(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133779
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】温調装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
B41J2/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038966
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】横原 慎吾
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA01
2C056EB07
2C056EB30
2C056EC07
2C056EC19
2C056EC29
2C056FA13
2C056HA15
2C056KB16
(57)【要約】
【課題】消費電力を抑制するとともに、効率的に温調制御を行うことができる温調装置を提供する。
【解決手段】インクを吐出するインクジェットヘッドが鉛直方向に複数配列され、その複数のインクジェットヘッドを収容する筐体を有するラインヘッド11に対して供給されるインクの温度を調整する温調機構22,32,42と、温調機構22,32,42を制御する制御部50とを備え、制御部50が、鉛直方向下方に配置されるインクジェットヘッドよりも鉛直方向上方に配置されるインクジェットヘッドに供給されるインクに対する加温条件が低くなるように温調機構22,32,42を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する吐出部が鉛直方向に複数配列され、該複数の吐出部を収容する筐体を有するヘッド部に対して供給される液体の温度を調整する温度調整部と、
前記温度調整部を制御する制御部とを備え、
前記制御部が、鉛直方向下方に配置される吐出部よりも鉛直方向上方に配置される吐出部に供給される液体に対する加温条件または冷却条件が低くなるように前記温度調整部を制御する温調装置。
【請求項2】
前記温度調整部が、複数の前記吐出部毎に設けられている請求項1記載の温調装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記ヘッド部に含まれる複数の吐出部のうち、鉛直方向下方に位置する吐出部から鉛直方向上方に位置する吐出部に向けて順次加温されるように前記温度調整部を制御する請求項1または2記載の温調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛直方向に配列された複数の吐出部に供給される液体の温度を調整する温調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷媒体に対してインクを吐出して印刷を施すインクジェット印刷装置が提案されている。
【0003】
インクジェット印刷装置においては、印刷に適したインク温度にするとともに、インクジェットヘッドからのインク吐出によって発生するインクミストを抑制するため、インク温度は30℃~35℃に保たれるようヒータなどによって温調される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、段ボールなどの側面に印刷を施すインクジェット印刷装置であって、鉛直方向について配列された複数のインクジェットヘッドを用いて印刷を行うインクジェット印刷装置が提案されている。このようなインクジェット印刷装置においても、インク温度を適正範囲に維持するため、インクを温調する必要がある。
【0006】
一方で、インク温度の調整は、各インクジェットヘッドにインクを供給するインクユニットにおいて行われるが、上述したような複数のインクジェットヘッドが鉛直方向に配列されたインクジェット印刷装置の場合、各インクジェットヘッドに対して設けられた複数のインクユニットにおいてヒータによる加熱を行ったのでは、ヒータの消費電力が、インクジェットヘッドの個数分加算されるため、消費電力が非常に高くなる。
【0007】
特許文献1においては、複数の加熱源を制御する際、温度制御のためのパルス信号のデューティ比を分割するとともに、複数の加熱源に対して時間をずらしてパルス信号を順次供給することによって、消費電力が高くなるのを防止する方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のように加温制御したのでは、全てのインクジェットヘッドが印刷可能温度となるまでの時間が長くなり、生産性の低下につながる。
