IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧 ▶ JMUディフェンスシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-着桟システム 図1
  • 特開-着桟システム 図2
  • 特開-着桟システム 図3
  • 特開-着桟システム 図4
  • 特開-着桟システム 図5
  • 特開-着桟システム 図6
  • 特開-着桟システム 図7
  • 特開-着桟システム 図8
  • 特開-着桟システム 図9
  • 特開-着桟システム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133882
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】着桟システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/20 20060101AFI20230920BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20230920BHJP
   B63H 25/04 20060101ALI20230920BHJP
   G08G 3/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01C21/20
B63B79/40
B63H25/04 D
G08G3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039122
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】509202558
【氏名又は名称】JMUディフェンスシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】吉光 亮
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌憲
(72)【発明者】
【氏名】宗田 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】水本 博基
(72)【発明者】
【氏名】下田 義守
【テーマコード(参考)】
2F129
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA14
2F129BB03
2F129CC06
2F129CC15
2F129CC16
2F129DD21
5H181AA25
5H181FF05
5H181FF22
5H181FF32
(57)【要約】
【課題】処理負荷を軽減可能な着桟システムを提供すること。
【解決手段】着桟システムは、船舶1が着桟するための航路であるウェイラインWに沿って、船舶1を着桟させる着桟システムであって、ユーザによって入力されたウェイラインWに関する情報を取得する取得部と、ウェイラインWに沿うように、ウェイラインWの始点Psから終点Peに向かって船舶1を航行させるライントレース制御を行うライントレース制御部と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が着桟するための航路であるウェイラインに沿って、船舶を着桟させる着桟システムであって、
ユーザによって入力された前記ウェイラインに関する情報を取得する取得部と、
前記ウェイラインに沿うように、前記ウェイラインの始点から終点に向かって前記船舶を航行させるライントレース制御を行うライントレース制御部と、
を備える、着桟システム。
【請求項2】
前記ライントレース制御により前記船舶の位置から前記終点までの距離が第1閾値以下になったことに応じて、前記船舶の前進速度を低下させる減速制御を行う減速制御部をさらに備える、請求項1に記載の着桟システム。
【請求項3】
前記第1閾値は、前記ウェイライン上における前記前進速度に基づいて決定される、請求項2に記載の着桟システム。
【請求項4】
前記減速制御により前記前進速度が第2閾値以下になったことに応じて、前記船舶の向きが所定の方位角になるように、前記船舶を回頭させる方位制御部をさらに備える、請求項2又は請求項3に記載の着桟システム。
【請求項5】
前記ウェイラインを前記ユーザに入力させる画面を表示装置に表示させる表示制御部をさらに備え、
前記取得部は、前記画面に入力された前記ウェイラインに関する情報を取得する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の着桟システム。
【請求項6】
