(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133785
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】シザーズ構造のパネルユニット、伸縮パネルおよびパネル型シザーズ橋
(51)【国際特許分類】
E01D 15/12 20060101AFI20230920BHJP
E04C 2/40 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
E01D15/12
E04C2/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038977
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】近広 雄希
【テーマコード(参考)】
2D059
2E162
【Fターム(参考)】
2D059BB17
2D059GG55
2E162BA02
2E162BA03
2E162BB10
(57)【要約】
【課題】少人数で簡単に中規模程度の仮橋を構築するのに適した軽量で施工性に優れたシザーズ構造の伸縮パネルを提供すること。
【解決手段】中規模程度の仮橋の構築に用いるシザーズ構造の伸縮パネル20は、縦横に伸縮可能なパネルユニット1が横方向に一列に連結された構成をしている。各パネルユニット1は、材軸方向に伸縮可能な縦枠材4および横枠材5によって規定される矩形枠形状をしている。縦枠材4、横枠材5のそれぞれは、X状に交差配置された一対のリンク7、8からなる単位シザーズ6を直線状に連結した構成をしている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向および横方向に伸縮可能なシザーズ構造の矩形枠を備え、
前記矩形枠の四辺は、左右の縦枠材および上下の横枠材によって規定され、
前記縦枠材および前記横枠材のそれぞれは、一方向に直線状に配列された複数組の単位シザーズを備えており、
前記単位シザーズは、前記矩形枠の一対の対角線の方向に沿ってX状に交差配置された一対のリンクを備え、これらのリンクの交差部が相互に連結されて、交差部ピン節点を形成しており、
前記縦枠材および前記横枠材における隣接配置されている一対の前記単位シザーズの間においては、逆方向に傾斜する前記リンクの端が相互に連結されて、それぞれ矩形枠外周縁に沿って配列された外周縁側ピン節点および矩形枠内周縁に沿って配列された内周縁側ピン節点を形成しており、
前記矩形枠の四隅のそれぞれに位置する前記単位シザーズは、前記縦枠材の端に位置する前記単位シザーズと、前記横枠材の端に位置する前記単位シザーズとを兼用する共通の単位シザーズであるシザーズ構造のパネルユニット。
【請求項2】
請求項1において、
前記横方向に連結された複数組の前記矩形枠を備えており、
隣接する前記矩形枠の間に位置する前記縦枠材が、一方の前記矩形枠の前記縦枠材と、他方の前記矩形枠の前記縦枠材とを兼用する共通の縦枠材となるように、前記矩形枠が相互に連結されているシザーズ構造のパネルユニット。
【請求項3】
請求項1または2において、更に、
前記矩形枠に取り付けた斜材を備えており、
前記斜材は、前記矩形枠の少なくとも一方の対角線の方向の両端に位置する一対の前記単位シザーズにおける前記対角線の方向に延びる前記リンクの間に架け渡されているシザーズ構造のパネルユニット。
【請求項4】
請求項3において、
前記斜材は、当該斜材が架け渡されている前記単位シザーズの前記リンクと同一平面上に位置している
シザーズ構造のパネルユニット。
【請求項5】
m、nを1以上の正の整数とすると、
m段、n列となるように平面方向に連結したm×n組のパネルユニットを備え、
前記パネルユニットは、請求項1ないし4のうちのいずれか一つの項に記載のシザーズ構造のパネルユニットであり、
隣接する一対の前記パネルユニットの間においては、一方の前記パネルユニットの側の前記外周縁側ピン節点と、他方の前記パネルユニットの側の前記外周縁側ピン節点とが、それぞれ相互に連結あるいは一体化されて共通のピン節点を形成しているシザーズ構造の伸縮パネル。
【請求項6】
橋梁用構造材として請求項5に記載の伸縮パネルが配置されていることを特徴とするパネル型シザーズ橋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮橋などの構造物構築用の構造材に用いるのに適したシザーズ構造のパネルユニット、当該パネルユニットを縦横に連結した構成の伸縮パネル、および当該伸縮パネルを橋梁用構造材として用いて構築されるパネル型シザーズ橋に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者等は、これまでに、展開構造物の1つであるシザーズ機構を用いて、災害により流出した小規模な橋梁の代替路となる仮橋(1段シザーズ)の研究開発をしてきた(非特許文献1、2、
図7下段左側参照)。また、ケーブル材を併用した吊りシザーズを採用することで、シザーズ橋の大型化の可能性を明示してきた(
図7上段右側参照)。
【0003】
シザーズ構造は、X状に交差配置した一対のリンクが交差位置に形成したピン節点を中心として開閉可能となったものであり、これを直線状に一列に配列した構成の1段シザーズを用いて橋梁が構築される。シザーズ構造の部材は、材軸方向に折り畳まれた状態(縮めた状態)で仮橋の設置場所まで搬送し、設置場所において材軸方向に展開(伸長)して設置できるので、搬送が容易であり、施工性にも優れている。このようなシザーズ構造の伸縮橋は、例えば、特許文献1、2において提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K. Chanthamanivong, I. Ario, Y. Chikahiro: Smart design of coupling scissors-type bridge, Structures, 30, 206-216, 2021.
