(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133887
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039129
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 隆樹
(72)【発明者】
【氏名】南百▲瀬▼ 勇
【テーマコード(参考)】
3C100
【Fターム(参考)】
3C100AA29
3C100AA38
3C100AA52
3C100AA56
3C100AA57
3C100AA70
3C100BB11
3C100BB27
(57)【要約】
【課題】品質の安定した製品の生産の維持が可能な制御方法を提供する。
【解決手段】制御方法は、複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる予測モデルを取得するステップと、製品ごとに、複数の説明変数の計測値を予測モデルに入力することにより目的変数の予測値を計算するステップと、予測値が管理範囲から外れたことに応じて、複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択するステップと、目的変数の値が管理範囲の中心に近づくように調整対象の説明変数の調整量を決定するステップと、を備える。複数の説明変数は、SN比に基づいて、第1グループと第1グループよりも目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割される。調整対象の説明変数は、第1グループから選択される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工程を含む生産ラインを制御する制御装置であって、
前記生産ラインの動作に関する複数の説明変数の値と前記生産ラインによって生産される製品の品質に関する目的変数の値とを示す複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる予測モデルを取得する取得部を備え、
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々について、前記目的変数の値の予測精度を表すSN比を含み、
前記制御装置は、さらに、
前記生産ラインから前記複数の説明変数の計測値を収集する収集部と、
製品ごとに、前記複数の説明変数の前記計測値を前記予測モデルに入力することにより前記目的変数の予測値を計算する予測部と、
前記予測値が管理範囲から外れたことに応じて、前記複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択する選択部と、
前記目的変数の値が前記管理範囲の中心に近づくように前記調整対象の説明変数の調整量を決定する決定部と、
前記調整対象の説明変数の値を前記調整量だけ変化させるように前記生産ラインを制御する制御部と、を備え、
前記選択部は、前記SN比に基づいて、前記複数の説明変数を第1グループと前記第1グループよりも前記目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割し、前記第1グループに属する説明変数の中から前記調整対象の説明変数を選択する、制御装置。
【請求項2】
前記選択部は、
前記第1グループに属する各説明変数について、当該説明変数の変動の度合いを計算し、
前記変動の度合いの最も大きい第1説明変数を前記調整対象の説明変数として選択する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記決定部は、
前記第1説明変数の基準値から前記第1説明変数の前記計測値を差し引いた量を前記第1説明変数の前記調整量として決定する、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記選択部は、
前記第1グループに属する各説明変数について、当該説明変数の変動の度合いを計算し、
前記第1グループに属する説明変数のうち、前記変動の度合いの最も大きい第1説明変数に対応する第1工程よりも後の第2工程に対応する第2説明変数を前記調整対象の説明変数として選択する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々の前記計測値に当該説明変数に対応する係数を乗じた値の和を用いて前記予測値を予測し、
前記決定部は、
前記予測値から前記目的変数の基準値を差し引いた値を前記第2説明変数に対応する前記係数で割った商を前記第2説明変数の前記調整量として決定する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々の前記計測値に当該説明変数に対応する係数を乗じた値の和を用いて前記予測値を予測し、
前記決定部は、
前記予測値から前記目的変数の基準値を差し引いた値を前記第2説明変数に対応する前記係数で割った商を前記第2説明変数の前記調整量の初期値として決定し、
前記第1工程から前記第2工程までの間で滞留している前記製品についての前記第1説明変数の変動の傾向に基づいて、補正量を計算し、
前記製品ごとに前記調整量を前記補正量だけ補正する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項7】
前記決定部は、前記予測値が予測された製品についての前記第1説明変数の前記計測値から前記第1説明変数の基準値を差し引いた第1変動量と、最新の製品についての前記第1説明変数の前記計測値から前記第1説明変数の基準値を差し引いた第2変動量と、前記初期値と、前記第1工程から前記第2工程までの間で滞留している前記製品の個数とを、
{(第2変動量-第1変動量)/第1変動量}×初期値/個数
に代入することにより、前記補正量を計算する、請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
複数の工程を含む生産ラインを制御する制御方法であって、
前記生産ラインの動作に関する複数の説明変数の値と前記生産ラインによって生産される製品の品質に関する目的変数の値とを示す複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる予測モデルを取得するステップを備え、
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々について、前記目的変数の値の予測精度を表すSN比を含み、
前記制御方法は、さらに、
前記生産ラインから前記複数の説明変数の計測値を収集するステップと、
製品ごとに、前記複数の説明変数の前記計測値を前記予測モデルに入力することにより前記目的変数の予測値を計算するステップと、
前記予測値が管理範囲から外れたことに応じて、前記複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択するステップと、
前記目的変数の値が前記管理範囲の中心に近づくように前記調整対象の説明変数の調整量を決定するステップと、
前記調整対象の説明変数の値を前記調整量だけ変化させるように前記生産ラインを制御するステップと、を備え、
前記選択するステップは、前記SN比に基づいて、前記複数の説明変数を第1グループと前記第1グループよりも前記目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割し、前記第1グループに属する説明変数の中から前記調整対象の説明変数を選択するステップを含む、制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の制御方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
「加納学、「多変量統計的プロセス管理」、[online]、2005年6月、[2022年1月4日検索]、インターネット<http://manabukano.brilliant-future.net/research/report/Report2005_MSPC.pdf>」(非特許文献1)は、生産ラインの運転状態を監視する技術を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】加納学、「多変量統計的プロセス管理」、[online]、2005年6月、[2022年1月4日検索]、インターネット<http://manabukano.brilliant-future.net/research/report/Report2005_MSPC.pdf>
