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  • 特開-シーラント材組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133645
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】シーラント材組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20230920BHJP
   B60C 19/12 20060101ALI20230920BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230920BHJP
   B29C 73/22 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C09K3/10 A
B60C19/12 A
B60C1/00 Z
B29C73/22
C09K3/10 J
C09K3/10 P
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020106049
(22)【出願日】2020-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 清人
【テーマコード(参考)】
3D131
4F213
4H017
【Fターム(参考)】
3D131AA60
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC05
3D131BC24
3D131BC31
3D131BC36
3D131BC39
3D131BC51
3D131LA13
4F213AA45
4F213AA49
4F213AB03
4F213AH20
4F213WA95
4F213WM05
4F213WM11
4H017AA03
4H017AA04
4H017AA21
4H017AA31
4H017AB07
4H017AC16
4H017AC19
4H017AD06
4H017AE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】走行中のシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を確保し、更に、タイヤの耐久性を良好に維持し、これら性能をバランスよく両立することを可能にしたシーラント材組成物の提供。
【解決手段】空気入りタイヤの内表面に配置されたシーラント層10を構成するシーラント材組成物として、水中置換法によって測定されるシーラント材組成物の測定比重d1と、シーラント材組成物に含まれる原材料それぞれの比重および配合量から算出されるシーラント材組成物の計算比重d2との比d1/d2が0.7~0.9であるものを用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの内表面に配置されたシーラント層を構成するシーラント材組成物であって、水中置換法によって測定される前記シーラント材組成物の比重を測定比重d1とし、前記シーラント材組成物に含まれる原材料それぞれの比重および配合量から算出される前記シーラント材組成物の比重を計算比重d2としたとき、前記測定比重d1と前記計算比重d2との比d1/d2が0.7~0.9であることを特徴とするシーラント材組成物。
【請求項2】
前記計算比重d2が1.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のシーラント材組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分がブチルゴムを含み、前記ゴム成分100質量%に対する前記ブチルゴムの配合量が10質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のシーラント材組成物。
【請求項4】
前記ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、前記ゴム成分100質量%に対する前記塩素化ブチルゴムの配合量が5質量%以上であることを特徴とする請求項3に記載のシーラント材組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量部に対して、架橋剤0.1質量部~40質量部、有機過酸化物1質量部~40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満が配合されたことを特徴とする請求項3または4に記載のシーラント材組成物。
【請求項6】
前記架橋剤が硫黄成分を含むことを特徴とする請求項5に記載のシーラント材組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分100質量部に対して、液状ポリマーが50質量部~400質量部配合されたことを特徴とする請求項3~6のいずれかに記載のシーラント材組成物。
【請求項8】
前記液状ポリマーがパラフィンオイルであることを特徴とする請求項7に記載のシーラント材組成物。
【請求項9】
前記パラフィンオイルの分子量が800以上であることを特徴とする請求項8に記載のシーラント剤組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のシーラント材組成物からなる前記シーラント層を備えたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内表面にシーラント層を備えたセルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層を構成するシーラント材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような空気入りタイヤでは、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層を構成するシーラント材が流入することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することが可能になる。
【0003】
