(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133622
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】不織布シート付き複合幌地、鉄道車両用連結幌
(51)【国際特許分類】
B61D 17/22 20060101AFI20230914BHJP
B61D 49/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B61D17/22
B61D49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023128153
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000176143
【氏名又は名称】三上化工材株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三上 省吾
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の走行時に時々発生する軋(きし)み音、鉄道車両がトンネル内や地下道内を走行するときの騒音が、連結幌を通じて客室内に及ばないようにすることを主目的とする。
【解決手段】短冊形状の不織布シート4を、外側幌地2Aと内側幌地2Bとの内側であって幌内骨8,8の間に設けた不織布シート収容部2cごとに設けた。不織布シート収容部2c内における不織布シート4の短尺方向の両側には隙間2d,2dが設けられている。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用連結幌に用いられる不織布シート付き複合幌地は、外側幌地と内側幌地とによる2枚重ね構造の複合幌地とキセ布と不織布シートとが組付けられて略平坦なシート状であって、方形筒状に組み立てることが可能な概略構造を有し、
組立前の平坦な前記不織布シート付き複合幌地は、前端部と後端部に太径の幌外骨を挿入する幌外骨挿入部が設けられ、更に前記2枚重ね構造の内部における前後方向に所定間隔を置いた位置に小径の幌内骨挿入部が設けられ、隣り合う前記幌内骨挿入部どうしの間に不織布シート収容部が設けられており、
細幅長尺形状を有する前記各不織布シートは、前記各不織布シート収容部内に、短尺側の先端部の前方に隙間を設けた状態で収容されており、
前記不織布シート付き複合幌地が短縮する方向に折り畳まれると、前記不織布シートが若干の圧縮を伴った前記隙間がある方向に移動が可能であり、前記不織布シート付き複合幌地の前記不織布シートが位置する面がU字形状又は略逆Ω字形状の曲面をもって屈曲するように構成されている、不織布シート付き複合幌地。
【請求項2】
前記内側幌地と前記外側幌地は、いずれも合成繊維織布の両面に軟質の塩化ビニル樹脂層が被覆された、厚さが約0.8mmのターポリンで構成され、
前記各幌内骨挿入部と前記不織布シート収容部は、いずれも前記内側幌地と前記外側幌地とが細幅直線方向に並列して接合された接合部で仕切られている、請求項1に記載の不織布シート付き複合幌地。
【請求項3】
前記不織布シートは、難燃性ポリエステル繊維糸が、1m2あたりの重量が約500g、厚さ約3mmに積層された、短尺な幅と長尺な長さがある帯状のものが用いられている、請求項1又は2に記載の不織布シート付き複合幌地。
【請求項4】
前記不織布シートは、複合幌地の上部にキセ布を装着するために設けられたホック、及び前記鉄道車両の連結幌として使用するときの底面になる箇所に装着された排水及びごみ排出用のハトメ(鳩目金具)によって、短尺幅方向を二分する箇所が固定されている、請求項1~3のいずれかに記載の不織布シート付き複合幌地。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の不織布シート付き複合幌地の両端に前記幌外骨が挿入され、該不織布シート付き複合幌地の前後方向に所定間隔を置いた箇所に前記幌内骨が挿入されて、専用の大型折曲げ機を用いて角形方形状に変形されて組み立てられた、鉄道車両用連結幌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鉄道車両用連結幌に用いる不織布シート付き複合幌地と、この複合幌地を用いて組み立てられた鉄道車両用連結幌に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行時に時々発生する軋(きし)み音、鉄道車両がトンネル内や地下道内を走行するときに生じる走行音が連結幌を通じて客室内から聞こえることがある。これらの音は乗客には騒音に他ならない。
