(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133647
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】新規な抗HBs免疫グロブリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/08 20060101AFI20230920BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230920BHJP
A61K 39/29 20060101ALI20230920BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20230920BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230920BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C07K16/08 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 S
A61K39/29
A61K51/10
A61P31/20
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127957
(22)【出願日】2020-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医薬品等規制調和・評価研究事業」「特殊免疫グロブリンの遺伝子組換え血液製剤の製造等に関するレギュラトリーサイエンス研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000231729
【氏名又は名称】日本赤十字社
(71)【出願人】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 正博
(72)【発明者】
【氏名】古田 里佳
(72)【発明者】
【氏名】豊田 智津
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】安居 輝人
(72)【発明者】
【氏名】南谷 武春
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 宏樹
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BA89
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085LL18
4C085LL20
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗HBsヒト免疫グロブリン製剤の原料血液の国内自給未達成問題の根本的解決のための、安全で有効な抗体製剤の提供。
【解決手段】HBVワクチンの接種により抗HBs抗体を獲得し抗体力価が上昇しているヒト個体の体内末梢血循環B細胞からスクリーニングして得られる、HBVに対して中和活性を有し得るB型肝炎ウイルス(HBV)のHBs抗原に対して結合性を有し、HBVに対する中和活性を有する、血液原料に由来しない、抗体または抗体誘導体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 重鎖の相補性決定領域、CDR1(GFMFSGHS、SEQ ID No: 1)、CDR2(IGSTGEFI、SEQ ID No: 2)、およびCDR3(AREQGTRGRYYYYGLDV、SEQ ID No: 3)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(SQSVSTY、SEQ ID No: 4)、CDR2(DAF、SEQ ID No: 5)、およびCDR3(QQRGHWPLT、SEQ ID No: 6);
(2) 重鎖の相補性決定領域、CDR1(SGGSISGHY、SEQ ID No: 7)、CDR2(IHYSGIT、SEQ ID No: 8)、およびCDR3(ARGDATYGY、SEQ ID No: 9)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(SQSLLHRNGYNY、SEQ ID No: 10)、CDR2(LGS、SEQ ID No: 11)、およびCDR3(MQALRTPWT、SEQ ID No: 12);
(3) 重鎖の相補性決定領域、CDR1(SGFSFSNYG、SEQ ID No: 13)、CDR2(IWRDGSHQ、SEQ ID No: 14)、およびCDR3(AREDPAIVLPVLDH、SEQ ID No: 15)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(QRINSY、SEQ ID No: 16)、CDR2(GAS、SEQ ID No: 17)、およびCDR3(QQGYSTPLLS、SEQ ID No: 18);
からなる群から選択されるいずれかの重鎖・軽鎖の相補性決定領域を含む、B型肝炎ウイルス(HBV)のHBs抗原に対して結合性を有し、HBVに対する中和活性を有する、血液原料に由来しない、抗体または抗体誘導体。
【請求項2】
組換え型である、請求項1に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項3】
HBs抗原が、HBs抗原のL抗原、M抗原、S抗原、HBs抗原のadr型、adw型、ayr型、ayw型からなる群から選択される1または複数である、請求項1または2に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項4】
抗体誘導体が、ヒト化抗体、キメラ抗体、多価抗体、および多重特異性抗体から選択される抗体改変体またはその機能的断片から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項5】
抗体または抗体誘導体の重鎖可変領域VHドメインのアミノ酸配列が、(1)SEQ ID No: 19、(2)SEQ ID No: 21および(3)SEQ ID No: 23から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項6】
抗体または抗体誘導体の軽鎖可変領域VLドメインのアミノ酸配列が、(1)SEQ ID No: 20、(2)SEQ ID No: 22および(3)SEQ ID No: 24から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項7】
抗体または抗体誘導体が、
(1)重鎖(SEQ ID No: 25)および軽鎖(SEQ ID No: 26)を含む抗体または抗体誘導体;
(2)重鎖(SEQ ID No: 27)および軽鎖(SEQ ID No: 28)を含む抗体または抗体誘導体;
(3)重鎖(SEQ ID No: 29)および軽鎖(SEQ ID No: 30)を含む抗体または抗体誘導体;
からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載される抗体または抗体誘導体を含み、血液由来成分を含まない、HBVを中和するための医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載される抗体または抗体誘導体を複数種類含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
B型肝炎の再活性化を予防し、またはHBVの医療感染を阻止するための、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
被験体から採取された生体由来試料を、in vitroにおいて請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体と接触させる工程、
前記抗体または抗体誘導体と結合した試料中のHBVを検出・測定する工程、
