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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023133996
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】プロピレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/20 20060101AFI20230920BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20230920BHJP
   B01J 23/28 20060101ALI20230920BHJP
   B01J 23/22 20060101ALI20230920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C07C1/20
C07C11/06
B01J23/28 Z
B01J23/22 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039297
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智司
(72)【発明者】
【氏名】中園 和希
(72)【発明者】
【氏名】小林 敦希
(72)【発明者】
【氏名】岡村 淳志
(72)【発明者】
【氏名】永村 裕生
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA05A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC01A
4G169BC02B
4G169BC03B
4G169BC04B
4G169BC06B
4G169BC08A
4G169BC42B
4G169BC43A
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169CB21
4G169CB63
4G169DA05
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC13
4H006BA02
4H006BA06
4H006BA12
4H006BA14
4H006BA30
4H006BA55
4H006BA81
4H006BC10
4H006BC18
4H006BC32
4H006BE20
4H039CA29
4H039CG90
(57)【要約】
【課題】プロパンジオールを原料として、効率良くプロピレンを製造することができる新たなプロピレンの製造方法を提供する。
【解決手段】プロピレンを製造する方法であって、該製造方法は、触媒存在下でプロパンジオールからプロピレンを生成する反応工程を含み、該触媒は、酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを含むことを特徴とするプロピレンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンを製造する方法であって、
該製造方法は、触媒存在下でプロパンジオールからプロピレンを生成する反応工程を含み、
該触媒は、酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを含むことを特徴とするプロピレンの製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを担体に担持したものであることを特徴とする請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項3】
前記担体は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及び、セリアからなる群より選択される少なくとも一種の金属酸化物であることを特徴とする請求項2に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項4】
前記触媒中のモリブデン、及び/又は、バナジウムの含有量は、触媒総量100モル%に対して0.1~20モル%であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【請求項5】
前記触媒は、アルカリ金属、及び、アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも一種の元素を触媒総量100モル%に対して0.1~2モル%含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【請求項6】
前記反応工程の反応温度は、200~500℃であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【請求項7】
前記反応工程は、水素供与体の存在下で行われることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【請求項8】
前記反応工程において、プロパンジオール質量供給速度の触媒充填質量に対する比で表される液空間速度が0.4~40h-1であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンの製造方法に関する。詳しくは、プロパンジオールから効率良くプロピレンを製造することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止に向けた取組みが全世界的に活発に進められ、カーボンリサイクルの観点から各種化学品のバイオ化に注目が集まっている。なかでも、プロピレンはアクリル酸やポリプロピレンの原料として工業的に大量に使用されており、そのバイオ化ニーズは高い。そのため、プロピレンのバイオ化を目指した様々な研究が進められてきた。しかし、現在までに効果的なバイオプロピレンの製造方法は確立されていない。
【0003】
ところで、これまでのバイオプロピレン製造はバイオエタノールを原料とするものが多く、その方法として、例えば、(1)脱水によりエチレンとしてブテンと反応させ、メタセシス反応でプロピレンを得る方法(特許文献1)、(2)エタノールと水からアセトンと水素を製造した後、アセトンを還元、脱水してプロピレンを得る方法等が提案されている(特許文献2)。しかしながら、これらは多段の反応が必要で、操作が煩雑となり工業的見地からは好ましい製法とは言えなかった。
【0004】
