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特開2023-133953パタークラブ用シャフト、及び、パタークラブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133953
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】パタークラブ用シャフト、及び、パタークラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20230920BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20230920BHJP
【FI】
A63B53/10 A
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039228
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】508374380
【氏名又は名称】株式会社スポーツライフプラネッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 禎志
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA04
2C002AA05
2C002CS05
2C002MM02
(57)【要約】
【課題】安定した打球が行なえると共に操作性の良いパタークラブ用シャフト、及び、パタークラブを提供する。
【解決手段】本発明は、繊維強化樹脂によって成形されたパタークラブ用シャフト10であり、先端から200mmの位置までの範囲(L1)における曲げ剛性は、50N・m2 以上であり、先端から400mm~600mmの位置の範囲(L3)における曲げ剛性は、40N・m2 以上、100N・m2 以下であることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂によって成形されたパタークラブ用シャフトであって、
先端から200mmの位置までの範囲における曲げ剛性は、50N・m2 以上であり、先端から400mm~600mmの位置の範囲における曲げ剛性は、40N・m2 以上、100N・m2 以下であることを特徴とするパタークラブ用シャフト。
【請求項2】
先端から基端に向けて外径が増加するテーパを備え、先端位置での外径をφ12mm±2mmの範囲にしたことを特徴とする請求項1に記載のパタークラブ用シャフト。
【請求項3】
先端から200mmの位置までの範囲内の少なくとも一部を中実構造にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のパタークラブ用シャフト。
【請求項4】
前記中実構造は、シャフトとは別部材である充填部材を充填することで構成されることを特徴とする請求項3に記載のパタークラブ用シャフト。
【請求項5】
ヘッドに繊維強化樹脂製の管状のシャフトを装着したパタークラブであって、
前記シャフトは、先端から200mmの位置までの範囲における曲げ剛性は、最小値が50N・m2 であり、先端から400mm~600mmの位置の範囲における曲げ剛性は、40N・m2 以上、100N・m2 以下であることを特徴とするパタークラブ。
【請求項6】
前記シャフトの先端は、ヘッドのホーゼル部に取り付けられており、前記シャフトとホーゼル部は、シャフトの先端開口に挿入される接合パーツによって連結されていることを特徴とする請求項5に記載のパタークラブ。
【請求項7】
前記接合パーツは、前記ホーゼル部、及び/又は、シャフトの先端開口に対して着脱可能であることを特徴とする請求項6に記載のパタークラブ。
【請求項8】
前記シャフトの先端側には、シャフトとは別部材である充填部材が充填されていることを特徴とする請求項5に記載のパタークラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パタークラブ用シャフト、及び、パタークラブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パタークラブに用いられるシャフトは、スチール製のものが知られており、最近では、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートで成形されたFRP製のものも知られている。FRP製のシャフトは、硬さ調整することが可能であり、例えば、藤倉コンポジット株式会社から、3つのフレックスタイプのFRP製のシャフトが紹介されている(非特許文献1)。この公知のFRP製のシャフトは、何れのフレックスタイプも、シャフトの先端(ヘッドの装着側)から基端(グリップの装着側)に向けて、次第に曲げ剛性が増加する剛性分布となっている。
