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特開2023-134046太陽光発電装置及び太陽光発電装置のコーティング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134046
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】太陽光発電装置及び太陽光発電装置のコーティング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/048 20140101AFI20230920BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230920BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01L31/04 560
B05D7/24 302A
B05D7/14 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039376
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】516218384
【氏名又は名称】ハドラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108442
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義孝
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】池田 正範
(72)【発明者】
【氏名】小田原 玄樹
【テーマコード(参考)】
4D075
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
4D075BB92Y
4D075CA48
4D075CB06
4D075DA06
4D075DB13
4D075DB43
4D075DB48
4D075DC18
4D075EB02
4D075EB42
5F151BA16
5F151BA18
5F151JA03
5F251BA16
5F251BA18
5F251JA03
(57)【要約】
【課題】太陽光発電装置本来の機能を阻害することなく発電効率を高めることができる太陽光発電装置及び太陽光発電装置のコーティング方法を提供する。
【解決手段】太陽電池セル7と、太陽電池セル7の表面側に配置される透光性を有する保護部材5と、を備える太陽光発電装置1であって、保護部材5の少なくとも表面5a側にはSiOを主成分とする薄膜のコーティング膜110が被膜されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池セルと、前記太陽電池セルの表面側に配置される透光性を有する保護部材と、を備える太陽光発電装置であって、
前記保護部材の少なくとも表面側にはSiOを主成分とする薄膜のコーティング膜が被膜されていることを特徴とする太陽光発電装置。
【請求項2】
前記コーティング膜は、前記保護部材の表面に10μm以下の厚さで被膜されていることを特徴とする請求項1に記載の太陽光発電装置。
【請求項3】
前記コーティング膜は、表面の算術平均粗さRaが0.1~0.5nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽光発電装置。
【請求項4】
前記コーティング膜は、SiOを主成分とし、シロキサン結合による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた無機有機複合構造を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項5】
前記保護部材は、SiOを主成分としていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項6】
前記コーティング膜は、炭素成分を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項7】
前記炭素成分は、前記コーティング膜の厚さ方向に、前記保護部材側よりも該コーティング膜の表面側が密に分散されていることを特徴とする請求項6に記載の太陽光発電装置。
【請求項8】
太陽電池セルの表面側に配置される透光性を有する保護部材の少なくとも表面側に対して無機若しくは有機ポリシラザンを主成分とするコーティング液を直接被覆することを特徴とする太陽光発電装置のコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電効率を高めることができる太陽光発電装置及び太陽光発電装置のコーティング方法に関する。
【0002】
近年、温暖化の原因となる二酸化炭素等の温室効果ガスを排出せず、環境に負荷をかけない再生可能エネルギを利用した発電システムとして、太陽光発電の普及が推進されている。
【0003】
太陽光発電装置は、ガラスや耐候性樹脂フィルム等からなる透光性を有する保護部材によって太陽光の受光面となる太陽電池セルの表面側が保護された太陽電池モジュールを備え、太陽電池モジュールが枠体により囲まれて保護された構造となっている(特許文献1参照)。
【0004】
