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特開2023-133894光学部材用合成シリカガラス及び光学部材用合成シリカガラスの製造方法並びに光学部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133894
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】光学部材用合成シリカガラス及び光学部材用合成シリカガラスの製造方法並びに光学部材
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
C03B20/00 F
C03B20/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039138
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 直
(72)【発明者】
【氏名】木村 康宏
(72)【発明者】
【氏名】宮芝 一磨
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH12
(57)【要約】
【課題】塩素が導入され且つ短波長側の光の透過率の低下が抑制された光学部材用シリカガラスを提供すること。
【解決手段】塩素及び水素が導入され、塩素濃度が500ppm以上であり、水素分子濃度が1.0×1017個/cm以上である、光学部材用合成シリカガラス。この光学部材用合成シリカガラスは、好ましくは、ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対するピーク強度比(D2/SiO)が0.13以下であり、OH基濃度は30ppm以下であり、632.8nmでの複屈折率が、10nm/cm以下であり、ArFレーザー100kJ照射前後の193nmにおける透過率の低下が1.0%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素及び水素が導入され、塩素濃度が500ppm以上であり、水素分子濃度が1.0×1017個/cm以上である、光学部材用合成シリカガラス。
【請求項2】
ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対するピーク強度比(D2/SiO)が、0.13以下である、請求項1に記載の光学部材用合成シリカガラス。
【請求項3】
175nm以上3000nm以下の波長領域で使用される、請求項1又は2に記載の光学部材用合成シリカガラス。
【請求項4】
OH基濃度が、0ppm以上30ppm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学部材用合成シリカガラス。
【請求項5】
632.8nmでの複屈折率が、10nm/cm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学部材用合成シリカガラス。
【請求項6】
ArFレーザーを100kJ照射したときの、照射前後の193nmにおける透過率の低下が、1.0%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学部材用合成シリカガラス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学部材用合成シリカガラスを用いて形成された光学部材。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学部材用合成シリカガラスの製造方法であって、
塩素が導入されたシリカガラスに、水素ガス含有雰囲気中で、360℃以上600℃以下、0.9MPa以下で水素を導入する水素導入工程を有する、光学部材用合成シリカガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材用合成シリカガラス及び光学部材用合成シリカガラスの製造方法並びに光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカガラスに塩素を導入することで、屈折率上昇等させる技術がある。例えば、特許文献1では、ガス状の珪素化合物の火炎加水分解又は酸化により得られるシリカガラス微粒子を堆積させて得られる多孔質ガラス体を加熱処理して透明ガラス化する合成シリカガラスの製造方法において、3~20%の濃度の四塩化珪素(SiCl)と、残部の不活性ガスとの混合ガスからなるガス雰囲気中で前記透明ガラス化を行う合成シリカガラスの製造方法により、塩素の添加をして、屈折率上昇と屈折率分布の平坦化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】第3845906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようにシリカガラスに塩素を導入すると、紫外域に吸収が生じ、短波長側の光の透過率が低下してしまうという問題がある。例えば193nmの透過率が低下してしまう。このため、特許文献1のように塩素が導入されたシリカガラスは、短波長側の光を用いる光学部材には使用し難い。
