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特開2023-133742CO2吸収液を加熱してCO2を分離回収するCO2回収方法
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  • 特開-CO2吸収液を加熱してCO2を分離回収するCO2回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133742
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】CO2吸収液を加熱してCO2を分離回収するCO2回収方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/50 20170101AFI20230920BHJP
   F25B 1/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C01B32/50
F25B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038903
(22)【出願日】2022-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発(フェーズII-STEP1)」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(72)【発明者】
【氏名】小林 一暁
(72)【発明者】
【氏名】小水流 広行
(72)【発明者】
【氏名】関屋 政洋
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC29
4G146JC35
(57)【要約】
【課題】極めて低品位な排熱であるスラグ水砕水を用いて、化学吸収法におけるCO吸収液の加熱を可能にして、トータルでのコストが抑制されたCO回収方法を提供する。
【解決手段】化学吸収法によりCO含有ガス中のCOを吸収させたCO吸収液を加熱して、COを分離回収するCO回収方法であって、溶融高炉スラグに冷却水を吹き付けて粉砕急冷して高炉水砕スラグを得る際に発生するスラグ水砕水からヒートポンプ装置を用いて熱回収し、蒸気を生成して前記CO吸収液の加熱に利用すると共に、ヒートポンプ装置で熱回収して低温化したスラグ水砕水を前記溶融高炉スラグの冷却水の少なくとも一部として循環利用する、化学吸収法によるCO回収方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO含有ガス中のCOを吸収させたCO吸収液を加熱してCOを分離回収するCO回収方法であって、
溶融高炉スラグに冷却水を吹き付けて粉砕急冷して高炉水砕スラグを得る際に発生するスラグ水砕水からヒートポンプ装置を用いて熱回収し、蒸気を生成して前記CO吸収液の加熱に利用すると共に、ヒートポンプ装置で熱回収して低温化したスラグ水砕水を前記溶融高炉スラグの冷却水の少なくとも一部として循環利用することを特徴とする、CO吸収液を加熱してCOを分離回収するCO回収方法。
【請求項2】
前記CO含有ガスが、製鉄所内で発生したCO含有ガスである請求項1に記載のCO回収方法。
【請求項3】
前記CO含有ガスが、高炉ガスである請求項2に記載のCO回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、CO含有ガス中のCOを吸収させたCO吸収液を加熱してCOを分離回収するCO回収方法に関し、詳しくは、溶融高炉スラグから高炉水砕スラグを得る際に発生するスラグ水砕水からヒートポンプ装置を用いて熱回収して、CO吸収液の加熱に利用すると共に、熱回収後に低温化したスラグ水砕水を溶融高炉スラグの冷却水として循環利用するCO回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO2)削減が求められているなか、COの排出抑制や省エネ技術の開発といった抜本的な対策のほか、排出されたCOを分離して回収する技術が種々検討されている。なかでも、鉄鋼プロセスにおいて大気放散されるCOの対策の重要性が高まっている。なお、COを分離して回収することについて、本発明では、「分離・回収」又は「分離回収」と表記する場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、製鉄所で発生する副生ガスをアミン液に溶解させて吸収し、そのアミン液を加熱する化学吸収法によって、製鉄所から排出されるCOを分離回収する技術開発が進められている。
