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特開2023-134049発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法、並びに熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。
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  • 特開-発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法、並びに熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。 図1
  • 特開-発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法、並びに熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。 図2
  • 特開-発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法、並びに熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134049
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法、並びに熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
C08J9/16 CER
C08J9/16 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039381
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 恭亮
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA16
4F074BA34
4F074CA32
4F074CB32
4F074CC04Y
(57)【要約】
【課題】発泡粒子の製造装置において、発泡槽の内温を精密に制御する。
【解決手段】製造装置(1)の温度制御部(6)は、内温SVと内温PVとからジャケット蒸気温度SVを出力する第1のPID制御器(6a)と、ジャケット蒸気温度SVをジャケット蒸気圧力SVに換算する圧力換算器(6b)と、ジャケット蒸気圧力SVとジャケット蒸気圧力PVとから制御弁(5)の開度を出力する第2のPID制御器(6c)と、を備え、発泡工程の途中段階において、第1のPID制御のパラメータを変更する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡粒子の発泡槽と、
前記発泡槽の外周部に設けられたジャケット部と、
前記ジャケット部へ蒸気を供給する供給管と、
前記供給管に設けられた、蒸気量を調節する制御弁と、
前記発泡槽の内温を所定の温度に制御する温度制御部と、を備え、
前記温度制御部は、
前記発泡槽の内温目標値と前記発泡槽の内温測定値とに基づいて第1のPID制御演算を行って前記ジャケット部の蒸気温度目標値を出力する第1のPID制御器と、
前記ジャケット部の蒸気温度目標値を圧力換算し前記ジャケット部の蒸気圧力目標値を出力する圧力換算器と、
前記ジャケット部の前記蒸気圧力目標値と前記ジャケット部の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御演算を行って前記制御弁の開度を出力する第2のPID制御器と、を備え、
(a)前記開度により前記制御弁の開閉を制御することで、前記ジャケット部の蒸気量を調節して、前記発泡槽の内温を所定温度に制御しており、
(b)前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータを変更する、発泡粒子の製造装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータの感度を、発泡工程開始時の感度よりも下げるよう制御するものである、請求項1に記載の発泡粒子の製造装置。
【請求項3】
前記温度制御部は、前記第1のPID制御演算のパラメータのうち、パラメータPの感度を下げるよう制御するものである、請求項2に記載の発泡粒子の製造装置。
【請求項4】
発泡粒子の発泡槽と、
前記発泡槽の外周部に設けられたジャケット部と、
前記ジャケット部へ蒸気を供給する供給管と、
前記供給管に設けられた蒸気量を調節する制御弁と、を備える、発泡粒子の製造装置における、前記発泡槽の内温を所定の温度に制御する温度制御工程を有する、発泡粒子の製造装置の温度制御方法であって、
前記温度制御工程は、
前記発泡槽における内温目標値と内温測定値とに基づいて第1のPID制御演算を行って前記ジャケット部の蒸気温度目標値を出力する第1のPID制御工程と、
前記ジャケット部の蒸気温度目標値を圧力換算し前記ジャケット部の蒸気圧力目標値を出力する圧力換算工程と、
前記ジャケット部の前記蒸気圧力目標値と前記ジャケット部の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御演算を行って前記制御弁の開度を出力する第2のPID制御工程と、を含み、
前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータを変更する、発泡粒子の製造装置の温度制御方法。
