(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133710
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】サンプルの性質判定方法およびそのための水分計
(51)【国際特許分類】
G01N 5/04 20060101AFI20230920BHJP
G01N 25/56 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01N5/04 D
G01N25/56 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038835
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】522193547
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】船橋 一真
(72)【発明者】
【氏名】長根 吉一
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA04
2G040AB11
2G040BA25
2G040BB04
2G040CA01
2G040CA16
2G040CA22
2G040DA02
2G040EA02
2G040EA06
2G040EC07
2G040HA16
2G040ZA02
(57)【要約】
【課題】サンプルの性質を判定する方法および加熱乾燥式水分計を提供する。
【解決手段】水分計100は、質量センサ2と、サンプル11の加熱部3と、加熱乾燥前後のサンプル質量から水分率を算出する演算制御部5と、閾値と前記閾値に応じた前記サンプルの性質パターンを記憶する記憶部8を備え、前記演算制御部は、前記加熱乾燥前サンプル質量と逐次取得したサンプル質量から求めた解析用水分率と、前記解析用水分率を一階微分した第一微分値と、前記解析用水分率を二階微分した第二微分値を算出し、前記サンプルが高水分率か低水分率かを判定する水分率閾値と前記解析用水分率を比較し、前記水分率の時間変化が大きいか小さいかを判定する第一微分閾値と前記第一微分値を比較し、前記第一微分値の時間変化が大きいか小さいかを判定する第二微分閾値と前記第二微分値を比較して、前記サンプルが前記性質パターンのどの性質パターンに該当するか判定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
秤量皿に載置されたサンプルの質量を測定する質量センサと、
内部に前記秤量皿が配置された加熱室と、
前記加熱室を加熱する加熱部と、
前記加熱部を制御して、加熱乾燥前サンプル質量と加熱乾燥後サンプル質量から前記サンプルの水分率を算出する演算制御部と、
前記演算制御部で使用される閾値と、前記閾値に応じた前記サンプルの性質パターンを記憶する記憶部とを備え、
前記演算制御部は、
前記加熱乾燥前サンプル質量と逐次取得したサンプル質量から求めた解析用水分率と、前記解析用水分率を一階微分した第一微分値と、前記解析用水分率を二階微分した第二微分値を算出し、
前記サンプルが高水分率か低水分率かを判定する水分率閾値と前記解析用水分率を比較し、
前記水分率の時間変化が大きいか小さいかを判定する第一微分閾値と前記第一微分値を比較し、
前記第一微分値の時間変化が大きいか小さいかを判定する第二微分閾値と前記第二微分値を比較して、
前記サンプルが前記性質パターンのうちどの性質パターンに該当するか判定する
ことを特徴とする水分計。
【請求項2】
前記演算制御部は、
前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第二の性質パターンに該当すると判定して、
前記サンプルのサンプル量を増やすこと、測定環境に注意すること、の少なくとも一つをアドバイスする
ことを特徴とする請求項1に記載の水分計。
【請求項3】
前記演算制御部は、
前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値未満、となるとき、前記サンプルは第三の性質パターンに該当すると判定して、
前記サンプルのサンプル量を増やすこと、測定環境に注意すること、タイマーモードを使用すること、の少なくとも一つをアドバイスする
ことを特徴とする請求項1に記載の水分計。
