(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134066
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230920BHJP
C01B 32/186 20170101ALI20230920BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/186
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039402
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】砂廣 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】西原 洋知
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AB10
4G146AC04B
4G146AC09B
4G146AD11
4G146BA12
4G146BB05
4G146BB23
4G146BC02
4G146BC23
4G146BC34B
4G146CB15
(57)【要約】
【課題】グラフェンを含む多孔質炭素材料の製造方法における不純物に起因すると考えられる、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの品質低下を防止し、より高品質なグラフェンメソスポンジの製造を可能とする方法を提供する。
【解決手段】多孔質炭素材料の製造方法であって、
CVD法により、酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型の表面に、グラフェンを含む前駆体を形成する被覆工程と、
前記鋳型を酸で溶解して、前記鋳型と前記前駆体とを分離する除去分離工程と、
前記前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質を除去する除去工程と
を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素材料の製造方法であって、
CVD法により、酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型の表面に、グラフェンを含む前駆体を形成する被覆工程と、
前記鋳型を酸で溶解して、前記鋳型と前記前駆体とを分離する除去分離工程と、
前記前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質を除去する除去工程と
を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程が、前記前駆体を酸化処理することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程が、前記前駆体を280~450℃の温度において酸化処理することを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程が、前記前駆体を280~400℃の温度において酸化処理することを含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記除去工程の後に、前記前駆体に熱処理を施す熱処理工程を更に含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記CVD法において、前記前駆体の原料である原料ガスとしてメタンガスを用いる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質炭素材料の細孔が、前記グラフェンにより形成されている細孔壁を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質炭素材料が、メソ多孔質炭素材料である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記グラフェンが単層グラフェンである、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型が、炭酸カルシウムから生成されたものである、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料の製造方法、より詳細には、グラフェンメソスポンジと呼ばれる構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、熱伝導度、電気伝導度、機械的(引っ張り)強度に優れており、エレクトロニクス、エネルギー材料など様々な分野で期待されている炭素材料である。そのようなグラフェンの構造体として、グラフェンメソスポンジが知られており、電池の電極活物質等としての利用が期待されている(特許文献1及び2、並びに非特許文献1及び2)。
グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの製造方法としては、鋳型粒子の表面に炭素を被覆させた後、鋳型粒子を除去し、炭素材料を高温で焼成してグラフェンメソスポンジを製造する方法が知られている。鋳型粒子の表面に炭素を被覆させる方法としては、化学気相蒸着(CVD)法が知られている。特許文献1及び2、並びに非特許文献1では、CVD法において、原料ガスとしてメタン、鋳型としてアルミナナノ粒子を用いて、鋳型粒子の表面に炭素を被覆させる方法が具体的に開示されているが、鋳型除去の際にフッ酸による処理又はアルカリでのオートクレーブ処理が必要であり、コスト面で不利である。特に、フッ酸は、極めて強い腐食性を有することから取り扱いが困難であり、工業的用途には適していない。
これに対し、塩酸などに可溶なアルカリ土類金属であるMgOナノ粒子等を鋳型として用いてグラフェンメソスポンジを製造する方法が開発されている(特許文献3及び非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-102711号公報
【特許文献2】特許第6460448号
【特許文献3】特開2021-084819号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nishihara,H.et al.,Advanced Functional Materials,Vol.26,2016,6418-6427
