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特開2023-13391積層フィルム、それを用いた包装体およびその積層フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013391
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】積層フィルム、それを用いた包装体およびその積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20230119BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230119BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20230119BHJP
   B65D 65/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/32
B32B27/16
B65D65/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117540
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】横山 常洋
(72)【発明者】
【氏名】室伏 義郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 貴宏
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BB05
3E086BB52
3E086CA01
3E086CA17
4F100AA19B
4F100AK07A
4F100EH662
4F100GB15
4F100JD03
(57)【要約】
【課題】
優れた遮光性、金属光沢、ガスバリア性能、密着強度を有する積層フィルム、それを用いた包装体、および積層フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、無機化合物層を有する積層フィルムであって、該無機化合物層が、少なくともアルミニウム、酸素原子を含有し、非基材フィルム側からのX線光電子分光法のデプス分析においてアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)が10nm以上80nm以下であり、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)が、無機化合物層の厚さの50%以上75%以下であると共に、測定される該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値が3つ存在し、酸素原子のピーク濃度が20atm%以上である積層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、無機化合物層を有する積層フィルムであって、該無機化合物層が、少なくともアルミニウム、酸素原子を含有し、非基材フィルム側からのX線光電子分光法のデプス分析においてアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)が10nm以上80nm以下であり、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)が、無機化合物層の厚さの50%以上75%以下であると共に、測定される該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値が3つ存在し、酸素原子のピーク濃度が20atm%以上である積層フィルム。
【請求項2】
前記アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)が、20nm以上100nm以下である請求項1記載の積層フィルム
【請求項3】
前記酸素原子濃度のピークの1か所以上が連続している請求項1または2記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記積層フィルムの非基材フィルム側からの光沢度がMD、TDともに750%以上850%以下、基材フィルム側からの光沢度がMD、TDともに450%以上550%以下である請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記積層フィルムの酸素透過率が5cc/(m・atm・24h)以下である請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
基材フィルムと無機化合物層との密着強度が1.0N/15mm以上である請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
基材フィルムが、ポリプロピレン系フィルムである請求項1~6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項1~7記載の積層フィルムを用いた包装体。
【請求項9】