【請求項4】
前記演算制御部は、
前記解析用水分率が前記水分率閾値以上、または前記第一微分値が前記第一微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第一の性質パターンに該当すると判定して、
前記水分率の測定結果は信頼できることをアドバイスする
ことを特徴とする請求項1に記載の水分計。
【請求項5】
秤量皿に載置されたサンプルの質量を測定する質量センサと、内部に前記秤量皿が配置された加熱室と、前記加熱室を加熱する加熱部と、前記加熱部を制御して、加熱乾燥前サンプル質量と加熱乾燥後サンプル質量から前記サンプルの水分率を算出する演算制御部と、前記演算制御部で使用される閾値と該閾値に応じた前記サンプルの性質パターンを記憶する記憶部と、を備えた水分計を用いて、
(A)前記サンプルの加熱を開始し、前記質量の測定データを刻々と取得するステップと、
(B)前記測定データの、前記加熱乾燥前サンプル質量と逐次取得したサンプル質量から求めた解析用水分率と、該解析用水分率を一階微分した第一微分値と、該解析用水分率を二階微分した第二微分値を算出するステップと、
(C)前記サンプルが高水分率か低水分率かを判定する水分率閾値に対して、前記解析用水分率が前記水分率閾値以上となる時があるかを確認するステップと、
(D)前記解析用水分率の時間変化が大きいか小さいかを判定する第一微分閾値に対して、前記第一微分値が前記第一微分閾値以上となる時があるかを確認するステップと、
(E)前記第一微分値の時間変化が大きいか小さいかを判定する第二微分閾値に対して、前記第二微分値が前記第二微分閾値以上となる時があるかを確認するステップと、
(F)前記解析用水分率が前記水分率閾値以上、または前記第一微分値が前記第一微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第一の性質パターンに該当すると判定するステップと、
(G)前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第二の性質パターンに該当すると判定するステップと、
(H)前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値未満、となるとき、前記サンプルは第三の性質パターンに該当すると判定するステップと、
を有することを特徴とする水分計のサンプル性質判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分計に関し、より詳細には、加熱乾燥式水分計に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルの水分を測定する装置の一つとして、加熱乾燥式水分計が知られている。加熱乾燥式水分計は、サンプルを加熱することによりサンプル中の水分を蒸発させ、サンプルの質量変化(減少)が一定になると、十分乾燥したと判断して加熱を止め、加熱乾燥前と加熱乾燥後のサンプルの質量の変化から、当該サンプルの水分率を測定する装置である。水分率MC[%]は、式(1)で求められる。
【0003】
【数1】
但し、W0:加熱乾燥前サンプル質量、D:加熱乾燥後サンプル質量
【0004】
例えば特許文献1は、上記の測定原理を以下のように利用している。特許文献1では、水分率を微分して水分率の時間変化を算出し、予め性状が判明しているサンプルに対し、一定範囲の時間変化が一致すれば、サンプルの質量変化が一定になるのを待つことなく、最終的な水分率を外延計算で求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加熱乾燥式水分計は、樹脂などの低水分率のサンプルも測定対象とする。低水分率のサンプルは、水分率の時間変化が常に小さいため、ある程度水分が飛び、水分率の時間変化が緩やかになってくると、上記の測定原理では、実際は水分が残っている状態であるのに、十分乾燥したと判断され、測定が終了してしまう。これに対し、加熱乾燥式水分計は、上記の測定原理で停止することをせず、設定された加熱時間だけ加熱し停止する、タイマーモードを備えているが、ユーザーとしては、自分が測定したいサンプルがタイマーモードにすべき性質のものであるか、分からない場合が多い。
