(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133963
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】米飯炊飯組成物の製造方法および炊飯用組織状植物性たん白素材
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230920BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
A23L7/10 B
A23J3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039246
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀章
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC09
4B023LE11
4B023LG01
4B023LG05
4B023LK10
4B023LP10
(57)【要約】
【課題】
糖質を低減し、蛋白質を強化した米飯炊飯組成物を調製するに際し、生米と組織状植物性たん白素材を同時に炊飯することで、効率的に生産を行うことを課題とする。
【解決手段】
吸水倍率が2.5~5.5質量倍である組織状植物性たん白素材を、米原料と混合して炊飯することで、低糖質高蛋白質の米飯炊飯組成物を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水倍率が2.5~5.5質量倍である組織状植物性たん白素材を、米原料と混合して炊飯することを特徴とする、米飯炊飯組成物の製造方法。
【請求項2】
米原料と組織状植物性たん白素材の合計中の、組織状植物性たん白素材が、乾燥状態で5~60質量%である、請求項1に記載の米飯炊飯組成物の製造方法。
【請求項3】
吸水倍率が2.5~5.5質量倍であることを特徴とする、米原料との混合炊飯用の、組織状植物性たん白素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米と混合炊飯を行う組織状植物性たん白素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりに伴って糖質の摂取量を気にする消費者が増えており、糖質の含有量を低減した低糖質食の需要が増している。特に、健康上、1食において摂取する糖質量を40g以下に抑えるという考え方もあり、米飯類でこれを実現するためには、非糖質成分で糖質を代替する必要がある。他方、たん白質に対しては栄養成分、生理効果の面から特に注目を浴びており、健康食品市場は大きくその市場を伸ばしている。そこで、糖質が主成分である生米にたん白素材を混合する技術が求められている。
【0003】
これまでに米飯代替食品として、特許文献1では澱粉とゲル化剤からなる、低カロリーである新しい人造米を製造する技術、特許文献2ではカリフラワーサラダを米飯代替食品として用いる技術、特許文献3では米粒を含まない粒状の蒟蒻でありながら、米飯の食味及び粘り気を備えた、米飯風の蒟蒻食品及びその製造方法に関する技術が公開されている。
たん白質の増強を図る米飯の混合については、非特許文献1では具材として豆類を生米と炊き込む調理法が、非特許文献2ではご飯と豆腐を混ぜ合わせる調理方法などが一般的に知られている。
更に、大豆たん白を炊飯後の米飯と混合することで、糖質を約4割削減した、高たん白低糖質な食品も近年販売されている。(非特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-195178号公報
【特許文献2】特開2020-080702号公報
【特許文献3】特開2010-142163号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「一流料理長の和食宝典」世界文化社2008年6月16日発行(P.268)
【非特許文献2】「おいしいダイエット食 豆腐やせ」主婦の友社2016年3月16日発行
【非特許文献3】「ローソンが糖質オフ米飯強化」食品新聞2021年6月23日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3の技術では糖質低減に寄与することはできていたが、蛋白質を増強することはできていなかった。非特許文献1~2の技術では、増強できる蛋白質量に限りがあるし、食感や風味の面で汎用性が低く、大量に製造して各種おにぎりやお弁当類に広く応用するには適さなかった。非特許文献3の技術では、できた食品は低糖質高蛋白質ではあるが、米と大豆たんぱくは同時炊飯ができず、これらを別々に調製し混合する為に、作業性が向上しない問題がある。
低糖質かつ高蛋白質となるような米飯製品を、良好な食感と風味でありながらより簡便に製造するための技術が強く求められている。そのひとつとして、生米と混合し同時に炊飯が可能な組織状植物性たん白素材を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、特定の範囲の吸水倍率を有した組織状植物性たん白素材を米原料に混合し使用することで、良好な食感の米飯炊飯組成物が炊飯可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は
(1)吸水倍率が2.5~5.5質量倍である組織状植物性たん白素材を、米原料と混合して炊飯することを特徴とする、米飯炊飯組成物の製造方法。
