(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134071
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】シリコーン樹脂部材の洗浄方法及びLED装置構成体
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20230920BHJP
H01L 33/00 20100101ALI20230920BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20230920BHJP
【FI】
C08J7/00 304
C08J7/00 CFH
H01L33/00 L
H01L33/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039410
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】川口 武
(72)【発明者】
【氏名】伊東 由多
【テーマコード(参考)】
4F073
5F142
【Fターム(参考)】
4F073AA23
4F073AA25
4F073BA33
4F073CA45
5F142BA24
5F142CA03
5F142CB13
5F142CC27
5F142CE02
5F142CE06
5F142CG03
5F142CG04
5F142CG05
5F142DA13
5F142DB02
5F142DB12
5F142EA02
5F142EA31
5F142GA31
(57)【要約】
【課題】シリコーン樹脂部材に吸着した有機物による変色を改善させることを目的とする。
【解決手段】有機物を吸着したシリコーン樹脂部材に、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線LED素子が発光する紫外線を照射することにより、有機物による変色を改善させるシリコーン樹脂部材の洗浄方法を用いる。また、少なくとも1つの、第1のLED素子を含む第1のLED装置と、少なくとも1つの、第2のLED素子を含む第2のLED装置と、第1のLED装置及び第2のLED装置からの発光を通過させる少なくとも一つのシリコーン樹脂製の光学部材と、を備え、第1のLED素子は、430~500nmの範囲にピーク波長を有する青色光を発する青色LED素子であり、第2のLED素子は、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する紫外線LED素子である、LED装置構成体を用いる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を吸着したシリコーン樹脂部材に、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線LED素子が発光する紫外線を照射することにより、前記有機物による変色を改善させることを特徴とするシリコーン樹脂部材の洗浄方法。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂部材は、無色透明の光学部材である請求項1に記載のシリコーン樹脂部材の洗浄方法。
【請求項3】
前記紫外線の照射による放射エネルギーが0.2kJ/cm2以上である請求項1または2に記載のシリコーン樹脂部材の洗浄方法。
【請求項4】
少なくとも1つの、第1のLED素子を含む第1のLED装置と、
少なくとも1つの、第2のLED素子を含む第2のLED装置と、
前記第1のLED装置及び前記第2のLED装置からの発光を通過させる少なくとも一つのシリコーン樹脂製の光学部材と、を備え、
前記第1のLED素子は、430~500nmの範囲にピーク波長を有する青色光を発する青色LED素子であり、
前記第2のLED素子は、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する紫外線LED素子である、ことを特徴とするLED装置構成体。
【請求項5】
前記光学部材が、樹脂レンズ,波長変換層,拡散層,及び導光板から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載のLED装置構成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を吸着したシリコーン樹脂部材を洗浄する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED)を用いたLED装置の用途が広がっている。具体的には、例えば、一般室内照明器具,自動車のヘッドランプやテールランプ,車内灯のようなスポットライト,薄型テレビや情報端末機器のバックライト,街灯、交通信号機等で採用されている。
