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特開2023-133769スクリーニングシステム及びスクリーニング方法並びにこれを用いた動物細胞及びタンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133769
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】スクリーニングシステム及びスクリーニング方法並びにこれを用いた動物細胞及びタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/02 20060101AFI20230920BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20230920BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C12M3/02
C12M1/04
C12M1/34 D
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038951
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 諒介
(72)【発明者】
【氏名】磯 良行
(72)【発明者】
【氏名】金子 要
(72)【発明者】
【氏名】岡 大貴
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029DB11
4B029DG08
4B029FA09
4B029GB07
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】動物細胞へのダメージを抑制し、標的タンパク質の産生能力が高い動物細胞を取得することが可能なスクリーニングシステムを提供する。
【解決手段】スクリーニングシステム1は、互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容する容器10と、容器10内にガスを供給するガス供給部20と、矩形断面を有する湾曲流路を含み、容器10からガスの加圧によって供給された懸濁液に含まれる動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する流体力分離装置30とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容する容器と、
前記容器内にガスを供給するガス供給部と、
矩形断面を有する湾曲流路を含み、前記容器から前記ガスの加圧によって供給された前記懸濁液に含まれる動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、前記湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する流体力分離装置と、
を備える、スクリーニングシステム。
【請求項2】
前記ガス供給部はガスを圧縮する圧縮部及び圧縮されたガスを収容する収容部の少なくともいずれか一方を含む、請求項1に記載のスクリーニングシステム。
【請求項3】
前記容器に接続され、前記動物細胞を培養する培養装置をさらに備える、請求項1又は2に記載のスクリーニングシステム。
【請求項4】
前記流体力分離装置で分離された相対的に大きい動物細胞に光を照射する光照射部と、
前記光が照射された動物細胞から放出される蛍光強度を測定する測定部と、
をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のスクリーニングシステム。
【請求項5】
互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容する容器内にガスを供給する工程と、
前記容器から前記ガスの加圧によって供給された前記懸濁液に含まれる互いに分離された複数の動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する工程と、
を含む、スクリーニング方法。
【請求項6】
標的タンパク質を生産するための動物細胞の製造方法であって、
請求項5に記載のスクリーニング方法によって相対的に大きい動物細胞を分離かつ選択する工程と、
動物細胞に標的タンパク質をコードする核酸を導入する工程と、
を含む、動物細胞の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の動物細胞の製造方法により得られ、前記核酸が導入された前記相対的に大きい動物細胞を培養することにより標的タンパク質を発現させる工程を含む、タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクリーニングシステム及びスクリーニング方法並びにこれを用いた動物細胞及びタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学合成によって製造された医薬品とは異なり、バイオテクノロジーを用いて製造されたバイオ医薬品が広く採用されてきている。バイオ医薬品は、通常、動物細胞を培養し、動物細胞によって産生された抗体などの標的タンパク質を回収することで製造される。標的タンパク質は、例えば、標的タンパク質を発現させる遺伝子を動物細胞に導入することによって生産される。
【0003】
