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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133778
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/14 20060101AFI20230920BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20230920BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230920BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20230920BHJP
   D02G 1/02 20060101ALI20230920BHJP
   D01F 1/09 20060101ALI20230920BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20230920BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20230920BHJP
   A41D 31/26 20190101ALI20230920BHJP
   A41D 13/008 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
D04B1/14
D04B1/00 B
D04B1/00 A
D02G3/04
D02G3/36
D02G1/02
D01F1/09
D01F6/92 305
A41D31/00 502D
A41D31/26 100
A41D13/008
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038964
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】592231561
【氏名又は名称】一村産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000219255
【氏名又は名称】東レ・テキスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】竹内 弘二
(72)【発明者】
【氏名】伏屋 昌則
(72)【発明者】
【氏名】山本 章史
【テーマコード(参考)】
3B011
4L002
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
3B011AB01
3B011AC06
3B011AC17
3B011AC18
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC03
4L002AC07
4L002BA00
4L002BA05
4L002BB01
4L002EA00
4L002EA02
4L002EA06
4L002FA01
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE13
4L035JJ03
4L035KK05
4L036MA33
4L036MA37
4L036MA39
4L036MA40
4L036PA33
4L036RA24
(57)【要約】
【課題】
伸縮性に優れ、かつ、意匠性や制電性にも優れた編地を提供する。
【解決手段】
導電性の繊維が非導電性の繊維にカバリングされた第1の編成糸と、非導電性の繊維のみからなる第2の編成糸とを少なくとも用いて編成された編地であって、前記の第1の編成糸は、電気抵抗値が10Ω/cm以下である導電性の繊維によって面積比でその表面の15%以上を被覆され、前記の編地は、編地の質量を100質量%としたとき、前記導電性の繊維の含有量は0.5~10質量%であり、かつ、前記第1の編成糸は、その少なくとも一部で、第2の編成糸をノンニットにして他の第1の編成糸との間で編目を有する編成を有する編地。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の繊維が非導電性の繊維にカバリングされた第1の編成糸と、非導電性の繊維のみからなる第2の編成糸とを少なくとも用いて編成された編地であって、前記の第1の編成糸は、電気抵抗値が10Ω/cm以下である導電性の繊維によって面積比でその表面の15%以上を被覆され、前記の編地は、編地の質量を100質量%としたとき、前記導電性の繊維の含有量は0.5~10質量%であり、かつ、前記第1の編成糸は、その少なくとも一部で、第2の編成糸をノンニットにして他の第1の編成糸との間で編目を有する編成を有する編地。