また、真夏の屋外の熱気や真冬の寒気が連結幌を通じて客室内に侵入することがあり、車内を快適温度にさせる障害になる。これらの不具合は連結幌に通じるドアを閉じることで解消される。
しかしながら、このドアが開いた状態になっているときもあり、また、このドアが無い車両もある。
上記不具合は、連結幌を改良することで相当程度解消し、これについての特許出願公開公報がある(特許文献1)。
【0003】
特許文献1による鉄道車両連結用幌体は、幌地を外側幌地と前記内側幌地とを重ねた2枚重ね構造の複合幌地が用いられ、該複合幌地の前端と後端に太い幌外骨が内装され、該複合幌地の前後方向に所定間隔を設けた箇所に幌内骨が内装され、各幌内骨間に位置する箇所に不織布シートが内装されており、この不織布シートによって上述した各不具合を解消しようとしている。
【0004】
しかしながらこの不織布シートは、同特許文献の
図2に示すように、複合幌地の各幌内骨間において外側幌地と内側幌地との間にある空間内に隙間なく密接して詰まった状態で配設されているため、幌体を蛇腹状に折り畳んだときに内側幌地に引っ張り力が加わる。この引っ張り力は、外側幌地と内側幌地とが不織布シートとが一体となって折り畳まれるため、内側幌地に強く働く。
この引っ張り力は、幌体を折り畳んだときだけでなく、車両が急カーブ路を走行する時にも生じ易い。
この引っ張り力が長年繰り返されると、幌地の疲労、特に内側幌地と外側幌地とが直線方向に接合している箇所で疲労が生じ易く、幌地の亀裂や破損等の原因になることがある。
【先行特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-284004号公報の
図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、防音効果のある不織布シートを、短尺側の両先端部の前方に隙間を持たせて複合幌地の内部に配設するとともに、不織布シートの短尺方向の左右の面と前記外側幌地の面及び前記内側幌地の面とが、前記隙間がある方向に若干の摺接可能にすることと、前記隙間が変形することで、上述した不具合を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に対応した態様の不織布シート付き複合幌地は、
鉄道車両用連結幌に用いられる不織布シート付き複合幌地は、外側幌地と内側幌地とによる2枚重ね構造の複合幌地とキセ布と不織布シートとが組付けられて略平坦なシート状であって、方形筒状に組み立てることが可能な概略構造を有し、
組立前の平坦な前記不織布シート付き複合幌地は、前端部と後端部に太径の幌外骨を挿入する幌外骨挿入部が設けられ、更に前記2枚重ね構造の内部における前後方向に所定間隔を置いた位置に小径の幌内骨挿入部が設けられ、隣り合う前記幌内骨挿入部どうしの間に不織布シート収容部が設けられており、
細幅長尺形状を有する前記各不織布シートは、前記各不織布シート収容部内に、短尺側の先端部の前方に隙間を設けた状態で収容されており、
前記不織布シート付き複合幌地が短縮する方向に折り畳まれると、前記不織布シートが若干の圧縮を伴った前記隙間がある方向に移動が可能であり、前記不織布シート付き複合幌地の前記不織布シートが位置する面がU字形状又は略逆Ω字形状の曲面をもって屈曲するように構成されている。
【0008】
請求項2に対応した態様の不織布シート付き複合幌地は、更に次の構成が加えられている。
前記内側幌地と前記外側幌地は、いずれも合成繊維織布の両面が軟質の塩化ビニル樹脂層が被覆された、厚さが約0.8mmのターポリンで構成され、
前記各幌内骨挿入部と前記不織布シート収容部は、いずれも前記内側幌地と前記外側幌地とが細幅直線方向に並列して接合された接合部で仕切られている。
【0009】
請求項3に対応した態様の不織布シート付き複合幌地は、上記いずれかの構成において、次の構成が加えられている。
前記不織布シートは、難燃性ポリエステル繊維糸が、1m2あたりの重量が約500g、厚さ約3mmに積層された、短尺な幅と長尺な長さがある帯状のものが用いられている。
【0010】
請求項4に対応した態様の不織布シート付き複合幌地は、上記いずれかの構成において、前記不織布シートは、複合幌地の上部にキセ布を装着するために設けられたホック、及び前記鉄道車両の連結幌として使用するときの底面になる箇所に装着された排水及びごみ排出用のハトメ(鳩目金具)によって、短尺幅方向を二分する箇所が固定されている。
【0011】
