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特開2023-133776シクロオレフィンポリマー、その製造方法、及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133776
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】シクロオレフィンポリマー、その製造方法、及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/06 20060101AFI20230920BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C08G61/06
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038962
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大田 善也
(72)【発明者】
【氏名】増田 永善
(72)【発明者】
【氏名】松岡 真一
(72)【発明者】
【氏名】清原 紗英
(72)【発明者】
【氏名】宮迫 成美
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032CA36
4J032CA68
4J032CB01
4J032CB11
4J032CB12
4J032CD02
4J032CE03
4J032CE22
4J032CE24
4J032CF03
4J032CF06
4J032CG02
4J032CG08
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、低い複屈折と表面加工性とに優れた光学材料を製造し得る、ラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマー、その製造方法、このシクロオレフィンポリマーから成る光学樹脂材料、及びこの光学樹脂材料を成形してなる光学成形体を提供する事である。
【解決手段】特定の新規なラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位を含むシクロオレフィンポリマー。
【化1】
(式(1)中、R~Rは、夫々独立して、同一又は異なって、置換基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R~Rは、水素である、請求項1に記載のシクロオレフィンポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシクロオレフィンポリマーを含む成形体。
【請求項4】
光学フィルム、又は光学レンズである、請求項3記載の成形体。
【請求項5】
シクロオレフィンポリマーの製造方法であって、
(1)溶媒中、第3世代グラブス触媒の存在下、4-oxa-endo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (endo-NBL)又は4-oxa-exo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (exo-NBL)を、開環重合反応する工程を含む、
下記一般式(1)で表される構成単位を含むH-poly(endo-NBL)シクロオレフィンポリマー又はH-poly(exo-NBL)シクロオレフィンポリマーの製造方法。
【化2】
(式(1)中、R~Rは、夫々独立して、同一又は異なって、置換基を示す。)
【請求項6】
更に、(2)溶媒中、水素化触媒の存在下、前記工程(1)で得られたH-poly(endo-NBL)シクロオレフィンポリマー又はH-poly(exo-NBL)シクロオレフィンポリマーを、水素化反応する工程を含む、
請求項5に記載のシクロオレフィンポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロオレフィンポリマー、その製造方法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シクロオレフィンポリマーから成るレンズ、フィルム等は、複屈折が比較的小さい事に依り、スマートフォン向けの光学レンズ、偏光板保護フィルム、液晶基板材料等へ利用されている。例えば、低複屈折性に優れたシクロオレフィンポリマーとして、テトラシクロドデセン類や1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンの開環重合体水素化物が提案されている(特許文献1及び2)。
【0003】
スマートフォン向けの光学レンズは、射出成形に依り製造される為、成形中に発生する応力により複屈折が生じる。複屈折が生じると、レンズ内の屈折率が不均一と成ってしまう為、収差が大きく成り撮像性能が悪くなる。従って、レンズの撮像性能を高める為に、応力が掛かっても複屈折が出難い材料が必要である。
【0004】
偏光板保護フィルムは、通常偏光子(PVAフィルム+ヨウ素)を保護する為に用いられるフィルムである。偏光板保護フィルムでは、偏光の状態を変えてはならず、低い位相差である事が求められる。
【0005】
これら光学レンズ、フィルム等では、反射率を抑制させる為に、AR(Anti-Reflection)処理等が施されたり、粘着剤、接着剤等を介して他材料と貼り合わせされたりする為、表面加工性が求められる。
【0006】
例えば、複屈折の低いシクロオレフィンポリマーが種々提案されている(特許文献3及び4)。
【0007】
しかしながら、従来技術では、レンズ、フィルム等の加工の際に必要な、表面加工性に劣る事が有り、低い複屈折と優れた表面加工性とを両立したシクロオレフィンポリマーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平2-9619号公報
【特許文献2】WO96/10596号公報
【特許文献3】特開平10-287713号公報
【特許文献4】特開2005-330465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、低い複屈折と表面加工性とに優れた光学材料を製造し得る、ラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマー、その製造方法、このシクロオレフィンポリマーから成る光学樹脂材料、及びこの光学樹脂材料を成形してなる光学成形体を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を達成する為に鋭意検討した結果、特定の新規なラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマーが、重合組成及び単量体の立体構造の設計に依り、低い複屈折と優れた表面加工性とを有する事を見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0012】
項1.
