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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133600
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】炉アセンブリの動作方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/029 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
C03B37/029
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127708
(22)【出願日】2023-08-04
(62)【分割の表示】P 2020551403の分割
【原出願日】2019-03-19
(31)【優先権主張番号】62/646,584
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】2020854
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】アーリング リチャード アンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】タミー エム ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン マイケル ジュエル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラオス パンテリス クラディアス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート クラーク ムーア
(57)【要約】
【課題】ファイバ線引き炉でヘリウムを用いない仕様で、ファイバ線引きを可能にする方法および装置を提供する。
【解決手段】炉システムは、炉空洞部を画定するマッフルを含む。下側加熱部は、マッフルに連結されて、約1900℃以上の温度を有する高温ゾーンを炉空洞部内に生成するように構成される。上側マッフル延伸部は、マッフルの上方に位置して、ハンドル空洞部を画定する。下向き供給ハンドル部は、ハンドル空洞部内に位置して、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する。上側加熱部は、上側マッフル延伸部に熱的に連結され、間隙を加熱するように構成される。気体スクリーンは、上側マッフル延伸部に位置して、プロセスガスをハンドル空洞部に注入するように構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉アセンブリの動作方法において、
下向き供給ハンドルを上側マッフル延伸部内に配置して、前記下向き供給ハンドルの外面と前記上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する工程と、
前記上側マッフル延伸部を、該上側マッフル延伸部に熱的に連結された上側加熱部を通して加熱して、前記間隙を600℃から1800℃の範囲の温度に加熱する工程と、
プロセスガスを、前記下向き供給ハンドルの周囲の気体スクリーンを通して注入する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記プロセスガスを注入する工程は、更に、
窒素およびアルゴンの少なくとも一方を、前記下向き供給ハンドルの周囲の前記気体スクリーンを通して注入する工程を含むものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1900℃以上の温度を有する高温ゾーンを前記炉アセンブリの炉空洞部内に生成する工程を、
更に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
光ファイバプリフォームを、前記下向き供給ハンドルから支持する工程と、
光ファイバを前記光ファイバプリフォームから引き出す工程と
を更に含む、請求項1から3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記間隙は、800℃から1100℃の範囲の温度に加熱される、請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記下向き供給ハンドルの外面と前記上側マッフル延伸部の内面の間の前記間隙が、0.5cmから2.5cmの長さを有する、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記下向き供給ハンドルの外面と前記上側マッフル延伸部の内面の間の前記間隙が、4cm以下の長さを有する、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2018年3月22日出願の米国仮特許出願第62/646,584号の優先権の利益を主張する2018年5月1日出願の蘭国特許出願第2020854号の優先権の利益を主張し、その内容は依拠され、全体として参照により本明細書に組み込まれる。また、本願は、2019年3月19日に出願された特願2020-551403の分割出願である。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、ファイバ線引きシステムに関し、より具体的には、ファイバ線引きシステムにおけるフロー不安定性を抑制する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
従来のファイバ製造処理の様々な段階で、ヘリウム気体が用いられる。いくつかの製造処理について、ヘリウムの大部分は、空気連行および高温構成要素の酸化を防ぐために炉を不活性ガスでアクティブパージする必要があるファイバ線引き炉で消費される。ヘリウムは、天然ガス井戸から副産物として回収される非再生可能資源である。ヘリウムの価格は、将来上昇することが予想され、供給が不足するとファイバ製造が中断してしまうので、ファイバ線引き炉からヘリウムを取出し、および/または、再利用することは、利点を有しうる。ファイバ線引き炉からヘリウムを再利用すると、線引き炉のヘリウムを収集、清浄および再利用を行うために、動作の複雑さが増してしまう。窒素およびアルゴンなどの他の不活性ガスをファイバ線引き炉で用いれば、ヘリウムより安価でありうるが、容認できないようなファイバ直径の変動を生じることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、ファイバ線引き炉でヘリウムを用いない仕様で、ファイバ線引きを可能にする方法および装置を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、炉システムは、炉空洞部を画定するマッフルを含む。下側加熱部は、マッフルに連結されて、約1900℃以上の温度を有する高温ゾーンを炉空洞部内に生成するように構成される。上側マッフル延伸部は、マッフルの上方に位置して、ハンドル空洞部を画定する。下向き供給ハンドル部は、ハンドル空洞部内に位置して、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する。上側加熱部は、上側マッフル延伸部に熱的に連結され、間隙を加熱するように構成される。気体スクリーンは、上側マッフル延伸部に位置して、プロセスガスをハンドル空洞部に注入するように構成される。
