包埋された皮膚サンプルを、抗MCSP抗体(MAB2029,Chemicon, Billerica, MA)を1次抗体として用い、次に2次抗体としてAlexa488標識抗マウスIgG抗体(Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて共染色した。さらにDAPIを用いて核染色を行った。結果を図4(B)として示す。
【0050】
非培養群(Day0)と、対照の薬剤未添加群(Day4: Control)との比較から、4日間の組織培養により、基底膜に存在していたラミニン551が減少すると共に、MCSP陽性細胞も減少することが分かった。その一方で、ラミニンを分解するマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)及びヘパラナーゼの阻害剤を添加して培養すると、ラミニン551が維持されると共に、MCSP陽性細胞も維持された。
【0051】
実施例4:ラミニン511産生促進効果のある薬剤のスクリーニング
胎児から取得された表皮細胞を、Humedia-KG2培地(Kurabo Col, Ltd, Japan)を用い、iMatrix-511(和光純薬工業株式会社)でコートされたPrimeria フラスコ(Coaster, Tokyo, Japan)中で6日間培養した。細胞がサブコンフルエントになったら、Trypsinで細胞を剥がし、6well plateに播種し、1日後に候補薬剤を溶解した培地に置換し、48時間培養を行った。候補薬剤として、化粧品登録原料178品(内訳:エキス類135品及び単品化合物43品)を用いた。培地を捨て、PBSで洗浄し、mRNAを、RNeasy mini kit (QIAGEN, Tokyo, Japan)を、製品説明書に従って抽出・精製した。ラミニンα5、ラミニンβ1、及びラミニンγ1遺伝子の発現量を、Platinum SYBR Green qPCRsuper MIX-UDG (Invitrogen Japan, Tokyo Jaqpan)を用いて定量的PCRを行った。使用したプライマーは下記の通りである:
【表4】
対照におけるラミニンα5、ラミニンβ1、及びラミニンγ1の遺伝子の発現量と比較して、ラミニンα5、ラミニンβ1、及びラミニンγ1の遺伝子の発現量をすべて増加させた候補薬剤として、アルジェレックス(一丸ファルコス株式会社)を見いだした。
【0052】
スクリーニングされたアルジェレックスについて、薬剤濃度を、0.001%、0.01%、及び0.10%と変えて試験し、用量依存的のラミニン511発現促進効果を調べた。使用した細胞、培養培地、培養条件、及びPCR条件は実施例4の薬剤スクリーニング方法において使用されたものと同一であった。結果を図5Aに示す。さらに、同条件で、抗ラミニン511抗体(販売元:cloud-clone corp)を使用して、ELISAによりタンパク質定量解析を行った。結果を図5Bに示す。
【0053】
実施例5:アルジェレックスによる皮膚改善機能の検証
胎児から取得された表皮細胞を、Humedia-KG2培地(Kurabo Col, Ltd, Japan)を用い、iMatrix-511(和光純薬工業株式会社)でコートされたPrimeria フラスコ(Coaster, Tokyo, Japan)中で培養した。細胞がサブコンフルエントになったら、Trypsinで細胞を剥がし、6well plateへ播種し、1日後に0.01%アルジェレックスを含む培地に置換し、48時間培養を行った。対照としては、アルジェレックスを含まない培地を用いた。培地を捨て、PBSで洗浄し、mRNAを、RNeasy mini kit (QIAGEN, Tokyo, Japan)を、製品説明書に従って抽出・精製した。ヘパラナーゼ(HPA)遺伝子、PDGF-BB遺伝子、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)遺伝子、ヒアルロニダーゼ1(HYAL1)、及びインターロイキン8(IL-8)遺伝子の発現量を、Platinum SYBR Green qPCRsuper MIX-UDG (Invitrogen Japan, Tokyo Jaqpan)を用いて定量的PCRを行った。使用したプライマーは下記の通りである:
【表5】
それぞれの発現量の変化を図6A~Eに示す。アルジェレックスは、培養表皮細胞において、ヘパラナーゼ(HPA)遺伝子の発現を有意に低減させ(p<0.01)、PDGF-BB遺伝子の発現を有意に増加させ(p<0.001)、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)遺伝子の発現を有意に増加させ(p<0.01)、ヒアルロニダーゼ1(HYAL1)遺伝子の発現を有意に低減させ(p<0.01)、そしてインターロイキン8(IL-8)遺伝子の発現を低減させた(p<0.05)。
【0054】
実施例6:HEIのラミニンの分解抑制及びMCSP陽性表皮基底幹細胞の維持効果
