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特開2023-133947塗料組成物の製造方法、イットリア安定化ジルコニア層、電気化学素子、電気化学モジュール、電気化学装置、エネルギーシステム、固体酸化物形燃料電池及び固体酸化物電解セル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133947
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】塗料組成物の製造方法、イットリア安定化ジルコニア層、電気化学素子、電気化学モジュール、電気化学装置、エネルギーシステム、固体酸化物形燃料電池及び固体酸化物電解セル
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20230920BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230920BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20230920BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20230920BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20230920BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20230920BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20230920BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230920BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20230920BHJP
   C25B 13/05 20210101ALI20230920BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20230920BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230920BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230920BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230920BHJP
【FI】
C09D1/00
H01M8/12 101
H01M8/124
H01M8/1253
H01M8/1213
H01M8/00 Z
C01G25/02
C25B1/04
C25B1/23
C25B13/05
C25B9/19
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039219
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】松好 弘明
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
【テーマコード(参考)】
4G048
4J038
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD02
4G048AE08
4J038AA001
4J038HA166
4J038JA18
4J038JA20
4J038JA34
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA17
4J038PB09
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA17
4K021DB53
5H126AA06
5H126BB06
5H126HH08
5H126HH10
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】ジルコニウムアルコキシド(o)及びイットリウム化合物(p)を出発原料として簡便な方法で低コストに成膜可能であり、かつ、緻密なイットリア安定化ジルコニア層が得られる塗料組成物(b2)を提供する。
【解決手段】ジルコニウムアルコキシド(o)、イットリウム化合物(p)、キレート化合物(q)、ポリアルキレングリコール(r)、触媒(s)、水(t)、及び有機溶媒(u)を含有する塗料組成物(b2)を得ておく。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウムアルコキシド、イットリウム化合物、キレート化合物、ポリアルキレングリコール、触媒、水、及び有機溶媒を含む組成物を混合して塗料組成物を製造する塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記塗料組成物中のジルコニウムアルコキシドの含有量が10~30質量%、前記イットリウム化合物の含有量が1~10質量%、前記キレート化合物の含有量が3~15質量%、前記ポリアルキレングリコールの含有量が0.3~7重量%、前記触媒の含有量が0.1~2質量%、前記水の含有量が0.1~2質量%、前記有機溶媒の含有量が残部である請求項1に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ジルコニウムアルコキシドは、ジルコニウム(IV)メトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、ジルコニウム(IV)i-プロポキシド、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、ジルコニウム(IV)i-ブトキシド、ジルコニウム(IV)sec-ブトキシド、ジルコニウム(IV)t-ブトキシドのいずれか1以上である請求項1又は2記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記イットリウム化合物は、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、リン酸イットリウム、酢酸イットリウム、炭酸イットリウム、イットリウム(III)エトキシド、イットリウム(III)n-プロポキシド、イットリウム(III)i-プロポキシドのいずれか1以上である請求項1~3の何れか1項に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記キレート化合物は一般式(1)である請求項1~4の何れか1項に記載の塗料組成物の製造方法。
-CO-CH-CO-R 一般式(1)
[式中、R1とR2は炭素数1~6のアルキル基(フッ素化アルキル基を含む)、単環もしくは2環アリール基;R1とR2は同じか又は異なり、それぞれ、炭素数1~6のアルキル基、単環もしくは2環アリール基である。R1とR2は互いに連結して環状アルキル基であってもよい。]
【請求項6】
前記キレート化合物は、2,4-ペンタンジオン、2,4-ヘキサンジオン、3,5-ヘプタンジオン、2,6-ジメチル-3,5-へプタンジオン、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン、1,1,1-トリフルオロ-2,4-ペンタンジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオン、1,3-シクロヘキサンジオンのいずれか1以上である請求項1~5の何れか1項に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ポリアルキレングリコールは、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール700、ポリプロピレングリコール1000のいずれか1以上である請求項1~6の何れか1項に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項8】
前記触媒は塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、酢酸のいずれか1以上である請求項1~7の何れか1項に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶媒はメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノールのいずれか1以上である請求項1~8の何れか1項に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の塗料組成物の製造方法により製造される前記塗料組成物を硬化したイットリア安定化ジルコニア層。
【請求項11】
請求項10に記載のイットリア安定化ジルコニア層を備えた電気化学素子。
【請求項12】
金属支持体を有する請求項11に記載の電気化学素子。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の電気化学素子が複数集合した状態で配置される電気化学モジュール。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の電気化学素子もしくは請求項13に記載の電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに還元性ガスを含有するガスを供給する燃料変換器、あるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールで生成する還元性ガスを含有するガスを変換する燃料変換器、とを有する電気化学装置。
【請求項15】
請求項11又は12に記載の電気化学素子もしくは請求項13に記載の電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールから電力を取り出す電力変換器、あるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに電力を供給する電力変換器とを少なくとも有する電気化学装置。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部とを有するエネルギーシステム。
【請求項17】
請求項11又は12に記載の電気化学素子を備え、前記電気化学素子で発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池。
【請求項18】
請求項11又は12に記載の電気化学素子を備え、前記電気化学素子で電解反応を生じさせる固体酸化物形電解セル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種部材の表面に塗装によりイットリア安定化ジルコニア層を形成することができる塗料組成物の製造方法に関するとともに、イットリア安定化ジルコニア層を備える各種機能部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種部材の表面にイットリア安定化ジルコニア(以下、YSZと記載することがあるものとする)をコーティングして、高硬度と不活性が要求される部品、ジェットエンジン等に使用する耐火物部品に使用することが知られている。更に、比較的高温で使用される固体酸化物形燃料電池(SOFC)の固体電解質とすることも知られている。SOFCの固体電解質への応用として、以下の技術がある。
特許文献1には、ジルコニウムアルコキシド及び硝酸イットリウム水和物を共通の溶媒である第1の溶媒に溶解し、この溶液を均質化する第2の溶媒に溶解するコーティング溶液が開示されている。
【0003】
ここで第1の溶媒としては、1-プロパノールの他、2-プロパノール及び2-メチル- 1-プロパノールも適しており、更にベンゼン、ヘキサン、メタノール、エタノール等を使用することができるとされている(段落0025を参照)。
一方、第2の溶媒は均質化溶媒として説明されており、具体的には、2,4-ペンタンジオンの他、トリエタノールアミン又はジエタノールアミンを使用することができるとされている(段落0024を参照)。
【0004】
非特許文献2には、チタンアルコキシド及び酢酸バリウムを溶媒の1-プロパノールに溶解し、更に応力緩和剤としてのポリビニルピロリドンを添加したコーティング溶液を作製して、ディップコート法により、シリカガラス試験片の表面にクラックがないチタン酸バリウム(BaTiO)コーティング膜を作製した実験例が開示されている。
ここで、チタンアルコキシドを縮合反応させると、チタンアルコキシドの縮合反応物内に未反応のTi-OHを含むゲルポア(空孔)が生成する。この状態で乾燥及び焼成を行うと、コーティング膜に引張応力が発生して、コーティング膜表面にクラック等の欠陥が発生する。
そこで、この非特許文献2では、ポリビニルピロリドンをコーティング液に添加して、ポリビニルピロリドンのアミドカルボニル基とゲルポア(空孔)中の未反応のTi-OHを結合させて、チタンアルコキシド縮合反応物(ゲル)中のポア(空孔)を埋めることにより、コーティング膜表面にクラック等の欠陥を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-235317号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献2】Hiromitsu Kozuka,Masahiro Kajimura,Jouranal of the American Ceramic Society, 83,1056-1062(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の技術には、以下の問題があることが判明した。
