(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134119
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20230920BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 L
C23C14/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039477
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】田澤 匠
(72)【発明者】
【氏名】濱中 優貴
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF05
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF19
3C046FF34
3C046FF38
3C046FF39
3C046FF43
3C046FF45
3C046FF48
3C046FF50
3C046FF51
3C046FF53
4K029AA01
4K029BA58
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA04
4K029CA13
4K029DA08
4K029DB04
4K029DD06
4K029FA04
4K029FA05
4K029JA02
(57)【要約】
【課題】優れた耐摩耗性を有するTiCNサーメット基体の被覆工具の提供
【解決手段】基体はTiCNとTiWMCN(Mは、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Moの1種以上)の硬質相を有し、
被覆層の界面から基体の内部に向かって、平均厚さが0.1μm超え、10μm以下であって、(Coの質量%+Niの質量%)が基体の内部の同和に対して1.4~6.0倍である結合相成分富化領域を有し、
同領域では、
界面に接する結合相がWを5~15原子%含み、(Co原子%+Ni原子%)/W原子%が0.9~9.0で、界面から深さ20nmの位置の結合相中におけるWの原子%に対して1.4倍以上で、平均厚さが1~10nmのW濃化領域を含み、、界面に接する結合相のそれぞれが被覆層と接する長さの和λaと、硬質相のそれぞれが被覆層と接する長さの和λbが、0.10≦λa/(λa+λb)≦0.40である
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と該基体上に被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
前記基体は、TiCNおよびTiWMCN(Mは、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Moの1種以上)を含む硬質相と、CoとNiの1種または2種を主成分とする結合相を有し、
前記基体は、前記被覆層の界面から前記基体の内部に向かって、その平均厚さが0.1μm超え、10μm以下であって、(Coの質量%+Niの質量%)が前記基体の内部の同質量%の和に対して1.4倍以上、6.0倍以下である結合相成分富化領域を有し、
前記結合相成分富化領域では、
前記界面に接する前記結合相が、Wを5原子%以上、15原子%以下含み、[(Co原子%+Ni原子%)/W原子%]が0.9以上、9.0以下であり、かつ、前記界面から深さ20nmの位置に存在する結合相中におけるWの原子%に対して1.4倍以上であり、その平均厚さが1nm以上10nm以下のW濃化領域を含み、さらに、前記界面に接する前記結合相のそれぞれが前記被覆層と接する長さの和λaと、前記硬質相のそれぞれが前記被覆層と接する長さの和λbが、0.10≦λa/(λa+λb)≦0.40である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被覆工具は、例えば、炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット合金(以下、TiCNサーメットという)等を基体として被覆層を形成したものが知られている。
そして、この基体の組織、組成等を工夫することにより、基体自体の切削性能を向上させる提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、支持具に接する支持具接触面は、被覆層により覆われていない焼結肌で構成され、かつその支持具接触面の最表面部には、Co、Niの1種または2種を主成分とする単一相からなる金属しみだし層が0.1μm以上5μm以下の厚さでかつ60面積%以上の表面占有率で形成されており、一方、逃げ面およびチップブレーカの表面には前記金属しみだし層が存在しないTiCNサーメットを基体とする被覆工具が記載され、該被覆工具は前記支持具接触面からの亀裂・破損の発生や進展を抑制できるとされている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、金属しみだし層が金属成分を20~90質量%含有しているTiCNサーメットを基体とする切削工具が記載され、該切削工具は耐摩耗性と耐欠損性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-245581号公報