【0003】
具体的には、非特許文献1に開示されている各フレックスの剛性分布図によれば、硬いシャフトでは、先端側(約150mmの位置)の曲げ剛性が約60N・m2 、基端側(約600mmの位置)の曲げ剛性が約140N・m2 となっており、柔らかいシャフトでは、先端側(約150mmの位置)の曲げ剛性が約20N・m2 、基端側(約600mmの位置)の曲げ剛性が約40N・m2 となっている。また、その中間の硬さのシャフトでは、先端側(約150mmの位置)の曲げ剛性が約40N・m2 、基端側(約600mmの位置)での曲げ剛性が約90N・m2 となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】https://www.fujikurashaft.jp/dcms#specialcontents/mcputter#dialogue/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したようなシャフトを備えたパタークラブで打球する場合、硬いシャフトはプレーヤーの動きにヘッドが追随しやすいというメリットがある。すなわち、手の動きをダイレクトにヘッドに伝えたい場合は、硬いシャフトであることが好ましい。また、柔らかいシャフトは、撓み性が良いことから、同じ振り幅でもボールの距離が延びる傾向がある(ボールの転がり量が大きい)。このため、カップに届かないパッティングをする傾向のあるプレーヤーは、ボールがカップに届くようになり、パットを緊張するプレーヤーにとっては、シャフトのしなりを感じたり、テンポを取りやすいというメリットがある(ただし、撓り性が良いため、手の動きをダイレクトに伝え難い)。
【0006】
上記した3つの特性のシャフトは、剛性分布図に見られるように、シャフトの先端から基端に向けて略一定の傾きで、曲げ剛性が向上するような構成となっている。これは、一般的なパタークラブのシャフトは、先端側の外径がφ9~9.5mm、シャフト基端側の外径がφ15mm前後で設計されており、この間をテーパ構造にすると、上記した剛性分布図に見られるように、シャフトの硬さに関係なく、基端側の剛性は先端側の剛性の略2倍以上となる。
【0007】
ところで、パターのシャフトについては、先端剛性が低いと、打球時に先端が撓ってしまい、プレーヤーの意図に反してヘッドやフェースが動いてしまう。特に、シャフトの中でも先端側は打球位置と近いため、打点ブレした際にヘッドの姿勢制御ができずに、ボールの打ち出し方向やスピードにばらつきが生じ易い。また、シャフトの中間部分から基端側の剛性を高めてしまうと、グリップに近いことから、硬さをダイレクトに感じてしまい、扱い難くなってしまう。
【0008】
上記したFRP製のシャフトは、シャフト全体の剛性を、硬い・柔らかい・中間、と分けるだけで、打球時のヘッドの姿勢制御、及び、基端側での扱い易さを考慮して、シャフト全体の剛性バランスを考慮したものとなっていない。すなわち、各フレックスの剛性バランスは、上記したように、テーパによるシャフト径の変化に応じて基端側に向けて増加することから、各フレックスは同じような剛性バランスとなっている。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、安定した打球が行なえると共に操作性の良いパタークラブ用シャフト、及び、パタークラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明に係るパタークラブ用シャフトは、繊維強化樹脂によって成形されており、先端から200mmの位置までの範囲における曲げ剛性は、50N・m2 以上であり、先端から400mm~600mmの位置の範囲における曲げ剛性は、40N・m2 以上、100N・m2 以下であることを特徴とする。
【0011】
