(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134125
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】固定層触媒反応器、固定層触媒反応器を備えたプラント、及び固定層触媒を用いた反応方法
(51)【国際特許分類】
B01J 8/06 20060101AFI20230920BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20230920BHJP
C07C 29/152 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B01J8/06 301
C07C31/04
C07C29/152
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039484
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】522102365
【氏名又は名称】河合 治之
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】河合 治之
【テーマコード(参考)】
4G070
4H006
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB05
4G070BB03
4G070CA06
4G070CA09
4G070CA12
4G070CA18
4G070CA25
4G070CB02
4G070CB07
4G070CB17
4G070CC03
4G070DA21
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC41
4H006BD81
4H006BD84
(57)【要約】
【課題】 空時収率を増加できるメタノールの反応器及び反応方法を提供する。
【解決手段】触媒存在下で第1ガス及び第2ガスを反応させるための反応器1であって、反応管8と、反応管8内に配置され、多数の側孔9が分散して設けられたフィード管10と、反応管8とフィード管10との間に触媒が配置されて設けられた触媒固定層11と、反応管8とフィード管10との間に第1ガスを一端側から供給する第1供給部12と、第2ガスをフィード管10に供給する第2供給部13と、反応管8を加熱ないし冷却する加熱冷却部14と、反応混合ガスを他端側から排出する排出部15と、を備え、第1ガスを触媒固定層11に一方向に流動させつつ、第2ガスをフィード管10から触媒固定層11に対して一方向に分散した位置に供給して反応させる固定層触媒反応器1を用いて二酸化炭素及び/または二酸化炭素と水素を反応させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒存在下で発熱反応を生じる第1ガス及び第2ガスを反応させるための反応器であって、
反応管と、
前記反応管内に配置され、多数の孔が分散して設けられたフィード管と、
前記反応管と前記フィード管との間に前記触媒が配置されて設けられた触媒固定層と、
前記反応管と前記フィード管との間に第1ガスを一端側から供給する第1供給部と、
前記第2ガスを前記フィード管に供給する第2供給部と、
前記反応管を加熱ないし冷却する加熱冷却部と、
前記反応管と前記フィード管との間の反応混合ガスを他端側から排出する排出部と、を備え、
前記第1ガスを前記触媒固定層に一方向に流動させつつ、前記第2ガスを前記フィード管から前記触媒固定層に対して前記一方向に分散した位置に供給して反応させる、固定層触媒反応器。
【請求項2】
反応器シェル内に前記加熱冷却部の熱交換室が区画されるとともに、前記熱交換室の両側に前記第1供給部の供給室と前記排出部の排出室とが区画され、
前記フィード管及び前記触媒固定層を収容した前記反応管が前記熱交換室内に複数配置されるとともに、前記複数の反応管の両端側が前記供給室と前記排出室とに通気可能に連通している、請求項1に記載の固定層触媒反応器。
【請求項3】
前記加熱冷却部は、前記熱交換室に加圧沸騰水を供給して該熱交換室から加熱沸騰水と水蒸気の混相流を排出させて反応熱を回収する熱回収部を有する、請求項2に記載の固定層触媒反応器。
【請求項4】