【0007】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであり、サンプルの性質について判定する方法およびそのための加熱乾燥式水分計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の水分計は、秤量皿に載置されたサンプルの質量を測定する質量センサと、内部に前記秤量皿が配置された加熱室と、前記加熱室を加熱する加熱部と、前記加熱部を制御して、加熱乾燥前サンプル質量と加熱乾燥後サンプル質量から前記サンプルの水分率を算出する演算制御部と、前記演算制御部で使用される閾値と、前記閾値に応じた前記サンプルの性質パターンを記憶する記憶部とを備え、前記演算制御部は、前記加熱乾燥前サンプル質量と逐次取得したサンプル質量から求めた解析用水分率と、前記解析用水分率を一階微分した第一微分値と、前記解析用水分率を二階微分した第二微分値を算出し、前記サンプルが高水分率か低水分率かを判定する水分率閾値と前記解析用水分率を比較し、前記水分率の時間変化が大きいか小さいかを判定する第一微分閾値と前記第一微分値を比較し、前記第一微分値の時間変化が大きいか小さいかを判定する第二微分閾値と前記第二微分値を比較して、前記サンプルが前記性質パターンのうちどの性質パターンに該当するか判定することを特徴とする。
【0009】
上記態様において、前記演算制御部は、前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第二の性質パターンに該当すると判定して、前記サンプルのサンプル量を増やすこと、測定環境に注意すること、の少なくとも一つをアドバイスするのも好ましい。
【0010】
上記態様において、前記演算制御部は、前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値未満、となるとき、前記サンプルは第三の性質パターンに該当すると判定して、前記サンプルのサンプル量を増やすこと、測定環境に注意すること、タイマーモードを使用すること、の少なくとも一つをアドバイスするのも好ましい。
【0011】
上記態様において、前記演算制御部は、前記解析用水分率が前記水分率閾値以上、または前記第一微分値が前記第一微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第一の性質パターンに該当すると判定して、前記水分率の測定結果は信頼できることをアドバイスするのも好ましい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明のある態様の水分計のサンプル性質判定方法は、秤量皿に載置されたサンプルの質量を測定する質量センサと、内部に前記秤量皿が配置された加熱室と、前記加熱室を加熱する加熱部と、前記加熱部を制御して、加熱乾燥前サンプル質量と加熱乾燥後サンプル質量から前記サンプルの水分率を算出する演算制御部と、前記演算制御部で使用される閾値と該閾値に応じた前記サンプルの性質パターンを記憶する記憶部と、を備えた水分計を用いて、(A)前記サンプルの加熱を開始し、前記質量の測定データを刻々と取得するステップと、(B)前記測定データの、前記加熱乾燥前サンプル質量と逐次取得したサンプル質量から求めた解析用水分率と、該解析用水分率を一階微分した第一微分値と、該解析用水分率を二階微分した第二微分値を算出するステップと、(C)前記サンプルが高水分率か低水分率かを判定する水分率閾値に対して、前記解析用水分率が前記水分率閾値以上となる時があるかを確認するステップと、(D)前記解析用水分率の時間変化が大きいか小さいかを判定する第一微分閾値に対して、前記第一微分値が前記第一微分閾値以上となる時があるかを確認するステップと、(E)前記第一微分値の時間変化が大きいか小さいかを判定する第二微分閾値に対して、前記第二微分値が前記第二微分閾値以上となる時があるかを確認するステップと、(F)前記解析用水分率が前記水分率閾値以上、または前記第一微分値が前記第一微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第一の性質パターンに該当すると判定するステップと、(G)前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値以上、となるとき、前記サンプルは第二の性質パターンに該当すると判定するステップと、(H)前記解析用水分率が前記水分率閾値未満、前記第一微分値が前記第一微分閾値未満、かつ前記第二微分値の絶対値が前記第二微分閾値未満、となるとき、前記サンプルは第三の性質パターンに該当すると判定するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サンプルの性質について判定することのできる方法およびそのための加熱乾燥式水分計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係る水分計の構成を示すブロック図である。
