(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133926
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】撹拌羽根及び溶銑の脱硫方法
(51)【国際特許分類】
C21C 1/02 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
C21C1/02 108
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039188
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中井 由枝
(72)【発明者】
【氏名】古川 航平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亜門
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014AA02
4K014AC08
(57)【要約】
【課題】撹拌羽根を複雑な形状とすることなく、脱硫効率を向上させることができる、撹拌羽根及び溶銑の脱硫方法を提供すること。
【解決手段】機械撹拌式溶銑脱硫処理に用いられる撹拌羽根4であって、撹拌羽根4の回転軸40から突出し、突出方向が回転軸40に直交し且つ互いに反対方向に突出する2枚の第1撹拌翼411と、2枚の第1撹拌翼411からそれぞれ突出し、突出方向が第1撹拌翼411の突出方向及び回転軸に平行な方向に直交し、且つ互いに反対方向となる、2枚の第2撹拌翼412と、を備え、第2撹拌翼412は第2撹拌翼412のそれぞれの幅中心位置が回転軸40の中心位置から(2)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている。0.5≦|L/(R-0.5T)|≦1 ・・・(2) ただし、L:回転軸40から第2撹拌翼412の中心位置までの距離(m)、R:第1撹拌翼411の長さ(m)、T:第2撹拌翼412の幅(m)。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑に浸漬させた撹拌羽根を回転させることにより撹拌を与えながら、前記撹拌羽根による撹拌中及び撹拌前の少なくとも一方のタイミングで前記溶銑に脱硫剤を添加することで前記溶銑中の硫黄濃度を低下させる、溶銑脱硫処理に用いられる撹拌羽根であって、
前記撹拌羽根の回転軸から突出し、突出方向が前記回転軸に直交し且つ互いに反対方向となる、2枚の第1撹拌翼と、
2枚の前記第1撹拌翼からそれぞれ突出し、突出方向が前記第1撹拌翼の突出方向及び前記回転軸に平行な方向に直交し、且つ互いに反対方向となる、2枚の第2撹拌翼と、
を備え、
前記第2撹拌翼は、当該第2撹拌翼のそれぞれの幅中心位置が前記回転軸の中心位置から(2)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている、撹拌羽根。
0.5≦|L/(R-0.5T)|≦1 ・・・(2)
ただし、
L:回転軸から第2撹拌翼の中心位置までの距離(m)
R:第1撹拌翼の長さ(m)
T:第2撹拌翼の幅(m)
【請求項2】
前記第2撹拌翼は、当該第2撹拌翼のそれぞれの幅中心位置が前記回転軸の中心位置から(3)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている、請求項1に記載の撹拌羽根。
L/(R-0.5T)=1 ・・・(3)
【請求項3】
溶銑に浸漬させた撹拌羽根を回転させることにより撹拌を与えながら、前記撹拌羽根による撹拌中及び撹拌前の少なくとも一方のタイミングで前記溶銑に脱硫剤を添加することで前記溶銑中の硫黄濃度を低下させる、溶銑の脱硫方法であって、
前記撹拌羽根として、前記撹拌羽根の回転軸から突出し、突出方向が前記回転軸に直交し且つ互いに反対方向となる2枚の第1撹拌翼と、2枚の前記第1撹拌翼からそれぞれ突出し、突出方向が前記第1撹拌翼の突出方向及び前記回転軸に平行な方向に直交し、且つそれぞれ前記回転軸の半径方向の反対方向となる、2枚の第2撹拌翼と、を備え、前記第2撹拌翼は、当該第2撹拌翼のそれぞれの幅中心位置が前記回転軸の中心位置から(2)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている撹拌羽根を用いる、溶銑の脱硫方法。