【請求項5】
前記温度制御工程は、前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータの感度を、発泡工程開始時の感度よりも下げるよう制御する工程を含む、請求項4に記載の発泡粒子の製造装置の温度制御方法。
【請求項6】
前記温度制御工程は、前記第1のPID制御演算のパラメータのうち、パラメータPの感度を下げるよう制御する工程を含む、請求項5に記載の発泡粒子の製造装置の温度制御方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の温度制御方法を一工程として含む、熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂である、請求項7に記載の熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法、並びに熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡粒子を製造する方法として、除圧発泡法が知られている。除圧発泡法では、発泡槽の外周部にジャケット部を設け、当該ジャケット部に対して蒸気を供給することにより、発泡槽の内温を制御している。
【0003】
さらに、近年では、一般的な反応槽において、ジャケット部の蒸気の圧力を制御することにより、反応槽の温度を制御する技術が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、反応末期の熱硬化性樹脂シラップを外周に加熱用ジャケットを設けた金属製円筒体の加熱壁面に沿って流下させ、反応を完了させると共に脱水を行う薄膜脱水装置において、ジャケットに高温蒸気を供給するバルブの操作を、装置始動初期にはジャケットの蒸気圧力のフィードバックによる定値制御によって行い、定常時には装置内温度のフィードバックによる定値制御に切替えるようにしたことを特徴とする薄膜脱水装置の温度制御方式が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、タンクや鍋及び釜の底や側面及び周囲に金属や磁性体のジャケット、又は、二重管を設置し、熱源により、直接ジャケット、又は、二重管を加熱し、ジャケット、又は、二重管で発生した熱によりタンクや鍋及び釜を保温及び加熱をするタンクや鍋及び釜の加熱方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57-51724号公報
【特許文献2】特開2007-236878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術を、発泡槽に対して用いた場合、発泡槽の内温制御の面で改善の余地があった。
【0008】
本発明の一態様は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、発泡槽の内温を精密に制御できる、発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度制御方法、並びに熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題解決のために鋭意検討を行った結果、発泡槽の内温目標値と発泡槽の内温測定値とに基づいて行う第1のPID制御、およびジャケット部の蒸気圧力目標値とジャケット部の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御を行う温度制御方法において、第1のPID制御のパラメータの感度を発泡途中で変更することが、発泡槽の内温制御性と相関があることを見出した。したがって、第1のPID制御のパラメータを変更することにより、発泡粒子の製造装置の温度をより正確に制御することが可能となり、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は、以下の構成を含むものである。
<1>発泡粒子の発泡槽と、前記発泡槽の外周部に設けられたジャケット部と、前記ジャケット部へ蒸気を供給する供給管と、前記供給管に設けられた、蒸気量を調節する制御弁と、前記発泡槽の内温を所定の温度に制御する温度制御部と、を備え、前記温度制御部は、前記発泡槽の内温目標値と前記発泡槽の内温測定値とに基づいて第1のPID制御演算を行って前記ジャケット部の蒸気温度目標値を出力する第1のPID制御器と、前記ジャケット部の蒸気温度目標値を圧力換算し前記ジャケット部の蒸気圧力目標値を出力する圧力換算器と、前記ジャケット部の前記蒸気圧力目標値と前記ジャケット部の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御演算を行って前記制御弁の開度を出力する第2のPID制御器と、を備え、(a)前記開度により前記制御弁の開閉を制御することで、前記ジャケット部の蒸気量を調節して、前記発泡槽の内温を所定温度に制御しており、(b)前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータを変更する、発泡粒子の製造装置。
<2>前記温度制御部は、前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータの感度を、発泡工程開始時の感度よりも下げるよう制御するものである、<1>に記載の発泡粒子の製造装置。
