(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001340
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】チアネプチンシュウ酸塩および多形
(51)【国際特許分類】
C07D 281/02 20060101AFI20221222BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221222BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20221222BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20221222BHJP
A61K 31/554 20060101ALI20221222BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20221222BHJP
A61K 31/573 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
C07D281/02 CSP
A61P25/28
A61P25/22
A61P25/20
A61K31/554
A61P43/00 121
A61K31/573
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022180549
(22)【出願日】2022-11-10
(62)【分割の表示】P 2019535330の分割
【原出願日】2017-12-28
(31)【優先権主張番号】62/439,533
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517094415
【氏名又は名称】トニックス ファーマ ホールディングス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ ルカ ジャフレーダ
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ モデナ
(72)【発明者】
【氏名】セレーナ ファブローニ
(72)【発明者】
【氏名】ミケーレ キアルッチ
(72)【発明者】
【氏名】マーク ティー. エドガー
(57)【要約】
【課題】 疾患を処置する方法を提供すること
【解決手段】 式(I)
に示す、(RS)-7-(3-クロロ-6-メチル-6,11-ジヒドロジベンゾ[c,f][1,2]チアゼピン-11-イルアミノ)へプタン酸S,S-ジオキシド(チアネプチン)のシュウ酸塩/共結晶(チアネプチンシュウ酸塩)が明細書において開示される。一態様では、本開示はまた、コルチコステロイド誘発性の心理学的副作用の処置のための第1世代の治療法として開発されるべき、チアネプチンシュウ酸塩の製剤を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、チアネプチンシュウ酸塩の多形形態を含むチアネプチンの塩/共結晶の分野にあり、塩および多形形態を作製する方法ならびにそれらを含む医薬組成物も記載されている。
【0002】
関連出願
本出願は、その内容および開示の全体が参照により本明細書に組み込まれている、2016年12月28日出願の、米国仮特許出願第62/439,533号の利益および同出願からの優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
チアネプチン、すなわち7-[(3-クロロ-6-メチル-5,5-ジオキソ-11H-ベンゾ[c][2,1]ベンゾチアゼピン-11-イル)アミノ]へプタン酸は、認知回復効果を有する抗うつ剤である。研究者は、チアネプチンが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を処置するために使用できることを報告している(Onder E.ら(2005年)、European Psychiatry 21巻:174~179頁)。
【0004】
チアネプチンは、古典的な三環系抗うつ剤に類似した構造を共有しているが、その薬理学的挙動は特有である。より一般には市販名Stablon(登録商標)、Coaxil、Tatinol、TianeuraxおよびSalymbraにより公知であるチアネプチンは、うつ病の治療のために、欧州、アジアおよびラテンアメリカで現在、入手可能である。チアネプチンは、グルタミン酸作動系をモジュレートし、ストレスおよびステロイドの使用期間の間に観察される、阻害性神経可塑性を反転させる。グルタミン酸作動系をモジュレートする際に、チアネプチンは、海馬、扁桃および前頭前皮質中のグルタミン酸レベルを正常化する。ゲノムおよび非ゲノム機構によって、グルタミン酸のモジュレートは、可塑性を回復し、長期増強の阻害を軽減し、コルチコステロイドへの慢性曝露により誘発される構造的変化を反転させる。
【0005】
チアネプチンの抗不安特性、および神経内分泌ストレス応答をモジュレートする報告されているその能力は、チアネプチンが、PTSDの処置に使用することができることを示唆する。実際に、いくつかの検討により、チアネプチンは、その状態の特徴的な症状の多くを改善することが報告されているので、PTSDを有する患者に対して有効な治療法となることが示されている(Crocq LおよびGoujon C: The Anxio-Depressive component of the psychotraumatic syndrome and its treatment by tianeptine. Psychol Med、1994年;26巻(2号):192~214頁;Rumyantseva GMおよびStepanov AL: Post-traumatic stress disorder in different types of stress (clinical features and treatment). Neurosci Behav Physiol、2008年;38巻:55~61頁;およびFranciskovic, Tanjaら、「Tianeptine in the combined treatment of combat related posttraumatic stress disorder.」Psychiatria Danubina 23巻(3号)(2011年):257~263頁)。
【0006】
ステロイド曝露により引き起こされるその構造的変化および長期増強(LTP)の阻害を反転させるチアネプチンの能力を含むその神経保護作用に加え、チアネプチンは、コルチコステロイドにより処置された患者における神経認知機能異常および類似の副作用を処置するのに潜在的に有用であることが報告されている。チアネプチンが認知機能を回復する能力は、一部の動物モデルでもやはり観察されている。
【0007】
コルチコステロイドは、その抗炎症特性のため、喘息、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、炎症性腸疾患、腎炎症候群、がん、臓器移植、自己免疫性肝炎、過敏性反応、心原性ショックおよび敗血症性ショック、グルココルチコイド欠損症(アディソン病および汎下垂体機能低下症)および多発性硬化症を含む、多数の疾患および状態の処置に使用される。身体がストレスを受けると、副腎は、コルチゾールなどのコルチコステロイドを放出する。合成コルチコステロイドは、副腎によって天然に産生されるステロイドホルモンを疑似することにより働く。これらのホルモンは、身体の循環系に放出されると、炎症および身体の免疫応答を調節する一助となる。一般的な合成コルチコステロイドには、プレドニゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾンおよびメチルプレドニゾンが含まれる。合成コルチコステロイドで身体の正常なホルモンレベルを補うと、炎症を低減するゲノムカスケードを誘発して、免疫応答を抑制する。このゲノムカスケードは、細胞内グルココルチコイド受容体(GR)に、ステロイドを結合させることにより開始する(Datson,
NAら、Identification of corticosteroid-responsive genes in rat hippocampus using serial analysis of gene expression. European Journal of Neuroscience. 2001年;14巻(4号):675~689頁)。
【0008】
合成コルチコステロイドの幅広い使用および治療的利益があるにも関わらず、これは、多数の悪影響を及ぼす心理学的、代謝的および身体的副作用を引き起こすことが多い(Warrington TP、Bostwick JM. Psychiatric adverse effects of corticosteroids. Mayo Clinic Proceedings. 2006年;81巻(10号))。このような身体的副作用の例を表1に示す。心理学的副作用には、気分および不安障害、行動障害、認知障害および精神障害が含まれる。
【表1】
【0009】
認知障害、不安症および気分障害は、コルチコステロイドの使用の最も一般的な心理学的副作用である。とりわけ、長期ステロイド処置を必要とする患者の場合、これらの作用は、クオリティオブライフを低下させる。例えば、コルチコステロイドを服用している個体の33%(約1300万人)は、作業記憶および短期記憶、宣言的記憶、集中力持続時間および集中力(知的能力および作業能力)、ならびに実行機能の欠損を示すことが報告されている(Stoudemire A、Anfinson T、Edwards J.