下記一般式(1)で表される構成単位を含むシクロオレフィンポリマー。
【0013】
【化1】
【0014】
(式(1)中、R~Rは、夫々独立して、同一又は異なって、置換基を示す。)
項2.
前記一般式(1)において、R~Rは、水素である、前記請求項1に記載のシクロオレフィンポリマー。
【0015】
項3.
前記項1又は2に記載のシクロオレフィンポリマーを含む成形体。
【0016】
項4.
光学フィルム、又は光学レンズである、前記項3記載の成形体。
【0017】
項5.
シクロオレフィンポリマーの製造方法であって、
(1)溶媒中、第3世代グラブス触媒の存在下、4-oxa-endo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (endo-NBL)又は4-oxa-exo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (exo-NBL)を、開環重合反応する工程を含む、
下記一般式(1)で表される構成単位を含むH-poly(endo-NBL)シクロオレフィンポリマー(或はpoly(endo-NBL)シクロオレフィンポリマー)又はH-poly(exo-NBL)シクロオレフィンポリマー(或はpoly(exo-NBL)シクロオレフィンポリマー)の製造方法。
【0018】
【化2】
【0019】
(式(1)中、R~Rは、夫々独立して、同一又は異なって、置換基を示す。)
項6.
更に、(2)溶媒中、水素化触媒の存在下、前記工程(1)で得られたH-poly(endo-NBL)シクロオレフィンポリマー(或はpoly(endo-NBL)シクロオレフィンポリマー)又はH-poly(exo-NBL)シクロオレフィンポリマー(或はpoly(exo-NBL)シクロオレフィンポリマー)を、水素化反応する工程を含む、
前記項5に記載のシクロオレフィンポリマーの製造方法。
【0020】
水素化反応に拠り、水素化されたH-poly(endo-NBL)シクロオレフィンポリマー又は水素化されたH-poly(exo-NBL)シクロオレフィンポリマーを得る事が出来る。
【0021】
本発明は、低い複屈折と表面加工性とに優れたラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマー、その製造方法、このシクロオレフィンポリマーから成る光学樹脂材料、この光学樹脂材料を成形してなる光学成形体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマーは、低い複屈折と優れた表面加工性とを有する。
【0023】
本発明のラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマーは、撮像性能に優れ、且つ他の材料との密着性に優れ、光学レンズに好適に用いる事が出来、また、偏光状態を変化させず、他の材料との密着性に優れ、光学フィルムに好適に用いる事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、様々な変形が可能である。
【0025】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0026】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、「A以上、B以下」を意味する。
【0027】
1.シクロオレフィンポリマー
本発明は、下記一般式(1)で表される構成単位を含むシクロオレフィンポリマーであり、ラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマーである。
【0028】
【化3】
【0029】
式(1)中、R~Rは、夫々独立して、同一又は異なって、置換基を示す。
【0030】
置換基は、好ましくは、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から成る原子若しくは基を示す。
【0031】
脂肪族炭化水素基(炭化水素基)は、好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル等の炭素原子数が1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基、n-ペンチル、iso-ペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル等の炭素原子数が5~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。
【0032】
脂環族炭化水素基は、好ましくは、単環性又は二環性の脂環族炭化水素基である。単環性の脂環族炭化水素基は、好ましくは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2-メチルシクロヘキシル、2,6-ジメチルシクロヘキシル、3,5-ジメチルシクロヘキシル、4-tert-ブチルシクロヘキシル、シクロへプチル、シクロオクチル、シクロドデシル等の炭素原子数が3~30の単環性の脂環骨格を有する炭化水素基である。二環性の脂環族炭化水素基は、好ましくは、ビシクロ[1.1.0]ブチル、ビシクロ[2.1.0]ペンチル、ノルボルニル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、スピロ[2.2]ペンチル、スピロ[2.3]ヘキシル等の炭素原子数が5~30の二環性の脂環骨格を有する炭化水素基である。