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、塩素が導入され且つ短波長側の光の透過率の低下が抑制された光学部材用シリカガラス及び光学部材用合成シリカガラスの製造方法並びに光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定量の塩素と特定量の水素とがドープされた光学部材用合成シリカガラスとすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1) 塩素及び水素が導入され、塩素濃度が500ppm以上であり、水素分子濃度が1.0×1017個/cm以上である、光学部材用合成シリカガラス。
【0008】
(2) ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対するピーク強度比(D2/SiO)が、0.13以下である、(1)に記載の光学部材用合成シリカガラス。
【0009】
(3) 175nm以上3000nm以下の波長領域で使用される、(1)又は(2)に記載の光学部材用合成シリカガラス。
【0010】
(4) OH基濃度が、0ppm以上30ppm以下である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の光学部材用合成シリカガラス。
【0011】
(5) 632.8nmでの複屈折率が、10nm/cm以下である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の光学部材用合成シリカガラス。
【0012】
(6) ArFレーザーを100kJ照射したときの、照射前後の193nmにおける透過率の低下が、1.0%以下である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の光学部材用合成シリカガラス。
【0013】
(7) (1)~(6)のいずれか1つに記載の光学部材用合成シリカガラスを用いて形成された光学部材。
【0014】
(8) (1)~(7)のいずれか1つに記載の光学部材用合成シリカガラスの製造方法であって、塩素が導入されたシリカガラスに、水素ガス含有雰囲気中で、360℃以上600℃以下、0.9MPa以下で水素を導入する水素導入工程を有する、光学部材用合成シリカガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塩素濃度500ppm以上、水素分子濃度1×1017個/cm以上で塩素及び水素が導入された光学部材用合成シリカガラスとすることにより、シリカガラスに塩素を導入(ドープ)することにより生じる紫外線等の短波長側の光の透過率の低下が修復(抑制)されるという効果を奏する。したがって、短波長側の光の透過率にも優れ、例えば紫外領域から赤外領域に亘って十分な透過率を有する光学部材用合成シリカガラス及び光学部材を提供することができる。
【0016】
また、本発明の一実施形態によれば、ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)が小さくなり、安定化された光学部材用合成シリカガラスとなるという効果や、複屈折率も良好であるという効果もあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例のサンプルAの作成方法及び測定箇所を説明する模式図である。
図2】実施例のサンプルBの作成方法及び測定箇所を説明する模式図である。
図3】実施例のサンプルCの作成方法及び測定箇所を説明する模式図である。
図4】透過率の測定結果を示す図である。
図5】透過率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
<光学部材用合成シリカガラス>
本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、塩素及び水素が導入され、塩素濃度が500ppm以上であり、水素分子濃度が1.0×1017個/cm以上である。
【0020】
ここで、シリカガラスに塩素が導入(ドープ)されると、OH基のHが塩素等に置換され、近赤外域等の長波長側での光吸収が減少する効果が得られる。しかしながら、塩素ドープにより、短波長側(例えば200nm付近)に吸収が生じるため、紫外線等の短波長側の光の透過率が低下する。したがって、塩素ドープされたシリカガラスは、紫外線等の短波長側の光を用いる光学部材には用い難かった。
【0021】
しかしながら、本実施の形態においては、塩素濃度500ppm以上、水素分子濃度1.0×1017個/cm以上とすることで、紫外線等の短波長側に発生する吸収が抑制されるため、塩素ドープにより生じる紫外線等の短波長側の光の透過率の低下が抑制される。したがって、短波長側(例えば175nm以上280nm以下の波長、好ましくは175nm以上220nm以下の波長)の光の透過率にも優れた光学部材用合成シリカガラスとなる。よって、例えば175nm以上3000nm以下の幅広い波長領域で使用される光学部材に適している。ただし、本発明はこれに限定されず、175nmより短い波長領域や3000nmより長い波長領域で使用される光学部材の材料としても使用可能である。