真空雰囲気下で基材フィルムが、アルミニウム蒸気雰囲気を通過する際、アルミニウム蒸気雰囲気に酸素ガス導入量が1.9cc/m以上、3.5cc/m以下となるように酸素を供給し、光学濃度が0.5以上1.0以下となるようにアルミニウム蒸発量を調整し、第1層を形成した後、第1層に酸化処理を施し、その上に1回以上の層を形成する積層フィルムの製造方法であって、前記第1層の酸化処理が、少なくとも大気酸化処理、酸素導入処理、酸素プラズマ処理、酸素イオンビーム処理のいずれかである積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、それを用いた包装体およびその積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装用フィルムとして、製膜性、透明性および防湿性に優れたポリオレフィン系フィルムが汎用的に広く用いられている。この中でも無延伸ポリプロピレンフィルムはヒートシール性に優れることから、二軸延伸されたポリプロピレンフィルムあるいはポリエチレンテレフタレートフィルムなどの耐熱性基材フィルムとラミネートされ、ヒートシール可能な包装用積層体として広範に用いられている。この耐熱性基材フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとの構成ではガスバリア性が不十分なため、ガスバリア性を付与するためアルミニウム箔やアルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルムを両層間に積層する構成も用いられているが、より簡易な構成として、無延伸ポリプロピレンフィルムに直接アルミニウム蒸着が施されたアルミニウム蒸着無延伸ポリプロピレンフィルムが用いられている。
【0003】
このアルミニウム蒸着無延伸ポリプロピレンフィルムは、無延伸ポリプロピレンフィルムのシール性、耐油性の特性を有し、更に遮光性や金属光沢、ガスバリア性能を付与したフィルムとなるが、無延伸ポリプロピレンフィルムとアルミニウム蒸着層間の密着力が弱いため、密着強度が低くなるという問題があった。 この問題を改良する目的で、特許文献1では、プラスチックフィルムに酸化アルミニウム層を介してアルミニウム層を形成しているプラスチックフィルムの開示があり、酸化アルミニウム層やアルミニウム層の厚さについての適正範囲を取ることで、芳香族エステル系接着剤によるラミネートにより優れた密着力が得られることが示されている。
【0004】
特許文献2では、無延伸ポリプロピレンフィルム表面に酸素ガスによるプラズマ処理面を設け、プラズマ処理面にアルミニウム蒸着膜を形成するアルミ蒸着無延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-228461号公報
【特許文献2】特開平11-279306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今、包装業界全体がコスト削減のため、密着性・速乾性のある脂肪族エーテル系接着剤を使用し、接着剤を薄く塗布することが主流となってきており、特許文献1の蒸着フィルムでは、密着強度が不足するという問題が発生する。
【0007】
特許文献2では密着強度を向上させるために、プラズマ処理を強めることが試みられているが、遮光性やガスバリア性能、金属光沢が失われることがある。また、特許文献2では安定したプラズマ処理を維持する必要があり、処理を強めることによるプラズマ放電のため、電極のメンテナンスをより精度よく行う必要がある。このため、コストが高くなり近年の海外蒸着フィルムの参入による価格低下に対応できない状況にある。また、近年生産性向上のために、より高速での加工が可能な、抵抗加熱方式の蒸着機での加工を行うことが多くなっているが、高速での加工を行う事により、アルミニウムの蒸発源をより高温にする必要があり、高いエネルギーを持ったアルミニウム蒸発粒子が突沸し、蒸着抜けであるピンホールの発生が多くなるという問題点がある。
【0008】
本発明の目的は、優れた遮光性、金属光沢、ガスバリア性能、密着強度を有するアルミニウム蒸着フィルム、および、そのアルミニウム蒸着フィルムのコストを削減し、安定に製造することが可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。
【0010】
第1の発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、無機化合物層を有する積層フィルムであって、該無機化合物層が、少なくともアルミニウム、酸素原子を含有し、非基材フィルム側からのX線光電子分光法のデプス分析においてアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)が10nm以上80nm以下であり、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)が、無機化合物層の厚さの50%以上75%以下であると共に、測定される該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値が3つ存在し、酸素原子のピーク濃度が20atm%以上である積層フィルムである。
【0011】
第2の発明は、前記アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)が、20nm以上100nm以下である上述記載の積層フィルムである。