を含む、生体由来試料中のHBVの存在・存在量を検出・測定する方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体を含む、被験体体内におけるHBVの存在・存在量を検出・測定するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え抗HBsヒト免疫グロブリン製剤を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus;HBV)持続感染者は世界で約3億人存在すると推定され、年間約90万人がHBV関連疾患で死亡しており、国内におけるHBVの感染率は約1%と見積もられている。出産時ないし乳幼児期においてHBVに感染すると、9割以上の症例は持続感染に移行し、そのうち約9割は若年期に非活動性キャリアとなり、ほとんどの症例で病態は安定化する。しかし、残りの約1割ではウイルスの活動性が持続して慢性肝炎の状態が続き、年率約2%で肝硬変へ移行し、肝細胞癌、肝不全に進展する。
【0003】
近年、母子垂直感染や輸血によるHBV感染は激減したが、性行為感染症としての水平感染は若年層を中心に頻発している。一方、移植後等免疫不全状態の患者におけるHBV再活性化は高度医療が生み出した新たな肝炎発症リスクである。
【0004】
現在、日本においては、HBV母子感染予防、針刺し等医療事故後のHBV感染防止、さらに肝移植後のB型肝炎再発抑制および発症抑制のため、抗HBsヒト免疫グロブリン製剤(HBIG)が一般的に使用されている。HBIGは、HBVの中和エピトープであるHBs抗原に対する抗体(抗HBs抗体)の力価が極めて高い献血者の血漿から精製された免疫グロブリン製剤である。
【0005】
HBIGを含むヒト血液に由来する血液製剤は、血漿分画製剤を含め、その原料を国内で自給することが「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」により定められているが、日本国内での販売開始以来、HBIG原料血液自給率は2~3%と非常に低率を推移しており、原料完全自給には程遠い状態が続いている。
【0006】
これに対して、2013年度(平成25年度)からこの問題を解決するために、HBVワクチンによりすでに抗HBs抗体を獲得しているヒト個体に対してワクチンを追加接種し、抗HBs抗体価を高めた上で献血による原料血漿を確保する事業が行われており、日本赤十字社が本事業を受託してこれまで実施している[Sugauchi F, et al., Hepatol Res. 2006; 36: 107-14]。
【0007】
しかし、このワクチン追加接種に基づく上記事業を実施しても、確保できる原料血漿量は部分的にすぎず、完全自給には遠く及んでいない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sugauchi F, et al., Hepatol Res. 2006; 36: 107-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、抗HBsヒト免疫グロブリン製剤の原料血液の国内自給未達成問題の根本的解決を図り、安全で有効な抗体製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、HBVワクチンの接種により抗HBs抗体を獲得し抗体力価が上昇しているヒト個体の体内末梢血循環B細胞から、HBVに対して中和活性を有し得る抗HBs抗原特異的モノクローナル抗体をスクリーニングし、当該抗体の遺伝子を単離し、組換え抗HBsヒト免疫グロブリン製剤を提供することで上記課題を解決することとした。
【0011】
より具体的には、本件出願は、前述した課題を解決するため、以下の態様を提供する:
[1]:(1)重鎖の相補性決定領域、CDR1(GFMFSGHS、SEQ ID No: 1)、CDR2(IGSTGEFI、SEQ ID No: 2)、およびCDR3(AREQGTRGRYYYYGLDV、SEQ ID No: 3)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(SQSVSTY、SEQ ID No: 4)、CDR2(DAF、SEQ ID No: 5)、およびCDR3(QQRGHWPLT、SEQ ID No: 6);
(2)重鎖の相補性決定領域、CDR1(SGGSISGHY、SEQ ID No: 7)、CDR2(IHYSGIT、SEQ ID No: 8)、およびCDR3(ARGDATYGY、SEQ ID No: 9)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(SQSLLHRNGYNY、SEQ ID No: 10)、CDR2(LGS、SEQ ID No: 11)、およびCDR3(MQALRTPWT、SEQ ID No: 12);
(3)重鎖の相補性決定領域、CDR1(SGFSFSNYG、SEQ ID No: 13)、CDR2(IWRDGSHQ、SEQ ID No: 14)、およびCDR3(AREDPAIVLPVLDH、SEQ ID No: 15)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(QRINSY、SEQ ID No: 16)、CDR2(GAS、SEQ ID No: 17)、およびCDR3(QQGYSTPLLS、SEQ ID No: 18);
からなる群から選択されるいずれかの重鎖・軽鎖の相補性決定領域を含む、HBVのHBs抗原に対して結合性を有し、HBVに対する中和活性を有する、血液原料に由来しない、抗体または抗体誘導体;
[2]:組換え型である、[1]に記載の抗体または抗体誘導体;
[3]:HBs抗原が、HBs抗原のL抗原、M抗原、S抗原、HBs抗原のadr型、adw型、ayr型、ayw型からなる群から選択される1または複数である、[1]または[2]に記載の抗体または抗体誘導体;
[4]:抗体誘導体が、ヒト化抗体、キメラ抗体、多価抗体、および多重特異性抗体から選択される抗体改変体またはその機能的断片から選択される、[1]~[3]のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体;
[5]:抗体または抗体誘導体の重鎖可変領域VHドメインのアミノ酸配列が、(1)SEQ ID No: 19、(2)SEQ ID No: 21および(3)SEQ ID No: 23から選択される、[1]~[4]のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体;
[6]:抗体または抗体誘導体の軽鎖可変領域VLドメインのアミノ酸配列が、(1)SEQ ID No: 20、(2)SEQ ID No: 22および(3)SEQ ID No: 24から選択される、[1]~[5]のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体;
[7]:抗体または抗体誘導体が、
(1)重鎖(SEQ ID No: 25)および軽鎖(SEQ ID No: 26)を含む抗体または抗体誘導体;
(2)重鎖(SEQ ID No: 27)および軽鎖(SEQ ID No: 28)を含む抗体または抗体誘導体;
(3)重鎖(SEQ ID No: 29)および軽鎖(SEQ ID No: 30)を含む抗体または抗体誘導体;
からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体;
[8]:[1]~[7]のいずれか1項に記載される抗体または抗体誘導体を含み、血液由来成分を含まない、HBVを中和するための医薬組成物;
[9]:[1]~[7]のいずれか1項に記載される抗体または抗体誘導体を複数種類含む、[8]に記載の医薬組成物;
[10]:B型肝炎の再活性化を予防し、またはHBVの医療感染を阻止するための、[8]または[9]に記載の医薬組成物;
[11]:被験体から採取された生体由来試料を、in vitroにおいて[1]~[7]のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体と接触させる工程、
