(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133925
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/10 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
B23B27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039187
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】川名 雄也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 健志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聖士
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046BB07
(57)【要約】
【課題】切りくずの排出性の向上及び工具の摩擦を抑制することができる切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具は、刃先に向かってクーラントを供給可能な切削工具であって、一方向に長さを有する工具本体は、長手方向に延びるクーラント流路と、前記クーラント流路の先端に連通する吐出口と、前記吐出口を介して前記クーラント流路の前記先端に連通する溝部と、を有し、前記溝部は、前記吐出口の直径よりも大きい幅で形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃に向かってクーラントを供給可能な切削工具であって、
一方向に長さを有する工具本体は、
長手方向に延びるクーラント流路と、
前記クーラント流路の先端に連通する吐出口と、
前記吐出口を介して前記クーラント流路の前記先端に連通する溝部と、を有し、
前記溝部は、前記吐出口の直径よりも大きい幅で形成されている、
切削工具。
【請求項2】
前記工具本体は、前記溝部よりも前記工具本体の先端に位置するとともに前記切刃を取り付け可能な取付部を有し、
前記溝部は、前記吐出口の直径よりも大きい幅で形成されている、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記クーラント流路の中心軸は、前記工具本体の中心軸に対して径方向にずれており、前記クーラント流路の前記中心軸の延長線上に前記刃先が位置する、
請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記クーラント流路は、先端側から順に並ぶ第1流路と、第2流路とを少なくとも有し、
前記第1流路、前記吐出口、及び前記溝部の各中心軸は互いに同軸をなす、
請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記工具本体の内側に挿入される流路形成部材を備え、
前記流路形成部材は、
先端が前記吐出口に連通するとともに前記クーラント流路の少なくとも一部を形成する第2貫通孔を有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記溝部は、前記工具本体の外周面のうち、前記切刃の逃げ面と同じ方向を向く面に形成されている、
請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記溝部は、前記工具本体の外周面うち、前記切刃のすくい面と同じ方向を向く面に形成されている、
請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記クーラント流路の基端側は、先端側よりも前記工具本体の内側に位置する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
前記溝部は、前記吐出口側の基端から先端へ行くにしたがって幅が広がるテーパ形状をなす、
請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工を行う際に切りくずが発生するが、その切りくずが切削インサートに絡むことで切刃に破損が生じてしまうことがある。これを防ぐために、切削加工中においては、切削箇所に向けて切削油(以下、クーラント)を供給し、被切削材に対する切削インサートの潤滑性や切削性を向上させることが一般的となっている。
【0003】
しかしながら、切削加工中にクーラントを供給する場合、クーラントの供給圧力が低いことや、切削加工点にクーラントを直接当てることが難しいため、切りくずを完全に除去することは困難であった。
【0004】