一方、グリセリンは、バイオディーゼル製造過程等で多量に副生され、比較的安価に入手できる。グリセリンは、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールに誘導することが可能であり、これら誘導品も有用なバイオマス原料と考えることができる。更に、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールは、上記したグリセリンを出発原料とする方法以外にも、糖の水素化分解等による製造方法も提案されており(非許文献1)、将来的には1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールが安価なバイオマス原料として多量に入手可能となると見込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/019595号
【特許文献2】特開2012-240914号公報
【特許文献3】特開2015-209422号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Molecular Catalysis 466、138-145、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況を踏まえ、1,2-プロパンジオールをバイオマス原料としたプロピオンアルデヒドの製造方法が提案されている(特許文献3)。しかし、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールを原料としたバイオプロピレン製造方法については、これまでに提案されていなかった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みて、プロパンジオールを原料として、効率良くプロピレンを製造することができる新たなプロピレンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、プロピレンの製造方法を種々検討したところ、プロパンジオールからプロピレンを生成する反応において、酸化モリブデン又は酸化バナジウムを少なくとも含む触媒を用いることにより、効率良くプロピレンを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、プロピレンを製造する方法であって、上記製造方法は、触媒存在下でプロパンジオールからプロピレンを生成する反応工程を含み、上記触媒は、酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを含むことを特徴とするプロピレンの製造方法である。
【0011】
上記触媒は、酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを担体に担持したものであることが好ましい。
【0012】
上記担体は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及び、セリアからなる群より選択される少なくとも一種の金属酸化物であることが好ましい。
【0013】
上記触媒中のモリブデン、及び/又は、バナジウムの含有量は、触媒総量100モル%に対して0.1~20モル%であることが好ましい。
【0014】
上記触媒は、アルカリ金属、及び、アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも一種の元素を触媒総量100モル%に対して0.1~2モル%含有することが好ましい。
【0015】
上記反応工程の反応温度は、200~500℃であることが好ましい。
【0016】
上記反応工程は、水素供与体の存在下で行われることが好ましい。
【0017】
上記反応工程において、プロパンジオール質量供給速度の触媒充填質量に対する比で表される液空間速度が0.4~40h-1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプロピレンの製造方法によれば、プロパンジオールからプロピレンを非常に効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0020】
本発明はプロピレンを製造する方法であって、上記製造方法は、触媒存在下でプロパンジオールからプロピレンを生成する反応工程を含み、上記触媒は、酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを含むことを特徴とする。これにより、本発明のプロピレンの製造方法は、プロパンジオールからプロピレンを効率良く製造することができる。
【0021】
本発明のプロピレンの製造方法の反応工程では、酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを含む触媒を使用することにより、下記に示すような反応が起こっていると推測される。酸化モリブデンを含む触媒上での反応機構を例示したものが以下のスキームである。すなわち、還元された四価モリブデン酸化物(a)のモリブデンとプロパンジオール(1,2-プロパンジオール)の二つの水酸基が相互作用し、四価モリブデン酸化物(a)が六価モリブデン酸化物(b)に酸化される。次いで、プロパンジオール(1,2-プロパンジオール)の二つの水酸基が六価モリブデン酸化物(b)により同時に引き抜かれてプロピレンが生成するとともに、水酸基が二つ結合した六価モリブデン酸化物(c)が形成される。この水酸基が二つ結合した六価モリブデン酸化物(c)より水分子が脱離して、二つの二重結合酸素種を有する六価モリブデン酸化物(d)が形成される。この二つの二重結合酸素種がプロパンジオール(1,2-プロパンジオール)等からの水素移行を受け、水酸基が二つ結合した四価モリブデン酸化物(e)に還元される。この水酸基が二つ結合した四価モリブデン酸化物(e)より水分子が抜けることで還元された四価モリブデン酸化物(a)が再生されて触媒サイクルが構築されると推定される。
【0022】
【化1】
【0023】
このように、上記酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを含む触媒を使用すると、反応系内に水素(H)を添加しなくても、出発原料自体から水素が容易に供給され、水素移行が進行して触媒サイクルが回るためプロピレンを効率良く生成することができると考えられる。
【0024】
1.触媒
本発明で使用する触媒について、まず説明する。
本発明では、酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを含む触媒を使用する。
上記酸化モリブデンとしては、MoO、MoO等が挙げられる。
上記酸化バナジウムとしては、VO、V、V、V等が挙げられる。
上記触媒は、これらの一種のみ含むものであってもよいし、2種以上含むものであってもよい。
【0025】
上記触媒は、上記酸化モリブデン、及び/又は、酸化バナジウムを担体に担持したものであることが好ましい。
