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  • 特開-膵島移植のための改善された方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133612
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】膵島移植のための改善された方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/39 20150101AFI20230914BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20230914BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230914BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230914BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230914BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20230914BHJP
【FI】
A61K35/39
A61K35/545
A61P3/10
A61P1/18
A61L27/38 200
A61L27/38 100
C12N5/071
C12N5/0789
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023127914
(22)【出願日】2023-08-04
(62)【分割の表示】P 2021004170の分割
【原出願日】2016-05-05
(31)【優先権主張番号】62/157,341
(32)【優先日】2015-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(71)【出願人】
【識別番号】510012658
【氏名又は名称】エイビーティー ホールディング カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン パオロ モンテイロ カルヴァリョ モリ クーニャ
(72)【発明者】
【氏名】コニー ギセマンス
(72)【発明者】
【氏名】シャンタル マティウ
(57)【要約】
【課題】膵島移植後に膵島の移植片生存率を増大させる、膵島の生存をエキソビボで維持する、および血中グルコースレベルを正常化するために必要とされる移植される膵島の数を減少させる方法を提供すること。
【解決手段】膵島移植を行う場合、膵島と幹細胞とをプレインキュベートするか、または膵島および幹細胞を互いに接触させて移植することによって、移植した膵島の移植片生存率を有意に改善し、血中グルコースレベルを正常化するために必要とされる移植される膵島の数を減少させることは、可能である。本発明はまた、膵島および幹細胞または幹細胞培養膵島からの馴化培地を含む膵島移植のための組成物を提供する。従って、上記組成物および方法は、糖尿病を処置するために有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、膵島移植後の膵島の移植片生存率を増大させる、膵島の生存をエキソビボで維持する、および血中グルコースレベルを正常化するために必要とされる移植される膵島の数を減少させる方法を提供する。膵島移植を行う場合、膵島と幹細胞とをプレインキュベートするか、または膵島および幹細胞を互いに接触させて移植することによって、移植される膵島の移植片生存率を有意に改善し、血中グルコースレベルを正常化するために必要とされる移植される膵島の数を減少させることは、可能である。本発明はまた、上記膵島および上記幹細胞または幹細胞培養膵島からの馴化培地を含む膵島移植のための組成物を提供する。従って、上記組成物および方法は、糖尿病を処置するために有用である。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
今日まで、インスリン療法は、1型糖尿病(T1D)の処置のゴールドスタンダードと考えられている。にも拘わらず、制限は残っている(例えば、低血糖症ならびに慢性的な細小血管合併症および大血管合併症の頻繁なエピソード[Downs CA,ら (2015) World J Diabetes 6: 554-565;Campbell
MD,ら (2015) BMJ Open Diabetes Res Care 3: e000085])。膵島移植は、T1D患者にとっての代替処置を提供する。欠点としては、死体の供給が制限されていること、数名のドナーが1回の移植に必要であること、および移植不全が挙げられる[Daoud J,ら (2010) Cell Transplant 19: 1523-1535]。
【0003】
移植後の膵島生存率を増大させようとする試みにおいて、膵島を、骨髄由来間葉性幹細胞(MSC)と混合した(Rackhamら, Diabetologia, (2011) 54:1127-1135)、(Borgら, Diabetologia (2014) 57:522-531)、(Solariら, Journal of Autoimmunity, 32 (2009), 116-124)。しかし、長い集団倍加時間、早期老化、インビトロ拡大増殖(expansion)の間のDNA損傷、および移植後の不十分な生着は、MSC治療の欠点である[Wei X,ら, (2013) Acta Pharmacol Sin 34: 747-754]。さらに、長期培養拡大増殖に伴って、MSCは、核型として異常になり得、これは、腫瘍形成のリスクを引き起こし得る。脂肪由来幹細胞がまた、適用されている(米国特許第9,089,550号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9089550号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Downs CA,ら (2015) World J Diabetes 6: 554-565
【非特許文献2】Campbell MD,ら (2015) BMJ Open Diabetes Res Care 3: e000085
【非特許文献3】Daoud J,ら (2010) Cell Transplant 19: 1523-1535
【非特許文献4】Rackhamら, Diabetologia, (2011) 54:1127-1135
【非特許文献5】Borgら, Diabetologia (2014) 57:522-531
【非特許文献6】Solariら, Journal of Autoimmunity, 32 (2009), 116-124
【非特許文献7】Wei X,ら, (2013) Acta Pharmacol Sin 34: 747-754
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明者らは、同系限界量膵島移植モデル(syngeneic marginal mass islet transplantation model)において別個のペレットまたは複合物ペレット(composite pellet)として、未分化ヒト非内皮骨髄由来複能性成体前駆細胞(MAPC)と哺乳動物膵島との共移植の治療効能を評価した。
【0007】
本発明者らは、ヒトMAPC(これは、免疫特権がなく、移植後に血管新生性増殖因子を分泌し得る)の共移植が膵島生着および生存性を改善し得る可能性を考慮した。膵島を、別個のペレットまたは複合物ペレットとして、ヒトMAPCありまたはなしで共移植した。実施例では、これを、同系アロキサン誘導性糖尿病C57BL/6マウスの腎被膜下に移植することによって行った。複合物ペレットとしての膵島-ヒトMAPC共移植は、初期血糖コントロール、糖尿病改善率(diabetes reversal rate)、耐糖能、および血清Cペプチド濃度によって測定される場合に、膵島のみの移植と比較して、膵島移植の転帰を有意に改善した。組織学上は、より高い血管/膵島比に加えて、より高い血管面積および密度を、膵島-ヒトMAPC複合物のレシピエントにおいて検出した。
【0008】
結論は、膵島とMAPCとの共移植が膵島移植片血管再生を増強し得、膵島移植片機能を改善し得ることであった。
【0009】
よって、本発明は、移植後の膵島の移植片生存率を高めるための、被験体から単離された膵島を長期間培養するための、および血中グルコースレベルを正常化するために必要とされる移植される膵島の数を減少させるための、組成物および方法を提供する。
【0010】
本明細書中の全ての組成物および方法において、幹細胞および/または膵島は、ヒトに由来し得る。
【0011】
本発明は、幹細胞および膵島を含む膵島移植のための組成物を包含する。
【0012】
本発明は、幹細胞を含む第1の細胞調製物および膵島を含む第2の細胞調製物を含む、膵島移植のためのキットを包含する。
【0013】
本発明は、幹細胞および膵島を含む複合物ペレットを包含する。
【0014】
本発明は、細胞培養培地中に幹細胞および膵島を含む組成物を包含する。
【0015】
本発明は、膵島および幹細胞を含むバイオ医薬組成物(biopharmaceutical composition)を包含する。
【0016】
本発明は、幹細胞が膵島に接着している複合物を包含する。
【0017】
本発明は、膵島が幹細胞で被覆されている複合物を包含する。
【0018】
本発明は、移植のために膵島を改善するための方法を包含し、上記方法は、膵島と幹細胞とを接触させる工程を包含する。上記方法は、幹細胞の存在下で膵島をエキソビボ培養する工程であり得る。上記方法はまた、膵島および幹細胞をインビボで(共移植におけるように)接触させる工程を包含し得る。エキソビボ方法では、上記細胞は、単に混合され得る(すなわち、一緒に培養される必要はない)。
【0019】
本発明は、膵島生存能をエキソビボで改善するための方法を包含し、上記方法は、膵島と幹細胞とを接触させる工程を包含する。
【0020】
上記膵島は、培養され拡大増殖された膵島細胞調製物であり得る。
【0021】
上記膵島および幹細胞は、培養培地中で接触され得、そして所望の期間にわたって一緒に培養され得る。
【0022】
上記膵島および幹細胞は、移植前に接触され得る。
【0023】
本発明は、被験体への膵島投与の前に、膵島と幹細胞とをエキソビボで接触させることによって、膵島移植片生存性をインビボで改善するための方法を包含する。
【0024】
本発明は、幹細胞および膵島を被験体に共投与することによって、膵島移植片生存性をインビボで改善するための方法を包含する。
【0025】
具体的な例示される実施形態において、膵島 対 幹細胞の比は、500:250,000である。
【0026】
本発明は、膵島および幹細胞のプレインキュベーションありまたはなしで、糖尿病の処置の必要性のある患者への膵島および幹細胞の同時投与を含む、膵島移植法を包含する。
【0027】
本発明は、糖尿病を処置するための治療法を包含し、上記方法は、処置の必要性のある患者への上記複合物の投与を包含する。
【0028】
本発明は、上記複合物を生成するための方法を包含し、上記方法は、上記幹細胞および上記膵島を共培養する工程を包含する。上記複合物はまた、接触を提供する物理的方法(例えば、上記膵島および幹細胞の遠心分離、被包化など)によって形成され得る。
【0029】
本発明は、膵島の生存性を維持するための方法を包含し、上記方法は、幹細胞および膵島を共培養する工程を包含する。
【0030】
本発明は、糖尿病の治療法を包含し、上記方法は、工程(A)および工程(B)を包含する:
(A)膵島および幹細胞を共培養して、上記膵島および上記幹細胞の複合物を形成する工程;ならびに
(B)上記複合物を、糖尿病の処置の必要性のある患者に投与する工程。
【0031】
本発明は、膵島および幹細胞を含む非薬学的組成物を包含する。
【0032】
本発明は、上記組成物が薬学的に受容可能な組成物である組成物を包含する。
【0033】
本発明は、薬学的に受容可能なキャリアと混合された、膵島および幹細胞を含む組成物を包含する。
【0034】
本発明は、幹細胞および膵島を混合することによって、組成物を作製するための方法を包含する。
【0035】
本発明は、上記膵島が幹細胞とインビトロでプレインキュベートされている組成物を包含する。
【0036】
全ての組成物および方法において、膵島は、膵臓β細胞によって置き換えられ得る。
【0037】
上記幹細胞は、分泌される因子によって膵島に対して有益な効果を提供し得ることから、上記膵島は、上記幹細胞を培養することによって馴化されている培地とプレインキュベートされ得るかまたは上記培地とともに投与され得る。この培地は、よって、無細胞である。
【0038】
本発明を用いると、幹細胞および膵島を混合し共移植することによって、または膵島移植のために幹細胞および膵島の複合物を使用することによって、膵島の移植片生存率は、改善され得る。結果として、移植に必要とされる膵島の量、移植の数を減少させ、膵島移植を通じて糖尿病を効果的に処置することは、可能である。