【0006】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、炉システムは、炉空洞部を画定するマッフルを含む。上側マッフル延伸部は、マッフルの上方に位置する。気体スクリーンは、上側マッフル延伸部に位置して、プロセスガスを注入するように構成される。下向き供給ハンドルは、上側マッフル延伸部内に位置して、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する。間隙は、下向き供給ハンドルから上側マッフル延伸部まで測定した約4cm以下の長さを有する。ブールは、下向き供給ハンドルに連結されて、光ファイバプリフォームを支持するように構成される。上側加熱部は、上側マッフル延伸部に連結されて、間隙を加熱するように構成される。
【0007】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、炉アセンブリの動作方法は、下向き供給ハンドルを上側マッフル延伸部内に配置して、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する工程と、上側マッフル延伸部を、上側マッフル延伸部に熱的に連結された上側加熱部を通して加熱する工程と、プロセスガスを、下向き供給ハンドルの周囲の気体スクリーンを通して注入する工程とを含む。
【0008】
本開示のこれらの、および、他の特徴、利点および目的は、当業者には、以下の明細書、請求項、および、添付の図面を参照することによって、更に理解され、分かるだろう。
【0009】
第1の態様によれば、炉空洞部を画定するマッフルを含む炉システムを提供する。下側加熱部は、マッフルに連結されて、約1900℃以上の温度を有する高温ゾーンを炉空洞部内に生成するように構成される。上側マッフル延伸部は、マッフルの上方に位置して、ハンドル空洞部を画定する。下向き供給ハンドル部は、ハンドル空洞部内に位置して、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する。上側加熱部は、上側マッフル延伸部に熱的に連結され、間隙を加熱するように構成される。気体スクリーンは、上側マッフル延伸部に位置して、プロセスガスをハンドル空洞部に注入するように構成される。
【0010】
第2の態様によれば、態様1の炉システムを提供し、プロセスガスは、約10体積%以上のアルゴンを含むものである。
【0011】
第3の態様によれば、態様1の炉システムを提供し、プロセスガスは、約10体積%以上の窒素を含むものである。
【0012】
第4の態様によれば、態様1の炉システムを提供し、下向き供給ハンドルは、更に、光ファイバプリフォームを支持するように構成されたブールを含むものである。
【0013】
態様によれば、態様1の炉システムを提供し、囲い部が、上側マッフルとプリフォームの間に位置する。
【0014】
第5の態様によれば、態様1の炉システムを提供し、上側加熱部は、間隙を約800℃以上の温度に加熱するように構成されたものである。
【0015】
第6の態様によれば、態様1の炉システムを提供し、間隙は、下向き供給ハンドルの外面から上側マッフル延伸部の内面まで測定した約2cm以下の長さを有するものである。
【0016】
第7の態様によれば、態様1の炉システムを提供し、上側加熱部は、上側マッフル延伸部の入口部で熱的に連結されたものである。
【0017】
第8の態様によれば、炉空洞部を画定するマッフルを含む炉システムを提供する。上側マッフル延伸部は、マッフルの上方に位置する。気体スクリーンは、上側マッフル延伸部に位置して、プロセスガスを注入するように構成される。下向き供給ハンドル部は、上側マッフル延伸部内に位置して、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する。間隙は、下向き供給ハンドルから上側マッフル延伸部まで測定した約4cm以下の長さを有する。下向き供給ハンドル部は、光ファイバプリフォームを支持するように構成される。上側加熱部は、上側マッフル延伸部に熱的に連結されて、間隙を加熱するように構成される。
【0018】
第9の態様によれば、態様8の炉システムを提供し、マッフルと上側マッフル延伸部の少なくとも一方は、炭素を含むものである。
【0019】
第10の態様によれば、態様8の炉システムを提供し、下向き供給ハンドルの外面から上側マッフル延伸部の内面まで測定した間隙の長さは、約3cm以下である。
【0020】
第11の態様によれば、態様8の炉システムを提供し、下向き供給ハンドルの外面から上側マッフル延伸部の内面まで測定した間隙の長さは、約2.5cm以下である。
【0021】
第12の態様によれば、態様8の炉システムを提供し、下向き供給ハンドルの外面から上側マッフル延伸部の内面まで測定した間隙の長さは、約2cm以下である。
【0022】
第13態様によれば、態様8の炉システムを提供し、プロセスガスは、不活性ガスを含むものである。
【0023】
第14の態様によれば、態様13の炉システムを提供し、プロセスガスは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を含むものである。
【0024】
第15の態様によれば、炉アセンブリの動作方法は、下向き供給ハンドルを上側マッフル延伸部内に配置して、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する工程と、上側マッフル延伸部を、上側マッフル延伸部に熱的に連結された上側加熱部を通して加熱する工程と、プロセスガスを、下向き供給ハンドルの周囲の気体スクリーンを通して注入する工程とを含む。
【0025】
第16の態様によれば、態様15の方法を提供し、プロセスガスを注入する工程は、更に、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を、下向き供給ハンドルの周囲の気体スクリーンを通して注入する工程を含むものである。
【0026】
第17の態様によれば、態様15の方法は、約1900℃以上の温度を有する高温ゾーンを炉空洞部内に生成する工程を、更に含む。
【0027】
第18の態様によれば、態様15の方法は、光ファイバプリフォームを、下向き供給ハンドルから支持する工程と、光ファイバを光ファイバプリフォームから引き出す工程とを更に含む。
【0028】
第19の態様によれば、態様15の方法を提供し、上側マッフル延伸部を加熱する工程は、更に、間隙を、約800℃から約1100℃の範囲の温度に加熱する工程を更に含むものである。
【0029】
第20の態様によれば、態様15の方法を提供し、下向き供給ハンドルを上側マッフル延伸部内に配置する工程は、更に、下向き供給ハンドルの外面と上側マッフル延伸部の内面の間の間隙が、約0.5cmから約2.5cmの長さを有するように、間隙を画定する工程を更に含むものである。
