(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133571
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】気分障害のための新規ガンマアミノ酪酸型受容体モジュレーター
(51)【国際特許分類】
C07D 413/12 20060101AFI20230914BHJP
A61K 31/541 20060101ALI20230914BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230914BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230914BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C07D413/12 CSP
A61K31/541
A61P25/24
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127334
(22)【出願日】2023-08-03
(62)【分割の表示】P 2020512001の分割
【原出願日】2018-08-28
(31)【優先権主張番号】62/550,826
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517322042
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド ボルチモア
(71)【出願人】
【識別番号】309004585
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ リプリゼンテッド バイ ザ セクレタリー、デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
【氏名又は名称原語表記】THE U.S.A.AS REPRESENTED BY THE SECRETARY,DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン,スコット
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ダイク,アダム
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】モリス,パトリック
(57)【要約】
【課題】うつ関連障害の治療のための組成物および方法の提供。
【解決手段】半減期を延長することによりそれらの薬理作用を改善し、うつ関連障害の速効性治療薬としての有用性を付与するために重水素化されている、GABA
A受容体の新規α5サブユニット選択的ネガティブアロステリックモジュレーター。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】
(式中、
R
1、R
2、およびR
3はそれぞれ独立に、HまたはDであり、但しR
1、R
2およびR
3の少なくとも1つは、Dであり、および
R
4およびR
5はそれぞれ独立に、HまたはDである)
による重水素化GABA
A5-NAM化合物であって、
(a)重水素ドナーの存在下でまたはそれに重水素ドナーを続けて塩基でまたは塩基性条件下で(3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メタノールを処理すること;
(b)6-クロロニコチノニトリルまたはメチル 6-クロロニコチネートにステップ(a)の生成物を加えること;
(c)カルボン酸へとステップ(b)の生成物を加水分解すること;および
(d)チオモルホリン 1,1-ジオキシドまたはその塩とステップ(c)の生成物をアミドカップリングすること
により合成される化合物。
【請求項2】
前記重水素ドナーが、D2OまたはCD3ODである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式I:
【化2】
(式中、
R
1、R
2、およびR
3はそれぞれ独立に、HまたはDであり、但しR
1、R
2およびR
3の少なくとも1つは、Dであり、および
R
4およびR
5はそれぞれ独立に、HまたはDである)
による重水素化GABA
A5-NAM化合物を形成する方法であって、
重水素含有溶媒の存在下にて塩基で
6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチノニトリル;
6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチンアミド;および
6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチン酸
からなる群より選択される化合物を処理することを含む、方法。
【請求項4】
前記重水素含有溶媒が、D2Oである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物に投与される場合に同じ構造の非重水素化化合物よりも長い生物学的半減期を有する請求項1に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項6】
それを必要とするヒト対象においてうつ関連障害を治療する方法に使用するための請求項1に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物であって、
前記方法が、前記対象に重水素化GABAA5-NAM化合物の治療有効量を投与することを含む、重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項7】
経口で、皮内で、筋肉内で、腹腔内で、静脈内で、吹送により、または皮膚パッチで投与される、請求項6に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項8】
0.5、1、2、3または4日毎に前記対象に投与される、請求項6に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項9】
うつの治療または回復のための1つまたは複数の追加の治療法と組み合わせて対象に投与される、請求項6に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項10】
前記1つまたは複数の追加の治療法が、モノアミンオキシダーゼ阻害剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン-ノルエピネフィリン再取り込み阻害剤、トリプル再取り込み阻害剤、CNSアセチルコリン機能のモジュレーター、刺激薬、抗糖質コルチコイド、NMDA型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、三環系抗うつ薬、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される抗うつ剤の投与を含む、請求項9に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項11】
前記うつ関連障害が、一般的うつ病、大うつ病性障害(臨床的うつ病)、気分変調症、自殺傾向、単極性うつ病、双極性うつ病、精神病性うつ病、非定型うつ病、季節性感情障害、月経前不快気分障害、内因性うつ病、緊張病性うつ病、外傷後ストレス障害、産後うつ病、疾病または損傷から生じたうつ病、薬物またはアルコールから生じたうつ病、治療抵抗性うつ病、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項6に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項12】
前記うつ関連障害が、腫瘍、外傷、物質乱用障害、アルコール中毒などのいくつかのその他の原発性病状の二次的結果である、請求項6に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【請求項13】
前記対象が、ヒトである、請求項6に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年8月28日出願の米国特許仮出願第62/550,826号の利益を主張する。この出願の内容全体は、参照によりあたかも本明細書で記載されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の支援
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された認可番号第MH086828号に基づく政府の支援によりなされた。米国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
1.本発明の分野
本発明は、神経学、精神医学、薬理学および薬物の分野に関する。具体的には、本発明は、重要な位置で重水素化されて速効性抗うつ化合物としてのそれらの薬理効果を高めるα5サブユニットを含むガンマアミノ酪酸(GABA)受容体に対し選択性のあるネガティブアロステリックモジュレーター(NAM)を用いて、うつおよび/またはその他の精神的および神経学的状態を治療する、予防するまたは回復させるための組成物および方法に関する。重水素化化合物は、重水素化が特に人体中でそれらの半減期を延長するようになされているため、強化された特性を有する。
