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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133655
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】熱可塑性複合樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230920BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230920BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230920BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/02
C08L23/08
C08K7/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038737
(22)【出願日】2022-03-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】592242143
【氏名又は名称】東洋レヂン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205512
【弁理士】
【氏名又は名称】出雲 暖子
(72)【発明者】
【氏名】井出 茂昭
(72)【発明者】
【氏名】小倉 宏文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛英
(72)【発明者】
【氏名】井出 康太
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AB013
4J002BB031
4J002BB062
4J002BB072
4J002BB121
4J002BC031
4J002BD031
4J002BN151
4J002CF181
4J002FA043
4J002FD186
4J002FD206
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡単な工程で製造でき、揮発性物質を含有し、揮発性物質の徐放性を有する、熱可塑性複合樹脂を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性複合樹脂は、熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーと、エチレン系共重合体と、揮発性物質と、を含有し、前記エチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、前記揮発性物質の徐放性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーと、エチレン系共重合体と、揮発性物質と、を含有する熱可塑性複合樹脂であって、
前記エチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記揮発性物質の徐放性を有する、
熱可塑性複合樹脂。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの表面にある各グルコースはほぼすべての2級水酸基を有する、
請求項1に記載の熱可塑性複合樹脂。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーは、前記熱可塑性複合樹脂に均一に分散している、
請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性複合樹脂。
【請求項4】
熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーの水分散体と、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種エチレン系共重合体と、揮発性成分と、を前記熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱しながら混錬する加熱・混錬工程と、
前記加熱混錬の間に前記セルロースナノファイバーの水分散体に含まれる水分を気化させる水分気化工程と、
を備える請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性複合樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性物質の徐放性を備える熱可塑性複合樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、成型がしやすいことから色々なものに利用されている。熱可塑性樹脂の成型や加工には溶解混錬法が広く用いられており、この方法によると熱可塑性樹脂を200℃程度まで高温にしなければならない。そのため、熱可塑性樹脂と揮発性物質を一緒に混錬すると揮発性物質が揮発してしまうので、熱可塑性樹脂に揮発性物質量が残存させにくいという問題点や、残存した揮発性物質の徐放性を備えさせるのが困難であるという問題がある。
【0003】