【0039】
本発明は、移植に必要とされる膵島の数を減少させることを可能にする;従って、単一のドナーから得られる膵島が、複数のレシピエントに移植され得る。このことは、膵島のドナー不足を改善し、膵島移植を一般医療へと拡げるための革新的技術を提供する。
【0040】
本発明は、幹細胞と膵島とを共培養することによって、膵島の生存を維持することを可能にする(すなわち、膵島の生存能を増大させる)。これらの膵島は、生きている身体から単離され得る。これは、膵島を、長期間にわたって膵島移植の準備ができている状態で貯蔵することを可能にする;そうすると、単一のドナーから単離される膵島が、より適切なレシピエントへと移植され得る。
【0041】
さらに、膵島は、インスリンを分泌するそれらの能力を保持しながらインビトロで安定して培養され得ることから、膵島移植を行う前に免疫抑制剤をレシピエントに投与することは可能である。しかし、本発明の細胞は、免疫調節性であり得、免疫原性ではない可能性があるので、一実施形態において、膵島は、幹細胞自体以外には、免疫抑制剤なしで投与され得る。
【0042】
細胞としては、胚性幹細胞ではなく、生殖細胞ではない、胚性幹細胞のいくつかの特徴を有するが、非胚性組織に由来し、そして本願に記載される効果を提供する細胞が挙げられるが、これらに限定されない。上記細胞は、これらの効果を自然に達成し得る(すなわち、遺伝的にまたは薬学的に改変されない)。しかし、天然の発現因子(natural
expressor)は、効力を増大させるために、遺伝的にまたは薬学的に改変され得る。一実施形態において、幹細胞は、HLAがマッチしていない、同種異系細胞であり得る。
【0043】
上記細胞は、多能性マーカー(例えば、oct4)を発現し得る。それらはまた、拡大した複製能力と関連するマーカー(例えば、テロメラーゼ)を発現し得る。多能性の他の特徴は、1より多くの胚葉(例えば、外胚葉の、内胚葉の、および中胚葉の胚性胚葉(embryonic germ layer)のうちの2つまたは3つ)の細胞型へと分化する能力を含み得る。上記細胞は、形質転換されることも腫瘍形成性であることもなしに、高度に拡大増殖され得、正常な核型をも維持し得る。一実施形態において、非胚性幹、非生殖細胞(non-embryonic stem, non-germ cell)は、培養で所望の回数の細胞倍加を受けていてもよい。例えば、非胚性幹、非生殖細胞は、培養で少なくとも10~40回の細胞倍加を受けていてもよい(例えば、30~35回の細胞倍加)。ここで上記細胞は、形質転換されず、正常な核型を有する。上記細胞は、内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統のうちの2種の各々の少なくとも1種の細胞型へと分化し得、全3種への分化を含み得る。さらに、上記細胞は、腫瘍形成性ではない可能性がある(例えば、奇形腫を生じない)。細胞が形質転換されるかまたは腫瘍形成性であり、そして注入のために細胞を使用することが望ましい場合、このような細胞は、腫瘍への細胞増殖を防止する処置によるとおり、インビボで腫瘍を形成できないように無能力にされ得る。このような処置は、当該分野で周知である。
【0044】
細胞としては、以下の番号付けした実施形態が挙げられるが、これらに限定されない:
【0045】
1.単離され、拡大増殖された非胚性幹、非生殖細胞であって、上記細胞は、培養で少なくとも10~40回の細胞倍加を受けており、ここで上記細胞はoct4を発現し、形質転換されず、正常な核型を有する細胞。
【0046】
2.テロメラーゼ、rex-1、またはsox-2のうちの1もしくはこれより多くをさらに発現する、上記1の非胚性幹、非生殖細胞。
【0047】
3.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統のうちの少なくとも2種のうちの少なくとも1種の細胞型へと分化し得る、上記1の非胚性幹、非生殖細胞。
【0048】
4.テロメラーゼ、rox-1、またはsox-2のうちの1もしくはこれより多くをさらに発現する、上記3の非胚性幹、非生殖細胞。
【0049】
5.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統のうちの各々の少なくとも1種の細胞型へと分化し得る、上記3の非胚性幹、非生殖細胞。
【0050】
6.テロメラーゼ、rex-1、またはsox-2のうちの1もしくはこれより多くをさらに発現する、上記5の非胚性幹、非生殖細胞。
【0051】
7.非胚性、非生殖組織の培養によって得られる、単離され拡大増殖された非胚性幹、非生殖細胞であって、上記細胞は、培養で少なくとも40回の細胞倍加を受けており、ここで上記細胞は、形質転換されず、正常な核型を有する細胞。
【0052】
8.oct4、テロメラーゼ、rex-1、またはsox-2のうちの1もしくはこれより多くを発現する、上記7の非胚性幹、非生殖細胞。
【0053】
9.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統のうちの少なくとも2種のうちの少なくとも1種の細胞型へと分化し得る、上記7の非胚性幹、非生殖細胞。
【0054】
10.oct4、テロメラーゼ、rex-1、またはsox-2のうちの1種もしくはこれより多くを発現する、上記9の非胚性幹、非生殖細胞。
【0055】
11.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統のうちの各々の少なくとも1種の細胞型へと分化し得る、上記9の非胚性幹、非生殖細胞。
【0056】
12.oct4、テロメラーゼ、rex-1、またはsox-2のうちの1種もしくはこれより多くを発現する、上記11の非胚性幹、非生殖細胞。
【0057】
13.単離され拡大増殖された非胚性幹、非生殖細胞であって、上記細胞は、培養で少なくとも10~40回の細胞倍加を受けており、ここで上記細胞は、テロメラーゼを発現し、形質転換されず、そして正常な核型を有する細胞。
【0058】
14.oct4、rex-1、またはsox-2のうちの1種もしくはこれより多くをさらに発現する、上記13の非胚性幹、非生殖細胞。
【0059】
15.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統のうちの少なくとも2種のうちの少なくとも1種の細胞型へと分化し得る、上記13の非胚性幹、非生殖細胞。
【0060】
16.oct4、rex-1、またはsox-2のうちの1種もしくはこれより多くをさらに発現する、上記15の非胚性幹、非生殖細胞。
【0061】
17.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統の各々のうちの少なくとも1種の細胞型へと分化し得る、上記15の非胚性幹、非生殖細胞。
【0062】
18.oct4、rex-1、またはsox-2のうちの1種もしくはこれより多くをさらに発現する、上記17に記載の非胚性幹、非生殖細胞。
【0063】
19.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統のうちの少なくとも2種のうちの少なくとも1種の細胞型へと分化し得る単離され拡大増殖された非胚性幹、非生殖細胞であって、上記細胞は、培養で少なくとも10~40回の細胞倍加を受けている細胞。
【0064】
20.oct4、テロメラーゼ、rex-1、またはsox-2のうちの1種もしくはこれより多くを発現する、上記19の非胚性幹、非生殖細胞。
【0065】
21.内胚葉の、外胚葉の、および中胚葉の胚系統の各々のうちの少なくとも1種の細胞型へと分化し得る、上記19の非胚性幹、非生殖細胞。
【0066】
22.oct4、テロメラーゼ、rex-1、またはsox-2のうちの1種もしくはこれより多くを発現する、上記21の非胚性幹、非生殖細胞。
【0067】
本願の具体例の中で示される細胞のさらなる機能としては、血管新生の潜在能力およびある特定の血管新生タンパク質(VEGF、A、C、およびD、PIGF、sFlt-1、bFGF、およびIL8のうちの1種もしくはこれより多くが挙げられるが、これらに限定されない)を分泌する能力が挙げられる。
【0068】
上記細胞は、HLA-DR、CD45、glyA、CD34の発現を欠く。
【0069】
一実施形態において、馴化培地は、幹細胞の代わりに使用される。
【0070】
幹細胞は、分泌される分子によって本明細書で記載される効果を提供し得るので、幹細胞の投与に関して本明細書で記載される種々の実施形態は、上記分泌される分子(例えば、馴化培養培地中にあり得る)のうちの1種もしくはこれより多くの投与によって行われ得る。
【0071】
上記細胞は、本明細書で記載される単離および培養条件によって調製され得る。具体的実施形態において、それらは、より高い血清と組み合わせた低酸素濃度を要する本明細書で記載される培養条件によって調製される。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
幹細胞および膵島を含む組成物であって、ここで該幹細胞は、非胚性、非生殖性であり、テロメラーゼを発現し、腫瘍形成性ではなく、培養において40回を超える倍加を受け得る、組成物。
(項目2)
培養培地中の、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記幹細胞および膵島は、薬学的に受容可能なキャリアと混合される、項目1に記載の組成物。
(項目4)
前記幹細胞および膵島は、複合物ペレットで存在し、該複合物ペレットにおいて、該膵島細胞および幹細胞は直接物理的に接触した状態にある、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記幹細胞は、前記膵島に接着するおよび/または前記膵島を被覆する、項目4に記載の複合物ペレット。
(項目6)
前記膵島および/または前記幹細胞は、培養において拡大増殖されている、項目1に記載の組成物。
(項目7)
幹細胞 対 膵島の比は、約2500:1である、項目1に記載の組成物。
(項目8)
幹細胞の量および膵島の量は、糖尿病を有する被験体に投与される場合、該被験体における血中グルコースレベルを改善するために十分である、項目1に記載の組成物。
(項目9)
膵島および幹細胞を混合する工程を包含する、項目1に記載の組成物を作製するための方法。
(項目10)
前記膵島および幹細胞は、複合物ペレットを形成する、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記ペレットは、遠心分離によって形成される、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記ペレットは、共培養によって形成される、項目10に記載の方法。
(項目13)
エキソビボでの膵島生存能を改善するための方法であって、該方法は、被験体への移植前に、膵島と幹細胞とを接触させる工程を包含し、ここで該幹細胞は、非胚性、非生殖性であり、テロメラーゼを発現し、腫瘍形成性ではなく、そして培養において40回を超える倍加を受け得る、方法。
(項目14)
前記幹細胞および膵島は、共被包化される、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記膵島および幹細胞を、エキソビボで接触させる、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記エキソビボでの接触は、細胞培養においてである、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記膵島および/または前記幹細胞は、インビボで拡大増殖されている、項目13に記載の方法。
(項目18)
前記膵島および幹細胞を接触させて複合物ペレットを形成させる、項目13に記載の方法。
(項目19)
膵島および幹細胞を培養において一緒に播種する工程を包含する、項目18に記載の複合物ペレットを作製するための方法。
(項目20)
糖尿病を処置するための幹細胞および膵島組成物の使用であって、ここで該幹細胞は、非胚性、非生殖性であり、テロメラーゼを発現し、腫瘍形成性ではなく、そして培養において40回を超える倍加を受け得る、使用。
【0072】
(発明の詳細な説明)
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬などに限定されず、よって変動し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語法は、特定の実施形態のみを記載する目的のものであり、開示される発明の範囲(これは、特許請求の範囲によってのみ規定される)を限定することは意図しない。
【0073】
上記節の標題は、本明細書において構成上の目的のみで使用され、記載される主題を限定する様式とは如何様にも解釈されない。
【0074】