【非特許文献2】Sunahiro,S.et al.,Journal of Materials Chemistry A,Vol.9,2021,14296-14308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安価な鋳型ナノ粒子又はその出発原料の合成において、添加剤を使用することは一般的であるが、このような添加剤はグラフェンを含む多孔質炭素材料の製造方法において不純物となり得る。また、このような添加剤に限らず、サンプル容器からや製造工程中においてコンタミネーションが起きる可能性もあり、これらもグラフェンを含む多孔質炭素材料の製造方法において不純物となり得る。
本発明は、グラフェンを含む多孔質炭素材料の製造方法における不純物に起因すると考えられる、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの品質低下を防止し、より高品質なグラフェンメソスポンジの製造を可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、鋳型ナノ粒子又はその出発原料の合成に使用された添加剤等の上記不純物の存在下、CVD法により鋳型粒子(酸化カルシウムのナノ粒子)の表面に炭素を被覆させる工程を行うと、不純物に由来すると考えられる低結晶性炭素等の非グラフェン炭素含有物質が析出し、製造されるグラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの品質を低下させることを見出した。
また、本発明者らは、CVD法により鋳型粒子の表面に炭素を被覆させて得たグラフェンを含む前駆体を鋳型から分離した後、析出した非グラフェン炭素含有物質をグラフェンを含む前駆体の表面から除去することで、グラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの品質低下を防止し、より高品質なグラフェンメソスポンジの製造が可能となることを見出した。
【0007】
本発明は、例えば、以下の態様を含み得る。
〔1〕多孔質炭素材料の製造方法であって、
CVD法により、酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型の表面に、グラフェンを含む前駆体を形成する被覆工程と、
前記鋳型を酸で溶解して、前記鋳型と前記前駆体とを分離する除去分離工程と、
前記前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質を除去する除去工程と
を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
〔2〕前記除去工程が、前記前駆体を酸化処理することを含む、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記除去工程が、前記前駆体を280~450℃の温度において酸化処理することを含む、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記除去工程が、前記前駆体を280~400℃の温度において酸化処理することを含む、〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕前記除去工程の後に、前記前駆体に熱処理を施す熱処理工程を更に含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔6〕前記CVD法において、前記前駆体の原料である原料ガスとしてメタンガスを用いる、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔7〕前記多孔質炭素材料の細孔が、前記グラフェンにより形成されている細孔壁を有する、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔8〕前記多孔質炭素材料が、メソ多孔質炭素材料である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔9〕前記グラフェンが単層グラフェンである、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔10〕前記酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型が、炭酸カルシウムから生成されたものである、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施態様によれば、不純物に起因すると考えられるグラフェンを含む多孔質炭素材料、とりわけ、グラフェンメソスポンジの品質低下を防止し、より高品質なグラフェンメソスポンジを製造することができる。
本発明の一実施態様によれば、耐酸化耐性に優れたグラフェンメソスポンジを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】鋳型の出発原料である炭酸カルシウムについてのXRD測定結果を示す図である。
【
図2】鋳型の出発原料である炭酸カルシウムに対し850℃の熱処理を行った後のXRD測定結果を示す図である。
【
図3】グラフェンを含む前駆体についてのTG測定結果を示す図である。
【
図4】多孔質炭素材料の製造フローチャート(a)、鋳型の出発原料であり鋳型ナノ粒子となる炭酸カルシウムのSEM画像(b)、炭酸カルシウムに対し850℃の熱処理を行い形成された鋳型ナノ粒子である酸化カルシウムのSEM画像(c)、CVD処理後(C/CaO)のSEM画像(d)、鋳型除去後(CMS(I))のSEM画像(e)、CMS(I)の熱処理により形成したグラフェンメソスポンジ(GMS(I))のSEM画像(f)、CMS(I)を空気雰囲気下350℃で処理した後(CMS(II))のSEM画像(g)、及びCMS(II)の熱処理により形成したグラフェンメソスポンジ(GMS(II))のSEM画像(h)である。
【
図5】鋳型除去後、空気雰囲気下350℃で処理する工程を含む方法により製造されたグラフェンメソスポンジ(実施例)の真空TPD測定結果を示す図である。
【
図6】鋳型除去後、空気雰囲気下350℃で処理する工程を含まない方法により製造されたグラフェンメソスポンジ(比較例)の真空TPD測定結果を示す図である。
【
図7】種々の炭素材料についてのTG測定結果を示す図である。
【
図8】実施例及び比較例のグラフェンメソスポンジ、並びにグラフェンを含む前駆体についての窒素吸脱着測定による窒素吸脱着等温線を示す図である。
【
図9】実施例及び比較例のグラフェンメソスポンジ、並びにグラフェンを含む前駆体についての窒素吸脱着測定による窒素吸脱着等温線から、BJH法により求められた細孔分布を示す図である。
