(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133978
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタ、およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20230920BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039263
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】横田 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】岡村 龍一
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB07
5J108BB08
5J108CC04
5J108EE03
5J108FF02
5J108FF06
5J108HH03
(57)【要約】
【課題】下部電極と上部電極との間のESD破壊を抑制する圧電薄膜共振器を提供する。
【解決手段】圧電薄膜共振器は、基板10と、基板10上に設けられた圧電膜14と、圧電膜14上に設けられた上部電極16と、基板10と圧電膜14との間に設けられ、基板10との間に形成された空隙30上において圧電膜14を挟んで上部電極16と重なる共振領域50を形成し、上部電極16が共振領域50から引き出された引出領域52側における端面11が空隙30の周縁31から離れて空隙30上に位置する下部電極12と、空隙30と圧電膜14との間に設けられ、引出領域52において上部電極16が共振領域50から引き出された側における端面17の下端19が空隙30の周縁31に接し、圧電膜14が端面17を覆うように接する絶縁膜18とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられた上部電極と、
前記基板と前記圧電膜との間に設けられ、前記基板との間に形成された空隙上において前記圧電膜を挟んで前記上部電極と重なる共振領域を形成し、前記上部電極が前記共振領域から引き出された引出領域側における第1端面が前記空隙の周縁から離れて前記空隙上に位置する下部電極と、
前記空隙と前記圧電膜との間に設けられ、前記引出領域において前記上部電極が前記共振領域から引き出された側における第2端面の下端が前記空隙の周縁に接しまたは前記第2端面が前記下部電極の前記第1端面より前記空隙の周縁の近くで前記空隙上に位置し、前記圧電膜が前記第2端面を覆うように接する絶縁膜と、を備える圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記下部電極の前記第1端面と前記下部電極の前記空隙側の面とがなす角度は、前記絶縁膜の前記第2端面と前記絶縁膜の前記空隙側の面とがなす角度より小さい、請求項1に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記共振領域の中央領域には設けられていない、請求項1または2に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記絶縁膜は、前記第2端面とは反対側の第3端面が前記下部電極の前記第1端面と前記空隙の周縁との間に位置するように、前記下部電極の前記第1端面と前記空隙の周縁との間に設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
前記絶縁膜の前記第3端面は、前記下部電極の前記第1端面に接している、請求項4に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項6】
前記空隙はドーム状の形状を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項7】
前記絶縁膜の厚さは、前記下部電極の厚さの1/2以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項8】
前記絶縁膜は、前記圧電膜よりヤング率の大きい材料で形成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器を含むフィルタ。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜共振器、フィルタ、およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびデュプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する積層膜を有する。積層膜を圧縮応力とすることにより、基板と下部電極との間にドーム状の空隙を形成することが知られている(例えば特許文献1-3)。また、下部電極の下面と上部電極の上面を保護膜で覆うことで膜質の変化を抑制することが知られている(例えば特許文献4)。さらに、圧電膜に応力が集中して圧電膜の劣化を抑制するために、空隙の内側から外側にかけて付加膜を設けることが知られている(例えば特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-347898号公報
【特許文献2】特開2018-182463号公報
【特許文献3】特開2017-108288号公報
【特許文献4】特開2010-154233号公報
【特許文献5】特開2020-57991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空隙の端に応力が集中すると、空隙の端から圧電膜の内部に向かってクラックが生じることがある。圧電膜にクラックが発生すると、クラックの発生箇所において下部電極と上部電極との間でESD(Electro-Static Discharge)破壊が起こることがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、下部電極と上部電極との間のESD破壊を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜上に設けられた上部電極と、前記基板と前記圧電膜との間に設けられ、前記基板との間に形成された空隙上において前記圧電膜を挟んで前記上部電極と重なる共振領域を形成し、前記上部電極が前記共振領域から引き出された引出領域側における第1端面が前記空隙の周縁から離れて前記空隙上に位置する下部電極と、前記空隙と前記圧電膜との間に設けられ、前記引出領域において前記上部電極が前記共振領域から引き出された側における第2端面の下端が前記空隙の周縁に接しまたは前記第2端面が前記下部電極の前記第1端面より前記空隙の周縁の近くで前記空隙上に位置し、前記圧電膜が前記第2端面を覆うように接する絶縁膜と、を備える圧電薄膜共振器である。
