(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133764
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】圧電薄膜素子及び圧電トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20230920BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20230920BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20230920BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20230920BHJP
H10N 30/079 20230101ALI20230920BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230920BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/113
H01L41/09
H01L41/316
H01L41/319
C23C14/08
C23C14/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038942
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】森下 純平
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA02
4K029BA12
4K029BA17
4K029BA43
4K029BB02
4K029BB08
4K029CA05
(57)【要約】
【課題】大きい圧電性能指数(d
33,f/ε
rε
0)を有する圧電薄膜の提供。
【解決手段】圧電薄膜素子10は、電極層(第一電極層7)と、電極層に直接又は間接的に重なる圧電薄膜3と、を含む。圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含む。正方晶1の(001)面は、電極層の表面の法線方向D
Nにおいて配向している。正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いている。正方晶1の(001)面の間隔は、c1である。正方晶1の(100)面の間隔は、a1である。正方晶2の(001)面の間隔は、c2である。正方晶2の(100)面の間隔は、a2である。c1/a1は、c2/a2よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層と、
前記電極層に直接又は間接的に重なる圧電薄膜と、
を備え、
前記圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含み、
前記正方晶1の(001)面は、前記電極層の表面の法線方向において配向しており、
前記正方晶2の(001)面は、前記正方晶1の前記(001)面に対して傾いており、
前記正方晶1の前記(001)面の間隔は、c1であり、
前記正方晶1の(100)面の間隔は、a1であり、
前記正方晶2の前記(001)面の間隔は、c2であり、
前記正方晶2の(100)面の間隔は、a2であり、
c1/a1は、c2/a2よりも大きい、
圧電薄膜素子。
【請求項2】
前記正方晶1の前記(001)面及び前記正方晶2の前記(001)面の間の角度の絶対値は、θ12であり、
前記θ12は、1.0°以上10.0°以下である、
請求項1に記載の圧電薄膜素子。
【請求項3】
前記c1/a1は、1.120以上1.270以下である、
請求項1又は2に記載の圧電薄膜素子。
【請求項4】
前記c2/a2は、1.010以上1.115以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項5】
前記正方晶1の前記(001)面の回折X線のピーク強度は、I1であり、
前記正方晶2の前記(001)面の回折X線のピーク強度は、I2であり、
100×I2/(I1+I2)は、0.30以上10.0以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項6】
前記正方晶1は、ビスマス、鉄、元素EB及び酸素を含み、
前記元素EBは、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニッケル及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項7】
前記正方晶1は、下記化学式1で表され、
下記化学式1中のEAは、Na、K、Ag及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
下記化学式1中のEB1は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
下記化学式1中のEB2は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
下記化学式1中の前記EB1及び前記EB2は、互いに異なり、
下記化学式1中のx1は、0.05以上0.90以下であり、
下記化学式1中のy1は、0.10以上0.95以下であり、
x1+y1は、1.00であり、
下記化学式1中のαは、0.00以上1.00以下であり、
下記化学式1中のβは、0.00以上1.00以下である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
x1(Bi1-αEA
α)(EB1
1-βEB2
β)O3‐y1BiFeO3 (1)
【請求項8】
前記正方晶2は、ビスマス、鉄、元素EB及び酸素を含み、
前記元素EBは、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニッケル及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項9】
前記正方晶2は、下記化学式2で表され、
下記化学式2中のEAは、Na、K、Ag及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
下記化学式2中のEB1は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
下記化学式2中のEB2は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
下記化学式2中の前記EB1及び前記EB2は、互いに異なり、
下記化学式2中のx2は、0.05以上0.90以下であり、
下記化学式2中のy2は、0.10以上0.95以下であり、
x2+y2は、1.00であり、
下記化学式2中のαは、0.00以上1.00以下であり、
下記化学式2中のβは、0.00以上1.00以下である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
x2(Bi1-αEA
α)(EB1
1-βEB2
β)O3‐y2BiFeO3 (2)
【請求項10】
結晶質基板及び第一中間層を更に備え、
前記第一中間層は、前記結晶質基板と前記電極層との間に配置されており、
前記第一中間層は、ZrO2及びY2O3を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項11】
第二中間層を更に備え、
前記第二中間層は、前記電極層と前記圧電薄膜との間に配置されており、
前記第二中間層は、BaTiO3、SrRuO3及びLaNiO3からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項12】
前記電極層は、白金の結晶を含み、
前記白金の結晶の(002)面は、前記電極層の前記表面の前記法線方向において配向しており、
前記白金の結晶の(200)面は、前記電極層の前記表面の面内方向において配向している、
請求項1~11のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子を備える、
圧電トランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電薄膜素子及び圧電トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体(piezoelectric material)は、種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工される。例えば、圧電アクチュエータは、圧電体に電圧を加えて圧電体を変形させる逆圧電効果により、電圧を力に変換する。また圧電センサは、圧電体に圧力を加えて圧電体を変形させ電気分極を生じさせる圧電効果により、力を電圧に変換する。これらの圧電素子は、様々な電子機器に搭載される。
【0003】
近年の市場では、電子機器の小型化及び性能の向上が要求されるため、圧電薄膜を用いた圧電素子(圧電薄膜素子)が盛んに研究されている。しかしながら、圧電体が薄いほど、圧電効果及び逆圧電効果が得られ難いため、薄膜の状態において優れた圧電性を有する圧電体の開発が期待されている。
【0004】
従来、圧電体として、ペロブスカイト(perоvskite)型強誘電体であるジルコン酸チタン酸鉛(いわゆるPZT)が多用されてきた。しかしながら、PZTは、人体及び環境を害する鉛(Pb)を含むため、PZTの代替として、無鉛(Lead‐free)の圧電体の開発が期待されている。例えば、下記非特許文献1には、無鉛の圧電体の一例として、BiFeO3が記載されている。BiFeO3は、無鉛の圧電体の中でも比較的優れた圧電性を有し、圧電薄膜素子への応用が特に期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.Kawahara et al, Control of Crystal Structure of BiFeO3 Epitaxial Thin Films by Adjusting Growth Conditions and Piezoelectric Properties, Japanese Journal of Applied Physics. 51 (2012) 09LB04
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧電体の性能を示す主な指標(圧電定数)は、d33,f(圧電歪定数)、及びg33(電圧出力定数)である。圧電歪定数d33,f(単位:pC/N)は、単位電界あたりの歪量(発信能)の指標である。圧電歪定数d33,fが大きいほど、アクチュエータとしての圧電体の性能が向上する。一方、電圧出力定数g33(単位×10-3V・m/N)は、単位応力あたりの発生電界強度(受信能)の指標である。電圧出力定数g33が大きいほど、トランスデューサ等のセンサとしての圧電体の性能が向上する。g33は、d33,f/εrε0又はd33,f/ε33ε0と表される。εr又はε33は、圧電体の比誘電率(単位:無し)である。ε0は、真空の誘電率(8.854×10-12Fm-1)である。d33,f/εrε0は、「圧電性能指数」と表記される。d33,fの増加に伴って圧電性能指数は増加し、εrの減少に伴って圧電性能指数は増加する。つまり、大きい圧電歪定数d33,fと低い比誘電率εrの両立により、圧電性能指数(d33,f/εrε0)が増加する。
【0007】