【請求項2】
前記第1の編成糸が、非導電性の繊維が導電性の繊維によってダブルカバリングされたものである請求項1に記載の編地。
【請求項3】
前記導電性の繊維が、無機炭素質の粒子を含有したマルチフィラメント糸であることを特徴とする請求項1または2に記載の編地。
【請求項4】
前記第1の編成糸が1種類以上の柄の繰り返しで編成され、前記柄の1単位当たりの第1の編成糸によって囲まれた編地の面積が72mm以下となるように編成されている請求項1~3のいずれかに記載の編地。
【請求項5】
前記導電性繊維の導電性の繊維の総繊度が、10dtex~90dtexであり、導電性の繊維の単糸繊度が、1dtex~25dtexである請求項1~4のいずれかに記載の編地。
【請求項6】
前記編地が、緯編み地および丸編み地からなる群から選ばれたいずれかの編地であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の編地。
【請求項7】
前記導電性繊維が、100ウェールあたり150~350mmの糸長で編成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の編地。
【請求項8】
多重編地であり、該多重編地のレイヤーのうちの少なくともひとつのレイヤーが請求項1~7のいずれかに記載の編地である多重編地。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の編地が着用者からみて外側に位置せしめられていることを特徴とする請求項8記載の多重編地。
【請求項10】
伸長率が、経方向で15%以上、緯方向 で50%以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の編地または請求項8および9のいずれかに記載の多重編地。
【請求項11】
通気性が100cm/(cm・sec)以上である請求項1~7のいずれかに記載の編地または請求項8および9のいずれかに記載の多重編地。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の編地または請求項8および9のいずれかに記載の多重編地が用いられた作業着であって、該作業着の前記編地が露出する表面において、IEC61340-5-1に準拠して測定される表面抵抗値が10~10Ωであることを特徴とする作業着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地に関し、特には、横編地または丸編地に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドやポリエステルやポリオレフィンなどの合成樹脂が用いられた合成繊維は、原材料を安価に入手でき、また、機械特性や取り扱い性にも優れているので、ユニフォームをはじめとした衣類としての適性に優れている。
【0003】
一方で、これらの繊維は摩擦による帯電が天然繊維よりも大きくなる傾向があり、クリーンルームでの作業着といった衣類の帯電が問題となる領域はもとより、体にまとわりつく感覚を覚えたり、埃を吸着しやすくなるといった帯電を原因とした問題を内在している。
【0004】
このため、金属粒子やカーボンブラックなどの導電性の粒子を合成樹脂に練り込んで紡糸した導電性の繊維が知られている(特許文献1)。
【0005】
ところで、布帛としては、大きく織物と編物が知られており、使用場面に応じた使い分けがなされている。編物は、曲げや伸びの力に追随して編み目の変形がおきやすいため、伸縮性に優れている。このため、ユニフォーム素材として使用したときでも作業者の体の動きに合わせて伸縮することで、快適な作業を可能とできる。また、通気性のコントロールに対しての自由度も高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-44071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した繊維の帯電に基づく問題の対策として用いられる導電性の粒子を含有した導電性の繊維において、導電性の粒子は、例えばカーボンブラックは黒色に着色しているように、一般に着色しており、導電性の粒子を含有した繊維は着色して衣類の意匠性において制約となりうる。また、導通パスを確保する必要から一定量の導電性粒子を用いる必要があるところ、導電性粒子が含有されることで、合成繊維はもろくなる傾向がある。
【0008】
このため、前記特許文献1に記載の技術では、導電性粒子を含有した樹脂と導電性粒子を含有しない樹脂とによる複合繊維とすることでの改善をはかっている。しかし、導電性粒子を用いたことによる着色の問題は解消にはいたっていない。
【0009】