本願の方法および技術は、別段示されなければ、当該分野で周知の従来の方法、および本明細書全体を通じて引用されかつ考察される種々の一般的およびより具体的な参考文献に記載されるような従来の方法に従って一般に行われる。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)およびAusubelら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)、ならびにHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory
Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照のこと。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1図1A~1C:ヒトMAPCの特徴付け。(A)ヒト骨髄由来MAPCの細胞表面マーカー発現。フローサイトメトリーヒストグラムは、陰性アイソタイプコントロール(影を付けた薄い灰色のピーク)と比較して、ヒトMAPCの特徴付けと関連する選択されたマーカー[CD44、CD49c、CD105]の発現レベル(影を付けた濃い灰色のピーク)を示す。(B)ヒトMAPCの培養培地を、炎症促進性パネル、サイトカインパネル、ケモカインパネル、血管新生パネルおよび血管炎症パネルを含むヒトバイオマーカー40-Plexキットで分析した。(C)漿尿膜(CAM)アッセイにおけるヒトMAPCの血管新生促進性特性(陰性コントロールとしてBSA、および陽性コントロールとしてVEGF-A(平均±SEM、n=3~9/群))。**、P<0.01。
【0076】
図2図2A~2D: ヒトMAPCと共移植した限界膵島量(marginal islet mass)のインビボ機能。(A)150個の膵島のみを移植した(コントロール;白いバー)または250,000個のヒトMAPCとともに別個のペレット(SEP、濃い灰色のバー)もしくは複合物ペレット(MIX、薄い灰色のバー)として共移植した150個の膵島を移植したアロキサン誘導性糖尿病C57BL/6マウスの血中グルコース測定値。膵島のみの群(コントロール)に対してp<0.05、**p<0.01、***p<0.001。(B)膵島移植後の治癒した(黒いバー)および治癒していない(灰色のバー)マウスのパーセンテージ。(C、D)移植の2週間後(C)および5週間後(D)での全てのマウスにおけるIPGTTの曲線下面積(AUC)および血中グルコース測定値。膵島のみの群(コントロール)に対してp<0.05、**p<0.01。
【0077】
図3AB図3A~3C: ヒトMAPCとともに共移植した膵島の移植の2週間後および5週間後の形態および組成。(A)単離された膵島移植片におけるマウスインスリン、グルカゴン、およびソマトスタチンのmRNAレベルの箱ひげ図。データは、ハウスキーピング遺伝子と比較した、相対値として表される。統計分析を、Mann-Whitney t検定を使用して計算した。p<0.05。(B)限界膵島量を単独でまたは別個のペレットもしくは複合物ペレットとしてヒトMAPCと組み合わせて移植したマウスに由来する移植片のβ細胞、α細胞およびδ細胞の容積の箱ひげ図。統計分析を、Mann-Whitney t検定を使用して計算した。(C)別個のペレット(SEP)または複合ペレット(MIX)として膵島-ヒトMAPCから構成される、または膵島のみ(コントロール)から構成される、移植の2週間後の膵島移植片中のマウスインスリン陽性細胞(白)、グルカゴン陽性細胞(赤)、およびソマトスタチン陽性細胞(緑)の分布。画像は、2~6匹の異なる動物に由来する切片の代表である。スケールバーは、100μmである。
図3C図3A~3C: ヒトMAPCとともに共移植した膵島の移植の2週間後および5週間後の形態および組成。(A)単離された膵島移植片におけるマウスインスリン、グルカゴン、およびソマトスタチンのmRNAレベルの箱ひげ図。データは、ハウスキーピング遺伝子と比較した、相対値として表される。統計分析を、Mann-Whitney t検定を使用して計算した。p<0.05。(B)限界膵島量を単独でまたは別個のペレットもしくは複合物ペレットとしてヒトMAPCと組み合わせて移植したマウスに由来する移植片のβ細胞、α細胞およびδ細胞の容積の箱ひげ図。統計分析を、Mann-Whitney t検定を使用して計算した。(C)別個のペレット(SEP)または複合ペレット(MIX)として膵島-ヒトMAPCから構成される、または膵島のみ(コントロール)から構成される、移植の2週間後の膵島移植片中のマウスインスリン陽性細胞(白)、グルカゴン陽性細胞(赤)、およびソマトスタチン陽性細胞(緑)の分布。画像は、2~6匹の異なる動物に由来する切片の代表である。スケールバーは、100μmである。
【0078】
図4図4A~4B:複合物が限界膵島量糖尿病マウスモデルにおける移植片血管再生を促進する場合の、膵島とヒトMAPCとの共移植。(A)単独で移植したマウス膵島または別個のペレット(SEP)または複合物ペレット(MIX)としてヒトMAPCとともに移植したマウス膵島からなる5週間の移植片の代表的切片。画像は、各移植群における3~4匹の動物に関するインスリンおよびエンドムチン(血管)染色の代表である。スケールバーは、100μmである。(B)血管形態パラメーター評価を、材料および方法の節において記載されるように決定した。データは、平均±SEMである。統計分析は、Mann-Whitney t検定を使用して計算した。p<0.05、**p<0.01。
【0079】
図5図5A~5B:移植レシピエントの非絶食時の血糖(Non-fasting glycemia)および体重。(A)血中グルコース濃度を、150個の同系膵島を、単独で移植したかまたは250,000個のヒトMAPCとともに共移植したかのいずれかであるアロキサン誘導性糖尿病C57BL/6マウスにおいて5週間にわたってモニターした。移植の5週間後に各群の無作為に選択した動物において行った回復腎摘出術(recovery nephrectomy)は、高血糖症への100%再発を生じた。(B)体重変化は、研究の期間の間中、種々の群間で有意に異ならなかった。各値は、平均±SEMを表す。
【0080】
図6図6A~6B:移植の2週間後(A)および5週間後(B)の血清インスリンおよびCペプチド濃度。マウスに、150個の膵島のみ(白いバー)を、または150個の膵島と一緒にヒトMAPCを別個のペレット(SEP、濃い灰色のバー)または複合物ペレット(MIX、薄い灰色のバー)として移植した。膵島のみの群(コントロール)に対して**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0081】
(発明の詳細な説明)
(定義)
「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」とは、本明細書において1つのまたは1つより多いこと;少なくとも1つを意味する。複数形が本明細書において使用される場合、それは、一般に、単数形を含む。
【0082】
「細胞バンク」は、将来使用するために、成長させられ、貯蔵された細胞の産業的名称である。細胞は、アリコートに分けて貯蔵され得る。細胞は、貯蔵から外れて直接使用され得るか、または貯蔵後に拡大増殖され得る。これは、投与のために利用可能な細胞の「在庫がある」ので便利である。上記細胞は、直接投与してよいか、またはそれが貯蔵から放出された場合に適切な賦形剤と混合され得るように、薬学的に受容可能な賦形剤中で既に貯蔵されていてもよい。細胞は、凍結されてもよいし、生存能を保護する形態で、別の方法で貯蔵されてもよい。本発明の一実施形態において、細胞バンクが作られ、ここで上記細胞は、本願で記載される効果を達成するために増強された効力について選択されている。貯蔵から放出された後および投与の前に、上記細胞を効力について再びアッセイすることは好ましいことであり得る。このことは、本明細書で記載されるか、別の方法で、当該分野で公知の上記アッセイのうちのいずれかを使用して直接的または間接的に行われ得る。次いで、所望の効力を有する細胞は、投与され得る。バンクは、自己由来細胞(器官ドナーまたはレシピエントに由来する)を使用して作製され得る。あるいはバンクは、同種異系使用のための細胞を含み得る。
【0083】
本発明に関して「共投与する」とは、2種もしくはこれより多くの薬剤を一緒に投与することを意味する。本発明の状況内では、一実施形態において、幹細胞および膵島は、同じ薬学的組成物において投与され、その結果、上記膵島および上記幹細胞は、この組成物中で互いに接触する。しかし、特に、局所投与の場合には、膵島または幹細胞は、最初に投与されてもよいし、次に膵島または幹細胞が、後に、しかし幹細胞が、膵島に対して有益な効果を生じるために膵島となお接触し得るような方法で投与されることは、可能である。幹細胞が、膵島に対して有益な効果を有する因子を含む細胞を培養することによって生成される馴化培地で置き換えられ得ることはまた、理解される。
【0084】
「複合物ペレット」は、幹細胞および膵島の両方を、直接物理的に接触して含む組成物である。これらの複合物を含む薬学的組成物は、薬学的に受容可能なキャリア中の幹細胞および膵島から本質的になる。膵島自体は、幹細胞で被覆され得る。幹細胞は、膵島に直接接着されてもよい。いくつかの実施形態において、実質的に膵島の表面全体が、幹細胞で被覆される。
【0085】
上記複合物を生成するための方法は、細胞が投与される得かつ互いに接触したままであるように、細胞が一緒に混合される任意の方法を含む。上記方法は、幹細胞と膵島とを共培養するかまたは混合する工程から本質的になり得る。
【0086】
複合物が形成され、この複合物は、膵島および幹細胞の両方を、それらが互いに物理的に接触して投与され得るような形態で含む。一実施形態において、膵島および幹細胞が投与前に培養される。例えば、それらは、プレート上に播種され得、所望の時間量にわたって培養され得る。時間は、短い持続時間(例えば、5分間)であってもよい。あるいは、時間は、より長くてもよい(例えば、24時間までもしくはこれより長い)。目的が、幹細胞が膵島を被覆しこれに接着している複合物を提供することである場合には、培養物は、望まれる被覆/接着の程度が確認され得るように観察され得る。
【0087】
複合物中に含まれる細胞の比および絶対量は、被験体の具体的状況に依存して変動し得るが、細胞がマルチウェルプレートへと播種される場合のいくつかの実施形態において、各ウェルは、約50個の膵島および約10,000個の幹細胞を含み得る。膵島の量および膵島中の幹細胞は、好ましくは、正常グルコースレベル(これは、およそ100mg/dLの濃度である)を提供するように構成される。本願の実施例中の複合物は、約150個の膵島および250,000個の幹細胞を含んだ。
【0088】
いくつかの実施形態において、膵島および幹細胞は、投与の直前に複合物を形成するために使用される(すなわち、培養もしくは別の方法での重要な事前の接触はない)。よって、接触は、例えば、さらに5分未満にわたり得る(例えば、実施例中)。そのようにして形成される複合物は、次いで、糖尿病を処置するために(すなわち、血中グルコースレベルを改善するために)、膵島および上記細胞の共移植において使用され得る。
【0089】
複合物は、当該分野で公知の方法(例えば、Johanssonら, Diabetes 57:2393-2401 (2008)、Itoら, Transplantation 89:1438-1445 (2010)、Sakataら, Transplantation 89:686-693 (2020)、Ohmuraら, Transplantation 90:1366-1373 (2010)、Solariら,
J Autoimmunity 32:116-124 (2009)、Rackhamら, Diabetologia 54:1127-1135 (2011)、Borgら, Diabetologia 57:522-531 (2014)、Hajizedeh-Saffarら, Sci Rep 5:9322 (2015))によって形成され得る。上記のうちの全ては、複合物の生成を教示するために参考として援用される。これらの参考文献によって示されるように、膵島および他の細胞型の複合物の形成は、当該分野で公知の方法によって達成され得る。
【0090】
幹細胞の数は、同数の膵島のみの投与と比較した場合、膵島の数あたりの改善されたグルコースレベルを提供する数である。よって、例えば、100個の膵島がある特定の血中グルコースレベルを生じ、幹細胞の効果が、膵島のその数より少なくてその同じレベルを生じることであるか、または膵島のその数でよりよいグルコースレベルを生じることである場合、それは、「改善」を構成する。この最終目的は、正常範囲内の血中グルコースレベルを達成するために必要である膵島の数を減少させることである。
【0091】
膵島は、約1,000~2,000個の細胞(α細胞、β細胞、γ細胞を含む)を含む細胞集団である。膵島の単離は、当該分野で周知である方法(例えば、Johanssonら, Am J Transplant 5:2632-2639 (2005)、この手順のために参考として援用される)によって行われ得る。
【0092】
全ての方法および組成物において、完全な膵島の代わりに、培養された膵臓β細胞が、同じ効果を提供するために使用され得る。
【0093】