【0012】
第3の発明は、前記酸素原子濃度のピークの1か所以上が連続している上述のいずれかに記載の積層フィルムである。
【0013】
第4の発明は、前記積層フィルムの非基材フィルム側からの光沢度がフィルムの長手方向(MD)、幅方向(TD)ともに750%以上850%以下、基材フィルム側からの光沢度がMD、TDともに450%以上550%以下である上述のいずれかに記載の積層フィルムである。
【0014】
第5の発明は、前記積層フィルムの酸素透過率が5cc/(m・atm・24h)以下である上述のいずれかに記載の積層フィルムである。
【0015】
第6の発明は、基材フィルムと無機化合物層との密着強度が1.0N/15mm以上である上述のいずれかに記載の積層フィルムである。
【0016】
第7の発明は、前記基材フィルムが、ポリプロピレン系フィルムである上述のいずれかに記載の積層フィルムである。
【0017】
第8の発明は、第1~7の発明に係る積層フィルムを用いた包装体である。
【0018】
第9の発明は、真空雰囲気下で基材フィルムが、アルミニウム蒸気雰囲気を通過する際、アルミニウム蒸気雰囲気に酸素ガス導入量が1.9~3.5cc/mとなるように酸素を供給し、光学濃度が0.5以上1.0以下となるようにアルミニウム蒸発量を調整し第1層を形成した後、第1層に酸化処理を施し、その上に1回以上の層を形成する積層フィルムの製造方法であって、前記第1層の酸化処理が、少なくとも大気酸化処理、酸素導入処理、酸素プラズマ処理、酸素イオンビーム処理のいずれかである積層フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた遮光性、金属光沢、ガスバリア性能、密着強度を有するアルミニウム蒸着フィルム、および、そのアルミニウム蒸着フィルムのコストを削減し、安定に製造することが可能な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の積層フィルムは基材フィルムの少なくとも一方の面に、無機化合物層を有する積層フィルムであって、該無機化合物層が、少なくともアルミニウム、酸素原子を含有し、非基材フィルム側からのX線光電子分光法のデプス分析においてアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)が10nm以上80nm以下であり、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)が、無機化合物層の厚さの50%以上75%以下であると共に、測定される該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値が3つ存在し、酸素原子のピーク濃度が20atm%以上である積層フィルムである。
【0021】
本発明における基材フィルムは、ポリプロピレン系フィルムが好ましい。ポリプロピレン系フィルムは、単層でもよいし、複層でもよい。ポリプロピレン系フィルムは、透明性、防湿性に優れており、ヒートシール性も有することから、優れた包装用ラミネート用材料として用いることができる無延伸ポリプロピレン系フィルムが特に好ましい。本発明において、無延伸ポリプロピレン系フィルムに植物由来の低密度ポリエチレンが含有されていてもよい。前記植物由来の低密度ポリエチレンとは、バイオマス由来のポリエチレンの原料から製造されたフィルムである。エチレンの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法により得ることができる。例えば、バイオマス由来のポリエチレンの製造方法として、バイオマス由来のエタノールを原料として製造することができる。特に、植物原料から得られるバイオマス由来の発酵エタノールを用い、植物原料は特に限定されず、従来公知の植物を用いることができる。例えば、トウモロコシ、サトウキビ、ビート、およびマニオクを挙げることができる。植物由来のバイオマスポリエチレン系樹脂を用いることによりバイオマス度の高い積層フィルムを提供することができる。また、本発明の無延伸ポリプロピレン系フィルムには、本発明の目的とする光沢度、酸素透過率、密着強度を阻害しない範囲で、酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、帯電防止剤、塩酸吸収剤、耐ブロッキング剤、滑剤等を含むことができる。これらの添加剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明において無機化合物とは、少なくともアルミニウム、酸素原子を含有し、非基材フィルム側からのX線光電子分光法のデプス分析においてアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)が10nm以上80nm以下であり、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)が、無機化合物層の厚さの50%以上75%以下であると共に、測定される該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値が3つ存在し、酸素原子のピーク濃度が20atm%以上である無機化合物である。
【0023】