【特許文献2】特開平4-146006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたものであって、優れた耐摩耗性を有し、TiCNサーメットを基体とする表面被覆切削工具を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具は、
基体と該基体上に被覆層を有し、
前記基体は、TiCNおよびTiWMCN(Mは、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Moの1種以上)を含む硬質相と、CoとNiの1種または2種を主成分とする結合相を有し、
前記基体は、前記被覆層の界面から前記基体の内部に向かって、その平均厚さが0.1μm超え、10μm以下であって、(Coの質量%+Niの質量%)が前記基体の内部の同質量%の和に対して1.4倍以上、6.0倍以下である結合相成分富化領域を有し、
前記結合相成分富化領域では、
前記界面に接する前記結合相が、Wを5原子%以上、15原子%以下含み、[(Co原子%+Ni原子%)/W原子%]が0.9以上、9.0以下であり、かつ、前記界面から深さ20nmの位置に存在する結合相中におけるWの原子%に対して1.4倍以上であり、その平均厚さが1nm以上10nm以下のW濃化領域を含み、さらに、前記界面に接する前記結合相のそれぞれが前記被覆層と接する長さの和λaと、前記硬質相のそれぞれが前記被覆層と接する長さの和λbが、0.10≦λa/(λa+λb)≦0.40である。
【発明の効果】
【0008】
前記表面被覆切削工具は、優れた耐摩耗性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具の縦断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、TiCNサーメット基体において、焼結によって表面に生じる金属しみだし層について検討した。ここで、金属しみだし層とは、TiCN基サーメット製切削インサートを焼結で製造したとき、焼結体表面に、Ni、Co等の結合相の成分が滲み出ることがあり、この結合相の成分を主体とする金属層のことをいう。
【0011】
検討の結果、次の事項が判明した。
(1)前記特許文献1に記載された切削工具は、貫通穴の支持具接触面に金属しみだし層が存在するため同面からの亀裂、破損の発生や進展を抑制するものの、金属しみだし層が存在しない逃げ面やチップブレーカ部は靱性が低いこと。
(2)前記特許文献2に記載された切削工具は、金属しみだし層により靱性を有するものの、高速切削加工に供すると境界摩耗が発生して耐久性が劣ること、そして、金属しみだし層の上部に被覆層を形成すると被覆層の付着強度が低く、被覆層が剥離しやすいこと。
【0012】
すなわち、金属しみだし層の存在は耐欠損性を向上させるが、高速切削加工時の境界摩耗を抑制できず、また、被覆層との密着性が低く、耐久性の高い被覆工具を得ることができないことがわかった。
【0013】
ここで、高速切削加工とは通常の切削加工よりも切削速度が30%以上早い切削加工をいい、例えば、鋼の切削加工において、2.0mm以下の切込み、0.5mm/rev.以下の送り、かつ、200m/min以上の切削速度の切削条件に該当するものをいう。
【0014】
そこで、本発明者は、前述の目的を達成する被覆工具を得るべく、更に鋭意検討を行い、結合相の中に存在するWに着目した。
Wは、結合相の固溶強化のための添加、あるいは合金炭素量の調整のために添加する場合や、不可避不純物として意図せず混入する場合がある。いずれの場合においても、結合相に固溶しきれないWは、硬質相であるTiCNの周辺を取り囲みTiWMCNの形で中間層を形成する。また、Wの含有量が増すと、WがTiと比較して窒素との親和性が低いため、合金中窒素量が低下しやすくなり、TiCN基サーメットの耐境界摩耗性が低下するなどの問題点が発生する。そのため、高速切削時の寿命を向上させるためには、硬質相および結合相中にWが過剰に含まれている状態はあまり好ましいとはいえないことが判明した。
【0015】
また、本発明者は被覆層と基体との界面から基体内部に向かって、(Coの質量%+Niの質量%)で表されるCoとNiの質量%の和が、基体内部のCoとNiの質量%の和に比して、所定の値である領域(結合相成分富化領域)を有し、