このような太陽光発電装置は、枠体により囲われた太陽電池モジュールが太陽光を受けて内部に熱が滞留することにより温度が上昇しやすく、太陽電池モジュールと電気的に接続された端子ボックスも高温になり、太陽電池モジュールよりも耐熱性に劣る端子ボックスが損傷しやすくなってしまうという問題がある。特許文献1の太陽光発電装置は、太陽電池モジュールと電気的に接続された端子ボックスを枠体の外側に配置させ、端子ボックスにおける通気性をよくすることにより、端子ボックスの温度上昇を抑制して耐久性が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/140550号(第3頁~第5頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の太陽光発電装置においては、枠体により囲われた太陽電池モジュールが太陽光を受けて内部に熱が滞留することにより、太陽電池セルにおける発電効率を低下させてしまう虞がある。また、特許文献1の太陽光発電装置においては、保護部材の表面に存在する微細な凹凸における光の反射や散乱により保護部材の表面側に熱を蓄積した蓄熱空気層が形成されやすく、当該蓄熱空気層の屈折率が大気の屈折率よりも大きくなることで蓄熱空気層に光が入射する際にフレネル反射が起こり光の透過率が減少するため、太陽電池セルにおける発電効率を一層低下させてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、太陽光発電装置本来の機能を阻害することなく発電効率を高めることができる太陽光発電装置及び太陽光発電装置のコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の太陽光発電装置は、
太陽電池セルと、前記太陽電池セルの表面側に配置される透光性を有する保護部材と、を備える太陽光発電装置であって、
前記保護部材の少なくとも表面側にはSiOを主成分とする薄膜のコーティング膜が被膜されていることを特徴としている。
この特徴によれば、保護部材の表面に存在する凹凸が薄膜かつ透光性を有するコーティング膜によって被膜され平滑度が向上することにより、コーティング膜の表面における光の反射や散乱による蓄熱空気層の形成を抑制し、光の透過率を向上させることができるため、太陽光発電装置本来の機能を阻害することなく、太陽電池セルにおける発電効率を高めることができる。
【0009】
前記コーティング膜は、前記保護部材の表面に10μm以下の厚さで被膜されていることを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング膜における光の吸収率を小さくし、光の透過率を向上させることができるため、太陽電池セルにおける発電効率を高めることができる。
【0010】
前記コーティング膜は、表面の算術平均粗さRaが0.1~0.5nmであることを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング膜の表面に存在する凹凸が蓄熱空気層の形成に寄与し難くなるため、光の透過に与える影響を小さくすることができる。
【0011】
前記コーティング膜は、SiOを主成分とし、シロキサン結合による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた無機有機複合構造を有することを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング膜の無機有機複合構造により、保護部材の表面形状の影響を受けにくいため、コーティング膜の表面の平滑度を高めやすい。
【0012】
前記保護部材は、SiOを主成分としていることを特徴としている。
この特徴によれば、保護部材とコーティング膜が共にSiOを主成分とすることにより、屈折率の差が小さくなるため、コーティング膜と保護部材の境界における光の反射を抑制して光の透過率を高めることができる。
【0013】
前記コーティング膜は、炭素成分を含有することを特徴としている。
この特徴によれば、炭素成分によりコーティング膜の内部に保護部材の表面からコーティング膜の表面側に向かう熱の通り道を形成することができるため、コーティング膜における放熱性を高めることができる。
【0014】
前記炭素成分は、前記コーティング膜の厚さ方向に、前記保護部材側よりも該コーティング膜の表面側が密に分散されていることを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング膜における放熱性を一層高めることができる。
【0015】
本発明の太陽光発電装置のコーティング方法は、
太陽電池セルの表面側に配置される透光性を有する保護部材の少なくとも表面側に対して無機若しくは有機ポリシラザンを主成分とするコーティング液を直接被覆することを特徴としている。
この特徴によれば、保護部材の表面に存在する凹凸が薄膜かつ透光性を有するコーティング膜によって被膜され平滑度が向上することにより、コーティング膜の表面における光の反射や散乱による蓄熱空気層の形成を抑制し、光の透過率を向上させることができるため、太陽光発電装置本来の機能を阻害することなく、太陽電池セルにおける発電効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る実施例1における太陽光発電装置を示す斜視図である。
図2】実施例1における太陽電池モジュールの構造を示す分解斜視図である。
図3】(a)~(c)は、実施例1における保護部材の表面側にコーティング膜が生成されるメカニズムを時系列で示す断面図である。
図4】コーティング膜が被膜されていない保護部材に入射する光の様子を示す拡大断面図である。
図5】実施例1におけるコーティング膜が被膜された保護部材に入射する光の様子を示す拡大断面図である。
図6】実施例1におけるコーティング膜が被膜された保護部材を通して太陽光発電装置内部から放射される電磁波(熱)の様子を示す拡大断面図である。
図7】コーティング膜の放熱性評価試験の結果を示す図である。
図8】実施例2におけるコーティング膜が被膜された保護部材を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る太陽光発電装置及び太陽光発電装置のコーティング方法を実施するための形態を図1図7を参照して以下に説明する。
【実施例0018】
図1に示されるように、太陽光発電装置1は、上面視長方形のパネル状に形成された太陽電池モジュール100と、アルミニウムやステンレス鋼等の金属材料により形成され太陽電池モジュール100の外周縁を囲う枠体101と、から構成されている。なお、太陽電池モジュール100と枠体101との間は、シーリング処理が施されることにより密封されている。
【0019】
図2に示されるように、本実施例における太陽電池モジュール100は、その表面側から裏面側に向けて順に、保護部材5、封止材6a、太陽電池セル7、封止材6b、バックシート8から構成されている。なお、説明の便宜上、図2においては、枠体101の図示を省略している。