前記非基材フィルム側からのX線光電子分光法のデプス分析においてアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)は、10nm以上80nm以下が好ましい。さらに好ましくは、30nm以上50nm以下である。10nmより少なくなると、後述する非基材フィルム側および基材フィルム側からの光沢度が目的とする光沢度を得られず、80nmを超えると、積層フィルム製造時に基材フィルムに対する熱負荷が増大し、外観の不良が発生しやすい状態になり、安定して製造を行う事が難しくなる。前記X線光電子分光法のデプス分析とは、X線光電子分光測定器(Physical Electronics社製Quantera XPS/ESCA)でArイオンを用いて1.0keVでエッチング処理しながら、深さ方向組成分析を行い、非基材フィルム側から、原子組成毎の原子濃度のデプスプロファイルを得る分析のことをいい、エッチング深さの絶対値は、SiOのエッチングレートとエッチング時間により換算する。
【0024】
前記、O/Alが、0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)は、無機化合物層の厚さの50%以上75%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、60%以上70%以下である。O/Alが、0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)が、無機化合物層の厚さの50%より少なくなると、後述する酸素透過率が大きくなり、目的とする酸素透過率が得られず、後述する密着強度が低下し、目的とする密着強度が得られなくなり、75%を超えると積層フィルム製造時に基材フィルムへの熱負荷が増加し、後述する非基材フィルム側および基材フィルム側からの光沢度が目的とする光沢度を得られず、さらには、後述する酸素透過率が大きくなり、目的とする酸素透過率が得られなくなる場合がある。
【0025】
前記無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値とは、上述のデプス分析で得られる酸素濃度の関数f´(x)の符号がx=aの前後で,正から負もしくは負から正に変わるときのことをいう。測定される該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値は、3つ存在することが好ましい。該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値が、3つより少ない場合は、目的とする酸素透過率が得られず、後述する密着強度が低下し、目的とする密着強度が得られなくなる場合があり、3つを超える場合は、生産性の低下や、必要設備の増加に伴いコストが増加することとなる場合がある。
【0026】
前記酸素原子のピーク濃度とは、上述の酸素濃度極大値での酸素濃度のことをいう。前記酸素原子のピーク濃度は、20atm%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、30atm%以上である。前記酸素原子のピーク濃度が、20atm%未満となると後述する密着力が目的とする密着力が得られない場合がある。
【0027】
また、前記アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)は、20nm以上100nm以下が好ましい。さらに好ましくは、40nm以上、80nm以下である。前記アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)が、20nmより少なくなると、後述する密着強度が低下し、目的とする密着強度が得られなくなる場合があり、さらには、後述する酸素透過率が大きくなり、目的とする酸素透過率が得られなくなる場合があり、100nmを超えると、積層フィルム製造時に基材フィルムへの熱負荷が増加し、外観不良となり、実用上使用できなくなる場合がある。前記基材フィルムと無機化合物の界面とは、上述のデプス分析において、非基材フィルム側からエッチングを行った場合のエッチングの最終盤における炭素の最大値組成の半分の組成の位置とした。
【0028】
上述の酸素原子濃度のピークは、1か所以上が連続していることが好ましい。本発明の酸素濃度ピークが連続しているとは、デプス分析による酸素濃度の極大値間の距離が、10nm以内となった場合のことをいう。前記酸素原子濃度のピークは、1か所以上連続していることが好ましい。前記酸素原子濃度のピークは、1か所以上連続することで、後述する酸素透過率および密着強度が、目的するものとなる。前記酸素原子濃度のピークが、連続していない場合は、本発明で目的とする酸素透過率および密着強度が、得られない場合がある。
【0029】
本発明において、非基材フィルム側からの光沢度とは、非基材フィルム側表面へ一定の角度で光を照射し、反射した光の数値のことをいい、基材フィルム側からの光沢度とは、基材フィルム側表面へ一定の角度で光を照射し、反射した光の数値のことをいう。非基材フィルム側からの光沢度の詳細な測定方法としては、スガ試験機株式会社の変角光沢度計 タイプ:UGV-5Dを用いて、JIS Z8741(1983年)に従って、非基材フィルム側面に対して入射角60゜/反射角60゜で測定し、測定値をフィルムの巾方向3点の平均値を光沢度とした。