そこで、近年、クーラントが工具ホルダ内を経由して、切削加工点にクーラントを直接供給することが可能な内部給油型の工具ホルダが増えている。また、クーラントの供給圧力を高めるために、高圧クーラントポンプの活用が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/139401号
【特許文献2】再公表WO2015/056496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、外径加工用の内部給油型工具ホルダが開示されている。また、特許文献2では、内径加工用の内部給油型工具ホルダが開示されており、円筒状のガイドスリーブを備えている。しかしながら、このような内径加工用の内部給油型の工具ホルダの場合、例えば、ガイドスリーブから噴射したクーラントが刃先に到達する前に、他の部材と接触するため、クーラントの供給圧力が減少してしまう。また、クーラントの吐出口を刃先近傍に設けることができないため、内径加工点に高圧のクーラントを供給することが難しい。さらには、ガイドスリーブ内の乱流等により、圧力損失が発生する可能性が高いため、高い圧力を保ってクーラントを噴出することが困難であった。
このような理由から、切削インサートの刃先に十分なクーラントを供給することができず、切りくず絡みや工具摩擦の進行が進んでしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、切りくずの排出性の向上及び工具摩擦を抑えることのできる工具ホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一つの形態の切削工具は、刃先に向かってクーラントを供給可能な切削工具であって、一方向に長さを有する工具本体は、長手方向に延びるクーラント流路と、前記クーラント流路の先端に連通する吐出口と、前記吐出口を介して前記クーラント流路の前記先端に連通する溝部と、を有し、前記溝部は、前記吐出口の直径よりも大きい幅で形成されている。
【0009】
また、刃先に向かってクーラントを供給可能な切削工具であって、前記工具本体は、前記溝部よりも前記工具本体の先端に位置するとともに切刃を取り付け可能な取付部を有し、前記溝部は、前記吐出口の直径よりも大きい幅で形成されている構成としてもよい。
【0010】
また、前記クーラント流路の中心軸は、前記工具本体の中心軸に対して径方向にずれており、前記クーラント流路の前記中心軸の延長線上に前記刃先が位置する構成としてもよい。
【0011】
また、前記クーラント流路は、先端側から順に並ぶ第1流路と、第2流路とを少なくとも有し、前記第1流路、前記吐出口、及び前記溝部の各中心軸は互いに同軸をなす構成としてもよい。
【0012】
また、前記工具本体の内側に挿入される流路形成部材を備え、前記流路形成部材は、先端が前記吐出口に連通するとともに前記クーラント流路の少なくとも一部を形成する第2貫通孔を有する構成としてもよい。
【0013】
また、前記溝部は、前記工具本体の外周面のうち、前記切刃の逃げ面と同じ方向を向く面に形成されている構成としてもよい。
【0014】
また、前記溝部は、前記工具本体の外周面うち、前記切刃のすくい面と同じ方向を向く面に形成されている構成としてもよい。
【0015】
また、前記クーラント流路の基端側は、先端側よりも前記工具本体の内側に位置する構成としてもよい。
【0016】
また、前記溝部は、前記吐出口側の基端から先端へ行くにしたがって幅が広がるテーパ形状をなす構成としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、切りくずの排出性の向上及び工具摩擦を抑えることが可能な工具ホルダを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、第1実施形態の切削工具の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態における本体部の構成を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す本体部のV-V線に沿う断面図である。
【
図6】
図6は、本体部を軸方向先端側から見た図である。
【
図7】
図7は、流路形成部材の全体構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7に示すVIII-VIII線に沿う断面図である。
【
図9】
図9は、流路形成部材を先端側から見た図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態における工具本体に対して着脱可能に取り付けられる切削インサートの全体構成を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、切削工具(工具本体に対して切削インサートが取り付けられた状態)を示す上面図である。