請求項5に対応した態様は、鉄道車両用連結幌の略完成に近い構成を有する。この構成は、請求項1乃至5のいずれかに記載の不織布シート付き複合幌地の両端に前記幌外骨が挿入され、該不織布シート付き複合幌地の前後方向に所定間隔を置いた箇所に前記幌内骨が挿入されて、専用の大型折曲げ機を用いて角形方形状に変形されて組み立てられている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明に係る不織布シート付き複合幌地によれば、不織布シートが長さ方向に短縮する方向に折り畳まれると、不織布シートが若干の圧縮を伴って前記隙間がある左右方向に移動する。このため、不織布シートは前記不織布シート収容部内で固く詰まった状態になることはなく、内側布地に加わる引っ張り力を低減させる。不織布シートが圧縮可能であるかどうかは不織布シートの密度が大きく影響する。不織布シートは、高い防音及び消音効果、高い断熱効果等を維持する密度がある。
不織布シートに加わる引っ張り力が低減すると、内側布地の耐久性、延いては不織布シート付き複合幌地の耐久性は向上し、破損や裂け等の発生が大幅に抑えられる。
本願発明に係る不織布シート付き複合幌地は、従来型の連結幌のように不織布シートがある面が鋭角のあるV状に折り畳まれることはなく、内方向に大きな円弧をもつU形状又は略Ω字形状に折り曲げられるため、従来のように鋭角に折り曲げられることにより生じていた幌地の破損や裂けは大幅に抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明に係る不織布シート付き複合幌地と鉄道車両用連結幌の好適なる実施形態を以下の図面に沿って詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は不織布シート付き複合幌地の内側幌地を上向けにして示した斜視図、(b)は同じく端面の部分拡大図。
【
図2】(a)は不織布シート付き複合幌地の外側幌地を上向けにして示した斜視図、(b)は不織布シート付き複合幌地の構成生地をツリーで示した表。
【
図3】不織布シート付き複合幌地に用いられる各生地を示した斜視図。
【
図4】(a)は不織布シートをホック留めした状態を示した側面部分拡大断面図、(b)は不織布シートをハトメ(鳩目金具)留めした状態を示した側面部分の拡大断面図。
【
図5】不織布シート付き複合幌地に幌外骨と幌内骨を挿入する途中の状態を示した斜視図。
【
図6】不織布シート付き複合幌地を用いた鉄道車両用連結幌の正面図であり、キセ布の位置を明確にするため上部はキセ布がある位置で示されている。
【
図7】不織布シート付き複合幌地を伸長状態で示した側面図。
【
図9】不織布シート付き複合幌地を用いた鉄道車両用連結幌を短縮状態で示した側面図。
【
図10】(a)は鉄道車両用連結幌の伸長状態にある一部箇所の拡大側面断面図、(b)は同じく短縮状態にある一部箇所の拡大側面断面図。
【
図11】(a)は、
図10(a)の一部を拡大して示した断面図、(b)は、
図10(b)の一部を拡大して示した断面図。
【
図12】不織布シート付き複合幌地の音響透過損失試験の結果を示したグラフ。
【実施例0015】
〔概要〕
-不織布シート付き複合幌地1-
図1(a)、
図2(a)に示す不織布シート付き複合幌地1は、複合幌地2とキセ布3と不織布シート4,4・・・とが組み合わされて主要部分が構成されている。これらの図は、不織布シート付き複合幌地1が鉄道車両用連結幌の形状に組み立てられる前の平坦な状態で示されている。
キセ布3は、不織布シート付き複合幌地1を角形方形に組み立てたときに、外側幌地2Aの屋根から側面上部に相当する面に重なるように装着されている。
図1(b)、
図2(b)及び
図3において、不織布シート付き複合幌地1に用いられている各生地の組み合わせと組み付け構造を明瞭に示す。
【0016】
-複合幌地2-
図1(a)(b)乃至
図3に示すように、複合幌地2は、外側幌地2Aと内側幌地2Bとを重ね合わせた2枚重ね構造を有する。
複合幌地2の左右両端には、幌外幌挿入骨部2a,2aが折り返し接合により設けられている。
複合幌地2の内側における前後方向に所定間隔を設けた箇所には、幌内骨挿入部2b,2b・・・が設けられている。
【0017】
不織布シート付き複合幌地1は、2枚重ね構造の内側における幌外骨挿入部2aと幌内骨挿入部2bとの間と、隣り合う幌内骨挿入部2b、2bどうしの間の内側に、夫々不織布シート収容部2c,2c・・・が設けられている。
【0018】