【0020】
本実施例における保護部材5は、SiOを主成分とするガラスにより形成されており、透光性を有し、太陽光の受光面となる太陽電池セル7の表面側に配置されている。また、保護部材5は、太陽光の入射面となる表面5a側にSiOを主成分とし透光性を有するコーティング膜110が被膜されている(図2及び図3(c)参照)。
【0021】
なお、保護部材は、SiOを主成分とするガラスにより形成されるものに限らず、例えば透光性を有するとともに、耐候性や耐衝撃性に優れるアクリル樹脂やポリカーボネート等の樹脂により形成されるものであってもよい。
【0022】
封止材6a,6bは、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)により形成されており、透光性を有している。また、封止材6aは、保護部材5と太陽電池セル7との間に配置され、封止材6bは、太陽電池セル7とバックシート8との間に配置されている。なお、封止材は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂により形成されるものに限らず、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のその他の樹脂により形成されるものであってもよい。
【0023】
太陽電池セル7は、表面側、すなわち保護部材5側から入射する光を受光して発電を行う素子であり、シート状に形成されている。なお、太陽電池セルは、光エネルギを電気エネルギに変換することができ、変換された電気エネルギを外部に取り出すことができるものであれば、その構成は特に限定されない。
【0024】
バックシート8は、耐候性や耐衝撃性に優れるポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂により形成されている。なお、バックシートは、他の樹脂等により形成されるものであってもよく、透光性を有していなくてもよい。
【0025】
なお、本発明の太陽光発電装置を構成する太陽電池モジュールは、少なくとも太陽光の受光面となる太陽電池セルの表面側に保護部材が配置され、太陽光の入射面となる当該保護部材の少なくとも表面側にコーティング膜が被膜されているものであれば、それ以外の構成については上記した構成に限らない。
【0026】
次いで、本実施例1において保護部材5の表面側に被膜されるコーティング膜110について詳しく説明する。
【0027】
コーティング膜110は、保護部材5の表面5aにコーティング液10を直接塗布又は散布することにより被膜される(図3参照)。
【0028】
(コーティング液)
コーティング液10は、無機若しくは有機ポリシラザンを主成分として含有している。
【0029】
コーティング液が無機ポリシラザンを主成分とする場合、本実施例においては、少なくとも無機ポリシラザンが不活性溶剤によって希釈されている。
【0030】
詳しくは、コーティング液は、無機ポリシラザンを0.1~15質量%、不活性溶剤を85~99.9質量%の割合で含有している。なお、コーティング液は、アルキルシリケート縮合物を5~80質量%の割合で含有していてもよく、不活性溶剤は、微量(例えば0.01質量%)乃至99.9質量%の範囲で含有されていてもよい。
【0031】
より詳しくは、無機ポリシラザンは、ペルヒドロポリシラザン、すなわちSi-H結合とSi-N結合とN-H結合を有し、例えば下記一般式(1)で表される-(SiH-NH)-ユニットから構成される鎖状構造の無機のポリマーである。
【0032】
【化1】
【0033】
なお、無機ポリシラザンは、鎖状構造のものに限らず、環状構造を有するポリマーであってもよく、これらの構造を複合的に有するポリマーであってもよい。
【0034】
不活性溶剤は、無機ポリシラザンに対して不活性な溶剤であり、好適にはジブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テレピン油、ベンゼン、トルエン等の中から選択される。
【0035】
アルキルシリケート縮合物は、例えばテトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート、メチルポリシリケート及びエチルポリシリケートの中から選択される1種類又は2種類以上の縮合物である。
【0036】
なお、コーティング液が無機ポリシラザンを主成分とする場合、コーティング液における「主成分」とは、コーティング液により形成されるコーティング膜110において、SiOを主成分とする無機構造を構成するための主成分であり、本実施例のコーティング液においては、上記した無機ポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)が相当する。また、このコーティング液には、有機ポリシラザンが含まれることはない。
【0037】
コーティング液が有機ポリシラザンを主成分とする場合、本実施例においては、少なくとも有機ポリシラザンとアルキルシリケート縮合物が不活性溶剤によって希釈されている。
【0038】
詳しくは、コーティング液は、有機ポリシラザンを10~90質量%、アルキルシリケート縮合物を0~50質量%、不活性溶剤を0~80質量%の割合で含有している。なお、不活性溶剤は、ゼロ質量%すなわち含有されていなくてもよいし、又は微量(例えば0.1質量%)乃至80質量%の範囲で含有されていてもよい。
【0039】
より詳しくは、有機ポリシラザンは、Si-N結合と官能基(R~R)を有し下記一般式(2)で表される-(SiR-NR)-ユニットから構成されるポリマーであり、特に、Siと直接結びつく官能基R,Rの少なくともいずれかが炭素(C)を有するアルキル基等の有機官能基から構成される有機のポリマーである。
【0040】
【化2】
【0041】
なお、本実施例における有機ポリシラザンは、官能基(R~R)としてのメチル基(CH)の含有率が50%以上に構成されている。また、有機ポリシラザンは、1種類の-(SiR-NR)-ユニットから構成されるポリマーに限らず、官能基(R~R)の組成が異なる複数種類の-(SiR-NR)-ユニットから構成されるポリマーであってもよい。また、有機ポリシラザンは、鎖状、環状、或いは架橋構造を有するポリマーであってもよく、これらの構造を複合的に有するポリマーであってもよい。