【0003】
LED装置は、指向性の高い光を発光する光源であるために、光の配光角が小さいという問題があった。このような問題を解決するために、LED素子からの発光の配光角を樹脂レンズによって大きくしたり、また、LED素子からの発光の配光角を樹脂レンズによってさらに小さくしたり、任意の方向に光を制御したり、拡散材を含む拡散層を配することにより光を拡散させたり、導光板により光路を調整する技術が知られている。
【0004】
このようなLED素子からの発光を調整するための、樹脂レンズや拡散層や導光板のような光学部材に用いられる透明樹脂としては、アクリル樹脂,エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,シクロオレフィンポリマー(COP)等が知られている。このような樹脂を用いた各種光学部材には、経時的に黄変するという問題があった。このような光学部材に用いられる透明樹脂の中でも、シリコーン樹脂は比較的高い耐黄変性を有し、また、透明性等の光学特性,耐熱性,耐候性,成形性等の諸特性のバランスに優れている。そのために、シリコーン樹脂は、光学部材の透明樹脂として、広く用いられている。
【0005】
このようなシリコーン樹脂を用いた光学部材においても、経時的な黄変の発生は完全に解決されておらず、シリコーン樹脂の耐黄変性をさらに向上させることが求められていた。シリコーン樹脂の耐黄変性や耐熱変色性を向上させる技術としては、特許文献1~4に開示されたような、シリコーン樹脂の分子構造を改良したり、シリコーン樹脂に黄変防止効果のある添加剤を配合したりする技術が知られている。
【0006】
ところで、シリコーン樹脂の耐黄変性を改善する技術ではないが、被洗浄表面の有機汚染物質による汚れを洗浄する技術として、低圧水銀ランプから発せられる紫外線を被洗浄表面に照射することにより、その短波長の光エネルギーを利用して有機汚染物質を分解除去する技術が知られている。このような技術は、UVオゾン洗浄等とも称されている。UVオゾン洗浄は、詳しくは、次のようなメカニズムにより、被洗浄表面に付着した有機汚染物質を分解除去する。
【0007】
はじめに、被洗浄表面の有機汚染物質に低圧水銀ランプから発せられる、波長185nmの紫外線の光エネルギーが有機汚染物質の結合を分解し、同時に、空気中の酸素分子を分解してオゾンを発生させる。そして、低圧水銀ランプから発せられる、波長254nmの紫外線の光エネルギーが発生したオゾンを分解して活性酸素を発生させる。そして、分解されて活性化された有機汚染物質の分解物が活性酸素と結合しながら、徐々に分解されることにより、最終的に、二酸化炭素や水などの揮発性物質に変換されて有機汚染物質が除去される。このようにして、被洗浄表面に付着した有機汚染物質は、低圧水銀ランプから発せられる紫外線を照射されることにより除去される。また、下記非特許文献1は、低圧水銀ランプに代えて、キセノンエキシマランプを用い、波長172nmの光エネルギーを用いたUVオゾン洗浄も報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-141615号公報
【特許文献2】特開2016-160282号公報
【特許文献3】特開2018-44125号公報
【特許文献4】特開2021-176968号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】紫外線洗浄,ウシオ電気株式会社 遠藤真一著、光技術情報誌「ライトエッジ」No.31 (2008年10月発行),「エレクトロニクス洗浄技術」技術情報協会)(https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/200810/100367.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のようにシリコーン樹脂の耐黄変性を向上させる技術は知られていた。しかしながら、シリコーン樹脂の耐黄変性を向上させても、シリコーン樹脂を用いた光学部材等の樹脂製品の経時的な黄変の発生の問題は完全に解決されていなかった。
【0011】
本発明は、シリコーン樹脂部材に吸着した有機物による変色を改善させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述したような、使用中または使用後のシリコーン樹脂部材の経時的な黄変を解消するために鋭意検討を進めた結果、本発明に想到するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の一局面は、有機物を吸着したシリコーン樹脂部材に、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線LED素子が発光する紫外線を照射することにより、有機物による変色を改善させるシリコーン樹脂部材の洗浄方法である。このようなシリコーン樹脂部材の洗浄方法によれば、紫外線LED素子が発する紫外線を照射するだけで、使用中にシリコーン樹脂部材に吸着された有機物による黄変等の変色を改善することができる。なお、洗浄には、変色する前の変色予防も含まれる。すなわち、変色する前に、有機物を分解することにより、変色を防ぐことも含まれる。
