(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134021
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ペダル支持構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20230920BHJP
G05G 1/32 20080401ALI20230920BHJP
B60T 7/06 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B62D25/08 J
G05G1/32
B60T7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039337
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大金 昌宏
【テーマコード(参考)】
3D124
3D203
3J070
【Fターム(参考)】
3D124AA34
3D124BB01
3D124CC22
3D124DD26
3D203AA01
3D203BB35
3D203BB37
3D203CA24
3D203CA29
3D203CA38
3D203CB19
3D203DA12
3J070AA32
3J070BA41
3J070CB02
3J070CB37
3J070DA01
(57)【要約】
【課題】本明細書は、斜め前方から荷重を受けたときにもブレーキペダルを支持するペダルブラケットが車両部材からスムーズに外れ得るペダル支持構造を提供する。
【解決手段】ペダルブラケットは、ダッシュパネルと、ダッシュパネルよりも車体後方の車体部材に連結されている。車体部材とペダルブラケットは、インナーボールと、インナーボールをその中心回りに回転可能に支持しているアウターリングを備えているスフェリカルジョイントを介して連結されている。インナーボールが車体部材に固定されている。ペダルブラケットは、車体前方と上方と下方に開口しているスリットを備えており、そのスリットにアウターリングが嵌合している。スフェリカルジョイントは、アウターリングに対してインナーボールが自在に回転可能である。衝突時の荷重の向きに応じてスリットの車体前方の開口の向きも変わるので、ペダルブラケットがアウターリングから外れ易くなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルに連結されているとともに前記ダッシュパネルよりも車体後方の車体部材に連結されているペダルブラケットによってブレーキペダルを支持するペダル支持構造であって、
前記車体部材と前記ペダルブラケットは、インナーボールと、前記インナーボールをその中心回りに回転可能に支持しているアウターリングを備えているスフェリカルジョイントを介して連結されており、
前記インナーボールが前記車体部材に固定されており、
前記ペダルブラケットは、車体前方と上方と下方に開口しているスリットを備えており当該スリットに前記アウターリングが嵌合している、
ペダル支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ダッシュパネルに連結されているとともにダッシュパネルよりも車体後方の車体部材に連結されているペダルブラケットによってブレーキペダルを支持するペダル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、ブレーキペダルの支持構造が開示されている。その構造では、ペダルブラケットによってブレーキペダルが支持される。ペダルブラケットは、ダッシュパネルと当該ダッシュパネルよりも後方の車体部材(インパネリインフォース)に連結されている。ペダルブラケットは、車体部材に形成された取付け面に取り付けられる上壁部を備えている。上壁部には開口部が形成されている。車体部材は、後方に開口するように取付け面に固定されるクリップナットと、取付け面の後端から後方に行くほど下方に傾斜する傾斜面を有している。上壁部は、開口部の後部を区画する部位がクリップナットによって挟持されているとともに、車幅方向外側からクリップナットに面接触し且つ前後方向に延びるガイド部を備えている。
【0003】