前記ライントレース制御部は、前記船舶が前記ウェイラインとは異なる位置に存在する場合には、前記位置から前記始点に向かって前記船舶を航行させる、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の着桟システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、着桟システムに関する。
【背景技術】
【0002】
着桟操船においては、操船者は船舶を桟橋に安全かつ速やかに接岸させる必要がある。しかし、着桟操船を行うときには、停泊している他の船舶、障害物、及び桟橋等に船舶を接触させてしまうおそれがあるため、着桟操船には、高度な技術が要求される。
【0003】
特許文献1には、船舶の着桟支援システムが記載されている。この着桟支援システムにおいては、船舶状態と、制約条件と、外乱条件と、に基づいて着桟位置までの計画航路が策定され、計画航路を航走するに当たっての操船情報が提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-76537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の着桟支援システムにおいては、計画航路を策定するために、コンピュータが、船舶状態、及び制約条件に基づいて着桟位置までの複数の通過点を設定し、船舶状態、制約条件、及び外乱条件に基づいて操船運動シミュレーションを行うことによって計画航路を策定する。そのため、コンピュータの処理負荷が高くなるおそれがある。
【0006】
本開示は、処理負荷を軽減可能な着桟システムを説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る着桟システムは、船舶が着桟するための航路であるウェイラインに沿って、船舶を着桟させるシステムである。この着桟システムは、ユーザによって入力されたウェイラインに関する情報を取得する取得部と、ウェイラインに沿うように、ウェイラインの始点から終点に向かって船舶を航行させるライントレース制御を行うライントレース制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、処理負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、着桟システムの機能ブロック図である。
図2図2は、着桟システムを構成するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図3は、着桟システムが行う着桟方法の一連の処理を示すフローチャートである。
図4図4は、ウェイラインの設定を説明するための図である。
図5図5は、初期位置とウェイラインの始点とを結ぶ線分に沿ったライントレース制御を説明するための図である。
図6図6は、ウェイラインの始点付近における船舶の航行を示す図である。
図7図7は、ウェイラインに沿ったライントレース制御を説明するための図である。
図8図8は、ウェイラインの終点付近における船舶の航行を示す図である。
図9図9は、方位制御を説明するための図である。
図10図10は、MPC(Model Predictive Control)を用いたライントレース制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]実施形態の概要
本開示の一側面に係る着桟システムは、船舶が着桟するための航路であるウェイラインに沿って、船舶を着桟させるシステムである。この着桟システムは、ユーザによって入力されたウェイラインに関する情報を取得する取得部と、ウェイラインに沿うように、ウェイラインの始点から終点に向かって船舶を航行させるライントレース制御を行うライントレース制御部と、を備える。
【0011】
この着桟システムでは、ユーザによって入力されたウェイラインに沿うように、ウェイラインの始点から終点に向かって船舶が航行される。ウェイラインはユーザによって入力されるので、ウェイラインを策定するために、着桟システムは複雑な処理を行う必要が無い。したがって、着桟システムの処理負荷を軽減することが可能となる。
【0012】
上記着桟システムは、ライントレース制御により船舶の位置から終点までの距離が第1閾値以下になったことに応じて、船舶の前進速度を低下させる減速制御を行う減速制御部をさらに備えてもよい。この場合、ウェイラインの終点に船舶が近づくと、船舶の前進速度が低下される。したがって、船舶をウェイラインの終点において停止させることができる。
【0013】
第1閾値は、ウェイライン上における船舶の前進速度に基づいて決定されてもよい。船舶の前進速度が大きい場合には、前進速度が小さい場合と比較して、船舶を停止させるまでに要する航行距離が長くなる。上記構成においては、前進速度が考慮されて第1閾値が決定されるので、減速制御を開始するタイミングが前進速度に応じて決定される。したがって、より確実に船舶をウェイラインの終点で停止させることが可能となる。
【0014】