0.5≦|L/(R-0.5T)|≦1 ・・・(2)
ただし、
L:回転軸から第2撹拌翼の中心位置までの距離(m)
R:第1撹拌翼の長さ(m)
T:第2撹拌翼の幅(m)
【請求項4】
前記撹拌羽根の回転方向を、前記第2撹拌翼の前記第1撹拌翼からの突出方向と反対とする、請求項3に記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項5】
前記第2撹拌翼は、当該第2撹拌翼のそれぞれの幅中心位置が前記回転軸の中心位置から(3)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている、請求項3又は4に記載の溶銑の脱硫方法。
L/(R-0.5T)=1 ・・・(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌羽根及び溶銑の脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材の高純度化、高機能化のニーズ増大により、P濃度及びS濃度が低い、極低P、S鋼種の比率が高まっている。製鋼工程では不純物レベル低減のために、コストやスラグ発生量の増加を招くことなく極低P、S鋼を溶製する技術が必要であり、精錬剤の反応効率向上が重要となる。加えて、生産性も維持または向上させる必要があり、反応速度の向上も不可欠である。
【0003】
鋼中のS濃度を低減する方法としては、機械撹拌(インペラ)を用いた溶銑脱硫処理(機械撹拌式脱硫処理)を施すことにより、溶銑段階で低S濃度域まで脱硫しておく方法が広く工業化されている。この機械撹拌式溶銑脱硫処理により、低S濃度域までの高速処理が可能である。機械撹拌式溶銑脱硫処理において、更なる脱硫剤の反応効率向上、処理速度向上を図るため、撹拌羽根のスクリュー化や反応容器への邪魔板の設置などの技術が知られているが、撹拌羽根や容器耐火物の寿命低下により、実現が困難であった。
【0004】
機械撹拌式溶銑脱硫処理では、溶銑湯面に添加された粉状もしくは粒状脱硫剤を、撹拌羽根の回転により形成される溶銑のキャビテイー(渦)中に浸入させ、溶銑との接触界面積を大きくする事で、高い脱硫剤反応効率を指向する。ここで脱硫剤としては、例えば石灰(CaO)系脱硫剤を用いる。また溶銑側は撹拌羽根の回転により撹拌され、溶銑中の硫黄が脱硫剤との反応界面に供給されることによって、脱硫反応が進行する。溶銑を保持する反応容器は円柱状の鍋型であり、撹拌羽根は上方より容器断面の中心に挿入される。撹拌羽根を容器中心で回転させるのに対し、容器内壁への邪魔板の設置、回転位置のオフセットにより撹拌力が増加することが知られている。また、撹拌羽根の形状を工夫することにより脱硫剤の巻込みを促進したり、撹拌羽根の寿命を延長したりすることができる。
【0005】
金属溶湯を撹拌するための撹拌羽根としては、従来から様々な形状のものが用いられており、金属溶湯の撹拌ムラを低減し、短時間で高い脱硫率を得るために種々の形状が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
また、特許文献3には、鍋全体に乱流を形成し、効率よく成分調整を行うことを目的として、上部インペラと下部インペラを有する撹拌式成分調整装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-167868号公報
【特許文献2】特開2009-114506号公報