【0033】
芳香族炭化水素基は、好ましくは、フェニル、ベンジル、ナフチル、ビフェニリル、トリフェニリル、フルオレニル、アントラニル、フェナントリル等の炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基である。
【0034】
式(1)中、R及びRは、アルキレン基を介して結合しても良く、また何の基も介さずに結合しても良い。
【0035】
本発明のシクロオレフィンポリマーでは、式(1)において、R~Rは、より好ましくは、水素である。
【0036】
【化4】
【0037】
2.シクロオレフィンポリマーの物性値
ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計を用い、アルミパンに試料を入れ、JIS K 7121に準拠して、30℃から200℃の範囲で、シクロオレフィンポリマーのガラス転移温度(Tg(℃))を測定する。
【0038】
本発明のシクロオレフィンポリマーのTgは、好ましくは、110℃~180℃であり、より好ましくは、120℃~170℃であり、更に好ましくは、130℃~165℃であり、特に好ましくは、130℃~150℃である。
【0039】
分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフィを用い、試料をN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させ、ポリ(メタクリル酸メチル)換算で、シクロオレフィンポリマーの重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0040】
本発明のシクロオレフィンポリマーのMwは、好ましくは、20,000~80,000であり、より好ましくは、25,000~60,000であり、更に好ましくは、30,000~50,000である。
【0041】
屈折率
液浸法に依り、シクロオレフィンポリマーの屈折率を測定する。
【0042】
本発明のシクロオレフィンポリマーの屈折率は、好ましくは、1.4~1.6であり、より好ましくは、1.45~1.55であり、更に好ましくは、1.50~1.54である。
【0043】
複屈折
延伸装置を用いて、シクロオレフィンポリマーをTg+20℃、倍率2倍、速度300%/minの条件にて自由端一軸延伸する。リタデーション測定装置を用いて、測定温度20℃で、延伸フィルムのRo(600)を測定し、膜厚で除する事に依り、シクロオレフィンポリマーの延伸フィルムの複屈折を算出する。
【0044】
本発明のシクロオレフィンポリマーの複屈折は、好ましくは、0.01×10-3~1×10-3であり、より好ましくは、0.02×10-3~0.8×10-3であり、更に好ましくは、0.04×10-3~0.6×10-3であり、特に好ましくは、0.06×10-3~0.3×10-3である。
【0045】
本発明のシクロオレフィンポリマーは、低い複屈折を有し、これを用いて作製する成形体は、優れた光学的特性等を示し、光学フィルム(又は光学シート)、光学レンズ等の光学部材として有用である。
【0046】
接触角
接触角計を用いて、シクロオレフィンポリマーの延伸フィルム試験片上に、水及びジヨードメタンを滴下し、試験片の接触角(°)を測定する。
【0047】
水を、シクロオレフィンポリマーの延伸フィルム試験片上に滴下し、試験片の接触角は、好ましくは、69°~88°であり、より好ましくは、71°~86°であり、更に好ましくは、73°~84°であり、特に好ましくは、75°~82°である。
【0048】
ジヨードメタンを、シクロオレフィンポリマーの延伸フィルム試験片上に滴下し、試験片の接触角は、好ましくは、44~62°であり、より好ましくは、46°~60°であり、更に好ましくは、48°~58°であり、特に好ましくは、50°~56°である。
【0049】
本発明のシクロオレフィンポリマーは、優れた表面加工性(濡れ性)を有し、撮像性能に優れ、且つ他の材料との密着性に優れる。
【0050】
3.シクロオレフィンポリマーの製造方法
3-1.シクロオレフィンポリマーの原料(endo-NBL及びexo-NBL)の製造方法
endo-NBL(endo-norbornene lactones)の製造方法
窒素雰囲気下で、溶媒(テトラヒドロフラン、メタノール等)中、水素化ホウ素ナトリウムを仕込み、原料として、cis-5-ノルボルネン-endo-2,3-ジカルボン酸無水物(cis-5-Norbornene-endo-2,3-dicarboxylic anhydride)を混合する事に依り、4-oxa-endo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (endo-NBL)を得る事が出来る。
【0051】
【化5】
【0052】
exo-NBL(exo-norbornene lactones)の製造方法
