(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133841
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】交通流予測装置、交通流予測方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20230920BHJP
G08G 1/01 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G08G1/01 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039056
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 夏子
(74)【代理人】
【識別番号】100190942
【弁理士】
【氏名又は名称】風間 竜司
(72)【発明者】
【氏名】松平 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岡野 謙悟
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB13
5H181CC02
5H181CC11
5H181CC12
5H181DD01
5H181EE02
5H181FF10
5H181FF12
5H181FF33
5H181MC12
5H181MC27
(57)【要約】
【課題】処理時間の低下を抑制しつつ、高精度に交通流をシミュレーションすることを可能とする技術が提供されることが望まれる。
【解決手段】所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部と、前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得する交通量取得部と、第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得する交通密度取得部と、前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測するシミュレーション実行部と、を備える、交通流予測装置が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部と、
前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得する交通量取得部と、
第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得する交通密度取得部と、
前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測するシミュレーション実行部と、
を備える、交通流予測装置。
【請求項2】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と、前記第1の速度とあらかじめ定められた自由流速度との混合結果と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第2の交通密度を予測する、
請求項1に記載の交通流予測装置。
【請求項3】
前記シミュレーション実行部は、前記所定ブロックにおける車線総数に対する通行可能な車線数の割合にさらに基づいて、前記第2の交通密度を予測する、
請求項1または2に記載の交通流予測装置。
【請求項4】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と前記第1の速度とに基づいて、前記所定ブロックの後流ブロックに流入する車両の交通量を後流ブロック交通量として予測し、前記後流ブロック交通量と、前記第1の交通量と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測する、
請求項3に記載の交通流予測装置。
【請求項5】
前記シミュレーション実行部は、前記後流ブロック交通量と前記第1の交通量との差分と、前記所定ブロックの長さと、前記第1の時刻と前記第2の時刻との時間間隔と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測する、
請求項4に記載の交通流予測装置。
【請求項6】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と前記第1の速度との乗算に基づく交通量よりも、あらかじめ定められた最大交通量と前記割合との乗算結果が小さい場合には、前記乗算結果と、前記第1の交通量と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測する、
請求項5に記載の交通流予測装置。
【請求項7】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と前記第1の速度との乗算に基づく交通量よりも、あらかじめ定められた最大交通密度と前記後流ブロックとの差分と前記割合との第1の乗算結果と、あらかじめ定められた渋滞波伝搬速度との第2の乗算結果が小さい場合には、前記第2の乗算結果と、前記第1の交通量と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測する、
請求項5に記載の交通流予測装置。
【請求項8】
前記シミュレーション実行部は、前記第2の交通密度に基づいて前記第2の時刻に対応する期間に前記所定ブロックを走行する車両速度の統計量である第2の速度を予測する、
請求項1に記載の交通流予測装置。
【請求項9】
前記シミュレーション実行部は、前記第2の交通密度が所定の交通密度以下である場合には、あらかじめ生成された交通密度と車両速度との関係を示す関係式と前記第2の交通密度とに基づいて、前記第2の速度を予測する、
請求項8に記載の交通流予測装置。
【請求項10】
前記シミュレーション実行部は、前記第2の交通密度が所定の交通密度を上回る場合には、前記第1の時刻に対応する期間より前の期間の前記所定のブロックの交通密度および交通量と、前記第2の交通密度とに基づいて、前記第2の速度を予測する、
請求項8に記載の交通流予測装置。
【請求項11】
前記交通流予測装置は、
前記所定ブロックに流入した車両の前記第1の時刻に対応する期間よりも前の期間の交通量に基づいて、前記所定のブロックに流入する車両の第2の交通量を予測する交通量予測部を備える、
請求項1に記載の交通流予測装置。
【請求項12】
所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部と、
前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得することと、
第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得することと、
前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測することと、
を備える、交通流予測方法。
【請求項13】
コンピュータを、
所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部と、
前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得する交通量取得部と、
第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得する交通密度取得部と、
前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測するシミュレーション実行部と、
を備える交通流予測装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通流予測装置、交通流予測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、センサによって収集されたセンサデータに基づいて交通流をシミュレーションする技術として様々な技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、1車線毎に独立したブロックを並列配置した多入力多出力のブロックモジュールを構成し、各ブロックに規制(進路規制または車種別規制など)を記述する属性を設ける技術が示されている。かかる技術では、上流側の複数のブロックから規制を満足する車両のみを選択的に当該複数のブロックに隣接する下流側ブロックへ移動させるルーチンが設けられる。これによって、互いに隣接し合う上流ブロックと下流ブロックとの間における車両の車線変更および交通規制が表現され得る(例えば、段落0016など)。
【0004】
また、非特許文献1には、交通障害が発生した場合に、交通障害発生区間または当該交通障害発生区間の上流側に位置する緩衝区間において用いられる交通流シミュレーションモデルを、マクロシミュレーションモデルからミクロシミュレーションモデルに切り替える技術が示されている(例えば、図-2「統合型交通流シミュレーションモデルの概要フロー」など)。
【0005】