バイオ医薬品の製造効率は動物細胞の特性に依存しており、標的タンパク質の産生能力及び生存率が高い動物細胞を取得する方法が模索されている。例えば、このような細胞は、遺伝子導入された複数の候補細胞株から選別される。特許文献1では、定常状態に達した後の細胞増殖が少なく、細胞増殖速度に対して生産物生成速度が高い連続培養用細胞株とこれに適した連続培養条件を選別することができるスクリーニング方法及び装置が提供されている。具体的には、特許文献1では、複数の培養手段を備えるスクリーニング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-004723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、複数の培養手段を用いてスクリーニングする場合、培養する動物細胞株種が多くなるほど、作業工数が多く、培養時間も長くなる傾向がある。そのため、複数の候補細胞株から目的とする動物細胞を選定するまでに長い期間を必要とするおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、動物細胞へのダメージを抑制し、標的タンパク質の産生能力が高い動物細胞を取得することが可能なスクリーニングシステム及びスクリーニング方法並びにこれを用いた動物細胞及びタンパク質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るスクリーニングシステムは、互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容する容器と、容器内にガスを供給するガス供給部と、矩形断面を有する湾曲流路を含み、容器からガスの加圧によって供給された懸濁液に含まれる動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する流体力分離装置とを備える。
【0008】
ガス供給部はガスを圧縮する圧縮部及び圧縮されたガスを収容する収容部の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。
【0009】
スクリーニングシステムは、容器に接続され、動物細胞を培養する培養装置をさらに備えていてもよい。
【0010】
スクリーニングシステムは、流体力分離装置で分離された相対的に大きい動物細胞に光を照射する光照射部と、光が照射された動物細胞から放出される蛍光強度を測定する測定部とをさらに備えていてもよい。
【0011】
本開示に係るスクリーニング方法は、互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容する容器内にガスを供給する工程と、容器からガスの加圧によって供給された懸濁液に含まれる互いに分離された複数の動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する工程とを含む。
【0012】
本開示に係る動物細胞の製造方法は、標的タンパク質を生産するための動物細胞の製造方法であって、上記スクリーニング方法によって相対的に大きい動物細胞を分離かつ選択する工程と、動物細胞に標的タンパク質をコードする核酸を導入する工程とを含む。
【0013】
本開示に係るタンパク質の製造方法は、上記動物細胞の製造方法により得られ、核酸が導入された相対的に大きい動物細胞を培養することにより標的タンパク質を発現させる工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、動物細胞へのダメージを抑制し、標的タンパク質の産生能力が高い動物細胞を取得することが可能なスクリーニングシステム及びスクリーニング方法並びにこれを用いた動物細胞及びタンパク質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係るスクリーニングシステムを示す概略図である。
図2】一実施形態に係るスクリーニングシステムを示す概略図である。
図3】一実施形態に係るスクリーニングシステムを示す概略図である。
図4】送液装置の種類と送液回数と生存率との関係を示すグラフである。
図5】分離前後における動物細胞の抗体産生量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
[スクリーニングシステム及びスクリーニング方法]
(第1実施形態)
図1に示すように、スクリーニングシステム1は、容器10と、ガス供給部20と、流体力分離装置30と、回収部40とを備えている。容器10には、ガス供給部20及び流体力分離装置30が接続されている。また、流体力分離装置30には回収部40が接続されている。
【0018】
容器10は、互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容している。互いに分離された複数の動物細胞は浮遊細胞であってもよい。動物細胞は、脊椎動物細胞及び無脊椎動物細胞の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。動物細胞は、哺乳類細胞、鳥類細胞、爬虫類細胞、両生類細胞及び魚類細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。哺乳類細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、ハムスター細胞、サル細胞、ラット細胞、ブタ細胞、ヒツジ細胞、ウマ細胞及びウサギ細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。動物細胞は、具体的には、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)、BHK細胞(ベビーハムスター腎臓細胞)、HEK細胞(ヒト胎児腎細胞)、PER.C.6細胞、COS-1細胞、COS-7細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、骨髄腫細胞及びHeLa細胞からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。動物細胞は、一種のみであってもよく、複数種の混合であってもよい。
【0019】
懸濁液は液体媒体を含有していてもよい。液体媒体は、細胞の培養に利用される液体培地を含んでいてもよい。これにより、液体培地中で培養された動物細胞をそのまま流体力分離装置30に投入することができる。液体培地は、培養する動物細胞に適したものを適宜選択して使用することができる。液体培地は、合成培地、半合成培地又は天然培地のいずれであってもよい。液体培地は、市販の液体培地から適宜選択して使用してもよく、栄養素及び精製水を含んでいてもよい。
【0020】