不織布シート付き複合幌地2における外側幌地2Aと内側幌地2Bとを重ね合わせた内側における隣り合う幌内骨挿入部2b、2bどうしの間の内側に不織布シート収容部2c、2c・・・が設けられている。
そして、不織布シート収容部2c、2c・・・内に不織布シート4,4・・・が収容されている。
【0019】
―不織布シート4-
不織布シート4は、防音性と断熱性がある素材で構成されている。具体的には、例えば、1m
2あたりの重量が約500g、厚さが約3mmの難燃性ポリエステル繊維を材料とする、幅が狭い長尺形状に切断したものが挙げられる。
不織布シート4,4・・・は、
図3に示すように、前後方向(
図3においては横方向になる)に所定間隔を設けて並列に収容されている。ここにいう所定間隔は幌内骨挿入部2b,2bの間になる間隔である。
【0020】
不織布シート4は、
図1(a)、
図2(a)及び
図4(a)に示すように、キセ布3を幌地に装着するホック5によって、短尺幅方向を2分する中央箇所が固定されている。
また、不織布シート4は、
図1(a)、
図2(a)及び
図4(b)に示すように、幌成形時に幌の底になる箇所に装着されているハトメ(鳩目金具)6によって、短尺幅方向を2分する中央箇所が固定されている。
不織布シート4,4・・・は、以上の各固定によって、横方向の位置ズレが生じないように、不織布シート収容部2c、2c・・・内に収容されている。
【0021】
-鉄道車両用連結幌10-
図6乃至
図9において、不織布シート付き複合幌地2を用いた鉄道車両用連結幌10が示されている。
鉄道車両用連結幌10は、外側幌地2Aの表面における幅広い中央面に、キセ布がホック留めによって装着されている。
鉄道車両用連結幌10は、前端部と後端部に幌外骨7,7が挿入され、前後長さ方向に所定間隔を置いた箇所毎に、幌内骨8,8・・・を挿入し、この後、専用の大型曲げ機を用いて
図6に示す角形方形状に折り曲げられる。
鉄道車両用連結幌10は、
図7及び
図10(a)に示す伸長状態から
図9及び
図10(b)に示す短縮形状に折り畳むことができる。
【0022】
図1(a)(b)を参照しつつ
図10(a)に示すように、外側幌地2Aと内側幌地2Bとによる2枚重ね構造の間に設けられた不織布シート収容部2cが設けられている。不織布シート4は、不織布シート収容部2c内において短尺幅方向の位置ずれが阻止された状態で収容されている。この位置ずれの阻止は、前述したホック5を用いたホック留めと、ハトメ(鳩目金具6)を用いたハトメ留めにより行われている。
【0023】
不織布シート4は、不織布シート収容部2c内に、両側に隙間2d,2dを設けた状態で収容されている。不織布シート4は、短尺幅方向を二分する左右の片側面が、外側幌地2Aと内側幌地2Bに対して、隙間2d,2dが位置する方向に若干の移動が自在な状態にある。
この移動は、
図9及び
図10(b)に示すように鉄道車両用連結幌10が短縮方向に折り畳まれたときに、内側幌地2Bが引っ張られて不織布シート4を若干圧縮させながら、U字形状に屈曲するときに行われる。
【0024】
詳述すると、不織布シート4は
図11(a)に示す形状から
図11(b)に示す形状に屈曲する。この屈曲によって不織布シート4が若干圧縮して隙間2d,2dがある方向に押し延ばされる。この結果、内側幌地4Bに加わる引っ張り力が低減して、不織布シート4が位置する幌地の部分がU字形状の曲面をもって屈曲する。つまり、内側幌地4Bに無理な引っ張りを与えずに前記屈曲がされる。
尚、この屈曲があったときに外側布地2Aの一部面の浮き上がりが生じる。この浮き上がりは、不織布シート4と外側布地2Aとが互いに接合していない移動可能な状態にあることで可能になる。不織布シート4と内側布地2Bも同様に移動可能な状態にある。不織布シート4が内側布地2Bで強く引かれると、不織布シート4を隙間2d,2dが位置する方向に弾性力をもって押し出される(延出する)。このため、内側布地2Bが破損したり引き裂けられる事態に至ることは大幅に抑えられる。
【0025】
図12は不織布シート付き複合幌地の音響透過損失の試験結果を示したグラフであり、このグラフに示すNo1は1枚生地でアラミド無しの試料の試験結果のグラフであり、No2はアラミド無しの生地とアラミド有りの生地からなる2枚生地からなる試料の試験結果のグラフであり、No3はアラミド無しの2枚の生地の間に防音材を挟んだ試料の試験結果のグラフであり、No4はアラミド付きの生地とアラミド無しの生地の間に防音材を挟んだ試料の試験結果のグラフである。この試験は大阪府立産業技術センターにより行われた。このグラフに示すように、防音材である不織布シート付き複合幌地には高い防音効果と消音効果があることが確認された。