【0009】
本発明は、消費電力を抑制するとともに、効率的に温調制御を行うことができる温調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の温調装置は、液滴を吐出する吐出部が鉛直方向に複数配列され、該複数の吐出部を収容する筐体を有するヘッド部に対して供給される液体の温度を調整する温度調整部と、温度調整部を制御する制御部とを備え、制御部が、鉛直方向下方に配置される吐出部よりも鉛直方向上方に配置される吐出部に供給される液体に対する加温条件または冷却条件が低くなるように温度調整部を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の温調装置によれば、鉛直方向下方に配置される吐出部よりも鉛直方向上方に配置される吐出部に供給される液体に対する加温条件または冷却条件が低くなるように温調制御するようにしたので、消費電力を抑制するとともに、効率的に温調制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の温調装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置の概略構成を示す外観斜視図
【
図4】
図1に示すインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図
【
図5】ブロックB1~B3のインク温度の変化を示すグラフおよびブロックB1~B3に対応する温調機構に出力されるパルス信号のデューティ比を示す図
【
図7】上側ヘッド冷却ファンおよび下側ヘッド冷却ファン並びに温調機構のインク冷却ファンの制御方法の一例を示す表
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の温調装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置について詳細に説明する。
図1は、インクジェット印刷装置1の概略構成を示す外観斜視図である。以下に示す実施形態の説明では、
図1に矢印で示す上下左右前後を、インクジェット印刷装置1の上下左右前後方向とする。また、インクジェット印刷装置1の上下方向が鉛直方向である。
【0014】
インクジェット印刷装置1は、
図1に示すように、ヘッドユニット10と、搬送ユニット2とを備えている。
【0015】
搬送ユニット2は、印刷媒体Pを
図1に示す矢印方向に搬送する。印刷媒体Pとしては、たとえば
図1に示すような鉛直方向に立設する印刷面Psを有する箱体(たとえば段ボール箱など)が用いられる。ただし、印刷媒体Pは、箱体に限らず、鉛直方向に立設する印刷面を有するものであれば如何なるものでもよい。
【0016】
搬送ユニット2は、支持台3と、搬送ベルト部4とを備えている。支持台3は、搬送ベルト部4を支持する台である。
【0017】
搬送ベルト部4は、印刷媒体Pの搬送方向に直交する方向に延設された2本のプラテンローラと搬送ベルトなどを備える。2本のプラテンローラは、印刷媒体Pの搬送方向について離間して平行に配置される。そして、平行に配列された2本のプラテンローラ間に環状の搬送ベルトが掛け渡される。後述する制御部50の制御によってプラテンローラが回転して搬送ベルトが移動し、これにより印刷媒体Pが搬送される。
【0018】
ヘッドユニット10は、搬送ユニット2によって搬送された印刷媒体Pの印刷面Psに対してインクを吐出することによって印刷を施す。
【0019】
ヘッドユニット10は、
図1に示すように、4本のラインヘッド11,12,13,14を有する。4本のラインヘッド11~14は、鉛直方向に延設されるものであり、印刷媒体Pの搬送方向について平行に配列される。本実施形態においては、各ラインヘッド11~14が、本発明のヘッド部に相当する。
【0020】
4本のラインヘッド11~14は、それぞれC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)およびK(ブラック)のインクを吐出するものである。
【0021】
図2は、ラインヘッド11の詳細な構成を示す図である。ここでは4本のラインヘッド11~14のうちのラインヘッド11の構成について説明するが、残りのラインヘッド12~14についても同様の構成である。
【0022】
ラインヘッド11は、6つのインクジェットヘッド11a,11b,11c,11d,11e,11fを備えている。
【0023】