インフォームドコンセントを行った被験者(20代から30代)の腹部の皮膚サンプルを取得した。取得されたサンプルを0.01%1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI、又はS-173)を含む培養培地で5日間培養した。培養培地は、William‘s E培地(Thermo Fisher Science, Waltham, MA )を用いた。対照は、HEIを添加しない培養培地を用いて培養した。培養後の皮膚サンプルを、AMex法に従って冷アセトンを用いて固定し、そしてパラフィンに包埋した。
【0055】
包埋された組織を3μmの切片にし、MCSP抗体(MAB2029,Chemicon, Billerica, MA)を1次抗体として用い、2次抗体としてAlexa488標識抗マウスIgG抗体(Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて染色した。さらにDAPIを用いて核染色を行い、さらに抗ラミニン551抗体(4C7、Abacam, Cambridge, UK)を1次抗体として用い、2次抗体としてAlexa488標識抗マウスIgG抗体(Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて染色した。Olympus BX51顕微鏡を用いて可視化し、画像をDPコントロールデジタルカメラで取得して図7Aに示した。培養を行うことで、対照では、ラミニン511が減少し、さらにMCSP陽性細胞数も減少する。その一方で、0.01%HEIを添加して培養した場合には、ラミニン511の量が維持でき、また基底膜上のMCSP陽性細胞数も維持できた。
【0056】
実施例7:HEIのヘパラナーゼ阻害作用
ヘパラナーゼアッセイを、Behzad F, et al., Analytical Biochemistry, 320, pp.207-213, 2003に記載されるヘパラン硫酸固定化プレートを用いて行った。具体的に、へパラン硫酸(Sieikagaku, Tokyo, Japan)を、Photo-ビオチンと反応させることにより、ビオチン化へパラン硫酸を調製した。ビオチン化ヘパラン硫酸を、炭水化物結合表面プレート(Coastar, Tokyo, Japan)上に固定した。A431細胞ライセート(50μg/ml)と共に、0%HEI、0.0005%HEI、0.005%HEI、及び0.05%HEIをビオチン化ヘパラン硫酸固定化プレート上に添加して、3時間37℃でインキュベートし、PBS-Tで洗浄した。その後、ペルオキシダーゼ―アビジン(Vector Laboratories, Inc. CA, USA)と37℃で1時間インキュベートした。3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)溶液(Bio-Rad, Tokyo, Japan)を加え、そしてプレートをさらに室温で30分間インキュベートした。450nmでの吸光度を計測し、ヘパラナーゼの阻害作用を決定した。HEIは、用量依存的にヘパラナーゼの活性を阻害することが示された(図8)。
【0057】
実施例8:HEIのMMP9阻害作用
MMP9アッセイを、Matrix Metalloproteinase-9 (MMP-9) colorimetric drug discovery kit (Enzo life sience Inc.)を用いて行った。具体的に、recombinant human MMP-9 enzymeの溶液に、0.0001%, 0.001%, 0.01% となるようにHEIを加えた。chromogenic MMP-9 substrate混合後、1分おきに412nmの吸光度を測定した。吸光度の傾き(OD/min)から、HEIのMMP-9阻害率(%)を算出した。HEIは、用量依存的にMMP9の活性を阻害することが示された(図9)。
【0058】
実施例9:HEIの表皮改善効果
インフォームドコンセントを行った被験者(20代から30代)の腹部の皮膚サンプルを取得した。取得されたサンプルを0.01%HEIを含む培養培地で5日間培養した。培養培地は、William‘s E培地(Thermo Fisher Science, Waltham, MA )を用いた。対照は、HEIを添加しない培養培地を用いて培養した。培養後の皮膚サンプルに付着した余分な水分をキムタオルでふき取り、5分清置させた後に、Vapometerを用いてTEWLを測定し、Corneometerを用いて角層水分量を測定した。結果を図10B及びCに示す。また、培養後の皮膚サンプルを、AMex法に従って冷アセトンを用いて固定し、そしてパラフィンに包埋した。
【0059】
包埋された組織を3μmの切片にし、フィラグリン抗体(販売元:AKH-1, Santa CruzBiotechnology, Dallas, TX)を1次抗体として用い、2次抗体としてAlexa488標識抗mouseIgG抗体(Lifetechnologies, Carlsbad, CA)を用いて染色した。さらにDAPIを用いて核染色を行った。Olympus BX51顕微鏡を用いて可視化し、画像をDPコントロールデジタルカメラで取得して図10Aに示した。
【0060】