【0030】
本明細書に記載の各態様および実施形態は、様々な方法で互いに組み合わせうる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】少なくとも1つの例による炉アセンブリを示す概略図である。
図2】一実施形態による図1のII部分を拡大して示す図である。
図3】少なくとも1つの例による方法を行うためのフローチャートを示す。
図4A】第1の比較例の流路図である。
図4B】第1の比較例について、頂点平均静圧とフロー時間の関係を示すプロットである。
図4C】第1の比較例について、質量流量とフロー時間の関係を示すプロットである。
図4D】第1の比較例について、頂点平均温度とフロー時間の関係を示すプロットである。
図5A】第1の実施例の流路図である。
図5B】第1の実施例について、頂点平均温度とフロー時間の関係を示すプロットである。
図6A】第2の比較例の流路図である。
図6B】第2の比較例について、頂点平均静圧とフロー時間の関係を示すプロットである。
図6C】第2の比較例について、質量流量とフロー時間の関係を示すプロットである。
図6D】第2の比較例について、頂点平均温度とフロー時間の関係を示すプロットである。
図7A】第2の実施例の流路図である。
図7B】第2の実施例について、頂点平均静圧とフロー時間の関係を示すプロットである。
図7C】第2の実施例について、質量流量とフロー時間の関係を示すプロットである。
図7D】第2の実施例について、頂点平均温度とフロー時間の関係を示すプロットである。
図8A】温度に対する、アルゴンの動粘度の二乗とヘリウムの150℃における動粘度の二乗との比の関係を示すプロットである。
図8B】HeをArで置き換えた場合に、一定のGr数を維持するのに削減しなければならない特徴的長さの量を示す。
図9】異なる気体を用いた場合のファイバ直径を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の更なる特徴および利点を、次の詳細な記載に示し、それは、当業者には記載から明らかであるか、若しくは、請求項および添付の図面と共に次の詳細な記載に示した本発明を実施することで分かるだろう。
【0033】
本明細書で用いるように、「および/または」という用語を、2つ以上の項目を列挙する際に用いた場合には、列挙した項目の任意の1つを、それだけで用いうるか、または、列挙した項目の2つ以上を任意の組合せで用いうることを意味する。例えば、組成物を、成分A、B、および/または、Cを含むものとして記載した場合には、組成物は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの組合せ、AとCの組合せ、BとCの組合せ、または、A、B、Cの組合せを含みうる。
【0034】
本明細書において、第1と第2、最上部と底部などの相対的な用語は、1つの物または動作を、他の物または動作と単に区別するためだけに用いたものであり、そのような物または動作が、実際にそのような関係または順序を要するものでも、示唆するものでもない。
【0035】
図1、2を参照すると、炉システム10を概略的に示している。炉システム10は、炉空洞部18を中に画定するマッフル14を含む。下側加熱部22は、マッフル14に連結されて、高温ゾーン26を炉空洞部18内に生成するように構成される。上側マッフル延伸部30は、炉システム10内でマッフル14の上方に位置する。上側マッフル延伸部30は、その中にハンドル空洞部34を画定する。気体スクリーン38は、上側マッフル延伸部30内に位置して、プロセスガスをハンドル空洞部34に注入するように構成される。下向き供給ハンドル42は、上側マッフル延伸部30内に位置して、下向き供給ハンドル42の外面42Aと上側マッフル延伸部30の内面30Aの間の間隙46を画定する。下向き供給ハンドル42は、光ファイバプリフォーム54を支持するように構成される。下向き供給ハンドル42は、任意で、光ファイバプリフォーム54を支持するブール50を含む。上側加熱部58は、上側マッフル延伸部30に連結されて、間隙46を加熱する。
【0036】
マッフル14、および/または、上側マッフル延伸部30は、グラファイト、ジルコニア、接合剤、および/または、それらの組合せなどの耐火材料から構成されうる。したがって、マッフルおよび上側マッフル延伸部の少なくとも一方が炭素を含みうる。マッフル14および上側マッフル延伸部30は、炉システム10内の熱を保持すると共に、他の構成要素を過度な熱から保護するように構成されうる。マッフル14、および/または、上側マッフル延伸部30の材料は、概して良好な断熱材でありうるが、高温では、酸化を生じうる。したがって、1つ以上のプロセスガスを炉アセンブリ10に挿入または注入して、マッフル14、および/または、上側マッフル延伸部30の酸化を防ぎうる。マッフル14および上側マッフル延伸部30を別々の構造物として記載したが、単一の構成要素であるか、または、2つより多くの構成要素から構成されうる。マッフル14、および/または、上側マッフル延伸部30は、略均一な内径を有するか、内径は、全体を通して一定でありうる。更に、マッフル14と上側マッフル延伸部30は、互いに異なる内径を有しうる。
【0037】
下側加熱部22は、熱的にマッフル14に連結されて、高温ゾーン26を炉システム10内に生成するように構成される。具体的には、高温ゾーンは、炉空洞部18内に生成される。高温ゾーン26は、約1800℃から約2000℃の温度を有しうる。したがって、高温ゾーン26は、炉空洞部18の他の部分、および/または、ハンドル空洞部34と比べて高い温度を有しうる。例えば、高温ゾーン26は、約1700℃、1800℃、1900℃、または、約2000℃、若しくは、これらの値の任意の2つを端点とする任意の範囲の温度を有しうる。いくつかの例において、高温ゾーン26は、約1900℃以上の温度を有しうる。以下により詳細に記載するように、高温ゾーン26の熱は、光ファイバプリフォーム54の粘度を低下させるのに十分である。
【0038】
上側マッフル延伸部30は、マッフル14に連結される。上側マッフル延伸部30は、その中にハンドル空洞部34を画定する環状構造物でありうる。ハンドル空洞部34は、炉空洞部18に流体連結されて、炉空洞部18に対して開口する。したがって、ハンドル空洞部34内の気体は、炉空洞部18へと通過または流入しうる。ハンドル空洞部34は、下向き供給ハンドル42を受け付けるような大きさを有し、そのように配置される。封止部60は、気体スクリーン38と下向き供給ハンドル42の間に位置して、気体がハンドル空洞部34から上方に向かって漏れないようにしうる。下向き供給ハンドル42は、中空または中実でありうる。下向き供給ハンドル42は、約6cmから約1.5cm、約7cmから約13cm、または、約8cmから約12cmの外径を有しうる。下向き供給ハンドル42は、ハンドル42が上側マッフル延伸部30のハンドル空洞部34の中に移動したり、そこから出たりするのを可能にさせるモータに連結される。