(1)金属酸化物の多孔質体からなる空気極成形体の表面に当該イットリア安定化ジルコニアを電解質層として形成しようとする場合、この成形体をコーティング溶液に浸漬し、ディッピング操作を繰り返して、イットリア安定化ジルコニアコーティングを得るため、膜厚1μm程度のイットリア安定化ジルコニア膜を得るためには、ディッピング操作を20回繰り返して行う必要があるなど生産性の面で劣る。
【0008】
(2)コーティング溶液組成物の製造に際して、第1の溶媒による溶解、第2の溶媒による均質溶解と二段階を経る必要があり、製造工程が煩雑となる。
【0009】
(3)後にも実施例との比較で比較例を説明するが、この手法を採る場合は、塗膜の全面にクラックが発生して、表面がザラザラとした粗い外観となり、指で軽く触れただけで塗膜が簡単に剥離し、塗膜の形成の後に必要となる焼成まで至れない場合が発生する。
【0010】
また、非特許文献2に開示の技術には、以下の問題があることが判明した。
(1)ポリビニルピロリドンをジルコニウムアルコキシド及びイットリウム化合物を出発原料とする塗料組成物に添加すると、ジルコニウムアルコキシドの縮合反応物内に残存した未反応のZr-OHとポリビニルピロリドンのアミドカルボニル基が強固に結合する。
このため、コーティング液の粘度が上昇しゲル化してスプレーガンのノズルが閉塞する場合がある。
【0011】
(2)後にも実施例との比較で比較例を説明するが、この手法を採る場合は、塗膜の表面がザラザラとした粗い外観となる。
【0012】
一方、一般にジルコニウムアルコキシド及びイットリウム化合物を出発原料としてゾルーゲル反応でイットリア安定化ジルコニアのコーティング膜を形成する場合、ジルコニウムアルコキシドの加水分解速度が、通用のチタンアルコキシドやケイ素アルコキシドに比べて極めて速いため、コーティング膜厚を1μm以上としようとすると、表面に割れやクラックなどの欠陥が発生し易い。
【0013】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ジルコニウムアルコキシド及びイットリウム化合物を出発原料として簡便な方法で低コストに成膜可能であり、かつ、クラック等の欠陥の少ないイットリア安定化ジルコニア層も得られる塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1特徴構成は、ジルコニウムアルコキシド、イットリウム化合物、キレート化合物、ポリアルキレングリコール、触媒、水、及び有機溶媒を含む組成物を混合して塗料組成物を製造する塗料組成物の製造方法である点にある。
【0015】
この手法で製造する塗料組成物は、ジルコニウムアルコキシドの加水分解に必要な水を含み、更にその加水分解、縮合反応を誘起する触媒を含むことで、例えば、エアースプレー等を使用して、塗料組成物を塗布する簡便な方法でコーティング膜厚を所望の膜厚まで形成できる。発明者らの検討では、本発明の塗料組成物を使用すると、クラック等の欠陥の少ないイットリア安定化ジルコニア層を容易に得ることができる。
【0016】
本発明の第2特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記塗料組成物中のジルコニウムアルコキシドの含有量が10~30質量%、前記イットリウム化合物の含有量が1~10質量%、前記キレート化合物の含有量が3~15質量%、前記ポリアルキレングリコールの含有量が0.3~7重量%、前記触媒の含有量が0.1~2質量%、前記水の含有量が0.1~2質量%、前記有機溶媒の含有量が残部である点にある。
【0017】
ジルコニウムアルコキシドの含有量が10質量%より低い場合は、原料が不足傾向となり、目的物の生成が遅れる。一方、30質量%より高い場合、加水分解や縮合が早く進みすぎる場合がある。
【0018】
イットリウム化合物の含有量が1質量%より低い場合は、原料が不足傾向となり、目的物が得にくくなる。一方、10質量%より高い場合、生成される膜におけるイットリウムの量が過多となる場合がある。
【0019】
キレート化合物の含有量が3質量%より低い場合は、ジルコニウムアルコキシドの加水分解速度及び重縮合速度を抑制する効果を得にくい。一方、15質量%より高い場合は、加水分解速度及び重縮合速度が過度に抑制されやすい。
【0020】
ポリアルキレングリコールは、ジルコニウムアルコキシドの縮合反応物内に残存した未反応のZr-OHを含むポア(空孔)を埋める役割をする。このポア(空孔)を埋めることにより、乾燥及び焼成時にコーティング膜表面のクラック等を抑制することができる。
ポリアルキレングリコールの添加量は、ジルコニウムアルコキシドの縮合反応物内に残存した未反応のZr-OHを含むポア(空孔)を埋めるという役割を考慮すると、ジルコニウムアルコキシド1モルに対して0.05~0.5モル程度添加するのが好ましい。また、塗料組成物中の含有量は0.3~7質量%が好ましい。
ポリアルキレングリコールの含有量が0.3質量%より低い場合はジルコニウムアルコキシドの縮合反応物内に残存した未反応のZr-OHを含むポア(空孔)を埋める効果を得にくい。一方、7質量%より高い場合は、ジルコニウムアルコキシドの加水分解及び重縮合が阻害される恐れがある。
【0021】
触媒はジルコニウムアルコキシドの溶解及び加水分解を均一に開始するのと同時に加水分解により生じたゾルを均一に分散する解膠(かいしん)剤として使用する。
含有量が0.1質量%より低いと充分に能力を発揮し得ない場合がある。2質量%より多く入れても、更なる効果が得られることはない。
【0022】
水はジルコニウムアルコキシドを溶解及び加水分解するために使用する。水の添加量は、ジルコニウムアルコキシド1モルに対して、0.25~1.0モル程度が好ましい。また、塗料組成物中の含有量は0.1~2質量%が好ましい。
【0023】
水はジルコニウムアルコキシドの溶解及び加水分解用にも使用するため、0.25モルより低いと組成物独自に加水分解反応を進めるという目的を発揮しにくい。1.0モルより多く入れても、更なる効果が得られることはない。塗料組成物の塗工性、取り扱い易さの観点から、0.1~2質量%程度の範囲が好ましい。
【0024】
有機溶媒はジルコニウムアルコキシド、イットリウム化合物、キレート化合物、ポリアルキレングリコール、触媒、水を溶解するために使用する。
ジルコニウムアルコキシドのアルコキシ基は疎水性であるため、水とは混合しないので、アルコキシドと水の双方と混合するアルコールが必要となる。
【0025】
本発明の第3特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記ジルコニウムアルコキシドは、ジルコニウム(IV)メトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、ジルコニウム(IV)i-プロポキシド、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、ジルコニウム(IV)i-ブトキシド、ジルコニウム(IV)sec-ブトキシド、ジルコニウム(IV)t-ブトキシドのいずれか1以上である点にある。
【0026】
即ち、ジルコニウムアルコキシドは、イットリア安定化ジルコニアの出発原料となるものである。この中では、入手のし易さや加水分解性の点などから、ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、ジルコニウム(IV)i-プロポキシド、ジルコニウム(IV)n-ブトキシドが好ましい。これらの化合物と後述するキレート化合物を組み合わせることにより、割れや剥がれのないイットリア安定化ジルコニア層を得ることできる。
【0027】
本発明の第4特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記イットリウム化合物は、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、リン酸イットリウム、酢酸イットリウム、炭酸イットリウム、イットリウム(III)エトキシド、イットリウム(III)n-プロポキシド、イットリウム(III)i-プロポキシドのいずれか1以上である点にある。
【0028】
即ち、イットリウム化合物は、イットリア安定化ジルコニアの出発原料となるものである。イットリウム化合物に無機酸塩を使用する場合は、後述する触媒は同じ種類の無機酸を使用することが好ましい。例えば、硝酸イットリウムを使用する場合は硝酸を使用することが好ましい。有機酸塩の場合も同様である。
【0029】
この中では、入手のし易さや反応性の点などから、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、リン酸イットリウム、炭酸イットリウム、酢酸イットリウム、イットリウム(III)i-プロポキシドが好ましい。これらの化合物を使用することにより、ジルコニウムアルコキシドの加水分解生成物と反応してイットリア安定化ジルコニア層を形成させることができる。
【0030】
本発明の第5特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記キレート化合物は一般式1である点にある。
-CO-CH-CO-R (一般式1)
[式中、R1とR2は炭素数1~6のアルキル基(フッ素化アルキル基を含む)、単環もしくは2環アリール基;R1とR2は同じか又は異なり、それぞれ、炭素数1~6のアルキル基、単環もしくは2環アリール基である。R1とR2は互いに連結して環状アルキル基であってもよい。]
【0031】
このキレート化合物はジルコニウムアルコキシドに配位して、ジルコニウムアルコキシドの加水分解速度及び重縮合速度を抑制する。
【0032】
本発明の第6特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記キレート化合物は、2,4-ペンタンジオン、2,4-ヘキサンジオン、3,5-ヘプタンジオン、2,6-ジメチル-3,5-へプタンジオン、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン、1,1,1-トリフルオロ-2,4-ペンタンジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオン、1,3-シクロヘキサンジオンのいずれか1以上である点にある。
【0033】
この中では入手のし易さやジルコニウムアルコキシドへの配位力の点などから、2,4-ペンタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、2,6-ジメチル-3,5-へプタンジオン、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオンが好ましい。これらの化合物はRとRがメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基の電子供与基であるため、ジルコニウムアルコキシドへの配位力に優れており、ジルコニウムアルコキシドの加水分解反応速度及び重縮合反応速度を抑制するため、割れや剥がれのないイットリア安定化ジルコニア層を得ることができる。
【0034】
本発明の第7特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記ポリアルキレングリコールは、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール700、ポリプロピレングリコール1000のいずれか1以上である点にある。
【0035】
即ち、ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが挙げられ、ポリアルキレングリコールの分子量としては100から2000程度が好ましく、200から1000程度がより好ましい。
【0036】
ポリエチレングリコールの場合は、以下の一般式2で表せる。
H(OCHCHOH (一般式2)
[式中、nは2以上の整数である]
n=4で分子量は194、n=23で分子量は1030となるので、分子量が約200から約1000の範囲のポリエチレングリコールは、ジルコニウムアルコキシドの縮合反応物内に残存した未反応のZr-OHを含むポア(空孔)を埋めるのに適した分子サイズであると考えられる。
【0037】
一方、ポリプロピレングリコールの場合は、以下の一般式3で表せる。
H(OCHCHCHOH (一般式3)
[式中、nは2以上の整数である]
n=3で分子量は192、n=17で分子量は1004となるので、分子量が約200から約1000の範囲のポリプロピレングリコールは、ジルコニウムアルコキシドの縮合反応物内に残存した未反応のZr-OHを含むポア(空孔)を埋めるのに適した分子サイズであると考えられる。
【0038】
この中では入手のし易さ、分子サイズ、成膜性などの点から、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール700、ポリプロピレングリコール1000を挙げることができる。
【0039】
本発明の第8特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、酢酸のいずれか1以上である点にある。
【0040】
この中でもジルコニウムアルコキシドの加水分解性とかいしん性の点などから、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸が好ましい。これらの酸を使用することにより、ジルコニウムアルコキシドを均一に加水分解するとともに生じたゾルを反応溶液中に均一に分散することができるため、割れや剥がれのないイットリア安定化ジルコニア層を得ることができる。
【0041】
本発明の第9特徴構成は、上記塗料組成物の製造方法において、前記有機溶媒としてはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノールのいずれか1以上である点にある。