前記請求項1乃至3の何れかに記載の固定層触媒反応器と、前記反応混合ガスから反応生成成分を分離する分離部と、前記反応混合ガスから反応生成成分が分離された循環ガスを前記第1供給部又は第2供給部に循環する循環部と、を備えたプラント。
【請求項5】
前記第1ガスは水素含有ガス、前記循環ガス又は水素を加えた前記循環ガスであり、前記第2ガスは二酸化炭素含有ガス又は水素を加えた二酸化炭素含有ガスであり、前記反応生成成分はメタノールである、請求項4に記載のプラント。
【請求項6】
触媒存在下で発熱反応を生じる第1ガス及び第2ガスを、前記触媒を有する触媒固定層に冷却しつつ供給して反応させる反応方法において、
多数の孔が分散して設けられたフィード管を前記触媒固定層に沿って配置し、
前記第1原料ガスを前記触媒固定層に一方向に流動させつつ、前記第2ガスを前記フィード管から前記触媒固定層に対して前記一方向に分散した位置に供給して反応させる、触媒固定層を用いた反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定層触媒反応器、固定層触媒反応器を用いたプラント、固定層触媒を用いた反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的なメタノール合成は化石燃料を改質して得る一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO
2)、水素(H
2)を主成分とする合成ガスを触媒上で反応させることにより行われる(非特許文献1)。近年は地球温暖化対策の一環として、排ガス等から回収した二酸化炭素(CO
2)とH
2の反応により合成する検討が行われている(非特許文献2、3)。この場合は次の3種の反応が並列に発生する。
【化1】
【0003】
現実的に取り得る反応条件下で、平衡状態になっても反応ガス中に無視できない量の原料が残存する反応を便宜的に平衡反応と定義すると、この3種の反応はいずれも平衡反応であり、反応器出口ガス中には未反応のCO2,CO,H2が残存する。従って反応器出口ガスから生成物のメタノール(CH3OH),と水(H2O)を分離した残りのガスの反応器へのリサイクル操作が工業的には必須であり、新たに供給される各種の原料と反応系外に流出する量とのバランスが保たれている定常状態においては新規に供給されるCO2とH2は最終的にはほとんど全量CH3OHとH2Oになる。一部にはメタン等も副生するが無視しうる量である。従って反応系全体としては(1)で表される反応のみとなり発熱反応となる。
【0004】
反応熱は沸騰水と熱交換させスチームとして回収するのが工業的には好ましく、COからの製造ではその方式で実施されており、CO2からの合成プロセスでもその方向で検討されている。沸騰水冷却は冷却側の伝熱係数を大きくできる利点もある。反応器は一般的には固定層触媒反応器で多管式熱交換器型が使用される。
【0005】
固体触媒を使用する発熱反応であるから、固定層反応器を使用する場合は冷却機能を有していても触媒層に温度が最高となる箇所が発生するのは避けられない。固体触媒は使用できる最高温度があり、その温度以上では活性が急激に低下する。現在この反応に最も多く使用されているCu-ZnO-Al2O3触媒では使用可能温度は270℃以下(非特許文献3)であり、反応管理としては最高温度をこの値以下とすることが特に重要となる。
【0006】
反応器・反応系の生産効率は空時収率(STY)で表される。反応器内触媒単位体積、単位時間あたりの生産量である。STYを増加させるためには反応系に新たに供給するCO2とCOの合計値(以下メイクアップCO2/COと表記する)を増加させねばならないが、これは反応熱を増加させ最高温度を増加させることでもある。最高温度を許容値以下に抑えながら、STYを最大とするのが反応器・反応系設計上の重要項目であり、反応系全体で各種の対策が検討されている。リサイクルされるガス量の増加、除熱のために供給される沸騰水温度の低下などである。
【0007】
対策の中でもリサイクル比(リサイクルされるガス量に対して新たに供給されるガス量の比)の増加は大きな効果があるが、大きくなるほど反応系で必要となるエネルギーの増加や、反応系構成に必須である熱交換機、凝縮器、昇圧機の容量増加を招きコストアップの要因となる。この対策はこれらの大きな問題点を有する。現在工業的な実施例では原料がCO主体の場合はリサイクル比4~6(非特許文献1)が選ばれており、CO2主体の場合のそれは4付近(非特許文献3)で検討されている。