「含んでいる、含む(comprising)」とは、他の限定なく、必然的に、他の何が含まれ得るかに関するいかなる制限も除外もなしに、指示対象を含むことを意味する。例えば、「xおよびyを含む組成物」とは、たとえどのような他の成分が上記組成物中に存在する可能性があろうが、xおよびyを含む任意の組成物を包含する。同様に、xが上記方法において唯一の工程であるか、工程のうちの1つに過ぎないかに関わらず、たとえどのくらい多くの他の工程があろうが、工程の比較においてどの程度xが単純であろうが複雑であろうが、「工程xを包含する方法」は、xが実施される任意の方法を包含する。語根「含む(Comprise)」の語を使用する、「~から構成される(Comprised of)」および類似の語句は、「含んでいる、含む(comprising)」の類義語として本明細書で使用され、同じ意味を有する。
【0094】
「~から構成される」は、含んでいる、含むの類義語である(上記を参照のこと)。
【0095】
用語「接触する」とは、移植されるべき幹細胞および膵島に関連して使用される場合、上記膵島に曝される際に、上記幹細胞が上記膵島に物理的に触れていることを意味し得る。このような場合に、上記幹細胞は、上記膵島と直接接触した状態にある。他の場合には、上記幹細胞は、上記膵島と間接的に接触し得る。ここで上記幹細胞と上記膵島との間に1もしくはこれより多くの構造物(例えば、別の細胞)および/または流体(例えば、血液)が物理的に介在する。
【0096】
「有効(な)量」とは、一般に、本願に記載される具体的な望ましい効果を達成する量を意味する。例えば、有効量は、有益なまたは所望の臨床結果を実現するために十分な量である。本発明の状況内では、一般に、所望の効果は、被験体に存在する膵島の効果の無いまたは病的な機能を補償する臨床的改善である。一実施形態において、上記被験体は糖尿病を有し、上記効果は、血中グルコースレベルを増大させるかまたは完全に正常化することである。有効量は、1回の投与において一度に全て、または数回の投与において上記有効量を提供する分割量において、提供され得る。有効量とみなされるものの正確な決定は、各被験体に関する因子の個々(疾患/欠損の重篤度、患者の健康状態、年齢などが挙げられる)に基づき得る。当業者は、当該分野で慣用的であるこれら考慮事項に基づいて、有効な量を決定し得る。本明細書で使用される場合、「有効用量」は、「有効量」と同じことを意味する。
【0097】
よって、膵島の有効量は、被験体の臨床症状が改善される量である。そして幹細胞の有効量は、その改善された臨床転帰を提供する膵島を生じるために十分な量である。
【0098】
「有効な経路」とは、一般に、所望の区画、系、または位置への薬剤の送達を提供する経路を意味する。例えば、有効な経路は、経路であって、有益なまたは望ましい臨床結果を実現するに十分な薬剤の量を、望ましい作用部位に提供するために該薬剤がそれを介して投与され得る経路である(本件では、有効な移植)。
【0099】
用語「外因性」とは、幹細胞に関して使用される場合、一般に、被験体に対して外部にあり、有効な経路による移植が意図される膵島に曝されている(例えば、接触されている)幹細胞を指す。外因性幹細胞は、同じ被験体に由来してもよいし、異なる被験体に由来してもよい。一実施形態において、外因性幹細胞は、被験体から採取され、単離され、エキソビボで拡大増殖され、そして次いで、有効な経路による移植が意図された膵島に曝されている幹細胞を包含し得る。
【0100】
用語「曝す」とは、1もしくはこれより多くの幹細胞と移植が意図された上記膵島とを接触させるという行為を包含し得る。上記膵島を接触させることは、エキソビボまたはインビボで行われ得る(例えば、幹細胞を被験体の中の膵島に、例えば、局所投与において提供することによって)。
【0101】
用語「含む、包含する(includes)」の使用は、限定することを意図しない。
【0102】
「増大する、増加する(increase)」または「増大、増加(increasing)」は、生物学的事象を全体的に誘導すること、または該事象の程度を増大させることを意味する。
【0103】
用語「単離された」とは、インビボでは細胞(単数または複数)と会合している1個以上の細胞または1種以上の細胞成分と会合していない上記細胞(単数または複数)を指す。「富化された集団」とは、インビボでまたは初代培養において、1種以上の他の細胞型と比較して、所望の細胞の数の相対的増加を意味する。
【0104】
しかし、本明細書で使用される場合、用語「単離された」は、本発明の細胞のみの存在を示すのではない。むしろ、用語「単離された」とは、本発明の細胞が、それらの天然の組織環境から取り出され、その通常の組織環境と比較した場合に、より高濃度で存在することを示す。よって、「単離された」細胞集団は、本発明の細胞に加えて複数の細胞型をさらに含んでいてもよく、さらなる組織成分を含んでいてもよい。これはまた、例えば、細胞倍加の観点で表され得る。細胞は、インビボでまたはその本来の組織環境(例えば、骨髄、末梢血、胎盤、臍帯、臍帯血など)でのその本来の数と比較して富化されているように、インビトロまたはエキソビボで、10回、20回、30回、40回またはそれより多くの倍加を受けている場合がある。
【0105】
「MAPC」とは、「複能性成体前駆細胞」の頭字語である。上記用語は、胚性幹細胞または生殖細胞ではないが、これらのいくつかの特徴を有する細胞をいう。MAPCは、多くの代替の記載(そのうちの各々は、それらが発見されたときに細胞に新規性を付与した)において特徴付けられ得る。それらは、従って、それらの記載のうちの1もしくはこれより多くによって特徴付けられ得る。第1に、それらは、形質転換されること(腫瘍形成性)なしに、そして正常な核型を伴って、培養で拡大された複製能を有し得る。第2に、それらは、分化の際に、1種より多くの胚葉(例えば、2種の胚葉または3種全ての胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)の細胞子孫を生じ得る。第3に、それらは胚性幹細胞または生殖細胞ではないが、それらは、MAPCがOct 3/4(すなわち、Oct4、Oct 3A)のうちの1種もしくはこれより多くを発現し得るように、これらの原始的細胞型のマーカーを発現し得る。第4に、幹細胞のように、それらは、自己再生し得る、すなわち、形質転換されることなしに、拡大した複製能を有し得る。これは、これらの細胞がテロメラーゼを発現する(すなわち、テロメラーゼ活性を有する)ことを意味する。よって、「MAPC」といわれた細胞型は、その新規な特性のうちのいくつかを介して細胞を記載する代替の基本的特徴によって特徴付けられ得る。
【0106】
MAPCにおける用語「成体」とは、非限定的である。それは、上記のとおりの非胚性体細胞を指す。MAPCは、核型としては正常であり、インビボで奇形腫を形成しない。この頭字語は、広範な複製能を有し多能性マーカーを発現した、骨髄から単離された細胞を記載するために、米国特許第7,015,037号において最初に使用された。
【0107】
MAPCは、MSCより原始的な前駆細胞集団を表す(Verfaillie, C.M., Trends Cell Biol 12:502-8 (2002)、Jahagirdar, B.N.ら, Exp Hematol, 29:543-56 (2001); Reyes, M. and C.M. Verfaillie, Ann N Y Acad Sci, 938:231-233 (2001); Jiang, Y.ら, Exp Hematol, 30896-904 (2002);およびJiang, Y.ら, Nature, 418:41-9. (2002))。
【0108】
用語「MultiStem(登録商標)」は、米国特許第7,015,037号のMAPCに基づく細胞調製物(すなわち、上記で記載されるとおりの非胚性幹、非生殖細胞)に関する商品名である。MultiStem(登録商標)は、本願において開示される細胞培養法(特に、低酸素および高血清)に従って調製される。MultiStem(登録商標)は、高度に拡大増殖可能であり、核型としては正常であり、インビボで奇形腫を形成しない。それは、1種より多くの胚葉の細胞系列へと分化し得、テロメラーゼを発現し得る。
【0109】
「薬学的に受容可能なキャリア」は、本発明において使用される細胞および/または膵島のための任意の薬学的に受容可能な媒体である。このような媒体は、等張性、細胞代謝、pHなどを維持し得る。上記媒体は、被験体への投与と適合性であり、従って、膵島および/または細胞送達ならびに処置のために使用され得る。
【0110】
「前駆細胞」は、それらの最終まで分化した子孫の特徴をうちの一部(しかし全てではない)を有する、幹細胞の分化の間に産生される細胞である。規定される前駆細胞(例えば、「心臓前駆細胞」)は、ある系列になることが約束されているが、特定のまたは最終まで分化した細胞型になることが約束されているわけではない。用語「前駆体」とは、頭字語「MAPC」において使用される場合、これら細胞を特定の系列に限定しない。前駆細胞は、上記前駆細胞より高度に分化している子孫細胞を形成し得る。
【0111】
用語「低下する」とは、本明細書で使用される場合、防止する、ならびに減少させることを意味する。
処置の状況において、「低下させる」ことは、欠損を防止することまたは改善することのいずれかのことである。これは、膵島欠損の原因または症状を含む。
【0112】
所望のレベルの効力を有する細胞を「選択」することは、細胞を(アッセイによってのように)同定すること、単離すること、および拡大増殖させることを意味し得る。これは、上記細胞が親細胞集団から単離されたその親細胞集団より高い効力を有する集団を作り得る。「親」細胞集団とは、上記選択された細胞が親細胞から分かれたその親細胞をいう。「親」とは、実際のP1→F1関係性(すなわち、子孫細胞)をいう。よって、細胞Xは、細胞XおよびYの混合集団(ここでXは、発現因子であり、Yはそうではない)から単離される場合、Xの単なる単離物は、増強された発現を有するとして分類されない。しかし、Xの子孫細胞がより高い発現因子である場合、その子孫細胞は、増強された発現を有するとして分類される。
【0113】
所望の効果を達成する細胞を選択するには、上記細胞が所望の効果を達成するかどうかを決定するためのアッセイと、それらの細胞を得ることを含むアッセイの両方が含まれる。上記細胞は、所望の効果が外因性導入遺伝子/DNAによって達成されないという点で、その効果を自然に達成し得る。しかし、有効な細胞は、上記効果を増大させる薬剤とともにインキュベートされるかまたはその薬剤に曝されることによって改善され得る。上記有効な細胞が細胞集団から選択されるその細胞集団は、上記アッセイを行う前にその効力を有することが公知でなくてもよい。上記細胞は、アッセイを行う前に、所望の効果を達成することが公知でなくてもよい。効果は、遺伝子発現および/または分泌に依存し得るので、上記効果を引き起こす遺伝子のうちの1つもしくはこれより多くに基づいても選択され得る。
【0114】
選択は、組織中の細胞からであり得る。例えば、この場合、細胞は、所望の組織から単離され、培養において拡大増殖され、所望の効果を達成するために選択され、その選択された細胞は、さらに拡大増殖される。
【0115】
選択はまた、エキソビボの細胞(例えば、培養細胞)からであり得る。この場合、上記培養細胞のうちの1もしくはこれより多くが、所望の効果を達成するためにアッセイされ、その得られた所望の効果を達成する細胞がさらに拡大増殖され得る。
【0116】
細胞はまた、所望の効果を達成する増強した能力について選択され得る。この場合、その増強した細胞が細胞集団から得られるその細胞集団は、既にその所望の効果を有している。増強した効果は、親集団におけるよりも1細胞あたりの平均量がより高いことを意味する。
【0117】
上記増強した細胞が親集団から選択されるその親集団は、実質的に均質(同じ細胞型)であり得る。この集団からかかる増強した細胞を得るための1方法は、単一の細胞または細胞プールを作り、これら細胞または細胞プールをアッセイして、上記増強した(より大きな)効果を天然に有するクローンを得(上記細胞を、上記効果を誘導または増大させる調節因子で処理することとは対照的に)、次いで、自然に増強したそれら細胞を拡大増殖させることである。
【0118】
しかし、細胞は、上記効果を誘導または増大させる1種もしくはこれより多い薬剤で処理され得る。従って、実質的に均質な集団が、上記効果を増強するために処理され得る。
【0119】
上記集団が実質的に均質でなければ、処理されるべき上記親細胞集団が、上記所望の細胞型の少なくとも100個(ここで増強した効果が求められる)を含むことが好ましく、より好ましくは、上記細胞の少なくとも1,000個、およびさらにより好ましくは、上記細胞の少なくとも10,000個を含むことが好ましい。処理後に、この亜集団は、公知の細胞選択技術によって不均質な集団から回収され得、所望であれば、さらに拡大増殖され得る。
【0120】
