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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133986
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/155 20060101AFI20230920BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B23Q3/155 F
B23Q17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039277
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾関 徹
【テーマコード(参考)】
3C002
3C029
【Fターム(参考)】
3C002AA03
3C002BB05
3C002DD13
3C002DD14
3C002HH01
3C002KK04
3C002LL01
3C029EE05
(57)【要約】
【課題】工具の交換時に異音の発生が抑制された工作機械を提供する。
【解決手段】工作機械1は、回転軸を中心に回転する主軸6と、工具Tを収納する工具マガジン40と、工具Tを保持して主軸6と工具マガジン40との間で工具Tの交換を行う保持部41と、主軸6をZ軸方向に沿って移動させるZ軸駆動装置32と、Z軸方向に沿って主軸6に加わる軸方向力を検知するセンサ63と、主軸6、保持部41およびZ軸駆動装置32に関する制御を行うとともに、センサ63が検知した軸方向力を取得する制御装置60と、を備える。制御装置60は、Z軸駆動装置32によって主軸6をZ軸方向について工具Tから離れさせる離脱処理を実行させるとともに、離脱処理においてセンサ63から取得した軸方向力に基づいて、Z軸駆動装置32を停止させることにより、主軸6を停止させる停止処理を実行させる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転する主軸と、
前記主軸に交換可能に取り付けられる工具を収納する工具マガジンと、
前記工具を保持して、前記主軸と前記工具マガジンとの間で前記工具の交換を行う保持部と、
前記主軸と前記保持部とを、前記回転軸の軸方向に沿って相対的に移動させる第一駆動装置と、
前記軸方向に沿って前記主軸または前記保持部に加わる軸方向力を検知するセンサと、
前記主軸、前記保持部および前記第一駆動装置に関する制御を行うとともに、前記センサが検知した前記軸方向力を取得する制御装置と、を備え、
前記主軸と前記保持部とが、前記主軸に取り付けられた前記工具を交換可能な交換位置に配された状態で、前記保持部は前記主軸に取り付けられた前記工具を保持するように構成されており、
前記制御装置は、
前記第一駆動装置によって前記主軸と前記保持部とを前記回転軸の軸方向について相対的に離れさせる離脱処理を実行させるとともに、
前記離脱処理において前記センサから取得した前記軸方向力に基づいて、前記第一駆動装置を停止させることにより、前記主軸と前記保持部との相対的な移動を停止させる停止処理を実行させる、工作機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記離脱処理を実行させたときに、前記停止処理が実行された場合には、前記第一駆動装置によって前記主軸と前記保持部とを前記交換位置に移動させる戻り処理を実行させる、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記制御装置は、前記戻り処理を実行させるとともに前記離脱処理を再度実行させる、リトライ処理を実行させる、請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記リトライ処理を所定の回数だけ繰り返させる、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記主軸を前記軸方向と直交する直交方向に移動させる第二駆動装置をさらに備え、
前記第一駆動装置は、前記主軸を前記軸方向に沿って移動させ、
前記主軸は、
前記第一駆動装置によって、前記交換位置と、前記軸方向に沿って前記保持部から離れた位置である待機位置と、の間を移動可能に構成されているとともに、
前記第二駆動装置によって、前記交換位置と、前記直交方向に沿って前記保持部から離れた位置である離隔位置と、の間を移動可能に構成されており、
前記制御装置は、前記第二駆動装置に関する制御も行うように構成されており、
前記離脱処理は、前記制御装置が前記第一駆動装置によって前記主軸を前記回転軸の軸方向について前記保持部から離れさせるものであり、
前記リトライ処理は、
前記第一駆動装置によって前記主軸を前記交換位置に移動させる前記戻り処理、
前記戻り処理の後に、前記第二駆動装置によって前記主軸を前記交換位置から前記離隔位置まで移動させ、前記第二駆動装置によって前記主軸を前記離隔位置から前記交換位置まで移動させる直交方向移動処理、
前記直交方向移動処理の後に、再度実行させる前記離脱処理、を含む、
請求項3または4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記制御装置は、前記離脱処理を実行させるときに、前記交換位置と前記待機位置との間の一部であって、且つ前記交換位置を含んで設けられた監視区間で、前記第一駆動装置に流される電流値を取得するように構成されており、
前記制御装置は、前記監視区間において、前記監視区間と異なる区間よりも遅い速度で前記主軸を移動させる、請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
前記主軸は、前記工具に対してロック状態またはアンロック状態可能に構成されるとともに、前記工具に対して前記ロック状態で前記工具をロックする主軸内ロック要素を備え、
前記主軸内ロック要素を駆動する主軸内ロック要素駆動装置を備え、
前記制御装置は、前記主軸内ロック要素駆動装置に関する制御も行うように構成されており、
前記離脱処理は、前記主軸内ロック要素駆動装置によって前記主軸内ロック要素を前記工具に対して前記アンロック状態とするとともに、前記アンロック状態の後に前記第一駆動装置によって前記主軸を前記回転軸の軸方向について前記保持部から離れさせるものであり、
前記直交方向移動処理は、前記戻り処理の後に、前記主軸内ロック要素駆動装置によって前記主軸内ロック要素を前記工具に対して前記ロック状態とするとともに、前記ロック状態の後に前記第二駆動装置によって前記主軸を前記交換位置から前記離隔位置まで移動させ、前記第二駆動装置によって前記主軸を前記離隔位置から前記交換位置まで移動させる、請求項5または6に記載の工作機械。