【
図15】
図15は、
図11に示す切削インサートとその周辺の構造を部分的に示す部分拡大図である。
【
図18】
図18は、切削工具における吐出口の直径と、クーラントの吐出圧力との関係を示すグラフである。
【
図19A】
図19Aは、流路形成貫通孔の中心軸に対して吐出口が同軸である場合のクーラントの流動状態を示す図である。
【
図20A】
図20Aは、流路形成貫通孔の中心軸に対して吐出口が径方向にずれている構成の場合のクーラントの流動状態を示す図である。
【
図21】
図21は、第2実施形態の切削工具の全体構成を示す斜視図である。
【
図23】
図23は、第3実施形態の切削工具の全体構成を示す斜視図である。
【
図25】
図25は、第4実施形態の切削工具の全体構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のいくつかの実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0020】
<第1実施形態>
「切削工具」
本発明に係る第1実施形態の切削工具100について説明する。
図1は、第1実施形態の切削工具100の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の切削工具100は、被削材Wの有底穴などの内径加工等の切削加工に用いられる。切削工具100は、例えば、図示しないNC旋盤などの工作機械に着脱可能に取り付けられる。また、本実施形態の切削工具100は、内径加工用の内部給油型工具であり、刃先に向かってクーラントを供給する。
【0021】
本実施形態の切削工具100は、刃先交換式の切削工具であって、工具本体10と、工具本体10に対して着脱可能に取り付けられる切削インサート1と、を備える。切削工具100は、一方向に長さを有し、工具中心軸Pを中心として不図示の工作機械の挿嵌固定されている。
【0022】
各図において、本実施形態では、工具本体10の工具中心軸Pが延びる方向を工具軸方向と呼ぶ。各図に示すXYZ直交座標系において、工具軸方向はX軸に相当する。工具軸方向のうち、+X側を先端側、-X側を基端側と呼ぶ。また、工具中心軸P(X方向)に直交する方向(径方向)のうち、Y方向を工具本体10の幅方向と呼ぶ。工具中心軸P(X方向)及び幅方向(Y方向)に直交するZ方向を工具本体10の上下方向と呼ぶ。切削インサート1のインサート中心軸COは、工具本体10の上下方向に沿って延びる。
【0023】
[工具本体]
図1に示すように、工具本体10は、略円柱形状をなす本体部10Aと、本体部10Aの内側に挿入される流路形成部材10Bと、を有する。
【0024】
(本体部)
図2は、第1実施形態における本体部10Aの構成を示す斜視図である。
図3は、本体部10Aの上面図である。
図4は、本体部10Aの側面図である。
図5は、
図1に示す本体部10AのV-V線に沿う断面図である。
図6は、本体部10Aを軸方向先端側から見た図である。
【0025】
図2~
図5に示すように、本体部10Aは、外周面に、+Z方向を向く上面10aと、-Z方向を向く下面10bと、-Y方向を向く右側面10cと、を有し、いずれも工具中心軸Pに沿って平行に延びている。これら上面10a、下面10b、及び右側面10cは、切削工具100を工作機械に固定する際の基準面をなす面であり、切削工具100の周方向の位置決めがなされるように形成されている。
【0026】
本体部10Aの工具軸方向の先端側には、上面10aから-Z方向の下方へ向かって凹む第1切欠き部12と、右側面10cから+Y方向の左側へ向かって凹む第2切き欠部13と、が形成されている。切欠き部12,13は、工具軸方向(X方向)の先端から1/3程度の領域に形成されており、各々の底部に、工具軸方向に平行し、+Z方向を向く切欠き面12aと、-Y方向を向く切欠き面13cと、を有する。
【0027】
切欠き面12aは、外周面の一部である上面10aよりも径方向内側(-Z側)であって工具中心軸Pよりも上面10a側に位置する。切欠き部12の基端側には、切欠き面12aと上面10aとを繋ぐ傾斜面12bが形成されている。傾斜面12bは、軸方向基端側へ行くにしたがって上面10aに近づく傾斜をなす。
【0028】
切欠き面13cは、外周面の一部である右側面10cよりも径方向内側(+Y側)であって工具中心軸Pよりも右側面10c側に位置する。切欠き部13の基端側には、切欠き面13cと右側面10cとを繋ぐ傾斜面13bが形成されている。傾斜面13bは、軸方向基端側へ行くにしたがって右側面10cに近づく傾斜をなす。傾斜面13bは、上記傾斜面12bよりも基端側に位置し、工具軸方向において、傾斜面13bの先端が傾斜面12bの基端の位置と一致する。