【0004】
2.発明の背景
ガンマアミノ酪酸A受容体(GABAAR)は、イオンチャネル型受容体であり、リガンド開口型イオンチャネルである。GABAARは、中枢神経系を有する全ての生物で発見されている。哺乳動物の神経系内でのそれらの広い分布のために、それらは、実質上全ての脳機能に関与する。GABAARの内在性リガンドは、中枢神経系における主要な阻害性神経伝達物質である、ガンマアミノ酪酸(GABA)である。GABAARは、ヘテロ五量体の、リガンド開口型イオンチャネルである。今日までに、19個のGABAA受容体サブユニットが特定されている。ほとんどのGABAA受容体は、2:2:1の化学量論比でα、β、およびγ2サブユニットを含む。GABAARの一次活性化部位は、GABAに対する、およびムシモール、ガボキサドール、およびビククリンを含むいくつかの薬物に対する結合部位である。隣接するγ2とαサブユニットの間の境界は、チャネル開閉のアロステリックモジュレーターである、ベンゾジアゼピン部位を形成する。αサブユニットの固有の特性が、この部位の薬理学的プロファイルを決定する。α1、α2、またはα3サブユニットを含む受容体は、ベンゾジアゼピン1型アゴニストであるゾルピデムにより増強されるが、α5サブユニットを含む受容体は、ゾルピデムに対し実質的に非感受性である。この部位での薬物の結合は、機能を促進するポジティブアロステリックモジュレーターおよび機能を低減するネガティブアロステリックモジュレーターを含む、GABAARを活性化するGABAの能力に影響を与えることができる。最近の研究は、α1サブユニットが鎮静作用、ベンゾジアゼピンの抗けいれん作用および健忘作用を選択的に媒介し、一方、α2およびα3サブユニットが抗不安作用を媒介することを示した。ベンゾジアゼピンの抗不安アゴニストに加えて、ベンゾジアゼピン部位で完全または部分的な逆アゴニストとして作用してGABAA受容体機能を低減するβ-カルボリンにより例示される、ある種の薬物が存在する。部分的逆アゴニストは、本開示の特定の実施形態では、より広い治療濃度範囲および不安症またはてんかん型放電をもたらすより低い可能性の利点を与える。
【0005】
α5サブユニットmRNAは、海馬および皮質(Allen Brain Atlas)の錐体細胞中で高度に発現され、α5含有GABAA受容体は、シナプスおよびシナプス外部位で、海馬CA1錐体細胞の樹状突起中に局在化している。抑制解除は長期増強(LTP)の誘導を促進するので、およびそれらの選択的前脳局在化のために、α5含有受容体を選択的に阻害する薬物が向知性薬として開発されている。例えば、α5含有GABAA受容体の部分的逆アゴニストが、海馬依存性学習課題で連想記憶獲得を強化することが示されている。
【0006】
うつ様行動の動物モデルにおけるα5サブユニット含有GABAA受容体の部分的逆アゴニストの抗うつ様効力は、Fishell et al(2015)により最初に示された。確立された前臨床モデルを用いて示された抗うつ作用の急性発症は、例えば、臨床的観点からは極めて望ましいが、これまで、これらの化合物を用いて試みられたことがなかった。この研究は、α5サブユニット含有GABAA受容体の部分的逆アゴニストが、少なくともうつの治療として有用であることを実証することを可能にする。
【0007】
うつ病性障害および自殺などのそれらの後遺症は、世界的に重大な問題である。うつの現在のゴールドスタンダード療法である、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は通常、最終的に効力を得るために6~8週間にわたり投与しなければならず、また、これらを使用する患者の約50%のみに効果がある。現在、FDAにより承認された速効性抗うつ剤は存在しない。現在開発中のものは、乱用傾向および精神障害様応答を誘導する傾向などの、それらの臨床的有用性を制限する多くの副作用を示す。うつのための代替薬物は存在するが、しかし、これらの多くは同様に、効力を得るまでに長期の治療が必要であり、かつこれらの多くはまた、効果的でないかまたは部分的に効果的であるにすぎない。従って、世界的に、うつ病性障害を治療し自殺発生率を減らすために使用できる新規薬物を特定する必要性がある。
【0008】
ガンマアミノ酪酸A受容体(GABAAR)は、イオンチャネル型受容体でありかつ、リガンド開口型イオンチャネルである。その内在性リガンドは、中枢神経系における主要な阻害性神経伝達物質である、ガンマアミノ酪酸(GABA)である。GABAARの一次活性化部位は、GABAに対するおよびムシモール、ガボキサドール、およびビククリンを含むいくつかの薬物に対する結合部位である。GABAARの第2の結合部位は、いわゆるベンゾジアゼピン受容体部位である。この部位での薬物の結合は、GABAARを活性化するGABAの能力に影響を与え得る(促進するまたは低下させる)。GABAARは、中枢神経系を有する全ての生物で発見されている。哺乳動物の神経系内でのそれらの広い分布のために、それらは、実質上全ての脳機能に関与する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、うつ関連障害;不安症関連障害;注意力関連障害;精神障害関連障害;人格障害;摂食障害;認知機能障害(外傷性脳損傷(TBI)後のもの、または非TBI関連認知機能障害を含む);神経障害性疼痛;慢性筋肉または骨疼痛;神経損傷をもたらす糖尿病合併症;筋力低下の全身発作;日中の反復性睡眠エピソード;片頭痛;嗜癖;またはこれらの組み合わせを含む、特定の医学的状態の治療のための組成物および方法に関する。
【0010】
具体的には、本発明は、式I:
【化1】
による重水素化GABA
A5-NAM化合物を含み、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立に、HまたはDであり、但し、R
1、R
2およびR
3の少なくとも1つは、Dであり、R
4およびR
5はそれぞれ独立に、HまたはDである。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、重水素化されている、エチル(S)-7-メトキシ-9-オキソ-11,12,13,13a-テトラヒドロ-9H-ベンゾ[e]イミダゾ[5,1-c]ピロロ[1,2-a][1,4]ジアゼピン-1-カルボキシレート(L-655,708);3-ブロモ-10-(ジフルオロメチル)-9H-ベンゾ[f]イミダゾ[1,5-a][1,2,4]トリアゾロ[1,5-d][1,4]ジアゼピン(RO4938581);N-ベンジル-6-エトキシ-4-オキソ-1H-1,5-ナフチリジン-3-カルボキサミド(CP-457,920);3-tert-ブチル-7-(5-メチルイソオキサゾール-3-イル)-2-(1-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-5-イルメトキシ)ピラゾロ(1,5-d)(1,2,4)トリアジン(MRK-016);および(1,1-ジオキシドチオモルホリノ)(6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ピリジン-3-イル)メタノン(RG-1662);からなる群より選択されるGABAA5-NAM化合物に関する。
他の実施形態では、本発明は、(3-(4-フルオフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メタノール;6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル-メトキシ)ニコチノニトリル;および6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチン酸、からなる群より選択される化合物に関する。
【0012】
好ましくは、重水素化GABA
A5-NAM化合物は、式IIによる。
【化2】
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明はまた、本明細書で考察される、重水素化バスミサニル関連またはバスミサニル誘導体化合物を含み、この化合物は、(a)(3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メタノールを重水素ドナーの存在下でまたはそれに重水素ドナーを続けて塩基でもしくは塩基性条件下で処理すること;(b)ステップ(a)の生成物を6-クロロニコチノニトリルまたはメチル 6-クロロニコチネートに加えること;(c)ステップ(b)の生成物をカルボン酸に加水分解すること;および(d)ステップ(c)の生成物をチオモルホリン 1,1-ジオキシドまたはその塩とアミドカップリングすること、により合成される。重水素ドナーは、D2OまたはCD3ODであり得る。
【0014】