特許文献1の支持構造では、車が正面衝突した場合など、前方から加わる荷重によりダッシュパネルが後方に向けて変形したときに、ペダルブラケットの上壁部がクリップナットから円滑に外れる。すなわち、ペダルブラケットが車体部材から外れる。ダッシュパネルが後方に向けて変形するとき、ダッシュパネルの変形に伴ってブレーキペダルも後方へ移動する。このとき、ブレーキペダルが車体部材に連結されたままだと、後退するブレーキペダルが運転者と干渉するおそれがある。ペダルブラケットを車体部材から開放することで、ペダルブラケットとブレーキペダルの後方側を自由にして運転者との干渉を緩和する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された支持構造では、ペダルブラケットの上壁部は、車幅方向外側からクリップナットに面接触し且つ前後方向に延びるガイド部を備えている。車両前方から後方へ向かう荷重が加えられたときにはペダルブラケットはガイド部に沿ってスムーズに移動し、クリップナット(すなわち車両部材)から容易に外れ得る。しかし、荷重が斜め前方から加えられたとき、ガイド部の延在方向と荷重方向が一致しなくなり、ペダルブラケットがクリップナット(すなわち車両部材)からスムーズに外れる確率が低くなる。本明細書は、斜め前方から荷重を受けたときにもブレーキペダルを支持するペダルブラケットが車両部材からスムーズに外れ得る構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するペダル支持構造は、ダッシュパネルに連結されているとともにダッシュパネルよりも車体後方の車体部材に連結されているペダルブラケットによってブレーキペダルを支持するペダル支持構造である。車体部材とペダルブラケットは、インナーボールと、インナーボールをその中心回りに回転可能に支持しているアウターリングを備えているスフェリカルジョイントを介して連結されている。インナーボールが車体部材に固定されており、ペダルブラケットは、車体前方と上方と下方に開口しているスリットを備えており、そのスリットにアウターリングが嵌合している。
【0007】
スフェリカルジョイントは、アウターリングに対してインナーボールが自在に回転可能である。したがって、衝突時の荷重の向きに応じてペダルブラケットが回転する。衝突時の荷重の向きに応じてスリットの車体前方の開口の向きも変わるので、アウターリングがペダルブラケットから外れ易くなる。上記の支持構造によれば、斜め前方から荷重を受けたときにもブレーキペダルを支持するペダルブラケットが車両部材からスムーズに外れ得る。
【0008】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】ペダルブラケットの上後部とスフェリカルジョイントの斜視図である(スフェリカルジョイントをペダルブラケットから分離した図)。
【
図3】ペダルブラケットの上後部とスフェリカルジョイントの断面図である。
【
図4】
図4(A)は、衝突荷重Fが加わる前のペダルブラケットの平面図である。
図4(B)は、衝突荷重が加わった後のペダルブラケットの平面図である。
【
図5】水平軸回りにペダルブラケットが回転する様子を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して実施例のペダル支持構造2を説明する。
図1は、ペダル支持構造2の側面図である。ペダル支持構造2は、ペダルブラケット10、スフェリカルジョイント20、ガイド板6で構成される。図中の座標系の「前」/「左」/「上」は、それぞれ、車両前方/車両左側方/車両上方を意味する。
【0011】
ペダルブラケット10は、ブレーキペダル5を軸支する金具であり、ダッシュパネル3とインパネリインフォース4に固定されている。ダッシュパネル3は、自動車のエンジンルームとキャビンを仕切る仕切り板である。インパネリインフォース4は、車体の強度を確保するための部材(車体部材)の一つである。インパネリインフォース4は、車幅方向に延びる梁であり、両端の夫々がAピラーに連結されている。インパネリインフォース4は、ダッシュパネル3よりも車体後方に位置する。
【0012】
ペダルブラケット10の前部がダッシュパネル3に固定されており、ペダルブラケットの上後部がスフェリカルジョイント20を介してインパネリインフォース4に固定されている。インパネリインフォース4にはガイド板6が設けられており、スフェリカルジョイント20はガイド板に固定される。ガイド板6は、ペダルブラケット10の上後部に対向する板である。ガイド板6の上面にタブ7が設けられており、円筒状のインパネリインフォース4の外周にタブ7が面接触することで、ガイド板6はインパネリインフォース4と一体化する。
【0013】