【0042】
より具体的には、本実施例における有機ポリシラザンとして例えば、有機ポリシラザンは、下記一般式(3)で表される-(SiH(CH)-NH)-ユニット、-(Si(CH-NH)-ユニット、-(SiR(CH)-NR)-ユニットを含むポリマーであり、特に、-(SiR(CH)-NR)-ユニットにおける官能基Rは、H又はCHであり、Nと直接結びつく官能基Rが反応を促進させる有機官能基となっている。
【0043】
【化3】
【0044】
更に、有機ポリシラザンは、含有するポリマーの構造が異なる複数種類の有機ポリシラザンが混合されたものであってもよく、例えば上記した一般式(3)で表される複数種類の有機ポリシラザンや他の構造を有する有機ポリシラザンが混合されてもよい。例えば、本実施例においてはヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン又はテトラメチルジシラザンから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0045】
アルキルシリケート縮合物は、例えばテトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート、メチルポリシリケート及びエチルポリシリケートの中から選択される1種類又は2種類以上の縮合物である。
【0046】
不活性溶剤は、無機若しくは有機ポリシラザン及びアルキルシリケート縮合物に対して不活性な溶剤であり、好適にはジブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テレピン油、ベンゼン、トルエン等の中から選択される。
【0047】
なお、コーティング液が有機ポリシラザンを主成分とする場合、コーティング液における「主成分」とは、コーティング液により形成されるコーティング膜110において、SiOを主成分とし、シロキサン結合による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた無機有機複合構造を構成するための主成分であり、本実施例のコーティングにおいては、上記した有機ポリシラザンが相当する。また、コーティング液には、有機ポリシラザンと共に無機ポリシラザンが含まれていてもよいが、この場合、有機ポリシラザンが無機ポリシラザンよりも多く含有されるものとする。
【0048】
なお、コーティング液には、上記した無機若しくは有機ポリシラザンと、アルキルシリケート縮合物の他に、添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、特に限定されるわけではないが、炭素成分が1.0×10-6~1.0質量%添加されていることが好ましい。
【0049】
炭素成分は、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、ナノグラフェン、グラファイト、カーボンナノホーン、カーボンナノバッド、カーボンナノファイバ、カーボンブラック、ナノダイヤモンド等から選択され、複数種類の炭素成分を混合したものが添加されてもよい。また、炭素成分の添加量は、使用される炭素成分の種類に応じて適宜調整されてよい。
【0050】
(コーティング膜の被覆手順)
図3に示されるように、コーティング液10を被覆対象となる保護部材5の表面5aに直接塗布又は散布する。これにより、コーティング液10に含まれる成分が水分と化学反応して単層又は複数層の薄膜のコーティング膜110を形成する。なお、本発明において「薄膜」とは数μm以下(10μm未満)の被膜を意味するものであり、コーティング膜110の膜厚として好ましくは10μm以下、より好適には5nm~5μmの被膜として成層したものである。また、無機有機複合構造を有するコーティング膜は、無機構造を有するコーティング膜よりも膜厚が大きくなりやすい。
【0051】
なお、コーティング膜110の形成よりも前に、前工程として、保護部材5の表面5aに精製水等の水(HO)を不織布若しくは霧吹き等で付着させてもよい。このようにすることで、保護部材5の表面5aに付着させた水分とコーティング液10に含まれる成分との化学反応を促進させ、保護部材5の表面5aに迅速かつ強固にコーティング膜110を形成することができる。
【0052】
(コーティング膜の形成のメカニズム)
次に、本発明に係るコーティング膜110が形成されるメカニズムについて説明する。なお、ここではコーティング液10が無機ポリシラザンを主成分とする場合を例に挙げて説明する。図3(a)に示されるように、保護部材5の表面5aには多くの場合、結露や空気中の湿気により例え僅かでも複数の水分4,4,‥(水滴)が付着している。この保護部材5の表面5aにコーティング液10を薄膜状に塗布又は散布して被覆すると、コーティング液10に含まれる無機ポリシラザンであるペルヒドロポリシラザンが、空気中の水分(HO)と化学反応することで、保護部材5の表面5aにSiOを主成分とする無機構造を有する被覆層が生成される。なお、上記した化学反応で微量の気体(NH,H)が副次的に生成されるが、これらの気体は当然のことながら保護部材5の表面5aに残らず大気中に揮発する。
【0053】
すなわち、図3(b)に示されるように、コーティング液10は、空気に接する表層面10aにて、空気中に含まれる水分と化学反応することで、コーティング膜110の副生成物である水素やアンモニア等のガスが表層から揮発するとともに、コーティング膜110の表面側の被覆層111が生成される。
【0054】
また、保護部材5の表面5aに被覆されたコーティング液10は、保護部材5の表面5aに接する背層面10bにて、表面5aに付着した水分4,4,‥(水滴)又は表面5aに終端として存在しているヒドロキシル基-OHと化学反応することで、水素やアンモニア等のガスが被覆層内を上昇し表層から揮発するとともに、コーティング膜110の背面側の被覆層112が生成される。
【0055】
