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  • 特開-車輪支持用転がり軸受ユニット 図1
  • 特開-車輪支持用転がり軸受ユニット 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134073
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】車輪支持用転がり軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/38 20060101AFI20230920BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20230920BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
F16C19/38
F16C33/58
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039413
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 晴美
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701FA13
3J701FA35
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】外輪外周面の軸方向両端に一対の小径部を凹設した場合であっても、クリープやフレッチング摩耗を軽減することが可能な車輪支持用転がり軸受ユニットを提供する。
【解決手段】車輪支持用転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面をそれぞれ有する一対の内輪と、複列の外輪軌道面と複列の内輪軌道面との間に転動自在に設けられた複数の円すいころと、を有する。外輪の外周面の軸方向両端には、一対の小径部が凹設される。複数の円すいころの周面と複列の外輪軌道面との接触面のうち最大径部を通り、それぞれ外輪軌道面に対して135°の交角を持つ一対の第一仮想線よりも、軸方向両端側に、一対の小径部が設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面をそれぞれ有する一対の内輪と、
複列の前記外輪軌道面と複列の前記内輪軌道面との間に転動自在に設けられた複数の円すいころと、
を有する車輪支持用転がり軸受ユニットであって、
前記外輪の外周面の軸方向両端には、一対の小径部が凹設され、
前記複数の円すいころの周面と前記複列の外輪軌道面との接触面のうち最大径部を通り、それぞれ前記外輪軌道面に対して135°の交角を持つ一対の第一仮想線よりも、軸方向両端側に、前記一対の小径部が設けられる
車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記外輪の外周面の軸方向中央には、中央小径部が凹設され、
前記複数の円すいころの周面と前記複列の外輪軌道面との接触面のうち最小径部を通り、それぞれ前記外輪軌道面に対して90°の交角を持つ一対の第二仮想線よりも、軸方向中央側に、前記中央小径部が設けられる
請求項1に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記外輪の内周面には、前記複列の外輪軌道面の間に、肉盗みが凹設される、
請求項2に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪支持用転がり軸受ユニットに関し、特に、転動体として円すいころを用いる、第一世代の車輪支持用転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪及び制動用部材は、車輪支持用転がり軸受ユニット(以下、「ハブユニット軸受」とも言う)により、懸架装置に対して回転自在に支持される。車輪支持用転がり軸受ユニットとしては、例えば、円すいころが背面組合せされた複列円すいころ軸受、所謂、第一世代のハブユニット軸受が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の第一世代のハブユニット軸受は、内周面にテーパ状の複列の外輪軌道面が形成された外輪と、外周面にテーパ状の内輪軌道面が形成された一対の内輪と、複列の外輪軌道面と複列の内輪軌道面との間に保持器を介して転動自在に収容された複数の円錐ころと、外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着された一対のシールと、を備える。
【0004】
このような、外輪がハブに圧入されて外輪回転で使用される第一世代の円すいハブユニット軸受においては、ハブと外輪が比較的薄肉である為、クリープを防止する目的で、大きな締め代を伴い、ハブに外輪が圧入されている。
【0005】
特許文献1の円すいハブユニット軸受においては、締め代が大きい状態でも外輪の圧入がしやすい様に、シール芯金との嵌合に伴う外輪外径の膨張を吸収の上、圧入ガイドとなる一対の小径部が、外輪の外周面の軸方向両端部に形成されている。
【0006】
第一世代のハブユニット軸受の外輪は、球状セメンタイトを持つため、引張応力に弱い軸受鋼を素材とし、軸方向両端に向かう程、薄肉となる形状である。一方、ハブは複雑な形状をしているため、鋳鋼を用いた鋳込みや、軽量化を狙う場合はアルミダイカストで製造されるが、いずれの場合も縦弾性係数は軸受鋼より低い。例えば、縦弾性係数は、球状黒鉛鋳鉄品(FCD400)では98GPaであり、アルミでは70GPaであるのに対し、軸受鋼では208GPaである。