【0004】
製鉄所で発生する副生ガスのうち、例えば、高炉ガス(BFG)は二酸化炭素比率が20%を超える。そのため、特許文献1のような方法によれば、大規模な二酸化炭素発生源のひとつである製鉄所においてCOの排出量を削減することができる。
【0005】
化学吸収法は、アミン類等を含む化学吸収液を用いて、吸収塔と呼ばれる二酸化炭素吸収設備で二酸化炭素(CO2)を含むCO含有ガスと化学吸収液とを常温程度で接触させ、化学吸収液にCOを吸収させる。次いで、COを吸収したCO吸収液を吸収液再生設備である再生塔に送り出し、加熱してCO吸収液からCOを分離回収する。このとき再生された化学吸収液は、吸収塔に戻すことで、吸収塔と再生塔との間で循環利用される。
【0006】
ここで、先の特許文献1では、化学吸収法によるCOの分離回収に際して、製鉄所で発生する排熱を利用することができるとしており、利用可能な排熱として、焼結成品クーラーからの排熱(約350℃)、焼結主排気ガス(約280℃)、熱風炉排ガス(約230℃)、焼結主排気ガス(約180℃)、溶融高炉スラグの水砕に用いた排水(約90℃)等を例示している。これらは比較的温度が低い低品位排熱(500℃以下)であるが、これより温度の高い500℃を超える高品位排熱は発電や加熱等で既に利用されており、また、上記のような化学吸収法によるCOの分離回収プロセスには、高品位排熱はかえって熱エネルギーが高すぎてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-292298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発(COURSE50)におけるCOの分離回収について、所定の粗鋼生産量の一貫製鉄所をモデルとして、そこから放散されるCOの回収目標量が随時定められている。化学吸収法によるCOの分離回収では、これまでの研究開発によりCOの回収に必要な加熱温度は低減しており、現在では115℃の飽和蒸気を用いることもできる。同様に必要な熱エネルギー量も低減しているが、多量のCOを分離回収するためには多量の熱エネルギー量が必要となる。このような大量の熱を供給する手段として、例えば、都市ガスを燃焼させて賄うことも考えられるが、高い燃料費が必要になるだけでなく、燃焼に伴いCOが発生することになってしまう。そのため、この解決策のひとつとして、更なる未利用排熱の活用とそれを安価に実現できる方法が求められている。
【0009】
先の特許文献1では、化学吸収法によるCOの分離回収に際して、いくつかの例を挙げながら低品位排熱の利用について開示するが、COを吸収させたCO吸収液を加熱してCOを分離回収するためには100℃を超える蒸気が必要になる。つまり、先の特許文献1で例示された低品位排熱のうち、溶融高炉スラグの水砕に用いた排水(約90℃)、すなわち溶融高炉スラグに冷却水を吹き付けて粉砕急冷して高炉水砕スラグを得る際に発生するスラグ水砕水は、これまで化学吸収液の予熱に用いることはできても、CO吸収液を加熱してCOを回収する(アミン液を再生)する際に利用することはできていない。
【0010】
そこで、本発明者らは、化学吸収法でのCO吸収液の加熱に必要な熱エネルギーとして、上記のようなスラグ水砕水を活用する手段について鋭意検討した結果、蒸気の生成が可能なヒートポンプ装置を用いてスラグ水砕水から熱回収し、また、熱回収後のスラグ水砕水は溶融高炉スラグの冷却水として利用することで、スラグ水砕水をCOの回収(アミン液の再生)に用いることができると共に、高炉水砕スラグを得るにあたり循環利用することが可能になることから、本発明を完成させた。