本発明の一側面の目的は、大きい圧電性能指数(d33,f/εrε0)を有する圧電薄膜素子、及び当該圧電薄膜素子を含む圧電トランスデューサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、電極層と、電極層に直接又は間接的に重なる圧電薄膜と、を含む。圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含む。正方晶1の(001)面は、電極層の表面の法線方向において配向している。正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いている。正方晶1の(001)面の間隔は、c1である。正方晶1の(100)面の間隔は、a1である。正方晶2の(001)面の間隔は、c2である。正方晶2の(100)面の間隔は、a2である。c1/a1は、c2/a2よりも大きい。
圧電薄膜素子。
【0009】
正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面の間の角度の絶対値は、θ12である。θ12は、1.0°以上10.0°以下であってよい。
【0010】
c1/a1は、1.120以上1.270以下であってよい。
【0011】
c2/a2は、1.010以上1.115以下であってよい。
【0012】
正方晶1の(001)面の回折X線のピーク強度は、I1である。正方晶2の(001)面の回折X線のピーク強度は、I2である。100×I2/(I1+I2)は、0.30以上10.0以下であってよい。
【0013】
正方晶1は、ビスマス、鉄、元素EB及び酸素を含んでよい。元素EBは、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニッケル及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
【0014】
正方晶1は、下記化学式1で表されてよい。下記化学式1中のEAは、Na、K、Ag及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。下記化学式1中のEB1は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。下記化学式1中のEB2は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。下記化学式1中のEB1及びEB2は、互いに異なる。下記化学式1中のx1は、0.05以上0.90以下であってよい。下記化学式1中のy1は、0.10以上0.95以下であってよい。x1+y1は、1.00であってよい。下記化学式1中のαは、0.00以上1.00以下であってよい。下記化学式1中のβは、0.00以上1.00以下であってよい。
x1(Bi1-αEA
α)(EB1
1-βEB2
β)O3‐y1BiFeO3 (1)
【0015】
正方晶2は、ビスマス、鉄、元素EB及び酸素を含んでよい。元素EBは、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニッケル及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
【0016】
正方晶2は、下記化学式2で表されてよい。下記化学式2中のEAは、Na、K、Ag及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。下記化学式2中のEB1は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。下記化学式2中のEB2は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。下記化学式2中のEB1及びEB2は、互いに異なる。下記化学式2中のx2は、0.05以上0.90以下であってよい。下記化学式2中のy2は、0.10以上0.95以下であってよい。x2+y2は、1.00であってよい。下記化学式2中のαは、0.00以上1.00以下であってよい。下記化学式2中のβは、0.00以上1.00以下であってよい。
x2(Bi1-αEA
α)(EB1
1-βEB2
β)O3‐y2BiFeO3 (2)
【0017】
本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、結晶質基板及び第一中間層を更に含んでよい。第一中間層は、結晶質基板と電極層との間に配置されてよい。第一中間層は、ZrO2及びY2O3を含んでよい。
【0018】
本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、第二中間層を更に含んでよい。第二中間層は、電極層と圧電薄膜との間に配置されてよい。第二中間層は、BaTiO3、SrRuO3及びLaNiO3からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含んでよい。
【0019】
電極層は、白金の結晶を含んでよい。白金の結晶の(002)面は、電極層の表面の法線方向において配向してよい。白金の結晶の(200)面は、電極層の表面の面内方向において配向してよい。
【0020】
本発明の一側面に係る圧電トランスデューサは、上記の圧電薄膜素子を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一側面によれば、大きい圧電性能指数(d33,f/εrε0)を有する圧電薄膜素子、及び当該圧電薄膜素子を含む圧電トランスデューサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1の(a)は、本発明の一実施形態に係る圧電薄膜素子の模式的な断面図であり、
図1の(b)は、圧電薄膜素子の斜視分解図である。
【
図2】
図2は、ペロブスカイト型構造(ペロブスカイト型酸化物)の単位胞の斜視図である。
【
図3】
図3の(a)は、正方晶1の単位胞の模式的な斜視図であり、
図3の(b)は、正方晶2の単位胞の模式的な斜視図である。
【
図4】
図4は、圧電薄膜中の正方晶1の(001)面、及び圧電薄膜中の正方晶2の(001)面を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の他の一実施形態に係る圧電薄膜素子(超音波トランスデューサ)の模式的な断面図である。
【
図6】
図6の(a)及び
図6の(b)は、本発明の実施例1の圧電薄膜素子に含まれる圧電薄膜に由来する回折X線の逆格子空間マップ(reciprocal space map)ある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態の詳細が説明される。ただし、本発明は下記実施形態に限定されない。図面において、同一又は同等の要素は、同一の符号が付される。
図1の(a)、
図1の(b)及び
図5に示されるX軸,Y軸及びZ軸は、互いに直交する三つの座標軸である。三つの座標軸其々の方向は、
図1の(a)、
図1の(b)及び
図5に共通する。
【0024】
本実施形態に係る圧電薄膜素子は、電極層と、電極層に直接又は間接的に重なる圧電薄膜と、を含む。
図1の(a)は、本実施形態に係る圧電薄膜素子10の断面図である。
図1の(a)に示される断面は、第一電極層7及び圧電薄膜3其々の表面に垂直である。圧電薄膜素子10は、結晶質基板8と、結晶質基板8に直接又は間接的に重なる第一電極層7(下部電極層)と、第一電極層7に直接又は間接的に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に直接又は間接的に重なる第二電極層4(上部電極層)と、を含む。圧電薄膜素子10は第一中間層5を更に含んでよい。第一中間層5は結晶質基板8と第一電極層7との間に配置されてよく、第一電極層7は第一中間層5の表面に直接重なっていてよい。圧電薄膜素子10は第二中間層6を更に含んでよい。第二中間層6は第一電極層7と圧電薄膜3との間に配置されてよく、圧電薄膜3は第二中間層6の表面に直接重なっていてよい。
図1の(b)は、圧電薄膜素子10の斜視分解図である。
図1の(b)に示される斜視分解図中では、結晶質基板8、第一中間層5、第二中間層6及び第二電極層4が省略されている。第一電極層7の表面の法線方向D
Nは、結晶質基板8、第一中間層5、第一電極層7、第二中間層6、圧電薄膜3及び第二電極層4が積層される方向(Z軸方向)と略平行であってよい。第一電極層7の表面の法線方向D
Nは、第一電極層7の厚み方向と言い換えられてよい。圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、第一電極層7の表面の法線方向D
Nと略平行であってよい。つまり、圧電薄膜3の表面は、第一電極層7の表面に略平行であってよい。圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、圧電薄膜3の厚み方向と言い換えられてよい。結晶質基板8、第一中間層5、第一電極層7、第二中間層6、圧電薄膜3及び第二電極層4其々の厚みは均一であってよい。
【0025】
圧電薄膜素子10の変形例は、結晶質基板8を含まなくてよい。例えば、第一電極層7及び圧電薄膜3の形成後、結晶質基板8が除去されてよい。圧電薄膜素子10の変形例は、第二電極層4を含まなくてよい。例えば、第二電極層を備えない圧電薄膜素子が、製品として、電子機器の製造業者に供給された後、電子機器の製造過程において、第二電極層が圧電薄膜素子に付加されてよい。結晶質基板8が電極層(第一電極層7)として機能する場合、圧電薄膜素子10の変形例は、第一電極層7を含まなくてよい。つまり圧電薄膜素子10の変形例は、電極層としての機能(導電性)を有する結晶質基板8と、結晶質基板8に直接又は間接的に重なる圧電薄膜3と、を含んでよい。圧電薄膜素子10の変形例が、第一電極層7を含まず、電極層として機能する結晶質基板8を含む場合、第一中間層5及び第二中間層6のうち少なくとも一つが圧電薄膜3と結晶質基板8との間に配置されてよい。圧電薄膜素子10の変形例が、第一電極層7を含まず、電極層として機能する結晶質基板8を含む場合、第一電極層7の表面の法線方向DNは、結晶質基板8の表面の法線方向と言い換えられてよい。
【0026】
圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含む。言うまでもなく、ペロブスカイト型酸化物とは、ペロブスカイト型構造を有する酸化物である。圧電薄膜3は、一つ以上の正方晶1と一つ以上の正方晶2とを含んでよい。圧電薄膜3は、一つ以上の正方晶1、及び一つ以上の正方晶2のみからなっていてよい。一つ以上の正方晶1、及び一つ以上の正方晶2が、圧電薄膜3中に混在してよい。圧電薄膜3は、一つ以上の正方晶1からなる一つ以上の第1ドメインを含んでよい。圧電薄膜3は、一つ以上の正方晶2からなる一つ以上の第2ドメインを含んでよい。例えば、一つ以上の第1ドメイン及び一つ以上の第2ドメインが、第一電極層7の表面に沿って(交互に)並んでいてよい。一つ以上の第1ドメイン及び一つ以上の第2ドメインが、第一電極層7の表面の法線方向DNに沿って(交互に)並んでいてもよい。各第1ドメインは、第一電極層7の表面の法線方向DNに沿って延びる柱状結晶であってよい。各第2ドメインは、第一電極層7の表面の法線方向DNに沿って延びる柱状結晶であってよい。圧電薄膜において正方晶1及び正方晶2を構成する元素の含有率の合計は、99%モル以上100モル%以下であってよい。
【0027】
正方晶1は、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、元素EB及び酸素(O)を含んでよい。元素EBは、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。正方晶1は、複数種の元素EBを含んでよい。例えば、正方晶1は、元素EBとして、EB1及びEB2を含んでよい。正方晶1は、Bi、Fe、EB及びO加えて、更に元素EAを含んでよい。元素EAは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)銀(Ag)及びバリウム(Ba)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。正方晶1は、複数種のEAを含んでよい。