【非特許文献2】田村希志臣、「第5回方向判定のできるMTシステム-TS法,T法」、標準化と品質管理、2009年、Vol.62、No.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生産ラインの運転状態は、生産ラインによって生産される製品の品質を決める。非特許文献1に開示の技術によれば、生産ラインの運転状態の異常が検出されたとき、当該異常を正常に戻すための処理が実行される。しかしながら、従来、当該異常を正常に戻すための処理には、人による分析などの手間がかかっていた。そのため、品質の安定した製品の生産の維持が困難であった。
【0005】
本開示は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、品質の安定した製品の生産の維持が可能な制御装置、制御方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例によれば、複数の工程を含む生産ラインを制御する制御装置は、取得部と、収集部と、予測部と、選択部と、決定部と、制御部と、を備える。取得部は、生産ラインの動作に関する複数の説明変数の値と生産ラインによって生産される製品の品質に関する目的変数の値とを示す複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる予測モデルを取得する。予測モデルは、複数の説明変数の各々について、目的変数の値の予測精度を表すSN比を含む。収集部は、生産ラインから複数の説明変数の計測値を収集する。予測部は、製品ごとに、複数の説明変数の計測値を予測モデルに入力することにより目的変数の予測値を計算する。選択部は、予測値が管理範囲から外れたことに応じて、複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択する。決定部は、目的変数の値が管理範囲の中心に近づくように調整対象の説明変数の調整量を決定する。制御部は、調整対象の説明変数の値を調整量だけ変化させるように生産ラインを制御する。選択部は、SN比に基づいて、複数の説明変数を第1グループと第1グループよりも目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割し、第1グループに属する説明変数の中から調整対象の説明変数を選択する。
【0007】
この開示によれば、複数の説明変数の計測値から目的変数の値が予測される。予測値が管理範囲を外れたことに応じて、目的変数への影響度が相対的に大きい第1グループの中から調整対象の説明変数が選択される。そして、目的変数の値が管理範囲の中心に近づくように調整対象の説明変数の調整量が決定され、調整対象の説明変数の値を調整量だけ変化させるように生産ラインが制御される。これにより、生産される不良製品の個数が削減され、品質の安定した製品の生産が維持される。
【0008】
上述の開示において、選択部は、第1グループに属する各説明変数について、当該説明変数の変動の度合いを計算し、変動の度合いの最も大きい第1説明変数を調整対象の説明変数として選択する。
【0009】
上記の開示によれば、変動の度合いの最も大きい第1説明変数は、目的変数の変動の原因と考えられる。そのため、第1説明変数を調整対象として選択することにより、目的変数の変動を抑制できる。
【0010】
上述の開示において、決定部は、第1説明変数の基準値から第1説明変数の計測値を差し引いた量を第1説明変数の調整量として決定する。
【0011】
上記の開示によれば、第1説明変数の値を基準値に戻すことができる。その結果、目的変数の変動が抑制される。
【0012】
上述の開示において、選択部は、第1グループに属する各説明変数について、当該説明変数の変動の度合いを計算する。選択部は、第1グループに属する説明変数のうち、変動の度合いの最も大きい第1説明変数に対応する第1工程よりも後の第2工程に対応する第2説明変数を調整対象の説明変数として選択する。
【0013】
上記の開示によれば、第1説明変数の変動に起因する目的変数の変動を、第2説明変数の値を調整することにより打ち消すことができる。その結果、目的変数の変動が抑制される。
【0014】
上述の開示において、予測モデルは、複数の説明変数の各々の計測値に当該説明変数に対応する係数を乗じた値の和を用いて予測値を予測する。決定部は、予測値から目的変数の基準値を差し引いた値を第2説明変数に対応する係数で割った商を第2説明変数の調整量として決定する。
【0015】
上記の開示によれば、予測モデルを用いて、第2説明変数の調整量を容易に決定できる。
【0016】
上述の開示において、予測モデルは、複数の説明変数の各々の計測値に当該説明変数に対応する係数を乗じた値の和を用いて予測値を予測する。決定部は、予測値から目的変数の基準値を差し引いた値を第2説明変数に対応する係数で割った商を第2説明変数の調整量の初期値として決定する。決定部は、第1工程から第2工程までの間で滞留している製品についての第1説明変数の変動の傾向に基づいて、補正量を計算し、製品ごとに調整量を補正量だけ補正する。
【0017】
例えば、決定部は、予測値が予測された製品についての第1説明変数の計測値から第1説明変数の基準値を差し引いた第1変動量と、最新の製品についての第1説明変数の計測値から第1説明変数の基準値を差し引いた第2変動量と、初期値と、第1工程から第2工程までの間で滞留している製品の個数とを、
{(第2変動量-第1変動量)/第1変動量}×初期値/個数
に代入することにより、補正量を計算する。
【0018】
上記の開示によれば、第1工程から第2工程までの間で滞留している製品についても、目的変数の変動を抑制できる。
【0019】
本開示の別の例によれば、複数の工程を含む生産ラインを制御する制御方法は、第1~第6のステップを備える。第1のステップは、生産ラインの動作に関する複数の説明変数の値と生産ラインによって生産される製品の品質に関する目的変数の値とを示す複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる予測モデルを取得するステップである。予測モデルは、複数の説明変数の各々について、目的変数の値の予測精度を表すSN比を含む。第2のステップは、生産ラインから複数の説明変数の計測値を収集するステップである。第3のステップは、製品ごとに、複数の説明変数の計測値を予測モデルに入力することにより目的変数の予測値を計算するステップである。第4のステップは、予測値が管理範囲から外れたことに応じて、複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択するステップである。第5のステップは、目的変数の値が管理範囲の中心に近づくように調整対象の説明変数の調整量を決定するステップである。第6のステップは、調整対象の説明変数の値を調整量だけ変化させるように生産ラインを制御するステップである。第4のステップは、SN比に基づいて、複数の説明変数を第1グループと第1グループよりも目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割し、第1グループに属する説明変数の中から調整対象の説明変数を選択するステップを含む。
【0020】
本開示の別の例によれば、プログラムは、上記の制御方法をコンピュータに実行させる。これらの開示によっても、品質の安定した製品の生産が維持される。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、品質の安定した製品の生産が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係る制御方法の流れを示す概略図である。
【
図2】本実施の形態に係る制御装置を含むシステムの具体例を示す図である。
【
図3】本実施の形態に係る制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図4】本実施の形態に係る制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図5】予測部によって予測される目的変数の値の推移の一例を示す図である。
【
図6】調整対象の説明変数の選択方法を説明する図である。
【
図7】学習フェーズにおける制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】運用フェーズにおける制御装置の第1の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】運用フェーズにおける制御装置の第2の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】運用フェーズにおける制御装置の第3の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】
図8に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの例を示す図である。