Corticosteroid-induced delirium and dependency. Gen Hosp Psychiatry. 1984年;141巻:369~372頁)。極端な場合、ステロイドは、せん妄および認知症(持続的記憶障害)および躁病さえ誘発し得る(Varney NR、Alexander B、MacIndoe JH. Reversible steroid dementia in
patients without steroid psychosis. Am J Psychiatry. 1984年;141巻:369~372頁)。
現在、コルチコステロイドの使用に関連する、不安症および気分障害などの認知障害および類似の神経病理学的障害の処置のために指定されている、FDA承認薬はない。三環系抗うつ剤は、ステロイドによって引き起こされた精神病理学的副作用をモジュレートする有用な治療剤となることは明白ではなく、実際にはこれらの症状を悪化させることがある(Lewis DA、Smith RE. Steroid-induced Psy
chiatric Syndromes: A Report of 14 Cases
and a review of the Literature. Journal
of Affective Disorders. 1983年;5巻:319~332頁)。さらに、炎症性障害を処置するためのコルチコステロイドの代替物は存在せず、すなわち、コルチコステロイドを使用しなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Onder E.ら(2005年)、European Psychiatry 21巻:174~179頁
【非特許文献2】Crocq LおよびGoujon C: The Anxio-Depressive component of the psychotraumatic syndrome and its treatment by tianeptine. Psychol Med、1994年;26巻(2号):192~214頁
【非特許文献3】Rumyantseva GMおよびStepanov AL: Post-traumatic stress disorder in different types of stress (clinical features and treatment). Neurosci Behav Physiol、2008年;38巻:55~61頁
【非特許文献4】Franciskovic, Tanjaら、「Tianeptine in the combined treatment of combat related posttraumatic stress disorder.」Psychiatria Danubina 23巻(3号)(2011年):257~263頁
【非特許文献5】Datson, NAら、Identification of corticosteroid-responsive genes in rat hippocampus using serial analysis of gene expression. European Journal of Neuroscience. 2001年;14巻(4号):675~689頁
【非特許文献6】Warrington TP、Bostwick JM. Psychiatric adverse effects of corticosteroids. Mayo Clinic Proceedings. 2006年;81巻(10号)
【非特許文献7】Stoudemire A、Anfinson T、Edwards J. Corticosteroid-induced delirium and dependency. Gen Hosp Psychiatry. 1984年;141巻:369~372頁
【非特許文献8】Varney NR、Alexander B、MacIndoe JH. Reversible steroid dementia in patients without steroid psychosis. Am J Psychiatry. 1984年;141巻:369~372頁
【非特許文献9】Lewis DA、Smith RE. Steroid-induced Psychiatric Syndromes: A Report of 14 Cases and a review of the Literature. Journal of Affective Disorders. 1983年;5巻:319~332頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、本明細書において、コルチコステロイド処置により誘発される、神経認知機
能異常および関連する精神病理学的障害の処置において使用するための、チアネプチンの一層安定な化学製剤、結晶性塩およびその多形に関する。これらの障害には、PTSDおよび急性ストレス障害を含む外傷およびストレス要因関連障害、大うつ障害、持続性抑うつ障害、双極性障害および月経前不快気分障害を含む抑うつ障害、アルツハイマー病および多発脳梗塞性認知症などの神経変性疾患、ならびに注意欠陥多動性障害を含む神経発達障害が含まれる。本開示はまた、喘息および慢性閉塞性肺疾患の処置において使用することができる。
【0012】
発明の要旨
一部の態様では、本開示は、本明細書において、結晶形態および多形形態を含む、式Iに示す(RS)-7-(3-クロロ-6-メチル-6,11-ジヒドロジベンゾ[c,f][1,2]チアゼピン-11-イルアミノ)へプタン酸S,S-ジオキシド(チアネプチン)のシュウ酸塩/共結晶(チアネプチンシュウ酸塩)を含む。
【化1】
【0013】
チアネプチンヘミシュウ酸塩は、式(II)として示される。
【化2】
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A、チアネプチン遊離塩基およびシュウ酸の重ね合わせたXRPDパターン。
【0015】
【
図2】チアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのXRPDパターン。
【0016】
【
図3】チアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのDSCプロファイル。
【0017】
【
図4】チアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのTGAプロファイル。
【0018】
【
図5】チアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのFTIRスペクトル。
【0019】
【
図6】チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの1H NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【0020】
【
図7】チアネプチンヘミシュウ酸塩(ジアニオン)の、楕円形を用いた非対称単位のOrtep図。
【0021】
【
図8】シュウ塩(中央)と4分子のチアネプチンとの間の水素結合。
【0022】
【
図9】チアネプチン遊離塩基、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aおよびチアネプチンヘミシュウ酸塩形態A+チアネプチン一シュウ酸塩形態Aの間のXRPD比較。
【0023】
【
図10】チアネプチン一シュウ酸塩形態AのXRPDパターン。
【0024】
【
図11】チアネプチン一シュウ酸塩形態Aに関するFT-IRスペクトル。
【0025】
【
図12】チアネプチン一シュウ酸塩形態AのDSCプロファイル。
【0026】
【
図13】チアネプチン一シュウ酸塩形態AのTGAプロファイル。
【0027】
【
図14】チアネプチン一シュウ酸塩形態BのXRPDパターン。
【0028】
【
図15】チアネプチン一シュウ酸塩形態BのFT-IRスペクトル。
【0029】
【
図16】チアネプチン一シュウ酸塩形態BのDSCプロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施形態の詳細な説明
本開示は、チアネプチンシュウ酸塩、より詳細にはチアネプチンヘミシュウ酸塩および/またはチアネプチン一シュウ酸塩の塩/共結晶形態に関する。チアネプチンの塩/共結晶の特性は、チアネプチン遊離塩基またはチアネプチンナトリウム(現在の、チアネプチンの入手可能な形態)などのチアネプチンの1つまたは複数の公知の形態に比べて改善されている。塩/共結晶は、以下に限定されないが、水和物および溶媒和物を含むがこれら限定されないいくつかの形態、ならびにチアネプチンのシュウ酸に対する様々な化学量論比をとることができる。本開示はまた、以下に限定されないが、多形およびアモルファス形態を含む、チアネプチンシュウ酸塩の他の形態を含む。本開示はまた、チアネプチンシュウ酸塩の塩/共結晶を含む医薬組成物、それらの塩/共結晶を作製する方法、および関連する処置方法を提供する。