【0029】
本体部10Aの工具軸方向の先端側には、上記切欠き面12aに開口するチップポケット(取付部)14が形成されている。チップポケット14は、工具本体10(本体部10A)に対して着脱可能に取り付けられる切削インサート1(
図1)が配置される部分である。チップポケット14は、切欠き面12aから-Z方向の下方へ向かって凹む凹形状を呈する。チップポケット14は、切欠き面12aに開口するだけでなく、切欠き面13c及び先端面10dにも開口する。
【0030】
チップポケット14は、
図10及び
図15に示すように、後述する切削インサート1の着座面3(
図10)を拘束する底部拘束面14aと、切削インサート1の長辺側側面4a(
図10)を拘束する側方拘束面14bと、切削インサート1の斜面4c(
図10)を拘束する傾斜拘束面14cと、を有する。側方拘束面14bは、
図3に示すように、工具中心軸Pに平行する。傾斜拘束面14cは、
図3に示すように、チップポケット14の軸方向長さの半分よりも後端側に形成されており、先端側から後端側へ行くにしたがって側方拘束面14bに近づく方向へ傾斜している。
【0031】
切削インサート1は、底部拘束面14aから下面10bへと貫通する螺子孔15に螺合される取付螺子(不図示)によって工具本体10(本体部10A)に取り付けられる。螺子孔15は、工具中心軸Pに対して略直交する方向に延びる。
【0032】
本実施形態の工具本体10は、
図2に示すように、長手方向(工具軸方向:X方向)に延びるクーラント流路7と、クーラント流路7の先端に連通する吐出開口(吐出口)8と、吐出開口8を介してクーラント流路7の先端に連通する溝部9と、を有する。
本体部10Aには、工具軸方向に貫通する流路形成貫通孔16が形成されている。流路形成貫通孔16は、上記クーラント流路7を形成するためのもので、直径が異なる複数の貫通孔によって構成されている。本実施形態の流路形成貫通孔16は、直径が異なる3つの第1貫通孔(第1流路)16A,第2貫通孔16B,及び第3貫通孔(第2流路)16Cを有する。
【0033】
これら貫通孔16A,16B,16Cは、
図2に示すように、軸方向先端側からこの順で並んでおり、基端側へ行くに従って径が大きくなっている。すなわち、貫通孔16A、16B,16Cの各直径D1,D2,D3は、D1<D2<D3の関係を満たす。なお、貫通孔16Cの直径D3は、先端(貫通孔16B)側の直径である。
【0034】
ここで、貫通孔16A,16Bの直径は、軸方向に一定である。一方、本体部10Aの最も基端側に位置する貫通孔16Cは、先端(貫通孔16B)側から基端へ行くにしたがって拡径するテーパ形状をなし、本体部10Aの基端面に開口している。貫通孔16cの内側には、ねじ部16dが形成されており、クーラント供給ホースの継手が取り付けられる。このような継手を介して接続されるクーラント供給ホースから工具本体10内に所定の圧力でクーラントが供給される。
【0035】
また、貫通孔16A、16B,16Cの軸方向長さL1,L2,L3は、L2<L3<L1の関係を満たし、最も直径が小さい貫通孔16Aの軸方向長さL1が最も長い。
【0036】
これら貫通孔16A,16B,16Cは、互いに同軸に形成されている。このような流路形成貫通孔16の中心軸Oは、工具中心軸Pに平行であるとともに、工具中心軸Pに対して径方向(-Y方向)にずれている。
【0037】
なお、本実施形態の構成に限られず、流路形成貫通孔16の中心軸Oが工具中心軸Pに対して所定の角度で傾斜していてもよいし、貫通孔16A,16B,16Cのうち、少なくともいずれか1つの貫通孔が同軸でなくてもよい。
【0038】
流路形成貫通孔16の先端側には、貫通孔16Aの直径よりも小さい直径を有するノズル孔17が形成されている。ノズル孔17は、その基端側が貫通孔16Aの先端面に開口し、当該流路形成貫通孔16の先端側に連通している。一方、ノズル孔17の先端側は、上記傾斜面13bに開口している。ノズル孔17は、軸方向に所定の長さを有している。本実施形態のノズル孔17は軸方向に一定の直径で形成され、上記流路形成貫通孔16と同軸をなす。
【0039】
本体部10Aの右側(-Y方向)を向く切欠き面13cには、ノズル孔17を介して流路形成貫通孔16の先端に連通する溝部9が形成されている。すなわち、溝部9は、切削インサート1の逃げ面と同じ方向を向く面(上記切欠き面13c)に形成されている。溝部9は、切欠き面13cから左側(+Y方向)へ凹む溝であって、その先端側が上記チップポケット14に達する。溝部9のZ方向の幅は、上記ノズル孔17の直径と略等しい。溝部9の中心軸は、ノズル孔17及び流路形成貫通孔16の中心軸と一致する。
【0040】