各インクジェットヘッド11a~11fは、インクを吐出する複数のノズルを有し、その複数のノズルの配列方向が鉛直方向となるように配置されている。なお、ノズルの配列方向とは、たとえばノズルが2次元状に配列される場合には、ノズル列が最も長い配列方向のことをいう。
【0024】
6つのインクジェットヘッド11a,11b,11c,11d,11e,11fは、筐体11g内に設けられており、各インクジェットヘッド11a~11fのインク吐出面が、筐体11gの外に露出するように設けられている。インク吐出面とは、ノズルのインク吐出口が配列された面であり、本実施形態では、鉛直方向に立設される。
【0025】
また、ラインヘッド11は、3つのインクジェットヘッド11a,11c,11eから構成される第1のヘッド列と、3つのインクジェットヘッド11b,11d,11fから構成される第2のヘッド列とを有する。第1のヘッド列と第2のヘッド列は、印刷媒体Pの搬送方向について異なる位置に隣接して配置される。
【0026】
第1のヘッド列の3つのインクジェットヘッド11a,11c,11eは、鉛直方向について所定の間隔を空けて配置されている。また、第2のヘッド列の3つのインクジェットヘッド11b,11d,11fは、鉛直方向について所定の間隔を空けて配置されている。
【0027】
そして、
図2に示すように、第1のヘッド列のインクジェットヘッド11a,11c,11eと、第2のヘッド列のインクジェットヘッド11b,11d,11fは、鉛直方向について異なる位置となるように千鳥配置される。
【0028】
たとえばラインヘッド11によって鉛直方向に延びる直線を印字する場合には、第1のヘッド列と第2のヘッド列とで異なるタイミングでインクを吐出することによって、上記直線が印字される。
【0029】
本実施形態においては、インクジェットヘッド11に含まれる6つのインクジェットヘッド11a~11fを、その鉛直方向の位置に基づいて3つのブロックB1,B2,B3に分割する。ブロックB1は、下段のインクジェットヘッド11aおよび11bが属するブロックである。ブロックB2は、中段のインクジェットヘッド11cおよび11dが属するブロックである。ブロックB3は、上段のインクジェットヘッド11eおよび11fが属するブロックである。
【0030】
ブロックB1のインクジェットヘッド11aとインクジェットヘッド11bには、共通のインク供給管15aと共通のインク排出管15bが接続されている。
【0031】
インク供給管15aは、後述する第1のインクユニット20において温調されたインクを、ブロックB1のインクジェットヘッド11aとインクジェットヘッド11bに供給する。
【0032】
インク排出管15bは、ブロックB1のインクジェットヘッド11aとインクジェットヘッド11bにおいて吐出されずに残ったインクが排出され、その排出されたインクを第1のインクユニット20に戻す。
【0033】
すなわち、インク供給管15aおよびインク排出管15bを介して、インクジェットヘッド11aおよびインクジェットヘッド11bと第1のインクユニット20との間でインクが循環する。
【0034】
ブロックB2のインクジェットヘッド11cとインクジェットヘッド11dには、共通のインク供給管15cと共通のインク排出管15dが接続されている。
【0035】
インク供給管15cは、後述する第2のインクユニット30において温調されたインクを、ブロックB2のインクジェットヘッド11cとインクジェットヘッド11dに供給する。
【0036】
インク排出管15dは、ブロックB2のインクジェットヘッド11cとインクジェットヘッド11dにおいて吐出されずに残ったインクが排出され、その排出されたインクを第2のインクユニット30に戻す。
【0037】
すなわち、インク供給管15cおよびインク排出管15dを介して、インクジェットヘッド11cおよびインクジェットヘッド11dと第2のインクユニット30との間でインクが循環する。
【0038】
ブロックB3のインクジェットヘッド11eとインクジェットヘッド11fには、共通のインク供給管15eと共通のインク排出管15fが接続されている。
【0039】
インク供給管15eは、後述する第3のインクユニット40において温調されたインクを、ブロックB3のインクジェットヘッド11eとインクジェットヘッド11fに供給する。
【0040】
インク排出管15fは、ブロックB3のインクジェットヘッド11eとインクジェットヘッド11fにおいて吐出されずに残ったインクが排出され、その排出されたインクを第3のインクユニット40に戻す。
【0041】
すなわち、インク供給管15eおよびインク排出管15fを介して、インクジェットヘッド11eおよびインクジェットヘッド11fと第3のインクユニット40との間でインクが循環する。
