(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134142
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】非線形伝送線路およびそれを用いたサンプリングオシロスコープ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/822 20060101AFI20230920BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20230920BHJP
G01R 13/20 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01L27/04 D
H01L21/90 N
G01R13/20 N
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039504
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白土 悟
【テーマコード(参考)】
5F033
5F038
【Fターム(参考)】
5F033GG02
5F033MM17
5F033RR30
5F033XX24
5F038AZ01
5F038CD05
5F038CD13
5F038EZ01
5F038EZ02
5F038EZ20
(57)【要約】
【課題】広帯域で周波数特性の優れた非線形伝送線路を提供する。
【解決手段】入力されたパルス信号のパルス幅を圧縮して出力する非線形伝送線路であって、基板と、基板の一面に並行に形成された第1の主線路12および第2の主線路14と、基板の一面において第1の主線路と第2の主線路の間の領域で主線路方向に所定間隔で形成された複数のダイオード3と、基板の一面に形成され、一端が第1の主線路にそれぞれ接続され、他端が複数のダイオードのアノード端子にそれぞれ接続された複数の第1分岐配線4と、基板の一面に形成され、一端が第2の主線路にそれぞれ接続され、他端が複数のダイオードのカソード端子にそれぞれ接続された複数の第2分岐配線5と、を備える。第1分岐配線および第2分岐配線のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線および第2分岐配線は、基板から浮いたエアーブリッジ構造を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたパルス信号のパルス幅を圧縮して出力する非線形伝送線路であって、
基板(2)と、
前記基板の一面に並行に形成された第1の主線路(12)および第2の主線路(14)と、
前記基板の一面において前記第1の主線路と前記第2の主線路の間の領域で主線路方向に所定間隔で形成された複数のダイオード(31,...,3N)と、
前記基板の一面に形成され、一端側が前記第1の主線路にそれぞれ接続され、他端側が前記複数のダイオードのアノード端子にそれぞれ接続された複数の第1分岐配線(41,...,4N)と、
前記基板の一面に形成され、一端側が前記第2の主線路にそれぞれ接続され、他端側が前記複数のダイオードのカソード端子にそれぞれ接続された複数の第2分岐配線(51,...,5N)と、を備え、
前記複数の第1分岐配線および前記複数の第2分岐配線のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線および第2分岐配線は、前記基板から浮いたエアーブリッジ構造を有することを特徴とする非線形伝送線路。
【請求項2】
前記複数の第1分岐配線および前記複数の第2分岐配線のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線および第2分岐配線は、前記基板から浮いたエアーブリッジ構造を有し、残りの第1分岐配線および第2分岐配線は、全体が前記基板の一面に接して形成されている、請求項1に記載の非線形伝送線路。
【請求項3】
前記複数のダイオードの前記所定間隔(D)は、入力側から順に1または複数個の前記ダイオードごとに段階的に狭くなるように構成されている、請求項1または2に記載の非線形伝送線路。
【請求項4】
前記第1の主線路と前記第2の主線路とのギャップ(G)は、入力側から順に1または複数個の前記ダイオードごとに段階的に狭くなるように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の非線形伝送線路。
【請求項5】
前記第1分岐配線は、前記基板の一面において前記第1の主線路に対して直角方向に延在し、前記第2分岐配線は、前記基板の一面において前記第2の主線路に対して直角方向に延在し、前記第1分岐配線および前記第2分岐配線の幅(W2)は、前記第1の主線路および前記第2の主線路の幅(W1)よりも狭い、請求項1~4のいずれか一項に記載の非線形伝送線路。
【請求項6】