【特許文献3】特開2003-279272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~3に開示された撹拌羽根形状は、非常に複雑な形状を有しており、施工が困難であったり、施工に時間や費用がかかったりするといった課題がある。また、複雑な形状によって撹拌効率向上の効果を発揮する撹拌羽根は、使用中に耐火物が損耗したり、脱硫剤やスラグの付着により形状が変化したりすることでその効果が維持出来ないという課題もある。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、撹拌羽根を複雑な形状とすることなく、脱硫効率を向上させることができる、撹拌羽根及び溶銑の脱硫方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、溶銑に浸漬させた撹拌羽根を回転させることにより撹拌を与え、上記撹拌羽根による撹拌中及び撹拌前の少なくとも一方のタイミングで上記溶銑に脱硫剤を添加することで上記溶銑中の硫黄濃度を低下させる、溶銑脱硫処理に用いられる撹拌羽根であって、上記撹拌羽根の回転軸から突出し、突出方向が上記回転軸に直交し且つ互いに反対方向となる、2枚の第1撹拌翼と、2枚の上記第1撹拌翼からそれぞれ突出し、突出方向が上記第1撹拌翼の突出方向及び上記回転軸に平行な方向に直交し、且つ互いに反対方向となる、2枚の第2撹拌翼と、を備え、上記第2撹拌翼は、当該第2撹拌翼のそれぞれの幅中心位置が上記回転軸の中心位置から(2)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている、撹拌羽根が提供される。
0.5≦|L/(R-0.5T)|≦1 ・・・(2)
ただし、
L:回転軸から第2撹拌翼の中心位置までの距離(m)
R:第1撹拌翼の長さ(m)
T:第2撹拌翼の幅(m)
【0010】
本発明の一態様によれば、溶銑に浸漬させた撹拌羽根を回転させることにより撹拌を与え、上記撹拌羽根による撹拌中及び撹拌前の少なくとも一方のタイミングで上記溶銑に脱硫剤を添加することで上記溶銑中の硫黄濃度を低下させる、溶銑の脱硫方法であって、上記撹拌羽根として、上記撹拌羽根の回転軸から突出し、突出方向が上記回転軸に直交し且つ互いに反対方向となる2枚の第1撹拌翼と、2枚の上記第1撹拌翼からそれぞれ突出し、突出方向が上記第1撹拌翼の突出方向及び上記回転軸に平行な方向に直交し、且つそれぞれ上記回転軸の半径方向の反対方向となる、2枚の第2撹拌翼と、を備え、上記第2撹拌翼は、当該第2撹拌翼のそれぞれの幅中心位置が上記回転軸の中心位置から(2)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている撹拌羽根を用いる、溶銑の脱硫方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、撹拌羽根を複雑な形状とすることなく、脱硫効率を向上させることができる、撹拌羽根及び溶銑の脱硫方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】水モデル実験において用いた撹拌羽根を示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【
図2】水モデル実験において用いた撹拌羽根を示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【
図3】水モデル実験において用いた撹拌羽根を示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における機械撹拌式脱硫装置を示す模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る撹拌羽根を示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【
図7】傾斜角度のある撹拌羽根を示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図であり、(C)は正面図である。
【