【0042】
有機溶媒は単独で使用してもよいし、2種類以上の有機溶媒を混合して使用してもよい。他の成分(ジルコニウムアルコキシド、イットリウム化合物、キレート化合物、触媒、水)の残部となるが、塗料組成物中の含有量は他の成分の条件を満たす状態で40~80質量%となることが好ましい。
ここで、有機溶媒の含有量が40質量%より低いと充分な混合性能が得られない場合がある。80質量%より多く入れると、原料成分が不足する傾向を示す。
【0043】
アルコールは、例えば、使用するジルコニウムアルコキシドのアルコキシドに対応するアルコールを使用してもよいが、ジルコニウムアルコキシドとイットリウム化合物を溶解できればよく、特に限定はされない。
【0044】
〔イットリア安定化ジルコニア層の使用形態〕
以下、本発明に係るイットリア安定化ジルコニア層を、本発明における「電気化学素子」に採用する場合に関して説明する。
【0045】
本発明における「電気化学素子」は、電解質層を挟んで電極層の反対側に対極電極層を備えて、電気化学素子が構成される。
【0046】
ここで、この電気化学素子を燃料電池として働かせる場合は、例えば、電極層を燃料極層として働かせ、また、対極電極層を空気極層として働かせることで、両電極間に発電電力を得ることができる。即ち、燃料極層に還元性ガス(代表的には水素を含む燃料ガス)を供給し、空気極層に酸化性ガス(代表的には酸素を含む空気)を供給することで、電気化学素子を燃料電池単セルとして働かせることができる。
逆に両電極間に所定の電力を供給する場合は、この電気化学素子は水の供給を受けて、これを分解する電解素子(電気分解素子)として働かせることができる。以下、電気分解を単に電解と記載することがある。
【0047】
従って、本発明においては、電気化学素子を燃料電池セルとして働かす場合に電気化学装置は燃料電池装置となり、電気化学素子を電気分解セルとして働かせる場合に電気分解装置となる。
【0048】
本発明に係る塗料組成物の製造方法により製造される塗料組成物は、イットリア安定化ジルコニア層を簡便に製造できるため、少なくとも本発明に於ける電解質層の製造に採用することができる。また、イットリア安定化ジルコニアは、電極層の材料や、電極層と電解質層との間に設けることがある中間層の材料など、電気化学素子に用いる電解質層以外の構成要素の材料にも採用できる。
【0049】
即ち、本発明の第10特徴構成は、本発明に係る塗料組成物の製造方法により製造される前記塗料組成物を硬化したイットリア安定化ジルコニア層を備えて本発明に係る電気化学素子を構成する点にある。
【0050】
本発明の第11特徴構成は、本発明に係るイットリア安定化ジルコニア層を備えた電気化学素子である点にある。
【0051】
更に、本発明の第12特徴構成は、上記電気化学素子において、金属支持体を有する点にある。
【0052】
上記特徴構成によれば、電気化学素子を堅牢な金属支持体で支持することができるとともに、電気化学素子間で求められる電気伝導性も確保できる。
【0053】
本発明の第13特徴構成は、上記電気化学素子が複数集合した状態で配置される電気化学モジュールである点にある。
【0054】
上記特徴構成によれば、上述の電気化学素子が複数集合した状態で配置されるので、材料コストと加工コストを抑制しつつ、コンパクトで高性能な強度と信頼性に優れた電気化学モジュールを得ることができる。
【0055】
本発明の第14特徴構成は、上記電気化学素子もしくは上記電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに還元性ガスを含有するガスを供給する燃料変換器、あるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールで生成する還元性ガスを含有するガスを変換する燃料変換器、とを有する電気化学装置である点にある。
【0056】
上記特徴構成によれば、電気化学素子もしくは電気化学モジュールを燃料電池セルとして動作させる場合、改質器などの燃料変換器によって、都市ガス等の既存の原燃料供給インフラを用いて供給される天然ガス等から水素を生成し、燃料電池セルに流通させることができる。また、電気化学素子もしくは電気化学モジュールを電解セルとして動作させる場合は、例えば、水の電解反応によって生成する水素を燃料変換器で一酸化炭素や二酸化炭素と反応させてメタンなどに変換する電気化学装置とすることができる。
【0057】
本発明の第15特徴構成は、上記電気化学素子もしくは上記電気化学モジュールと、前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールから電力を取り出す電力変換器、あるいは前記電気化学素子もしくは前記電気化学モジュールに電力を供給する電力変換器とを少なくとも有する電気化学装置である点にある。
【0058】
上記特徴構成によれば、電力変換器により、電気化学素子若しくは電気化学モジュールから取り出される電力を変換して外部の用に供したり、外部から電力を両者に供給して、電気化学素子若しくは電気化学モジュールを電解の用に供することができる。尚、例えば電力変換器としてインバータを用いる場合、インバータによって昇圧したり、直流を交流に変換したりできるため、電気化学モジュールで得られる電気出力を利用しやすくなるので好ましい。一方、電解に供する場合は交流電源から直流を得て、電気分解の用を果たす電気化学装置を構築できる。
【0059】
本発明の第16特徴構成は、上記電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部とを有するエネルギーシステムである点にある。
【0060】
上記特徴構成によれば、電気化学装置と、電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部を有するので、耐久性、信頼性及び性能に優れ、かつエネルギー効率にも優れたエネルギーシステムを実現することができる。尚、電気化学装置から排出される未利用の燃料ガスの燃焼熱を利用して発電する発電システムと組み合わせてエネルギー効率に優れたハイブリットシステムを実現することもできる。
【0061】
そして、本発明の第17特徴構成は、上記電気化学素子を備え、前記電気化学素子で発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池である点にある。
【0062】
一方、本発明の第18特徴構成は、上記電気化学素子を備え、前記電気化学素子で電解反応を生じさせる固体酸化物形電解セルである点にある。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】塗料組成物の製造状態を示す図
図2】イットリア安定化ジルコニア微粒子を含む塗料組成物の製造状態を示す図
図3】塗料組成物の塗装状態を示す図
図4】実施例1の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図5】実施例1の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図6】実施例1の1000℃焼成品のX線回折チャート
図7】実施例2の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図8】実施例2の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図9】実施例2の1000℃焼成品のX線回折チャート
図10】実施例3の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図11】実施例3の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図12】実施例3の1000℃焼成品のX線回折チャート
図13】実施例4の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図14】実施例4の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図15】実施例5の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図16】実施例5の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図17】実施例6の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図18】実施例6の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図19】実施例7の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図20】実施例7の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図21】実施例8の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図22】実施例8の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図23】実施例9の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図24】実施例9の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図25】実施例10の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図26】実施例10の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図27】比較例1の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図28】比較例1の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図29】比較例3の80℃乾燥品のマイクロスコープ観察写真図
図30】比較例3の1000℃焼成品のマイクロスコープ観察写真図
図31】電気化学素子の一構成例を示す要部断面図
図32】電気化学モジュールの一構成例を示す図
図33】燃料電池装置として働く電気化学装置の一構成例を示す図
図34】電気化学素子の別構成例を示す要部断面図
図35】電気化学素子を電解反応部に使用する別使用形態を示す図
図36】電解反応部、逆水性ガスシフト反応部及び炭化水素合成反応部を備えた別実施形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
図1図2に、本発明に係る塗料組成物b2の製造状態を示すとともに、その塗布状態の一例を、図3に示す。図1は、塗料組成物b2にイットリア安定化ジルコニア微粒子Paを含まない場合の例であり、図2はイットリア安定化ジルコニア微粒子Paを含む場合の例を示している。
【0065】
これまでも説明してきたように、本発明に係る塗料組成物の製造方法により製造される塗料組成物b2は、ジルコニウムアルコキシドo、イットリウム化合物p、キレート化合物q、ポリアルキレングリコールr、触媒s、水t、及び有機溶媒uを混合して、これらを含有して成る。そして、図3に示すように、この塗料組成物b2を所定の位置に塗布して、乾燥及び焼成することで硬化させ、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)層を得ることができる。
【0066】
ここで、ジルコニウムアルコキシドoはイットリア安定化ジルコニアコーティング層の出発原料となるものであり、例えば、ジルコニウム(IV)メトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、ジルコニウム(IV)i-プロポキシド、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、ジルコニウム(IV)i-ブトキシド、ジルコニウム(IV)sec-ブトキシド、ジルコニウム(IV)t-ブトキシドが挙げられる。
このジルコニウムアルコキシドoの組成物b2中の含有量は10~30質量%が好ましい。
下記する実施例、比較例にあっては、ジルコニウム(IV)n-ブトキシドを使用する例を示す。
【0067】
イットリウム化合物pとしては、例えば、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、酢酸イットリウム、炭酸イットリウム、イットリウム(III)エトキシド、イットリウム(III)n-プロポキシド、イットリウム(III)i-プロポキシド等が挙げられる。
塗料組成物b2中のイットリウム化合物pの含有量は1~10質量%が好ましい。
下記する実施例、比較例にあっては、硝酸イットリウムを使用する例を示す。
【0068】
キレート化合物qとして、例えば、2,4-ペンタンジオン、2,4-ヘキサンジオン、3,5-ヘプタンジオン、2,6-ジメチル-3,5-へプタンジオン、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン、1,1,1-トリフルオロ-2,4-ペンタンジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオン、1,3-シクロヘキサンジオン等が挙げられる。
キレート化合物qの添加量は、ジルコニウムアルコキシド1モルに対して、0.5~3モル程度が好ましい。また、塗料組成物b2中のキレート化合物qの含有量は3~15質量%が好ましい。
下記する実施例、比較例にあっては、2,4-ペンタンジオンを使用する例を示す。
【0069】
ポリアルキレングリコールrとして、例えば、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール700、ポリプロピレングリコール1000を挙げることができる。