前記抗体または抗体誘導体と結合した試料中のHBVを検出・測定する工程、
を含む、生体由来試料中のHBVの存在・存在量を検出・測定する方法;
[12]:[1]~[7]のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体を含む、被験体体内におけるHBVの存在・存在量を検出・測定するためのキット。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、血液原料由来の抗HBsヒト免疫グロブリン製剤にまつわる国内自給未達成問題や血液製剤の問題点などを根本的に解決することができる、安全で有効なそして安定した活性が期待される抗体製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、遺伝子型D型のHBVに感染させた細胞HepG2-hNTCP-C4細胞でのウイルス感染中和実験を示す図である。
【
図2】
図2は、遺伝子型C型のHBVに感染させた初代ヒト肝細胞PXB細胞でのウイルス感染中和実験を示す図である。
【
図3】
図3は、組換え抗HBs抗体の結合特性を評価した電気泳動像を示す図である。
【
図4】
図4は、組換え抗HBs抗体のヒト由来成分に対する非特異的結合(交差反応性)を確認した結果を示す図である。
【
図5-1】
図5は、組換え抗HBs抗体を使用して、ヒトの組織免疫染色をした結果を示す図である。ここで
図5aは、HBs抗原を検出した組織像を示す。
【
図5-2】
図5は、組換え抗HBs抗体を使用して、ヒトの組織免疫染色をした結果を示す図である。ここで
図5bは、各種正常ヒト組織への染色がみられなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において使用する用語を以下の通り定義する:
(a)HBs抗原:HBVの外殻を構成するタンパク質の1つであり、HBV感染の有無を判定する際に検査される抗原。過去にHBVに感染したがウイルスが排除されている場合や、HBVワクチンの接種を受けて抗体陽性(+)になった場合などに、生体内でこのHBs抗原に対する抗体が見いだされる;
(b)HBIG:抗HBsヒト免疫グロブリン(human anti-HBs Immunoglobulin)のこと。市販されているHBIGは、抗HBs抗体力価の高いヒト血漿を原料にIgGを精製した製剤で、即効性はあるが、効果持続は、約3月間と比較的短いのが特徴。
【0015】
本発明は、特定のアミノ酸配列を有する重鎖・軽鎖の相補性決定領域を含む、HBVのHBs抗原に対して結合性を有し、HBVに対する中和活性を有する、血液原料に由来しない、抗体または抗体誘導体を提供することにより、本発明の課題を解決することができることを示した。この抗体または抗体誘導体は、HBVのHBs抗原に対して結合性を有し、HBVに対する中和活性を有し、血液原料に由来しないものであれば、どのような抗体または抗体誘導体であっても本発明の範囲に含まれる。
【0016】
<抗体または抗体誘導体>
本発明において使用する抗体または抗体誘導体は、従来肝炎ウイルスの治療のために使用されてきた血液由来抗体製剤などの血液製剤に特有の種々の問題(特に、感染性の問題、免疫性の問題)を解決することを目的とするため、血液中に含まれる可能性がある(血液製剤に混入する危険性がある)HBV、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのウイルスなどの病原体を含まず、また血液中に含まれる抗原性タンパク質やヒトタンパク質と結合する抗体など、投与された個体に免疫異常を生じさせる危険性のある血液由来成分を含まないことを特徴とする。
【0017】
血液由来成分を含まない抗体または抗体誘導体として、抗体産生細胞に由来する不死化細胞を、血液由来成分を含まない条件下で取得し、その細胞から血液由来成分を含まない培養条件下で調製される抗体や、上記不死化細胞から取得した抗体タンパク質を規定するDNAを使用して組換え的に抗体タンパク質を発現させて調製することができる組換え抗体などを使用することができる。
【0018】
すなわち、一態様において、本発明における抗体は、過去にHBVワクチンを投与された個体の血液から、HBV由来のHBs抗原に対する抗体を産生する細胞クローンを取得・不死化することにより抗体産生細胞に由来する不死化細胞を得て、その不死化抗体産生細胞からin vivoにおいてHBVを中和する作用を有するものを選択することにより得ることができる。
【0019】
また別の一態様において、上述した特徴を実現するため、遺伝子組換え技術を用いて、HBVに対して中和活性を有する組換え型抗HBs抗体または抗体誘導体を提供することもできる。より具体的には、本発明は、上述した方法により選択されたHBVを中和する作用を有する不死化抗体産生細胞から、周知の方法に従って、mRNAの取得、cDNAの作成を経て、抗体タンパク質を規定するDNA配列を取得し、ベクターを使用して、血液由来成分を含まない哺乳動物発現系において発現させることにより、組換え型イムノグロビン(IgG)として産生させて得られた中和活性のあるモノクローナル抗体あるいはその抗体誘導体を、組換え型HBIGとして提供することもできる。
【0020】
本発明においては、これらの抗体の誘導体を使用することもできる。本発明において使用することができる抗体誘導体としては、例えば、ヒト化抗体、キメラ抗体、多価抗体、および多重特異性抗体から選択される抗体改変体またはその機能的断片を使用することができるが、これらには限定されない。このうち、機能的断片としては、例えば、F(ab')2を使用することができるが、これらには限定されない。
【0021】
これらの抗体の誘導体は、抗体が得られたのち、当該技術分野において周知の方法に従って作製することができ、上述した本発明の抗体について記載した組換え型の抗体誘導体として調製することができる。
【0022】
上述した方法により取得した抗体または抗体誘導体は、HBV由来のHBs抗原に対して結合性を有するものであるが、本発明においては、HBV由来のHBs抗原に対して結合性を有するこのような抗体または抗体誘導体の中から、さらにHBVを中和する作用を有することに基づいてスクリーニングを行い、当該中和作用を有する抗体または抗体誘導体を提供することを特徴とする。
【0023】
後述する実施例においても実際に取得した抗体を複数種類示しているが、これらに限定されるわけではない。
【0024】
<抗体または抗体誘導体の標的>
HBVは、直径42 nmの球状ウイルスで、外被(エンベロープ)とコアの二重構造を形成する。HBVを構成するタンパク質としては、HBs抗原、HBc抗原、HBe抗原、Xタンパク質(HBx抗原)などが知られている。HBc抗原はウイルスの内側のコアのタンパク質であるためその抗体は感染の状態を確認するためには有用であるが、HBVの感染防御に利用できないことが知られており、HBe抗原はHBVが肝臓で増殖する際に過剰につくられるタンパク質でありHBe抗原に対する抗体(抗HBe抗体)は、HBVの感染を防御する働きはないことが知られており、そしてXタンパク質はエンハンサーやプロモーター領域と結合し各種タンパク質の発現調節をする機能を有するトランス活性化タンパク質であり、HBVの感染を防御する働きはないことが知られている。
【0025】
これに対してHBs抗原は、HBVの外殻(エンベロープ)を構成するタンパク質であり、抗HBs抗体が存在することにより、HBVの感染を防御することができることが知られている。現在の日本においては、HBV母子感染予防、針刺し等医療事故後のHBV感染防止、さらに肝移植後のB型肝炎再発抑制および発症抑制が必要とされる場合に、HBVの感染を防御するため、HBIGが一般的に使用されている。したがって、本発明において、抗体または抗体誘導体は、HBs抗原に対して結合性を有していることが必要である。
【0026】
本発明の抗体または抗体誘導体の標的としてのHBs抗原には、Sドメイン、Pre-S1ドメイン、Pre-S2ドメインの3つのドメインが存在し、これらの組み合わせから
