IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スタンレー電気株式会社の特許一覧

特開2023-134141半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具
<>
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図1
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図2
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図3
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図4
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図5
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図6
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図7
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図8
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図9
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図10
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図11
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図12
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図13
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図14
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図15
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図16
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図17
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図18
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図19
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図20
  • 特開-半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134141
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】半導体発光装置およびそれを備えた車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20230920BHJP
   H01L 33/58 20100101ALI20230920BHJP
   H01L 33/00 20100101ALI20230920BHJP
   F21S 41/148 20180101ALI20230920BHJP
   F21V 9/30 20180101ALI20230920BHJP
   F21V 9/20 20180101ALI20230920BHJP
   F21V 7/28 20180101ALI20230920BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230920BHJP
【FI】
H01L33/50
H01L33/58
H01L33/00 L
F21S41/148
F21V9/30
F21V9/20
F21V7/28 240
F21Y115:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039502
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 紀子
(72)【発明者】
【氏名】山路 知明
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA23
5F142AA25
5F142AA26
5F142DA03
5F142DA14
5F142DA73
5F142DB20
5F142DB32
5F142DB37
5F142DB42
5F142GA29
5F142HA01
5F142HA05
(57)【要約】
【課題】LED素子と波長変換部材とを組み合わせた発光素子の出射角度の変化による色度の変化を抑制し、色度の均一性が向上した発光装置を提供する。