沸騰水温度の低下は最高温度の低下には有効であるが反応器触媒層全体の温度を低下させることになり、STYが低下する。
【0008】
反応器が一つの反応系では対策が困難なため複数の反応器、熱交換器、凝縮器、昇圧機等を含む反応系を組み合わせる工夫も各種なされている(特許文献5)。しかしこの対策は省エネルギーの点では多少の効果は認められるが設備費の著しい増加をもたらす、さらには運転管理も煩雑となり、特許文献の実施例からもSTYの増加は得られておらず、本質的な改善には至っていない。
CO2からのメタノール製造の重要性は地球温暖化対策上今後増大して行く。これに用いる触媒の検討は活発に行われており、活性が本発明記載の触媒の活値よりも高いものも発表されている(特許文献6)。しかし触媒活性が高くなるほど、同一条件下での最高温度は増大する。従って最高温度を制御できる手段の重要性は今後ますます増大する。これは発熱反応および平衡反応を固定層触媒反応器で行わせる場合すべてについて共通する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】化学工学 Vol.46,No.9,55-65(1982)
【非特許文献2】Journal of catalysis Vol.107,165-172(1987)
【非特許文献3】三菱重工技報 Vol.35,No.6,384-387(1998)
【特許文献4】触媒 Vol.35,No.6,485-401387(1993)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-63193号公報
【特許文献2】特開平6ー312138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、固定層触媒反応器で当該気固触媒反応を行わせる際、最高温度を許容値以下に抑えながらSTYを増加できる固定層触媒反応器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の固定層触媒反応器は、触媒存在下で発熱反応を生じる第1ガス及び第2ガスを反応させるための反応器であって、反応管と、前記反応管内に配置され、多数の孔が分散して設けられたフィード管と、前記反応管と前記フィード管との間に前記触媒が配置されて設けられた触媒固定層と、前記反応管と前記フィード管との間に第1ガスを一端側から供給する第1供給部と、 第2ガスを前記フィード管に供給する第2供給部と、前記反応管を加熱ないし冷却する加熱冷却部と、前記反応管と前記フィード管との間の反応混合ガスを他端側から排出する排出部と、を備え、前記第1ガスを前記触媒固定層に一方向に流動させつつ、前記第2ガスを前記フィード管から前記触媒固定層に対して分散した位置に供給して反応させることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の固定層触媒反応器は、請求項1に記載の構成に加え、反応器シェル内に前記加熱冷却部の熱交換室が区画されるとともに、前記熱交換室の両側に前記第1供給部の供給室と前記排出部の排出室とが区画され、前記フィード管及び前記触媒固定層を収容した前記反応管が前記熱交換室内に複数配置されるとともに、前記複数の反応管の両端側が前記供給室と前記排出室とに通気可能に連通している反応器を特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の固定層触媒反応器は、請求項2に記載の構成に加え、前記加熱冷却部は前記熱交換室に加圧沸騰水を供給して該熱交換室から加圧沸騰水と水蒸気の混相流を排出させて反応熱を回収する熱回収部を有する構造を特徴とする。
【0015】