そして、この領域の結合相部分と被覆層の界面において、Coの原子%とNiの原子%の和とWの原子%の比、すなわち、[(Coの原子%+Niの原子%)/Wの原子%]が所定の範囲にあり、かつ前記界面から深さ20nmの位置に存在する結合相中におけるWの原子%に対して1.4倍以上であるW濃化領域が存在すると、
被覆層と基体の密着力が向上し、耐摩耗性の低下を最小限に抑えることができるという知見を得た。
【0016】
以下では、本発明の実施形態に係る被覆工具についてより詳細に説明する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するとき、「L以上、M以下」と同義であって、その範囲は上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値(M)のみに単位が記載されているときは、下限値の単位も同じである。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る被覆工具の断面図(基体の表面の微小な凹凸を無視して基体の表面を水平面と扱いこの面に垂直な断面)を模式的に示す。この
図1から明らかなように、この実施形態に係る被覆工具は、基体(1)上に被覆層(2)を有している。そして、基体(1)は、基体内部(3)、結合相成分富化領域(4)を有し、結合相成分富化領域(4)において、基体(1)と被覆層(2)の界面(6)の近傍にW濃化領域(5)を有している。以下、順にこれらを説明する。
【0018】
1.基体
基体は、TiCNおよびTiWMCN(Mは、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Moの1種以上)を含む硬質相と、CoおよびNiを含む結合相を有することが好ましい。
TiCN質量とTiWMCN質量との比は特段の制約がないが、W濃化領域を確実に得るために、基体内部(被覆層の界面から内側に向かって垂直方向の距離400μmの位置における)のWの濃度が5質量%~25質量%となるように配合することが好ましい。
【0019】
結合相は、Coの原子数がCoとNiの原子数の和に占める割合、Co/(Co+Ni)が0.4以上であることが好ましい。なお、この割合は、1.0(全てがCo)であってもよい。
ここで、結合相とは、fcc構造を有し、相を構成する全ての成分に対して、CoとNiの合計が50原子%以上を占めているものである。
結合相には、硬質相の成分であるTi、W、M、C、N、その他不可避的不純物を含んでいてもよい。これらが結合相中に存在するときは、結合層に固溶した状態であると推定される。
【0020】
また、硬質相とは、相を構成する全ての成分に対して、Ti、W、M、C、Nの合計が50原子%以上を占めているものである。
硬質相には、結合相の成分であるCo、Ni、その他不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0021】
2.結合相成分富化領域
被覆層の界面から基体の内部に向かって、
その平均厚さが0.1μm超え、10μm以下であって、
(Coの質量%+Niの質量%)が基体の内部の同質量%の和に対して1.4倍以上、6.0倍以下である結合相成分富化領域を有することが好ましい。
【0022】
結合相成分富化領域の平均厚さを前記範囲とする理由は、結合相成分富化領域が存在する(平均厚さが0.1μm超え)ことにより亀裂進展抑制がなされるが、一方で、平均厚さが10μmを超えると、基体表面の耐塑性変形性が低下し切削性能が低下するためである。
【0023】
結合相成分富化領域において、(Coの質量%+Niの質量%)が基体の内部における同質量%の和に対して1.4倍以上、6.0倍以下が好ましい理由は、1.4倍未満では耐欠損性に対して十分な効果を得られず、一方、6.0倍を超えると表面硬さが低下してしまい、被覆工具の切削性能が低下するためである。
【0024】
ここで、特許請求の範囲および明細書において、層の平均厚さを論じるときは、次のように測定した厚さの平均値をいう。
まず、基体表面と被覆層との界面を次のように定義する。
1)基体表面の微小な凹凸を無視し水平と扱った面に垂直な断面(縦断面ということがある)において、この垂直方向に基体と被覆層に対してライン分析を行う。
【0025】
2)ライン分析の結果、被覆層のみに含まれる成分、例えば、Alを25原子%以上検出した点を基体と被覆層の界面点とする。
3)この界面点を結びその平均を直線で近似し、界面とする。そして、
この界面に垂直な方向を、前記平均厚さを測定する方向と定める。
【0026】
CoおよびNiの含有量は、SEM-EDSを用いて測定する。前述の界面から前述の垂直方向の距離を測定深さとし、測定深さ15μmまでの領域および測定深さ400μm領域(CoおよびNiの含有量でいう基体の内部と扱う)で測定を行う。