特許文献1には、潮解性化合物と、揮発性化合物が含侵されたポリ乳酸又はポリ乳酸共重合体とを含む除法剤であって、空気中の水(水蒸気)を積極的に取り込むことにより揮発性化合物の放出量を増加させることができることが開示されているが、製造には複数の工程が必要であるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-35779号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡単な工程で製造でき、揮発性物質を含有し、その揮発性物質の徐放性を備える熱可塑性複合樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は次の内容のものである。
【0007】
熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーと、エチレン系共重合体と、揮発性物質と、を含有する熱可塑性複合樹脂であって、
前記エチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記揮発性物質の徐放性を備える。
【0008】
前記セルロースナノファイバーの表面にある各グルコースはほぼすべての2級水酸基を有する。
【0009】
前記セルロースナノファイバーは、前記熱可塑性複合樹脂に均一に分散している。
【0010】
前記熱可塑性複合樹脂の製造方法は、熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーの水分散体と、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種のエチレン系共重合体と、揮発性成分と、を、前記熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱しながら混錬する加熱・混錬工程と、
前記加熱混錬の間に前記セルロースナノファイバーの水分散体に含まれる水分を気化させる水分気化工程と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性複合樹脂は、揮発性物質を含有し、その揮発性物質の徐放性を備えるものである。そして、本発明の熱可塑性複合樹脂は、加熱・溶解を繰り返しても揮発性物質は残存し、徐放性を備える。そのため揮発性物質を含有し、徐放性を備えさせたまま、加工製品等に成型することができる。そして、既存の設備を利用して簡単な工程で製造できる。
【0012】
熱可塑性樹脂にエチレン系共重合体を加えることにより、熱可塑性樹脂内にセルロースナノファイバーが凝集することなく均一に分散する。そして、熱可塑性樹脂に加えるセルロースナノファイバー等の作用により、製造工程における加熱・混錬中における揮発性物質の揮発は抑制され、揮発性物質が残存するものとなり、更に、揮発性物質の徐放性を備えるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の例について説明する。尚、本発明は、以下の形態の例に限定されるものではない。
【0014】
本発明の熱可塑性複合樹脂は、熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーと、エチレン系共重合体と、揮発性物質と、を含有する。前記エチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である。本発明の熱可塑性複合樹脂は、前記揮発性物質の徐放性を有する。
【0015】
本発明の熱可塑性複合樹脂に含有される熱可塑性樹脂は、特に限定はなく、一般に用いられているものを使用できる。一例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エラストマー系の樹脂などの中から1種又は2種以上を選択して使用する。
【0016】
本願明細書等における「セルロースナノファイバー」とは、どの方向を測定しても100nm以下になっているものだけではなく、例えば、長さ又は幅がミクロンサイズであっても直径又は厚さが100nm以下のナノサイズであるものも含まれる。
【0017】
本発明の熱可塑性複合樹脂に含有させるセルロースナノファイバーは、一例として、平均繊維系が3nm~100nm程度であればよく、該セルロースナノファイバーの長さはミクロンサイズであってもよい。該セルロースナノファイバーは、シングルセルロースナノファイバー、ミクロフィブリル化セルロースナノファイバーのいずれか一方又は混合物でもよい。
【0018】
前記セルロースナノファイバーを調整する方法としては、特に限定はなく、原料セルロース繊維を解繊処理することにより調整する。解繊処理の方法としては、機械的解繊処理、化学的解繊処理が挙げられる。機械的解繊処理としては、例えば、原料セルロース繊維の分散液を一対のノズルから100MPa~250MPa程度の高圧でそれぞれ噴射させ、その噴射流を互いに衝突させることによって粉砕する、いわゆる高圧ホモジナイザーを用いる方法がある。
【0019】
化学的解繊処理としては、例えば、酸化触媒等を使用して、原料セルロース繊維を酸化処理する方法が挙げられる。これにより、セルロース分子中の各グルコース単位のC6位の水酸基を選択的にカルボキシ基に酸化され、フィブリル相互の静電反発により化学的に解繊される。その後、ホモジナイザー等の装置を用いて分散処理を行う。該酸化触媒としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンー1-オキシル(TEMPO)等を用いる。