【0042】
また、インクジェットヘッド11a近傍のインク供給管15aとインク排出管15bには、ヘッド温度センサHS1,HS2がそれぞれ設けられている。ヘッド温度センサHS1,HS2は、インクジェットヘッド11a近傍のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11aの温度を検出する。
【0043】
また、インクジェットヘッド11b近傍のインク供給管15aとインク排出管15bには、ヘッド温度センサHS3,HS4がそれぞれ設けられている。ヘッド温度センサHS3,HS4は、インクジェットヘッド11b近傍のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11bの温度を検出する。
【0044】
また、インクジェットヘッド11c近傍のインク供給管15cとインク排出管15dには、ヘッド温度センサHS5,HS6がそれぞれ設けられている。ヘッド温度センサHS5,HS6は、インクジェットヘッド11c近傍のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11cの温度を検出する。
【0045】
また、インクジェットヘッド11d近傍のインク供給管15cとインク排出管15dには、ヘッド温度センサHS7,HS8がそれぞれ設けられている。ヘッド温度センサHS7,HS8は、インクジェットヘッド11d近傍のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11dの温度を検出する。
【0046】
また、インクジェットヘッド11e近傍のインク供給管15eとインク排出管15fには、ヘッド温度センサHS9,HS10がそれぞれ設けられている。ヘッド温度センサHS9,HS10は、インクジェットヘッド11e近傍のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11eの温度を検出する。
【0047】
また、インクジェットヘッド11f近傍のインク供給管15eとインク排出管15fには、ヘッド温度センサHS11,HS12がそれぞれ設けられている。ヘッド温度センサHS11,HS12は、インクジェットヘッド11f近傍のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11fの温度を検出する。
【0048】
図3は、上述した第1のインクユニット20、第2のインクユニット30および第3のインクユニット40の構成を示す図である。
【0049】
第1~第3のインクユニット20~40は、ラインヘッド11の各ブロックB1~B3にインクを供給するとともに、その供給されるインクの温度を制御する。具体的には、第1のインクユニット20は、インク循環機構21を有し、インク循環機構21には、温調機構22が設けられている。
【0050】
インク循環機構21は、上述したようにインク供給管15aを介して、ブロックB1のインクジェットヘッド11aおよび11bに対してインクを供給するとともに、インク排出管15bを介して、ブロックB1のインクジェットヘッド11aおよび11bから排出されたインクを回収する。インク循環機構21は、上述したようなインクの循環を行うための配管およびポンプなどを有し、また新しいインクが貯留されたインクタンクなどを備え、インクタンクから新しいインクを供給する。
【0051】
インク循環機構21には、温調機構22が設けられている。温調機構22は、インク循環機構21において循環するインクの温度を調整する機構であり、具体的には、パルス幅変調制御(PWM制御)されるヒータを備える。そして、制御部50によってパルス幅が変調され、ヒータの温度が制御される。制御部50によってヒータの温度が制御されることによって、インク循環機構21において循環するインクの温度が調整される。
【0052】
本実施形態では、上述したように2つのインクジェットヘッドに対して1つのインクユニット(温調機構)を設けるようにしたので、インクジェットヘッド毎にインクユニット(温調機構)を設ける場合と比較すると消費電力を抑制することができる。なお、本実施形態では、上述したように2つのインクジェットヘッドに対して1つのインクユニット(温調機構)を設けるようにしたが、1つのインクユニット(温調機構)に対するインクジェットの数は、2つに限らず、ラインヘッドに含まれるインクジェットユニットの総数(本実施形態では6つ)より小さい数であれば、如何なる数でもよい。
【0053】