以下により詳細に記載するように、下向き供給ハンドル42は、上側マッフル延伸部30を通って移動し、光ファイバプリフォーム54が消費される時に、ハンドル42が連続して光ファイバプリフォーム54を高温ゾーン26へと移動させうる。ブール50は、それ以外の下向き供給ハンドル42の下端部または末端部に連結される。ブール50は、下向き供給ハンドル42の構成要素である。様々な例によれば、ブール50は、光ファイバプリフォーム54を支持するように構成される。様々な例によれば、ブール50は、下向き供給ハンドル42と略同様の外径を有しうる。換言すれば、ブール50の外面は、下向き供給ハンドル42の外面42Aと略同じ高さでありうる。ブール50は、下向き供給ハンドル42と略同じ外径を有するので、ブール50が上側マッフル延伸部30を通って移動する時に、間隙46は略一定のままでありうる。図2に示した実施形態において、ブール50は、ハンドル42に融着されたガラス片である。ブール50は、光ファイバプリフォーム54をそこに取り付けるスロットを含む。しかしながら、任意の適切な構成を用いて、光ファイバプリフォーム54を下向き供給ハンドル42に取り付け、更に、ブール50があっても、なくてもよい。下向き供給ハンドル42がハンドル空洞部34の中に移動したり、そこから出たりする時に、ブール50および光ファイバプリフォーム54は、ハンドル空洞部34を通って炉空洞部18内に移動する。下向き供給ハンドル42に取り付けられた光ファイバプリフォーム54が、下向き供給ハンドル42またはブール50より小さい直径を有する場合には、光ファイバプリフォーム54を囲む囲い部54Aを用いて、光ファイバプリフォーム54と上側マッフル延伸部30の間の間隙を削減しうる。囲い部54Aは、下向き供給ハンドル42、ブール50、または、プリフォームに取り付けられうる。
【0039】
光ファイバプリフォーム54は、任意のガラスまたは材料から構成され、更に、光ファイバの製造に適するようにドープされうる。様々な例によれば、光ファイバプリフォーム54は、コアおよびクラッディングを含みうる。光ファイバプリフォーム54が高温ゾーン26に達すると、光ファイバプリフォーム54の粘度が低下して、そこから光ファイバ62を引き出しうる。光ファイバ62は、光ファイバプリフォーム54の線引き根元部62Aから引き出される。線引き根元部62Aは、高温ゾーン26に近接する。光ファイバプリフォーム54が光ファイバ62の製造を通して消費される時に、下向き供給ハンドル42は連続して下降し、光ファイバプリフォーム54の新しい部分が高温ゾーン26に曝されるようにしうる。光ファイバ62は、光ファイバプリフォーム54から引き出され、炉アセンブリ10の底部を通って、更に、スプールに巻き取られうる。
【0040】
上側加熱部58は、上側マッフル延伸部30に熱的に連結される。本開示を行う目的では、「熱的に連結される」という用語は、上側加熱部58が間隙46を加熱するように構成された位置に配置されることを意味する。上側加熱部58が連結されうる他の位置は、上側マッフル延伸部30の入口部に近接した位置を含むか、および/または、上側マッフル延伸部30の軸方向寸法に沿った他の位置を含みうる。いくつかの例において、上側加熱部58は、上側マッフル延伸部30の軸方向寸法の一部、大部分、または、略全部に亘って延伸しうる。したがって、上側加熱部58は、炉空洞部18の高温ゾーン26の上方に位置する。上側加熱部58は、上側マッフル延伸部30の周囲の一部、大部分、または、略全部に亘って延伸しうる。従来のファイバ線引き利用において、上側マッフルは、高温ゾーンからの対流および伝導により受動的に加熱されうる。本開示によれば、上側マッフル延伸部30は、上側加熱部58によって能動的に加熱される。換言すれば、上側加熱部58は、ハンドル空洞部34、および、上側マッフル延伸部30と下向き供給ハンドル42の間に存在する間隙46を加熱して、炉システム10が高温ゾーン26の上方で能動的に加熱されるように構成される。上側加熱部58は、ハンドル空洞部34、および/または、間隙46を、約600℃から約1800℃、約700℃から約1500℃、または、約800℃から約1100℃の範囲の温度まで加熱するように構成される。例えば、上側加熱部58は、間隙46を約800℃以上の温度に加熱するように構成される。伝統的なファイバ線引き設計において、上側空洞部は、炉内の下方に配置された加熱部から上方に向かう熱対流に基づいて、約150℃から約250℃の間、または、約200℃から約250℃の間の温度に達するのみでありうる。以下により詳細に記載するように、上側マッフル延伸部30、ハンドル空洞部34、および/または、間隙46を、上側加熱部58によって能動的に加熱することによって、炉システム10の上側体積部における温度および密度の層化により生じるフロー不安定性を防ぎうる。
【0041】
上記のように、下向き供給ハンドル42は上側マッフル延伸部30内に位置して、下向き供給ハンドル42の外面42Aと上側マッフル延伸部30の内面30Aの間の間隙46が画定される。更に、ブール50が上側マッフル延伸部30を通って移動する時に、ブール50と上側マッフル延伸部30の間の間隙46も画定されることが分かるだろう。間隙46は、下向き供給ハンドル42の外面42Aから上側マッフル延伸部30の内面30Aまで測定した約4cm以下、約3.5cm以下、約3cm以下、約2.5cm以下、約2cm以下、約1.5cm以下、約1cm以下、または、約0.5cm以下の長さを有する。間隙46の長さは、略均一であるか、下向き供給ハンドル42の周囲に亘って変化しうる。別段の記載がない限りは、間隙46が下向き供給ハンドル42の周囲に亘って非均一な例において、間隙46の長さは、間隙46の最小距離として測定される。更に、間隙46の長さは、一定であるか、下向き供給ハンドル42、および/または、上側マッフル延伸部30の軸方向寸法に亘って変化しうる。更なる例において、間隙46の長さは、時間的に変化しうる。例えば、間隙46の長さは、光ファイバプリフォーム54が消費されて、下向き供給ハンドル42が上側マッフル延伸部30を通って移動する時に変化しうる。間隙46の「長さ」は、従来の「幅」として考えられうるが、本明細書において、グラスホフ式における長さという用語の使用法と一致させるために、「長さ」と称している。
【0042】