【0020】
機械的解繊処理又は化学的解繊処理等により得られるセルロースナノファイバーは水分散体となる。セルロースナノファイバーの水分散体とは、分散媒として水を含有する分散体である。分散媒は、全量が水であることが好ましいが、その一部として水と相溶性を有する他の液体(炭素数3以下の低級アルコール類等)を用いることもできる。
【0021】
セルロースナノファイバーの水分散体は、セルロースナノファイバーの水酸基を疎水化する等の変性処理等をしていないので、該セルロースナノファイバーの水分散体中におけるセルロースナノファイバーの表面にある各グルコースは、すべて又は好ましくはほぼすべての2級水酸基を有する。本発明の熱可塑性複合樹脂は該セルロースナノファイバーの水分散体を加熱混錬し、セルロースナノファイバーの水分散体中の水分を徐々に気化させることにより得られることから、該セルロースナノファイバーの表面にある各グルコースの2級水酸基は変性等しない。そのため、本発明の、熱可塑性複合樹脂に含有されるセルロースナノファイバーの表面にある各グルコースはほぼすべての2級水酸基を有する。
【0022】
本発明の熱可塑性複合樹脂は、エチレン系共重合体がセルロースナノファイバー同士が凝集することを抑制し、疎水性の熱可塑性樹脂と親水性のセルロースナノファイバーとの相溶化効果をもたらす。そのため、セルロースナノファイバーは凝集することなく該熱可塑性樹脂中に均一に分散している。
【0023】
該セルロースナノファイバーの水分散体において、水分散体中のセルロースナノファイバーの平均繊維径は3nm~100nm程度が好ましく、更に好ましくは20nm~50nmとする。本発明の熱可塑性複合樹脂は、セルロースナノファイバーの水分散体を加熱混錬することにより得られることから、該熱可塑性複合樹脂中に均一に分散したセルロースナノファイバーの繊維径は、原料である水分散体のセルロースナノファイバーの繊維径とほぼ同じとなり、3nm~100nm程度が好ましく、更に好ましくは20nm~50nmとなる。
【0024】
前記セルロースナノファイバーのアスペクト比は、特に限定はなく、一例として、100~500とし、好ましくは100~200とする。
【0025】
「アスペクト比」とは、セルロースナノファイバーにおける平均繊維長と平均直径の比(平均繊維長/平均直径)を意味する。セルロースナノファイバーの平均直径及び平均繊維長は、走査電子顕微鏡(SEM)により測定できる。例えば、セルロースナノファイバーが分散した分散液を基板上にキャストしてSEMで観察し、得られた1枚の画像当たり20本以上の繊維について直径と長さの値を読み取り、これを少なくとも3枚の重複しない領域の画像について行い、最低30本の繊維の直径と長さの情報を得る。得られた繊維の直径のデータから平均直径を算出し、長さのデータから平均繊維長を算出することができ、数平均繊維長と平均直径との比からアスペクト比を算出することができる。
【0026】
本発明の熱可塑性複合樹脂におけるセルロースナノファイバーの含有量は、特に限定はなく、一例として、熱可塑性樹脂を100質量部とすると、セルロースナノファイバーは約0.01質量部以上約0.05質量部以下とする。
【0027】
本発明の熱可塑性複合樹脂に含有されるエチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種とし、好ましくは、エチレン-メチルメタクリレート共重合体を用いる。
【0028】
本発明の熱可塑性複合樹脂におけるエチレン系共重合体の含有量は、特に限定はなく、一例として、熱可塑性樹脂を100質量部とすると、エチレン系共重合体は約5質量部以上約15質量部以下とする。
【0029】
本発明の熱可塑性複合樹脂に含有される揮発性物質は、常温常圧(25℃、1atm)で大気中に容易に揮発する物質であり、香料、防虫剤、殺菌剤、防臭剤、医薬品などが挙げられる。これらの揮発性物質は特に限定はなく、一般的に公知なものを用いることができる。
【0030】
香料としては、天然香料、合成香料など、一般的に公知なものを用いることができる。天然香料としては、一例として、ラベンダー油、スイートオレンジ油、レモン油、ゼラニウム油、グレープフルーツ油、スペアミント油、セージ油、チョウジ油、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、カツミレ油、ベルガモット油、ビャクダン油などが挙げられる。合成香料としては、一例として、リモネン、リナロール、メントール、アネトール、シトロネラ―ル、オイゲノールなどが挙げられる。
【0031】
防虫剤としては、エムペントリン等の蒸散性ピレスロイド及びその誘導体、ピレスロイド剤及びその誘導体、DEET、ピカリジン等の合成系薬剤、メンタンジオール等の植物由来の成分等の天然薬剤又はその誘導体等が挙げられる。
【0032】
抗菌剤としては、天然系または合成系の抗菌剤、ヒバオイル、月桃オイル、レモングラス、ヒノキチオール、カプサイシン、ノニルフェノールスルホン酸銅、ジネブ等が挙げられる。
【0033】