さらなる実施形態では、本発明は、6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチノニトリル;6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチンアミド;および6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチン酸からなる群より選択される化合物を、重水素含有溶媒の存在下にて塩基で処理することを含む、重水素化RG-1662化合物を形成する方法に関する。好ましくは、重水素含有溶媒はD2Oである。
【0015】
本発明の特定の実施形態は、哺乳動物に投与された場合、同じ構造の非重水素化化合物に比べて、より長い生物学的半減期を有する請求項1に記載の重水素化GABAA5-NAM化合物に関する。
【0016】
本発明はまた、特定の実施形態では、それを必要とするヒト対象のうつ関連障害を治療する方法にも関し、方法は、本明細書に記載の治療有効量の重水素化GABAA5-NAM化合物を対象に投与することを含む。この方法では、重水素化GABAA5-NAM化合物は、経口で、皮内で、筋肉内で、腹腔内で、静脈内で、吹送により、または皮膚パッチで投与されてよく、0.5、1、2、3または4日毎に対象に投与されてよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法は、重水素化GABAA5-NAM化合物がうつの治療または回復のための1つまたは複数の追加の治療法と組み合わせて対象に投与されるものを含む。これらの治療法としては、限定されないが、モノアミンオキシダーゼ阻害剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン-ノルエピネフィリン再取り込み阻害剤、トリプル再取り込み阻害剤、CNSアセチルコリン機能のモジュレーター、刺激薬、抗糖質コルチコイド、NMDA型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、三環系抗うつ薬、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される抗うつ剤の投与を挙げることができる。うつ関連障害は、一般的うつ病、大うつ病性障害(臨床的うつ病)、気分変調症、自殺傾向、単極性うつ病、双極性うつ病、精神病性うつ病、非定型うつ病、季節性感情障害、月経前不快気分障害、内因性うつ病、緊張病性うつ病、外傷後ストレス障害、産後うつ病、疾病または損傷から生じたうつ病、薬物またはアルコールから生じたうつ病、治療抵抗性うつ病、およびこれらの任意の組み合わせの1つまたは複数から選択することができる。うつ関連障害の定義に含まれる他の障害および状態は、腫瘍、外傷、物質乱用障害、アルコール中毒などのいくつかの他の原発性病状の二次的結果としてこれらの症状が発生するものである。好ましい方法では、重水素化GABAA5-NAM化合物は、(3-(4-フルオフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メタノール;6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル-メトキシ)ニコチノニトリル;6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチン酸;および(1,1-ジオキシドチオモルホリノ)(6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ピリジン-3-イル)メタドン、からなる群より選択される。また、好ましい方法では、対象はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A-F】
図1A~1Fは、以下の実施例1で示すように、構造により示される中間化合物の化学的同一性を確証するNMR分光測定結果、およびNCGC-43を生成するための合成スキームの最終生成物を示す。
【
図2】
図2は、示した条件下でのショ糖嗜好性試験の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、示した条件下での社会的相互作用テストの結果を示すグラフである。
【
図4B-E】
図4B~4Eは、示したオープンフィールド試験の結果を示す棒グラフである。
【
図5】
図5は、示した高架式十字迷路試験の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、強制水泳試験におけるNCGC-43の用量反応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.定義
特に断らなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の種々の方法および材料を、本発明を実施または試験するために使用することが可能であるが、好適な方法および材料を以下に記載する。しかし、当業者なら、使用され、記載された方法および材料は例示であり、本発明中で使用するために好適な唯一のものではない可能性があることを理解している。さらに、測定値は固有の変動を受け易いので、本明細書で提供される任意の温度、重量、体積、時間間隔、pH、塩分、容量モル濃度または重量モル濃度、濃度および任意の他の測定値、量または数値表現は、別義が明示的に示されない限り、近似値であると意図されており、正確なまたは決定的な値を意図するものではない。
【0020】
別に定めのない限り、本明細書で使われる全ての技術科学用語は、本発明が属する当該技術分野および出願の時点において、一般に理解されているものと同じ意味を有することが意図されている。本明細書に記載されているものと類似または同等の種々の方法および材料を、本発明を実施または試験するために使用することが可能であるが、好適な方法および材料を以下に記載する。しかし、当業者なら、使用され、記載された方法および材料は例示されているものであり、本発明中で使用するために好適な唯一のものではない可能性があることを理解するはずである。さらに、測定値は固有の変動を受け易いので、本明細書で提供される任意の温度、重量、体積、時間間隔、pH、塩分、容量モル濃度または重量モル濃度、濃度および任意の他の測定値、量または数値表現は、別義が明示的に示されない限り、近似値であると意図されており、正確なまたは決定的な値を意図するものではないことも理解されるはずである。従って、本発明に適切な場合には、当業者により理解されるように、特許出願で一般的に用いられる近似的または相対的な用語および程度の用語:例えば、のような寸法、約、ほぼ、実質的に、本質的に、から本質的になる、含む、および有効量などを用いて本発明の種々の態様を記載することは適切である。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語の「約」は、記述した値の±20%を意味し、例えば、「約0.125」は、0.125±0.025を、および「約1.0」は、1.0±0.2を意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語の「重水素」は、最も一般的な同位体の約2倍の質量を有する水素、すなわち、約2原子質量単位の質量を有する水素の安定同位体を指す。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語の「生物学的半減期」は、生体が投与された物質の半分を正常消失により除去するのに要する時間を指す。
【0024】
用語の「治療」は、それを必要としている対象への医薬組成物の投与などの疾患への介入を指す。このような治療は、疾患、障害、または状態の1つまたは複数の症状の軽減、緩和または回復;疾患、障害、または状態の程度の低減;疾患、障害または状態の進行の遅延化または緩徐化;疾患、障害、または状態の基準値(統計値)の回復または安定化;または疾患、障害、または状態の治療に有益な別の薬物の効力の助長などを含む、有益なまたは所望の結果を得るためのステップを取ることを含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語の「うつ関連障害」は、うつを引き起こす、うつに関連するまたはうつにより定義される任意の障害およびうつ症状を有する任意の障害または状態を含む。本明細書で使用される場合、この用語はまた、認知、記憶、物質乱用、および精神病性障害も含む。うつ病性障害は、限定されないが、一般的うつ病、大うつ病性障害(臨床的うつ病)、気分変調症、自殺傾向、単極性うつ病、双極性うつ病、精神病性うつ病、非定型うつ病、季節性感情障害、月経前不快気分障害、内因性うつ病、緊張病性うつ病、外傷後ストレス障害、産後うつ病、およびこれらの任意の組み合わせを含む。うつ関連障害の定義に含まれる他の障害および状態は、不安症関連障害;快感消失;注意力関連障害;精神障害関連障害;人格障害;睡眠障害;摂食障害;認知機能障害(外傷性脳損傷(TBI)後のもの、または非TBI関連認知機能障害を含む);記憶障害;学習障害;神経障害性疼痛;慢性筋肉または骨疼痛;糖尿病性ニューロパチー;筋力低下の全身発作;日中の反復性睡眠エピソード;片頭痛;嗜癖;またはこれらの組み合わせである。うつ関連障害の定義に含まれる他の障害および状態は、腫瘍、物質乱用障害、アルコール中毒などのいくつかのその他の原発性病状の二次的結果としてこれらの症状が発生するものである。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語の「必要としている対象」は、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを指す。実験動物、コンパニオンアニマルおよび介助動物、家畜、および動物園の動物がこの定義に含まれる。好ましい動物としては、マウス、ラット、ウサギ、サル、類人猿、およびヒトが挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語の「治療有効量」は、対象に投与される場合に目的の治療効果を有する治療薬の量を意味する。治療効果は、症状の低減または疾患、障害、状態、または症状の発症もしくは再発の遅延化などの疾患、障害もしくは状態、またはその症状の改善を含む、目的の障害または状態を治療する効果である。完全な治療効果は、単回用量の投与により発生するとは限らず、一連の用量の投与後にのみ発生する場合がある。従って、治療有効量は、1回または複数回の投与により投与され得る。