上記着桟システムは、減速制御により船舶の前進速度が第2閾値以下になったことに応じて、船舶の向きが所定の方位角になるように、船舶を回頭させる方位制御部をさらに備えてもよい。この場合、ウェイラインの終点において、船舶の向きを所定の方位角に合わせることが可能となる。
【0015】
上記着桟システムは、ウェイラインをユーザに入力させる画面を表示装置に表示させる表示制御部をさらに備えてもよい。取得部は、上記画面に入力されたウェイラインに関する情報を取得してもよい。この場合、ユーザは、着桟システムにウェイラインを直接入力することができる。
【0016】
ライントレース制御部は、船舶がウェイラインとは異なる位置に存在する場合には、位置から始点に向かって船舶を航行させてもよい。この場合、船舶の現在位置からウェイラインを設定する必要が無い。したがって、ウェイラインを設定するための制約条件が緩和されるので、着桟に適したウェイラインをユーザに設定させることができる。
【0017】
[2]実施形態の例示
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1及び図2を参照して、一実施形態に係る着桟システムを説明する。図1は、着桟システムの機能ブロック図である。図2は、着桟システムを構成するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。図1に示される着桟システム10は、ウェイラインに沿って船舶を着桟させるシステムである。ウェイラインは、船舶が着桟するための航路である。船舶の例としては、自動運航船が挙げられる。着桟システム10は、1台のコンピュータ100(図2参照)によって構成されてもよい。着桟システム10は、複数台のコンピュータ100によって構成されてもよい。
【0019】
図2に示されるように、着桟システム10を構成するコンピュータ100は、プロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力装置104、表示装置105、及び通信装置106を含む。
【0020】
プロセッサ101の例としては、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。主記憶装置102は、補助記憶装置103から読み込んだプログラム、及びプロセッサ101による演算結果を一時的に記憶する。主記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)で構成される。補助記憶装置103は、着桟システム10の各機能的構成要素を構成するためのプログラムを記憶する。補助記憶装置103は、例えば、ハードディスク装置又はフラッシュメモリで構成され、一般に主記憶装置102よりも大量のデータを記憶可能な容量を有する。
【0021】
入力装置104は、コンピュータ100に含まれるハードウェアに情報を入力する。入力装置104は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、及び操作ボタンで構成される。表示装置105は、コンピュータ100に含まれるハードウェアから出力される情報を表示する。表示装置105は、例えば、ディスプレイで構成される。入力装置104と表示装置105とは、タッチパネルのように一体化されていてもよい。通信装置106は、プロセッサ101からの指令に従って、通信ネットワークを介して他の装置との間でデータ通信を行う。通信装置106は、例えば、ネットワークインタフェースカード(NIC)又は無線通信モジュールで構成される。
【0022】
図1に示される着桟システム10の各機能的構成要素は、主記憶装置102等のハードウェアに所定のコンピュータプログラムを読み込ませることにより、プロセッサ101の制御のもとで各ハードウェアを動作させるとともに、主記憶装置102及び補助記憶装置103におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0023】
着桟システム10は、機能的構成要素として、表示制御部11と、取得部12と、取得部13と、切替部14と、ライントレース制御部15と、減速制御部16と、方位制御部17と、を備えている。
【0024】
表示制御部11は、各種情報を表示装置105に表示させる機能的構成要素である。表示制御部11は、所定の表示画面を表示させるための表示情報を表示装置105に出力し、表示装置105は表示情報に基づいて所定の表示画面を表示する。表示制御部11は、例えば、ユーザに設定情報を入力させるための画面を表示装置105に表示させる。設定情報は、着桟に関する情報であり、ウェイラインに関する情報及び方位角を含む。ウェイラインに関する情報は、ウェイラインの始点の位置座標及びウェイラインの終点の位置座標を含む。方位角は、船舶の着桟が完了した時の船舶の向き(船首の向き)を表す。方位角は、例えば、北向きと船舶の向きとがなす角度である。方位角は、北を0度として時計回りに正の値を有する。設定情報は、目標速度をさらに含んでもよい。