本実施形態の本体部10Aは、例えば、鋼材等から構成されている。
【0041】
(流路形成部材)
図7は、流路形成部材10Bの全体構成を示す斜視図である。
図8は、
図7に示すVIII-VIII線に沿う断面図である。
図9は、流路形成部材10Bを先端側から見た図である。
流路形成部材10Bは、上述した本体部10Aの内側に組み込まれる。流路形成部材10Bは、本体部10Aの内部に形成された流路形成貫通孔16の先端側、すなわち第1貫通孔16A内に挿入される。
【0042】
流路形成部材10Bは、先端部を除いて軸方向に一定の直径で形成された円筒体である。流路形成部材10Bの先端部は、先細りになっており、先端側(+X方向)へ行くにしたがって縮径するテーパ形状をなす。先端部は、円形状の先端面10Baと、先端面10Baの径方向外側であって軸方向先端側から見て環状をなすテーパ面10Bbと、を有する。
【0043】
一方、流路形成部材10Bの後端部には、外周面から径方向に凹む環状の凹部21が形成されている。環状凹部21は、流路形成部材10Bの後端から軸方向先端側へ僅かに離れた所に位置し、周方向に一定の深さ及び一定の幅で形成されている。この環状凹部21の内側には、流路形成部材10Bを本体部10Aに固定するための接着剤が塗布される。
【0044】
流路形成部材10Bの軸方向長さL10Bは、上記流路形成貫通孔16のうち、第1貫通孔16Aの軸方向長さL1に一致する。すなわち、軸方向において、流路形成部材10Bの先端面10Baは、上述した本体部10Aにおける流路形成貫通孔16(第1貫通孔16A)の先端面16a(
図5)の位置と一致し、当該先端面16aに当接する。一方、流路形成部材10Bの後端面は、軸方向において、流路形成貫通孔16の中間に位置する第2貫通孔16Bの先端面16bの位置と一致し、第2貫通孔16B内には突出しないことが好ましい。
【0045】
流路形成部材10Bは、
図8に示すように、内側に流路形成貫通孔19を有する。流路形成貫通孔19は、本実施形態のクーラント流路7の一部を構成する。本実施形態の流路形成貫通孔19は、軸方向に一定の直径で形成された貫通孔19Aと、貫通孔19Aの先端側に連通するテーパ孔19Bと、テーパ孔19Bの先端側に連通する吐出孔19Cと、を有する。貫通孔19A,テーパ孔19B及び吐出孔19Cは同軸をなす。また、吐出孔19Cの直径は、貫通孔19Aの直径よりも小さく、軸方向に一定である。本実施形態において、吐出孔19Cの直径は、例えば、1.0mm以下であることが好ましい。
【0046】
流路形成部材10Bが本体部10A内に挿入された状態における吐出孔19Cの先端(吐出口19d)の位置は、上述した本体部10Aのノズル孔17の基端の位置に一致する。本実施形態において、吐出孔19C(吐出口19d)の直径は、本体部10Aのノズル孔17の直径よりも小さいことから、
図6に示すように軸方向先端側から見たときに、流路形成部材10Bの吐出口19dがノズル孔17内に露出する。
【0047】
すなわち、流路形成部材10Bの吐出孔19C(吐出口19d)よりも本体部10Aのノズル孔17の直径の方が大きいため、吐出孔19C(吐出口19d)から吐出されたクーラントがノズル孔17の内周面に接触しにくく、吐出速度の低下を抑えられる。なお、吐出口19dの直径は、基端側開口19eよりも小さく、本体部10Aに形成された溝部9の幅よりも小さい。
【0048】
このような流路形成部材10Bが本体部10Aの内部に固定されることによって、工具本体10が構成される。
工具本体10の基端側には、クーラント供給ホースの継手が接続されるため、工具本体10内に形成されるクーラント流路7は、基端側から順に並ぶ、本体部10Aの第2貫通孔16Bと、流路形成部材10Bの流路形成貫通孔19と、本体部10Aの吐出開口8と、を有する。クーラント流路7の中心軸Oは、上述したように工具中心軸Pに平行して長手方向に延び、切削インサート1の刃先と一致している。
【0049】
本実施形態の流路形成部材10Bは、例えば、本体部10Aと同じ鋼材から構成されている。
【0050】
[切削インサート]
図10は、第1実施形態における工具本体10に対して着脱可能に取り付けられる切削インサート1の全体構成を示す斜視図である。
図11は、切削工具100(工具本体10に対して切削インサート1が取り付けられた状態)を示す上面図である。
図12は、切削工具100を示す右側面図である。
図13は、切削工具100を示す下面図である。
図14は、切削工具100を示す左側面図である。
図15は、
図11に示す切削インサート1とその周辺の構造を部分的に示す部分拡大図である。
【0051】
本実施形態の切削インサート1は、本体部10Aよりも硬質な材料からなり、例えば超硬合金、サーメット、セラミック、ダイヤモンド、CBN等から構成されている。