【0007】
上記構成において、前記下部電極の前記第1端面と前記下部電極の前記空隙側の面とがなす角度は、前記絶縁膜の前記第2端面と前記絶縁膜の前記空隙側の面とがなす角度より小さい構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記絶縁膜は、前記共振領域の中央領域には設けられていない構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記絶縁膜は、前記第2端面とは反対側の第3端面が前記下部電極の前記第1端面と前記空隙の周縁との間に位置するように、前記下部電極の前記第1端面と前記空隙の周縁との間に設けられている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記絶縁膜の前記第3端面は、前記下部電極の前記第1端面に接している構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記空隙はドーム状の形状を有する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記絶縁膜の厚さは、前記下部電極の厚さの1/2以上である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記絶縁膜は、前記圧電膜よりヤング率の大きい材料で形成されている構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記に記載の圧電薄膜共振器を含むフィルタである。
【0015】
本発明は、上記に記載のフィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下部電極と上部電極との間のESD破壊を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例1における共振領域と引出領域の境界近傍の断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)における下部電極の端部および絶縁膜の端部近傍を拡大した断面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、比較例に係る圧電薄膜共振器で生じる課題を説明するための断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の効果を説明するための断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図8】
図8(a)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の共振領域と引出領域の境界近傍の断面図、
図8(b)は、
図8(a)の絶縁膜の端面近傍を拡大した断面図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図9(b)は、実施例2における共振領域と引出領域の境界近傍の断面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図10(b)は、実施例3における共振領域と引出領域の境界近傍の断面図である。
【
図12】
図12は、実施例5に係るデュプレクサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例0019】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器100の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)では、下部電極12、上部電極16、絶縁膜18、および空隙30を主に図示している。また、
図1(a)では、絶縁膜18の輪郭を太線で示すとともに、絶縁膜18が設けられた領域にハッチングを付している。また、空隙30の輪郭を破線で示している。基板10の面方向をX方向およびY方向とし、積層膜20の積層方向をZ方向とする。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10上に絶縁膜18が設けられている。基板10の平坦主面と絶縁膜18との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きいような形状の膨らみである。基板10は例えばシリコン基板である。絶縁膜18は例えば窒化シリコン(Si
3N
4)である。
【0021】
絶縁膜18上に下部電極12が設けられている。下部電極12は、例えば基板10側からクロム(Cr)膜とルテニウム(Ru)膜が積層された金属膜である。下部電極12上に圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、例えば(0001)方向を主軸とする(すなわちC軸配向性を有する)窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする窒化アルミニウム膜である。
【0022】
圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16は、例えば圧電膜14側からルテニウム膜とクロム膜が積層された金属膜である。空隙30上において、圧電膜14の少なくとも一部を挟んで下部電極12と上部電極16とが対向する領域は共振領域50である。共振領域50は、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。共振領域50の平面形状は例えばほぼ楕円形状である。平面視において、空隙30の大きさは共振領域50より大きい。なお、共振領域50の平面形状は、四角形または五角形等の多角形等、その他の形状をしていてもよい。
【0023】