【解決手段】発光素子の上に配置される光学多層膜は、光出射面と垂直な方向の角度を0度とし光出射面と平行な方向の角度を90度としたとき、LED素子のピーク波長において、0度から少なくとも角度60度の範囲で単調に増加し、長波長領域(650nm~700nm)において、0度から少なくとも60度の範囲で単調に増加し、且つ550nmにおける透過率が90%以上である透過スペクトルを有している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LED素子と、前記LED素子が発する光を受けて、当該光とは波長が異なる光を発する波長変換部とを有し、前記LED素子が発する光と前記波長変換部が発する光とを混合した光を発する発光素子、および、前記発光素子の光出射面に配置された光学多層膜を備えた半導体発光装置であって、
前記光学多層膜は、前記光出射面と垂直な方向の出射角度を0度とし光出射面と平行な方向の出射角度を90度としたとき、前記LED素子の発光ピーク波長において、0度から少なくとも角度60度の範囲で透過率が単調に増加し、650nm~700nmの範囲において、0度から少なくとも60度の範囲で透過率が単調に減少し、且つ550nmにおける透過率が90%以上である透過スペクトルを有することを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体発光装置であって、
前記LED素子の発光ピーク波長における角度0度の透過率が50%以上70%以下であり、60度の透過率が85%以下であることを特徴とする半導体発光装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体発光装置であって、
出射光のCIE1931色度系の色度Cx及びCyが、ともに0.30~0.40の範囲であることを特徴とする半導体発光装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の半導体発光装置であって、
出射光のCIE1931色度系の色度の変化量ΔCy及びΔyが、ともに0.03以下であることを特徴とする半導体発光装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の半導体発光装置であって、
前記光学多層膜は、低屈折率材料から成る低屈折率層と高屈折率材料から成る高屈折率層とを交互に積層した膜であり、層数が9以下であることを特徴とする半導体発光装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体発光装置であって、
前記高屈折率層と前記低屈折率層との屈折率の差が0.6~1.0である半導体発光装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の半導体発光装置であって、
前記光学多層膜の中心波長λにおける高屈折率層の光学膜厚が0.7~0.85である半導体発光装置。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか一項に記載の半導体発光装置であって、
前記光学多層膜の中心波長λにおける低屈折率層(前記光学多層膜の最上層を除く)の光学膜厚が0.7~0.9である半導体発光装置。
【請求項9】
光源として、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の半導体発光装置を備えたことを特徴とする車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光ダイオード(LED)を用いた半導体発光装置に係り、特にLEDと波長変換材料とを組み合わせ、白色光を発する半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDと波長変換材料とを組み合わせて白色光を発するように構成された半導体発光装置は、通常、平坦なLEDの光出射面に、波長変換材料からなるプレートや波長変換材料を含む層を重ねた構造をしている。この構造の発光装置では、LED出射面から発光装置の光出射面までの光路長の差、即ち波長変換材料を通過する際の光路長の差により、出射角度が広角になるにつれ光の色度が変化していく現象を生じる。色度の変化は、出射角度0度近辺は青が強く、広角になるにつれて黄色味を帯びた光に変化し、色度差が大きくなっていく。
【0003】
この色度の変化に対し、波長変換部上に光学多層膜を成膜し、光学多層膜による波長選択的な光の反射を利用して、黄味を抑えることが可能となる。例えば、特許文献1では、LEDから放射される約400~500nmの波長範囲の光(青色光)を出射角度(放射角度)の0度~30度の範囲で部分的に反射させるように、光学多層膜からなるフィルタ層を設けて青色光の透過率を制御し、広い放射角度の範囲で青色光と黄色光との割合を均一にして、広角側に発生する黄色リングを抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5558483号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1等の従来の技術では、図21に示すように、出射角度0度近傍における青波長の透過率のみを制御しているため、広角になるにつれて波長が短波長側にシフトする現象(ブルーシフト)が起こり、青色の波長帯の透過率が大きく上昇してしまい、青色光の制御を行うことができない。また、広角になるにつれて強くなる黄色光の透過率も制御できないため色度変化量を十分に抑えることができない。
【0006】