【0028】
2.概要
特定の実施形態では、病状は、うつ関連障害;不安症関連障害;注意力関連障害;精神障害関連障害;人格障害;摂食障害;認知機能障害(外傷性脳損傷(TBI)後のものまたは非TBI関連認知機能障害を含む);神経障害性疼痛;慢性筋肉または骨疼痛;神経損傷をもたらす糖尿病合併症;筋力低下の全身発作;日中の反復性睡眠エピソード;片頭痛;嗜癖;アルコール中毒;物質使用障害;またはこれらの任意の組み合わせである。具体的には、本発明は、α5サブユニット含有GABAARのネガティブアロステリックモジュレーターとして作用できる速効性重水素化抗うつ剤組成物に関する。
【0029】
3.本発明の実施形態
A.全般的解説
本発明の実施形態は、特にうつおよび類似の状態を含む、1種または複数の病状の治療のための組成物および方法に関する。状態は任意の種類のものであり得るが、特定の実施形態では、治療される状態は、大うつ病(大うつ病性障害)および/または自殺傾向である。本発明の組成物および方法を用いて、病状の治療は好ましくは、このタイプの疾病の現在既知の治療より迅速に行われ、より多くの患者集団をうまく治療し、有害な副作用がより少ない。
【0030】
本開示の特定の実施形態では、1種または複数のα5サブユニット含有GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位の部分的逆アゴニストは、興奮性シナプスの正常な機能を回復することにより単極型および双極型のうつにおいて急速な抗うつ作用をもたらし自殺念慮を低減する。このような考察は、例えば、表面妥当性、構成概念妥当性、および予測妥当性を有するうつのげっ歯類モデルを用いて、急α5選択的GABA-NAMの急性投与(24時間)の作用を特徴付けるために、慢性の予測不可能なストレス(CUS)または慢性マルチモーダルストレス(拘束、ストロボライト、およびホワイトノイズ)などにより特徴付け得る。α5サブユニット含有GABAA受容体の部分的逆アゴニストの抗うつ効力は、例えば、ショ糖嗜好性試験および社会性探査試験(Amat et al.,2010)を使って、マウスおよびラットなどの実験動物を用いてインビボで試験できる。電気生理学的および生化学的分析をインビトロで用いて、α5サブユニット含有GABAA受容体部分的逆アゴニストのストレス誘導うつの電気生理学的相関を回復する能力を決定することも可能であろう。動物モデルでのこれらの効果は、ヒトにおいて急速な抗うつ効力を有することが知られているグルタミン酸受容体遮断薬のケタミンと比較できる(Zarate et al.,2006)。
【0031】
本開示の特定の実施形態では、患者は、大うつ病エピソードのためのDSM-IV判定基準による標準的な精神的スクリーニングを受け得る。特定の実施形態では、1種または複数のアゴニストを含む食塩水が個体に、例えば、輸注でゆっくりと(約30~60分)投与される。うつ関連および他の等級試験、例えば、ハミルトンうつ病評価尺度、ベックうつ病質問票、中毒「高」に対する視覚的アナログスケールスコア、および簡易精神症状評価尺度は、繰り返して実施され得る;単なる1つの例として、それらは、薬物投与後4時間にわたり、および次の7日間にわたり毎日実施され得る。抗うつ効力、ならびに向精神作用または不安惹起反応は、試験スコアの変化時に測定されて、特定の実施形態では、特定の化合物による効力を示す。
【0032】
本発明の特定の実施形態は、α5サブユニット含有GABAARのネガティブアロステリックモジュレーターを含み、これは、うつに取り組むおよび/または自殺傾向を低減する速効性の抗うつ剤である。好ましくは、これらのモジュレーターは、非重水素化モジュレーターに優る利点を提供する新規重水素化化合物である。これらの利点は、治療患者の長期のバイオアベイラビリティを含み得る。
【0033】
重水素は、天然に存在する、安定な、水素の非放射性同位元素である。水素は、1つのプロトンから構成される核のまわりの1つの電子からなり、約1.0原子質量単位(AMU)の質量を有する。重水素も単一電子を有するが、その核は、1つの中性子と1つのプロトンを含み、約2.0AMUの原子質量をもたらす。過剰重水素が水素の代わりに分子中に組み込まれる場合、重水素化と呼ばれ、重水素化化合物は全水素化合物に類似している。一般に、重水素化化合物は、それらの全水素類似体とは実質的に識別不能である形状とサイズを有する。さらに、重水素は著しく低い全身性毒性を有する。単細胞生物は、多くの場合、完全重水素化条件下で成長できる。さらに、ヒトは、体液中の高レベルの重水素に耐えることができる。さらに、重水素化化合物は、ヒトにおける代謝および薬物動態学的プローブとしての安全な使用の長い歴史を有する。従って、選択的重水素化を、本明細書で記載のように、医薬化合物および組成物に使用して、未充足の医療ニーズに適合する新規薬物を生成することができる。いくつかの重水素化薬物が臨床評価に入っている。最初の重水素化薬物は、ハンチントン舞踏病用としてFDAにより承認された(Austedo(商標);デューテトラベナジン)。
【0034】
GABAA α5ネガティブアロステリックモジュレーターは、いくつかのうつマウスモデルで即効性抗うつ剤として作用することが示されている。その後、GABAA α5 NAMの抗うつ剤薬剤としての使用するための使用特許が出願された。うつおよび関連状態の速効性治療用の薬物組成物を設計するために、向知性薬として第2相臨床試験で安全であることが示された(しかし、効能がない)GABAA α5選択的NAMである、(1,1-ジオキシドチオモルホリノ)(6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ピリジン-3-イル)メタノン(RG-1662として知られる)をリード化合物として使用した。
【0035】
一実施形態では、本発明は、ヒト対象においてうつおよび/または自殺傾向、および他のうつ関連障害を治療するおよび/または回復させるための組成物およびこの組成物の使用方法に関し、方法は、治療有効量のα5サブユニット含有重水素化GABA
ARのネガティブアロステリックモジュレーターを対象に投与することを含む。より好ましい実施形態では、モジュレーターは、以前に第2相臨床試験で安全であることが示されているGABA
A5Rネガティブアロステリックモジュレーター(NAM)である、RG-1662の一つのバージョンであり、これは、人体中のその半減期を延長するために、肝臓での加水分解の部位である1つまたは複数の特定の位置で水素原子の重水素による置換により改変されている。
【化3】
【0036】
B.化合物
αサブユニット含有GABAARの選択的ネガティブアロステリックモジュレーター(エチル(13aS)-7-メトキシ-9-オキソ-11,12,13,13a-テラヒドロ-9H-イミダゾ[1,5-a]ピロロ[2,1-c][1,4]ベンゾジアゼピン-1-カルボキシレート(L-655,708)、3-ブロモ-10-(ジフルオロメチ)-9H-ベンゾ[f]イミダゾ[1,5-a][1,4]ジアゼピン(RO4938581)、N-ベンジル-6-エトキシ-4-オキソ-1H-1,5-ナフチリジン-3-カルボキサミド(CP-457,920)、3-tert-ブチル-7-(5-メチルイソオキサゾール-3-イル)-2-(1-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-5-イルメトキシ)ピラゾロ(1,5-d)(1,2,4)トリアジン(MRK-016)、(1,1-ジオキシドチオモルホリノ)(6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ピリジン-3-イル)メタノン(RG-1662)など)は、分解肝臓酵素による加水分解のための基質である分子中の位置で水素イオンを重水素イオンで置換することにより改変できる。この改変は、身体中での化合物の加水分解速度および異化作用を遅らせる。これは、送達経路に関係なく化合物のバイオアベイラビリティを長引かせ、速効性抗うつ剤としてのそれらの臨床的有用性を高める。
【0037】