<3>前記温度制御部は、前記第1のPID制御演算のパラメータのうち、パラメータPの感度を下げるよう制御するものである、<2>に記載の発泡粒子の製造装置。
<4>発泡粒子の発泡槽と、前記発泡槽の外周部に設けられたジャケット部と、前記ジャケット部へ蒸気を供給する供給管と、前記供給管に設けられた蒸気量を調節する制御弁と、を備える、発泡粒子の製造装置における、前記発泡槽の内温を所定の温度に制御する温度制御工程を有する、発泡粒子の製造装置の温度制御方法であって、前記温度制御工程は、前記発泡槽における内温目標値と内温測定値とに基づいて第1のPID制御演算を行って前記ジャケット部の蒸気温度目標値を出力する第1のPID制御工程と、前記ジャケット部の蒸気温度目標値を圧力換算し前記ジャケット部の蒸気圧力目標値を出力する圧力換算工程と、前記ジャケット部の前記蒸気圧力目標値と前記ジャケット部の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御演算を行って前記制御弁の開度を出力する第2のPID制御工程と、を含み、前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータを変更する、発泡粒子の製造装置の温度制御方法。
<5>前記温度制御工程は、前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータの感度を、発泡工程開始時の感度よりも下げるよう制御する工程を含む、<4>に記載の発泡粒子の製造装置の温度制御方法。
<6>前記温度制御工程は、前記第1のPID制御演算のパラメータのうち、パラメータPの感度を下げるよう制御する工程を含む、<5>に記載の発泡粒子の製造装置の温度制御方法。
<7><4>~<6>のいずれかに記載の温度制御方法を一工程として含む、熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。
<8>前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂である、<7>に記載の熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、発泡槽の内温を精密に制御できる発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造装置全体を模式的に示した図である。
図2】本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造装置の温度の制御方法における、発泡槽の内温設定の一例を示したグラフである。
図3】実施例および比較例において、発泡工程における内温、内温偏差、ジャケット蒸気圧力SV、およびジャケット蒸気圧力PVの経時変化を示したグラフである。
図4】実施例および比較例において、発泡工程における内温、内温偏差、ジャケット蒸気圧力SV、およびジャケット蒸気圧力PVの、発泡の進捗度(発泡開始時:0%、発泡完了時:100%とする)に対する変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0014】
発泡粒子の製造方法の一つとして、除圧発泡法が知られている。除圧発泡法では、発泡槽の外周部にジャケット部を設け、制御弁の開度を調節して当該ジャケット部に対して蒸気を供給することにより、発泡槽の内温を制御することができる。
【0015】
従来、発泡槽の内温の制御は、第1のPID制御および第2のPID制御という2つのPID制御によって、ジャケット部へ供給するための制御弁の開度を制御することにより行うことが一般的であった。第1のPID制御では、発泡槽の内温目標値(以下、内温目標値と称する場合がある)と発泡槽の内温測定値(以下、内温測定値と称する場合がある)とに基づいてPID制御演算してジャケット部の蒸気温度目標値(以下、ジャケット蒸気温度目標値と称する場合がある)を出力する。また、第2のPID制御では、上記ジャケット蒸気温度目標値とジャケット部の蒸気温度測定値(以下、ジャケット蒸気温度測定値と称する場合がある)とに基づいてPID制御演算して制御弁の開度(以下、制御弁MVと称する場合がある)を出力する。しかし、第2のPID制御にて、ジャケット蒸気温度目標値とジャケット蒸気温度測定値とに基づいてPID制御演算する方法では、制御弁を開にしてからジャケット部の温度が上昇するまでに時間がかかり、制御弁を開閉した際の応答遅れ時間が長くなる。それゆえ、従来の発泡槽の内温制御方法では、制御弁を開閉した際の応答性が悪くなるので、内温制御性が悪くなるという欠点があった。
【0016】
ところで、近年では、一般的な反応槽において、ジャケット部の圧力制御により制御弁の開度を制御して、反応槽の内温を制御する技術が開示されている。ジャケット部の圧力制御により制御弁の開度を制御する方法では、制御弁を開閉した際の応答遅れ時間および反応槽の内温制御性が改善されることから、当該技術の発泡槽への利用が期待される。そこで、本願発明者らは、上記第2のPID制御にて、ジャケット部の圧力制御により制御弁の開度を制御すれば、発泡槽の内温制御性が改善されると考えた。具体的には、上記第2のPID制御において、ジャケット部の蒸気圧力目標値(以下、ジャケット蒸気圧力目標値と称する場合がある)とジャケット部の蒸気圧力測定値(以下、ジャケット蒸気圧力測定値と称する場合がある)とに基づいてPID制御演算する。
【0017】