このため、非導電性の繊維による布帛の何本かの繊維を導電性の繊維に置換した布帛とすることで意匠性に対する影響を軽減しようとする試みが考えられる。
【0010】
これを編地に適用した場合、導電性の繊維による編み目と非導電性の繊維による編み目とが形成されるために、編み糸が走行する方向とこれに直交する方向とによって導電性は異なることとなってしまう。
【0011】
また、編み組織を操作して、導電性の繊維同士が接触するループを設ければ異方性を改善できる可能性は考えられるが、着用者の動作に起因する編地の伸縮によって編み目が変形することで、導電性の繊維の接触が途絶えることが頻繁におきるので、結局のところ異方性の改善は十分なものではなかった。
【0012】
小さく緊い編み目とすればこの問題を改善できる余地はあるが、その場合、編地のもつ伸縮性を犠牲にしてしまうこととなる。
【0013】
そこで、本発明は、伸縮性に優れ、かつ、意匠性や制電性にも優れた編地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するための、本発明の要するところは、導電性の繊維が非導電性の繊維にカバリングされた第1の編成糸と、非導電性の繊維のみからなる第2の編成糸とを少なくとも用いて編成された編地であって、前記の第1の編成糸は、電気抵抗値が10Ω/cm以下である導電性の繊維によって面積比でその表面の15%以上を被覆され、前記の編地は、編地の質量を100質量%としたとき、前記導電性の繊維の含有量は0.5~10質量%であり、かつ、前記第1の編成糸は、その少なくとも一部で、第2の編成糸をノンニットにして他の第1の編成糸との間で編目を有する編成を有する編地、である。
【0015】
本発明の編地は、好ましく、緯編地および丸編地からなる群から選ばれるいずれかの編地であり、また、他の編地との多重編地であることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、伸縮性に優れ、かつ、意匠性や制電性にも優れた編地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で採用した編み組織の概略図である。
図2】比較例1で採用した編み組織の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の編地は、導電性の繊維が非導電性の繊維にカバリングされた第1の編成糸と、非導電性の繊維のみからなる第2の編成糸とを少なくとも用いて編成されている。第1の編成糸を構成する導電性の繊維および非導電性の繊維、ならびに、第2の編成糸を構成する非導電性の繊維は、好ましくマルチフィラメント糸である。
【0019】
(第1の編成糸)
第1の編成糸は、導電性の繊維が非導電性の繊維にカバリングされている。
【0020】
導電性の繊維、および、非導電性の繊維は溶融紡糸法や溶液紡糸法が採用できることから、合成樹脂を成分として用いることが好ましく、用いうる合成樹脂としては、紡糸が可能であれば特に制限はないが、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどの合成樹脂を挙げることができる。なかでも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンを好適に使用できる。これらの合成樹脂は、他の共重合可能な成分との共重合体であってもよく、複数種を用いての混合物であってもよい。
【0021】
また、導電性の繊維と非導電性の繊維とに用いられる合成樹脂は、同種の樹脂であっても、異なる種類の樹脂であっても構わない。例えば、同種の樹脂を用いた場合は生産性やリサイクル性に優れ、また、風合いとしても良好であり、一方で、導電性の繊維に用いられる樹脂としてポリアミド、非導電性の繊維に用いられる樹脂としてポリエステルを用いる態様は、ポリアミドの吸湿性を活かして制電性を高め、ポリエステルの高い靱性を利用して優れた機械特性の編地とできる。
【0022】
また、本発明に用いる導電性の繊維は、電気抵抗値が10Ω/cm以下(なお、本明細書において10の意味は、特記しない限り、1×10の意味である。ここで、mは整数)のものとすれば、導電性の付与の方法に制限はないが、典型的には、導電性粒子を合成樹脂に含有せしめることで導電性を付与する方法、合成樹脂製の繊維の表面に導電性の成分を被覆する方法が挙げられるが、洗濯耐久性の観点から、導電性粒子を合成樹脂に含有せしめることで導電性を付与する方法を用いることが好ましい。
【0023】
なお、本発明において、非導電性の繊維の電気抵抗値は、用いる合成樹脂をそのまま繊維化したときの電気抵抗値であるが、一般的には、電気抵抗値として1012Ω/cm以上である。
【0024】