このように、先ずコーティング液10の表層面10a及び背層面10bにてそれぞれ被覆層111,112が生成される。次に、表層側から背層側に向けて被覆層111を拡層するとともに、背層側から表層側に向けて被覆層112を拡層することで、順次中間の被覆層を生成し、最終的に外気に接する表層面110aと、保護部材5の表面5aに接する背層面110bと、に亘るSiOを主成分とするコーティング膜110が生成される。なお、コーティング液10が有機ポリシラザンを主成分とする場合も、シロキサン結合による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた無機有機複合構造を有するコーティング膜となる点以外、コーティング膜110が形成されるメカニズムは略同一である。
【0056】
このように、本発明の太陽光発電装置1を構成する保護部材5の表面5aに被膜されるコーティング膜110は、無機若しくは有機ポリシラザンを反応させて生成したSiOを主成分とすることで、平面的に広がり易く且つ密度の高い被膜層を形成できるため、ナノレベルの薄膜構造を達成することができる。
【0057】
また、本発明に係る太陽光発電装置のコーティング方法は、スパッタリングによるコーティング方法のように真空装置内で被覆施工を行う必要がなく、既設の常圧の屋内環境或いは屋外環境での被覆施工が可能であり、施工が簡便である。
【0058】
図4に示されるように、コーティング膜110を被膜する前の保護部材5の表面5aには、製造工程等で生じる小傷等によりマイクロレベルの微細な多数の凹凸部が形成されており、鏡面加工等の表層処理が行われたものであっても、微細な多数の凹凸部3が形成されている。なお、保護部材5の表面5aに形成された凹凸部3は、保護部材5の単位面積当たりの個数や凹部の深さ、凸部の高さにバラつきがあり不均一に分布したものである。
【0059】
コーティング液10は、保護部材5の表面5aを被覆するとともに凹凸部3内に入り込んだ状態で、上記したように硬化することで、これらの凹凸部3内に入り込んで硬化したコーティング膜110の一部がアンカー部117(図5参照)として機能するため、コーティング膜110は保護部材5の表面5aに対しより強固に密着する。すなわち、コーティング膜110は、保護部材5の表面5aにコーティング液10を直接塗布又は散布して被膜されることにより、保護部材5の表面5aに対して化学的かつ物理的に強固に密着する。
【0060】
また、コーティング膜110のアンカー部117は、保護部材5の表面5aに形成される凹凸部3を隙間なく埋めるように密着するため、コーティング膜110と保護部材5との間には、空気が取り残された空間が存在しない。すなわち、コーティング膜110は、保護部材5の表面5aにコーティング液10を直接塗布又は散布して被膜されることにより、コーティング膜110と保護部材5が完全に密着し、SiOを主成分とする一体構造を構成することができる。
【0061】
(コーティング膜の表面の形状)
図3に示されるように、保護部材5の表面5aに被覆されたコーティング膜110の表面は、副生成物であるガスの気泡が揮発した箇所の跡に、コーティング膜110の表層面110a上にナノレベルで凹凸形状を成す凹凸部116が形成される。より詳しくは、上記した化学反応により水素やアンモニア等の気泡が多数生成され、これらの気泡がコーティング膜110の平滑な表層面110aから空気中に向け放出される際に、気泡に接するコーティング膜110の表層面110aに生じる表面張力の影響、及び化学反応に伴うこの表層面110aの初期硬化のタイミングの影響が相俟って、当該平滑面にナノレベルの凹部116b及び凸部116aからなる凹凸部116を形成するものと想定される。
【0062】
また、被覆前の保護部材5の表面5aに当初形成された凹凸部3よりも、コーティング膜110の表面に形成される凹凸部116の方が凹凸の深さ・高さ寸法が小さいため、保護部材5の表面5aにコーティング膜110を被覆することで平滑度が向上する。言い換えれば、保護部材5の表面5aにおける表面粗さよりもコーティング膜110の表層面110aにおける表面粗さの方が小さくなる。なお、本発明におけるコーティング膜110の表面(表層面110a)の算術平均粗さRaは、0.1~1.0nmであることが好ましく、更に好ましくは0.1~0.5nmである。なお、図3図5及び図6では凹凸部116の凹凸寸法を実寸よりもデフォルメして示している。
【0063】
なお言うまでもないが、上記した副生成物であるガスは、コーティング膜110の表面に一様に生成されるものであることから、凹凸部116は、コーティング膜110の単位面積当たりの個数や凹部の深さ、凸部の高さにバラつきを生じることなく略均一に形成されるものである。すなわち、保護部材5の表面5aにコーティング膜110を被覆することで、保護部材5の表面5aに当初形成された凹凸部3よりも微細なナノレベルの凹凸部116が略均一に分布する。なお、凹凸部116は、コーティング膜110の表面において凹部116b及び凸部116aがランダムに分布しており、規則的に分布するものではない。
【0064】
また、上記したように、コーティング膜110の表面に形成される凹凸部116は、コーティング膜110の形成過程における副生成物であるガスの気泡がコーティング膜110の平滑な表層面110aから気中に向け放出される際に形成されるものであるため、当該平滑面にそれぞれが独立した凹部116b及び凸部116aを形成する。すなわち、コーティング膜110の表面には、ナノレベルで目の細かい凹凸が略均一に形成されることにより、表面積が大きくなるため、放熱性の向上にも寄与する。
【0065】
なお、凹凸部116を構成する凸部116aは、高さ10nm以下の突起として形成されるものと想定される。また、凸部116aは、コーティング膜110の形成過程に基づき、その断面積が下方(表層面110a側)に行くに従って増えていく釣鐘形に形成されるものと想定される。
【0066】