【0011】
したがって、本発明の目的は、100℃に達しない極めて低品位な排熱であるスラグ水砕水を用いて、化学吸収法におけるCO吸収液からCOを回収することができると共に、高炉水砕スラグを得る上での循環利用が可能となり、トータルコストが抑制された化学吸収法でのCO回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)CO含有ガス中のCOを吸収させたCO吸収液を加熱してCOを分離回収するCO回収方法であって、
溶融高炉スラグに冷却水を吹き付けて粉砕急冷して高炉水砕スラグを得る際に発生するスラグ水砕水からヒートポンプ装置を用いて熱回収し、蒸気を生成して前記CO吸収液の加熱に利用すると共に、ヒートポンプ装置で熱回収して低温化したスラグ水砕水を前記溶融高炉スラグの冷却水の少なくとも一部として循環利用することを特徴とする、CO吸収液を加熱してCOを分離回収するCO回収方法。
(2)前記CO含有ガスが、製鉄所内で発生したCO含有ガスである(1)に記載のCO回収方法。
(3)前記CO含有ガスが、高炉ガスである(2)に記載のCO回収方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のCO回収方法では、化学吸収法におけるCO吸収液の加熱に必要な熱エネルギーの一部を極めて低品位な排熱であるスラグ水砕水で賄うことができるようになる。特に、製鉄所で排出されるCOを大規模に回収するためには多量の熱が必要となるが、本発明によればそれを安価に供給することができるようになる。しかも、熱回収後のスラグ水砕水は溶融高炉スラグの冷却水の少なくとも一部に利用することができて、高炉水砕スラグを得る上での循環利用が可能になることから、トータルでのコスト抑制にもつながる。加えて、製鉄所で排出されるCOの主要な回収対象である高炉ガス(BFG)と発生個所が同じであるため(ともに高炉)、回収した熱の輸送を大掛かりに行う必要がないことも含めて、工業的に実現可能な極めて有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、高炉水砕スラグを得るスラグ水砕プロセスとCO吸収液を加熱してCOを分離回収するCO回収プロセスとを組み合わせた本発明の第1の実施形態に係る方法について、スラグ水砕水の熱収支と物質収支に基づき説明した模式図である。
図2図2は、冷却塔とヒートポンプ装置とを並列に設置した本発明の第2の実施形態に係る方法について説明した模式図である。
図3図3は、冷却塔とヒートポンプ装置(圧縮式ヒートポンプ装置の場合)とを直列に設置した本発明の第3の実施形態に係る方法について説明した模式図である。
図4図4は、冷却塔とヒートポンプ装置(吸収式ヒートポンプ装置の場合)とを直列に設置した本発明の第3の実施形態に係る方法について説明した模式図である。
図5図5は、冷却塔とヒートポンプ装置とを直列及び並列に設置した本発明の第4の実施形態に係る方法について説明した模式図である。
図6図6(a)は化学吸収法による従来のCO分離回収プロセスを示す模式図であり、図6(b)は本発明における化学吸収法でのCO分離回収プロセスを示す模式図である。
図7図7は、高炉水砕スラグを得るスラグ水砕プロセスについて、スラグ水砕水の熱収支と物質収支に基づき説明した従来法(既存プロセス)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いながら、本発明について詳しく説明する。
本発明では、化学吸収法によりCO含有ガス中のCOを吸収させたCO吸収液を加熱してCOを分離回収するにあたり、溶融高炉スラグに冷却水を吹き付けて粉砕急冷して高炉水砕スラグを得る際に発生するスラグ水砕水を利用する。すなわち、このスラグ水砕水からヒートポンプ装置を用いて熱回収し、蒸気を生成して、化学吸収法におけるCO吸収液の加熱に利用すると共に、ヒートポンプ装置で熱回収して低温化したスラグ水砕水を溶融高炉スラグの冷却水の少なくとも一部として循環利用する。