【非特許文献2】Y. Chikahiro, I. Ario, P. Pawlowski C. Graczykowski, J. Holnicki‐Szulc: Optimization of reinforcement layout of scissor type bridge using differential evolution algorithm, Computer-Aided Civil and Infrastructure Engineering, 34(6), 523-538, 2019.
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-145203号公報
【特許文献2】国際公開第2015/193930号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、流出被害の絶えない中規模な橋梁でも迅速に復旧できる仮橋が必要とされる。中規模な橋梁の仮橋の場合においても、災害後の初動対応で迅速に仮橋を架けるためには、現場における橋梁部材の搬入量や組立作業量をいかに減らすかが重要である。このため、既往の研究では対象とされていない中規模な橋梁のための仮橋にも、シザーズ構造の橋梁を用いることが考えられる。
【0007】
図7に示したように、シザーズ構造は直線的に並べることで小規模な橋梁に応用でき、ケーブル材と併用することで吊り橋のように大型化が可能であるが、中規模な橋梁への適用には、簡易施工性や強度の観点から難しい。例えば、シザーズ構造から構成される仮設用の橋梁用構造材として、横方向だけでなく上下にシザーズ構造を配列した構成の多段シザーズを用いることで、必要な強度を確保することが考えられる。しかしながら、シザーズ構造を単に多段化した場合、それに伴って使用材料、重量が増加し、製造コストも増加する。また、設置場所において重量のある多段シザーズ構造の部材を展開して橋梁として設置する際の施工性も低下する。
【0008】
このような課題は、橋梁用構造材として多段シザーズ構造の部材を用いる場合に限らず、構造物構築用の梁材、桁材等の構造用部材として、その部材強度を高めるために多段シザーズ構造の部材を用いる場合においても発生する。
【0009】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、一段シザーズ構造の部材に比べて強度を高めて長スパン化でき、かつ、多段シザーズ構造の部材に比べて強度低下を抑制しつつ軽量化および施工性を改善できるシザーズ構造のパネルユニット、および当該パネルユニットを縦横に連結した構成の伸縮パネルを提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、かかる伸縮パネルを被災現場で展開し、それを現場で幾つか組み合わせていくことで、少人数かつ簡単に構築できる中規模程度の仮橋であるパネル型シザーズ橋を提供することにある(
図7参照)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明のシザーズ構造のパネルユニットは、
縦方向および横方向に伸縮可能なシザーズ構造の矩形枠を備え、
前記矩形枠の四辺は、左右の縦枠材および上下の横枠材によって規定され、
前記縦枠材および前記横枠材のそれぞれは、一方向に直線状に配列された複数組の単位シザーズを備えており、
前記単位シザーズは、前記矩形枠の一対の対角線の方向に沿ってX状に交差配置された一対のリンクを備え、これらのリンクの交差部が相互に連結されて、交差部ピン節点を形成しており、
前記縦枠材および前記横枠材における隣接配置されている一対の前記単位シザーズの間においては、逆方向に傾斜する前記リンクの端が相互に連結されて、それぞれ矩形枠外周縁に沿って配列された外周縁側ピン節点および矩形枠内周縁に沿って配列された内周縁側ピン節点を形成しており、
前記矩形枠の四隅のそれぞれに位置する前記単位シザーズは、前記縦枠材の端に位置する前記単位シザーズと、前記横枠材の端に位置する前記単位シザーズとを兼用する共通の単位シザーズであることを特徴としている。
【0012】