【0014】
また、シリコーンは耐オゾン性を有していないので、従来のUVオゾン洗浄によれば、分子が酸化劣化する恐れがあった。一方、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線は、従来のUVオゾン洗浄における波長の短い紫外線とは異なり、酸素を分解して生成されるオゾンを発生させない。そのために、本発明による洗浄効果は、オゾンを介在させず、結合エネルギーの比較的高いシリコーン分子の主骨格を構成するシロキサン結合(-Si-O-)の分解を抑制する260~300nmの範囲にピーク波長の紫外線のエネルギーを用いることにより、シリコーン分子の劣化を抑制しながら、結合エネルギーの比較的低い有機物の炭素化合物を構成する炭素単結合(-C-C-)やC-H結合やC-O結合等を分解することにより、炭素化合物を主成分とする有機汚染物質のみが選択的に除去されるものであると考えている。シリコーン樹脂部材としては、無色透明の光学部材であることが、洗浄効果が顕著である点から好ましい。
【0015】
なお、従来知られたUVオゾン洗浄によれば、波長172nm、波長185nm、波長254nm、のような、エネルギーの高い比較的短い波長の紫外線をシリコーン樹脂に照射するために、また、発生するオゾンを介在させるために、主骨格を構成しているシロキサン結合(-Si-O-)が分解されて劣化しやすくなる。
【0016】
図1は、各波長の紫外線が有するエネルギー量を示している。
図1に示すように、各波長における、分子1モル当たりに付与されるエネルギー量は、波長172nmの光では166.2kcal/mol,波長185nmの光では154.5kcal/mol,波長254nmの光では112.6kcal/molである。すなわち、紫外線の波長の持つエネルギー量は、波長が短いほど高くなる。
【0017】
一方、
図2は、物質の分子を構成する結合の結合エネルギーを示す。
図2に示すように、シロキサン結合(-Si-O-)の結合エネルギーは106kcal/molであり、C-C結合の結合エネルギーは85kcal/molであり、C-H結合の結合エネルギーは99kcal/molであり、C-O結合の結合エネルギーは81kcal/molである。
【0018】
波長172nmや波長185nmの154.5kcal/molや166.2kcal/molのような高いエネルギーを有する短い波長の紫外線を、有機汚染物質が吸着されたシリコーン樹脂に照射した場合、これらの紫外線のエネルギーよりも著しく低い、C-C結合(85kcal/mol)や、C-O結合(81kcal/mol)や、Si-O結合(106kcal/mol)が分解される。一方、
図1を参照すれば、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線のエネルギーは、Si-O(106kcal/mol)と同等またはSi-Oよりも低く、C-C結合(85kcal/mol)やC-O結合(81kcal/mol)のエネルギーよりも高いために、シロキサン結合(-Si-O-)の分解は抑制されながら、-C-C-結合やC-O結合の分解が優先的に進行すると考えられる。
【0019】
また、本発明の他の一局面は、少なくとも1つの、第1のLED素子を含む第1のLED装置と、少なくとも1つの、第2のLED素子を含む第2のLED装置と、第1のLED装置及び第2のLED装置からの発光を通過させる少なくとも一つのシリコーン樹脂製の光学部材と、を備え、第1のLED素子は、430~500nmの範囲にピーク波長を有する青色光を発する青色LED素子であり、第2のLED素子は、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する紫外線LED素子である、LED装置構成体である。このようなLED装置構成体によれば、シリコーン樹脂製の光学部材に、第2のLED装置に含まれる紫外線LED素子が、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を照射させることができる。その結果、上述したように、C-C結合やC-O結合等を含む有機汚染物質を吸着したことにより変色したシリコーン樹脂製の光学部材の変色を改善、またはC-C結合やC-O結合等を含む有機汚染物質を吸着することによる変色を予防することができる。光学部材としては、樹脂レンズ,波長変換層,拡散層,または導光板等が挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シリコーン樹脂部材に吸着した有機物による変色を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、各波長の紫外線が有するエネルギー量の一例を示す表である。