【
図10】実施例及び比較例のグラフェンメソスポンジ、並びにグラフェンを含む前駆体についてのXRD測定結果を示す図である。
【
図11】実施例及び比較例のグラフェンメソスポンジ、並びにグラフェンを含む前駆体についてのラマン散乱スペクトル測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施態様は、多孔質炭素材料の製造方法に関する。本発明の製造方法により製造される多孔質炭素材料は、グラフェンを含む。グラフェンは、炭素原子が基本的な反復単位としてハニカム状骨格で共有結合されている単原子層の構造を有するものであるが、本明細書において、単にグラフェンと称する場合は、単層グラフェンのみを意味するものではなく、2層以上のグラフェンが積層されてなる積層グラフェンも含まれる。
本発明の一実施態様において、多孔質炭素材料の細孔が、グラフェンにより形成されている細孔壁を有し得る。隣接する細孔が連通していてもよく、複数の細孔が連通していてもよい。細孔の大きさは様々であり得るが、本発明の製造方法により製造される多孔質炭素材料は、例えば、2~50nmの細孔径を有し得る。このような大きさの細孔径を有する細孔をメソ孔とも言う。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、メソ多孔質炭素材料であり得る。メソ多孔質炭素材料とは、メソ孔を有する多孔質炭素材料のことである。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、グラフェンメソスポンジと呼ばれる構造体であり得る。
【0011】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、炭素を主成分とする。ここで、「炭素を主成分とする」とは、炭素のみからなる、実質的に炭素からなる、の双方を含む概念であり、炭素以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素からなる」とは、全体の80重量%以上、好ましくは全体の95重量%以上、全体の98重量%以上、又は全体の99重量%以上(上限:100重量%)が炭素から構成されることを意味する。本発明の一実施態様において、上記炭素はグラフェンであり得る。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は粉末状であり得る。多孔質炭素材料の粉末の大きさは特に限定されないが、例えば、平均粒径(平均二次粒子径)を5nm以上、10nm以上、又は20nm以上、また、2000nm以下、200nm以下、又は100nm以下とし得る。「多孔質炭素材料の粉末の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒径」とは、粒子の中心を通りかつ粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0012】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、250m2以上、500m2以上、又は800m2以上であり得、また、2600m2以下、2500m2以下であり得る。一般的な炭素材料の例示として活性炭が挙げられるが、活性炭のBET比表面積は1000~2600m2/g程度であるため、本発明により製造される多孔質炭素材料のBET比表面積はこれと同程度の大きさであり得る。多孔質炭素材料のBET比表面積が大きいほど、電極材料として用いた場合に静電容量を大きくすることができる。多孔質炭素材料のBET比表面積は、例えば、窒素吸脱着等温線の測定結果からBET法で求めることができる。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料の平均細孔径は、特に限定されないが、例えば、0.5nm以上、又は0.7nm以上であり得、また、10nm以下、又は8nm以下であり得る。多孔質炭素材料の平均細孔径は、例えば、BJH法を用いて算出することができる。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料の全細孔容積は、特に限定されないが、例えば、0.5cm3/g以上、又は0.9cm3/g以上であり得、また、30cm3/g以下であり得る。多孔質炭素材料の全細孔容積は、例えば、窒素吸脱着等温線測定を行い、相対圧力(P/P0)が0.96の吸着量から求めることができる。
【0013】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、その表面に、炭素六員環のベーサル(基底)サイト(六員環炭素網面)及びエッジ(端)サイト(ジグザグ端、アームチェア端)を有する。本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料はグラフェンを含むため、エッジサイトよりベーサルサイトが多い。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料のエッジサイト量は、特に限定されないが、例えば、0.01mmol/g以上であり得、また、0.20mmol/g以下、又は0.17mmol/g以下であり得る。このようにエッジサイト量が少ないと、黒鉛のように耐食性に優れた炭素材料となり得る。多孔質炭素材料のエッジサイト量は、例えば、昇温脱離法(TPD:Temperature Programmed Desorption)を用いて算出することができる。具体的には、所定の装置を用い、試料を黒鉛の試料台に1~3mg入れ、昇温速度10℃/分で1800℃まで真空加熱し、加熱中に放出されるガスを質量分析にて分析することにより、測定を行い得る。
炭素材料において、含酸素官能基は炭素網面の平面の部分(ベーサル面)よりもエッジサイトに多く存在する。従って、CO及びCO2の放出量が多いほど含酸素官能基量が多く、炭素材料の構造中に存在するエッジサイトが多いと言える。エッジサイトはベーサル面よりも反応性が高く、酸化されやすいため、エッジサイトの存在量が少ないほど、より高耐久性であると考えられる。
【0014】