既存のGABAARのα5サブユニット選択的ネガティブアロステリックモジュレーターは、最も効果的であるとは言えない。理由は、触媒的肝臓酵素による急速な加水分解のために、それらの薬物動態プロファイルは急速過ぎ(短い半減期)、治療的緩和を提供するのに必要な肝心の受容体の位置でのバイオアベイラビリティを低減するためである。代謝加水分解の1つまたは複数の部位での重水素の導入により、異化作用速度が緩徐にされ、それによりバイオアベイラビリティおよび治療効力を高め、薬物の高頻度投与の必要性を減らし、より少ない投与量の使用が、副作用の可能性を低減し、服薬遵守を向上させる。
【0038】
本発明による化合物は従って好ましくは、重水素化される。化合物中の任意の特定の水素原子での重水素含量は、重水素なし(または重水素の天然存在度)~最大で約95%重水素以上の範囲であってよい。好ましくは、肝臓代謝中の加水分解の部位の水素原子は、重水素で富化される。これらの部位は最初に、それらの化学的置換を特異的に誘導するように、培養肝細胞を用いてインビトロアッセイで特定された。この重水素化手順がRG-1662に対して実施される場合、この化合物は、本明細書ではNCGC-43と呼ばれる。
【0039】
好ましい化合物は、GR-1662から誘導され、(3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メタノール;6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4イル-メトキシ)ニコチノニトリル;6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチン酸;および(1,1-ジオキシドチオモルホリノ)(6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ピリジン-3-イル)メタドン(NCGC-43)、からなる群より選択される。本発明の好ましい実施形態では、重水素化α5サブユニット選択的GABA-NAM化合物は、実施例1に記載の反応/合成法を用いて合成され、重水素化化合物はNMRを使って特性評価される。
【0040】
本発明による化合物は、GABA-NAM化合物:
【化4】
を含み、これらは好ましくは、重水素化され、最も好ましくは、化合物中の肝臓代謝が起こる位置で重水素化される。
【0041】
さらに、本発明は、次の中間化合物を含む。
【化5】
【0042】
【0043】
本発明の化合物は、塩基、および薬学的に許容可能な水和物、溶媒和物、酸またはその塩のいずれかを含み、非晶質もしくは任意の結晶形、または油またはワックスとしての形態であり得る。任意の薬学的に許容可能な塩を、都合に応じて使用できる。一般に、これらの塩は、薬学的におよび生物学的に許容可能な無機または有機酸および塩基または金属から誘導される。このような塩の例としては、限定されないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アンモニウム塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩(ベシル酸塩)、重炭酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、炭酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、二グルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、蟻酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸、グリセロ燐酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マグネシウム塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パルモ酸塩(palmoate)、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、燐酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、カリウム塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ナトリウム塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸、トルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)およびウンデカン酸塩が挙げられる。
【0044】
化合物は、治療薬の任意のまたは全ての立体化学的形態(すなわち、それぞれの不斉中心に対するRおよび/またはS配置)も含む。従って、治療薬の単一エナンチオマー、ラセミ混合物、およびジアステレオマーは、本発明の範囲内にある。また、治療薬の立体異性体および位置異性体も本発明の範囲内である。いくつかの実施形態の治療薬はまた、1つまたは複数の同位体で濃縮された原子の存在のみが異なる化合物を含むことも意図される。例えば、1つまたは複数の原子が、例えば、重水素、トリチウム、13C、14C(または当該技術分野において一般的に使用されている任意の同位体標識、例えば、リン、カルシウム、ヨウ素、塩素、臭素、または任意の他の同位体標識に好都合の元素)により置換される治療薬は、本発明の範囲内である。
【0045】
C.組成物
好ましい方法の実施形態では、本明細書で記載の化合物は、本明細書で記載の1種または複数の本発明の化合物を含み、および本明細書で記載の1つまたは複数の本発明の化合物を別の種類の抗癌剤などの追加の薬剤と共に含み、薬学的に許容可能な担体および1種または複数の薬剤を含む医薬組成物として処方され、投与される。薬学的に許容可能な担体は、非毒性であり、かつ一緒に処方される治療薬の薬理活性を破壊しないまたは大きくは低減させない任意の好都合な化合物または化合物群を指す。このような薬学的に許容可能な担体またはビークルは、いずれかの標準的薬学的に許容可能な、当該技術分野において既知の、当該技術分野で記載されているものなどの固体、液体、またはガス状担体を包含する。
【0046】
好適な担体は、医薬組成物に対し意図されている投与経路に依存する。投与経路は、治療される対象の利便性、健康および状態、ならびに治療される状態の部位およびステージに応じて当業者により決定される。
【0047】
このような経路は、患者、患者の全身状態、および治療される特定の状態などを考慮して、開業医が最も効果的または好都合であると考える任意の経路であり得る。例えば、投与経路は、限定されないが、局所および非経口を含み、これは、経口、局所、経皮、頬側、舌下、経粘膜送達、創傷被覆、吸入、吹送、経直腸、経腟、経鼻、創傷被覆、静脈内注射、筋肉注入、動脈内注射、くも膜下腔内注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、直接局所注入、などを含む。投与は、輸血または注入により行われてよく、留置剤、移植ポンプ、または外部ポンプ、または当該技術分野において既知の任意の装置により行われてよい。
【0048】
従って、医薬組成物が取り得る形態としては、限定されないが、錠剤、カプセル、カプレット、トローチ剤、糖衣錠、丸薬、顆粒、経口溶液、希釈用粉末、吸入用粉末、蒸気、ガス、注射または注入用の無菌溶液またはその他の液剤、経皮貼付剤、頬側に貼付剤、インサートおよび留置剤、直腸坐剤、腟坐剤、クリーム剤、ローション、オイル、軟膏、局所被覆剤(例えば、創傷被覆剤および包帯)、懸濁剤、乳剤、脂質小胞、などが挙げられる。
【0049】
担体および賦形剤などの任意の薬学的に許容可能な担体を本発明と共に使用することが意図される。担体としては、例えば、デンプン(例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、コメデンプン)、セルロース(例えば、微結晶セルロース、メチルセルロースなど)糖類(例えば、ラクトース、スクロース、グルコース、フルクトースなど)、粘土、ミネラル(例えば、滑石など)、ゴム 、調味料、着臭剤および香料、防腐剤、着色剤、矯味剤、甘味料、ゲル、ワックス、脂質(例えば、脂質小胞またはナノ粒子)、油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、溶媒(例えば、水または薬学的に許容可能な有機溶媒)、食塩水(例えば、食塩水、電解質溶液、乳酸加食塩水、など)、乳化剤、沈殿防止剤、湿潤剤、充填剤、アジュバント、分散剤、結合剤、pH調整剤など緩衝液、抗菌薬(例えば、ベンジルアルコール、メチルパラベン、など)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、など)、キレート化剤(例えば、EDTAなど)、流動促進剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、および潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど)を挙げることができる。化合物または化合物を含む医薬組成物は、ブリスター包装、アンプル、ボトル、プレフィルシリンジ、などの容器中で提供できる。持続放出および徐放性組成物もまた、本発明の実施形態と共に、および本発明の実施形態中で使用するために意図される。従って、好適な担体は、活性成分の遅延放出、持続放出または徐放を達成するための任意の既知成分を含んでよい。好ましくは、医薬組成物は、治療有効量を含む。