また、本発明に用いる導電性の繊維は、非導電性の樹脂と導電性粒子を含有した樹脂との複合繊維であることが好ましく、複合繊維の態様としては、断面視において、導電性粒子を含有した樹脂の部分が非導電性の樹脂の部分に覆われた海島型、同心円型または芯鞘型の複合繊維や、導電性粒子を含有した樹脂の部分と非導電性の樹脂の部分とがともに表面に露出した多花弁状またはバイメタル型の複合繊維を挙げることができる。意匠性の観点からは海島型、同心円型または芯鞘型の複合繊維とすることが好ましい。一方で、多花弁状またはバイメタル型の複合繊維は低い電気抵抗値の繊維を得やすいので、制電性において有利である。
【0025】
本発明に用いる導電性の繊維において、導電性粒子としては、例えば、金属粒子、結晶性または非晶性の無機炭素質の粒子を挙げることができ、合成樹脂製の繊維の表面被覆される導電性の成分としては、金属を挙げることができる。金属を用いる場合は、スパッタリングや蒸着やメッキの方法を用いうる。カーボンブラックをはじめとする無機炭素質の粒子は合成樹脂とのなじみが良く、十分な導電性を得ることができ、また、紡糸性に与える影響も小さいので好ましく採用される。
【0026】
本発明に用いる導電性の繊維の繊度は、10dtex~90dtexであることが好ましく、また、導電性の繊維の単糸繊度は、1dtex~25dtexであることが好ましい。このような繊度または単糸繊度の範囲の糸を用いることで、非導電性の繊維との撚糸、カバリング等の糸加工時の工程通過性の確保と、数コースにわたり、ノンニットすることで伸ばされるループが糸切れすることなく編立可能となり、制電性と工程通過性を維持することができる。
【0027】
本発明の第1の編成糸に用いる非導電性の繊維の繊度は、20dtex~180dtexであることが好ましく、また、非導電性の繊維の単糸繊度は、0.3dtex~10dtexであることが好ましい。このような繊度または単糸繊度の範囲の糸を用いることで、導電性の繊維と構成する第1の編成糸の着用時・洗濯時の耐久性を維持し、初期の制電性の低下を防ぐことが可能になる。
【0028】
本発明に用いる第1の編成糸は前記の導電性の繊維が前記の非導電性の繊維にカバリングされており、非導電性の繊維は、導電性の繊維によって面積比でその表面の15%以上が被覆されている。被覆率を15%以上とすることによって、作業者の動作による伸縮による編み目の変形があっても異方性が小さい良好な導電性を保つことができる。被覆率は好ましく18%以上であり、より好ましくは20%以上である。上限としては特に制限はないが、制電性の向上と意匠性とのバランスを考慮すれば、40%以下とすることが好ましい。カバリングの方法としては特に制限はないが、より高いレベルで作業者の動作による伸縮による編み目の変形があっても異方性が小さい良好な導電性を保つことができることから、第1の編成糸は、非導電性繊維が導電性の繊維によってダブルカバリングされたものとすることが好ましい。なお、被覆率は実施例の項に記載の方法により求めることができる。
【0029】
(第2の編成糸)
第2の編成糸は、非導電性の繊維のみからなる。ただし、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、わずかの導電性繊維が含まれる場合が排除されるものではない。
【0030】
第2の編成糸に用いる非導電性の繊維についての説明は、下記する点を除いて、第1の編成糸に用いる非導電性繊維の説明でした説明を援用する。
【0031】
本発明の第2の編成糸に用いる非導電性の繊維の繊度は、50dtex~200dtexであることが好ましく、また、非導電性の繊維の単糸繊度は、0.3dtex~10dtexであることが好ましい。このような繊度または単糸繊度の範囲の糸を用いることで、適度な通気性をもつ生地を得ることができ、着用時の快適性に優れた衣服が得られる。
【0032】
また、第2の編成糸として抗菌や消臭などの機能をもつ繊維を使用することで、導電性に加えて、用途に合わせた機能をもつ生地を得ることができ、ニーズに合わせた衣服を提供することができる。
【0033】
(編地)
本発明の編地は、前記第1の編成糸と前記第2の編成糸とが用いられた編地である。本発明の目的を阻害しない限り、他の編成糸が用いられることを妨げないが、以下では説明を簡単にするため、第1の編成糸と第2の編成糸とによる編地を例に挙げて説明する。
【0034】
編地を得るための方法としては、特に制限されるものではない。これには公知の方法を採用することができる。第1の編成糸は編地中に局在化して導入されても構わないが、編地全体としての制電性を良好に保つ上では、周期的に導入、すなわち編機に対してn本の第2の編成糸の導入毎に1本の第1の編成糸を導入(ここでnは正の整数)、することが好ましい。この周期は使用が予定される部位に応じて適宜変更しても構わない。
【0035】