【
図2】
図2は、物質の分子を構成する結合の結合エネルギーの一例を示す表である。
【
図3】
図3は、実施形態のレンズ付LED装置構成体10の模式図である。
【
図4】
図4は、レンズ付LED装置構成体10を構成する第1のLED装置3の模式図である。
【
図5】
図5は、レンズ付LED装置構成体10を構成する第2のLED装置4の模式図である。
【
図6】
図6は、実施例1の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例1の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る、シリコーン樹脂部材の洗浄方法の一実施形態について、詳しく説明する。本実施形態のシリコーン樹脂部材の洗浄方法は、例えば、使用中に、有機物を吸着したシリコーン樹脂部材に、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線LED素子が発光する紫外線を照射することにより、有機物による変色を改善させる方法である。
【0023】
本実施形態の洗浄方法が適用されるシリコーン樹脂部材は、シロキサン結合(-Si-O-)を主骨格とする、ポリマーであるシリコーン樹脂を主体とする部材であれば特に限定されない。
【0024】
シリコーン樹脂の具体例としては、主骨格の側鎖又は末端基が置換されていない未置換シリコーン樹脂であっても、側鎖又は末端基が置換されている置換シリコーン樹脂であってもよい。また、置換シリコーン樹脂としては、側鎖がメチル基またはフェニル基のみで置換されたストレートシリコーン樹脂であっても、側鎖又は末端基が、ポリエーテル,エポキシ基,アミン類,フルオロアルキル基,カルボキシル基,アラルキル基等を含む置換基で置換された変性シリコーンであってもよい。また、直鎖状であっても、環状骨格を形成していてもよい。これらの中ではとくに、側鎖がメチル基であるジメチルシリコーンが紫外線の吸収が少なくなりやすい点から好ましい。
【0025】
シリコーン樹脂の形態は、特に限定されないが、一液硬化型の液状シリコーンや二液硬化型の液状シリコーンを縮合反応させたり、付加反応させたり、ラジカル重合性官能基で置換されたシリコーンをラジカル重合させることにより、硬化形成される、シリコーンゴム,シリコーンエラストマー,シリコーンゲル,シリコーンレジン等が例示される。また、液状シリコーンは、熱硬化型でも、常温硬化型でも、光硬化型であってもよい。また、副生成物が生じにくい付加反応で硬化形成されたシリコーンゴムがとくに好ましい。さらには、シリコーンゴムとしては、付加反応させたり、過酸化物で反応させたり、電子線架橋させることにより硬化される、ミラブル型シリコーンが好ましい。
【0026】
シリコーン樹脂部材としては、無色透明であっても、有色であってもよいが、本実施形態のシリコーン樹脂部材の洗浄方法による変色改善効果が顕著である点で、無色透明の光学部材であることが好ましい。このような光学部材の具体例としては、レンズ,拡散層(拡散板),光透過性カバー、導光層(導光板)等が挙げられる。なお、無色透明とは、シリコーン樹脂部材の可視光波長領域360~780nmにおける透過率が80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であることを意味する。
【0027】
本実施形態のシリコーン樹脂部材の洗浄方法が適用される、有機物を吸着したシリコーン樹脂部材とは、使用前には黄色度(YI)が低く、使用によって有機物を吸着して黄色度(YI)が高く変化するシリコーン樹脂部材である。上述のように、シリコーン樹脂部材は、有機物を吸着して経時的に黄変することがあった。本実施形態の洗浄方法によれば、例えば、使用中にシリコーン樹脂部材に吸着された有機汚染物質による変色が改善される。
【0028】
ここで有機物としては、環境中や接着剤等の部材に含まれる各種揮発性有機化合物,タバコの煙、自動車の排気ガス、オイルミストなど空気中に浮遊している油分、ウイルスや細菌等に含まれる、C-C結合を有する化合物であって、シリコーン樹脂部材に吸着する化合物全般であり、好ましくは、分子量が1000以下、さらには500以下の低分子有機化合物が挙げられる。分子量が高いポリマーやオリゴマーは、分解されるのに要する時間が掛かる傾向がある。
【0029】