【0022】
なお、塩素を導入している特許文献1では、屈折率上昇と屈折率分布の平坦化を目的としており、特許文献1の技術においては、塩素に加えて水素も導入することは行わない。
【0023】
本明細書において、塩素濃度のppmは、質量基準のppmである。
【0024】
塩素濃度は、500ppm以上であればよく、1000ppm以上や、9000ppm以上でもよい。塩素濃度の上限は特に限定されないが、例えば15000ppm以下であり、11000ppm以下でもよい。
【0025】
水素分子濃度は、1.0×1017個/cm以上であり、好ましくは5.0×1017個/cm以上、より好ましくは7.0×1017個/cm以上である。水素分子濃度の上限は特に限定されないが、例えば、6.5×1018個/cm以下であり、好ましくは5.0×1018個/cm以下、より好ましくは3.0×1018個/cm以下である。
【0026】
また、本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対するピーク強度比(D2/SiO)が0.13以下である。ただし、本発明におけるD2/SiOは0.13より大きくてもよい。
【0027】
骨格振動は、シリカガラスのSi-O網目構造中のSi-O結合振動であり、骨格振動に由来するピーク(SiO)は、425~445cm-1に観測される。
【0028】
シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)、すなわち、シリカガラスを構成する酸化ケイ素の3員環構造に由来するピークは、606cm-1付近に観測される。3員環構造の酸化ケイ素化合物は、安定構造である6員環等の酸化ケイ素と比べて不安定である。したがって、D2/SiOが低いほうが安定である。
【0029】
本実施の形態においては、D2/SiOを0.13以下とすることができるため、安定な光学部材用合成シリカガラス、すなわち、耐久性に優れた光学部材用合成シリカガラスとなる。
【0030】
ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対するピーク強度比(D2/SiO)は、例えば特開平11-230830号公報に記載の方法で求めることができる。具体的には、ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対するピーク強度比(D2/SiO)は、D1ピーク(シリカガラスの4員環構造に由来するピークで、ラマンシフトが495cm-1付近に存在する。)及びD2ピークに対してはローレンツ関数により、骨格振動に由来するピークに対してはガウス関数により、またD1ピーク、D2ピーク及び骨格振動に由来するピークを除いた残余(以下、バックグラウンドという)に対しては2次関数により、それぞれ近似を行って近似関数を決定し、骨格振動に由来するピークの近似関数のピーク値に対する、D2ピークの近似関数のピーク値の比を算出する。
【0031】
D2/SiOは、より好ましくは0.120以下であり、さらに好ましくは0.110以下である。
【0032】
本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、レーザー耐久性に優れており、例えばArFレーザーを100kJ照射したときの、照射前後の193nmにおける透過率の低下は、例えば、1.0%以下であり、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.2%以下である。
なお、ArFレーザー照射前の193nmにおける透過率は、例えば89.0%以上である。本明細書において、「透過率」は、厚さ1cmあたりの値である。
【0033】
また、本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、OH基濃度は、例えば0ppm以上30ppm以下であり、好ましくは0ppm以上15ppm以下であり、より好ましくは0ppm以上5ppm以下である。なお、本明細書において、OH基濃度のppmは、質量基準のppmである。
【0034】
本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、500ppm以上の高濃度の塩素がドープされているが、該塩素は光学部材用合成シリカガラスの原料である多孔質母材のOH基のHが塩素もしくは塩素化合物に置換されて導入することができる。したがって、本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、OH基濃度は30ppm以下と低い値になり、さらには、OH基を含有しなくてもよい。なお、通常OH基の含有量が少ないシリカガラスは、短波長側(紫外領域)に吸収が発生しやすいため、短波長側の光を用いる光学部材には使用し難いが、本実施の形態の光学部材用合成シリカガラスは、短波長側の光の透過率を高くすることができるため、短波長側の光を用いる光学部材にも使用することができる。
【0035】