【0027】
測定深さ15μmまでの領域では、界面に対して平行に20μm、垂直方向に0.2μm長方形の測定領域(この測定領域には結合相と硬質相の少なくとも一方が含まれる)を設定し、長方形の短辺(長さ0.2μm)の中心を測定深さ位置とし、測定深さ3.0μmまでは0.1μm間隔で、それを超える深さでは0.5μm間隔で、界面から15μm基体に内部に入った領域まで測定を行う。基体の内部では、界面に平行に20μm、垂直方向に15μmの長方形の測定領域を設定し、長方形の短辺(長さ20μm)の中心を測定深さ位置として測定する。
【0028】
結合相富化層の平均厚さは、前記測定結果を基に算出する。測定深さ15μmまでの測定領域におけるCoおよびNiの占める質量割合、すなわち、(Coの質量%+Niの質量%)を、深さごと(前述の測定間隔ごと)に前記のように測定した基体の内部におけるCoおよびNiの占める質量割合で割る。それにより、測定深さ15μmまでの測定領域における深さ方向における基体の内部のCoおよびNiの占める質量割合に対する比率を算出することができる。このとき、1.4~6.0倍の範囲となっている領域の厚みを結合相富化層の平均厚みとする。
【0029】
2.W濃化領域
結合相成分富化領域であって、界面に接する結合相が、Wを5原子%以上、15原子%以下含み、かつ前記界面から深さ20nmの点におけるWの原子%に対して1.4倍以上のW濃度を有し、かつ[(Coの原子%+Niの原子%)/Wの原子%]が0.9以上、9.0以下であるW濃化領域を有することが好ましい。
W濃化領域の平均厚さは、1nm以上10nm以下が好ましく、2nm以上、4nm以下がより好ましい。
【0030】
理由は定かではないが、この平均厚さを有するW濃化領域が存在することにより、被覆層と基体との密着性が向上し、耐欠損性と耐摩耗性が確保される。
【0031】
W濃化領域の存在は、TEM-EDSのライン分析によりその存在を確認し、厚さを測定する。任意の結合相と被覆層が接している部分(接点)について、接線に対して垂直方向に5本のTEM-EDSライン分析を実施する。W濃化領域はWを5原子%以上、15原子%以下含み、かつ、前記接点から基材側に20nmの位置の結合相中におけるWの原子%に対して1.4倍以上のW濃度を有し、かつ、(Coの原子%+Niの原子%)/Wの原子%が0.9以上、9.0以下である部分とし、分析ライン上でこの条件を満たす範囲をW濃化領域の厚みとする。
【0032】
3.硬質相と結合相のそれぞれが被覆層と接する長さの和の比
結合相のそれぞれが被覆層と接する長さの和λaと、硬質相のそれぞれが被覆層と接する長さの和λbが、0.10≦λa/(λa+λb)≦0.40であることが好ましい。
その理由は、λa/(λa+λb)が0.10未満では、結合相成分富化領域による亀裂進展抑制を十分に得られず、また、被覆層とW濃化領域の接触面積が少ないため、W濃化領域による基体と被覆層の密着力向上の恩恵を十分に得られず、一方、λa/(λa+λb)が0.40超えでは、被覆層と基体界面における結合相の割合が高くなり、その結果、被覆層に応力が負荷された際に生じる結合相の塑性変形割合が大きくなり、被覆層の基体からの剥離が生じやすくなるためである。
【0033】
λaおよびλbの測定は、界面を二次元的に断面観察し、被覆層と硬質相の接する長さの和、被覆層と結合相の接する長さの和を測定する。例えばSEM像またはSEM-EDS像と画像処理ソフト(例えば、Image-J)を用いる。界面を適切な倍率(例えば、15000倍)で観察し、画像ソフトを用いてλaとλbを算出し、λa/(λa+λb)を求める。
【0034】
4.被覆層
本実施形態の被覆層は、公知の被覆層であれば制約がない。例えば、AlとTiとSiの複合窒化物層およびAlとCrの複合窒化物層の交互積層、または単層のAlとTiとSiの複合窒化物層、AlとCrの複合窒化物層、AlとTiの複合窒化物層が使用できる。これら窒化物層の成膜手段は、PVD法を用いることが好ましい。
【0035】
5.製造方法
本実施形態に係る表面被覆工具の製造方法は、例えば、原料粉末の1つとしてWCを用いて作製したチタン基サーメット製の基体に対し、ボンバード処理した後にAIP装置を用いて被覆層形成する方法がある。
【実施例0036】
次に、実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
原料粉末として、TiCN粉末、TiC粉末、TiN粉末、ZrC粉末、NbC粉末、WC粉末、Mo2C粉末、Co粉末、および、Ni粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示すAとBの2種の配合組成に配合した。原料粉末には、それぞれ微量の不可避的不純物が含まれていた。
【0038】