本実施形態の洗浄方法は、このような有機物を吸着したシリコーン樹脂部材に、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線LED素子が発光する紫外線を照射する方法である。
【0030】
紫外線の波長域は100~400nmであり、315~400nmの波長域を「UV-A」、280~315nmの波長域を「UV-B」、100~280nmの波長域を「UV-C」とも称し、UV-Cは深紫外とも称される。本実施形態における、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線LED素子は、「UV-C」の上限付近から「UV-B」の中央付近に渡る、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する紫外線LED素子である。
【0031】
このような、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する紫外線LED素子は、紫外線LED素子を実装した紫外LED装置として、例えば、日亜化学工業(株)において、深紫外LEDとして、型番「NCSU334B(ピーク波長λp=280nm、半値幅10nm)」等として、市販されている。
【0032】
紫外線の照射条件は、吸着された有機物の量や種類によって、適宜調整されるが、例えば、シリコーン樹脂部材に照射される260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線LED素子が発光する紫外線の放射エネルギーが0.2kJ/cm2以上、さらには2kJ/cm2以上、とくには、10kJ/cm2以上となるような紫外線を照射するUV洗浄処理が好ましく用いられる。ここで、放射エネルギー(積算光量)は下記式に基づいて算出される。
放射エネルギー(積算光量)[mJ/cm2]=ピーク放射照度[mW/cm2]×照射時間[s]
【0033】
このような有機物を吸着したシリコーン樹脂部材に、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を照射する処理によれば、後述する実施例で示されるように、シリコーン樹脂部材の劣化を抑制しながら、吸着された有機物のみが選択的に除去されて洗浄される。その結果、有機物による変色を改善させることができる。紫外線の照射は連続的であっても、間欠的に照射しても、一時的、または定期的に照射してもよい。
【0034】
このようなシリコーン樹脂部材の洗浄方法における、有機物による変色の改善効果は、JIS K 7373:2006「プラスチック-黄色度及び黄変度の求め方」の規格に準じて測定される洗浄処理前後の黄色度(YI)の変化である黄色度差ΔYIが0.5以上、さらには1以上、とくには1.5以上であることが好ましい。
【0035】
次に、上述したシリコーン樹脂部材の洗浄方法を採用した、LED装置構成体の一実施形態について説明する。
【0036】
図3は本実施形態のLED装置構成体の一実施形態である、レンズ付LED装置構成体10の模式図である。
図3(a)は上面図、
図3(b)は、
図3(a)のb-b’断面における断面図である。
図3中、1は筐体、2はLED実装基板、3は430~500nmの範囲にピーク波長を有する青色光を発する青色LED素子である、第1のLED素子を含む白色LED装置(第1のLED装置)である。また、4は260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する紫外線LED素子である、第2のLED素子を含む紫外線LED装置(第2のLED装置)、5は、シリコーン樹脂製光学部材であるシリコーン樹脂製レンズである。
【0037】
図3のレンズ付LED装置構成体10においては、LED実装基板2には、白色LED装置である第1のLED装置3が中央に実装されており、それを取り囲むように、4つの紫外線LED装置である第2のLED装置4が実装されている。LED装置構成体における第1のLED装置及び第2のLED装置の配置及び数は、目的や用途に応じて適宜調整される。また、LED実装基板2には、電源に接続することにより第1のLED装置3及び第2のLED装置4をそれぞれ発光させるための制御回路を含む回路が形成されている。図略の電源からLED実装基板2の回路に電力が供給されることにより、第1のLED装置3及び第2のLED装置4が同時に、または、個別に発光する。
【0038】