さらに、非特許文献2には、渋滞区間における先頭および末尾のシミュレーションモデルをミクロシミュレーションモデルとし、渋滞区間における先頭以外かつ末尾以外の位置のシミュレーションモデルをマクロシミュレーションとする技術が示されている。これによって、処理速度および精度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】岡上政史,奥嶋政嗣,“交通障害発生時に対応した高速道路リアルタイム交通流シミュレーションの基礎的検討”,土木学会論文集D3(土木計画学),2011年,第67巻,第5号,I_1071-I_1078
【非特許文献2】高橋徹,阿部和規,藤井秀樹,伊加田恵志,松平正樹,“動的ハイブリッド交通流シミュレーションモデルの開発と高速道路の実データを用いた検証”,2021年,日本シミュレーション学会論文誌,第13巻,第1号,pp.37-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、処理時間の低下を抑制しつつ、高精度に交通流をシミュレーションすることを可能とする技術が提供されることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部と、前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得する交通量取得部と、第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得する交通密度取得部と、前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測するシミュレーション実行部と、を備える、交通流予測装置が提供される。
【0010】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と、前記第1の速度とあらかじめ定められた自由流速度との混合結果と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第2の交通密度を予測してもよい。
【0011】
前記シミュレーション実行部は、前記所定ブロックにおける車線総数に対する通行可能な車線数の割合にさらに基づいて、前記第2の交通密度を予測してもよい。
【0012】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と前記第1の速度とに基づいて、前記所定ブロックの後流ブロックに流入する車両の交通量を後流ブロック交通量として予測し、前記後流ブロック交通量と、前記第1の交通量と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測してもよい。
【0013】
前記シミュレーション実行部は、前記後流ブロック交通量と前記第1の交通量との差分と、前記所定ブロックの長さと、前記第1の時刻と前記第2の時刻との時間間隔と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測してもよい。
【0014】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と前記第1の速度との乗算に基づく交通量よりも、あらかじめ定められた最大交通量と前記割合との乗算結果が小さい場合には、前記乗算結果と、前記第1の交通量と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測してもよい。
【0015】
前記シミュレーション実行部は、前記第1の交通密度と前記第1の速度との乗算に基づく交通量よりも、あらかじめ定められた最大交通密度と前記後流ブロックとの差分と前記割合との第1の乗算結果と、あらかじめ定められた渋滞波伝搬速度との第2の乗算結果が小さい場合には、前記第2の乗算結果と、前記第1の交通量と、前記第1の交通密度とに基づいて、前記第2の交通密度を予測してもよい。
【0016】
前記シミュレーション実行部は、前記第2の交通密度に基づいて前記第2の時刻に対応する期間に前記所定ブロックを走行する車両速度の統計量である第2の速度を予測してもよい。
【0017】
前記シミュレーション実行部は、前記第2の交通密度が所定の交通密度以下である場合には、あらかじめ生成された交通密度と車両速度との関係を示す関係式と前記第2の交通密度とに基づいて、前記第2の速度を予測してもよい。
【0018】
前記シミュレーション実行部は、前記第2の交通密度が所定の交通密度を上回る場合には、前記第1の時刻に対応する期間より前の期間の前記所定のブロックの交通密度および交通量と、前記第2の交通密度とに基づいて、前記第2の速度を予測してもよい。
【0019】
前記交通流予測装置は、前記所定ブロックに流入した車両の前記第1の時刻に対応する期間よりも前の期間の交通量に基づいて、前記所定のブロックに流入する車両の第2の交通量を予測する交通量予測部を備えてもよい。
【0020】
また、上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば、所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部と、前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得することと、第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得することと、前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測することと、を備える、交通流予測方法が提供される。
【0021】
また、上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば、コンピュータを、所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部と、前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得する交通量取得部と、第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得する交通密度取得部と、前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測するシミュレーション実行部と、を備える交通流予測装置として機能させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、処理時間の低下を抑制しつつ、高精度に交通流をシミュレーションすることを可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る交通流予測装置の機能構成例を示す図である。
【
図2】共通パラメータ記憶部によって記憶される各種の共通パラメータの例を示す図である。
【
図3】フリーフローデータ記憶部によって記憶されるフリーフローデータの例を示す図である。
【
図4】プローブデータ記憶部によって記憶されるプローブデータの例を示す図である。
【
図5】交通密度(K)と速度(V)との組とKV関係式とを示す図である。
【
図6】KVパラメータ作成部によって実行されるKVパラメータ作成処理の例を示すフローチャートである。
【
図7】推定地点に到達した車両の計測地点における通過時刻の算出例を説明するための図である。
【
図8】計測地点における交通量から推定地点における交通量を算出する例を説明するための図である。
【
図9】交通密度算出部によって実行される交通密度算出処理の例を示すフローチャートである。
【
図10】連続する3つのセルそれぞれに対応する交通量、速度、交通密度を模式的に示した図である。
【
図11】シミュレーションの全体的な流れについて説明するための図である。
【
図12】比較例におけるシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態に係る交通流予測装置による第1のシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る交通流予測装置による第2のシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】本発明の実施形態に係る交通流予測装置の例としての情報処理装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
また、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なる数字を付して区別する場合がある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素等の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。また、異なる実施形態の類似する構成要素については、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合がある。ただし、異なる実施形態の類似する構成要素等の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。
【0026】
(0.概要)
まず、本発明の実施形態の概要について説明する。
【0027】
近年、センサによって収集されたセンサデータに基づいて交通流をシミュレーションする技術として様々な手法が知られている。例えば、上記したように、特許文献1に開示された技術、非特許文献1に開示された技術、および、非特許文献2に開示された技術などが挙げられる。
【0028】