【請求項8】
前記リトライ処理に関する情報を記憶する記憶部をさらに有し、
前記制御装置は、前記リトライ処理が実行されたときに、少なくとも前記リトライ処理が実行されたことを前記記憶部に記憶させる、請求項3~7のいずれか1項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工具が収納される工具マガジンを備えた工作機械として、特許文献1に記載の工作機械が知られている。この工作機械は、回転軸を中心に回転する主軸を備える。主軸は、工具が取り付けられるように構成されている。工具は、主軸と、工具マガジンとの間で交換可能とされている。
【0003】
特許文献2には、主軸と工具との取り付け構造が開示されている。主軸の先端部にはクランプ爪が設けられている。クランプ爪の外面には、後述するホルダと係合する係合面が形成されている。クランプ爪の先端部にはリングばねが配置されており、クランプ爪の先端部を縮径方向に向けて付勢している。クランプ爪の内部には、回転軸の軸方向に沿って移動可能なドローバー(ロックロッドとも称する)が配されている。ドローバーを軸方向の後方に移動させると、クランプ爪が拡径するように構成されている。
【0004】
工具は、クランプ爪と係合するホルダを有する。ホルダは、クランプ爪を収容可能な中空部を有する。中空部には、クランプ爪の係合面と係合する係止面が形成されている。クランプ爪の係合面と、ホルダの係止面とが、軸方向について係合する。この状態でドローバーが軸方向の後方に移動されることにより、主軸に設けられたテーパ孔と、ホルダに設けられたテーパ面とが強固に係合される。これにより、工具と主軸とが、軸方向について抜け止め状態で保持されるように構成されている。
【0005】
工具を主軸から取り外す場合には、ドローバーを軸方向の前方に移動させることにより、クランプ爪を縮径させる。これにより、クランプ爪の係合面と、ホルダの係止面との係合が解除される。これにより、主軸に設けられたテーパ孔と、ホルダに設けられたテーパ面との係合も解除されるため、ホルダと主軸との係合が解除される。その後、ホルダと主軸とが軸方向について相対的に離れるように、ホルダまたは主軸を移動させることにより、主軸から工具を取り外すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-277063号公報
【特許文献2】特開2002-355705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の技術によると、ドローバーを軸方向の前方に移動させた場合であっても、ホルダと主軸との間の係合が完全に解除されないことが懸念される。この状態で、ホルダと主軸とを、軸方向について互いに離れるように移動させた場合、主軸に引きつられて、ホルダが主軸と同じ方向に移動してしまうおそれがある。その後、工具と主軸との間の係合が急激に解除されて、その反動でホルダが急激に移動し、この結果、異音が発生するおそれがあるという課題があった。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、工具の交換時に異音の発生が抑制された工作機械を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
回転軸を中心に回転する主軸と、
前記主軸に交換可能に取り付けられる工具を収納する工具マガジンと、
前記工具を保持して、前記主軸と前記工具マガジンとの間で前記工具の交換を行う保持部と、
前記主軸と前記保持部とを、前記回転軸の軸方向に沿って相対的に移動させる第一駆動装置と、
前記軸方向に沿って前記主軸または前記保持部に加わる軸方向力を検知するセンサと、
前記主軸、前記保持部および前記第一駆動装置に関する制御を行うとともに、前記センサが検知した前記軸方向力を取得する制御装置と、を備え、
前記主軸と前記保持部とが、前記主軸に取り付けられた前記工具を交換可能な交換位置に配された状態で、前記保持部は前記主軸に取り付けられた前記工具を保持するように構成されており、
前記制御装置は、
前記第一駆動装置によって前記主軸と前記保持部とを前記回転軸の軸方向について相対的に離れさせる離脱処理を実行させるとともに、
前記離脱処理において前記センサから取得した前記軸方向力に基づいて、前記第一駆動装置を停止させることにより、前記主軸と前記保持部との相対的な移動を停止させる停止処理を実行させる、工作機械にある。
【発明の効果】
【0010】
主軸と工具とが何らかの原因によって予期しないで係合している場合に、第一駆動装置によって主軸と工具とが、主軸の回転軸の軸方向に沿って相対的に離れる方向に移動すると、主軸、または保持部に対して軸方向に沿う軸方向力が加わる。この軸方向力に基づいて、主軸と保持部とが軸方向に沿って相対的に離れる方向に移動することが停止される。これにより、主軸と工具との間の予期せぬ係合が急激に外れることが抑制されるので、異音の発生を抑制することができる。一方、軸方向力がしきい値よりも小さいときには、離脱処理が完了される。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、工具の交換時に異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】工作機械の側面図(X軸方向から見た図)である。
図2】工作機械の正面図(Z軸方向から見た図)である。
図3】工作機械の一部拡大正面図である。
図4】工作機械の機能ブロック図である。
図5】主軸が交換位置に配された状態で、且つ主軸内ロック要素がロック状態にある場合における、工作機械の主軸内ロック要素を示す一部拡大側断面図である。
図6】主軸が待機位置に配された状態で、且つ主軸内ロック要素がアンロック状態にある場合における、工作機械の主軸内ロック要素を示す一部拡大側断面図である。
図7】主軸と工具とが意図しない係合状態にある場合における、主軸内ロック要素を示す一部拡大側断面図である。
図8】工具交換工程を示すフローチャートである。
図9】(a)は、工具が主軸から正常に離脱する場合の動作における主軸の動作経路を示し、(b)は、工具が主軸から正常に離脱しない場合の動作における主軸の動作経路を示す。
図10】離脱処理において、Z軸駆動装置に流れる電流値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1-1.工作機械1の構成
工作機械1の構成について図1図4を参照して説明する。図1に示すように、工作機械1は、少なくとも工具Tの中心軸(主軸の回転軸)が水平方向となる位置に位置決め可能なマシニングセンタを例にあげる。