【0025】
取得部12は、ユーザによって入力された各種情報を取得する機能的構成要素である。取得部12は、例えば、設定情報を取得する。取得部12は、着桟開始指示を取得してもよい。
【0026】
取得部13は、船舶の状態量を取得する機能的構成要素である。船舶の状態量は、船舶の航行状態を示す状態量である。状態量の例としては、船舶の位置情報、進行方向(向き)、前進速度、横速度、及び角速度が挙げられる。取得部13は、外乱情報をさらに取得してもよい。外乱情報は、船舶の航行に影響を及ぼす環境情報である。外乱情報の例としては、風及び潮流に関する情報が挙げられる。
【0027】
切替部14は、船舶の航走モードを切り替える機能的構成要素である。切替部14は、ライントレース制御部15、減速制御部16、及び方位制御部17のそれぞれを所定の条件の下で起動又は停止させることによって、航走モードを切り替える。切替部14は、所定の条件の下で船舶1が着桟完了したことを出力する。
【0028】
ライントレース制御部15は、所定のラインに沿うように船舶を航行させるライントレース制御を行う機能的構成要素である。所定のラインは、ウェイラインを含む。ライントレース制御部15は、例えば、pure pursuitを用いてライントレース制御を行う。
【0029】
減速制御部16は、船舶の前進速度を低下させる減速制御を行う機能的構成要素である。減速制御部16は、船舶の前進速度をゼロに近づける。減速制御部16は、例えば、プロペラ軸を逆回転させることによって減速制御を行う。逆回転の回転数は、一定値でよい。船舶に応じて適切な回転数が設定される。減速制御部16は、バケットを用いて船舶を後進(アスターン)させることによって減速制御を行ってもよい。なお、減速制御部16は、前進速度だけでなく、横速度及び方位角速度をゼロに近づけてもよい。
【0030】
方位制御部17は、船舶を回頭させる方位制御を行う機能的構成要素である。方位制御部17は、船舶の向きが設定情報に含まれる方位角になるように、船舶を回頭させる。船舶を回頭させるとは、その場で船首の向きを変えることを意味する。方位制御部17は、例えば、水面に直交する回転軸の回りに船舶を回転させることによって、船舶を回頭させる。
【0031】
次に、図3図9を参照して、着桟システム10が行う船舶の着桟方法について説明する。図3は、着桟システムが行う着桟方法の一連の処理を示すフローチャートである。図4は、ウェイラインの設定を説明するための図である。図5は、初期位置とウェイラインの始点とを結ぶ線分に沿ったライントレース制御を説明するための図である。図6は、ウェイラインの始点付近における船舶の航行を示す図である。図7は、ウェイラインに沿ったライントレース制御を説明するための図である。図8は、ウェイラインの終点付近における船舶の航行を示す図である。図9は、方位制御を説明するための図である。
【0032】
図3に示される着桟方法の一連の処理は、例えば、ユーザが船舶1の着桟を行うための操作を行ったことによって開始される。まず、表示制御部11が表示装置105に設定画面を表示させる(ステップS1)。設定画面は、設定情報を設定(入力)するための画面である。例えば、図4に示されるように、設定画面は、着桟を開始する時点における船舶1の位置(初期位置Po)と、桟橋等の着桟場所と、を含む地図を表示する。表示制御部11は、例えば、GPS(Global Positioning System)等によって取得された船舶1の位置情報に基づき、設定画面に含める地図を決定してもよい。船舶1の位置情報として、取得部13によって取得された状態量に含まれる船舶1の位置情報が用いられてもよい。設定画面においては、上記地図に進入禁止区域及び障害物が重ね合わせられて表示されてもよい。
【0033】
続いて、取得部12は、設定情報を取得する(ステップS2)。取得部12は、設定画面においてユーザが設定したウェイラインWに関する情報及び方位角θを設定情報として取得する。例えば、ユーザは、ウェイラインWの始点Psと終点Peとを設定画面上で指定することによってウェイラインWを設定する。ユーザは、設定画面上でウェイラインWを描画することにより、ウェイラインWを設定してもよい。ユーザは、例えば、設定画面上で船舶のアイコンを用いて着桟時の船舶1の姿勢を指定することによって、方位角θを設定する。ユーザは、方位角θを直接設定してもよい。ユーザは、設定画面において目標速度をさらに設定してもよく、取得部12は、設定情報として目標速度をさらに取得してもよい。そして、取得部12は、設定情報を切替部14、ライントレース制御部15、及び方位制御部17に出力する。
【0034】