窒素雰囲気下で、溶媒(テトラヒドロフラン、メタノール等)中、水素化ホウ素ナトリウムを仕込み、原料として、cis-5-ノルボルネン-exo-2,3-ジカルボン酸無水物(cis-5-Norbornene-exo-2,3-dicarboxylic anhydride)を混合する事に依り、4-oxa-exo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (exo-NBL)を得る事が出来る。
【0053】
【化6】
【0054】
3-2.シクロオレフィンポリマーの製造方法
本発明のシクロオレフィンポリマーの製造は、一般的に知られる開環重合法(ring-opening metathesis polymerization (ROMP))を用いれば良く、例えば、メタセシス重合触媒を用いて開環重合する事が出来る。
【0055】
メタセシス重合触媒は、グラブス触媒(Grubbs Catalyst)等、公知の触媒から選択する事が出来、例えば、Grubbs Catalyst 3rd Generation(Dichloro[1,3-bis(2,4,6-trimethylphenyl)-2-imidazolidinylidene](benzylidene)bis(3-bromopyridine)ruthenium(II))が挙げられる。
【0056】
【化7】
【0057】
開環重合反応に拠るpoly(endo-NBL)の製造方法
本発明のシクロオレフィンポリマーの製造方法は、(1)溶媒(ジクロロメタン等)中、第3世代グラブス触媒(Grubbs Catalyst(R) 3rd Generation)の存在下、4-oxa-endo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (endo-NBL)を、開環重合反応(ROMP)する工程を含む、シクロオレフィンポリマー(poly(endo-NBL))の製造方法である。
【0058】
開環重合反応に拠るpoly(exo-NBL)の製造方法
本発明のシクロオレフィンポリマーの製造方法は、(1)溶媒(ジクロロメタン等)中、第3世代グラブス触媒(Grubbs Catalyst(R) 3rd Generation)の存在下、4-oxa-exo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (exo-NBL)を、開環重合反応(ROMP)する工程を含む、シクロオレフィンポリマー(poly(exo-NBL))の製造方法である。
【0059】
水素化反応(hydrogenation)
シクロオレフィンポリマー(poly(endo-NBL))又はシクロオレフィンポリマー(poly(exo-NBL))は、水素化されていても良い。
【0060】
本発明のシクロオレフィンポリマーの製造方法は、更に、(2)溶媒中(o-キシレン等)、水素化触媒(RuHCl(CO)(PPh3)3等の均一系触媒(homogeneous catalyst))の存在下、得られたシクロオレフィンポリマー(poly(endo-NBL)又はpoly(exo-NBL))を、水素化反応(hydrogenation)する工程を含む、水素化されたシクロオレフィンポリマー(hydrogenated polymer)(H-poly(endo-NBL)又はH-poly(exo-NBL))の製造方法である。
【0061】
本発明は、下記一般式(1)で表される構成単位を含むシクロオレフィンポリマーの製造方法である。
【0062】
【化8】
【0063】
式(1)中、R~Rは、夫々独立して、同一又は異なって、置換基を示す。
【0064】
4.シクロオレフィンポリマーを含む成形体
本発明の成形体は、本発明のシクロオレフィンポリマーを含み、優れた光学的特性等を示す為、光学フィルム(又は光学シート)、光学レンズ等の光学部材として利用出来る。
【0065】
本発明の成形体は、慣用の添加剤を含んでいても良い。
【0066】
添加剤としては、例えば、炭素材等の充填剤又は補強剤、染顔料等の着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、加水分解抑制剤、安定剤、低応力化剤等を含んでいても良い。
【0067】
安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等が挙げられる。
【0068】
低応力化剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末等が挙げられる。
【0069】
これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0070】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法等を利用して製造する事が出来る。
【0071】
成形体の形状は、特に限定されず、例えば、線状、繊維状(又はファイバー状)、糸状等の一次元的構造、フィルム状、シート状、板状等の二次元的構造、凹又は凸レンズ状、棒状、中空状(管状)等の三次元的構造等が挙げられる。
【0072】
本発明の樹脂は、前記シクロオレフィンポリマーを含み、種々の光学的特性に優れている為、光学フィルムの形成に有用である。本発明は、前記樹脂で形成されたフィルム(光学フィルム又は光学シート)を包含する。
【0073】