【
図12】
図9に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの第1の例の第1タイミングを示す図である。
【
図13】
図9に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの第1の例の第2タイミングを示す図である。
【
図14】
図9に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの第2の例の第1タイミングを示す図である。
【
図15】
図10に示すフローチャートに従ってフィードバック制御およびフィードフォワード制御が実行されるときの例の第1タイミングを示す図である。
【
図16】
図10に示すフローチャートに従ってフィードバック制御およびフィードフォワード制御が実行されるときの例の第2タイミングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0024】
§1 適用例
図1を参照して、本発明が適用される場面の一例について説明する。
図1は、実施の形態に係る制御方法の流れを示す概略図である。
図1には、製品を生産する生産ライン300を制御する制御方法の流れが示される。
図1に示す制御方法は、1以上のプロセッサによって実行される。1以上のプロセッサは、1つの制御装置に組み込まれてもよいし、互いに通信可能な複数の制御装置に分散して配置されてもよい。
【0025】
生産ライン300は、複数の工程を含む。
図1に示す生産ライン300は、第1~第4工程を含む。第1~第4工程の各々には各種の機器が設置され、当該各種の機器を用いて製品が生産される。第1工程では、第1工程に属する機器の動作に関する説明変数a1,a2,・・・の値が収集される。第2工程では、第2工程に属する機器の動作に関する説明変数b1,b2,・・・の値が収集される。第3工程でも同様に、第3工程に属する機器の動作に関する変数の値が収集される。第4工程は、最終工程である。第4工程では、生産された製品の品質に関する目的変数の値が収集される。
【0026】
第4工程において目的変数の値が収集されることにより、製品の良否が判断される。ある製品が不良である場合、当該製品と同一の条件で生産された製品も不良となる確率が高い。1つの製品が第1工程から第4工程を経るには所定時間を要する。そのため、第4工程において、ある製品が不良であると判断された場合、第1工程から第4工程に滞留している複数の製品の中に不良の製品が含まれる可能性が高くなる。
【0027】
本実施の形態に係る制御方法は、生産される不良製品の個数をなるべく減らし、品質の安定した製品の生産が維持されるように、ステップ(1)~(6)を備える。
図1に示されるように、制御方法は、学習フェーズと、運用フェーズとを含む。学習フェーズが実行された後に、運用フェーズが実行される。ステップ(1)は、学習フェーズにおいて実行される。ステップ(2)~(6)は、運用フェーズにおいて実行される。
【0028】
ステップ(1)は、予測モデルを取得するステップである。予測モデルは、生産ライン300の動作に関する複数の説明変数の値と生産ライン300によって生産される製品の品質に関する目的変数の値とを示す複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる。T法は、統計学者の田口玄一氏によって提供された多変量解析手法の1つであり、複数の説明変数の値から1つの目的変数の値を予測する手法である(非特許文献2参照)。
図1に示す例では、サンプルデータセットは、第1工程および第2工程に設置される1以上の機器の動作に関する説明変数a1,a2,・・・,b1,b2,・・・の値と目的変数dの値とを示す。そのため、予測モデルを用いることにより、第2工程が完了した製品について、目的変数の値を予測できる。
【0029】
T法のデータ処理は、説明変数ごとに単回帰を行ない、説明変数ごとに加重平均を行なうことにより目的変数の予測値を算出する予測モデルを生成する。T法のデータ処理によって得られる予測モデルは、以下の式(1)によって表される。
【0030】
【0031】
式(1)において、Xijは、i番目の製品に関する、j番目の説明変数の規準化処理後の値である。規準化処理は、サンプルデータセットによって示される変数の値の平均値を差し引く処理である。ηjは、j番目の説明変数のSN比を示す。SN比ηjは、j番目の説明変数の値と目的変数の値との間の線形性を示し、目的変数の値の予測精度を表す。βjは、単回帰の比例定数を示す。Miは、i番目の製品の目的変数の規準化処理後の予測値である。
【0032】
ステップ(2)は、生産ライン300の第1工程および第2工程から説明変数a1,a2,・・・,b1,b2,・・・の計測値を取得するステップである。
【0033】
ステップ(3)は、製品ごとに、説明変数a1,a2,・・・,b1,b2,・・・の計測値を予測モデルに入力することにより目的変数dの予測値を計算するステップである。上記式(1)において、Miは、i番目の製品の目的変数の規準化処理後の予測値である。そのため、説明変数a1,a2,・・・,b1,b2,・・・の計測値を予測モデルに入力することにより得られたMiの値とサンプルデータセットによって示される目的変数の値の平均値とを加算することにより、目的変数dの予測値が計算される。
【0034】
ステップ(4)は、目的変数dの予測値が管理範囲から外れたことに応じて、説明変数a1,a2,・・・,b1,b2,・・・の中から調整対象の説明変数を選択するステップである。ステップ(4)において、SN比に基づいて、説明変数a1,a2,・・・,b1,b2,・・・は、第1グループと第1グループよりも目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割される。そして、第1グループに属する説明変数の中から調整対象の説明変数が選択される。
図1に示す例では、説明変数b2が調整対象として選択されている。
【0035】
ステップ(5)は、目的変数dの値が管理範囲の中心に近づくように調整対象の説明変数の調整量を決定するステップである。
【0036】
ステップ(6)は、調整対象の説明変数の値を調整量だけ変化させるように生産ラインを制御するステップである。説明変数b2が調整対象として選択された場合、第2工程の機器が制御される。
【0037】
本実施の形態によれば、複数の説明変数の計測値から目的変数の値が予測される。予測値が管理範囲を外れたことに応じて、目的変数への影響度が相対的に大きい第1グループの中から調整対象の説明変数が選択される。そして、目的変数の値が管理範囲の中心に近づくように調整対象の説明変数の調整量が決定され、調整対象の説明変数の値を調整量だけ変化させるように生産ラインが制御される。これにより、生産される不良製品の個数が削減され、品質の安定した製品の生産が維持される。
【0038】
§2 具体例
<システム構成>
図2は、本実施の形態に係る制御装置を含むシステムの具体例を示す図である。
図2に示されるように、システム1は、制御装置100と、HMI(Human Machine Interface)200と、生産ライン300と、を含む。制御装置100とHMI200とは、情報系ネットワーク6を介して通信可能に接続される。制御装置100と生産ライン300に含まれる1以上の機器とは、制御系ネットワーク4を介して通信可能に接続される。
【0039】
制御装置100は、典型的にはPLC(Programmable Logic Controller)であり、生産ライン300に含まれる1以上の機器を制御する。
【0040】
HMI200は、ユーザに対して情報を提示する機能、および、ユーザからの操作を受け付ける機能を含む。本実施の形態では、HMI200は、制御装置100によって監視される目的変数の予測値の経時変化などをユーザに提供する。
【0041】
生産ライン300は、製品を生産するための1以上の機器を含む。
図2に例示される生産ライン300は、塗料が塗布された金属プレート400を生産する。生産ライン300は、塗料準備工程310と、塗装工程320と、乾燥工程330と、検査工程340と、を含む。
【0042】
塗料準備工程310に設置される機器は、原料投入機311と、攪拌機312と、塗料保管器313と、を含む。原料投入機311は、塗料の原料(顔料、樹脂、添加剤、溶剤など)を容器に投入する機器である。攪拌機312は、容器内の原料を撹拌し、混合する。塗料保管器313は、塗料の粘度を所定範囲内に維持するために、適切な温度(塗料保管温度)で塗料を収容する。塗料準備工程310に設置される機器の動作に関連する説明変数は、塗料希釈率、撹拌速度、塗料保管温度を含む。
【0043】