本発明は、出射角度の変化による色度の変化を抑制し、色度の均一性が向上した発光装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光学多層膜を配置した構造において、多層膜の透過スペクトルの青色波長領域のみならず長波長側の透過率を制御することにより、黄味が増す問題やブルーシフトの問題を解決する。
【0008】
即ち、本発明の半導体発光装置は、LED素子と、LED素子が発する光を受けて、当該光とは波長が異なる光を発する波長変換部とを有し、LED素子が発する光と波長変換部が発する光とを混合した光を発する発光素子、および、発光素子の光出射面に配置された光学多層膜を備える。光学多層膜は、光出射面と垂直な方向の角度を0度とし光出射面と平行な方向の角度を90度としたとき、LED素子の発光ピーク波長においてにおいて、0度から少なくとも角度60度の範囲で単調に増加し、長波長領域(650nm~700nm)において、0度から少なくとも60度の範囲で単調に増加し、且つ550nmにおける透過率が90%以上である透過スペクトルを有している。
【0009】
また本発明は、上述した半導体発光装置を備えた車両用灯具を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発光素子の上に配置される光学多層膜の青色波長領域と長波長領域それぞれの透過率を制御することにより、出射角度による色度の変化を抑制し、広い出射角度範囲で高い均一度の白色光が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が適用される半導体発光装置の構成を示す図
図2】光学多層膜を配置しないときの発光素子の発光スペクトルを示す図
図3】光学多層膜の透過スペクトルを示す図
図4】(A)及び(B)は色度変化量の角度依存性を説明する図
図5】多層膜による色度の変化の抑制効果を説明する図
図6】(A)及び(B)はブルーシフトを説明する図
図7】(A)は、角度0度及び60度における、高屈折率層の光学膜厚と色度値との関係を示すグラフ、(B)は高屈折率層の光学膜厚と色度変化量との関係を示すグラフ
図8】(A)は、角度0度及び60度における、低屈折率層の光学膜厚と色度値との関係を示すグラフ、(B)は低屈折率層の光学膜厚と色度変化量との関係を示すグラフ
図9】(A)及び(B)は本発明の半導体発光装置の実施形態を示す図
図10】実施例1の光学多層膜の透過スペクトルを示す図
図11】(A)及び(B)は本発明及び従来技術の色度変化量を示す図
図12】実施例1の色度変化を説明する図
図13】実施例2の光学多層膜の透過スペクトルを示す図
図14】実施例2の色度変化量の角度依存性を示すグラフ
図15】実施例2の色度変化を示すグラフ
図16】比較例1の光学多層膜の透過スペクトルを示す図
図17】比較例1の色度変化を示すグラフ
図18】比較例2の光学多層膜の透過スペクトルを示す図
図19】比較例2の色度変化を示すグラフ
図20】車両用灯具の一例を示す図
図21】従来の光学多層膜の透過スペクトル例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の半導体発光装置の実施形態を説明する。
本発明の半導体発光装置は、図1に示すように、LED(発光ダイオード)素子10と、波長変換部20と、光学多層膜(以下、単に多層膜と略称する)30とをこの順に重ねた構造を有する。LED素子10から出た光は波長変換部20を通り、LED素子10からの発光の一部が波長変換部20で波長変換され、波長変換された光とLED素子10からの光の残部とが混合した光が多層膜30に入射し、多層膜30内で反射と透過を繰り返しながら最上層から出射する。
【0013】
多層膜は入射した光に対し、次の条件を満たす透過率特性を有し、それにより最上層から出射される光の角度依存性を改善する。
【0014】
条件1:LED素子の発光ピーク波長の透過率が、入射角度0度から少なくとも60度まで徐々に(単調に)上昇する。好ましくは、同波長領域において0度の透過率は50~70%、60度の透過率は85%以下である。
条件2:650nm~700nmの波長領域の透過率が、逆に、0度から60度になるにつれて減少する。
条件3:波長550nmの透過率が、角度0~60度の範囲で90%以上である。
【0015】
この条件1~3を満たすことで、広い角度範囲において視感度の高い波長域における高い透過率を維持しながら、広角において青色成分が減少する現象、これに伴う黄色側への色度の変化、及び白色からの色度の変化を抑制することができる。即ち、発光装置から出射光のCIE1931色度系の色度Cx及びCyが、ともに0.30~0.40の範囲であり、また出射光のCIE1931色度系の色度の変化量ΔCy及びΔyが、ともに0.03以下に抑制することができる。
【0016】
以下、図2及び図3を参照して、上記条件1~3とそれによる効果を詳細に説明する。図2は、多層膜を設けない発光素子(LED+波長変換層)の発光スペクトルを示し、図3は、本発明の多層膜の透過スペクトルの一例を示す。図2及び図3において、入射角度の違いは線種の違いで表し、また図3には角度0度の場合の発光スペクトルも併せて示している。図2では、各入射角度の発光スペクトルについて、青色発光スペクトル成分のピークを1として規格化して示している。
【0017】