【0014】
従って、本形態においては、工作機械1は、工具Tの中心軸が水平方向に一致するように構成される場合を例にあげる。つまり、本形態における工作機械1は、水平方向の直交する2軸のうち工具Tの中心軸に一致する方向をZ軸方向とし、水平方向の直交する2軸の他方であってZ軸方向に直交する方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向とする。
【0015】
なお、工作機械1は、以下に説明する構成の他に、工具Tの中心軸が水平方向に一致する姿勢に加えて、工具Tの中心軸が水平方向とは異なる方向となるように、工具Tの姿勢を変更可能な構成とすることも可能である。この場合、工作機械1は、例えば、工具Tを保持する主軸6(後述する)の姿勢を変更するための旋回機構を備え、工具Tの中心軸が、水平方向と垂直方向との間で変化するようにされる。
【0016】
本形態における工作機械1は、ベッド2、コラム3、主軸ヘッド4、ラム5、主軸6、テーブル7、全体カバー9を備える。ここで、本形態における工作機械1においては、工具Tを保持する主軸6が、ベッド2に対してX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動し、工作物(図示せず)を保持するテーブル7がベッド2に対して鉛直軸線回り(B軸)に回転可能に支持されている構成を例にあげる。ただし、工作機械1は、少なくとも主軸6がY軸方向に移動する構成とし、主軸6およびテーブル7のいずれかがX軸方向およびZ軸方向に移動する構成としても良い。
【0017】
ベッド2は、工作機械1の設置面上に設置される。本形態においては、ベッド2は、例えば、長方形状の上面を有する。ただし、ベッド2の形状は、任意の形状とすることができる。ベッド2の上面には、X軸方向(図1の紙面垂直方向)に延在するX軸ガイド21が設けられている。
【0018】
コラム3は、門型に形成されており、ベッド2の上面に支持される。本形態においては、コラム3は、ベッド2におけるX軸ガイド21に支持されている。そして、コラム3は、ベッド2に対してX軸方向(水平方向)に移動可能に支持されている。図4に示すように、コラム3は、制御装置60の指令に基づいて、ボールねじ装置やリニアモータなどのX軸駆動装置30により直動駆動される。ただし、コラム3は、ベッド2に固定されるようにしても良い。また、コラム3は、図1に示すように、Z軸方向(図1の左右方向)を法線とする面に、Y軸方向に延在するY軸ガイド22を備える。
【0019】
主軸ヘッド4は、コラム3におけるY軸ガイド22に支持されている。そして、主軸ヘッド4は、コラム3に対してY軸方向(上下方向)に移動可能に支持されている。図4に示すように、主軸ヘッド4は、制御装置60の指令に基づいて、ボールねじ装置やリニアモータなどのY軸駆動装置31(第二駆動装置)により直動駆動される。また、主軸ヘッド4は、図1に示すように、Z軸方向(図1の左右方向)に延在するZ軸ガイド23を備える。
【0020】
ラム5は、主軸ヘッド4におけるZ軸ガイド23に支持されている。そして、ラム5は、主軸ヘッド4に対してZ軸方向(水平方向)に移動可能に支持されている。図4に示すように、ラム5は、制御装置60の指令に基づいて、ボールねじ装置やリニアモータなどのZ軸駆動装置32(第一駆動装置)により直動駆動される。本形態では、Z軸駆動装置32としてサーボモータが用いられている。
【0021】
Z軸駆動装置32には、Z軸駆動装置32に流される電流を検知するセンサ63が配置されている。図4に示すように、センサ63は、検知した電流に基づく信号を制御装置60に送信する。センサ63は、Z軸駆動装置32に流される電流値の大きさに基づいて、主軸6の軸方向(Z軸方向)に沿って主軸6に加わる軸方向力の大きさを検知する。ただし、センサ63は工作機械1の任意の場所に取り付けることができる。
【0022】
主軸6は、ラム5に回転可能に設けられ、先端に、工具Tを保持する。主軸6は、工具Tを着脱可能である。従って、主軸6に装着される工具Tは、交換可能となる。工具Tは、例えば、エンドミル、ドリル、フライスカッタ、ギヤスカイビングカッタ、ホブカッタ、ボーリング工具などの回転工具である。図4に示すように、主軸6は、制御装置60の指令に基づいて、主軸駆動装置33により工具Tを回転駆動する。
【0023】
テーブル7は、工作物を支持する。テーブル7は、ベッド2に対して鉛直軸線回り(B軸)に回転可能に支持されている。図4に示すように、テーブルは、制御装置60の指令に基づいて、モータなどのB軸駆動装置34により回転駆動される。テーブル7は、工作物取付用治具(図示せず)を介して、工作物を固定しても良い。
【0024】
全体カバー9は、ベッド2に取り付けられており、工作機械1のベッド2上の要素を囲むカバーである。特に、全体カバー9は、加工領域を囲む。なお、工作機械1が、非加工領域および段取領域を備える場合には、全体カバー9は、加工領域に加えて、非加工領域および段取領域を囲むようにしても良い。
【0025】
さらに、工作機械1は、工具マガジン40および保持部41を備える。工具マガジン40および保持部41は、工作機械1の上部に設けられる。
【0026】
工具マガジン40は、コラム3の上部に、Z軸周りに回転可能に配置されている。図4に示すように、工具マガジン40は、制御装置60の指令に基づいて、ボールねじ装置やリニアモータなどの工具マガジン駆動装置36により回転駆動される。図1に示すように、工具マガジン40にはZ方向から見て馬蹄形状に複数の保持部41が配置されている。複数の保持部41のそれぞれは、工具Tを保持している。
【0027】
詳細には図示しないが、複数の保持部41のそれぞれには番号が付されている。また、詳細には図示しないが、複数の工具Tのそれぞれにも番号が付されている。各工具Tは、工具Tに付された番号と同じ番号が付された保持部41に保持されるように構成されている。工具Tは、主軸6と連結されるためのホルダ51を有する。上記の保持部41は、工具のホルダ51を保持するように構成されている。
【0028】
図3に示すように、保持部41は、長尺な本体41aと、本体41aの一方の端部に拡開可能に取り付けられた可動部と、を有する。本体41aの一方の端部と可動部41bとにより、保持部41は、一方の端部が二股に分かれたフォーク状をなしている。保持部41の他方の端部は工具マガジン40に取り付けられている。可動部41bは、図示しないばね部材によって本体41aに接近する方向に付勢されている。工具Tは、本体41aの一方の端部と、可動部41bとの間に挟持されることにより、保持部41に保持されるように構成されている。