請求項4に記載のプラントは、請求項1または2の構成に加え、前記の固定層触媒反応器と、反応混合ガスから反応生成成分を分離する分離部と、反応混合ガスから反応生成成分が分離された循環ガスを前記第1供給部に循環する循環部とを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載のプラントは、請求項4の構成に加え、前記第1ガスは水素含有ガス、前記循環ガスまたは水素を加えた循環ガスであり、前記第2ガスは二酸化炭素ガスまたは水素を加えた二酸化炭素含有ガスであり、前記反応生成物はメタノールであることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の反応方法は、触媒存在下で発熱反応を生じる第1ガス及び第2ガスを、前記触媒を有する触媒固定層に冷却しつつ供給して反応させる反応方法において、多数の孔が分散して設けられたフィード管を前記触媒固定層に沿って配置し前記第1原料ガスを前記触媒固定層のガス流れ下流側に流動させつつ、前記第2ガスを前記フィード管から前記触媒固定層のガス流れ下流側に分散供給して反応させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、固定層触媒反応器で当該気固触媒反応を行わせる際、最高温度を許容値以下に抑えながらSTYを増加できる固定層触媒反応器を提供することができる。請求項2により本発明の反応器の大型化が図れる。請求項3により本発明の反応器からの反応熱が有効に回収される。請求項4により本発明の平衡反応全般への適用が図れる。請求項5により本発明のメタノール合成プラントへの適用が図れる。請求項6により触媒固定層で発熱反応を効率的に行わせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る固定層触媒反応器を用いたプラントのフローシートであり、反応管が一つの場合を示す。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る固定層触媒反応器を示す概略断面図である。
【
図3】比較例における従来の固定層触媒反応器を示す概略断面図である。
【
図4】実施例のシミュレーションで用いた速度式の計算値と反応速度の実測値との合致度を判定した結果を示すグラフである。
【
図5】実施例2の触媒固定層の下流方向の温度分布とそれと同じSTYとなる参考例2の温度分布のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施形態について図を用いて説明する。発熱反応全般に適用できるもので
あるが本実施形態では、CO,CO2,H2を固体触媒上で反応させるメタノール合成方法へ適用した例を用いて説明する。
【0021】
[第1実施形態]
(プラントの構成)
図1に示すように、触媒存在下で発熱反応を生じる第1ガス及び第2ガスを反応させる固定層触媒反応器1と、反応器1に新たに供給する第1ガス供給ライン2と、新たに供給する第2ガス供給ライン3と、反応混合ガスを反応器1から排出する出口ガスライン4と、反応混合ガスから反応成分を分離する分離部5と、反応混合ガスから反応生成成分が分離された循環ガスを反応器1に循環ライン6aを通して循環する循環部6と反応成分を反応系外に抜き出す抜き出しライン7と、を有するプラントである。
メタノール合成に適用する場合において第1ガスは水素含有ガス、循環ガス又は水素を加えた循環ガスであり、第2ガスは二酸化炭素含有ガス又は水素を加えた二酸化炭素含有ガスであり、反応生成成分はメタノールないしはメタノールと水となる。
【0022】
(第1実施形態の反応器の構成)
固定層触媒反応器1は、反応管8と、反応管8内に配置され、多数の側孔9が分散した位置に設けられたフィード管10と、反応管8とフィード管10との間に触媒が配置されて設けられた触媒固定層11と、反応管8とフィード管10との間に第1ガスを一端側から供給する第1供給部12と、第2ガスをフィード管10に供給する第2供給部13と、反応管8を加熱ないしは冷却する加熱冷却部14と、反応管8とフィード管10の間の反応混合ガスを他端側から排出する排出部15と、を備えた反応器1である。
【0023】
(第1実施形態の反応器の動作)
新たに反応系に供給されるH2(メイクアップH2)は加圧及び温度調整され、循環ガスと合流し、第1ガスとして反応器1に設置された第1供給部12から反応管8内の触媒固定層11に供給されて下流側に流動する。新たに反応系に供給されるCO2、ないしはCO2/COは第2ガスとして第2供給部13より触媒層内に設置されたフィード管10に供給される。このフィード管10には第1ガスの流動方向における分散した位置に多数の側孔9が設けられており、第2ガスは触媒層の中で第1ガス内に分散供給され、ともに下流側に流動し触媒層を通過して反応する。触媒層を通過したガスは反応管8他端の排出部15より反応混合ガスとして排出される。反応熱は反応管8外の加熱冷却部14を流れる熱媒によって除去される。上記反応混合ガスは分離部5で反応生成物のメタノール及びH2Oを分離された後、未反応のCO2、CO、H2は循環ガスとして反応器1に循環される。分離されたメタノール及びH2Oは反応成分抜き出しライン7からプラントの精製系に送られる。