圧電膜14内に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は、共振領域50の外周領域に設けられ、中央領域には設けられていない。外周領域は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。中央領域は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央領域は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入膜28は、例えば外周領域に加えて共振領域50を囲む領域まで連続して設けられているが、共振領域50内にのみ設けられている場合でもよい。挿入膜28は、例えば酸化シリコン膜である。挿入膜28は、弾性波のエネルギーが共振領域50から外に漏洩することを抑制するために設けられている。
【0024】
上部電極16上および圧電膜14上にカバー膜24が設けられている。カバー膜24は、周波数調整膜および/または保護膜として機能してもよい。カバー膜24は、例えば酸化シリコン膜等の絶縁膜である。積層膜20は、絶縁膜18、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16、およびカバー膜24を含む。
【0025】
共振領域50から上部電極16が引き出された領域が引出領域52である。引出領域52は、共振領域50の-X方向に設けられている。圧電膜14の平面形状は、上部電極16よりも大きい。圧電膜14は、少なくとも共振領域50および引出領域52に設けられている。なお、
図1(a)および
図1(b)では、配線の図示を省略している。
【0026】
図2(a)は、実施例1における共振領域50と引出領域52の境界近傍の断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)における下部電極12の端部および絶縁膜18の端部近傍を拡大した断面図である。
図2(a)および
図2(b)に示すように、共振領域50と引出領域52の間における下部電極12の端面11は、空隙30の周縁31から空隙30の内側に離れて空隙30上に位置している。下部電極12の端面11はテーパ状に傾斜していて、端面11と下部電極12の空隙30側の面25とがなす角度θ1は、例えば60°以下であり、45°以下でもよいし、30°以下でもよい。
【0027】
絶縁膜18は、空隙30と圧電膜14との間に設けられている。絶縁膜18は、例えば空隙30全体を覆うようにして、空隙30と圧電膜14との間に設けられている。引出領域52において、上部電極16が共振領域50から引き出される側における絶縁膜18の端面17の下端19は、空隙30の周縁31に接している。下部電極12の端面11と絶縁膜18の端面17との間の距離Xは、例えば1μm以上である。距離Xは、例えば下部電極12および絶縁膜18の厚さよりも大きく、例えば下部電極12および絶縁膜18のうちの厚い方の厚さの2倍以上でもよいし、5倍以上でもよいし、10倍以上でもよい。絶縁膜18の端面17は圧電膜14で覆われて圧電膜14に接している。したがって、絶縁膜18の端部は圧電膜14にめり込んでいる。絶縁膜18の端面17と絶縁膜18の空隙30側の面27とがなす角度θ2は、角度θ1より大きく、例えば70°以上90°以下であり、75°以上90°以下の場合でもよいし、80°以上90°以下の場合でもよい。絶縁膜18の厚さは、例えば下部電極12の厚さの1/2以上である。
【0028】
引出領域52において、上部電極16上に金属配線26が設けられている。金属配線26は、例えば金により形成されている。
【0029】
基板10としては、シリコン基板以外に、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板、またはGaAs基板等を用いることができる。
【0030】
下部電極12および上部電極16としては、ルテニウムおよびクロム以外に、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0031】
圧電膜14としては、窒化アルミニウム以外にも、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、またはチタン酸鉛(PbTiO3)等を用いることができる。また、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のために他の元素を含んでもよい。添加元素として、例えばスカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素の2つの元素、または2族元素と5族元素の2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。これにより、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数が向上する。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、フッ素(F)またはホウ素(B)を含んでもよい。
【0032】
絶縁膜18は、圧電膜14よりヤング率の大きい材料で形成されることが好ましい。絶縁膜18としては、窒化シリコン以外にも、酸化アルミニウム(Al2O3)または酸化ベリリウム(BeO)等を用いることができる。
【0033】
挿入膜28は、圧電膜14よりヤング率および/または音響インピーダンスが小さい材料により形成されることが好ましい。これにより、Q値を向上できる。挿入膜28は、酸化シリコン以外に、アルミニウム(Al)、金(Au)、銅(Cu)、チタン(Ti)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、またはクロム(Cr)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0034】
[製造方法]
図3(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器100の製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙30を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の厚さは、例えば10nm~100nmである。犠牲層38は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛、ゲルマニウム(Ge)、または酸化シリコン等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解する材料から選択される。犠牲層38は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。犠牲層38を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38はリフトオフ法により形成してもよい。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状である。次いで、犠牲層38および基板10上に絶縁膜18を形成する。絶縁膜18は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用い成膜される。絶縁膜18を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。このときに、引出領域52(