【
図2】同水分計において、加熱室の蓋を開放した状態を示す斜視図である。
【
図3】同水分計に係るサンプル性質判定方法を示すフロー図である。
【
図4】同サンプル性質判定方法を実施した例を示すグラフである。
【
図5】同サンプル性質判定方法を実施した例を示すグラフである。
【
図6】同サンプル性質判定方法を実施した例を示すグラフである。
【
図7】同サンプル性質判定方法を実施した例を示すグラフである。
【
図8】同サンプル性質判定方法を実施した例を示すグラフである。
【
図9】同サンプル性質判定方法を実施した例を示すグラフである。
【
図10】同サンプル性質判定方法により、第一の性質パターンと判定された場合のアドバイスの例である。
【
図11】同サンプル性質判定方法により、第二の性質パターンと判定された場合のアドバイスの例である。
【
図12】同サンプル性質判定方法により、第三の性質パターンと判定された場合のアドバイスの例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好適な実施の形態について図面に基づき説明する。なお、本明細書において、特に断らない限り、水分計は加熱乾燥式水分計を指すものとする。
【0016】
1.第1の実施形態
図1は第1の実施形態に係る水分計100の構成を示すブロック図、
図2は水分計100において、加熱室Cの蓋9を開放した状態を示す斜視図である。
図1に示すように、水分計100は、秤量皿1、質量センサ2、加熱部3、演算制御部5、入力部6、表示部7、および記憶部8を備える。
【0017】
質量センサ2は、電磁平衡式、歪みゲージ式、または静電容量式の電子センサである。質量センサ2は、水分計本体10(
図2)の中に格納され、秤量皿1に接続されており、秤量皿1に載せられたサンプル11の質量を測定する。
【0018】
秤量皿1は、開閉式の蓋9(
図2)を閉じることで密閉される加熱室C内に配置されている。秤量皿1は、取手を備え、質量センサ2から着脱可能に構成されている。加熱室Cは、水分計本体10の上部と蓋9により画成される空間として構成されて、秤量皿1を格納する。
【0019】
加熱部3は、ハロゲンランプやジュール発熱する抵抗線等の加熱手段3a(
図2)と温度センサ(図示せず)を備える。加熱手段3aは、温度センサからの出力に基づいて演算制御部5によって制御されて、加熱室C(サンプル11)を加熱する。加熱手段3aは、加熱室Cの蓋9の内部に格納されている。蓋9は、サンプル11と、加熱手段3aとの接触を防ぐために、秤量皿1を覆う容器状のガラスカバー9a(
図2)を備える。
【0020】
入力部6は、測定開始ボタン、測定停止ボタンを含み、演算制御部5に対して、測定開始・停止の指示が行える。また、入力部6は、プログラム選択ボタン、選択キー、および実行キーを含み、演算制御部5に対して、少なくとも、「水分率測定プログラム」と「性質パターン判定プログラム」とを、選択できる。
【0021】
ここで、「水分率測定プログラム」は、公知の手法、例えば式(1)によってサンプル11の加熱乾燥前後の質量から水分率MCを測定するものである。「性質パターン判定プログラム」は、サンプル11の性質を知り、「水分率測定プログラム」でより適切な測定を行うためのプレテストであり、本形態で開示する方法によって、サンプル11の性質パターンを判定するものである。この詳細は後述する。
【0022】
表示部7は、液晶ディスプレイであり、測定結果等を表示する。「水分率測定プログラム」が選択された場合は「測定結果(水分率MC)」が、後述する「性質パターン判定プログラム」が選択された場合は「判定結果」が表示される。なお、入力部6と表示部7は、タッチパネルディスプレイとして、一体に構成されていてもよい。
【0023】