従って、効果の所望のレベルは、所定の先行集団におけるレベルより高いレベルであり得る。例えば、組織から初代培養へと置かれ、上記効果を生じることが具体的に設計されていない培養条件によって拡大増殖および単離された細胞は、親集団を提供し得る。このような親集団は、1細胞あたりの平均的効果を増強するように処理され得るか、または意図的な処理なしに、より高い程度の効果を発現する上記集団内の細胞(単数または複数)についてスクリーニングされ得る。次いで、このような細胞は、より高い(所望の)発現を有する集団を提供するために拡大増殖され得る。
【0121】
幹細胞の「自己再生」とは、複製娘幹細胞が幹細胞から生じたその幹細胞と同一の分化能を有する複製娘幹細胞を産生する能力を指す。この状況において使用される類似の用語は、「増殖(proliferation)」である。
【0122】
「幹細胞」とは、自己再生を経験し得(すなわち、同じ分化能を有する子孫)、そしてまた分化能がより制限された子孫細胞を生じ得る細胞を意味する。本発明の状況においては、幹細胞はまた、より分化した細胞を包含し、上記細胞は、例えば、核移入によって、より初期の幹細胞との融合によって、特定の転写因子の導入によって、または特定の条件下での培養によって、脱分化している。例えば、Wilmutら,Nature,385:810-813(1997);Yingら,Nature,416:545-548(2002);Guanら,Nature,440:1199-1203(2006);Takahashiら,Cell,126:663-676(2006);Okitaら,Nature,448:313-317(2007);およびTakahashiら,Cell,131:861-872(2007)を参照のこと。
【0123】
分化はまた、特定の化合物の投与、または脱分化を引き起こすインビトロまたはインビボでの物理的環境への曝露によって、引き起こされ得る。幹細胞はまた、異常な組織(例えば、奇形癌およびいくつかの他の供給源(例えば、胚様体(これらは、胚性組織から得られるという点で胚性幹細胞と考えることができるが、内部細胞塊から直接得られるのではない))から得られ得る。幹細胞はまた、幹細胞機能と関連した遺伝子を非幹細胞(例えば、人工多能性幹細胞)へと導入することによって産生され得る。
【0124】
「被験体」とは、脊椎動物(例えば、哺乳動物(例えば、ヒト))を意味する。哺乳動物としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、およびブタが挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
用語「治療上有効な量」とは、哺乳動物における任意の治療的応答を生じることが決定された薬剤の量を指す。例えば、有効な治療剤は、上記親の生存力を長期化し得、そして/または明白な臨床的症状を阻害し得る。上記用語の意味内での治療上有効である処置は、本明細書で使用される場合、たとえ上記処置が疾患の転帰自体を改善しないとしても、被験体の生活の質を改善する処置を含む。このような治療上有効な量は、当業者によって容易に確認される。従って、「処置する」ことは、このような量を送達することを意味する。従って、処置(treating)は、任意の病的症状を予防または改善し得る。一局面において、処置は、血中グルコースレベルを、すなわち、正常範囲に向かってまたは正常範囲に改善することを意味する。
【0126】
本発明の状況において、治療上有効な量は、膵島細胞の移植が臨床転帰(例えば、血中グルコースレベル)において改善を生じる程度まで、膵島細胞に有益に影響を及ぼす幹細胞のその量である。また、幹細胞の有効量は、移植前のエキソビボでの膵島細胞の生存力および/または移植後の被験体中での膵島の生存力を改善する量である。幹細胞の有効量はまた、治療転帰を達成するために被験体に膵島を共投与されるその量であり得る。よって、膵島の治療上有効な量はまた、移植に際してその改善された臨床転帰を達成し得る膵島の数である。幹細胞および膵島の有効量は、慣用的な経験的実験法によって決定され得る。
【0127】
用語「治療上有効な時間」とは、臨床的改善を達成する(すなわち、血中グルコースレベルを改善する)ために、膵島と幹細胞とを接触させるために必要な時間をいう。例えば、上記細胞および膵島がインビトロで(エキソビボで)接触される場合、有効な時間は、正の治療転帰を生じる膵島の改善された生存力を提供するその時間である。この時間は、5~10分、数時間もしくはさらにより長い時間までの範囲にあり得る。例は、15~30分間、30~45分間、および45分間から1時間までである。幹細胞は、膵島と一緒に培養される場合、その時間は、より長く、例えば、24時間もしくはこれより長くてよい。その時間は、幹細胞が膵島を被覆/膵島に接着するのにどの程度の時間がかかるかに依存する。
【0128】
用語「治療上有効な経路」とは、改善された臨床転帰を達成するために有効であり得る投与の経路をいう。治療上有効な経路は、膵島と混合された幹細胞が、膵島がそれらの有益な効果を生じ得るどのような部位でも共投与されることを意味する。局所投与(例えば、腎被膜下)は、一例である。しかし、膵島移植(幹細胞とともに)は、当該分野で公知の有効な経路のうちのいずれかによって行われ得る。ヒトにおいて、これは、門脈内移植を介してであり得る。
【0129】
所定の量の膵島に対して有益な効果を達成するための幹細胞の適切な量を決定するにあたって、膵島に、移植後に改善されたグリセミック指数(例えば、さらには正常なグリセミック指数)を達成する能力を提供することに基づいて経験的に決定される。本明細書で例示されるとおり、複合物の用量範囲は、250,000~500,000個 幹細胞であり得る。従って、これらの量は、送達法、病気の重篤度などに基づいて経験的に決定される必要がある。
【0130】
「処置する(treat)、処置する(treating)」、または「処置(treatment)」は、本発明に関して広く使用され、各々のこのような用語は、とりわけ、欠損、機能不全、疾患、または他の有害なプロセス(治療に干渉するものおよび/または治療から生じるものを含む)を予防、改善、阻害、または治癒することを包含する。
【0131】
「検証する」とは、確認することを意味する。本発明の状況において、細胞は、インビボまたはインビトロで膵島に有益に影響を与えるための所望の効力を有することが、確認される。これは、合理的な効能を期待して、次にその細胞を(処置、バンキング、薬物スクリーニングなどにおいて)使用できるようにするためのものである。よって、検証することとは、所望の活性を有することが元々見出されている/所望の活性を有するとして確立されている上記細胞が、実際に、その活性を保持していることを確認することを意味する。従って、検証は、元々の決定および追跡決定を包含する2事象プロセスでの立証事象(verification event)である。第2の事象は、本明細書で「検証」といわれる。
【0132】
膵島(これは、ランゲルハンス島ともいわれる)は、100~200μmのサイズを元々は有する細胞(または細胞の塊)である。それらの主要な構成細胞は、グルカゴンを分泌するα細胞、インスリンを分泌するβ細胞、ソマトスタチンを分泌するδ細胞、および膵臓ポリペプチドを分泌するPP細胞を含む。移植されるべき膵島の起源(ドナー)は、レシピエントと同じ種の哺乳動物であり得、そして例えば、そのレシピエントがヒトである場合、ヒト由来の膵島が使用される。
【0133】
さらに、膵臓から膵島を単離するための方法の具体例としては、以下の(i)~(iii)の工程を有し得る方法が挙げられる。さらに、ドナーがヒトである場合、当該分野で公知のRicordi法に基づく方法が、例として例証され得る。
【0134】
(i)コラゲナーゼなどの酵素は、膵臓に一様に浸透し、膵臓を膨張させる。本工程は、好ましくは、酵素反応が進行するのを防止するために、約4~6℃の低温条件で行われる。
【0135】
(ii)その膨張した膵臓は、酵素反応を通じて消化される。その酵素反応を経る消化は、その膨張した膵臓を、酵素反応が進むことを可能にする温度(例えば、約37℃)へと曝すことによって行われる。その膨張した膵臓を、酵素を使用して消化することに加えて、膵臓は、必要であれば、振動などを通じて機械的に分解され得る。
【0136】
(iii)密度勾配遠心分離を使用して、膵島は、酵素消化を通じて得られた細胞集団から単離される。密度勾配遠心分離において、膵島が得られ得る部分は、遠心分離の回転速度、密度勾配溶液のタイプなどに依存して適切に選択される。
【0137】
その単離された膵島は、必要であれば、適切な保存溶液中に貯蔵され得る。その単離された膵島は、好ましくは、培養され、幹細胞と一緒に貯蔵される。そうすることによって、その単離された膵島は、さらに長期間にわたって生きている状態で維持され得る。
【0138】
組成物は、幹細胞以外に、薬学的に受容可能でありかつ幹細胞に有害に影響を及ぼさないキャリアを含み得る。このようなキャリアの例としては、食塩水、PBS、培養培地、タンパク質医薬(アルブミンが挙げられる)、膵島保存のための溶液などが挙げられる。
【0139】
幹細胞の投与用量は、移植経路、膵島とともに形成される複合物の存在、移植されるべき膵島の量、レシピエントの症状の重篤度などに従って適切であるように選択される。例えば、幹細胞が、膵島とともに複合物を形成しない状態で、膵島と一緒に混合され、腎被膜下、大網(greater omentum)中、または皮下組織中の位置に、体重50kgを有するレシピエントへと注射される場合;単回の膵島移植のための投与用量は、例えば、5.0×10~1.0×10 細胞であり、好ましくは、1.0×10~5.0×10 細胞である。幹細胞が、体重50kgを有するレシピエントへと複合物の形態で門脈内に投与される場合;単回の膵島移植のための投与用量は、例えば、1.0×10~2.0×10 細胞であり、好ましくは、5.0×10~1.0×10
細胞である。従って、本発明は、1回の移植あたりの膵島の量を、上記の範囲内にすることを可能にする幹細胞の数を含み得る。
【0140】
幹細胞の投与用量および移植されるべき膵島の比はまた、移植経路、移植されるべき膵島の量、レシピエントの症状の重篤度などに応じて適切に選択される。例えば、幹細胞が膵島と混合され、腎被膜下、大網中、または皮下組織中の位置に注射される場合;幹細胞の数に対する移植される膵島の数の比に関して、幹細胞:膵島は、例えば、400:1~3000:1または500:1~2000:1であり、または好ましくは600:1~1500:1である。さらに、幹細胞が門脈の中に注射される場合;幹細胞の数に対する移植される膵島の数の比に関して、幹細胞:膵島は、例えば、500:1~3500:1または1000:1~3000:1であり、または好ましくは1500:1~2500:1である。これに基づいて細胞数に基づく比が得られ得る。なぜなら膵島は通常は、およそ1000~2000個の膵島からなるからである。
【0141】
本発明の幹細胞と一緒に移植される膵島の量は、レシピエントの症状の重篤度などに応じて適切であるように選択される。一般に、体重50kgを有するレシピエントの単回の膵島移植のために移植される膵島の数は、その数が5.0×10~1.0×10の範囲内である場合に通常は十分である。しかし、膵島の移植片生存率は、本発明の幹細胞を使用する場合に増大し得るので、単回の膵島移植のために移植される膵島の数が、50kg成人患者に関して、1×10~2×10、好ましくは5×10~1.5×10、およびさらに好ましくは、1×10~1.5×10へと低減される場合でさえ、十分なインスリン非依存性を得ることは可能である。移植される膵島のこのような数を用いると、単一のドナーから得られる膵島を複数のレシピエントへ移植することが可能になる。
【0142】
本発明の幹細胞が、移植されるべき膵島と一緒に投与される限りにおいて、投与様式において特段の制限は存在しない;そして幹細胞は、膵島と混合された状態で投与されてもよいし、幹細胞は、膵島が投与される前または投与後に単独で投与されてもよい。膵島の移植片生存をさらに改善するという観点から、好ましくは、幹細胞は、膵島と混合された状態で投与される、すなわち、幹細胞および膵島を混合することによって得られる細胞調製物を移植する、そしてより好ましくは、幹細胞は、後に記載される、膵島および幹細胞が互いに接着している複合物として投与される。
【0143】
本発明の幹細胞が、膵島の移植片生存を増強/改善し得る限りにおいて、その投与経路において特段の制限はなく、そして投与経路は、門脈などの血液中の直接注射(移植)、または非血管組織(例えば、皮下組織)中、大網中、腎被膜下などの移植であってよい。本発明の幹細胞が、後に記載される、膵島および幹細胞の複合物として投与される場合、門脈などの血液中の注射が好ましい;そして幹細胞が、膵島とは別個に投与される場合、腎被膜下、大網中または皮下組織中の位置での膵島および幹細胞の混合物の同時注射は、好ましい。
【0144】
本発明の幹細胞は、膵島移植片のインスリン機能が低下しているかまたは失われている患者(レシピエント)、例えば、膵島移植を必要とする1型糖尿病などの患者に投与されるが;幹細胞は、2型糖尿病(brittle型)などの患者に適用されるという期待があり、そしてさらには、幹細胞は、糖尿病全体に適用される場合に有効であると期待される。好ましい患者は、膵島移植を必要とする1型糖尿病である。