図8】傾斜角度のある撹拌羽根を示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図であり、(C)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、撹拌羽根を溶銑中に浸漬させ、回転させることにより撹拌を与え、撹拌羽根による撹拌中及び撹拌前の少なくとも一方のタイミングで石灰を主成分とする脱硫剤を溶銑に添加し、溶銑中の硫黄濃度を低下させる溶銑脱硫方法について、鋭意検討・研究を重ねた。その結果、撹拌羽根の回転軸から突出し、突出方向が回転軸に直交し且つ反対方向となる2枚の第1撹拌翼と、2枚の第1撹拌翼からそれぞれ突出し、突出方向が第1撹拌翼の突出方向及び回転軸に平行な方向に直交し、且つ互いに反対方向となる、2枚の第2撹拌翼とを備える撹拌羽根を用いることにより、高い脱硫反応効率を得られることを見出した。具体的には、発明者らは、水モデル実験及び機械撹拌式の溶銑脱硫処理において、種々の形状の撹拌羽根について鋭意検討を重ね、簡易な形状で施工が容易で、脱硫剤の巻込みや溶銑の撹拌を促進できる撹拌羽根の形状を見出した。
【0014】
まず、本発明者らは、水モデル実験において、
図1に示す4枚羽根の撹拌羽根4Aをベースとし、撹拌羽根の位置を変化させることが、脱硫剤の巻込みに与える影響について調査を行った。
図1(A)に示すように、撹拌羽根4Aは、撹拌翼41Aを有しており、回転軸40Aを中心にして向かい合う2枚の撹拌翼41Aを一組として、2組の撹拌翼41Aを有している。この2組のうち、一方の組の撹拌翼41Aを第1撹拌翼411Aとし、他方の組の撹拌翼41Aを第2撹拌翼412Aとする。
図1(A)に示す例では、回転軸40Aから左方向及び右方向にそれぞれ突出する2枚の撹拌翼41Aが第1撹拌翼411Aであり、回転軸40Aから上方向及び下方向にそれぞれ突出する2枚の撹拌翼41Aが第2撹拌翼412Aである。また、平面視において、撹拌翼41Aの延在方向における1組の撹拌翼41Aの長さを撹拌羽根4Aの直径dともいう。水モデル実験では、第1撹拌翼411Aと第2撹拌翼412Aの直径dは同じ長さとした。また、撹拌翼41Aの幅Tや鉛直方向の高さである羽根高さbについても、第1撹拌翼411Aと第2撹拌翼412Aとで同じとした。
【0015】
本調査では、
図2及び
図3に示すように、
図1の撹拌羽根4Aをベースとして、第2撹拌翼412Aが互いに離れるように、第1撹拌翼411Aの延在方向(
図2(A)及び
図3(A)の左右方向)に一定距離ずつ移動させた撹拌翼41Aについて、同じ回転数で回転させた場合の生成渦の凹み深さと、脱硫剤を模したプラスチック粒子を添加した際の撹拌羽根より下部領域への粒子の分散個数を水モデル実験で調査した。なお、本調査では、第2撹拌翼412Aの移動位置を(1)式のように移動量比rを定義して結果を整理した。ここでLは、回転軸40Aから第2撹拌翼412Aの中心位置までの長さ(m)、つまり平面視における回転軸40Aを原点としたときの第2撹拌翼412Aの中心位置までの第1撹拌翼411Aの延在方向の距離(m)である。本調査では、
図1(A)~
図3(A)に示すように、撹拌羽根4Aを上方から見た時の回転方向を平面視で左回りとし、回転方向を正としてLの正負を設定した。つまり、
図2,3に示す撹拌羽根4Aは、
図1の第2撹拌翼412Aに対して、第2撹拌翼412Aの中心位置が回転方向と同じ方向に移動するように、第2撹拌翼412Aが第1撹拌翼411Aの先端側に移動していることになるので、Lは正となる。Rは、第1撹拌翼411Aの長さ(m)、つまり平面視における回転軸40Aから第1撹拌翼411Aの端までの第1撹拌翼411Aの延在方向の長さ(m)である。Tは、第2撹拌翼412Aの幅(m)、つまり平面視における第2撹拌翼412Aの第1撹拌翼411Aの延在方向の長さ(m)である。(1)式の分母は正の値を取るので、Lの値が正の場合はrの値も正、Lの値が負の場合はrの値も負となる。
r=L/(R-0.5T) ・・・(1)
【0016】
本調査では、移動量比を+1.0、+0.75、+0.5、+0.25、0、-0.25、-0.5、-0.75及び-1.0の9条件とした撹拌羽根4Aを用いて水モデル実験を行った。水モデル実験では、回転数を一定とし生成渦の中心の凹み深さを容器外から測定した。
【0017】
図4に、水モデル実験での結果として、撹拌羽根4Aの移動量比rと渦深さ及びプラスチック粒子の巻込み個数との関係を示す。なお、水モデル実験では、溶銑容器を模した鍋型の透明な円筒容器に収容された水に撹拌羽根4Aを浸漬させ、撹拌羽根4Aを回転させない時の水面位置から回転させた時に生成した渦の下端までの距離を渦深さとした。