上記したパタークラブ用シャフトは、ヘッドが装着される先端側の曲げ剛性が50N・m2 以上となるように設定されていることから、打球時に打点がヘッドの中心位置(スイートスポット)からずれても、フェースブレを最小限に抑えることができる。また、シャフトの先端側のしなりが少ないため、ハンドアクションが敏感にフェースアクションに伝わるようになる。この場合、先端から400mm~600mmの位置の範囲における曲げ剛性が、40N・m2 以上、100N・m2 以下に設定されているので、グリップした際の手元側が硬くなりすぎることはなく扱い易いシャフトとなる。
【0012】
また、本発明は、上記した構成のシャフトを装着したパタークラブであることを特徴とする。上記したように、シャフトの先端側の曲げ剛性を高めるに際しては、シャフトの先端の外径を太くする、シャフトの先端とヘッドの連結部分に、別途、接合パーツを配設する、シャフトの先端部分を中実構造にする等の手段を用いることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安定した打球が行なえると共に操作性の良いパタークラブ用シャフト、及び、パタークラブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、本発明に係るパタークラブの第1の実施形態を示す図、(b)は、シャフトと先端との間に設置される接合パーツの一例を示す図、(c)は、接合パーツの変形例を示す図。
図2】本発明に係るパタークラブ用シャフトの剛性分布を説明するグラフ。
図3】試打試験をするに際して、ヘッドとボールの位置関係を示す図。
図4】本発明に係るパタークラブの第2の実施形態を示す図。
図5】本発明に係るパタークラブの第3の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るパタークラブ用シャフト、及び、パタークラブの実施形態について添付図面を参照して説明する。
最初に、図1から図3を参照しながら本発明の基本構造について説明する。
【0016】
本発明は、振り子のようにスイングしてボールを転がすというパタークラブ特有の使用態様を考慮して、シャフト全体の剛性分布に特徴を備えている。パタークラブ用のシャフト(以下、シャフトとも称する)10は、繊維強化樹脂(FRP)で成形されており、公知のように、マンドレルに対して、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートを複数枚巻回し、これを熱硬化して脱芯することで管状に形成される。シャフトを構成するプリプレグシートは、その全長に亘って巻回される本体用のプリプレグシート(本体層)と、長手方向の一部に巻回される部分シート、例えば、シャフト10の先端領域に巻回される補強用のプリプレグシート(補強層)が存在する。
【0017】
パタークラブ1は、上述したように、打球が行なわれるヘッド20の近傍のシャフト10の曲げ剛性(以下、剛性とも称する)が低いと、センター位置Cからずれて打球した際に、フェース面20aがブレてしまい、狙った方向にボールが転がらなかったり、狙った距離が得られなくなってしまう。また、シャフト10の基端側の剛性を高めてしまうと、実際に握持するグリップ30の部分に近いことから、硬さをダイレクトに感じてしまい、扱い難くなってしまう。
【0018】
通常、パタークラブ1のシャフト10は、全長Lが800~850mmのものが多く、実際にグリップする部分(右利きのプレーヤーが順手で握ったときの右手の位置)は500~600mmの位置であることから、本発明では、その位置を3分割して、シャフトの先端領域(先端側とも称する)をL1、中間領域をL2、シャフトの基端領域(基端側とも称する)をL3とする。すなわち、先端領域L1(シャフト先端から200mmの範囲)は、打球した際のインパクトによってフェース面20aのブレに影響を与える部分でもあり、基端領域L3(先端から400mm~600mmの位置の範囲)は、握持した際に、グリップ感に影響を与える部分でもある。
なお、基端側には、ラバーなどによって形成されたグリップ30が被着される。このグリップ30は、長さが250mm程度となっている。
【0019】
本発明は、シャフト10の先端側と基端側の剛性に関し、通常のテーパ構造(先端側の外径がφ9~9.5mm、基端側の外径がφ15mm前後)に基づく剛性変化にするのではなく、適切な値に設定することで、上記したように、打球時のフェース面のブレを抑えると共に、手元側が扱い易くなるように構成することを特徴としている。
【0020】
そこで、まずは、シャフトのヘッドの近傍(シャフトの先端側)の範囲において、シャフトの曲げ剛性と、打球した際に、その剛性がどの程度、打球の方向性に影響を与えるかについて評価試験(試打試験)を行なった。