しかしながら、上記第2のPID制御にて、ジャケット部の圧力制御により制御弁の開度を制御しても、上記応答性がある程度改善されるものの、発泡槽の内温を精密に制御する点でさらなる改善の余地があった。そこで、上記第2のPID制御にてジャケット部の圧力制御により制御弁の開度を制御した場合でも、発泡槽の内温を精密に制御できる、発泡槽の内温制御方法が要求されている。
【0018】
これらを踏まえ、本願発明者らは、上記要求を満たす発泡槽の内温制御方法を開発することを目的として鋭意検討を行った。そして、発泡工程中の発泡槽の内液変化に着目した。
【0019】
除圧発泡法においては、樹脂粒子の発泡に伴って発泡槽の内液が徐々に減少する。そのため、本願発明者らは、発泡時間に対して第1および第2のPID制御のパラメータを一定にして発泡槽の内温制御を行うと、発泡槽の内温が目標値からずれること、および、発泡槽の内液の量と、第1のPID制御のパラメータと、に相関関係があることを見出した。そして、発泡工程の途中段階において、第1のPID制御のパラメータを変更するように制御すると、発泡槽の内液変化に応じた制御が可能となり、発泡槽の内温を精密に制御できる、すなわち発泡槽の内温制御性が向上することを見出した。
【0020】
本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造装置(以後、「本製造装置」と称することがある。)は、発泡粒子の発泡槽と、前記発泡槽の外周部に設けられたジャケット部と、前記ジャケット部へ蒸気を供給する供給管と、前記供給管に設けられた、蒸気量を調節する制御弁と、前記発泡槽の内温を所定の温度に制御する温度制御部と、を備え、前記温度制御部は、前記発泡槽の内温目標値と前記発泡槽の内温測定値とに基づいて第1のPID制御演算を行って前記ジャケット部の蒸気温度目標値を出力する第1のPID制御器と、前記ジャケット部の蒸気温度目標値を圧力換算し前記ジャケット部の蒸気圧力目標値を出力する圧力換算器と、前記ジャケット部の前記蒸気圧力目標値と前記ジャケット部の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御演算を行って前記制御弁の開度を出力する第2のPID制御器と、を備え、(a)前記開度により前記制御弁の開閉を制御することで、前記ジャケット部の蒸気量を調節して、前記発泡槽の内温を所定温度に制御しており、(b)前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータを変更する、構成である。当該構成によれば、発泡槽の内温を精密に制御できる、発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法を提供することができるという利点を有する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造装置の温度の制御方法(以後、「本制御方法」と称することがある。)は、発泡粒子の発泡槽と、前記発泡槽の外周部に設けられたジャケット部と、前記ジャケット部へ蒸気を供給する供給管と、前記供給管に設けられた蒸気量を調節する制御弁と、を備える、発泡粒子の製造装置における、前記発泡槽の内温を所定の温度に制御する温度制御工程を有する、発泡粒子の製造装置の温度制御方法であって、前記温度制御工程は、前記発泡槽における内温目標値と内温測定値とに基づいて第1のPID制御演算を行って前記ジャケット部の蒸気温度目標値を出力する第1のPID制御工程と、前記ジャケット部の蒸気温度目標値を圧力換算し前記ジャケット部の蒸気圧力目標値を出力する圧力換算工程と、前記ジャケット部の前記蒸気圧力目標値と前記ジャケット部の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御演算を行って前記制御弁の開度を出力する第2のPID制御工程と、を含み、前記発泡粒子の発泡工程の途中段階において、前記第1のPID制御演算のパラメータを変更する、方法である。当該方法によれば、発泡槽の内温を精密に制御できる、発泡粒子の製造装置および当該製造装置の温度の制御方法を提供することができるという利点を有する。
【0022】
なお、本明細書および図面において、目標値を「SV」、測定値を「PV」と称することがある。これに伴い、発泡槽の内温目標値、発泡槽の内温測定値、ジャケット部の蒸気温度目標値、ジャケット部の蒸気圧力目標値、ジャケット部の蒸気圧力測定値をそれぞれ、内温SV、内温PV、ジャケット蒸気温度SV、ジャケット蒸気圧力SV、ジャケット蒸気圧力PVと称する場合がある。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造装置および製造装置の温度の制御方法を図1に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る発泡粒子の製造装置全体を模式的に示した図である。
【0024】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造装置1は、発泡槽2と、ジャケット部3と、供給管4と、制御弁5と、温度制御部6と、発泡槽温度計7と、ジャケット蒸気圧力計8と、撹拌機9と、蒸気ドレン10と、樹脂粒子排出弁11と、を備えている。供給管4は、ジャケット部3へ蒸気を供給する配管である。また、制御弁5は、供給管4に設けられており、ジャケット部3へ供給する蒸気量を調節する弁である。また、温度制御部6は、発泡槽2の内温を所定の温度に制御する。発泡槽温度計7は、発泡槽2の内温を測定するためのものある。また、ジャケット蒸気圧力計8は、ジャケット部3の蒸気圧力を測定するためのものである。