図4には、移動量比rが0の時の渦深さを1とした時の渦深さを指数で表示する。
図4に示すように、移動量比rの絶対値が大きくなるほど渦の凹み深さが深くなることがわかった。
【0018】
また、水モデル実験では、脱硫剤を模したプラスチック粒子を浴中へ添加し、撹拌羽根4Aより下部領域へ分散した粒子の個数を計数した。
図4には、撹拌羽根下端より下部の領域に分散した粒子の個数を巻込み個数とし、移動量比rが0の時の巻込み個数を1とした時の巻込み個数を指数で表示する。
図4に示すように移動量比rの絶対値が0.25程度では巻込み個数はほとんど増加しないが、移動量比rの絶対値が0.5以上になると巻込み個数が2倍以上に増加した。特に第2撹拌翼412Aを移動量比rの値が正の場合、すなわち第2撹拌翼412Aの中心位置を回転方向と同じ方向に移動させた方が巻込み個数の増加量が大きいことがわかった。
【0019】
移動量比rの絶対値が大きくなるほど渦凹み深さが大きくなったのは、撹拌羽根4Aの直径dが同じでも、羽根部分を移動させていった場合、最大外径Dが大きくなりこの最大外径が渦形成に寄与しているからであると考えられた。なお、最大外径Dは、
図1(A)及び
図2(A)に示すように、平面視において回転軸40Aを通って2枚の第2撹拌翼412Aの端部を結ぶ直線の長さが最大となる長さである。さらに、巻込み個数つまり分散個数が増加するのも、羽根部分の移動により最大外径Dが大きくなり同じ回転数で生じる渦の深さが深くなることと形状の変化により粒子の巻込みが増加したことが影響すると考えられる。
【0020】
一方で、第2撹拌翼412Aを正側へ移動させた場合(第2撹拌翼412Aの中心位置を回転方向と同じ方向に移動させた場合)と、第2撹拌翼412Aを負側へ移動させた場合(第2撹拌翼412Aの中心位置を回転方向と逆の方向に移動させた場合)との違いについて粒子分散挙動を良く観察したところ、浴中の粒子は第2撹拌翼412Aが突出していない側の第1撹拌翼411Aの側面に当たり、側面に沿って撹拌羽根中心側から外側へ向かって移動した後、撹拌羽根4Aの先端から離脱して浴中へ分散している様子が確認できた。第2撹拌翼412Aを負側へ移動させた場合は、第2撹拌翼412Aの回転軸40側の側面と第1撹拌翼411Aの側面とによって形成されるL字部の内側に粒子が滞留している様子が観察された。一方、第2撹拌翼412Aを正側へ移動させた場合は、羽根側面を移動した粒子がスムーズに羽根端部分から剥離しており、この粒子の滞留状態の違いが分散個数の違いに繋がっていることがわかった。よって、第2撹拌翼412Aは正方向へ移動させた方がより良いといえる。即ち、撹拌羽根4Aの形状に対して、第1撹拌翼411Aの回転方向が、第2撹拌翼412Aの第1撹拌翼411Aからの突出方向と反対になるように、撹拌羽根4Aを回転させる方が良いといえる。また、このような形状の変化による粒子の羽根部分からの剥離挙動は移動量比rが+0.5以上の撹拌羽根4Aで顕著に確認されており、移動量比rが+0.5以上において巻込み個数が増加した要因のひとつであると考えられた。
【0021】
なお、
図1に示すベースとした4枚羽根の撹拌羽根4Aと比較して、
図2及び
図3のように第2撹拌翼412Aを移動させた撹拌羽根4Aは、撹拌羽根全体の体積は増加しないため、処理容器に収容できる溶銑量を減少させる必要がない。また、体積の増加がないため、同じ耐火物を用いた場合には撹拌羽根4Aの重量も増加することはなく、撹拌機の保持強度を増加させる必要も発生しない。つまり、複雑な形状とすることなく、且つ撹拌羽根4Aの体積も重量も増加させることなく、脱硫剤の分散を促進することができ脱硫効率を向上できることがわかった。
【0022】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0023】
<撹拌羽根及び溶銑の脱硫方法>
本発明の一実施形態に係る溶銑の脱硫方法は、一例として
図5に示す機械撹拌式脱硫装置を用いて行われる。
図5に示す例では、溶銑を収容する処理容器として取鍋型の溶銑鍋2を使用した例を示している。処理容器の形状については、機械撹拌式脱硫装置で脱硫処理を行うことから、
図5に示すような取鍋型の処理容器が最適であるが、トーピードカーにおいても使用可能である。