容器10には供給口11と排出口12とが設けられており、コンタミネーションを防止可能なように構成されている。供給口11はガス供給部20と接続されており、ガス供給部20によってガスが供給可能なように設けられている。排出口12は流体力分離装置30と接続されており、容器10から流体力分離装置30に懸濁液が供給可能なように設けられている。供給口11は排出口12よりも上方に設けられていてもよく、例えば容器10の天面に設けられていてもよい。また、排出口12は、供給口11よりも下方に設けられていてもよく、例えば容器10の底部に設けられていてもよい。このような構成により、ガス供給部20から容器10に供給されたガスによって懸濁液を容器10から押し出し、効率的に流体力分離装置30へ輸送することができる。
【0021】
容器10内の体積は10cm以上200cm以下であってもよい。流体力分離装置30は、流れが安定するまでに時間と液量を要する傾向にある。しかしながら、容器10の大きさが上記のように小さい場合、容器10内にガス供給部20によってガスが供給され、懸濁液が流体力分離装置30へ供給され始めてから流量が安定するまでに至る時間が短くなる。そのため、懸濁液の量が少ない場合であっても、流体力分離装置30によって効率的に懸濁液中の動物細胞を分離することができる。
【0022】
ガス供給部20は、容器10内にガスを供給する。容器10内にガスが供給されることにより、容器10内の懸濁液がガスで加圧されるため、懸濁液が容器10から流体力分離装置30へ供給される。ガスは、物理的なダメージを動物細胞に直接与えないため、動物細胞へのダメージを抑制することができる。ガス供給部20によって供給されるガスは、空気、酸素、窒素及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0023】
ガス供給部20は、例えば、ガス配管21と、放出部22と、流量調整部23と、無菌フィルタ26とを含んでいてもよい。ガス配管21には、放出部22、流量調整部23及び無菌フィルタ26がこの順番で設けられている。ガス配管21は容器10の供給口11と接続されている。
【0024】
放出部22は圧縮されたガスを放出する。ガス供給部20が放出部22を含んでいることにより、容器10内にガスを容易に供給することができる。放出部22は、圧縮部及び収容部の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。すなわち、ガス供給部20はガスを圧縮する圧縮部及び圧縮されたガスを収容する収容部の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。
【0025】
圧縮部は圧縮機及びシリンジの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。圧縮機は、例えば容積式圧縮機又は遠心式圧縮機であってもよい。シリンジは、例えばバレルとプランジャーとを含んでいてもよい。そして、バレル内のガスをプランジャーで押圧することにより、バレル内のガスを容器10へ供給してもよい。プランジャーは、シリンジポンプなどの装置を用いて押圧されてもよく、手で押圧されてもよい。プランジャーが外部空間に露出せず、容器10内が無菌状態を維持できるように、圧縮部はプランジャーを被覆する被覆部を含んでいてもよい。収容部は、ガスが貯蔵されたタンクなどのガス容器を含んでいてもよい。
【0026】
流量調整部23は、容器10に供給されるガスの流量を調整する。流量調整部23は、流量調整弁24と開閉弁25とを含んでいてもよい。流量調整弁24は、ガス配管21の流路断面積を調整することにより、ガス配管21を流れるガスの流量を調整することができる。流量調整弁24で流量が調整されたガスは、開閉弁25が開かれている場合には容器10に供給され、開閉弁25が閉じられている場合には容器10への供給が停止される。開閉弁25は三方電磁弁であってもよい。三方電磁弁は、容器10、放出部22及びスクリーニングシステム1の外部である大気雰囲気に接続されている。三方電磁弁は、スイッチがONの場合には放出部22と容器10とを連通させ、ガス配管21を通じて容器10へガスを供給してもよい。三方電磁弁は、スイッチがOFFの場合には、大気雰囲気と容器10とを連通させ、容器10へのガスの供給を停止してもよい。
【0027】
なお、ガス容器に流量調整機構が設けられている場合には、流量調整部23は設けられていなくてもよい。また、シリンジを用いる場合には、プランジャーの押圧速度を調節することにより、容器10に供給されるガスの流量を調整することができるため、流量調整部23は設けられていなくてもよい。
【0028】
無菌フィルタ26は、容器10に供給されるガスを通過させることで菌を捕捉することができる。無菌フィルタ26の孔径は、0.22μm以下であってもよい。無菌フィルタ26は、ナイロン、PES(ポリエーテルスルホン)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びセルロースアセテートからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。なお、放出部22から供給されるガスが無菌化されたガスである場合などには、ガス供給部20は無菌フィルタ26を含んでいなくてもよい。また、無菌フィルタ26は、流量調整部23と容器10との間に代えて、放出部22と流量調整部23との間に設けられていてもよい。
【0029】
容器10内の懸濁液は、ガスの加圧によって容器10から流体力分離装置30へ供給される。容器10と流体力分離装置30とは接続配管14を介して接続されており、接続配管14を介して懸濁液が容器10から流体力分離装置30へ供給されてもよい。
【0030】
接続配管14内の流路の体積は、6cm以下であってもよい。接続配管14内の体積が6cm以下である場合、容器10にガスが供給され、懸濁液が流体力分離装置30へ供給され始めてから流量が安定するまでに至る時間が短くなる。そのため、懸濁液の量が少ない場合であっても、流体力分離装置30によって効率的に懸濁液中の動物細胞を分離することができる。容器10と流体力分離装置30とは接続配管14を介さずに直接接続されていてもよい。すなわち、接続配管14内の体積は0cmであってもよい。接続配管14を介して容器10と流体力分離装置30とを接続する場合、接続配管14内の体積は0.1cm以上であってもよい。
【0031】