(2)米原料と組織状植物性たん白素材の合計中の、組織状植物性たん白素材が、乾燥状態で5~60質量%である、(1)に記載の米飯炊飯組成物の製造方法。
(3)吸水倍率が2.5~5.5質量倍であることを特徴とする、米原料との混合炊飯用の、組織状植物性たん白素材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、米原料と組織状植物性たん白素材とを混合して炊飯した米飯炊飯組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0011】
(組織状植物性たん白素材)
本発明における「組織状植物性たん白素材」は、いわゆる「組織状たん白素材」の一種であって組織が「膨化」したタイプを意味する。これは大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ、ルピン、レンズ、インゲン、小豆などの植物を原料とするたん白素材を用いることができる。好ましくはたん白素材は豆類由来であり、より好ましくは大豆由来である。
これらたん白素材を膨化して組織状植物性たん白素材を得る方法は幾つかあるが、水、その他適当な原料をエクストルーダーに導入して、装置内部が加圧加熱された条件下において、原料を装置内のスクリューで混練し、形成された混練物を装置の出口部分にある「ダイ」と呼ばれる部分の穴から常圧下に押し出して、該押出物を必要により切断及び乾燥して得る方法が例示できる。該混練物は高温高圧下からダイを通して常圧下に押し出される際に、組織が膨化した状態の押出物に変化する。例えば脱脂大豆や粉末状大豆たん白を主原料としてこのような方法で製造された組織状植物性たん白素材は、「粒状大豆たん白」や「大豆パフ」などとも称されている。
本発明では、以下に記載する吸水倍率が重要であるが、この吸水倍率は上記に示す原料配合、処理温度、回転数、出口形状等々により変化する。膨化の程度と吸水倍率は概ね相関があり、この製造条件を調整することで、所望する吸水倍率を示す組織状植物性たん白素材を得ることができる。
【0012】
(吸水倍率)
本発明の組織状植物性たん白素材は、吸水倍率が2.5質量倍以上5.5質量倍以下であることが特に重要である。吸水倍率が2.5質量倍より低いと、炊飯後に組織状植物性たん白素材が保持できる水分量が少ないために、組織が固く食感に劣る上に、全体の容量が得らない為、米飯炊飯組成物の糖質を低減する効果が弱まる。吸水倍率が5.5質量倍より高いと、炊飯時に本来米類が吸収するはずの水分を奪ってしまい、炊飯不良を引き起こす可能性がある。尚、吸水倍率は好ましくは3.0質量倍以上、3.5質量倍以上、4.0質量倍以上であり、また5.0質量倍以下である。
ここでいう吸水倍率とは、下記の要領で算出されるものである。すなわち、組織状植物性たん白素材30gをボウルにはかり、25℃の水200gを静かに加え、液面にラップをして密封した状態で10分間吸水させた後に、ザルで余剰の水を分離する。吸水後の重量(W)を測定し、次式により吸水倍率を求める。
吸水倍率=(W-30)/30
【0013】
(粗蛋白質)
本発明の組織状植物性たん白素材は、米飯炊飯組成物中の蛋白質含量を高める観点としては高い物が好ましい。粗蛋白質含量として、50%以上が好ましく、60%以上が更に好ましい。尚、粗蛋白質含量(CP)は、ケルダール法により測定した窒素の質量を、窒素換算係数6.25にて算出する。
【0014】
(米原料)
本発明は米原料を炊飯するものであるが、米原料とは米の単素材もしくは後述する原料を米に置換したものである。ここで用いる米とは、炊飯前の生米であれば特に制約なく使用することができる。米の種類や加工は問わないが、短粒種が好ましく、うるち米が好ましい。具体的にはコシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち等が例示できる。また、玄米または精白米として使用できる。
また、米原料には以下に記載する、米以外の原料も米に置換して炊飯することが可能である。具体的には、黒米、玄米、稗、粟、もちあわ、きび、もちきび、ホワイトソルガム、麦、大麦、もち麦、ハト麦、アマランサス、コーンなどの穀類や、大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ、ルピン、レンズ、インゲン、小豆などの豆類が例示できる。これらを米原料の20質量%以下、好ましくは10質量%以下の範囲で適宜置換することができる。
【0015】
(混合比率)
前述した米原料に、組織状植物性たん白素材を混合して炊飯する。この際の、米原料と組織状植物性たん白素材の合計中の、組織状植物性たん白素材が、乾燥状態で5~60質量%であることが好ましい。組織状植物性たん白素材が5質量%を下回ると、そもそも本発明の組織状植物性たん白素材を使用することなく、米原料と同時炊飯が可能となる。また、60質量%を超えると、食感に影響が生じる場合がある。更に好ましくは50質量%以下、45質量%以下である。また、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上が好ましい。
【0016】
(炊飯)
組織状植物性たん白素材を混合炊飯する方法は特に限定がないが、炊飯釜に、乾燥したまたは浸漬した米原料、乾燥状態の組織状植物性たん白素材または水戻しした組織状植物性たん白素材、および炊飯水を入れ、炊飯することが例示できる。その際は米飯の炊き上がりに応じて適宜加水量を増やことができる。米原料の種類や組織状植物性たん白素材の種類や配合にもよるが、米原料もたん白素材も乾燥状態として1.5~4質量倍、好ましくは2~3質量倍の水を炊飯水として添加することが例示できる。