【0031】
本開示の一実施形態は、シュウ酸塩/共結晶(チアネプチンシュウ酸塩)である。
【0032】
一部の実施形態では、チアネプチンシュウ酸塩は結晶性である。
【0033】
一部の実施形態では、塩/共結晶は、結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A、チア
ネプチン一シュウ酸塩形態A、チアネプチン一シュウ酸塩形態Bまたはそれらの混合物である。
【0034】
一部の実施形態では、塩/共結晶は、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A、チアネプチン一シュウ酸塩形態A、チアネプチン一シュウ酸塩形態B、またはそれらの組合せである。
【0035】
チアネプチンシュウ酸塩の塩/共結晶、および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物。
【0036】
一部の実施形態では、医薬組成物の塩/共結晶は、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A、一シュウ酸塩形態Aまたはそれらの組合せである。
【0037】
一部の実施形態では、医薬組成物の塩/共結晶は、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aである。
【0038】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aは、約8.2、8.6、9.1および9.5度2θに少なくとも1つのピークを含むX線回折パターン(XRPD)を示す。
【0039】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aは、約8.2、8.6、9.1および9.5度2θに、関連する許容値が0.3度2θで、少なくとも1つのピークを含むXRPDパターンを示す。
【0040】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aは、約4.5、8.2、8.6、9.1、9.5、11.5、14.2、15.2、15.8、16.4、19.2、22.1、23.9、26.9および27.4度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークをさらに含むXRPDパターンを示す。
【0041】
一部の実施形態では、無水チアネプチンヘミシュウ酸塩結晶形態Aは、
図2と実質的に同じXRPDパターンを示す。
【0042】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aは、a)
図2に示すピークのうちの少なくとも4つを示すXRPDパターン、b)
図5と実質的に同じFT-IRスペクトル、およびc)
図6と実質的に同じNMRスペクトルのうちの少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0043】
一部の実施形態では、結晶形態は、チアネプチン一シュウ酸塩形態Aである。
【0044】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Aは、約10.2および10.5度2θに少なくとも1つのピークを含むX線回折パターン(XRPD)を示す。
【0045】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Aは、約10.2および10.5度2θに、関連する許容値が0.3度2θで、少なくとも1つのピークを含むX線回折パターン(XRPD)を示す。
【0046】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Aは、約7.5、8.3、10.2、10.5、11.9、14.7、16.2、16.3、17.9、18.7、21.0、21.7および22.1度2θからなる群から選択される少なくとも1つ
のピークをさらに含むXRPDパターンを示す。
【0047】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Aは、
図10と実質的に同じXRPDパターンを示す。
【0048】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Aは、a)
図10に示すピークのうちの少なくとも4つを示すXRPDパターン、およびb)
図11と実質的に同じFT-IRスペクトルのうちの少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0049】
一部の実施形態では、結晶形態は、チアネプチン一シュウ酸塩形態Bである。
【0050】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Bは、約10.4および10.8度2θに少なくとも1つのピークを含むX線回折パターン(XRPD)を示す。
【0051】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Bは、約10.4および10.8度2θに、関連する許容値が0.3度2θで、少なくとも1つのピークを含むX線回折パターン(XRPD)を示す。
【0052】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Bは、約7.4、7.8、10.4、10.8、13.7、14.8、15.6、16、17.5、19.9、21.0、20.2、20.4、20.9、21.3、21.6および21.9度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークをさらに含むXRPDパターンを示す。
【0053】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Bは、
図14と実質的に同じXRPDパターンを示す。
【0054】
一部の実施形態では、無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態Bは、a)
図14に示すピークのうちの少なくとも4つを示すXRPDパターン、およびb)
図15と実質的に同じFT-IRスペクトルのうちの少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0055】
一部の実施形態では、本医薬組成物は、固体形態、液状形態、懸濁液形態、持続放出形態、遅延放出形態または徐放形態にある。
【0056】
一部の実施形態では、無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態は、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aおよびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの混合物を含む。
【0057】
一部の実施形態では、無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態は、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aおよびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの混合物を含み、無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態は、約10.2および10.5度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークを含むXRPDパターンを示す。
【0058】
一部の実施形態では、無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態は、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aおよびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの混合物を含み、無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態は、約10.2および10.5度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークを含むXRPDパターンを、関連する許容値が0.3度2θで示す。
【0059】
一部の実施形態では、無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態は、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aおよびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの混合物を含み、結晶形態が、約7.5、8.3、10.2、10.5、11.9、14.7、16.2、16.3、17.