【0145】
(膵島移植のためのバイオ医薬)
膵島移植のためのバイオ医薬は、本願に記載される幹細胞および移植されるべき膵島を含む。
【0146】
膵島移植のためのバイオ医薬は、その中で混合されている、上記の幹細胞および移植されるべき膵島を有し、混合物としてのこれらの細胞の共移植を可能にするバイオ医薬であり得る。さらに、膵島移植のためのバイオ医薬は、幹細胞が膵島に接着している、後に記載される複合物(「複合物移植片」または「複合物ペレット」といわれ得る)を含む、膵島移植のためのバイオ医薬であり得る。
【0147】
膵島移植のためのバイオ医薬は、幹細胞および移植されるべき膵島または上記の複合物以外に、薬学的に受容可能でありかつこれらの細胞に有害に影響を及ぼさないキャリアを含み得る。このようなキャリアの具体例としては、食塩水、PBS、培養培地、タンパク質医薬(例えば、アルブミン)、膵島保存のための溶液などが挙げられる。
【0148】
膵島移植のためのバイオ医薬に関して、上記の記載はまた、幹細胞および膵島の投与量(移植量)、これらの細胞の比、バイオ医薬の投与法、バイオ医薬が投与される患者などに適用される。
【0149】
(幹細胞が膵島に接着している複合物)
【0150】
本発明は、幹細胞が膵島に接着している複合物(複合物移植片)に関する。
【0151】
幹細胞が膵島に直接接着している限りにおいて、上記複合物の構造において特段の制限は存在しない;そして好ましくは、上記複合物は、膵島のうちの少なくとも一部が幹細胞で覆われている構造を有する。より好ましくは、顕微鏡検査を通じて観察される場合、膵島の表面のうちの少なくとも(not less than)30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%、よりさらに好ましくは少なくとも70%、さらにもっと好ましくは少なくとも80%、およびさらによりもっと好ましくは少なくとも90%が、幹細胞で覆われる。特に好ましくは、膵島の全表面が、幹細胞で覆われる。
【0152】
単一の複合物を形成する、幹細胞および膵島の数の比において、特段の制限は存在しない。しかし、通常は、上記複合物は、単一の膵島が多くの数の幹細胞で覆われる構造を有する。単一の膵島上に接着している幹細胞の数において、特段の制限は存在せず、例えば、その数は、通常は、少なくとも10、好ましくは少なくとも20、より好ましくは少なくとも30、さらに好ましくは少なくとも40、およびよりさらに好ましくは少なくとも50である。さらに、1個の膵島上に接着している幹細胞の数において、特段の制限は存在せず、そして全て覆うために必要とされる数を想定すると、その数は、通常は、例えば、5000を超えない、好ましくは4500を超えない、より好ましくは3000を超えない、およびさらに好ましくは2500を超えない。
【0153】
膵島および幹細胞を密接に接触して存在させることによって、本発明の複合物は、生存効果および移植片生存改善効果をより効果的に発揮し得る。より具体的には、幹細胞を使用する膵島移植の移植片生存率を改善するために、膵島が移植されて生存する位置に幹細胞を存在させること、そして膵島を生かすことは、好ましい。幹細胞は、複合物において膵島上に接着しているので、幹細胞は、上記複合物を形成する膵島が移植されて生存するその位置に必然的に存在する。これは、膵島の移植片生存を促進し、膵島の生存能を促進する。
【0154】
複合物において幹細胞が膵島へと接着されるその複合物を生成するための方法において、特段の制限は存在せず、そして例えば、その複合物は、膵島および幹細胞を共培養することによって得られ得る。複合物が形成される限りにおいて、培養時間において特段の制限は存在せず、そしてその時間は、通常は10~48時間、好ましくは18~48時間、およびより好ましくは24~36時間である。
【0155】
複合物を形成するために、培養培地に添加される幹細胞および膵島の数の比において特段の制限は存在せず、そして通常は、膵島:幹細胞は、1:10~5000、好ましくは1:100~4500、より好ましくは1:300~4000、さらに好ましくは1:500~3500、およびさらにもっと好ましくは1:800~3000である。
【0156】
(糖尿病の治療法および膵島移植法)
【0157】
本発明は、膵島および幹細胞を共投与し、糖尿病の処置を要する患者に膵島を移植することによる、糖尿病を処置するための方法を包含する。患者が糖尿病の処置を要する限りにおいて、患者において特段の制限は存在せず、そしてこのような患者の例としては、1型糖尿病、2型糖尿病などが挙げられる。好ましくは,上記患者は、糖尿病を処置するために膵島移植を要する1型糖尿病である。
【0158】
膵島および幹細胞の共投与は、単回の膵島移植手術においてそれらのうちの両方の投与を意味する。従って、共投与は、膵島および幹細胞の混合物の投与を包含するのみならず、膵島または幹細胞のいずれかを予め投与し、次いで、他方を投与することをも包含する。さらに、共投与はまた、複合物の投与を包含する。複合物の投与が好ましい。
【0159】
膵島の移植片生存が増強/改善され得る限りにおいて、膵島および幹細胞の投与経路において特段の制限は存在せず、そして例えば、その投与経路は、門脈などの血液中の注射、または非血管組織(例えば、皮下組織中、大網中、腎被膜下など)への直接注射であり得る。複合物として投与される場合、門脈などの中に細胞を注射することが好ましい;そして幹細胞が膵島とは別個に投与される場合、腎被膜下、大網中、または皮下組織中の位置での注射が好ましい。
【0160】
膵島および幹細胞を連続してまたは混合状態で投与する場合、単回の膵島移植のための投与用量は、上記で記載されるとおりである。治療効果が得られる限りにおいて、複合物状態(composite state)を投与する場合に、投与用量において特段の制限は存在しない。例えば、単回の膵島移植のために投与される複合物の数は、投与が体重50kgを有するレシピエントの門脈に行われる場合、通常は、5.0×10~1.0×10の範囲内であり得る。しかし、膵島の移植片生存率は、本発明の幹細胞を使用する場合に増大し得るので、単回の膵島移植のために移植される複合物の数が、50kg成人患者に関して1×10~2×10、好ましくは5×10~1.5×10、そしてさらに好ましくは1×10~1.5×10へと低減される場合にすら、十分なインスリン非依存性を得ることは、可能である。移植される膵島のこのような数を用いると、単一のドナーから得られる膵島を複数のレシピエントへと移植することが可能になる。
【0161】
(幹細胞)
本発明は、好ましくは、脊椎動物種(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、飼い慣らされた動物、家畜、および他の非ヒト哺乳動物)の幹細胞を使用して実施され得る。これらとしては、以下に記載される細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
多くの転写因子および外因性サイトカインが同定されてきており、これらは、インビボでの幹細胞の効力の状態に影響を及ぼす。幹細胞の多能性に関与することが記載されるべき第1の転写因子は、Oct4である。Oct4は、POU(Pit-Oct-Unc)ファミリーの転写因子に属し、遺伝子の転写を活性化し得、プロモーター領域またはエンハンサー領域内で「オクタマーモチーフ」といわれるオクタマー配列を含み得るDNA結合タンパク質である。Oct4は、卵筒が形成されるまで受精接合子(fertilized zygote)の卵割可能なステージの時期に発現される。Oct3/4の機能は、分化誘導遺伝子(すなわち、FoxaD3、hCG)を抑制し、多能性を促進する遺伝子(FGF4、Utf1、Rex1)を活性化することである。Sox2(高移動度群(high mobility group)(HMG)box転写因子のメンバーである)は、Oct4と協同して、上記内部細胞塊において発現される遺伝子の転写を活性化する。胚性幹細胞におけるOct3/4発現が、特定のレベルの間で維持されることは、必須である。Oct4発現レベルの50%超の過剰発現またはダウンレギュレーションは、それぞれ、初期の内胚葉/中胚葉または栄養外胚葉の形成とともに、胚性幹細胞の運命を変える。インビボでは、Oct4欠損胚は、胚盤胞ステージへと発達するが、上記内部細胞塊の細胞は、多能性ではない。代わりに、それら細胞は、胚体外栄養膜系列(extraembryonic trophoblast lineage)に沿って分化する。Sall4(哺乳動物のSpalt転写因子)は、Oct4の上流の調節因子であり、従って、発生学の初期相の間にOct4の適切なレベルを維持することは重要である。Sall4レベルが、特定の閾値より下に低下する場合、栄養外胚葉細胞は、上記内部細胞塊へと異所性に拡大増殖する。多能性に必要とされる別の転写因子は、Nanogであり、これは、ケルト族の「ティル・ナ・ノーグ(Tir Nan Og)」:常若の国に倣って名付けられた。インビボでは、Nanogは、ぎっしりと詰まった桑実胚のステージから発現され、その後、内部細胞塊に規定され、着床ステージによってダウンレギュレートされる。Nanogのダウンレギュレーションは、多能性細胞の制御されない拡大増殖を回避し、原腸形成の間に多系列分化を可能にするために重要であり得る。Nanogヌル胚(5.5日で単離される)は、無秩序な胚盤胞からなり、主に、胚体外内胚葉を含み、識別可能な胚盤葉上層を含まない。Nanogヌル胚(5.5日目で単離される)は、無秩序な胚盤胞からなり、主に、胚体外内胚葉を含み、識別可能な胚盤葉上層を含まない。
【0163】
(MAPCの単離および増殖)
MAPC単離方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第7,015,037号を参照のこと。これらの方法は、MAPCの特徴付け(表現型)とともに、本明細書に参考として援用される。MAPCは、複数供給源(骨髄、胎盤、臍帯および臍帯血、筋肉、脳、肝臓、脊髄、血液または皮膚が挙げられるが、これらに限定されない)から単離され得る。従って、骨髄吸引物、脳生検または肝臓生検、および他の器官から得ること、ならびにこれら細胞において発現される(または発現されない)遺伝子に依存して(例えば、機能アッセイまたは形態アッセイ(例えば、上記参考の出願(本明細書に参考として援用される)において開示されているもの)によって)、当業者に利用可能な陽性選択または陰性選択の技術を使用して、上記細胞を単離することは可能である。
【0164】
MAPCはまた、Breyerら, Experimental Hematology, 34:1596-1601 (2006)およびSubramanianら, Cellular Programming and Reprogramming: Methods and Protocols; S. Ding (編), Methods in Molecular Biology, 636:55-78 (2010)(これらの方法に関して参考として援用される)に記載される本発明者の改変法から得た。
【0165】
(米国特許第7,015,037号に記載されるヒト骨髄に由来するMAPC)
MAPCは、CD45もグリコホリン-A(Gly-A)も発現しない。上記細胞の混合集団を、Ficoll Hypaque分離に供した。次いで、上記細胞を、抗CD45抗体および抗Gly-A抗体を使用して陰性選択に供し、CD45細胞およびGly-A細胞の集団を除去し、次いで、残存する約0.1%の骨髄単核球を回収した。細胞をまた、フィブロネクチンコーティングしたウェルに播種し、2~4週間にわたって下記のように培養して、CD45細胞およびGly-A細胞を除去した。接着性骨髄細胞の培養物において、多くの接着性間質細胞が、細胞倍加30回あたりで複製老化を経験し、細胞のより均質な集団が、拡大増殖し続け、長いテロメアを維持する。
【0166】
(さらなる培養法)
さらなる実験において、MAPCが培養される密度は、約100細胞/cmまたは約150細胞/cm~約10,000細胞/cm(約200細胞/cm~約1500細胞/cm~約2000細胞/cmを含む)まで変動し得る。上記密度は、種間で変動し得る。さらに、最適密度は、培養条件および細胞供給源に依存して変動し得る。培養条件および細胞の所定のセットについて最適な密度を決定することは、当業者の技術範囲内である。
【0167】
また、約10%より低い(約1~5%および特に、3~5%を含む)有効大気酸素濃度が、培養中のMAPCの単離、増殖および分化の間のいずれのときにも使用され得る。
【0168】
細胞は、種々の血清濃度(例えば、約2~20%)下で培養され得る。ウシ胎仔血清が使用され得る。より高い血清が、より低い酸素分圧と組み合わせて使用され得る(例えば、約15~20%)。細胞は、培養ディッシュへの接着前に選択される必要はない。例えば、Ficoll勾配後に、細胞は、直接播種され得る(例えば、250,000~500,000/cm)。接着性のコロニーは拾いあげられ得、場合によってはプールされ得、拡大増殖され得る。
【0169】