・S抗原(Sドメインのみで構成)、
・M抗原(SドメインとPre-S2ドメインで構成)および
・L抗原(Sドメイン、Pre-S2ドメイン、およびPre-S1ドメインの3つのドメインで構成)
の3種類が存在する。本発明の抗体または抗体誘導体は、HBs抗原に対して結合性を有していれば、HBs抗原のS抗原に対するものであっても、M抗原に対するものであっても、L抗原に対するものであってもよい。
【0027】
また、このHBs抗原には、抗原決定基a、抗原決定基dまたはy、そして抗原決定基rまたはwという3種類の抗原決定基があることが知られており、抗原決定基aは全てのサブタイプに共通し、その組み合わせによりadr型、adw型、ayr型、ayw型の4つのサブタイプに分類することができる。わが国ではadr型が70~90%、adw型が10~30%を占め、ayr型、ayw型はまれである。このHBsのサブタイプの評価は、HBVの感染経路の解明や重複感染の解析などに利用されている。本発明の抗体または抗体誘導体は、HBs抗原に対して結合性を有していれば、これらadr型、adw型、ayr型、ayw型の4つのサブタイプのいずれを標的とするものであってもよく、このうちの複数を標的とするものであってもよい。
【0028】
<HBVの中和作用>
本発明の抗体または抗体誘導体は、上述したHBV由来のHBs抗原(例えば、S抗原、M抗原、L抗原のいずれであっても、adr、adw、ayr、aywの4つのサブタイプのいずれであってもよい)に結合するものであって、結果としてHBVを中和する作用を有するものであれば、本発明の目的の達成のために使用することができる。
【0029】
前述したように、従来より、HBVにり患した場合の治療には、HBIG製剤が使用されている。本発明の抗体または抗体誘導体は、血液が原料のHBIGと比較して、力価や品質の安定性に優れているという特徴を有している。また、本発明の抗体または抗体誘導体は、従来型のHBIGに代わるHBV治療薬として使用することを目的としていることから、HBVの中和活性と同様の、好ましくは同程度の、より好ましくはそれ以上のHBVの中和活性を有することができる。一方、本発明の抗体または抗体誘導体は、複数のものをカクテルにして使用することもできることを特徴としていることから、単一の抗体または抗体誘導体では中和活性が低い場合であっても、複数の抗体または抗体誘導体を組み合わせて治療薬として使用することができる。
【0030】
HBVの中和活性は、ヒト肝臓由来の培養細胞あるいはヒト肝臓初代細胞に対してHBVを感染させ、その細胞に対して培養条件下で抗体を添加することにより、
・HBVのウイルス量の抑制、
・細胞内でのHBV由来タンパク質(例えば、HBs抗原、HBc抗原、HBe抗原、Xタンパク質(HBx抗原)など)の発現抑制、
・細胞内でのHBV由来DNA量(例えば、細胞内でHBVカプシドに覆われたウイルスDNA(capsid-associated relaxed circular DNA[rcDNA])量)の合成抑制
などがみられるかどうかにより、半定量的に特定することができる。
【0031】
<本発明の抗体の例>
本発明においては、過去に公知のHBVワクチンの接種を受けた個体から、HBV由来のHBs抗原に対して結合する抗体を産生する細胞を上述の<抗体または抗体誘導体>の通り採取し、得られた抗体または抗体誘導体に関して上述の<HBVの中和作用>の通りHBVに対する中和活性を調べた。その結果、複数の個体から、複数の抗体およびその抗体を産生する細胞が得られた。
【0032】
そのような中で、実施例において検討を行った具体的なものとして、以下の特定のアミノ酸配列を有する重鎖・軽鎖の相補性決定領域:
(1) 重鎖の相補性決定領域、CDR1(GFMFSGHS、SEQ ID No: 1)、CDR2(IGSTGEFI、SEQ ID No: 2)、およびCDR3(AREQGTRGRYYYYGLDV、SEQ ID No: 3)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(SQSVSTY、SEQ ID No: 4)、CDR2(DAF、SEQ ID No: 5)、およびCDR3(QQRGHWPLT、SEQ ID No: 6);
(2) 重鎖の相補性決定領域、CDR1(SGGSISGHY、SEQ ID No: 7)、CDR2(IHYSGIT、SEQ ID No: 8)、およびCDR3(ARGDATYGY、SEQ ID No: 9)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(SQSLLHRNGYNY、SEQ ID No: 10)、CDR2(LGS、SEQ ID No: 11)、およびCDR3(MQALRTPWT、SEQ ID No: 12);
(3) 重鎖の相補性決定領域、CDR1(SGFSFSNYG、SEQ ID No: 13)、CDR2(IWRDGSHQ、SEQ ID No: 14)、およびCDR3(AREDPAIVLPVLDH、SEQ ID No: 15)、および
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(QRINSY、SEQ ID No: 16)、CDR2(GAS、SEQ ID No: 17)、およびCDR3(QQGYSTPLLS、SEQ ID No: 18);
を含む組換え抗体またはこれらの抗体誘導体を提供することを例として挙げることができるが、これらのものに限定されない。
【0033】
本発明は一態様において、このような抗体または抗体誘導体として:
(1)SEQ ID No: 19、(2)SEQ ID No: 21および(3)SEQ ID No: 23から選択される重鎖可変領域VHドメインのアミノ酸配列;および
(1)SEQ ID No: 20、(2)SEQ ID No: 22および(3)SEQ ID No: 24から選択される軽鎖可変領域VLドメインのアミノ酸配列;
を含む抗体または抗体誘導体をより具体的な例として挙げることができる。
【0034】
本発明はさらに詳細な一態様として、以下の実施例において、
(1)M2-11クローン:重鎖可変領域(SEQ ID No: 19)および軽鎖可変領域(SEQ ID No: 20)を含む抗体または抗体誘導体;
(2)5A4クローン:重鎖可変領域(SEQ ID No: 21)および軽鎖可変領域(SEQ ID No: 22)を含む抗体または抗体誘導体;または
(3)3B6クローン:重鎖可変領域(SEQ ID No: 23)および軽鎖可変領域(SEQ ID No: 24)を含む抗体または抗体誘導体;もしくは
(1)M2-11クローン:重鎖(SEQ ID No: 25)および軽鎖(SEQ ID No: 26)を含む抗体または抗体誘導体;
(2)5A4クローン:重鎖(SEQ ID No: 27)および軽鎖(SEQ ID No: 28)を含む抗体または抗体誘導体;または
(3)3B6クローン:重鎖(SEQ ID No: 29)および軽鎖(SEQ ID No: 30)を含む抗体または抗体誘導体;
をより具体的な例として挙げることができる。
【0035】
<医薬組成物>
本発明においては、一態様において、これまでに説明した抗体または抗体誘導体を含み、HBVを中和するための医薬組成物を提供することもできる。この医薬組成物は、HBVに感染した個体または感染が疑われる個体に対して、HBVにより生じる症状の発現を予防、治療するため、B型肝炎の再活性化を予防するため、またはHBVの母子感染や医療感染を阻止するために使用することができる。
【0036】
この医薬組成物に含まれる本発明の抗体または抗体誘導体は血液原料に由来しないものであることから、この医薬組成物は、血液中に含まれる可能性がある(血液製剤に混入する危険性がある)HBV、HCV、HIVなどのウイルスなどの病原体を含まず、また血液中に含まれる抗原性タンパク質やヒトタンパク質と結合する抗体など、投与された個体に免疫異常を生じさせる危険性のある血液由来成分を含まないことを特徴とする。
【0037】