正方晶2も、ビスマス、鉄、元素EB及び酸素を含んでよい。正方晶2に含まれる元素EBも、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニッケル及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。正方晶2も、複数種の元素EBを含んでよい。例えば、正方晶2は、元素EBとして、EB1及びEB2を含んでよい。正方晶2も、Bi、Fe、EB及びO加えて、更に元素EAを含んでよい。正方晶2に含まれる元素EAも、ナトリウム、カリウム、銀及びバリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。正方晶2も、複数種のEAを含んでよい。
正方晶1の組成は、正方晶2の組成と同じであってよい。正方晶1の組成は、正方晶2の組成と異なってもよい。正方晶1及び正方晶2其々の組成は、圧電薄膜3全体の組成と略同じであってよい。正方晶1及び正方晶2其々は、Bi、Fe、EA、EB及びO以外の他の元素を更に含んでもよい。正方晶1及び正方晶2其々は、Pbを含まなくてよい。正方晶1及び正方晶2其々は、Pbを含んでもよい。
【0028】
図2は、ペロブスカイト型酸化物の単位胞ucを示している。
図2中のa、b及びc其々は、ペロブスカイト構造の基本ベクトルである。単位胞ucのAサイトに位置する元素は、Bi又はE
Aであってよい。単位胞ucのBサイトに位置する元素は、Fe又はE
Bであってよい。
【0029】
図3の(a)は、正方晶1の単位胞uc1を示している。図示の便宜上、単位胞uc1を構成するE
B及びO(酸素)は省略されているが、
図3中の単位胞uc1は、
図2中の単位胞ucと同様のペロブスカイト構造を有している。
【0030】
図3の(a)中のa1、b1及びc1其々は、正方晶1の基本ベクトルである。
図3の(a)中のベクトルa1は、
図2中のベクトルaに対応する。
図3の(a)中のベクトルb1は、
図2中のベクトルbに対応する。
図3の(a)中のベクトルc1は、
図2中のベクトルcに対応する。a1、b1及びc1は、互いに垂直である。ベクトルa1(a軸)の方位は、[100]である。ベクトルb1(b軸)の方位は、[010]である。ベクトルc1(c軸)の方位は、[001]である。ベクトルa1の長さ(a1)は、正方晶1の(100)面の間隔(つまり[100]方向における格子定数)である。ベクトルb1の長さ(b1)は、正方晶1の(010)面の間隔(つまり[010]方向における格子定数)である。ベクトルc1の長さ(c1)は、正方晶1の(001)面の間隔(つまり[001]方向における格子定数)である。長さa1は、長さb1と等しい。長さc1は、長さa1よりも大きい。
【0031】
図3の(b)は、正方晶2の単位胞uc2を示している。図示の便宜上、単位胞uc2を構成するE
B及びO(酸素)は省略されているが、
図3の(b)の単位胞uc2は、
図2中の単位胞ucと同様のペロブスカイト構造を有している。
【0032】
図3の(b)中のa2、b2及びc2其々は、正方晶2の基本ベクトルである。
図3の(b)中のベクトルa2は、
図2中のベクトルaに対応する。
図3の(b)中のベクトルb2は、
図2中のベクトルbに対応する。
図3の(b)中のベクトルc2は、
図2中のベクトルcに対応する。a2、b2及びc2は、互いに垂直である。ベクトルa2(a軸)の方位は、[100]である。ベクトルb2(b軸)の方位は、[010]である。ベクトルc2(c軸)の方位は、[001]である。ベクトルa2の長さ(a2)は、正方晶2の(100)面の間隔(つまり[100]方向における格子定数)である。ベクトルb2の長さ(b2)は、正方晶2の(010)面の間隔(つまり[010]方向における格子定数)である。ベクトルc2の長さ(c2)は、正方晶2の(001)面の間隔(つまり[001]方向における格子定数)である。長さa2は、長さb2と等しい。長さc2は、長さa2よりも大きい。
【0033】
正方晶1のc1/a1は、正方晶2のc2/a2よりも大きい。つまり、正方晶1の異方性は、正方晶2の異方性よりも大きい。
図1及び
図3の(a)に示されるように、少なくとも一部又は全部の正方晶1(単位胞uc1)の(001)面は、第一電極層7の表面の法線方向D
Nにおいて配向している。例えば、少なくとも一部又は全部の正方晶1の(001)面が、第一電極層7の表面に略平行であってよい。少なくとも一部又は全部の正方晶1(単位胞uc1)の(001)面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向してよい。例えば、少なくとも一部又は全部の正方晶1の(001)面は、圧電薄膜3の表面に略平行であってよい。
【0034】
ペロブスカイト型酸化物の正方晶は、[001]方向において分極され易い。つまり[001]は、他の結晶方位に比べて、ペロブスカイト型酸化物の正方晶が分極され易い方位である。したがって、正方晶1の(001)面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向することにより、圧電薄膜3は優れた圧電性を有することができる。同様の理由から、圧電薄膜3は、強誘電体(ferroelectric material)であってよい。以下に記載の「結晶配向性」とは、正方晶1の(001)面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向していることを意味する。
【0035】
圧電薄膜3が、上記の結晶配向性を有することにより、圧電薄膜3は、大きい圧電性能指数(d33,f/εrε0)を有することができる。上記の結晶配向性は薄膜に固有の特徴である。薄膜とは、気相成長法又は溶液法等によって形成される結晶質の膜である。一方、圧電薄膜3と同じ組成を有する圧電体のバルクは上記の結晶配向性を有することは困難である。圧電体のバルクは、圧電体の必須元素を含む粉末の焼結体(セラミックス)であり、焼結体を構成する多数の結晶の構造及び配向性を制御することが困難であるからである。
【0036】
図4は、圧電薄膜3中の正方晶1の(001)面の配向方向、及び圧電薄膜3中の正方晶2の(001)面の配向方向を示す。ただし、圧電薄膜3における正方晶1及び正方晶2其々の配置は、
図4に示される配置に限定されない。
図4中の(001)‐T1は、正方晶1の(001)面を意味する。
図4中の(001)‐T2は、正方晶2の(001)面を意味する。
図4中の正方晶1の(001)面、及び
図4中の正方晶2の(001)面は、第一電極層7の表面の法線方向D
Nに対して平行に切断された圧電薄膜3の任意の断面において観察される。
図4に示されるように、少なくとも一部又は全部の正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いている。換言すれば、少なくとも一部又は全部の正方晶2の(001)面は、第一電極層7の表面の法線方向D
Nに対して垂直ではない。換言すれば、少なくとも一部又は全部の正方晶2の(001)面は、第一電極層7の表面に対して平行でなくてよい。
【0037】
正方晶1の結晶配向性と正方晶2の(001)面の傾きに因り、圧電薄膜3は大きい圧電性能指数(d33,f/εrε0)を有することができる。発明者は、下記のメカニズムにより、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数(d33,f/εrε0)を有することができる、と推察する。
【0038】
正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し、且つ正方晶1のc1/a1が正方晶2のc2/a2よりも大きいので、圧電薄膜3が正方晶1に由来する低い比誘電率εrを有し易い。更に、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾いているので、電界印加時に正方晶2の分極軸の回転が生じ易く、圧電薄膜3が正方晶2に由来する大きい圧電歪定数d33,fを有し易い。上記の理由から、低い比誘電率εrと大きい圧電歪定数d33,fが両立し、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数(d33/εrε0)を有することができる。
【0039】
上記のメカニズムは仮説であり、本発明の技術的範囲は上記のメカニズムによって限定されるものでない。
【0040】
例えば、圧電薄膜3の圧電性能指数(d33,f/εrε0)は、180×10-3V・m/N以上273×10-3V・m/N以下、又は200×10-3V・m/N以上246×10-3V・m/N以下であってよい。
例えば、圧電薄膜3の圧電歪定数d33,fは、62pC/N以上150pC/N以下、又は84pC/N以上129pC/N以下であってよい。
例えば、圧電薄膜3の比誘電率εr(又はε33)は、39以上89以下、又は41以上64以下であってよい。
【0041】
図4に示されるように、正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面の間の角度の絶対値は、θ
12である。θ
12は、1.0°以上10.0°以下であってよい。つまり、
図4において(001)‐T1と(001)‐T2との間の角度の絶対値θ
12は、1.0°以上10.0°以下であってよい。θ
12が1.0°以上である場合、正方晶2の(001)面が十分に傾いているので、圧電薄膜3が大きい圧電歪定数d
33,fを有し易い。θ
12が10°以下である場合、正方晶1の結晶配向性が損なわれ難く、圧電薄膜3が大きい圧電歪定数d
33,fを有し易い。
【0042】
第一電極層7又は第二中間層6に含まれる結晶(下部結晶)の(100)面の間隔は、aLと表される。aLはa1と等しくないことが好ましい。例えば、aLはa1よりも大きくてよい。aLはa1よりも小さくてもよい。格子不整合率Δaは、100×(aL-a1)/a1と定義される。例えば、格子不整合率Δaの絶対値は、3.0%以上12.1%以下であってよい。つまり、100×(aL-a1)/a1の絶対値は、3.0以上12.1以下あってよい。aLがa1と等しくなく、且つΔaの絶対値が上記範囲内である場合、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。a1は圧電薄膜3の組成及び結晶構造に依り、aLは第一電極層7又は第二中間層6の組成及び結晶構造に依る。したがって、圧電薄膜3、第一電極層7及び第二中間層6其々の組成及び結晶構造の選定及び組合せにより、格子不整合率Δaが制御されてよい。
【0043】
圧電薄膜3とは対照的に、圧電体のバルクでは、格子不整合に起因する結晶構造の歪みが起き難い。したがって、圧電体のバルクを構成する大多数のペロブスカイト型酸化物は立方晶であり、圧電体のバルクは、圧電薄膜3に比べて、ペロブスカイト型酸化物の正方晶に起因する圧電性を有し難い傾向がある。
【0044】
正方晶1及び正方晶2其々の各結晶面の間隔及び配向方向、並びにθ