9、18.7、21.0、21.7および22.1度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークをさらに含むXRPDパターンを示す。
【0060】
一部の実施形態では、無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態は、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aおよびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの混合物を含み、結晶形態は、
図9と実質的に同じXRPDパターンを示す。
【0061】
この開示の様々な実施形態の塩/共結晶形態は、医薬組成物を含め、チアネプチンナトリウムと比べて、安定性、生体利用率の改善、吸湿性がより低いこと、一層一定となるpK、ならびに一層容易な加工および製造を実現する。
【0062】
一態様では、本開示はまた、コルチコステロイド誘発性の心理学的副作用の処置のための第1世代の治療法として開発されるべき、チアネプチンシュウ酸塩の製剤を提供する。
【0063】
本開示の様々な実施形態の塩/共結晶形態におけるチアネプチンシュウ酸塩は、うつ病の治療に現在使用されているチアネプチンの製剤(Stablon(登録商標))よりも高い融点を有しており、結晶安定性がより高く、したがって、錠剤形態での製品性能が改善することを示唆する。そのため、チアネプチンシュウ酸塩は、Stablon(登録商標)と比べて、錠剤形成がより容易であり、有害事象および重大な有害事象がより少ないなど、耐容性が改善されている。
【0064】
本開示の一部の実施形態では、チアネプチンヘミシュウ酸塩(形態A)および/または一シュウ酸塩(形態Aおよび/または形態B)の塩は、医薬組成物に組み込むことができる。一部の実施形態では、本組成物は、以下の形態:持続放出、制御放出、遅延放出または徐放のうちのいずれか1つにある。一部の実施形態では、チアネプチンヘミシュウ酸塩および/または一シュウ酸塩混合物は、ポリマーを含む親水性マトリックス系に組み込むことができる。チアネプチンヘミシュウ酸塩および/または一シュウ酸塩混合物は、ポリマーが水性媒体と接触して膨潤し、系の表面上にゲル層を形成した際に、親水性マトリックスから、溶出、拡散、および/または浸食によって、放出される。
【0065】
別の実施形態では、チアネプチンヘミシュウ酸塩(形態A)ならびに/あるいは一シュウ酸塩(形態Aおよび/または形態B)は、in vivoで1つの層が実質的に放出される前に別の層が実質的に放出されるように、チアネプチンヘミシュウ酸塩および/またはシュウ酸塩からなる2つまたはそれより多い層を含む医薬組成物に組み込むことができる。別の実施形態では、チアネプチンのヘミシュウ酸塩および/またはシュウ酸塩は、ペレットを含む医薬組成物に組み込むことができ、ここで、ペレットは、現在入手可能なチアネプチン(例えば、STABLON(登録商標)、CoaxilまたはTatinol)の放出よりも実質的に長い期間にわたりチアネプチンを放出することができるよう、様々な程度または組成のコーティングを有する。
【0066】
別の実施形態では、チアネプチンのヘミシュウ酸塩(形態A)ならびに/あるいは一シュウ酸塩(形態Aおよび/または形態B)の塩は、経口投与に好適な、浸透圧的に活性な医薬組成物に組み込むことができる。経口投与に好適な、浸透圧的に活性な医薬組成物、浸透圧ポンプ、浸透圧薬物送達および他の浸透圧技法は、以下に限定されないが、OROS(登録商標)プッシュプルおよびOROS(登録商標)三層医薬組成物を含むことができる。別の実施形態では、チアネプチンのチアネプチンヘミシュウ酸塩(形態A)ならびに/あるいはチアネプチン一シュウ酸塩(形態Aおよび/または形態B)の塩は、OROS(登録商標)薬物送達系に組み込むことができる。経口投与に好適な浸透圧的に活性な医薬組成物などのチアネプチンのシュウ酸塩を含む、このような制御放出医薬組成物は、現在販売されている形態のチアネプチンナトリウム塩よりも持続性の長い治療作用をもた
らすことができる。
【0067】
一部の実施形態では、本開示の組成物は、カプセル剤、錠剤、ドラジェ剤、丸剤、ロゼンジ剤、散剤および粒剤などの固形剤形にあることができる。適切な場合、これらの剤形は、腸溶コーティングなどのコーティング剤により調製されてもよく、あるいはそれらは、当分野で周知の方法により、持続放出または延長放出などの、1種または複数種の有効成分の制御放出を実現するよう製剤化されてもよい。ある種の実施形態では、本組成物は、ゆっくりとした放出、制御放出または徐放の形態にある。用語「徐放」は、医薬品科学の分野において広く認識されており、本明細書では、長期間(例えば1時間に等しいかまたはそれより長時間)かけて(最初から最後まで、またはその期間)、環境に剤形から活性化合物または薬剤を制御放出することを指すよう使用される。徐放剤形は、長期間にわたり実質的に一定の速度で薬物を放出するか、または薬物の実質的に一定量が、長期間にわたり、徐々に放出される。本明細書において使用される用語「徐放」には、これらの用語が、医薬品科学において使用されている通り、用語「制御放出」、「延長放出」、「持続放出」または「遅延放出」が含まれる。本組成物はまた、溶液剤、エマルション剤、懸濁液剤、シロップ剤およびエリキシル剤を含む、液状剤形にあってもよい。本組成物は、1日1回の投与のために製剤化され得る。
機器技法
機器技法
【0068】
本発明によって得られた結晶形態の同定は、以下に限定されないが、X線粉末回折(XRPD)、フーリエ変換赤外(FT-IR)スペクトル、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)および核磁気共鳴(NMR)を含む、当分野で公知の方法によって行うことができる。さらに、操作者、機器および他の関連する変化により、塩/共結晶の分析上の物性評価に関して、ある程度の誤差範囲がもたらされ得ることを理解すべきである。
示差走査熱量測定:
【0069】
分析は、DSC Mettler Toledo DSC1を使用して、未処理試料に関して行った。試料は、アルミニウムの蓋で気密密封したアルミニウム製パン中で秤量した。分析は、10K/分で25℃から350℃まで試料を加熱することにより行った。
【表2】
熱重量分析:
【0070】
TG分析は、Mettler Toledo TGA/DSC1を使用して、未処理試料に関して行った。試料は、アルミニウムの穴あき蓋で気密密封したアルミニウム製パン中で秤量した。分析は、10K/分で25℃から450℃まで試料を加熱することにより行った。
【表3】
【表4】
X線粉末回折(XRPD):
【0071】
X線粉末回折パターンは、X’Pert PRO PANalytical X線回折計を使用して得た。
【0072】
X’Pert PRO PANalytical X線回折計に、銅源(Cu/K