上述したセルフシールタイプの空気入りタイヤにおいて、シーラント材の粘度が低いと、シーラント材が貫通孔内に流入し易くなるという点でシール性の向上が見込めるが、走行中に加わる熱や遠心力の影響によりシーラント材がタイヤセンター側に向かって流動し、その結果、貫通孔がタイヤセンター領域から外れると、シーラント材が不足して、シール性が充分に得られない虞がある。一方、シーラント材の粘度が高いと、前述のシーラント材の流動は防止することができるが、シーラント材が貫通孔内に流入しにくくなり、シール性が低下する虞がある。そのため、シーラント材を構成するシーラント材組成物としては、走行に伴うシーラント材の流動の抑制と、良好なシール性の確保とをバランスよく両立することが求められている。
【0004】
更に、タイヤ内面にシーラント層を設けることで、蓄熱が生じやすくなる傾向がある。また、シーラント層を設けることで、結果的に、タイヤ本体と別にシーラント層の分の荷重が追加されてタイヤ全体としての重量が重くなる傾向がある。そのため、高速耐久性や荷重耐久性に影響を及ぼす虞がある。従って、上述のシーラント材としての性能を確保する一方で、タイヤの耐久性(荷重耐久性や高速耐久性)を良好に維持する対策も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006‐152110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、走行中のシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を確保し、更に、タイヤの耐久性を良好に発揮し、これら性能をバランスよく両立することを可能にしたシーラント材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のシーラント材組成物は、空気入りタイヤの内表面に配置されたシーラント層を構成するシーラント材組成物であって、水中置換法によって測定される前記シーラント材組成物の比重を測定比重d1とし、前記シーラント材組成物に含まれる原材料それぞれの比重および配合量から算出される前記シーラント材組成物の比重を計算比重d2としたとき、前記測定比重d1と前記計算比重d2との比d1/d2が0.7~0.9であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシーラント材組成物は、上述の比重の関係を満たしているので、耐久性を良好に発揮することができる。即ち、測定比重d1が計算比重d2よりも小さいということは、シーラント材(シーラント層)の内部に気泡等の空洞が形成されていることを意味し、比d1/d2が上述の範囲であることで、適度な空洞が形成されているため、シーラント層に起因する蓄熱を抑制することができる。また、空洞を有さないシーラント材と比較すると、同じ体積のシーラント層を設けても重量増加は抑制できる。そのため、タイヤの耐久性(高速耐久性および荷重耐久性)を良好に確保することができる。一方で、比d1/d2が上述の範囲にあり、空洞の量が適度な範囲に収められているので、シール性や流動性を損なうことなく良好に確保することができる。尚、本発明において、測定比重d1は、JIS Z8807「固体の密度および比重の測定方法」に準拠して、水中置換法によって測定した値である。
【0009】
本発明においては、計算比重d2が1.0以下であることが好ましい。これにより、計算比重d2(および測定比重d1)が十分に小さくなるので、耐久性(特に高速耐久性)を向上するには有利になる。
【0010】
本発明のシーラント材組成物においては、ゴム成分がブチルゴムを含み、ゴム成分100質量%に対するブチルゴムの配合量が10質量%以上であることが好ましい。更に、ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、ゴム成分100質量%に対する塩素化ブチルゴムの配合量が5質量%以上であることが好ましい。このような配合にすることで、タイヤ内面に対する接着性を向上することができる。
【0011】
本発明のシーラント材組成物においては、ゴム成分100質量部に対して、架橋剤0.1質量部~40質量部、有機過酸化物1質量部~40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満が配合されることが好ましい。このように有機過酸化物や架橋助剤を併用して架橋を行うことで、良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しながら、走行中あるいは保管中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。また、特に、上述の量の有機過酸化物を含むことで、適度な量の気泡(空洞)が形成されるので、耐久性を向上するには有利になる。
【0012】
本発明のシーラント材組成物においては、架橋剤が硫黄成分を含むことが好ましい。これにより、ゴム成分(例えばブチル系ゴム)と架橋剤との反応性が高まり、シーラント材組成物の加工性を向上することができる。
【0013】
本発明のシーラント材組成物においては、ゴム成分100質量部に対して、液状ポリマー50質量部~400質量部が配合されていることが好ましい。また、この液状ポリマーがパラフィンオイルであることが好ましい。更に、液状ポリマーがパラフィンオイルである場合、そのパラフィンオイルの分子量が800以上であることが好ましい。これにより、シーラント材組成物の物性の温度依存性を低くすることができ、低温環境下におけるシール性を良好に確保するには有利になる。
【0014】
上述の本発明のシーラント材組成物からなるシーラント層を備えた空気入りタイヤでは、上述のシーラント材組成物の優れた物性によって、走行に伴うシーラントの流動を抑制しながら良好なシール性を発揮することができ、これら性能をバランスよく両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本発明の空気入りタイヤ(セルフシールタイプの空気入りタイヤ)は、例えば図1に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。また、子午線断面図における他のタイヤ構成部材についても、特に断りがない限り、タイヤ周方向に延在して環状を成している。
【0018】