次に、20~50歳の20名の男性に対し、1.5%HEI水溶液を顔の片面に、水を顔のもう一方の片面に、1日2回4週間適用した。適用前、適用後2週間、及び適用後4週間の時点で、Vapometerを用いてTEWLを測定し、Corneometerを用いて角層水分量を測定した。結果を図10D及びEに示した。
【0061】
HEIの添加群では、ex vivo実験において、フィラグリンの増加傾向が見られた。そして、ex vivo実験及びin vivo実験のいずれにおいても、TEWLが減少することから、皮膚バリア機能の改善し、そして角層水分含量も増加した。
【0062】
実施例10:MMP阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤の添加による基底膜直下のコラーゲンの変化
Bio Predic社から購入した皮膚組織を皮膚組織片とし、CGS27023A(終濃度10-5M)及びBIPBIPU(終濃度10-5M)を添加したWilliam’s E培地中で培養した。対照ではこれらの阻害剤を含めないで培養を行った。培地を毎日交換し、培養5日目に皮膚組織片を回収した。回収した皮膚組織片をZamboni固定液に浸漬し、1%オスミウムで後固定した。皮膚試料はエポキシ樹脂で包埋した。超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡(JEOL JEM1230)にて観察した(図11A)。
【0063】
各群6個の皮膚切片を観察し、1切片から30枚写真を撮影した。すべての写真の真皮部位に存在するコラーゲン線維のサイズと本数を画像解析ソフト「win ROOF 2013」を用いて算出しヒストグラムを作成した(図11B)。また、同様に画像解析ソフト「win ROOF 2013」を用いて、真皮の面積も抽出し、真皮中のコラーゲン線維の密度と、1本あたりの太さを算出し、平均値を導き出した(図11C)。
【0064】
実施例11:V型コラーゲンの発現
Bio Predic社から購入した皮膚をAMeX法に供して、パラフィンブロックを作成した。3μmの厚さで切片を作成し、V型コラーゲンに対する抗体(ORIGENE社,Cat#:AM1015PU-N)及びサイトケラチン14(K-14)に対する抗体(Fitzgerald, Cat#;20R-CP002)を用いて蛍光免疫染色を行った(図12A)。基底膜領域がサイトケラチン14により染色されており、その直下において、V型コラーゲンが存在することが示され、加齢によりその量が減少した。
【0065】
Kurabo社、Bio Predic社から正常ヒト表皮細胞及び正常ヒト線維芽細胞を購入した。それぞれ、20~30代の被験者から取得された6検体、50-60代の被験者から取得された6検体を購入した。表皮細胞を無血清培地Humedia-KG2中で培養し、線維芽細胞を、10%血清を含むDMEM培地で培養した。1回継代した後、各サンプル6well plateに播種した。コンフルエントになった後に、各細胞を回収し、cDNAを調製し、下記プライマーを用いてリアルタイムPCRによりV型コラーゲンの遺伝子COL5A1の遺伝子発現量を評価した(図12B)。V型コラーゲンは、表皮細胞からは発現されず、線維芽細胞から発現され、加齢に伴いその発現量が低下することが示された。
【表6】
【0066】
Bio Predic社から購入した皮膚組織を皮膚組織片とし、CGS27023A(終濃度10-5M)及びBIPBIPU(終濃度10-5M)を添加したWilliam’s E培地中で培養した。対照ではこれらの阻害剤を含めないで培養を行った。培地を毎日交換し、培養5日目に皮膚組織片を回収した。回収した皮膚組織片をAMeX法に供して、パラフィンブロックを作成した。3μmの厚さで切片を作成し、V型コラーゲンに対する抗体(ORIGENE社,Cat#:AM1015PU-N)及びサイトケラチン14(K-14)に対する抗体(Fitzgerald, Cat#;20R-CP002)を用いて蛍光免疫染色を行った(図13A)。
【0067】
MatTeK社から購入した皮膚三次元モデル(EFT-400)を、CGS27023A(終濃度10-5M)、BIPBIPU(終濃度10-5M)を添加した専用培地(EFT400-ASY)中で培養した。対照ではこれらの阻害剤を含めないで培養を行った。2日に1回培地交換を行い、7日目に組織片を回収し、AMeX法に供して、パラフィンブロックを作成した。3μmの厚さで切片を作成し、V型コラーゲンに対する抗体(ORIGENE社,Cat#:AM1015PU-N)及びサイトケラチン14(K-14)に対する抗体(Fitzgerald, Cat#;20R-CP002)を用いて蛍光免疫染色を行った(図13A)。
【0068】
皮膚三次元モデルを阻害剤の添加及び非添加(対照)群それぞれにおいて4日間及び7日間培養した。培養後、表皮をはがし、真皮のみをTrizolに入れて、mRNAを抽出した。速やかにcDNAを作成し、上述のプライマーを用いて、リアルタイムPCRによりV型コラーゲンの遺伝子COL5A1の遺伝子発現量を評価した(図13B)。
【0069】
