(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134031
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230920BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230920BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230920BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/58
H01M4/133
H01M10/0569
H01M4/136
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039350
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 友章
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宗明
(72)【発明者】
【氏名】田邊 亜季
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM07
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ10
5H029HJ14
5H050AA10
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】容量劣化を抑制し、かつ、電池抵抗の上昇を抑制することができる二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池は、正極と、負極と、非水電解液と、を含み、正極は、LiFe
xM
1-xPO
4(Mは、1又は2種以上の金属元素(Feは除く)である。xは、0<x≦1を満たす。)で表されるリチウム鉄リン酸化合物を含み、非水電解液は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含有するリチウム塩と、環状カーボネート化合物を含む非水溶媒と、を含み、負極は、炭素材料を含み、負極の表面の、X線光電子分光法で測定されるスペクトルにおいて、132eV以上139eV以下の範囲に極大値を有する第1ピークの積分強度(PA)と、167eV以上175eV以下の範囲に極大値を有する第2ピークの積分強度(PB)との比(PA/PB)が0.05以上0.32以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解液と、を含み、
前記正極は、下記の式(1)で表されるリチウム鉄リン酸化合物を含み、
前記非水電解液は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含有するリチウム塩と、環状カーボネート化合物を含む非水溶媒と、を含み、
前記負極は、炭素材料を含み、
前記負極の表面の、X線光電子分光法で測定される結合エネルギーと光電子強度との関係を示すスペクトルにおいて、132eV以上139eV以下の範囲に極大値を有する第1ピークの積分強度(PA)と、167eV以上175eV以下の範囲に極大値を有する第2ピークの積分強度(PB)との比(PA/PB)が0.05以上0.32以下である
二次電池。
LiFexM1-xPO4 ・・・(1)
ただし、Mは、1又は2種以上の金属元素(Feは除く)である。xは、0<x≦1を満たす。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池であって、
前記非水電解液は鎖状カルボン酸エステルを含み、
前記鎖状カルボン酸エステルの沸点は100℃以上であり、25℃における粘度は、0.9mPa・sである
二次電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の二次電池であって、
前記第1ピークの積分強度(PA)と、前記第2ピークの積分強度(PB)との比(PA/PB)は0.11以上0.20以下である
二次電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の二次電池であって、
前記非水電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含み、
前記非水電解液中における前記六フッ化リン酸リチウムの含有量は、0.05wt%以上1wt%以下である
二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から特許文献3には、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)と、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)とを含む材料を電解質として用いたリチウムイオン電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-84591号公報
【特許文献2】特開2014-203748号公報