第2のインクユニット30のインク循環機構31および第3のインクユニット40のインク循環機構41の構成は、第1のインクユニット20のインク循環機構21と同様である。また、第2のインクユニット30の温調機構32および第3のインクユニット40の温調機構42の構成は、第1のインクユニット20の温調機構22と同様である。
【0054】
また、第1のインクユニット20内のインク供給管15aとインク排出管15bには、インク温度センサ20a,20bがそれぞれ設けられている。インク温度センサ20a,20bは、第1のインクユニット20内のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11aおよびインクジェットヘッド11bに供給されるインクの温度を検出する。本実施形態では、インク温度センサ20a,20bによって検出されたインクの温度および上述したヘッド温度センサHS1,HS2,HS3,HS4によって検出された温度の最高値と最低値を、ブロックB1のインク温度として検出する。なお、本実施形態においては、上述したようにブロックB1のインク温度として、最高値と最低値を検出するようにしたが、平均値を検出するようにしてもよい。
【0055】
また、第2のインクユニット30内のインク供給管15cとインク排出管15dには、インク温度センサ30a,30bがそれぞれ設けられている。インク温度センサ30a,30bは、第2のインクユニット30内のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11cおよびインクジェットヘッド11dに供給されるインクの温度を検出する。本実施形態では、インク温度センサ30a,30bによって検出されたインクの温度および上述したヘッド温度センサHS5,HS6,HS7,HS8によって検出された温度の最高値と最低値を、ブロックB2のインク温度として検出する。上述したようにブロックB2のインク温度として、最高値と最低値を検出するようにしたが、平均値を検出するようにしてもよい。
【0056】
また、第3のインクユニット40内のインク供給管15eとインク排出管15fには、インク温度センサ40a,40bがそれぞれ設けられている。インク温度センサ40a,40bは、第3のインクユニット40内のインクの温度を検出することによって、インクジェットヘッド11eおよびインクジェットヘッド11fに供給されるインクの温度を検出する。本実施形態では、インク温度センサ40a,40bによって検出されたインクの温度および上述したヘッド温度センサHS9,HS10,HS11,HS12によって検出された温度の最高値と最低値を、ブロックB3のインク温度として検出する。上述したようにブロックB3のインク温度として、最高値と最低値を検出するようにしたが、平均値を検出するようにしてもよい。
【0057】
そして、本実施形態では、制御部50が、ブロックB1、ブロックB2およびブロックB3のそれぞれのインク温度に基づいて、それぞれのブロックB1~B3に供給されるインクに対する加温条件が異なるように制御する。なお、以下、加温制御の際に使用するブロックB1~B3のインク温度は、インク温度センサ40a,40bおよびヘッド温度センサHS9,HS10,HS11,HS12によって検出された温度の最低値とする。ただし、これらのセンサによって検出された温度の平均値を用いるようにしてもよい。
【0058】
図4は、本実施形態のインクジェット印刷装置1の制御系の構成を示すブロック図である。制御部50は、CPU(Central Processing Unit)並びに半導体メモリおよびハードディスクなどの記憶媒体を備え、インクジェット印刷装置1全体を制御する。制御部50は、半導体メモリまたはハードディスクなどの記憶媒体に予め記憶された制御プログラムを実行し、かつ電気回路を動作させることによって、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御するものである。
【0059】
特に、本実施形態の制御部50は、第1~第3のインクユニット20,30,40の温調機構22,32,42を制御して、ブロックB1~B3毎に供給されるインクの温度を独立して制御する。具体的には、制御部50は、鉛直方向下方に配置されるブロックよりも鉛直方向上方に配置されるブロックに供給されるインクに対する加温条件を低くする。すなわち、本実施形態では、ブロックB1に供給されるインクに対して最も低い加温条件が設定され、ブロックB2に供給されるインクに対して次に低い加温条件が設定され、ブロックB3に供給されるインクに対して最も高い加温条件が設定される。
【0060】