続いて、取得部12は、着桟開始指示を取得したか否かを判定する(ステップS3)。例えば、ユーザが上記設定画面において着桟を開始するための操作を行ったことにより、取得部12は着桟開始指示を取得する。取得部12は、着桟開始指示を取得していないと判定した場合には(ステップS3;NO)、着桟開始指示を取得するまでステップS3を繰り返す。一方、取得部12は、着桟開始指示を取得したと判定した場合(ステップS3;YES)、切替部14に着桟開始指示を出力する。
【0035】
続いて、取得部13は、船舶1の状態量及び外乱情報を取得する(ステップS4)。なお、図3に示される着桟方法の一連の処理が行われている間、取得部13は、船舶1の状態量及び外乱情報を定期的に取得するが、図3では図示を省略している。状態量の取得周期と外乱情報の取得周期とは、同じでもよく、異なっていてもよい。あるいは、取得部13は、各種情報が必要となったタイミングでその情報を取得してもよい。そして、取得部13は、船舶1の状態量及び外乱情報を切替部14、ライントレース制御部15、減速制御部16、及び方位制御部17に出力する。
【0036】
続いて、切替部14は、着桟開始指示及び状態量を受け取ると、船舶1の初期位置PoがウェイラインW上にあるか否かを判定する(ステップS5)。切替部14は、例えば、初期位置PoとウェイラインWとの距離が初期位置Poと始点Psとの距離よりも小さい場合に、初期位置PoがウェイラインW上にあると判定する。
【0037】
ステップS5において、切替部14は、初期位置PoがウェイラインW上にないと判定した場合(ステップS5;NO)、線分Rに沿ったライントレース制御を実施するための指示(実施指示)をライントレース制御部15に出力する。線分Rは、初期位置Poと始点Psとを結ぶ線分である。そして、ライントレース制御部15は、上記実施指示を受け取ると、線分Rに沿ったライントレース制御を行う(ステップS6)。具体的には、図5に示されるように、ライントレース制御部15は、線分Rに沿って、初期位置Poから始点Psに向かって船舶1を航行させる。本実施形態では、前進速度の目標速度が前進速度v1に設定されている。言い換えると、ライントレース制御部15は、前進速度v1を維持させながら、初期位置Poから始点Psに向かって船舶1を航行させている。ライントレース制御部15は、例えば、pure pursuitを用いて、ライントレース制御を実行する。
【0038】
pure pursuitを用いた場合、以下のように、ライントレース制御部15によって、船舶1の操船は行われる。時刻tにおいて船舶1が位置xに存在する場合、ライントレース制御部15は、時刻t+1において、位置xよりも線分R上の僅かに前進した位置xt+1に向けて船舶1を航行させる。ライントレース制御部15は、同様の操船を繰り返すことによって、船舶1が線分Rに沿うように、初期位置Poから始点Psに向かって船舶1を航行させる。pure pursuitでは、船舶1が線分R上から外れても線分R上に戻るように制御されるので、ライントレース制御部15は、外乱情報を用いることなく、船舶1を航行させてもよい。
【0039】
そして、線分Rに沿ったライントレース制御が行われている間、切替部14は、船舶1と始点Psとの間の距離を閾値Dth1と比較し、当該距離が閾値Dth1以下になったか否かを判定する。切替部14は、船舶1の状態量に含まれる船舶1の位置情報及び設定情報に含まれる始点Psの位置情報に基づいて、船舶1と始点Psとの間の距離を算出する。閾値Dth1は、ライントレース制御に用いられるラインを線分RからウェイラインWに切り替えるタイミング(位置)を決定するために用いられる閾値である。閾値Dth1は、前進速度v1に基づいて決定される。
【0040】
例えば、船舶1の旋回半径は前進速度v1及び船舶1の大きさ等に応じて変化し得る。したがって、船舶1の前進速度v1と旋回半径との関係式が予め求められ、関係式が不図示のメモリに記憶されていてもよい。この場合、切替部14は、関係式を用いて前進速度v1から船舶1の旋回半径を算出し、旋回半径に所定の値を加えることによって閾値Dth1を動的に決定する。前進速度v1として、予め定められた固定の前進速度が用いられてもよい。固定の前進速度は、人が着桟操作する際に用いられる前進速度であってもよい。この場合、その前進速度v1に応じて予め定められた閾値Dth1が不図示のメモリに記憶されており、切替部14は、メモリに記憶されている閾値Dth1を用いる。
【0041】
そして、図6に示されるように、船舶1と始点Psとの距離が閾値Dth1以下になったことに応じて、切替部14は、ライントレース制御に用いられるラインを線分RからウェイラインWに切り替えるための指示(切替指示)をライントレース制御部15に出力する。そして、ライントレース制御部15は、上記切替指示を受け取ると、ウェイラインWに沿ったライントレース制御を行う(ステップS7)。これにより、船舶1が線分R上からウェイラインW上に向けて旋回する。その後、船舶1がウェイラインW上に位置すると、図7に示されるように、船舶1は、ウェイラインWに沿って、始点Psから終点Peに向かって航行する。