本発明における医薬組成物には、上述した抗体または抗体誘導体を1種類含んでいても、複数種類含んでいてもよい。
【0038】
<抗体または抗体誘導体の他の用途>
本発明において作製される抗体または抗体誘導体は、生体由来試料中のHBVの存在・存在量を検出・測定する目的で使用することができる。このような目的で使用する場合、被験体から採取された生体由来試料を、in vitroにおいて本発明の抗体または抗体誘導体と接触させ、HBVに結合した本発明の抗体または抗体誘導体を二次抗体により検出することにより、当該抗体または抗体誘導体と結合した試料中のHBVを検出・測定することにより、生体由来試料中のHBVの存在・存在量を検出・測定することができる。
【0039】
本発明の抗体または抗体誘導体により上述したように生体試料中のHBVを検出・測定することができることから、既存の抗HBsヒト免疫グロブリン製剤(例えば、市販のHBIG製剤(一般社団法人日本血液製剤機構または日本製薬株式会社(販売:武田薬品工業株式会社)))との性能比較を行うことができる。
【0040】
また、本発明の抗体または抗体誘導体は、研究用試薬として、試料中のHBVを検出・測定するためのELISA、ウェスタンブロッティングなどの用途で使用することもできる。このような用途を利用することにより、HBVへの感染が疑われる被検体の感染の確定ができるほか、HBVワクチンの検定、抗HBV医薬品評価のための感染実験における感染抑制コントロールなどにも使用することができる。
【0041】
さらに、本発明の抗体または抗体誘導体を含む、被験体体内におけるHBVの存在・存在量を検出・測定するためのキットとすることもできる。このようなキットには、当該抗体または抗体誘導体を検出するための標識化二次抗体を含んでいてもよい。
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。下記に示す実施例はいかなる方法によっても本発明を限定するものではない。
【実施例0043】
実施例1:抗体遺伝子単離(Antigen-specific Single cell sorting法;AgS-SCS法)
本実施例は、HBVワクチンの接種を受けたヒト個体から、抗HBs抗体の遺伝子を単離することを目的として行った。
【0044】
末梢血中を循環しているB細胞のうち、約60%は抗原刺激を受けていないナイーブB細胞であり、40%が膜結合型IgG、IgA、IgM、IgEのいずれかを発現するメモリーB細胞であることが知られている。メモリーB細胞中の抗体配列にはすでに、体細胞超突然変異(somatic hypermutation)が入り、抗原への結合親和性が高まっていると考えられる。そこで目的抗体遺伝子単離法として、IgGへクラススイッチしたメモリーB細胞集団の中で、HBs抗原と特異的に結合する高親和性抗体を発現している細胞のみを選択的に分取し、1細胞クローニング技術を用いて抗体遺伝子を単離する抗原特異的単一細胞ソーティング法(AgS-SCS法)を採用して、抗HBs抗体の遺伝子を単離することとした。
【0045】
過去にHBVワクチンの接種を受けたヒト個体に対して、HBVワクチンの追加接種を行った。追加接種したHBVワクチンとしては、HBV遺伝子型Cで血清型adr配列をもつ酵母由来組換えHBs抗原ワクチンであるビームゲン(KM biologics, Japan)またはHBV遺伝子型Aで血清型adw配列をもつ酵母由来組換えHBs抗原ワクチンHeptavax II(Merck, German)を使用した。なお、ヒト個体の初回接種時のワクチンについての詳細は不明であった。
【0046】
血漿抗HBs抗体力価が4,000 IU/L以上のヒト個体から、約30 mLの全血採血を行った。スクリーニングでの抗体力価測定は酵素免疫測定法(ELISA)で実施した。
【0047】
実験を行ったヒト個体に対してHBVワクチンを追加接種してから6日目および28日目に、それぞれ全血30 mLを採血し、磁気ビーズ(MACSxpress Whole Blood B Cell Isolation Kit (Miltenyi Biotec, Germany))を用いたネガティブセレクション法によるB細胞の1ステップ精製を行った。
【0048】
精製したB細胞5.0×107個を、下記条件で染色し、逆転写反応用バッファーを8μLずつ分注した96ウエルマイクロプレートにて、シングルセルソーティングした。
【0049】
精製B細胞を希釈したマウス血清を用いて非特異反応のブロッキングを行ったのち、HBs抗原によるウイルス様粒子(Virus Like particle:以下、VLPと呼ぶ)構造を保持する酵母由来組換えHBs抗原(HBsAg-XT, Beacle Inc, Japan)を、200 ng/mLの濃度で、ブロッキング処理したB細胞に氷上にて30分間反応させた。
【0050】
HBs抗原を結合させた細胞を、100μLの抗体カクテル(抗-HBsポリクローナルウサギ抗体(Beacle Inc)、抗-ウサギIgG-Alexa488(Jackson ImmunoReserach Laboratories, USA)、抗-ヒトIgG-APC(BD Bioscience)、抗-CD27-PE(BD Bioscience)、抗-CD19-ACP-Cy7(BD Bioscience)、抗-CD38-PE-Cy7(BioLegend, USA)、7-AAD7-AAD(BD Bioscience)を、それぞれの試薬の指定用量にて混合し、FACSバッファー100μLにしたもの)で、氷上にて30分間染色した。
【0051】
細胞ソーティング装置BD FACSAria(BD Bioscience, USA)を用いて、CD19+、CD27+、CD38-、IgG+、7-ADD-、HBsAg+のゲートを用いて、1ウェルあたり8μLのRTバッファーが入った96ウェルプレートの各ウェルに細胞を1個ずつ分取した。
【0052】
具体的には、細胞ソーティングは、まず、
・前方散乱光(FSC)による細胞の大きさ、側方散乱光(SSC)による細胞の形態、核、顆粒などの細胞内部構造に基づき、全血液細胞からリンパ球を選別し、
・その細胞中に含まれる生細胞集団(7AAD-)を得た。
・その後、IgG+かつCD19+の細胞を選別し、
・さらにCD27+かつCD38-の細胞を選別する
ことにより、IgGメモリーB細胞を得た。この細胞の中から、さらにメモリーB細胞膜上に発現する抗HBs抗体に結合したHBs抗原を、検出用抗HBsポリクローナル抗体を用いてHBs antigen high gateで検出した結果、約300個の細胞が得られた。
【0053】
ソーティングした単一細胞を、逆転写反応用バッファーをウェル当たり8μl含む96ウェルプレートの個別のウェル中に入れ、逆転写用プライマー(ATATGGATCC GGCGCGCCGT CGACTTTTTT TTTTTTTTTT TTTTTTTT;SEQ ID No: 32)を含む逆転写酵素液2μLを各wellに分注し、逆転写反応を行った。
【0054】
逆転写されたcDNA溶液1μLを用いて、重鎖の可変領域、および軽鎖の可変領域と定常領域について、1st PCRを行った。プライマー配列およびその使用量は以下の表1に示す通りである。
【0055】
【0056】
さらに、1st PCR後のPCR産物各2.5μLを用いて、同様に重鎖の可変領域、および軽鎖の可変領域と定常領域について、2nd PCRを行った。配列およびその使用量は以下の表2に示す通りである。
【0057】
【0058】
2nd PCRのPCR産物を精製(QIAquick PCR Purification Kit, QIAGEN, Germany)した後、重鎖についてはIgG1発現クローニングベクターpIgG1H7(pcDNA3.1(+)Hyg(Invitrogen)の962番から991番までの29 bpを欠失させたもの骨格として、IgG重鎖分泌シグナルペプチド配列遺伝子、可変領域クローニング用制限酵素認識配列(NotI-XhoI)、IgG1定常領域遺伝子を人工合成して、挿入したプラスミドベクター)の可変領域クローニング用制限酵素認識配列(NotI-XhoI)サイトにクローニングし、目的とする抗体重鎖発現ベクターを得た。