上記担体としては、無機酸化物を含むものが挙げられ、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア等の金属酸化物を含むものが挙げられる。なかでも、上記無機酸化物としては、比表面積が大きい点で、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及び、セリアからなる群より選択される少なくとも一種の金属酸化物が好ましく、酸化モリブデン、酸化バナジウムとの化学的な相互作用が少なく、表面積が大きい点で、シリカがより好ましい。
【0026】
上記担体の形状は特に限定されず、例えば、球状、円柱状、破砕状等の形状であってよい。
上記担体のサイズは特に限定されず、反応器の大きさ等に応じて適宜選択すればよい。
【0027】
上記触媒中のモリブデン(モリブデン原子)及び/又はバナジウム(バナジウム原子)の含有量は、触媒総量100モル%に対して0.1~20モル%であることが好ましい。
上記モリブデン及び/又はバナジウムの含有量が上述の範囲であると、上記触媒機能をより一層発揮することができ、プロピレンの生成をより一層良好にできる。
上記触媒中のモリブデン及び/又はバナジウムの含有量は、触媒総量100モル%に対して0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることが更に好ましく、また、10モル%以下であることがより好ましく、8モル%以下であることが更に好ましい。
【0028】
上記触媒は、更にアルカリ金属、及び、アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有することが好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むことにより、プロピレンの選択率を向上させることができる。
上記アルカリ金属としては、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。
上記アルカリ土類金属としては、好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。
【0029】
上記触媒における、上記アルカリ金属、及び、アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも一種の元素の含有量は、触媒総量100モル%に対して0.1~2モル%であることが好ましい。アルカリ金属、及び、アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも一種の元素の含有量が上述の範囲であると、上記触媒機能をより一層発揮することができ、プロピレンの生成をより一層良好にできる。
【0030】
2.触媒の調製方法
上記酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを含む触媒が担体に担持したものである場合、上記触媒は、例えば、酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを担体に担持させることができる方法であれば、特に限定されず、公知の方法で調製することができる。
例えば、モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩(バナジウム酸塩)の溶液に担体を浸漬等し、水分を蒸発させて担体にモリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩(バナジウム酸塩)を担持させた後、乾燥、焼成する方法等が挙げられる。
【0031】
上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩(バナジウム酸塩)の溶液は、公知の方法で調製すればよく、例えば、上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩を溶媒に溶解させることにより調製できる。
【0032】
上記モリブデン酸塩としては、例えば、モリブデン酸アンモニウム・四水和物、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸等が挙げられる。
【0033】
上記バナジン酸塩としては、例えば、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、シュウ酸オキソバナジウム等が挙げられる。
【0034】
上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液に使用する溶媒としては、上述した塩を溶解させることができる溶媒が好ましく、例えば、水(好ましくはイオン交換水、蒸留水等の純水)が好ましい。
【0035】
上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩を担体に担持させる方法としては、特に限定されず公知の方法で行うことができ、例えば、上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液に担体を浸漬させたり、上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液を担体に少量ずつ含浸させたりする方法や、その後に水分を蒸発させる方法が挙げられる。
なかでも、上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液を担体に少量ずつ含浸させた後、水分を蒸発させる方法が好ましい。
【0036】
上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液を担体に少量ずつ含浸させる方法としては、特に限定されず、上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液を担体に滴下する方法や、噴霧する方法等の公知の方法で行うことができる。
1回の接触(例えば、滴下又は噴霧)に使用する上記溶液の量や接触回数(例えば、滴下回数又は噴霧回数)は、モリブデン及び/又はバナジンの含有量や担体の形状、サイズ等に応じて、適宜選択することができる。
【0037】
上記水分を蒸発させる方法としては、特に限定されず、風乾、加熱等の公知の方法で行うことができる。上記加熱は、水分が蒸発する程度に行うことができればよく、例えば、白熱ランプで加熱する等の公知の方法で行うことができる。
【0038】
上記触媒の調製方法においては、上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩を担体に担持させた後、焼成前に乾燥を行ってもよい。乾燥を行うことにより、溶媒をできるだけ除去し、続く焼成工程を容易にすることができる。
【0039】
上記乾燥は、公知の方法で行うことができ、例えば、ヒーター等の公知の加熱手段で加熱して溶媒を蒸発させるとよい。