本実施形態では、温調機構22,32,42はPWM制御されるヒータを備えるので、制御部50は、温調機構22,32,42に供給されるパルス信号のデューティ比を変更することによって、温度制御を行う。すなわち、本実施形態の制御部50は、パルス信号のデューティ比を変更することによって、各ブロックB1~B3に供給されるインクに対する加温条件を変更する。
【0061】
このように各ブロックB1~B3の鉛直方向の位置に応じて加温条件を変更する理由は、鉛直方向下方に位置するブロックに対する加温によって、そのブロック周辺の空気が加温され、その加熱された空気が、煙突効果によって筐体11g内を上昇する。そして、この加温された空気の上昇によって鉛直方向上方の位置するブロックが加温されるからである。このように、鉛直方向上方に位置するブロックは、下方から上昇してきた空気によっても加温されるので、加温条件を低く設定しても所望のインク温度を得ることができる。
【0062】
このように、本実施形態では、鉛直方向下方に配置されるブロックよりも鉛直方向上方に配置されるブロックに供給されるインクに対する加温条件が低くなるように温調制御するようにしたので、消費電力を抑制するとともに、効率的に温調制御を行うことができる。
【0063】
以下、制御部50による温度制御の一例について、
図5Aに示すグラフおよび
図5Bに示す表を参照しながら説明する。
図5Aは、各ブロックB1~B3のインク温度の変化を示す図であり、
図5Bは、各ブロックB1~B3に対応する温調機構22~42に出力されるパルス信号のデューティ比を示す表である。なお、ここでは、インクジェット印刷装置1が設置された場所の環境温度は25℃以下であり、インクの温度を30℃~35℃に維持するための温度制御について説明する。
【0064】
まず、インクジェット印刷装置1の起動時は、ブロックB1~B3のインク温度は25℃以下であるため、制御部50は、全てのブロックB1~B3に対応する温調機構22,32,42のヒータを加熱する。この際、制御部50は、
図5Bに示すようにブロックB1の温調機構22に出力するパルス信号のデューティ比を100%とし、ブロックB2の温調機構32に出力するパルス信号のデューティ比を50%とし、ブロックB3の温調機構42に出力するパルス信号のデューティ比を25%とする。
【0065】
そして、制御部50は、
図5Aに示すようにブロックB1のインク温度が35℃に到達したt1の時点で、
図5Bに示すようにブロックB1の温調機構22による加温を停止する。そして、制御部50は、
図5Aに示すように、t1の時点において、ブロックB2のインク温度とブロックB3のインク温度が35℃未満である場合には、
図5Bに示すように、ブロックB2の温調機構32に出力するパルス信号のデューティ比を100%とし、ブロックB3の温調機構42に出力するパルス信号のデューティ比を50%とする。
【0066】
その後、制御部50は、
図5Aに示すようにブロックB2のインク温度が35℃に到達したt1の時点で、
図5Bに示すようにブロックB2の温調機構32による加温を停止する。そして、制御部50は、
図5Aに示すように、t2の時点において、ブロックB3のインク温度が35℃未満である場合には、
図5Bに示すように、ブロックB3の温調機構42に出力するパルス信号のデューティ比を100%とする。
【0067】
その後、制御部50は、
図5Aに示すようにブロックB3のインク温度が35℃に到達したt3の時点で、
図5Bに示すようにブロックB3の温調機構42による加温を停止する。
【0068】
上述したように鉛直方向下方に位置するブロックから鉛直方向上方に位置するブロックに向けて順次加温されるように加温制御した場合には、煙突効果による加温効果をより効率的に得ることができ、3つのブロックB1~B3のインク温度をより短時間で所望の範囲に到達させることができる。
【0069】
そして、上述したように全てのブロックB1~B3のインク温度が35℃に一旦到達した後は、制御部50は、たとえばいずれかのブロックのインク温度が30℃以下となった場合には、そのブロックの温調機構に出力するパルス信号のデューティ比を任意の値として加温する。
【0070】
また、制御部50は、たとえば複数のブロックのインク温度が30℃以下となった場合には、その複数のブロックの温調機構にパルス信号を出力して加温するが、この際、複数のブロックのうちの最も鉛直方向下方のブロックの温調機構に出力するパルス信号のデューティ比を任意の最大値とし、その最も鉛直方向下方のブロックの1段上のブロックを加温する場合には、その1段上のブロックの温調機構に出力するパルス信号のデューティ比を上記任意の最大値の1/2とする。さらに最も鉛直方向下方のブロックの2段上のブロックも加温する場合には、その2段上のブロックの温調機構に出力するパルス信号のデューティ比を1段上のブロックの温調機構に出力するパルス信号のデューティ比の1/2とする。