【特許文献3】国際公開第2019/150902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1から特許文献3では、リチウムイオン電池の高温保存後の容量維持率を向上させることができるものの、電池抵抗について記載されていない。リチウムイオン電池では負極表面に過剰に被膜が付着すると電池抵抗が上昇する可能性がある。
【0005】
本発明は、容量劣化を抑制し、かつ、電池抵抗の上昇を抑制することができる二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面の二次電池は、正極と、負極と、非水電解液と、を含み、前記正極は、下記の式(1)で表されるリチウム鉄リン酸化合物を含み、前記非水電解液は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含有するリチウム塩と、環状カーボネート化合物を含む非水溶媒と、を含み、前記負極は、炭素材料を含み、前記負極の表面の、X線光電子分光法で測定される結合エネルギーと光電子強度との関係を示すスペクトルにおいて、132eV以上139eV以下の範囲に極大値を有する第1ピークの積分強度(PA)と、167eV以上175eV以下の範囲に極大値を有する第2ピークの積分強度(PB)との比(PA/PB)が0.05以上0.32以下である。
【0007】
LiFexM1-xPO4 ・・・(1)
ただし、Mは、1又は2種以上の金属元素(Feは除く)である。xは、0<x≦1を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二次電池によれば、容量劣化を抑制し、かつ、電池抵抗の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る二次電池の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す領域Aを拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例に係る二次電池の電池特性を示す表である。
【
図4】
図4は、実施例及び比較例に係る二次電池の、積分強度比と、容量維持率及び抵抗上昇率の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例5に係る二次電池の負極表面のXPS測定結果であって、第1ピークを模式的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例5に係る二次電池の負極表面のXPS測定結果であって、第2ピークを模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の二次電池の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【0011】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る二次電池の構成を示す断面図である。
図1に示すように、実施形態に係る二次電池1は、ケーシング10と、巻回電極体200と、を有する。実施形態に係る二次電池1は、リチウム(Li)の吸蔵放出により負極220の容量が得られるリチウムイオン二次電池である。ケーシング10は、電池缶11と、電池蓋12と、熱感抵抗素子13と、安全弁機構14と、ガスケット15と、正極リード16と、負極リード17と、センターピン19と、絶縁板18と、を備える。
【0012】
電池缶11は、円筒型であり、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有する。電池缶11は、例えば、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)またはそれらの合金等により形成される。なお、電池缶11は、鉄(Fe)の表面にニッケル(Ni)等がめっきされた構成であってもよい。
【0013】
巻回電極体200及び絶縁板18は、電池缶11の内部に収納されている。巻回電極体200は、例えば、セパレータ230(
図2参照)を介して正極210及び負極220が積層されてから巻回されたものである。一対の絶縁板18は、巻回電極体200を挟むと共に巻回電極体200の巻回中心軸に直交する方向に延在する。
【0014】
電池缶11の開放端部には、電池蓋12、安全弁機構14及び熱感抵抗素子(PTC素子)13がガスケット15を介してかしめられている。これにより、電池缶11の開放端部は密閉される。電池蓋12は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。安全弁機構14及び熱感抵抗素子13は、電池蓋12の内側に設けられており、安全弁機構14は、熱感抵抗素子13を介して電池蓋12と電気的に接続されている。この安全弁機構14は、内部短絡、または外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板が反転して電池蓋12と巻回電極体200との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子13は、大電流に起因する異常な発熱を防止するものであり、その熱感抵抗素子13の抵抗は、温度の上昇に応じて増加するようになっている。ガスケット15は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面にアスファルトが塗布されてもよい。