本発明の編地は、第1の編成糸は、その少なくとも一部で、第2の編成糸をノンニットにして他の第1の編成糸との間で編目を有する編成としている。これを、図1を用いて説明する。すなわち、図1の編成において、第1の編成糸は、5本の第2の編成糸の編み目を飛ばして、近接する第1の編成糸との間で編み目を編成している。このように近接する第1の編成糸との間で物理的に接続が確保されることによって、作業者の動作による伸縮による編み目の変形があっても異方性が小さい良好な導電性を保つことができる。この効果は、前記したとおり、第1の編成糸を非導電性の繊維が導電性の繊維によってダブルカバリングされたものとすることによっていっそう顕著である。
【0036】
本発明の編地において、編地の質量を100質量%としたとき、前記導電性繊維の含有量は0.5質量%~10質量%を占める。0.5質量%未満の場合、十分な制電性を得ることができず、また、作業者の動作による伸縮による編み目の変形の際の導電性の異方性を保つことが困難である。作業者の動作による影響を高レベルで排除する観点から、前記導電性繊維の含有量の下限として好ましくは、1.0質量%以上であり、より好ましく1.5質量%以上である。また、制電性の向上と意匠性とのバランスの観点から、前記導電性繊維の含有量の上限として好ましくは、4.0質量%以下であり、より好ましく3.0質量%以下である。
【0037】
本発明の編地は、前記第1の編成糸が1種類以上の柄の繰り返しで編成され、前記柄の1単位当たりの第1の編成糸によって囲まれた編地の面積が72mm以下となるように編成されていることが好ましい。このように編成することによって、意匠性としても良好であり、また、より高い制電性を有した編地とできる。
【0038】
本発明の編地は、緯編み地および丸編み地からなる群から選ばれたいずれかの編地とすることが好ましい。緯編み地および丸編み地は、織物地や経編み地に較べて伸縮性やドレープ性において優れており、衣類としたときの着用感が良好であり、また、作業性にも優れたものとできる。
【0039】
また、緯編み地および丸編み地からなる群から選ばれたいずれかの編地とする場合は、100ウェール当たり150~350mmの糸長で編成することが好ましく、このような編成とすることで、より伸縮性に優れた適度な通気性をもつ編地とすることができ、着用時の動きやすさや快適性に優れた衣服が得られる。
【0040】
本発明の編地は、本発明の編地同士での多重編地、または、本発明の編地と他の編地との多重編地であることができる。この場合、本発明の編地は多重編地のレイヤーのうちの少なくともひとつのレイヤーを構成する。もちろん全てのレイヤーが本発明の編地であっても構わない。多重編地としては、二重編地が典型的な例である。多重編地とすることで、作業者の動作による伸縮による編み目の変形があったとしても第1の編成糸の位置の移動が抑制され、導電性の異方性をより高いレベルで保つことが可能である。また、風合いや肌触りや外観の設計の自由度を高めることができ、デザイン面での自由度を高めることができる。なお、多重編地とする場合、本発明の編地で構成されたレイヤーは着用者からみて外側の表面を形成する位置に設けることが好ましい。本発明の編地の高い制電性の効果を十分に活用できるからである。
【0041】
本発明の編地は、その伸長率は経方向で15%以上、緯方向で50%以上であることが好ましい。このような編地とすることで、制電性と伸縮性によるクリーンルーム等での快適性の向上と伸縮する箇所の部分使い等のユニフォームデザインに対する自由度がアップする。なお、多重編地である場合は、多重編地としての伸長率であることが好ましい。
【0042】
本発明の編地は、通気性が100cm/(cm・sec)以上であることが好ましい。このような編地を作業着とすることで、作業エリアによって室温差が大きいクリーンルーム内でも快適に作業することが可能となる。なお、多重編地である場合は、多重編地としての通気性であることが好ましい。
【0043】
また、本発明の編地は、編地の状態としても、また、作業着の状態としても、好ましく染色加工などの通常の編地に対してなされる加工を適用することができる。
【0044】
(作業着)
本発明の編地は、ユニフォームなどの作業着に用いるに好適である。編地を作業着に加工する方法には特に制限はない。これには公知の方法を採用できる。
【0045】
本発明の作業着は、本発明の編地が露出した側の表面において、IEC61340-5-1に準拠して測定される表面抵抗値が10~10である。このような表面抵抗値とすることで、作業着としての制電性として十分であり、多様な用途に適用することができる。
【実施例0046】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はかかる実施例に限定して解釈されるものではない。
【0047】