前記第1の主線路および前記第2の主線路のうち一方が接地されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の非線形伝送線路。
【請求項7】
前記複数のダイオード(31,...,3N)は、それぞれのアノード端子が前記第1分岐配線を介して接続された、前記第1の主線路の所定の長手区間の主線路導体(TL11,...,TL1N)、およびぞれぞれのカソード端子が前記第2分岐配線を介して接続された、前記第2の主線路の所定の長手区間の主線路導体(TL21,...,TL2N)とともに、複数のローパスフィルタ(101,...,10N)を構成し、前記ローパスフィルタは、入力側から順に1または複数個の前記ローパスフィルタごとに段階的にカットオフ周波数が小さくなるように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載に記載の非線形伝送線路。
【請求項8】
パルス信号を生成するパルス生成部(110)、および前記パルス信号を入力して電気短パルス信号を発生させる請求項1~7のいずれか一項に記載の非線形伝送線路(1)を有する電気短パルス発生装置(100)と、
被測定信号をサンプリングするサンプラ(210)とを備え、
前記電気短パルス発生装置により生成された電気短パルス信号が、前記サンプラによるサンプリングのトリガ信号として用いられることを特徴とするサンプリングオシロスコープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形伝送線路およびそれを用いたサンプリングオシロスコープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気短パルス発生装置として、ステップリカバリダイオード(SRD:Step Recovery Diode)を用いたものが知られている。SRDは、例えば正弦波が印加されると、印加された正弦波が逆バイアス状態のときに電荷を蓄積し、順バイアス状態になった瞬間に放電して、正弦波の周波数と同じ繰返し周波数の電気短パルスを発生させるように動作する。
【0003】
しかしながら、単にパルス幅が狭いだけではなく、ジッタの少ない電気短パルスが求められる計測機器においては、上記の電気短パルス発生装置が出力する電気短パルスはその要求に十分に応えられるものではなかった。
【0004】
そこで、非線形伝送線路(NLTL:Non-Linear Transmission Line)を用いて電気短パルスを発生する電気短パルス発生装置が提案された(例えば、特許文献1参照)。この非線形伝送線路は、コプレーナ線路等の伝送線路に、半導体微細加工技術により複数個の非線形素子を所定の間隔で配置した構造を有している。非線形伝送線路は、伝送線路に並列に配置される非線形素子の容量変化を利用することにより、入力された正弦波の立ち上がり時間を徐々に短縮して、急峻な立ち上がり特性を有するとともに、ジッタの少ないパルス信号を出力することができる。
【0005】
具体的には、特許文献1に記載の非線形伝送線路は、主線路導体からなる主線路と複数のダイオードを備え、ダイオードのカソード端子はそれぞれ分岐配線を介して主線路に接続され、アノード端子はそれぞれ分岐配線を介して接地されている。非線形伝送線路は、主線路導体のインダクタンス成分とダイオードの容量成分によるLCフィルタのカットオフ周波数が等比数列になるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の非線形伝送線路の構成では、分岐配線が基板上に形成されるので、基板の誘電作用により分岐配線の寄生容量が大きくなり、LCフィルタのカットオフ周波数が低下する問題があった。このように、容量成分として働く分岐配線がカットオフ周波数を低下させる要因となり、それにより非線形伝送線路の周波数特性を低下させるため、分岐配線の容量成分を低減することが重要となる。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、広帯域で周波数特性の優れた非線形伝送線路およびそれを用いたサンプリングオシロスコープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の非線形伝送線路は、入力されたパルス信号のパルス幅を圧縮して出力する非線形伝送線路であって、基板(2)と、前記基板の一面に並行に形成された第1の主線路(12)および第2の主線路(14)と、前記基板の一面において前記第1の主線路と前記第2の主線路の間の領域で主線路方向に所定間隔で形成された複数のダイオード(31,...,3N)と、前記基板の一面に形成され、一端側が前記第1の主線路にそれぞれ接続され、他端側が前記複数のダイオードのアノード端子にそれぞれ接続された複数の第1分岐配線(41,...,4N)と、前記基板の一面に形成され、一端側が前記第2の主線路にそれぞれ接続され、他端側が前記複数のダイオードのカソード端子にそれぞれ接続された複数の第2分岐配線(51,...,5N)と、を備え、前記複数の第1分岐配線および前記複数の第2分岐配線のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線および第2分岐配線は、前記基板から浮いたエアーブリッジ構造を有することを特徴とする。