本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、632.8nmでの複屈折率が、例えば10nm/cm以下であり、好ましくは2nm/cm以下、より好ましくは0.40nm/cm以下、特に好ましくは0.30nm/cm以下である。
【0036】
<光学部材用合成シリカガラスの製造方法>
上記本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、塩素が導入されたシリカガラス(塩素ドープ材)に、水素ガス含有雰囲気中で、360℃以上600℃以下、0.9MPa以下で水素を導入する水素導入工程を有する製造方法により製造することができる。
【0037】
具体的には、例えば、まず、四塩化ケイ素やヘキサメチルシラザン等を原料として、VAD法、OVD法等のスート再溶融法により、多孔質スス体を製造する。例えば、VAD(Vapor Axial-phase Deposition)法では、酸水素火炎加水分解法によってスートを堆積させるものである。
【0038】
次に、多孔質スス体に対して、塩素ドープ処理及び透明化処理を行い、必要に応じて、成形加工や、歪を除去する熱処理(アニール処理)を行って、塩素ドープ材を得る。
【0039】
塩素ドープ処理は、例えば、多孔質スス体を、塩素もしくは四塩化ケイ素等を含有する不活性ガス雰囲気中で、800~1300℃で5~48時間程度加熱する熱処理を行う。塩素ドープの温度は、好ましくは900~1200℃である。塩素ドープの時間は、好ましくは10~40時間である。このような熱処理により、632nmでの複屈折率を10nm/cm以下、さらには2nm/cm以下、より好ましくは0.40nm/cm以下、特に好ましくは0.30nm/cm以下とすることができると推測される、
【0040】
また、透明化処理は、例えば、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で、1300~1650℃で5~30時間程度加熱する熱処理を行う。透明化処理の温度は、好ましくは1350~1500℃である。透明化処理の時間は、好ましくは10~24時間である。
【0041】
透明化処理の後、必要に応じて成形加工や、アニール処理を行ってもよい。
成形加工処理は、例えば、ホットプレス成型である。
アニール処理は、例えば、加熱温度が500~1500℃であり、加熱時間が90~360時間以下の熱処理である。アニール処理は段階的な熱処理を行うことが好ましく、例えば、1200~1400℃で熱処理をした後、900~1100℃に冷却し、900~1100℃で熱処理をすることが好ましい。
【0042】
なお、塩素ドープ処理は、例えば、特許文献1に記載の方法でもよい。
【0043】
次いで、塩素が導入されたシリカガラス(塩素ドープ材)に、水素ガス含有雰囲気中で、360℃以上600℃以下、0.9MPa以下で熱処理をすることにより、水素を導入する(水素導入工程)。熱処理の温度が360℃より低い場合は水素ドープ量を確保するのに必要な時間が膨大となり、600℃より高い場合はガラスへのダメージが大きくなり、所定の光学特性を得ることが難しくなる場合がある。
熱処理時間は、例えば、90時間以上200時間以下である。
【0044】
その後、必要に応じて表面を研削や研磨することにより、光学部材用合成シリカガラスを得ることができる。
【0045】
<光学部材用合成シリカガラスの用途>
本実施の形態に係る光学部材用合成シリカガラスは、短波長側(例えば、193nm)の透過率に優れているため、短波長側(例えば、193nm)の光を用いるレンズ、ミラー、プリズム、マスク基板、エキシマレーザー発振装置、リソグラフィー用レーザー露光装置等の光学部材に特に適している。その他、長波長側(例えば、2700nm付近)の光を用いるレンズ、ファイバー通信用光学素子等の光学部材として使用してもよい。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
[塩素ドープ母材の作製]
四塩化ケイ素を原料としVAD法により、外径300mm、長さ700mmの円柱状の多孔質スス体を製造した。
得られた多孔質スス体を、四塩化ケイ素を混合した不活性ガス(N)雰囲気中で、1100℃で48時間加熱することにより、塩素ドープ処理を行った。
その後、真空雰囲気中で、1500℃で24時間加熱することにより、透明化処理を行って、外径180mm、長さ450mmの円柱状の塩素ドープ母材を得た。
【0048】
[塩素ドープ母材の成形加工]
得られた塩素ドープ母材を、熱間成型炉にて1600℃、加圧力:0.1N/mmでホットプレス成形した。その後、ホットプレス後の塩素ドープ母材の外周部を切り捨てて、外径300mm、長さ160mmの円柱状の塩素ドープ材を得た。
【0049】
[塩素ドープ材のアニール処理]
成形加工後の塩素ドープ材を、炉内で、段階的に600~1250℃で102時間加熱することにより、熱処理を行った。具体的には、室温から10時間で1250℃まで昇温し、1250℃で7時間保持した後、冷却速度-10.0℃/時間で1000℃まで冷却し、1000℃で20時間保持した。その後、冷却速度-10.0℃/時間で600℃まで冷却した後、室温まで放冷した。