【0007】
したがって、外輪の軸方向両端では薄肉である上、縦弾性係数の小ささに起因してハブによるバックアップも十分ではないので、負荷側の外輪外径は膨らみ、引張応力が発生すると共に、クリープやフレッチング摩耗も発生しやすい状態となっている。
【0008】
特に、特許文献1の第一世代のハブユニット軸受の様に、外輪外周面が圧入ガイドとなる一対の小径部を持ち、外輪軌道面の軸方向両端側の研削逃げと小径部が円すいころ転送面と近い位置で径方向に重畳すると、ハブによるバックアップのない最薄肉部に転動体荷重に起因する引張応力が発生する。
【0009】
また、一対の小径部の起点(外周面との交点)は転動体荷重に起因する圧縮応力によるエッジロードでクリープやフレッチング摩耗が発生しやすく、著しい場合は、上記の転動体荷重に起因する引張応力と相まって、クリープやフレッチング摩耗による面荒れ部を起点とするクラックの発生につながる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-057013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、外輪外周面の軸方向両端に一対の小径部を凹設した場合であっても、クリープやフレッチング摩耗を軽減することが可能な車輪支持用転がり軸受ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面をそれぞれ有する一対の内輪と、
複列の前記外輪軌道面と複列の前記内輪軌道面との間に転動自在に設けられた複数の円すいころと、
を有する車輪支持用転がり軸受ユニットであって、
前記外輪の外周面の軸方向両端には、一対の小径部が凹設され、
前記複数の円すいころの周面と前記複列の外輪軌道面との接触面のうち最大径部を通り、それぞれ前記外輪軌道面に対して135°の交角を持つ一対の第一仮想線よりも、軸方向両端側に、前記一対の小径部が設けられる
車輪支持用転がり軸受ユニット。
(2) 前記外輪の外周面の軸方向中央には、中央小径部が凹設され、
前記複数の円すいころの周面と前記複列の外輪軌道面との接触面のうち最小径部を通り、それぞれ前記外輪軌道面に対して90°の交角を持つ一対の第二仮想線よりも、軸方向中央側に、前記中央小径部が設けられる
(1)に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
(3) 前記外輪の内周面には、前記複列の外輪軌道面の間に、肉盗みが凹設される、
(2)に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットによれば、外輪外周面の軸方向両端に一対の小径部を凹設した場合であっても、クリープやフレッチング摩耗を軽減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第一実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。
図2図2は、第二実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。
図3図3は、第三実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。図1に示すように、第一実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1(以後、「軸受ユニット1」と呼ぶことがある)は、内周面21に複列の外輪軌道面22,22を有する外輪20と、外周面31に内輪軌道面33をそれぞれ有する一対の内輪30,30と、複列の外輪軌道面22,22と複列の内輪軌道面33,33との間に転動自在に設けられた複数の円すいころ40と、一対のシール部50,50とを備える。このように、軸受ユニット1は、所謂、第一世代のハブユニット軸受である。
【0016】
外輪20は、内周面21に複列(2列)の外輪軌道面22,22を有している。それぞれの外輪軌道面22は、軸受ユニット1の軸方向中央から軸方向両端に向かうにつれて大径となる断面テーパ状である。外輪20は、使用時には、懸架装置を構成するナックルに内嵌固定される。すなわち、外輪20は、使用時に、ナックルに支持された状態で回転しない。
【0017】
一対の内輪30,30は、軸方向に互いに当接するように配置されている。それぞれの内輪30の外周面31には、外輪軌道面22と径方向に対向する位置に、内輪軌道面33,33が設けられる。それぞれの内輪軌道面33は、軸受ユニット1の軸方向中央から軸方向両端に向かうにつれて大径となる断面テーパ状である。一対の内輪30,30は、使用時には、ハブ輪の外周に固定され、ハブ輪と一体に回転する。
【0018】
円すいころ40は、複列の外輪軌道面22と複列の内輪軌道面33との間に、それぞれ複数ずつ、保持器60により保持された状態で転動自在に設けられる。
【0019】
また、外輪20の内周面21の軸方向両端部と、一対の内輪30,30の外周面31,31の軸方向端部と、の間には、シールリング、又は、シールリングとスリンガとの組合せからなる組合せシールリングなどの一対のシール部50,50が配置される。一対のシール部50,50は、複数の円すいころ40が設けられた内部空間45の軸方向両端開口を塞いでいる。これにより、内部空間45に封入したグリース等の潤滑剤が外部に漏洩するのを防止すると共に、外部から内部空間45に泥水等の異物が浸入するのを防止している。