図1の例において、左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5およびビードフィラー6の廻りに車両内側から外側に折り返されている。ビードフィラー6はビードコア5の外周側に配置され、カーカス層の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0019】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。これら複数層のベルト層7のうち、ベルト幅が最も小さい層を最小ベルト層7a、ベルト幅が最も大きい層を最大ベルト層7bという。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。トレッド部1におけるベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。図示の例では、ベルト層7の全幅を覆うフルカバー層とフルカバー層の更に外周側に配置されてベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層の2層のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含み、この有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0020】
タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。インナーライナー層9は、例えば、空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成される。或いは、熱可塑性樹脂をマトリクスとする樹脂層で構成することもできる。樹脂層の場合、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー成分を分散させたものであってもよい。
【0021】
図1に示すように、トレッド部1におけるインナーライナー層9のタイヤ径方向内側には、シーラント層10が設けられている。特に、走行時に釘等の異物が刺さる可能性がある領域、即ち、トレッド部1の接地領域に対応するタイヤ内面にシーラント層10は設けられる。特に、最小ベルト層7aの幅よりも広い範囲にシーラント層10を設けるとよい。本発明のシーラント材組成物は、このシーラント層10に用いられる。シーラント層10は、上述の基本構造を有する空気入りタイヤの内表面に貼付されるものであり、例えば釘等の異物がトレッド部1に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層10を構成するシーラント材が流入し、貫通孔を封止することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することを可能にするものである。
【0022】
シーラント層10は、例えば0.5mm~5.0mmの厚さを有する。この程度の厚さを有することで、シール性を良好に確保しながら、走行時のシーラントの流動を抑制することができる。また、シーラント層10をタイヤ内面に貼付する際の加工性も良好になる。シーラント層10の厚さが0.5mm未満であると充分なシール性を確保することが難しくなる。シーラント層10の厚さが5.0mmを超えるとタイヤ重量が増加して転がり抵抗が悪化する。尚、シーラント層10の厚さとは平均厚さである。
【0023】
シーラント層10は、加硫済みの空気入りタイヤの内面に後から貼り付けることで形成することができる。例えば、後述のシーラント材組成物からなりシート状に成型されたシーラント材をタイヤ内表面の全周に亘って貼付したり、後述のシーラント材組成物からなり紐状または帯状に成型されたシーラント材をタイヤ内表面に螺旋状に貼付することでシーラント層10を形成することができる。また、その際に、シーラント材組成物を加温することで、シーラント材組成物の性能のばらつきを抑えることができる。加温条件としては、温度を好ましくは140℃~180℃、より好ましくは160℃~180℃、加温時間を好ましくは5分~30分、より好ましくは10分~20分にするとよい。この空気入りタイヤの製造方法によれば、パンク時のシール性が良好であってシーラントの流動が生じ難い空気入りタイヤを効率良く製造することができる。
【0024】
本発明は、主として、上述のセルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10に使用されるシーラント材組成物に関するものであるので、空気入りタイヤの基本構造や、シーラント層10の構造は上述の例に限定されない。
【0025】
本発明においては、シーラント層10(シーラント材組成物)として、内部に気泡等の空洞を有するものを用いる。言い換えると、シーラント材組成物の比重に関して、水中置換法によって測定される比重を測定比重d1とし、シーラント材組成物に含まれる原材料それぞれの比重および配合量から算出される比重を計算比重d2としたとき、本発明では、測定比重d1が計算比重d2よりも小さいシーラント材組成物を用いる。特に、本発明のシーラント材組成物は、測定比重d1と計算比重d2との比d1/d2が0.7~0.9、好ましくは0.75~0.85である。
【0026】
このような比重の関係を満たすシーラント材組成物では、上記のようにシーラント材(シーラント層10)の内部に気泡等の空洞が形成されており、その空洞の量が適度な範囲であるので、シーラント層10に起因する蓄熱を抑制することができる。また、空洞を有さないシーラント材と比較すると、同じ体積のシーラント層を設けても重量増加を抑制できる。そのため、、高速耐久性および荷重耐久性も良好に確保することができる。一方で、空洞の量が適度な範囲に収められているので、シール性や流動性を損なうことなく、これら性能も良好に確保することができる。
【0027】
このとき、比d1/d2が0.7よりも小さいと、シーラント層内の空洞が過剰になり、シール性を良好に維持することができない。比d1/d2が0.9を超えると、シーラント層内の空洞が少ないため、蓄熱を抑制する効果が十分に見込めなくなり、耐久性を向上することができない。尚、測定比重d1および計算比重d2のそれぞれの範囲は特に限定されないが、測定比重d1は好ましくは0.7~0.9、より好ましくは0.75~0.85に設定するとよい。また、計算比重d2を好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8~0.9に設定するとよい。このように測定比重d1や計算比重d2を設定することで、耐久性(特に高速耐久性)を向上するには有利になる。
【0028】
本発明で使用されるシーラント材組成物は、上述の特性を有していれば、その具体的な配合は特に限定されない。但し、上述の特性を確実に得るために、例えば後述の配合を採用することが好ましい。
【0029】