図2に示すように、発光素子(LED+波長変換層)の発光スペクトルは、ピーク波長が約445nmのピークからなる青色発光スペクトル成分、および、540nm~570nmにピーク波長を有し500nm~700nmに亘るブロードなピークからなる黄色発光スペクトル成分を有している。また、多層膜を配置しないときの発光スペクトルは、広角になるにつれて(光路長の変化に起因して)青成分が減少する。一方、多層膜の透過スペクトルは、図3に示すように、角度を0度から60度に変えたときに、LEDの発光ピーク波長である約445nmでは、透過率が60度で最大で0度まで単調に減少し、また透過スペクトルの変化が緩やかであり、この波長範囲における0度の透過率は50~70%、60度の透過率は85%以下を満たしている(条件1)。
【0018】
このように青色領域の透過率を広角になるにつれて上げることで、青色成分の減少を抑制することができる。また0度から60度までの透過率の変化が単調に且つ緩やかであることにより、出射角度によるブルーシフト(色の変化)も抑制される。ブルーシフトの抑制については後に詳述する。
【0019】
発光スペクトルの500nm~700nmの波長成分については、図2に示すように、広角になるにつれて増加し、この波長成分の増加は概ね黄色方向への色度変化となって現れる。また500nm~700nmの波長成分における650nm~700nmの赤色の波長成分は、広角になるにつれても、青色波長成分に対して大きな変化は見られない。これに対し、光学多層膜の透過スペクトルは、波長650nm~700nmの範囲では、透過率が0度で最大で広角になるにつれて単調に減少している(条件2)。この条件2により出射角度増加に伴う650nm~700nmの赤色の波長成分を減少し、ひいては500nm~700nmの波長成分増加を抑制することができ、前述した青色波長領域の制御(条件1)と相乗的に作用し、色度の変化を抑制し、白色度を維持することができる。
【0020】
色度の変化について、図4及び図5を参照して説明する。図4は角度による色度変化量(Cy及びCyの変化量)を示す図で、図中左の図(A)は、多層膜を設けない状態、右側の図(B)は多層膜を配置した状態である。左側の図(A)に示したように、多層膜がない場合には、色度はCx、Cyともに出射角度が0度から広がるにつれて変化し、特にCy値の変化が大きい。これに対し、本発明では右図(A)のように、色度の変化を大幅に抑制することができる。具体的には、CIE1931色度座標系における色度の変化量ΔCy及びΔyを、ともに0.03以下とすることができる。
【0021】
また図5に示す色度図(CIE1931色度座標系)において、青、緑、及び赤をそれぞれP1、P2、P3で示すと、多層膜を配置しない状態では広角になるにつれて白色からCxおよびCyが増加して黄色方向へ色度変化するところ、条件1によりP1成分を増加して図中左下側にシフトさせる効果が得られ、条件2によりP3成分を減少させて図中左側にシフトさせる効果が得られ、それにより、Cx及びCyの増加を抑制することができる。Cyの増加を抑制することで黄色方向へ色度変化を抑制することができ、また図中点線で囲った白色の色温度領域内(0.33近傍、例えばCx及びCyが0.30~0.40の範囲)にとどめることができる。
【0022】
さらに本発明の多層膜は、波長550nmにおける透過率が出射角度に依存することなく90%以上である(条件3)。このように視感度の高い波長域での透過率を広い出射角度範囲で高いものとすることで、白色度を保ちながら、高い透過率を維持することができる。
【0023】
つまり従来の技術では、青色波長領域のみを制御していたのに対し、本発明の光学多層膜は波長域650nm~700nmの両側について、それぞれ、広角になるにつれて、透過率が徐々に上昇と徐々に減少という逆の制御を行うとともに、中央波長領域の透過率を高く保持することで、発光装置全体として高い出射効率を保ちながら、広角になるにつれてのブルーシフトを抑えて黄味を帯びる現象を効果的に抑制することができる。
【0024】
次に上述した条件1~3を満たす多層光学膜の構成を説明する。
光学多層膜は、屈折率が異なる複数の光学層を積層した構造を持つ。低屈折率層の材料としては、屈折率が例えば1.6以下の範囲の透明誘電体、例えばSiO、MgFなどが用いられ、高屈折率層の材料としては、屈折率が1.6以上のTiO、Al、ZrO、HfO、Nb、BaTi、Taなどが用いられる。
【0025】
多層膜の構造は、低屈折率材料-高屈折率材料の交互積層であり、屈折率差は0.6~1.0(550nm)が好ましい。このような屈折率差を実現する組み合わせの典型的な例として、SiO/Nbが挙げられる。また光出射側となる最上層に低屈折率層を配置する場合、低屈折率層を最下層とし、高屈折率層と低屈折率層とを交互に配置した構造が好ましい。
【0026】
光学多層膜の層数は、9層以下、好ましくは7層以下、最も好ましくは5層とする。一般的にLEDと組み合わせる多層膜では層数を多くして(例えば10~30程度)、透過スペクトルに生じる「うねり」を抑制しているが、本発明では、層数を一般的な多層膜と比較して少なくすることにより、具体的には9層以下とすることにより、角度ごとの透過スペクトルの短波長側へのシフト(所謂ブルーシフト)を抑えることができ、且つ色度の調整がしやすくなる。
【0027】