接続配管14の長さは500mm以下であってもよい。接続配管14の長さが500mm以下である場合、容器10にガスが供給され、懸濁液が流体力分離装置30へ供給され始めてから流量が安定するまでに至る時間が短くなる。そのため、懸濁液の量が少ない場合であっても、流体力分離装置30によって効率的に懸濁液中の動物細胞を分離することができる。接続配管14の長さは1mm以上であってもよい。
【0032】
接続配管14の内径は、0.1mm以上4mm以下であってもよい。接続配管14の内径が上記のような範囲内である場合、容器10にガスが供給され、懸濁液が流体力分離装置30へ供給され始めてから流量が安定するまでに至る時間が短くなる。そのため、懸濁液の量が少ない場合であっても、流体力分離装置30によって効率的に懸濁液中の動物細胞を分離することができる。
【0033】
なお、容器10又は接続配管14が小さい場合、容器10の排出口12又は接続配管14にバルブが設けられていなくても、容器10から流体力分離装置30へ懸濁液が自重で流れるのを抑制することができる。そのため、ガス供給部20から供給されるガスの加圧により、流体力分離装置30へ供給される懸濁液の流量を調整することができる。
【0034】
流体力分離装置30は、懸濁液に含まれる動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を分離する。流体力分離装置30は、連続運転が可能であることから遠心分離と比較して効率的に細胞を分離することができる。また、流体力分離装置30は、動物細胞との物理的な接触を抑制することができることから、フィルタ分離と比較して細胞へのダメージを抑制して分離することができる。また、流体力分離装置30は、無菌状態を保つことが容易であり、操作者の熟練度に関係なく、再現性の高い分離も可能である。
【0035】
流体力分離装置30は、矩形断面を有する湾曲流路を含んでいる。湾曲流路は、流れ方向に垂直な断面が矩形であって一方向側に湾曲している。湾曲流路の湾曲形状は、略円状、略円弧状又は渦状等のいずれの形状であってもよい。湾曲流路の一端には導入口31が設けられ、湾曲流路の導入口31とは反対側の端部には第1導出口33及び第2導出口34を含む導出口32が設けられている。導入口31は容器10の排出口12と接続配管14を介して接続されており、容器10内の懸濁液は導入口31を介して流体力分離装置30へ供給される。第1導出口33は湾曲流路の外周側に位置し、第2導出口34は湾曲流路の内周側に位置している。
【0036】
流体力分離装置30は、懸濁液に含まれる動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する。具体的には、懸濁液は、動物細胞が均一に分散した状態で湾曲流路に導入口31から導入される。そして、懸濁液が湾曲流路を流れることにより、湾曲流路内で懸濁液に一対のディーン渦が発生する。このディーン渦により、相対的に小さい動物細胞は流路の矩形断面において輪を描くように分布する。一方、相対的に大きい動物細胞には湾曲流路の外周側に向かう力が作用するため、相対的に大きい動物細胞は湾曲流路の外周側に遍在するように収束する。相対的に大きい動物細胞が含まれる第1分離液は第1導出口33から排出され、相対的に小さい動物細胞が含まれる残部の第2分離液は第2導出口34から排出される。第1分離液に含まれる動物細胞の平均サイズは、第2分離液に含まれる動物細胞の平均サイズよりも大きい。流体力分離装置30で分離された相対的に大きい動物細胞の平均サイズは、例えば10μm以上30μm以下であってもよい。また、相対的に小さい動物細胞の平均サイズは、例えば10μm未満であってもよい。なお、本明細書において、動物細胞の平均サイズは、10以上の動物細胞を無作為に選択して顕微鏡で観察し、各動物細胞を球状とみなした場合の各動物細胞の直径の平均値を算出することによって得たものである。
【0037】
流体力分離装置30における動物細胞の分離効率は、湾曲流路に供給される懸濁液のディーン数によって変化する。ディーン数は30以上であってもよく、50以上であってもよい。また、ディーン数は100以下であってもよく、80以下であってもよい。ディーン数は、以下の数式(1)によって表される。
【0038】
De=Re(D/2Rc)1/2 (1)
【0039】
上記数式(1)中、Deはディーン数(無次元)、Reはレイノルズ数(無次元)、Dは湾曲流路の代表長さ(m)、Rcは湾曲流路の曲率半径(m)を示す。レイノルズ数は、以下の数式(2)によって表される。
【0040】
Re=vD/ν (2)
【0041】
上記数式(2)中、Reはレイノルズ数(無次元)、vは流体の平均速度(m/s)、Dは湾曲流路の代表長さ(m)、νは動粘性係数(m/s)を示す。湾曲流路の代表長さDは湾曲流路の水力直径としても表され、以下の数式(3)で表される。
【0042】
D=2wh/(w+h) (3)
【0043】
上記数式(3)中、Dは湾曲流路の水力直径(m)、wは湾曲流路の幅(m)、hは湾曲流路の高さ(m)を表す。
【0044】
ディーン数Deは、上記数式に示されるように、レイノルズ数Reに比例するので、流体力分離装置30に供給される懸濁液の流速を適正に制御することにより、動物細胞の分離効率を適宜調整することができる。また、ディーン数Deは、湾曲流路の水力直径D及び湾曲流路の曲率半径Rcによって変化する。そのため、懸濁液の状態に応じて湾曲流路を適宜設計することにより、動物細胞の分離効率を調整することができる。
【0045】
湾曲流路の断面のアスペクト比は10以上であってもよい。ここでいうアスペクト比は、湾曲流路断面の高さに対する幅の比である。アスペクト比が10以上である場合、動物細胞の分離効率が高い傾向にある。例えば、このような湾曲流路に、懸濁液を50~500mL/分程度の流量で供給することにより、毎分5000万~250億程度の動物細胞を分離することができる。また、曲率半径は20mm以上であってもよい。曲率半径の上限は特に限定されないが、例えば100cmであってもよい。
【0046】