実施例における実験手順で使用される一実施形態において、高血清(約15~20%)および低酸素(約3~5%)条件を、細胞培養に使用した。具体的には、コロニー由来の接着性細胞を播種し、約1700~2300細胞/cmの密度において、18%血清および3% 酸素中で(PDGFおよびEGFとともに)継代した。
【0170】
MAPCに特異的な一実施形態において、補充物は、MAPCが1種より多くの胚系列(例えば、3種全ての系列)の細胞型へと分化する能力を維持することを可能にする細胞因子または細胞成分である。これは、未分化状態の特異的マーカー(例えば、Oct 3/4(Oct 3A))および/または高度な拡大増殖能力のマーカー(例えば、テロメラーゼ)の発現によって示され得る。
【0171】
(薬学的処方物)
特定の実施形態において、上記細胞集団は、送達に適合した、および送達に適した(すなわち、生理学的に適合性の)組成物内に存在する。
【0172】
いくつかの実施形態において、膵島への投与のための細胞の純度は、約100%(実質的に均質)である。他の実施形態において、それは、95%~100%である。いくつかの実施形態において、それは、85%~95%である。特に、他の細胞との混合物にある場合、そのパーセンテージは、約10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~95%であり得る。あるいは単離/純度は、細胞倍加に関して表され得る(ここで細胞は、例えば、10~20回、20~30回、30~40回、40~50回、またはこれより多くの細胞倍加を受けている)。
【0173】
(投与)
ヒトまたは他の哺乳動物に対する用量(すなわち、細胞の数)は、当業者によって、過度の実験なくして、本開示、本明細書で引用された文書、および当該分野での知識から決定され得る。本発明の種々の実施形態に従って使用されるのに最適な用量は、多くの因子に依存し、それら因子としては以下が挙げられる:処置される疾患およびその病期;ドナーの種、ドナーの健康状態、性別、年齢、体重、および代謝速度;ドナーの免疫応答性;施されている他の治療;ならびに上記ドナーの病歴または遺伝子型から予期される潜在的合併症。パラメーターとしてはまた、以下が挙げられ得る:上記細胞が、同系であるのか、自己由来であるのか、同種異系であるのか、または異種であるのか;それらの効力;標的化すべき部位および/または分布;ならびにこのような上記部位の特徴(例えば、細胞への接近可能性)。さらなるパラメーターとしては、他の因子(例えば、増殖因子およびサイトカイン)との共投与が挙げられる。所定の状況における最適な用量はまた、上記細胞が処方される方法、それらが投与される方法(例えば、灌流、器官内など)、および上記細胞が、投与後の標的部位において局在化する程度を考慮に入れる。
【0174】
(組成物)
本発明はまた、本明細書に記載される効果のうちのいずれかを達成するための特定の効力を有する細胞集団に関する。上記のように、これら集団は、所望の効力を有する細胞を選択することによって確立される。これら集団は、他の組成物(例えば、特定の効力を有する集団を含む細胞バンク、および特定の所望の効力を有する細胞集団を含む薬学的組成物)を作製するために使用される。
【実施例0175】
C57BL/6マウスを、膵島ドナーおよび移植レシピエントとして全ての手順において使用した。
【0176】
(ヒトMAPCの調製および特徴付け)
【0177】
(MAPC拡大増殖培地の調製)
【0178】
DMEMを、MCDB-201溶液と60:40 容積:容積比で混合する。
【0179】
500mL 基礎培地に、以下の試薬を補充する;
(a)1mLの500×インスリン-トランスフェリン-セレン。
(b)2.5mLの100×リノール酸-ウシ血清アルブミン。
(c)5mLの10,000U/mL ペニシリン-ストレプトマイシン。
(d)5mLの10-4M L-アスコルビン酸。
(e)100μLの50μg/mL hPDGF。
(f)200μLの25μg/mL hEGF。
(g)100μL 0.25mM デキサメタゾン。
(h)ウシ胎仔血清を18%になるまで。
【0180】
(フィブロネクチンコーティング溶液の調製)
【0181】
1×フィブロネクチン(100ng/mL)コーティング溶液を、50μLの0.1%
フィブロネクチンを500mLのPBSへと希釈することによって作製する。その溶液を、4℃で貯蔵し得る。
【0182】
T75培養フラスコを、少なくとも30分間、37℃、5.5% COインキュベーター中で、5mL コーティング溶液で被覆する。
【0183】
ウシ骨髄吸引物からのMAPC単離
【0184】
新鮮な骨髄を使用し得るが、吸引物はまた、一晩貯蔵され得る。その吸引物を、等容積のPBSが入った50mL 遠心チューブへと移す。このうちの20mLを、20mL Histopaque-1077の頂部に重層する。これを1,000×g、20分間、室温で遠心分離する。その単核細胞層を集め、50mLへとPBSで希釈する。これを、350×gで5分間、遠心分離する。その上清を除去し、上記細胞を、50mLのPBS中で再懸濁する。これを、350×gで5分間、遠心分離する。その上清を除去し、上記細胞を、およそ1~2mLのPBS中で再懸濁する。上記細胞を、15mLの培地中に密度0.5~1.0×10細胞/cmで、1×フィブロネクチン被覆T75フラスコ上に播種する。上記細胞を、5.5% CO、5% O中、37℃でインキュベートする。24時間後、培地を除去し、細胞を約3回、5mLのPBSですすいで、非接着細胞を除去する。拡大増殖のために、10mLの新鮮な培地を添加する。上記細胞を、5~8日間培養する。その培養培地を2~3日ごとに交換する。細胞は、クローン性の拡大増殖を受け、明瞭な細胞クラスターとして目で見えるようになる。クローン性の拡大増殖したクラスターが50~70%コンフルエントに(クラスター内で)達したときに、上記細胞を継代する。
【0185】
(MAPC継代培養および拡大増殖)
上記細胞を、トリプシン-EDTA溶液で剥離する。その反応を、集めた拡大増殖培地を添加することによって停止させる。上記細胞を、5分間、350×gで遠心分離する。次いで、上記細胞をMAPC拡大増殖培地中で再懸濁し、密度500 細胞/cmで1×フィブロネクチン被覆フラスコに播種する。次いで、それらを上記のようにインキュベートする。上記細胞を、1日おきに継代して、低密度で培養物を維持する。
【0186】
以下の指示が特に言及される。血清は、有意な生存能の源を提供し得る。最適血清濃度は、血清バッチの特徴に依存して変動し得る。よって、種々の血清ロットが、最適なMAPC拡大増殖を支持するそれらの能力についてスクリーニングされる。適切なバッチからの多量の血清が、確保され得る。理想的には、MAPCは、200~2,000 細胞/cmの間の密度で播種され、より高い密度は回避される。それらは、コンフルエント未満(30~70%)において定期的に継代される。これらの条件を使用して、MAPCは、15~20継代(50~70回の集団倍加)までにわたって慣用的に拡大増殖され得る。
【0187】
この研究において使用されるヒトMAPC(n=2)を、上記のように骨髄から単離した。約24回の細胞倍加において、上記細胞を「細胞バンク」として凍結した。次いで、上記細胞を解凍し、U.S. 2012/0308531(バイオリアクター中でMAPCを拡大増殖させるための方法を開示するために参考として援用される)に記載されるとおり、Quantumバイオリアクター中で約27回の集団倍加まで拡大増殖させた。この閉じた自動化培養システムは、滅菌閉鎖ループ、コンピューター制御された培地およびガス交換機に接続された合成中空繊維バイオリアクターから構成される。このバイオリアクターは、拡大増殖表面積2.1mを生じる約11,000本の繊維を含む。このバイオリアクターをフィブロネクチンで被覆した後、細胞を、その中空繊維の内部に約2200/cmで播種し、MAPC培養培地中で拡大増殖させた。細胞を、トリプシン/EDTAを使用して5~6日後に採取した(フィブロネクチンコーティング)。次いで、その採取した細胞を、バイオリアクター中で集団倍加がおよそ33回まで拡大増殖させた。それらを、約400/cmで播種した。そのコーティングは、クリオプレピシテート(cryoprecipitate)であった。それら細胞を(集団倍加33回で)、本願において例示される実験で使用した。
【0188】
ヒトMAPCの表現型分析を、分化クラスター3(CD3)、CD31、CD34、CD40、CD44、CD86、CD105、Flk1、HLA-ABC、およびHLA-DRを認識する蛍光色素結合体化抗体(ebioscience Inc., San Diego, CA)を使用して行った。獲得を、GalliosTM マルチカラーフローサイトメーター(Beckman Coulter, Suarlee, Belgium)を使用することによって行った。サンプルの分析のために、FlowJo(Tree Star Inc., Ashland, OR)ソフトウェアを使用した。
【0189】
無細胞上清を、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、C反応性タンパク質(CRP)、エオタキシン、エオタキシン-3、可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt1)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、可溶性細胞内接着分子-1(sICAM-1)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン-1α(IL1α)、IL1β、IL10、IL12 p70、IL12/IL23p40、IL13、IL15、IL16、IL17A、IL2、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IFN-γ誘導性タンパク質-10(IP-10)、単球化学誘引物質タンパク質(monocyte chemoattractant protein)-1(MCP-1)、MCP-4、マクロファージ由来ケモカイン(MDC)、マクロファージ炎症性タンパク質-1α(MIP-1α)、MIP-1β、胎盤増殖因子(PlGF)、血清アミロイドA(SAA)、胸腺および活性化調節ケモカイン(thymus- and activation-regulated chemokine)(TARC)、Tie2、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、TNF-β、可溶性血管細胞接着分子-1(sVCAM-1)、血管内皮増殖因子-A(VEGF-A)、VEGF-C、およびVEGF-Dについて、マルチプレックス電気化学発光法(Meso Scale Discovery, Rockville, MD)によって、製造業者のプロトコルに従ってアッセイした。
【0190】
ヒトMAPCの抗原性潜在能力を、記載されるように[Movahedi B,ら, (2008) Diabetes 57: 2128-2136]、ひよこ漿尿膜(CAM)において試験した。
【0191】
(限界量同系膵島移植糖尿病モデル)
レシピエントにおいて糖尿病を誘導するために、アロキサン(90mg/kg; Sigma-Aldrich)の単回静脈内注射を、雄性C57BL/6マウスに投与し、動物を、2回連続非絶食時尾静脈血中グルコース濃度200mg/dlをAccuCheck Glucometer(Roche Diagnostics Vilvoorde, Belgium)によって測定した後に、糖尿病であると見做した。移植前に、コラゲナーゼ消化によって単離した2~3週齢のC57BL/6マウスの膵島を洗浄し、計数し、場合によっては、ヒトMAPCと混合した[Baeke F,ら, (2012)
Diabetologia 55: 2723-2732]。その後、細胞ペレットを、シリコンマイクロチューブ(silicon microtubing)(Becton Dickinson, Erembodegem, Belgium)に移し、5分間、1500rpmにおいて遠心分離した。移植の間に、マウスに麻酔をかけ、左腎を、腰部切開(lumbar incision)によって露出させた。糖尿病レシピエントマウスに、150個の膵島のみを、150個の膵島および250,000個のヒトMAPCを別個のペレット(SEP)として、または150個の膵島および250,000個のヒトMAPCを複合物ペレット(MIX)として、腎被膜下に与えた。各レシピエントの尾静脈からの非絶食時血中グルコースレベルを、移植後第1週の間に毎日測定し、その後、週に3回測定した。マウスが、3回連続測定後に血中グルコースレベル<200mg/dLを有する場合に、治癒したと見做した。全ての膵島移植を、無作為で全ての実験群において行った。膵島移植後の2週目および5週目に、移植片を有する腎臓を取り出し、4% フォルムアルデヒド中で固定し、続いて、パラフィン包埋するか、またはRNA単離のために使用した。
【0192】
(生理学的研究)
耐糖能試験を、16時間の絶食後に行った。マウスにD-グルコース(2g/kg 体重)をip注射し、血中グルコースレベルを、示された時間に測定した。
【0193】