【0042】
本実施形態では、ウェイラインWに沿ったライントレース制御における前進速度の目標速度は、前進速度v2に設定されている。言い換えると、ライントレース制御部15は、前進速度v2を維持させながら、始点Psから終点Peに向かって船舶1を航行させる。前進速度v2は、前進速度v1よりも小さくてもよく、大きくてもよい。前進速度v2は、前進速度v1と同じでもよい。
【0043】
なお、初期位置PoがウェイラインWの延長線上にある場合、すなわち、ウェイラインWに沿って、初期位置Po、始点Ps、及び終点Peがその順に並んでいる場合、船舶1は、旋回することなく、線分R及びウェイラインWの順に各ラインに沿って航行する。
【0044】
ステップS5において、切替部14は、初期位置PoがウェイラインW上にあると判定した場合(ステップS5;YES)、ウェイラインWに沿ったライントレース制御を実施するための指示(実施指示)をライントレース制御部15に出力する。そして、ライントレース制御部15は、上記実施指示を受け取ると、ウェイラインWに沿ったライントレース制御を行う(ステップS7)。つまり、ライントレース制御部15は、ウェイラインWに沿って、初期位置Poから終点Peに向かって船舶1を航行させる。
【0045】
ウェイラインWに沿ったライントレース制御が行われている間、切替部14は、船舶1と終点Peとの間の距離を閾値Dth2(第1閾値)と比較し、当該距離が閾値Dth2以下になったか否かを判定する。切替部14は、船舶1の状態量に含まれる船舶1の位置情報及び設定情報に含まれる終点Peの位置情報に基づいて、船舶1と終点Peとの間の距離を算出する。閾値Dth2は、減速制御を開始するタイミング(位置)を決定するために用いられる閾値である。閾値Dth2は、前進速度v2に基づいて決定される。一例として、閾値Dth2は、後述のステップS8における減速制御において船舶1が前進する距離(制動距離)と、後述のステップS9における方位制御において船舶1が前進する距離と、船舶1の回頭に用いられる回転軸から船首までの長さとを加えた値以上に設定される。
【0046】
前進速度v2及び船舶1の重量等に応じて、ステップS8,S9における前進距離は変化し得る。したがって、船舶1の前進速度v2とステップS8,S9における前進距離の合算値との関係式が予め求められ、この関係式が不図示のメモリに記憶されていてもよい。この場合、切替部14は、上記関係式を用いて前進速度v2から上記合算値を算出し、合算値に回転軸から船首までの長さと所定の値とを加えることによって閾値Dth2を動的に決定する。前進速度v2として、予め定められた固定の前進速度が用いられてもよい。固定の前進速度は、人が着桟操作する際に用いられる前進速度であってもよい。この場合、その前進速度v2に応じて予め定められた閾値Dth2が不図示のメモリに記憶されており、切替部14は、メモリに記憶されている閾値Dth2を用いる。
【0047】
そして、図8に示されるように、船舶1と終点Peとの間の距離が閾値Dth2以下になったことに応じて、切替部14は、ライントレース制御を停止するための指示(停止指示)をライントレース制御部15に出力するとともに、減速制御を実施するための指示(実施指示)を減速制御部16に出力する。そして、ライントレース制御部15は、上記停止指示を受け取ると、ライントレース制御を停止する。減速制御部16は、上記実施指示を受け取ると、減速制御を行う(ステップS8)。ステップS8では、減速制御部16は、船舶1の前進速度v2を低下させ、前進速度v2をゼロに近づける。このとき、船舶1は横速度成分及び方位角速度成分を有することがあるので、減速制御部16は、前進速度v2だけでなく、横速度及び方位角速度も低下させ、これらの速度成分もゼロに近づける。なお、外乱を考慮する場合には、減速制御部16は、例えば、外乱が船舶1に作用する向きを打ち消すように、エンジンを逆回転させるときの目標回転数を修正する。
【0048】
減速制御が行われている間、切替部14は、船舶1の状態量に含まれる船舶1の前進速度v2を閾値vth(第2閾値)と比較し、前進速度v2が閾値vth以下になったか否かを判定する。閾値vthは、方位制御を開始するタイミングを決定するために用いられる閾値である。閾値vthは、予め定められており、不図示のメモリに記憶されている。一例として、閾値vthは、船舶1が着桟時に桟橋又は岸壁等に衝突しても船舶1に影響(損傷)が生じない程度の値に設定される。
【0049】