塗装工程320に設置される機器は、塗布装置321と、ベルトコンベア322と、を含む。塗布装置321は、圧縮空気を利用して、塗料保管器313から供給される塗料を、ベルトコンベア322によって搬送されている金属プレート400上に吹き付ける。塗装工程320に設置される機器の動作に関連する説明変数は、ベルトコンベア322による金属プレート400の送り速さ、圧縮空気の圧力(エア圧)、塗布装置321からの塗料の吐出量、塗布装置321と金属プレート400との間の距離(吹付距離)、塗布装置321の周辺の室温を含む。
【0044】
乾燥工程330に設置される機器は、乾燥機331と、ベルトコンベア332と、を含む。乾燥機331は、ベルトコンベア332によって搬送されている金属プレート400を加熱することにより、金属プレート400上の塗料を乾燥させる。乾燥工程330に設置される機器の動作に関連する説明変数は、ベルトコンベア332による金属プレート400の送り速さ、乾燥温度を含む。
【0045】
塗料準備工程310、塗装工程320および乾燥工程330に設置される機器の動作に関する説明変数の値は、制御装置100によって収集される。なお、説明変数の値は、機器に含まれるセンサによって計測されてもよいし、制御装置100から機器に出力されるデータ(指令値など)に基づいて算出されてもよい。
【0046】
検査工程340は、金属プレート400の塗装膜厚を測定する工程である。塗装膜厚は、作業者によって測定されてもよいし、膜厚測定機を用いて自動的に測定されてもよい。検査工程340において測定される塗装膜厚は、生産ライン300によって生産される製品の品質を示す目的変数に対応する。
【0047】
<制御装置のハードウェア構成>
図3は、本実施の形態に係る制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図3に示されるように、制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)などのプロセッサ102と、チップセット104と、主メモリ106と、ストレージ110と、制御系ネットワークコントローラ120と、情報系ネットワークコントローラ122と、USBコントローラ124と、メモリカードインターフェイス126とを含む。
【0048】
プロセッサ102は、ストレージ110に格納された各種プログラムを読み出して、主メモリ106に展開して実行することで、制御対象を制御するための制御演算を実現する。チップセット104は、プロセッサ102と各コンポーネントとのデータ伝送などを制御する。
【0049】
ストレージ110には、基本的な処理を実現するためのシステムプログラム112と、制御演算を実現するためのユーザプログラム114と、生産ライン300に含まれる1以上の機器の動作状態を監視するための監視プログラム116と、が格納される。
【0050】
制御系ネットワークコントローラ120は、制御系ネットワーク4を介した機器とのデータのやり取りを制御する。
【0051】
情報系ネットワークコントローラ122は、情報系ネットワーク6を介したHMI100などとのデータのやり取りを制御する。
【0052】
USBコントローラ124は、USB接続を介した外部装置(例えば、サポート装置)とのデータのやり取りを制御する。
【0053】
メモリカードインターフェイス126は、メモリカード128を着脱可能に構成されており、メモリカード128に対してデータを書き込み、メモリカード128から各種データ(ユーザプログラムなど)を読み出すことが可能になっている。
【0054】
図3には、プロセッサ102がプログラムを実行することで必要な処理が提供される構成例を示したが、これらの提供される処理の一部または全部を、専用のハードウェア回路(例えば、ASICまたはFPGAなど)を用いて実装してもよい。あるいは、制御装置100の主要部を、汎用的なアーキテクチャに従うハードウェア(例えば、汎用パソコンをベースとした産業用パソコン)を用いて実現してもよい。この場合には、仮想化技術を用いて、用途の異なる複数のOSを並列的に実行させるとともに、各OS上で必要なアプリケーションを実行させるようにしてもよい。
【0055】
<制御装置の機能構成>
図4は、本実施の形態に係る制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
図4に示されるように、制御装置100は、IO処理部10と、制御演算部11と、解析部12と、予測部13と、選択部14と、決定部15と、を備える。IO処理部10および制御演算部11は、プロセッサ102がユーザプログラム114を実行することにより実現される。解析部12、予測部13、選択部14、および決定部15は、プロセッサ102が監視プログラム116を実行することにより実現される。
【0056】
IO処理部10は、収集処理および出力処理を実行する。収集処理は、生産ライン300に含まれる1以上の機器からデータを収集する処理である。出力処理は、制御演算部11の処理によって得られるデータを、生産ライン300に含まれる1以上の機器に出力する処理である。
【0057】
収集処理によって収集されるデータは、生産ライン300に含まれる1以上の機器の動作に関する複数の説明変数(塗装希釈率,撹拌速度,塗料保管温度,送り速さ(塗装工程),エア圧,室温,吐出量,吹付距離,送り速さ(乾燥工程),乾燥温度))の計測値を示すデータを含む。さらに、収集処理によって収集されるデータは、生産ライン300によって生産される製品の品質を示す目的変数(塗装膜厚)の計測値を示すデータを含む。データは、変数の計測値と製品個体を識別するワークIDとを示す。ワークIDは、例えば通し番号である。
【0058】
IO処理部10は、生産ライン300の各工程から最新のデータを一定周期ごとに収集する。生産ライン300の各工程および工程間において、一定個数の製品が滞留する。そのため、IO処理部10は、例えば、ワークID「2200」の製品についての説明変数「塗料保管温度」の計測値のデータと、ワークID「2000」の製品についての説明変数「送り速さ(塗装工程)」の計測値のデータとを、同一の周期で収集する。IO処理部10によって収集されたデータは蓄積される。
【0059】
制御演算部11は、収集処理によって収集されるデータを用いて、生産ライン300に含まれる1以上の機器を制御するための演算を行なう。制御演算部11は、決定部15から調整量を受けると、選択部14によって選択された調整対象の説明変数の値を当該調整量だけ変化させるように、当該説明変数に対応する機器の操作量を演算する。演算された操作量が機器に出力されることにより、調整対象の説明変数の値が調整量だけ変化する。
【0060】
解析部12は、学習フェーズのときにIO処理部10によって収集されたデータに対して多変量解析を実行する。学習フェーズは、例えば、量産実験の期間、あるいは、量産開始直後の一定期間である。解析部12は、学習フェーズの間にIO処理部10によって収集されたデータ群の中から、製品ごとのサンプルデータセットを抽出する。サンプルデータセットは、対応する製品のワークIDを示すデータと、複数の説明変数の各々の値を示すデータと、目的変数(塗装膜厚)の値を示すデータとを含む。
【0061】
本実施の形態では、サンプルデータセットは、塗料準備工程310から収集される説明変数「塗料希釈率」,「撹拌速度」,「塗料保管温度」、塗装工程320から収集される説明変数「送り速さ(塗装工程)」,「エア圧」,「吐出量」,「吹付距離」,「室温」、および検査工程340から収集される目的変数「塗装膜厚」の各々の値を示すデータを含む。サンプルデータセットには、乾燥工程330から収集される説明変数「送り速さ(乾燥工程)」,「乾燥温度」の各々の値を示すデータが含まれない。
【0062】
解析部12は、複数の製品に対応する複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行する。具体的には、解析部12は、以下の手順(1)~(4)に従って、データ処理を実行する。
【0063】
手順(1):説明変数ごとに、複数のサンプルデータセットによって示される値の平均値を算出する。同様に、目的変数についても、複数のサンプルデータセットによって示される値の平均値を算出する。
【0064】
手順(2):複数のサンプルデータセットによって示される値の規準化処理を実行する。すなわち、各変数について、複数のサンプルデータセットによって示される値から当該変数の平均値を差し引く。
【0065】
手順(3):各説明変数について、当該説明変数の規準化処理後の値と目的変数の規準化処理後の値との関係から、比例定数βとSN比ηとを算出する。規準化処理後の説明変数と目的変数とは、ゼロ点比例の関係を有する。ゼロ点比例の関係とは、原点ゼロを通る直線関係を意味する。比例定数βは、当該直線関係の傾きを示す。SN比ηは、ゼロ点比例の関係に対して、データのばらつきの程度の逆数である。
【0066】