乾燥温度は、上記モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液中の溶媒が蒸発する温度であればよく、例えば、水溶液の場合、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることが更に好ましい。また200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。
乾燥時間は、上記溶媒が充分に蒸発するのであれば特に限定されず、例えば、1~50時間であることが好ましく、2~40時間であることがより好ましく、4~20時間であることが更に好ましい。
【0040】
上記担持操作後又は乾燥後の生成物を焼成して、酸化又は熱分解させることにより、酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムが担体に担持した触媒を調製することができる。
【0041】
焼成温度は、特に限定されず、モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩、担体の種類等に応じて適宜選択すればよいが、通常、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。また、上記焼成温度の上限値は、過度な熱負担を触媒に与えないという点で、800℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、600℃以下であることが更に好ましい。
【0042】
焼成時間は、通常、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、3時間以上であることが更に好ましく、また、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることが更に好ましい。
【0043】
上記触媒は、上述した方法により調製することができるが、なかでも、上記触媒の調製方法としては、モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液を担体に少量ずつ含浸させて、乾燥させた後、焼成する方法が好ましい。
【0044】
酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを含む触媒へのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属から選ばれる1種以上の元素の添加は、酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを含む触媒を調製後、水溶性のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を溶解した水溶液を用いて通常の含浸法により行うことができる。酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを含む触媒に、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を添加後、乾燥、焼成を行い目的とする触媒とすることができる。
【0045】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の添加は、上記のように酸化モリブデン及び/又は酸化バナジウムを含む触媒に対して行っても良いが、モリブデン酸塩及び/又はバナジン酸塩の溶液を担体に含浸させる段階で同時に含浸させ、その後、乾燥、焼成を行ってもよい。
【0046】
上記水溶性のアルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物等を挙げることができる。また、上記水溶性のアルカリ土類金属塩としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの硝酸塩、酢酸塩、水酸化物等を挙げることができる。
【0047】
上記触媒の調製方法では、上述した工程以外に、触媒の調製方法において通常行われる他の工程を行ってもよい。
【0048】
3.プロピレンの製造方法
本発明のプロピレンの製造方法では、上述した触媒の存在下で、プロパンジオールからプロピレンを生成する反応工程を含む。
本発明の製造方法では、出発原料として、プロパンジオールを使用する。
上記プロパンジオールとしては、特に限定されないが、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールが好ましく挙げられる。
上記プロパンジオールは、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0049】
上記反応工程において使用する反応器は、特に制限されず、固定床、移動床、流動床等のどのような形式であってもよいが、固定床流通式であることが好ましい。
【0050】
上記反応工程では、予め触媒を反応器内に充填し、反応器内に不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)を流通させて前処理を行った後、反応器内に上記プロパンジオールを供給して反応させることが好ましい。
上記前処理の温度は、特に限定されず、反応温度と同程度の温度に設定すればよいが、例えば、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましい。また、過度な熱負荷を触媒に与えないという点で、上記前処理の温度は、800℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、600℃以下であることが更に好ましい。
【0051】
上記前処理の時間は、特に限定されないが、通常、0.5~10時間が好ましく、1~8時間がより好ましく、2~5時間が更に好ましい。
【0052】
上記反応工程の反応温度は、充分な触媒活性が得られる点で、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましく、500℃以下であることが好ましく、450℃以下であることがより好ましく、400℃以下であることが更に好ましい。
【0053】
上記反応工程の反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれであっても実施できるが、通常は常圧からやや加圧の雰囲気で行うことが好ましい。
【0054】
上記反応工程において、プロパンジオール質量供給速度の触媒充填質量に対する比で表される液空間速度は、充分な触媒性能が得られる点で、0.4~40h-1であることが好ましい。上記液空間速度は、0.8h-1以上であることがより好ましく、1h-1以上であることが更に好ましく、また30h-1以下であることがより好ましく、20h-1以下であることが更に好ましい。
上記液空間速度は、プロパンジオール質量供給速度(g/h)を、触媒充填量(g)で除する方法により求めることができる。
上記プロパンジオール質量供給速度(g/h)は、供給前のプロパンジオール質量をW0(g)、供給終了時のプロパンジオール質量をW1(g)、供給時間をt(h)とすると、(W0-W1)/t(g/h)により求めることができる。