グラフェンを含む多孔質炭素材料について、粉末X線回折ピークの線幅から結晶子の大きさを知ることができる。具体的には、グラフェンの積層構造に由来する炭素(002)面のピークの半値幅W(002)が大きいほど、積層方向の結晶子の大きさが小さく、グラフェンの積層数が少ないと言える。グラフェンの積層数が少ない方が、多孔質炭素材料の比表面積を大きくするのに有利である。本発明により製造される多孔質炭素材料は、例えば、3層以下、好ましくは1~2層、より好ましくは1層の平均積層数で構成され得る。平均積層数は、例えば、後述の鋳型粒子上に炭素層を積層した後、熱重量分析(TG)法を用いて炭素層の重量を算出し、この炭素層の重量と該鋳型粒子の表面積より面積当たりの炭素層の重量を算出し、これを単層グラフェンの面積当たりの炭素層の重量(7.61×10-4 g/m2)で割ることにより算出できる。
また、単層グラフェンの面内回折に由来する炭素(10)面のピークの半値幅W(10)が小さいほど、面内方向の結晶子の大きさが大きく、1層のグラフェンのサイズが大きいと言える。グラフェンのサイズが大きい方が、多孔質炭素材料の導電性を高めるのに有利である。
【0015】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、例えば、W(002)が、5°以上であり得る。
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、例えば、W(10)が、3.2°以下、又は1.2~3.2°であり得る。
なお、本明細書中におけるW(002)及びW(10)の値は、後述する実施例の「XRD測定」の項に記載の方法及び条件に従って測定された値である。
【0016】
本発明の一実施態様において、製造される多孔質炭素材料は、例えば、ラマン散乱分光法によって1590cm-1付近で計測されるGバンドのピーク強度(IG)に対する、2670cm-1付近で計測されるG’バンドのピーク強度(IG’)の比(IG’/IG)が、0.6以上、又は0.7以上であり得る。IG’/IGが大きいほど、グラフェンの積層数が少ないことの指標となる。
また、グラフェンのG’バンドは、高配向性黒鉛(HOPG)のG’バンドよりも低波数側にシフトし、ピークの半値幅が狭い。そのため、本発明により製造される多孔質炭素材料は、好ましくは、ラマン散乱スペクトルにおけるG’バンドがHOPGのG’バンドよりも低波数側にシフトする。このような構成であれば、単層グラフェンに近い構造を有していると考えられる。
なお、本明細書におけるこれらピーク強度の値は、後述する実施例の「ラマン散乱スペクトル測定」の項に記載の方法及び条件に従って測定された値である。
【0017】
本発明の多孔質炭素材料の製造方法は、少なくとも以下の工程を含む。
被覆工程:化学気相蒸着(CVD)法により、酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型の表面に、グラフェンを含む前駆体を形成する工程
除去分離工程:鋳型を酸で溶解して、前記鋳型と前記前駆体とを分離する工程
除去工程:前記前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質を除去する工程
但し、除去分離工程と除去工程の順番はどちらが先であってもよい。
【0018】
本発明の方法において、被覆工程では、CVD法により、酸化カルシウムのナノ粒子の表面にグラフェンを含む前駆体を形成する。ここで、この前駆体は、グラフェンを含む炭素質であって、その表面に非グラフェン炭素含有物質を含む。非グラフェン炭素含有物質は、具体的には、低結晶性炭素であり得る。
このような低結晶性炭素等の非グラフェン炭素含有物質は、鋳型ナノ粒子や、その出発原料として用いられる炭酸カルシウムの合成において使用される添加剤によるもの、及びサンプル容器からや多孔質炭素材料の製造中におけるコンタミネーションによるもの等の不純物の存在に起因して生じ得る。不純物としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、鉄、ニッケル等の金属及びその金属酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
鋳型の出発原料として用いられる炭酸カルシウムの合成において使用される添加剤としては、例えば、マグネシウムを含む添加剤が挙げられる。炭酸カルシウム中にマグネシウムが含まれていると、CVD処理の際に酸化マグネシウムが生成されることで、非グラフェン炭素含有物質が生じやすくなる。
本発明の方法において、酸化カルシウムのナノ粒子を鋳型として用いるが、被覆工程において酸化カルシウムとなっていればよく、その出発原料は特に限定をされない。例えば、鋳型の出発原料は、酸化カルシウムそのものでもよいし、また、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムであってもよい。炭酸カルシウムは、CVD処理の際に酸化カルシウムとなる。
また、酸化カルシウムが、被覆工程以外の雰囲気下において、潮解等を示し物理的変形および/または化学的変性を伴う場合には、その雰囲気下で潮解等が、より軽微であるカルシウムの塩を採用することが好ましい。
【0019】
本発明の方法において、酸化カルシウムのナノ粒子は、鋳型として機能し、得られる多孔質炭素材料は、鋳型自身の形状を反映した空孔を有することになる。つまり、鋳型の形態を転写した状態で多孔質炭素材料が合成されることになる。このため、鋳型としての酸化カルシウムのナノ粒子は、粒子サイズのそろった、構造および組成が均一な材料であるとよい。このような材料を用いることで、制御された大きさの空孔を無数に有する多孔質炭素材料を調製することができる。また、鋳型上にエッジや欠陥の少ないグラフェンを形成できる材料であることが好ましく、高比表面積とするためにグラフェンの積層数を数層以下に制御し得る材料であることが好ましい。
本発明の一実施態様において、鋳型である酸化カルシウムのナノ粒子のサイズは特に限定されないが、平均粒径が、4nm以上、又は5nm以上、また、200nm以下、50nm以下、又は20nm以下であり得る。
鋳型を用いて多孔質炭素材料を作製する場合、得られる多孔質炭素材料の比表面積は鋳型の比表面積に依存する。球の体積に対する表面積の比は粒子径が小さいほど大きくなるため、粒子径が小さいほど体積に対する表面積、つまり単位体積あたりの表面積が大きくなる。従って、より粒子径の小さい鋳型粒子を使うことで高比表面積の多孔質炭素材料を作製し得る。
鋳型粒子の粒子径が大きい方が取扱いは容易で、炭素源を被覆する際の炭素源のガス透過性が良好になるため、均一な炭素被覆が容易になり得る。
一方で、鋳型粒子の粒子径が小さい方が、比表面積の高い多孔質炭素材料を作製し得る。また、後の除去分離工程で溶解される鋳型の量が相対的に増えることによる多孔質炭素材料の収率の低下を抑制できる。
【0020】