ガス供給部20は、流体力分離装置30へ導入される懸濁液と、流体力分離装置30から導出される懸濁液との圧力差が0.6MPa以下になるように容器10内にガスを供給してもよい。圧力差を上記のような範囲とすることにより、動物細胞に加わる圧力の変動が小さくなるため、動物細胞へのダメージをさらに低減することができる。具体的には、導入口31の圧力と導出口32の圧力差が上記の値以下となるように懸濁液が供給されてもよい。なお、流体力分離装置30の導出口32が大気圧に開放された場合には、導入される懸濁液と導出される懸濁液との圧力差は、導入口31の圧力に等しい。圧力差は、動物細胞へのダメージを少なくする観点から、0.45MPa以下であってもよく、0.4MPa以下であってもよい。圧力差の下限は特に限定されないが、0.1MPaであってもよい。圧力差は、0.2MPa以上であってもよく、0.3MPa以上であってもよい。
【0047】
流体力分離装置30で分離された動物細胞の大きさ及び比率などは、導出口32の分割位置によって異なる。第1分離液/第2分離液の容積比が10/90~70/30程度になるように、導出口32を設計してもよい。すなわち、第1導出口33/第2導出口34の断面積比は10/90~70/30程度であってもよい。なお、流体力分離装置30は、湾曲流路の出口として、2つの導出口32を有するが、3つ以上の導出口32を有していてもよい。導出口32が3つ以上に分割された場合、分離される分離液の量を状況に応じて変更してもよい。
【0048】
流体力分離装置30で分離された第1分離液について、同じ分離条件で流体力分離を繰り返すことにより、動物細胞の分離精度を高めることができる。また、流体力分離装置30で分離された第1分離液について、異なる分離条件で流体力分離を繰り返すことにより、異なる複数のサイズに分級された動物細胞を得ることができる。
【0049】
流体力分離装置30は、流路ユニットを含んでいてもよい。流路ユニットは、プラスチック等で形成された平層状の成形体であってもよい。成形体は内部に1つの湾曲流路を含み、端面に導入口31及び導出口32を有していてもよい。流体力分離装置30は、1つのみの流路ユニット、又は、複数の流路ユニットを含んでいてもよい。複数の流路ユニットを積層する場合、並列状の流路を設けることによって、懸濁液の処理流量を高めることができる。
【0050】
回収部40は第1回収容器41と第2回収容器42とを含んでいてもよい。第1分離液は、第1導出口33から配管35を通じて第1回収容器41に収容されてもよい。同様に、第2分離液は、第2導出口34から配管36を通じて第2回収容器42に収容されてもよい。第1回収容器41及び第2回収容器42は、コンタミネーションを防止可能な容器であり、各々、必要に応じ、ヒータ又は冷却器、及び、温度調節機能が装備されたものを使用してよい。回収部40内の分離液は、動物細胞の培養又は保管に適した温度に維持される。容器10は、懸濁液を均一化するための攪拌装置を備え、動物細胞にダメージを与えない適切な速度で攪拌してもよい。また、動物細胞に適した環境を維持するため、必要に応じ、酸素、二酸化炭素及び空気の量、pH、導電率並びに光量等の調整機能を備えたものを利用してもよい。
【0051】
スクリーニングシステム1は、懸濁液の液面を検知する液面計と、液面計により検知された情報に基づいてガス供給部20によるガスの供給量を制御する制御部とを備えていてもよい。このような構成により、容器10内の懸濁液の残留液量に応じて懸濁液を流体力分離装置30へ送液することができる。そのため、懸濁液のロスを抑制するだけでなく、容器10内の懸濁液が全て送られて空になった後、容器10の空気が気泡として懸濁液に混入して流体力分離装置30へ送られ、気泡によって動物細胞がダメージを受けるのを抑制することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るスクリーニングシステム1は、容器10と、ガス供給部20と、流体力分離装置30とを備えている。容器10は、互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容する。ガス供給部20は、容器10内にガスを供給する。流体力分離装置30は、矩形断面を有する湾曲流路を含み、容器10からガスの加圧によって供給された懸濁液に含まれる動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する。
【0053】
また、本実施形態に係るスクリーニング方法は、互いに分離された複数の動物細胞を含む懸濁液を収容する容器内にガスを供給する工程を含んでいる。上記方法は、容器からガスの加圧によって供給された懸濁液に含まれる互いに分離された複数の動物細胞のうち相対的に大きい動物細胞を、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れによって分離する工程を含んでいる。
【0054】
本実施形態に係るスクリーニングシステム1では、容器10内に収容された懸濁液は、流体力分離装置30へ供給され、相対的に大きい動物細胞が分離される。一般的な動物細胞は繊細であり、物理的な衝撃に対して分離などによりダメージを受けやすい。しかしながら、本実施形態に係るスクリーニングシステム1では、容器10内に収容された懸濁液は、ガスの加圧によって流体力分離装置30へ供給される。したがって、懸濁液がポンプなどによって流体力分離装置30へ供給された場合と比較し、動物細胞に対する物理的な接触を抑制することができる。したがって、本実施形態に係るスクリーニングシステム1及びスクリーニング方法によれば、動物細胞へのダメージを低減することができる。また、後述するように、本実施形態に係るスクリーニングシステム1及びスクリーニング方法によれば、標的タンパク質の産生能力が高い動物細胞を取得することができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るスクリーニングシステム1及びスクリーニング方法について図2を用いて説明する。図2に示すように、本実施形態に係るスクリーニングシステム1は、動物細胞を培養する培養装置50を備えている。培養装置50では、動物細胞を増殖又は維持させている。培養装置50は容器10に接続されている。これ以外については、上記実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