12は、圧電薄膜3の表面の面外(оut-оf-plane)方向及び面内(in-plane)方向において測定される圧電薄膜3のX線回折(XRD)パターンに基づいて特定されてよい。正方晶1及び正方晶2其々の各結晶面の間隔及び配向方向は、逆格子空間マッピングによって特定されてもよい。つまり、正方晶1及び正方晶2は、圧電薄膜3のX線回折パターンの逆格子空間マップによって検出され、互いに識別されてよい。逆格子空間マップは、逆格子空間における回折X線の強度の分布図と言い換えられてよい。例えば、逆格子空間マップは、ω軸、φ軸、χ軸、2θ軸、及び2θχ軸からなる群より選ばれる二つ以上の走査軸に沿って、圧電薄膜3の回折X線の強度を測定することによって得られてよい。例えば、逆格子空間マップは、ωスキャン及び2θ/ωスキャンによって測定されたX線回折パターンから構成されてよい。逆格子空間マップは、直交する横軸及び縦軸から構成される座標系における二次元のマップであってよい。二次元の逆格子空間マップの横軸は、圧電薄膜3の表面の面内方向における格子定数の逆数に対応する値を示してよい。例えば、逆格子空間マップの横軸は、(100)面の間隔aの逆数(つまり1/a)に対応する値を示してよい。二次元の逆格子空間マップの縦軸は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおける格子定数の逆数に対応する値を示してよい。例えば、逆格子空間マップの縦軸は、(001)面の間隔cの逆数(つまり1/c)に対応する値を示してよい。逆格子空間マップは複数のスポットを含む。一つのスポットは、正方晶1及び正方晶2のうちいずれかの結晶の一つの結晶面に由来する回折X線に対応する。逆格子空間マップ中の一つのスポットの座標から、正方晶1及び正方晶2のうちいずれかの結晶の一つの結晶面の間隔及び配向方向が特定されてよい。
図6の(a)及び
図6の(b)は、圧電薄膜3の逆格子空間マップの一例である。
図6の(a)中のS‐T1は、正方晶1の(003)面に対応するスポットである。
図6の(a)中のS‐T2は、正方晶2の(003)面に対応するスポットである。
図6の(b)中のS‐T1は、正方晶1の(103)面に対応するスポットである。
図6の(b)中のS‐T2は、正方晶2の(103)面に対応するスポットである。S‐T1の座標とS‐T2の座標との差が、正方晶1の(003)面(及び(001)面)に対する正方晶2の(003)面(及び(001)面)の傾きを示唆している。つまり、S‐T1の座標とS‐T2の座標との差が、θ
12を示唆している。
【0045】
正方晶1のc1/a1は、1.120以上1.270以下、又は1.120以上1.267以下であってよい。c1/a1が1.120以上である場合、圧電薄膜3が正方晶1に由来する低い比誘電率を有し易く、圧電薄膜3の圧電性能指数が増加し易い。c1/a1が1.270以下である場合、正方晶1の分極反転が起き易く、圧電薄膜3の圧電性能指数が増加し易い。例えば、c1は4.420Å以上4.700Å以下であってよい。例えば、a1は3.700Å以上3.940Å以下であってよい。
【0046】
c2/a2は、1.010以上1.115以下、又は1.014以上1.111以下であってよい。c2/a2が上記範囲内であることに因り、正方晶2の分極反転が起き易く、圧電薄膜3が正方晶2に由来する大きいd33,fを有し易く、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有し易い。c2/a2が上記の範囲外である場合、正方晶2の比誘電率が高過ぎたり、正方晶2自体の圧電性が劣化したりする傾向がある。例えば、c2は4.000Å以上4.215Å以下であってよい。例えば、a2は、3.781Å以上3.961Å以下、又は3.843Å以上3.961Å以下であってよい。
【0047】
圧電薄膜3は、正方晶1及び正方晶2以外の微量の結晶を更に含んでよい。
例えば、圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶として、第3正方晶を更に含んでよい。第3正方晶の(001)面は、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。第3正方晶の(001)面の間隔は、c3である。第3正方晶の(100)面の間隔は、a3である。c3/a3は、c1/a1より小さくてよい。第3正方晶のc3/a3は、1.010以上1.115以下であってよい。第3正方晶の組成は、正方晶1又は正方晶2の組成と同じであってよい。第3正方晶の組成は、正方晶1又は正方晶2の組成と異なってもよい。(001)面が配向する方向を除いて、第3正方晶は正方晶2と同じであってよい。
例えば、圧電薄膜3はペロブスカイト型酸化物の菱面体晶を更に含んでよい。菱面体晶の(001)面は、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。菱面体晶の(001)面の間隔a4は、第3正方晶の(001)面の間隔c3と略同じであってよい。菱面体晶の組成は、正方晶1、正方晶2又は第3正方晶の組成と同じであってよい。菱面体晶の組成は、正方晶1、正方晶2又は第3正方晶の組成と異なってもよい。
【0048】
正方晶1の(001)面の回折X線のピーク強度(最大強度)は、I1である。正方晶2の(001)面の回折X線のピーク強度(最大強度)は、I2である。100×I2/(I1+I2)は、0.30以上10.0以下、又は0.40以上9.80以下であってよい。100×I1/(I1+I2)が上記範囲内である場合、正方晶1に由来する低い比誘電率(εr)と、正方晶2に由来する大きい圧電歪定数(d33,f)と両立し易い。その結果、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有し易い。I1及びI2其々の単位は、例えば、cps(cоunts per secоnd)であってよい。I1及びI2は、圧電薄膜3の表面におけるоut-оf-plane測定によって特定されてよい。I1及びI2其々がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、I1及びI2其々の測定条件が設定されてよい。
【0049】
I1は、正方晶1の(001)面の総面積に比例してよく、I2は、正方晶2の(001)面の総面積に比例してよい。換言すれば、I1は、圧電薄膜3に含まれる正方晶1の量に比例してよく、I2は、圧電薄膜3に含まれる正方晶2の量に比例してよい。したがって、I2/(I1+I2)は、正方晶1及び正方晶2の合計量に対する正方晶2の存在比であってよい。つまり、正方晶1及び正方晶2の合計量に対する正方晶2の存在比I2/(I1+I2)は、0.30%以上10.0%未満であってよい。
【0050】
正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向の程度は、配向度によって定量化されてよい。正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向度が大きいほど、圧電薄膜3は大きい圧電性能指数を有し易い。各結晶面の配向度は、各結晶面に由来する回折X線のピークに基づいて算出されてよい。各結晶面に由来する回折X線のピークは、圧電薄膜3の表面におけるоut-оf‐plane測定によって測定されてよい。
正方晶1の(001)面の配向度は、100×I1/ΣI1(hkl)と表されてよい。ΣI1(hkl)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶1の各結晶面の回折X線のピーク強度の総和である。ΣI1(hkl)は、例えば、I1(001)+I1(110)+I1(111)であってよい。I1(001)は、上述のI1である。つまりI1(001)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶1の(001)面の回折X線のピーク強度(最大強度)である。I1(110)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶1の(110)面の回折X線のピーク強度(最大強度)である。I1(111)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶1の(111)面の回折X線のピーク強度(最大強度)である。
正方晶2の(001)面の配向度は、100×I2/ΣI2(hkl)と表されてよい。ΣI2(hkl)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶2の各結晶面の回折X線のピーク強度の総和である。ΣI2(hkl)は、例えば、I2(001)+I2(110)+I2(111)であってよい。I2(001)は、上述のI2である。つまりI2(001)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶2の(001)面の回折X線のピーク強度(最大強度)である。I2(110)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶2の(110)面の回折X線のピーク強度(最大強度)である。I2(111)は、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において測定される正方晶2の(111)面の回折X線のピーク強度(最大強度)である。
正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向の程度は、ロットゲーリング(Lotgering)法に基づく配向度Fによって定量化されてもよい。上記のいずれの方法で配向度が算出される場合であっても、正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向度は、70%以上100%以下、好ましくは80%以上100%以下、より好ましくは90%以上100%以下であってよい。換言すれば、正方晶1の(001)面は、正方晶1の他の結晶面に優先して、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。正方晶2の(001)面は、正方晶2の他の結晶面に優先して、圧電薄膜3の表面のоut-оf‐plane方向において配向してよい。
【0051】
正方晶1は、下記化学式1で表されてよい。下記化学式1は、下記化学式1aと実質的に同じである。
x1(Bi1-αEA
α)(EB1
1-βEB2
β)O3‐y1BiFeO3 (1)
(Bix1(1-α)+y1EA
x1α)(EB1
x1(1-β)EB2
x1βFey1)O3±δ (1a)
【0052】
上記化学式1中のx1+y1は、1.00であってよい。上記化学式1中のEAは、Na、K、Ag及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。上記化学式1中のEB1は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。上記化学式1中のEB2は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。EB1及びEB2は、互いに異なる。α、β、x1及びy1其々の単位は、モルであってよい。
【0053】
上記化学式1a中のBix1(1-α)+y1EA
x1αは、ペロブスカイト構造のAサイトに位置する元素に対応する。上記化学式1a中のEB1
x1(1-β)EB2
x1βFey1は、ペロブスカイト構造のBサイトに位置する元素に対応する。
【0054】
上記化学式1中のx1は、0.05以上0.90以下であってよい。x1が0.05以上0.90以下である場合、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。
【0055】
上記化学式1中のy1は、0.10以上0.95以下であってよい。y1が0.10以上0.95以下である場合、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。
【0056】
上記化学式1中のαは、0.00以上1.00以下であってよい。αは、0.00又は0.50であってよい。上記化学式1中のβは、0.00以上1.00以下であってよい。βは、0.00又は0.50であってよい。
【0057】