【0029】
図3に示すように、主軸6が後述する交換位置CPに配されたときに、主軸6に取り付けられた工具Tが、工具マガジン40に保持された工具Tと交換されるようになっている。交換位置CPは、工具マガジン40に対して、馬蹄形状に多数の工具Tが配置された図中右下端の工具Tに近い位置であって、工作機械のX方向の中心Cから右方向に一定距離離れるとともに、さらに上方に一定距離離れた右斜め上方に偏心している。ただし、交換位置CPは、特に限定されず、工作機械のX方向の中心から左方向に一定距離離れるとともに、さらに上方に一定距離離れた左斜め上方に偏心していてもよい。
【0030】
交換位置CPに対して鉛直方向について下方の位置は、離隔位置DPとされる。主軸6が離隔位置DPに配された状態では、主軸6と保持部41とはY軸方向について離れた状態になっている。
【0031】
工具マガジン40がZ軸方向を中心として回転することにより、取外対象の工具Tが、交換位置CPに移動した主軸6のZ軸方向に重なる位置に移動すると、取外対象の工具Tを保持する保持部41は、二股に分かれた部分が下方に開口するように構成されている。
【0032】
2.工具Tに対する主軸6のロック構造
工具Tに対する主軸6のロック構造について、図4図5を参照して説明する。主軸6は、主軸端体70と、主軸内ロック要素71を備える。主軸内ロック要素71は、ドローバー72、支持筒73、スリーブ74、フィンガー押さえ75、ガイド軸体76、フィンガー77、ロックボール78およびリングばね79を含む。
【0033】
ドローバー72は、主軸6のうち径方向の中心部に配置されている。ドローバー72はZ軸方向に長尺な棒状をなしている。ドローバー72は主軸6内において、Z軸方向に移動可能に配置されている。図4に示すように、ドローバー72は、ボールねじ装置やリニアモータなどのドローバー駆動装置35(主軸内ロック要素駆動装置)によって直動駆動される。
【0034】
図5に示すように、ドローバー72の一方の端部はドローバー駆動装置35に連結されている。ドローバー72のうち、ドローバー駆動装置35に連結された側の端部寄りの一には大径軸部72aが形成されている。ドローバー72の他方の端部寄りの位置には大径軸部72aよりも径小な小径軸部72bが形成されている。
【0035】
ドローバー72の外側には、ドローバー72の移動により移動される支持筒73が配置されている。支持筒73は、ドローバー72の大径軸部72aの外側に装着される大径部73aと、ドローバー72の小径軸部72bの外側に装着される小径部73bを有する。小径部73bは、大径部73aよりも径小に形成されている。支持筒73の大径部73aには、一対の貫通孔73cが対向して形成されている。貫通孔73cには、ロックボール78が嵌合されている。小径部73bの外面には、支持筒73の径方向内方に凹んだ外周溝73dが、支持筒73の周方向に沿って形成されている。
【0036】
支持筒73の外側にはスリーブ74が配置されている。スリーブ74のうちロックボール78と対向する面には、スリーブ74の外面から内面に接近するにしたがってドローバー72の先端部に向かって傾斜する傾斜面74aが形成されている。この傾斜面74a、支持筒73に配置されるロックボール78およびスリーブ74により、ドローバー72の引き込み力を増大して支持筒73に伝達する増力機構が構成されている。
【0037】
支持筒73からは、ドローバー72の先端部が突出している。ドローバー72の先端部には、ガイド軸体76が装着されている。ガイド軸体76はZ軸方向に長尺な筒状をなしている。ガイド軸体76の外周面には、Z軸方向について中央位置付近に、ガイド軸体76の径方向内方に凹んだ収納凹部76aが形成されている。ガイド軸体76の端部のうちドローバー72と接続された側と反対側の端部と、収納凹部76aとの間の部分は、後述するフィンガー77の凹部77aと当接する当接軸部76bとされる。
【0038】
ガイド軸体76の外側には、Z軸方向に長尺な複数のフィンガー77が同心状に配置されている。フィンガー77の一方の端部にはドローバー72の径方向内方に突出する突出部77bが形成されている。突出部77bは、支持筒73の外周溝73dに揺動可能に係合されている。フィンガー77の内面には、Z軸方向の中央位置付近に、内方に突出する突起部77cが形成されている。突起部77cは、フィンガー77の縮径時に、ガイド軸体76の外周に形成された収納凹部76aに収容される。フィンガー77の内面には、突出部77bが設けられた端部と反対側の端部と、突起部77cと、の間の領域に、凹部77aが形成されている。凹部77aは、フィンガー77の縮径時に、ガイド軸体76の当接軸部76bに当接するように構成されている。
【0039】
フィンガー77の先端部の外側には、ホルダ51の中空テーパシャンク51aの内面に設けられた係止面51cに係合される係合面77dが形成されている。すなわち、ホルダ51の中空テーパシャンク51aの内面には、係止面51cが形成されている。各フィンガー77の先端部の外面には、各フィンガー77を縮径方向に向けて付勢するリングばね79が配置されている。
【0040】
本形態では、主軸6の端面に主軸端体70が着脱可能に固定されている。主軸端体70には、テーパ孔70aがZ軸方向に貫通されている。テーパ孔70aは、ホルダ51の中空テーパシャンク51aの外周のテーパ面51bに対応する形状とされている。主軸端体70には、フィンガー押さえ75を介してスリーブ74が固定されている。
【0041】
フィンガー押さえ75は筒状をなしている。フィンガー押さえ75の一方の端部にはフランジ部75aが設けられており、このフランジ部75aが主軸端体70の端部にボルト等の公知の手段(図示せず)により固定されている。フィンガー押さえ75と、スリーブ74とはピン部材等の公知の手段(図示せず)により連結されている。
【0042】
以上のように構成された主軸内ロック要素71は、主軸6に主軸端体70を介して固定される。主軸6と主軸端体70とは、ボルト(図示せず)により固定されている。
【0043】
3.工作機械1に係るシステム構成
本形態の工作機械1に係るシステム構成について、図4を参照して説明する。本形態の工作機械は、制御装置60、工具マガジン駆動装置36、X軸駆動装置30、Y軸駆動装置31、Z軸駆動装置32、主軸駆動装置33、ドローバー駆動装置35、B軸駆動装置34、記憶部61、表示装置62およびセンサ63を備える。
【0044】