気体スクリーン38は、上側マッフル延伸部30内に、それと連結されて位置する。気体スクリーン38は、1つ以上のプロセスガスをハンドル空洞部34に注入、放出、または、他の方法で挿入するように構成される。気体スクリーン38は、少なくとも1つの開口部(図2に不図示)を含み、それを通って、プロセスガスが間隙46に注入される。気体スクリーン38は、プロセスガスを注入するように構成された単一の投入口、複数の投入口、並びに/若しくは、連続または略連続した開口部を含みうる。気体スクリーン38は、プロセスガスのフロー特性を変更するように構成された1つ以上の格子を含みうることが分かるだろう。プロセスガスは、単一の位置または複数の位置で注入されうる。プロセスガスは、ハンドル空洞部34内に、次に炉空洞部18へ、次に光ファイバプリフォーム54の周りに進行して、炉システム10から放出されうる。プロセスガスは、上側マッフル延伸部30、マッフル14、光ファイバプリフォーム54、および/または、炉システム10の他の構成要素に対して不活性の1つ以上の気体を含みうる。例えば、プロセスガスは、ヘリウム、アルゴン、窒素、および/または、他の不活性ガスを含みうる。プロセスガスは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を含みうる。プロセスガスが不活性ガスである例は、炉アセンブリ10の構成要素に酸化および/または破損が生じるのを防ぐのに有利でありうる。プロセスガスは、約1体積%と約100体積%の間のアルゴンを含みうる。具体的な例において、プロセスガスは、約10体積%以上のアルゴンを含みうる。プロセスガスは、約1体積%と約100体積%の間の窒素を含みうる。具体的な例において、プロセスガスは、約10体積%以上の窒素を含みうる。プロセスガスは、1つ以上の異なる気体を含みうることが分かるだろう。気体スクリーン38は、プロセスガスを、約5標準リットル毎分(SLPM)と約40SLPMに間の流量で注入しうる。具体的な例において、気体スクリーン38は、プロセスガスを、約18SLPM、19SLPM、20SLPM、21SLPM、22SLPM、23SLPM、24SLPM、若しくは、これらの値の任意の2つを端点とする任意の範囲の流量で注入しうる。以下により詳細に記載するように、プロセスガスの動粘度は、光ファイバプリフォーム54から引き出される光ファイバ62の直径に影響しうる。したがって、使用するプロセスガスの選択は、間隙46の長さなど、炉システム10の様々なパラメータに応じたものでありうる。ヘリウムは、1気圧20℃の温度で、約1.180cm/秒の動粘度を有しうる。窒素は、1気圧20℃の温度で、約0.151cm/秒の動粘度を有しうる。アルゴンは1気圧20℃の温度で、約0.134cm/秒の動粘度を有しうる。
【0043】
使用するプロセスガスの種類、および、下側加熱部22によって生成される対流力は、プロセスガスにフロー不安定性を生じさせて、その結果、光ファイバプリフォーム54から引き出される光ファイバ62の直径が非均一になりうる。フロー不安定性は、ハンドル空洞部34における密度の層化による(例えば、下側加熱部22によって加熱されたプロセスガスからの)自然対流と、ハンドル空洞部34に気体スクリーン38を通して注入されるプロセスガスの相互作用から生じうる。ハンドル空洞部34で生じたフロー不安定性は、炉空洞部18へと下方に伝播して、プロセスガスと、マッフル14の高温ゾーン26に位置する光ファイバプリフォーム54の線引き根元部62Aの間での熱伝達に影響する。フロー不安定性は、温度変化、圧力変化、および、質量流量変化として現れうる。温度、圧力および質量流量の変化は、線引き根元部62Aへと伝わって、光ファイバプリフォーム54の粘度を変化させる。最終的には、温度、圧力および質量流量の変化は、線引き根元部62Aの加熱および冷却の変動につながり、更に、(例えば、光ファイバプリフォーム54から引き出しうる材料の量の変化により)光ファイバプリフォーム54から引き出される光ファイバ62の直径の変動を最終的に生じる。プロセスガスのフロー不安定性または乱流は、グラスホフ(Gr)数として定量化しうる。Gr数は、気体系の粘性力に対する浮力の比として物理的に解釈しうる。浮力が粘性力より有意に大きくなると、流れは不安定で時変になる。グラスホフ数は、数値的に式(1)で表しうる:
【0044】
【数1】
【0045】
但し、gは、重力加速度、βは、プロセスガスの熱膨張率、Lは、特徴的長さ(例えば、間隙46の長さ)、ΔTは、(例えば、気体スクリーン38に近接した光ファイバプリフォーム54の線引き根元部62Aで測定した)温度差、更に、vは、プロセスガスの動粘度である。ヘリウムは、高い動粘度を有するので、従来のファイバ線引き炉は、ヘリウムを用いている。式(1)から分かるように、プロセスガスが高い動粘度を有すると、グラスホフ数は減少し、その結果、自然対流が低下しうる。物理的に解釈すると、プロセスガスの動粘度が高いほど、対流を阻害する。換言すれば、プロセスガスの動粘度が高いほど、プロセスガスによって対流に与えられる抵抗が高まる。対流が阻害されると、プロセスガスは、ハンドル空洞部34から炉空洞部18へ均一に流れうる。対流が存在する場合、プロセスガスはマルチセル型パターンへと転移して、炉システム10内で上方に向かって浮かび上がり、その結果、プロセスガスの温度、圧力および質量流量変化を緩和させるか、または、繰返し生じさせる。炉システム10を、特徴的長さ(例えば、間隙46の長さ)、および/または、(例えば、上側加熱部58を用いることによって)温度差を、グラスホフ数を減少させるように調節することによって、特定の気体を用いるように調整して、プロセスガスの安定した流れを促進し、それにより、ファイバ直径の変化を削減しうる。このように調整することにより、望ましいグラスホフ数および安定した流れを実現したままで、ヘリウム以外のプロセスガスの使用が可能になりうる。
【0046】
図8A図8Bを参照すると、温度の動粘度に対する影響、および、炉の間隙の対流抵抗に対する影響を示している。図8Aは、アルゴンの動粘度の二乗の150℃(上側マッフルでの標準気体温度)におけるヘリウムのそれに対する比を、アルゴンの温度の関数として示している。比が1の場合、これらの2つの因数は等しく、つまり、所定の炉構成について、アルゴンの対流に対する抵抗は、ヘリウムのそれと同じである。図8Aは、温度は、800℃であることを示している。図8Bを参照すると、炉の間隙の影響を示している。この図は、図8Aに示した依存関係と類似した図である。この図は、(マッフルの温度を高めずに)HeをArで置き換えた場合に一定のGr数を維持するには、間隙の量を削減しなければならないことを示している。150℃において、ν(He)/ν(Ar)=70なので、1/(間隙)を70倍に増加させる必要がある。
【0047】
ここで、図3を参照すると、炉システム10の動作方法を示している。方法70は、下向き供給ハンドル42を上側マッフル延伸部30内に配置して、下向き供給ハンドル42と上側マッフル延伸部30の間の間隙46を画定する工程74で始めうる。上記のように、下向き供給ハンドル42、および/または、ブール50は、上側マッフル延伸部30、および/または、マッフル14に挿入、更に、そこから取り外されるように構成されて、光ファイバプリフォーム54が炉アセンブリ10の高温ゾーン26に位置するようにしうる。したがって、光ファイバプリフォーム54は、下向き供給ハンドル42から支持される。下側加熱部22は、炉空洞部18内に、約1900℃以上の温度を有する高温ゾーン26を生成しうる。間隙46は、(ブール50を含む)下向き供給ハンドル42と、上側マッフル延伸部30の内面の間に存在する。上記のように、間隙46は、下向き供給ハンドル42/ブール50と上側マッフル延伸部30の間の長さが約0.5cmから約2.5cmとなるように画定されうる。
【0048】
次に、上側マッフル延伸部30を、上側マッフル延伸部30に連結された上側加熱部58を通して加熱する工程78を行う。上側マッフル延伸部30を加熱することで、間隙46を約800℃から約1100℃の範囲の温度に加熱する。間隙46、および/または、上側マッフル延伸部30のハンドル空洞部34を加熱することによって、間隙46と高温ゾーン26の温度差が減少しうる。上記のように、間隙46の加熱、および、間隙46の長さの調整により、プロセスガス内の乱流を削減または排除しうる。