本発明の一実施態様において、鋳型である酸化カルシウムのナノ粒子は、粒状のスペーサーと混在してもよい。スペーサーと混在させることで、酸化カルシウムのナノ粒子同士の間に適度に空隙を確保することができ、酸化カルシウムのナノ粒子が密に詰まり過ぎて圧損が大きくなってしまうことを防ぐことができる。スペーサーとしては、平均粒径が、例えば100~5000μmの粒子であることが好ましい。スペーサーの材質としては、炭素被覆後に篩分けできるものであれば特に制限されず、好ましくは、900~1000℃で分解しないものが用いられ得る。または、鋳型と同時に溶解除去できるものであってもよい。例えば、スペーサーとしては、石英砂、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、チタニアなどが好ましく用いられ、特に石英砂が好ましい。石英砂を用いる場合は、予め酸で洗浄し、600~1000℃で1~5時間焼成し、上記の粒径に制御したものを用いることが好ましい。
本発明の一実施態様において、酸化カルシウムのナノ粒子とスペーサーとの配合比は、特に限定されないが、例えば、酸化カルシウムのナノ粒子:スペーサーが、重量比で、0.1:10~10:10であることが好ましく、1:10~10:10であることがより好ましい。上記範囲内であれば、所望の特性の多孔質炭素材料が高い収率で作製し得る。
【0021】
有機化合物を導入して鋳型上に炭素層を堆積させるために用いるCVD法は、鋳型等の基板上に特定の元素または元素組成からなる薄膜(例えば炭素からなる薄膜)を作る工業的手法である。通常、原料物質を含むガスに熱や光によってエネルギーを与えたり、高周波でプラズマ化することにより、原料物質が化学反応や熱分解によってラジカル化して反応性に富むようになり、基板上に原料物質が吸着して堆積することを利用する技術である。温度を上げて原料物質を堆積させるものを熱CVD法、化学反応や熱分解を促進させるために光を照射するものを光CVD法、ガスをプラズマ状態に励起する方法をプラズマCVD法と区別することもある。
本発明の一実施態様において、前駆体の原料である原料ガスは、CVD法で用いる有機化合物であり得る。CVD法で用いる有機化合物は、常温で気体であるか、または気化できるものが好ましい。気化の方法は、沸点以上に熱する方法や雰囲気を減圧にする方法等がある。用いる有機化合物は、当業者に知られた炭素源物質の中から適宜選択して使用できる。特に、加熱により熱分解する化合物が好ましく、鋳型である酸化カルシウムのナノ粒子の表面に炭素層を堆積することができる化合物が好ましい。
本発明の一実施態様において、CVD法で用いる有機化合物は、水素を含む有機化合物であり得る。この有機化合物は、不飽和または飽和の炭化水素を含む有機化合物であってもよく、これらの混合物であってもよい。用いる有機化合物としては、二重結合及び/又は三重結合を有する不飽和直鎖又は分枝鎖の炭化水素、飽和直鎖又は分枝鎖の炭化水素等であってもよく、飽和環式炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素等であってもよい。有機化合物として、メタノール、エタノールなどのアルコール類、又はアセトニトリル、アクリロニトリルなどの窒素を含む化合物を用いてもよい。有機化合物は、例えば、アセチレン、メチルアセチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、シクロプロパン、メタン、エタン、プロパン、ベンゼン、トルエン、ビニル化合物、エチレンオキサイド、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アクリロニトリル等が挙げられる。有機化合物は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、用いる有機化合物は、酸化カルシウムのナノ粒子間の空隙内に入り込むことが可能なもの、例えば、アセチレン、エチレン、プロピレン、メタン、エタン等を用いることが望ましく、結晶性の高い炭素を析出させる観点から、メタン、プロピレン、ベンゼンがより好ましい。特に、熱分解温度が高く高結晶性の炭素が得られる観点から、メタンが好適に用いられ得る。有機化合物は、より高温でのCVDに用いるものと、より低温でCVDに用いるものとでは互いに同一のものであっても異なっていてもよい。
【0022】
本発明の一実施態様において、酸化カルシウムのナノ粒子上に有機化合物を導入する際は、酸化カルシウムのナノ粒子の試料を予め減圧にしてもよく、系自体を減圧下にしてもよい。CVDにより炭素が堆積する方法であれば如何なる方法を用いてもよい。例えば、酸化カルシウムのナノ粒子上に有機化合物の化学反応又は熱分解で生成した炭素を堆積(又は吸着)させ、酸化カルシウムのナノ粒子上に炭素層を被覆/形成する。
本発明の一実施態様において、CVD処理を行う際の温度は特に限定されないが、炭素源の気相分解温度や析出する炭素の結晶性などにより適切な温度を決定しうる。例えば、850℃以上かつ950℃以下であることが好ましい。
本発明の一実施態様において、CVD処理を行う際の昇温速度も特に制限されないが、1~50℃/分であることが好ましく、5~20℃/分であることがより好ましい。CVD処理における処理時間(所定の加熱温度でのCVD処理時間)は、数層以下の炭素層が得られる時間であればよく、使用する有機化合物や温度によって適宜適切な時間を選択できる。例えば、CVD処理における処理時間は、5分~8時間であることが好ましく、0.5~6時間であることがさらに好ましい。また、本明細書で開示している分析法などを適用して、生成物を分析し、その結果に基づいて十分な炭素堆積に要求される時間を適宜設定することができる。
【0023】
本発明の一実施態様において、CVD処理は、減圧あるいは真空下で行うこともでき、加圧下で行うこともでき、または不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行われる。不活性ガス雰囲気下で行う場合には、不活性ガスとしては、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、好ましくはアルゴンが用いられる。CVD法では、通常、気体状の有機化合物をキャリアガスと共に酸化カルシウムのナノ粒子に接触させるように流通させながら加熱することで、容易に気相中で酸化カルシウムのナノ粒子上に炭素を吸着ないし堆積させることができる。キャリアガスの種類、流速、流量および加熱温度は使用する有機化合物の種類によって適宜調節し得る。キャリアガスは、例えば上記の不活性ガス等が挙げられるが、酸素ガスまたは水素ガスとの混合物などであってもよい。好ましくは、キャリアガスとしてアルゴンが用いられる。