しかしながら、特許文献1には、交通規制(事故発生による交通規制などを含む。)などにより一部の車線が通行不可能となった場合に、引き続き通行可能な車線のブロックの交通密度をどのように算出するかが開示されていない。さらに、特許文献1には、交通規制がされている車線のブロックより下流に位置する各車線のブロックの交通密度をどのように算出するかが開示されていない。すなわち、特許文献1に開示された技術では、交通規制がなされている場合に交通流シミュレーションが高精度に行われ得ない。
【0029】
また、非特許文献1に開示された技術、および、非特許文献2に開示された技術では、ミクロシミュレーションが行われる区間が長くなるにしたがって処理時間が長くなってしまう。非特許文献2によると、全長4kmのシミュレーションにおいてマクロシミュレーションによる処理時間が0.121(秒)であると報告され、ミクロシミュレーションによる処理速度が25.045(秒)であると報告されている(
図11 計算時間の比較)。したがって、大規模な高速道路での実運用では、マクロシミュレーションのみによって処理されることが望ましい。
【0030】
そこで、本明細書においては、処理時間の低下を抑制しつつ、高精度に交通流をシミュレーションすることを可能とする技術について主に説明する。より詳細に、本明細書においては、交通規制が発生した場合においてもマクロシミュレーションのみによって処理を行うことによって処理時間の低下を抑制し、高精度に交通流をシミュレーションすることを可能とする技術について説明する。
【0031】
以上、本発明の実施形態の概要について説明した。
【0032】
(1.実施形態の詳細)
まず、本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0033】
(1-1.交通流予測装置の構成)
まず、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の構成例について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の機能構成例を示す図である。
【0034】
図1を参照すると、道路上を走行する車両の例として、車両M1~M3が示されている。さらに、
図1を参照すると、奥側の車線を、車両M1と車両M2とが走行しており(車両M2に続いて車両M1が走行しており)、手前側の車線を、奥側の車線の車両M1および車両M2とは逆向きに車両M3が走行している。このように、本発明の実施形態では、道路が複数車線によって構成される場合を主に想定するが、道路は1つの車線によって構成されていてもよい。車両M1~M3それぞれは、車載器を搭載している。なお、車線は、「レーン」とも換言され得る。
【0035】
本発明の実施形態に係る交通流予測装置1は、事象データ記憶部120と、走行履歴データ記憶部121と、プローブデータ記憶部122と、フリーフローデータ記憶部123と、交通量データ記憶部124と、KVパラメータ記憶部125と、共通パラメータ記憶部126と、交通密度データ記憶部127と、予測交通量データ記憶部128とを備える。また、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1は、事象入力部150と、統計処理部131と、交通量算出部133と、処理部140とを備える。処理部140は、KVパラメータ作成部141と、交通密度算出部142と、交通量予測部143と、シミュレーション実行部144とを備える。
【0036】
走行履歴データ記憶部121には、プローブアンテナ112が接続されており、フリーフローデータ記憶部123には、フリーフローアンテナ114が接続されている。
【0037】
統計処理部131と、交通量算出部133と、処理部140とは、CPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)などの演算装置を含み、ROM(Read Only Memory)により記憶されているプログラムが演算装置によりRAMに展開されて実行されることにより、その機能が実現され得る。このとき、当該プログラムを記録した、コンピュータに読み取り可能な記録媒体も提供され得る。
【0038】
あるいは、統計処理部131と、交通量算出部133と、処理部140とは、専用のハードウェアにより構成されていてもよいし、複数のハードウェアの組み合わせにより構成されてもよい。演算装置による演算に必要なデータは、図示しない記憶部によって適宜記憶される。
【0039】
事象データ記憶部120と、走行履歴データ記憶部121と、プローブデータ記憶部122と、フリーフローデータ記憶部123と、交通量データ記憶部124と、KVパラメータ記憶部125と、共通パラメータ記憶部126と、交通密度データ記憶部127と、予測交通量データ記憶部128とは、図示しない記憶部によって記憶される。かかる記憶部は、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブまたはフラッシュメモリなどのメモリによって構成されてよい。
【0040】
(共通パラメータ記憶部126)
共通パラメータ記憶部126は、各種の共通パラメータをあらかじめ記憶している。ここで、
図2を参照しながら、共通パラメータの例について説明する。
【0041】
図2は、共通パラメータ記憶部126によって記憶される各種の共通パラメータの例を示す図である。
【0042】
図2に示されるように、共通パラメータ記憶部126は、走行履歴時間幅711、走行履歴地点幅712、シミュレーション実行時間間隔721およびシミュレーション実行セル幅722それぞれを共通パラメータの例として記憶している。さらに、共通パラメータ記憶部126は、混雑流判定速度741、最大交通量742、最大交通密度743、自由流速度744および渋滞波伝搬速度745それぞれを共通パラメータの例として記憶している。
【0043】
(事象入力部150)
事象入力部150は、車両の通行が規制される区間(以下、「規制区間」とも言う。)を指定するための情報、および、規制区間における車両通行が不可能な車線に関する情報(例えば、車両通行が不可能な車線数など)の入力をユーザから受け付ける。なお、車両の通行が規制される理由は特に限定されない。例えば、車両の通行が規制される理由は、事故の発生、路上障害物の存在、または、工事の予定などであってもよい。
【0044】
例えば、事象入力部150は、マウスまたはキーボードなどといった入力デバイスによって構成されてよい。しかし、事象入力部150は、他の入力デバイスによって構成されてもよい。例えば、事象入力部150は、タッチパネルまたはボタンなどによって構成されてもよい。
【0045】
例えば、計測起点「A地点」と、計測起点「A地点」からの距離「24km」とを指定するための情報がユーザによって入力されたと仮定する。かかる場合には、一例として、シミュレーション実行セル幅722が「200m」である場合に、計測起点から(24km/200m=)120番目の区間が規制区間として指定される。
【0046】
また、事象データ記憶部120によって、区間ごとの車線総数があらかじめ記憶されていてよい。例えば、車線総数が「3」の規制区間の車両走行が不可能な車線数として「1」がユーザによって入力されたと仮定する。かかる場合には、規制区間における車線総数に対する通行可能な車線数の割合は、(車線総数-通行不可能な車線数)/車線総数=(3-1)/3=「2/3」と算出され得る。
【0047】
事象入力部150によってユーザから受け付けられた、規制区間を指定するための情報、および、規制区間における車両走行が不可能な車線に関する情報(例えば、車両走行が不可能な車線数など)は、事象データ記憶部120に出力される。
【0048】
(フリーフローアンテナ114)
フリーフローアンテナ114は、道路上の各位置を走行する車両の検出を行う車両検出部の一例として機能する。すなわち、本発明の実施形態では、車両検出部が、フリーフローアンテナ114を含む場合を主に想定する。これによって、既に構築されているETC(Electronic Toll Collection)システムのETCフリーフローアンテナが車両検出部として用いられ得るため、新たに車両検出部を設ける必要がない。しかし、フリーフローアンテナ114の代わりに、他の車両検出部(例えば、車両感知器、赤外線センサまたは超音波センサなど)が用いられてもよい。
【0049】
より詳細には、フリーフローアンテナ114は、車両に搭載された車載器との間の通信によって車両から車両の識別情報(車両ID)を受信することによって車両をリアルタイムに検出する。本発明の実施形態では、車載器の例として、ETC車載器が用いられる場合を主に想定する。なお、フリーフローアンテナ114は、複数のバージョンのETC車載器に対応している場合が想定される一方、後に説明するプローブアンテナ112は、特定のバージョンのETC車載器にしか対応していない場合が想定される。すなわち、フリーフローアンテナ114は、プローブアンテナ112よりも、より多くの車両を検出し得る。
【0050】
なお、フリーフローアンテナ114によって車両が検出される道路上の「各位置」は、車両検出部によって検出可能な車両の位置であれば、特に限定されない。以下では、フリーフローアンテナ114によって車両が検出され得る道路上の各位置を、単に「フリーフローアンテナ位置」と言う場合がある。
【0051】