本発明のフィルムは、その平均厚みは、1μm~1,000μm程度の範囲から用途に応じて選択出来、例えば、1μm~200μm、好ましくは、5μm~150μm、更に好ましくは、10μm~120μmである。
【0074】
フィルム(光学フィルム)は、前記樹脂を、慣用の成膜方法、例えば、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法等を用いて成膜(又は成形)する事に依り製造できる。
【0075】
本発明のフィルムは、好ましくは、延伸フィルムである。本発明のフィルムは、延伸フィルムであっても、低い複屈折を維持出来る。延伸フィルムは、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムの何れであっても良い。
【0076】
本発明の成形体は、他の基材と接合又は接着されていても良く、基材の種類、材質等は特に制限されない。基材の種類、材質等は、例えば、樹脂材料、セラミック材料、金属材料等で形成された一次元的形状、二次元的形状又は三次元的形状の基材であっても良い。
【0077】
成形体がフィルム状である場合、フィルム状等の二次元的形状の基材と組み合わせて積層体又は積層フィルムを形成しても良い。
【実施例0078】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0079】
本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0080】
評価方法、原料及びシクロオレフィンポリマーを以下に示す。
【0081】
1.評価方法
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(HITACHI製「DSC7000X」)を用い、アルミパンに試料を入れ、JIS K 7121に準拠して、30℃から200℃の範囲で、試料のTgを測定した。
【0082】
(分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィ(JASCO製「EXTREMA」)を用い、試料をN,N-ジメチルホルムアミド(5.75mmol/L、LiBr)に溶解させ、ポリ(メタクリル酸メチル)換算で、試料の重量平均分子量Mwを測定した。
【0083】
(屈折率)
液浸法に依り、試料の屈折率を測定した。
【0084】
(複屈折)
延伸装置を用いて、作製した試験片をTg+20℃、倍率2倍、速度300%/minの条件にて自由端一軸延伸した。リタデーション測定装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃で、延伸フィルムのRo(600)を測定し、膜厚で除する事に依り、延伸フィルムの複屈折を算出した。
【0085】
(接触角)
接触角計(協和界面科学(株)製「DMo-501」)を用いて、作製した試験片上に、水及びジヨードメタンを滴下し、試験片の接触角を測定した。
【0086】
2.endo-NBL及びexo-NBLの合成
(合成例1:endo-NBL(endo-norbornene lactones)の合成)
スターラーチップ、滴下ロート及び三方コックを装着した反応器に、水素化ホウ素ナトリウム(5.76g、152mmol)を仕込んで窒素置換した後、テトラヒドロフラン(110mL)を加え、-10℃で撹拌分散させた。
【0087】
別の容器に、窒素雰囲気下で、cis-5-ノルボルネン-endo-2,3-ジカルボン酸無水物(cis-5-Norbornene-endo-2,3-dicarboxylic anhydride)(25.0g、152mmol)、テトラヒドロフラン(80mL)、メタノール(6mL)を混合し、これを水素化ホウ素ナトリウムのテトラヒドロフランの溶液に60分かけて滴下し、-10℃で1時間攪拌した。
【0088】
0℃で、2M塩酸(89mL)を30分間かけて加えた。ジクロロメタンを用いて、有機層を抽出し、水で洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。
【0089】
硫酸ナトリウムをろ別し、有機溶媒を減圧留去する事に依り、白色固体4-oxa-endo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (endo-NBL)(15.25g、収率67%)を得た。
【0090】
【化9】
【0091】
(合成例2:exo-NBL(exo-norbornene lactones)の合成)
合成例1のendo-NBLと同様の方法に依り、cis-5-ノルボルネン-exo-2,3-ジカルボン酸無水物(cis-5-Norbornene-exo-2,3-dicarboxylic anhydride)(25.0g、152mmol)から、4-oxa-exo-tricyclo[5.2.1.02,6]dec-8-en-3-one (exo-NBL)(18.2g、収率86%)を得た。
【0092】
【化10】
【0093】
3.実施例
(実施例1)
窒素雰囲気下、スターラーチップを入れた反応器に、第3世代グラブス触媒(Grubbs Catalyst(R) 3rd Generation)(235mg、0.267mol)と乾燥ジクロロメタン(25mL)を加え攪拌し、溶解させた。
【0094】