手順(4):各説明変数について算出した比例定数βおよびSB比ηを用いて、目的変数の値を予測するため予測モデルを決定する。すなわち、上記の式(1)を決定する。
【0067】
予測部13は、運用フェーズのときにIO処理部10によって収集されたデータを用いて、製品ごとに目的変数の値を予測する。具体的には、予測部13は、同一のワークIDに対応する説明変数「塗料希釈率」,「撹拌速度」,「塗料保管温度」,「送り速さ(塗装工程)」,「エア圧」,「吐出量」,「吹付距離」,「室温」の計測値を予測モデルに入力することにより、目的変数「塗装膜厚」の予測値を算出する。
【0068】
図5は、予測部によって予測される目的変数の値の推移の一例を示す図である。
図5に示されるように、製品ごとに目的変数の値が予測される。予測部13は、
図5に示すような目的変数の予測値の推移を示すグラフをHMI200に提供してもよい。
【0069】
選択部14は、目的変数の予測値が管理範囲から外れたことに応じて、複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択する。管理範囲は、製品に要求される品質に応じて予め定められる。選択部14は、ある製品に対応する予測値が管理範囲から外れたことに応じて調整対象の説明変数を選択してもよい。あるいは、選択部14は、連続する所定個数の製品に対応する予測値の平均が管理範囲から外れたことに応じて調整対象の説明変数を選択してもよい。
図5に示す例では、選択部14は、連続する所定個数の製品に対応する予測値の平均が管理範囲から外れたタイミングT1において、調整対象の説明変数を選択する。
【0070】
図6は、調整対象の説明変数の選択方法を説明する図である。選択部14は、各説明変数のSN比ηに基づいて、複数の説明変数を第1グループと第1グループよりも目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割する。例えば、選択部14は、SN比ηが大きい上位所定数の説明変数を第1グループとし、残りの説明変数を第2グループとする。あるは、選択部14は、SN比ηが閾値よりも大きい説明変数を第1グループとし、SN比ηが閾値以下の説明変数を第2グループとしてもよい。
図6に示す例では、SN比の大きい上位4つの説明変数「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」,「撹拌速度」,「塗料保管温度」が第1グループに属する。
【0071】
あるいは、選択部14は、SN比ηに加えて比例定数βも考慮して、複数の説明変数を第1グループと第2グループとに分割してもよい。例えば、選択部14は、SN比ηに比例定数βの絶対値に応じた係数を乗じた値が大きい上位所定数の説明変数を第1グループとし、残りの説明変数を第2グループとする。あるは、選択部14は、SN比ηが第1閾値よりも大きく、かつ、比例定数βの絶対値が第2閾値よりも大きい説明変数を第1グループとし、SN比ηが閾値以下の説明変数を第2グループとしてもよい。
【0072】
選択部14は、第1グループに属する各説明変数について、計測値の推移に基づいて、当該説明変数の変動の度合いを計算する。例えば、選択部14は、計測値と基準値との差分を管理範囲の幅(下限値と上限値との差)で割った値を変動の度合いとして計算する。選択部14は、算出された変動の度合いに基づいて、調整対象の説明変数を選択する。
【0073】
変動の度合いが大きい説明変数は、目的変数の予測値が管理範囲から外れる原因と考えられる。そのため、選択部14は、変動の度合いが最も大きい第1説明変数を調整対象の説明変数として選択してもよい。この場合、第1説明変数の値を調整することにより、目的変数の値の変動を直接的に抑えることができる。すなわち、第1説明変数の値を調整する制御は、フィードバック制御に対応する。
【0074】
あるいは、選択部14は、第1グループに属する説明変数のうち、第1説明変数に対応する工程よりも後の工程に対応する第2説明変数を調整対象の説明変数として選択してもよい。この場合、第1説明変数の値の変動に起因する目的変数の値の変動を、第2説明変数の値を調整することにより打ち消すことができる。すなわち、第2説明変数の値を調整する制御は、フィードフォワード制御に対応する。なお、選択部14は、第1説明変数に対応する工程よりも後の工程に対応する説明変数のうち、最もSN比ηの大きい第2説明変数を調整対象の説明変数として選択することが好ましい。これにより、目的変数の値の変動を抑制しやすくなる。
【0075】
図6に示す例では、第1グループに属する説明変数「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」,「撹拌速度」,「塗料保管温度」のうち、説明変数「塗料保管温度」の計測値が変動している。そのため、目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲から外れる原因は、説明変数「塗料保管温度」の変動であると考えられる。従って、選択部14は、説明変数「塗料保管温度」(第1説明変数)を調整対象の説明変数として選択してもよい。
【0076】
第1説明変数「塗料保管温度」は、塗料準備工程310に対応する。第1グループには、塗料準備工程310よりも後の塗装工程320に対応する説明変数「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」が含まれる。そのため、選択部14は、説明変数「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」(第2説明変数)のいずれかを調整対象の説明変数として決定してもよい。好ましくは、選択部14は、説明変数「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」のうちSN比ηの大きい説明変数「送り速さ(塗装工程)」を調整対象の説明変数として選択する。
【0077】
決定部15は、目的変数の値が管理範囲の中心に近づくように調整対象の説明変数の調整量を決定する。
【0078】
例えば、第1説明変数が調整対象の説明変数として選択された場合、決定部15は、第1説明変数の基準値から第1説明変数の計測値を差し引いた量を第1説明変数の調整量として決定する。基準値は、例えば規格の中心である。これにより、制御演算部11は、第1説明変数の値が規格中心に近づくように、生産ライン300に含まれる1以上の機器の操作量を演算する。演算された操作量が機器に出力されることにより、第1説明変数の値が規格中心に近づき、目的変数の値が管理範囲の中心に近づく。
【0079】
第2説明変数が調整対象の説明変数として選択された場合、決定部15は、目的変数の予測値から基準値を差し引いた値と、上記の式(1)における第2説明変数の係数とに基づいて、第2説明変数の調整量を決定する。第2説明変数の調整量の具体的な決定方法については後述する。
【0080】
<制御装置の処理の流れ>
(学習フェーズ)
図7は、学習フェーズにおける制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。まず、プロセッサ102は、製品ごとのサンプルデータセットを取得する(ステップS1)。次に、プロセッサ102は、複数のサンプルデータセットに対してT法多変量解析を実行する(ステップS2)。プロセッサ102は、ステップS2の実行により得られた、各説明変数の比例定数βおよびSN比ηに基づいて、式(1)によって示される予測モデルを生成する(ステップS3)。ステップS3の後、処理は終了する。
【0081】
(運用フェーズ)
制御装置100は、運用フェーズにおいて、以下の第1~第3の処理のいずれかを実行する。
【0082】
《第1の処理》
図8は、運用フェーズにおける制御装置の第1の処理の流れを示すフローチャートである。まず、プロセッサ102は、製品ごとの複数の説明変数の計測値を取得する(ステップS11)。次に、プロセッサ102は、複数の説明変数の計測値を予測モデルに入力することにより、目的変数の値を予測する(ステップS12)。
【0083】
プロセッサ102は、目的変数の予測値が管理範囲外であるか否かを判断する(ステップS13)。目的変数の予測値が管理範囲から外れていない場合(ステップS13でNO)、処理はステップS11に戻る。
【0084】
目的変数の予測値が管理範囲から外れている場合(ステップS13でYES)、プロセッサ102は、SN比ηが相対的に大きい第1グループに属する各説明変数の変動の度合いを計算する(ステップS14)。プロセッサ102は、変動の度合いが最も大きい第1説明変数を調整対象の説明変数として選択し、第1説明変数の調整量を決定する(ステップS15)。具体的には、プロセッサ102は、第1説明変数の基準値から第1説明変数の計測値を差し引いた量を調整量として決定する。次に、プロセッサ102は、第1説明変数の値を調整量だけ変化させるように生産ライン300を制御する(ステップS16)。ステップS16は、フィードバック制御に対応する。ステップS16の後、処理は終了する。なお、ステップS16の制御は、少なくとも、当該制御が実行開始されたときに第1説明変数に対応する工程に投入された最新の製品についての目的変数の値が予測されるまで継続される。