【0025】
発泡槽2は、除圧発泡法により発泡粒子を製造するための容器である。発泡粒子は、発泡槽2内に樹脂粒子、無機分散剤および分散助剤を含む水性分散液ならびに揮発性発泡剤を水と共に仕込み、昇温して一定圧力、一定温度として樹脂粒子に発泡剤を含浸させたのち、低圧雰囲気下に放出し(除圧発泡法)、さらに乾燥する方法により製造される。なお、発泡槽2内に仕込まれた物質は、撹拌機9により撹拌され、樹脂粒子排出弁11から排出される。
【0026】
本発明の一実施形態において、ジャケット部3は、発泡槽2の外周部に設けられ、内部に蒸気を含む。蒸気は、制御弁5が開かれている場合に、供給管4を通してジャケット部3に通気される。すなわち、製造装置1では、制御弁5の開閉により、ジャケット部3の蒸気量を調節することで、発泡槽2の内温が制御される。
【0027】
より詳述すると、制御弁5を開き、供給管4を通して蒸気をジャケット部3へと通気すると、蒸気が凝縮して水となる代わりに、凝縮熱が発泡槽2内へと伝熱し、発泡槽2の内温が上昇する。その一方で、制御弁5の開度を小さくすることにより、ジャケット部3への蒸気供給量が減少し、発泡槽2の内温が上昇しなくなる。なお、蒸気は凝縮し水となった後、蒸気ドレン10から排出される。
【0028】
温度制御部6は、第1のPID制御器6a、圧力換算器6b、および第2のPID制御器6cを含む。
【0029】
ここで、PID制御とは、目標値と測定値との差に応じて加える制御動作の一種である。本明細書において、制御偏差に応じて操作量を動かす動作をP動作、制御偏差の積分値に応じて操作量を動かす動作をI動作、制御偏差の微分値に応じて操作量を動かす動作をD動作と称する。本明細書において、PID制御とは、P動作、I動作、およびD動作の3動作の組み合わせにより、制御するプロセスのことを意図する。なお、本明細書において、P動作によるパラメータをパラメータP、D動作によるパラメータをパラメータD、I動作によるパラメータをパラメータIと称する。
【0030】
第1のPID制御器6aは、発泡槽2の内温目標値(内温SV)と発泡槽2の内温測定値(内温PV)とに基づいて第1のPID制御演算を行ってジャケット部3の蒸気温度目標値(ジャケット蒸気温度SV)を出力する。より具体的には、第1のPID制御器6aは、内温PVと内温SVとを比較し、内温PVが内温SVになるように、PID制御演算によりジャケット蒸気温度SVを出力する。なお、発泡槽2の内温測定値(内温PV)は、発泡槽温度計7により測定される。
【0031】
圧力換算器6bは、第1のPID制御器6aから出力したジャケット蒸気温度SVをジャケット部3の蒸気圧力目標値(ジャケット蒸気圧力SV)に換算する。ジャケット蒸気温度SVからジャケット蒸気圧力SVへの換算方式は、公知の蒸気温度から蒸気圧力への換算方式を採用することができる。当該換算方式として、例えば、後述のAntoine式に基づく換算が挙げられる。
【0032】
第2のPID制御器6cは、ジャケット部3の蒸気圧力目標値(ジャケット蒸気圧力SV)とジャケット部3の蒸気圧力測定値(ジャケット蒸気圧力PV)とに基づいて第2のPID制御演算を行って制御弁5の開度(制御弁MV)を出力する。より具体的には、第2のPID制御器6cは、ジャケット蒸気圧力SVとジャケット蒸気圧力PVとを比較し、ジャケット蒸気圧力PVがジャケット蒸気圧力SVになるように、PID制御演算により制御弁MVを出力する。なお、ジャケット部3の蒸気圧力測定値(ジャケット蒸気圧力PV)は、ジャケット蒸気圧力計8により測定される。
【0033】
製造装置1において、温度制御部6は、次の(a)および(b)のように動作する。(a)第2のPID制御器6cから出力した制御弁MVにより制御弁5の開閉を制御することで、ジャケット部3の蒸気量を調節して、発泡槽2の内温を所定温度に制御する。(b)発泡粒子の発泡工程の途中段階において、第1のPID制御演算のパラメータを変更する。製造装置1によれば、上記(a)および(b)によって、発泡槽の内温を精密に制御できる。
【0034】
本制御方法を適用し得る製造装置は、発泡粒子の発泡槽と、前記発泡槽の外周部に設けられたジャケット部と、前記ジャケット部へ蒸気を供給する供給管と、前記供給管に設けられた蒸気量を調節する制御弁と、を備える構成であれば、特に限定されない。当該製造装置として、例えば、図1に示す製造装置1が挙げられる。以下、本制御方法として、製造装置1において、温度制御部6により、発泡槽2の内温を所定の温度に制御する方法について詳述する。温度制御部6による温度制御工程は、第1のPID制御工程と、圧力換算工程と、第2のPID制御工程と、を含む。
【0035】
第1のPID制御工程では、発泡槽2における内温目標値と内温測定値とに基づいて第1のPID制御演算を行ってジャケット部3の蒸気温度目標値を出力する。具体的には、まず、発泡槽温度計7により、発泡槽2の内温を測定する。発泡槽温度計7は、発泡槽2の内部に設けられており、発泡槽温度計7により測定された温度は、内温測定値として、第1のPID制御器6aに入力される。設定目標の内温温度である内温目標値と、上述した内温測定値の値とに基づいて、第1のPID制御器6aによるPID制御演算により、ジャケット蒸気温度目標値が算出される。
【0036】