皮膚組織の器官培養及び皮膚三次元モデルの両方において、対照と比較して、MMP阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤を添加した場合にV型コラーゲンの発現が増加した。その一方で、真皮層全体では、MMP阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤の添加によるV型コラーゲンの発現に有意な変化は見られなかった。
【0070】
実施例10のTEM画像において、基底膜直下に存在する線維芽細胞に着目をした(図13C)。図13Cの対照(阻害剤の非添加群)では、線維芽細胞内においてコラーゲン線維はあまり観察されない一方で、阻害剤添加群では、線維芽細胞内の小胞内にコラーゲン線維が観察される。この小胞は、コラーゲン分泌過程であることが示唆される。これにより、基底膜直下の線維芽細胞が、MMP阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤の添加により、コラーゲンを積極的に産生していることが示唆される。
【0071】
MatTeK社から購入した皮膚三次元モデル(EFT-400)を、CGS27023A(終濃度10-5M)、BIPBIPU(終濃度10-5M)を添加した専用培地(EFT400-ASY)中で培養した。対照ではこれらの阻害剤を含めないで培養を行った。培養2日目、4日目、7日目の培養上清を採取した。別途、Bio Predic社から購入した14ヶ月の子供から採取した皮膚由来の正常ヒト線維芽細胞を、10%FBS添加DMEM中で24時間培養した培養物に、皮膚三次元モデルの培養物から採取された培養上清を添加した。添加1日後に細胞を回収し、TrizolにてmRNAを抽出した。速やかにcDNAを作成し、上述のプライマーを用いて、リアルタイムPCRによりV型コラーゲンの遺伝子COL5A1の遺伝子発現量を評価した(図14)。皮膚三次元モデルの培養上清の添加により、V型コラーゲンの発現が有意に増加した。これにより、皮膚三次元モデルの培養上清には、V型コラーゲンの産生を促進する因子が含まれていることが示唆された。
【0072】
実施例12:V型コラーゲン発現を促進する因子の探索
MatTeK社から購入した皮膚三次元モデル(EFT-400)を、CGS27023A(終濃度10-5M)、BIPBIPU(終濃度10-5M)を添加した専用培地(EFT400-ASY)中で培養した。培養2日目、4日目、7日目の皮膚モデルから表皮を回収し、ナカライ社製RIPA bufferを使って、たんぱく質抽出液を調製した。Abcam社製membrane array kit(ab134002)を用いて、たんぱく質抽出液中の各種サイトカン量をFUJIFILM社製LAS-1000UVminiを用いて検出し、付属のソフトウエアにて数値化しグラフを作成した(データ未掲載)。対照に比較して、量が増大したサイトカインを、V型コラーゲン発現を促進する候補サイトカインとして選別した。かかる候補サイトカインとして、PDGF-BBを含む3種のサイトカインを選別した。
【0073】
R&D社から選別したリコンビナントサイトカインタンパク質を購入した。14ヶ月の子供から採取した皮膚由来の正常ヒト線維芽細胞を、10%FBS添加DMEM中で24時間培養した培養物において、各サイトカインが所定の濃度になるように25%血清を含むDMEM培地に添加した培地で置換し、さらに24時間培養した。培養後、細胞を回収
し、TrizolにてmRNAを抽出した。速やかにcDNAを作成し、上述のプライマーを用いて、リアルタイムPCRによりV型コラーゲンの遺伝子COL5A1の遺伝子発現量を評価した(図15)。3種のサイトカインの中で、PDGF-BBのみが、V型コラーゲン産生を有意に増加させた。これにより、PDGF-BBが、表皮側から産生されるサイトカインであって、基底膜直下の線維芽細胞に作用してV型コラーゲン発現を促進する因子であると考えられる。
【0074】
実施例13:PDGF-BBの作用箇所と、PDGF-BBの発現変化
実施例11と同様にして取得されたパラフィンブロックについて、3μmの厚さで切片を作成し、PDGFR-βに対する抗体(R&D Systems, Cat#;MAB1263)及びサイトケラチン14(K-14)に対する抗体(Fitzgerald, Cat#;20R-CP002)を用いて蛍光免疫染色を行った(図16A)。年齢によらず、基底膜直下に、PDGFR-βを発現する細胞が多く存在することが分かった。これにより、基底膜又は表皮側から分泌されたPDGF-BBが、基底膜直下の線維芽細胞に作用しうることが確かめられた。
【0075】
KAC社、Bio Predic社から購入した各年齢の正常ヒト表皮細胞を培養し、mRNAを抽出した。速やかにcDNAを調製し、下記プライマーを用いてリアルタイムPCRによりPDGFBの遺伝子発現量を評価した(図16B)。
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図14
図15
図16A
図16B
【配列表】
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