【0085】
《第2の処理》
図9は、運用フェーズにおける制御装置の第2の処理の流れを示すフローチャートである。
図9に示すフローチャートは、
図8に示すフローチャートと比較して、ステップS17~S19を含む点で相違する。
【0086】
図9に示されるように、ステップS14の後、プロセッサ102は、フィードフォワード制御が可能か否かを判断する(ステップS17)。具体的には、プロセッサ102は、第1グループの中に、第1説明変数に対応する工程よりも後の工程に対応する第2説明変数が存在することに応じて、フィードフォワード制御が可能であると判断する。
【0087】
フィードフォワード制御が可能ではない場合(ステップS17でNO)、ステップS15,S16が実行される。
【0088】
フィードフォワード制御が可能である場合(ステップS17でYES)、プロセッサ102は、第2説明変数を調整対象の説明変数として選択し、第2説明変数の調整量を決定する(ステップS18)。次に、プロセッサ102は、第2説明変数の値を調整量だけ変化させるように生産ライン300に含まれる機器を制御する(ステップS19)。ステップS19は、フィードフォワード制御に対応する。
【0089】
ステップS16,S19の後、処理は終了する。なお、ステップS16,S19の制御は、少なくとも、当該制御が実行開始されたときに第1説明変数に対応する工程に投入された最新の製品についての目的変数の値が予測されるまで継続される。
【0090】
《第3の処理》
図10は、運用フェーズにおける制御装置の第3の処理の流れを示すフローチャートである。
図10に示すフローチャートは、
図9に示すフローチャートと比較して、ステップS17がステップS14の後ではなくステップS16の後に実行される点で相違する。すなわち、
図10に示すフローチャートでは、第1説明変数は必ず調整対象として選択され、フィードフォワード制御が可能である場合に第2説明変数も調整対象として選択される。そのため、フィードバック制御およびフィードフォワード制御の両方が実行される。
【0091】
<フィードバック制御の例>
図11は、
図8に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの例を示す図である。
図11に示す例では、塗装工程320においてワークID「2200」の製品に対する塗装が完了した第1タイミングにおいて、塗料準備工程310においてワークID「2400」の製品に対する塗料の準備が完了し、検査工程340においてワークID「2000」の製品に対する検査が完了している。すなわち、塗料準備工程310から塗装工程320において、ワークID「2201」~「2400」の製品が滞留しており、塗装工程320から検査工程340において、ワークID「2001」~「2200」の製品が滞留している。また、第1グループに属する説明変数として、「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」,「撹拌速度」,「塗料保管温度」が存在し、これらの説明変数のSN比ηが
図6で表されるものとする。なお、これらの条件は、
図12~
図16を参照して後述する例においても同様である。
【0092】
ワークID「2200」の製品に対する塗装が完了したタイミングにおいて、当該製品に対応する説明変数「塗料希釈率」,「撹拌スピード」,「塗料保管温度」,「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」,「エア圧」,「吐出量」,「室温」の全ての計測値が取得される。そのため、第1タイミングにおいて、ワークID「2200」の製品について、目的変数「塗装膜厚」の値が予測される(ステップS12a)。
【0093】
目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲から外れていることに応じて、第1グループに属する説明変数の計測値の変動の度合いが計算される。
図11に示す例では、説明変数「塗料保管温度」の計測値の変動の度合いが最も大きい。そのため、第1説明変数「塗料保管温度」が調整対象として選択され、調整量が決定される(ステップS15a)。その後、第1説明変数「塗料保管温度」の値を調整量だけ変化させるように塗料保管器313が制御される(ステップS16a)。調整量は、説明変数「塗料保管温度」の基準値(規格中心)から計測値を差し引いた量である。そのため、ワークID「2401」より後の製品について、説明変数「塗料保管温度」の値が規格中心に近づく。これにより、ワークID「2401」より後の製品について、目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲内に収まる。
【0094】
<フィードフォワード制御の第1の例>
図12は、
図9に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの第1の例の第1タイミングを示す図である。
図12に示す例においても、ワークID「2200」の製品に対する塗装が完了した第1タイミングにおいて、当該製品に対応する説明変数「塗料希釈率」,「撹拌スピード」,「塗料保管温度」,「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」,「エア圧」,「吐出量」,「室温」の全ての計測値が取得される。そのため、このタイミングにおいて、ワークID「2200」の製品について、目的変数「塗装膜厚」の値が予測される(ステップS12b)。
【0095】
そして、目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲から外れていることに応じて、第1グループに属する説明変数の計測値の変動の度合いが計算され、当該度合いの最も大きい第1説明変数として説明変数「塗料保管温度」が特定される(ステップS14b)。ただし、第1グループの中に、第1説明変数「塗料保管温度」に対応する塗料準備工程310よりも後の塗装工程320に対応する第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」が存在する。説明変数「送り速さ(塗装工程)」のSN比ηは、説明変数「吹付距離」のSN比ηよりも大きい。そのため、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」が調整対象として選択され、調整量が決定される。
【0096】
予測モデルを示す上記の式(1)は、各説明変数の変動量と目的変数の変動量との関係を表している。そのため、
図12に示す例では、プロセッサ102は、上記の式(1)から、調整対象の説明変数「送り速さ(塗装工程)」の係数Kjを抽出する。当該係数Kjは、以下の式(2)で表される。
【0097】
【0098】
調整量は、目的変数「塗装膜厚」の値を管理範囲の中心に近づけるために決定される。そのため、プロセッサ102は、目的変数「塗装膜厚」の予測値から目的変数「塗装膜厚」の管理範囲の中心を差し引いた値を調整対象の第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の係数Kjで割った商を第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の調整量として決定する。例えば、目的変数「塗装膜厚」の予測値から目的変数「塗装膜厚」の管理範囲の中心を差し引いた値が0.017μmであり、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の係数Kjが-0.81μm/(m/s)である場合、調整量として-0.009m/sが決定される。
【0099】
その後、ワークID「2201」以降の製品について、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値を調整量だけ変化させるように、ベルトコンベア322が制御される(ステップS19b)。これにより、第1説明変数「塗料保管温度」の変動に起因する目的変数「塗装膜厚」の変動は、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値を調整によって打ち消される。その結果、ワークID「2201」以降の製品について、目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲内に収まる。
【0100】
図13は、