α1.5406Å)を装備した。ディフラクトグラムは、1度/秒で360度にわたり回転しながら、反射モードで、40mAで40kVの出力設定で、周囲条件下、制御ソフトウェア(X’Pert Data Collectorバージョン2.2d)を使用して取得した。
【表5】
【表6-1】
【表6-2】
【表7】
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR):
【0073】
Thermo Nicolet iS50(Smart Performer Diamond、DTGS KBr検出器、IR源およびKBrビームスピリッターを装備したATRモジュール分光計)を使用して、未処理試料に対する分析を行った。以下の表8に記載したパラメータを使用して、試料を測定した。
【表8】
核磁気共鳴(NMR):
【0074】
1H NMRスペクトルは、Gemini Varian 400MHz分光計で周囲温度で取得した。NMR分光分析のため、DMSO-d6中、約5~50mg溶液として試料を調製した。各試料について、t1=1秒の遅延で16回のトランジエントを25℃で採集した。
結晶構造データ:
【0075】
結晶データはすべて、室温でMo Kα照射(λ=0.71073Å)およびグラファイトモノクロメータを使用して、Oxford Xcalibur S機器で採集した。構造解明および精密化にSHELX97を使用し、SHELX97はF2に基づいた。非水素原子を異方的に精密化した。炭素原子および窒素原子に結合した水素原子は、計算した位置に加えた。ヒドロキシル水素原子は、フーリエマップを使用して位置を決定し、そしてその位置を精密化した。mercuryプログラムを、単結晶データに基づいて、X線粉末パターンの図および算出に使用した。
定義
【0076】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的のために、特に示さない限り、本明細書および特許請求の範囲に使用される、数量、百分率または比率を表すすべての数、および他の数値は、すべての場合において、用語「約」によって修飾されているものとして理解すべきである。本明細書で使用する場合、用語「約」の意味は、それが使用される文脈に依存する。X線粉末回折(XRPD)パターン上のピークの位置に関して使用する場合、用語「約」は、±0.3度2θの関連する許容値内のピークを含む。例えば、本明細書で使用する場合、「約10.0度2θ」のXRPDピークは、記載したピークが、9.7~10.3度2θに発生することを意味する。固体13C NMRスペクトル上のピークの位置に関して使用する場合、用語「約」は、記載した位置の±0.2ppm以内のピークを含む。例えば、本明細書で使用する場合、「約100.0ppm」の13C NMRスペクトルピークは、記載したピークが99.8~100.2ppmに発生することを意味する。したがって、特に反対の記載がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、得ようとする所望の特性に応じて様々となり得る概数である。
【0077】
本明細書で使用する場合、XRPDパターンに関連する用語「実質的に」は、参照パターンに共通の、少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15のピーク(恐らくは、振幅が異なる)を有するスペクトル、または参照ピーク内の±0.3度2θの許容値を有するパターンを指す。NMRパターンに関すると、「実質的に」とは、参照パターンに共通の、少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15のピーク(恐らくは、振幅が異なる)を有するスペクトル、または参照ピーク内の±0.2ppmの許容値を有するパターンを指す。FT-IRパターンに関すると、「実質的に」とは、参照パターンに共通の、少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15のピーク(恐らくは、振幅が異なる)を有するスペクトル、または参照ピーク内の±0.5cm-1の許容値を有するパターンを指す。
【0078】
本明細書で使用する場合、用語「共結晶」は、室温でその各々が固体である、2つの分子の分子付加物を指す。チアネプチンシュウ酸塩共結晶は、チアネプチンと、およびシュウ酸塩、ヘミシュウ酸塩および一シュウ酸塩のいずれか1つとの分子付加物である。付加物の2つの分子は、両分子間で水素の移動なしに、水素結合を形成する。
【0079】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、1つの指示対象に明示的および明確に限定されない限り、複数の参照物を含む。
【0080】
本明細書で使用する場合、用語「含む(include)」およびその文法上の変化形は、非限定的であることが意図されており、こうして、リスト中の項目の列挙は、列挙した項目に置き換えることができる、または追加することができる他の類似の項目を除外しない。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising)」は、その用語の後に特定されている要素または工程を含むことを意味するが、このような要素または工程のいずれも、包括的ではなく、実施形態は、他の要素または工程を含むことができる。
【0082】
当業者によって理解される通り、任意のすべての目的で、特に、記載されている説明を提示するという点に関して、本明細書において開示されているすべての範囲はまた、任意およびすべての可能な部分範囲および部分範囲の組合せも包含する。列挙されているいずれの範囲も、十分に説明したものとして、および同じ範囲を少なくとも均等の半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分けることができるものとして容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書において議論されている各範囲は、下から3分の1、真ん中の3分の1および上から3分の1などに容易に分けることができる。当業者によってやはり理解される通り、「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」などの言い回しはすべて、記載されている数字を含み、次に上記で議論されているような部分範囲に分けることができる範囲を指す。最後に、当業者によって理解される通り、範囲は、個々のメンバーのそれぞれを含む。
【実施例0083】
(実施例1)
チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A