メイクアップH2は側孔設計の都合上好ましい場合は第2ガスと一緒に側孔から供給しても良い。ここでの記述は循環ガスと合流して供給する方式で統一する。
【0024】
(第1実施形態の作用効果)
メタノール合成に適用する場合で説明する。CO2とCOの合計をCO2/COで示す。従来の反応方式ではメイクアップCO2/COとメイクアップH2及び循環ガスは反応器1に第1供給部12から一緒に供給されるが、本発明では第1供給部12と第2供給部13から個別に供給される。メイクアップCO2/COはフィード管10側側孔9を通して触媒層を流れるガスに分散供給される。これにより、供給されたCO2/COのかなりの割合が反応した後に次のCO2/COが供給されることになり、一度に供給する従来の方式に比べて、反応ガス中のCO2/CO濃度が平滑化される。発生する反応熱はCO2/CO濃度が大きいほど増加するので従来の方式と比べて温度上昇が平滑化され、温度ピーク値が大幅に低減することになる。従って同一反応条件においては従来の方式と比べて供給できるCO2/CO量を増加できることになる。
【0025】
[第2実施形態]
(第2実施形態の反応器の構成)
図2に示すような竪型反応器であり、反応器1のシェル内に加熱冷却部14の熱交換室16が固定管板等により区画されるとともに、熱交換室16の両側に第1供給部12の供給室17と排出部15の排出室18とが区画されている。
熱交換室16内には、フィード管10及び触媒固定層11を収容して第1実施形態と同様の反応管8が複数並列に配置されて反応管8群が形成され、各反応管8の両端が供給室17と排出室18とに通気可能に連通している
第2供給部13には、複数の反応管8内の各フィード管10に第2ガスを供給できる供給ヘッダー管13aが設けられている。
また加熱冷却部14には、反応管8を囲む熱交換室16の下部に熱媒として使用する熱媒加圧沸騰水が供給される入口ノズル14aと、熱交換室16の上部から沸騰水と水蒸気の混相流を排出させる出口14bが設けられ、図示しない熱回収部により反応熱を回収可能に構成されている。
その他は第1実施形態と同様である。
【0026】
(第2実施形態の動作)
第1ガスは第1供給部12から反応器1内に区画された第1供給部供給室17に供給され、複数設置された反応管8に流入する。第2ガスは 第2供給部13に接続した第2ガス供給ヘッダー管13aより各フィード管10に多数設置された側孔より触媒層を通過するガス中に分散供給され、下流に流動して行く。各反応管8を通過したガスは排出室18で合流し、排出部15より流出する。反応熱の除去のためシェル側に熱交換器室16が区画されて設置されており、熱媒体入口14aから加圧沸騰水が供給され、その一部は反応熱によって水蒸気に気化し、熱媒体出口14bから沸騰水と水蒸気の混相流が流出する。
【0027】
(第2実施形態の作用効果)
従来の反応方式では第1ガス、第2ガス、循環ガスは反応器1に入る前に合流し第1供給部供給室17に供給されるが、本発明では第1供給室17と第2供給部13に分離して供給される。第1実施形態と同じく、第1ガス中に供給された第2ガスのかなりの量が反応した後に次の第2ガスが供給されるので、反応混合ガス中の第2ガス濃度は一度に供給される場合に比べて平滑化され、触媒層の最高温度も許容温度以下に抑えられる。
【実施例0028】
[発明の定量的効果]
この発明による効果は次の方法で計算した。
【0029】
[反応速度式および温度分布算出式の決定]
(各反応の反応機構の想定)
(CO
2+3H
2→CH
3H+H
2Oについて想定した反応機構)
【化2】
【0030】
ここで括弧で囲んだ種は推定される中間生成物を含む触媒への各吸着種、(A)は触媒活性点の空孔を表す。ここで記した中間生成物は分光学的方法等で確認されたものではないが、化学上の通説及び物質収支とは矛盾しないものである。一般的に中間生成物は矛盾しない範囲で想定することができる。想定の妥当性は反応機構から導かれる速度式からの計算値と実測値との合致度で判定される。本発明で想定した機構の合致度は後で、
図4で示される。後述のように、この図から以後のシミュレーションに用いられる精度を有すると判定される。