図9に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの第1の例の第2タイミングを示す図である。第2タイミングは、塗装工程320においてワークID「2400」の製品に対する塗装が完了したタイミングである。
【0101】
上述したように、ワークID「2201」以降の製品について、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値が調整量だけ調整されることにより、目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲内に収まる。しかしながら、目的変数「塗装膜厚」の変動の直接的な原因である第1説明変数「塗料保管温度」が変動量の度合いが増大し続けると、目的変数「塗装膜厚」も再度変動する。
【0102】
図13に示す例では、ワークID「2400」の製品について予測された目的変数「塗装膜厚」の値が管理範囲から外れている(ステップS12c)。そして、再度、第1説明変数として説明変数「塗料保管温度」が特定され(ステップS14c)、第1説明変数「塗料保管温度」に対応する塗料準備工程310よりも後の塗装工程320に対応する第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」が調整対象として選択される。目的変数「塗装膜厚」の予測値から目的変数「塗装膜厚」の管理範囲の中心を差し引いた値が0.017μmであり、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の係数Kjが-1.81μm/(m/s)である場合、更なる調整量として-0.009m/sが決定される。
【0103】
その後、ワークID「2401」以降の製品について、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値を更に調整量だけ変化させるように、ベルトコンベア322が制御される(ステップS19c)。その結果、ワークID「2401」以降の製品について、目的変数「塗装膜厚」の値が管理範囲内に収まる。
【0104】
<フィードフォワード制御の第2の例>
上記フィードフォワード制御の第1の例では、目的変数「塗装膜厚」の予測値から目的変数「塗装膜厚」の管理範囲の中心を差し引いた値を調整対象の第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の係数Kjで割った商が調整量として決定される。これにより、目的変数「塗装膜厚」の値が管理範囲内に収まる。しかしながら、目的変数「塗装膜厚」の変動の直接的な原因である第1説明変数「塗料保管温度」が変動量の度合いが増大し続けると、目的変数「塗装膜厚」も再度変動する。第2の例では、第1説明変数「塗料保管温度」の変動を考慮して調整量が決定される。これにより、第1説明変数「塗料保管温度」が変動量の度合いが増大し続けたとしても、目的変数「塗装膜厚」の値が安定する。
【0105】
図14は、
図9に示すフローチャートに従ってフィードバック制御が実行されるときの第2の例の第1タイミングを示す図である。
図12と同様に、ワークID「2200」の製品についての目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲から外れていることに応じて、説明変数「送り速さ(塗装工程)」が調整対象として選択され、調整量が決定される。
【0106】
第2の例において、プロセッサ102は、目的変数「塗装膜厚」の予測値から目的変数「塗装膜厚」の管理範囲の中心を差し引いた値を調整対象の第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の係数Kjで割った商を第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の初期調整量として決定する。
【0107】
さらに、プロセッサ102は、第1説明変数「塗料保管温度」に対応する塗料準備工程310から第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」に対応する塗装工程320までの間に滞留している製品についての第1説明変数「塗料保管温度」の変動の傾向に基づいて、製品ごとに調整量を補正する。
【0108】
プロセッサ102は、目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲を外れた製品についての、第1説明変数「塗料保管温度」の計測値の規格中心からの変動量(以下、「第1変動量」と称する。)を計算する。さらに、プロセッサ102は、塗料準備工程310から収集された最新の製品についての第1説明変数「塗料保管温度」の計測値の規格中心からの変動量(以下、「第2変動量」と称する。)を計算する。
図14に示す例では、プロセッサ102は、第1変動量「0.7℃」および第2変動量「1.4℃」を算出する。
【0109】
第1変動量に起因する目的変数「塗装膜厚」の予測値の変動は、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値を上記の初期調整量だけ調整することにより打ち消される。しかしながら、塗料準備工程310から塗装工程320までの間に滞留している製品について、第1説明変数「塗料保管温度」がさらに変動している。従って、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値を初期調整量だけ調整するだけでは、こられの滞留している製品について、目的変数「塗装膜厚」の変動を抑えることができない。そのため、プロセッサ102は、こられの滞留している製品について、第2変動量と第1変動量の差分に応じて製品ごとに調整量を補正する。
【0110】
プロセッサ102は、以下の式(3)に従って、製品ごとの補正量を算出する。
補正量={(第2変動量-第1変動量)/第1変動量}×初期調整量/滞留製品個数 ・・式(3)
式(3)において、滞留製品個数は、塗料準備工程310から塗装工程320までの間に滞留している製品の個数である。滞留製品個数は、塗料準備工程310から収集された最新の計測値に対応するワークIDと、塗装工程320から収集された最新の計測値に対応するワークIDとの差から計算される。プロセッサ102は、製品ごとに算出された補正量を初期調整量に加算し続けることにより、調整量を決定する。
【0111】
初期調整量が0.009m/sであり、滞留製品個数が200個である場合、プロセッサ102は、
{(1.4-0.7)/0.7}×0.009/200=0.000045(m/s)
を補正量として決定する。
【0112】
これにより、
図14に示されるように、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値は、ワークID「2201」の製品において初期調整量だけ調整された後、ワークID「2201+α」の製品において(初期調整量+α×補正量)だけ調整される(ステップS19d)。その結果、第1説明変数「塗料保管温度」の計測値が変動し続けているにもかかわらず、目的変数「塗装膜厚」の予測値は、管理範囲内において安定する。
【0113】
<フィードバック制御およびフィードフォワード制御を実行する例>
図15は、
図10に示すフローチャートに従ってフィードバック制御およびフィードフォワード制御が実行されるときの例の第1タイミングを示す図である。
図15に示す例においても、ワークID「2200」の製品に対する塗装が完了した第1タイミングにおいて、当該製品に対応する説明変数「塗料希釈率」,「撹拌スピード」,「塗料保管温度」,「送り速さ(塗装工程)」,「吹付距離」,「エア圧」,「吐出量」,「室温」の全ての計測値が取得済みとなる(ステップS12e)。
【0114】
そして、目的変数「塗装膜厚」の予測値が管理範囲から外れていることに応じて、第1グループに属する説明変数の計測値の変動の度合いが計算され(ステップS14e)、変動の度合いが最も大きい第1説明変数「塗料保管温度」が調整対象として選択される。その後、第1説明変数「塗料保管温度」の値を調整量だけ変化させるように塗料保管器313が制御される(ステップS16e)。調整量は、説明変数「塗料保管温度」の基準値(規格中心)から計測値を差し引いた量である。
【0115】
さらに、第1説明変数「塗料保管温度」に対応する塗料準備工程310よりも後の塗装工程320に対応する第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」が調整対象として選択され、調整量が決定される。その後、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値を調整量だけ変化させるように塗装工程320に含まれる機器が制御される(ステップS19e)。調整量は、例えば、上記の<フィードフォワード制御の第2の例>において記載した方法に従って決定される。