出発原料(SM)である100~1000mgの(RS)-7-(3-クロロ-6-メチル-6,11-ジヒドロジベンゾ[c,f][1,2]チアゼピン-11-イルアミノ)へプタン酸S,S-ジオキシドおよび20~200mgのシュウ酸(1当量)をアセトン(2~20mL)中で混合し、この溶液をすべてが溶解するまで、40~60℃で加熱した。この濁りのない溶液を室温で冷却し、12~24時間、撹拌した。白色沈殿物を真空下で回収し、アセトンで洗浄して、40~60℃で12~24時間、乾燥した。
【表9】
DSC/TGA
【0084】
図3に例示されているチアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのDSCプロファイルは、試料の分解の直前に起こる吸熱事象によって特徴付けられた。205℃(開始は204.43℃)のピークは、試料の融解によるものであり、幅広いショルダーは、分解に関連するものであった。
【0085】
図4に例示されている、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのTGAプロファイルは、無水化合物に典型的である。試料の分解は、8.13%w/wとなる第1の重量減少によ
って特徴付けられ、0.5当量のシュウ酸に相当した。チアネプチン:シュウ酸との間に1:0.5の化学量論が示唆された。シュウ酸塩は、200℃を超える非常に高い融点を示し、このときに、融解と分解が同時に発生した。
XRPD
【0086】
図1および2は、チアネプチンヘミシュウ酸塩のXRPDパターンを例示する。
【表10-1】
【表10-2】
【0087】
チアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのFT-IRスペクトルおよびピークは、
図5および表11に例示されている。出発原料との比較により、3300cm
-1におけるNH伸縮の喪失、およびシュウ酸塩の存在に起因する、C=O伸縮に帰属する1615cm
-1における幅広いバンドの出現を含む、多数の差異があることが示された。
【表11-1】
【表11-2】
NMR
【0088】
チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの1H-NMR(
図6を参照されたい)により、アミン部分近傍のプロトンのシグナルが、出発原料と比べて、低磁場にシフトすることが示された。このことは、コフォーマーの塩基性窒素とカルボキシル部分との間に相互作用がある可能性があることを示唆する。コフォーマーの存在および試料の化学量論のどちらも、1H-NMR分析によって確認することができなかった。
【0089】
1H-NMR (400 MHz, dmso-d6) δ (ppm): 1.10-1.32 (m, 4H), 1.38-1.54 (m,
4H), 2.16 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.40-2.58 (広幅バンド, 2H + DMSO-d6), 3.37 (s, 3H), 5.34 (s, 1H), 7.33-7.60 (m, 4H), 7.76 (br s, 2H),
7.82 (br s, 1H).
【0090】
チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aは、三斜晶系P-1として結晶化し、a=9.5477(7)Å、b=11.4514(10)Å、c=11.8918(12)Å、α=113.071(9)、β=94.351(7)°およびγ=100.164(7)°であった。非対称ユニットは、1個のプロトン化チアネプチン分子および半分子のシュウ酸から作製されている(
図7を参照されたい)。この塩の化学量論は、チアネプチン対シュウ
酸塩が2:1であり、シュウ酸塩がジアニオンであることを意味する。
【0091】
シュウ酸ジアニオンは、4つの別のチアネプチン分子と水素結合を形成する(表12および
図8を参照されたい)。
図8に示す通り、チアネプチンのカルボキシル基は、カルボキシレート基と相互作用し、アミノ基は、シュウ酸の2個の酸素原子と二股に分かれた水素結合を形成する。
【表12】
【表13】
U(eq)は、直交したUijテンソルのトレースの3分の1として定義する。
【表14-1】
【表14-2】
【表14-3】
溶解度
【0092】
チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの溶解度を、以下の表15に示す通り、標準緩衝液を使用して、様々なpHでチアネプチンナトリウム塩の溶解度と比較した。
【表15】
吸湿性
【0093】
チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの吸湿性を、チアネプチンナトリウム塩の吸湿性と比較した。チアネプチン試料の結晶は、以下の表16~17に示す通り、様々な温度および相対湿度(RH)パラメータの下、開放空気中または密閉条件(クリンプしたガラス製バイアル)中で観察した。吸湿性は、1日目、3日目および7日目に、Karl Fisher(KF)法を使用して、試料中の水を百分率(%)として測定した。チアネプチンナトリウムは、非常に吸湿性(表17)であるが、チアネプチンヘミシュウ酸塩の水分含量は、開放空気中でもクリンプしたガラス製バイアル中でも、7日後に、実質的に変化がなかった(表16)。
【表16】
【表17】
P=1日目の、かなり吸湿性の試料の目視可能な分解のため、実施しなかった。
(実施例2)
チアネプチンヘミシュウ酸塩および一シュウ酸塩形態Aの混合物
【0094】
上記の反応を、より小規模で繰り返し、新規化学種の形成を確認した。10~100gのチアネプチン遊離塩基を200~2000mLのアセトンに溶解し、この溶液を加熱還流した。2~20g(1当量)のシュウ酸をこの濁りのない溶液に加え、得られた混合物を40~60℃で30~60分間、撹拌した。コフォーマーは直ちに溶解し、濁りのない溶液が観察された。数分後、白色沈殿物の形成が観察された。次に、この混合物を室温で冷却し、12~24時間、撹拌した。この白色沈殿物を真空下で回収し、アセトンで洗浄して、40~60℃で12~24時間、乾燥した。
【0095】
上記の反応を繰り返して、ヘミシュウ酸塩形態Aとの混合物中でのチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの存在を確認した。このような混合物は、独立して調製した2つの化学種を混合することにより得ることもできた。
【0096】
混合物のDSC分析は、2つの別個の吸熱ピークを示した。176℃で第1の吸熱ピーク(174.64℃で開始)が、および200℃(開始は195.45℃)で第2の吸熱ピークが検出され、これは、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの融解および分解に起因するものであった。TG分析により、試料は乾燥していること、および分解は17℃未満において、およそ12%および9%の重量が減少する2つの区別される事象で起こることが確認された。
【0097】