次に、コーティング膜110が被膜された保護部材5に対する光の入射について説明する。なお、図4に示されるように、コーティング膜110が被膜される前の保護部材5の表面5aは、凹凸部3において光の反射や散乱が生じることにより、保護部材5の光の透過率が減少する。また、上記した凹凸部3における光の反射や散乱により、保護部材5の表面5a側に熱を蓄積した蓄熱空気層A2が形成されやすく、当該蓄熱空気層A2の屈折率が大気A1の屈折率よりも大きくなることで蓄熱空気層A2に光が入射する際に大気A1と蓄熱空気層A2との境界B1においてフレネル反射が起こり光の透過率が減少する。すなわち、コーティング膜110が被膜される前の保護部材5の表面5aにおいては、大気A1と蓄熱空気層A2との境界B1に光が入射する際と、保護部材5の表面5aに光が入射する際にそれぞれ反射が起こり、最終的に保護部材5における光の透過率が一層減少することとなる。
【0067】
保護部材5の表面5aに薄膜かつ透光性を有するコーティング膜110が被膜され平滑度が向上することにより、コーティング膜110の表面における光の反射や散乱による蓄熱空気層の形成を抑制することができる。詳しくは、図5に示されるように、コーティング膜110は、保護部材5の表面5aに当初形成された凹凸部3を隙間なく埋めるように形成され平滑度が向上することにより、凹凸部116において光の反射や拡散が起こりにくく、コーティング膜110の表面の空気層A3への熱の蓄積が抑制される。これにより、空気層A3の屈折率と大気A1の屈折率の差が小さくなり、空気層A3に光が入射する際に大気A1と空気層A3との境界B2においてフレネル反射が起こらず、コーティング膜110への光の透過に与える影響を小さくすることができる。
【0068】
また、コーティング膜110の平滑な表層面110aには、上記したようにナノレベルの無数の凸部116aが形成されている。凸部116aは、断面積の変化が上から下に緩やかに連続して大きくなっていることにより、大気A1(空気層A3)から凸部116aに入射する光に屈折率の大きな変化の影響を与えることなく、ほとんど反射させずにコーティング膜110内に透過させることができ、光の透過率を向上させることができる。
【0069】
また、コーティング膜110は、保護部材5の表面5aに10μm以下の厚さで被膜されているため、コーティング膜110における光の吸収率を小さくし、光の透過率を向上させることができる。また、コーティング膜110の体積に対する表面積を大きくすることができるため、コーティング膜110の表面に形成される凹凸部116が放熱性の向上に寄与しやすい。
【0070】
また、上記したようにコーティング膜110と保護部材5との間には、空気が取り残された空間が存在せず、コーティング膜110と保護部材5が密着したSiOを主成分とする一体構造を構成しているとともに、保護部材5とコーティング膜110が共にSiOを主成分とすることで屈折率の差が小さくなるため、コーティング膜110と保護部材5との境界における光の反射を抑制して光の透過率を高めることができる。
【0071】
以上説明したように、保護部材5の表面5aに存在する凹凸部3が薄膜かつ透光性を有するコーティング膜110によって被膜され平滑度が向上することにより、コーティング膜110の表面における光の反射や散乱による蓄熱空気層の形成を抑制し、光の透過率を向上させることができるため、太陽光発電装置1本来の機能を阻害することなく、太陽電池セル7における発電効率を高めることができる。
【0072】
また、コーティング膜110は、表面の算術平均粗さRaが0.1~0.5nmであることにより、コーティング膜110の表面に存在する凹凸部116が蓄熱空気層の形成に寄与し難くなるため、光の透過に与える影響を小さくすることができる。
【0073】
また、コーティング膜110の表面にナノレベルの無数の凸部116aが形成されることにより、入射角度が大きな光の反射を抑制することができるため、太陽電池セル7における発電効率を高めることができる。
【0074】
また、保護部材5の表面5aに存在する凹凸部3が薄膜かつ透光性を有するコーティング膜110によって被膜され平滑度が向上することにより、コーティング膜110の表面において例えば汚れから水に溶け出したミネラル等の成分に由来するナノレベルの微細な汚れの蓄積を抑制することができる。
【0075】
また、保護部材5の表面5aに存在する凹凸部3が薄膜かつ透光性を有するコーティング膜110によって被膜され平滑度が向上することにより、新たな傷の発生も抑制することができる。このように、保護部材5の表面5aにコーティング膜110を被膜することにより、太陽光発電装置1における発電効率を長期に亘り維持することができる。
【0076】
また、保護部材5の表面5aにコーティング膜110が被膜されることにより、太陽光発電装置1の内部で発生した熱を赤外線波長域の振動数を持った電磁波として大気中に放射させやすくすることができる。詳しくは、コーティング膜110は、保護部材5の表面5aに当初形成された凹凸部3を隙間なく埋めるように形成され平滑度が向上することにより、コーティング膜110の表面において電磁波の反射や拡散が起こりにくく、放熱性を高めることができるものと想定される。また、図6に示されるように、コーティング膜110の表面にナノレベルの凹部116b及び凸部116aが存在することにより、コーティング膜110の表面に対する入射角が大きな電磁波についても反射されることなく、大気A1に放射されるため、放熱性を一層高めることができるものと想定される。すなわち、太陽光発電装置1の内部における熱の滞留を抑制し、太陽電池セル7における発電効率の低下を抑制することができる。
【0077】
(放熱性評価試験)
太陽光発電装置を構成する保護部材の表面に対して、無機ポリシラザンを主成分とするコーティング液、有機ポリシラザンを主成分とするコーティング液をそれぞれ膜厚500nm以下となるように塗布し、これらの太陽光発電装置と、コーティング液を塗布しない太陽光発電装置に対して屋外で太陽光を当てた場合の保護部材(コーティング膜)の表面温度を赤外線サーモグラフィカメラ(FLIR製 型番FLIR-E63900,T198547)により測定することによりコーティング膜の放熱性の評価を行った。なお、保護部材はガラスにより形成されたものであり、赤外線カメラによる測定箇所は、保護部材(コーティング膜)の中央に照準を合わせることにより統一した(図7参照)。また、測定時の天気は快晴、気温は9℃、湿度は30%であった。
【0078】