試験に際しては、シャフトの先端側における最小の曲げ剛性を、30N・m2、40N・m2、50N・m2、60N・m2、70N・m2 に設定した5本のパタークラブを準備し、曲げ剛性の相違が、どの程度、打球のばらつきに影響を与えるかについて行なった。
【0021】
通常、プレーヤーがパッティングする際、振り子のようにパタークラブを振って打球するが、プレーヤーは、図3に示すように、ヘッド20のフェース面20aのセンター(スイートスポット)Cで打球しようとする。しかし、実際には、ボール100の中心部分を、フェース面20aのセンターCで打球することは容易ではなく、多少のずれが生じている。このずれは、打球時にフェース面のブレを生じさせ、打球が左右方向にばらつく(プレーヤーが意図した方向からばらつく)要因となる。上記したように、このばらつきについて、シャフトの先端側の曲げ剛性が、どの程度、影響を与えるかについて検証を行なった。
【0022】
試打試験では、ヘッドが同一の衝撃力でボールに当たるように、ロボット試験機を用いて、同じ振り子幅で打球すると共に、左右のばらつきの平均値と標準偏差を算出した。打球位置については、(ア)フェースセンタ―Cの位置、(イ)フェースセンタ―Cよりもトウ側に10mmの位置、(ウ)フェースセンタ―Cよりもヒール側に10mmの位置で行ない、打球は1打点で10球ずつ行った。この場合、5本の各シャフトに装着されるヘッドは、フェース面20aの高さが25.8mmで同じ構造のものを用い、使用するボール100の直径は42.7mmでフェースセンタ―Cと地面Pとの隙間(高さH)を8mmに設定した。また、シャフトについては、捩り剛性も影響を与えると考えられるが、この試打試験では、シャフトの撓り(曲げ剛性)が、どの程度、打球のばらつきに影響を与えるかについて検証を行うことから、各シャフトの捩り剛性については、略同一となるように設定した。
下記の表1にその結果を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
上記の試験結果において、左右方向は、フェース面から垂直に伸ばしたラインをセンターラインとし、そのラインからそれた距離であり、右にそれたものを(+)、左にそれたものを(-)で表示している(単位はmm)。
【0025】
上記した試打試験の測定結果によれば、先端側の曲げ剛性が30N・m2、及び、40N・m2に設定したシャフトは、標準偏差が20よりも大きく、ばらつき量が大きいのに対して、曲げ剛性を50N・m2以上に設定すると、いずれの位置で打球しても、標準偏差が20以下となり、ばらつき量を抑制できるという結果が得られた。すなわち、シャフトの先端側の曲げ剛性については、50N・m2以上に設定することが好ましいという結果が得られた。特に、平均値を考慮すると、60N・m2以上に設定することが好ましいと考えられる。
【0026】
次に、シャフトの基端側の曲げ剛性について検証を行った。
シャフトのグリップ部分については、上記したように、剛性が高いと撓り難くなって、スイングした際の感覚をダイレクトにヘッド側に伝え易くなる半面、あまり高く設定すると、硬くなり過ぎて、ちょっとした手の動きがヘッドに影響を与えることから、過敏に反応しすぎて扱い難くなってしまう。また、剛性が低すぎると、撓り易くなってしまい、スイングした際の感覚がヘッド側に伝わり難くなるという特徴がある。
【0027】
ただし、この感覚はプレーヤーによって相違することから、シャフトの基端側(シャフトの先端から400~600mm)の範囲において、最小の曲げ剛性を40N・m2、60N・m2、80N・m2、100N・m2、120N・m2 に設定した5本のパタークラブを準備し、基端側の曲げ剛性の相違が、どの程度、プレーヤーの感覚に影響を与えるかについて官能試験を行なうことで評価を行なった。なお、評価については、個人差が大きいことから、10名のプレーヤー(A~J)が試打を行ない、ボールの転がり具合、ボールの方向性、ミート率、振り易さの評価項目で、5段階評価をしてもらった。
【0028】
この場合、被検者によってシャフトの硬さを感じる場所が先端側や基端側で異なることから、シャフトのフレックスに関する評価についても、振り易さの評価を行なった。すなわち、フレックスが丁度良いと評価し、かつ、振り易さの評価が高ければ、それは基端側の剛性が望ましい状況であると評価することができる。