本発明のパネルユニットは、上記構成の矩形枠が縦方向あるいは横方向に連結された二連パネルユニットあるいは多連パネルユニットとすることができる。例えば、横方向に連結された複数組の矩形枠からパネルユニットが構成される。この場合には、横方向に連結された隣接する前記矩形枠の間に位置する縦枠材が、一方の矩形枠の縦枠材と他方の矩形枠の縦枠材とを兼用するように、矩形枠が相互に連結される。
【0013】
また、本発明のパネルユニットでは、矩形枠に斜材が取り付けられていることが望ましい。斜材は、矩形枠の少なくとも一方の対角線の方向の両端に位置する一対の単位シザーズにおいて、当該対角線の方向に延びるリンクの間に架け渡される。
【0014】
斜材は、当該斜材が架け渡されているリンクと同一平面上に位置するように、これらのリンクに連結することが望ましい。この場合、斜材と、斜材が架け渡される一対のリンクとを一体化して、単一の部材として配置することができる。
【0015】
また、本発明のシザーズ構造の伸縮パネルは、
m、nを1以上の正の整数とすると、
m段、n列となるように平面方向に連結したm×n組のパネルユニットを備え、
前記パネルユニットは、上記構成のシザーズ構造のパネルユニットであることを特徴としている。
この場合、隣接する一対のパネルユニットの間においては、一方のパネルユニットの側の外周縁側ピン節点と、他方のパネルユニットの側の外周縁側ピン節点とが、それぞれ相互に連結あるいは一体化されて共通のピン節点を形成している。
【0016】
次に、本発明のパネル型シザーズ橋は、上記構成の伸縮パネルが橋梁用構造材として配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、これまで梁構造物のように直線配置されたシザーズ構造(一段シザーズ)を、トラス構造物のように上弦材・下弦材・斜材を意識したシザーズ構造のパネルユニットを用いて伸縮パネルを構成することで、各部に生じる負荷を適切に分散させて、一段シザーズ構造の部材に比べて強度を高めて長スパン化を図ると共に、多段シザーズ構造の部材に比べて強度の低下を抑制しつつ軽量化および施工性の改善を図っている。予め組み上げた伸縮パネルを被災現場で展開し、それを現場で幾つか組み合わせていくことでパネル型橋梁部材を施工できる。よって、少人数かつ簡単に、中規模程度の仮橋を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)はパネルユニットの正面図、(b1)および(b2)はパネルユニットを構成する単位シザーズの正面図および側面図、(c)はパネルユニットの伸縮動作を示す説明図である。
【
図2】(a1)および(a2)は1段6列構成の伸縮パネルの正面図および部分拡大図、(b)は2段6列構成の伸縮パネルの正面図、(c)は伸縮パネルを橋梁として用いたパネル型シザーズ橋の一例を示す説明図である。
【
図3】(a1)および(a2)は斜材の無い矩形枠の正面図および側面図、(b1)および(b2)は1本の斜材がリンク面内に配置された矩形枠の正面図および側面図、(c1)および(c2)は1本の斜材がリンク面外に配置された矩形枠の正面図および側面図、(d1)および(d2)は2本の斜材がリンク面内に配置された矩形枠の正面図および側面図、(e1)および(e2)は2本の斜材がリンク面外に配置された矩形枠の正面図および側面図である。
【
図4】(a)は二連パネルユニットの正面図、(b)は二連パネルユニットから構成した1段3列構成の伸縮パネルの正面図、(c)は二連パネルユニットから構成した2段3列構成の伸縮パネルの正面図である。
【
図5.1】(a)~(f)は解析1における解析対象のモデル1~6の正面図である。
【
図5.2】解析において与えたリンク部材の応力―ひずみ関係を示すグラフである。
【
図5.3】解析1における解析対象モデル(架橋後の下路式シザーズ橋を想定)の境界条件、載荷位置を示す説明図である。
【
図5.4】解析1で得られた各モデルの質量と剛性の関係を示すグラフである。
【
図5.5】解析1で得られた各モデルの質量と最大曲げモーメントの関係、質量と最大引張力の関係、質量と最大圧縮力の関係を示すグラフである。
【
図6.1】(a)~(f)は解析2における解析対象のモデル1´~6´の正面図である。
【
図6.2】解析2における解析対象モデル(架橋後の下路式シザーズ橋を想定)の境界条件、載荷位置を示す説明図である。
【
図6.3】解析2で得られた各モデルの質量と剛性の関係を示すグラフである。
【