そして、船舶1の前進速度v2が閾値vth以下になったことに応じて、切替部14は、減速制御を停止するための指示(停止指示)を減速制御部16に出力するとともに、方位制御を実施するための指示(実施指示)を方位制御部17に出力する。そして、減速制御部16は、上記停止指示を受け取ると、減速制御を停止する。方位制御部17は、上記実施指示を受け取ると、方位制御を行う(ステップS9)。ステップS9では、方位制御部17は、船舶1の向きが設定情報に含まれる方位角θになるように、船舶1を回頭させる。
【0050】
方位制御が行われている間、切替部14は、船舶1の状態量に含まれる船舶1の向き(方位角)と方位角θとの差分を閾値θthと比較し、当該差分が閾値θth以下になったか否かを判定する。閾値θthは、予め定められており、不図示のメモリに記憶されている。一例として、閾値θthは、船舶1を係留するためのロープを桟橋等に受け渡せる程度の角度である。
【0051】
そして、図9に示されるように、船舶1の向きと方位角θとの差が閾値θth以下になったことに応じて、切替部14は、方位制御を停止するための指示(停止指示)を方位制御部17に出力するとともに、着桟完了を示す情報を表示制御部11に出力する。そして、方位制御部17は、上記停止指示を受け取ると、方位制御を停止する。表示制御部11は、着桟完了を示す情報を受け取ると、船舶1の着桟が完了したことを表示装置105に表示させ、ユーザに着桟完了を通知する(ステップS10)。以上により、着桟方法の一連の処理が終了する。
【0052】
以上説明したように、着桟システム10では、ユーザによって入力されたウェイラインWに沿うように、ウェイラインWの始点Psから終点Peに向かって船舶1が航行される。ウェイラインWをユーザに入力させる設定画面が表示装置105に表示され、設定画面において、ウェイラインWがユーザによって設定される。例えば、着桟場所の周辺に、進入禁止区域が設定されていたり、障害物が存在したりすることがある。ユーザは、設定画面上で進入禁止区域及び障害物を確認しながら、これらを避けるようにウェイラインWを設定することができる。このように、ユーザがウェイラインWを着桟システム10に直接入力するので、ウェイラインWを策定するために、着桟システム10は複雑な処理を行う必要が無い。したがって、着桟システム10の処理負荷を軽減することが可能となる。
【0053】
例えば、船舶1の初期位置Poと着桟場所との間に、進入禁止区域等が存在する場合には、初期位置PoからウェイラインWを設定することができない。これに対し、着桟システム10では、ライントレース制御部15は、初期位置PoがウェイラインWとは異なる位置に存在する場合には、初期位置PoからウェイラインWの始点Psに向かって船舶1を航行させる。このため、船舶1の初期位置PoからウェイラインWを設定する必要が無い。したがって、ウェイラインWを設定するための制約条件が緩和されるので、着桟に適したウェイラインWをユーザに設定させることができる。
【0054】
減速制御部16は、ライントレース制御により船舶1の位置から終点Peまでの距離が閾値Dth2以下になったことに応じて、減速制御を行う。このため、ウェイラインWの終点Peに船舶1が近づくと、船舶1が減速される。したがって、船舶1をウェイラインWの終点Peにおいて停止させることができる。
【0055】
船舶1の前進速度v2が大きい場合には、前進速度v2が小さい場合と比較して、船舶1を停止させるまでに要する航行距離が長くなる。上記実施形態においては、前進速度v2が考慮されて閾値Dth2が決定されるので、減速制御を開始するタイミングが前進速度v2に応じて決定される。したがって、より確実に船舶1を終点で停止させることが可能となる。
【0056】
方位制御部17は、減速制御により前進速度v2が閾値vth以下になったことに応じて、船舶1の向きが方位角θになるように、船舶1を回頭させる。したがって、ウェイラインWの終点Peにおいて、船舶1の向きを方位角θに合わせることが可能となる。
【0057】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。
【0058】
上記実施形態では、前進速度v1及び前進速度v2のそれぞれは、一定速度であるが、船舶1が航行するにつれて変更されてもよい。例えば、前進速度v1は、線分Rに沿ったライントレース制御の開始時には高い速度に設定され、船舶1が前進する(始点Psに近づく)につれて低下されてもよい。同様に、前進速度v2は、ウェイラインWに沿ったライントレース制御の開始時には高い速度に設定され、船舶1が前進する(終点Peに近づく)につれて低下されてもよい。この構成によれば、着桟に要する時間を短縮することが可能となる。
【0059】
着桟システム10は、減速制御部16を備えていなくてもよい。ユーザは、ウェイラインWの終点Peから船舶1が惰性で着桟するように、ウェイラインW及び目標速度を設定してもよい。この構成では、着桟システム10は、減速制御を行う必要が無いので、処理負荷をさらに軽減することが可能となる。
【0060】