【0030】
本発明において、非基材フィルム側からの光沢度は、長手方向(MD)、幅方向(TD)ともに750%以上850%以下が好ましい。また、本発明の基材フィルム側からの光沢度は、MD、TDともに450%以上550%以下が好ましい。非基材フィルム側からの光沢度が、MD、TDともに750%より少ない場合、後述する包装体とした場合に、外観が不良となり、実用上問題となり、850%を超えると積層フィルム製造時に、基材フィルムへの熱の影響が大きくなり、基材フィルムが変形、破れを起こすことにより、本発明の目的とする積層フィルムが得られなくなる場合がある。本発明の基材フィルム側からの光沢度は、MD、TDともに450%より少なくなると、後述する包装体とした場合に、外観が実用に耐えない状態となり、550%を超えると、積層フィルム製造時に、基材フィルムに対する熱の影響が大きくなり、基材フィルムが変形、破れを起こし本発明の目的とする積層フィルムが得られなくなる場合がある。
【0031】
本発明の積層フィルムの酸素透過率とは、ASTM D-3985に準じて、酸素透過率測定装置(モダンコントロール社製、OX-TRAN100)を用いて、23℃、90%RHの条件下で測定した酸素透過率のことをいう。前記酸素透過率は、5cc/(m・atm・24h)以下であることが好ましい。さらに好ましくは、3cc/(m・atm・24h)以下である。酸素透過率が、5cc/(m・atm・24h)を超えると、後述する包装体に内容物を保管時に大気中の酸素が包装体の中に入り、内容物が酸化され、内容物の保管期間が短くなる場合がある。
【0032】
本発明の基材フィルムと無機化合物層との密着強度とは、基材フィルム層と無機化合物層との密着強度のことをいう。密着強度測定方法としては、ポリエステルフィルムとして東レ(株)製二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(登録商標)P60タイプ(厚さ12μm)のコロナ処理面を接着剤層と向かい合うように本発明の積層フィルムの無機化合物層上に重ね、富士テック(株)製“ラミパッカー”(登録商標)LPA330を用いて、ヒートロールを40℃に加熱して貼り合わせる。この貼り合わせたフィルムを40℃に加熱したオーブン内で2日間エージングしてラミネートフィルムを得る。次に該ラミネートフィルムを幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、(株)エー・アンド・デイ製引張り試験機(RTG-1210タイプ)を使用して積層フィルムとポリエチレンテレフタレートフィルム間を界面として、Tピール法により引張り速度300mm/minで剥離し、剥離時の最大強度を測定した。得られた値を密着強度(N/15mm)とした。本発明の密着強度は、1.0N/15mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは、1.3N/15mm以上である。前記密着強度が、1.0N/15mm未満となると包装体となった時に、基材フィルムと無機化合物層間での剥がれが発生し、包装体としての適性がなくなる場合がある。
【0033】
本発明の包装体とは、本発明の積層フィルムを接着剤などの接着成分を介して貼り合わせ、袋状としたものである。貼り合わせる面は無機化合物層側同士の場合や、一方が無機化合物層でもう一方が基材とで貼り合わせる場合であってもよい。本発明の包装体は、本発明の積層フィルムを用いることで密着性とガスバリア性に優れている。そのため内容物充填後に剥離などの不良が発生せず安全に内容物を保存することができるため、例えば輸送中、保管中に振動などでの剥離が発生しない包装体を提供することができる。
【0034】
本発明の積層フィルムの製造方法は、真空雰囲気下で基材フィルムが、アルミニウム蒸気雰囲気を通過する際、アルミニウム蒸気雰囲気に酸素ガス導入量が1.9cc/m以上、3.5cc/m以下となるように酸素を供給し、光学濃度が0.5以上1.0以下となるようにアルミニウム蒸発量を調整し、第1層を形成した後、第1層に酸化処理を施し、その上に1回以上の層を形成する本発明の積層フィルムの製造方法であって、前記第1層の酸化処理が、少なくとも大気酸化処理、酸素導入処理、酸素プラズマ処理、酸素イオンビーム処理のいずれかである積層フィルムの製造方法である。本発明において、酸素ガス導入量とは、酸素導入量(cc/min)を基材フィルム搬送速度(m/min)、フィルム幅(m)をかけることによって得られる値である。前記酸素ガス導入量は、酸素ガス導入量が2.4cc/m以上、2.8cc/m以下が好ましい。前記酸素ガス導入量が、1.9cc/m未満となると目的とする密着強度が得られない場合があり、3.5cc/mを超えると過剰な酸素導入となり、マシンの負荷が大きくなり、必要以上の設備が必要となる場合がある。また、前記光学濃度が0.5以上1.0以下となるようにアルミニウム蒸発量を調整し、第1層を形成した後、第1層に酸化処理を施し、その上に1回以上の層を形成することが好ましい。前記光学濃度を0.5以上1.0以下となるようにアルミニウム蒸発量を調整し、第1層を形成することで、その上に1回以上の層を形成した場合に、本発明の目的とする酸素透過率、密着強度を得ることができる。本発明では、第1層を形成した後、第1層に酸化処理を施すことが好ましい。