ブルーシフトは、光が広角になるにつれて見た目上の膜厚が変わることで起こる現象であり、層数が多く膜厚が厚いほどブルーシフトの度合いが大きくなる。図6を参照して、本発明によりブルーシフトが抑制されることを説明する。
【0028】
図6(A)、(B)はそれぞれ層数が異なる多層膜の透過スペクトルの例を示す図(下側は一部拡大図)であり、(A)は層数5の多層膜の透過スペクトル、(B)は(A)と層構成材料が同じである層数9の多層膜の透過スペクトルである。これら図において、透過率の立ち上がり波長における70%位置のブルーシフトを示している。ブルーシフトの基準となる波長は疑似白色スペクトル(LEDと波長変換部との合成によって得られる白色光のスペクトル)における青色のピーク位置であり、420nm~460nm、好ましくは440nm~455nmである。
【0029】
図6(B)に示すように、層数が比較的多い多層膜の透過スペクトルでは、透過スペクトルの立ち上がり後にうねりを生じ、出射角度の変化に伴うシフト量が大きいが、(A)の透過スペクトルは、透過スペクトルの立ち上がり部が緩やかな傾斜であり、透過率70%位置のブルーシフトは、(B)の透過スペクトルに比べ大幅に小さくなっている。即ち層数の多い従来の多層膜ではブルーシフトが大きくなってしまうため、広角になると青色波長領域による色度の調整ができないが、本発明によりブルーシフトを低減することができ、上述した条件1と併せて、色度の調整が実現しやすくなる。
【0030】
光学多層膜を構成する薄膜の厚み(光学膜厚)は、色度値と光学膜厚との相関から適切な値を求めることができる。なお光学膜厚(FWOT)は、物理的膜厚をd、膜を材料の屈折率をnとするとき、nd/λで定義される膜厚である。λは、光学多層膜の反射波長帯の中心波長である。λは、400nm以上青色発光ピーク波長域以下(本実施形態においては、青色発光ピークの長波長側の端部である約475nm以下)、好ましくは青色発光ピーク波長以下(本実施形態においては、青色発光ピーク波長である約445nm以下)の範囲から選択される。
【0031】
図7に、高屈折率層の各光学膜厚と色度値(Cx、Cy)との関係(A)及び各光学膜厚と色度変化量(ΔCx、ΔCy)との関係(B)を、図8に低屈折率層の各光学膜厚と色度値(Cx、Cy)との関係(A)及び各光学膜厚と色度変化量(ΔCx、ΔCy)との関係(B)を示す。図7(A)及び図8(A)において4本のグラフは、それぞれ、角度が0度、60度のCx値及びCy値を示し、図7(B)及び図8(B)の2本のグラフはΔCy、ΔCyを表している。また図示する例は、高屈折材料としてNb2O5、低屈折率材料としてSiO2を用いた5層構成とした場合を示している。
【0032】
高屈折率層及び低屈折率層の光学膜厚を0.25~1.0に変化させたとき、色度値は、それぞれ、図7(A)及び図8(A)に示すように変化し、また色度変化量は、それぞれ、図7(B)、図8(B)の示すように変化する。上述したように本実施形態の発光装置の色度値は、Cx、Cyの色度が白色である0.33近辺(0.30~0.40の範囲)であり、色度変化量(ΔCxCy)が好ましくは0.03以下である。従って、図7及び図8に示すグラフをもとに、色度値及び色度変化量を満たす範囲で、高屈折率層及び低屈折率層の光学膜厚を決定することができる。
【0033】
具体的には、色度の条件を満たすために、高屈折率層の光学膜厚は0.70~0.85FWOTとし、低屈折率層の光学膜厚は0.7~0.9FWOTとすることが好ましいことが導き出された。ただし、光学膜厚は色度値との相関から決定されるものであり、上記範囲に限定されるものではなく、材料や層構成が異なる場合には、上述した色度及び色度変化量の条件をもとに好適な光学膜厚を決定することができる。
【0034】
以上、光学多層膜の透過スペクトル及び構造の特徴について説明したが、次に上述した光学多層膜を備える半導体発光装置の構成と、半導体発光装置を構成する各要素について説明する。
【0035】
半導体発光装置は、基本的な構成として、図1に示したように、LED素子10と、波長変換部20と、光学多層膜30が順に積層された構造を有する。LED素子10と波長変換部20をまとめて発光素子50という。
【0036】
LED素子10は、主として青色波長領域の光を発する素子で、(Al、Ga,In)Nなどの窒化物系半導体等公知の材料を用いることができ、活性層を構成する材料のAl、Ga,Inの割合によって発光波長が異なる。本実施形態では、限定されるものではないが、発光スペクトルの青色帯域(例えば420nm~460nmの範囲)にピークを持つLEDを用いる。
【0037】
波長変換部20は、LED素子10が発する光を吸収し、LED素子10の発光とは異なる波長の光を発する部材からなる。具体的には、青色光の一部を黄色光へ変換する蛍光体粒子を含有し、光散乱性を有する波長変換材料を用いることができる。波長変換材料として、例えばYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット、YAl12):Ceに代表されるYAG系の蛍光体や(Ba,Sr)SiO:Eu2+に代表されるBOS系の蛍光体など公知の蛍光体を用いることができる。波長変換部20の形態はこれら蛍光体粒子を含有する樹脂層、光変換ナノ粒子を含有する透明体などを採用できる。本実施形態では、限定されるものではないが、波長変換材料は、LED素子10の発光に励起されて540nm~570nmにピーク波長を有する光を放出する。