フリーフローアンテナ114は、車両に搭載された車載器との間の通信によって車両IDを受信することによって車両をリアルタイムに検出すると、車両の検出結果(以下、「フリーフローデータ」とも言う。)をフリーフローデータ記憶部123にリアルタイムに出力する。そして、フリーフローアンテナ114からフリーフローデータ記憶部123にリアルタイムに出力された車両の検出結果は、交通量算出部133によって、リアルタイムに利用され得る。
【0052】
ここで、「リアルタイム」は、フリーフローアンテナ位置に車両が到達してから道路上の交通状態が変化してしまう前までの短時間のいずれかのタイミングを意味し得る。このタイミングに車両が検出されれば、道路上の交通状態が変化してしまう前に、車両が検出された時点の交通状態に応じた何らかの措置が講じられ得る。
【0053】
図3は、フリーフローデータ記憶部123によって記憶されるフリーフローデータの例を示す図である。
図3に示されるように、フリーフローデータは、「車両ID」と「通過時刻」とが対応付けられてなる。「車両ID」は、フリーフローアンテナ114と車両に搭載された車載器との間の通信によって車両から受信された車両の識別情報である。「通過時刻」は、フリーフローアンテナ114によって車両から車両IDが受信された時刻であり、フリーフローアンテナ位置を車両が通過した時刻に相当し得る。
【0054】
(交通量算出部133)
交通量算出部133は、フリーフローアンテナ位置を走行する車両の検出結果(フリーフローデータ)をフリーフローデータ記憶部123(
図3)から取得する。そして、交通量算出部133は、フリーフローデータ(車両IDおよび通過時刻)に基づいて、フリーフローアンテナ位置を、あらかじめ設定された単位時間あたりに通過した車両の数(フリーフローアンテナ114によって単位時間あたりに検出された車両IDの数)を、フリーフローアンテナ位置の交通量として算出する。交通量算出部133による交通量の算出は、単位時間ごとに繰り返し行われればよい。
【0055】
なお、フリーフローアンテナ位置を通過した全部の車両に、フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が搭載されているとは限らない。すなわち、フリーフローアンテナ114によってフリーフローアンテナ位置を通過した全部の車両が検出されるとは限らない。したがって、フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が搭載された車両の、(フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が搭載されていない車両を含んだ)車両全体に対する割合を「車載器搭載割合」としてあらかじめ設定し、フリーフローアンテナ114によって検出された車両の数を「検出車両数」とした場合、交通量算出部133は、下記の式(1)によって、フリーフローアンテナ位置の交通量をより高精度に推定するのが望ましい。
【0056】
(交通量の推定値)=(検出車両数)÷(車載器搭載割合)・・・(1)
【0057】
しかし、フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が十分に普及している場合などには、かかる推定は省略されてもよい。交通量算出部133によって推定された交通量とその交通量に対応する時間の終端である計測時刻とその交通量に対応するフリーフローアンテナ位置とは、各フリーフローアンテナ位置に対応する交通量データとして交通量が推定される度に交通量データ記憶部124に出力される。
【0058】
(プローブアンテナ112)
プローブアンテナ112は、車両の走行履歴データを取得する走行履歴データ取得部の一例として機能する。すなわち、本発明の実施形態では、走行履歴データ取得部が、プローブアンテナ112を含む場合を主に想定する。これによって、既に構築されているETCシステムのETCプローブアンテナが走行履歴データ取得部として用いられ得るため、新たに走行履歴データ取得部を設ける必要がない。しかし、プローブアンテナ112の代わりに、他の走行履歴データ取得部(例えば、携帯基地局など)が用いられてもよい。
【0059】
より詳細に、プローブアンテナ112は、車両に搭載された車載器との間の通信によって車両から走行履歴データを取得すると、取得した走行履歴データを走行履歴データ記憶部121に出力する。そして、プローブアンテナ112から走行履歴データ記憶部121に出力された走行履歴データは、統計処理部131によって利用され得る。
【0060】
なお、走行履歴データは、走行履歴地点幅712(例えば、100m)ごとの道路上の各区間(キロポスト間)を走行履歴時間幅711(例えば、1分間)ごとに走行した各車両の速度と、プローブアンテナ112によって速度が収集された時刻である収集時刻とを含む。
【0061】
(統計処理部131)
統計処理部131は、走行履歴データ記憶部121から走行履歴データを取得し、走行履歴データに対して統計処理を施し、統計処理後の走行履歴データをプローブデータとしてプローブデータ記憶部122に出力する。そして、統計処理部131からプローブデータ記憶部122に出力されたプローブデータは、KVパラメータ作成部141によって利用され得る。
【0062】
例えば、統計処理部131は、走行履歴地点幅712ごとの道路上の各区間(キロポスト間)を走行履歴時間幅711ごとに走行した1または複数の車両の速度に対して所定の統計処理(例えば、平均化処理など)を施す。これによって、道路上の各区間における走行履歴時間幅711ごとの車両速度の統計量が得られる。なお、平均化処理の例としては、調和平均を取る処理などが挙げられる。
【0063】
図4は、プローブデータ記憶部122によって記憶されるプローブデータの例を示す図である。
図4に示されるように、プローブデータは、「通過時刻」と「キロポスト」と「速度」と「収集時刻」とが対応付けられてなる。
【0064】
「通過時刻」は、道路の起点からの距離標(キロポスト)を車両が通過した時刻である。「キロポスト」は、道路の起点からの距離標である。
【0065】
「速度」は、道路上の各区間(キロポスト間)を走行履歴時間幅711(通過時刻間)ごとに走行した1または複数の車両速度の統計量(例えば、平均速度)である。例えば、「速度:80km/h」は、「キロポスト:100」から「キロポスト:100.1」までを、「通過時刻:2019年01月01日10時23分」から「2019年01月01日10時24分」までに走行した1または複数の車両の速度の統計量である。
【0066】
「収集時刻」は、プローブアンテナ112によって車両の速度が収集された時刻である。
【0067】
(KVパラメータ作成部141)
KVパラメータ作成部141は、プローブデータ記憶部122からフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の速度および終端時刻を取得する。さらに、KVパラメータ作成部141は、交通量データ記憶部124からフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の交通量データ(交通量および通過時刻)を取得する。
【0068】
KVパラメータ作成部141は、所定期間分の交通量および通過時刻と、当該所定期間分の速度および計測時刻とに基づいて、機械学習により交通密度(K)と速度(V)との対応関係(以下の例では、近似式)を示すパラメータをフリーフローアンテナ位置ごとに作成する。
【0069】
より詳細には、KVパラメータ作成部141は、同一の時刻および同一のフリーフローアンテナ位置に対応する交通量(Q)と速度(V)とを対応付ける。そして、KVパラメータ作成部141は、下記の式(2)によって、対応付けられた交通量(Q)および速度(V)ごとに、交通密度(K)を算出する。
【0070】
K=Q×1/(V×60)・・・(2)
【0071】
ただし、Kは、交通密度(台/km)を示し、Qは、交通量(台/分)を示し、Vは、速度(km/時間)を示す。KVパラメータ作成部141は、対応する交通密度(K)と速度(V)との組を所定の関係で近似し、近似によって得られた近似式(KV関係式)のパラメータをKVパラメータとして作成する。
【0072】
ここでは、KVパラメータ作成部141は、渋滞流に対応する近似式のパラメータを作成する場合を想定する。より詳細に、KVパラメータ作成部141は、混雑流判定速度741(例えば、高速道では55km/hなど)以下の速度(V)とその速度(V)に対応する交通密度(K)との組を所定の関係で近似することによって、渋滞流に対応するKV関係式のパラメータを作成する場合を想定する。例えば、渋滞流に対応するKV関係式は、下記の式(3)によって表現される指数関数であってよい。
【0073】
V=a×exp(-b×K)・・・(3)
【0074】
ただし、Kは、交通密度(台/km)を示し、Vは、速度(km/時間)を示し、aおよびbは、KVパラメータである。なお、本明細書において、混雑流は、渋滞流に包含される概念として使用されており、渋滞流の中でも速度がある値より大きい状態を意味し得る。
【0075】
図5は、交通密度(K)と速度(V)との組とKV関係式とを示す図である。
図5に示された例において、横軸は、交通密度(K)を示しており、縦軸は、速度(V)を示している。かかるKV図において、交通密度(K)と速度(V)とが対応付けられた各組が、各点としてプロットされている。また、
図5を参照すると、これらの組を近似して得られるKV関係式を示す指数関数が示されている。
【0076】