また、先端側の曲げ剛性が変わると打球感覚も変わることから、ここでは、先端側のシャフトの曲げ剛性を、上記した好ましい値である50N・m2 に設定し、いずれのシャフトにも同一のヘッドを装着した。さらに、各被検者には、5本のシャフトについて、順位付けを行なってもらった。
下記の表2にその結果を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
官能評価試験によれば、10人の総合順位付けの平均という観点から見ると、シャフトの基端側の範囲において、曲げ剛性が60N・m2 以上、100N・m2 以下のシャフトは平均が2点台なので、万人に評価されるシャフトと言える。ただし、曲げ剛性が40N・m2のシャフトについては、60N・m2 以上、100N・m2 以下の評価と比較すると評価点は若干低くはなっているものの、曲げ剛性が100N・m2から120N・m2にかけての落ち込みと比較すると、変化の幅は少なくなっている。また、順位付けで1番に評価した人の数でみると、曲げ剛性が40N・m2、60N・m2 、80N・m2がそれぞれ2名ずつ、100N・m2 が4名で、120N・m2 が0名という結果となっている。この点からも見ても、基端側の範囲において、曲げ剛性が40N・m2以上、100N・m2 以下のシャフトが好ましく、更には、広範囲に評価されるシャフトを考慮するのであれば、60N・m2 以上、100N・m2 以下が好ましいと考えられる。
【0031】
また、シャフトの基端側の範囲において、最小の曲げ剛性値が大きくなると、ちょっとした手の動きがヘッドに影響を与えることから、過敏に反応し過ぎて扱い難くなる。官能評価試験によれば、曲げ剛性が100N・m2のシャフトに対して、曲げ剛性が120N・m2のシャフトでは、評価が極端に悪くなることが把握できることから、曲げ剛性が100N・m2までのシャフトが好ましい、と評価する。
【0032】
すなわち、パタークラブに適したFRP製のシャフトにするには、先端から200mmの位置までの範囲(先端側)における曲げ剛性については、最小値を50N・m2 にすることで、打球時に打点がヘッドの中心位置からずれても、フェースブレを最小限に抑えることができ、かつ、ハンドアクションを敏感にフェースアクションに伝えることができるようになる。また、先端から400mm~600mmの位置の範囲(基端側)における曲げ剛性については、40N・m2 以上、100N・m2 以下に設定することで、手元側が硬くなりすぎることはなく、扱い易くすることができる。
【0033】
ここで、上記した構成のシャフトの剛性分布について、図2のグラフを参照して説明する。
上記した構成のパタークラブシャフトの剛性分布は、実線で示したとおりであり、従来の硬いシャフト(A)、柔らかいシャフト(B)、及び、その中間にある硬さのシャフト(C)とも異なっている。すなわち、本発明は、従来のシャフトとは異なり、先端側を高剛性にして打球時のフェース面のブレを抑制するとともに、先端側に合わせて基端側を高剛性にするのではなく、ある程度、剛性を抑えて、先端側と基端側の剛性差を少なくするように構成される。このため、シャフトの先端側及び基端側の夫々は、矩形のドットで囲まれた領域内に存在するように構成されれば良い。
【0034】
具体的には、基端側の剛性と先端側の剛性を比較した場合、先端側の剛性が最も低い部分は、基端側の剛性に対して50%以上に設定するのが好ましく、これにより剛性の分布曲線は、緩やかな右上がりとなる。特に、先端側はフェース面のブレが抑制されるように、表1の試打試験に基づいて、標準偏差が小さい50N・m2以上にして高剛性化を図るのが良いことから、基端側の剛性については、100N・m2 以下に設定することを考慮すると、先端側の剛性に対して2.0倍以下に設定することが好ましい。特に、先端側を、表1の試打試験に基づいて、平均値が良好な60N・m2以上にすることを考慮した場合、基端側の剛性については、先端側の剛性に対して1.7倍以下に設定することが好ましい。このため、剛性の分布曲線については、図2の実線で示すように、従来のシャフト構造の剛性分布(A)(B)(C)よりも水平に近付く傾向となる。
【0035】
次に、上記したような剛性分布となるようなパタークラブ用シャフト、及び、パタークラブの実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態を説明する図である。
上述したように、従来のパタークラブ用シャフトは、先端がφ9~9.5mmで、基端がφ15mm程度のテーパ構造であり、これをFRPで成形する場合、その形状に応じたマンドレルが用いられている。