【0016】
製鉄所には多種多様な排熱源が存在するが、なかでも大きな排熱源として、高炉水砕スラグを得る際のスラグ水砕水がある。高炉スラグは高炉で銑鉄を製造する際に発生するものであり、いわゆる溶岩のような溶融状態で排出される。この溶融した高炉スラグを副生物として利用するには、溶融高炉スラグに多量の水(冷却水)を吹き付けて急冷し、水砕する必要があり、その際に発生するのがスラグ水砕水である。なお、得られた高炉水砕スラグは砂状であり、しかもセメントと同様な組成を有して、時間の経過と共に潜在水硬性を発揮することから、更に微粉砕してセメント原料にするなど、広く利用されている。
【0017】
ここで、図7には、高炉水砕スラグを得るにあたり、スラグ水砕水の熱収支と物質収支に基づき説明した既存プロセスが模式的に示されている。ここではスラグ水砕水100t/h当りで記載する。なお粗鋼生産量800万t-steel/y規模の一貫製鉄所では1,000t/h以上のスラグ水砕水が使用されている。
【0018】
先ず、溶融高炉スラグに60℃の水(冷却水)を噴射して高炉水砕スラグを得るスラグ水砕プロセスから、80℃のスラグ水砕水(図中では単に水砕水とする、以下同様)95t/hが回収される。その際、溶融高炉スラグの冷却により蒸発した水蒸気が系外に5t/hで放散される。次いで、回収された80℃のスラグ水砕水95t/hが冷却塔に送られて、62℃まで冷却される。そして、冷却塔で冷却された62℃のスラグ水砕水に新たな水を25℃で8t/h補給して60℃のスラグ水砕水100t/hとして、溶融高炉スラグの冷却に再使用する。
【0019】
図7では、冷却塔においてスラグ水砕水が冷却される際に発生する水の損失も示されている。先のスラグ水砕プロセスから回収された80℃のスラグ水砕水95t/hは冷却塔で63℃まで冷却される。このとき、3t/hが水蒸気として系外に放散されるため(スラグ水砕水の一部を蒸発させて系外放散することで自身の温度を下げるため)、新たに25℃の補給水8t/hを補給して60℃のスラグ水砕水100t/hにして、次の溶融高炉スラグの冷却に再使用する。
【0020】
高炉水砕スラグを得る際に回収される(排出される)スラグ水砕水は、一貫製鉄所に特有の排熱である。上述したように、その温度は80~90℃程度と低い排温水であるが、膨大な熱量を有している。加えて、製鉄所で排出されるCOの主要な回収対象である高炉ガス(BFG)と発生個所が同じであるため(ともに高炉)、回収した熱の輸送を大掛かりにする必要がない。そのため、CO回収に利用する上でスラグ水砕水は好都合である。ところが、CO吸収液を加熱してCOを分離回収するには115℃飽和蒸気が必要であることから、それよりも温度が低いスラグ水砕水はこれまで利用されてこなかった。
【0021】
そこで、本発明では、スラグ水砕水から蒸気の生成が可能なヒートポンプ装置を使用して、化学吸収法におけるCO吸収液を加熱してCOの分離回収を行う。すなわち、上述した既存プロセス(図7)に沿って説明すれば、本発明の第1の実施形態として、図1に示したように、蒸気の生成が可能なヒートポンプ装置により、スラグ水砕プロセスから回収された80℃のスラグ水砕水を62℃まで冷却し(熱回収し)、回収した熱で115℃飽和蒸気4t/hを製造する。得られた115℃飽和蒸気は化学吸収法のCO回収プロセスでのCO吸収液の加熱に用いる。一方、ヒートポンプ装置で冷却された62℃のスラグ水砕水は、既存プロセスと同様、新たに25℃の補給水5t/hを補給して60℃のスラグ水砕水100t/hにして、次の溶融高炉スラグの冷却に再使用する。
【0022】
これにより、膨大な熱量を有したスラグ水砕水をCO吸収液の加熱に必要な熱エネルギーとして利用することができる。また、これまで冷却塔においてスラグ水砕水が冷却される際に水蒸気として系外に放散されていた損失がなくなることから、高炉水砕スラグの製造プロセスを含めたトータルでのコスト抑制にもつながり、製鉄所におけるCOの回収を持続可能にする。さらに、スラグ水砕水は、COの主要な回収対象である高炉ガスと発生個所が同じであることから、高炉ガスからCOを分離回収するにあたり、熱の輸送効率や設備構築の観点で極めて好適である。