図6.4】解析2で得られた各モデルの質量と最大曲げモーメントの関係、質量と最大引張力の関係、質量と最大圧縮力の関係を示すグラフである。
【
図7】本発明を適用したパネル型シザーズ橋の位置づけを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、実施の形態は本発明の一例であり、本発明を実施の形態に限定することを意図したものではない。
【0020】
(パネルユニット)
図1(a)は、本発明のシザーズ構造のパネルユニットの一例を示す正面図である。なお、以下の説明における縦方向Y、横方向Xは便宜上付けたものであり、これらの方向は相互に直交する二方向であればよい。橋梁用構造材等として用いられる場合等において、パネルユニット1は鉛直方向を向くように立てた姿勢で用いられる。
【0021】
パネルユニット1は、直交する二方向である縦方向Yおよび横方向Xに伸縮可能なシザーズ構造の矩形枠2から構成されている。矩形枠2には、その対角線のそれぞれに沿って一対の斜材3A、3BがX状に架け渡されている。矩形枠2は、当該矩形枠2の左右の辺を規定している一対の縦枠材4A、4Bと、矩形枠2の上下の辺を規定している一対の横枠材5A、5Bとよって規定されている。縦枠材4A、4Bのそれぞれは、縦方向Yに一列に連結された複数組、本例では5組の単位シザーズ6から構成されている。同様に、横枠材5A、5Bのそれぞれは、横方向Xに一列に連結された複数組、本例では5組の単位シザーズ6から構成されている。
【0022】
矩形枠2の左右の縦枠材4A、4Bは同一形状、構造のものであり、以下の説明においては、双方を区別する必要が無い場合は縦枠材4として説明する。同様に、上下の横枠材5A、5Bも同一形状、構造のものであり、双方を区別する必要が無い場合には横枠材5として説明する。
【0023】
図1(b1)、(b2)は、縦枠材4、横枠材5を構成している単位シザーズ6を示す正面図および側面図である。単位シザーズ6は、矩形枠2の一対の対角線の方向に沿ってX状に交差配置された第1リンク7および第2リンク8を備えている。第1、第2リンク7、8は、これらの交差部において、交差部ピン節点9を規定するヒンジピンを中心として回動可能な状態で連結されている。第1、第2リンク7、8は、本例では同一長さ、同一断面の直線状の部材であり、例えば、中空断面、溝形断面等をした鋼材、アルミニウム合金等などから形成されている。
【0024】
縦枠材4および横枠材5のそれぞれにおいて、図において矢印で示す縦方向Yあるいは横方向Xに沿って隣接配置されている一対の単位シザーズ6の一方を前側単位シザーズ、他方を後側単位シザーズとする。例えば、
図1(b1)において、実線で示す単位シザーズ6を前側単位シザーズ、これに隣接する想像線で示す単位シザーズ6を後側単位シザーズとする。前側単位シザーズ6の第1リンク7の後端7bと後側単位シザーズ6における逆方向に傾斜している第2リンク8の前端8aとが、第1ピン節点11を規定するヒンジピンを介して回動可能な状態で連結されている。また、前側単位シザーズ6の第2リンク8の後端8bと後側単位シザーズ6の第1リンク7の前端7aとが、第2ピン節点12を規定するヒンジピンを介して回動可能な状態で連結されている。このように単位シザーズ6を連結して得られる縦枠材4および横枠材5によって規定される矩形枠2においては、
図1(a)に示すように、逆方向に傾斜する第1、第2リンク7、8の端が相互に連結されて、それぞれ矩形枠外周縁に沿って第1、2ピン節点11、12の一方が外周縁側ピン節点として配列され、矩形枠内周縁に沿って第1、2ピン節点11、12の他方が内周縁側ピン節点として配列された状態になっている。また、矩形枠2の四隅のそれぞれにおいて、縦枠材4の縦方向Yの上下の端に位置する単位シザーズ6は、横枠材5の横方向Xの左右の端に位置する単位シザーズ6と兼用の単位シザーズとして配置されている。
【0025】
(斜材:面内配置)