コーティング膜が被覆されていない保護部材の表面温度は2.8℃であった(図7(a)参照)。これに対し、無機構造を有するコーティング膜が被膜されている保護部材の表面温度は4.5℃(図7(b)参照)、無機有機複合構造を有するコーティング膜が被膜されている保護部材の表面温度は5.2℃(図7(c)参照)であり、表面温度が上昇することを確認した。これは、コーティング膜が被膜されている保護部材の表面における放熱性が向上することにより、太陽光発電装置の内部の熱が放射されているものと考察される。
【0079】
また、無機構造を有するコーティング膜が被膜されている保護部材よりも無機有機複合構造を有するコーティング膜が被膜されている保護部材の表面温度が高くなった。これは、無機有機複合構造を有するコーティング膜の膜厚が大きくなりやすいことから、保護部材5の表面形状の影響を受けにくく、コーティング膜の表面の平滑度が一層向上しているものと考察される。
【0080】
また、無機構造を有するコーティング膜の表面は親水性となるが、無機有機複合構造を有するコーティング膜は、コーティング膜の表面に撥水性を持たせることができるため、コーティング膜の表面への汚れの付着を抑制することもできる。
【実施例0081】
次に、実施例2に係る太陽光発電装置について説明する。なお、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0082】
本実施例2において、コーティング液には、炭素成分としてカーボンナノチューブ(CNT)が1.0×10-6~1.0質量%添加されている。
【0083】
また、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブのいずれかであり、これらを混合したものであってもよい。以下、本実施例においては、二層カーボンナノチューブを含めた複数層を有するカーボンナノチューブのことを多層カーボンナノチューブと言う。
【0084】
単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比べて透光性が高く、1.0×10-6~1.0質量%の添加量において生成されるコーティング膜の全光線透過率が90%以上となり、SiOを主成分とするコーティング膜本来の無色透明の状態が維持される。
【0085】
コーティング液には、添加剤としてのカーボンナノチューブが数μm程度の延長を維持した状態でコロイド状態で含有されることから、カーボンナノチューブがコーティング液中で分離したり沈降したり等することなく均一に分散されている。また、上記したようにコーティング液は、カーボンナノチューブが1.0質量%以下の少量のみ添加されていることから、黒色であるカーボンナノチューブの色調の影響をほとんど受けることなく、全体に透明性が極めて高く、いわゆる無色透明の状態である。本実施例2において、コーティング液におけるカーボンナノチューブの分散度は0.10~0.60であり、すなわち高い分散度を示している。なお、分散度は、顕微レーザラマン分光測定装置(RENISHAW製 型番InVia Reflex)を用いて評価した。
【0086】
また、図8に示されるように、このコーティング膜210の層内には、コーティング液に含まれる炭素成分としてのカーボンナノチューブ20が多数混在しており、その一部が後述するように表層面210aに表出している。また、カーボンナノチューブ20の一部は、背層面210bやアンカー部217にも表出しており、保護部材5の表面5aに接触することで、凹凸の多い表面、すなわちその広い比表面積により、保護部材5の表面5aに対するコーティング膜210の密着性を更に高めることができる。なお、本実施例2のコーティング膜210の膜厚は、5~500nmである
【0087】
更に、表層面210a上には、コーティング膜210内に混在するカーボンナノチューブ20の一部表面が外部に露出した状態で固定されている。なお、本実施例2において、カーボンナノチューブ20は、平均外径1.1~2.1nm、かつ繊維長(延長)が1~10μm程度(平均延長略5μm)の単層カーボンナノチューブであり、非常にアスペクト比が高く、且つ枝分かれのない一本毎に独立した繊維状に形成されている。
【0088】
また、カーボンナノチューブ20は、コーティング膜210の面方向に均一に分散されている。コーティング膜210におけるカーボンナノチューブ20の分散度は0.10~0.60であり、すなわち高い分散度を示している。なお、分散度は、顕微レーザラマン分光測定装置(RENISHAW製 型番InVia Reflex)を用いて評価した。
【0089】
より詳しくは、前述したように、コーティング液の主成分である無機ポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)が水分(HO)と化学反応して副次的に気体(NH,H)を生成し、これらの気体がコーティング液中の周辺のカーボンナノチューブ20を伴いながら上昇する。よって図8に示されるように、コーティング液中の一部のカーボンナノチューブ20は、コーティング膜210の表層面210a近傍に寄せ集まり、特に気体の揮発によって表層面210a上に形成される凹凸部216に集まることになる。すなわち、カーボンナノチューブ20は、成膜過程における気体の揮発に起因して、コーティング膜210の厚さ方向に、保護部材5の表面5a側が疎で、この保護部材5の表面5a側よりも該コーティング膜210の表層面210a側が密に分散されている。これにより、コーティング膜210の表層面210a側の機械的強度が効率よく高められるとともに、表層面210aの略全面に多数のカーボンナノチューブ20が互いに接触しながら細網状に張り巡らされるため、特に表層面210aにおける放熱性が向上する。また、カーボンナノチューブ20の延長(略5μm)は、本実施例2のコーティング膜210の膜厚(5~500nm)よりも長いことから、一部のカーボンナノチューブ20は、コーティング膜210の厚さ方向に亘って配設され、その一端が保護部材5の表面5aに接触又は近接するとともに、その他端がコーティング膜210の表層面210aに露出又は近接する。このようなカーボンナノチューブ20によって、保護部材5自体とコーティング膜210の表層面210aとの間に熱の通り道を形成することができるため、コーティング膜210における放熱性を高めることができる。
【0090】