P
iは各成分の気相での分圧である。これらの記号は以下でも共通である。
【0031】
(CO
2+H
2→CO+H
2O反応について想定した機構)
【化3】
【0032】
(CO
2+2H
2→CO+H
2O反応について想定した機構)
【化4】
【0033】
(速度式への変換)
これらの素反応からの速度式の導出は一般的に行われている Hougen-
Watson の取り扱いに従った。各速度式は次の式となった。f
iは各成分のフガシティーであり、高圧反応の場合は圧力ではなくてフガシティーを用いねばならない。P
iからの変換はベルテロー式で行った。
【数1】
記号の意味は下記である。
【表1】
【0034】
[速度式の諸定数の算出手順]
(K
3,K
4、c以外の項目)
これらの式の諸定数のうちK
3,K
4,c以外の項目は非特許文献2記載の実験条件を上記r
1~r
3の式に入れ、算出される反応速度値と表の実測データ値の差の二乗の合計値が最も少なくなる値とした。データの一部を下記に示す。
【表2】
【0035】
(K3,K4 ,cの算出手順)
K3,K4 ,cは非特許文献4に記載のグラフ(H2OないしはCO添加量の反応速度の相対値への影響)からの読み取り値を上記のr1式に代入し、上記相対値が最も合致する値を最小二乗法で求めた。
【0036】
(諸定数の値)
諸定数として下記の値が得られた。式から算出される値と結果の一致度は
図4に示す
ように寄与率は0.9965であり十分満足できるものであった。
【数2】
【0037】
(触媒層温度分布の算出式)
温度分布を算出したdT/dL (T:温度、L:反応管長)の式を下記に示す。
【数3】
ここで Vは反応ガス流量、Sは反応管断面積、Dは反応管内径、Cpは反応ガス平均比熱、Twは熱媒温度、Uは反応管とシェル側との総括伝熱係数である。
【0038】
(定常状態の物質収支の算出手順)
これらの式を用いて反応器ごとの反応系の定常状態の物質収支を推算した。
(1) 反応器の形状を選定し、充填層及びシェル側の伝熱係数を算出する定法、により、総括伝熱係数を推算した。熱媒は加圧沸騰水とした。総括伝熱係数値は反応管入口条件で120.7 J/s/K となった。以後の計算では全区間でこの値とした。
(2) 対象とするSTYを定め、それに相当するメイクアップCO2量とH2量を定めた。循環ガス中のCO2、CO、H2をそれぞれ仮定し、メイクアップのCO2、H2と合算し、入口ガス量とした。
(3) 沸騰水温度(Tw)、入口ガス温度(Tg)を定めた。
(4) 反応器を1mmごとの微小区間に分け、区間出口の各成分の量と温度をルンゲクッタ法で順次推算した。
(4) 出口ガスからメタノール、水を除いた残りのガス(CO2,H2,CO)は反応器にリサイクルされ、新規に供給されるCO2,H2と合わさり入口ガスとなる。定常状態では仮定した組成と算出される値は一致せねばならない。その値を変数分析ツールのマイクロソフト社製の計算ソフト付属の機能のソルバーを用いて算出した。
(5) ソルバーが収斂しない場合は選定した条件では定常状態が成立しないことを示す。TwとTgを調整しても収斂しない場合は(2)で選定したSTYは達成できないと判定した。
【0039】
(定常状態の物質収支の計算値と文献にある実測値との対比)
この方法で算出した物質収支が実測値と矛盾しないことは、非特許文献3記載の反応条件から同文献記載の実測のSTY値と触媒層最高温度のシミュレーションの結果から確認した。
【表3】
未記載部分のうち、反応管内径は24.2mm、反応ガス入口温度及びヒーター温度は214℃と想定して、上記運転条件でのシミュレーション結果、メタノール生産量(STY)は0.357MeOH-kg/L/h、触媒層最高温度は239℃となり、実測値とほぼ十分な一致となった。
【0040】
[反応器型式に対応するSTY最大値の制約条件]
反応器型式の優劣は各種の制約条件下で取り得るSTY値で判定できる。実際の反応は運転条件の変動に対応するため余裕を持った条件で行われるが、優劣の比較のためには条件を同一にせねばならない。
条件として下記の値に統一する。
(1) リサイクルされるガス量はSV4,000/hrで統一する。これは反応器入口のCO2,H2,COの各量を仮定するときにこの条件を加えておくことによって対処した。 リサイクルされるガス量を増大させればSTYは増加するが、これは設備費額とエネルギー費額の増加につながる。同一の値とすることで効果の判定が明確になる。