本発明の一実施態様において、酸化カルシウムのナノ粒子上に導入される炭素層の積層数を数層以下、好ましくは1~2層とするためには、キャリアガスの流速を好ましくは0.05~1.00L/分、より好ましくは0.32~0.64L/分に調整する。また、有機化合物の導入量を、キャリアガスと有機化合物との合計量に対して、1~30体積%とすることが好ましく、5~20体積%とすることがより好ましい。
【0024】
本発明の一実施態様において、酸化カルシウムのナノ粒子上の炭素の堆積量は、酸化カルシウムのナノ粒子の粒径に応じて適宜設定され得る。酸化カルシウムのナノ粒子の平均粒径が5~20nm程度であれば、炭素の堆積量は、酸化カルシウムのナノ粒子の重量を基準として、例えば、5~40重量%、好ましくは14~25重量%の範囲である。炭素の堆積量が5重量%以上、特には14重量%以上であれば、均一な被覆に必要な量の炭素が導入されるため、安定な三次元構造が得られうる。炭素の担持量が40重量%以下、特には30重量%以下であれば、炭素層の積層数が大きくなりすぎず、十分なBET比表面積が得られうる。
本発明の一実施態様において、炭素被覆した酸化カルシウムのナノ粒子に更に有機化合物を導入して加熱し、更に炭素を堆積させてもよい。この場合には、CVD法により得られた炭素被覆した酸化カルシウムのナノ粒子の構造がより安定する。炭化は、CVD法によって行ってもよく、他の加熱方法で行ってもよい。また、加熱温度はCVD処理の温度より高温であってもよく、低温であってもよい。また、導入する有機化合物は、CVD処理で導入した有機化合物と同じであってもよく、異なっていてもよい。この操作は、複数回行っても構わない。
【0025】
本発明の方法において、除去分離工程では、酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型を酸で溶解して、鋳型と、鋳型を被覆しているグラフェンを含む前駆体(炭素層)とを分離する。
本発明の一実施態様において、鋳型である酸化カルシウムのナノ粒子の溶解除去に用いられる酸は特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、若しくはホウ酸等の無機酸、分子内にカルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、若しくはアルケノール構造等を有する有機酸、又はそれらを組み合わせたものが用いられる。フッ酸等のフッ素を含む酸は、一般に、酸化カルシウムに含まれるカルシウムと難溶性化合物を形成するために、酸化カルシウムの溶解過程で水系媒に難溶性の化合物を形成するが、フッ素を含まない酸を用いれば、不溶性塩を形成せず、水系媒に容易に溶解する化合物を形成することができる。
本明細書において、酸に対して溶解することとは、鋳型と水系媒の酸とを接触させたときに、終局的に、水系媒に不溶性の化合物が残存せずに、濁りのない透明で均一な液体を形成することを言う。
【0026】
本発明の一実施態様において、除去分離工程で用いられる酸の濃度は、酸化カルシウムの溶解除去が可能な範囲であれば特に限定されないが、例えば、0.01~10.00Mであり得る。また、酸の使用量は、酸化カルシウムの溶解除去が可能な範囲であれば特に限定されないが、例えば、酸化カルシウムのナノ粒子に対して、量論比の30倍以上、又は量論比の50倍以上であり得る。
本発明の一実施態様において、除去分離工程における、酸化カルシウムの酸による溶解除去は、特段、加熱することなく行うことができ、例えば、5~100℃で行うことができ、好ましくは、20~30℃で行うことができる。また、除去分離工程は、酸化カルシウムからなる鋳型と接触している酸に撹拌操作、振動操作その他の操作を加えながら行ってもよい。除去分離工程に要する時間は、鋳型を溶解除去が可能な範囲で適宜設定し得る。
本発明の一実施態様において、鋳型である酸化カルシウムを溶解除去した後の多孔質炭素材料は、例えば、濾過によって回収することができ、真空加熱乾燥によって乾燥させることができる。真空加熱乾燥の条件は特に限定されないが、例えば、真空加熱乾燥温度を100~200℃とすることができる。また、真空加熱乾燥時間を、1~10時間とすることができる。
【0027】
本発明の方法において、除去工程では、グラフェンを含む前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質を除去する。
本発明の一実施態様において、グラフェンを含む前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質の除去は、グラフェンを含む前駆体を酸化処理することにより行われる。酸化処理は、グラフェンを含む前駆体を酸化剤で処理することにより行ってもよいし、空気雰囲気等、酸素を含む雰囲気下でグラフェンを含む前駆体を加熱することにより行ってもよい。
酸化剤としては、特に限定されないが、硝酸や過酸化水素を例示することができる。
【0028】
グラフェンを含む前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質の除去を、空気雰囲気等、酸素を含む雰囲気下でグラフェンを含む前駆体を加熱することにより行う場合、酸化処理の温度は、非グラフェン炭素含有物質の除去を可能とする温度として、例えば、280℃以上、290℃以上、又は300℃以上であり得、かつグラフェンを含む前駆体が分解されない温度或いはグラフェンを含む前駆体の分解を十分に抑制できる温度であればよく、例えば、450℃以下、420℃以下、又は400℃以下であり得る。
本発明の一実施態様において、グラフェンを含む前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質の除去は、グラフェンを含む前駆体を280~450℃の温度において酸化処理することにより行われる。
また、本発明の一実施態様において、グラフェンを含む前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質の除去は、グラフェンを含む前駆体を280~400℃の温度において酸化処理することにより行われることがグラフェンを含む前駆体の分解をより良好に抑制できる点からより好ましい。
グラフェンを含む前駆体表面に存在する非グラフェン炭素含有物質の除去を、空気雰囲気等、酸素を含む雰囲気下でグラフェンを含む前駆体を加熱することにより行う場合、酸化処理の時間は、非グラフェン炭素含有物質の除去を可能とするのに十分な時間であればよく、例えば、0.1~3時間である。
【0029】