【0023】
図1に示した例では、蒸気の生成が可能なヒートポンプ装置として、圧縮式ヒートポンプ装置を用いている。圧縮式ヒートポンプ装置は、冷媒が圧縮されると温度が上昇し、膨張する際には温度が低下する性質を利用して、熱を移動させるものである。なかでも、好適には、富士電機株式会社製の排温水熱回収型蒸気発生ヒートポンプを挙げることができる(https://www.fujielectric.co.jp/products/heat_pump/)。このヒートポンプ装置は、60~80℃かつ平均流量500~2000kg/h程度の排温水から排熱回収を行い、その熱を利用して120℃の飽和蒸気を発生させることができる。その際、水を高温冷媒で加熱する凝縮器内部において、水は一部が蒸気となる気液二相状態で加熱されるようにし、また、蒸気は上昇し、水は流下するサーモサイフォン方式を採用して、気液分離器から蒸発器(熱交換器)へと水を循環させて蒸気を生成する(再表2015/064347号公報)。ちなみに、このヒートポンプ装置にスラグ水砕水(80℃、95t/h)を供給して、スラグ水砕水の温度を62℃まで低下させる場合、製造可能な115℃蒸気量は4t/hであり、この蒸気量はCO回収量5t/hに相当する。
【0024】
本発明におけるヒートポンプ装置としては、温水(排温水)から蒸気を製造することができるものであればよく、上述した圧縮式ヒートポンプ装置のほか、吸収式ヒートポンプ装置や吸着式ヒートポンプ装置を用いることもできる。このうち、吸収式ヒートポンプ装置は、蒸発、吸収、再生、及び凝縮からなるサイクルにおける水の気化熱を利用したものである。一般に、熱源から熱を奪いながら冷媒(水)を水蒸気へと気化させる蒸発器、水蒸気を吸収液に吸収させる吸収器、吸収液を加熱して水分を蒸発させて吸収液を濃縮させる再生器、及び再生器で発生した水蒸気を水に戻す凝縮器を用いて、これらの処理を繰り返すことで、吸収器及び凝縮器で発生する熱で蒸気を生成する。このような吸収式ヒートポンプ装置の例として、好適には、日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社製の第二種吸収式ヒートポンプ等を挙げることができる。
【0025】
また、吸着式ヒートポンプ装置は、活性炭やシリカゲル等の吸着材と水蒸気等の作動媒体との吸着・脱着を熱エネルギーに変換するものである。一般に、吸着器、蒸発器、及び凝縮器から構成され、吸着器内には吸着材が充填されて、吸着材が冷媒を吸着及び脱着する際に生じる発熱、吸熱反応を利用して蒸気を生成する。
【0026】
なお、スラグ水砕水は、溶融高炉スラグに直接噴射されたものであるため、その中にスラグの粉などの汚れを含む。このような排水から熱回収を行うためには、先に述べた圧縮式ヒートポンプ装置のように、ヒートポンプ装置における排水との熱交換は、熱交換器を介した間接的なものであるのが望ましい。例えば、吸着材に排温水を直接注ぎ込む方式の吸着式ヒートポンプ装置(特開2015-64192号公報)では、スラグ水砕水のように汚れた排温水の使用は不向きである(使用できない)。
【0027】
本発明では、既存プロセスで使用する冷却塔と蒸気の生成が可能なヒートポンプ装置とを併用するようにしてもよい。すなわち、本発明の第2の実施形態として、例えば、図2に示すように、冷却塔とヒートポンプ装置を並列に設置して、必要な蒸気製造量(必要なCO回収量)に応じてヒートポンプ装置の使用規模を自由に設定することも可能である。冷却塔とヒートポンプ装置とを併用するにあたり、スラグ水砕プロセス及びCO回収プロセスは、本発明の第1の実施形態及び既存プロセスで説明したものと同様にすることができ、以下の第3、4の実施形態についても同様である。
【0028】