本実施例の項において、各種の物性や特性は、以下の方法で測定し、あるいは、評価した。なお、本明細書で説明した各種の物性や特性は、これらの方法で測定し、あるいは、評価することができる。
【0048】
(糸の電気抵抗値)
電圧計の端子間が長さ10cm長となるよう糸を取り付け、両端に一定電圧を印加し、電流を測ることから抵抗値(Ω/cm)を算出した。なお、3回の測定を行い、その算術平均値として求めた。
【0049】
(生地の表面抵抗値)
IEC(国際電気標準会議)61340-5-1に記載される方法で表面抵抗値の測定を行った。
【0050】
なお、生地を用いて縫製した衣服(ブルゾン、ポロシャツ)については、室温23℃、相対湿度25%の温調環境で24時間調温調湿したのちに、印加電圧は100Vで測定を行った。
【0051】
(伸長率)
編地の伸長率は、JIS L 1096(2010.8.16.1)の伸び率のD法(編物の定荷重法)により測定した。なお、3回の測定を行い、その算術平均値として求めた。
【0052】
織物の伸長率は、JIS L 1096(2010.8.16.1)の伸び率のB法(織物の定荷重法)により測定した。なお、3回の測定を行い、その算術平均値として求めた。
【0053】
(通気性)
編地または織物地を用いて、JIS L 1096(2010.8.26)通気性の8.26.1.A(フラジール形法)により通気性(cm/(cm・sec))を測定した。なお、5回の測定を行い、その算術平均値として求めた。
【0054】
(被覆率)
第1の編成糸の被覆率は、下式に従い、サンプリングした第1の編成糸について、導電性繊維と非導電性繊維の繊度、比重、糸長、糸束数より算出を行った。
【0055】
被覆率C(%)
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、
1 :導電性繊維の編成糸の断面方向の糸幅(μm)
【0058】
【数2】
【0059】
2 :非導電性繊維の編成糸の断面方向の円周(μm)
【0060】
【数3】
【0061】
:導電性繊維の繊度(dtex)
ne :非導電性繊維の繊度(dtex)
ρ :導電性繊維の比重(g/cm
ρne :非導電性繊維の比重(g/cm
:導電性繊維の長さ(μm)
:非導電性繊維の長さ(μm)
:第1の編成糸に巻かれている導電性繊維の本数
また、各繊維の繊度はJIS L 1013 8.3.1A、比重ρはJIS L 1013 8.17によって算出した。
【0062】
第1の編成糸の導電性繊維の長さLおよび非導電性繊維の長さLは、5回の測定を行い、その算術平均値として求めた。
【0063】
(実施例1)
第1の編成糸としてポリエステルマルチフィラメント糸(84dtex、36フィラメント)にカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸(22dtex、4フィラメント、電気抵抗値10Ω/cm)をダブルカバリングした複合糸(導電性繊維の被覆率34.6%)、第2の編成糸としてポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸(111dtex、36フィラメント)を用い、編機として22ゲージ丸編機(福原精機製作所製、M-LPJ4B)を用いて、全36給糸で編成して丸編地とした。前記各編成糸の供給比率を第1の編成糸8.9質量%、第2の編成糸91.1質量%とし、前記カーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸は本編地において2.9質量%の含有量となった。前記編地は図1に示すように、表面で第1の編成糸が他の第1の編成糸と編目を有するように編成した。
【0064】
(実施例2)
第1の編成糸としてポリエステルマルチフィラメント糸(167dtex、48フィラメント)にカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸(22dtex、4フィラメント、電気抵抗値10Ω/cm)をダブルカバリングした複合糸(導電性繊維の被覆率24.4%)、第2の編成糸としてポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸(167dtex、48フィラメント)を用い、編機として22ゲージ丸編機(福原精機製作所製、M-LPJ4B)を用いて、全36給糸で編成して丸編地とした。前記各編成糸の供給比率を第1の編成糸10.0質量%、第2の編成糸90.0質量%とし、前記カーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸は本編地において1.9質量%の含有量となった。実施例1と同様に編地は図1に示すように、表面で第1の編成糸が他の第1の編成糸と編目を有するように編成した。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同様の第1の編成糸、第2の編成糸、編機、全給糸数、各編成糸の供給比率、カーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸の含有量で編成し、図2に示すように、第1の編成糸を他の第1編成糸と編目を有しないボーダー状に編成した。