【0052】
図10に示すように、切削インサート1は、チップ本体1Aと、切刃部1Bとを有する。チップ本体1Aは、平面視略台形状を呈し、一端側が細くなっている。チップ本体1Aの中央には、厚さ方向に貫通する取付孔6が形成されている。切削インサート1は、取付孔6内に挿通される取付螺子によって、上述した工具本体10に対して固定される。
【0053】
チップ本体1Aは、平面視における面積が略等しい上面2と、着座面3(
図10)とを有する。
チップ本体1Aの外周面は、長辺側側面4aと、短辺側側面4bと、長辺側側面4a及び短辺側側面4bの一端側どうしを繋ぐ斜面4cと、長辺側側面4a及び短辺側側面4bの他端側どうしをほぼ垂直に繋ぐ第1側面4dと、を有する。長辺側側面4aと短辺側側面4bとは平行ではない。短辺側側面4bは、第1側面4d側から斜面4c側へ行くにしたがって、長辺側側面4aへと近づく方向へ僅かに傾斜している。長辺側側面4aに対する傾斜角度は、短辺側側面4bよりも上記斜面4cの方が大きい。
【0054】
切刃部1Bは、チップ本体1Aと一体構造とされ、当該チップ本体1Aの他端側から突出する。切刃部1Bは、チップ本体1Aの外周面を構成する第1側面4dから当該第1側面4dに対して略垂直な方向へ突出し、所定の長さを有する。切刃部1Bは、インサート中心軸COの方向から見て、チップ本体1Aの幅方向一方側の短辺側側面4b寄りに形成され、その全体がチップ本体1Aの短辺側側面4bの延長線Q(
図15)よりも内側に位置する。
【0055】
また、切刃部1Bの厚さは、チップ本体1Aの半分以下の厚さであり、チップ本体1Aの厚さ方向の中央付近に位置する。チップ本体1Aの厚さに対する切刃部1Bの厚さは、切刃部1Bの強度や剛性、所望加工性能に応じて選択される。
【0056】
切刃部1Bは、一方向に長さを有する角柱形状を呈し、先端に切刃5を有する。切刃5は、切刃部1Bの逃げ面4fよりも幅方向外側へ突出し、チップ本体1Aの厚さ方向に延びている。切刃5は、軸方向及び幅方向のそれぞれにおいて最先端に位置する。これにより、加工時における被切削物の内周面との干渉を回避できる。
【0057】
切刃5の逃げ面4fは、上面2に対してほぼ垂直である。また、上述した工具本体10の本体部10Aの上面10aは、上面2に平行な平面である。
【0058】
上記切削インサート1は、その着座面3を、工具本体10(本体部10A)におけるチップポケット14の底部拘束面14aに接触させた状態で、切削インサート1の取付孔6に挿通された取付螺子を工具本体10に形成された螺子孔15(
図2、
図4)にねじ込むことにより、工具本体10のチップポケット14に取り付けられる。切削インサート1が工具本体10に取り付けられた状態のとき、着座面3は、底部拘束面14aに拘束され、切削インサートの長辺側側面4aはチップポケット14の側方拘束面14bに拘束され、斜面4cはチップポケット14の傾斜拘束面14cに拘束される。
【0059】
本実施形態の切削インサート1は、
図15に示すように、+Z方向から見たとき、短辺側側面4bが長辺側側面4aに対して傾斜していることから、短辺側側面4bの外側において工具本体10の底部拘束面14aの一部が露出する。すなわち、切削インサート1は、工具本体10側の溝部9の経路上を避けるような形状とされており、溝部9の先端側の開口全体が切削インサート1によって邪魔されずに全て露出する構成となっている。
【0060】
図16は、切削工具100を先端側から見た図である。
図17は、切削工具100を後端側から見た図である。
図16及び
図17に示すように、本実施形態の切削工具100では、クーラント流路7の中心軸Oの軸線上に、切削インサート1の切刃5が位置する構成となっている。クーラント流路7の中心軸Oと、切削インサート1の切刃5(内径加工点)の位置を一致させることによって、クーラント流路7から吐出されたクーラントを切刃5へと確実に供給することが可能である。
【0061】
本実施形態の切削工具100は、本体部10Aと流路形成部材10Bとの2つの構造物からなり、これらの内側に形成されるクーラント流路7から切削インサート1の切刃5へ向かってクーラントが供給される構成となっている。クーラント流路7の中心軸Oの軸線上に切刃5が存在しており、クーラントを切刃5へ直接供給することが可能である。本体部10Aには、吐出開口8を介してクーラント流路7の先端に連通する溝部9が形成されている。
【0062】
溝部9は、クーラント流路7(流路形成部材10Bの吐出口19d)から吐出されるクーラントが切刃5へ到達する前に、本体部10Aに接触するのを回避するために設けられている。本実施形態では、この溝部9によって、クーラント流路7(吐出口19d)から切刃5へ向けて吐出されたクーラントの圧力損失を低減することができ、クーラントを高い吐出圧力のまま切刃5(内径加工点)へと直接供給することが可能である。