次に、矩形枠2に取り付けた一対の斜材3A、3Bは、本例では次のように配置されている。斜材3Aは、矩形枠2の上側の左隅に配置されている単位シザーズ6の第1リンク7と、矩形枠2の下側の右隅に配置されている単位シザーズ6の第1リンク7との間に架け渡されている。本例では、斜材3Aは、第1リンク7と同一鉛直面上に位置するように配置される(斜材の面内配置)。例えば、斜材3Aと、双方の第1リンク7とが、直線状に延びる単一の部材として配置されている。他方の斜材3Bは、矩形枠2の上側の右隅に配置されている単位シザーズ6の第2リンク8と、矩形枠2の下側の左隅に配置されている単位シザーズ6の第2リンク8との間に架け渡されている。斜材3Bも、第2リンク8と同一鉛直面上に位置するように配置される(斜材の面内配置)。例えば、斜材3Bと、双方の第2リンク8とが、直線状に延びる単一の部材として配置されている。なお、本例では、斜材3A、3Bは、それらの材軸方向の中央の交差位置(矩形枠2の中心)にピン節点13が形成され、ここを中心として回動可能な状態で連結されて、面外方向の剛性が確保されている。
【0026】
図1(c)に示すように、矩形のパネルユニット1は、正方形の状態を中立状態とすると、中立状態から縦方向Yに伸長した縦長の状態および横方向Xに伸長した横長の状態に伸縮可能である。第1、第2ピン節点11、12を介して連結されている単位シザーズ6のそれぞれの第1、第2リンク7、8は、パネルユニット1の矩形枠2の一対の対角線に沿った方向を向く姿勢を維持したまま、交差部ピン節点9を中心として開閉する。これにより、矩形のパネルユニット1が全体として縦方向Yおよび横方向Xに伸縮可能である。
【0027】
(伸縮パネル)
図2(a1)は上記構成のパネルユニット1を平面方向に6枚連結して得られる1段6列構成の伸縮パネルを示す説明図である。伸縮パネル20において、パネルユニット配列方向である横方向Xにおいて、隣接配置される一対のパネルユニット1が連結されている。
図2(a2)において拡大して示すように、一方のパネルユニット1をパネルユニット1A、他方をパネルユニット1Bとすると、パネルユニット1Aの後側の縦枠材4Bにおける矩形枠外周側の4つの第1ピン節点11のそれぞれと、当該縦枠材4Bに隣接する他方のパネルユニット1Bの前側の縦枠材4Aにおける4つの第2ピン節点12のそれぞれとが同軸に連結されて、4つの共通のユニット連結部ピン節点が形成されている。すなわち、横方向に隣接する一対のパネルユニット1A、1Bの間においては、一方のパネルユニット1Aの縦枠材4Bの外周縁側ピン節点である第1ピン節点11と、他方のパネルユニット1Bの縦枠材4Aの外周縁側ピン節点である第2ピン節点12とが、それぞれ相互に連結あるいは一体化されて共通のピン節点を形成している。
【0028】
また、縦枠材4A、4Bの上端においては、縦枠材4Bの第2リンク8の上端と、縦枠材4Aの第1リンク7の上端とが、共通のユニット連結部ピン節点14を介して連結されている。縦枠材4A、4Bの下端においても、縦枠材4Bの第1リンク7の下端と、縦枠材4Aの第2リンク8の下端とが、共通のユニット連結部ピン節点14を介して連結されている。
【0029】
同様にして、パネルユニット1を縦方向Yに一列に連結した構成の伸縮パネルを構成することができる。図示を省略するが、この場合には、縦方向Yに隣接配置される一対のパネルユニット1の間が次のようにユニット連結部ピン節点を介して連結される。上側のパネルユニット1の横枠材5Bにおける矩形枠外周側の4つの第1ピン節点11のそれぞれと、当該横枠材5Bの下側に隣接するパネルユニット1の上側の縦枠材5Aにおける矩形枠外周側の4つの第2ピン節点12のそれぞれとが、4つのユニット連結部ピン節点を規定するように連結される。また、横枠材5A、5Bの左端においては、横枠材5Bの第2リンク8の下端と、横枠材5Aの第1リンク7の上端とが同軸に連結されて、ユニット連結部ピン節点が形成される。横枠材5A、5Bの右端においても、上側の横枠材5Bの第1リンク7の下端と、下側の横枠材5Aの第2リンク8の上端とが同軸に連結されて、ユニット連結部ピン節点が形成される。
【0030】
図2(b)には、縦横にパネルユニット1を連結して構成される伸縮パネルの一例を示す説明図である。この図に示す伸縮パネル30は、縦方向に2枚、横方向に6枚のパネルユニット1がそれぞれ連結された2段6列構成の伸縮パネルである。この構成の伸縮パネル30は、例えば、中規模程度の仮設橋を構築するための橋梁用構造材として用いられる。
【0031】
(パネル型シザーズ橋)
図2(c)には、伸縮パネルを橋梁用構造材として用いて構築される中規模程度のパネル型シザーズ橋の一例を示す概念図である。この図に示すパネル型シザーズ橋40は、河川等の対岸に設置した橋台(図示せず)の間に架け渡される左右の橋桁が、