図1(a)から
図2(a)参照)に位置するようになる絶縁膜18の端面17が犠牲層38の端面に略一致するようにパターニングする。絶縁膜18はリフトオフ法により形成してもよい。
【0035】
図3(b)に示すように、絶縁膜18上に下部電極12を形成する。下部電極12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用い成膜される。下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。このときに、引出領域52(
図1(a)から
図2(a)参照)側に位置するようになる下部電極12の端面11が犠牲層38の端面から内側に離れて位置するようにパターニングする。また、エッチング条件を調整することで、下部電極12の端面11がテーパ形状となるようにパターニングする。下部電極12はリフトオフ法により形成してもよい。
【0036】
図3(c)に示すように、下部電極12および基板10上に下部圧電膜14aおよび挿入膜28を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28はリフトオフ法により形成してもよい。
【0037】
図4(a)に示すように、下部圧電膜14a上に上部圧電膜14bおよび上部電極16を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用い成膜する。下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16はリフトオフ法により形成してもよい。
【0038】
図4(b)に示すように、圧電膜14を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。次いで、カバー膜24を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、CVD法を用い成膜した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。絶縁膜18、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16、およびカバー膜24により積層膜20が形成される。
【0039】
図4(c)に示すように、犠牲層38に繋がるように予め形成しておいた導入路(不図示)を介し、犠牲層38のエッチング液を絶縁膜18下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。積層膜20の応力を圧縮応力になるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜20が基板10の反対側に基板10から離れるように膨らむ。基板10と絶縁膜18との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。下部電極12の端面11は空隙30の周縁31から空隙30の内側に離れて空隙30上に位置し、絶縁膜18の端面17の下端19は空隙30の周縁31に接するようになる。以上により、実施例1に係る圧電薄膜共振器100が形成される。
【0040】
[比較例]
図5(a)および
図5(b)は、比較例に係る圧電薄膜共振器で生じる課題を説明するための断面図である。
図5(a)は、比較例において
図4(b)に相当する製造工程のときの状態を示す断面図であり、
図5(b)は、
図4(c)に相当する製造工程のときの状態を示す断面図である。
図5(a)に示すように、比較例では、基板10と下部電極12の間に絶縁膜18が設けられていない。また、下部電極12の端面11の下端が犠牲層38の端に略一致するように形成されている。
【0041】
図5(b)に示すように、犠牲層38を除去することで、基板10と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。空隙30の周縁31と基板10とは箇所40で接触する。また、箇所40には下部電極12と圧電膜14も接触している。このため、箇所40に応力が集中しやすくなる。例えば、ドーム状の空隙30を形成するために積層膜20を圧縮応力にすると、箇所40に応力が集中する。また、温度が変化すると熱膨張係数の差に起因する応力が箇所40に集中する。圧電膜14は、スパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法により形成されるため脆い。例えば、基板10上にスパッタリング法を用い窒化アルミニウム膜を形成すると、窒化アルミニウム膜は基板10の表面に垂直方向に伸びる柱状の結晶構造を有する。このため、窒化アルミニウム膜は劈開しやすく割れやすい。したがって、下部電極12の端面11近傍を起点とするクラック42が圧電膜14内に発生することがある。なお、基板10は積層膜20を支持するために強固な材料で形成されるためクラックが発生しにくい。下部電極12は金属膜であるため延性および展性が大きいためクラックが発生しにくい。
【0042】
下部電極12の端面11近傍を起点として圧電膜14にクラック42が発生すると、下部電極12と上部電極16との間でESD(Electro-Static Discharge)破壊が起こり、特性不良等の原因となってしまう。
【0043】
[実施例1の効果]
図6は、実施例1に係る圧電薄膜共振器100の効果を説明するための断面図である。
図6に示すように、実施例1では、下部電極12の端面11は空隙30の周縁31から離れて空隙30上に位置している。絶縁膜18の端面17が、下部電極12の端面11よりも空隙30の周縁31の近くに位置している。これにより、クラック42は、絶縁膜18の端面17近傍を起点として圧電膜14内に発生しやすくなる。したがって、クラック42は絶縁膜18と上部電極16の間に形成される。よって、下部電極12と上部電極16との間でESD破壊が起こることが抑制される。