【0020】
ここで、本実施形態の外輪20の外周面25の軸方向両端には、一対の小径部26、26が径方向内側に向かって凹設されている。これら一対の小径部26,26は、少なくとも一部が一対のシール部50,50と径方向に重畳している。一対の小径部26,26が設けられることでシール部50の芯金の嵌合にともなう外輪20の膨張を吸収できる。また、一対の小径部26,26は圧入ガイドとしても機能する。
【0021】
また、一対の小径部26,26は、一対の第一仮想線L1,L1よりも軸方向両端側に設けられている。一対の第一仮想線L1,L1はそれぞれ、複数の円すいころ40,40の周面41と複列の外輪軌道面22,22との接触面のうち最大径部P1,P1を通る。すなわち、最大径部P1は、円すいころ40の転走面のうち最大径の箇所であり、転走面と円すいころ40の頭部42側の面取りとが交わる位置である。そして、第一仮想線L1は、最大径部P1を通過すると共に、外輪軌道面22に対して135°の交角αを持つ。なお、第一仮想線L1と外輪軌道面22との交角αは、外輪軌道面22に対して径方向外側に向かう角度である。
【0022】
このように、一対の小径部26,26は一対の第一仮想線L1,L1よりも軸方向両端側に設けられているので、すなわち、転動体荷重に起因する圧縮応力の伝播方向だけでなく、せん断応力の伝播方向よりも軸方向両端側に設けられている。したがって、一対の小径部26,26の起点(外周面25との交点)における転動体荷重に起因する圧縮応力によるエッジロードを軽減し、クリープやフレッチング摩耗を軽減すると共に、転動体荷重に起因する引張応力も軽減し、クリープやフレッチング摩耗による面荒れ部を起点とするクラックの発生を防止することができる。
【0023】
(第二実施形態)
図2は、第二実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。図2に示すように、第二実施形態の軸受ユニット1は、外輪20の外周面25の軸方向中央に、中央小径部27が径方向内側に向かって凹設される点が、第一実施形態と異なる。他の構成は第一実施形態と同様であるので、同様の符号を図面に付すことで、その説明を省略又は簡略化する。
【0024】
中央小径部27は、一対の第二仮想線L2,L2よりも軸方向中央側に設けられている。一対の第二仮想線L2,L2はそれぞれ、複数の円すいころ40,40の周面41と複列の外輪軌道面22,22との接触面のうち最小径部P2,P2を通る。すなわち、最小径部P2は、円すいころ40の転走面のうち最小径の箇所であり、転走面と円すいころ40の尾部43側の面取りとが交わる位置である。そして、第二仮想線L2は、最小径部P2を通過すると共に、外輪軌道面22に対して90の交角βを持つ。なお、第二仮想線L2と外輪軌道面22との交角βは、外輪軌道面22に対して径方向外側に向かう角度である。
【0025】
外輪20の軸方向中央部は厚肉の為、外周面25に生じる転動体荷重に起因する引張応力は低く、せん断応力の伝播方向は考慮する必要がない。また、外輪軌道面22に対して135°の交角βを持つ一対の第二仮想線L2,L2よりも軸方向中央側に、中央小径部27を設けることは、軸受ユニット1の軸方向幅を拡大する必要があるので、第一世代のハブユニット軸受の構造上、現実的ではない。
【0026】
そこで、本実施形態の中央小径部27は、転動体荷重に起因する圧縮応力の伝播方向だけを考慮して設けている。すなわち、中央小径部27は、転動体荷重に起因する圧縮応力の伝播に伴う、クリープやフレッチング摩耗を軽減する目的で設けられている。転動体荷重に起因する圧縮応力の伝播をハブと外輪外径の嵌合面で受け止めると共に、両列の円すいころ位相が一致していないことに伴い、転動体通過に伴う外輪20の変形は、片列ずつ、交番で発生する。
【0027】
本例の中央小径部27は、軸方向一方側の変形が、軸方向他方側に伝達されない様にして、変形の範囲を一方側に限定して、外輪外径の変形回数を減らし、また、フレッチング摩耗の範囲を減少させると共に、軸方向他方側が一方側のクリープを抑制する様にしているので、クリープやフレッチング摩耗を軽減することができる。
【0028】
(第三実施形態)
図3は、第三実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図である。図3に示すように、第三実施形態の軸受ユニット1は、外輪20の内周面21に、肉盗み23が径方向外側に向かって凹設される点が、第二実施形態(図2参照)と異なる。他の構成は第二実施形態と同様であるので、同様の符号を図面に付すことで、その説明を省略又は簡略化する。
【0029】
肉盗み23は、外輪20の内周面21のうち、複列の外輪軌道面22,22の間、すなわち軸方向中央に設けられる。これにより、軸方向一方側の変形が、軸方向他方側に伝達されない効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 車輪支持用転がり軸受ユニット
20 外輪
21 内周面
22 外輪軌道面
23 肉盗み
25 外周面
26 小径部
27 中央小径部
30 内輪
31 外周面
33 内輪軌道面
40 円すいころ
41 周面
42 頭部
43 尾部
45 内部空間
50 シール部
60 保持器
P1 最大径部
P2最小径部
L1 第一仮想線
L2 第二仮想線
図1
図2
図3