図2(b)に示した伸縮パネル30を連結することによって構築されている。一定の間隔を開けて鉛直姿勢で平行に配置した左右の伸縮パネル30の間に、床版41が配置される。
【0032】
災害後の初動対応で迅速に仮橋を架けるためには、現場における橋梁部材の搬入量や組立作業量をいかに減らすかが重要である。上記構成の伸縮パネル30(折畳式パネル)を用いると、予め組み上げた伸縮パネル30を被災現場で展開し、それを現場で幾つか組み合わせていくことで、少人数かつ簡単に仮橋を構築することが可能である。
【0033】
本例では、中規模程度の仮橋を実現するために、これまで梁構造物のように直線配置されたシザーズ構造を、トラス構造物のように上弦材・下弦材・斜材を意識した配置形態を採用し、これによって、パネル型シザーズ橋40を構成する各部材に生じる負荷をうまく分散させることで、長スパン化を可能としたことが特徴である。また、伸縮パネル30を構成するパネルユニット1を、多段シザーズ構造のパネルではなく、中抜きした矩形枠形状とすることで、伸縮パネル30を、多段シザーズ構造のパネルに比べて強度の低下を抑制しつつ軽量化を図っていることが特徴である。本例の伸縮パネル30を用いることで、これまで災害後に緊急復旧が難しいと考えられていた中規模橋梁への対応も見据えることができ、被災後の集落の孤立化や地域復興に向けた防災問題に貢献できることが期待される。
【0034】
(パネルユニット、伸縮パネルの改変例)
図3にはパネルユニット1の改変例を示してある。
図3(a1)、(a2)には、斜材3A、3Bが備わっていない矩形枠2からなるパネルユニット1Aを示してある。
図3(b1)、(b2)には、1本の斜材3がリンクと同一平面に配置されたパネルユニット1B(面内配置)を示し、
図3(c1)、(c2)には、1本の斜材3がリンクとは同一平面に無いパネルユニット1C(面外配置)を示してある。
図3(d1)、(d2)には、2本の斜材がリンクと同一平面に配置されたパネルユニット1D(面内配置)を示し、
図3(e1)、(e2)には、2本の斜材がリンクとは同一平面に無いパネルユニット1E(面外配置)を示してある。伸縮パネルに必要とされる強度、重量制限などに応じて、これらのパネルユニットを選択して用いることができる。
【0035】
図4(a)にはパネルユニットのさらに別の例を示してある。この図に示すパネルユニット1Aは、上記の矩形のパネルユニット1を2組連結した二連パネルユニットである。二連パネルユニット1Aは、前述の矩形のパネルユニット1を並べた場合における隣接する縦枠材4あるいは横枠材5が共通の1本の枠材となるように構成されている。図においては、縦枠材4を共通の縦枠材4Cとしてある。同様にして、三連パネルユニットなどの多連パネルユニットを構築することができる。
【0036】
また、多連パネルユニット1Aを基本ユニットとして、これを縦横に連結することで、伸縮パネルが構築される。例えば、
図4(b)に示すように、二連パネルユニット1Aを横方向に3枚連結して、1段3列の伸縮パネル20Aが構築される。また、
図4(c)に示すように、二連パネルユニット1Aを、縦方向に2枚、横方向に3枚連結して、2段3列の伸縮パネル30Aが構築される。
【0037】
[解析例]
本発明者等は、本発明のシザーズ構造の伸縮パネル(折り畳みパネル)および多段シザーズ構造のパネルについて耐荷力等についてFEM解析を行った。特に、多段シザーズ構造のパネルと比較して、矩形枠状のパネルユニットの耐荷力に及ぼす影響等について探った。以下に本発明者等が行った解析例を述べる。
【0038】
<解析1:伸縮パネルの耐荷力(二連パネルユニット1枚)>
(解析モデル)
解析対象を
図5.1に示す。モデル1は、5段9列の多段シザーズ構造のパネルユニットであり、本発明による二連パネルユニットであるモデル2~6との比較のために用いた。すべてのモデルにおいて、長さは1800mm、高さは1000mmである。モデル2は200mm×200mmの単位シザーズを5組連結した構成の縦枠材、横枠材を備えた5段5列の正方形のパネルユニット2つを連結し、隣り合う縦枠材(鉛直材)を共有する形状とした。モデル3はモデル2の一対の角部のリンクを延長して繋げることで2本の斜材を追加した。モデル5も同様にして、X状に2本ずつ4本の斜材を追加した。また、モデル4、6はモデル3、5の斜材を面外に取り付け、モデル2を補強した構造である。