【0049】
次に、プロセスガスを、気体スクリーン38を通して、下向き供給ハンドル42の周囲に注入する工程82を行う。上記のように、気体スクリーン38を通して下向き供給ハンドル42の周りに注入されたプロセスガスは、窒素、アルゴン、他の不活性、および/または、それらの組合せを含みうる。例えば、工程82は、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を、気体スクリーン38を通して注入する工程を含みうる。
【0050】
最後に、光ファイバ62を光ファイバプリフォーム54から引き出す工程86を行う。間隙46が上側加熱部58によって加熱されると、光ファイバ62は、略均一な直径を示しうる。いくつかの工程を、文脈によっては順序を表す「次に」というような言葉を用いて記載したが、記載した方法において、工程を、連続的に、および、同時に行いうると理解すべきである。例えば、マッフルの加熱(工程78)、気体の流入(工程82)、および、光ファイバの線引き(工程86)を、全て同時に行う。
【0051】
本開示の炉システム10を用いることで、様々な利点を提供しうる。第1に、本開示は、炉システム10内でのヘリウムの使用を排除することを可能にしうる。例えば、間隙46の長さを調整するか、および/または、上側加熱部58を用いることによって、低い動粘度を有する不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)を用いながら、マルチセル型対流経路から生じるフロー不安定性を排除しうるので、結果的に、適切なファイバ直径仕様も維持しつつ、ヘリウムを用いる必要がなくなりうる。そのような特徴は、ヘリウムの使用に関係する製造コストの削減に利点を有しうる。更に、ヘリウム供給の不安定性に関連する製造ダウンタイムもなくしうる。第2に、ヘリウムの使用を排除することによって、光ファイバ62の欠陥、および/または、光ファイバの破損を生じうることが多いヘリウム再利用システムの使用を排除しうる。そのような特徴は、光ファイバプリフォーム54から引き出される光ファイバ62の使用可能な長さを増加させるのに有利でありうる。第3に、ブール50を、それ以外の下向き供給ハンドル42の部分と同じ高さにして、下向き供給ハンドル42および光ファイバプリフォーム54をハンドル空洞部34に挿入した状態で間隙46が略一定のままにすることによって、光ファイバ62の直径における蜂の巣効果を削減しうる。蜂の巣効果とは、下向き供給ハンドル42が従来のファイバ線引きタワーの上側マッフル延伸部30に挿入されると、ブール50と上側マッフル延伸部30の間の間隔が劇的に変化するので、光ファイバ62の直径が大きく変化する傾向である。第4に、上側加熱部58の組込み、および、間隙46の長さの調整という機械的に簡単な設計により、比較的安価な不活性ガスの使用を可能にしつつ、炉システム10を用いて引き出される光ファイバ62の直径を、容易で便利な態様で効果的に制御することが可能になる。
【実施例0052】
ここで、図4Aから7Dを参照すると、炉アセンブリ(例えば、炉システム10)内の気流および熱伝達の数値流体力学(CFD)シミュレーションを示している。CFDシミュレーションを、現在の製造構成に基づく過去の観察記録を用いて確認し、妥当性を確認した。
【0053】
ここで、図4A~4Dを参照すると、第1の比較例のCFDモデルを示している。比較例1において、温度変化は、(例えば、炉システム10と同様の)炉80の軸方向寸法に沿って生じ、炉80の(例えば、高温ゾーン26と同様の)加熱ゾーンは、約2100℃の温度を有し、(例えば、ハンドル空洞部34、および/または、間隙46と同様の)上側部分84の温度は、それよりかなり低い約200℃である。(例えば、下向き供給ハンドル42と同様の)ハンドル88は、約7.62cmの外径を有し、(例えば、上側マッフル延伸部30と同様の)上側マッフル92は、それより大きい内径を有して、(例えば、間隙46と同様の)ハンドル88と上側マッフル92の間の間隙96は、約4cmより広い。図4Aの流路から分かるように、セル型フローパターンが、ハンドル88と上側マッフル92の間の間隔96の上側炉容積部で確立する。フローパターンは、主に大きい対流セルから構成され、それは、(例えば、対流により)重力に反して上方に向かって浮かび上がり、更に、気体投入部(例えば、気体スクリーン38)から炉へ測定しながら注入された反対向きの力を加えられた気流(例えば、プロセスガス)と相互作用する。比較例1で用いる気流の気体は、100%のヘリウムである。流路のうち閉じた線は、再循環フローパターンを示している。このモデルは、上記のような2つの対向する流れの相互作用により、全体的流れが不安定になり、その結果、気体温度、圧力および質量流量などのフローパラメータが時間の経過と共に変動するのを示している。不安定な流れは周期的で、0.63Hzの明確なピーク頻度を有する。このモデルの結果は、製造時の観察結果と一致する(つまり、大きいハンドルの場合には、ファイバ直径は仕様内に制御されるが、小さいハンドルの場合には、直径の変動が仕様を外れる)。渦が生成された状態で、図4B~Dから、ファイバ根元部(例えば、線引き根元部62A)の領域でプリフォーム(例えば、光ファイバプリフォーム54)に当たる気流の静圧、質量流量および温度は、時間の経過と共に急速に変動することが分かる。上記のように、圧力、流量および温度の急速な変動は、プリフォームから引き出される光ファイバの最終的な直径に影響しうる。
【0054】
ここで、図5A、5Bを参照すると、本開示の第1の実施例を示している。実施例1において、炉80の条件は比較例1と同じであるが、ハンドル88は約12.37cmの外径を有し、上側マッフル92は小さい内径を有して、ハンドル88と上側マッフル92の間の間隔96は約4cm以下である。図5Aから分かるように、間隔96が小さい場合、気体スクリーンの投入口からの気流は主に下方に向かい、気体が上側マッフル92に対して垂直に炉80に入ることにより、2つだけの小さい再循環渦が気体の投入口の近くに形成される。図5Bに示すように、ファイバ根元部の領域で(例えば、光ファイバ62が引き出されるプリフォーム54の線引き根元部62Aで)プレフォームに当たる気体の温度は、時間が経過しても非常に安定している。上記のように、温度が安定することで、結果的に、熱伝達が安定して、一定の直径を有する光ファイバを製造する。
【0055】
ここで、図6A~6Dを参照すると、ヘリウムをアルゴンで置き換えた以外は、比較例1と同じ処理パラメータを有する比較例2を示している。図面から分かるように、ヘリウムをアルゴンで置き換えた結果、炉80の上側部分84でマルチセル型対流が確立する。更に、フロー不安定性が、比較例1の周期的な性質から、比較例2の不規則または無秩序な性質に変化している。例えば、炉の気体が100%ヘリウムの場合には、不安定な流れは周期的で、0.63Hzの明確なピーク頻度を有し、一方、炉の気体が100%アルゴンの場合には、変動は頻度を有さない。上記のように、アルゴンの動粘度が低いことで、ヘリウムと比べてグラスホフ数が大きくなり、結果的に、気流の不安定性が高くなる。不安定性が高まることで、圧力、流量および温度が、急速に無秩序に変動することとなる。