【0024】
高炉から出銑された溶銑3を台車1に搭載された溶銑鍋2又はトーピードカーで受銑し、受銑した溶銑3を機械撹拌式脱硫装置に搬送する。トーピードカーで受銑した場合には、脱硫処理に先立ち、取鍋型の処理容器に移し替えることが望ましい。本実施形態に係る脱硫処理の対象となる溶銑3は、高炉や電気炉、シャフト炉で溶製された溶銑であり、どのような成分であっても構わず、例えば、予め脱珪処理や脱燐処理が施されていてもよい。脱珪処理とは、脱燐処理を効率良く行うために脱燐処理に先立ち、溶銑3に酸素ガスや鉄鉱石などの酸素源を添加して主に溶銑中のSiを除去する処理である。
【0025】
機械撹拌式脱硫装置は、溶銑鍋2内に収容された溶銑3に浸漬・埋没し、回転して溶銑3を撹拌するための耐火物製の撹拌羽根4を備えている。撹拌羽根4は、昇降装置(図示せず)によってほぼ鉛直方向に昇降し、且つ、駆動モータと減速機とからなる回転装置(図示せず)によって先端に撹拌羽根4が連結された軸を回転軸として回転するようになっている。また、機械撹拌式脱硫装置には、脱硫剤や脱酸源を溶銑鍋2内の溶銑3の浴面に上置き添加するための投入口6とが設置されている。また、脱硫剤を溶銑鍋2内の溶銑3に向けて上吹きして添加するための上吹きランス5が設置されていてもよい。更に、溶銑鍋2の上方位置には、集塵機(図示せず)に接続する排気ダクト口(図示せず)が備えられ、脱硫処理中に発生するガスやダストが排出されるようになっている。
【0026】
投入口6は、脱硫剤を収容するホッパー11とホッパー11から定量切り出すためのロータリーフィーダー12とからなる供給装置、脱酸源を収容するホッパー13とホッパー13から定量切り出すためのロータリーフィーダー14とからなる供給装置と接続しており、投入口6から、脱硫剤及び脱酸源の少なくとも一方を任意のタイミングで各々独立して調整して供給できる構造になっている。
【0027】
これと同様に、上吹きランス5は、脱硫剤を収容するホッパー7とホッパー7から定量切り出すためのロータリーフィーダー8とからなる供給装置、及び脱酸源を収容するホッパー9とホッパー9から定量切り出すためのロータリーフィーダー10とからなる供給装置に接続されている。上吹きランス5は、搬送用ガスと共に、脱硫剤及び脱酸源の少なくとも一方を任意のタイミングで各々独立して調整して供給できる構造になっている。なお、上吹きランス5からの脱硫剤や脱酸源の供給を上吹き添加ともいう。
【0028】
脱硫剤としては、CaO系の脱硫剤のみならず、カルシウムカーバイド系の脱硫剤やソーダ系の脱硫剤、金属Mgなど種々の脱硫剤を用いることができるが、安価であることから、石灰を主成分とするCaO系の脱硫剤を使用することが好ましい。また、環境対策や発生するスラグの再利用が容易であることから、蛍石などのフッ素源を併用せずに、CaO系の脱硫剤のみを使用することが好ましい。CaO系の脱硫剤としては、生石灰(CaO)やドロマイト(MgCO3・CaCO3)、消石灰(Ca(OH)2)、石灰石(CaCO3)などを使用することができる。
【0029】
脱酸源としては、金属Al、又はアルミ源として安価に入手できることからアルミドロス粉末を用いることが望ましい。また、アルミニウム融液をガスでアトマイズして得られるアトマイズ粉末や、アルミニウム合金を研磨、切削する際に発生する切削粉など、他のAl源であってもよい。これらは、CaO系の脱硫剤とは別に、投入口6から添加されてもよく、上吹きランス5から搬送用ガスと共に溶銑3の表面へ上吹き添加されてもよい。
【0030】
機械撹拌式脱硫装置に溶銑鍋2が搬送された後、撹拌羽根4の位置が溶銑鍋2のほぼ中心になるように、溶銑鍋2を載せた台車1の位置を調整する。次いで、撹拌羽根4を下降させて溶銑3に浸漬させる。撹拌羽根4が溶銑3中に浸漬したならば、撹拌羽根4の回転を開始し、所定の回転数まで昇速する。撹拌羽根4の回転数が所定の回転数に達したならば、ロータリーフィーダー8を起動させて、ホッパー7内の脱硫剤を、投入口6や上吹きランス5から溶銑に添加する。このように、投入口6からの自然落下で脱硫剤を溶銑3に添加しても良いし、上吹きランス5から搬送用ガスと共に溶銑浴面上に吹き付けて脱硫剤を溶銑3に供給しても良いし、両者を併用しても良い。