【0055】
上記反応工程は、不活性ガス流通下で行ってもよい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス(N)、アルゴンガス、ヘリウムガス、又はそれらの混合ガス等の反応に供しない不活性であるガスが挙げられる。
不活性ガス流通下で反応を行う場合、触媒に供給されるプロパンジオールと上記不活性ガス(希釈ガス)に占めるプロパンジオールのモル分率が0.05~0.9となるように上記不活性ガスを供給することが好ましい。上記モル分率は0.1~0.8であることがより好ましい。
【0056】
上記反応工程は、不活性ガスの他に水蒸気を共存させて実施することもできる。水蒸気共存により、活性劣化が抑制され、また、プロピレン選択率が向上する傾向があるため好ましい。水蒸気共存下で反応を行う場合、反応ガス中における水蒸気のモル分率は、0.5~20モル%となるように水蒸気を供給することが好ましい。上記モル分率は、1~10モル%であることが良い好ましい。
【0057】
上記反応工程は、水素供与体の存在下で行ってもよい。上記水素供与体とは、他の物質に水素を与え、それ自身は脱水素される物質である。本発明の製造方法では、プロピレングリコール自身から水素を供給して反応が進むが、水素供与体が存在すると原料であるプロパンジオールが水素供与体として消費される量が減少するため、プロピレンの収率を向上させることができる。
【0058】
上記水素供与体としては、例えば、アルコール化合物、アルデヒド化合物等が挙げられる。なかでも安価で取り扱いが容易である点で、アルコール化合物、アルデヒド化合物が好ましく、アルコール化合物がより好ましい。
【0059】
上記アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、等の炭素数1~4の一価のアルコールや、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~3の多価アルコール等が挙げられる。
【0060】
上記アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0061】
上記水素供与体の使用量は、プロピレングリコール100モル%に対して、100モル%以上であることが好ましく、120モル%以上であることがより好ましく、140モル%以上であることが更に好ましく、また、240モル%以下であることが好ましく、220モル%以下であることがより好ましく、200モル%以下であることが更に好ましい。
【0062】
本発明のプロピレンの製造方法は、上記反応工程以外に、濃縮工程、精製工程等、プロピレンの製造方法において通常行われる公知の工程を行ってもよい。
【実施例0063】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
(触媒調製例1)Mo/SiO=1/99(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.058gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.95gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物を溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒1の組成は、Mo/SiO=1/99(モル%)であった(2.3質量%、MoO)。
【0065】
(触媒調製例2)Mo/SiO=2/98(モル%)
触媒調製例1において、モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.058gを0.114gに、担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.95gを1.91gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒2を得た。得られた触媒2の組成は、Mo/SiO=2/98(モル%)であった(4.7質量%、MoO)。
【0066】
(触媒調製例3)Mo/SiO=3/97(モル%)
触媒調製例1において、モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.058gを0.169gに、担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.95gを1.86gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒3を得た。得られた触媒3の組成は、Mo/SiO=3/97(モル%)であった(6.9質量%、MoO)。
【0067】
(触媒調製例4)Mo/SiO=4/96(モル%)
触媒調製例1において、モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.058gを0.223gに、担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.95gを1.82gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒4を得た。得られた触媒4の組成は、Mo/SiO=4/96(モル%)であった(9.1質量%、MoO)。
【0068】
(触媒調製例5)Mo/SiO=6/94(モル%)
触媒調製例1において、モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.058gを0.265gに、担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.95gを1.73gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒5を得た。得られた触媒5の組成は、Mo/SiO=6/94(モル%)であった(13.3質量%、MoO)。
【0069】
(触媒調製例6)V/SiO=3/97(モル%)
バナジン酸アンモニウム(NHVO、ナカライテスク社製)0.115gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.91gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらバナジン酸アンモニウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒6の組成は、V/SiO=3/97(モル%)であった(4.5質量%、V)。
【0070】
(触媒調製例7)W/SiO=3/97(モル%)