さらに、この2種の配合物にそれぞれワックスを加えてアルコール中で11時間アトライタ混合し、乾燥させた後、プレスしてそれぞれ成形体を得た。これらの成形体を脱脂し、1200℃まで500Paの減圧下の窒素雰囲気で昇温し、さらに、1400℃まで真空で昇温し、その後、1500℃まで1000Pa減圧下の窒素雰囲気で昇温し、そのまま、1時間保持し、引き続いて、1450℃まで100Paのアルゴン雰囲気で4℃/minの速度で冷却を行い、その後、常温まで急冷した。得られた焼結体の研削加工および、刃先へホーニングの付与を行い、ISO規格CNMG120408-FPのインサート形状を有する基体A~Dを製造した。
【0039】
ついで、この基体A、Bに対して、直流(DC)スパッタリング蒸着源をもつAIP装置を用いて、被覆層を形成すべく、これらをアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、AIP装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着した。また、カソード電極(蒸発源)として、Ti-Alターゲット、Ti-Al-X(X=Si、Nb)ターゲット、Al-Crターゲットを被覆層の組成に応じて配置した。
【0040】
基体と被覆層の界面にW濃化領域を形成させるため、バイアス-130V~-200Vで、時間30~120分でボンバード処理を行った。前記ボンバード処理は、AIP装置内を排気して10-2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を400~1000℃に加熱した後、0.1~2.0PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する基体に直流バイアス電圧を印加し、アルゴンイオンによって処理を行った。
【0041】
ついで、AIP装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、窒素ガスの圧力を1.0~5.0Paの範囲内の所定の反応雰囲気に調整し、回転テーブル上にて自転する基体に対し、カソード電極である被覆層成膜用のTi-Alターゲット、Ti-Al-Xターゲット、Al-Crターゲットと対応するアノード電極との間に表2に示す80~200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させ、基体に、表3にて示される被覆層を蒸着形成し、実施例工具1~5を作製した。
【0042】
一方、比較のため、表1に示す配合組成にて前記と同様に配合し、前記と同様の装置を用いて基体C、Dを作製し、前記と同様の装置を用いてボンバード処理を実施し、ついで表2に示す条件で各被膜を蒸着形成し、表3に示す比較例工具1~2を作製した。
【0043】
基体の結合相富化層の平均厚さ、W濃化層の平均厚さ、および、λa/(λa+λb)は前述の方法によって測定した。W濃化層の平均厚さ測定時の前述の界面点の間隔は10nmで測定点数は5点であった。
【0044】
被覆層の平均組成および平均厚さは、前記で作製した実施例工具1~5および比較例工具1~2の基体の表面に垂直な被覆層縦断面(基体に垂直な断面)について、基体の表面に平行な方向の幅が10μmであり、被覆層の厚み領域がすべて含まれるように設定された視野について、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、および、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた断面観察により求めた。
【0045】
具体的には、平均厚さは観察断面を5000倍に拡大して、基体の表面に平行な方向に1μmの間隔で5点の厚さを求めて被覆層平均厚さを算出した。被覆層の平均組成については、被覆層断面の5点において、平均厚さの30%~80%の長さを1辺にもつ正方形領域にてEDSを用い分析を行い、各成分の含有割合を測定し、その値を平均して求めた。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
次に、実施例工具1~5、比較例工具1~2をいずれもDCLNL2525M12のバイトにクランプした状態で、以下に示す条件にて、湿式外径旋削による切削試験を実施した。
【0050】
被削材:SNCM439
切削速度:350m/min
切込み:0.5mm
送り:0.1mm/rev.
切削開始後20分を経過した時点での逃げ面摩耗量を測定した。20分を経過する前に逃げ面摩耗量が0.2mmを超えた場合は、この摩耗量になるまでの時間を寿命として測定した。結果を表4に示す。
【0051】
【0052】
表4から明らかなように、実施例工具1~5は、いずれも摩耗量が少なく優れた耐摩耗性を示し、長寿命であった。これに対し、比較例1~2は、いずれも摩耗量が多く短時間で寿命に至った。