本発明のシーラント材組成物において、ゴム成分はブチル系ゴムを含むとよい。ゴム成分中に占めるブチル系ゴムの割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%~90質量%であるとよい。このようにブチル系ゴムを含むことで、タイヤ内面に対する良好な接着性を確保することができる。ブチル系ゴムの割合が10質量%未満であると、タイヤ内面に対する接着性を十分に確保することができない。
【0030】
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして、ハロゲン化ブチルゴムを含むことが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムを例示することができ、特に塩素化ブチルゴムを好適に用いることができる。塩素化ブチルゴムを用いる場合、ゴム成分100質量%に占める塩素化ブチルゴムの割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%~85質量%である。ハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)を含むことで、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が高まり、シール性の確保とシーラントの流動の抑制とを両立するには有利になる。また、シーラント材組成物の加工性を向上することもできる。塩素化ブチルゴムの割合が5質量%未満であると、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が充分に向上せず、所望の効果が充分に得られない。
【0031】
本発明のシーラント材組成物において、ブチル系ゴムの全量がハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)である必要はなく、非ハロゲン化ブチルゴムを併用することもできる。非ハロゲン化ブチルゴムとしては、シーラント材組成物に通常用いられる未変性のブチルゴム、例えば、JSR社製BUTYL‐065、LANXESS社製BUTYL‐301などが挙げられる。ハロゲン化ブチルゴムと非ハロゲン化ブチルゴムとを併用する場合、非ハロゲン化ブチルゴムの配合量はゴム成分100質量%中に、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10質量%未満にするとよい。
【0032】
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして2種以上のゴムを併用することが好ましい。即ち、塩素化ブチルゴムに対して、他のハロゲン化ブチルゴム(例えば、臭素化ブチルゴム)または非ハロゲン化ブチルゴムを組み合わせて用いることが好ましい。塩素化ブチルゴム、他のハロゲン化ブチルゴム(臭素化ブチルゴム)、非ハロゲン化ブチルゴムの3種は、加硫速度が互いに異なるため、少なくとも2種類を組み合わせて用いると、加硫速度の違いに起因して、加硫後のシーラント材組成物の物性(粘度や弾性等)は均質にならない。即ち、シーラント材組成物内での加硫速度の異なるゴムの分布(濃度のばらつき)によって、加硫後のシーラント層において相対的に硬い部分と相対的に柔らかい部分とが混在することになる。その結果、相対的に硬い部分では流動性が抑制され、相対的に柔らかい部分ではシール性が発揮されて、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0033】
本発明のシーラント材組成物においては、ゴム成分としてブチル系ゴム以外の他のジエン系ゴムを配合することもできる。他のジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のシーラント材組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0034】
本発明のシーラント材組成物においては、架橋剤および有機過酸化物を配合することが好ましい。尚、本発明における「架橋剤」とは、有機過酸化物を除いた架橋剤であり、例えば硫黄、亜鉛華、環状スルフィド、樹脂(樹脂加硫)、アミン(アミン加硫)等を例示することができる。架橋剤としては、特に硫黄成分を含むもの(例えば、硫黄)を用いることが好ましい。このように架橋剤および有機過酸化物を併用して配合することで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するための適度な架橋を実現できる。また、特に有機過酸化物は、加硫時に炭酸ガスを生じてそれによりシーラント材に気泡(空洞)が形成されるので、有機過酸化物を配合することは、比重を上述の範囲に設定して、耐久性を向上するには有効である。架橋剤の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~40質量部、より好ましくは0.5質量部~20質量部である。また、有機過酸化物の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部~40質量部、より好ましくは1.0質量部~20質量部である。架橋剤の配合量が0.1質量部未満であると、実質的に架橋剤が含まれないのと同等になり、適切な架橋を行うことができない。架橋剤の配合量が40質量部を超えると、シーラント材組成物の架橋が進みすぎてシール性が低下する。有機過酸化物の配合量が1質量部未満であると、有機過酸化物が過少であり架橋が十分に行うことができず、所望の物性を得ることができない。また、有機過酸化物による発泡が十分に見込めなくなる。有機過酸化物の配合量が40質量部を超えると、シーラント材組成物の架橋が進みすぎてシール性が低下する。また、有機過酸化物による発泡が過剰になり、加工性が低下する虞がある。
【0035】
このように架橋剤と有機過酸化物とを併用するにあたって、架橋剤の配合量Aと有機過酸化物の配合量Bとの質量比A/Bを、好ましくは5/1~1/200、より好ましくは1/10~1/20にするとよい。このような配合割合とすることで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを、よりバランスよく両立することが可能になる。
【0036】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ブチルヒドロパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド等が挙げられる。特に、1分間半減期温度が100℃~200℃である有機過酸化物が好ましく、前述の具体例の中では、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイドが特に好ましい。尚、本発明において、「1分間半減期温度」は、一般に、日本油脂社の「有機過酸化物カタログ第10版」に記載された値を採用し、記載のない場合は、カタログに記載された方法と同様に、有機溶媒中における熱分解から求めた値を採用する。