次に、圧力換算工程では、ジャケット部3の蒸気温度目標値を圧力換算しジャケット部3の蒸気圧力目標値を出力する。具体的には、圧力換算器6bにおいて、例えばAntoine式を用いて温度から圧力を換算することにより、ジャケット蒸気温度目標値に対応する、ジャケット蒸気圧力目標値を算出する。
【0037】
そして、第2のPID制御工程では、ジャケット部3の蒸気圧力目標値とジャケット部3の蒸気圧力測定値とに基づいて第2のPID制御演算を行って制御弁5の開度を出力する。より具体的には、ジャケット蒸気圧力目標値と、ジャケット蒸気圧力計8により測定したジャケット部の圧力、すなわちジャケット蒸気圧力測定値と、に基づいて、第2のPID制御器6cにより、PID制御演算を行うことにより、制御弁5の開度を算出する。
【0038】
ここで、温度制御部6は、発泡粒子の発泡の途中段階において、第1のPID制御器6aのパラメータを変更するように制御するものであり、第1のPID制御器6aのパラメータを変更とは、第1のPID制御器6aのパラメータの感度を、発泡開始時の値よりも下げる変更であることが好ましい。すなわち、好ましい構成として、温度制御部6は、発泡粒子の発泡工程の途中段階において、第1のPID制御演算のパラメータの感度を、発泡工程開始時の感度よりも下げるよう制御するものである。本制御方法においては、上記温度制御工程は、発泡粒子の発泡工程の途中段階において、上記第1のPID制御演算のパラメータの感度を、発泡工程開始時の感度よりも下げるよう制御する工程を含むことが好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性がさらに向上するという利点を有する。
【0039】
以下、第1のPID制御器6aのパラメータPの感度を下げる場合について詳述する。なお、第1のPID制御器6aのパラメータPの感度を下げることは、第1のPID制御器6aのパラメータPの値を小さくすることを意味する。
【0040】
本発明の一実施形態において、発泡開始時において、第1のPID制御器6aのPの値は、特に限定されないが、5~30であることが好ましく、10~20であることがより好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性がさらに向上するという利点を有する。
【0041】
発泡の途中段階に、第1のPID制御器6aのPの値を下げることが好ましく、発泡開始時のPの値の大きさを100%とした場合に、30~70%の大きさまでPの値を下げることが好ましく、40~60%の大きさまでPの値を下げることがより好ましい。
【0042】
具体的には、発泡粒子の発泡の途中段階において、第1のPID制御器6aのPの値は、5~15であることが好ましく、8~12であることがより好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性がさらに向上するという利点を有する。
【0043】
また、「発泡粒子の発泡の途中段階」とは、具体的には、発泡開始時の発泡の進捗度を0%、発泡完了時の発泡の進捗度を100%とした場合に、発泡の進捗度が30~70%である段階であることが好ましく、発泡の進捗度が40~60%である段階であることがより好ましい。
【0044】
第1のPID制御器6aのPの感度の下げ方は、1度で大きく下げても良く、段階的に下げても良い。また、第1のPID制御器6aのPの感度を下げる回数は特に限定されず、1度でもよく、2度でもよく、3度以上でもよい。これらの中では、3度下げることが好ましい。当該構成によれば、より厳密に発泡槽2の内温を制御できるという利点を有する。
【0045】
次に、第1のPID制御器6aのパラメータIの感度を下げる場合について詳述する。なお、第1のPID制御器6aのパラメータIの感度を下げることは、第1のPID制御器6aのパラメータIの値を大きくすることを意味する。
【0046】
本発明の一実施形態において、発泡開始時において、第1のPID制御器6aのIの値は、特に限定されないが、100~500であることが好ましく、200~300であることがより好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性がさらに向上するという利点を有する。
【0047】
発泡の途中段階に、第1のPID制御器6aのIの値を上げることが好ましく、発泡開始時のIの値の大きさを100%とした場合に、150~250%の大きさにIの値を上げることが好ましく、180~220%の大きさにIの値を上げることがより好ましい。
【0048】
具体的には、発泡粒子の発泡の途中段階において、第1のPID制御器6aのIの値は、300~600であることが好ましく、400~500であることがより好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性がさらに向上するという利点を有する。
【0049】
また、「発泡粒子の発泡の途中段階」とは、具体的には、発泡開始時の発泡の進捗度を0%、発泡完了時の発泡の進捗度を100%とした場合に、発泡の進捗度が30~70%である段階であることが好ましく、発泡の進捗度が40~60%である段階であることがより好ましい。
【0050】
なお、発泡の途中段階において、第1のPID制御器6aのパラメータDを変更してもよい。
【0051】