制御装置60は、X軸駆動装置30、Y軸駆動装置31、Z軸駆動装置32、ドローバー駆動装置35、主軸駆動装置33およびB軸駆動装置34を駆動する。制御装置60は、Z軸駆動装置32に取り付けられたセンサ63からZ軸駆動装置32に流される電流に基づく信号を受け取る。制御装置60は、記憶部61に、後述するリトライ処理に関するデータを記録させる。記憶部61には、工作機械1を動作させるためのプログラムおよび種々の変数が記録されている。表示装置62は、液晶ディスプレイ等の公知の構成を有しており、制御装置60により種々の情報が表示される。
【0045】
記憶部61が記録する変数には特に制限はなく、例えば、直前に実行された工具交換工程においてZ軸駆動装置32に流された電流値の最大値を記録する最大電流値変数、過去に実行されたすべての工具交換工程においてZ軸駆動装置32に流された電流値のうちで最大のものを記録する発生最大電流値変数、後述するリトライ処理について、当該工具交換工程においてリトライ処理が実行された回数をカウントするリトライカウント変数、直前に実行された10回のリトライ処理において取外対象とされた工具Tの番号が記録されたリトライモニタ変数、Z軸駆動装置32に流される電流値が後述するしきい値を超えた累積回数が工具Tごとに記録されるしきい値累積変数等、任意の変数が記録される。
【0046】
また、記憶部61には、後述する監視区間速度と、通常速度が記録されている。監視区間速度は、後述する監視区間MA内において主軸6がZ軸駆動装置32によってZ軸方向に移動される速度である。通常速度は、交換位置CPと待機位置SP(後述)との間の領域のうち監視区間MAと異なる区間(以下、通常区間NA)において主軸6がZ軸駆動装置32によってZ軸方向に移動される速度である。監視区間速度は、通常速度よりも小さく設定されている。監視区間速度の値と、通常速度の値は必要に応じて適宜に設定される。
【0047】
4.工具Tの交換に関する動作
4-1.通常の動作
まず、工作機械1における工具Tの交換に関する通常の動作について、図3および図5図6を参照して説明する。
【0048】
まず、図3に示すように、工具Tの交換に関する動作が開始される状態においては、主軸6は離隔位置DPに配されている。主軸6には取外対象の工具Tが取り付けられている。次に、工具マガジン駆動装置36によって工具マガジン40が回転駆動される。これにより、工具マガジン40に保持された保持部41のうち、主軸6に取り付けられた工具Tに対応する保持部41が、交換位置CPに移動される。この状態で、保持部41は下方に開口するように構成されている。
【0049】
次に、主軸6がY軸駆動装置31によって上方に移動される。主軸6が交換位置CPの近傍まで移動されると、主軸6に取り付けられていた工具Tは、下方から保持部41の固定部および可動部41bに当接する。すると、可動部41bが工具Tに下方から押圧されることにより拡開する。主軸6が交換位置CPまで移動されると、可動部41bがばね部材の付勢力によって縮径する。これにより、保持部41によって工具Tが保持される。
【0050】
図5に示すように、工具Tに対して主軸内ロック要素71がロック状態となっている場合、フィンガー77の外側に形成された係合面が、中空テーパシャンク51aの内面に形成された係止面に当接した状態になっている。これにより、ホルダ51の中空テーパシャンク51aのテーパ面51bが、主軸端体70のテーパ孔70aに強固に嵌合されている。
【0051】
次に、ドローバー駆動装置35により、ドローバー72をZ軸方向について、図5における左方(以下、押し込み方向という)に移動させる。すると、ドローバー72の移動により、フィンガー77が押し込み方向に移動される。すると、フィンガー77の突起部77cがガイド軸体76の収納凹部76a内に嵌入する。これにより、リングばね79の付勢力によってフィンガー77の先端部は縮径する。すると、フィンガー77の外側に形成された係合面77dと、中空テーパシャンク51aの係止面51cとの係合が解除される。この結果、ホルダ51の中空テーパシャンク51aのテーパ面51bと、主軸端体70のテーパ孔70aとの係合が解除される。
【0052】
Z軸駆動装置32によって主軸6がZ軸方向について工具Tから離れる方向(図5の右方、以下、引き込み方向という)に移動される。上記したように、フィンガー77の外側に形成された係合面77dと、中空テーパシャンク51aの係止面51cとの係合が解除されているので、保持部41に保持された工具Tは移動せず、主軸6が相対的に工具Tから離れる方向に移動する。図6に示すように、主軸6は、工具Tのホルダ51が、主軸端体70のテーパ孔70aから完全に離脱した状態になるまで移動される。主軸端体70のテーパ孔70aから工具Tのホルダ51が完全に離脱した状態における主軸6の位置が待機位置SPとされる。以上により、工具Tが主軸6から取り外される。
【0053】
続いて、制御装置60は、工具マガジン40を回転させて、交換による取付対象の工具Tを保持した保持部41を交換位置CPに移動させる。その後は、制御装置60が上述した離脱動作と逆の動作を行うことで、主軸6に、取付対象の工具Tを取り付けることができる。
【0054】
4-2.工具Tが主軸6から正常に離脱しない場合の動作
次に、図7を参照して、工具Tが主軸6から正常に離脱しない場合の動作について説明する。
【0055】
図7に示すように、制御装置60によってドローバー72が押し込み方向に移動された場合であっても、工具Tと主軸6との間の係合状態が解除されない場合がある。工具Tと主軸6との間の係合状態が解除されない場合は特に限定されず、例えば、主軸端体70のテーパ孔70aと工具Tのホルダ51のテーパ面51bとの間の係合が解除されない場合や、フィンガー77の係合面と工具Tのホルダ51の係止面との間の係合が解除されない場合が例示される。図7には、フィンガー77の係合面77dと工具Tのホルダ51の係止面51cとの間の係合が解除されない場合が例示される。
【0056】
制御装置60の指令により、Z軸駆動装置32によって、主軸6はZ方向について交換位置CPから待機位置SPへと移動される。しかし、工具Tと主軸6との間の係合が解除されていないので、主軸6の移動に伴って、工具Tも交換位置CPから待機位置SPの方向に移動される。
【0057】
工具Tのホルダ51は保持部41に保持されている。一方、保持部41は工具マガジン40に取り付けられている。このため、保持部41は、工具マガジン40に取り付けられた端部を中心としてZ軸方向に揺動する。このため、図7に示すように、X軸方向から見て、保持部41は、Y軸に対して傾いた状態になり、場合によっては撓み変形するおそれがある。
【0058】
さらに主軸6が待機位置SPへと移動されると、工具Tと主軸6との係合力よりも、主軸6に加わる軸方向力の方が大きくなることにより、工具Tと主軸6との係合が急激に解除される。すると、保持部41が急激に復帰変形することにより、異音が発生したり、ホルダ51、工具マガジン40等に不具合が発生したりする可能性がある。