【0017】
炊飯時には、前述した穀類や豆類以外にも、本発明に影響のない範囲で、他の素材を添加することができる。他の素材としては、レシチンやグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、或いは一般の動植物性油脂や脂溶性ビタミンであるトコフェロール等の脂溶性物質、蔗糖、砂糖、マルトース、トレハロース、ソルビトール、キシリトール、マルチトール等の糖質及び糖アルコール、デキストリン、布海苔、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、タマリンド種子多糖類、水溶性大豆多糖類、タラガム、カラヤガム、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、トラガントガム、グァーガム、ローカストビーンガム、プルラン、ジェランガム、アラビアガム、ヒアルロン酸、シクロデキストリン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸プロピレングリコールエステル、加工澱粉など各種多糖類や澱粉類やこれらの加水分解物、ゼラチン、ホエー等のアルブミン、カゼインナトリウム、可溶性コラーゲン、卵白、卵黄末、大豆蛋白等の蛋白性物質や、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、トランスグルタミナーゼ等の酵素、カルシウム強化剤等の塩類、酢酸、酢酸ナトリウム等の有機酸やその塩、安息香酸、ソルビン酸、しらこ蛋白、グリシン等の保存料、エタノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、スクラロース、アスパルテーム、ネオテーム、アセスルファムK等の甘味料、アミノ酸、グルタミン酸、クエン酸、ビーフエキス、ポークエキス、チキンエキス、魚介エキス、昆布エキス、しいたけエキス 等の調味料などが挙げられる。
【実施例0018】
以下に実施例を記載することで本発明を説明する。尚、例中の部及び%は特に断らない限り質量基準を意味するものとする。
【0019】
○たん白素材混合の効果(実施例1~4、比較例1)
表1に示す配合に従い、うるち米(精白米)に組織状植物性たん白素材である、大豆たん白素材A(不二製油調製品、CP 65%,吸水倍率4.9質量倍)を混合して、家庭用炊飯器で炊飯することで、米飯炊飯組成物を作成した。尚、大豆たん白素材Aのそれぞれの配合量に対して、予め最適な加水量を確認している。また、比較例1は組織状植物性たん白素材を混合せず、うるち米のみに加水して炊飯を行い、これをコントロールとして用いた。
尚、評価は以下に示す方法にて行った。
<炊飯状態>
炊飯直後の炊飯物について、生米が生煮えのままで残っている米飯部、または、水戻りしていない組織状植物性たん白素材部がないかを確認し、○(問題なし)、×(一部に見られる)で評価した。
<食感評価>
炊飯状態が問題ない試験区については、米飯炊飯組成物について食感をパネラー10名で官能評価を行った。各パネラーは組織状植物性たん白素材を添加しないコントロールに対し以下の基準で評価し、その平均点を算出した。
5:遜色ない、4:違和感がない、3:違和感あるが許容範囲、2:明らかな違和感がある、1:コントロールとは完全に別物
炊飯状態に問題がなく(○)、食感が3.0点以上であれば、良好な品質と判断した。
【0020】
【0021】
結果を表1下段に示した。大豆たん白素材Aを米飯炊飯組成物の原料中に乾燥重量(DM%)として9~41質量%混合した実施例1,2は違和感ない食感であり、50~55質量%混合の実施例3,4も、許容範囲の評価だった。
【0022】
○各種たん白素材混合の効果(実施例5,比較例2~4)
表2に示す配合に従い、実施例1と同様にうるち米に組織状植物性たん白素材を混合して炊飯した。尚、組織状植物性たん白素材として、大豆たん白素材B(不二製油製ニューフジニック50、CP 50%,吸水倍率3.0質量倍)および大豆たん白素材C(不二製油製アペックス650、CP 65%,吸水倍率5.8質量倍)を用いた。
【0023】
【0024】
結果を表2下段に示した。大豆たん白素材Bを米飯炊飯組成物の原料中に乾燥重量(DM%)として41質量%混合した実施例5は、大豆たん白素材Aよりやや悪く、許容範囲の評価だった。一方、吸水倍率が高い大豆たん白素材Cを41質量%混合した場合は、水を抑えた場合は米に十分な水和が行われない生煮えとなり(比較例3)、水が多い状態では、食感に明らかな違和感があることで、不合格となった(比較例4)。
また、大豆たん白素材Bの混合量を23質量%に抑えた比較例2では、違和感は少なくなる傾向であり、混合の割合が低い場合は、本発明の効果が出にくいことが想定された。
【0025】
○他の穀類置換の影響(実施例6,7)
表3に示す配合に従って米原料を調製した上で、実施例1と同様に組織状植物性たん白素材Aを米飯炊飯組成物の原料中に乾燥重量(DM%)として23質量%混合して炊飯した。尚、実施例6はうるち米の2割を市販のもち麦(もち麦ごはん、はくばく社製)に、実施例7はうるち米の1割を市販の雑穀類(業務用十五穀ごはん もち麦ブレンド、はくばく社製)に置換した。
【0026】
【0027】
結果を表3下段に示した。うるち米に対して、もち麦や他の雑穀類を置換しても、本発明の効果は変わらなかった。