【0050】
D.投与量
本発明のある実施形態では、NCGC-43などの重水素化α5選択的GABA-NAMは、任意の好都合な投与経路により治療有効量でヒト対象に投与される。本発明の化合物の投与量は、反復投与計画において、0.5、1、2、3日、もしくはそれを超える日毎に、毎週、または任意の好都合な間隔などの、好都合な間隔で対象に投与される。化合物は単剤療法として単独で投与でき、または単一用量または反復投与計画において、同時にまたは異なる時間に提供される、同じ剤形または別々の剤形で、1つまたは複数の他の治療法と組み合わせて投与できる。
【0051】
治療計画は、単剤投与または対象の寿命の残りの期間の投与を含む、1週間、2週間、数週間、1ヶ月、30日、60日、90日、数カ月、6ヶ月、1年以上を含む、2日以上継続する一連の投与を含む。投与計画は、例えば、1日当たり複数用量、1日または週当たり1用量、または1時間、数時間、丸1日間、またはそれを超える期間継続する長期注入投与を含んでよい。
【0052】
投与当たりの投与量は、開業医により決定される任意の量を含み、治療される対象の大きさ、対象の健康状態、投与経路、治療または予防される状態、などに依存する。一般に、大部分の対象に対しては、約0.01mg/kg~約100mg/kgの範囲の用量が好適であり、好ましくは約0.1mg/kg~約50mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg~約10mg/kg、および最も好ましくは約0.2mg/kg~約5mg/kgの範囲の用量が有用であると意図される。この用量は、毎週、毎日、または1日に複数回投与されてよい。約0.1mg、0.2mg、0.25mg、0.5mg、1mg、5mg、10mg、20mg、40mg、80mg、100mg、250mg、500mg、または1000mgの用量を投与できる。
【0053】
好ましくは、治療有効量は、GABAARの機能を少なくとも約10~75%低減させるため全てのGABAARの10~75%に結合するのに十分な濃度での対象の脳脊髄液中の重水素化化合物の存在をもたらす。さらに、好ましい重水素化組成物は、ヒト対象に投与される場合に高められたバイオアベイラビリティおよび増大した半減期を得るために他の重水素原子置換を有する重水素化RG-1662化合物の類似体および誘導体を含み、ヒト対象などの哺乳動物に治療上の目的で投与される場合に長い半減期を有する。
【0054】
特定の実施形態では、本発明の方法は、別の抗うつ剤と組み合わせた(順次または同時に)治療有効量の重水素化α5サブユニット選択的GABA-NAMの投与を含む。抗うつ剤としては、例えば、モノアミンオキシダーゼ阻害剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン-ノルエピネフィリン再取り込み阻害剤、トリプル再取り込み阻害剤、CNSアセチルコリン機能のモジュレーター、刺激薬、抗糖質コルチコイド、NMDA型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、三環系抗うつ薬、物質乱用障害またはアルコール中毒の欲求および離脱の低減に使用される薬物、およびこれらの任意の組み合わせの1種または複数を挙げることができる。
【0055】
E.方法
RG-1662がその構成メンバーであるGABAA5-NAM化合物は、ダウン症候群、双極性障害、病理学的不安症、および自閉症スペクトラム障害などの精神的および神経学的状態の治療における潜在的有用性を有する。これに関し、本発明は、上記で定義のうつ関連障害に罹患している個体の少なくとも1つの症状を治療する、予防する、または回復させる方法に関する。
【0056】
本発明の方法を「必要としている」と意図される対象は、うつを引き起こす、うつに関連するまたはうつにより定義される任意の障害およびうつ症状を有する任意の障害または状態を含む、うつ関連障害を罹患している任意の動物、好ましくは哺乳動物、および最も好ましくはヒト患者を指す。本明細書で使用される場合、この用語はまた、認知、記憶および精神病性障害も含む。うつ病性障害としては、限定されないが、一般的うつ病、大うつ病性障害(臨床的うつ病)、気分変調症、自殺傾向、単極性うつ病、双極性うつ病、精神病性うつ病、非定型うつ病、季節性感情障害、月経前不快気分障害、内因性うつ病、緊張病性うつ病、外傷後ストレス障害、産後うつ病、外傷後ストレス障害、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。うつ関連障害の定義に含まれるその他の障害および状態は、不安症関連障害;快感消失;注意力関連障害;精神障害関連障害;人格障害;睡眠障害;摂食障害;認知機能障害(外傷性脳損傷(TBI)後のもの、または非TBI関連認知機能障害を含む);記憶障害;学習障害;神経障害性疼痛;慢性筋肉または骨疼痛;糖尿病性ニューロパチー;筋力低下の全身発作;日中の反復性睡眠エピソード;片頭痛;嗜癖;またはこれらの組み合わせである。うつ関連障害の定義に含まれる他の障害および状態は、腫瘍、物質乱用障害、アルコール中毒などのいくつかのその他の原発性病状の二次的結果としてこれらの症状が発生するものである。このような対象は、好ましくは凡そ1日、1週、1ヶ月に1回、または必要に応じた基準で投与される約0.1mg~約1000mgの量の重水素化RG-1662化合物のNCGC-43または組成物の投与により治療される。好ましい投与経路は、経口、局所、経皮、頬側、舌下、経粘膜送達、創傷被覆、吸入、吹送、経直腸、経腟、経鼻、創傷被覆、静脈内注射、筋肉注入、動脈内注射、くも膜下腔内注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、直接局所注入、などである。投与は、輸血または注入により実施でき、留置剤、移植ポンプ、または外部ポンプ、または当該技術分野において既知の任意の装置により実施できる。
【0057】
4.実施例
本発明は、工程、組成物、または方法は変わり得るので、記載された特定の工程、組成物、または方法に限定されない。説明に用いられる用語は特定の様式または実施形態を記載するためのみのものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の方法および材料を本発明の実施形態の実施または試験のために使用することが可能であるが、好ましい方法、装置、および材料を以下に記載する。本明細書で言及した全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる;本明細書のいずれも、本発明が、先行発明の理由でこのような開示に先行する権利がないことを承認すると解釈されるべきではない。
【0058】
【0059】
NCGC00508843を、(3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メタノールから以下のように合成した。高温度での重水および重水素化メタノールの混合物中の重水酸化ナトリウムとの(3-(4-フルオロフェニル)-5-メチルイソオキサゾール-4-イル)メタノールの処理は、(3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メタノールを生じた。これに6-クロロニコチノニトリルでの芳香族求核置換が続いて、6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチノニトリルを得た。また、重水素化溶媒中でのニトリルの酸への加水分解はまた、重水素組み込みを95%に増加させた。最終的に、チオモルホリン 1,1-ジオキシドとのアミドカップリングはNCGC-43を生じた。
【0060】
重水素化化合物を、市販材料から4ステップで、RG-1662から合成して、(1,1-ジオキシドチオモルホリノ)(6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ピリジン-3-イル)メタノン(NCGC00508843;NCGC-43)を33%の全体収率で生成した。重水素取り込みを
1H NMRにより95%であると測定した。
【化8】
【0061】
3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メタノールの合成を次のように行った。3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メタノール(500mg、2.4mmol)を、撹拌棒を備えたマイクロ波バイアル中に入れた。これに、2.0mLの酸化重水、D
2O中8.0mlのCD
3ODおよび1.0mlの30%NaODを加えた。バイアルを密封し、マイクロ波照射により85℃に2時間加熱した。その後、バイアルを冷却し、塩化アンモニウム水溶液に加えてクエンチした。化合物を酢酸エチルに抽出し、回転蒸発により溶媒を除去して、さらに精製することなく、標記生成物を白色固体として99%収率(504mg)で得た。
1H NMR分析は、約80%の重水素組み込みを示した。
1H NMR(400MHz,cdcl
3)δ7.91-7.68(m,2H),7.18-6.98(m,2H),4.48(s,2H),2.41-2.36(m,0.6H,80%重水素組み込み).