上記化学式1aにおけるδは、0以上であってよい。正方晶1の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、δは、0以外の値であってよい。例えば、δは、0より大きく1.0以下であってよい。δは、例えば、正方晶1におけるAサイト及びBサイト其々に位置する各イオンの価数から算出されてよい。各イオンの価数は、X線光電子分光(XPS)法により測定されてよい。
【0058】
正方晶1に含まれるBi及びEAのモル数の合計値は、[A]1と表されてよく、正方晶1に含まれるEB1、EB2及びFeのモル数の合計値は、[B]1と表されてよく、[A]1/[B]1は1.0であってよい。正方晶1の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、[A]1/[B]1は1.0以外の値であってよい。つまり、[A]1/[B]1は1.0未満であってよく、[A]1/[B]1は1.0より大きくてもよい。
【0059】
正方晶2は、下記化学式2で表されてよい。下記化学式2は、下記化学式2aと実質的に同じである。
x2(Bi1-αEA
α)(EB1
1-βEB2
β)O3‐y2BiFeO3 (2)
(Bix2(1-α)+y2EA
x2α)(EB1
x2(1-β)EB2
x2βFey2)O3±δ (2a)
【0060】
上記化学式2中のx2+y2は、1.00であってよい。上記化学式2中のEAは、Na、K、Ag及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。上記化学式2中のEB1は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。上記化学式2中のEB2は、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。EB1及びEB2は、互いに異なる。α、β、x2及びy2其々の単位は、モルであってよい。
【0061】
上記化学式2中のEAは、上記化学式1中のEAと同じであってよく、異なってもよい。上記化学式2中のEB1は、上記化学式1中のEB1と同じであってよく、異なってもよい。上記化学式2中のEB2は、上記化学式1中のEB2と同じであってよく、異なってもよい。上記化学式2中のx2は、上記化学式1中のx1と同じであってよく、異なってもよい。上記化学式2中のy2は、上記化学式1中のy1と同じであってよく、異なってもよい。上記化学式2中のαは、上記化学式1中のαと同じであってよく、異なってもよい。上記化学式2中のβは、上記化学式1中のβと同じであってよく、異なってもよい。
【0062】
上記化学式2a中のBix2(1-α)+y2EA
x2αは、ペロブスカイト構造のAサイトに位置する元素に対応する。上記化学式2a中のEB1
x2(1-β)EB2
x2βFey2は、ペロブスカイト構造のBサイトに位置する元素に対応する。
【0063】
上記化学式2中のx2は、0.05以上0.90以下であってよい。x2が0.05以上0.90以下である場合、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。
【0064】
上記化学式2中のy2は、0.10以上0.95以下であってよい。y2が0.10以上0.95以下である場合、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。
【0065】
上記化学式2中のαは、0.00以上1.00以下であってよい。αは、0.00又は0.50であってよい。上記化学式2中のβは、0.00以上1.00以下であってよい。βは、0.00又は0.50であってよい。
【0066】
上記化学式2aにおけるδは、0以上であってよい。正方晶2の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、δは、0以外の値であってよい。例えば、δは、0より大きく1.0以下であってよい。δは、例えば、正方晶2におけるAサイト及びBサイト其々に位置する各イオンの価数から算出されてよい。各イオンの価数は、X線光電子分光(XPS)法により測定されてよい。
【0067】
正方晶2に含まれるBi及びEAのモル数の合計値は、[A]2と表されてよく、正方晶2に含まれるEB1、EB2及びFeのモル数の合計値は、[B]2と表されてよく、[A]2/[B]2は1.0であってよい。正方晶2の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、[A]2/[B]2は1.0以外の値であってよい。つまり、[A]2/[B]2は1.0未満であってよく、[A]2/[B]2は1.0より大きくてもよい。
【0068】
圧電薄膜3はエピタキシャル膜であってよい。つまり、圧電薄膜3は、エピタキシャル成長によって形成されてよい。エピタキシャル成長により、異方性及び結晶配向性に優れた圧電薄膜3が形成され易い。
【0069】
例えば、第一電極層7の表面の法線方向DNにおける圧電薄膜3の厚みは、500nm以上10000nm以下であってよい。圧電薄膜3の厚みは、第一電極層7の表面の法線方向DNに平行な圧電薄膜3の断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定されてよい。結晶質基板8、第一中間層5、第一電極層7、第二中間層6、圧電薄膜3及び第二電極層4は、圧電薄膜3の断面の反射電子像における輝度の違いに基づいて識別されてよい。結晶質基板8、第一中間層5、第一電極層7、第二中間層6及び第二電極層4其々の厚みは、圧電薄膜3の厚みと同様の方法で測定されてよい。
【0070】
例えば、圧電薄膜3の表面の面積は、1μm2以上500mm2以下であってよい。結晶質基板8、第一中間層5、第一電極層7、第二中間層6及び第二電極層4其々の面積は、圧電薄膜3の面積と同じであってよい。
【0071】
圧電薄膜3の組成は、例えば、蛍光X線分析(XRF)法、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法及び光電子分光(XPS)法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法によって分析されてよい。第一電極層7の表面の法線方向DNに略平行な方向に圧電薄膜3が切断され、圧電薄膜3の断面の分析によって正方晶1及び正方晶2其々の組成が特定されてよい。圧電薄膜3の断面の分析には、走査型電子顕微鏡(SEM)又は走査型透過電子顕微鏡(STEM)に備わるエネルギー分散型X線分析(EDS)装置が用いられてよい。圧電薄膜3の結晶構造及び結晶配向性は、常温における結晶構造及び結晶配向性であってよい。
【0072】
圧電薄膜3は、下記の成膜工程によって第一電極層7又は第二中間層6の表面に直接形成される。成膜工程では、ターゲットを用いたパルスレーザー堆積(Pulsed-laser deposition; PLD)法により、圧電薄膜3が形成される。ターゲットは、圧電薄膜3の原料である。ターゲットは、圧電薄膜3を構成する全ての元素と共通する全ての元素から構成されてよい。ターゲットの組成は、ターゲットを構成する各元素のモル比が圧電薄膜3を構成する各元素のモル比と略一致するように調整されてよい。例えば、ターゲットを構成する各元素のモル比は、上記化学式1又は上記化学式2を構成する各元素のモル比と略一致してよい。
【0073】
PLD法では、パルスレーザー光をターゲットに照射することにより、ターゲットを構成する元素がプラズマ化され、蒸発する。PLD法によれば、ターゲットを構成する各元素を一瞬で均一にプラズマ化することができる。その結果、圧電薄膜3中の各元素のモル比が、各ターゲット中の各元素のモル比と略一致し易く、圧電薄膜3における元素の偏析が抑制され易い。またPLD法によれば、圧電薄膜3がエピタキシャルに成長し易く、原子レベルで緻密である圧電薄膜3が形成され易い。例えば、パルスレーザー光は、波長が248nmであるKrFレーザー等のエキシマレーザーであってよい。
【0074】
PLD法では、パルスレーザー光のフルエンス(Fluence)が制御される。フルエンスは、ターゲットに照射されるパルレーザー光のエネルギー密度(単位:mJ/cm2)と言い換えられる。パルスレーザー光のフルエンスは、ターゲットの表面の単位面積当たりのパルスレーザー光のエネルギーと言い換えられてもよい。パルスレーザー光のフルエンスは、8mJ/cm2以上12mJ/cm2以下であってよい。パルスレーザー光のフルエンスが8mJ/cm2以上12mJ/cm2以下である場合、圧電薄膜3のエピタキシャル成長の速度が適度に抑制され、圧電薄膜3と第一電極層7との間の格子格子不整合、又は圧電薄膜3と第二中間層6との間の格子格子不整合が、圧電薄膜3の成長に適度に影響する。その結果、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。パルスレーザー光のフルエンスが8mJ/cm2未満である場合、圧電薄膜3が結晶性を有し難く、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し難い。パルスレーザー光のフルエンスが12mJ/cm2よりも大きい場合、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き難い。つまり、パルスレーザー光のフルエンスが12mJ/cm2よりも大きい場合、圧電薄膜3のエピタキシャル成長の速度が速過ぎるため、上記の格子格子不整合が圧電薄膜3の成長に影響し難い。その結果、正方晶1の(001)面だけではなく、正方晶2の(001)面も第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易い。
【0075】
PLD法では、パルスレーザー光のパルス数(繰り返し周波数)を変えることにより、圧電薄膜3の成長速度、正方晶1及び正方晶2其々の異方性及び配向性が制御されてよい。パルスレーザー光の繰り返し周波数の減少に伴って、圧電薄膜3の成長速度は減少し、正方晶1及び正方晶2其々の異方性、及び正方晶1及び正方晶2其々の結晶面の配向性は高まる。例えば、成膜工程におけるパルスレーザー光の繰り返し周波数fは、約10Hzであってよい。パルスレーザー光の繰り返し周波数fが10Hzである場合、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。
【0076】
圧電薄膜3の原料であるターゲットは、以下の方法により作製されてよい。
【0077】
ターゲットの出発原料として、例えば、Bi、EA、EB及びFe其々の酸化物が用いられてよい。出発原料として、酸化物に代えて、炭酸塩又はシュウ酸塩等のように、焼成により酸化物になる物質が用いられてもよい。これらの出発原料を100℃以上で十分に乾燥した後、Bi、EA、EB及びFe其々のモル比が、圧電薄膜3中における各元素のモル比に一致するように、各出発原料が秤量される。成膜工程において、ターゲット中のBiは他の元素に比べて揮発し易い。したがって、ターゲット中のBiのモル比は、圧電薄膜3中のBiのモル比よりも高い値に調整されてよい。EAとしてKを含む原料が用いられる場合、成膜工程において、ターゲット中のKは他の元素に比べて揮発し易い。したがって、ターゲット中のKのモル比は、圧電薄膜3中のKのモル比よりも高い値に調整されてよい。
【0078】
秤量された出発原料は、有機溶媒又は水の中で十分に混合される。混合時間は、5時間以上20時間以下であってよい。混合手段は、例えば、ボールミルであってよい。混合後の出発原料を、十分乾燥した後、出発原料はプレス機で成形される。成形された出発原料を仮焼き(calcine)することより、仮焼物が得られる。仮焼きの温度は、750℃以上900℃以下であってよい。仮焼きの時間は、1時間以上3時間以下であってよい。仮焼物は、有機溶媒又は水の中で粉砕される。粉砕時間は、5時間以上30時間以下であってよい。粉砕手段は、ボールミルであってよい。粉砕された仮焼物の乾燥後、バインダー溶液が加えられた仮焼物を造粒することにより、仮焼物の粉が得られる。仮焼物の粉のプレス成形により、ブロック状の成形体が得られる。