本発明の方法において、除去工程の後に、鋳型と分離された炭素層に熱処理を施す熱処理工程を更に含んでもよい。鋳型と分離された炭素層を前駆体として、この前駆体に対して熱処理を行うことによって、炭素の結晶性が高められ、安定化されるため、導電性、耐腐食性、及び/又は高比表面積をより高い水準で備えた多孔質炭素材料を作製し得る。
本発明の一実施態様において、除去工程の後に行われ得る熱処理工程の条件は、炭素の結晶性が高められる条件であれば特に限定されないが、例えば、熱処理工程の保持温度は、1750℃以上、又は1770℃以上、また、1850℃以下、又は1830℃以下であり得る。熱処理温度が1750℃以上であれば、導電性、耐腐食性、及び/又は高比表面積をより高い水準で備えた多孔質炭素材料を得るのに特に有用である。熱処理工程の熱処理温度が1850℃以下であれば、仮に、除去分離工程において酸に対して満足に溶解しなかった鋳型が残存していても、酸化カルシウムのナノ粒子からなる鋳型と炭素とが反応してカーバイドを生成することを防ぐのに有用である。また、熱処理工程の熱処理時間(所定の熱処理温度での保持時間)は、例えば、0.1~10時間、0.2~5時間、又は0.5~5時間であり得る。熱処理工程における雰囲気圧力は特に限定されないが、好ましくは大気圧よりも減圧下で行われ得る。
【0030】
本発明の方法により製造される多孔質炭素材料は、吸着材、各種触媒の担体、電気二重層キャパシタや二次電池の電極材料及び導電助剤など、多種多様な用途に適用することができる。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び関連する図面において、グラフェンメソスポンジを「GMS」、グラフェンを含む前駆体を「CMS」と表記することがある。
【0032】
1.多孔質炭素材料の製造
1-1.被覆工程
鋳型の出発原料2gを内径37mmの石英反応管に入れ、CVD装置(石川産業株式会社製の透明電気炉)にセットした。CVD条件として、以下の温度プロファイルで試験した。
(i)アルゴンガスを337.5mL/分の流速で流しながら、10℃/分の昇温スピードで850℃まで加熱して当該温度で30分間保持した。
(ii)(i)で保持した温度のまま、アルゴンガスを270mL/分の流速で流しながら、メタンガスを67.5mL/分の流速で流し、40分間保持した。
(iii)アルゴンガスを225mL/分の流速で流しながら、室温まで冷却した。
その後、炭素被覆された鋳型材料を得た。
用いた鋳型の出発原料は、炭酸カルシウムであり、白石工業株式会社より提供された試料である。この炭酸カルシウムには、下記表1に示される不純物が含まれている。
【0033】
【0034】
1-2.除去分離工程
上記被覆工程で得られた炭素被覆された鋳型材料1~1.4g、塩酸(富士フィルム和光純薬、5mol/L)約100g、及び撹拌子をガラスビーカーに加え、室温にて5時間撹拌した後、メンブレンフィルター(0.1μm)を用いて試料を濾過しながら純水で5回洗浄し、吸引濾過した。この時、濾紙の付着物が乾燥しないよう十分注意した。次に、付着物を100mL程アセトンの入ったガラスビーカーに入れ、かき混ぜた後、60℃の乾燥機で一晩静置した。翌日、上ずみを捨てた後、アセトンを100mL程入れて同様に60℃で3時間静置した。この操作を2回繰り返した後、アセトンを濾過して取り除き、150℃で10時間減圧乾燥させることで、アセトン置換したCMSを得た。これにより、鋳型除去後のグラフェンを含む多孔質炭素材料を得た。
鋳型除去により求められる炭素収率(%)から、炭素層の平均積層数を以下の通り算出した。炭素収率から炭素層の重量を算出し、この炭素層の重量と鋳型粒子の表面積より面積当たりの炭素層の重量を算出した。次いで、鋳型粒子の面積当たりの炭素層の重量を単層グラフェンの面積当たりの炭素層の重量(7.614×10-4g/m2)で割り、平均積層数を算出した。
【0035】
1-3.熱処理工程
上記1-2.で得られた多孔質炭素材料を、マッフル炉にて空気雰囲気下で350℃にて2時間焼成した後、角型高温加熱炉(IZU-SMS005、和泉テック)試料室に入れ、減圧下(10-1Paオーダー)にした後、アルゴンガス流通下(10mL/分)、15℃/分の昇温スピードで1,800℃まで加熱して当該温度で1時間保持し焼成した。その後、室温まで冷却し、焼成後の多孔質炭素材料を取り出した。
比較例として、上記1-2.で得られた多孔質炭素材料をマッフル炉にて熱処理することを除いて同様に熱処理を実施し、多孔質炭素材料を得た。
焼成後の多孔質炭素材料を以下の評価方法で評価したところ、上記実施例にて得られたグラフェンを含む多孔質炭素材料は、耐酸化性を有する高品質なグラフェンメソスポンジ構造体であるのに対して、比較例により得られた多孔質炭素材料の耐酸化性は低く、低品質なものであることが判明した。従って、高温熱処理よりも前に、低温酸化処理過程を取り入れることで高品質なグラフェンメソスポンジの合成に寄与することが示唆された。
【0036】
2.多孔質炭素材料の評価
2-1.評価方法
2-1-1.XRD測定
株式会社リガク製のX線回折装置(Miniflex)を用いてXRD(X-ray diffraction)測定を行った。試料台にはSi無反射板を用い、円形部に試料を乗せ、下記表2に示される条件で測定を行った。
【0037】
【0038】
2-1-2.試料観察
CVD前後の試料の構造を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM:S4800, HITACHI)にて全試料を加速電圧1.0kVで観察した。
【0039】
2-1-3.真空TPD測定
超高感度真空TPD装置(東北大学にて開発)を使用して、含酸素官能基及び水素終端エッジサイトを正確に定性・定量分析した。各グラフェンメソスポンジを黒鉛の試料台に1~3mg入れ、昇温速度10℃/分で1800℃まで真空加熱し、加熱中に放出されるガスを質量分析にて分析した。
【0040】
2-1-4.TG測定
TGA-50(SHIMADZU)を用いて、空気雰囲気下にてTG測定を行った。試料パンにはアルミナパンを用いた。
【0041】
2-1-5.窒素吸脱着測定
自動比表面積/細孔分布測定装置(BEL SORP MAX、日本ベル株式会社)を用いて、-196℃雰囲気下で窒素吸脱着測定を行った。なお、サンプル管内の圧力を測定する際の平衡判断条件は300秒ごとに行った。サンプルは測定前に150℃で6時間減圧乾燥する前処理を行った。測定した窒素吸着等温線から、BET法を用いてBET比表面積、BJH法を用いて細孔分布をそれぞれ求めた。なお、BET法の適用範囲はP/P0=0.1~0.3とし、細孔分布を計算する時のtファイルはGCBファイルを適用した。