殺菌剤としては、シナミックアルデヒド、ペリルアルデヒド、等の不飽和アルデヒド、オイゲノール、チモール等のフェノール類、アリルスルフィド類、イソチオシアネート類等が挙げられる。
【0034】
防臭剤としては、感覚的方法(マスキング法)及び化学反応的方法(中和法、縮合法、付加法、吸着反応法等)に適する材料が挙げられる。感覚的方法に適する材料としては、ホルムアルデヒド含有物、グリオキザール、グルタルアルデヒド、マレイン酸エステル、メントール、芳香族カルボン酸、等が挙げられる。化学的反応方法に適する材料としては、フラバノールとその誘導体、多価フェノール、植物樹皮、葉、茎等からの抽出物(精油を含む)や木酢成分等が挙げられる。
【0035】
医薬品としては、インドメタシンファルネシル、ザルトプロフェン、フェルビナク等が挙げられる。
【0036】
揮発性物資は、固体又は液体であればよく、複数の揮発性成分を併用しても良い。本発明の熱可塑性複合樹脂における揮発性成分の含有量は、特に限定はなく、一例として、熱可塑性樹脂を100質量部とすると、揮発性成分は約1質量部以上約10質量部以下とする。
【0037】
前記熱可塑性複合樹脂に本発明の効果を阻害しない範囲でその他の原料を添加することができる。その他の原料は、例えば、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑材、剥離剤、帯電防止剤、充てん剤、着色剤、発泡材、難燃剤等から1種又は2種以上を選択し添加する。
【0038】
次に、本発明の熱可塑性複合樹脂の製造方法について説明する。
【0039】
本発明の熱可塑性複合樹脂の製造方法は、熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーの水分散体と、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種エチレン系共重合体と、揮発性成分と、を前記熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱しながら混錬する加熱・混錬工程と、前記加熱混錬の間に前記セルロースナノファイバーの水分散体に含まれる水分を気化させる水分気化工程と、を備える
【0040】
はじめに、加熱・混錬工程について説明する。
【0041】
熱可塑性樹脂とセルロースナノファイバーの水分散体とエチレン系共重合体と揮発性物質と、を通常使用される混錬押出機に投入する。熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバーの水分散体、エチレン系共重合体及び揮発性物質を投入する順番には特に限定はなく、同時に投入してもよい。一例として、混錬時間や混錬状態を向上させるために、熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバーの水分散体、エチレン系共重合体及び揮発性物質は、あらかじめ混合してから混錬押出機に投入する。
【0042】
熱可塑性樹脂及び該エチレン系共重合体は、特に限定はなく、一般的に使用されたり販売されたりしているものを用いれば良い。形状についても、特に限定はなく、一例として、ペレット状、粉末状を用いる。
【0043】
セルロースナノファイバーの水分散体は、特に限定はなく、一般的に使用されたり販売されたりしているものを用いれば良い。一例として、セルロースナノファイバーの水分散中のセルロースナノファイバー固形分濃度は、該セルロースナノファイバーの水分散体全体に対してセルロースナノファイバーの固形分濃度は10質量%以下とし、好ましくは約1質量%以上約5質量%以下とする。
【0044】
揮発性物質は、特に限定はなく、一般的に使用されたり販売されたりしているものを用いれば良い。一例として、香料、防虫剤、殺菌剤、防臭剤、医薬品などが挙げられる。
【0045】
混合する量は、一例として、熱可塑性樹脂100質量部とすると、セルロースナノファイバーの水分散体は約1質量部以上約5質量部以下、エチレン系共重合体は約5質量部以上約15質量部以下、揮発性物質は約1質量部以上約10質量部以下とする。
【0046】
可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑材、剥離剤、帯電防止剤、充てん剤、着色剤、発泡材、難燃剤等のその他の原料を加える場合は、一例として、熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバーの水分散体、エチレン系共重合体及び揮発性物質を混錬する際に併せて混錬する。全ての原料を、混錬押出機に一度に投入して混錬することができるため、製造効率を向上させることができる。
【0047】
上記混練押出機は通常用いられる機器、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる。混錬の際の加熱温度は、使用する熱可塑性樹脂が溶融する温度とする。一例として、該熱可塑性樹脂としてポリエチレンを使用するときは170℃~180℃程度、ポリプロピレンを使用するときは180℃~190℃程度、ポリ乳酸を使用するときは200℃~210℃程度とする。単軸スクリュー押出機や多軸スクリュー押出機を使用する際のスクリュー回転数は、特に限定はなく、一般的に用いられる回転数とし、一例として、1rpm~100rpm程度が好ましく、好ましくは10rpm~20rpm程度とする。