【0050】
[水素ドープ処理]
アニール処理後の塩素ドープ材から外径215mm、厚さ21mmの円板を3枚切り出した。これら3枚の円板(円板10、20、30)を加圧炉において、水素ガスを100体積%含有する水素ガス含有雰囲気中、0.3MPaで、500℃145時間の加熱処理することにより、水素ドープ処理を行った。
【0051】
[サンプル加工]
水素ドープ処理後の円板(円板10、20、30)を、以下の方法で、切断、及び/又は、表面(平面)の研削・研磨をすることにより、実施例1の光学部材用合成シリカガラス(サンプルA~サンプルC)を得た。
水素ドープ処理後の円板10を、厚さ方向(軸方向)に切断して、横50mm×縦40mm×厚さ21mmの直方体(直方体11a及び直方体11b)を切り出し、測定点における頂角が直角となるように研削したものを、サンプルAとした。直方体は、図1に示すように、円板10を平面視した時(円板10を上から見た時)の円板10の円の中心0を通る直線をその一辺(横50mm)とする直方体であって、中心0を含む直方体11aと、直方体11aと一辺(縦40mm)が共通する直方体11bとした。
また、水素ドープ処理後の円板20を、厚さ方向(軸方向)に研削および研磨したものを、図2に示すサンプルBとした。
また、水素ドープ処理後の円板30を、厚さ方向(軸方向)に切断して、切り出した横50mm×縦50mm×厚さ21mmの直方体31を、厚さ方向(軸方向)に研削および研磨したものを、図3に示すサンプルCとした。直方体31は、図3に示すように、円板30を平面視した時の円の中心0が、直方体31が有する横50mm×縦50mmの長方形の重心(対角線の交点)となるように、切り出した。
【0052】
(実施例2)
[塩素ドープ母材の作製]において、多孔質スス体を、四塩化ケイ素を混合した不活性ガス(N)雰囲気中で、1100℃で48時間加熱する代わりに、多孔質スス体を、塩素を混合した不活性ガス(N)雰囲気中で、1100℃で48時間加熱すること以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2の光学部材用合成シリカガラスを得た。
【0053】
(比較例1)
実施例1の[塩素ドープ母材の作製]の塩素ドープ処理、及び、[水素ドープ処理]を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1の光学部材用合成シリカガラスを得た。
【0054】
(比較例2)
[水素ドープ処理]を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例2の光学部材用合成シリカガラスを得た。
【0055】
実施例1~2及び比較例1~2で得られた光学部材用合成シリカガラスについて、以下の方法で、塩素濃度、水素分子濃度、ラマンスペクトルにおけるシリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対する強度比(D2/SiO)、OH基濃度、複屈折率、193nmにおける透過率を求めた。結果を表に示す。
【0056】
<塩素濃度>
実施例1~2及び比較例1~2の各サンプルAについて、それぞれ円板10の中心0から円板10における外周方向に10mm間隔で、0~70mmの位置(40mm位置については測定未実施)計6箇所(図1において、黒丸で示す)を、Vブロック法で、デジタル精密屈折計(島津製作所製、KPR-200)を用いて、大気中で、d線(588nm)で、屈折率を測定した。測定は、25℃で行った。測定された各屈折率から塩素濃度をそれぞれ算出し、各塩素濃度の平均値を、塩素濃度とした。結果を表1に示す。屈折率からの塩素濃度の算出は、下記式で行った。なお、実施例1~2及び比較例1~2の光学部材用合成シリカガラスのいずれも、測定箇所によるばらつきはほぼなく、全体に亘って屈折率は均一であった。
塩素濃度(ppm)=(屈折率-1.4586)/(1.23×10-7
【0057】
【表1】
【0058】
<水素分子濃度>
実施例1~2及び比較例1~2の各サンプルBについて、それぞれサンプルB(円板20)の中心0から外周方向に10mm間隔で、7箇所(図2において、黒丸で示す)について、ラマン分光光度計(日本分光社製、NRS―5000)で水素分子濃度を測定し、各水素分子濃度の平均値を、水素分子濃度とした。測定は、25℃で行った。結果を表2に示す。なお、実施例1~2及び比較例1~2の光学部材用合成シリカガラスのいずれも、測定箇所によるばらつきはほぼなく、全体に亘って水素分子濃度は均一であった。
【0059】
【表2】
【0060】
<OH基濃度>
実施例1~2及び比較例1~2の各サンプルBについて、それぞれサンプルB(円板20)の中心0から外周方向に10mm間隔で、7箇所(図2において、黒丸で示す)について、FTIR(日本分光社製、FT/IR-800)を用いて、波長2.7μmにおける吸収ピークからOH基濃度を求め、各OH基濃度の平均値を、OH基濃度とした。検出限界は1ppmである。測定は、25℃で行った。結果を表3に示す。