【0036】
この場合、先端側の剛性を上記した数値範囲になるように高くするためには、先端側に配設されるプリプレグシートについては巻回数を多くする、強化繊維が軸長方向に引き揃えられたプリプレグシートを多めに巻回する等、プリプレグシートの構成で実現することが可能であるが、コストが高くなるとともに、重量も増加するという問題が生じる。
【0037】
この問題を解決するために、図1に示す実施形態では、シャフトの先端の外径をφ12mmと従来のシャフトに対して太径に設定しており、このような外径が得られるようなマンドレルを用いている。このような構成によれば、先端を厚肉化することなく、剛性を高めることが可能となり、かつ、シャフト全体の重量を増加することを抑制できる。具体的に、シャフト単体の重量として、軽量化したシャフト(100g以下のシャフト)を構築し易くなる。
なお、先端側の外径については、太くすることで剛性を高める(50N・m2 以上)ことが可能であるが、太くし過ぎると、アドレス時のボールやヘッドの視認性が低下すると共に、ヘッドと接合する部分においてヘッド側端部とシャフト側端部の段差ができやすくなるため、φ12.0±2.0mmにすることが好ましい。
【0038】
上記したように構成されるシャフト10の先端には、ヘッド20が固定される(シャフ10とヘッド20の接合領域は、前記シャフトの先端側の範囲L1内に存在する)。ヘッド20は、ヘッド本体20Aと、ヘッドのヒール側の上面に突出形成され、シャフト10と連結されるホーゼル部20Bとを備えている。本実施形態におけるヘッド20とシャフト10との接合は、ホーゼル部20Bに凹状の受け部(連結部)20Cを形成し、この受け部20Cにシャフトの先端を挿入して、シャフトを固定する方式(シャフトが内側となるインナーホーゼル方式)が用いられている。この場合、上記したように、シャフト先端を太径化することで、ホーゼル部20Bの外径とシャフト先端の外径が略同一になることもあるので、両者の間に接合パーツ50を配設して両部材を接合するようにしても良い。
【0039】
接合パーツ50は、図1(b)に示すように、略円柱状(空洞部を有していても良い)に形成されており、一端側にシャフト10の先端の開口に挿入して固定されるシャフト固定部50aを備え、他端側に受け部20Cに挿入して固定されるヘッド固定部50bを備えた構成にすることが可能である。また、両者の間にフランジ50cを形成することで、挿入する際にフランジ50cをシャフトの開口端縁や受け部の開口端縁に突き当てることができるので、固定作業を容易に行うことが可能となる。
【0040】
前記シャフト固定部50aのシャフトの先端開口に対する固定、及び、ヘッド固定部50bの受け部20Cに対する固定は、接着剤を塗布することで行なうことが可能である。このため、例えば、シャフト固定部50aの表面に螺旋状の溝51を形成する等、アンカー効果を高めて接着強度を向上するようにしても良い。また、図に示すヘッド固定部50bのように、断面非円形状に形成してヘッド20を軸方向周りに回転させないように固定するようにしても良い。
なお、上記した接合パーツ50は、ネジ構造等によって、シャフト10やホーゼル部20Bに対して着脱できるような構成であっても良い。或いは、接合パーツ50は、シャフト10と一体化しても良いし、ホーゼル部20Bと一体化した構成であっても良い。
【0041】
上記した接合パーツ50は、例えば、アルミ、SUS、チタン等の金属、硬質樹脂等によって形成することが可能であり、シャフト先端の剛性を高める機能を果たすことが可能である。このため、接合パーツ50を着脱可能に構成することで、弾性率の異なる接合パーツに変更してシャフト先端の剛性を変更することが可能となり、プレーヤーにとって最適なシャフトの先端剛性に調整することも可能となる。また、そのような接合パーツを用いることで、シャフト先端側が補強されることから、薄肉厚にしてシャフト単体の軽量化を図ることも可能となる。
【0042】
上記した接合パーツについては、ヘッド20側のホーゼル部20Bの構成等に応じて適宜変形することが可能である。例えば、図1(c)に示す接合パーツ53は、ホーゼル部20Bの受け部20Cの内径が大きい場合に適した構成を示す。
【0043】