血清インスリンおよびCペプチド決定のために、伏在静脈から血液を集めた。血清を遠心分離によって単離し、膵臓ホルモンのレベルを、超高感度酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)キット(Mercodia,Uppsala,Sweden;Merck Millipore,Massachusetts,MA)によって決定した。
【0194】
(形態計測および免疫組織化学検査)
移植片を有する腎臓を、パラフィン包埋し、6μm切片を、全移植片領域から得た。インスリン(モルモット、Dako Belgium nv/sa, Heverlee,
Belgium)、グルカゴン(マウス、Sigma, St. Louis, MO)、ソマトスタチン(ラット、Abcam, Cambridge, UK)、およびエンドムチン(ラット、Santa Cruz Biotechnology Inc.,Santa Cruz,CA)染色を使用して、Ventanaシステム(Ventana Medical Systems Inc.,Tucson,AZ)の助けを借りて、それぞれ、β細胞量および血管密度を評価した。エンドムチン抗体は、マウス起源であってヒト起源ではないエンドムチンの検出に推奨される。
【0195】
β細胞および血管の容積の定量のために、全ての画像を、Nikon Eclipse
TE2000-E顕微鏡を使用し、40×倍率対物レンズおよび大画像捕捉特徴を使用して捕捉した。その結果、各切片の移植片領域全体を、一度に示ことができた。膵島移植片の内分泌区画内のインスリン+、グルカゴン+およびソマトスタチン+の面積、ならびにエンドムチン+の面積を、記載されるように[Coppens V,ら (2013)
Diabetologia 56: 382-390]、全移植片のうちのおよそ15%(すなわち、5番目の切片毎)に、ImageJ/Fijiソフトウェアによって半自動的に測定した。血管/β細胞比を、(血管面積/インスリン+面積)×100%として計算した。血管密度を、膵島内血管/mmの数字として計算した。
【0196】
(定量的PCR)
膵島移植片RNAを、記載されるように[Ding L,ら (2015) Cell
Transplant 24: 1585-1598]単離し、1μgのアリコートを、cDNAへと逆転写した(Superscript II; Life Technologies, Carlsbad, CA)。次いで、cDNAを、Fast SYBR(登録商標)Green Master MixまたはTaqMan(登録商標)Fast Universal Master Mix(Life Technologies)と組み合わせた遺伝子特異的TaqMan(登録商標)プローブのいずれかを使用して、遺伝子特異的順方向および逆方向プライマーを使用する定量的PCRに供した。プライマーおよびプローブの配列を、補足表1に列挙する。各定量的反応を、二連または三連で行い、各実験群の6~11匹のマウス由来の膵島移植片を、独立して試験した。相対的mRNA発現値を、ΔΔCt法を使用して計算する。全てのサンプルを、ハウスキーピング遺伝子としてのアクチン(Actine)、HPRTおよびRPL27の平均に対して正規化した。各標的遺伝子のバックグランド量を、非移植腎から計算した。結果を、平均±SEMとして表す。
【0197】
(統計)
統計を、Prismソフトウェア5.0(GraphPad Software Inc., San Diego, CA)で計算した。カイ二乗検定を適用して、種々の群間の糖尿病改善率の間の有意差を確認した。全ての数値を、平均±SEMとして表した。有意性を、Mann-Whitney U検定またはKruskal-Wallis検定を使用して決定し、p<0.05の値を有意と見做した。
【0198】
(複合物混合物)
150個の膵島を30μl PBS中でMAPCと混合し、この複合物を、シリコーンマイクロチューブへと移し、5分間、1500rpmで遠心分離し、そのペレットを、腎被膜下に移植した。
【0199】
(結果)
【0200】
(ヒトMAPCは、血管新生性増殖因子を分泌し、インビボCAMアッセイにおいて新血管新生潜時能力を有する)
ヒトMAPCは、HLA-ABCの低発現(<25%)を示し、HLA-DR、CD40、CD86、CD3、Flk1/VEGFR2/KDR、CD31/PECAM-1、およびCD34の発現を欠いた(<1%)。これらは、それぞれ、MHCクラスIIおよび共刺激分子、T細胞および内皮細胞の代表的細胞表面マーカーである(図1A)。ヒトMAPCは、CD44およびCD105に関して陽性であった(>95%)[Reading JL,ら (2013) J Immunol 190: 4542-4552]。それらの表面マーカーシグナチャーは、幹細胞の任意の他の公知のクラスからそれらを区別する特有の表現型を規定する[Reading JL,ら (2013) J Immunol 190: 4542-4552]。
【0201】
ヒトMAPCの培養上清を、炎症促進性パネル、サイトカインパネル、ケモカインパネル、血管新生パネルおよび血管炎症パネルを含むヒトバイオマーカー40-Plexキットで分析した(図1B)。上記細胞は、多くの血管新生性増殖因子(VEGF(VEGF-A、-Cおよび-D)、PlGF、sFlt-1、bFGF、およびIL8が挙げられる)を産生した。他方で、上記細胞は、種々のサイトカイン(すなわち、IFN-γ、IL1α、IL1β、IL2、IL4、IL5、IL6、IL7、IL10、IL12p70、IL12/IL23p40、IL13、IL15、IL16、IL17A、TNF-α、およびTNF-β)およびケモカイン(エオタキシン、エオタキシン-3、IP-10、MCP-1、MCP-4、MDC、MIP-1α、MIP-1β、およびTARC)の無視できる程度の分泌を有した(データは示さず)。
【0202】
ヒトMAPCの新血管形成潜時能力を、CAM血管新生モデルを使用して試験した。5μg 組換えヒトVEGFを接種すると、移植物に向かう血管の数が顕著に増大した(図1C)。13日目には、50μg BSAを含むコントロール移植物と比較して、およそ4.5倍多くの血管が存在した。ヒトMAPC(2.5×10)は、コントロールと比較して血管形成を3.5倍、有意に増大した(図1C)。
【0203】
(複合物ペレットとしての膵島-ヒトMAPCの共移植は、限界量膵島移植の転帰を改善する)
移植した膵島の数を、レシピエントのうちのおよそ50%において正常血糖を達成するちょうど境目である「限界膵島量」を決定するために滴定した。50個の同系C57BL/6膵島の移植は、高血糖症を改善しなかった(7匹のマウスのうち0匹)のに対して、300個の膵島が腎被膜下に移植された場合には、100%(4匹のマウスのうち4匹)が正常血糖を達成した。本発明者らは、限界膵島数が、およそ150個の膵島であると評価した(45匹のマウスのうち25匹、56%が移植後5週間で正常血中グルコース濃度を達成)。この膵島数を、さらなる実験のために選択した。
【0204】
次に、本発明者らは、別個のペレットまたは複合物ペレットとしてヒトMAPCとともに共移植した限界膵島量の転帰を調査し、移植した動物の血中グルコースレベルを5週間までモニターした。別個のペレット(SEP)としての膵島とヒトMAPCとの共移植は、膵島のみを移植したマウスと比較して、平均血中グルコース濃度を僅かに改善した。興味深いことに、膵島-ヒトMAPC複合物(MIX)を受容したマウスは、2週間以上の全ての測定された時点で、よりよい血糖制御を有した(図2A)。移植の3週間後に、膵島-ヒトMAPC複合物を移植したマウスのうちの81%(MIX群において16匹のマウスのうち13匹)は、別個のペレットとして膵島-ヒトMAPCを移植したマウスのうちの50%(SEP群において26匹のうち13匹;p<0.05)および膵島のみを移植したマウスにおいて47%(コントロール群において45匹のマウスのうちの21匹;p<0.05)と比較して、正常血糖であった(図2B)。観察期間の最後までに(移植後5週目)、膵島-ヒトMAPCを共移植したマウスのさらにより高い割合が、膵島のみを移植したマウスと比較して糖尿病を改善した(コントロール群において56%に対して、MIX群において94%、p<0.01およびSEP群において85%、p<0.001)。腎摘出術後、正常血糖の膵島レシピエントの血中グルコース濃度は、重篤な高血糖へと急速に進行した。これは、代謝的グルコース制御の改善が、移植した同系膵島から生じていたのであって、膵島レシピエントのアロキサン処置膵臓における残余の膵島の再生から生じていたのではないことを示す(図5A)。さらに、0日目(コントロール群、SEP群およびMIX群に関して、それぞれ22.8±0.27g、23.5±0.2gおよび22.9±0.21g、n=40~52)または移植後5週目(コントロール群、SEP群およびMIX群に関して、それぞれ25.6±0.33g、26.2±0.32g、および25.4±0.27g、n=40~52)において、異なる実験群からの移植レシピエント間で、体重に有意差は存在しなかった(図5B)。
【0205】
血清マウスインスリンおよびCペプチドレベルを、膵島移植片機能の指数として、移植後2週間および5週間測定した。移植後2週目で、インスリンおよびCペプチド濃度は、種々の実験群間で有意に異ならなかった(図6A)。しかし、移植後5週目では、Cペプチド値は、膵島のみのマウスからの値(コントロール群において232±52pmol/l;n=10)と比較して、別個のペレット(SEP群において304±80pmol/l;n=10、p<0.01)ならびに複合物ペレット(MIX群において282±77pmol/l;n=10、p=0.05)として膵島-ヒトMAPCを共移植したマウスにおいて有意に良好であった(図6B)。
【0206】
膵島移植物のインスリン分泌能を調査するために、一連の腹腔内耐糖能試験(IP-GTT)を移植後2週目および5週目に行った。移植後2週目に、研究群の間でグルコースクリアランスに有意差はなかった。他方で、移植後5週目に、膵島-ヒトMAPC複合物(MIX)を共移植したマウスは、膵島およびヒトMAPCを別個のペレット(SEP)としてまたは膵島のみ(コントロール)を移植したマウスより効率的にグルコースを除去した(図2C~D)。IP-GTTの所見をさらに裏付けるために、曲線下面積(AUC)を計算したところ、膵島およびヒトMAPCを別個のペレット(SEP)として移植した群(p<0.01)または膵島のみを移植した群(コントロール)(p<0.01)と比較して、膵島-ヒトMAPC複合物(MIX)を移植した群との間で有意差があることが見出された(図2C~D)。
【0207】
(膵島-ヒトMAPC複合物を移植したマウスにおけるβ細胞およびα細胞容積、ならびに血管形成の増大)
共移植群および膵島のみの群からの移植片を、それらの遺伝子プロフィール、細胞構築および血管再生プロセスに関して評価した。インスリンおよびグルカゴンのmRNA発現レベルは、移植の2週間後に、膵島のみの群(コントロール)のものと比較して、膵島-ヒトMAPC複合物(MIX)を共移植したマウスにおいてより高かった。この時点においてソマトスタチンmRNA発現レベルに差異は全くなかった。移植後5週目に、研究した内分泌ホルモンの移植片内mRNAレベルは、全ての群において匹敵した。これらの尺度(measure)は、移植片の組織構造によって確証され、これは膵島のみを移植したマウス(コントロール)と比較して、膵島-ヒトMAPC複合物(MIX)を移植したマウスの移植片においてより高いインスリン陽性領域およびグルカゴン陽性領域を示した(図3B~C)。
【0208】
血管形成を、エンドムチン発現(血管内皮細胞のマーカー)によって測定した。移植後の2週目に、移植片血管密度および面積、ならびにインスリン+面積に対する血管面積の比は、研究した群間で異ならなかった。移植後の5週目に、増強された移植片血管再生は、別個のペレット(SEP)として膵島-ヒトMAPCを移植したマウスまたは膵島のみ(コントロール)を移植したマウスと比較して、膵島-ヒトMAPC複合物(MIX)を共移植したマウスにおいて観察された。SEP移植片において702±106血管/mmおよび膵島のみの移植片において515±52血管/mmと比較して、MIX移植片において、1256±203血管/mmを検出した(ともにp<0.05;図4B)。新血管新生の別の指数、移植片血管面積は、SEP移植片(2.04±0.57%、n=5)または膵島のみの移植片(1.26±0.25%;n=4、p<0.05、図4B)においてより、MIX移植片(4.85±1.32%、n=5)において有意に高かった。さらに、MIX移植片を移植したマウスは、インスリン陽性面積あたりの血管の比が、SEP移植片および膵島のみの移植片より高かった(0.079±0.027血管/膵島
対 0.019±0.006血管/膵島および0.014±0.003血管/膵島、ともにp<0.01)(図4B)。
【0209】
【表1】
F:順方向; R:逆方向; P;プローブ; SYBR:Fast SYBR(登録商標) Green; Cq(定量サイクル、Ct(閾値サイクル)ともいわれる)
図1
図2
図3AB
図3C
図4
図5
図6
【配列表】
2023133612000001.app
【外国語明細書】