【0059】
軽鎖についても、PCR産物を、軽鎖発現クローニング用ベクターpLight(pcDNA3.1(+)Hyg(Invitrogen)の962番から991番までの29 bpを欠失させたもの骨格として、軽鎖分泌シグナル配列遺伝子および軽鎖クローニング用制限酵素認識配列(NotI-XhoI)を人工合成したものを挿入したプラスミドベクター)、軽鎖クローニング用制限酵素認識配列(NotI-XhoI)サイトに組込んで抗体軽鎖発現ベクターを得た。 続いて、作成した重鎖発現ベクターおよび軽鎖発現ベクターのうち全塩基配列を決定してオープンリーディングフレームが正常と確認されたものを、重鎖+軽鎖のペアでヒト腎由来細胞株293T細胞(ATCC CRL-3216)へ一過性遺伝子導入(Lipofectamin LTX, Thermo Fisher scientific)し、5日後の培養上清中の目的抗体量を市販ELISAキット(Enzygnost anti-HBs II, SIEMENS, Germany)またはin house ELISAで測定した。この結果、強陽性の抗体(M2-11)が得られたので、これを組換えHBIG候補とし、このM2-11抗体の重鎖発現ベクターをpIgG1H7-M2-11、M2-11抗体の軽鎖発現ベクターをpL-M2-11として特定した。
【0060】
実施例2:抗体遺伝子単離(EBV-ハイブリドーマ法)
本実施例は、HBVワクチンの接種を受けたヒト個体から、実施例1とは別法で抗HBs抗体の遺伝子を単離することを目的として行った。
【0061】
HBVワクチンの接種を過去に受けたヒト個体から採取した全血から、末梢血単核球(PBMC)を密度勾配遠心分離法で精製し、その培養液中に、Epstein-Barr virus(EBV)持続感染ヒトB細胞株であるB95-8細胞の培養上清を添加することによりEBVを感染させ、B細胞を不死化した。
【0062】
1.0×106個ずつのEBV感染不死化B細胞とJMS-3ミエローマ細胞を混合した後、回収して、50%PEG(PEG 1540, FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Japan)1 mLを1分かけて滴下して加え、さらに1分かけてRPMI 1640培地(日水製薬)を1 mL、さらに1分かけて10 mLのRPMI 1640培地を加え、混和後、遠心して回収した。
【0063】
細胞を回収し、20%FCSを添加したRPMI 1640培地で2.5×105個/mLの細胞濃度に懸濁し、0.1 mLずつ96ウェルプレートに分注し、翌日、0.1 mLのHAT選択培地(0.5μMウアバイン添加)を加えて培養を継続し、7~10日後に培養上清中に抗体が産生されていることを確認した。
【0064】
抗体が産生されていることが確認されたウェルから抗体産生細胞を採取し、この抗体産生細胞を限界希釈法にてクローニングし、各ハイブリドーマの培養上清中抗体について、受身赤血球凝集反応法(Passive Hemmaglutination : PHA)(マイセルII anti-HBs、特殊免疫研究所)により、自動測定装置(PK7300, Beckman Coulter, USA)を用いたハイスループットスクリーニングを行った。PHA法では抗体のアビディティー(avidity、特異抗原との結合力)の強さが抗体価に反映されるという特徴があるため、本法によるスクリーニングを採用することでウイルス中和活性を持つ抗体を得られる可能性が高くなる。その結果、3名の個体のPBMCからHBs抗原凝集陽性のハイブリドーマを12株樹立した。
【0065】
PHA陽性となったハイブリドーマからRNAを精製し(NucleoSpin RNA (TaKaRa))、抗体重鎖可変領域および軽鎖可変領域と定常領域を取得し、上記実施例1のプライマーと同じプライマーを使用して実施例1の方法と同様の方法でベクターへクローニングし、ヒト腎由来細胞株293T細胞(ATCC CRL-3216)へ一過性遺伝子導入(Lipofectamin LTX, Thermo Fisher scientific)により組換え抗体として発現させた。
【0066】
塩基配列の解析からIgG1であることが確認された抗体について、実施例1と同様にELISAを行った。その結果、3種の抗体(5A4、3D1および3B6)がELISAにて強陽性となり、これらを組換えHBIG候補とし、それぞれ、5A4抗体の重鎖発現ベクターをpIgG1H7-5A4、5A4抗体の軽鎖発現ベクターをpL-5A4、3D1抗体の重鎖発現ベクターをpIgG1H7-3D1、3D1抗体の軽鎖発現ベクターをpL-3D1、3B6抗体の重鎖発現ベクターをpIgG1H7-3B6、3B6抗体の軽鎖発現ベクターをpL-3B6として特定した。
【0067】
実施例3:組換え抗体発現と精製
本実施例は、実施例1および実施例2において得られた組換えHBIG候補の4種の抗体を発現し、精製することを目的として行った。
【0068】
実施例1で得られたM2-11抗体の重鎖発現ベクターおよび軽鎖発現ベクター(pIgG1H7-M2-11およびpL-M2-11)、および実施例2で得られた3種の抗体(5A4、3D1および3B6)についての重鎖発現ベクターおよび軽鎖発現ベクター(5A4抗体についてはpIgG1H7-5A4およびpL-5A4、3D1抗体についてはpIgG1H7-3D1およびpL-3D1、3B6抗体についてはpIgG1H7-3B6およびpL-3B6)を、抗体発現用細胞に一過性にトランスフェクションした。具体的には、浮遊系ヒト腎由来細胞株GIBCO Expi 293F cell(Thermo Fisher Scientific)1.5×108個に対して、遺伝子導入試薬GIBCO Expifectamine 293(Thermo Fisher Scientific)を用いて、45μgの重鎖発現ベクターおよび15μgの軽鎖発現ベクターを遺伝子導入し、無血清培地(Gibco Expi293 Expression Medium, Thermo Fisher Scientific)で7日間振とう培養(125 rpm、37℃、8%CO2)した後、培養上清を抗体原液として回収した。
【0069】
培養上清を遠心して細胞片を除き、孔径0.45μmおよび0.22μmの親水性メンブレン(Durapore, Merck, USA)で濾過を行い、pH7.4に調整した。PBSで平衡化したHiTrap Protein G HP Columns(GE Healthcare, USA)を用いて、培養上清から抗体をアフィニティ精製後、Sephadex G-25(PD-10 column、GE Healthcare)を用いてゲル濾過し、限外濾過法でPBSへのバッファー交換と濃縮を行った(Centricon Plus-70 Centrifugal Filter, Merck)。これにより、実施例1および実施例2においてELISA強陽性となった4つの抗体M2-11、5A4、3D1および3B6について、精製抗体を得た。
【0070】
実施例4:組換え抗体の中和活性の評価
本実施例は、実施例3で得られた精製抗体が、HBVに対する中和活性を有することを確認するために行った。
【0071】
(4-1)遺伝子型D型のHBVに感染させた細胞を使用した1回目のスクリーニング
中和活性の評価に際しては、まず遺伝子型D型のHBV感染細胞を使用して1回目のスクリーニングを行った。HBVの細胞レセプターであるタウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド(sodium-taurocholate co-transporting polypeptide;NTCP)を発現させたヒト肝細胞株HepG2細胞(HepG2-hNTCP-C4細胞)を12ウェルディッシュに2.5×105 cells/wellで播種した。
【0072】