本発明の一実施形態において、第1のPID制御器6aの3つのパラメータを変更する際は、発泡の途中段階において、3つのパラメータを変更しても良く、2つのパラメータを変更してもよく、1つのパラメータを変更しても良い。具体的には、例えば、発泡の途中段階において、第1のPID制御器6aのPの値を小さくし、かつ、Iの値を大きくする変更を行うこと等が挙げられる。
【0052】
また、第1のPID制御器6aのパラメータの感度を下げるタイミングは、3つ同時でもよく、2つ同時でもよい。
【0053】
なお、第1のPID制御器6aのパラメータの感度を下げる変更とは、第1のPID制御器6aのパラメータのうち、Pの感度を下げる変更であることが好ましい。すなわち、好ましい構成として、温度制御部6は、発泡粒子の発泡工程の途中段階において、第1のPID制御演算のパラメータのうち、パラメータPの感度を下げるよう制御するものである。本制御方法においては、上記温度制御工程は、発泡粒子の発泡工程の途中段階において、上記第1のPID制御演算のパラメータのうち、パラメータPの感度を下げるよう制御する工程を含むことが好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性が向上するという利点を有する。
【0054】
上述したように、温度制御部6は、圧力換算器6bを有し、圧力換算器6bでは、Antoine式に基づいて、ジャケット蒸気温度目標値からジャケット蒸気圧力目標値を算出する。
【0055】
本明細書において、Antoine式およびアントワン定数は以下に示されるものを使用する。Antoine式は純物質の飽和蒸気圧と温度に関する経験式であり、式1で表される。アントワン定数A、B、Cは物質に依存する定数であり、水蒸気の場合はA=23.1964、B=3816.44、C=-46.13である。今回発明の温度制御では、式1を用いてジャケット蒸気温度SVをジャケット蒸気圧力SVへ変換する。
式1:lnP[Pa]=A-B/(T[K]+C)
P:蒸気圧[Pa]
A、B、C:アントワン定数
T:温度[K]
圧力換算器6bで用いられる換算式は、特に限定されず、Antoine式、クラウジウス-クラペイロンの式等が用いられ、この中ではAntoine式が最も好ましく用いられる。
【0056】
上述した通り、第2のPID制御器6cでは、ジャケット蒸気圧力目標値と、ジャケット蒸気圧力計8により測定したジャケット部の圧力、すなわちジャケット蒸気圧力測定値と、に基づいて、第2のPID制御器6cにより、PID制御演算を行うことにより、制御弁5の開度を調節する。
【0057】
第2のPID制御器6cにおいて、Pの値は特に限定されないが、3~20であることが好ましく、5~10であることがより好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性がさらに向上するという利点を有する。
【0058】
第2のPID制御器6cにおいて、Iの値は特に限定されないが、300~700であることが好ましく、400~600であることがより好ましい。当該構成によれば、発泡槽の内温制御性がさらに向上するという利点を有する。
【0059】
本発明の一実施形態において、発泡工程前半(発泡の進捗度0~50%)の発泡槽の内温は、(内温SV)±0.13℃未満であることが好ましく、(内温SV)±0.12℃以下であることがより好ましく、(内温SV)±0.11℃未満であることがさらに好ましく、(内温SV)±0.10℃以下であることが特に好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態において、発泡工程後半(発泡の進捗度50~80%)の発泡槽の内温は、(内温SV)±0.23℃未満であることが好ましく、(内温SV)±0.22℃以下であることがより好ましく、(内温SV)±0.21℃未満であることがより好ましく、(内温SV)±0.20℃以下であることがより好ましく、(内温SV)±0.19℃以下であることがより好ましく、(内温SV)±0.18℃以下であることがより好ましく、(内温SV)±0.17℃以下であることがさらに好ましく、(内温SV)±0.16℃以下であることが特に好ましい。
【0061】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂の発泡粒子の製造方法は、上述した発泡粒子の製造装置の温度の制御方法を一工程として含む、方法である。
【0062】
本制御方法を一工程として含み得る発泡粒子の製造方法は、特に限定されないが、公知の方法(WO2018/008445)等が援用される。
【0063】
また、発泡粒子の基材樹脂である熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレンが特に好ましい。
【実施例0064】
以下に本発明による発泡粒子の製造装置の温度の制御方法を、実施例および比較例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例および比較例にておいて実施した評価方法に関して説明する。
【0066】
〔実験方法〕
<発泡槽の内温制御>
発泡槽の内温設定の一例を図2に示した。図2に示すように、発泡槽の内温SV(℃)が、発泡槽の昇温開始時からt1分後にT1℃、t2分後にT2℃、t3分後にT3℃となるように温度制御を行った。発泡槽の昇温開始時からt1分後までをP1工程、t1分後からt2分後までをP2工程、t2分後からt3分後までをP3工程とした場合、発泡槽の昇温速度の大きさはP1>P2>P3であった。
【0067】