【0079】
ブロック状の成形体を加熱することにより、成形体中のバインダーが揮発する。加熱温度は、400℃以上800℃以下であってよい。加熱時間は、2時間以上4時間以下であってよい。
【0080】
バインダーの揮発後、成形体が焼成(sinter)される。焼成温度は、800℃以上1100℃以下であってよい。焼成時間は、2時間以上4時間以下であってよい。焼成過程における成形体の昇温速度及び降温速度は、例えば50℃/時間以上300℃/時間以下であってよい。
【0081】
以上の工程により、ターゲットが作製される。ターゲットに含まれるペロブスカイト型酸化物)の結晶粒(crystal grain)の平均粒径は、例えば、1μm以上20μm以下であってよい。
【0082】
成膜工程では、真空雰囲気下において、ターゲットを構成する元素をPLD法により蒸発させる。蒸発した元素が、第一電極層7又は第二中間層6の表面に付着及び堆積することにより、圧電薄膜が形成される。成膜工程では、真空チャンバーの内部を加熱しながら、真空チャンバー内で第一圧電層3Aが形成されてよい。例えば、真空チャンバーの内部の温度(成膜温度)は450℃以上600℃以下であってよい。成膜温度が高いほど、第一電極層7又は第二中間層6の表面の清浄度が改善され、圧電薄膜3の結晶性が向上し易い。成膜温度が高過ぎる場合、圧電薄膜3が結晶性を有し難い。また成膜温度が高過ぎる場合、圧電薄膜3を構成する各元素が過度に還元され、所望の組成を有する圧電薄膜3が得られ難い。更に成膜温度が高過ぎる場合、Bi又はKが圧電薄膜3から脱離し易く、圧電薄膜3の組成が制御され難い。
【0083】
例えば、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、0.1Pa以上3.0Pa以下であってよい。酸素分圧が低過ぎる場合、ターゲットに由来する各元素が十分に酸化され難く、ペロブスカイト型酸化物が形成され難く、圧電薄膜3の結晶性が劣化し易い。酸素分圧が高過ぎる場合、圧電薄膜3の成長速度が低下し易く、圧電薄膜3の結晶性が劣化し易い。
【0084】
成膜工程では、フルエンス、パルスレーザー光の繰り返し周波数に加えて、ターゲットへのパルスレーザー光の照射回数(成膜時間)が制御されてよい。ターゲットへのパルスレーザー光の照射回数(成膜時間)の増加に伴い、圧電薄膜3の厚みが増加する傾向がある。成膜工程では、第一電極層7又は第二中間層6の表面とターゲットとの間の距離が制御されてもよい。第一電極層7又は第二中間層6の表面とターゲットとの間の距離の減少に伴い、圧電薄膜3の厚み及び成長速度が増加する傾向がある。
【0085】
成膜工程により圧電薄膜3が形成された後、真空チャンバー内での圧電薄膜3のアニール処理(加熱処理)が行われてよい。アニール処理における圧電薄膜3の温度(アニール温度)は、例えば、300℃以上1000℃以下であってよい。圧電薄膜3のアニール処理により、圧電薄膜3の圧電性が更に向上する傾向がある。特に850℃以上1000℃以下でのアニール処理により、圧電薄膜3の圧電性が向上し易い。ただし、アニール処理は必須でない。
【0086】
上述された圧電薄膜3の形成過程と、続く降温過程においては、温度変化に因る圧縮応力が圧電薄膜3内に生じてよい。圧縮応力により、圧電薄膜3が、第一電極層7の表面に略平行な方向(a軸方向及びb軸方向)において圧縮される。その結果、正方晶1及び正方晶2が形成され易い。
【0087】
結晶質基板8は、単結晶基板であってよい。例えば、結晶質基板8は、Siの単結晶からなる基板、又はGaAs等の化合物半導体の単結晶からなる基板であってよい。結晶質基板8は、酸化物の単結晶からなる基板であってもよい。酸化物の単結晶は、例えば、MgO又はペロブスカイト型酸化物(例えばSrTiO3)であってよい。結晶質基板8の厚みは、例えば、10μm以上1000μm以下であってよい。結晶質基板8が導電性を有する場合、結晶質基板8が電極層(第一電極層7)として機能するので、第一電極層7はなくてもよい。例えば、導電性を有する結晶質基板8は、ニオブ(Nb)がドープされたSrTiO3の単結晶であってよい。結晶質基板8として、SOI(Silicon-on-Insulator)基板が用いられてもよい。
【0088】
結晶質基板8の結晶方位は、結晶質基板8の表面の法線方向と等しくてよい。つまり、結晶質基板8の表面は、結晶質基板8の結晶面と平行であってよい。結晶質基板8の表面の法線方向は、第一電極層7の表面の法線方向DNと略平行である。結晶質基板8は一軸配向基板であってよい。例えば、Si等の結晶質基板8の(100)面が、結晶質基板8の表面と平行であってよい。つまり、Si等の結晶質基板8の[100]方向が、結晶質基板8の表面の法線方向と平行であってよい。
【0089】
Si等の結晶質基板8の(100)面が結晶質基板8の表面と平行である場合、正方晶1の(001)面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易い。
【0090】
上述の通り、第一中間層5が、結晶質基板8と第一電極層7との間に配置されていてよい。第一中間層5は、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)及び酸化イットリウム(Y2O3)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。第一中間層5を介することにより、第一電極層7が結晶質基板8に密着し易い。第一中間層5は、結晶質であってよい。第一中間層5の結晶面が、結晶質基板8の表面の法線方向において配向していてよい。結晶質基板8の結晶面と第一中間層5の結晶面の両方が、結晶質基板8の表面の法線方向において配向してよい。第一中間層5の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
【0091】
第一中間層5は、ZrO2及び希土類元素の酸化物を含んでよい。第一中間層5が、ZrO2及び希土類元素の酸化物を含むことにより、白金の結晶からなる第一電極層7が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層7の表面の面内方向において配向し易い。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0092】
第一中間層5は、ZrO2及びY2O3を含んでよい。例えば、第一中間層5は、イットリア安定化ジルコニア(Y2O3が添加されたZrO2)からなっていてよい。第一中間層5は、ZrO2からなる第一層と、Y2O3からなる第二層とを有してよい。ZrO2からなる第一層は、結晶質基板8の表面に直接積層されてよい。Y2O3からなる第二層は、第一層の表面に直接積層されてよい。第一電極層7は、Y2O3からなる第二層の表面に直接積層されてよい。第一中間層5がZrO2及びY2O3を含む場合、圧電薄膜3が、エピタキシャルに成長し易く、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。また第一中間層5がZrO2及びY2O3を含む場合、白金の結晶からなる第一電極層7が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層7の表面の面内方向において配向し易い。
【0093】
第一電極層7は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第一電極層7は、例えば、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)、又はコバルト酸ランタンストロンチウム((La,Sr)CoO3)等の導電性金属酸化物からなっていてもよい。第一電極層7は、結晶質であってよい。第一電極層7の結晶面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。つまり、第一電極層7の結晶面は、第一電極層7の表面と略平行であってよい。第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向する第一電極層7の結晶面は、正方晶1の(001)面と略平行であってよい。第一電極層7の厚みは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。第一電極層7の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第一電極層7の結晶性を高めるために、第一電極層7の加熱処理(アニーリング)が行われてよい。
【0094】
第一電極層7は、白金の結晶を含んでよい。第一電極層7は、白金の結晶のみからなっていてよい。白金の結晶は、面心立方格子構造(fcc構造)を有する立方晶である。白金の結晶の(002)面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向していてよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層7の表面の面内方向において配向していてよい。換言すれば、白金の結晶の(002)面が、第一電極層7の表面に略平行であってよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層7の表面に略垂直であってよい。第一電極層7を構成する白金の結晶の(002)面及び(200)面が上記の配向性を有する場合、圧電薄膜3がエピタキシャルに成長し易く、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。
【0095】
上述の通り、第二中間層6が、第一電極層7と圧電薄膜3との間に配置されていてよい。第二中間層6は、例えば、BaTiO3、SrRuO3、LaNiO3及び(La,Sr)CoO3からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含んでよい。(La,Sr)CoO3は、例えば、La0.5Sr0.5CoO3であってよい。第二中間層6は、結晶質であってよい。例えば、第二中間層6は、例えば、BaTiO3の結晶を含む層、SrRuO3の結晶を含む層、LaNiO3の結晶を含む層、及び(La,Sr)CoO3の結晶を含む層なる群より選ばれる少なくとも二種のバッファー層から構成される積層体であってもよい。BaTiO3、SrRuO3、LaNiO3及び(La,Sr)CoO3のいずれもペロブスカイト構造を有する。したがって、第二中間層6が、BaTiO3、SrRuO3、LaNiO3及び(La,Sr)CoO3からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む場合、圧電薄膜3が、エピタキシャルに成長し易く、正方晶1の(001)面が第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、正方晶2の(001)面が正方晶1の(001)面に対して傾き易く、c1/a1がc2/a2よりも大きくなり易く、θ12が1.0°以上10.0°以下に制御され易い。また、第二中間層6を介することにより、圧電薄膜3が第一電極層7に密着し易い。第二中間層6の結晶面が、第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。第二中間層6の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
【0096】