【0066】
(比較例2)
実施例1のカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸をナイロンマルチフィラメント糸(22dtex、20フィラメント、電気抵抗値1016Ω/cm)に置き換え、その他の項目については実施例1と同様に図1に示すように編成した。
【0067】
(比較例3)
第1の編成糸としてポリエステルマルチフィラメント糸(84dtex、36フィラメント)にカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸(22dtex、4フィラメント、電気抵抗値10Ω/cm)をシングルカバリングした複合糸(導電性繊維の被覆率14.6%)を用い、第2の編成糸、編機、全給糸数は実施例1と同様に編成し丸編地とした。前記各編成糸の供給比率を第1の編成糸7.4質量%、第2の編成糸92.6質量%とし、前記カーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸は本編地において1.5質量%の含有量となった。前記編地は実施例1と同様図1に示すように編成した。
【0068】
(比較例4)
第1の経糸にポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(167dtex、48フィラメント)と第2の経糸にポリエステルフィラメント糸(167dtex、48フィラメント)にカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸(22dtex、4フィラメント、電気抵抗値10Ω/cm)をダブルカバリングした糸(導電性繊維の被覆率24.4%)をそれぞれ21本対1本の割合で交互に配列し、第1の緯糸に第1の経糸と同じポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸と第2の緯糸に第2の経糸と同じポリエステルフィラメント糸にカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸をダブルカバリングした糸をそれぞれ17本対1本の割合で交互に配列し、エアージェット織機(津田駒工業製、ZAX9200)を用いてのツイル組織の織物生機を製織した。前記各糸の比率をポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(経糸1、緯糸1)を93.3質量%、同ダブルカバリング糸(経糸2、緯糸2)を6.7質量%とし、前記カーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸は本編地において1.4質量%の含有量となった。
【0069】
(比較例5)
比較例4と同様の第1の経糸と第2の経糸にポリエステルフィラメント糸(167dtex、48フィラメント)にカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸(22dtex、4フィラメント、電気抵抗値10Ω/cm)をシングルカバリングした糸(導電性繊維の被覆率12.0%)をそれぞれ19本対1本の割合で交互に配列し、比較例4と同様の第1の緯糸と第2の緯糸に第2の経糸と同じポリエステルフィラメント糸にカーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸をシングルカバリングした糸をそれぞれ17本対1本の割合で交互に配列し、エアージェット織機(津田駒工業製、ZAX9200)を用いてのツイル組織の織物生機を製織した。前記各糸の比率をポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(経糸1、緯糸1)を94.0質量%、同シングルカバリング糸(経糸2、緯糸2)を6.0質量%とし、前記カーボン含有ポリエステルマルチフィラメント糸は本編地において0.7質量%の含有量となった。
【0070】
実施例および比較例のまとめを表1に示す。
【0071】
また、実施例の編地は、伸長させても表面抵抗値の維持がなされており、伸縮による編み目の変形に対しても異方性がなく高い導電性を発揮することが確認できた。
【0072】
【表1】
【符号の説明】
【0073】
1 第1の編成糸
2 第2の編成糸
図1
図2