ポリアルキレングリコールrの添加量は、ジルコニウムアルコキシドの縮合反応物内に残存した未反応のZr-OHを含むポア(空孔)を埋めるという役割を考慮すると、ジルコニウムアルコキシド1モルに対して、0.05~0.5モル程度が好ましい。また、塗料組成物b2中の含有量は0.3~7質量%が好ましい。
下記する実施例にあっては、ポリアルキレングリコールとして、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール700を使用する例を示す。尚、これら実施例のように、分子量が700以下のポリアルキレングリコールを使用する場合では、塗料組成物中の含有量は0.3~5質量%が好ましい。
【0070】
触媒sとしては、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸、リン酸等を使用することができる。塗料組成物b2中の触媒sの含有量は0.1~2質量%が好ましい。
下記する実施例、比較例にあっては、硝酸を使用する例を示す。
【0071】
水tは、ジルコニウムアルコキシドoの加水分解用にも使用するため、0.25モルより低いと組成物独自に加水分解反応を進むという目的を発揮しにくく、また、1.0モルより多く入れても、更なる効果が得られることはない。塗料組成物b2の塗工性、取り扱い易さの観点から、塗料組成物b2中の水tの含有量は0.1~2質量%程度の範囲が好ましい。
【0072】
有機溶媒uとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノールが挙げられる。有機溶媒uは他の成分の残量となる。
下記する実施例1~10、比較例1,3にあっては、エタノールと1-ブタノールの混合溶媒を使用する例を示す。但し、比較例2は特許文献1の再現実験であるため、特許文献1に従って、1-プロパノールを使用した。
【0073】
〔実施例、比較例〕
以下に示す実施例1~10、比較例1~3は、図3に示す様に、試験ピースB(φ25×3mm、材質SUS430、表面にガドリニウムドープセリアb1をスクリーン印刷済み)の上面に、本発明に係る塗料組成物b2を塗布し、所定温度、時間熱処理することで、目的層であるイットリア安定化ジルコニア層が得られるかどうかを評価した例である。
後述する様に、イットリア安定化ジルコニア層は電解質層4とできるが、前記ガドリニウムドープセリアb1は、電気化学素子Eを構成する、電解質層4と電極層2との間に設ける中間層3を想定したものである(段落〔124〕~〔134〕、図30参照)。
【0074】
図1には、混合の一例として、ガラス容器V1に原材料(ジルコニウムアルコキシドo、イットリウム化合物p、キレート化合物q、ポリアルキレングリコールr、触媒s、水t、有機溶媒u)を投入し、マグネチックスターラーW1で混合する状態を示す(同図(a)(b))。
図2には、樹脂容器V2を使用して、振動撹拌機W2によりイットリア安定化ジルコニア微粒子Paと有機溶媒uの混合液を作成し(同図(a)(b))、後に残余の成分(ジルコニウムアルコキシドo、イットリウム化合物p、キレート化合物q、ポリアルキレングリコールr、触媒s、水t)を、ガラス容器V1内で、マグネチックスターラーW1を使用して混合する一例を示す(同図(c)(d))。尚、図2に示すように、フィラー(骨材)となるイットリア安定化ジルコニア微粒子Paを添加することで、目的層であるイットリア安定化ジルコニア層の層厚(コーティング膜の膜厚)を容易に確保できる。また、イットリア安定化ジルコニア層内の応力を緩和して、クラック等の欠陥を防止することも期待できる。
図3にエアースプレーXを使用して、所定表面に塗料組成物b2を塗布する状態を示す。以下に示す実施例、比較例の説明では各原材料の名称及び使用量を明確とするため、図面に示す符号は省略した。
【0075】
(実施例1)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.40g、硝酸イットリウム六水和物1.60g、2,4-ペンタンジオン3.34g、ポリエチレングリコール(平均分子量200)0.67g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.42g、1-ブタノール21.59gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例1では、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.2モルとした。塗料組成物中の含有量は、1.34質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図4に示す。図4に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図5に示す。図5に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
X線回折で1000℃焼成したコーティング膜を分析したところ、図6のように、2θが30、35、50、60、62、74にイットリア安定化ジルコニアの明確なピークが見られた。
【0076】
(実施例2)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.32g、硝酸イットリウム六水和物1.58g、2,4-ペンタンジオン3.30g、ポリエチレングリコール(平均分子量400)1.32g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.23g、1-ブタノール22.88gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例2では、ポリエチレングリコール(平均分子量400)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.2モルとした。塗料組成物中の含有量は、2.64質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図7に示す。図7に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図8に示す。図8に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
X線回折で1000℃焼成したコーティング膜を分析したところ、図9のように、2θが30、35、50、60、62、74にイットリア安定化ジルコニアの明確なピークが見られた。
【0077】
(実施例3)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.24g、硝酸イットリウム六水和物1.56g、2,4-ペンタンジオン3.26g、ポリエチレングリコール(平均分子量600)1.95g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.04g、1-ブタノール22.59gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例3では、ポリエチレングリコール(平均分子量600)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.2モルとした。塗料組成物中の含有量は、3.90質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図10に示す。図10に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図11に示す。図11に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
X線回折で1000℃焼成したコーティング膜を分析したところ、図12のように、2θが30、35、50、60、62、74にイットリア安定化ジルコニアの明確なピークが見られた。
【0078】
(実施例4)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.47g、硝酸イットリウム六水和物1.61g、2,4-ペンタンジオン3.38g、ポリエチレングリコール(平均分子量200)0.17g、60%硝酸0.27g、水0.12g、エタノール14.56g、1-ブタノール23.42gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例4では、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.05モルとした。塗料組成物中の含有量は、0.34質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図13に示す。図13に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図14に示す。図14に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
【0079】
(実施例5)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.45g、硝酸イットリウム六水和物1.61g、2,4-ペンタンジオン3.36g、ポリエチレングリコール(平均分子量200)0.34g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.51g、1-ブタノール23.35gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例5では、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.1モルとした。塗料組成物中の含有量は、0.67質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図15に示す。図15に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図16に示す。図16に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
【0080】
(実施例6)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.36g、硝酸イットリウム六水和物1.59g、2,4-ペンタンジオン3.32g、ポリエチレングリコール(平均分子量200)0.99g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.32g、1-ブタノール23.04gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例6では、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.3モルとした。塗料組成物中の含有量は、1.99質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図17に示す。図17に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図18に示す。図18に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
【0081】
(実施例7)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.28g、硝酸イットリウム六水和物1.57g、2,4-ペンタンジオン3.28g、ポリエチレングリコール(平均分子量200)1.64g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.13g、1-ブタノール22.73gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例7では、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.5モルとした。塗料組成物中の含有量は、3.27質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図19に示す。図19に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図20に示す。図20に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
【0082】
(実施例8)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.32g、硝酸イットリウム六水和物1.58g、2,4-ペンタンジオン3.30g、ポリプロピレングリコール(平均分子量400)1.32g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.23g、1-ブタノール22.88gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例8では、ポリプロピレングリコール(平均分子量400)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.2モルとした。塗料組成物中の含有量は、2.64質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図21に示す。図21に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図22に示す。図22に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