この混合物の融点分析は、DSC分析中に観察された第1の事象は、その分解(166、178および188℃で目視可能なような)なしに、試料の融解に起因したことを強調した。第2の吸熱事象が、試料の融解と共に始まり、その後、分解した。
相互変換スラリー試験
【0098】
混合物にスラリー実験を施し、2種の塩の間で変換が起こる可能性を評価した。100mgを2mLの単一溶媒に懸濁し、室温で3日間および7日間、ならびに50℃で3日間、およそ200rpmでの磁気撹拌下に置いた。この後、これらの試料をXRPD分析により確認し、得られたディフラクトグラムを出発原料のXRPDパターンおよびチアネプチンヘミシュウ酸塩形態AのXRPDパターンと比較した。スラリー実験の結果を、表18に示す。
【表18】
チアネプチンヘミシュウ酸塩の安定性
【0099】
これらの分析により、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aは、そのより高い融点およびスラリー実験中の安定性により、最も熱力学的に安定な形態であることが確認された。チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの相安定性を評価するため、いくつかのスラリー実験を異なる溶媒中または溶媒混合物中、および異なる温度条件で行った。XRPDパターンの重要な改変は、試験後に観察されなかった。さらに、安定性試験を、様々な温度(25~60℃)および相対湿度(0~75%C)の条件で行った。すべての試験条件において、結晶形態は、なかった。磨砕および水混錬実験を同様に行い、それらは、相シフトを誘発しなかった。実施したスラリー実験および安定性試験に基づくと、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aは、熱力学的に安定な形態であると考えることができる。
【0100】
チアネプチンとシュウ酸との間の反応比が2:1である場合、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの形成が好ましい一方、この比が、ある低極性溶媒中で1:1である場合、チアネプチン一シュウ酸塩形態Aの形成が有利となった。
(実施例3)
チアネプチン一シュウ酸塩形態A
【0101】
以下の合成方法論を使用して、チアネプチン一シュウ酸塩形態Aを調製した。40~60℃で、磁気撹拌下、200~2000mLの酢酸エチル中に2~20gのチアネプチンを溶解した。15~30分間後、濁りのない温溶液を室温まで冷却し、撹拌下、90~180分間放置したが、溶液は濁りのないままであった。1~10gのシュウ酸を20~200mLの酢酸エチルに室温で溶解し、濁りのない溶液(濃度=50mg/mL)を得た。次に、8~80mLのシュウ酸溶液(1当量)を、上記の室温で磁気撹拌下のチアネプチン溶液に迅速に加えた。白色粉末が、直ちに沈殿した。60~90分後、懸濁液を真空下で回収し、酢酸エチルで洗浄して、真空下(10-2atm)、室温で一晩、乾燥した。
【0102】
チアネプチン一シュウ酸塩形態Aに関するXRPD回折パターンおよびそのピークリストを、
図10および表19にそれぞれ示す。チアネプチン一シュウ酸塩形態Aに関するFT-IRスペクトルを
図11に報告し、そのピークリストは表20に報告する。
【表19-1】
【表19-2】
【表20-1】
【表20-2】
【0103】
図12において報告されたDSCプロファイルは、175℃(開始は174.8℃)で鋭い吸熱ピークを示し、これは、試料の融解に関連している。それはまた、試料の再結晶化に関連する179℃での発熱ピークを示した。2つの吸熱事象も196℃で観察された。これらのピークは、チアネプチン一シュウ酸塩形態Aの融解に関係している一方、幅広いピークは、シュウ酸の分解によるものであった。
【0104】
図13において報告されたTGAプロファイルは、DSCプロファイルにおいて観察された熱的事象中に、試料が分解することだけしか示さなかった。CO
2へのシュウ酸の分解により引き起こされた重量減少は、16.4%であった。
【0105】
チアネプチン一シュウ酸塩形態Aは、無水で、わずかに吸湿性であり、高湿度下(75%RH)、および水混錬により、40~60℃でチアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aに転換し始めた。それは、水なしでミル粉砕した場合、およびより温和な条件(25℃および60~75%RH)中、または湿度なし(RH≒0%)で高温(40~60℃)に保管した場合、安定であると思われた。
【0106】
2種の形態間で、室温での水溶解度の有意な差異は目視で観察されなかった(1mg/mL未満)。
(実施例4)
チアネプチン一シュウ酸塩形態B
【0107】
チアネプチン一シュウ酸塩形態Bを調製するために、50mgのチアネプチン遊離塩基を6.0mLのニトロメタンに溶解した。10mg(1当量)のシュウ酸を0.5mLのニトロメタンに溶解し、得られた溶液をチアネプチンの溶液に加えた。添加の直後に、この反応混合物を氷浴中で冷却した。およそ7分後、白色沈殿物を真空下で回収し、XRPDによって分析した。
【0108】
チアネプチン一シュウ酸塩形態Bのディフラクトグラムおよび対応するピークリストを、
図14および表21に報告する。チアネプチン一シュウ酸塩形態BのFT-IRスペクトルを
図15に報告し、そのピークリストを表22に報告する。
【表21】
【表22】
【0109】
DSCプロファイル(
図16)は、178℃(開始は177.3℃)で鋭い吸熱ピークを示し、これは、試料の融解に関連した。これは、197℃で起こる2つの吸熱事象をも示した。これらの事象は、チアネプチン一シュウ酸塩の融解に関係している可能性が高い一方、幅広いピークは、シュウ酸の分解によるものであった。
【0110】
ある種の実施形態を例示して説明したが、以下の特許請求の範囲において規定されるようなより幅広い態様での技術から逸脱することなく、当該分野の通常の知識に従って、本
明細書において変更および修正をすることができることを理解すべきである。
【0111】
本開示は、この出願において記載されている特定の実施形態に関するものに限定されない。多くの修正および変形が、当業者に明白である通り、その趣旨および範囲から逸脱することなく行うことができる。本開示の範囲内にある、機能的に等価な方法およびデバイスは、本明細書において列挙されているものに加えて、上述の説明から当業者には明白となろう。このような修正および変形は、添付の特許請求の範囲の範囲内に収まることが意図されている。本開示は、こうした特許請求の範囲に与えられる等価物の全範囲を伴って、添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定される。本開示が、当然ながら様々になり得る、特定の方法またはデバイスに限定されないことを理解されたい。本明細書において使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するために過ぎず、制限することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0112】