【0063】
本実施形態の流路形成部材10Bでは、先端側の吐出口19dと後端側の基端側開口19eとが同軸上に配置されているため、クーラント流路7の先端側においてクーラントが乱流を起こさず整流をなし、高い圧力で吐出することが可能である。さらに、本実施形態では、本体部10Aに形成されたノズル孔17も流路形成部材10Bと同軸をなす。
【0064】
このため、流路形成部材10Bから突出されたクーラントが本体部10Aのノズル孔17内を通過する際にも圧力損失が抑えられて流速が衰えることなく流動する。これにより、切削インサート1の切刃5に対して、十分な量、かつ高い圧力を保ったままクーラントを直接供給することが可能となり、内径加工点から切りくずを効率よく除去することが可能である。これにより、発生した切りくずが切刃5に絡むことを防いで、切刃5の損傷を防ぐことが可能である。
【0065】
さらに、十分なクーラントを供給することで、被切削物を加工する際に発生する熱を抑制することができるので、切削インサート1の逃げ面の摩耗を低減させることができる。
【0066】
本実施形態のクーラント流路7の吐出側、すなわち流路形成部材10Bの吐出口19dの直径は、例えば約1mm以下と小径である。このような小さな孔を本体部10Aに対してドリルにて直接形成しようとすると工具材料の硬度が高く加工が困難である。また、放電加工を用いて形成しようとすると電力の突き出し量が長くなり、本体部10Aの剛性が低下して加工が困難である。そこで、本実施形態では、本体部10Aとは別に流路形成部材10Bを設けて、この流路形成部材10Bに対して小さな吐出口19dを形成する構成とすることで加工しやすくなり、精度の良い小径加工が可能となる。
【0067】
さらに、流路形成部材10Bの材料として本体部10Aよりも硬度の低い材料を用いることによって、ドリルによる小径加工がさらに容易となる。また、放電加工を行う場合であっても電極の長さを短くすることができるため加工効率が高められる。
【実施例0068】
以下に、本発明における効果の確認をすべく行った検証結果について述べる。
図18を用いて、切削工具100における吐出口19dの直径と、クーラントの吐出圧力との関係について述べる。
図18は、切削工具100における吐出口19dの直径と、クーラントの吐出圧力との関係を示すグラフであって、横軸に吐出口の直径、縦軸にクーラント吐出圧力を示す。
【0069】
図18に示すように、吐出口の直径が2mmの場合に比べて、吐出口の直径が1mm以下の場合は、クーラント吐出口の圧力が凡そ2倍ほど高くなっている。このため、本実施形態では、吐出口19dの直径を1mm以下の寸法とすることで、高い吐出圧力を実現している。
【0070】
図19Aは、流路形成貫通孔の中心軸に対して吐出口が同軸である構成の場合の吐出圧力を示す図である。
図19Bは、
図19Aに示す吐出口付近のクーラントの流動状態を拡大して示す図である。
図19Aに示すように、本発明の実施形態のように、流路形成貫通孔の中心軸に対して吐出口が同軸である構成の場合、吐出されたクーラントは、高い圧力を維持できている。吐出されたクーラントは周囲に広がることなく突き進んでおり、所定の箇所(局所)に十分な量のクーラントを供給できる。
図19Bに示すように、流路形成貫通孔内の吐出口付近のクーラントは整流であり、乱流は生じていない。そのため、圧力損失の低下は小さい。
【0071】
図20Aは、流路形成貫通孔の中心軸に対して吐出口が径方向にずれている構成の場合の吐出圧力を示す図である。
図20Bは、
図20Aに示す吐出口付近のクーラント流動状態を拡大して示す図である。
図20Aに示すように、比較例のように、流路形成貫通孔の中心軸と吐出口とが同軸でない場合、吐出されたクーラントは、すぐに圧力が低下していることが分かる。吐出されたクーラントはすぐさま周囲に広がっており、上述した同軸の構成に比べて、所定の箇所に十分な量のクーラントを供給するのが難しい。
図20Bに示すように、流路形成貫通孔の吐出口付近のクーラントは乱流となっている。その結果、上述した同軸の構成に比べて圧力損失が生じて、十分な圧力でクーラントを供給することが難しい。
【0072】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る第2実施形態の切削工具200について説明する。
本実施形態の基本構成は上記第1実施形態と同様であるが、溝部29が形成されている位置が異なる。上記実施形態では、切削インサートの逃げ面と同じ方向(-Y方向)を向く面に溝部が形成されていたが、本実施形態では、切削インサート1の上面2と同じ方向(+Z方向)を向く面に溝部29が形成されている点において異なる。よって、以下の説明では、上記実施形態と異なる構成について詳しく説明し、共通の構成についての説明は省略する。