前記第1層の酸化処理は、少なくとも大気酸化処理、酸素導入処理、酸素プラズマ処理、酸素イオンビーム処理のいずれかであり、これらの処理を単独で行ってもよいし、組み合わせて行ってもよい。前記大気酸化処理とは、第1層を形成後に、大気に暴露し、大気中の酸素で酸化する処理のことをいう。また、酸素導入処理は、真空雰囲気下で基材フィルムが、アルミニウム蒸気雰囲気を通過する際、酸素ガスを導入する処理および上述の大気中の酸素で酸化する場合に、酸素ガスを第1層表面に吹き付ける方法があげられる。また、前記酸素プラズマ処理は、プラズマ雰囲気を発生することができる電極に、酸素ガスを導入し、酸素プラズマを発生したのち、酸素プラズマに暴露することによる処理方法である。また、前記酸素イオンビーム処理とは、酸素イオンビーム発生装置に酸素ガスを導入したのち、酸素イオンビームを発生させ、本酸素イオンビーム雰囲気下で処理する方法である。
【実施例0035】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
[特性の評価方法]
本発明の積層フィルムの特性は、以下の評価方法を用いて評価した。
【0037】
(1)光沢度
1)非基材フィルム側からの光沢度
スガ試験機株式会社の変角光沢度計 タイプ:UGV-5Dを用いて、JIS Z8741(1983年)に従って、非基材フィルム側面に対して入射角60゜/反射角60゜で測定し、測定値をフィルムの巾方向3点の平均値を光沢度とした。
2)基材フィルム側からの光沢度
上述の非基材フィルム側面を基材フィルム側に変更した以外は、上述と同じ方法で測定した。
【0038】
(2)酸素透過率(cc/m・24hr・atm)
ASTM D-3985に準じて、酸素透過率測定装置(モダンコントロール社製、OX-TRAN100)を用いて、23℃、90%RHの条件下で、本発明の積層フィルムの酸素透過率を測定した。
【0039】
(3)密着強度(N/15mm)
ポリエステルフィルムとして東レ(株)製二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(登録商標)P60タイプ(厚さ12μm)のコロナ処理面を接着剤層と向かい合うように本発明の積層フィルムの無機化合物層上に重ね、富士テック(株)製“ラミパッカー”(登録商標)LPA330を用いて、ヒートロールを40℃に加熱して貼り合わせる。この貼り合わせたフィルムを40℃に加熱したオーブン内で2日間エージングしてラミネートフィルムを得る。次に該ラミネートフィルムを幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、(株)エー・アンド・デイ製引張り試験機(RTG-1210タイプ)を使用して積層フィルムとポリエチレンテレフタレートフィルム間を界面として、Tピール法により引張り速度300mm/minで剥離し、剥離時の最大強度を測定した。
【0040】
(4)包装体の作製方法と内容物保管試験方法
上述の方法で得られたラミネートフィルムの基材フィルム側同士を向かい合うように重ね、富士テック製“ラミパッカー”(登録商標)LPA330を用いて、ヒートロールを115℃に加熱して3方を熱融着貼り合わせし、横300mm、縦300mmの包装体を作製した。得られた包装体に、内容物として、レンコンを5mm幅にカットして、すぐに包装体の中に入れ、最後の4辺目を上述同じ方法で熱融着し、内容物入りの包装体を作製した。作製した内容物入りの包装体を25℃、相対湿度65%の環境下に、30日間保管し、保管後に内容物を取り出し、内容物の状態を確認した。レンコン断面の変色した面積が、全体面積に対して10%以下の場合、評価を〇、変色面積が全体面積に対して10%を超えていた場合、評価を×とした。
【0041】
(実施例1)
巻取り方式の真空蒸着装置を使用し、厚さ25μmの無延伸ポリプロピレン系フィルム(東レフィルム加工株式会社製、製品名9041)を基材とし、基材フィルムを搬送させながら真空蒸着装置の蒸着室の入り口側から酸素ガス導入量を2.4cc/m供給し、インライン透過率計を用い光学濃度が1.0となるようにアルミニウムを溶解、蒸発量を調整し、第1層を形成し、第1層つき基材フィルムをロール状に巻き取った。その後、真空蒸着装置の真空槽を大気開放し、得られた第1層つきの基材フィルムを大気暴露した後、前記ロールフィルを操出側に取り付け、前記第1層つき基材フィルムを巻き出し、搬送させながら真空蒸着装置の蒸着室の入り口側から酸素ガス導入量を2.4cc/m供給し、インライン透過率計を用い光学濃度2.0となるようにアルミニウム蒸着量を調整し、本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、真空蒸着装置の蒸着室の入り口側から酸素ガス導入量を3.1cc/m供給しながら、インライン透過率計を用い光学濃度が0.8となるようにアルミニウムを溶解、蒸発量を調整し、第1層を形成した後、そのまま連続して、真空蒸着装置の第2の蒸着室の入り口側から酸素ガス導入量を4.3cc/m供給しながらインライン透過率計を用い光学濃度3.0となるようにアルミニウムを溶解、蒸発量を調整し、本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0043】
(実施例3)