翌日、上記の細胞の培養液を、1,000ゲノム等価物(genome equivalents;GEq)/cell(MOI=1,000)の遺伝子型D型のHBVおよび実施例3で得られた4種の精製抗体を含む感染培地(DMEM(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)に、400μg/ml G418(Nacalai Tesque)、10%ウシ胎児血清(FBS)、および4% PEG 8000(Nacalai Tesque)を添加したもの)に交換して、1日培養することで細胞を感染させた。
【0073】
さらに翌日、細胞を、4種の精製抗体のいずれかを含む増殖培地(DMEM(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)に、400μg/ml G418(Nacalai Tesque)および10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したもの)に交換し、2日毎に継代して培養を続け、感染14日目の細胞を回収し、細胞内でHBVカプシドに覆われたウイルスDNA(capsid-associated relaxed circular DNA[rcDNA])量を定量的PCR(qPCR)で定量することにより、精製抗体が中和活性を有していたかどうかを確認した。
【0074】
qPCR反応は、感染細胞から回収した核酸をテンプレートとし、Fast SYBER Green Master Mix(Applied Biosystems, USA)およびプライマーセット(フォワードプライマー5'-gagtgtggattcgcactcc-3'(SEQ ID No: 79)およびリバースプライマー5'-gaggcgagggagttcttct-3'(SEQ ID No: 80)を使用して行った。
【0075】
この結果、M2-11、5A4、3B6の3種類の精製抗体は、濃度依存的にHBVのDNAコピー数を減少させて良好な中和活性を示したが、3D1には濃度依存的なHBVのDNAコピー数の減少は見られず、中和活性が認められなかったため、3D1抗体の評価はここで終了した(
図1)。
【0076】
(4-2)遺伝子型C型のHBVに感染させた初代ヒト肝細胞による2回目のスクリーニング
次に、遺伝子型C型のHBVに感染させた初代ヒト肝細胞を使用して、2回目のスクリーニングを行った。初代ヒト肝細胞を使用した感染実験では、24ウェルディッシュに4×105 cell/wellで培養したキメラマウス由来ヒト新鮮肝細胞PXB細胞(PhoenixBio)に対して、2×106ゲノム等価物(GEq)(MOI=5)の遺伝子型C型HBVを、組換え抗HBs抗体(M2-11、5A4、3B6の3種類の精製抗体)のいずれかまたは市販のHBIG(ヘブスブリン筋注用1000単位、日本血液製剤機構)を含む増殖培地(dHCGM培地、PhoenixBio, Japan)でプレインキュベーションし、感染させた。
【0077】
感染16時間後に、細胞の培養を増殖培地で開始し、5日毎に培地交換しながら、それぞれの抗体存在下で11日間培養を行った。11日目の培養上清を回収し、HBV由来のHBe抗原量を、ELISA(CSB-E13557h, Cusabio, USA)で測定した。
【0078】
この結果、3種類の組換え抗HBs抗体(M2-11、5A4、3B6の精製抗体)はいずれも、濃度依存的にHBe抗原量を減少させることが示され、抗体濃度が20μg/mLの場合には3種類の抗体ともにHBe抗原量を検出限界以下に減少させることが分かった。また、M2-11、5A4、3B6の3種類いずれの精製抗体も、0.02μg/mLでのHBe抗原を減少させる効果が、0.2μg/mLの市販HBIGよりも高い(すなわち、少なくとも10倍以上の中和活性を意味する)ことが明らかになった(
図2)。このように、3種類の抗HBsヒトモノクローナル抗体は強い中和活性を示し、これら抗体の単独または混合物が組換えHBIGとして有望であると示された。
【0079】
実施例5:組換え抗体の結合特性の評価
本実施例は、実施例4のスクリーニングで中和活性の認められた3種のヒト抗HBs組換えモノクローナル抗体(M2-11、5A4、3B6の3種類の精製抗体)の、HBVに対する結合特性を確認するために行った。
【0080】
組換えHBs抗原(HBsAg-XT)を100℃、10分で加熱後、1℃/minの速度で20℃まで徐冷し、ウイルス様粒子(VLP)を誘導した。SDS-PAGE用には、熱処理抗原を0.1 mg/mLとなるように調整し、半数の検体に還元剤(50 mM DTT, GE Healthcare)を添加後、100℃、5分加熱し、10% Bolt Bis-Tris Plusゲル(Thermo Fisher Scientific)で電気泳動を行った。
【0081】
一方、Native PAGE用にはBlue Native-PAGE法を使用した。すなわち、上記HBs抗原をNative sample buffer(Thermo Fisher Scientific)にて0.1 mg/mLとなるように調整し、半数の検体に還元剤(50 mM DTT)を添加し、NativePAGE 4-16% Bis-Tris Protein Gels(Thermo Fisher Scientific)で電気泳動を行った。電気泳動後のタンパク質をPVDFメンブレン(iBlot 2 Transfer Stacks, PVDF, mini, Thermo Fisher Scientific)に転写し、室温で1時間ブロッキングした後、2μg/mLの評価対象抗体(3種のヒト抗HBs組換えモノクローナル抗体(M2-11、5A4、3B6の3種類の精製抗体)のいずれかまたは比較対照であるHBIGまたはウマポリクローナル抗体)で4℃にて一晩、一次反応を行った。
【0082】
次に、二次抗体(ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG(709-035-149, Jackson ImmunoReserach Laboratories)またはHRP標識抗ウマIgGポリクローナル抗体(ab6921 abcam, UK))および、化学発光試薬(ECL Select, Thermo Fisher Scientific)を使用して、ゲル上のHBs抗原に対しての評価用抗体の結合性を検出した。
【0083】
この結果、SDS-PAGEの還元条件においては、HBs抗原はコントロールとして用いた抗HBsウマポリクローナル抗体によって単量体(約25 kDa)および二量体(約50 kDa)として検出されるが、非還元状態ではサンプルウェル付近にシグナルが観察されることから、非還元条件では高分子多量体であるVLPが検出されていることが示された(
図3上)。
【0084】
また、本発明の3種のモノクローナル抗体は、還元条件SDS-PAGEにおいて単量体および二量体のHBs抗原とは全く結合せず、非還元状態においてもVLPとほとんど結合しなかった。ただし、3B6は非還元状態のVLPに対して弱く結合した(
図3上)。
【0085】
一方、タンパク質がSDS-PAGEより本来の構造を維持していると予想されるNative-PAGEにおいては、3種のモノクローナル抗体はすべてVLPと結合したが、M2-11と5A4では非還元状態では、VLPへ還元状態の場合より強固に結合し、3B6は還元剤の影響をほとんど受けないことが示された(
図3中および下)。また、非還元状態のVLPへの結合強度を比較すると、3B6>M2-11>5A4であった。
【0086】
以上の結果より、3種のモノクローナル抗体が認識しているエピトープは不連続のアミノ酸からなる立体構造エピトープ(conformational epitopes)であること、連続したペプチド配列としては定義されないこと、さらに少なくともM2-11/5A4と3B6とは認識するエピトープが異なること、が示された。
【0087】
HBs抗原は細胞外領域に8個のシステイン残基を持ち、これら残基による分子内および分子間ジスルフィド結合がVLP多量体構造に大きく寄与している。そのため、M2-11と5A4のVLP結合性が還元剤感受性であることは、これらの抗体がHBs抗原からなる多量体構造そのものを認識していることを強く支持する。
【0088】
実施例6:候補抗体の交差反応性の評価