【0073】
図21は、第2実施形態の切削工具200の全体構成を示す斜視図である。
図22は、
図21のXXII-XXII線に沿う断面図である。
図21及び
図22に示すように、本実施形態の切削工具200は、上方開口の溝部29を有している。溝部29は、本体部10Aの切欠き部12に形成されており、その先端側がチップポケット14に連通している。
【0074】
本実施形態の切削工具200は、上記第1実施形態の構成と同様の作用効果を得ることができる。また、本実施形態の構成によれば、チップポケット14の加工と同時に溝部29を形成することができるため作業効率が良い。
【0075】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る第3実施形態の切削工具300について説明する。
本実施形態の基本構成は上記第1実施形態と同様であるが、クーラント流路の中心軸が部分的にずれている点において異なる。よって、以下の説明では、上記実施形態と異なる構成について詳しく説明し、共通の構成についての説明は省略する。
図23は、第3実施形態の切削工具300の全体構成を示す斜視図である。
図24は、
図23のXXIV-XXIV線に沿う断面図である。
【0076】
上述した第1実施形態では、本体部10A内に形成された流路形成貫通孔16を構成する3つの貫通孔16A,16B,16Cはいずれも同軸に形成されていたが、本実施形態の流路形成貫通孔36は、第1貫通孔16Aの中心軸O1と、他の第2貫通孔16B及び第3貫通孔16Cの中心軸O2とが径方向にずれている。具体的には、貫通孔16B,16Cが貫通孔16Aよりも工具中心軸P側に偏って形成されている。貫通孔16Aの中心軸O1は、切刃5の内径加工点と一致する。
【0077】
本実施形態の構成によれば、流路形成貫通孔16のうち、第1貫通孔16Aよりも径の大きい貫通孔16B,16Cを、外周面から離れた位置に形成することで、外周面との間に十分な肉厚を確保できる。これにより、例えば、第1貫通孔16Aの中心軸O1が工具中心軸Pに対して所定の角度で傾いた構成であっても、本体部10Aの強度を確保することが可能である。また、上記実施形態と同様に、切楠の排出性の向上及び工具摩擦の抑制効果が得られる。
【0078】
<第4実施形態>
次に、本発明に係る第4実施形態の切削工具400について説明する。
本実施形態の基本構成は上記第1実施形態と同様であるが、溝部がテーパ形状である点において異なる。よって、以下の説明では、上記実施形態と異なる構成について詳しく説明し、共通の構成についての説明は省略する。
【0079】
図25は、第4実施形態の切削工具400の全体構成を示す斜視図である。
図26は、
図25のXXVI-XXVI線に沿う断面図である。
図25及び
図26に示すように、本実施形態の切削工具400は、テーパ形状の溝部49を有する本体部10Aを備えている。
図26に示すように、右側面側(-Y方向)から見たとき、溝部49は、基端側(本体部10Aの傾斜面13bに開口する吐出開口8側)から先端側へ行くにしたがって幅(径)が広がっており、チップポケット14に連通する先端側において最大幅となっている。溝部49の基端側の幅は、吐出開口8の直径よりも小さく、流路形成部材10Bの吐出口19dの直径よりもわずかに大きい。
【0080】
また、溝部49の基端側は吐出開口8のうち工具中心軸Pに近い径方向内側に連通している。そのため、他の実施形態の吐出開口8に比べて円形に近い形状をなす。また、溝部49の溝深さは長手方向で一定ではなく基端側へ行くにしたがって浅くなっているが、溝部49の内壁面はクーラント流路7の中心軸Oから径方向に離れているため、吐出開口8を通じて吐出されたクーラントが上記内壁面に接触して圧力損失が生じるのを抑えられる。
【0081】
本実施形態の構成のように、溝部49の側面形状をテーパ形状としてもよい。溝部49の幅が先端側へ行くにしたがって広がっているため、吐出開口8を通じて吐出されたクーラントが、切削インサート1の切刃5へ到達するまでの間に僅かに広がった場合であっても、上記溝部49によって本体部10A(溝部49)にクーラントが接触するのを防ぐことが可能である。これにより、上記実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0082】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0083】
例えば、上記各実施形態では、工具本体に対して切削インサートが着脱可能に取り付けられた刃先交換式の切削工具について述べたが、この構成に限らない。
例えば、工具本体と切刃とが一体となった構成の切削工具であってもよい。