【0056】
ここで、図7A~7Dを参照すると、本開示の実施例2のCFDモデリングを示している。上記のように、フロー不安定性を抑制する方法の一つは、加熱ゾーンの上方で上側マッフル92を能動的に加熱することである。上側マッフル92を加熱ゾーンの上方で加熱することによって、β/νの値、および。加熱ゾーンと炉80の上側部分の温度差を低下させることで、グラスホフ数を低下させうる。例えば、アルゴンを充填した炉の上側部分において、アルゴンを充填した上側マッフル92を、上部加熱部(例えば、上側加熱部58と同様の構造物)を用いて約1100℃まで加熱した場合には、95%ヘリウム/5%アルゴンの混合物の場合と同じβ/νの値(つまり、同じグラスホフ数)を取得しうる。上側マッフル92を1100℃まで加熱した場合には、アルゴンの動粘度は、上側マッフル92を加熱ゾーンの上方で能動的に加熱しない場合より、一桁大きくなる。式(1)から、グラスホフ数は、少なくとも二桁小さいことが推測され、したがって、自然対流の大きさが減少すると予想しうる。1100℃より低い温度(例えば、約700℃まで低下)、または、1100℃より高い温度(例えば、高温ゾーン26の温度まで上昇)も利用して、同様の効果を実現しうることが分かるだろう。確かに、比較例2と実施例2の流路輪郭プロットを比較すると、炉80の上側マッフル92を加熱することによって、上側マッフル92とハンドル88の間の間隔96におけるマルチセル型対流が抑制されて、アルゴンの気流は、主に最上部から加熱ゾーンに向かって安定して流れることを示している。図7B~7Dに示したフローパラメータ、温度、圧力および質量流量の一時的プロファイルを比較することによって、上側マッフル92の加熱により流れを安定させる効果が明らかに分かりうる。流れ、温度および圧力が経時的に安定することで、根元部が安定して冷却されて、安定したファイバ直径性能となる。
【0057】
図9を参照すると、炉の幾何学構造および線引きパラメータが同一である3つの場合について、500Hzの頻度で収集したファイバ直径を示している。これらの3つの場合において、下向き供給ハンドルと上側マッフルの間の間隙は、12mmに維持される。第1の場合である標準アルゴンでは、上側マッフルの更なる加熱はなく、ファイバ直径の変動が大きく容認できない。第2の場合である標準ヘリウムでも、上側マッフルの更なる加熱はないが、ヘリウムの動粘度が高いことで、結果的に、ファイバ直径が良好に制御されて、仕様基準を満たしている。第3の場合である800℃アルゴンでは、上側マッフルが800℃まで加熱され、その結果、アルゴンの動粘度が高まり、ファイバ直径が良好に制御されて、仕様基準を満たしている。
【0058】
当業者並びに本開示の製作または使用者は、本開示の変更を行うだろう。したがって、図面に示した上記実施形態は、例示に過ぎず、本開示の範囲を限定することを意図しないものであり、本開示の範囲は、均等論を含む特許法原理により解釈された添付の請求項によって画定されると理解される。
【0059】
当業者には、記載した本開示の構成、および、他の構成要素は、いずれの具体的な材料にも限定されないことが分かるだろう。本明細書において別段の記載がない限りは、本開示の他の例示的な実施形態を、広範囲の様々な材料から製造しうる。
【0060】
本開示の目的では、(全ての変化形:連結する、連結している、連結されたなどの)「連結された」という用語は、概して、2つの構成要素を、(電気的または機械的に)直接または間接的に互いに結合させることを意味する。そのような結合は、静止性または移動自在性でありうる。そのような結合は、2つの(電気的または機械的)構成要素、並びに、互いに、または2つの構成要素と一体に単一の一体構造体として形成された任意の更なる中間部材を用いて実現しうる。別段の記載がない限りは、そのような結合は、永久的か、若しくは、取り外し自在または解除自在でありうる。
【0061】
本明細書で用いるように、「約」という用語は、量、大きさ、調合、パラメータ、並びに、他の量および特徴が厳密でないか、厳密である必要がなく、許容度、換算係数、四捨五入、測定誤差、および、当業者に知られた他の要因を反映して、望ましいように大きいか、小さくてもよいことを意味する。「約」という用語を、値、または、範囲の端点を記載するのに用いた場合には、本開示は、その具体的値または端点を含むと理解すべきである。本明細書で、数値または範囲の端点を「約」を付けて記載したかに関わらず、その数値または範囲の端点は、2つの実施形態、つまり、「約」で修飾した実施形態、および、「約」で修飾しない実施形態を含むことを意図する。更に、各範囲の端点は、他方の端点との関係においてと、他方の端点と独立にとの両方で重要であることが分かるだろう。
【0062】
「略」、「実質的に」という用語、および、それらの変化形は、本明細書で用いるように、記載した特徴が、値または記載に等しいか、概して等しいことを意図する。例えば、「実質的に平坦な」表面は、平坦か、略平坦な表面を示すことを意図する。更に、「実質的に」は、2つの値が等しいか、略等しいことを意図する。いくつかの実施形態において、「実質的に」は、値が、互いに約10%以内であることを表す。
【0063】
例示的な実施形態に示した本開示の構成および構成要素の配列は、例示に過ぎないことに注意することも重要である。本発明のいくつかの実施形態のみを、本開示で詳細に記載したが、当業者が本開示を検討すれば、記載した主題の新規教示および利点を逸脱することなく、多数の変更(例えば、様々な構成要素のサイズ、寸法、構造、形状および割合、パラメータの値、載置配列、材料の使用、色、向きなどの変更)が可能なことが容易に分かるだろう。例えば、一体に形成されて示した構成要素は、多数の部分から構成されるか、多数の部分として示した構成要素は、一体に形成されるか、インターフェースの動作は、逆であるか、他の態様で異なるか、構造物、並びに/若しくは、部材、接続部、または、システムの他の構成要素の長さまたは幅は異なるか、更に、構成要素の間の設けられた調節部の特徴または数も異なりうる。システムの構成要素、および/または、アセンブリは、任意の広範囲の様々な色、テクスチャ、および、それらの組合せで、十分な強度または耐久性を提供する広範囲の様々な材料から構成しうることに注意すべきである。したがって、そのような変更例の全てを本発明の範囲に含むことを意図する。本発明の精神を逸脱することなく、望ましい、および、他の例示的な実施形態の設計、動作条件および配列において、他の置換え、変更、変形および省略を行いうる。
【0064】
任意の記載した処理、または、記載した処理中の工程を、他の開示した処理または工程と組み合わせて、本開示の範囲の構造を形成しうることが分かるだろう。本明細書に開示の例示的な構造および処理は、例示のためであり、限定するものであると解釈されるべきではない。
【0065】
本開示の概念を逸脱することなく、上記構造および方法に変形および変更が可能なことも分かるだろう。更に、添付の請求項において、言葉で明示的に別段の記載を行わない限りは、そのような概念は、請求項によって網羅されることを意図すると理解すべきである。更に、添付の請求は、この詳細な記載に組み込まれ、一部を構成するものである。