メタタングステン酸アンモニウム・水和物 ((NH1240・HO、ナカライテスク社製)0.228gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.79gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらメタタングステン酸アンモニウム・水和物を溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒7の組成は、W/SiO=3/97(モル%)であった(10.7質量%、WO)。
【0071】
(触媒調製例8)Re/SiO=3/97(モル%)
過レニウム酸アンモニウム(NHReO、ナカライテスク社製)0.246gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.78gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながら過レニウム酸アンモニウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒8の組成は、Re/SiO=3/97(モル%)であった(10.8質量%、ReO)。
【0072】
(触媒調製例9)Li/Mo/SiO=1/3/96(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸リチウム(LiNO、ナカライテスク社製)0.022gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.85gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸リチウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒9の組成は、Li/Mo/SiO=1/3/96(モル%)であった(0.24質量%LiO、6.9質量%MoO)。
【0073】
(触媒調製例10)Na/Mo/SiO=1/3/96(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸ナトリウム(NaNO、ナカライテスク社製)0.027gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.85gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸ナトリウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒10の組成は、Na/Mo/SiO=1/3/96(モル%)であった(0.5質量%NaO、6.9質量%MoO)。
【0074】
(触媒調製例11)K/Mo/SiO=1/3/96(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸カリウム(KNO、ナカライテスク社製)0.032gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.85gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸カリウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒11の組成は、K/Mo/SiO=1/3/96(モル%)であった(0.75質量%KO、6.9質量%MoO)。
【0075】
(触媒調製例12)Cs/Mo/SiO=1/3/96(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸セシウム(CsNO、ナカライテスク社製)0.062gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.84gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒12の組成は、Cs/Mo/SiO=1/3/96(モル%)であった(1.4質量%CsO、6.9質量%MoO)。
【0076】
(触媒調製例13)La/Mo/SiO=1/3/96(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸ランタン・六水和物(La(NO・4HO、ナカライテスク社製)0.045gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.81gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸ランタン・六水和物を溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒13の組成は、La/Mo/SiO=1/3/96(モル%)であった(2.6質量%La、6.8質量%MoO)。
【0077】
(触媒調製例14)Cs/Mo/SiO=0.1/3/96.9(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸セシウム(CsNO、ナカライテスク社製)0.0062gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.86gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒14の組成は、Cs/Mo/SiO=0.1/3/96.9(モル%)であった(0.14質量%CsO、6.9質量%MoO)。
【0078】
(触媒調製例15)Cs/Mo/SiO=0.3/3/96.7(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸セシウム(CsNO、ナカライテスク社製)0.019gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.85gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒15の組成は、Cs/Mo/SiO=0.3/3/96.7(モル%)であった(0.41質量%CsO、6.9質量%MoO)。
【0079】
(触媒調製例16)Cs/Mo/SiO=0.5/3/96.5(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸セシウム(CsNO、ナカライテスク社製)0.031gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.85gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒16の組成は、Cs/Mo/SiO=0.5/3/96.5(モル%)であった(0.69質量%CsO、6.9質量%MoO)。
【0080】