図4に示すように、第1のLED装置3は、青色LED素子である第1のLED素子12と、第1のLED素子12を実装するサブマウント基板11と、青色LED素子である第1のLED素子12を収容するための凹部を備えるパッケージ部材14と、第1のLED素子12を封止する樹脂封止材13と、第1のLED素子12からの発光を白色光に波長変換するための蛍光体Fを含む蛍光体層19と、を備えるLED発光装置である。パッケージ部材14の凹部の内壁面には、銀メッキ等による反射膜18が形成されている。第1のLED素子12の一方の電極はリード16に接続され、第1のLED素子12の他方の電極は金線15によりワイヤーボンディングされてリード17に接続されて、各リード16,17が外部へ延出されている。第1のLED装置3は、リード16、17を介して、レンズ付LED装置構成体10のLED実装基板2に実装されている。
【0039】
各リード16,17を介して電力が付与されることにより、第1のLED素子12が発光する。第1のLED装置3においては、樹脂封止材13の上面が発光面になる。そして、第1のLED装置3は、第1のLED素子12から発せられる青色光の一部が、YAG系蛍光体等の蛍光体Fを含む蛍光体層19により波長変換され、青色光と蛍光体Fが発する蛍光との混色により、疑似白色の光を発する。
【0040】
第1のLED装置3においては、蛍光体含有キャップである蛍光体層19が採用されている。蛍光体含有キャップは、蛍光体を光透過性樹脂に均一に分散させたシートをキャップ状に成形して製造される。光透過性樹脂の具体例としては、例えば、シリコーンゴムやエポキシ樹脂等が例示される。蛍光体層としては、蛍光体含有キャップの代わりに、樹脂封止材中に埋設させた蛍光体含有シートであっても、透明樹脂封止材の発光面に蛍光体を含有する光透過性樹脂の組成物を塗布して形成された樹脂層であってもよい。また、第1のLED素子を封止する樹脂封止材に蛍光体を分散させたものであってもよい。
【0041】
第1のLED素子12は、430~500nmの領域、好ましくは450~480nmの領域にピーク波長を有する青色光を発する、青色LED素子(青色LEDチップ)である。青色LED素子の具体例としては、例えば、GaN系等の素子が挙げられる。
【0042】
樹脂封止材を形成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,アクリル樹脂,シクロオレフィンポリマー(COP)等の透明樹脂が挙げられる。
【0043】
また、
図5に示すように、第2のLED装置4は、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する紫外線LED素子である第2のLED素子22と、第2のLED素子22を実装するサブマウント基板21と、第2のLED素子22を収容するための凹部を備えるセラミック製のパッケージ部材24と、パッケージ部材24の凹部を閉じるガラス蓋23と、を備えるLED発光装置である。第2のLED素子22の一方の電極はリード26に接続され、第2のLED素子22の他方の電極は金線25によりワイヤーボンディングされてリード27に接続されて、各リード26,27が外部へ延出されている。第2のLED装置4は、リード26、27を介して、レンズ付LED装置構成体10のLED実装基板2に実装されている。
【0044】
各リード26,27を介して電力を付与されることにより、第2のLED素子22が、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を発する。第2のLED装置4においては、ガラス蓋23の上面が紫外線を発する面になる。
【0045】
第2のLED素子22は、260~300nmの領域、好ましくは270~290nmの領域にピーク波長を有する紫外線を発する、紫外線LED素子(紫外線LEDチップ)である。紫外線LED素子の具体例としては、例えば、半導体AlGaN系等の素子が挙げられる。
【0046】
そして、
図3を参照すれば、回路上に第1のLED装置3及び第2のLED装置4を実装したLED実装基板2は、筐体1に収容され、第1のLED装置3及び第2のLED装置4からの発光が外部に取り出される発光面側に、シリコーン樹脂製レンズ5が配されている。シリコーン樹脂製レンズ5は、第1のLED装置3からの発光の配光角を調整する。シリコーン樹脂製レンズ5は、無色透明の半球上のレンズであり、第1のLED装置3からの発光及び第2のLED装置4の発する紫外線を通過させるように、筐体1に支持されて発光面に配置されている。
【0047】
第1のLED装置3からの発光は、例えば、色温度8000K~3000Kの範囲にあるような白色の可視光である。シリコーン樹脂製レンズ5は、そのレンズ効果により、指向性の高い第1のLED装置3からの配光角を広げるように設計されている。
【0048】
上述したように、シリコーン樹脂は、比較的高い耐黄変性を有し、また、透明性等の光学特性,耐熱性,耐候性,成形性等の諸特性のバランスに優れている。そのために、シリコーン樹脂は、指向性の高いLED装置からの配光角や配向方向を調整するためのレンズのような光学部材として、広く用いられていた。しかしながら、上述のように、シリコーン樹脂自身の耐黄変性や添加剤による耐黄変性を向上させても、シリコーン樹脂を用いた光学部材の経時的な黄変の発生の問題は完全に解決されていなかった。