着桟システム10は、方位制御部17を備えていなくてもよい。この場合、ユーザは、設定画面において、方位角θを入力しなくてもよい。この構成では、着桟システム10は、方位制御を行う必要がないので、処理負荷をさらに軽減することが可能となる。
【0061】
ライントレース制御部15は、外乱が船舶1に作用する向きを打ち消すように目標速度及び目標角度を修正してもよい。目標角度の修正方法の一例を以下に説明する。
【0062】
ライントレース制御部15は、船舶1の位置が目標位置(ここでは、線分R)に対して予め定められた所定範囲内であるか範囲外であるかに応じて、目標角度を修正する。具体的に説明すると、ライントレース制御部15は、船舶1の位置が上記範囲外である場合には、船舶1の現在位置が横方向(線分Rと直交する方向)において線分Rからずれているずれ量ΔPと、船舶1の横速度vと、を算出する。そして、ライントレース制御部15は、式(1)を用いて、修正角度Δφを算出する。なお、定数A,Bは予め定められている。目標角度の急変を避けるために、修正角度Δφの上限値は5度に設定されており、下限値は-5度に設定されている。
【数1】
【0063】
そして、ライントレース制御部15は、所定の実行条件を満たす場合に、時刻tにおける目標角度φ(t)に修正角度Δφを加算することによって、時刻t+1における目標角度φ(t+1)を算出する。
【0064】
一方、ライントレース制御部15は、船舶1の位置が上記範囲内である場合には、船舶1が風及び潮流から受ける横力及びモーメントをそれぞれ算出する。例えば、ライントレース制御部15は、風速、風向、及び船舶1の船首の方位から、船舶1が受ける横力及びモーメントを算出する。同様に、ライントレース制御部15は、潮流速、潮流向、及び船舶1の船首の方位から、船舶1が受ける横力及びモーメントを算出する。そして、ライントレース制御部15は、風のモーメントと潮流のモーメントとの加算値を船舶1の重心から舵軸までの距離で除算して、風及び潮流のもとで方位を制御するときに発生する横力を算出する。そして、ライントレース制御部15は、風の横力、潮流の横力、及びモーメントから求められた横力の総和がゼロになる(相殺される)方位を目標方位として算出する。
【0065】
ライントレース制御部15は、pure pursuitに代えて、MPC(Model Predictive Control)を用いて、ライントレース制御を実行してもよい。MPCは、船舶1の運動モデルに基づいて船舶1の軌道を予測しながら、船舶1の航行を制御する手法である。図10を参照して、MPCを説明する。図10は、MPCを用いたライントレース制御を説明するための図である。図10に示される例では、船舶1は、時刻tにおいて、線分R上とは異なる位置xに存在する。
【0066】
まず、ライントレース制御部15は、船舶1の運動モデルを用いて、制御入力ut+k(kは0~4)を入力した場合の船舶1の軌道を予測する。制御入力ut+kとしては、舵角、及びエンジンの回転数等が用いられる。具体的には、船舶1の運動モデルに、時刻tにおける船舶1の位置x及び制御入力uを入力することで、時刻t+1における船舶1の位置xt+1が算出される。同様にして、時刻t+2~t+5における船舶1の位置xt+2~xt+5が算出される。これにより、予測軌道L1が得られる。
【0067】
そして、ライントレース制御部15は、評価関数及び制約関数を用いて、予測軌道L1が最適な軌道であるかどうかを評価する。制約関数としては、例えば、障害物を回避するための制約関数、及び船舶1のハードウェア(エンジン出力及び舵角等)の使用可能範囲を規定する制約関数が用いられる。ライントレース制御部15は、予測軌道L1が最適でなければ、制御入力ut+kを僅かに変更して、新たな制御入力ut+kを入力した場合の船舶1の軌道を再度予測する。
【0068】
以上の処理を繰り返すことによって、最適な予測軌道L2が得られる。そして、ライントレース制御部15は、予測軌道L2を得るために用いられた制御入力ut+kを、船舶1の実際の制御に用いる制御入力とする。
【0069】
MPCを用いることによって、制約条件を満たすように、船舶1を航行させることができる。例えば、障害物を回避するための制約関数が用いられる場合には、障害物を回避しながらライントレース制御を実施することができる。さらに、外乱モデルが用いられることによって、外乱を考慮したライントレース制御を実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 船舶
10 着桟システム
11 表示制御部
12 取得部
15 ライントレース制御部
16 減速制御部
17 方位制御部
105 表示装置
Pe 終点
Ps 始点
W ウェイライン
θ 方位角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10