【0066】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0067】
実施形態1
炉システムにおいて、
炉空洞部を画定するマッフルと、
前記マッフルに連結されて、約1900℃以上の温度を有する高温ゾーンを前記炉空洞部内に生成するように構成された下側加熱部と、
前記マッフルの上方に位置して、ハンドル空洞部を画定する上側マッフル延伸部と、
前記ハンドル空洞部内に位置する下向き供給ハンドル部であって、前記下向き供給ハンドルの外面と前記上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する下向き供給ハンドル部と、
前記上側マッフル延伸部に熱的に連結され、前記間隙を加熱するように構成された上側加熱部と、
前記上側マッフル延伸部に位置して、プロセスガスを前記ハンドル空洞部に注入するように構成された気体スクリーンと
を含むシステム。
【0068】
実施形態2
前記プロセスガスは、約10体積%以上のアルゴンを含むものである、実施形態1に記載の炉システム。
【0069】
実施形態3
前記プロセスガスは、約10体積%以上の窒素を含むものである、実施形態1または2に記載の炉システム。
【0070】
実施形態4
前記下向き供給ハンドルに連結されて、光ファイバプリフォームを支持するように構成されたブールを更に含むものである、実施形態1から3のいずれか1つに記載の炉システム。
【0071】
実施形態5
前記上側加熱部は、前記間隙を約800℃以上の温度に加熱するように構成されたものである、実施形態1から4のいずれか1つに記載の炉システム。
【0072】
実施形態6
前記上側加熱部は、前記上側マッフル延伸部の入口部で熱的に連結されたものである、実施形態1から5のいずれか1つに記載の炉システム。
【0073】
実施形態7
前記マッフルと前記上側マッフル延伸部の少なくとも一方は、炭素を含むものである、実施形態1から6のいずれか1つに記載の炉システム。
【0074】
実施形態8
前記下向き供給ハンドルの前記外面から前記上側マッフル延伸部の前記内面まで測定した前記間隙の長さは、約3cm以下の長さである、実施形態1から7のいずれか1つに記載の炉システム。
【0075】
実施形態9
前記下向き供給ハンドルの前記外面から前記上側マッフル延伸部の前記内面まで測定した前記間隙の長さは、約2.5cm以下の長さである、実施形態8に記載の炉システム。
【0076】
実施形態10
前記下向き供給ハンドルの前記外面から前記上側マッフル延伸部の前記内面まで測定した前記間隙の長さは、約2cm以下の長さである、実施形態9に記載の炉システム。
【0077】
実施形態11
炉システムにおいて、
炉空洞部を画定するマッフルと、
前記マッフルの上方に位置する上側マッフル延伸部と、
前記上側マッフル延伸部に位置して、プロセスガスを注入するように構成された気体スクリーンと、
前記上側マッフル延伸部内に位置する下向き供給ハンドルであって、前記下向き供給ハンドルの外面と前記上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定し、前記間隙は、該下向き供給ハンドルから該上側マッフル延伸部まで測定した約4cm以下の長さを有するものであり、光ファイバプリフォームを支持するように構成された下向き供給ハンドル部と、
前記上側マッフル延伸部に熱的に連結されて、前記間隙を加熱するように構成された上側加熱部と
を含む炉システム。
【0078】
実施形態12
前記マッフルと前記上側マッフル延伸部の少なくとも一方は、炭素を含むものである、実施形態11に記載の炉システム。
【0079】
実施形態13
前記下向き供給ハンドルの前記外面から前記上側マッフル延伸部の前記内面まで測定した前記間隙の長さは、約3cm以下である、実施形態11または12に記載の炉システム。
【0080】
実施形態14
前記下向き供給ハンドルの前記外面から前記上側マッフル延伸部の前記内面まで測定した前記間隙の長さは、約2.5cm以下である、実施形態11から13のいずれか1つに記載の炉システム。
【0081】
実施形態15
前記下向き供給ハンドルの前記外面から前記上側マッフル延伸部の前記内面まで測定した前記間隙の長さは、約2cm以下である、実施形態11から14のいずれか1つに記載の炉システム。
【0082】
実施形態16
前記プロセスガスは、不活性ガスを含むものである、実施形態11から15のいずれか1つに記載の炉システム。
【0083】
実施形態17
前記プロセスガスは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を含むものである、実施形態16に記載の炉システム。
【0084】
実施形態18
炉アセンブリの動作方法において、
下向き供給ハンドルを上側マッフル延伸部内に配置して、前記下向き供給ハンドルの外面と前記上側マッフル延伸部の内面の間の間隙を画定する工程と、
前記上側マッフル延伸部を、該上側マッフル延伸部に熱的に連結された上側加熱部を通して加熱する工程と、
プロセスガスを、前記下向き供給ハンドルの周囲の気体スクリーンを通して注入する工程と
を含む方法。
【0085】
実施形態19
前記プロセスガスを注入する工程は、更に、
窒素およびアルゴンの少なくとも一方を、前記下向き供給ハンドルの周囲の前記気体スクリーンを通して注入する工程を含むものである、実施形態18に記載の方法。
【0086】
実施形態20
約1900℃以上の温度を有する高温ゾーンを炉空洞部内に生成する工程を、
更に含む、実施形態18または19に記載の方法。
【0087】
実施形態21
光ファイバプリフォームを、前記下向き供給ハンドルから支持する工程と、
光ファイバを前記光ファイバプリフォームから引き出す工程と
を更に含む、実施形態18から20のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
実施形態22
前記上側マッフル延伸部を加熱する工程は、更に、
前記間隙を、約800℃から約1100℃の範囲の温度に加熱する工程を更に含むものである、実施形態18から21のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
実施形態23
前記下向き供給ハンドルを前記上側マッフル延伸部内に配置する工程は、更に、
前記下向き供給ハンドルの外面と前記上側マッフル延伸部の内面の間の前記間隙が、約0.5cmから約2.5cmの長さを有するように、該間隙を画定する工程を更に含むものである、実施形態18から22のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0090】
10 炉システム
14 マッフル
18 炉空洞部
22 下側加熱部
30 上側マッフル延伸部
34 ハンドル空洞部
38 気体スクリーン
42 下向き供給ハンドル
50 ブール
58 上側加熱部
92 上側マッフル
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9