【0059】
5.工具交換工程
次に、本形態に係る制御装置60による工具交換工程について図5および図7図10を参照して説明する。ただし、以下においては、工具交換工程のうち、取外対象の工具Tを主軸6から離脱させる動作のみを説明し、取付対象の工具Tを主軸6に取り付ける動作については説明を省略する。また、工具交換工程は以下の説明に限定されない。
【0060】
図9(a)は、工具Tが主軸6から正常に離脱する場合における主軸6の動作経路を示し、図9(b)は、工具Tが主軸6から正常に離脱しない場合における主軸6の動作経路を示す。図10において、実線で示されるグラフは、工具Tが主軸6から正常に離脱する場合においてZ軸駆動装置32に流される電流値を示し、破線で示されるグラフは、工具Tが主軸から正常に離脱しない場合においてZ軸駆動装置32に流される電流値を示す。
【0061】
図8に示すように、工具交換工程が開始されると、制御装置60は、記憶部61に記録されたリトライカウント変数をクリアする(S1)。工具マガジン駆動装置36により、工具マガジン40が回転駆動されて、主軸6に取り付けられた取外対象の工具Tに対応する保持部41が交換位置CPに移動される(S2)。図8および図9(a)に示すように、Y軸駆動装置31より、主軸6が離隔位置DPから交換位置CPに移動される(S3)。
【0062】
ドローバー駆動装置35により、ドローバー72が押し込み方向に移動される(離脱処理S4)。通常の動作であれば、ドローバー72の押し込み方向への移動に伴って、フィンガー77とホルダ51との係合が解除される。ただし、図7に示すように、フィンガー77の係合面77dとホルダ51の係止面51cとの係合が何らかの原因で解除されていない場合が起こり得る。
【0063】
続いて、図8に示すように、Z軸駆動装置32により、主軸6が交換位置CPから待機位置SPに向けて移動される(離脱処理S5)。交換位置CPから待機位置SPまでの区間は、交換位置CPを含んで設けられた監視区間MAと、待機位置SPを含んで設けられた通常区間NAとに区画されている。監視区間MAにおける主軸6の移動速度は、監視区間速度に設定されており、通常区間NAにおける主軸6の移動速度は、通常区間速度に設定されている。さらに、監視区間速度は、通常区間速度よりも遅い速度に設定されている。なお、交換位置CPから待機位置SPまでの間の領域において、監視区間MAと通常区間NAとをどのような割合に設定するかについては特に制限はなく、必要に応じて任意に設定できる。
【0064】
従って、まずは、図8および図9(a)に示すように、Z軸駆動装置32により、監視区間MAにおいて主軸6が交換位置CPから待機位置SPに向けて移動される(S5)。このとき、制御装置60は、主軸6を監視区間速度で移動させる。
【0065】
続いて、制御装置60は、Z軸駆動装置32に配置されたセンサ63から、Z軸駆動装置32に流される電流に関する信号を受け取る(S6)。制御装置60は、受け取った信号に基づいてZ軸駆動装置32に流された電流値を検知する。センサ63は、監視区間MAにおいて、主軸駆動装置33に流される電流を検知する。センサ63は電流に関する信号を制御装置60に送信する。つまり、制御装置60は、主軸6が監視区間MA内を移動するときにZ軸駆動装置32に流される電流値を取得するように構成されている。
【0066】
続いて、制御装置60は、Z軸駆動装置32に流された電流値が、記憶部61にあらかじめ記憶されたしきい値よりも大きいか否かを判断する(S7)。図10の実線にて示すように、工具Tが主軸6から正常に離脱する場合においてZ軸駆動装置32に流される電流値は、しきい値を超えない。
【0067】
S7において、制御装置60は、Z軸駆動装置32に流された電流値がしきい値より小さいと判断した場合には(S7:N)、主軸6が監視区間MA内に位置しているか否かを判断し(S8)、主軸6が監視区間MA内に位置していると判断したときには(S8:Y)、S5、S6およびS7を繰り返す。つまり、制御装置60は、監視区間MAにおいて、Z軸駆動装置32に流された電流値がしきい値よりも小さい間は、主軸6を監視区間速度にて移動させ続ける。
【0068】
S8において、制御装置60は、主軸6が監視区間MA内に位置していないと判断したときには(S8:N)、図9(a)に示すように、主軸6は通常区間NAに位置することになる。この場合、図8および図9(a)に示すように、制御装置60は、通常区間NAにおいて、Z軸駆動装置32により主軸6を通常速度で待機位置SPに向かって移動させる(S9)。制御装置60は、主軸6が待機位置SPにまで移動したか否かを判断する(S10)。制御装置60が、主軸6が待機位置SPにまで移動していないと判断したときには(S10:N)、S9に戻る。制御装置60は、主軸6が待機位置SPにまで移動したと判断した時には(S10:Y)、主軸6を停止させる(S11)。
【0069】
続いて、制御装置60は、後処理を実行させる(S12)。工具Tが主軸6から正常に離脱する場合の後処理において、制御装置60は、記憶部61に対して以下の処理を実行させる。
【0070】
制御装置60は、記憶部61から、発生最大電流値を読み込む。制御装置60は、直前に実行された工具交換工程においてZ軸駆動装置32に流された最大電流値と、発生最大電流値とを比較する。直前に実行された工具交換工程における最大電流値が発生最大電流値よりも大きいときは、直前に実行された工具交換工程における最大電流値を発生最大電流値に代入する。制御装置60は、記憶部61に、工具交換工程においてZ軸駆動装置32に流された最大の電流値を、最大電流値変数に記憶させる。
【0071】
さらに、制御装置60は、しきい値、および、記憶部61が記録する変数を表示部に表示させる(S13)。また、表示装置62が表示する情報は上記のものに限定されない。以上により工具交換処理のうち取外対象の工具Tを主軸6から離脱させる動作が終了する。
【0072】
次に、図7に示すように、何らかの原因によりフィンガー77の係合面77dとホルダ51の係止面51cとの係合が何らかの原因で解除されていないとする。この場合、図8のS5にて、制御装置60が、監視区間MAにおいて主軸6を監視区間速度で移動させている最中に、保持部41および工具Tは主軸6に伴って交換位置CPから待機位置SPに向かう方向に移動する。
【0073】
そのため、Z軸駆動装置32には負荷が加わるので、図10の破線で示されるように、Z軸駆動装置32に流される電流値は、工具Tと主軸6との係合が正常に解除された場合に比べて大きくなる。
【0074】