詳しくは後述するが、スフェリカルジョイント20は、球形のインナーボール21と、インナーボール21を回転自在に支持するアウターリング22を含んでいる。アウターリング22がペダルブラケット10のスリット(後述)に圧入されている。インナーボール21の上端からはロッド23が延びており、ロッド23がボルト8でガイド板6(すなわちインパネリインフォース4)に固定されている。
【0014】
先に述べたように、ペダルブラケット10は、軸15の回りにブレーキペダル5が揺動するようにブレーキペダル5を軸支する。なお、図では、ブレーキペダル5の揺動をブレーキ装置に伝達する伝達機構の図示は省略してある。
【0015】
スフェリカルジョイント20の付近の構造について詳しく説明する。
図2に、ペダルブラケット10の上後部とスフェリカルジョイント20の斜視図を示す。
図2は、スフェリカルジョイント20をペダルブラケット10から分離した図である。また、先に述べたように、スフェリカルジョイント20のロッド23の先はインパネリインフォース4のガイド板6に連結されているが、ロッド23の上部と、インパネリインフォース4とガイド板6は図示を省略した。
【0016】
図3に、ペダルブラケット10の上後部とスフェリカルジョイント20の断面図を示す。
図3は、車幅方向(図中の座標系の「左」軸方向)に直交する平面であってインナーボール21の中心CPを通る平面でペダルブラケット10をカットした断面である。
【0017】
図2に示すように、ペダルブラケット10は、上板11と一対の側板12を含んでいる。一対の側板12に軸15が固定されており、ブレーキペダル5は軸15に揺動可能に支持されている。
【0018】
ペダルブラケット10の上板11には、上下と車両前方が開口しているスリット13が設けられている。スリット13の車両前方の開口をスリット前方開口14と称する。スリット前方開口14の幅は、スリット13の車幅方向の最大幅よりも小さい。
【0019】
スリット13にスフェリカルジョイント20が嵌合する。先に述べたように、スフェリカルジョイント20は、インナーボール21と、インナーボール21を回転自在に支持するアウターリング22を含んでいる。アウターリング22の外形状は円筒形状であり、その円筒がペダルブラケット10のスリット13に嵌合する。より正確には、アウターリング22はスリット13に圧入され、ペダルブラケット10に固定される。
【0020】
先に述べたように、スリット前方開口14の幅は、スリット13の車幅方向の最大幅よりも小さいので、スリット13に嵌合したアウターリング22(スフェリカルジョイント20)は、容易には外れない。しかし、強い荷重(典型的には衝突荷重)が加わると、アウターリング22(スフェリカルジョイント20)はスリット13から外れ得る。
【0021】
ペダルブラケット10のスリット前方開口14の前方には、スフェリカルジョイント20が入るのに十分な余裕空間SPが確保されている。
【0022】
図3に示されているように、アウターリング22の内面は、インナーボール21の球面と面接触するように湾曲している。アウターリング22の内面にインナーボール21の球面が面接触することで、アウターリング22はインナーボール21の中心CPの回りに自在に回転することができる。アウターリング22は直交する3軸(ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸)のいずれの軸回りにも回転することができる。
【0023】
ペダルブラケット10はアウターリング22に固定されているので、ペダルブラケット10とブレーキペダル5は、アウターリング22とともにインナーボール21の中心CPの回りに自在に回転することができる。ただし、先に述べたように、ペダルブラケット10はダッシュパネル3に固定されているため、通常は回転しない。
【0024】
ペダル支持構造2の利点を説明する。ペダル支持構造2の特徴は、ペダルブラケット10がスフェリカルジョイント20を介してインパネリインフォース4に連結されていることである。車両が斜め前方から衝突荷重を受けたときなど、ダッシュパネル3が後方へ向けて変形すると、ペダルブラケット10は後退しつつ中心CPの回りに回転することがある。スフェリカルジョイント20のアウターリング22は、前方が開口しているスリット13に嵌合している。スリット前方開口14の側から衝突荷重が加わると、ペダルブラケット10はスフェリカルジョイント20から容易に外れる。スリット前方開口14の前には、余裕空間SPが確保されている。余裕空間SPが確保されていることで、スフェリカルジョイント20がスリット13から完全に外れることが阻害されない。強固なインパネリインフォース4に固定されているスフェリカルジョイント20からペダルブラケット10が完全に外れると、ペダルブラケット10とブレーキペダル5の後方部分は強固なインパネリインフォース4からは自由になる。ダッシュパネル3の後方への変形に伴って、インパネリインフォース4に拘束されたままのペダルブラケット10とブレーキペダル5が後退すると、それらが運転者と強く干渉するおそれがある。ペダルブラケット10とブレーキペダル5が後退する際にインパネリインフォース4の拘束から外れていれば、運転者との干渉が緩和される。