【0071】
このようにパルス信号のデューティ比を変更することで、3つのブロックB1~B3をどのような組み合わせで加温制御しても、最大消費電力は単体のブロックの場合の200%を超えることはなく、消費電力を削減することができる。
【0072】
なお、上記実施形態の説明では、インクを加温する際の温調機構22,32,42の制御方法について説明したが、たとえば所定のインクジェットヘッドの印字率が非常に高い場合などインクジェットヘッドの温度が高くなり、これによりインク温度が適正温度を超えてしまう場合がある。このような場合、インク温度を下げる冷却処理が必要である。
【0073】
次に、このような冷却処理を行う場合の温度制御について説明する。まず、冷却処理を行うための冷却機構について説明する。
【0074】
冷却機構としては、
図6に示すように、ラインヘッド11~14に対して、それぞれ上側ヘッド冷却ファン60および下側ヘッド冷却ファン61が設けられる。上側ヘッド冷却ファン60および下側ヘッド冷却ファン61は、制御部50からの制御信号に基づいて回転し、鉛直方向下側から上側に向けて流れる冷却風を生成する。この冷却風によってインクジェットヘッド11a~11fが冷却され、インク温度を下げることができる。本実施形態では、上側ヘッド冷却ファン60および下側ヘッド冷却ファン61はPWM制御され、オフ、強ON、弱ONの3段階で制御される。強ONの方が弱ONよりも回転数が多くなるように制御される。
【0075】
また、温調機構22,32,42は、冷却機構として、それぞれインク冷却ファン(図示省略)を備える。インク冷却ファンは、制御部50からの制御信号に基づいて回転し、それぞれインク循環機構21,31,41を循環するインクを冷却する。温調機構22,32,42のインク冷却ファンもPWM制御され、オフ、強ON、中ON、弱ONの4段階で制御される。強ONの方が中ONよりも回転数が多くなるように制御され、中ONの方が弱ONよりも回転数が多くなるように制御される。
【0076】
次に、冷却処理を行う際における上述した上側ヘッド冷却ファン60および下側ヘッド冷却ファン61並びに温調機構22,32,42のインク冷却ファンの制御方法について説明する。
図7は、上側ヘッド冷却ファン60および下側ヘッド冷却ファン61並びに温調機構22,32,42のインク冷却ファンの制御方法の一例を示す表である。なお、
図7は、急速に冷却したい場合(たとえばインク温度の上昇率が高い場合)の制御方法を示している。急速に冷却する場合ではなく、通常の冷却時においては、温調機構22,32,42のインク冷却ファンの制御は、
図7に示す制御と同様であるが、上側ヘッド冷却ファン60および下側ヘッド冷却ファン61は両方とも弱ONに制御される。
【0077】
図7に示す制御方法について、具体的に説明する。なお、以下、冷却制御の際に使用するブロックB1~B3のインク温度は、インク温度センサ40a,40bおよびヘッド温度センサHS9,HS10,HS11,HS12によって検出された温度の最高値とする。ただし、これらのセンサによって検出された温度の平均値を用いるようにしてもよい。
【0078】
制御部50は、ブロックB1のインク温度が予め設定された閾値以上となった場合には、第1のインクユニット20の温調機構22のインク冷却ファンを強ONし、ブロックB1に近い下側ヘッド冷却ファン61を強ONに制御する。
【0079】
また、制御部50は、ブロックB2のインク温度が予め設定された閾値以上となった場合には、第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンをONし、下側ヘッド冷却ファン61と上側ヘッド冷却ファン60の両方を弱ONに制御する。
【0080】
また、制御部50は、ブロックB3のインク温度が予め設定された閾値以上となった場合には、第3のインクユニット40の温調機構42のインク冷却ファンをONし、ブロックB3に近い上側ヘッド冷却ファン60を強ONに制御する。
【0081】