【0049】
後の実施例に例示するように、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線は、シリコーン樹脂の主骨格を形成するシロキサン結合(-Si-O-)の分解を抑制しながら、有機汚染物質の-C-C-結合やC-O結合の分解を優先的に進行させることができる。従って、
図3に示したような、レンズ付LED装置構成体においては、その使用時間の経過に伴い、シリコーン樹脂製レンズ等の光学部材に不可避的に有機汚染物質が付着し、吸着し、徐々に変色することがある。本実施形態に示したレンズ付LED装置構成体のように、シリコーン樹脂製レンズに、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を通過させるように紫外線LED素子を配することによれば、有機汚染物質を吸着したシリコーン樹脂製レンズ等の光学部材に、260~300nmの範囲にピーク波長を有する紫外線を所定の条件で通過させることにより、シリコーン樹脂を劣化させることなく、有機汚染物質を分解除去することができる。紫外線LED素子からの紫外線の照射は連続的であっても、間欠的に照射しても、一時的、または定期的に照射してもよい。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
光学部材として用いられる、付加反応二液型ジメチルシリコーンゴムの硬化物である、厚さ2mmのシリコーン樹脂の無色透明の成形体を成形し、一辺25mmの正方形のテストピースを作製した。
【0052】
そして、揮発性有機化合物(トルエンやホルムアルデヒド等)及びタバコの煙を含む有機汚染物質(ニコチン等)で汚染された室温(25℃)の部屋に、7000時間放置する汚染処理をすることにより、シリコーン樹脂のテストピースに有機汚染物質を吸着させて黄変させた。
【0053】
そして、7000時間の汚染処理されたシリコーン樹脂のテストピースに、1つの表面実装型の深紫外LED装置(日亜化学工業(株)製NCSU334B、ピーク波長λp=280nm、半値幅10nm)から出射される、ピーク波長280nmの紫外線を約1000時間、照射するUV洗浄処理を行った。なお、深紫外LED装置からシリコーン樹脂のテストピースの表面までの距離(照射距離)は、2mmであり、ピーク放射照度は、130mW/cm2であった。また、ピーク波長280nmのピーク放射照度は、紫外線積算光量計(ウシオ電機(株)製UIT-250とUVD-S254)を用いて測定された、シリコーン樹脂のテストピースに照射される紫外線の最大値となるピーク放射照度を参照した。
【0054】
そして、汚染処理される前のシリコーン樹脂のテストピース、及び、汚染処理されたシリコーン樹脂のテストピースに1000時間のUV洗浄処理を行い、途中の一定時間ごとに抜き取ったテストピース、のそれぞれのテストピースについて、以下の測定方法により黄色度を測定した。
【0055】
(黄色度の測定方法)
JIS K 7373:2006「プラスチック-黄色度及び黄変度の求め方」の規格に準じて、紫外・可視・近赤外分光光度計((株)島津製作所製 UV-3600Plus)を用いて補助イルミナントCを使用して各テストピースの表面のXYZ表色系(2度視野)の三刺激値X,Y,Zを測定した。なお、測定は、深紫外LED装置の照射ピークになる付近における、3点の平均値とした。そして、下記式に基づいて、各テストピースの黄色度YIを算出した。
YI(黄色度)=100 (1.2769X-1.0592Z)/Y
【0056】
結果を下記表1に示す。また、照射された紫外線の放射エネルギー(積算光量)に対する黄色度YIの変化を示すグラフを
図6~8に示す。
【0057】
【0058】
表1を参照すれば、汚染処理される前のシリコーン樹脂のテストピースの黄色度YIが0.68であったのに対し、汚染処理後のシリコーン樹脂のテストピースの黄色度YIは4.27であった。このように、汚染処理によってシリコーン樹脂のテストピースの黄色度YIは、3.59高くなった。なお、黄色度差ΔYIがプラスになればなるほど、黄変していることを示す。
【0059】
そして、黄色度YI=4.27に黄変したシリコーン樹脂のテストピースに、ピーク波長280nmの紫外線を照射するUV洗浄処理により、
図6に示されたように、時間の経過とともに、黄色度YIが顕著に低下した。このような結果から、有機汚染物質で汚染されたシリコーン樹脂は、ピーク波長280nmの紫外線の照射により、顕著に黄色度YIが低下することが分かる。また、照射された紫外線によるシリコーン樹脂のクラックの発生は無く、シリコーン樹脂を著しく劣化させることがなかった。