13C NMR(101MHz,cdcl
3)δ168.7,163.7(d,J
c-F=25l.5Hz,1C)161.7,130.4,130.3,125.2,116.1,115.9,113.0,53.6,10.7(m,C-Dスプリッティング).MS:予測:211.2(M+H).実測:211.1.
【化9】
【0062】
6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチノニトリルを次のように合成した。テトラヒドロフラン(THF)(5.0mL)中の3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メタノール(504mg、2.4mmol)の溶液に、水素化ナトリウム(鉱物油中120mg、2.9mmol、60%分散液)を0℃で加えた。次に、THF(5.0mL)中の6-クロロニコニノニトリル(400mg、2.9mmol)の溶液をシリンジ経由で加えた。反応物を放置し室温に温め2時間撹拌した。その後、反応物を重炭酸ナトリウム水溶液に加えてクエンチした。反応物を酢酸エチル中に抽出し、溶媒を回転蒸発によって除去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中の0%~100%酢酸エチル)による精製は標記生成物を白色固体として75%収率(560mg)で与えた。重水素組み込みを約80%で維持した。
1H NMR(400MHz,cdcl
3)δ8.47(dd,J=2.3,0.8Hz,
1H),7.81(dd,J=8.7,2.3Hz,
1H),7.77-7.66(m,2H),7.19-7.05(m,2H),6.84(dd,J=8.7,0.8Hz,
1H),5.29(s,2H),2.57-2.51(m,0.6H,80%重水素組み込み).
13C NMR(101MHz,cdcl
3)δ170.3,164.8,163.8(d,J
c-F=250.5Hz,IC)162.0,151.7,141.5,130.3,130.2,125.2(d,J
c_p=3.0Hz,1C),117.0,116.2,116.0,112.2,109.1,103.3,57.8,11.2(m,C-Dスプリッティング).MS:予測:313.3(M+H).実測:313.1.
【化10】
【0063】
6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチン酸を次のように合成した。重水(5.0ml)および重水酸化ナトリウム(D
2O中2.5g、18mmol、30重量%)を、d4-メタノール(7.0mL)中の6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチノニトリル(560mg、1.8mmol)の溶液を含むバイアルに加えた。バイアルを密閉し、反応物を55℃に加熱し、16時間撹拌した。その後、バイアルを冷却し、塩酸水溶液でクエンチした。pHを2に調節し、反応物を酢酸エチルで抽出して、粗生成物(560mg)を得、これをさらに精製することなく使用した。重水素組み込みは、約95%組み込みに増加した。
【化11】
【0064】
(1,1-ジオキシドチオモルホリノ)(6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ピリジン-3-イル)メタノン(NCGC00508843)を次のように合成した。粗製6-((3-(4-フルオロフェニル)-5-(メチル-d3)イソオキサゾール-4-イル)メトキシ)ニコチン酸(560mg、1.7mol)をジメチルホルムアミド(DMF)(3.0mL)に溶解した。これに、チオモルホリン、1,1-ジオキシド塩酸塩(350mg、2.0mmol)、続けて、ヘキサフルオロホスフェートアザベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム(HATU)(770mg、2.0mmol)およびトリメチルアミン(350mg、3.4mmol)を加えた。反応物を2時間撹拌した。次に、これを水中に注ぎ込み、ジエチルエーテル(3X)で抽出した。有機抽出物を合わせ、溶媒を回転蒸発により除去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中の0%~100%酢酸エチル)による精製により目的の生成物を得た。溶媒を除去し、化合物をエタノールに再溶解し、回転蒸発によりエタノールを除去して、目的の生成物を白色固体として45%収率(340mg)で得た。
1H NMRにより重水素組み込みが95%であることを測定した。
1H NMR(400MHz,cdcl
3)δ8.28(dt,J=2.4,0.8Hz,
1H),7.80-7.72(m,2H),7.70(ddd,J=8.5,2.4,0.7Hz,
lH),7.18-7.08(m,2H),6.82(dt,J=8.6,0.8Hz,
lH),5.26(s,2H),4.24-3.95(m,4H),3.12-3.02(m,4H),2.55-2.50(m,0.05H(95%重水素)).
13C NMR(101MHz,cd
3od)δ171.8,170.7,165.4,165.l(d,J
c-F=247Hz,1C)163.3,147.5,139.8,131.6,131.5,125.6,117.0,116.8,112.1,111.8,111.0,58.1,52.7,38.9.MS:予測:449.5(M+H). 実測:449.1.融点:132.3℃.