なお、比較例1で30ppm検出されていたOH基が、実施例1及び比較例2で検出されなかったことから、多孔質母材のOH基のHとClもしくは、Cl化合物が置換されて塩素がドープされていると推測される。
【0061】
【表3】
【0062】
<ラマンスペクトルにおける、シリカガラスの3員環構造に由来するピーク(D2)の骨格振動に由来するピーク(SiO)に対するピーク強度比(D2/SiO)>
実施例1~2及び比較例1~2の各サンプルBについて、それぞれサンプルB(円板20)の中心0から外周方向に10mm間隔で、7箇所(図2において、黒丸で示す)について、ラマン分光光度計(日本分光社製、NRS―5000)を用い、励起光として488nmのレーザーを用い、散乱光の検出器としてCCD(電荷結合素子)を用いて、ラマンスペクトルを得て、特開平11-230830号公報に記載の方法で、強度比(D2/SiO)を求め、各D2/SiOの平均値を、D2/SiOとした。測定は、25℃で行った。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
(複屈折率)
実施例1~2及び比較例1~2の各サンプルBについて、それぞれサンプルB(円板20)の中心0から外周方向に10mm間隔で、7箇所(図2において、黒丸で示す)について、自動複屈折測定装置(ユニオプト社製、ABR-10A-60A)用いて、光源He-Neレーザー(波長:632.8nm)、出力2mWの条件で、各複屈折率を測定し、各複屈折率の平均値を、波長632.8nmでの複屈折率とした。測定は、25℃で行った。結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
<透過率>
実施例1~2及び比較例1~2の各サンプルCについて、それぞれサンプルC(直方体31)の中心0(図3において、黒丸で示す)において、175~250nm及び2000~3000nmの波長領域における厚さ1cmあたりの透過率を、紫外可視近赤外分光光度計(日立製 紫外可視近赤外分光光度計U-4100)を用いて測定した。測定は、25℃で行った。175~250nmの波長領域の測定結果を図4に示し、2000~3000nmの波長領域の測定結果を図5に示す。また、193nmにおける厚さ1cmあたりの透過率を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
(実施例3~4)
[水素ドープ処理]における加熱温度及び加熱時間を変更して、表7に示す水素分子濃度になるようにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3~4の光学部材用合成シリカガラスを得た。
【0069】
<ArF(193nm)レーザー耐久性>
実施例1、3及び4の各サンプルCに対して、レーザー:コヒレント社製LPX240Pro、レーザー照射条件:照射エネルギー10mJ/cm・繰り返し200Hz・窒素置換雰囲気の条件で、合計100kJのレーザー照射を行った。
レーザー照射後のサンプルC(直方体31)の中心0(図3において、黒丸で示す)において、100kJのArFレーザー照射前後での193nmにおける透過率の低下を求めた。透過率の低下は下記式で示される。なお、透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日立製 紫外可視近赤外分光光度計U-4100)を用いて測定した。測定は、25℃で行った。
透過率の低下(%)=レーザー照射後の透過率(%)-レーザー照射前の透過率(%)
結果を表7に示す。また、実施例3及び4の各サンプルBについて、上記<水素分子濃度>と同様にして測定した水素分子濃度も、表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
図4、表1、2及び6に示すように、塩素濃度が500ppm以上であり、水素分子濃度が1.0×1017個/cm以上で塩素及び水素が導入された光学部材用合成シリカガラスである実施例1~2では、短波長側の光線(波長193nm)の透過率が、塩素が導入され水素が導入されていない比較例2よりも高かった。特定量の塩素及び水素が導入されることにより、塩素を導入することで生じる透過率の低下が抑制されたと推測される。また、図5に示すように、実施例1~2では、長波長側の光線(波長2700nm付近)の透過率が、塩素及び水素のいずれも導入されていない比較例1よりも高かった。
また、表4に示すように、実施例1~2では、D2/SiOが低く、不安定な3員環のケイ素化合物が少なく、安定化していると言える。また、表5に示すように、実施例1~2では、複屈折率も低かった。
そして、表7に示すように、実施例1及び実施例3~4を比較すると、水素分子濃度が増加するにつれてArFレーザー100kJ照射前後での透過率の低下が小さくなっており、水素分子濃度を増加させることによりレーザー耐久性が向上したことが確認された。これは、ArFレーザー照射でE’センター((≡Si・))と考えられる欠陥が生成することにより、220nm付近にピークを持つ吸収が発生するが、水素分子濃度を増加させることにより欠陥の生成が抑制され、レーザー照射前後の透過率の低下が小さくなったと推測される。
図1
図2
図3
図4
図5