本実施例は、実施例4のスクリーニングで中和活性の認められた3つのヒト抗HBs組換えモノクローナル抗体(M2-11、5A4、3B6)が、ヒト由来成分に対して非特異結合しないこと(交差反応性を有さないこと)を確認するために行った。
【0089】
抗体医薬品の使用において最も懸念される副反応は、
・投与抗体がヒト以外の動物種由来配列を持つ場合、ヒトに対して抗原性を持つことと、
・用いた抗体がヒトの正常組織に非特異結合すること
である。今回単離した3種のモノクローナル抗体については、ワクチン接種した健康ヒト個体の末梢血から取得したヒトB細胞由来完全ヒト抗体であるため、前者の副反応の可能性は極めて低いと考えられる。また、後者についても、この3種のモノクローナル抗体の由来B細胞を提供したヒト個体において、ワクチン追加接種後に炎症・自己免疫疾患等の発症が全く報告されていないことから、これら抗体が自己反応性を示す可能性は低いと考えられる。
【0090】
念のため、これらのモノクローナル抗体がヒトの正常組織に対して非特異的に結合しないこと(交差反応性を有さないこと)について検証するため、ELISAおよび組織免疫染色で3種の抗HBsモノクローナル抗体のヒト由来成分への結合を解析した。
【0091】
(6-1)ELISA
ELISAはAntigen-Down ELISA Development Kit(Immunochemistry technologies, Australia)を用いて行った。ELISAで対象とした成分は、HBs抗原(HBAg-XT)に加えて、抗体医薬品のヒト由来成分への非特異結合評価に用いられているヒトインスリン(富士フイルム和光純薬)および自己免疫疾患患者における代表的な自己抗体抗原であるゲノムDNA(ヒト培養細胞株HeLa細胞(ATCC CCL-2)から抽出したものをヒトゲノムDNAとして使用)であり、これらをELISA用96ウェルプレートに固相化した。
【0092】
プレートに、希釈した3種の組換え抗HBs抗体のいずれかを各100μL/well加え、抗-ヒトIgG-HRP(709-035-149, Jackson)と反応させ、ペルオキシダーゼ基質を添加して発色させた。呈色反応結果を、吸光度測定マイクロプレートリーダー(MTP-300, CORONA Electric, Japan)を用いて、測定波長450 nm、対象波長630 nmの吸光度として測定した。
【0093】
3種のヒトHBsモノクローナル抗体は、特異抗原であるHBsへの結合が飽和する濃度の10倍以上の抗体濃度においてもELISAプレートに固相化したヒト由来成分に対して非特異的な結合を示さなかった(
図4)。
【0094】
(6-2)組織免疫染色
HBV陽性ヒト肝臓組織パラフィン切片アレイ(LV1401, US Biomax Inc, USA)および正常ヒト組織パラフィン切片アレイ(T8234708-5, BioChain, USA)を脱パラフィン後、3% H2O2と反応させて内在性ペルオキシダーゼを不活化し、5% BSAで4℃にて一晩ブロッキング反応を行った。
【0095】
次いで、10μg/mLに希釈した組換え抗HBs抗体混合溶液(M2-11、5A4、3B6の混合溶液)と反応させた後、二次抗体(709-035-149, Jackson ImmunoReserach Laboratories)と反応させた。ペルオキシダーゼ基質(ImmPACT DAB, VECTOR laboratorie, USA)を加えて発色させ、Mayer's Hematoxylinで対比染色を行った。
【0096】
この結果、3種のモノクローナル抗体混合溶液は、10μg/mLの抗体濃度でHBV陽性者の肝臓組織中にあるHBs抗原を明瞭に検出した(
図5a)が、同濃度で各種正常ヒト組織への染色は認められなかった(
図5b)。これらの結果から、組換えHBIG候補である3種のモノクローナル抗体は、ヒト由来成分との交差反応性が極めて低いことが明らかとなった。
【0097】
実施例7:候補抗体CDR配列の特徴
本実施例では、本発明において得られたそれぞれのHBsモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列の特徴を解析した。
【0098】
HBsモノクローナル抗体M2-11、5A4、3B6それぞれの抗体の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を決定したところ、それぞれの鎖の可変領域(VH領域およびVL領域)のアミノ酸配列は、以下の通りであった。
【0099】
これらのHBsモノクローナル抗体M2-11、5A4、3B6それぞれの重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列をさらに詳細に解析し、それぞれの鎖の相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)のアミノ酸配列を以下のアミノ酸配列に下線で示した(それぞれのアミノ酸配列において、順にCDR1、CDR2、CDR3)。CDR配列の抽出にはIMTG(the international ImMunoGeneTics information system)の抗体配列解析ソフトウエアIMTG/V-QUESTを用いた。
【0100】
<M2-11クローン>
重鎖可変領域のアミノ酸配列(SEQ ID No: 19、CDR1、CDR2、CDR3に下線を引いた)
AAAVLSQVQL VESGGGLVKP GESLRLSCAA SGFMFSGHSM VWVRQAPGKG LEWVSFIGST GEFISYADSV RGRFTISRDN AKNSLYLQMN SLRADDTAVY YCAREQGTRG RYYYYGLDVW GQGTTVTVSS ASRTK
軽鎖可変領域のアミノ酸配列(SEQ ID No: 20、CDR1、CDR2、CDR3に下線を引いた)
AAAMTQTPPS LSLSPGESAT LSCRASQSVS TYLAWYQQKP GQAPRLLIYD AFNRATGIPA RFSGSGSGTD FTLTISGLEP EDFAVYYCQQ RGHWPLTFGG GTKVEIK
<5A4クローン>
重鎖可変領域のアミノ酸配列(SEQ ID No: 21、CDR1、CDR2、CDR3に下線を引いた)
AAAVLSQVQL QESGPGLVKP SDTLSLTCTV SGGSISGHYW SWIRRLPGGG LEWIGYIHYS GITNYNPSLK SRVTMSVDMS KNQFSLRLRS VTATDTAVYY CARGDATYGY WGQGAPVTVS SASRTK
軽鎖可変領域のアミノ酸配列(SEQ ID No: 22、CDR1、CDR2、CDR3に下線を引いた)
AAAMTQSPFT LPVTPGEPAS ISCRSSQSLL HRNGYNYVNW YLRKPGQSPQ LLISLGSDRA SGVPDRFRGS GAGTDFTLKI SRVEAEDVGV YYCMQALRTP WTFGQGTKVE IK
<3B6クローン>
重鎖可変領域のアミノ酸配列(SEQ ID No: 23、CDR1、CDR2、CDR3に下線を引いた)
AAAVQCEVQL VESGGGVVQP GKSLRVSCAA SGFSFSNYGM HWVRQAPGKG LEWVSVIWRD GSHQYYADSV KGRFTVSRDN ARDTLFLQMD GLRAEDTAVY YCAREDPAIV LPVLDHWGRG TLVTVSSASR TK
軽鎖可変領域のアミノ酸配列(SEQ ID No: 24、CDR1、CDR2、CDR3に下線を引いた)
AAAMTQSPVS LSASVGDRVT ITCRASQRIN SYLNWYQQKP GKAPKLLIYG ASNLPSGVPS RFSGSGSGTY FTLTISSLQP EDLATYYCQQ GYSTPLLSFG PGTKVEIK
【0101】
それぞれのCDRアミノ酸配列に対して、以下の通り配列番号を付与した。
【0102】
本発明により、血液原料由来の抗HBsヒト免疫グロブリン製剤にまつわる国内自給未達成問題や血液製剤の問題点などを根本的に解決することができる、安全で有効なそして安定した活性が期待される抗体製剤を提供することができる。