【0015】
巻回電極体200の巻回中心には、センターピン19が挿入されている。ただし、センターピン19は、巻回中心に挿入されていなくてもよい。正極210(
図2参照)には、例えば、アルミニウム等の導電性材料により形成された正極リード16が接続されると共に、負極220(
図2参照)には、例えば、ニッケル等の導電性材料により形成された負極リード17が接続される。正極リード16は、溶接等により安全弁機構14に接続され、安全弁機構14を介して電池蓋12と電気的に接続される。負極リード17は、溶接等により電池缶11と電気的に接続される。
【0016】
図2は、
図1に示す領域Aを拡大して示す断面図である。
図2は、正極210、負極220及びセパレータ230の一部を拡大して示す断面図である。
図2に示すように、正極210は、正極集電体211と、正極集電体211の片面又は両面に設けられた正極活物質層212とを有する。負極220は、負極集電体221と、負極集電体221の片面又は両面に設けられた負極活物質層222とを有する。
【0017】
セパレータ230は、正極210と負極220とを離隔して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。
図2に示す例では、セパレータ230は、正極210の正極活物質層212と負極220の負極活物質層222との層間に設けられる。
【0018】
非水電解液は、正極210、負極220及びセパレータ230のそれぞれに含浸されており、非水溶媒及び電解質塩(リチウム塩)を含んでいる。
【0019】
次に、正極210、負極220、セパレータ230及び非水電解液の詳細な材料例について説明する。
【0020】
(正極)
正極210の正極集電体211は、例えばアルミニウム(Al)等の導電性材料により形成される。正極集電体211は、アルミニウムに限定されず、ニッケル、ステンレス等の他の導電性材料であってもよい。
【0021】
正極210の正極活物質層212は、正極活物質と、導電剤及び結着剤とを含む。正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能である正極材料であり、下記の式(1)で表されるリチウム鉄リン酸化合物を含む。
【0022】
LiFexM1-xPO4 ・・・(1)
ただし、Mは、1又は2種以上の金属元素(Feは除く)である。xは、0<x≦1を満たす。
【0023】
リチウム鉄リン酸化合物は、リチウム(Li)と、1又は2以上の遷移金属元素と、を構成元素として含むリン酸化合物であり、オリビン型の結晶構造を有している。式(1)において、xの値が取り得る範囲は0<x≦1であるが、より好ましくは、0.9<x≦1を満たす。また、Mの具体的な金属元素の例は、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)等である。
【0024】
なお、正極活物質は、リチウム鉄リン酸化合物と共に、他の材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいてもよい。例えば、正極活物質として、LiNiO2、LiCoO2、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2等のうちのいずれか1種又は2種類以上を含んでいてもよい。
【0025】
正極活物質に用いられるリチウム鉄リン酸化合物は350℃以上まで加熱されても酸素を放出しにくいため、充放電時に優れた安全性が得られる。また、定電流定電圧条件で充電するとほぼ定電流状態で充電が行われるため、同じ充電条件で充電した場合にリチウム複合酸化物よりも充電時間が短縮される。また、リチウム鉄リン酸化合物は、Feを含んでいるため、二次電池1の寿命が長期化する。詳細には、リチウム鉄リン酸化合物の動作電圧は約3.4V付近であるため、リチウム鉄リン酸化合物を正極活物質として用いると、電解液の酸化分解等を誘発しにくい電位で二次電池1を動作させることが可能になる。これにより、二次電池1のサイクル特性及び保存特性等が改善される。
【0026】
正極活物質層212に含まれる導電剤は、例えばカーボンブラック等の炭素材料が用いられる。導電剤は、1種類に限定されず、複数の導電材料を混合して用いてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子等であってもよい。
【0027】
正極活物質層212に含まれる結着剤は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)が用いられる。ただし、これに限定されず、結着剤は、合成ゴム及び高分子化合物等のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる化合物であればよい。合成ゴムは、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム及びエチレンプロピレンジエン等である。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド及びカルボキシメチルセルロース等である。
【0028】