KVパラメータ作成部141は、作成したKVパラメータを、KVパラメータ記憶部125に保存する。なお、典型的には、所定期間は、1カ月であってよい。しかし、所定期間は、1カ月に限定されない。例えば、所定期間は、1日であってもよい。
【0077】
図6は、KVパラメータ作成部141によって実行されるKVパラメータ作成処理の例を示すフローチャートである。まず、KVパラメータ作成部141は、プローブデータ記憶部122からフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の速度および通過時刻を取得する(S11)。また、KVパラメータ作成部141は、交通量データ記憶部124からフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の交通量データ(交通量および計測時刻)を取得する(S12)。
【0078】
KVパラメータ作成部141は、同一の時刻および同一のフリーフローアンテナ位置に対応する交通量(Q)と速度(V)とを対応付ける。そして、KVパラメータ作成部141は、対応付けられた交通量(Q)および速度(V)ごとに、交通密度(K)を算出する(S13)。
【0079】
KVパラメータ作成部141は、交通密度(K)と速度(V)との関係を示すKV関係式のパラメータを機械学習により作成する(S14)。より詳細に、KVパラメータ作成部141は、対応する交通密度(K)と速度(V)との組を所定の関係(例えば、指数関数など)で近似し、近似によって得られたKV関係式のパラメータをKVパラメータとして作成する。ここでは、KVパラメータ作成部141は、渋滞流に対応する近似式のパラメータを作成する場合を想定する。
【0080】
KVパラメータ作成部141は、作成したKVパラメータを、KVパラメータ記憶部125に保存する(S15)。
【0081】
(交通密度算出部142)
交通密度算出部142は、あらかじめ設定されたシミュレーション実行時間間隔721(例えば、5分間隔など)に、現在時刻から所定の設定時間前(例えば、1時間前など)までにおける、区間ごとの速度および単位時間をプローブデータ記憶部122から取得する。また、交通密度算出部142は、シミュレーション実行時間間隔721に、現在時刻から所定の設定時間前までにおける、フリーフローアンテナ位置ごとの交通量データ(交通量および単位時間)を交通量データ記憶部124から取得する。
【0082】
交通密度算出部142は、少なくとも各区間における速度に基づいて、各区間における交通密度を算出する。ここで、各区間における交通密度は、具体的にどのようにして算出されてもよい。
【0083】
例えば、交通密度算出部142は、KVパラメータ記憶部125からKVパラメータを取得し、道路上のある対象区間(第1の区間)における交通密度を、その対象区間における速度と、KVパラメータによって規定されるKV関係式とに基づいて算出してもよい。
【0084】
より詳細に、交通密度算出部142は、渋滞流である区間、すなわち、速度が混雑流判定速度741(閾値)以下である対象区間における交通密度を、その対象区間における速度とKV関係式とに基づいて算出してもよい。
【0085】
また、交通密度算出部142は、道路上のある対象区間(第2の区間)に応じた地点を推定地点とし、対象区間における交通密度を、推定地点における交通量および対象区間における速度に基づいて算出してもよい。例えば、推定地点は、対象区間の起点などであってよい。
【0086】
より詳細に、交通密度算出部142は、速度が混雑流判定速度741を上回る対象区間における交通密度を、推定地点における交通量および対象区間における速度に基づいて算出してもよい。例えば、交通密度算出部142は、推定地点における交通量を、交通量算出部133によって算出された計測地点における交通量と、計測地点からその対象区間までの区間ごとの速度とに基づいて算出し得る。例えば、計測地点は、対象区間から上流のフリーフローアンテナ位置(例えば、対象区間から最も近い上流のフリーフローアンテナ位置など)であってよい。
【0087】
図7および
図8を参照しながら、推定地点における交通量および対象区間における速度に基づいて対象区間における交通密度を算出する手法の例について説明する。
【0088】
図7は、推定地点に到達した車両の計測地点における通過時刻の算出例を説明するための図である。
図7に示された例において、横軸は、道路上における距離(右方向が道路の下流方向)を示し、横軸は、時刻(下方向が時間の経過方向)を示す。走行履歴データにおける区間(キロポスト間)および単位時間(通過時刻間)に対応する速度が、その区間および単位時間に対応する矩形(時空間範囲)内の色の濃さによって示されている。この例では、矩形内の色が濃いほど速度が低くなっている。
【0089】
交通密度算出部142は、それぞれの区間および時間に対応する速度に基づいて、推定地点および推定地点における時刻から、上流および過去に向かって計測地点までの軌跡を算出する。より詳細に、交通密度算出部142は、推定地点および推定地点における時刻から、それぞれの区間および時間に対応する速度に応じた傾きの直線によって矩形内を移動し、矩形の境界においては隣接し合う矩形間を移動するように軌跡を算出する。
【0090】
これによって、交通密度算出部142は、軌跡が到達した計測地点における時刻を、計測地点における通過時刻として得ることができる。
図7を参照すると、2台の車両の軌跡が描かれている。ここで、2台の車両の推定地点への到達時刻間における交通量と、その2台の車両の計測地点における通過時刻間における交通量とは一致すると見なされ得る。
【0091】
図8は、計測地点における交通量から推定地点における交通量を算出する例を説明するための図である。
図8を参照すると、推定地点への到達時刻間における交通量Qと、計測地点における通過時刻間における交通量Qとが示されている。ここで、計測地点における通過時刻間における交通量は、交通量データ記憶部124に保存されている。したがって、交通密度算出部142は、交通量データ記憶部124から計測地点における通過時刻間における交通量Qを取得し得る。
【0092】
交通密度算出部142は、計測地点における通過時刻間における交通量Qから、推定地点への到達時刻差と計測地点における通過時刻差との比によって、推定地点における交通量を算出し得る。例えば、計測地点における通過時刻差をt1とし、推定地点への到達時刻差をt2とすると、交通密度算出部142は、計測地点における通過時刻間における交通量Qに対して、t1/t2を乗じることによって、推定地点における交通量を算出し得る。以下では、このように計測地点における交通量から推定地点における交通量を算出する手法を「車両追跡」による交通量算出手法とも言う。
【0093】
図9は、交通密度算出部142によって実行される交通密度算出処理の例を示すフローチャートである。まず、交通密度算出部142は、あらかじめ設定されたシミュレーション実行時間間隔721に、現在時刻から所定の設定時間前までにおける、区間ごとの速度および通過時刻をプローブデータ記憶部122から取得する(S21)。
【0094】
また、交通密度算出部142は、シミュレーション実行時間間隔721に、現在時刻から所定の設定時間前までにおける、フリーフローアンテナ位置ごとの交通量データ(交通量および計測時刻)を交通量データ記憶部124から取得する(S22)。交通密度算出部142は、対象区間の速度が渋滞流の速度、すなわち、混雑流判定速度741以下の速度であるかを判定する(S23)。
【0095】
交通密度算出部142は、対象区間の速度が渋滞流の速度(すなわち、混雑流判定速度741以下である速度)である場合(S23において「YES」)、その対象区間における速度とKV関係式とに基づいてその対象区間における交通密度を算出する(S24)。
【0096】
一方、交通密度算出部142は、対象区間の速度が自由流の速度(すなわち、混雑流判定速度741を上回る速度)である場合(S23において「NO」)、車両追跡により計測地点における交通量を算出し、算出した計測地点における交通量と、計測地点からその対象区間までの区間ごとの速度とに基づいて、その対象区間における交通密度を算出する(S25)。交通密度算出部142は、交通量の計測時刻と区間と交通密度とが対応付けられた交通密度データを、交通密度データ記憶部127に出力する。
【0097】
(交通量予測部143)
交通量予測部143は、道路を構成するブロック(以下、「セル」とも言う。)の起点に推定地点を設定し、車両追跡によって(すなわち、計測地点における交通量と、計測地点からセルまでの区間ごとの速度とに基づいて)推定地点における交通量を算出する処理を各セルについて実行することによって、各セルに流入する車両の交通量を算出し得る。例えば、交通量予測部143は、推定地点における交通量を算出する処理を開始時刻の単位時間前から開始時刻までの期間(以下、「開始時刻に対応する期間」とも言う。)について実行することによって、開始時刻に対応する期間に各セルに流入した車両の交通量(第1の交通量)を算出し得る。
【0098】
ここで、セルをi(iは、1≦i≦Nを満たす整数)と表現し、開始時刻をtと表現し、セルiに流入する交通量をQiと表現する。このとき、開始時刻tに対応する期間に、セルi-1からセルiに流入する交通量(台/分)は、Qi(t)と表現される。すなわち、交通量予測部143は、開始時刻tに対応する期間における各セルの交通量Q1(t)~QN(t)を算出し得る。
【0099】
なお、開始時刻tは、ユーザによってあらかじめ指定された時刻であってもよいし、現在時刻であってもよい。また、起点および終点は、ユーザによってあらかじめ指定された位置であってもよい。