第二電極層4は、例えば、例えば、Pt、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta、及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第二電極層4は、例えば、LaNiO3、SrRuO3及び(La,Sr)CoO3からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性金属酸化物からなっていてよい。第二電極層4は、結晶質であってよい。第二電極層4の結晶面が、第一電極層7の法線方向DNにおいて配向していてよい。第二電極層4の結晶面は、第一電極層7の表面と略平行であってよい。第一電極層7の表面の法線方向DNにおいて配向する第二電極層4の結晶面は、正方晶1の(001)面と略平行であってよい。第二電極層4の厚みは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。第二電極層4の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第二電極層4の結晶性を高めるために、第二電極層4の加熱処理(アニーリング)が行われてもよい。
【0097】
別の中間層(別の第二中間層)が、圧電薄膜3(第一圧電層3A)と第二電極層4との間に配置されていてよい。別の中間層を介することにより、第二電極層4が圧電薄膜3に密着し易い。別の中間層(別の第二中間層)の組成、結晶構造及び形成方法は、上述された第二中間層6と同じであってよい。別の中間層は、例えば、SrRuO3、LaNiO3及び(La,Sr)CoO3からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。別の中間層の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
【0098】
圧電薄膜素子10の表面の少なくとも一部又は全体は、保護膜によって被覆されていてよい。保護膜による被覆により、圧電薄膜素子10の耐久性(耐湿性等)が向上する。
【0099】
本実施形態に係る圧電薄膜素子の用途は、多様である。例えば、圧電薄膜素子は、圧電トランスデューサ及び圧電センサに用いられてよい。つまり、本実施形態に係る圧電トランスデューサ(例えば、超音波トランスデューサ)は、上述された圧電薄膜素子を含んでよい。圧電トランスデューサは、例えば、超音波センサ等の超音波トランスデューサであってよい。圧電薄膜素子は、例えば、ハーベスタ(振動発電素子)であってもよい。上記の通り、本実施形態に係る圧電薄膜素子は圧電性能指数に優れるので、本実施形態に係る圧電薄膜素子は超音波トランスデューサに適している。圧電薄膜素子は、圧電センサであってもよい。例えば、圧電センサは、圧電マイクロフォン、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、又はショックセンサであってよい。圧電薄膜素子は、SAWフィルタ、BAWフィルタ、発振子又は音響多層膜であってもよい。上記の圧電薄膜素子は、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems; MEMS)に含まれてよい。つまり圧電薄膜素子は、微小電気機械システムの一部又は全体であってもよい。例えば、圧電薄膜素子は、圧電微小機械超音波トランスデューサ(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducers; PMUT)の一部又は全体であってよい。例えば、圧電微小機械超音波トランスデューサを応用した製品は、生体認証センサ(指紋認証センサ、血管認証センサ等)若しくは医療/ヘルスケア用センサ(血圧計、血管イメージングセンサ等)、又はToF(Time of Flight)センサであってよい。
【0100】
図5は、上記の圧電薄膜素子を含む超音波トランスデューサ10aの模式的な断面を示す。この超音波トランスデューサ10aの断面は、第一電極層7及び圧電薄膜3其々の表面に垂直である。超音波トランスデューサ10aは、基板8a及び基板8bと、基板8a及び基板8bの上に設置された第一電極層7と、第一電極層7に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に重なる第二電極層4と、を含んでよい。圧電薄膜3の下方には、音響用の空洞8cが設けられていてよい。圧電薄膜3の撓み又は振動により、超音波信号が発信又は受信される。第一中間層が、基板8a及び基板8bと第一電極層7の間に介在してよい。第二中間層が、第一電極層7と圧電薄膜3の間に介在してよい。
【実施例0101】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
実施例1の圧電薄膜素子の作製には、Siからなる結晶質基板が用いられた。Siの(100)面は、結晶質基板の表面と平行であった。結晶質基板は、20mm×20mmの正方形であった。結晶質基板の厚みは、500μmであった。
【0103】
真空チャンバー内で、ZrO2及びY2O3からなる結晶質の第一中間層が、結晶質基板の表面全体に形成された。第一中間層は、スパッタリング法により形成された。第一中間層の厚みは、30nmであった。
【0104】
真空チャンバー内で、Ptの結晶からなる第一電極層が、第一中間層の表面全体に形成された。第一電極層は、スパッタリング法により形成された。第一電極層の厚みは、200nmであった。第一電極層の形成過程における真空チャンバーの内部の温度は、500℃に維持された。
【0105】
第一電極層の表面におけるоut-оf-plane測定により、第一電極層のXRDパターンが測定された。第一電極層の表面におけるin-plane測定により、第一電極層のXRDパターンが測定された。これらのXRDパターンの測定には、株式会社リガク製のX線回折装置(SmartLab)が用いられた。各XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件が設定された。оut-оf-plane測定により、Ptの結晶の(002)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて配向した。in-plane測定により、Ptの結晶の(200)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
【0106】
真空チャンバー内で上述の成膜工程(PLD法)を実施することにより、圧電薄膜が第一電極層の表面全体に直接形成された。パルスレーザー光として、波長が248nmであるKrFレーザーが成膜工程に用いられた。パルスレーザー光のフルエンス(Fluence)は、下記表1に示される値に調整された。成膜工程におけるパルスレーザー光の繰り返し周波数f1は、10Hzに調整された。第一成膜工程における真空チャンバー内の酸素分圧は、1Paに維持された。第一圧電層の形成過程における真空チャンバーの内部の温度(成膜温度)は、450℃に維持された。圧電薄膜の厚みは、2000nmに調整された。
【0107】
成膜工程に用いたターゲットの組成は、下記化学式1で表される。実施例1の場合、下記化学式1中のEA、EB1及びEB2は、下記表1に示される元素であった。実施例1の場合、下記化学式1中のα、β、x1及びy1は、下記表1に示す値であった。
x1(Bi1-αEA
α)(EB1
1-βEB2
β)O3‐y1BiFeO3 (1)
【0108】
圧電薄膜の組成がXRF法により分析された。圧電薄膜の組成はXRF法により分析された。分析の結果は、圧電薄膜の組成がターゲットの組成と一致することを示していた。
【0109】
上記のX線回折装置を用いた第一圧電層の表面におけるоut-оf-plane測定により、圧電薄膜のXRDパターンが測定された。さらに第一圧電層の表面におけるin-plane測定により、圧電薄膜の別のXRDパターンが測定された。これらの測定により、圧電薄膜の逆格子空間マッピングが行われた。各XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも1桁以上高くなるように、測定条件が設定された。各XRDパターンの測定装置及び測定条件は、上記の条件と同様であった。実施例1の逆格子マップは、
図6の(a)及び
図6の(b)に示される。
【0110】
X線回折装置を用いた上記分析の結果は、圧電薄膜が以下の特徴を有することを示していた。
【0111】
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2からなっていた。正方晶1及び正方晶2をこれらの組成に基づいて識別することは困難であった。
正方晶1の(001)面は、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて優先的に配向していた。つまり、第一電極層の表面の法線方向DNにおける正方晶1の(001)面の配向度は、90%以上であった。上述の通り、正方晶1の(001)面の配向度は、100×I1(001)/(I1(001)+I1(110)+I1(111))と表される。第一電極層の表面の法線方向DNにおいて優先的に配向している正方晶1の結晶面は、下記の各表において「配向面」と表記される。
正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いていた。
正方晶1のc1/a1は、正方晶2のc2/a2よりも大きかった。
実施例1のθ12は、下記表1に示される値であった。θ12の定義は上述の通りである。
実施例1のc1/a1は、下記表2に示される値であった。
実施例1のc2/a2は、下記表2に示される値であった。
実施例1の100×I2/(I1+I2)は、下記表2に示される値であった。100×I2/(I1+I2)の定義は上述の通りである。
【0112】
真空チャンバー内で、Ptからなる第二電極層が、圧電薄膜の表面全体に形成された。第二電極層は、スパッタリング法により形成された。第二電極層の形成過程における結晶質基板の温度は500℃に維持した。第二電極層の厚みは、200nmであった。
【0113】
以上の工程により、実施例1の積層体が作製された。続くフォトリソグラフィにより、結晶質基板上の積層構造のパターニングが行われた。パターニング後、積層体がダイシングにより切断された。
【0114】
以上の工程により、四角形状の実施例1の圧電薄膜素子が得られた。圧電薄膜素子は、結晶質基板と、結晶質基板に直接重なる第一中間層と、第一中間層に直接重なる第一電極層と、第一電極層に直接重なる圧電薄膜と、圧電薄膜に直接重なる第二電極層と、から構成されていた。圧電薄膜の可動部分の面積は、600μm×600μmであった。
【0115】
<圧電性の評価>
以下の方法により、圧電薄膜の圧電性が評価された。
【0116】
[比誘電率の算出]
圧電薄膜素子の静電容量Cが測定された。静電容量Cの測定の詳細は以下の通りであった。
測定装置:Hewlett Packard株式会社製のImpedance Gain‐Phase Analyzer 4194A
周波数:1kHz
電界:10V/μm
【0117】
下記数式Aに基づき、静電容量Cの測定値から、比誘電率εrが算出された。実施例1のεrは、下記表2に示される。
C=ε0×εr×(S/d) (A)
数式A中のε0は、真空の誘電率(8.854×10-12Fm-1)である。数式A中のSは、圧電薄膜の表面の面積である。Sは、圧電薄膜に重なる第一電極層の面積と言い換えられる。数式A中のdは、圧電薄膜の厚みである。
【0118】
[圧電歪定数d33,fの測定]
圧電薄膜素子を用いて圧電薄膜の圧電歪定数d33,fが測定された。d33,fの測定の詳細は以下の通りであった。実施例1の圧電歪定数d33,f(3点測定点平均値)は下記表2に示される。d33,f及びεrから圧電性能指数(d33,f/εrε0)が算出された。実施例1のd33,f/εrε0は、下記表2に示される。
測定装置: 中国科学院製のd33メーター(ZJ-4B)
周波数: 110Hz
クランプ圧: 0.25N
【0119】
(実施例2~10、比較例1及び2)