また、コーティング膜210の表層面210a側に分散されたカーボンナノチューブ20の一部(端部若しくは端部を除く中間部)は、凸部216aの内部に埋設するように、表層面210aに配設されている。このようにすることで、コーティング後の太陽光発電装置1の使用に伴い、コーティング膜210の表層面210a上で突出形状を成す凸部216aの機械的強度が高まり、凸部216aが削られ難くなる。また、凸部216aが一部削られた場合にも、該凸部216a内に埋設されたカーボンナノチューブ20の一部が表面に露出するため、放熱性を高めることができる。更に、コーティング膜210の表層面210a側に分散されたカーボンナノチューブ20の一部(端部若しくは端部を除く中間部)は、凹部216bの内部に露出して配設されるため、コーティング膜210の成膜の初期から機械的強度及び放熱性を高めることができる。
【0091】
また、本発明に係るコーティング液を塗布することで保護部材5の表面5aに形成されたコーティング膜210は、そのベースが無機成分、すなわちSiOからなり、更にコーティング膜210内に混在するカーボンナノチューブ20等の炭素成分は安定した性質を有するため、保護部材5や外部に溶出・気化することなく、劣化せずに長期にわたり被膜状態を維持することができる。
【0092】
なお、コーティング液にカーボンナノチューブ20(図8参照)として多層カーボンナノチューブを添加する場合、カーボンナノチューブ20は、平均外径10nm、かつ繊維長(延長)が100~200μm程度(平均延長略150μm)の多層カーボンナノチューブであり、非常にアスペクト比が高く、且つ枝分かれのない一本毎に独立した繊維状に形成されている。
【0093】
また、カーボンナノチューブ20が多層カーボンナノチューブである場合、コーティング膜210の膜厚は、5nm~5μmに形成されることが好ましい。
【0094】
また、本実施例2では、コーティング液が無機ポリシラザンを主成分とする場合を例に挙げて説明したが、コーティング液は有機ポリシラザンを主成分としてもよい。
【0095】
これによれば、本実施例2の太陽光発電装置は、保護部材の表面に、SiOを主成分とし炭素成分を含有する薄膜のコーティング膜が被覆されることにより、SiOを主成分とすることで保護部材に対して極めて薄いコーティング膜を形成することができるため、コーティング膜の層内に炭素成分を少量で密集させることができ、コーティング膜に炭素成分による熱の通り道を形成し放熱性を持たせて太陽光発電装置の内部における熱の滞留を抑制して太陽電池セルにおける発電効率の低下を抑制することができる。
【0096】
また、炭素成分は、コーティング膜の面方向に均一に分散されていることにより、コーティング膜の膜構造を損なうことなく、コーティング膜の放熱性を高めることができる。また、炭素成分をコーティング膜の表面に効率よく分布させることができるため、炭素成分の添加量を少なくすることができる。
【0097】
また、炭素成分は、コーティング膜の厚さ方向に、保護部材側よりも該コーティング膜の表面側が密に分散されていることにより、コーティング膜の表面側において放熱性を効率よく高めることができる。
【0098】
また、コーティング膜が10μm以下の厚さの薄膜に成膜されることにより、コーティング液において、繊維長が1~10μm程度である単層カーボンナノチューブ、あるいは繊維長が100~200μm程度である多層カーボンナノチューブがベース剤に1.0×10-6~1.0質量%の割合で少量添加されているだけで放熱性を高める効果が得られるととともに、炭素成分の添加量が少なく製造コストを低減できる。
【0099】
また、本実施例2の太陽光発電装置は、コーティング膜に炭素成分、特にカーボンナノチューブが含有されているため、カーボンナノチューブに特有のラマンスペクトルを検出することにより、保護部材に対するコーティング膜の被覆の有無を評価することができるため、製品管理が容易である。
【0100】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0101】
例えば、前記実施例では、コーティング膜はSiOを主成分としているが、これに限らず、微量又はSiOに影響を与えない程度の少量であれば主成分として他の成分を含有してもよい。
【0102】
また、前記実施例では、保護部材の表面側にコーティング膜が被膜される態様について説明したが、これに限らず、コーティング膜は、少なくとも保護部材の表面側に被覆されていれば、保護部材の裏面側にも被膜されてよい。これによれば、保護部材の裏面もコーティング膜によって平滑化され光の透過率を一層高めることができるとともに、太陽光発電装置の内部における熱の滞留を抑制して太陽電池セルにおける発電効率の低下を抑制することができる。
【0103】
また、コーティング膜は、少なくとも保護部材の表面側に被覆されていれば、例えば太陽電池モジュールを構成するバックシートや、枠体の表面等に被膜されてもよい。これによれば、太陽光発電装置の内部における熱を放熱して太陽電池セルにおける発電効率の低下を抑制することができる。
【0104】
また、太陽電池モジュールは、太陽電池セルの裏面側、すなわちバックシート側からの光を受けて発電するものであってもよい。
【0105】
また、本発明の太陽光発電装置は、枠体の構成を有さず太陽電池モジュールのみで構成される、いわゆるフレームレス構造であってもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 太陽光発電装置
3 凹凸部
4 水分
5 保護部材
5a 表面
6a,6b 封止材
7 太陽電池セル
8 バックシート
10 コーティング液
20 カーボンナノチューブ(炭素成分)
100 太陽電池モジュール
101 枠体
110 コーティング膜
110a 表層面
110b 背層面
116 凹凸部
116a 凸部
116b 凹部
117 アンカー部
210 コーティング膜
210a 表層面
210b 背層面
216 凹凸部
216a 凸部
216b 凹部
217 アンカー部
A1 大気
A2 蓄熱空気層
A3 空気層
B1,B2 境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8