別の反応器に、合成例1のendo-NBL(4.00g、26.6mmol)を加えて三方コックを装着して窒素置換を行い、溶媒として乾燥ジクロロメタン(80mL)を加えモノマー溶液とした。モノマー溶液をシリンジで取り出し、0℃に冷却した触媒溶液に加え、2時間攪拌させた。少量のエチルビニルエーテルを加えて室温で30分間攪拌して、重合を停止させた。
【0095】
その後、メタノールへ再沈殿させて得られた固体を加熱減圧下にて乾燥を行い、白色粉末のシクロオレフィンポリマー(poly(endo-NBL))3.58gを得た。
【0096】
【化11】
【0097】
ガラス容器に、3.58gのpoly(endo-NBL)、乾燥N,N-ジメチルアセトアミド(97mL)を加えて攪拌し、溶解させた。攪拌しながら乾燥o-キシレン(71mL)を少しずつ加えて溶液を懸濁させた。その後、少量のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びRuHCl(CO)(PPh3)3(473mg、0.50mol)を加え、その容器をステンレス製オートクレーブに移動し、密閉した。
【0098】
反応容器内を水素(1.0MPa)に置換し、オイルバス温度135℃で8時間攪拌させた。反応容器を室温に戻し、重合溶液をメタノールに沈殿させポリマーを得て、加熱減圧下にて乾燥を行った。得られたポリマーを、同様の条件で、再度、水素化反応を行う事で、転化率97%でシクロオレフィンポリマー(H-poly(endo-NBL))を回収した。
【0099】
メタノールを用いたソックスレー抽出により精製し2.52g、収率70%で白色粉末のポリマーを得た。ポリマーのMwは37,000であった。
【0100】
作製したポリマーを乾燥後、塩化メチレンを用いて溶液化し、キャスト製膜にて複屈折測定用の試験片を作製した。また、シリコンウェハー上にスピンコートし、接触角測定用の試験片を作製した。
【0101】
(実施例2)
窒素雰囲気下、スターラーチップを入れた反応器に第3世代グラブス触媒(Grubbs Catalyst(R) 3rd Generation)(147mg、0.17mol)と乾燥ジクロロメタン (33mL)を加え攪拌、溶解させた。
【0102】
別の反応器に、合成例2のexo-NBL(2.50g、16.7mmol)を加えて三方コックを装着して窒素置換を行い、溶媒として乾燥ジクロロメタン(33mL)を加えモノマー溶液とした。モノマー溶液をシリンジで取り出し、-20℃に冷却した触媒溶液に加え、4時間攪拌させた。少量のエチルビニルエーテルを加えて室温で30分間攪拌して、重合を停止させた。
【0103】
その後、メタノールへ再沈殿させて得られた固体を加熱減圧下にて乾燥を行い、白色粉末のシクロオレフィンポリマー(poly(exo-NBL))2.44gを得た。
【0104】
【化12】
【0105】
ガラス容器に、2.41gのpoly(exo-NBL)、乾燥o-キシレン(120mL)加えて攪拌し、溶解させた。その後、少量のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びRuHCl(CO)(PPh3)3(144mg、0.15mol)を加え、その容器をステンレス製オートクレーブに移動し、密閉した。
【0106】
反応容器内を水素(0.8MPa)に置換し、オイルバス温度135℃で6時間攪拌させた。反応後、室温に戻し、重合溶液をメタノールに沈殿させポリマーを得て、加熱減圧下にて乾燥を行った。得られたポリマーを、同様の条件で、更に2回、水素化反応を行う事で、転化率98%、収量2.18g、収率90%でシクロオレフィンポリマー(H-poly(exo-NBL))を得た。
【0107】
ポリマーのMwは36,000であった。
【0108】
実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各種物性を評価した。
【0109】
[比較例1]
ラクトン非含有シクロオレフィンポリマーとして、ZEONEX(Tg143℃)を用いて、真空加熱プレス装置((株)井元製作所製「11FD型」)にて、樹脂のガラス転移温度Tgより20℃~40℃高い温度で、5MPaの圧力下で、10分間真空加圧した。
【0110】
その後、冷却して複屈折評価用及び接触角評価用の試験片を作製し、各種物性を評価した。
【0111】
[比較例2]
ラクトン非含有シクロオレフィンポリマーとして、ARTON(Tg164℃)を用いて、比較例2と同様の方法で、試験片を作製し、各種物性を評価した。
【0112】
[評価結果]
上記で得られたポリマーの物性を表1に記載する。
【0113】
【表1】
【0114】
表1から明らかな様に、本発明のラクトン構造を有するシクロオレフィンポリマーは、低い複屈折と優れた表面加工性(接触角、濡れ性)とを両立するポリマーである事が示された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマーは、低い複屈折と優れた表面加工性とを有する。
【0116】
本発明のラクトン構造を含むシクロオレフィンポリマーは、撮像性能に優れ、且つ他の材料との密着性に優れ、光学レンズに好適に用いる事が出来、また、偏光状態を変化させず、他の材料との密着性に優れ、光学フィルムに好適に用いる事が出来る。