正極210の製造方法は、まず、正極活物質(LiFexM1-xPO4)、導電剤及び結着剤を混合し、分散剤(例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP))に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。正極合剤スラリーを正極集電体211の両面に塗布、乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することで正極210が作製される。なお、正極210の作製方法は、塗布法に限定されず、例えば、気相法、液相法、溶射法、焼成法(焼結法)又はこれらの2種類以上の方法であってもよい。
【0029】
(負極)
負極220の負極集電体221は、例えば銅(Cu)等の導電性材料により形成される。負極集電体221は、銅に限定されず、ニッケル、ステンレス等の他の導電性材料であってもよい。
【0030】
負極220の負極活物質層222は、負極活物質と、結着剤とを含む。負極活物質は、例えば黒鉛等の炭素材料を含む。より詳細には、負極活物質に使用される炭素材料は、例えば易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素及び黒鉛(天然黒鉛及び人造黒鉛)のうち、少なくとも1種以上である。負極活物質に用いられる炭素材料は、リチウムイオンの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度及び優れたサイクル特性が得られる。また、上述した炭素材料は負極導電剤としても機能する。
【0031】
負極活物質層222に含まれる結着剤は、上述した正極活物質層212に含まれる結着剤と同様の材料が用いられる。負極活物質層222に含まれる結着剤は、正極活物質層212に含まれる結着剤と同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0032】
負極220の製造方法は、まず、負極活物質(例えば黒鉛)及び結着剤を混合し、分散剤(例えばNMP)に分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製する。負極合剤スラリーを負極集電体221(例えばCu)の両面に塗布、乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することで負極220が作製される。なお、負極220の作製方法は、塗布法に限定されず、例えば、気相法、液相法、溶射法、焼成法(焼結法)又はそれらの2種類以上の方法であってもよい。
【0033】
(セパレータ)
セパレータ230は、例えばポリエチレン等の高分子化合物を含んだ薄膜で形成される。なお、セパレータ230は、これに限定されず、他の樹脂材料で形成された多孔質膜等で構成されてもよい。
【0034】
(電池の製造方法)
上述した正極210、負極220及びセパレータ230を用いた二次電池1の製造方法について説明する。まず、正極210の正極集電体211に正極リード16を溶接により取り付け、負極220の負極集電体221に負極リード17を溶接により取り付ける。次に、正極210と負極220とをセパレータ230を介して積層して巻回することで巻回電極体200が形成される。次に、正極リード16の先端部を安全弁機構14に溶接するとともに、負極リード17の先端部を電池缶11に溶接する。
【0035】
そして、巻回された正極210及び負極220を一対の絶縁板18で挟み電池缶11の内部に収納する。次に、非水電解液を電池缶11の内部に注入し、巻回電極体200に含浸させる。電池缶11の開口端部に電池蓋12、安全弁機構14を、ガスケット15(ポリブチレンテレフタレート)を介してかしめる。以上のような方法により、円筒型の二次電池1が作製される。
【0036】
(非水電解液)
非水電解液は、溶媒及び電解質塩を含む。非水電解液は、必要に応じて添加剤等を含んでもよい。
【0037】
(溶媒)
非水電解液は、溶媒として非水溶媒(有機溶剤)のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含む。非水溶媒を含む電解液は、いわゆる非水電解液である。具体的には、非水溶媒は、鎖状カルボン酸エステルを1種類または2種類以上を含んでいる。特に、鎖状カルボン酸エステルは、100℃以上の沸点を有すると共に、25℃において0.9mPa・s以下の粘度を有することが好ましい。
【0038】
鎖状カルボン酸エステルは、例えば、酢酸プロピル(沸点=101℃,粘度=0.64mPa・s、炭素数=5)、酢酸ブチル(沸点=126℃,粘度=0.73mPa・s、炭素数=6)、プロピオン酸プロピル(沸点=122℃,粘度=0.72mPa・s、炭素数=6)、プロピオン酸ブチル(沸点=144℃,粘度=0.76mPa・s、炭素数=7)、酪酸メチル(沸点=102℃,粘度=0.52mPa・s、炭素数=5)、酪酸エチル(沸点=119℃,粘度=0.61mPa・s、炭素数=6)及び酪酸プロピル(沸点=143℃,粘度=0.83mPa・s、炭素数=7)等である。ここで説明した沸点及び粘度のそれぞれの値は、非特許文献[Gill, A. H., and F. P. Dexter et al., Ind. Eng. Chem., 26, 881 (1934).]に掲載されている沸点及び粘度のそれぞれの値に準拠することとする。