【0083】
(実施例9)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.41g、硝酸イットリウム六水和物1.60g、2,4-ペンタンジオン3.34g、トリプロピレングリコール(分子量192)0.64g、60%硝酸0.26g、水0.12g、エタノール14.42g、1-ブタノール23.20gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例9では、トリプロピレングリコール(分子量192)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.2モルとした。塗料組成物中の含有量は、1.28質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図23に示す。図23に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図24に示す。図24に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
【0084】
(実施例10)
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.20g、硝酸イットリウム六水和物1.55g、2,4-ペンタンジオン3.23g、ポリプロピレングリコール700(平均分子量700)2.26g、60%硝酸0.25g、水0.11g、エタノール13.95g、1-ブタノール22.44gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この実施例10では、ポリプロピレングリコール700(平均分子量700)の添加量は、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド1モルに対して、0.2モルとした。塗料組成物中の含有量は、4.52質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図25に示す。図25に示すように平滑なコーティング膜となり、クラック等の欠陥はなかった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図26に示す。図26に示すようにコーティング膜に割れや剥離等の損傷はなく、膜厚は約2μmであった。
【0085】
(比較例1)
この比較例1は、ポリアルキレングリコールを添加しない例である。
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.49g、硝酸イットリウム六水和物1.62g、2,4-ペンタンジオン3.39g、60%硝酸0.27g、水0.12g、1-ブタノール23.50g、エタノール14.61gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図27に示す。図27に示すようにコーティング膜の表面にクラックが発生した。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図28に示す。図28に示すようにコーティング膜の全体にクラックが発生しており、膜厚は約2μmであった。
【0086】
(比較例2)
この比較例2は、特許文献1の実施例を再現した例である。
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-プロポキシドの0.5M-1-プロパノール溶液と硝酸イットリウム六水和物の0.087M-1-プロパノール溶液を等量混合し、次いで2,4-ペンタンジオンの0.5M-1-プロパノール溶液を2,4-ペンタンジオンに対してジルコニウムが2(モル比)の割合で含まれる量になるように添加して、塗料組成物50gを作製した。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理したところ、塗膜の全面がザラザラとした粗い外観となり、指で軽く触れただけで塗膜が簡単に剥離した。80℃乾燥の時点で、目視で塗膜に剥離が確認されたので、マイクロスコープによる観察と1000℃焼成は実施しなかった。
【0087】
この比較例2は、触媒としての硝酸と水が未添加のため、ジルコニウム(IV)n-プロポキシドの加水分解が不十分で、重縮合反応が部分的にしか進行せず、塗膜の全面がザラザラとした粗い外観になり、塗膜が簡単に剥離したものと考えられる。
【0088】
(比較例3)
この比較例3は、非特許文献2を参考にポリビニルピロリドンを添加した例である。
150mlガラス容器に、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド6.49g、硝酸イットリウム六水和物1.62g、2,4-ペンタンジオン3.39g、ポリビニルピロリドン(平均分子量25,000)0.65g、60%硝酸0.27g、水0.12g、エタノール14.61g、1-ブタノール22.85gを配合し、マグネチックスターラーを用いて3時間撹拌して、塗料組成物50gを作製した。
この比較例3では、ポリビニルピロリドン(平均分子量25,000)の添加量は、平均分子量が25,000と大きな値であるため、ジルコニウム(IV)n-ブトキシドの10質量%とした。塗料組成物中の含有量は、1.30質量%となる。
別途、対象物としての試験ピースに、塗料組成物をエアースプレーで塗布し、80℃で30分間熱処理して、コーティング膜を作製した。80℃乾燥後のコーティング膜を倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図29に示す。図29に示すようにクラック等はなかったが、やや凹凸のあるコーティング膜となった。
更に、1000℃で60分間保持してコーティング膜を作製した。1000℃焼成後のコーティング膜を目視で確認したところ、凹凸が多く粗い表面になった。倍率500倍でマイクロスコープ(光学顕微鏡)観察した結果を図30に示す。図30に示すように凸面が多いコーティング膜となり、膜厚は約2μmであった。目視で凹凸が多く粗い表面であったため、X線回折分析は実施しなかった。
【0089】
ジルコニウムアルコキシドo、イットリウム化合物p、キレート化合物q、ポリアルキレングリコールr、触媒s、水t、及び有機溶媒uを使用して、好適な塗料組成物b2とイットリア安定化ジルコニアコーティング膜が得られる組み合わせとしては、実施例1~10に記載の組み合わせのほか、例えば、以下の組み合わせが挙げられる。但し、本発明はこれらの組み合わせに限定されるものではない。
(a)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、テトラエチレングリコール、硝酸、水、エタノール、1-ブタノール
(b)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、ペンタエチレングリコール、硝酸、水、エタノール、1-ブタノール
(c)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量1000)、硝酸、水、エタノール、1-ブタノール
(d)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、テトラプロピレングリコール、硝酸、水、エタノール、1-ブタノール
(e)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、ポリプロピレングリコール(平均分子量1000)、硝酸、水、エタノール、1-ブタノール
(f)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、硝酸イットリウム、3,5-ヘプタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量200)、硝酸、水、エタノール、1-ブタノール
(g)ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量200)、硝酸、水、エタノール、1-プロパノール
(h)ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量400)、硝酸、水、エタノール、1-プロパノール
(i)ジルコニウム(IV)n-プロポキシド、硝酸イットリウム、2,4-ペンタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量600)、硝酸、水、エタノール、1-プロパノール
(j)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、塩化イットリウム、2,4-ヘプタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量200)、塩酸、水、エタノール、1-ブタノール
(k)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、硫酸イットリウム、2,4-ヘプタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量200)、硫酸、水、エタノール、1-ブタノール
(l)ジルコニウム(IV)n-ブトキシド、酢酸イットリウム、2,4-ヘプタンジオン、ポリエチレングリコール(平均分子量200)、酢酸、水、エタノール、1-ブタノール
【0090】
〔イットリア安定化ジルコニア層の使用形態〕
以下、図31図34を参照しながら、これまで説明してきたイットリア安定化ジルコニア層を電気化学素子Eの形成に使用し、更には、この電気化学素子Eを備えて構成される固体酸化物形燃料電池について説明する。
【0091】
電気化学素子Eは、例えば、水素を含む燃料ガスと空気の供給を受けて発電反応を生じさせて発電する固体酸化物形燃料電池の構成要素として用いられる。
尚、以下において、電気化学素子Eに関連する説明にあたり層の位置関係などを表す際、その位置表記の際の基準層を電解質層4とし、電解質層4から見て対極電極層6の側を「上」又は「上側」(図31の上側)と、電極層2の側を「下」又は「下側」という場合がある。また、金属基板1における電極層2が形成されている側(図31の上側)の面を「表側」、反対側(図31の下側)の面を「裏側」という場合がある。
【0092】
(電気化学素子)
電気化学素子Eは、図31に示すとおり、金属基板1(金属支持体の一例)と、金属基板1の上に形成された電極層2と、電極層2の上に形成された中間層3と、中間層3の上に形成された電解質層4とを有する。更に、電気化学素子Eは、電解質層4の上に形成された反応防止層5と、反応防止層5の上に形成された対極電極層6とを有する。つまり対極電極層6は電解質層4の上に形成され、反応防止層5は電解質層4と対極電極層6との間に形成されている。電極層2及び対極電極層6は多孔質であり、電解質層4は緻密である。
【0093】
これまでも説明してきたように、電気化学素子Eを構成する各層に関して、その主要な素子要素は、電解質層4、これを挟んで設けられる電極層2及び対極電極層6であり、これら3層を設けることで電気化学素子Eとして作動させることができる。
【0094】
(金属基板)
金属基板1は、電極層2、中間層3及び電解質層4等を支持して電気化学素子Eの強度を保つ支持体としての役割を担う。この金属基板として板状の金属基板1を用いるが、金属支持体としては他の形状、例えば箱状、円筒状、円盤状などの形状も可能である。
尚、金属基板1は、支持体として電気化学素子Eを形成するのに充分な強度を有すれば良く、例えば、0.1mm~2mm程度、好ましくは0.1mm~1mm程度、より好ましくは0.1mm~0.5mm程度の厚みのものを用いることができる。
【0095】
金属基板1は、表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の貫通孔1aを有する。例えば、貫通孔1aは、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工などにより、金属基板1に設けることができる。貫通孔1aは、金属基板1の裏側の面から表側の面へ気体を透過させる機能を有する。金属基板1に気体透過性を持たせるために、多孔質金属を用いることも可能である。例えば、金属基板1は、焼結金属や発泡金属等を用いることもできる。金属基板材料としては、フェライト系ステンレス材(Fe-Cr系合金の一例)を用いる。更に図31にも示すように、この金属基板1の外面(貫通孔1aの表面も含む)に被膜層1bを形成しても良い。尚、この被膜層1bは金属酸化物の層とすることができる。例えば、Fe-Cr系合金にCoコーティング処理した後に酸化処理を行って、金属酸化物の層を形成させることができる。
【0096】
金属基板1の材料としてFe-Cr系合金を用いると、この材料の熱膨張係数がが、電極層2や電解質層4の材料として用いられるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウムドープセリア、CGOとも呼ばれる)等と近くなる。結果、低温と高温の温度サイクルが繰り返された場合も電気化学素子Eがダメージを受けにくい。よって、長期耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。
【0097】
(電極層)
電極層2は、図31に示すように、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で形成することができる。電極層2を薄層の状態で形成する場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。貫通孔1aが設けられた領域の全体が、電極層2に覆われている。つまり、貫通孔1aは金属基板1における電極層2が形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔1aが電極層2に面して設けられている。