また、本発明の第3の実施形態として、図3に示すように、冷却塔とヒートポンプ装置を直列に設置するようにしてもよい。この場合についても、先の図2と同様に、必要な蒸気製造量(必要なCO回収量)に応じてヒートポンプ装置の使用規模を自由に設定することができる。加えて、冷却塔とヒートポンプ装置を直接に設置することで、ヒートポンプ装置のエネルギー消費効率(COP)を高めることが可能になり、電気使用量当りのCO回収量を増やすことができる。
【0029】
また、図4には、本発明の第3の実施形態について、図3の場合で示した圧縮式ヒートポンプに代えて吸収式ヒートポンプ装置を用いた例を示している。
【0030】
更には、本発明の第4の実施形態として、図5に示したように、ヒートポンプ装置にバイパスラインを設けて、冷却塔とヒートポンプ装置を直列及び並列に設置するようにしてもよい。これにより、ヒートポンプ装置の規模に応じてスラグ水砕水を適切な水量で供給することが可能になる。
【0031】
なお、本発明は、高炉水砕スラグを得る際に回収されるスラグ水砕水を用いて、化学吸収法におけるCO吸収液を加熱してCOを分離回収する方法であるが、スラグ水砕水と同様、製鉄所内で発生して比較的大きな熱量を有する他の排温水を利用して、CO吸収液を加熱することができる。このような他の排温水として、例えば、高温のCOG(コークス炉ガス)の精製過程においてタールを分離する際に発生する安水(アンモニア水)や、高温のLDG(転炉ガス)の水冷する際に発生するLDG冷却水等が挙げられる。これらもスラグ水砕水と同様に汚れを含むものであり、60~90℃程度の排温水である。
【0032】
本発明では、COを分離回収する対象のCO含有ガスについて、好適な例として高炉ガスを用いて説明したが、高炉ガスと同様、製鉄所内で発生してCOを比較的多く含む熱風炉排ガス、コークス炉排ガス、その他各種加熱炉排ガスや、製鉄所内に設置される火力発電所排ガス等のCO含有ガスからCOを分離回収するようにしてもよい。
【0033】
また、本発明において、CO含有ガス中のCOを吸収させたCO吸収液を加熱してCOを分離回収するにあたっては、公知の化学吸収法で採用されている方法と同様にすることができる。
【0034】
すなわち、化学吸収法によるCOの分離回収プロセスとして、一般的には、COをほぼ含まないアミン溶液等の吸収液(リーン吸収液(アミン液))が吸収塔の上部から噴霧される。その際にCO含有ガスと接触し、CO含有ガスからCOを吸収した吸収液(リッチ吸収液(アミン液))が吸収塔の底部から排出される。次いで、リッチ吸収液は、再生塔に送られてその塔頂から噴霧され、再生塔の塔下部に設置されたリボイラー内において蒸気等により加熱されてCOが放出される。放出されたCOは回収され、また、COの吸収量が減ったリーン吸収液は再生塔の底部から排出されて、再びCOの吸収に利用される。つまり、再生塔の塔下部に設置されたリボイラー内での蒸気による加熱に際して、本発明を適用することができ、図6に示したように、従来の蒸気製造プロセスの代わりに〔図6(a)〕、ヒートポンプ装置を用いるようにする〔図6(b)〕。
【0035】
上記では、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明に係るCO回収方法はこれらに限らず、可能な限りでこれらの組み合わせを含むことができる。
【0036】
本発明によれば、化学吸収法におけるCO吸収液の加熱に必要な熱エネルギーの一部を極めて低品位な排熱であるスラグ水砕水で賄うことができるようになる。特に、製鉄所で排出されるCOを大規模に回収するためには多量の熱が必要となるところ、本発明によれば、それを安価に供給することができるようになる。しかも、熱回収後のスラグ水砕水は溶融高炉スラグの冷却水の少なくとも一部に利用することができて、高炉水砕スラグを得る上での循環利用が可能になる。更に、スラグ水砕水は、製鉄所で排出されるCOの主要な回収対象である高炉ガスと発生個所が同じであるため、熱の輸送や熱効率の観点からも極めて好都合である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7