【0031】
脱酸源の溶銑鍋2内への供給は、脱硫反応を促進させるために行われることが好ましく、脱硫剤の添加と並行して行われてもよいし、添加の前後に行われてもよいし、脱硫処理期間の全期間に行われてもよい。
所定時間の撹拌が行われたなら、撹拌羽根4の回転数を減少させ停止させる。撹拌羽根4の回転が停止したなら、撹拌羽根4を上昇させ、溶銑鍋2の上方に待機させる。生成したスラグが浮上して溶銑表面を覆い、静止した状態で溶銑3の脱硫処理が終了する。脱硫処理後、生成したスラグを溶銑鍋2内から排出し、次の精錬工程に溶銑鍋2を搬送する。
【0032】
本実施形態では、上記の脱硫処理において、
図2、
図3及び
図6に示す撹拌羽根4を用いる。撹拌羽根4は、上述の水モデル実験に得られた知見に基づいたものである。撹拌羽根4は、撹拌羽根4の回転軸40から突出し、突出方向が回転軸40に直交し且つ互いに反対方向となる2枚の第1撹拌翼411と、2枚の第1撹拌翼411からそれぞれ突出し、突出方向が第1撹拌翼411の突出方向及び回転軸40に平行な方向に直交し、且つ互いに反対方向となる、2枚の第2撹拌翼412とを備える。なお、第1撹拌翼411及び第2撹拌翼412を総称して撹拌翼41ともいう。
【0033】
また、第2撹拌翼412は、第2撹拌翼412のそれぞれの幅中心位置が回転軸40の中心位置から下記(2)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されている。(2)式におけるL,R,Tは、(1)式のものと同じである。なお、移動量比rの正負についても、(1)式のものと同様となる。つまり、移動量比rの正負は、第2撹拌翼412の中心位置の回転軸40からのずれ方向(移動方向)が、回転方向と同じ場合に正となり、回転方向と逆方向になる場合に負となる。
0.5≦|L/(R-0.5T)|≦1 ・・・(2)
ただし、
L:回転軸40から第2撹拌翼412の中心位置までの距離(m)
R:第1撹拌翼411の長さ(m)
T:第2撹拌翼412の幅(m)
【0034】
(2)式を満たすようにすることで、
図4に示すグラフにおいて、移動量比rを+0.5以上又は-0.5以下の範囲とすることができることから、撹拌効率が向上し、溶銑3に添加された脱硫剤の巻込みを促進させることができる。このため、高い脱硫効率を得ることができる。また、このような撹拌羽根4は、
図1に示すような従来の十字形の撹拌羽根に対して、第2撹拌翼412の位置をずらしただけのものであり、特許文献1~3に比べて簡易な形状となることから、施工性や施工コストに優れる。さらに、使用中の形状変化も少なくなるため、長期間に渡って高い脱硫効率を維持することができる。さらに、本実施形態に係る撹拌羽根4は、
図1に示すような従来の形状に対して、撹拌羽根4の直径dを大きくしなくとも撹拌効率の向上効果が得られ、脱硫効率を向上させることができる。
【0035】
また、従来の知見として、施工の簡易性や使用中の効果を維持するためには4枚羽根の撹拌羽根を用いることが好ましく、撹拌効率を増加させるには撹拌羽根の径を大きくしたり、回転数を増加させたりすることが効果的となる。しかし、撹拌羽根の径を大きくする場合には撹拌羽根の体積や重量が増加し、処理容器内に格納できる溶銑の容量が減少したり、撹拌羽の重量増加により回転数が低下したりするといった課題が生じる。これに対して、本実施形態では、撹拌羽根4の体積や重量の増加を抑えることができるため、大型化に伴うこれらの課題も生じない。
【0036】
さらに、本実施形態では、撹拌を行う際に、撹拌羽根4の回転方向は、第2撹拌翼412の第1撹拌翼411からの突出方向と反対となることが好ましい。このような回転方向では、移動量比rが正となり、
図4に示すように、移動量比rが負の場合に比べてより高い撹拌効率を得ることができる。
なお、(2)式に示すように、移動量比rの絶対値は、1以下であることが好ましい。移動量比rの絶対値が1を超えると、第1撹拌翼411と第2撹拌翼412との接続長が短くなるので、撹拌羽根4の耐久性が低下する。特に、第2撹拌翼412の移動量比rは+1であることがより好ましい。この場合、撹拌羽根4は、