また、制御部50は、ブロックB1およびブロックB2のインク温度が予め設定された閾値以上となった場合には、第1のインクユニット20の温調機構22のインク冷却ファンを中ONに制御し、第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンを強ONに制御する。また、制御部50は、ブロックB1に近い下側ヘッド冷却ファン61を強ONに制御し、上側ヘッド冷却ファン60を弱ONに制御する。上述したように第1のインクユニット20の温調機構22のインク冷却ファンよりも第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンの回転数を多くして冷却率を高くするのは、上述した煙突効果によりブロックB1よりもブロックB2の方が高温になりやすく、また冷却された空気は鉛直方向下方に流れるため、ブロックB2で冷却された冷却風によって、ブロックB1が冷却されるためである。
【0082】
また、制御部50は、ブロックB1およびブロックB3のインク温度が予め設定された閾値以上となった場合には、第1のインクユニット20の温調機構22のインク冷却ファンを中ONに制御し、第3のインクユニット40の温調機構42のインク冷却ファンを強ONに制御する。また、制御部50は、下側ヘッド冷却ファン61と上側ヘッド冷却ファン60の両方を強ONに制御する。上述したように第1のインクユニット20の温調機構22のインク冷却ファンよりも第3のインクユニット40の温調機構42のインク冷却ファンの回転数を多くして冷却率を高くする理由は、上述したとおりである。
【0083】
また、制御部50は、ブロックB2およびブロックB3のインク温度が予め設定された閾値以上となった場合には、第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンを中ONに制御し、第3のインクユニット40の温調機構42のインク冷却ファンを強ONに制御する。また、制御部50は、下側ヘッド冷却ファン61を弱ONに制御し、上側ヘッド冷却ファン60を強ONに制御する。上述したように第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンよりも第3のインクユニット40の温調機構42のインク冷却ファンの回転数を多くして冷却率を高くする理由は、上述したとおりである。
【0084】
また、制御部50は、ブロックB1~B3の全てのブロックのインク温度が予め設定された閾値以上となった場合には、第1のインクユニット20の温調機構22のインク冷却ファンを弱ONに制御し、第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンを中ONに制御し、第3のインクユニット40の温調機構42のインク冷却ファンを強ONに制御する。また、制御部50は、下側ヘッド冷却ファン61および上側ヘッド冷却ファン60の両方を強ONに制御する。上述したように第1のインクユニット20の温調機構22のインク冷却ファンよりも第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンの回転数を多くし、第2のインクユニット30の温調機構32のインク冷却ファンよりも第3のインクユニット40の温調機構42のインク冷却ファンの回転数を多くして、鉛直方向上方のブロックほど冷却率を高くする理由は、上述したとおりである。
【0085】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。たとえば実施形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。
【0086】
本発明に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記)
【0087】
本発明の温調装置において、温度調整部は、複数の吐出部毎に設けることができる。
【0088】
また、本発明の温調装置において、制御部は、ヘッド部に含まれる複数の吐出部のうち、鉛直方向下方に位置する吐出部から鉛直方向上方に位置する吐出部に向けて順次加温されるように温度調整部を制御することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 インクジェット印刷装置
2 搬送ユニット
3 支持台
4 搬送ベルト部
10 ヘッドユニット
11,12,13,14 ラインヘッド
11a,11b,11c,11d,11e,11f インクジェットヘッド
11g 筐体
15a,15c,15e インク供給管
15b,15d,15f インク排出管
20 第1のインクユニット
20a,20b,30a,30b,40a,40b インク温度センサ
21,31,41 インク循環機構
22,32,42 温調機構
30 第2のインクユニット
40 第3のインクユニット
50 制御部
60 上側ヘッド冷却ファン
61 下側ヘッド冷却ファン
B1,B2,B3 ブロック
HS1~HS12 ヘッド温度センサ
P 印刷媒体
Ps 印刷面