【0037】
本発明のシーラント材組成物には、架橋助剤を配合することが好ましい。架橋助剤とは、硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することで架橋反応触媒として作用する化合物である。架橋剤および架橋助剤を配合することで、加硫速度を早めることができ、シーラント材組成物の生産性を高めることができる。架橋助剤の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して好ましくは0質量部超1質量部未満、より好ましく0.1質量部~0.9質量部である。このように架橋助剤の配合量を抑えることで、触媒として架橋反応を促進させつつシーラント材組成物の劣化(熱劣化)を抑制することができる。架橋助剤の配合量が1質量部以上であると熱劣化を抑制する効果が十分に得られない。尚、架橋助剤は、上記のように硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することにより架橋反応触媒として作用するものであるので、硫黄成分の代わりに有機過酸化物と共存させても架橋反応触媒としての作用は得られず、架橋助剤を多く使用しなければならず、熱劣化を促進してしまう。
【0038】
架橋剤の配合量は、上述の架橋助剤の配合量の好ましく50質量%~400質量%、より好ましくは100質量%~200質量%であるとよい。このように架橋剤と架橋助剤とをバランスよく配合することで、架橋助剤の触媒としての機能を良好に発揮することができ、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するには有利になる。架橋剤の配合量が架橋助剤の配合量の50質量%未満であると流動性が低下する。架橋剤の配合量が架橋助剤の配合量の400質量%を超えると耐劣化性が低下する。
【0039】
架橋助剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド‐アミン系、アルデヒド‐アンモニア系、イミダゾリン系、キサントゲン酸系の化合物(加硫促進剤)を例示することができる。これらの中でも、チアゾール系、チウラム系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤を好適に用いることができる。チアゾール系の加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等を挙げることができる。チウラム系の加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等を挙げることができる。グアニジン系の加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン等を挙げることができる。ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム等を挙げることができる。特に、本発明においては、チアゾール系またはチウラム系の加硫促進剤を用いることが好ましく、得られるシーラント材組成物の性能のばらつきを抑えることができる。
【0040】
尚、例えばキノンジオキシムのような実際は架橋剤として機能する化合物を便宜的に架橋助剤と呼称する場合があるが、本発明における架橋助剤は、上述のように架橋剤による架橋反応の触媒として機能する化合物であるので、キノンジオキシムは本発明における架橋助剤には該当しない。
【0041】
本発明のシーラント材組成物は、液状ポリマーを配合することが好ましい。このように液状ポリマーを配合することで、シーラント材組成物の粘性を高めてシール性を向上することができる。液状ポリマーの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部~400質量部、より好ましくは70質量部~200質量部である。液状ポリマーの配合量が50質量部未満であると、シーラント材組成物の粘性を高める効果が充分に得られないことがある。液状ポリマーの配合量が400質量部を超えると、シーラントの流動を充分に防止することができない。
【0042】
液状ポリマーとしては、シーラント材組成物中のゴム成分(ブチルゴム)と共架橋可能であることが好ましく、例えば、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、ポリイソブテンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。シーラント材組成物の物性の温度依存性を低く抑えて、低温環境下におけるシール性を良好に確保する観点から、これらの中でも、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコールが好ましく、特にパラフィンオイルを用いることが好ましい。パラフィンオイルを用いることで、上述の温度ごとの粘度をそれぞれ適切な範囲に設定するには有利になる。また、液状ポリマーの分子量は好ましくは800以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上3000以下であるとよい。このように分子量の大きいものを用いることで、タイヤ内面に設けたシーラント層からタイヤ本体にオイル分が移行してタイヤに影響を及ぼすことを防止することができる。
【0043】
上述の配合からなるシーラント材組成物は、少なくともブチル系ゴムを含有していることでゴム成分に適度に高い粘性を付与しながら、適度な量の架橋剤および有機過酸化物によって架橋を行うことで良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しつつ走行中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立することができる。更に、主として有機過酸化物に基づいてシーラント材に気泡(空洞)が形成されて比重(測定比重d1および計算比重d2)が適正化されるので、耐久性を向上することができる。そのため、セルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10(シーラント材)に好適に用いることができ、走行中のシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を確保し、更に、耐久性(高速耐久性および荷重耐久性)を良好に発揮することができ、これら性能をバランスよく両立することができる。