【0098】
電極層2の材料としては、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いることができる。これらの例では、YSZ、GDC、CeOを複合材の骨材と呼ぶことができる。尚、電極層2は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらのような低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な電極層2が得られる。そのため、金属基板1を傷めることなく、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0099】
電極層2は、気体透過性を持たせるため、その内部及び表面に複数の細孔を有する。即ち、電極層2は、多孔質な層として形成される。例えば、電極層2はその緻密度が30%以上80%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。尚、緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-空孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。
【0100】
(中間層)
中間層3は、図31に示すように、電極層2を覆った状態で、電極層2の上に薄層の状態で形成することができる。中間層3を薄層の状態で形成する場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な中間層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。中間層3の材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウムドープセリア)、YDC(イットリウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0101】
中間層3は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに中間層3が得られる。そのため、金属基板1を傷めることなく、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0102】
中間層3としては、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有することが好ましい。また、酸素イオン(酸化物イオン)と電子との混合伝導性を有すると更に好ましい。これらの性質を有する中間層3は、電気化学素子Eへの適用に適している。
【0103】
(電解質層)
電解質層4は、図31に示すように、電極層2及び中間層3を覆った状態で、中間層3の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成することもできる。詳しくは電解質層4は、中間層3の上と金属基板1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層4を金属基板1に接合することで、電気化学素子E全体として堅牢性に優れたものにできる。
また電解質層4は、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に設けられる。つまり、貫通孔1aは金属基板1における電解質層4が形成された領域の内側に形成されている。
【0104】
また電解質層4の周囲においては、電極層2及び中間層3からのガスのリークを抑制することができる。即ち、電気化学素子EをSOFCの構成要素として用いる場合、SOFCの作動時には、金属基板1の裏側から貫通孔1aを通じて電極層2へガスが供給される。電解質層4が金属基板1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。尚、本実施形態では電解質層4によって電極層2の周囲をすべて覆っているが、電極層2及び中間層3の上部に電解質層4を設け、周囲にガスケット等を設ける構成としてもよい。
【0105】
電解質層4の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウムドープセリア)、YDC(イットリウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)、LSGM(ストロンチウムマグネシウム添加ランタンガレート)等を用いることができる。特にジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。電解質層4をジルコニア系セラミックスとすると、電気化学素子Eを用いたSOFCの稼働温度をセリア系セラミックスに比べて高くすることができる。例えば電気化学素子EをSOFCに用いる場合、電解質層4の材料としてYSZのような650℃程度以上の高温域でも高い電解質性能を発揮できる材料を用い、システムの原燃料に都市ガスやLPG等の炭化水素系の原燃料を用い、原燃料を水蒸気改質等によってSOFCのアノードガスとするシステム構成とすると、SOFCのセルスタックで生じる熱を原燃料ガスの改質に用いる高効率なSOFCシステムを構築することができる。
【0106】
電解質層4は、低温焼成法(1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)により形成することが好ましいが、例えば、液状組成物をエアースプレー法、バーコート法、ディスペンサ法、刷毛塗り、へら塗りで塗装し、1100℃以下の温度域で焼成処理を施すことで形成できる。また、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4が得られる。そのため、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、性能及び耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法やスプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4が低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0107】
電解質層4は、アノードガスやカソードガスのガスリークを遮蔽し、かつ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層4の緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層4は、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層4が、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層4の一部に含まれていると、電解質層4が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4を形成しやすくできるからである。
【0108】
(反応防止層)
反応防止層5は、電解質層4の上に薄層の状態で形成することができる。反応防止層5を薄層の状態で形成する場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。反応防止層5の材料としては、電解質層4の成分と対極電極層6の成分との間の反応を防止できる材料であれば良い。例えばセリア系材料等が用いられる。反応防止層5を電解質層4と対極電極層6との間に導入することにより、対極電極層6の構成材料と電解質層4の構成材料との反応が効果的に抑制され、電気化学素子Eの性能の長期安定性を向上できる。反応防止層5の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制でき、性能及び耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0109】
(対極電極層)
対極電極層6は、電解質層4もしくは反応防止層5の上に薄層の状態で形成することができる。対極電極層6を薄層の状態で形成する場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な対極電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。対極電極層6の材料としては、例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルタイトフェライト)、LSM(ランタンストロンチウムマンガネート)等の複合酸化物、セリア系酸化物及びこれらの混合物を用いることができる。特に対極電極層6が、La、Sr、Sm、Mn、Co及びFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成される対極電極層6は、カソードとして機能する。
【0110】
尚、対極電極層6の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制でき、性能及び耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0111】
以上説明したように、本発明に係る電気化学素子Eにおいては、電解質層4に、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層を採用できる。緻密で気密性及びガスバリア性の高い電解質層4を得るという利点から、本発明に係る塗料組成物b2を使用して電解質層4を形成することができる。
また、別実施形態として、本願の塗料組成物b2を硬化させたイットリア安定化ジルコニア層を電極層2や中間層3の一部(複合材料の一部構成材)に用いることもできる。更に電解質層4と反応防止層5の間に別途中間層(図外)を挿入する場合もあり、本願の塗料組成物b2を硬化させたイットリア安定化ジルコニア層を、この中間層の一部に使用することもできる。
【0112】
(固体酸化物形燃料電池としての作動)
以上のように電気化学素子Eを構成することで、電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池の燃料電池セルとして用いることができる。例えば、金属基板1の裏側の面から貫通孔1aを通じて還元性ガス(代表的には水素を含む燃料ガス)を電極層2へ供給し、電極層2の対極となる対極電極層6へ酸化性ガス(代表的には酸素を含む空気)を供給し、例えば、600℃以上850℃以下の温度で作動させる。そうすると、対極電極層6において空気に含まれる酸素Oが電子eと反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層4を通って電極層2へ移動する(図31参照)。電極層2においては、供給された燃料ガスに含まれる水素Hが酸素イオンO2-と反応し、水HOと電子eが生成される。以上の反応により、電極層2と対極電極層6との間に起電力が発生する。この場合、電極層2はSOFCの燃料極(アノード)として機能し、対極電極層6は空気極(カソード)として機能する。
【0113】
(電気化学素子の製造方法)
次に、本実施形態に係る電気化学素子Eの製造方法について説明する。
以下の説明では、本発明に係る塗料組成物b2を使用して、電極層2及び中間層3の一部に、更に電解質層4にイットリア安定化ジルコニア層を形成する例を主に説明する。
【0114】
(金属基板準備ステップ)
金属基板準備ステップでは、所定形状のFe-Cr系合金からなる板材を準備し、この板材の所定位置に多数の貫通孔1aをレーザー加工等により形成することができる。尚、この板材にCoめっき処理を施し、めっき処理後に酸化処理を行ってCoを含有する金属酸化物層を形成してもよい。この金属酸化物層は後述する電極層形成ステップで金属酸化物層1b(被膜層)として形成されることとなる。
【0115】
(電極層形成ステップ)
電極層形成ステップでは、金属基板準備ステップで得られた金属基板1の表側の面における貫通孔1aが設けられた領域より広い領域に電極層2が薄膜の状態で形成される。金属基板1の貫通孔1aはレーザー加工等によって設けることができる。電極層2の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0116】
電極層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には、材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属基板1の表側の面に塗布する。ここで、この材料ペーストに本発明に係る塗料組成物b2をその一部として使用できる。
そして電極層2を圧縮成形し(電極層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(電極層焼成工程)。電極層2の圧縮成形は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing、冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing)成形などにより行うことができる。また、電極層2の焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。また、電極層平滑化工程と電極層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。
【0117】
尚、中間層3を有する電気化学素子Eを形成する場合では、電極層平滑化工程や電極層焼成工程を省いたり、電極層平滑化工程や電極層焼成工程を後述する中間層平滑化工程や中間層焼成工程に含めることもできる。