(2) 触媒層最高温度(Tm)は250℃以下にする。触媒層の温度を高くすればSTYの増加に直結するので、反応器構造の優劣判定には同一の値とせねばならない。前記のように270℃以上では触媒の劣化が顕著になるので、運転条件の変動を考慮しTmは250℃以下とする。
(3) 反応ガスのモル比(M) の最小値(Mm)は触媒層のすべての場所で4.5以上にする。
反応ガスのモル比(M)を、(新たに供給されるH2のモル数+リサイクルされるH2のモル数)/(新たに供給されるCO2とCOのモル数+リサイクルされるCO2とCOのモル数)のように定義する。
この反応に用いられる触媒の状態は活性を維持するためには還元状態である必要がある。このためには上記Mはある値(Mm)以上でなければならないがこの値は明らかでない。非特許文献2での実験での上記Mは4.2~10で行われている。反応器優劣の比較は同一の値に統一すれば良いのでMm=4.5で統一した。平衡値が問題にならない範囲では、Mの値が化学量論比(この場合は3)に近づくほど反応率は増加するため同じTmの場合でもSTYが増加する。比較のためには同じ値としておくことが必須である。
一方運転条件において、反応器入口ガス温度(Tg)及び反応管外部の熱媒温度(Tw)は調節が可能であるため、上記(1)、(2)、(3)の制約の範囲内でSTYが最大となる値を選定する。熱媒としては反応熱を熱エネルギーとして回収するため多くの場合沸騰水が使用される、この後の記述も沸騰水で統一するので熱媒温度は反応器を通してTwとした。
【0041】
[STY最大値算出手順]
(1)メイクアップCO2/CO,Tw,Tg を適当に定め、定常状態の物質収支を前記(定常状態の物質収支算出手順)で定め、Tm,Mm
を算出する。定常状態の成立が確認されれば、STYはメイクアップCO2/COに相当する値で定まる。
(2) Tm,Mm の値が制約値に対して余裕があれば
メイクアップCO2/COを増加させる。同時にTwを増加させ、Tm,Mm を算出する。以下Tmが制約値を越えるまで繰り返す。
(3) Tmが制約値を越えてもMmにまだ余裕があればTwを低下させ、Tgを増加させる。
(4) Tm,Mmともほぼ制約値になればそのSTYを最大値とする。
【0042】
[比較例の反応器]
比較例の既存型の反応器を
図3に示す。
この比較例の反応器1では、
図2に示すような第2実施形態の反応器と同様に、反応器1のシェル内に加熱冷却部14の熱交換室16が固定管板等により区画されるとともに、熱交換室16の両側に第1供給部12の供給室17と排出部15の排出室18とが区画されている。
また熱交換室16内には、触媒固定層11を収容した反応管8が複数並列に配置されて反応管8群が形成されていて、各反応管8の両端は供給室17と排出室18とに通気可能に連通している
さらに加熱冷却部14には、反応管8を囲む熱交換室16の下部に熱媒として使用する熱媒加圧沸騰水が供給される入口ノズル14aと、熱交換室16の上部から沸騰水と水蒸気の混相流を排出させる出口14bが設けられ、図示しない熱回収部により反応熱を回収可能に構成されている。
しかしながら、この比較例の反応器1では、
図2に示す第2実施形態の反応器とは異なり、第2ガスを供給するための第2供給部は存在せず、各反応管内のフィード管や各フィード管に第2ガスを供給するための供給ヘッダー管は設けられていない。
第1ガスと第2ガスとが予め混合された混合ガスの状態で第1供給部12の供給室17に供給される。混合ガスが各反応管8に分配供給され、各反応管8内の触媒固定層11にて反応が進行しつつ下流に流動する。
図3には反応管4本の断面図を示しているが、反応管数に制約はなく、必要生産量で定まる。STYは触媒単位体積あたりの生産量であるから、STYの比較は反応管あたりの生産量の比較であり本数には無関係となる。従って反応管の断面積、長さ、使用する触媒粒径等を実施例と比較例で統一すれば反応器の優劣の比較が可能になる。
反応管内径は24.2mm、反応管長は4m、触媒粒径は3mmΦで統一した。
比較例でのSTY最大値の算出手順は上記3の手順と同じである。既存型の場合は反応器入口でMが最小となるので、M
mは入口での値とした。
【0043】
[実施例の反応器]
実施例では、
図2に示すような第2実施形態の反応器を使用した。
反応器図を
図2に示す。
図2では新規に供給されるCO