図8および図9(b)に示すように、制御装置60は、監視区間MAにおいて、Z軸駆動装置32に流された電流値がしきい値よりも大きいか否かを判断する(S7)。本形態では、しきい値は、工具Tと主軸6との係合が正常に解除された場合にZ軸駆動装置32に流される電流値よりも大きく、且つ、工具Tと主軸6との係合が解除されない場合にZ軸駆動装置32に流される電流値よりも小さな値が設定されている。ただし、しきい値の値は必要に応じて任意に設定できる。
【0075】
制御装置60が、Z軸駆動装置32に流された電流値がしきい値よりも大きいと判断したときには(S7:Y)、制御装置60は主軸6を停止させる(停止処理S14)。制御装置60は、記憶部61に記録されたリトライカウント変数を1増加させる(S15)。図8および図9(b)に示すように、制御装置60は、Z軸駆動装置32により、主軸6を交換位置CPに向けて移動させる(戻り処理、リトライ処理S16)。制御装置60は、主軸6が交換位置CPに移動したと判断したときには、主軸6を停止させる。
【0076】
続いて、図8および図9(b)に示すように、制御装置60は、ドローバー駆動装置35により、ドローバー72が引き込み方向に移動される(リトライ処理S17)。すると、フィンガー77の突起部77cがガイド軸体76の外面に乗り上げる。これにより、フィンガー77の先端部が拡開し、フィンガー77の係合面77dと、ホルダ51の係止面51cとが係止して、フィンガー77が工具Tに対してロック状態とされる。この結果、主軸端体70のテーパ孔70aとホルダ51のテーパ面51bとが係止する。これにより、主軸6と工具Tとが連結される(図5参照)。
【0077】
続いて、Y軸駆動装置31により、主軸6が交換位置CPから離隔位置DPに移動される(直交方向移動処理、リトライ処理S18)。すると、保持部41の可動部41bが拡開することにより、保持部41と工具Tとの係合状態が解除される。制御装置60は、主軸6が離隔位置DPに移動したと判断したときには、主軸6を停止させる。制御装置60は、記憶部61に記録されたリトライカウント変数が3か否かを判断する(S19)。つまり、制御装置60は、リトライ処理が3回繰り返されたか否かを判断する。
【0078】
制御装置60が、記憶部61に記録されたリトライカウント変数が3でないと判断したとき(S19:N)、制御装置60は、Y軸駆動装置31により、主軸6を交換位置CPに移動させる(S20)。制御装置60は、主軸6が交換位置CPに移動したと判断したときには、主軸6を停止させる。つまり、制御装置60は、リトライ処理が実行されたのが1回または2回であった場合には、主軸6を交換位置CPに移動させるように構成されている。
【0079】
主軸6が交換位置CPに移動する直前の状態においては、保持部41の可動部41bが工具Tと当接することによって拡開する。その後、主軸6が交換位置CPに移動すると、保持部41の可動部41bが縮径することにより、保持部41が工具Tを保持する。続いて、制御装置60は、上記した図8のS4、S5およびS6をリトライ処理として実行する。
【0080】
再び、図8のS7において、制御装置60は、Z軸駆動装置32に流された電流値がしきい値よりも大きいと判断したときには(S7:Y)、リトライカウント変数が3に到達するまでの間、S14~S20をリトライ処理として実行する。
【0081】
一方、S19において、制御装置60は、リトライカウント変数が3であると判断したとき(S19:N)、後処理を実行させる(S12)。ただし、後処理が実行されるか否かを判断するための基準値は3に限定されず、2、4またはそれ以上であってもよく、必要に応じて任意に設定可能である。
【0082】
工具Tが主軸6から正常に離脱しない場合の後処理において、制御装置60は、記憶部61に対して以下の処理を実行させる。制御装置60は、記憶部61から、発生最大電流値を読み込む。制御装置60は、直前に実行された工具交換工程においてZ軸駆動装置32に流された最大電流値と、発生最大電流値とを比較する。直前に実行された工具交換工程における最大電流値が発生最大電流値よりも大きいときは、直前に実行された工具交換工程における最大電流値を発生最大電流値に代入する。制御装置60は、記憶部61に記録されたデータに基づいて、直前の10回のリトライ処理においてリトライ処理が実行された工具Tの番号を、10個の値を記憶可能なリトライモニタ変数に記憶させる。制御装置60は、記憶部61に記録されたデータに基づいて、工具Tごとに、Z軸駆動装置32に流された電流値がしきい値を超えた回数を累積し、しきい値累積変数に記録させる。制御装置60は、記憶部61に、工具交換工程においてZ軸駆動装置32に流された最大の電流値を、最大電流値変数に記憶させる。
【0083】
制御装置60は、上記したS13を実行させる。以上により工具交換処理のうち取外対象の工具Tを主軸6から離脱させる動作が終了する。
【0084】
6.効果
本形態の工作機械1においては、制御装置60は、Z軸駆動装置32によって主軸6と保持部41とを回転軸の軸方向について相対的に離れさせる離脱処理を実行させるとともに、離脱処理においてセンサ63から取得した軸方向力に基づいて、Z軸駆動装置32を停止させることにより、主軸6と保持部41との相対的な移動を停止させる停止処理を実行させる。
【0085】
主軸6と工具Tとが何らかの原因によって予期しないで係合している場合に、Z軸駆動装置32によって主軸6と工具Tとが、主軸6の回転軸の軸方向に沿って相対的に離れる方向に移動すると、主軸6、または保持部41に対して軸方向に沿う軸方向力が加わる。この軸方向力に基づいて、主軸6と保持部41とが軸方向に沿って相対的に離れる方向に移動することが停止される。これにより、主軸6と工具Tとの間の予期せぬ係合が急激に外れることが抑制されるので、異音の発生を抑制することができる。一方、軸方向力がしきい値よりも小さいときには、離脱処理が完了される。
【0086】
また、本形態においては、制御装置60は、離脱処理を実行させたときに、停止処理が実行された場合には、Z軸駆動装置32によって主軸6と保持部41とを交換位置CPに移動させる戻り処理を実行させる。
【0087】
主軸6、または保持部41に加わる軸方向力は、主軸6と工具Tとが係合した状態で軸方向について離れる方向に相対的に移動することにより発生する。そこで、主軸6と保持部41とを交換位置CPに移動させることにより、主軸6、または保持部41に軸方向力が加わらないようにすることができる。これにより、主軸6、または保持部41に、軸方向力に基づく不具合が生じることを抑制することができる。
【0088】
本形態においては、制御装置60は、戻り処理を実行させるとともに離脱処理を再度実行させる、リトライ処理を実行させる。
【0089】