実施例1において、真空蒸着装置の蒸着室の入り口側から酸素ガス導入量を1.9cc/m供給しながら、インライン透過率計を用い光学濃度が0.5となるようにアルミニウムを溶解、蒸発量を調整し、第1層を形成した後、そのまま連続して、プレーナー型のプラズマ電極を用いて酸素プラズマ処理(処理強度:1700W、電源:米グラスマン・ハイボルテージ社SHタイプ)を行いながら、インライン透過率計を用い光学濃度2.5となるようにアルミニウムを溶解、蒸発量を調整し、本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0044】
(実施例4)
実施例1において、真空蒸着装置の蒸着室の入り口側から酸素ガス導入量を3.6cc/m供給しながら、インライン透過率計を用い光学濃度が0.6となるようにアルミニウムを溶解、蒸発量を調整し、第1層を形成した後、そのまま連続して、酸素イオンビーム(処理強度:1700W、使用した電源:米グラスマン・ハイボルテージ社SHタイプ)処理を行いながら、インライン透過率計を用い光学濃度2.4となるようにアルミニウムを溶解、蒸発量を調整し、本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0045】
(比較例1)
真空蒸着装置の蒸着室の入り口側からの酸素ガス導入量を5.9cc/mとし、インライン透過率計を用いた光学濃度が2.5となるような方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0046】
(比較例2)
比較例1において、真空蒸着装置の蒸着室の入り口側からの酸素ガス導入量を19.0cc/m、インライン透過率計を用いた光学濃度が1.0となるようにした以外は、比較例1と同じ方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0047】
(比較例3)
真空蒸着装置の蒸着室の入り口側からの酸素導入を行わずインライン透過率計を用い光学濃度を1.0となるように第1層を形成した後、大気暴露を行い光学濃度が2.0となるようにした以外は、実施例1と同じ方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0048】
(比較例4)
真空蒸着装置の蒸着室の入り口側からの酸素導入を行わずインライン透過率計を用い光学濃度が2.1となるようにした以外は、比較例2と同じ方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用いて、包装体を作製した。
【0049】
(比較例5)
実施例1の第1層を形成する時の酸素ガス導入量を1.4cc/mとした以外は、実施例1と同じ方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを用い、包装体を作製した。
【0050】
以上の実施例、比較例の積層フィルムのアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)、該無機化合物層内の酸素原子濃度の極大値の数、酸素原子のピーク濃度、アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)、前記酸素原子濃度のピークの連続個所数、非基材フィルム側からの光沢度、基材フィルム側からの光沢度、酸素透過率、基材フィルムと無機化合物層との密着強度および包装体の内容物保管試験をそれぞれ測定、評価した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1~4、比較例1~5より、次のことが判る。
【0053】
比較例1では、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)が薄くなると共に、アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)が薄くなる。そのため、必要な酸素透過率、密着強度を得るための酸化アルミ層を形成できていない。
【0054】
比較例2では、積層フィルムのアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)が薄くなり、O/Alが0.2以上1以下を満たす部分の厚さ(B)の無機化合物層の厚さに対する割合が厚くなる。これにより非基材フィルム側、基材フィルム側共に必要な光沢度が得られないが、必要な酸素透過率、密着強度を得ることができる。
【0055】
比較例3では、アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)が薄くなる。そのため、必要な酸素透過率、密着強度を得るための酸化アルミ層を形成できていない。
【0056】
比較例4では、積層フィルムのアルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2未満である部分の厚さ(A)が薄くなる。そのため、必要な酸素透過率、密着強度を得るための酸化アルミ層を形成できていない。
【0057】
比較例5では、アルミニウム原子数に対する酸素原子数の比(O/Al)が0.2以上1以下であって、基材フィルムと無機化合物の界面から測定される厚さ(C)が薄くなる。そのため、必要な酸素透過率、密着強度を得るための酸化アルミ層を形成できていない。