【0025】
図4に、左斜め前方から衝突荷重Fが加わったときのペダルブラケット10の動きの一例を示す。
図4(A)は、衝突荷重Fが加わる前のペダルブラケット10の平面図である。
図4(B)は、衝突荷重が加わった後のペダルブラケット10の平面図である。なお、
図4ではガイド板6は仮想線で示してある。また、ガイド板6は、インパネリインフォース4よりも後方へ延びているが、その部分(インパネリインフォースよりも後方へ延びている部分)は図示を省略した。
図4(B)において、符号10aを付した仮想線は、衝突荷重が加わる前のペダルブラケット10を表している。
【0026】
衝突荷重が加わる前は、スリット前方開口14は車両前方を向いている。左斜め前方から衝突荷重Fが加わると、ダッシュパネル3(
図4では不図示)が右斜め後方に向けて変形し、ダッシュパネル3の変形に応じてペダルブラケット10も中心CP(インナーボール21の中心)の回りに
図4(B)の矢印Aの方向に回転し得る。そうすると、スリット前方開口14は衝突荷重Fが向かってくる方向を向く。ペダルブラケット10は、衝突荷重Fの方向に動く。アウターリング22はスリット前方開口14を通してスリット13から押し出されるように相対的に動く。その結果、ペダルブラケット10がアウターリング22(スフェリカルジョイント20)から外れる。斜め前方からの衝突荷重Fに対しても、ペダルブラケット10がスフェリカルジョイント20から外れ易くなる。
【0027】
スリット前方開口14の前方には、スフェリカルジョイント20が入るのに十分な余裕空間SPが確保されており、ペダルブラケット10は、スフェリカルジョイント20(すなわちインパネリインフォース4)の拘束から完全に開放される。後退するペダルブラケット10とブレーキペダル5は、インパネリインフォース4の拘束から完全に自由になっており、運転者に強く干渉することがない。
【0028】
図5は、水平軸回りにペダルブラケット10が回転する様子を示した断面図である。例えば、衝突荷重を受けたダッシュパネル3(
図5では不図示)が上方に持ち上がると、ペダルブラケット10は、中心CPの回りに
図5の矢印Bの方向に回転する。さらにダッシュパネル3が後方へ向けて変形すると、ペダルブラケット10は後方へ向かう衝突荷重を受ける。スフェリカルジョイント20はスリット前方開口14を通じてペダルブラケット10から外れる。スリット前方開口14の前には、余裕空間SPが確保されており、スフェリカルジョイント20がスリット13から完全に外れることが阻害されない。その結果、後退するペダルブラケット10とブレーキペダル5は、インパネリインフォース4の拘束から完全に自由になる。
【0029】
ペダルブラケット10の上後方にはガイド板6が配置されている。ガイド板6は後方に向かうにつれて下方へ湾曲している(
図3参照)。インパネリインフォース4の拘束から自由になったペダルブラケット10は、ガイド板6に案内されて後下方へ移動する。前方衝突時にペダルブラケット10(およびブレーキペダル5)が運転者と干渉する可能性を低減することができる。
【0030】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。ペダルブラケット10は、ダッシュパネル3に連結されているとともにダッシュパネル3よりも車体後方の車体部材に連結されている。実施例のインパネリインフォース4は、ダッシュパネル3よりも車体後方の車体部材の一例である。ペダルブラケット10は、インパネリインフォース4以外の車体部材であって、ダッシュパネル3よりも後方に位置する車体部材にスフェリカルジョイント20を介して取り付けられていてもよい。
【0031】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0032】
2:ペダル支持構造 3:ダッシュパネル 4:インパネリインフォース 5:ブレーキペダル 6:ガイド板 7:タブ 8:ボルト 10:ペダルブラケット 11:上板 12:側板 13:スリット 14:スリット前方開口 15:軸 20:スフェリカルジョイント 21:インナーボール 22:アウターリング 23:ロッド