培養装置50は、培養槽51を含んでいる。培養槽51内には、動物細胞と液体培地とを含む懸濁液が収容されており、培養槽51内において互いに分離された複数の動物細胞が浮遊培養される。培養装置50は、懸濁液内の動物細胞を均質にするため、培養槽51内に配置された撹拌部52を含んでいてもよい。撹拌部52は、図示しないモータと、モータに接続されたシャフト53と、シャフト53に接続された撹拌翼54とを含んでおり、モータを稼働させることにより、撹拌翼54を回転させ、懸濁液を撹拌してもよい。撹拌部52は、モータ、シャフト53及び撹拌翼54を含む構造体に代えて、マグネチックスターラーを含んでいてもよい。
【0057】
培養装置50は、培養槽51内の懸濁液の温度を調節する図示しない温度調節部を含んでいてもよい。温度調節部によって培養槽51内の懸濁液の温度を、動物細胞の培養又は保管に適した温度に維持することができる。温度調節部としては、例えばサーモスタットが挙げられる。
【0058】
培養装置50は、液体培地に含まれる栄養成分などの材料を補充する図示しない補充部を含んでいてもよい。このような補充部により、動物細胞の培養期間に、懸濁液中の液体成分の組成を均一に維持することができる。
【0059】
培養装置50は、動物細胞に適した環境を維持するため、必要に応じ、酸素、二酸化炭素及び空気などのガス成分、pH、導電率並びに光量等の調整機能を備えていてもよい。培養装置50は、培養槽51内のガス濃度を測定する濃度測定部、及び懸濁液中のpH測定部などを備えていてもよい。
【0060】
培養装置50は配管55を介して容器10に接続されている。具体的には、培養槽51は配管55を介して容器10に接続されている。培養槽51には上述したガス供給部20のようなガス供給部56が設けられており、ガス供給部56から培養槽51内に供給されるガスによって懸濁液を容器10へ供給してもよい。
【0061】
以上の通り、本実施形態に係るスクリーニングシステム1は、容器10に接続され、動物細胞を培養する培養装置50を備えている。本実施形態に係るスクリーニングシステム1及びスクリーニング方法によれば、培養装置50で培養された動物細胞を容器10に供給することができるため、コンタミネーションを抑制しつつ、効率的に動物細胞をスクリーニングすることができる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るスクリーニングシステム1及びスクリーニング方法について図3を用いて説明する。図3に示すように、本実施形態に係るスクリーニングシステム1は、光照射部61と、測定部62とをさらに備えている。これ以外については、上記実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
光照射部61は、流体力分離装置30で分離された相対的に大きい動物細胞に光を照射する。動物細胞に照射される光としては、例えばレーザ光などが挙げられる。動物細胞を蛍光色素で予め標識しておくと、光は蛍光色素に吸収され、蛍光を放出する。測定部62は、光が照射された動物細胞から放出される蛍光の強度を測定する。測定部62は、動物細胞から放出される蛍光を検出する検出部と、検出部で検出された蛍光の検出値に応じて蛍光の強度を算出する算出部とを含んでいてもよい。検出部は光センサーを含んでいてもよい。また、算出部はCPUを含んでいてもよい。
【0064】
標的タンパク質の産生能力が同じ動物細胞であっても、標的タンパク質が細胞表層に留まる場合には動物細胞の大きさに比例して蛍光強度が高くなってしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態のように、動物細胞を流体力分離装置30で事前に分離し、動物細胞の大きさを均一にすることにより、動物細胞のサイズの影響度を低減した状態で標的タンパク質の発現量を分析することができる。
【0065】
スクリーニングシステム1は、選別部63を含んでいてもよい。選別部63は、測定部62によって測定された蛍光強度に基づき、相対的に大きい動物細胞から標的タンパク質の発現能力が高い細胞を選別する。選別部63は、閾値よりも蛍光強度が高い動物細胞を含む液滴に電荷をかけて液滴の流れを変えることにより、閾値よりも蛍光強度が高い動物細胞と小さい動物細胞と振り分けてもよい。回収部40は第3回収容器43を含んでいてもよく、選別部63は第1回収容器41に蛍光強度が高い動物細胞を導き、第3回収容器43に蛍光強度が小さい動物細胞を導いてもよい。
【0066】
光照射部61と測定部62と選別部63とを備える装置は、例えばFACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)であってもよい。流体力分離装置30の後段にFACSが設けられることにより、FACS単独よりも、さらに高精度の選別が可能になるとともに、流体力分離装置30で分離された動物細胞から優れた発現能を有する動物細胞をさらに選別することができる。
【0067】
以上説明した通り、本実施形態に係るスクリーニングシステム1は、流体力分離装置30で分離された相対的に大きい動物細胞に光を照射する光照射部61と、光が照射された動物細胞から放出される蛍光強度を測定する測定部62とをさらに備えている。本実施形態に係るスクリーニングシステム1によれば、動物細胞のサイズの影響度を低減した状態で標的タンパク質の発現量を分析することができる。
【0068】
[動物細胞の製造方法]
次に、本実施形態に係る動物細胞の製造方法について説明する。本実施形態に係るタンパク質の製造方法は、標的タンパク質を生産するための動物細胞の製造方法である。本実施形態に係る動物細胞の製造方法は、上記スクリーニング方法によって分離された相対的に大きい動物細胞に標的タンパク質をコードする核酸を導入する工程を含んでいる。
【0069】
流体力分離装置による分離では、動物細胞が1回だけ分離されてもよく、複数回に分けて動物細胞が分離されてもよい。複数回に分けて動物細胞が分離される場合、複数回の分離条件はそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。複数回に分けて動物細胞が分離される場合、各分離の間で動物細胞を培養してもよい。
【0070】