【0039】
鎖状カルボン酸エステルの沸点が、例えば100℃以上である場合には、二次電池1の使用時及び保存時において鎖状カルボン酸エステルが揮発しにくくなる。これにより、電池缶11の内部において蒸気圧が上昇しにくくなることに応じて電池缶11の内部の圧力が上昇しにくくなる。
【0040】
また、鎖状カルボン酸エステルの粘度が、例えば25℃において0.9mPa・s以下である場合には、鎖状カルボン酸エステルを主溶媒として含む非水電解液の粘度が適正に低くなる。これにより、二次電池1の製造工程において電池缶11の内部に非水電解液が注液されやすくなり、すなわち正極210、負極220及びセパレータ230のそれぞれに電解液が含浸されやすくなる。この結果、電池素子による電解液の保持量が増加する。
【0041】
非水溶媒は、鎖状カルボン酸エステルと共に環状炭酸エステル(環状カーボネート化合物)及び鎖状炭酸エステル(鎖状カーボネート化合物)のうちの一方または双方を含んでいてもよい。本実施形態では、非水溶媒は、少なくとも環状カーボネート化合物及び鎖状カルボン酸エステルを含む。環状炭酸エステルの種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。同様に、鎖状炭酸エステルの種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。環状炭酸エステルは、例えば炭酸エチレン及び炭酸プロピレン等である。また、鎖状炭酸エステルは、例えば炭酸ジメチル、炭酸ジエチル及び炭酸エチルメチル等である。
【0042】
(電解質塩)
電解質塩は、リチウム塩のいずれか1種類又は2種類以上を含む。リチウム塩は、例えばリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含有する。電解質塩(LiFSI)の含有量は、例えば、非水溶媒に対して0.8mol/kg以上1.2mol/kg以下である。より好ましくは、電解質塩(LiFSI)の含有量は、0.9mol/kg以上1.2mol/kg以下である。
【0043】
(添加剤)
非水電解液は添加剤を含む。添加剤は、りん原子を含む化合物を含む。りん原子を含む化合物は、鎖状カルボン酸エステルを含む溶媒を使用した非水電解液で、負極220表面上に被膜を形成する。りん原子を含む化合物により形成された被膜は、負極220と電解液との反応を抑制する。これにより、高温保存後の容量維持率の向上と電池抵抗の低減に寄与する。
【0044】
りん原子を含む化合物は、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、モノフルオロリン酸リチウム(Li2PFO3)及びジフルオロリン酸リチウム(LiPF2O2)、りん酸トリメチル、りん酸トリエチル、りん酸トリプロピル等があげられる。また、添加剤は、りん原子を含む化合物以外の化合物を含んでもよく、2種類以上含んでも良い。りん原子を含む化合物以外の化合物として、不飽和環状炭酸エステル、フッ素化環状炭酸エステル、スルホン酸エステル、酸無水物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物等があげられる。
【0045】
不飽和環状炭酸エステルの具体例は、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン及び炭酸メチレンエチレン等である。フッ素化環状炭酸エステルの具体例は、フルオロ炭酸エチレン及びジフルオロ炭酸エチレン等である。スルホン酸エステルの具体例は、1,3-プロパンスルトン及び1-プロペン-1,3-スルトン等である。酸無水物の具体例は、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、1,2-エタンジスルホン酸無水物、1,3-プロパンジスルホン酸無水物及び2-スルホ安息香酸無水物等である。ニトリル化合物の具体例は、スクシノニトリル、グルタロニトリル及びアジポニトリル等である。イソシアネート化合物の具体例は、ヘキサメチレンジイソシアネート等である。添加剤の電解液への添加量は特に限定されないが、10%未満であることが好ましい。
【0046】
(実施例)
図3は、実施例及び比較例に係る二次電池の電池特性を示す表である。
図4は、実施例及び比較例に係る二次電池の、積分強度比と、容量維持率及び抵抗上昇率の関係を示すグラフである。
図3に示すように、実施例1から実施例5の二次電池は、主に非水電解液に含まれる添加剤(LiPF
6)の含有量を異ならせて作製した。
【0047】
具体的には、実施例1から実施例5の非水電解液は、それぞれ、非水溶媒に電解質塩を添加して、その非水溶媒を撹拌する。その後、非水溶媒に添加剤(LiPF6)を加え、その非水溶媒を撹拌した。実施例1から実施例5の非水溶媒としては、環状炭酸エステルである炭酸エチレン(EC)と、鎖状カルボン酸エステルであるプロピオン酸プロピル(PrPr)を用いた。電解質塩としては、リチウムスルホニルイミド塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を用いた。添加剤としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、フッ素化環状炭酸エステルであるモノフルオロ炭酸エチレン(FEC)を用いた。非水溶媒の混合比(EC:PrPr)は3:7(重量比)とした。非水溶媒に対する電解質塩(LiFSI)の含有量は1.0(mol/kg)とした。非水電解液中におけるFECの含有量は3(重量%)とした。