接合パーツ53の一端側には、シャフト10の先端の開口に挿入して固定されるシャフト固定部53aが形成され、他端側には、受け部20Cに挿入して固定されるヘッド固定部53bが形成されている。両者の間には、段部53cが形成されており、この段部53cにシャフト10の先端開口縁が当て付いて固定される。このため、ホーゼル部20Bとシャフト10との間で接合パーツが露出することはない。また、図1(c)に示す構成では、両固定部の外周面に螺旋溝54が形成されており、シャフト10の内面、受け部20Cの内面に固定した際の接着強度を高めるようにしている。
【0044】
このように、接合パーツについては、ヘッド側のホーゼル部の構成に応じて適宜、変形することが可能である。勿論、ヘッド20とシャフト10は、接合パーツを用いることなく、接続できるような構成であっても良いし、ネジ構造を用いる等、両者を着脱できるように構成しても良い。
【0045】
図4は、パタークラブの第2の実施形態であり、ヘッド20のホーゼル部20Bに、軸方向に延出する接合パーツ(嵌入突部)55を設けた構成例(シャフトが外側となるオーバーホーゼル方式)を示している。接合パーツ55は、シャフト10の先端開口に嵌入され、先端内周面に接着固定される。この場合、シャフト10の先端側は、上記したように太径化した構成にすると、ホーゼル部20Bの外周面とシャフト10の先端外周面との段差が大きくなることから、両者の間に略円錐台形状の接合パーツ56を取り付けることで、見栄えを向上することが可能となる。
【0046】
前記接合パーツ55によってもシャフト先端側の剛性を向上することが可能であり、ヘッド20、シャフト10に対して着脱できる構造にすることで、シャフトの剛性を適宜、調整することも可能である。なお、接合パーツ55は、ヘッド20のホーゼル部20Bとともに一体形成した構成であっても良い。
【0047】
図5は、パタークラブの第3の実施形態であり、シャフト10の先端側を中実構造にした構成例を示している。
上記した実施形態では、シャフト10の先端径を太くすることで剛性を高めるようにしたが、先端側を中実構造にすることでも剛性を向上することが可能である。この中実構造は、シャフトの先端から200mmの位置までの範囲内で、少なくとも一部が中実になっていれば良く、図5では、先端側の略全てが中実構造となっている。すなわち、シャフトの先端側を中実構造にすることで、シャフト径を太くすることなく、剛性を高めることも可能である。
【0048】
シャフト10の先端側を中実構造にする場合、例えば、シャフト成形後に、シャフトとは別部材である樹脂やFRP製の丸棒を挿入しても良いし、例えば接着剤のような硬化性の充填材57を注入しても良い。或いは、予めシャフトの先端が中実となるように形成しても良い。例えば、シャフト成形時に用いられるマンドレルの一部(先端側)を材料そのもので作成し、脱芯時に部分的に中実材を残るようにすることで、シャフト成形と同時に一体形成することが可能である。このように形成すれば、接着剤を用いる必要がなく、接着剤の流出を考慮したコントロールをする必要がなくなる。また、注入される充填材の種類を変えることで、剛性を変えることも可能である。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々、変形することが可能である。
本発明は、パタークラブ用のシャフトについて、先端側と基端側の曲げ剛性を適切に設定することで、打球時にフェース面をブレ難くすると共に、グリップ側の操作性を向上することを目的としている。すなわち、シャフトをFRPで成形するに際して、先端から200mmの位置までの範囲における曲げ剛性については、最小値が50N・m2 であり、先端から400mm~600mmの位置の範囲における曲げ剛性については、40N・m2 以上、100N・m2 以下に設定されていれば良く、そのような条件が満たされれば、それ以外の構成については、適宜変形することが可能である。このため、シャフトを構成するプリプレグシートの構成やプライ数については、特に限定されることはない。ただし、そのような構成が低コストで実現できるように、先端側については、従来のシャフトと比較して太径化することが好ましい。
【0050】
また、本発明は、シャフトを分割し、各シャフトパーツの端縁を当て付けて固定する分割構造に構成したものであっても良い。例えば、先端側については、中実の分割パーツを用いることも可能である。さらに、ヘッド20の構成(形状、大きさ等)やヘッド20とシャフト10の固定方法については、種々変形することができ、特定の構造に限定されることはない。
【符号の説明】
【0051】
1 パタークラブ
10 シャフト
20 ヘッド
20a フェース面
30 グリップ
50,53,55 接合パーツ
図1
図2
図3
図4
図5