【0044】
[変形例]
図7は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器110の断面図である。
図7に示すように、実施例1の変形例1では、基板10の上面に窪みが形成されている。絶縁膜18は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、基板10の上面に形成された窪みにより空隙30が形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0045】
図8(a)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器120の共振領域50と引出領域52の境界近傍の断面図、
図8(b)は、
図8(a)の絶縁膜18aの端面17近傍を拡大した断面図である。
図8(a)および
図8(b)に示すように、実施例1の変形例2では、絶縁膜18aの端面17は、空隙30の周縁31から離れ、下部電極12の端面11よりも空隙30の周縁31の近くで空隙30上に位置している。空隙30の周縁31と絶縁膜18aの端面17との間の距離X1は、例えば0.1μm以上2μm以下である。絶縁膜18aの端面17と下部電極12の端面11との間の距離X2は、例えば1μm以上5μm以下である。距離X2は、例えば下部電極12および絶縁膜18の厚さよりも大きく、例えば下部電極12および絶縁膜18のうち厚い方の厚さの2倍以上でもよいし、5倍以上でもよいし、10倍以上でもよい。距離X1は、距離X2よりも短く、例えば距離X2の1/2以下でもよいし、1/3以下でもよい。距離X1は、下部電極12および絶縁膜18のうち厚い方の厚さより小さくてもよいし、その厚さの1/2以下の場合でもよい、1/3以下の場合でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0046】
実施例1の変形例1および変形例2においても、実施例1の
図6と同様に、クラック42は絶縁膜18、18aの端面17近傍を起点として圧電膜14内に発生しやすくなる。したがって、クラック42は絶縁膜18、18aと上部電極16の間に形成されるため、下部電極12と上部電極16との間でESD破壊が起こることが抑制される。
【0047】
実施例1およびその変形例によれば、下部電極12は、引出領域52側における端面11(第1端面)が空隙30の周縁31から離れて空隙30上に位置している。絶縁膜18、18aは、引出領域52において上部電極16が共振領域50から引き出された側における端面17(第2端面)の下端19が空隙30の周縁31に接しまたは端面17が下部電極12の端面11より空隙30の周縁31の近くで空隙30上に位置している。絶縁膜18、18aの端面17は圧電膜14に覆われて圧電膜14に接している。これにより、圧電膜14に発生するクラック42は、絶縁膜18、18aの端面17近傍を起点にして発生しやすくなる。よって、クラック42は、絶縁膜18、18aと上部電極16の間に形成されるようになり、下部電極12と上部電極16との間でESD破壊が起こることを抑制できる。
【0048】
また、実施例1およびその変形例によれば、
図2(b)のように、下部電極12の端面11と空隙30側の面25とがなす角度θ1は、絶縁膜18、18aの端面17と空隙30側の面27とがなす角度θ2より小さい。このように、下部電極12の端面11がテーパ状に傾斜していることで、圧電膜14内に下部電極12の端面11近傍を起点したクラックが発生しにくくなる。よって、下部電極12と上部電極16との間でESD破壊が起こることを抑制できる。
【0049】
また、実施例1およびその変形例によれば、空隙30はドーム状の形状を有する。この場合、積層膜20は圧縮応力となり、
図6における箇所40に応力が集中しやすくなり、箇所40近傍から圧電膜14内にクラック42が発生しやすくなる。よって、下部電極12の端面11を空隙30の周縁31から離し、絶縁膜18、18aの端面17を下部電極12の端面11より空隙30の周縁31の近くに設けることが好ましい。
【0050】
また、実施例1およびその変形例によれば、絶縁膜18、18aの厚さは、下部電極12の厚さの1/2以上である。これにより、圧電膜14に発生するクラック42は、絶縁膜18、18aの端面17近傍を起点に発生しやすくなり、下部電極12の端面11近傍を起点としては発生しにくくなる。よって、下部電極12と上部電極16との間でESD破壊が起こることを抑制できる。クラック42を絶縁膜18、18aの端面17近傍を起点として発生させる点から、絶縁膜18、18aの厚さは、下部電極12の厚さの2/3以上が好ましく、3/4以上がより好ましく、4/5以上が更に好ましい。絶縁膜18、18aが厚すぎると、圧電薄膜共振器100の大型化や、特性の劣化が懸念されるため、絶縁膜18、18aの厚さは、下部電極12の厚さの2倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましく、1倍以下が更に好ましい。
【0051】
また、実施例1およびその変形例によれば、絶縁膜18、18aは、圧電膜14よりもヤング率の大きい材料で形成されている。これにより、圧電膜14に発生するクラック42は、絶縁膜18、18aの端面17近傍を起点に発生しやすくなる。
実施例2においても、下部電極12の端面11は、空隙30の周縁31から離れて空隙30上に位置している。絶縁膜18bの端面17は、下部電極12の端面11より空隙30の周縁31の近くに位置し、下端19が空隙30の周縁31に接している。絶縁膜18bの端面17は圧電膜14に覆われて圧電膜14に接している。これにより、実施例1と同じく、圧電膜14に発生するクラック42は、絶縁膜18bの端面17近傍を起点にして発生しやすくなり、下部電極12と上部電極16との間でESD破壊が起こることを抑制できる。
また、実施例2によれば、絶縁膜18bは、端面17とは反対側の端面23(第3端面)が下部電極12の端面11と空隙30の周縁31との間に位置するように、下部電極12の端面11と空隙30の周縁31との間に設けられている。したがって、絶縁膜18bは、共振領域50に設けられていない。これにより、圧電薄膜共振器200の特性の劣化を抑制できる。
また、実施例2によれば、絶縁膜18bの端面23は、下部電極12の端面11に接している。これにより、下部電極12の端面11近傍から圧電膜14内にクラックが発生することを抑制できる。