【0044】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0045】
タイヤサイズ255/40R20で、図1に示す基本構造を有し、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラントからなるシーラント層を有する空気入りタイヤにおいて、シーラント層を構成するシーラント材組成物の配合と物性を表1~2に記載のように設定した比較例1~8、実施例1~6のタイヤを製作した。
【0046】
尚、測定比重d1は、JIS Z8807「固体の密度および比重の測定方法」に準拠して、水中置換法によって測定した。
【0047】
これら試験タイヤ(シーラント材)について、下記試験方法により、室温環境下におけるシール性、低温環境下におけるシール性、走行時の流動性、荷重耐久性、および高速耐久性を評価し、その結果を表1~2に併せて示した。
【0048】
室温環境下におけるシール性
各試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧250kPa、荷重8.5kN、温度23℃の条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で1時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0049】
低温環境下におけるシール性
各試験タイヤを温度-20℃の条件で24時間冷却した後、リムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧250kPa、荷重8.5kN、温度-20℃の条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で-20℃環境下に1時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「2」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0050】
シーラントの流動性
試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧220kPa、荷重8.5kN、走行速度100km/hの条件で1時間走行し、走行後のシーラントの流動状態を調べた。評価結果は、走行前にシーラント層の表面に5mm方眼罫20×40マスの線を引き、走行後に形状が歪んだマスの個数を数えて、シーラントの流動が全く認められない場合(歪んだマスの個数が0個)を「○」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4未満である場合を「△」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4以上である場合を「×」で示した。
【0051】
荷重耐久性
試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧250kPa、初期荷重8.5kN、走行速度80km/hの条件で、1時間毎に荷重を10%ずつ増加し(最大250%まで)、タイヤに故障が発生するまでの走行距離を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分な荷重耐久性を発揮しており、点数が大きいほどより優れた荷重耐久性を発揮したことを意味する。
5:走行距離が1200km以上
4:走行距離が1040km以上1200km未満
3:走行距離が880km以上1040km未満
2:走行距離が640km以上880km未満
1:走行距離が640km未満
【0052】
高速耐久性
試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧250kPa、荷重8.5kNの条件で、まず速度200km/hで1時間走行した後、速度220km/hで更に1時間走行し、その後、1時間走行する毎に速度を20km/hずつ増加し、タイヤに故障が発生するまでの走行距離を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「2」以上であれば十分な高速耐久性を発揮しており、点数が大きいほどより優れた高速耐久性を発揮したことを意味する。
5:走行距離が2160km以上
4:走行距離が1500km以上2160km未満
3:走行距離が920km以上1500km未満
2:走行距離が660km以上920km未満
1:走行距離が660km未満
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・ブチルゴム1:塩素化ブチルゴム、JSR社製CHLOROBUTYL1066(比重:0.92)
・ブチルゴム2:臭素化ブチルゴム、JSR社製BROMOBUTYL2222(比重:0.93)
・天然ゴム:SRI TRANG社製 天然ゴム(比重:0.96)
・架橋剤1:硫黄、細井化学工業社製小塊硫黄(比重:1.92)
・架橋剤2:キノンジオキシム、大内新興化学工業社製社製バルノックGM(比重:0.92)
・架橋助剤:チウラム系加硫促進剤、大内新興化学工業社製ノクセラーTT‐P(比重:1.45)
・有機過酸化物1:パーヘキサ25B、日油社製(1分間半減期温度:178℃、比重:0.88)
・有機過酸化物2:パーヘキサC40(1分間半減期温度:154℃、比重:0.94)
・液状ポリマー:パラフィンオイル、カネダ社製ハイコール K‐350(分子量:850、比重:0.88)
【0056】
表1~2から明らかなように、実施例1~8の空気入りタイヤは、室温環境下および低温環境下の両方において優れたシール性を発揮し、且つ、走行速度によらず走行時のシーラントの流動を抑制し、更に、荷重耐久性と高速耐久性を良好に発揮し、これら性能をバランスよく両立した。一方、比較例1,4~6は、比d1/d2が大きいため、荷重耐久性と高速耐久性が十分に得られなかった。比較例2,3は、比d1/d2が小さいため、十分なシール性を発揮することができなかった。
【符号の説明】
【0057】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 インナーライナー層
10 シーラント層
CL タイヤ赤道
図1