【0038】
波長変換材料は、LED素子10から波長変換部20に入射した光の一部を波長変換するとともに、残部を透過する。これにより波長変換材料からは、LED素子10からの光と波長変換後の光とが混合されて出射する。LED素子10の発光波長と波長変換後の光の波長との適切な組み合わせにより白色発光が得られる。本実施形態では、420nm~460nmの範囲にピークを有する青色LED素子と540nm~570nmの範囲にピークを有する波長変換材料との組み合わせとしたが、他の波長変換材料を追加することもできる。
【0039】
前述した多層膜30は、LED素子10と波長変換部20とを組み合わせた発光素子50の上面に配置される。発光素子50から発せられた青色発光の一部は多層膜30により反射されるが、出射角度0~60度において、多層膜へ入射する入射角度が大きいほど透過率は高い。また、多層膜により反射された光は、波長変換部材に入射後散乱して、青色光および新たに黄色光に変換され、一部は多層膜への再度入射するが、青色光はその入射角度が大きくなるに従い高い透過率で出射されるよう構成されている。
【0040】
このような光学多層膜の透過スペクトルの特徴により、本発明の発光装置は、出射角度による色度の変化が抑制された白色発光が得られる。
【0041】
次に具体的な半導体発光装置の実施形態を、図9(A)及び図9(B)を参照して説明する。図9(A)に示す実施形態1の半導体発光装置は、青色発光のLED素子10と、その上に配置された波長変換部20と、波長変換部20の上に形成された光学多層膜30とを備えており、光学多層膜30の最上面が光出射面である。
【0042】
本実施形態の波長変換部20は、例えば、アルミナとYAG蛍光体を高温焼成して作製されたセラミックプレートであり、屈折率は1.8である。セラミックプレートからなる波長変換部材の多層膜成膜面は、研磨等により平坦化処理が施されることが好ましい。一方、セラミックプレートからなる波長変換部材の多層膜成膜面と対向する面は、平坦化処理なく焼結面とすることが好ましい。波長変換部20は、LED素子10の上に樹脂などの接着層を介して搭載される。なお、波長変換部20としてセラミックプレートの代わりに単結晶蛍光体を用いることも可能である。
【0043】
光学多層膜30は、電子ビームスパッタリング等の公知の製膜法により、波長変換部(セラミックプレート)20上に直接、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して形成される。多層膜の構造は、図9(A)の右側に示すように、例えば、セラミックプレート20に接する第1層と最上層とを低屈折率層とし、低屈折率層との間に高屈折率層を配置した、層数が奇数である。図9(A)に示す実施形態1では、低屈折率層の材料としてSiO(n=1.46)、高屈折率層の材料としてNb(n=2.33)を用い、層数5の多層膜としている。
【0044】
最上層は、光を取り出すための調整層として機能する層で、ここではそれを除く低屈折率層とは区別して調整層と呼ぶ。調整層を除く各層の膜厚(物理的膜厚)dは低屈折率層が100nm~150nm、高屈折率の層が200nm~300nm、屈折率nと光の波長λを考慮した光学膜厚(FWOT=d*n/λ)は、λ=410において、0.7~0.9である。最上層は、物理的膜厚100nm以下、光学膜厚は、0.4以下である。
【0045】
上記のように低屈折率材料・高屈折率材料ともに0.75FWOT近辺にすることで角度による色度変化量を抑えた特性を得ることができる。
【0046】
図9(B)に示す実施形態2の半導体発光装置は、青色発光のLED素子10と、その上に積層された波長変換材料含有樹脂層(=波長変換部20、以下、波長変換層25という)と、ガラス等の透明な材料からなるプレート(以下、ガラスプレートという)40と、光学多層膜30とを備えており、光学多層膜30の最上面が光出射面である。
【0047】
波長変換層25は、シリコーン系樹脂などの透明な樹脂にガラスビーズとYAG蛍光体粒子を分散させたもので、LED10の表面に塗工することによって製膜される。例えば、本実施形態に用いられる波長変換層の屈折率は、1.82である。
【0048】
ガラスビーズは、波長変換層25の膜厚を規定する。膜厚は、LED10からの光を吸収して波長変換する波長変換層25の変換効率などをもとに調整され、特に限定されるものではないが、7μm~40μm程度である。蛍光体粒子の粒子径は、40μm以下であることが好ましく、30μmnm以下であることがより好ましい。
【0049】
ガラスプレート40は、波長変換層25の表面(光出射側)の形状を規定するとともに、光学多層膜30の基板として機能する。ガラスプレート40の厚さは、限定されるものではないが、0.1mm~0.5mm程度である。
【0050】
光学多層膜30は、ガラスプレート40上に形成されることを除き、実施形態1の光学多層膜と同様である。
【0051】
以上、本発明の半導体発光装置を構成する要素について説明したが、半導体発光装置は、実装のために、LEDに電力を供給するリード線などの手段、LED/波長変換部/光学多層膜を支持し或いは保持するための部材、及び、公知の付属部品などを備えていてもよく、このような部材を含む発光装置も本発明に包含される。