【0100】
各セルの幅は、シミュレーション実行セル幅722に規定されている。一方、各区間の幅は、走行履歴地点幅712に規定されている。各セルの幅は、各区間の幅と同じであってもよいし、各区間の幅と異なっていてもよい。例えば、各区間の幅が100mであるのに対し、各セルの幅は500mなどであってもよい。
【0101】
さらに、交通量予測部143は、開始時刻の後の期間にセルに流入する車両の交通量(第2の交通量)を予測する処理をセルごとに実行する。例えば、開始時刻に対応する期間よりも前の期間に各セルに流入した車両の交通量は、交通量予測部143によって既に算出されている。そこで、交通量予測部143は、開始時刻に対応する期間よりも前の期間にセルに流入した車両の交通量に基づいて、開始時刻の後の期間にセルに流入する車両の交通量を予測する処理をセルごとに実行する。
【0102】
ここで、シミュレーションのステップ時間間隔(分)をΔtと表現し、終了時刻をt+MΔt(Mは、シミュレーション実行回数)と表現する。このとき、開始時刻から開始時刻のΔt後の時刻までの期間にセルiに流入する交通量は、Qi(t+Δt)と表現され、終了時刻の単位時間前から終了時刻までの期間にセルiに流入する交通量は、Qi(t+MΔt)と表現される。また、mを、1≦m≦Mを満たす整数とした場合、開始時刻tに対応する期間のm個後の期間(以下、「時刻t+mΔtに対応する期間」とも言う。)にセルiに流入する交通量は、Qi(t+mΔt)と表現される。
【0103】
例えば、交通量予測部143は、時刻t+mΔtに対応する期間に、セルiに流入する交通量Qi(t+mΔt)を、時刻t+mΔtおよび時刻t+mΔtが属する曜日と同一の時刻および曜日に、セルiと同一のセルに流入した過去の交通量に基づいて予測してもよい。一例として、交通量予測部143は、当該過去の交通量に対して所定の統計処理を施すことにより、時刻t+mΔtに対応する期間に、セルiに流入する交通量Qi(t+mΔt)を予測してもよい。
【0104】
ここで、統計処理は、当該過去の交通量に対して上下を除外したトリム平均(例えば、上下10%を除外したトリム平均など)を算出する処理であってもよい。あるいは、統計処理は、当該過去の交通量に対して調和平均を算出する処理であってもよい。このとき、交通量予測部143は、当該過去の交通量に対して、前期間の交通量Qi(t+(m-1)Δt)との類似度が大きいほど(すなわち、差分が小さいほど)、大きい重みを付して統計処理を行ってもよい。
【0105】
交通量予測部143は、セルiに流入する交通量Qi(t)~Qi(t+MΔt)を、予測交通量データ記憶部128に出力する。なお、終了時刻は、ユーザによって指定された時刻であってもよいし、開始時刻tを基準としてあらかじめ決められた時間(例えば、ステップ時間幅Δtとシミュレーション実行回数Mとの積など)が経過した時刻であってもよい。
【0106】
(シミュレーション実行部144)
シミュレーション実行部144は、時刻t+Δt~時刻t+MΔtそれぞれに対応する期間における、速度V1~VN、交通密度K1~KNのシミュレーションを実行する。まず、シミュレーション実行部144は、開始時刻tに対応する交通量Q1(t)~QN(t)、速度V1(t)~VN(t)、交通密度K1(t)~KN(t)を取得する。
【0107】
(交通量Q1(t)~QN(t))
シミュレーション実行部144は、開始時刻tに対応する期間に、セルi(iは、1≦i≦Nを満たす整数)に流入した車両の交通量Q1(t)~QN(t)を取得する交通量取得部として機能する。例えば、シミュレーション実行部144は、交通量予測部143によって算出された、開始時刻tに対応する期間に、セルiに流入した車両の交通量Q1(t)~QN(t)を取得する。
【0108】
(速度V1(t)~VN(t))
また、シミュレーション実行部144は、開始時刻tに対応する期間に、セルi(iは、1≦i≦Nを満たす整数)を走行した車両速度の統計量である速度V1(t)~VN(t)(km/時間)(第1の速度)を取得する速度取得部として機能する。
【0109】
一例として、走行履歴地点幅712とシミュレーション実行セル幅722とが同じである場合が想定される。かかる場合には、シミュレーション実行部144は、開始時刻tに対応する期間に、セル1~Nに対応する区間を走行した車両速度の統計量である速度をプローブデータ記憶部122から取得し、取得した速度を速度V1(t)~VN(t)として扱えばよい。
【0110】
他の一例として、走行履歴地点幅712とシミュレーション実行セル幅722とが異なる場合が想定される。かかる場合には、シミュレーション実行部144は、セルに対応する複数の区間を特定すればよい。例えば、走行履歴地点幅712が100(m)であり、シミュレーション実行セル幅722が500(m)である場合には、セルに対応する5つの区間が特定され得ればよい。
【0111】
そして、シミュレーション実行部144は、開始時刻tに対応する期間における、当該複数の区間それぞれに対応する速度をプローブデータ記憶部122から取得し、当該複数の区間それぞれに対応する速度に対する統計処理(例えば、調和速度など)を施すことによって、V1(t)~VN(t)を得ればよい。
【0112】
(交通密度K1(t)~KN(t))
さらに、シミュレーション実行部144は、開始時刻t(第1の時刻)におけるセルi(iは、1≦i≦Nを満たす整数)の交通密度K1(t)~KN(t)(台/km)(第1の交通密度)を取得する交通密度取得部として機能する。
【0113】
一例として、走行履歴地点幅712とシミュレーション実行セル幅722とが同じである場合が想定される。かかる場合には、シミュレーション実行部144は、開始時刻tと一致する計測時刻における、セル1~Nに対応する区間の交通密度を交通密度データ記憶部127から取得し、取得した交通密度を交通密度K1(t)~KN(t)として扱えばよい。
【0114】
他の一例として、走行履歴地点幅712とシミュレーション実行セル幅722とが異なる場合が想定される。かかる場合には、シミュレーション実行部144は、セルに対応する複数の区間を特定すればよい。
【0115】
そして、シミュレーション実行部144は、開始時刻tに対応する期間における、当該複数の区間それぞれに対応する交通密度をプローブデータ記憶部122から取得し、当該複数の区間それぞれに対応する交通密度に対する統計処理(例えば、算術速度など)を施すことによって、K1(t)~KN(t)を得ればよい。
【0116】
(シミュレーション)
シミュレーション実行部144は、時刻t+Δt~t+MΔtそれぞれに対応する、交通密度K
1~K
N,速度V
1~V
Nを予測する。
図10を参照しながら、セルi(iは、1≦i≦Nを満たす整数)において、交通密度K
i(t)と、速度V
i(t)と、交通量Q
i(t)とに基づいて、交通密度K
i(t+Δt)と速度V
i(t+Δt)とを予測する手法について説明する。
【0117】
(交通密度シミュレーション)
まず、交通密度Ki(t+Δt)を予測する手法の例について説明する。
【0118】
図10は、連続する3つのセルそれぞれに対応する交通量、速度、交通密度を模式的に示した図である。
図10を参照すると、道路の上流側から下流側に向けて、セル(i-1)、セルiおよびセル(i+1)が示されている。また、時刻tにおける、交通量Q
i-1(t)~Q
i+1(t)、速度V
i-1(t)~V
i+1(t)、交通密度K
i-1(t)~K
i+1(t)が示されている。
【0119】
シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t)と、速度Vi(t)と、交通量Qi(t)とに基づいて、時刻t+Δt(第2の時刻)における交通密度Ki(t+Δt)(第2の交通密度)を予測する。
【0120】
かかる構成により、実際に計測された速度の統計量である速度Vi(t)が交通密度Ki(t+Δt)の予測に用いられるため、あらかじめ定められた固定値としての自由流速度744だけが用いられる場合と比較して、高精度に交通流がシミュレーションされ得る。また、かかる構成により、マクロシミュレーションのみによって予測が行われるため、処理時間の低下が抑制され得る。
【0121】
また、速度Vi(t)だけではなく、速度Vi(t)とあらかじめ定められた自由流速度744との混合結果が、交通密度Ki(t+Δt)の予測に用いられてもよい。すなわち、シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t)と、速度Vi(t)とあらかじめ定められた自由流速度744との混合結果と、交通量Qi(t)とに基づいて、交通密度Ki(t+Δt)を予測してもよい。
【0122】
かかる構成により、実際に計測された速度の統計量である速度Vi(t)と、あらかじめ定められた固定値としての自由流速度744との双方を考慮して、交通密度Ki(t+Δt)が予測され得る。そのため、かかる構成により、より高精度に交通流がシミュレーションされ得る。
【0123】
また、シミュレーション実行部144は、事象データ記憶部120によって記憶されている規制区間を指定するための情報、および、規制区間における車両走行が不可能な車線に関する情報に基づいて、規制区間における車線総数に対する通行可能な車線数の割合を算出してもよい。そして、シミュレーション実行部144は、算出した規制区間における車線総数に対する通行可能な車線数の割合と、交通密度Ki(t)と、速度Vi(t)と、交通量Qi(t)とに基づいて、交通密度Ki(t+Δt)を予測してもよい。