演算制御部5は、演算処理を行うCPU(Central・Processing・Unit)と、補助記憶部としてのROM(Read・Only・Memory)およびRAM(Randam・Access・Memory)とを集積回路に実装したマイクロコンピュータで体現される。
【0024】
演算制御部5は、質量測定部51と、水分率測定部52と、性質パターン判定部53と、アドバイス部54を備える。これらの機能部51~54は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)などの電子回路により構成される。
【0025】
質量測定部51は、測定開始を受けると、加熱乾燥前のサンプル11の質量(W0)を測定したのち、加熱部3を加熱し、サンプル11の質量変化(減少)が一定になると加熱を停止し、測定終了とする。そして、加熱乾燥後のサンプル11の質量(D)を測定する。水分率測定部52は、「水分率測定プログラム」において、式(1)から、サンプル11の水分率MC[%]を算出し、測定結果として、水分率MCを表示部7に表示する。これらは公知の手法である。
【0026】
また、質量測定部51は、「性質パターン判定プログラム」では、測定終了となるまで、刻々と、質量センサ2から出力される「測定データ(サンプル11の質量の生データ(W))」を取得する。
【0027】
性質パターン判定部53は、測定終了まで、刻々と、後述する解析用水分率を算出し、解析用水分率を一階微分および二階微分する。そして、後述する三種の閾値に応じて、サンプル11のサンプル性質パターンを判定する。この詳細は、後述する
図3に基づき説明する。
【0028】
「刻々と」に関し、測定データのサンプリング間隔は、例えば1秒に1回と予め設定されているが、自動で変更するように構成されていてもよいし、ユーザーが入力部6から変更することも可能とする。
【0029】
アドバイス部54は、性質パターン判定部53により判定されたサンプル性質パターンに応じて、ユーザーにアドバイスする。この詳細は、後述する。
【0030】
記憶部8は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性の半導体メモリで体現される。記憶部8には、演算制御部5が行う処理のための各種プログラムが格納されている。記憶部8は、性質パターン判定部53がサンプル性質パターンを判定するための、各種閾値(水分率、第一微分値、および第二微分値に関する閾値)を記憶している。但し、これらの閾値の記憶場所は記憶部8に限定されないものとし、水分計100に外付けされるデータロガー、水分計100の管理コンピュータまたは管理サーバ―に記憶されて、水分計100が通信によって取得できるように構成されていてもよい。
【0031】
ここで、サンプルの性質パターンの判定基準を説明する。水分率MCを正確に求めるという観点でみると、サンプルには次の3つの性質パターンがある。
(1)第一の性質パターン
「水分率が比較的高い、または、水分率の時間変化が大きい」
このパターンのサンプルは、水分率の時間変化(水分変化率)を捉えやすいため、サンプルの質量変化(減少)が一定になると十分乾燥したと判断して加熱を止める測定原理(以降、これを「通常の測定」と言う。)が適用しやすく、通常の測定で、十分に確からしい測定結果(水分率MC)が得られる。
(2)第二の性質パターン
「水分率は比較的低いが、水分変化率の変化が大きい」
このパターンのサンプルは、水分率の時間変化(水分変化率)は小さいが、水分が抜ける前と抜けた後にメリハリがあるため、水分変化率の時間変化が大きい。このため、通常の測定で、十分に確からしい測定結果(水分率MC)が得られるが、水分率が低いため、サンプルの量や測定環境は適切に管理されなければならない。
(3)第三の性質パターン
「水分率が比較的低く、水分変化率が小さく、水分変化率の変化も小さい」
このパターンのサンプルは、水分率の描くカーブが直線に近く、水分率の時間変化(水分変化率)も、水分変化率の時間変化も小さい。このため、通常の測定では、意図しないタイミングで加熱が停止する可能性があるため、タイマーモードの測定が適している。また、水分率が低いため、サンプルの量や測定環境は適切に管理されなければならない。
【0032】
性質パターン判定部53は、サンプル11が上記3つのどの性質パターンに該当するか判定するために、サンプルが高水分率か低水分率かを判定する「水分率閾値ms」と、水分率の時間変化(水分変化率)が大きいか小さいかを判定する「第一微分閾値ds」と、水分変化率の時間変化が大きいか小さいかを判定する「第二微分閾値as」を使用して、以下の