(触媒調製例17)Cs/Mo/SiO=0.7/3/96.3(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸セシウム(CsNO、ナカライテスク社製)0.043gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.85gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒17の組成は、Cs/Mo/SiO=0.7/3/96.3(モル%)であった(0.96質量%CsO、6.9質量%MoO)。
【0081】
(触媒調製例18)Cs/Mo/SiO=2/3/95(モル%)
モリブデン酸アンモニウム・四水和物((NHMo24・4HO、ナカライテスク社製)0.17gと硝酸セシウム(CsNO、ナカライテスク社製)0.123gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.81gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらモリブデン酸アンモニウム・四水和物と硝酸セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒18の組成は、Cs/Mo/SiO=2/3/95(モル%)であった(2.72質量%CsO、6.8質量%MoO)。
【0082】
<触媒成分の影響>
(実施例1)
触媒1(0.5g)をガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素(N)30cm/分流通下(標準状態:0℃、1気圧での流量)、300℃で1時間前処理を行った。次いで、反応温度に設定後、1,2-プロパンジオールを2.0g/時間で供給してプロピレンの製造反応を開始した。
反応器出口ガスは氷水浴に配置されたトラップに導入し、ここで未反応原料、生成物を捕集した。トラップで捕集された液体成分はGC-FIDにより定量分析を行った。トラップで捕集されない気体生成物についてはGC-TCDに導入して分析した。これらの分析結果から、下記式により転化率と各反応生成物の選択率を算出した。
反応は5時間継続し、1時間毎に反応成績を計測した。325℃での反応結果を表1に示す。なお、表1の結果は、1~5時間の計測値の平均値である。
【0083】
(GC-FIDの測定条件)
装置:島津製作所 GC-14B
カラム:InertCap WAT(30m)
カラムオーブン温度:40-240℃ 昇温10℃/分
キャリアガス:水素
ガス流量:20mL/分
【0084】
(GC-TCDの測定条件)
装置:島津製作所 GC-8A
カラム:VZ-7(6m)
カラムオーブン温度:40℃
キャリアガス:水素
ガス流量:20mL/分
【0085】
転化率(%)=100-(出口1,2-プロパンジオールモル流速/入口1,2-プロパンジオールモル流速)
選択率(%)=100×[(生成物モル流速×生成物の炭素数)/(転化した1,2-プロパンジオールモル流速×3)]
【0086】
(実施例2)
実施例1での触媒1を触媒2に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0087】
(実施例3)
実施例1での触媒1を触媒3に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0088】
(実施例4)
実施例1での触媒1を触媒4に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0089】
(実施例5)
実施例1での触媒1を触媒5に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0090】
(実施例6)
実施例1での触媒1を触媒6に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0091】
(比較例1)
実施例1での触媒1を触媒7とし、反応温度を325℃から300℃に変更した以外は実施例1と同様にして、1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0092】
(比較例2)
実施例1での触媒1を触媒8に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0093】
【表1】
【0094】
表中の記載は下記のとおりである。
PP:プロピレン
PAL:プロピオンアルデヒド
AcH:アセトアルデヒド
HA:ヒドロキシアセトン
Diox:ジオキソラン
AA:アリルアルコール
ACT:アセトン
Oths:不明物
【0095】
表1より、プロパンジオールからプロピレンを生成する反応工程において、酸化モリブデン又は酸化バナジウムを含む触媒を使用すると、転化率、プロピレン選択率が共に高く、高収率でプロピレンが得られることが分かる。
【0096】
<反応温度の影響>
(実施例7)
実施例3での反応温度325℃を300℃に変更した以外は実施例3と同様にして、1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表2に示した。
【0097】
(実施例8)
実施例3での反応温度325℃を350℃に変更した以外は実施例3と同様にして、1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表2に示した。
【0098】
(実施例9)
実施例3での反応温度325℃を400℃に変更した以外は実施例3と同様にして、1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表2に示した。
【0099】
(実施例10)
実施例6での反応温度325℃を300℃に変更した以外は実施例6と同様にして、1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表2に示した。
【0100】
(実施例11)
実施例6での反応温度325℃を350℃に変更した以外は実施例6と同様にして、1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表2に示した。
【0101】
【表2】
【0102】
比較のため、実施例3及び6の結果も表2に示す。表2より、酸化モリブデンを含有する触媒3では300、325、350℃では良好な反応成績が得られたが、400℃とすると劣化により350℃反応時より転化率が低下した。325~350℃が反応に適した温度域であると考えられる。酸化バナジウムを含有する触媒6では325℃でプロピレン選択率が高くなっており、触媒6では325℃付近が反応に適した温度域であると考えられる。
【0103】
<アルカリ成分の添加>
(実施例12)
実施例1での触媒1を触媒9に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表3に示した。
【0104】