【0042】
2-1-6.ラマン散乱スペクトル測定
レーザーラマン分光光度計(NRS-3300FL、日本分光)でラマンスペクトルを測定した。測定条件を下記表3に示す。試料を測定する前にSi標準板を測定し、Siのピーク位置が520cm-1になるように校正を行い、高配向性黒鉛(HOPG)、各試料の測定を異なる3点ずつ測定した。測定したデータは測定したHOPGのGバンドの位置と文献値(1582cm-1)との差を試料のラマンシフトの値から引くことで波数位置の補正を行った。
【0043】
【0044】
2-2.評価結果
(1)鋳型の出発原料(CaCO
3)についてのXRD測定結果
不活性雰囲気下、850℃、30分間の熱処理前後のXRD測定結果をそれぞれ
図1及び2に示す。
熱処理によってCaCO
3が熱分解してCaOとCO
2に分解されることが確認できるが、熱処理後のXRD測定結果では、Ca(OH)
2のピークも多く検出されている。これは、CaOの潮解性により、測定までに大気中の水分と反応したためである。
また、熱処理後には、42.9°付近にMgO由来のピークが検出された。この結果は、上記表1に示される不純物情報と整合している。
【0045】
(2)鋳型の出発原料(CaCO3)のCVD処理結果
上記1-1.に記載のとおり、CaCO3のCVD処理時間を40分間とし、CVD処理温度を850℃とした。
CVD前後で試料が白色から黒色に変化したことから、CVDにより鋳型表面に炭素が析出していることが確認できた。また、鋳型除去の結果から、炭素収率は2.2%であり、グラフェンの平均積層数は1.4層と算出された。得られた鋳型除去後のグラフェンを含む多孔質炭素材料(CMS)のBET表面積は1849m2/g、全細孔容積は2.5g/cm3であった。
【0046】
(3)CMSのTG測定結果
上記1-2.で得られた多孔質炭素材料(CMS)について、1℃/分の昇温スピード、空気雰囲気下にて、TGを測定した結果を
図3に示す。一般的な炭素材料には見られない2段階のTG曲線が得られ、350℃付近で重量減少が生じており、非グラフェン炭素含有物質(低結晶性炭素)の存在が示唆された。
この結果から、上記1-3.に記載のとおり熱処理工程の条件を策定した。
【0047】
(4)実施例及び比較例のフローチャート及び各試料のSEM画像
実施例及び比較例のフローチャート及び各試料のSEM画像を
図4に示す。
図4b~4hに示されるSEM画像は、それぞれ、鋳型の出発原料であり鋳型ナノ粒子となる炭酸カルシウム(
図4b)、炭酸カルシウムに対し850℃の熱処理を行い形成された鋳型ナノ粒子である酸化カルシウム(
図4c)、CVD処理後の試料(C/CaO、
図4d)、鋳型除去後の多孔質炭素材料(CMS(I)、
図4e)、CMS(I)の熱処理により形成したグラフェンメソスポンジ(GMS(I)、
図4f)、CMS(I)を空気雰囲気下350℃で処理した後の多孔質炭素材料(CMS(II)、
図4g)、及びCMS(II)の熱処理により形成したグラフェンメソスポンジ(GMS(II)、
図4h)についてのものである。
CVD処理後の試料のSEM画像(C/CaO、
図4d)や、比較例であるroute IのCMSのSEM画像(CMS(I)、
図4e)では、白い粒状の物質が見えているのに対して、本件発明の実施例であるroute IIのCMSのSEM画像(CMS(II)、
図4g)では、白い粒状の物質が消失していることが確認できた。このことから、350℃低温酸化処理によって不純物由来の非グラフェン炭素含有物質(低結晶性炭素)が消失しているものと推察された。
【0048】
(5)真空TPD測定結果
鋳型除去後、空気雰囲気下350℃で処理する低温酸化処理の工程を含む方法で製造された実施例のGMSについて、また、鋳型除去後、空気雰囲気下350℃で処理する低温酸化処理の工程を含まない方法で製造された比較例のGMSについて、それぞれ真空TPD測定の結果を
図5及び6に示す。
これらの結果から、低温酸化処理の有無でGMSのエッジサイト量に大きな変化が生じていることが確認された。これは、CMSに含まれる不純物由来の非グラフェン炭素含有物質(低結晶性炭素)を除去した後アニールすることで、耐酸化耐性の向上した高品質なGMSを得ることができることを示している。
【0049】
(6)各種炭素材料のTG測定結果
種々の炭素材料についてのTG測定結果を
図7に示す。
炭素材料として以下のものについて試験した。実施例のGMSは、他の炭素材料に比べて高い耐酸化耐性を示した。
・GMS(低温酸化処理あり)
空気雰囲気下350℃で処理する低温酸化処理の工程を含む方法で製造された実施例のGMS。
・GMS(Al
2O
3)
鋳型ナノ粒子としてAl
2O
3を用いて製造されたGMS。具体的には、非特許文献2に記載の方法に基づき製造された。
・GMS(MgO)
鋳型ナノ粒子としてMgOを用いて製造されたGMS。具体的には、非特許文献2に記載の方法に基づき製造された。
・BP
BLACK PEARLS 2000、キャボットコーポレーション製のものを使用した。
・KB
EC300J、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のものを使用した。
・YP-50F
上記活性炭は株式会社クラレ製のものを使用した。
【0050】
(7)炭素材料の窒素吸脱着測定結果
実施例及び比較例のGMS、並びにCMSについての窒素吸脱着測定による窒素吸脱着等温線とBJH法により求められた細孔分布を、
図8及び9にそれぞれ示す。また、求められたBET比表面積と全細孔容積の値を下記表4に示す。
CMS、実施例のGMS、比較例のGMSのいずれも大きな変化が生じていないことから、熱処理前後で大きな収縮が起きていないことが確認できた。
【0051】
【0052】
(8)炭素材料のXRD測定結果
実施例及び比較例のGMS、並びにCMSについてのXRD測定結果を
図10に示す。
熱処理前後において、22~26°付近のグラフェンの積層に由来する002面のピーク強度が強まっている傾向にはあるが程度は弱く、44°付近のグラフェン網面に由来する10面のピークが強く成長しており、GMS独特のXRD検出ピークが得られた。
【0053】
(9)ラマン散乱スペクトル測定結果
実施例及び比較例のGMS、並びにCMSについてのラマン散乱スペクトル測定結果を
図11に示す。
単層グラフェンの存在に由来するG’バンドが1800℃の熱処理後に強く検出されており、アニールによりグラフェンの結晶性が向上したものと示唆された。低温酸化処理の有無に関してGMSの挙動に大きな変化は生じなかった。