P3工程(発泡工程)では、発泡槽の内液は排出されていくため、内液量は徐々に減少した。発泡完了時には全ての内液が排出された。また、P1工程からP3工程に進むにつれて、内温制御の精度の必要性は高くなることから、発泡工程(P3工程)での内温制御が特に重要であった。実施例では、発泡工程において内温制御を実施し、発泡工程での内温偏差(内温PV-内温SV)を比較してそれぞれの内温制御性を評価した。
【0068】
<Antoine式>
本明細書において、Antoine式およびアントワン定数は以下に示す式および定数をそれぞれ使用した。Antoine式は純物質の飽和蒸気圧と温度に関する経験式であり、式1で表される。アントワン定数A、B、Cは物質に依存する定数であり、水蒸気の場合はA=23.1964、B=3816.44、C=-46.13である。今回発明の温度制御では、式1を用いてジャケット蒸気温度SVをジャケット蒸気圧力SVへ変換した。
式1:lnP[Pa]=A-B/(T[K]+C)
P:蒸気圧[Pa]
A、B、C:アントワン定数
T:温度[K]
(実施例1)
下記(1)~(5)に従って、発泡槽の内温制御を行った。発泡工程(P3工程)でのPIDパラメータは、表1に記載の値とした。
【0069】
(1)図1に示す形状の3mの発泡槽内に純水2mを仕込んだ。
【0070】
(2)発泡槽に純水を仕込んだ後、攪拌機を回転させた。なお、攪拌は実験終了まで継続させた。
【0071】
(3)発泡槽内温PVがT1(130℃)に到達するまで、供給管径80A(直径80mm)の供給管からジャケット(平均厚み約2.5cm)へ約30分間蒸気を供給することにより、発泡槽内の温度を昇温した。昇温している間中、供給管径80Aの供給管の制御弁の開度は一定とした。
【0072】
(4)発泡槽内温PVがT1に到達した後、T2(150℃)になるまでの間、供給管径80Aの供給管から約20分間蒸気を供給することにより昇温した。発泡槽の内温SVおよび内温PVの値から第1のPID制御により、ジャケット蒸気温度SVを算出した。そして、圧力換算器において、Antoine式を用いることにより、ジャケット蒸気温度SVをジャケット蒸気圧力SVに変換した。ジャケット蒸気圧力SVおよびジャケット蒸気圧力PVから、第2のPID制御により制御弁開度を算出することで発泡槽内温を制御した。
【0073】
(5)発泡槽の内温PVがT2到達後、ビーズ排出弁を開にして発泡を開始した。その後、発泡槽の内温PVがT3(152℃)になるまで供給管径80Aの供給管から蒸気を供給することにより、発泡槽内を昇温した。(4)と同様に、発泡槽の内温SVおよび内温PVから第1のPID制御器により、ジャケット蒸気温度SVを算出した。この際、発泡開始時から発泡開始10分までの第1のPIDパラメータは、P:18、I:240とした。また、発泡開始10分後から発泡完了時までの第1のPIDパラメータは、P:9、I:240とした。そして、圧力換算器において、Antoine式を用いることにより、ジャケット蒸気圧力SVに変換した。ジャケット蒸気圧力SVおよびジャケット蒸気圧力PVから第2のPID制御器により制御弁開度を算出することにより、発泡槽内温を制御した。この際、第2のPIDパラメータは、発泡開始時から発泡完了時まで一定とし、P:8、I:500とした。
【0074】
(比較例1)
発泡工程でのPIDパラメータを、表1の比較例1に記載の値へと変更した点以外は、実施例1と同じ方法により実施した。
【0075】
(比較例2)
発泡工程でのPIDパラメータを、表1の比較例2に記載の値へと変更した点以外は、実施例1と同じ方法により実施した。
【0076】
【表1】
【0077】
図3および4に評価結果を示す。図3は、実施例および比較例において、発泡工程における内温、内温偏差、ジャケット蒸気圧力SV、およびジャケット蒸気圧力PVの経時変化を示したグラフである。図4は、実施例および比較例において、発泡工程における内温、内温偏差、ジャケット蒸気圧力SV、およびジャケット蒸気圧力PVの、発泡の進捗度(発泡開始時:0%、発泡完了時:100%とする)に対する変化を示したグラフである。また、実施例および比較例において、発泡工程前半(発泡の進捗度0~50%)と後半(発泡の進捗度50~80%)とにおける内温偏差を、表2に示した。なお、発泡末期(発泡の進捗度80~100%)では、発泡槽の内液温度(内温PV-内温SV)が著しく低下する。そのため、発泡末期の内温偏差は除外して比較検証した。
【0078】
【表2】
【0079】
(まとめ)
表2に示す通り、比較例1では発泡後半の内温偏差が最大0.23℃と大きかった。これは、発泡前半と比較して、発泡後半のジャケット蒸気圧力SV、PVの変動が大きいためと考えられる。
【0080】
比較例2では、発泡後半のジャケット蒸気圧力SV、PVの変動を小さく抑えており、発泡後半の内温偏差は0.15℃と改善した。しかし、発泡前半の内温偏差は0.13℃と比較例1より悪化した。
【0081】
実施例1では、PIDパラメータの値を、前半は比較例1のパラメータの値、後半は比較例2のパラメータの値とすることにより、発泡前半の内温偏差は0.10℃、発泡後半の内温偏差は0.16℃となった。すなわち、実施例1では、比較例1、2よりも良好な内温制御性が得られた。
【符号の説明】
【0082】
1 製造装置
2 発泡槽
3 ジャケット部
4 供給管
5 制御弁
6 温度制御部
6a 第1のPID制御器
6b 圧力換算器
6c 第2のPID制御器
7 発泡槽温度計
8 ジャケット蒸気圧力計
9 撹拌機
10 蒸気ドレン
11 樹脂粒子排出弁
図1
図2
図3
図4