【0052】
本発明の半導体発光装置は、ヘッドランプをはじめとした車両用灯具・照明用器具等、LEDの放射光において中央から外側になるにつれ黄色味を帯びた色むらを解消させたいアプリケーションに対してすべてに適用することができる。
【0053】
図20に、車両用灯具の一例として、ヘッドランプ60の模式的な側面図を示す。このヘッドランプ60は、半導体発光装置61、集光リフレクタ62、投影レンズ63、シェード64を備えている。半導体発光装置61は、上述した本発明の半導体発光装置であり、LEDと波長変換部と光学多層膜とを備え、基板65上に搭載されている。半導体発光装置61は所定の角度範囲の出射光DLを放出する。集光リフレクタ62は、例えば楕円反射面であり、第1の焦点F1に配置された半導体発光装置61からの出射光DLを集光して第2の焦点F2に集光する集光光FLを生成する。投影レンズ63は、集光リフレクタ62からの集光光FLを投影して投影光PLを生成する。シェード64は、ミラー面を含み、第2の焦点F2近傍に配置され、投影レンズ63側の前端縁にて集光光FLの一部を遮光する。
【0054】
このような構成のヘッドランプ60は、第2の焦点F2に配置されるシェード64の端部により規定される半導体発光装置61の光源像を投影レンズ63により反転投影することで、上端にカットオフラインを有するすれ違い走行用配光パターン(いわゆるロービーム)を形成する。本発明の車両用灯具(ここではヘッドランプ60)によれば、発光素子として本発明の半導体発光装置61を採用したことにより、光源像および配向パターンにおける色むらを抑制することができる。
【実施例0055】
<実施例1>
図9(A)の構成のLEDパッケージにおいて、下記の構成の多層膜を波長変換部材上に形成し、実施例1の発光装置を製造した。
【表1】
【0056】
この多層膜に、光の入射角度を15度きざみに変化させたときの透過スペクトルを図10に示す。この透過スペクトルは多層膜を形成していないときの発光スペクトルと、多層膜を形成した後の発光スペクトルとの差を用いて求めたものである。図10から、本実施例の多層膜は、青色発光波長領域(400nm~470nm)において、角度0度において、透過率は60%以上を満たし、且つ角度が大きくなるにつれて、透過率が徐々に上昇しており、広角になるにつれて減少する青色成分を透過率の上昇により調整できていることがわかる。また600nm以降の波長領域では、透過率は0度から60度になるにつれて徐々に減少し、これによる色度が調整されることがわかる。
【0057】
図11(A)は、実施例1の多層膜を積層後の発光装置について、実測した、色度(Cx、Cy)の角度による変化量(ΔCx、ΔCy)を示した図であり、(B)は従来の発光装置の色度変化を示している。図11においてΔCx、ΔCyの値は±80度以内の光についての色度変化量の数値である。
【0058】
図11(B)に示すように、従来の発光装置ではCx(点線)の変化は比較的小さいが、放射角度によりCy値(実線)の変化が大きく色度が十分に制御されていない。これに対し、実施例1のグラフ(A)では、Cx、Cyともに角度による色度変化が抑制されており、角度に依存することなく均一な色度が達成できていることがわかる。
【0059】
また図12に、実施例1の発光装置の角度による色度変化を示す。図12は、出射角度を0度から80度へ変化させた場合の、角度5度間隔毎の色度の変化を色度図にグラフとして示した図である。折れ線の左下が出射角0度であり、右上が入射角80度であり、5度間隔毎のプロットを線でつないで示している。入射角0度から40度までは、CxおよびCyが増加、40度から65度までは、CxまたはCyの少なくともいずれかが低下、65度から80度までは、再度CxおよびCyが増加している。出射角度0度と出射角度80度において、Cx値およびCy値の差が最大となった。出射角度0度と出射角度80度におけるCx値の差は0.004であり、Cy値の差は0.008であった。すなわち、出射角度0度から出射角度80度までの広い範囲で、Cx値およびCy値の差をいずれも0.01以下に抑制することができた。グラフにおいて出射角0度と出射角80度までの色度座標距離が大きいことは変化が大きいことを意味するが、グラフにおける折れ線が色度の折り返し点を持つこと、より好ましくはグラフにおける折れ線が回転部を持つことで、出射角度による色度値の変化が効果的に抑えられていることを意味する。図12に示すグラフは、折れ線が回転部を持つグラフになっており、実施例1は色度変化が小さいことがわかる。
【0060】
さらに実施例1の透過スペクトル(図10)は、550nmの透過率スペクトルが90%以上を保持しているので、視感度が高く明るさを保持できていることがわかる。
【0061】
<実施例2>
図9(B)の構成のLEDパッケージにおいて、下記の構成の多層膜を波長変換層25の上のガラスプレート40上に形成し、実施例2の発光装置を製造した。
【表2】
【0062】
この多層膜に、光の入射角度を15度きざみに変化させたときの透過スペクトルを図13に示す。実施例2の多層膜も、実施例1の多層膜と同様に、本発明の条件1~3を満たし、広角になるにつれて青色波長領域の青色成分の透過率を上昇させるとともに長波長領域の透過率を減少させることで色度の変化を調整できること、また550nmにおいて高い透過率が確保されていることが確認された。