【0048】
非水電解液中におけるLiPF6の含有量は、0.05(重量%)から1.0(重量%)まで異ならせている。より詳細には、実施例1から実施例5は、それぞれLiPF6の含有量を、0.05(重量%)、0.1(重量%)、0.2(重量%)、0.5(重量%)、1.0(重量%)とした。ここで、非水電解液中におけるLiPF6の含有量とは、LiPF6を含む非水電解液全体を100としたときの含有量である。
【0049】
比較例1、2は、上述した実施例1から実施例5に対して非水電解液中におけるLiPF6の含有量が異なる。具体的には、比較例1、2は、それぞれ非水電解液中のLiPF6の含有量を、2.0(重量%)、0(重量%)とした。比較例1、2の非水溶媒及び電解質塩の材料は、実施例と同様である。
【0050】
比較例3及び実施例6は、上述した実施例1から実施例5に対して非水溶媒が異なり、鎖状カルボン酸エステルであるプロピオン酸プロピル(PrPr)を含まない溶媒を用いた。具体的には、比較例3及び実施例6の非水溶媒としては、環状炭酸エステルである炭酸エチレン(EC)と、鎖状炭酸エステルである炭酸ジメチル(DMC)を用いた。非水溶媒の混合比(EC:DMC)は3:7(重量比)とした。比較例3及び実施例6は、それぞれ非水電解液中におけるLiPF6の含有量を、0(重量%)、0.5(重量%)とした。
【0051】
図3及び
図4に示すように、各実施例及び各比較例について、X線光電子分光法(以下、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)と表す)の測定結果から得られた積分強度比(P2p/S2p)、電池の保存試験後の容量維持率及び抵抗上昇率を測定した。
図4に示すグラフは、横軸が積分強度比(P2p/S2p)であり、縦軸が容量維持率(
図4左側)及び抵抗上昇率(
図4右側)である。
【0052】
(XPS測定方法)
アルゴン(Ar)雰囲気中で取り出した負極220(負極活物質層222)の表面をXPSにより測定した。
図5は、実施例5に係る二次電池の負極表面のXPS測定結果であって、第1ピークを模式的に示すグラフである。
図6は、実施例5に係る二次電池の負極表面のXPS測定結果であって、第2ピークを模式的に示すグラフである。
【0053】
図5に示すグラフ1及び
図6に示すグラフ2は、いずれも横軸が結合エネルギー(eV)であり、縦軸が光電子強度(a.u.)である。
図5に示すXPS測定による結合エネルギーと光電子強度との関係を示すスペクトル(以下、XPSスペクトルと表す)は、リン(P)の2pスペクトル(P2pスペクトル)を示す。
図5に示すように、P2pスペクトルの第1ピークP1は、132eV以上139eV以下の範囲に極大値を有する。
【0054】
図6に示すXPSスペクトルは、硫黄(S)の2pスペクトル(S2pスペクトル)を示す。
図6に示すように、S2pスペクトルの第2ピークP2は、167eV以上175eV以下の範囲に極大値を有する。ここで、第1ピークP1(P2p)と第2ピークP2(S2p)とのピークトップ間の結合エネルギー差は30eV以上45以下である。
【0055】
次に各ピークの積分強度算出方法について説明する。得られたXPSスペクトルのバックグラウンドは直線法により除去した。具体的には、それぞれのピークの極大値を示す結合エネルギーから-6eVのピーク強度と+6eVのピーク強度とを結んだ直線を基準線BGとする。XPSスペクトルにおいて基準線BG未満の強度をバックグラウンドとして除去した。バックグラウンドを除去したXPSスペクトルに対し、ピークトップから±6eVの領域内(
図5、
図6で斜線を付けた領域)の積分強度を、それぞれ第1ピークP1の積分強度PA、第2ピークP2の積分強度PBとした。
【0056】
図3及び
図4に示す積分強度比(P2p/S2p)は、各実施例のXPSスペクトルにおいて、第1ピークP1の積分強度PA(
図5参照)と第2ピークP2の積分強度PB(
図6)との比(PA/PB)を算出した示す。言い換えると、積分強度比が大きいほど、リン化合物(LiPF
6)に由来して負極220の表面に形成される被膜の量が多くなるといえる。
【0057】
(電池の保存試験方法)
各実施例及び各比較例の二次電池は、それぞれ1Cレートで3.6Vまで定電流/低電圧条件で充電した。その際、カットオフ条件を5mAとした。ここで、1Cとは1hで電池を満充電できる電流を表す。その後0.2Cレートで2.0Vまで定電流放電し、その時の電池容量を初期容量Caとした。その後再び、上記の条件で充電し、90℃の恒温槽に入れ、60日後の電池の状態を調べた。90℃に保存した電池は再び上記の条件で充電、放電し、その時の放電電池容量をCbとした。容量維持率とは、Cb/Ca×100(%)として算出した。
【0058】
また、電池の抵抗は、1Cレートで3.6Vまで定電流/定電圧条件で充電した状態で1kHzの交流インピーダンス測定(23℃)により調べた。抵抗上昇率は90℃に電池を保存する前の電池の抵抗をRa、90℃で60日間保存した後、上記の条件で充電した後の抵抗をRbとしたときに、Rb/Ra×100-100(%)により算出した。