図3に示す方法で、サンプル11の性質パターンを判定する。
【0033】
図3は、水分計100に係るサンプル性質判定方法を示すフロー図である。
【0034】
まず、ユーザーは、「水分率測定プログラム」の前に、「性質パターン判定プログラム」を選択する。そして、「水分率測定プログラム」で使用するサンプル11を同量秤量皿1に載せ、測定開始ボタンを押す。これにより、「性質パターン判定プログラム」が開始される。
【0035】
次にステップS101に移行して、質量測定部51は、加熱部3を制御して加熱を開始し、測定終了となるまで加熱する。
【0036】
次にステップS102に移行して、質量測定部51は、質量センサ2から出力される測定データを刻々と取得する。
【0037】
次にステップS103に移行して、性質パターン判定部53は、加熱前に取得した加熱乾燥前サンプル質量(W0)と逐次取得したサンプル質量(wn)から、式(2)より、解析用水分率(m)を求める。
【0038】
【0039】
そして、性質パターン判定部53は、解析用水分率mを一階微分して、式(3)より、水分率の時間変化、すなわち「水分変化率(d)」を算出する(本明細書において、水分変化率dは第一微分値と同義である)。
【0040】
【0041】
さらに、性質パターン判定部53は、水分変化率dを微分(解析用水分率mを二階微分)して、式(4)より、水分変化率の時間変化、すなわち水分変化率の変化率(a)」を算出する(本明細書において、水分変化率の変化率aは第二微分値と同義である)。
【0042】
【0043】
解析用水分率m、水分変化率d、および水分変化率の変化率aは、測定データが取得される毎に算出されてもよいし、測定終了後に算出されてもよい。
【0044】
次にステップS104に移行して、性質パターン判定部53は、測定終了までに取得された全データに対し、解析用水分率mが水分率閾値ms以上となる時があるかを確認する。解析用水分率mが水分率閾値ms以上となる時があれば(Yes)、サンプル11は高水分率であると判定して、ステップS105に移行する。解析用水分率mが水分率閾値ms以上となる時がなければ(No)、サンプル11は低水分率であると判定して、ステップS106に移行する。
【0045】
ステップS106に移行すると、性質パターン判定部53は、測定終了までに取得された全データに対し、水分変化率d(第一微分値)が第一微分閾値ds以上となる時があるかを確認する。水分変化率d(第一微分値)が第一微分閾値ds以上となる時があれば(Yes)、ステップS105に移行する。一方、水分変化率dが第一微分閾値ds以上となる時がなければ(No)、ステップS107に移行する。
【0046】
ステップS107に移行すると、性質パターン判定部53は、測定終了までに取得された全データに対し、水分変化率の変化率a(第二微分値)の絶対値が第二微分閾値as以上となる時があるかを確認する。水分変化率の変化率a(第二微分値)の絶対値が第二微分閾値as以上となる時があれば(Yes)、ステップS108に移行する。水分変化率の変化率a(第二微分値)の絶対値が第二微分閾値as以上となる時がなければ(No)、ステップS109に移行する。
【0047】
ここで、ステップS105に移行すると、性質パターン判定部53は、「水分率が比較的高い、または、水分率の時間変化(水分変化率)が大きい」ため、このサンプル11は「第一の性質パターン」に該当すると判定して、ステップS110に移行する。
【0048】
ステップS108に移行すると、性質パターン判定部53は、「水分率は比較的低いが、水分変化率の時間変化が大きい」ため、このサンプル11は「第二の性質パターン」に該当すると判定して、ステップS110に移行する。
【0049】
ステップS109に移行すると、性質パターン判定部53は、「水分率が比較的低く、水分変化率が小さく、水分変化率の時間変化も小さい」ため、このサンプル11は「第三の性質パターン」に該当すると判定して、ステップS110に移行する。
【0050】
ステップS110に移行すると、アドバイス部54が機能して、性質パターン判定部53により判定されたサンプル性質パターンに応じて、ユーザーにアドバイスをし、プログラムを終了する。アドバイスの詳細は後述する。
【0051】
図4~