【0116】
図16は、
図10に示すフローチャートに従ってフィードバック制御およびフィードフォワード制御が実行されるときの例の第2タイミングを示す図である。
図15を参照して説明したように、第1タイミングにおいて、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値を調整量だけ変化させるようにベルトコンベア322が制御される。これにより、
図16に示されるように、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値は、ワークID「2201」の製品において初期調整量だけ調整された後、ワークID「2201+α」の製品において(初期調整量+α×補正量)だけ調整される。その結果、ワークID「2201」以降の製品について、目的変数「塗装膜厚」の予測値は、管理範囲内において安定する。
【0117】
また、第1タイミングにおいて、第1説明変数「塗料保管温度」の値を調整量だけ変化させるように塗料保管器313が制御される。これにより、ワークID「2401」より後の製品について、目的変数「塗装膜厚」の値が管理範囲内に収まる。したがって、ワークID「2401」より後の製品について、第1説明変数「塗料保管温度」の変動に起因する目的変数「塗装膜厚」の予測値の変動がなくなる。そのため、プロセッサ102は、は、ワークID「2401」より後の製品について、第2説明変数「送り速さ(塗装工程)」の値の調整を停止する。
【0118】
§3 付記
以上のように、本実施の形態は以下のような開示を含む。
【0119】
(構成1)
複数の工程(310,320,330,340)を含む生産ライン(300)を制御する制御装置(100)であって、
前記生産ライン(300)の動作に関する複数の説明変数の値と前記生産ライン(300)によって生産される製品(400)の品質に関する目的変数の値とを示す複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる予測モデルを取得する取得部(12,102)を備え、
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々について、前記目的変数の値の予測精度を表すSN比を含み、
前記制御装置(100)は、さらに、
前記生産ライン(300)から前記複数の説明変数の計測値を収集する収集部(10,102)と、
製品ごとに、前記複数の説明変数の前記計測値を前記予測モデルに入力することにより前記目的変数の予測値を計算する予測部(13,102)と、
前記予測値が管理範囲から外れたことに応じて、前記複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択する選択部(14,102)と、
前記目的変数の値が前記管理範囲の中心に近づくように前記調整対象の説明変数の調整量を決定する決定部(15,102)と、
前記調整対象の説明変数の値を前記調整量だけ変化させるように前記生産ラインを制御する制御部(11,102)と、を備え、
前記選択部(14,102)は、前記SN比に基づいて、前記複数の説明変数を第1グループと前記第1グループよりも前記目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割し、前記第1グループに属する説明変数の中から前記調整対象の説明変数を選択する、制御装置(100)。
【0120】
(構成2)
前記選択部(14,102)は、
前記第1グループに属する各説明変数について、当該説明変数の変動の度合いを計算し、
前記変動の度合いの最も大きい第1説明変数を前記調整対象の説明変数として選択する、構成1に記載の制御装置(100)。
【0121】
(構成3)
前記決定部(15,102)は、
前記第1説明変数の基準値から前記第1説明変数の前記計測値を差し引いた量を前記第1説明変数の前記調整量として決定する、構成2に記載の制御装置(100)。
【0122】
(構成4)
前記選択部(14,102)は、
前記第1グループに属する各説明変数について、当該説明変数の変動の度合いを計算し、
前記第1グループに属する説明変数のうち、前記変動の度合いの最も大きい第1説明変数に対応する第1工程(310)よりも後の第2工程(320)に対応する第2説明変数を前記調整対象の説明変数として選択する、構成1に記載の制御装置(100)。
【0123】
(構成5)
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々の前記計測値に当該説明変数に対応する係数を乗じた値の和を用いて前記予測値を予測し、
前記決定部(15,102)は、
前記予測値から前記目的変数の基準値を差し引いた値を前記第2説明変数に対応する前記係数で割った商を前記第2説明変数の前記調整量として決定する、構成4に記載の制御装置(100)。
【0124】
(構成6)
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々の前記計測値に当該説明変数に対応する係数を乗じた値の和を用いて前記予測値を予測し、
前記決定部(15,102)は、
前記予測値から前記目的変数の基準値を差し引いた値を前記第2説明変数に対応する前記係数で割った商を前記第2説明変数の前記調整量の初期値として決定し、
前記第1工程(310)から前記第2工程(320)までの間で滞留している前記製品についての前記第1説明変数の変動の傾向に基づいて、補正量を計算し、
前記製品(400)ごとに前記調整量を前記補正量だけ補正する、構成4に記載の制御装置(100)。
【0125】
(構成7)
前記決定部(15,102)は、前記予測値が予測された製品についての前記第1説明変数の前記計測値から前記第1説明変数の基準値を差し引いた第1変動量と、最新の製品についての前記第1説明変数の前記計測値から前記第1説明変数の基準値を差し引いた第2変動量と、前記初期値と、前記第1工程から前記第2工程までの間で滞留している前記製品の個数とを、
{(第2変動量-第1変動量)/第1変動量}×初期値/個数
に代入することにより、前記補正量を計算する、構成6に記載の制御装置(100)。
【0126】
(構成8)
複数の工程(310,320,330,340)を含む生産ライン(300)を制御する制御方法であって、
前記生産ラインの動作に関する複数の説明変数の値と前記生産ラインによって生産される製品の品質に関する目的変数の値とを示す複数のサンプルデータセットに対してT法のデータ処理を実行することにより得られる予測モデルを取得するステップを備え、
前記予測モデルは、前記複数の説明変数の各々について、前記目的変数の値の予測精度を表すSN比を含み、
前記制御方法は、さらに、
前記生産ラインから前記複数の説明変数の計測値を収集するステップと、
製品ごとに、前記複数の説明変数の前記計測値を前記予測モデルに入力することにより前記目的変数の予測値を計算するステップと、
前記予測値が管理範囲から外れたことに応じて、前記複数の説明変数の中から調整対象の説明変数を選択するステップと、
前記目的変数の値が前記管理範囲の中心に近づくように前記調整対象の説明変数の調整量を決定するステップと、
前記調整対象の説明変数の値を前記調整量だけ変化させるように前記生産ラインを制御するステップと、を備え、
前記選択するステップは、前記SN比に基づいて、前記複数の説明変数を第1グループと前記第1グループよりも前記目的変数への影響度の小さい第2グループとに分割し、前記第1グループに属する説明変数の中から前記調整対象の説明変数を選択するステップを含む、制御方法。
【0127】
(構成9)
構成8に記載の制御方法をコンピュータに実行させるプログラム(114,116)。
【0128】
本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0129】
1 システム、4 制御系ネットワーク、6 情報系ネットワーク、10 IO処理部、11 制御演算部、12 解析部、13 予測部、14 選択部、15 決定部、100 制御装置、102 プロセッサ、104 チップセット、106 主メモリ、110 ストレージ、112 システムプログラム、114 ユーザプログラム、116 監視プログラム、120 制御系ネットワークコントローラ、122 情報系ネットワークコントローラ、124 USBコントローラ、126 メモリカードインターフェイス、128 メモリカード、300 生産ライン、310 塗料準備工程、311 原料投入機、312 攪拌機、313 塗料保管器、320 塗装工程、321 塗布装置、322,332 ベルトコンベア、330 乾燥工程、331 乾燥機、340 検査工程、400 金属プレート。