【0059】
図3及び
図4に示すように、実施例1から実施例5は、それぞれ非水電解液中のLiPF
6の含有量が、0.05(重量%)から1.0(重量%)まで大きくなるにしたがって、積分強度比(P2p/S2p)が大きくなる傾向を示す。具体的には、実施例1から実施例5は、積分強度比が0.05以上0.32以下である。
【0060】
積分強度比が0.05以上0.32以下の範囲である実施例1から実施例5では、保存試験後の容量維持率が76.4%以上81.3%以下の範囲であり、また、保存試験後の抵抗上昇率が27.4%以上48.4%以下の範囲である。
【0061】
より好ましくは、積分強度比が0.11以上0.20以下の範囲である実施例2から実施例4では、保存試験後の容量維持率が77.4%以上81.3%以下の範囲であり、また、保存試験後の抵抗上昇率が27.4%以上31.1%以下の範囲である。つまり、実施例2から実施例4では、積分強度比が0.11以上0.20以下の範囲とすることで、保存試験後の容量維持率が向上し、かつ、保存試験後の抵抗上昇率がより抑制される。
【0062】
これに対し、比較例1は、非水電解液中のLiPF6の含有量が2.0(重量%)であり、積分強度比は0.55を示す。比較例2は、非水電解液中のLiPF6の含有量が0(重量%)、すなわちLiPF6添加がなしであり、積分強度比は0を示す。すなわち、比較例1の積分強度比は各実施例よりも大きい値を示し、比較例2の積分強度比は各実施例よりも小さい値を示す。
【0063】
LiPF6を2.0wt%含有する比較例1(積分強度比0.55)では、保存試験後の容量維持率が78.5%であり実施例と同等の値であるものの、保存試験後の抵抗上昇率が104.6%であり実施例に比べて大きい値となる。一方、LiPF6を含有しない比較例2(積分強度比0)では、保存試験後の抵抗上昇率が48.0%であり実施例と同等の値であるものの、保存試験後の容量維持率が75.6%であり実施例よりも小さい値である。
【0064】
以上のように、積分強度比が0.05以上0.32以下の範囲である実施例1から実施例5では、負極220表面上に、りん原子を含む化合物により形成された被膜の量が適切な範囲に制御されることで、保存試験後の容量維持率が向上し、かつ、保存試験後の抵抗上昇率が抑制されることが示された。
【0065】
次に、非水溶媒として、プロピオン酸プロピル(PrPr)に換えて炭酸ジメチル(DMC)を用いた比較例3及び実施例6について説明する。LiPF6を0.5wt%含有する実施例6は、LiPF6を含有しない比較例3に対して、保存試験後の容量維持率が76.3%から77.6%に向上するものの、保存試験後の抵抗上昇率が32.5%から34.0%に上昇する。言い換えると、比較例3及び実施例6は、LiPF6の添加による、保存試験後の抵抗上昇率を抑制する効果が得られない。
【0066】
実施例6は、実施例1より容量維持率が高く、抵抗上昇率が低くなっている。実施例6と同じLiPF6の含有量で、非水溶媒として鎖状カルボン酸エステルであるプロピオン酸プロピル(PrPr)を用いた実施例4では、積分強度比が0.20であり、実施例6の積分強度比0.05よりも大きい値を示す。また、比較例3及び実施例6と同じLiPF6の含有量で、非水溶媒として鎖状カルボン酸エステルであるプロピオン酸プロピル(PrPr)を用いた比較例2と実施例4との比較を見ると、LiPF6を0.5wt%含有する実施例4は、LiPF6を含有しない比較例2に対して、保存試験後の容量維持率が75.6%から81.3%に向上し、かつ、保存試験後の抵抗上昇率が48.0%から27.4%に抑制される。
【0067】
以上のように、非水溶媒が環状カーボネート化合物(炭酸エチレン(EC))及び鎖状カルボン酸エステル(プロピオン酸プロピル(PrPr))を含む実施例1から実施例5は、鎖状カルボン酸エステルを含まない比較例3及び実施例6に比べて、LiPF6の添加により保存試験後の容量維持率が向上し、かつ、抵抗上昇率が抑制されることが示された。
【0068】
なお、
図3、4に示した各実施例の材料及び含有量は、あくまで一例であり、他の材料であってもよい。例えば、非水溶媒として炭酸エチレン(EC)とは異なる環状カーボネート化合物を含んでいてもよいし、プロピオン酸プロピル(PrPr)とは異なる鎖状カルボン酸エステルを含んでいてもよい。
【0069】
なお、
図1では、円筒型の電池缶11を有する二次電池1の構成について示したが、あくまで一例であり、これに限定されない。二次電池1は、ラミネートフィルム型であってもよいし、ボタン型電池であってもよい。あるいは、二次電池1は、巻回電極体200を有する構成に限定されず、積層構造であってもよい。
【0070】
なお、上記した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 二次電池
11 電池缶
12 電池蓋
13 熱感抵抗素子(PTC素子)
14 安全弁機構
15 ガスケット
16 正極リード
17 負極リード
18 絶縁板
19 センターピン
200 巻回電極体
210 正極
211 正極集電体
212 正極活物質層
220 負極
221 負極集電体
222 負極活物質層
230 セパレータ