【0039】
部材(リンク)はすべて梁要素で作成した。部材交差部、部材連結部のヒンジ(ピン節点)のそれぞれにおいては、交差する両部材の変位が等しく、かつ、曲げモーメントが伝達されないように拘束条件を与えた。各モデルの質量、部材本数、ヒンジ数、節点数、要素数を、表1.1に示す。また、部材は、幅30mm、高さ70mm、板厚2mmの中空部材とした。この部材の断面積はA=384mm
2、断面二次モーメントはI=2.35×10
5mm
4となる。
【表1.1】
【0040】
(材料特性)
部材の材料は、アルミニウム合金材A6063を想定した。ヤング係数E=62.5GPa、ポアソン比ν=0.31、密度ρ=2.71g/cm
3を用いた。材料非線形性を考慮し、
図5.2に示すように、降伏応力σ
y=216.0MPaとしたバイリニア型の応力-ひずみ関係を与えた。
【0041】
<境界条件>
図5.3に示すように、架橋後の下路式シザーズ橋を想定した境界条件を与えた。ここでは、面外方向への横倒れを防ぐために、全節点において面外方向の変位を拘束した。すべてのモデルは両端ピン支点状態とし、中央に活荷重が載荷した状態を想定してパネルユニット中央の下ヒンジには最大50kNの集中荷重を、交差した2点にそれぞれ載荷した。この荷重は、時間ステップ0.001sで、t=1.0sに合計100kNが与えられるように単調載荷した。
【0042】
(解析結果・考察)
解析終了時刻および終了時刻における荷重を表1.2に示す。モデル1はt=1.0sまで終了し、他モデルは荷重30kN前後で解析が中断した。斜材の無いモデル2のみ荷重が30kNに到達しなかったことから、斜材の有効性が認められる結果となった。
【表1.2】
【0043】
(荷重―変位曲線)
モデル1、2、3、5の載荷位置における荷重―変位曲線を作成した。すべてのモデルの荷重―変位曲線は弾性領域と非線形領域が明確であった。
部材の降伏状況に関して、表1.3に、部材降伏時の荷重と変位を示す。
形状ごとにモデル1を基準とした荷重の割合を計算すると、モデル2は43%、モデル3は51%、モデル5は68%であった。斜材の本数の増加によって降伏までの荷重が大きくなる傾向にあり、モデル1を除いて最も耐荷性能が良かったのはモデル5であった。
【表1.3】
【0044】
一定の荷重での変位に注目すると、例えば、弾性域である荷重5.0kNでの変位は、小さいほうから順に、モデル1、6、5、4、3、2となる。これは剛性の大きい順でもあり、剛性と質量の関係を表すと、
図5.4に示すようになる。これに関して、モデル3、5は、基準となるモデル1とモデル2を結んだ直線上に並び、比例関係がうかがえるが、斜材を面外に取り付けたモデル4、6は、直線上からそれぞれ8%、12%低下した。
【0045】
(曲げモーメント・軸力)
表1.4に、各モデルについて、曲げモーメントおよび軸力の最大値を示す。また、
図5.5に質量と最大曲げモーメント・軸力の関係を示す。
【表1.4】
【0046】
曲げモーメント、引張力、圧縮力のすべてにおいてモデル2が最大であった。
斜材有りのモデル3~6をモデル1と比較して検討する。
曲げモーメント、引張力ともに、モデル1に次いで値が小さかったのはモデル5であったが、曲げモーメントは68%、引張力は21%であり、それぞれ、モデル1より大きかった。
曲げモーメントに着目すると、モデル5のほか、モデル6も比較的値は小さいが、
図5.5(a)に示す質量と最大曲げモーメントの関係から分かるように、モデル6は効率的に軽量化出来ていない。同様の観点から、比較的効率よく軽量化できたのはモデル3、5と分かる。
図5.5(b)、(c)に示す質量と最大・最小軸力の関係において、引張力の観点から見るとモデル5が、圧縮力の観点から見るとモデル3~6がそれぞれ効率的に軽量化できた。したがって、モデル1を除いて総合的に最も有利な形状はモデル5と言える。
【0047】
<解析2:伸縮パネルの耐荷力(二連パネルユニット4枚)>
(解析モデル)
解析2では、解析1で定義した二連パネルユニット4枚を橋軸方向に連結し、その耐荷力を明らかにした。解析1のモデル1~6を4つ連結した長さ5400mm、高さ1000mmのモデル1´~6´を作成した。これらを、