各分離の間で動物細胞が培養される場合、培養条件は特に限定されない。培養時間は、例えば1日以上50日以内であってもよい。培養時間は、3日以上であってもよく、5日以上であってもよく、10日以上であってもよい。また、培養時間は、40日以下であってもよく、30日以下であってもよく、20日以下であってもよい。動物細胞の培養温度及び液体培地などは、動物細胞の種類及び発現するタンパク質の種類などに応じて適宜定めることができる。
【0071】
核酸は、動物細胞内で標的タンパク質を発現させることができるものであれば特に限定されない。核酸は、DNA及びRNAの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。また、核酸は、プラスミドベクターであってもよい。
【0072】
動物細胞によって生産されるタンパク質としては、例えば、抗体、ホルモン、サイトカイン、酵素、ワクチンなどが挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体としては、インフリキシマブ、アダリムマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、オクレリズマブ、デュピルマブ、ペルツズマブ、ベドリズマブ、アテゾリズマブ、ラニビズマブ、ゴリムマブ、トシリズマブ、オマリズマブ、エミシズマブ、リサンキズマブ、イピリムマブ、ナタリズマブ、グセルクマブ、メポリズマブ、テプロツムマブ、ベンラリズマブ、エボロクマブ及びベリムマブなどが挙げられる。
【0073】
核酸の導入方法としては、物理的方法、化学的方法及び生物学的方法からなる群より選択される少なくとも1つのトランスフェクション方法を用いることができる。物理的方法としては、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション及び遺伝子銃による粒子導入などの方法が挙げられる。化学的方法としては、カチオン性脂質、リン酸カルシウム及びカチオン性ポリマーなどを用いた方法が挙げられる。生物学的方法としては、ウイルスを用いた方法が挙げられる。トランスフェクションは、一過性トランスフェクションであってもよく、安定トランスフェクションであってもよい。
【0074】
核酸が導入された動物細胞は、液体培地中で培養してタンパク質を発現させてもよく、回収して低温環境で保管してもよい。
【0075】
なお、本実施形態では、動物細胞の製造方法が、上記スクリーニング方法によって相対的に大きい動物細胞を分離かつ選択する工程と、前記工程によって選択された相対的に大きい動物細胞に標的タンパク質をコードする核酸を導入する工程とを含む例について説明した。しかしながら、動物細胞の製造方法はこのような例に限定されず、分離選択工程と核酸導入工程の順番が逆であってもよい。すなわち、動物細胞の製造方法は、動物細胞に標的タンパク質をコードする核酸を導入する工程と、前記工程によって核酸が導入された動物細胞から上記スクリーニング方法によって相対的に大きい動物細胞を分離かつ選択する工程とを含んでいてもよい。
【0076】
以上説明した通り、本実施形態に係る動物細胞の製造方法は、標的タンパク質を生産するための動物細胞の製造方法であって、上記スクリーニング方法によって相対的に大きい動物細胞を分離かつ選択する工程と、動物細胞に標的タンパク質をコードする核酸を導入する工程とを含んでいる。
【0077】
本方法によって得られた動物細胞は、標的タンパク質の産生能力が高い。このような動物細胞は、例えばバイオ医薬品の原料となる抗体などのタンパク質を大量生産するのに適している。その一方で、一般に、標的タンパク質の生産能力が高い動物細胞を選択するためには、長い時間と高いコストを要する。本方法によれば、高い生産能力を有する動物細胞を早期に得ることができるため、バイオ医薬品の開発期間の短縮及び低コストでの生産を達成することができ、バイオ医薬品の普及に貢献することができる。
【0078】
[タンパク質の製造方法]
次に、本実施形態に係るタンパク質の製造方法について説明する。本実施形態に係るタンパク質の製造方法は、動物細胞の製造方法により得られ、核酸が導入された相対的に大きい動物細胞に標的タンパク質を発現させる工程を含む。タンパク質を発現させる工程は、細胞培養工程と、分離精製工程を含んでいてもよい。
【0079】
細胞培養工程では、動物細胞の製造方法により得られた動物細胞を培養する。動物細胞には、標的タンパク質をコードする核酸が導入されているため、動物細胞の培養により、標的タンパク質が発現される。動物細胞の培養条件は特に限定されず、標的タンパク質が発現される条件で培養すればよい。培養時間は、例えば1日以上50日以内であってもよい。培養時間は、3日以上であってもよく、5日以上であってもよく、10日以上であってもよい。また、培養時間は、40日以下であってもよく、30日以下であってもよく、20日以下であってもよい。動物細胞の培養温度及び液体培地などは、動物細胞の種類及び発現するタンパク質の種類などに応じて適宜定めることができる。
【0080】
分離精製工程では、細胞培養工程で培養されて得られた培養液から標的タンパク質を分離精製する。分離精製工程は、分離工程と、精製工程とを含んでいてもよい。分離工程と精製工程は、この順番で実施されてもよい。
【0081】
分離工程では、例えば、動物細胞と、標的タンパク質が含まれた清澄液とを分離する。分離工程では、遠心分離及び膜分離などの分離方法を用いることができる。
【0082】
精製工程では、例えば、標的タンパク質が含まれた清澄液から標的タンパク質を精製する。このような精製は、限外ろ過、精密ろ過及びクロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも一種によって実施することができる。クロマトグラフィーとしては、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びアフィニティクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0083】
以上説明した通り、本実施形態に係るタンパク質の製造方法は、動物細胞の製造方法により得られ、核酸が導入された相対的に大きい動物細胞を培養することにより標的タンパク質を発現させる工程を含む。このようなタンパク質は、バイオ医薬品の原料など、様々な用途に使用することができる。