(実施例13)
実施例1での触媒1を触媒10に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表3に示した。
【0105】
(実施例14)
実施例1での触媒1を触媒11に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表3に示した。
【0106】
(実施例15)
実施例1での触媒1を触媒12に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表3に示した。
【0107】
(実施例16)
実施例1での触媒1を触媒13に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表3に示した。
【0108】
【表3】
【0109】
比較のため、アルカリ成分を含まない触媒3の転化率と選択率も表3に示す。表3より、酸化モリブデンを含有する触媒に対してアルカリ金属を1モル%添加すると、活性は幾分低下したが、プロピレン選択率が向上することが分かった。アルカリ金属の中でセシウムが最も効果的であった。アルカリ金属を含む触媒は、転化率が幾分低下しても触媒量を増量することで、プロピレン選択率を維持したまま転化率低下を補うことができる。従って、アルカリ金属を含む触媒を用いる方が、触媒使用量が幾分増加するものの、プロピレンを多く得ることができると考えられる。
一方、塩基性化合物である酸化ランタンをランタンとして1モル%添加してもアルカリ金属のようなプロピレン選択率向上効果は認められなかった。
【0110】
<セシウム添加量の影響>
(実施例17)
実施例1での触媒1を触媒14に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表4に示した。
【0111】
(実施例18)
実施例1での触媒1を触媒15に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表4に示した。
【0112】
(実施例19)
実施例1での触媒1を触媒16に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表4に示した。
【0113】
(実施例20)
実施例1での触媒1を触媒17に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表4に示した。
【0114】
(実施例21)
実施例1での触媒1を触媒18に変更した以外は実施例1と同様にして、325℃で1、2-プロパンジオールからのプロピレンの製造反応を実施した。得られた結果を表4に示した。
【0115】
【表4】
【0116】
比較のため、セシウムを含まない触媒3の転化率及び選択率も表4に示す。表4より酸化モリブデンを含有する触媒に対するセシウム添加量を0.1モル%から2モル%まで増加すると活性は幾分低下したが、プロピレン選択率が向上する傾向が確認された。必要以上にアルカリ金属を添加するとプロピレン選択率は向上するものの、活性が低下してプロピレン収率が低下するため、セシウム添加量としては、触媒総量100モル%に対して0.1~2モル%の範囲であることが好ましいと判断される。
【0117】
<水蒸気共存の効果>
(実施例22)
触媒3(0.5g)をガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素(N)29.6cm/分流通下(標準状態:0℃、1気圧での流量)、300℃で1時間前処理を行った。次いで、反応温度に設定後、99.05質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.02g/時間で供給してプロピレンの製造反応を行った。この時の入口反応ガス組成は、1,2-プロパンジオール/HO/N=24.65/1/74.35(モル%)であった。反応は5時間継続し、1時間毎に反応成績を実施例1と同様に計測した。325℃での反応結果を表5に示す。なお、表5の結果は、1~5時間の計測値の平均値である。
【0118】
(実施例23)
実施例22での窒素(N)流通量29.6cm/分を29.2cm/分に変更し、99.05質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.02g/時間で供給する代わりに98.11質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.04g/時間で供給して実施例22と同様にしてプロピレンの製造反応を行った。この時の入口反応ガス組成は、1,2-プロパンジオール/HO/N=24.65/2/73.35(モル%)であった。325℃での反応結果を表5に示す。
【0119】
(実施例24)
実施例22での窒素(N)流通量29.6cm/分を28.8cm/分に変更し、99.05質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.02g/時間で供給する代わりに97.20質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.06g/時間で供給して実施例22と同様にしてプロピレンの製造反応を行った。この時の入口反応ガス組成は、1,2-プロパンジオール/HO/N=24.65/3/72.35(モル%)であった。325℃での反応結果を表5に示す。
【0120】
(実施例25)
実施例22での窒素(N)流通量29.6cm/分を28.0cm/分に変更し、99.05質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.02g/時間で供給する代わりに95.42質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.10g/時間で供給して実施例22と同様にしてプロピレンの製造反応を行った。この時の入口反応ガス組成は、1,2-プロパンジオール/HO/N=24.65/5/70.35(モル%)であった。325℃での反応結果を表5に示す。
【0121】
(実施例26)
実施例22での窒素(N)流通量29.6cm/分を26.0cm/分に変更し、99.05質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.02g/時間で供給する代わりに91.24質量%の1,2-プロパンジオール水溶液を2.19g/時間で供給して実施例22と同様にしてプロピレンの製造反応を行った。この時の入口反応ガス組成は、1,2-プロパンジオール/HO/N=24.65/10/65.35(モル%)であった。325℃での反応結果を表5に示す。
【0122】
【表5】
【0123】
表5より、反応ガスへのHOを共存させることにより、経時的な転化率低下が抑制され反応時間1~5時間における平均転化率が高く維持され、更に、プロピレン選択率も幾分増加する傾向が確認された。