【0063】
実施例2の発光装置について、出射角度を0度から80度へ変化させて実測した、色度(Cx、Cy)の角度による変化量(ΔCx、ΔCy)を図14及び角度による色度変化を図15に示す。図14に示すように、出射角度0度と入射角度80度におけるCx値の差は0.002であり、Cy値の差は0.002である。図15に示すように、出射角度を5度間隔で測定した色度(Cx、Cy)の値は、0度で(0.330,0.342)であり、20度で(0.329,0.343)、40度で(0.329,0.342)、45度で(0.329,0.342)、55度で(0.330,0.341)、60度で(0.331,0.341)、75度で(0.329,0.340)、80度で(0.336,0.354)となった。出射角度75度と出射角度80度において、Cx値およびCy値の差が最大となった。出射角度75度と出射角度80度におけるCx値の差は0.007であり、Cy値の差は0.014であった。
【0064】
本実施例においても広い角度範囲で、色度の変化をCxおよびCyいずれも0.02以下に抑制できていることがわかる。また、出射角度0度から60度の範囲においては、Cx値の差は0.002(出射角35度と60度)、Cy値の差は0.002(出射角20度と60度)と極めて色度差を抑制することができた。さらに、図15の色度図に示したように、色度の変化を示す軌跡も折返し部や回転部を持ち、色度変化が少ないことが分かり、且つ広い角度範囲で、白色範囲(0.30~0.40の範囲)にとどまっていることがわかる。
【0065】
<比較例1>
実施例1と同じLEDパッケージ構造とし、多層膜を下記の構成に異ならせて、比較例1の発光装置を製造した。
【表3】
【0066】
この多層膜の透過スペクトルを図16に、また色度変化を図17に示す。図16の透過スペクトルからわかるように比較例1の多層膜は、青色発光ピーク波長領域の透過率が、0度~45度までは、単調に上昇しているものの、60度においては透過率が減少しており、入射角度0度から少なくとも60度まで徐々に(単調に)上昇する構成となっていない。また、図16の透過スペクトルからわかるように比較例1の多層膜は、角度0度のときの青色波長領域(450nm)の透過率が90%を超えており、青色光で角度による色度変化量を調整することは難しい。図17の色度変化の軌跡も、ほぼ直線的な変化を示しており、角度による色度変化が大きかった。出射角度0度と出射角度80度におけるCx値の差は0.022であり、Cy値の差は0.036となった。出射角度15度と出射角度75度において、Cx値の差が最大となった。出射角度15度と出射角度75度におけるCx値の差は0.023であった。出射角度20度と出射角度80度において、Cy値の差が最大となった。出射角度20度と出射角度80度におけるCx値の差は0.045であった。
【0067】
このように多層膜の光学膜厚が薄い場合には、各角度の透過スペクトルが短波長側にずれる傾向にあり、青色領域での色度の調整が困難になることがわかった。
【0068】
<比較例2>
実施例1と同じ膜構成材料で、層数を9として多層膜を設計し、入射角度を0度から15度刻みに60度まで変化させたときの透過スペクトル(計算値)を得た。
【表4】
【0069】
比較例2の多層膜の透過スペクトルは図18に示すように、青色波長領域における透過率の変化が急峻で角度による透過率の変化(ブルーシフト)が大きい。450nm以上の波長領域においてもスペクトルのうねりが大きい。従って、比較例2の多層膜では、広角になるにつれて生じるブルーシフトを解消することができず、且つ角度による色度変化の調整が困難となる。実施例1と比較例2の結果から、層数の増加に伴い、本発明の発光装置(条件1~3を満たす発光装置)の実現が困難であり、層数として5層が好適であることがわかる。
【0070】
また比較例2の多層膜を用いた場合の発光装置の色度変化を図19に示す。比較例2では色度変化のグラフが折り返し点を持つものの、開始点(出射角0度)よりCy値が小さい領域まで大きく折返す変化となり、色度の調整が不十分であることがわかる。出射角度0度と出射角度80度におけるCx値の差は0.007であり、Cy値の差は0.014となった。出射角度45度と出射角度75度において、Cx値およびCy値の差が最大となった。出射角度45度と出射角度75度におけるCx値の差は0.011であり、Cy値の差は0.022である。
【0071】
以上の実施例の結果から、青色領域の透過率を適正な範囲に保ちつつ広角になるにつれて上昇するように制御すること、長波長領域の透過率を広角になるにつれて減少するように制御すること、且つ視感度の高い波長の透過率を90%以上に保つことによって、出射角度による色度の変化を抑制するとともにブルーシフトを抑制し、且つ視感度の高い領域の発光量が維持されることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
10:LED素子、20:波長変換部、25:波長変換層(波長変換部)、30:光学多層膜、40:ガラスプレート、50:発光素子(多層膜を含まない)、60:ヘッドランプ(車両用灯具)、61:半導体発光装置、62:集光リフレクタ、63:投影レンズ、64:シェード。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21