【化12】
中間化合物のNMRスペクトルについては、
図1の標識したスペクトルを参照。最終化合物がHCl塩として安定でない場合は、別の塩を使用できまたは化合物を遊離塩基として処方できる。
【0065】
実施例2.抗うつ作用および不安惹起作用の欠如の前臨床試験。
図2は、ショ糖嗜好性試験におけるNCGC-43およびケタミンの比較を示し、NCGC-43のケタミン様の急速で持続性の抗うつ作用を実証する。ショ糖嗜好性試験では、ラットは、全て毎日の慢性マルチモーダルストレスを継続中にストレスの開始前(ベースライン)、14日間の慢性マルチモーダルストレスの直後、およびNCGC-43(3mg/kg、灰色)、ケタミン(20mg/kg、オレンジ色)、またはビークル(DMSO溶液、青色)の注射の24時間、7日、および14日後に、一晩の2ボトル選択タスク(ここでは、スクロース溶液消費が総消費溶液のパーセンテージとして示される)を与えられた。対照群は、ストレスも薬物も受けなかった(黄色)。慢性ストレスは、快感消失徴候である、スクロース嗜好性を低減させたが、一方、ケタミンまたはNCGC-43の単一注射は、スクロース嗜好性を急速で(24時間以内)持続的な(最大14日)様式で回復させた。
【0066】
NCGC-43の効果は、ヒトにおいて急速で持続性の抗うつ作用をもたらすことが知られるケタミンと同等であった。
【0067】
図3は、社会的相互作用テストにおけるNCGC-43およびケタミンの比較を示し、NCGC-43のケタミン様の急速で持続性の抗うつ作用を実証する。社会的相互作用テストでは、ラットは新しくかごに入れられた幼若ラットがいるチャンバー中で過ごすことと、空のかごのあるチャンバー中で過ごすことの間で選択肢が与えられた。社会的相互作用テストでは、ラットはストレス開始前(ベースライン)、14日の慢性マルチモーダルストレスの直後、およびNCGC-43(3mg/kg、灰色)、ケタミン(20mg/kg、オレンジ色)、またはビークル(DMSO溶液、青色)の注射の24時間後に、新しくかごに入れられた幼若ラットがいるチャンバー中で過ごすことと、空のかごのあるチャンバー中で過ごすことの間で選択肢が与えられた。社会的相互作用は、新規動物と共に過ごした時間のパーセントとして計算された。対照群は、ストレスも薬物も受けなかった(黄色)。慢性ストレスは、快感消失徴候である、社会的相互作用を低減させたが、一方、ケタミンまたはNCGC-43の単一注射は、新規動物との相互作用に対するそれらの嗜好性を回復した。
【0068】
図4は、オープンフィールド試験におけるNCGC-43の効果を示す。
図4Aは、オープンフィールド試験の略図である。
図4Bは、慢性ストレスも、NCGC-43またはビークルの注射も全体的自発運動活性に対し何らの有意な効果を有しなかったことを示す。
図4Cは、慢性ストレスも、NCGC-43またはビークルの注射も、試験手順中に、コーナーおよび側面で過ごした動物の時間に対し何らの有意な効果を有しなかったことを示し、いずれの状態下でも動物の不安症の状態に変化がなかったことと一致する。
図4Dは、慢性ストレスも、NCGC-43またはビークルの注射も、試験手順中に、動物がチャンバーの中央で過ごした時間対コーナーおよび側面で過ごした時間の割合に対し何らの有意な効果も有しなかったことを示し、いずれの状態下でも動物の不安症の状態に変化がなかったことと一致する。
図4Eは、慢性ストレスも、NCGC-43またはビークルの注射も、動物が最初にチャンバーの中央に入る前の待ち時間に対し何らの有意な効果も有しなかったことを示し、動物の不安症の状態に変化がなかったことと一致したが、一方、NCGC-43は、待ち時間をわずかに低減し、わずかな抗不安効果と一致した。行動測定を、ストレス開始前(ベースライン)、14日の慢性マルチモーダルストレスの直後、およびNCGC-43(3mg/kg)またはビークル(DMSO溶液)の注射の24時間後に実施した。
【0069】
図5は、高架式十字迷路におけるNCGC-43およびケタミンの比較を示し、NCGC-43に対する抗不安応答の欠如を実証する。高架式十字迷路試験では、ラットは、14日間の慢性マルチモーダルストレスの直後、およびNCGC-43(3mg/kg)またはケタミン(20mg/kg)の注射の24時間後に、高架式十字迷路の2つのアーム(1つのアームはクローズド、もう1つのアームはオープン)の1つで過ごすことでの選択肢を与えられた。対照群は、無ストレスで、ビークル注射(DMSO)を受けた。ケタミンの単一注射は、クローズドアームでのラットの滞在時間のパーセントを増大させ、不安または恐怖の増加と一致する。ストレスもNCGCもビークル注射も、クローズドアームでの滞在時間に影響を与えず、それらが不安または恐怖を増加させなかったことと一致する。
【0070】
図6は、強制水泳試験におけるNCGC-43およびケタミンの比較を示す。強制水泳試験では、未処理のラットおよび14日間の慢性マルチモーダルストレスに供されたラットを、NCGC-43(3mg/kg)、ケタミン(20mg/kg)、またはビークル(DMSO溶液)の注射の1時間または24時間後に水を満たしたタンクに置き(5分間)、「行動的絶望」のげっ歯類アナログと呼ばれる行動応答である、動物が無動で過ごした時間(
図6A)および動物がもがくのを止め無動になるまでの潜時(
図6B)について監視した。NCGC-43およびケタミン注射の24時間後に、ストレスを受けたビークル投与の動物に比べて、動物が無動で過ごす時間の減少(
図6A)および動物がもがくのを止め無動になるまでの潜時の増加(
図6B)があった。NCGC-43およびケタミンの両方は、この試験では抗うつ様応答を示した。1時間および24時間での応答の比較は、NCGC-43が、以前にケタミンで記載されたもの(Zanos et al.,2016)に類似の急速で持続的な効果を示すことを示唆する。
図6Cおよび6Dも参照されたい。
【0071】
図7は、強制水泳試験におけるNCGC-43の用量反応関係を示す。我々は、注射の1時間後または24時間後に測定されたかに関係なく、腹腔内に送達されたNCGC-43の漸増用量が無動潜時に対するより大きな効果を有し、1および3mg/kgで有意な効力を示すことを観察した。
【0072】
実施例3.肝細胞中での代謝安定性試験。
肝臓は、哺乳動物内の主要な代謝臓器である。バスミサニルは以下のように代謝される。
【化13】
【0073】
下表1は、インビトロのラットおよびヒトの肝臓の肝細胞中でのRG-1662の半減期に関するデータを示し、重水素化化合物の半減期の増大を示す。安定性はラット肝細胞に比べてヒト肝細胞でより改善され、肝細胞試験間で変化が存在する。重水素化RG-1662化合物は従って、代謝的により安定である。より長い半減期はまた、投与の頻度を低減することを可能にする。好ましい化合物は、より協力で効果的であり、好ましくは重水素化される。代謝の部位での重水素原子の組み込みが化合物の半減期をより容易に延長するため、重水素化は、代謝の部位で行われるのが好ましい。
【表1】
【0074】
第2の試験では、安定性試験は、ラット肝細胞中の急速な代謝、およびヒト肝細胞中でのそれほど急速でない代謝を示し、0.33時間のラット半減期および6時間のヒト半減期であった。代謝物特定試験によりこれらのアッセイを追跡して、加水分解部位を確証した。
【0075】
参考文献
以下におよび本明細書全体を通して記載の全ての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
1.Fischelle,et al.,Neuropsychopharmacology,40:2499-2509,2015.
2.国際出願第PCT/US2015/023667号.
3.Zanos,et al.,Nature,533:481-486,2016.