尚、電極層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削処理や研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0118】
(拡散抑制層形成ステップ)
拡散抑制層は、上記の電極層形成ステップにおける焼成工程時に、金属基板1の表面に形成される金属酸化物層1b(被膜層)となる。尚、上記焼成工程に、焼成雰囲気を酸素分圧が低い雰囲気条件とする焼成工程が含まれていると元素の相互拡散抑制効果が高く、抵抗値の低い良質な金属酸化物層1bが形成されるので好ましい。電極層形成ステップを、焼成を行わないコーティング方法とする場合を含め、別途の拡散抑制層形成ステップを含めても良い。例えば、別途の拡散抑制層形成ステップでは、金属基板1の上にCoをコーティングした後に酸化処理することで金属酸化物層1bが形成される。あるいは、例えば、別途の拡散抑制層形成ステップでは、金属基板1の上に形成された介在層にCoをコーティングした後に酸化処理することで金属酸化物層1bを形成できる。
【0119】
いずれにおいても、金属基板1の損傷を抑制可能な1100℃以下の処理温度で実施することが望ましい。また、後述する中間層形成ステップにおける焼成工程時に、金属基板1の表面に金属酸化物層1b(拡散抑制層)が形成されても良い。
【0120】
(中間層形成ステップ)
中間層形成ステップでは、電極層2を覆う形態で、電極層2の上に中間層3が薄層の状態で形成される。中間層3の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0121】
中間層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず、中間層3の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属基板1の表側の面に塗布する。
中間層3の材料としては、GDC(ガドリニウムドープセリア)、YDC(イットリウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等のセリア系セラミックスが好適に用いられる。ここで、この材料ペーストに本発明に係る塗料組成物b2を含んでおくと、複合材料からなる中間層3の一部として使用できる。
そして中間層3を圧縮成形し(中間層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(中間層焼成工程)。中間層3の圧延は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing、冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing)成形などにより行うことができる。また、中間層3の焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。このような温度であると、金属基板1の損傷及び劣化を抑制しつつ、強度の高い中間層3を形成できるためである。また、中間層3の焼成を1050℃以下で行うとより好ましく、1000℃以下で行うと更に好ましい。これは、中間層3の焼成温度を低下させる程に、金属基板1の損傷及び劣化をより抑制しつつ、電気化学素子Eを形成できるからである。また、中間層平滑化工程と中間層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。尚、中間層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削処理や研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0122】
(電解質層形成ステップ)
電解質層形成ステップでは、電極層2及び中間層3を覆った状態で、電解質層4が中間層3の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成されても良い。電解質層4の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)により形成することが好ましいが、例えば、本発明に係る塗料組成物b2をエアースプレー法、バーコート法、ディスペンサ法、刷毛塗り、へら塗りで塗装し1100℃以下の温度域で焼成処理を施すことで形成できる。また、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0123】
緻密で気密性及びガスバリア性能の高い、良質な電解質層4を1100℃以下の温度域で形成するためには、電解質層形成ステップで本発明に係る塗料組成物b2を使用して低温焼成法で行うことが望ましい。その場合、電解質層4の材料を下地となる層の上にエアースプレー法などで塗布し、1100℃以下の温度で焼成処理するなどして電解質層4を形成することができる。
【0124】
(反応防止層形成ステップ)
反応防止層形成ステップでは、反応防止層5が電解質層4の上に薄層の状態で形成される。反応防止層5の形成は、上述したように、低温焼成法や、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。尚、反応防止層5の上側の面を平坦にするために、例えば反応防止層5の形成後にレベリング処理や表面を切削処理や研磨処理を施したり、湿式形成後焼成前に、プレス加工を施してもよい。
【0125】
(対極電極層形成ステップ)
対極電極層形成ステップでは、対極電極層6が反応防止層5の上に薄層の状態で形成される。対極電極層6の形成は、上述したように、低温焼成法や、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0126】
以上の様にして、電気化学素子Eを製造することができる。尚、以上述べた電極層形成ステップ及び中間層形成ステップを行って、金属支持型電気化学素子用の電極層付基材を製造することができる。
【0127】
尚、電気化学素子Eにおいて、中間層3と反応防止層5とは、何れか一方、あるいは両方を備えない形態とすることも可能である。即ち、電極層2と電解質層4とが接触して形成される形態、あるいは電解質層4と対極電極層6とが接触して形成される形態も可能である。この場合に上述の製造方法では、中間層形成ステップ、反応防止層形成ステップが省略される。
【0128】
〔電気化学素子、電気化学モジュール、電気化学装置、エネルギーシステム〕
図32図33を用いて、電気化学素子E、電気化学モジュールM、電気化学装置Y及びエネルギーシステムZについて、固体酸化物形燃料電池の例を説明する。
この形態の電気化学素子Eは、図32に示すように、金属基板1の裏面にU字部材7が取り付けられており、金属基板1とU字部材7とで筒状支持体TSを形成している。U字部材7(セパレータ)には、金属基板1と同じ材料(基材をFe-Cr系合金とし、その外面にCoの複合酸化物被膜を形成した合金材料)を使用できる。電気化学素子Eを燃料電池として働かせる場合、金属基板1とU字部材7との間に形成される流路が、還元性ガス(代表的には水素を含有する燃料ガス)の供給路となる。
そして、図32に示すように、集電部材26を間に挟んで電気化学素子Eが複数積層されて、電気化学モジュールMが構成されている。ここで、積層は集合の一例である。集電部材26は、電気化学素子Eの対極電極層6と、U字部材7とに接合され、両者を電気的に接続している。従って、電気化学モジュールMはその積層方向で一体に電気的に接続される。集電部材26にも、金属基板1と同じ材料(基材をFe-Cr系合金とし、その外面にCoを含有する複合酸化物被膜を形成した合金材料)を使用できる。上述の合金部材が用いられる。
【0129】
図33に示すように、電気化学モジュールMは、ガスマニホールド17、終端部材m1及び電流引出し部m2を有する。図32に示す集電部材26を挟んで複数積層された電気化学素子Eは、筒状支持体TSの一方の開口端部がガスマニホールド17に接続されて、ガスマニホールド17から気体(本例の場合は改質器34により改質された改質ガス)の供給を受ける。供給され
た気体は、筒状支持体TSの内部を通流し、金属基板1の貫通孔1aを通って電極層2に供給される。
【0130】
図33には、エネルギーシステムZ及び電気化学装置Yの概要を示す。
エネルギーシステムZは、電気化学装置Yと、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部としての熱交換器53とを有する。
電気化学装置Yは、電気化学モジュールMと、脱硫器31と改質器34とを有し電気化学モジュールMに対して還元性ガスを含有する燃料ガスを供給する燃料供給部と、電気化学モジュールMから電力を取り出す電力変換部としてのインバータ38とを有する。従って、この電気化学装置Yは、燃料が供給されて発電を行う発電装置となっている。
【0131】
詳しくは、電気化学装置Yは、脱硫器31、改質水タンク32、気化器33、改質器34、ブロア35、燃焼部36、インバータ38、制御部39、収納容器40及び電気化学モジュールMを有する。
【0132】
脱硫器31は、都市ガス等の炭化水素系の原燃料に含まれる硫黄化合物成分を除去(脱硫)する。原燃料中に硫黄化合物が含有される場合、脱硫器31を備えることにより、硫黄化合物による改質器34あるいは電気化学素子Eに対する影響を抑制することができる。気化器33は、改質水タンク32から供給される改質水から水蒸気を生成する。改質器34は、気化器33にて生成された水蒸気を用いて脱硫器31にて脱硫された原燃料を水蒸気改質して、水素を含む改質ガスを生成する。
【0133】
電気化学モジュールMは、改質器34から供給された改質ガスと、ブロア35から供給された空気とを用いて、電気化学反応させて発電する。燃焼部36は、電気化学モジュールMから排出される反応排ガスと空気とを混合させて、反応排ガス中の可燃成分を燃焼させる。
【0134】
電気化学モジュールMは、複数の電気化学素子Eとガスマニホールド17とを有する。複数の電気化学素子Eは互いに電気的に接続された状態で並列して配置され、電気化学素子Eの一方の端部(下端部)がガスマニホールド17に固定されている。電気化学素子Eは、ガスマニホールド17を通じて供給される改質ガスと、ブロア35から供給された空気とを電気化学反応させて発電する。
【0135】
インバータ38は、電気化学モジュールMの出力電力を調整して、商用系統(図示省略)から受電する電力と同じ電圧及び同じ周波数にする。従って、このインバータ38は電気化学素子Eもしくは電気化学モジュールMから電力を取り出す電力変換器となっている。制御部39は電気化学装置Y及びエネルギーシステムZの運転を制御する。
【0136】
気化器33、改質器34、電気化学モジュールM及び燃焼部36は、収納容器40内に収納される。そして改質器34は、燃焼部36での反応排ガスの燃焼により発生する燃焼熱を用いて原燃料の改質処理を行う。
【0137】
原燃料は、昇圧ポンプ41の作動により原燃料供給路42を通して脱硫器31に供給される。改質水タンク32の改質水は、改質水ポンプ43の作動により改質水供給路44を通して気化器33に供給される。そして、原燃料供給路42は脱硫器31よりも下流側の部位で、改質水供給路44に合流されており、収納容器40外にて合流された改質水と原燃料とが収納容器40内に備えられた気化器33に供給される。
【0138】
改質水は、気化器33にて気化され水蒸気となる。気化器33にて生成された水蒸気を含む原燃料は、水蒸気含有原燃料供給路45を通して改質器34に供給される。改質器34にて原燃料が水蒸気改質され、水素ガスを主成分とする改質ガス(これまで説明した還元性ガスである水素を含む燃料ガスとなる)が生成される。改質器34にて生成された改質ガスは、改質ガス供給路46を通して電気化学モジュールMのガスマニホールド17に供給される。
【0139】
ガスマニホールド17に供給された改質ガスは、複数の電気化学素子Eに対して分配され、電気化学素子Eとガスマニホールド17との接続部である下端から電気化学素子Eに供給される。改質ガス中の主に水素が、電気化学素子Eにて電気化学反応に使用される。従って、この改質器34は電気化学素子Eもしくは電気化学モジュールMに対し、還元性ガスを含有するガスを供給する燃料変換器となっている。反応に用いられなかった残余の水素ガスを含む反応排ガスが、電気化学素子Eの上端から燃焼部36に排出される。
【0140】
反応排ガスは燃焼部36で燃焼され、燃焼排ガスとなって燃焼排ガス排出口50から収納容器40の外部に排出される。燃焼排ガス排出口50には燃焼触媒部51(例えば、白金系触媒)が配置され、燃焼排ガスに含有される一酸化炭素や水素等の還元性ガスを燃焼除去する。燃焼排ガス排出口50から排出された燃焼排ガスは、燃焼排ガス排出路52により熱交換器53に送られる。
【0141】
熱交換器53は、燃焼部36における燃焼で生じた燃焼排ガスと、供給される冷水とを熱交換させ、温水を生成する。即ち、熱交換器53は、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部として動作する。
【0142】
尚、排熱利用部の代わりに、電気化学モジュールMから(燃焼されずに)排出される反応排ガスを利用する反応排ガス利用部(図外)を設けてもよい。反応排ガスには、電気化学素子Eにて反応に用いられなかった残余の水素ガスが含まれる。反応排ガス利用部では、残余の水素ガスを利用して、燃焼による熱利用や、燃料電池等による発電が行われ、エネルギーの有効利用がなされる。
【0143】
〔電気化学モジュールの別実施形態〕
図34に、電気化学モジュールMの別実施形態を示す。
この別実施形態に係る電気化学モジュールMは、上述の電気化学素子Eを、セル間接続部材71を間に挟んで積層することで、電気化学モジュールMを構成する。
【0144】