図9は、それぞれ、水分計100でサンプル性質判定方法を実施した例を示すグラフである。グラフは、横軸が時間[秒]、左の縦軸が解析用水分率[%]、右の縦軸が水分変化率(第一微分値)[%/s]および水分変化率の変化率(第二微分値[%/s
2]であり、第二微分値は100で割った数値で示している。いずれの実施例でも、水分率閾値ms=3[%]、第一微分閾値ds=5[%/s]、第二微分閾値as=5[%/s
2]として、判定を行った。なお、グラフには、水分率閾値ms=3と、第一微分閾値dsと第二微分閾値asの判別のための「5」と「‐5」に破線を描き入れた。
【0052】
図4は、サンプル11として“片栗粉”を、5[g]、180[℃]で加熱して、解析用水分率m、水分変化率d、水分変化率の変化率aの推移を示したものである。片栗粉は、約60秒以降、解析用水分率mが水分率閾値ms=3以上となる(ステップS104)。このため、「第一の性質パターン」と判定される(ステップS105)。
【0053】
図5は、サンプル11として“酒石酸ナトリウム”を、5[g]、160[℃]で加熱して、解析用水分率m、水分変化率d、水分変化率の変化率aの推移を示したものである。酒石酸ナトリウムは、約90秒以降、解析用水分率mが水分率閾値ms=3以上となる(ステップS104)。このため、「第一の性質パターン」と判定される(ステップS105)。
【0054】
図6は、サンプル11として“アルファ化麦”を、1[g]、160[℃]で加熱して、解析用水分率m、水分変化率d、水分変化率の変化率aの推移を示したものである。アルファ化麦は、約60秒以降、解析用水分率mが水分率閾値ms=3以上となる(ステップS104)。このため、「第一の性質パターン」と判定される(ステップS105)。
【0055】
図7は、サンプル11として“無水ブドウ糖”を、5[g]、140[℃]で加熱して、解析用水分率m、水分変化率d、水分変化率の変化率aの推移を示したものである。無水ブドウ糖は、解析用水分率mが水分率閾値ms=3以上となる時がない(ステップS104)。また、水分変化率dが第一微分閾値ds=5以上となる時がない(ステップS106)。しかし、10秒から25秒および30秒から50秒あたりに、水分変化率の変化率aの絶対値が第二微分閾値as以上となる時がある(ステップS107)。このため、「第二の性質パターン」と判定される(ステップS108)。
【0056】
図8は、サンプル11として“プリンタートナー”を、5[g]、100[℃]で加熱して、解析用水分率m、水分変化率d、水分変化率の変化率aの推移を示したものである。プリンタートナーは、解析用水分率mが水分率閾値ms=3以上となる時がない(ステップS104)。また、水分変化率dが第一微分閾値ds=5以上となる時がない(ステップS106)。しかし、5秒付近および20秒付近に、水分変化率の変化率aの絶対値が第二微分閾値as以上となる時がある(ステップS107)。このため、「第二の性質パターン」と判定される(ステップS108)。
【0057】
図9は、サンプル11として“PET樹脂”を、10[g]、180[℃]で加熱して、解析用水分率m、水分変化率d、水分変化率の変化率aの推移を示したものである。PET樹脂は、解析用水分率mが水分率閾値ms=3以上となる時がない(ステップS104)。また、水分変化率dが第一微分閾値ds=5以上となる時がない(ステップS106)。また、水分変化率の変化率aの絶対値が第二微分閾値as以上となる時もない(ステップS107)。このため、「第三の性質パターン」と判定される(ステップS109)。
【0058】
アドバイス部54は、性質パターン判定部53により判定されたサンプル性質パターンに応じて、例えば以下のように、ユーザーにアドバイスする。
【0059】
図10は、性質パターン判定部53により「第一の性質パターン」と判定された場合のアドバイスの例である。この場合、アドバイス部54は、例えば表示部7を介して、「測定したサンプルは、水分率が比較的高いため(または水分変化率が大きいため)、通常の水分率測定を行ってください。」とアドバイスする。なお、文言は、ステップS104とステップS106のどちらで第一の性質パターンと判定されたかに応じて変更される。第一の性質パターンのサンプルは、水分率の時間変化(水分変化率)を捉えやすいため、通常の測定で、十分に確からしい測定結果(水分率MC)が得られるからである。