図6に示す形状と同じになり、
図4に示すように最も高い撹拌効率を得ることができる。つまり、第2撹拌翼412は、2枚の第2撹拌翼412が互いに離れるように、第2撹拌翼412のそれぞれの幅中心位置が回転軸40の中心位置から(3)式を満たす距離Lだけ移動した位置に配設されていることが好ましい。
L/(R-0.5T)=1 ・・・(3)
【0037】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0038】
例えば、上記実施形態では、
図2、
図3及び
図6に示すように、撹拌翼41には傾斜角度のないものを用いるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。傾斜角度のある撹拌翼41とは、撹拌翼41の突出方向及び鉛直方向に直交する方向からみて、撹拌翼41の突出方向先端の端面が鉛直方向に対して傾いている撹拌翼41である。例えば、
図7及び
図8に示すように、撹拌翼41は、撹拌羽根4の下端側になるほど、回転軸40から突出する長さが短くなり、直径dが小さくなるような傾斜角度を有するものであってもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、第1撹拌翼411と第2撹拌翼412の幅Tは同じであるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。第1撹拌翼411と第2撹拌翼412の幅Tは異なる値としてもよく、例えば、第1撹拌翼411と第2撹拌翼412との損耗速度の違いから異なる幅Tに設定をしてもよい。
さらに、上記実施形態では、撹拌羽根4で撹拌させた溶銑3に脱硫剤を添加するとしたが、本発明はかかる例に限定されない。脱硫剤を溶銑3に添加するタイミングは、撹拌羽根4による溶銑3の撹拌中及び撹拌前の少なくとも一方のタイミングであればよい。
【実施例0040】
本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、脱硫剤として石灰を用い、
図5に示す機械撹拌式脱硫装置で溶銑3の脱硫処理を行った。用いた溶銑3の脱硫処理前の化学成分は、C:3.5~5.0質量%、Si:0.1~0.3質量%、S:0.025~0.035質量%、P:0.10~0.15質量%で、溶銑温度は1250~1350℃の範囲であった。脱硫処理は、処理容器として250~350トンの溶銑3が収納可能な溶銑鍋2を用い、処理対象の溶銑量は約300トンとした。
【0041】
脱硫処理では、用いた脱硫剤の原単位は5.0~6.0kg/溶銑-tonとし、脱硫撹拌時間は一定とした。また、脱酸剤として、金属アルミを、脱硫剤の添加前に溶銑中へ添加した。そして、脱硫処理が終了すると、溶銑鍋から脱硫スラグを除去し、溶銑サンプルを採取し、メタル中の硫黄濃度を分析した。
【0042】
実施例、比較例とも、撹拌羽根4は、直径dが1.4m、羽根高さbが0.8mであり、
図1、
図2、
図3及び
図6に示すように羽根に傾斜角度のないものを用いた。実施例では、撹拌羽根4の移動量比rが+0.25、+0.5、+1.0、-0.5、-1.0となる6種類の撹拌羽根4を用いた。撹拌羽根4の使用回数に対する出力(駆動モータの電流値)を一定とし、それぞれの撹拌羽根4でそれぞれ300回の脱硫処理を行った。撹拌羽根の浸漬位置は処理容器の中心位置であり、撹拌羽根浸漬時(非回転状態)の静止溶銑表面からの浸漬深さは一定とした。また、比較例として、移動量比rが0、+0.25となる2種類の撹拌羽根を用いて、同様に脱硫処理を行った。
【0043】
300回の脱硫処理の処理前及び処理後の溶銑中S濃度の平均値と脱硫率を表1に示す。なお、脱硫率は、{(処理前S濃度)-(処理後S濃度)}/(処理前S濃度)×100として定義した。移動量比rが0の4枚羽根の撹拌羽根4を用いた場合(比較例1)と移動量比が0.25の撹拌羽根を用いた場合(比較例2)では、脱硫率は70%未満であったが、移動量比を±0.5以上とした場合(実施例1,2,3,4)では脱硫率は85%以上と著しく向上しており、中でも移動量比を1とした場合(実施例4)では脱硫率が95%以上と高位となることが確認できた。
【0044】