【0010】
上述のように、本発明の非線形伝送線路は、複数の第1分岐配線および複数の第2分岐配線のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線および第2分岐配線は、基板から浮いたエアーブリッジ構造を有するようになっている。この構成により、第1分岐配線とそれに対応する第2分岐配線との電磁的結合が弱まり、第1分岐配線とそれに対応する第2分岐配線の寄生容量を低減することができる。これにより、カットオフ周波数に対する分岐配線の寄生容量の影響を抑制することができ、設計通りの所望のカットオフ周波数に正確に設定することができる。したがって、広帯域で通過特性等の周波数特性が優れた非線形伝送線路を提供することができる。
【0011】
また、本発明の非線形伝送線路は、前記複数の第1分岐配線および前記複数の第2分岐配線のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線および第2分岐配線は、前記基板から浮いたエアーブリッジ構造を有し、残りの第1分岐配線および第2分岐配線は、全体が前記基板の一面に接して形成された構成であってもよい。
【0012】
カットオフ周波数に対する分岐配線の寄生容量の影響は、エアーブリッジ構造により抑制されるが、その効果は分岐配線の長さ等によっても変わる。一般に、分岐配線の長さは入力側から出力側に向けて段階的あるいは漸次短くなるので、入力側ほどエアーブリッジ構造にする効果が高く、出力側ほどエアーブリッジ構造にする効果が薄まる傾向にある。また、短い配線をエアーブリッジ構造にする場合、製造装置のグレードを上げる等の必要性が生じることもある。そこで、上記構成とするにより、入力側の所定個数の第1分岐配線と第2分岐配線はエアーブリッジ構造にし、残りの出力側の第1分岐配線と第2分岐配線は従来配線とするハイブリッド構造にすることにより、電気的特性を満たしつつ製造コストの上昇を抑えることができる。
【0013】
また、本発明の非線形伝送線路において、前記複数のダイオードの前記所定間隔(D)は、入力側から順に1または複数個の前記ダイオードごとに段階的に狭くなるように構成してもよい。
【0014】
この構成により、本発明の非線形伝送線路は、ダイオード等が形成するローパスフィルタを構成する主線路導体の部分の長さを段階的に短くして、その部分のインダクタンス成分を段階的に小さくすることができる。
【0015】
また、本発明の非線形伝送線路において、前記第1の主線路と前記第2の主線路とのギャップ(G)は、入力側から順に1または複数個の前記ダイオードごとに段階的に狭くなるように構成してもよい。
【0016】
この構成により、本発明の非線形伝送線路は、第1分岐配線および第2分岐配線の長さを段階的に短くすることができ、第1分岐配線および第2分岐配線の寄生容量を段階的に小さくしていくことができる。
【0017】
また、本発明の非線形伝送線路は、前記第1分岐配線は、前記基板の一面において前記第1の主線路に対して直角方向に延在し、前記第2分岐配線は、前記基板の一面において前記第2の主線路に対して直角方向に延在し、前記第1分岐配線および前記第2分岐配線の幅(W2)は、前記第1の主線路および前記第2の主線路の幅(W1)よりも狭い構成であってもよい。
【0018】
この構成により、本発明の非線形伝送線路は、第1分岐配線および第2分岐配線の寄生容量を小さく抑えられる。
【0019】
また、本発明の非線形伝送線路は、前記第1の主線路および前記第2の主線路のうち一方が接地された構成であってもよい。
【0020】
この構成により、本発明の非線形伝送線路は、主線路がシングル型となり、シングルエンドの入力パルス信号に対してパルス幅の圧縮を行うことができる。
【0021】
また、本発明の非線形伝送線路において、前記複数のダイオード(31,...,3N)は、それぞれのアノード端子が前記第1分岐配線を介して接続された、前記第1の主線路の所定の長手区間の主線路導体(TL11,...,TL1N)、およびぞれぞれのカソード端子が前記第2分岐配線を介して接続された、前記第2の主線路の所定の長手区間の主線路導体(TL21,...,TL2N)とともに、複数のローパスフィルタ(101,...,10N)を構成し、前記ローパスフィルタは、入力側から順に1または複数個の前記ローパスフィルタごとに段階的にカットオフ周波数が小さくなるように構成してもよい。
【0022】