本明細書において参照されているすべての公報、特許出願、交付特許、および他の文献は、あたかも個々の公報、特許出願、交付特許または他の文献の各々が、具体的かつ個々に示されて参照によりそれらの全体が参照により組み込まれていると示されているかのごとく、参照により本明細書に組み込まれている。参照により組み込まれている本文中に含まれる定義は、本開示における任意の定義に矛盾する範囲で除外される。
【0113】
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
式I:
【化3】
に示す、(RS)-7-(3-クロロ-6-メチル-6,11-ジヒドロジベンゾ[c,f][1,2]チアゼピン-11-イルアミノ)へプタン酸S,S-ジオキシド(チアネプチン)のシュウ酸塩/共結晶(チアネプチンシュウ酸塩)。
(項2)
前記チアネプチンシュウ酸塩が結晶性である、上記項1に記載の塩/共結晶。
(項3)
前記塩が、結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの塩およびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの混合物、チアネプチン一シュウ酸塩形態B、またはそれらの組合せである、上記項2に記載の塩/共結晶。
(項4)
前記塩が、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A、チアネプチン一シュウ酸塩形態A、チアネプチン一シュウ酸塩形態Bまたはそれらの組合せである、上記項2に記載の塩/共結晶。
(項5)
チアネプチンシュウ酸塩の前記塩/共結晶を、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と一緒に含む医薬組成物。
(項6)
前記塩/共結晶が、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A、一シュウ酸塩形態Aまたはそれらの組合せである、上記項5に記載の医薬組成物。
(項7)
前記結晶形態が、約8.2、8.6、9.1および9.5度2θに少なくとも1つのピークを含むX線回折パターン(XRPD)を示す、上記項4に記載の無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A。
(項8)
前記チアネプチンヘミシュウ酸塩結晶形態Aが、約4.5、8.2、8.6、9.1、9.5、11.5、14.2、15.2、15.8、16.4、19.2、22.1、23.9、26.9および27.4度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークをさらに含むXRPDパターンを示す、上記項7に記載の化合物。
(項9)
前記結晶形態Aが、図2と実質的に同じXRPDパターンを示す、上記項4に記載の無水チアネプチンヘミシュウ酸塩結晶形態A。
(項10)
以下の少なくとも1つ:
(a)図2において示されるピークのうちの少なくとも4つを示すXPRDパターン、
(b)図5と実質的に同じFT-IRスペクトル、および
(c)図6と実質的に同じNMRスペクトル
によって特徴付けられる、上記項4に記載の無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A。
(項11)
前記結晶形態が、約10.2および10.5度2θに少なくとも1つのピークを含むX線回折パターン(XRPD)を示す、上記項4に記載の無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩。
(項12)
前記結晶形態が、約7.5、8.3、10.2、10.5、11.9、14.7、16.2、16.3、17.9、18.7、21.0、21.7および22.1度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークをさらに含むXRPDパターンを示す、上記項11に記載の化合物。
(項13)
前記結晶形態が、図10と実質的に同じXRPDパターンを示す、上記項4に記載の無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態A。
(項14)
図10において示されるピークのうちの少なくとも4つを示すXPRDパターンによって特徴付けられる、上記項4に記載の無水結晶性チアネプチン一シュウ酸塩形態A。
(項15)
前記結晶形態が、チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aおよびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aである、上記項4に記載の無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態。
(項16)
前記結晶形態が、約10.2および10.5度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークを含むXRPDパターンを示す、上記項15に記載の無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態。
(項17)
前記結晶形態が、約7.5、8.3、10.2、10.5、11.9、14.7、16.2、16.3、17.9、18.7、21.0、21.7および22.1度2θからなる群から選択される少なくとも1つのピークをさらに含むXRPDパターンを示す、上記項16に記載の化合物。
(項18)
前記結晶形態が、図9と実質的に同じXRPDパターンを示す、上記項15に記載の無水結晶性チアネプチンシュウ酸塩形態。
(項19)
前記結晶形態が、チアネプチン一シュウ酸塩形態Bである、上記項4に記載の無水チアネプチンシュウ酸塩結晶形態。
(項20)
前記結晶形態が、図14と実質的に同じXRPDパターンを示す、上記項19に記載の無水結晶性チアネプチンシュウ酸塩形態。
(項21)
前記組成物が、固体形態、液状形態、懸濁液形態、持続放出形態、遅延放出形態または徐放形態である、上記項6に記載の医薬組成物。
(項22)
前記共結晶が、結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態Aの塩およびチアネプチン一シュウ酸塩形態Aの混合物、チアネプチン一シュウ酸塩形態B、またはそれらの組合せである、上記項3に記載の共結晶。
(項23)
前記共結晶が、無水結晶性チアネプチンヘミシュウ酸塩形態A、チアネプチン一シュウ
酸塩形態A、チアネプチン一シュウ酸塩形態Bまたはそれらの組合せである、上記項4に記載の共結晶。