実施例2~10、比較例1及び2其々のターゲットの組成は、上記化学式1で表される。実施例2~10、比較例1及び2其々のEA、EB1及びEB2は、下記表1に示される元素であった。実施例2~10、比較例1及び2其々のα、β、x1及びy1は、下記表1に示す値であった。実施例2~10、比較例1及び2のうち比較例2のパルスレーザー光のフルエンスのみが実施例1のフルエンスと異なっていた。比較例2のフルエンスは、下記表1に示される値に調整された。
【0120】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~10、比較例1及び2其々の圧電薄膜素子が作製された。
【0121】
実施例1と同様の方法により、実施例2~10、比較例1及び2其々の圧電薄膜に関する分析及び測定が実施された。
実施例2~10、比較例1及び2のいずれの場合も、圧電薄膜の組成はターゲットの組成と一致した。
実施例2~10及び比較例1のいずれの場合も、圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2からなっていた。正方晶1及び正方晶2をこれらの組成に基づいて識別することは困難であった。
比較例2の圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1のみからなっていた。つまり、比較例2の圧電薄膜は正方晶2を含んでいなかった。
実施例2~10、比較例1及び2のいずれの場合も、正方晶1の(001)面は、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて優先的に配向していた。
実施例2~10のいずれの場合も、正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いていた。
比較例1の場合、正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いていなかった。つまり、比較例1の場合、正方晶1の(001)面だけではなく、正方晶2の(001)面も、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて配向していた。
実施例2~10及び比較例1のいずれの場合も、正方晶1のc1/a1は、正方晶2のc2/a2よりも大きかった。
実施例2~10及び比較例1其々のθ12は、下記表1に示される値であった。
実施例2~10、比較例1及び2其々のc1/a1は、下記表2に示される値であった。
実施例2~10及び比較例1其々のc2/a2は、下記表2に示される値であった。
実施例2~10及び比較例1其々の100×I2/(I1+I2)は、下記表2に示される値であった。
【0122】
実施例1と同様の方法で、実施例2~10、比較例1及び2其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。実施例2~10、比較例1及び2其々のεr、d33,f及びd33,f/εrε0は、下記表2に示される。
【0123】
【0124】
【0125】
(比較例3)
表3に示されるように、比較例3の成膜工程における真空チャンバーの内部の温度(成膜温度)は、700℃に維持された。成膜温度を除いて実施例1と同様の方法で、比較例3の圧電薄膜素子が作製された。
【0126】
実施例1と同様の方法により、比較例3の圧電薄膜に関する分析及び測定が実施された。比較例3の圧電薄膜は、結晶性を有していなかった。つまり、正方晶1及び正方晶2のいずれも、比較例3の圧電薄膜から検出されなかった。その結果、比較例3の配向面、θ12、c1/a1、c2/a2及び100×I2/(I1+I2)を測定することはできなかった。
【0127】
実施例1と同様の方法で、比較例3の圧電薄膜の圧電性が評価された。比較例3のεr、d33,f及びd33,f/εrε0は、下記表4に示される。
【0128】
【0129】
【0130】
(実施例11~13)
実施例11~13のいずれの場合も、第二中間層が第一電極層の表面全体に形成され、圧電薄膜が第二中間層の表面全体に形成された。実施例11の第二中間層は、結晶質のSrRuO3からなっていた。実施例11の第二中間層の厚みは、50nmであった。実施例12の第二中間層は、結晶質のLaNiO3からなっていた。実施例12の第二中間層の厚みは、50nmであった。実施例13の第二中間層は、結晶質のBaTiO3からなっていた。実施例13の第二中間層の厚みは、50nmであった。実施例11~13のいずれの場合も、第二中間層の(001)面が第一電極層の表面の法線方向DNにおいて配向していた。下記表5中の「SRO」は、SrRuO3を意味する。下記表5中の「LNO」は、LaNiO3を意味する。下記表5中の「BTO」は、BaTiO3を意味する。
【0131】
第二中間層が形成されたことを除いて実施例1と同様の方法で、実施例11~13其々の圧電薄膜素子が作製された。
【0132】
実施例1と同様の方法により、実施例11~13其々の圧電薄膜に関する分析及び測定が実施された。
実施例11~13のいずれの場合も、圧電薄膜の組成はターゲットの組成と一致した。
実施例11~13のいずれの場合も、圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2からなっていた。正方晶1及び正方晶2をこれらの組成に基づいて識別することは困難であった。
実施例11~13のいずれの場合も、正方晶1の(001)面は、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて優先的に配向していた。
実施例11~13のいずれの場合も、正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いていた。
実施例11~13のいずれの場合も、正方晶1のc1/a1は、正方晶2のc2/a2よりも大きかった。
実施例11~13其々のθ12は、下記表5に示される値であった。
実施例11~13其々のc1/a1は、下記表6に示される値であった。
実施例11~13其々のc2/a2は、下記表6に示される値であった。
実施例11~13其々の100×I2/(I1+I2)は、下記表6に示される値であった。
【0133】
実施例1と同様の方法で、実施例11~13其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。実施例11~13其々のεr、d33,f及びd33,f/εrε0は、下記表6に示される。
【0134】
【0135】
【0136】
(実施例14)
実施例14の圧電薄膜素子の作製過程では、第一中間層及び第二中間層が形成されなかった。実施例14の圧電薄膜素子の作製過程では、結晶質のSrRuO3からなる第一電極層が結晶質基板の表面全体に直接形成された。SrRuO3の(001)面は、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて配向していた。実施例14の第一電極層の厚みは、200nmであった。
【0137】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例14の圧電薄膜素子が作製された。
【0138】
実施例1と同様の方法により、実施例14の第一電極層に関する測定が実施された。実施例14の場合、第一電極層の結晶面は、第一電極層の表面の面内方向において配向していなかった。つまり、実施例14の場合、第一電極層の結晶の面内配向性がなかった。
【0139】
実施例1と同様の方法により、実施例14の圧電薄膜に関する分析及び測定が実施された。
実施例14の場合、圧電薄膜の組成はターゲットの組成と一致した。
実施例14の場合、圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2からなっていた。正方晶1及び正方晶2をこれらの組成に基づいて識別することは困難であった。
実施例14の場合、正方晶1の(001)面は、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて優先的に配向していた。
実施例14の場合、正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いていた。
実施例14の場合、正方晶1のc1/a1は、正方晶2のc2/a2よりも大きかった。
実施例14のθ12は、下記表7に示される値であった。
実施例14のc1/a1は、下記表8に示される値であった。
実施例14のc2/a2は、下記表8に示される値であった。
実施例14の100×I2/(I1+I2)は、下記表8に示される値であった。
【0140】
実施例1と同様の方法で、実施例14の圧電薄膜の圧電性が評価された。実施例14のεr、d33,f及びd33,f/εrε0は、下記表8に示される。
【0141】
【0142】
【0143】
(実施例15、16、比較例4及び5)
実施例15、16、比較例4及び5其々のパルスレーザー光のフルエンスは、下記表9に示される値に調整された。フルエンスを除いて実施例1と同様の方法で、実施例15、16、比較例4及び5其々の圧電薄膜素子が作製された。
【0144】
実施例1と同様の方法により、実施例15、16、比較例4及び5其々の圧電薄膜に関する分析及び測定が実施された。
実施例15、16、比較例4及び5のいずれの場合も、圧電薄膜の組成はターゲットの組成と一致した。
比較例4の圧電薄膜は、結晶性を有していなかった。つまり、正方晶1及び正方晶2のいずれも、比較例4の圧電薄膜から検出されなかった。その結果、比較例4の配向面、θ12、c1/a1、c2/a2及び100×I2/(I1+I2)を測定することはできなかった。
実施例15、16及び比較例5のいずれの場合も、圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2からなっていた。正方晶1及び正方晶2をこれらの組成に基づいて識別することは困難であった。
実施例15、16及び比較例5のいずれの場合も、正方晶1の(001)面は、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて優先的に配向していた。
実施例15及び16の場合、正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いていた。
比較例5の場合、正方晶2の(001)面は、正方晶1の(001)面に対して傾いていなかった。つまり、比較例5の場合、正方晶1の(001)面だけではなく、正方晶2の(001)面も、第一電極層の表面の法線方向DNにおいて配向していた。
実施例15、16及び比較例5のいずれの場合も、正方晶1のc1/a1は、正方晶2のc2/a2よりも大きかった。
実施例15、16及び比較例5其々のθ12は、下記表9に示される値であった。
実施例15、16及び比較例5其々のc1/a1は、下記表10に示される値であった。
実施例15、16及び比較例5其々のc2/a2は、下記表10に示される値であった。
実施例15、16及び比較例5其々の100×I2/(I1+I2)は、下記表10に示される値であった。
【0145】
実施例1と同様の方法で、実施例15、16、比較例4及び5其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。実施例15、16、比較例4及び5其々のεr、d33,f及びd33,f/εrε0は、下記表2に示される。ただし、比較例4の圧電薄膜は十分な圧電性を有していなかった。比較例4のd33,fを測定することはできなったため、比較例4のd33,f/εrε0は特定されなかった。
【0146】
【0147】
3…圧電薄膜、4…第二電極層、5…第一中間層、6…第二中間層、7…第一電極層、8…結晶質基板、8a、8b…基板、10…圧電薄膜素子、10a…超音波トランスデューサ(圧電薄膜素子)、DN…第一電極層の表面の法線方向、dn…圧電薄膜の表面の法線方向、uc…ペロブスカイト構造の単位胞、uc1…正方晶1の単位胞、uc2…正方晶2の単位胞。