2(メイクアップCO
2)はフィード管上流側から4分割で供給されているが、分割数や分割間隔に制約はなく、温度分布の計算結果等から状況に応じて選択される。図の例ではメイクアップCO
2は上流側から750mm,1500mm,2250mm,3000mmの各位置から供給される。
各位置の側孔から供給される量はできるだけ均一であることが望ましい。触媒層の圧力は圧力損失のため上流側ほど大きいので、側孔径が同じ場合は上流と下流で供給量に差が生じる可能性があり、極端な場合は上流側と下流側で異なる孔径とせねばならないこともある。これは側孔で大きな圧力損失を生じさせることすなわち孔径を小さくすることによって回避できる。本実施例では側孔は1か所につき2個とし、孔径は0.1mmとした。小さな孔径の採用で最上流の側孔からの供給量と最下流のそれとの比の計算値は約0.94とほぼ同じ値となっている。このレベルの小さな孔径の必要性は反応管内径や触媒粒径で異なる。常に必要となる訳ではないが今回の場合はこの孔径が好ましい。
フィード管は外径6mm、内径3.4mmのSUSチューブとした。この挿入で反応管内の触媒量が減少する分反応管内径を大きくし、触媒量と触媒層内の反応ガス流速を比較例と同じとした。反応管内径は24.9mmとした。
【0044】
STY最大値の算出手順を下記に示す。
(1) 循環ガスの組成を最初に仮定するのは既存型のときの計算と同じである。反応器
入口で循環ガスとメイクアップH2が合流し触媒層に入る。循環ガス中のCO2及びCOが反応し、CH3OH、H2O、COが生成する。反応ガス中のCO2は減少していく。温度は反応熱と沸騰水により除去される熱の差に相当する値だけ上昇していく。この様相を前記2記載の手法で計算していく。
(2) 計算がフィード管からのメイクアップCO2/COが供給される地点に到達したら、その地点でのCO2/COとメイクアップCO2/CO量を合算させ、各成分の新たな組成を計算する。以下下流に向かって次の供給地点まで組成変化、温度変化を計算して行く。
(3) 次の供給地点からも同様に反応器出口まで順次計算させて行く。出口ガスから生成するCH3OH、H2Oを減じた残りが循環ガスとなる。循環されるH2、CO2、COの量が計算される。
(4) 各成分の量が最初に仮定した量と十分な精度で合致するまで計算を繰り返す。
(5) 前記3記載の手順で取りえるSTYの最大値を求める。
(6) 実施例の場合、Mは最下流の供給口で最小となるので、Mmはその値とした。
【0045】
[実施例と比較例の取り得るSTYの定量的比較]
(実施例1と比較例1)
表1のαは触媒活性の指標であり、現行の触媒活性のときを1とする。
表3に示すようにこのときの触媒活性で、比較例1で取りえるSTYは0.528kg-MeOH/L/hとなる。一方実施例1で取りえるSTYは0.607kg-MeOH/L/hとなる。すなわち本特許を用いた場合のSTYは従来の方式と比べて、現行の触媒活性の場合は1.15倍になる。これに比例して反応系で必要なエネルギーコストも低減し、設備費等の固定費も関連して減少する。
【0046】
(実施例2と比較例2)
本発明は触媒活性が大きくなるほど効果が大きくなる。将来的にはより高活性な触媒が実用化されることは、特許文献6で同じ銅系の触媒で新たな成分の添加により従来品よりも大幅に高活性の触媒がすでに提案されていることなどから十分に予想されるので現状の活性の2倍(すなわちα=2)の場合も示す。
比較例2は既存の多管式熱交換器型の反応器の場合であり、実施例2は本発明の型の反応器の場合である。それぞれは前記の制約条件下(Tm≦250、Mm≧4.5)で取り得る最大値である。
表3のように将来、触媒活性が例えば現状の2倍に向上したときはこの効果は1.19倍とさらに増大するので産業上の有用性はさらに増加する。
【0047】
[既存型の反応器で実施例1、2と同じSTYを得るための条件]
既存型式の反応器でも反応条件を過酷にすれば瞬間的には大きなSTYが得られる。しかし表3の参考例1及び2に示すように、実施例1及び2と同じSTYを得る反応条件では最高温度が許容温度を大きく超えるので触媒の劣化により一時期しか持続せず産業的には成立しない。今回方式の反応器がピーク温度の低減に寄与することひいてはSTYの実質な増大に寄与することが明らかである。今回方式の効果をさらに明確にするため、参考例2(点線)と実施例2(実線)の温度分布計算値を
図5に示す。
【表4】