【0124】
かかる構成により、交通規制が発生した場合においても車両走行が不可能な車線に関する情報に基づいて、交通密度Ki(t+Δt)が予測され得る。そのため、かかる構成により、より高精度に交通流がシミュレーションされ得る。
【0125】
より詳細に、シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t)と、速度Vi(t)とに基づいて、交通量Qi+1(t)(後流ブロック交通量)を予測してもよい。一例として、交通量Qi+1(t)は、交通密度Ki(t)と速度Vi(t)との乗算に基づく交通量であってよく、より詳細には、下記の式(4)におけるmin()の第一項であってよい。そして、シミュレーション実行部144は、交通量Qi+1(t)と、交通量Qi(t)と、交通密度Ki(t)とに基づいて、交通密度Ki(t+Δt)を予測してもよい。
【0126】
例えば、交通密度Ki(t)と、速度Vi(t)とに基づいて、交通量Qi+1(t)を予測するための式は、下記の式(4)によって表現され得る。
【0127】
Qi+1(t)=min{(α×Vi(t)+(1-α)×u)×R×Ki(t),
R×Qmax,W×(R×(Kmax-Ki+1(t)))} ・・・(4)
【0128】
ただし、式(4)において、uは、あらかじめ定められた自由流速度744である。αは、速度Vi(t)と自由流速度uとの混合係数である。Rは、規制区間における車線総数に対する通行可能な車線数の割合である。Qmaxは、あらかじめ定められた最大交通量742(台/分)である。Kmaxは、あらかじめ定められた最大交通密度743(台/km)である。Wは、あらかじめ定められた渋滞波伝搬速度14.5(km/時間)であり、後流セルから伝わる渋滞波の伝搬速度である。
【0129】
式(4)に示されるように、シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t)と速度Vi(t)との乗算に基づく交通量(例えば、式(4)におけるmin()の第一項)と、Qmax×Rとを比較してよい。そして、シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t)と速度Vi(t)との乗算に基づく交通量よりもQmax×Rが小さい場合には、Qmax×Rを交通量Qi+1(t)として扱ってよい。そして、シミュレーション実行部144は、交通量Qi+1(t)と交通量Qi(t)と交通密度Ki(t)とに基づいて、交通密度Ki(t+Δt)を予測してよい。
【0130】
また、式(4)に示されるように、シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t)と速度Vi(t)との乗算に基づく交通量(例えば、式(4)におけるmin()の第一項)と、W×(R×(Kmax-Ki(t)))とを比較してよい。R×(Kmax-Ki(t))は、第1の乗算結果の例に該当し得る。また、W×(R×(Kmax-Ki(t)))は、第2の乗算結果の例に該当し得る。
【0131】
そして、シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t)と速度Vi(t)との乗算に基づく交通量よりもW×(R×(Kmax-Ki(t)))が小さい場合には、W×(R×(Kmax-Ki(t)))を交通量Qi+1(t)として扱ってよい。そして、シミュレーション実行部144は、交通量Qi+1(t)と交通量Qi(t)と交通密度Ki(t)とに基づいて、交通密度Ki(t+Δt)を予測してよい。
【0132】
また、例えば、交通量Qi+1(t)と、交通量Qi(t)と、交通密度Ki(t)とに基づいて、交通密度Ki(t+Δt)を予測するための式は、下記の式(5)によって表現され得る。
【0133】
Ki(t+Δt)=Ki(t)+Δt/Δx(Qi(t)-Qi+1(t))・・・(5)
【0134】
ただし、式(5)において、Δtは、シミュレーションのステップ時間間隔(分)である。Δxは、シミュレーション実行セル幅722(km)であり、道路の進行方向に対するセルの長さである。
【0135】
式(5)に示されるように、シミュレーション実行部144は、Qi(t)-Qi+1(t)と、Δxと、Δtと、Ki(t)とに基づいて、Ki(t+Δt)を予測してよい。
【0136】
(速度シミュレーション)
続いて、
図10を参照しながら、速度V
i(t+Δt)を予測する手法の例について説明する。
【0137】
シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t+Δt)に基づいて、速度Vi(t+Δt)(第2の速度)を予測する。
【0138】
シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t+Δt)が所定の交通密度以下である場合には、KVパラメータによって規定されるKV関係式と、交通密度Ki(t+Δt)とに基づいて、速度Vi(t+Δt)を予測してもよい。なお、所定の交通密度は、KVパラメータによって規定されるKV関係式において混雑流判定速度741(閾値)に対応する交通密度であってもよい。
【0139】
一方、シミュレーション実行部144は、交通密度Ki(t+Δt)が所定の交通密度を上回る場合には、時刻tに対応する期間よりも前の期間の交通密度Ki(t-pΔt)(ただし、pは1以上の整数)および交通量Qi(t-pΔt)と、交通密度Ki(t)とに基づいて、速度Vi(t+Δt)を予測してもよい。
【0140】
より詳細に、シミュレーション実行部144は、時刻tに対応する期間よりも前の期間の交通密度Ki(t-pΔt)のうち、交通密度Ki(t)と近い交通密度(すなわち、交通密度Ki(t)との差分が所定の差分よりも小さい交通密度)に対して所定の統計処理を施すことにより、統計処理後の交通密度を算出し、統計処理後の交通密度と交通量Qi(t-pΔt)と式(2)とに基づいて、速度Vi(t+Δt)を予測してもよい。
【0141】
ここで、統計処理は、交通密度に対して上下を除外したトリム平均(例えば、上下10%を除外したトリム平均など)を算出する処理であってもよい。あるいは、統計処理は、中央値を算出する処理であってもよい。
【0142】
(シミュレーションの全体的な流れ)
続いて、
図11を参照しながら、シミュレーションの全体的な流れについて説明する。
【0143】
図11は、シミュレーションの全体的な流れについて説明するための図である。
図11を参照すると、時刻t~t+MΔtそれぞれに対応する、交通量Q
1~Q
n,交通密度K
1~K
N,速度V
1~V
Nが示されている。
【0144】
ここで、時刻tに対応する期間の交通量Q1~Qnは、交通量算出部133によって既に算出済みであり、時刻t+Δt~t+MΔtそれぞれに対応する期間の交通量Q1~Qnは、交通量予測部143によって予測済みである。また、時刻tに対応する交通密度K1(t)~Kn(t)は、交通密度算出部142によって既に算出済みである。さらに、時刻tに対応する期間の速度V1(t)~Vn(t)は、統計処理部131によって既に算出済みである。
【0145】
かかる状態において、シミュレーション実行部144は、交通密度K1(t)と、交通密度K2(t)と、速度V1(t)とに基づいて、上記の式(4)により、交通量Q2(t)を予測してもよい。そして、シミュレーション実行部144は、予測した交通量Q2(t)と、交通量Q1(t)と、交通密度K1(t)とに基づいて、上記の式(5)により、交通密度K1(t+Δt)を予測してもよい。
【0146】
さらに、シミュレーション実行部144は、交通密度K1(t+Δt)が所定の交通密度以下である場合には、KVパラメータによって規定されるKV関係式と、交通密度K1(t+Δt)とに基づいて、速度V1(t+Δt)を予測してもよい。一方、シミュレーション実行部144は、交通密度K1(t+Δt)が所定の交通密度を上回る場合には、時刻tに対応する期間よりも前の期間の交通密度K1および交通量Q1と、交通密度K1(t)とに基づいて、速度V1(t+Δt)を予測してもよい。
【0147】
これによって、交通密度K1(t+Δt)および速度V1(t+Δt)が予測済みとなる。交通密度K1(t+Δt)および速度V1(t+Δt)は、交通密度K1(t+2Δt)および速度V1(t+2Δt)の予測に用いられ得る。
【0148】
そして、時刻t+2Δt~時刻t+MΔtそれぞれに対応する交通密度K1および速度V1についても、同様な予測が繰り返し実行されることによって予測され得る。また、セル2~セルnについても、同様な予測が繰り返し実行されることによって、時刻t+Δt~時刻t+MΔtそれぞれに対応する、交通密度K2~Kn,速度V2~Vnが予測され得る。
【0149】
図12は、比較例におけるシミュレーション結果を示す図である。
図13は、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1による第1のシミュレーション結果を示す図である。
図14は、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1による第2のシミュレーション結果を示す図である。
図15は、実測結果を示す図である。
図12~
図15に示された結果においては、縦軸が時刻を示し、横軸が起点からの距離を示し、時刻および距離に対応する速度の大きさが色の薄さによって示されている。
【0150】