セル間接続部材71は、導電性を有し、かつ気体透過性を有さない板状の部材であり、表面と裏面に、互いに直交する溝72が形成されている。セル間接続部材71はステンレス等の金属や、金属酸化物を用いることができる。
【0145】
図34に示すように、このセル間接続部材71を間に挟んで電気化学素子Eを積層すると、溝72を通じて気体を電気化学素子Eに供給することができる。詳しくは一方の溝72が第1気体流路72aとなり、電気化学素子Eの表側、即ち対極電極層6に気体を供給する。他方の溝72が第2気体流路72bとなり、電気化学素子Eの裏側、即ち金属基板1の裏側の面から貫通孔1aを通じて電極層2へ気体を供給する。
【0146】
この電気化学モジュールMを燃料電池として動作させる場合は、第1気体流路72aに酸化性ガス(代表的には酸素を含有する空気)を供給し、第2気体流路72bに還元性ガス(代表的には水素を含有する燃料ガス)を供給する。そうすると電気化学素子Eにて燃料電池としての反応が進行し、起電力及び電流が発生する。発生した電力は、積層された電気化学素子Eの両端のセル間接続部材71から、電気化学モジュールMの外部に取り出される。
【0147】
尚、本実施形態では、セル間接続部材71の表面と裏面に、互いに直交する溝72を形成したが、セル間接続部材71の表面と裏面に、互いに並行する溝72を形成することもできる。
【0148】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池に用いたが、電気化学素子Eは、電解反応を生じさせる固体酸化物形電解セルや固体酸化物を利用した酸素センサ等に利用することもできる。
【0149】
以下、電気化学素子Eを固体酸化物形電解セルとして使用する例に関して図面を使用して説明する。先にも示したように、この例は本発明に係る電気化学装置Yが、炭化水素製造システム100とされる例であり、所定の原料ガス及び電力を供給することにより、電気化学素子Eを電解反応部10として働かせる。即ち、この電解反応部10に水HO及び二酸化炭素COを供給することで、これらを分解して炭化水素を合成する原料としての一酸化炭素CO及び水素Hを得る。そして、炭化水素合成反応部30で炭化水素を得ることができる。
【0150】
図35は炭化水素製造システム100の全体構成を示すシステム図であり、図36に炭化水素製造システム100として成立する電解セルユニットUの一構成例を示している。
【0151】
図35からも判明するように、炭化水素製造システム100は、電解反応部10、第1触媒反応部20、第2触媒反応部30、重質炭化水素分離部70(CnHm分離部と図示)、水分離部80(HO分離部と図示)及び二酸化炭素分離部90(CO分離部と図示)を順に備えて構成されている。図35では、電解反応部10、第1触媒反応部20及び第2触媒反応部30を別個に描いているが、図36に示すように、これらの部位10,20、30は単一の電解セルユニットUとして設けることができる。
【0152】
電解反応部10は流入するガスの少なくとも一部を電気分解する部位であり、第1触媒反応部20は流入するガスの少なくとも一部を逆水性ガスシフト反応する逆水性ガスシフト反応部であり、第2触媒反応部30は流入するガスの少なくとも一部を炭化水素に合成する炭化水素合成反応部である。ここで、合成される炭化水素は、主にはCH(炭素数が1の炭化水素)であるが、その他炭素数が2~4の低級飽和炭化水素類等を含むことがある。更に、上記低級飽和炭化水素より炭素数が大きく、飽和状態にない炭化水素も合成される。これらの重質炭化水素は、第2触媒反応部30から放出されるガスの冷却に伴って上記重質炭化水素分離部70で、捕集、分離することができる。
【0153】
水分離部80及び二酸化炭素分離部90は、内部を流れるガスから所定の成分(記載順に、HO及びCO)の少なくとも一部を除去する部位である。これら部位により除去され回収される成分は、図示するように、水戻し路81及び二酸化炭素戻し路91を介して、システムの所定の部位に戻されて再利用される。両戻し路81、91の上に、それぞれを経て戻されるHO及びCOで示している。
結果、この炭化水素製造システム100は、実質的にCOをシステム外に放出することの無いカーボンクローズドシステムとして成立する。
同図において、各部の前に各部に流入するガスを示し、後に当該部から放出されるガスを示す。
【0154】
前記電解反応部10では、原料ガスとしての、HO及びCOとが流入され、内部で電気分解されて、HOはHとO2とに分解されるとともに、一部のCOがCOとOとに分解され放出される。
反応は、以下の様に記載される。
2HO→2H+O (式1)
2CO→2CO+O (式2)
これらの式1,2は図35の電解反応部10を表す箱内にも示す。
【0155】
前記第1触媒反応部20(逆水性ガスシフト反応部)では、少なくともHとCOが流入され、内部で逆水性ガスシフト反応が起こり、COがCOに、HはH2Oになり放出される。
反応は、以下の平衡反応として記載されるが、逆水性ガスシフト反応は、以下の式3で記載される反応が右側に進む反応(COとHが反応してCOとHOが生成する方向に進む反応)となる。
CO+H⇔CO+HO (式3)
この式3は図35の第1触媒反応部20(逆水性ガスシフト反応部)を表す箱内にも示す。箱内には、反応に使用する逆水性ガスシフト触媒cat1も模式的に示す。
この種の逆水性ガスシフト触媒cat1として、発明者等は、セリア系金属酸化物、ジルコニア系金属酸化物、及びアルミナ系金属酸化物から選択される一種以上の担体cb1(金属酸化物担体)に触媒活性成分ca1(金属触媒)として、ニッケル及び鉄の何れか一方又はそれらの両方が担持された触媒が好ましいと考えている。
【0156】
前記第2触媒反応部30(炭化水素合成反応部)では、少なくともHとCOが流入され、触媒反応により炭化水素が合成される。例えば、COとHからCHが合成される反応は以下の平衡反応として記載されるが、COとHからCHが合成される反応は、以下の式4で記載される反応が右側に進む反応(COとH2が反応してCHとHOが生成する方向に進む反応)となる。
CO+3H⇔CH+HO (式4)
この式4は図35の第2触媒反応部30(炭化水素合成反応部)を表す箱内にも示す。箱内には、反応に使用する炭化水素合成触媒cat2も模式的に示す。
この種の炭化水素合成触媒cat2として、発明者等は、触媒活性成分ca2として少なくともルテニウムが担体cb2(金属酸化物担体)、例えば、アルミナ等に担持された触媒が好ましいと考えている。
更に、この部位では(式3)の平衡反応も発生する。
また、前記第2触媒反応部30に用いる触媒の種類によっては、FT(Fischer-Tropsch)合成反応を進行させることが可能であるため、COとHからエタンやプロパン等の炭化水素類等を合成することもできる。
【0157】
前記水分離部80において生成したHOは分離され、水戻し路81(水リサイクルライン)を介して電解反応部10の上流側に戻される。
前記二酸化炭素分離部90において生成したCOは分離され、二酸化炭素戻し路91(二酸化炭素リサイクルライン)を介して電解反応部10の上流側に戻される。
結果、この炭化水素製造システム100では、最終的には炭化水素が合成され、外部に供給することができる。
【0158】
このような、電気化学素子Eを電解反応部10に有し、逆水性ガスシフト反応部20及び炭化水素合成反応部30を併設した電解セルユニットUを図36に示す。図36は、電解セルユニットUを、そのガスの移流方向を含めて描いた図である。
また、この図では、電気化学反応系を明確とするため、図31における電気化学素子Eの中間層3、反応防止層5を省略している。更に、図35との対比では、重質炭化水素分離部70、水分離部80及び二酸化炭素分離部90を省略している。
【0159】
この電解セルユニットUも、電解質層4を挟んで電極層2と対極電極層6が形成された電気化学素子E、セパレータとして働く金属支持体としての金属基板1、供給路形成部材として働くU字部材7、供給路構成部材として働く集電部材26を備えて構成されており、電極層側ガス供給路7a及び対極電極層側ガス供給路26aが形成される構成となっている。電極層側ガス供給路7aには、電気分解の対象とするHO及びCOを供給する。一方、対極電極層側ガス供給路26aには、酸素含有ガスの一例である空気g2(O)を供給する。この電解セルユニットUを、図36の左右方向である、ユニットの厚み方向に積層する(集合する)ことで、電気化学モジュールMを構築できる。
本発明に係る塗料組成物b2を使用して、電解質層4及びその一部として電極層2を構築できることは前述の通りである。
【0160】
この別実施の構成は、電気化学素子Eを電解反応部10として働かせる場合の例であるが、図36からも分かるように、電極層2と対極電極層6との間に直流電力を供給する。図示する例は、交流電源37から得た電力をインバータ38にて交直変換して電気化学素子Eに供給する例を示している。従って、このインバータ38が電気化学素子Eもしくはそれらが集積される場合は、その集合体である電気化学モジュールMに電力を供給する電力変換器となる。
ただし、前記電極層側ガス供給路7aの内面(U字部材7の供給路側内面、金属基板1の電極層2を形成した面とは反対側の面及び複数の貫通孔1aの表面)に、逆水性ガスシフト触媒cat1が塗布されている。この塗布層20bを太実線で示す。
更に、電極層側ガス供給路7aは、電解反応部10を超えて先に延ばされており、この延長側にも、前記塗布層20bを設けている。更に、その先に炭化水素合成触媒cat2を塗布して、塗布層30bを設け炭化水素合成反応部30としている。
結果、この構成では、炭化水素合成反応部30が、電気化学素子Eもしくは、それらが集積される場合は、その集合体である電気化学モジュールMに電力を供給する電力変換器となる。
そして、電解反応部10及び逆水性ガスシフト反応部20で得られたガスを使用して炭化水素合成反応部30で炭化水素を得ることができる。
【0161】
(2)上記の実施形態では、金属基板1を支持体とする金属支持型の固体酸化物形燃料電池に用いたが、本発明は、電極層2もしくは対極電極層6を支持体とする電極支持型の固体酸化物形燃料電池や電解質層4を支持体とする電解質支持型の固体酸化物形燃料電池に利用することもできる。それらの場合は、電極層2もしくは対極電極層6、又は、電解質層4を必要な厚さとして、支持体としての機能が得られるようにすることができる。
【0162】
(3)上記の実施形態では、電極層2の材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用い、対極電極層6の材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用いた。このように構成された電気化学素子Eは、電極層2に水素ガスを供給して燃料極とし、対極電極層6に空気を供給して空気極とし、固体酸化物形燃料電池セルとして用いることが可能である。この構成を変更して、電極層2を空気極とし、対極電極層6を燃料極とすることが可能なように、電気化学素子Eを構成することも可能である。即ち、電極層2の材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用い、対極電極層6の材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いる。このように構成した電気化学素子Eであれば、電極層2に空気を供給して空気極とし、対極電極層6に水素ガスを供給して燃料極とし、電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池セルとして用いることができる。
【0163】
(4)上記の実施形態では、金属基板1をFe-Cr系合金の表面に、Coを含有する複合酸化物被膜を形成し、この材料からのCrなどの揮発を抑制する例を示したが、セパレータとしてのU字部材7、ガスマニホールド17、集電部材26、インターコネクタとしてのセル間接続部材71の一種以上を、この種の合金部材で構成しても良い。
一方、この種の酸化物被膜としては、Fe-Cr系合金の表面にCoのみの酸化物被膜を形成しておいてもよい。Crの揮発に対して有効である。
【0164】
尚、上記の実施形態で開示した構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示した構成と組み合わせて適用することが可能である。また本明細書において開示した実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0165】
1 金属基板(金属支持体)
1a 貫通孔
2 電極層
3 中間層
4 電解質層
5 反応防止層
6 対極電極層
7 U字部材(セパレータ)
10 電解反応部
17 ガスマニホールド(マニホールド)
20 第1触媒反応部(逆水性ガスシフト反応部)
26 集電部材
30 第2触媒反応部(炭化水素合成反応部、燃料変換器)
31 脱硫器
32 改質水タンク
33 気化器
34 改質器(燃料変換器)
35 ブロア
36 燃焼部
38 インバータ(電力変換器)
39 制御部
40 収納容器
41 昇圧ポンプ
42 原燃料供給路
43 改質水ポンプ
44 改質水供給路
45 水蒸気含有原燃料供給路
46 改質ガス供給路
50 燃焼排ガス排出口
51 燃焼触媒部
52 燃焼排ガス排出路
53 熱交換器(排熱利用部)
70 重質炭化水素分離部
71 セル間接続部材(インターコネクタ)
72 溝
72a 第1気体流路
72b 第2気体流路
80 水分離部
90 二酸化炭素分離部
100 炭化水素製造システム
E 電気化学素子
M 電気化学モジュール
TS 筒状支持体
U 電解セルユニット
Y 電気化学装置
Z エネルギーシステム
o ジルコニウムアルコキシド
p イットリウム化合物
q キレート化合物
r ポリアルキレングリコール
s 触媒
t 水
u 有機溶媒

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