図6.1に示す。連結は、隣り合う節点すべてをヒンジ(ピン節点)として結合した。各モデルの質量、部材本数、ヒンジ数、節点数、要素数を、それぞれ表2.1に示す。
【表2.1】
【0048】
境界条件は、解析1の場合と同様に、すべてのモデルを両端ピン支点状態とし、中央に活荷重が載荷した状態を想定した。二連パネルユニットの2枚目と3枚目をつなぐ下ヒンジには最大10kNの集中荷重を、交差した2点にそれぞれ載荷した。この荷重は、時間ステップ0.001sで、t=1.0sに合計20kNが与えられるように単調載荷した。この様子を
図6.2に示す。また、面外方向への横倒れを防止するため、面外方向の変位を拘束した。
【0049】
(解析結果・考察)
解析終了時刻および終了時刻における荷重を表2.2に示す.モデル6´はt=1.0sまで終了し、他モデルは解析が中断した。斜材の本数、形状で比較すると、斜材が4本のモデルで終了時の荷重が比較的大きく、次いで斜材が2本のモデルが長く解析が行われた。
【表2.2】
【0050】
(荷重―変位曲線)
モデル1´、2´、3´、5´の載荷位置における荷重―変位曲線を作成した。
部材の降伏状況に関して、表2.3に部材降伏時の荷重と変位を示す。すべてのモデルが弾性域内で降伏し、その直後に非線形の挙動を開始した。それぞれの形状ごとに部材降伏時の荷重はほぼ同等であり、形状ごとにモデル1´を基準とした荷重の割合を計算すると、モデル2´は29%、モデル3´は34%、モデル5´は44%であった。この割合は二連パネルユニット1枚の場合と比べて劣る結果となった。
斜材の本数の増加によって降伏までの荷重が大きくなる傾向にあり、モデル1を除いて最も耐荷性能が良かったのはモデル5´であることは変化無かった。
【表2.3】
【0051】
一定の荷重での変位に注目する。例えば、すべてのモデルが弾性域である荷重5.0kNでの変位は、小さいほうから順に、モデル1´、6´、5´、4´、3´、2´となる。また、これは剛性の大きい順でもあり、剛性と質量の関係を表すと
図6.3のようになる。補助線として、基準となるモデル1´、2´をつなぐ直線を追加した。質量と剛性の関係は二連パネルユニット1枚と同様の傾向であり、モデル4´、6´で、質量の大きさに対する剛性が小さい結果となった。
【0052】
(曲げモーメント・軸力)
曲げモーメントの最大値および軸力の最大・最小値を表2.4に示す。
【表2.4】
【0053】
曲げモーメント、引張力でモデル2´が、圧縮力はモデル4´が最大であった。また、最小値はいずれもモデル1´であった。
【0054】
斜材有りのモデル3´~6´をモデル1´と比較して検討する。
曲げモーメント、引張力、圧縮力においてモデル1´に次いで値が小さかったのはそれぞれモデル6´、5´の順であったが、曲げモーメントは130%、引張力は23%、圧縮力は151%それぞれモデル1´より大きかった。
曲げモーメントに着目すると、モデル6´のほか、モデル5´も比較的値は小さいが、
図6.4(a)に示す質量と最大曲げモーメントの関係から分かるように、モデル6´は効率的に軽量化出来ていない。同様の観点から、比較的効率よく軽量化できたのはモデル3´、5´と分かる。これはパネル1枚の結果と同じである。
図6.4(b)、(c)に質量と最大引張力・圧縮力の関係を示す。引張力を見ると、どのモデルもよく軽量化できており、特にモデル5´は質量に対する引張力の減少幅が大きい結果であった。
しかし、圧縮力の観点からは、どのモデルもうまく軽量化できていないことが分かる。モデル3´、4´に至っては、斜材のないモデル2´よりも最大値が大きくなるという結果であった。
モデル1´を除き、全体として、優れているのはモデル5´という結果になった。本解析で検討した中ではモデル5´が最も適切な形状と言える。
【符号の説明】
【0055】
1、1B、1C、1D、1E パネルユニット
1A 二連パネルユニット
2 矩形枠
3A、3B 斜材
4、4A、4B、4C 縦枠材
5、5A、5B 横枠材
6 単位シザーズ
7 第1リンク
7a 前端
7b 後端
8 第2リンク
8a 前端
8b 後端
9 交差部ピン節点
11 第1ピン節点
12 第2ピン節点
13 ピン節点
14 ユニット連結部ピン節点
20、20A、30、30A 伸縮パネル
40 パネル型シザーズ橋
41 床版
X 横方向
Y 縦方向