【0060】
[比較例1]
シリコーン樹脂のテストピースの代わりに、光学部材として用いられる、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系樹脂)の無色透明の一辺25mmの正方形で厚さ3mmのテストピースを準備した。
【0061】
そして、汚染処理していないアクリル樹脂のテストピースに、実施例1と同様にして、深紫外線LEDから出射されるピーク波長280nmの紫外線を約168時間照射するUV洗浄処理を行った。そして、実施例1と同様にして、168時間のUV洗浄処理を行う途中の一定時間ごとに抜き取ったテストピースについて、黄色度YIを測定した。
【0062】
結果を表1に示す。また、照射された紫外線の放射エネルギー(積算光量)に対する黄色度YIの変化を示すグラフを
図7に示す。
【0063】
表1を参照すれば、ピーク波長280nmの紫外線を照射するUV洗浄処理により、
図7に示されたように、時間の経過とともに、黄色度YIが顕著に高くなった。そして、放射エネルギーが78.624kJ/cm
2になる、168時間経過時には、YIが30.45と極めて高くなった。この結果から、アクリル樹脂は、ピーク波長280nmの紫外線の照射により、黄色度YIが顕著に高くなり、黄変することが分かる。この結果により、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系樹脂)が照射された紫外線により劣化して黄変していくことが確認された。また、照射された紫外線によるアクリル樹脂のクラックの発生が確認され、有機物を吸着させるための汚染処理をしていない場合であっても、アクリル樹脂はピーク波長280nmの紫外線の照射により劣化することが確認された。
【0064】
[参考例]
実施例1と同様のシリコーン樹脂のテストピースを準備した。そして、汚染処理していないシリコーン樹脂のテストピースに、実施例1と同様にして、深紫外線LEDから出射されるピーク波長280nmの紫外線を照射するUV洗浄処理を行った。なお、照射時間は、放射エネルギーが471.744kJ/cm2になる、1008時間まで追跡した。そして、実施例1と同様にして、1008時間のUV洗浄処理を行う途中の一定時間ごとに抜き取ったテストピース、について、黄色度YIを測定した。
【0065】
結果を表1に示す。また、照射された紫外線の放射エネルギー(積算光量)に対する黄色度YIの変化を示すグラフを
図8に示す。
【0066】
表1を参照すれば、汚染処理していないシリコーン樹脂のテストピースに、ピーク波長280nmの紫外線を照射するUV洗浄処理しても、
図8に示されたように、時間の経過によって黄色度YIは大きく変化しなかった。このような結果から、汚染処理していないシリコーン樹脂は、ピーク波長280nmの紫外線の照射により、黄色度YIがほとんど変化しない、つまり、紫外線により劣化して黄変しにくいことが分かった。また、照射された紫外線によるシリコーン樹脂のクラックの発生は無く、UV洗浄処理によって、シリコーン樹脂は著しい劣化を示さなかった。
【0067】
[実施例2]
実施例1と同様の、7000時間放置する汚染処理をした、シリコーン樹脂のテストピースを準備した。
【0068】
また、基板上に25mmの発光中心間距離で3つの深紫外LED装置(日亜化学工業(株)製NCSU334B、ピーク波長λp=280nm、半値幅10nm)を直線上に配置した紫外線発光装置構成体を準備した。
【0069】
そして、紫外線発光装置構成体の3つの深紫外LED装置から出射される、ピーク波長280nmの紫外線を1000時間、照射するUV洗浄処理を行った。なお、深紫外LED装置からシリコーン樹脂のテストピースの表面までの距離(照射距離)は、30mmであり、ピーク放射照度は、1.1mW/cm2であった。
【0070】
そして、3つの深紫外線LEDから出射されるピーク波長280nmの紫外線を照射するUV洗浄処理を行ない、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表2に示す。また、照射された紫外線の放射エネルギー(積算光量)に対する黄色度YIの変化を示すグラフを
図9に示す。
【0071】
【0072】
表2を参照すれば、黄色度YI=4.29に黄変したシリコーン樹脂のテストピースに、照射距離を30mmにして、ピーク放射照度を1.1mW/cm
2に低くしても、
図9に示されたように、時間の経過とともに、黄色度YIが低下した。具体的には、放射エネルギーが0.2kJ/cm
2程度であっても、黄色度が明確に低下することが分かる。また、複数個の深紫外線LEDを用いたことにより、広い範囲でより早く黄色度が改善していることが分かる。