【0048】
次に、水分気化工程について説明する。
【0049】
上記加熱・混錬工程において、セルロースナノファイバー水分散体中の水分は徐々に気化する。通常、セルロースナノファイバーの水分散体は、水分量が減少することによりセルロースナノファイバー同士が凝集するが、エチレン系共重合体がセルロースナノファイバー同士が凝集することを抑制し、疎水性の熱可塑性樹脂と親水性のセルロースナノファイバーとの相溶化効果をもたらす。そのため、セルロースナノファイバーは凝集することなく該熱可塑性樹脂中に均一に分散したままの状態で、押出口から吐出される。加熱混錬中に気化した水分は、該混練押出機のベント等から放出させる。
【0050】
熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバーの水分散体、エチレン系共重合体及び揮発性物質は、混錬押出機内部で加熱混錬し、押出口から吐出され、吐出物を冷却・固化することにより、揮発性物質の徐放性を有する熱可塑性複合樹脂を得る。冷却方法は特に限定はなく、一般的な方法を用いることができ、一例として、該吐出物を水中に吐出することにより、容易に安価に冷却することができる。尚、上記方法により得られた熱可塑性複合樹脂は、公知の成型方法によりペレット状、シート状、粉末状、繊維状等とすることができる。
【実施例0051】
次に実施例、比較例を挙げ、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0052】
〈実施例〉
熱可塑性樹脂としてポリエチレン300g、セルロースナノファイバーの水分散体(第一工業製薬株式会社、レオクリスタ(登録商標))4g、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(住友化学株式会社製)30g、揮発性物質としてローズウッドエッセンシャルオイル3g(Essence―Organic Pty.Ltd製)をあらかじめ混合した。セルロースナノファイバーの水分散体におけるセルロースナノファイバー固形分は2質量%程度であるため、セルロースナノファイバーの固形分としては、0.08gとなる。
【0053】
ポリエチレン、セルロースナノファイバーの水分散体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体及びローズウッドエッセンシャルオイルの混合物を多軸スクリュー押出機(東洋精機株式会社製、商品名「ラボプラストミル」)の原料投入口に投入後、加熱温度180℃~190℃、スクリュー回転数15rpmにて加熱混錬した。加熱混錬中に該セルロースナノファイバーの水分散体に含まれる水分は気化しベント又は原料投入口等から排出される。加熱混錬後に吐出された熱可塑性複合樹脂溶融物中におけるセルロースナノファイバーの凝集物の有無を目視で確認した後、該熱可塑性複合樹脂溶融物をストランドバス(東洋精機株式会社製)で冷却・固化し、熱可塑性複合樹脂を得た。
【0054】
〈比較例〉
熱可塑性樹脂としてポリエチレン300g、揮発性物質としてローズウッドエッセンシャルオイル3g(Essence―Organic Pty.Ltd製)をあらかじめ混合したものを用いた。実施例1からセルロースナノファイバーの水分散体及びエチレン-メチルメタクリレート共重合体を除いたものを用い、実施例1と同じ方法で熱可塑性複合樹脂を得た。
【0055】
〈樹脂中の揮発性物質の定量分析〉
GC/MS測定により、実施例及び比較例の樹脂中の揮発性物質の定量分析を行った。分析方法は、ペレット状にした樹脂を、樹脂の良溶媒を用いて溶解させた。得られた溶解液に対して、樹脂の貧溶媒を用いて樹脂成分を再沈・濾過、濾液を検液とした。検液をGC/MS測定に供して、試料中の揮発性物質の定量を行った。尚、本分析では、添加したローズウッドエッセンシャルオイル3g(Essence―Organic Pty.Ltd製)を定量標準に用いて分析を行い、ローズウッドエッセンシャルオイル中のリナロールを指標として定量解析を行った。
【0056】
実施例及び比較例を用いた揮発性物質リナノールの定量分析結果を表1にまとめた。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、実施例は約70%の揮発性物質が残留していたにも拘わらず、比較例では、揮発性物質は約55%しか残留しなかった。以上のとおり、本発明の熱可塑性複合樹脂は、揮発性物質が多く残留することが分かった。
【0059】
〈徐放性試験〉
本発明の熱可塑性複合樹脂の徐放性試験を行った。実施例及び比較例から放出される揮発性物質の臭いをポータブルにおいモニター((株)エムケー・サイエンティフィック製、GT300―VOC)を用いて測定した。製造日、1日後、1週間後、2週間後、1か月後の測定結果を表2にまとめた。
【0060】
【表2】
【0061】
表2より、揮発性物質の揮発速度は、実施例は比較例に比べて遅く、製造から3か月後には、比較例はほとんどの揮発性物質が揮発してしまったにも拘わらず、実施例では揮発性物質の多くは残留し、人が揮発性物質の臭いを感じることができるものであった。以上のとおり、本発明の熱可塑性複合樹脂は徐放性を有することが分かった。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーと、エチレン系共重合体と、揮発性物質と、を含有する熱可塑性複合樹脂であって、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エラストマー系の樹脂の中から選ばれる1種又は2種以上であり、