主軸6と保持部41とが交換位置CPに戻るまでに発生する振動等により、主軸6と工具Tとの間の係合が偶然に解除される場合がある。主軸6と工具Tとの係合が解除されていた場合には、離脱処理を再度実行させることにより、離脱処理を完了することができる。
【0090】
本形態においては、制御装置60は、リトライ処理を所定の回数だけ繰り返させる。
【0091】
工具Tと保持部41との係合が解除されない状態でリトライ処理が繰り返された場合、主軸6、または保持部41に軸方向力が繰り返し加わり続けることで何らかの不具合が生じる可能性がある。リトライ処理が繰り返される回数を所定の回数に制限することにより、主軸6、または保持部41に不具合が生じることを抑制できる。
【0092】
本形態の工作機械1は、主軸6を軸方向と直交する直交方向に移動させるY軸駆動装置31をさらに備える。主軸6は、Z軸駆動装置32によって、交換位置CPと、Z軸方向に沿って保持部41から離れた位置である待機位置SPと、の間を移動可能に構成されているとともに、Y軸駆動装置31によって、交換位置CPと、直交方向に沿って保持部41から離れた位置である離隔位置DPと、の間を移動可能に構成されている。制御装置60は、Y軸駆動装置31に関する制御も行うように構成されており、離脱処理は、制御装置60がZ軸駆動装置32によって主軸6を回転軸の軸方向について保持部41から離れさせるものであり、リトライ処理は、Z軸駆動装置32によって主軸6を交換位置CPに移動させる戻り処理、戻り処理の後に、Y軸駆動装置31によって主軸6を交換位置CPから離隔位置DPまで移動させ、Y軸駆動装置31によって主軸6を離隔位置DPから交換位置CPまで移動させる直交方向移動処理、直交方向移動処理の後に、再度実行させる離脱処理、を含む。
【0093】
リトライ処理において、主軸6が、交換位置CPと、離隔位置DPとの間を移動することにより、主軸6と保持部41に対して振動等が加わる。これにより、主軸6と工具Tとの間の係合が偶然に解除されることが期待される。
【0094】
本形態においては、制御装置60は、離脱処理を実行させるときに、交換位置CPと待機位置SPとの間の一部であって、且つ交換位置CPを含んで設けられた監視区間MAで、Z軸駆動装置32に流される電流値を取得するように構成されており、制御装置60は、監視区間MAにおいて、監視区間MAと異なる区間よりも遅い監視区間速度で主軸6を移動させる。
【0095】
監視区間MAにおいて、監視区間MAと異なる区間よりも主軸6を比較的に遅く移動させることにより、主軸6と工具Tとが係合していることを早期に発見できる。これにより、主軸6と工具Tとの係合が解除される前に主軸6を停止させることができる。この結果、異音の発生を抑制するとともに、工作機械1の安全性を高めることができる。
【0096】
また、監視区間MAと異なる区間では主軸6を比較的に速く移動させることにより、工具交換の作業時間を短縮することができる。
【0097】
本形態の工作機械1に係る主軸6は、工具Tに対してロック状態またはアンロック状態可能に構成されるとともに、工具Tに対してロック状態で工具Tをロックする主軸内ロック要素71と、主軸内ロック要素71を駆動するドローバー駆動装置35を備える。制御装置60は、ドローバー駆動装置35に関する制御も行うように構成されている。離脱処理は、ドローバー駆動装置35によって主軸内ロック要素71を工具Tに対してアンロック状態とするとともに、アンロック状態の後にZ軸駆動装置32によって主軸6を回転軸の軸方向について保持部41から離れさせるものであり、直交方向移動処理は、戻り処理の後に、ドローバー駆動装置35によって主軸内ロック要素71を工具Tに対してロック状態とするとともに、ロック状態の後にY軸駆動装置31によって主軸6を交換位置CPから離隔位置DPまで移動させ、Y軸駆動装置31によって主軸6を離隔位置DPから交換位置CPまで移動させる。
【0098】
直交方向移動処理時に主軸内ロック要素71を工具Tに対してロック状態とすることにより、主軸6が交換位置CPから離隔位置DPまで移動する際に、工具Tが主軸6から外れてしまうことを抑制することができる。また、直交方向移動処理時に、主軸内ロック要素71を主軸内ロック要素駆動装置によって駆動することにより発生した振動等により、主軸内ロック要素71が工具Tに対してアンロック状態にされたときに、工具Tと主軸6との係合が外れやすくなることが期待される。
【0099】
本形態の工作機械1は、リトライ処理に関する情報を記憶する記憶部61をさらに有する。制御装置60は、リトライ処理が実行されたときに、少なくともリトライ処理が実行されたことを記憶部61に記憶させる。
【0100】
リトライ処理が実行されたときに、離脱処理においてZ軸駆動装置32に流される電流値がしきい値よりも小さいために離脱処理が完了されると、主軸6は停止されない。この場合、工作機械1は停止されないので、外見上、リトライ処理が実行されたか否かが明確に分からない場合がある。本実施形態においては、少なくともリトライ処理が実行されたことが記憶部61に記憶されるので、リトライ処理が実行された事実を確認することができる。
【0101】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0102】
本形態においては、工具マガジン40に複数の保持部41が取り付けられ、この保持部41に工具Tが保持される態様としたが、これに限られず、工具マガジン40に複数の工具Tが保持され、S字状をなす交換アームによって、工具マガジン40に保持された取付工具Tと、主軸6に取り付けられた取外対象の工具Tとが交換される形態に適用されてもよい。この場合、交換アームの一端が、主軸6に保持された工具Tを保持し、他端が、工具マガジン40に保持された工具Tを保持する。そして、交換アームが旋回することにより、主軸6と工具マガジン40との間で工具Tが交換される。
【0103】
本形態においては、HSKシャンクが採用されているが、シャンクの種類は特に限定されず、例えば、BTシャンク、KMシャンク等、任意のシャンクを採用することができる。
【0104】
本形態においては、センサ63は、Y軸駆動装置31に流される電流値を検知する構成としたが、これに限られず、センサ63は、例えば、カメラ、光電素子等の光学装置であってもよく、ホルダ51が主軸6に伴って待機位置SPに移動する際のホルダ51又は保持部41の位置情報を取得する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 工作機械
6 主軸
32 Z軸駆動装置
40 工具マガジン
41 保持部
60 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10