【0060】
図11は、性質パターン判定部53により「第二の性質パターン」と判定された場合のアドバイスの例である。この場合、アドバイス部54は、例えば表示部7を介して、「測定したサンプルは、水分率は比較的低いですが、水分率の時間変化が大きいため、通常の水分率測定を行ってください。」とアドバイスする。第二の性質パターンのサンプルは、水分が抜ける前と抜けた後にメリハリがあり、水分変化率の時間変化を捉えやすいため、通常の測定で、十分に確からしい測定結果(水分率MC)が得られるからである。
【0061】
但し、第二の性質パターンのサンプルは、水分率が比較的低いため、質量センサ2が重さを提示できる最小の値(最小表示)に対して、乾燥前後の質量差が小さい場合、質量差が質量センサ2の誤差に埋もれ、精度よく測定できないという問題がある。この問題を避けるため、アドバイス部54は、上記のアドバイスに加えて、「水分率測定のときは、サンプル量を増やしてください」をアドバイスする。
【0062】
また、第二の性質パターンのサンプルは、水分率が比較的低いため、使用環境によっては質量差が検出しにくいという問題がある。質量センサ2は、たとえば振動や風、長時間の測定によるセンサドリフトなど、使用環境の影響をどうしても受ける。このため、質量差が小さいと、質量センサ2の使用環境による誤差の影響が出やすい。この問題を避けるため、アドバイス部54は、上記のアドバイスに加えて、「水分率測定のときは、測定環境に注意してください」をアドバイスする。
【0063】
図12は、性質パターン判定部53により「第三の性質パターン」と判定された場合のアドバイスの例である。この場合、アドバイス部54は、例えば表示部7を介して、「測定したサンプルは、水分率が比較的低く、水分率のカーブの変化も小さいため、通常の水分率測定では、測定が正確にできないおそれがあります。タイマーモードで測定を行ってください。」とアドバイスする。第三の性質パターンのサンプルは、通常の測定では意図しないタイミングで加熱が停止する可能性があるため、タイマーモードの測定が適しているからである。
【0064】
また、第三の性質パターンのサンプルは、第二の性質パターンのサンプルと同様に、質量差が検出しにくいため、質量センサ2の最小表示に対する誤差の問題と、質量センサ2の使用環境の影響による誤差の問題がある。これらの問題を避けるため、アドバイス部54は、第二の性質パターンのサンプルと同様に、「水分率測定のときは、サンプル量を増やしてください」および「水分率測定のときは、測定環境に注意してください」をアドバイスする。
【0065】
なお、第二および第三の性質パターンに対して、アドバイス部54は、例えば、「注意事項の詳細を見る」が選択された場合は、「長時間(30分以上)の使用を避けること」、「水分計を風の当たらないスペースで使用すること」、「エアコンを一定にすること」、「人の動線に水分計を置かないこと」など、具体的にアドバイスするのも好ましい。
【0066】
なお、サンプル量については、特願2022-011145号の「サンプル量算出部」による手法によって、具体的な「推奨サンプル量」を提示することも好ましい。 また、タイマー時間については、特願2022-038808号の「タイマー時間推定方法」の手法によって、具体的な「タイマー時間の推奨値」を提示することも好ましい。
【0067】
また、アドバイス部54によるアドバイスは、表示部7での提示に限られない。本明細書において、「例えば表示部7」と記載した場合は、水分計100に通信接続された管理コンピュータまたは携帯端末に提示されてもよいものとする。
【0068】
以上、本発明の水分計について、好適な実施の形態を述べたが、これらは本発明の一例であり、当業者の知識を組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【0069】
また、本明細書では水分計として加熱乾燥式水分計を示しているが、質量センサを備え、加熱前と加熱後のサンプルの質量の変化(減少)を読み取り水分率を算出する他の形態の水分計においても、本発明は適用できるものである。
【符号の説明】
【0070】
100 水分計
C 加熱室
1 秤量皿
2 質量センサ
3 加熱部
5 演算制御部
51 質量測定部
52 水分率測定部
53 パターン判定部
54 アドバイス部
6 入力部
7 表示部
8 記憶部
11 サンプル