前記エチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体又はエチレン-アクリル酸メチル共重合体少なくとも一種であり、
前記揮発性物質の徐放性を有する、
熱可塑性複合樹脂。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの表面にある各グルコースはほぼすべての2級水酸基を有する、
請求項1に記載の熱可塑性複合樹脂。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーは、前記熱可塑性複合樹脂に均一に分散している、
請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性複合樹脂。
【請求項4】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エラストマー系の樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーの水分散体と、エチレン-メチルメタクリレート共重合体又はエチレン-アクリル酸メチル共重合体少なくとも一種エチレン系共重合体と、揮発性成分と、を前記熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱しながら混錬する加熱・混錬工程と、
前記加熱混錬の間に前記セルロースナノファイバーの水分散体に含まれる水分を気化させる水分気化工程と、
を備える請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性複合樹脂の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーと、エチレン系共重合体と、揮発性物質と、を含有する熱可塑性複合樹脂であって、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エラストマー系の樹脂の中から選ばれる1種又は2種以上であり、
前記エチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体又はエチレン-アクリル酸メチル共重合体少なくとも一種であり、
前記揮発性物質の徐放性を備える。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
前記熱可塑性複合樹脂の製造方法は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エラストマー系の樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーの水分散体と、エチレン-メチルメタクリレート共重合又はエチレン-アクリル酸メチル共重合体少なくとも一種のエチレン系共重合体と、揮発性成分と、を、前記熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱しながら混錬する加熱・混錬工程と、
前記加熱混錬の間に前記セルロースナノファイバーの4分散体に含まれる水分を気化させる水分気化工程と、を備える。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
本発明の熱可塑性複合樹脂は、熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーと、エチレン系共重合体と、揮発性物質と、を含有する。前記エチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体又はエチレン-アクリル酸メチル共重合体少なくとも一種である。本発明の熱可塑性複合樹脂は、前記揮発性物質の徐放性を有する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
本発明の熱可塑性複合樹脂に含有されるエチレン系共重合体は、エチレン-メチルメタクリレート共重合体又はエチレン-アクリル酸メチル共重合体少なくとも一種とし、好ましくは、エチレン-メチルメタクリレート共重合体を用いる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
本発明の熱可塑性複合樹脂の製造方法は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エラストマー系の樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂と、セルロースナノファイバーの水分散体と、エチレン-メチルメタクリレート共重合体又はエチレン-アクリル酸メチル共重合体少なくとも一種エチレン系共重合体と、揮発性成分と、を前記熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱しながら混錬する加熱・混錬工程と、前記加熱混錬の間に前記セルロースナノファイバーの水分散体に含まれる水分を気化させる水分気化工程と、を備える。