【実施例0084】
以下、本実施形態を以下の例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの例に限定されるものではない。
【0085】
まず、送液装置の種類による細胞の生存率の推移を評価した。送液装置としては、ガス圧送、シリンジポンプ、プランジャポンプ、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ及び遠心ポンプを用いた。なお、ガス圧送は、図1に記載のガス供給部に相当する。また、シリンジポンプはシリンジを備えており、上述したガス供給部に相当する。
【0086】
具体的には、温度を36.5~37.0℃に維持した1.5Lの液体培地中で、CHO細胞を14日間フェドバッチ培養した。液体培地としては、GEヘルスケア社製のSH30934.01 HyCell CHO Mediumにアミノ酸などを適量添加したものを使用した。
【0087】
14日間培養して得られた培養液は、全細胞密度が1×10~20×10cells/mLの範囲となるように調製した。この培養液を懸濁液とし、送液装置で流体力分離装置へ送液し、断面が矩形の湾曲流路を通過させた。流体力分離装置の運転条件は、ディーン数Deを60~80、体積流量を250mL/min~350mL/min、送液圧力を0.4MPa、分級の閾値を10μm~16μmの範囲内とした。
【0088】
懸濁液は流体力分離装置で相対的に大きい細胞を含む第1分離液と、相対的に小さい細胞を含む第2分離液とに分離し、第1分離液内の細胞の生存率を細胞計測装置(ベックマンコールター社製、製品名:Vi-Cell)で計測した。送液装置の種類と送液回数と生存率との関係を図4に示す。なお、細胞の生存率は全細胞中の生細胞の割合を意味する。
【0089】
図4から分かるように、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ及び遠心ポンプを送液装置として用いた場合には、1回~3回の送液回数であっても、生存率が有意に低下した。プランジャポンプを用いた場合には、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ及び遠心ポンプを用いた場合と比較し、生存率の低下は小さかったが、送液回数の増加に伴って生存率が有意に低下した。一方、ガス圧送及びシリンジポンプを用いた場合では、送液回数を15回にした場合であっても、生存率の有意な低下が見られなかった。これらの結果から、ガス供給部によって懸濁液を流体力分離装置へ供給することにより、他の送液装置と比較し、動物細胞へのダメージを抑制することができることが分かった。
【0090】
次に、流体力分離装置によって分離した動物細胞のタンパク質産生量を評価した。具体的には、液体培地中で、CHO細胞を14日間フェドバッチ培養した。
【0091】
14日間培養して得られた培養液を懸濁液とし、ガス圧送で流体力分離装置へ送液し、断面が矩形の湾曲流路を通過させた。懸濁液は流体力分離装置で相対的に大きい細胞を含む第1分離液と、相対的に小さい細胞を含む第2分離液とに分離した。流体力分離装置の運転条件は、ディーン数Deを60~80、体積流量を250mL/min~350mL/min、送液圧力を0.3MPa~0.4MPa、分級の閾値を10μm~16μmの範囲内とした。
【0092】
次に、流体力分離装置で得られた第1分離液を、1回目と同様の条件でさらに14日間フェドバッチ培養した。2回目のフェドバッチ培養を終えた培養液を懸濁液とし、流体力分離装置に1回目と同様の条件で再度通過させた。懸濁液は流体力分離装置で相対的に大きい細胞を含む第3分離液と、相対的に小さい細胞を含む第4分離液とに分離した。
【0093】
流体力分離装置で得られた第3分離液を14日間馴化培養し、馴化培養した細胞に抗体(IgG)を発現する遺伝子を導入した。また、コントロールとして、流体力分離装置で分離される前の動物細胞に上記抗体を発現する遺伝子を導入した。
【0094】
上記のようにして得られた動物細胞の抗体産生能を評価した。具体的には、流体力分離装置の分離前後の動物細胞について、1細胞当たりの抗体産生量を計測した。抗体産生量はロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製Cedex Bioで計測した。図5に分離前後における動物細胞の抗体産生量を示す。
【0095】
図5に示すように、流体力分離装置で分離した後の動物細胞は、分離する前の動物細胞と比較し、抗体産生能力が高かった。なお、図示しないが、流体力分離装置で分離した後の動物細胞は、動物細胞の増殖性も分離前の動物細胞と同等であった。これらの結果から、流体力分離装置で動物細胞を分離することにより、抗体産生能力が優れた動物細胞を選択的に獲得できていることが分かった。
【0096】
動物細胞のサイズが大きい場合、その動物細胞の維持に多くのエネルギーを必要とするため、組み込まれた遺伝子によってコードされたタンパク質の発現に多くのエネルギーを割くことができない可能性が考えられた。しかしながら、上述のように、流体力分離装置で分離された相対的に大きい動物細胞に標的タンパク質がコードされた核酸を導入することにより、標的タンパク質を多く発現することができることが分かった。これは、流体力分離装置で分離されたダメージの少ない動物細胞を用いたこと、及び、相対的に大きい動物細胞は標的タンパク質の産生能力が高いことが理由であると考えられる。
【0097】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0098】
本開示は、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3『あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する』に貢献することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 スクリーニングシステム
10 容器
20 ガス供給部
30 流体力分離装置
50 培養装置
61 光照射部
62 測定部
図1
図2
図3
図4
図5