図12に示された比較例では、あらかじめ定められた固定値としての自由流速度uだけが速度Vとして交通密度Kの予測に用いられ、規制区間における車線総数に対する通行可能な車線数の割合Rが交通密度Kの予測に用いられていない。したがって、
図12に示された比較例には、交通集中による自然渋滞のみが速度の低下として表現されており、
図12に示された比較例は、
図15に示された実測結果とは大きく異なってしまっている。
【0151】
一方、
図13に示された、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1による第1のシミュレーション結果は、規制区間における車線総数に対する通行可能な車線数の割合Rが交通密度Kの予測に用いられた結果である。したがって、
図13に示された第1のシミュレーション結果には、交通集中による自然渋滞のみならず、車線規制による渋滞も速度の低下として表現されており、
図13に示された第1のシミュレーション結果は、
図15に示された実測結果に近づいていることが把握され得る。
【0152】
図14に示された、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1による第2のシミュレーション結果は、規制区間における車線総数に対する通行可能な車線数の割合Rが交通密度Kの予測に用いられるだけではなく、実際に計測された速度の統計量とあらかじめ定められた自由流速度との混合結果が、交通密度の予測に用いられた結果である。すなわち、上記の式(4)が交通密度の予測に用いられた結果である。したがって、
図14に示された第2のシミュレーション結果には、より正確に渋滞が速度の低下として表現されており、
図14に示された第2のシミュレーション結果は、
図15に示された実測結果に大きく近づいていることが把握され得る。
【0153】
以上、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の構成例について説明した。
【0154】
(1-2.効果)
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1は、所定ブロックを走行した車両速度の統計量である第1の速度を取得する速度取得部を備える。また、交通流予測装置1は、前記所定ブロックに流入した車両の第1の交通量を取得する交通量取得部を備える。
【0155】
さらに、交通流予測装置1は、第1の時刻における前記所定ブロックの第1の交通密度を取得する交通密度取得部を備える。また、交通流予測装置1は、前記第1の交通密度と、前記第1の速度と、前記第1の交通量とに基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記所定ブロックの第2の交通密度を予測するシミュレーション実行部を備える。
【0156】
かかる構成によれば、実際に計測された速度の統計量を考慮して、交通密度が予測され得る。そのため、高精度に交通流をシミュレーションすることが可能となる。また、かかる構成によれば、ミクロシミュレーションモデルを用いる必要がないため、処理時間の低下が抑制され得る。
【0157】
また、シミュレーション実行部は、所定ブロックにおける車線総数に対する通行可能な車線数の割合にさらに基づいて、交通密度を予測してもよい。かかる構成によれば、交通規制が発生した場合においても、処理時間の低下を抑制し、高精度に交通流をシミュレーションすることが可能となる。
【0158】
本発明の実施形態に係る技術を用いることによって、夜間工事規制がなされている場合における交通流シミュレーションを短時間に実行することが可能となるという効果を得られる。さらに、本発明の実施形態に係る技術を用いることによって、最も交通流の妨げが少なくなる工事規制時間を容易に算出することが可能となるという効果も得られる。
【0159】
以上、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1が奏する効果について説明した。
【0160】
(2.ハードウェア構成例)
続いて、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1のハードウェア構成例について説明する。
【0161】
以下では、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1のハードウェア構成例として、情報処理装置900のハードウェア構成例について説明する。なお、以下に説明する情報処理装置900のハードウェア構成例は、交通流予測装置1のハードウェア構成の一例に過ぎない。したがって、交通流予測装置1のハードウェア構成は、以下に説明する情報処理装置900のハードウェア構成から不要な構成が削除されてもよいし、新たな構成が追加されてもよい。
【0162】
図16は、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の例としての情報処理装置900のハードウェア構成を示す図である。情報処理装置900は、CPU(Central Processing Unit)901と、ROM(Read Only Memory)902と、RAM(Random Access Memory)903と、ホストバス904と、ブリッジ905と、外部バス906と、インタフェース907と、入力装置908と、出力装置909と、ストレージ装置910と、通信装置911と、を備える。
【0163】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、各種プログラムに従って情報処理装置900内の動作全般を制御する。また、CPU901は、マイクロプロセッサであってもよい。ROM902は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM903は、CPU901の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する。これらはCPUバス等から構成されるホストバス904により相互に接続されている。
【0164】
ホストバス904は、ブリッジ905を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バス等の外部バス906に接続されている。なお、必ずしもホストバス904、ブリッジ905および外部バス906を分離構成する必要はなく、1つのバスにこれらの機能を実装してもよい。
【0165】
入力装置908は、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、マイクロフォン、スイッチおよびレバー等ユーザが情報を入力するための入力手段と、ユーザによる入力に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路等から構成されている。情報処理装置900を操作するユーザは、この入力装置908を操作することにより、情報処理装置900に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0166】
出力装置909は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ(LCD)装置、OLED(Organic Light Emitting Diode)装置、ランプ等の表示装置およびスピーカ等の音声出力装置を含む。
【0167】
ストレージ装置910は、データ格納用の装置である。ストレージ装置910は、記憶媒体、記憶媒体にデータを記録する記録装置、記憶媒体からデータを読み出す読出し装置および記憶媒体に記録されたデータを削除する削除装置等を含んでもよい。ストレージ装置910は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)で構成される。このストレージ装置910は、ハードディスクを駆動し、CPU901が実行するプログラムや各種データを格納する。
【0168】
通信装置911は、例えば、ネットワークに接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。また、通信装置911は、無線通信または有線通信のどちらに対応してもよい。
【0169】
以上、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1のハードウェア構成例について説明した。
【0170】
(3.まとめ)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0171】
上記では、「地点」という文言が使用されているが、この「地点」という文言は、一点のみを表現し得るだけではなく、一定の範囲を有する場所をも表現し得る。したがって、この「地点」という文言は、「区間」という文言にも換言され得る。
【符号の説明】
【0172】
1 交通流予測装置
112 プローブアンテナ
114 フリーフローアンテナ
120 事象データ記憶部
121 走行履歴データ記憶部
122 プローブデータ記憶部
123 フリーフローデータ記憶部
124 交通量データ記憶部
125 KVパラメータ記憶部
126 共通パラメータ記憶部
127 交通密度データ記憶部
128 予測交通量データ記憶部
131 統計処理部
133 交通量算出部
140 処理部
141 KVパラメータ作成部
142 交通密度算出部
143 交通量予測部
144 シミュレーション実行部
150 事象入力部