本発明の非線形伝送線路において、ダイオードは容量成分Cとして働き、ダイオードに接続された所定の長手区間の主線路導体はインダクタンス成分Lとして働くので、ダイオードと主線路導体とがLCフィルタ(ローパスフィルタ)を構成する。このように形成されたローパスフィルタのカットオフ周波数が段階的に小さくなるように構成することにより、急峻な短パルス信号を生成することができる。
【0023】
また、本発明のサンプリングオシロスコープは、パルス信号を生成するパルス生成部(110)、および前記パルス信号を入力して電気短パルス信号を発生させる上記いずれかに記載の非線形伝送線路(1)を有する電気短パルス発生装置(100)と、被測定信号をサンプリングするサンプラ(210)とを備え、前記電気短パルス発生装置により生成された電気短パルス信号が、前記サンプラによるサンプリングのトリガ信号として用いられることを特徴とする。
【0024】
電気短パルス発生装置に用いられる本発明の非線形伝送線路は、DCから高周波数までの広帯域で良好な周波数特性、特に優れた透過特性を有している。本発明のサンプリングオシロスコープは、このような特性を有する非線形伝送線路を用いて生成された電気短パルス信号が、サンプラによるサンプリングのトリガ信号として用いられるので、DCを含め広帯域の信号を精度よく測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、広帯域で周波数特性の優れた非線形伝送線路およびそれを用いたサンプリングオシロスコープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非線形伝送線路の概略構成を示す模式図である。
【
図4】(a)は
図3のA-A断面図であり、(b)は従来の非線形伝送線路の断面構造を示す模式図である。
【
図5】本発明の変形例に係る非線形伝送線路の断面構造を示す模式図である。
【
図6】(a)は本発明の実施形態に係る非線形伝送線路への入力パルス信号を示し、(b)は本発明の実施形態に係る非線形伝送線路からの出力パルス信号を示す図である。
【
図7】(a)は本発明の実施形態に係る非線形伝送線路への入力パルス信号のスペクトラムを示し、(b)は本発明の実施形態に係る非線形伝送線路からの出力パルス信号のスペクトラムを示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る非線形伝送線路の透過特性を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る電気短パルス発生装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るサンプリングオシロスコープの構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の別の実施形態に係る非線形伝送線路の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る非線形伝送線路(NLTL)およびそれを用いたサンプリングオシロスコープについて図面を用いて説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
非線形伝送線路1は、差動信号である入力パルス信号のパルス幅を圧縮して出力パルス信号として出力するものである。なお、本明細書においてパルス幅とは、パルス波形の半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を示すものとする。
【0029】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る非線形伝送線路1の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、非線形伝送線路1は、半導体あるいは誘電体からなる基板2(
図3参照)と、基板2の表面2aに並行に形成された第1の主線路12および第2の主線路14と、基板2の表面2aにおいて第1の主線路12と第2の主線路14の間の領域で主線路方向に所定間隔で形成された複数のダイオード3
1,3
2,...,3
N(以下、ダイオード3と総称することもある)とを備えている。
【0030】
第1の主線路12は、入力端子21側から出力端子31側に向けて順に、主線路導体61,62,...,6N(以下、主線路導体6と総称することもある)と、主線路導体71,72,...,7N(以下、主線路導体7と総称することもある)とを交互に有している。同様に、第2の主線路14は、入力端子22側から出力端子32側に向けて順に、主線路導体81,82,...,8N(以下、主線路導体8と総称することもある)と、主線路導体91,92,...,9N(以下、主線路導体9と総称することもある)とを交互に有している。
【0031】
一般に、n番目の主線路導体6nと主線路導体7nとを合わせて、主線路導体TL1nと表記し、n番目の主線路導体8nと主線路導体9nとを合わせて、主線路導体TL2nと表記する。また、一般に、n番目の主線路導体TL1nとTL2nとを合わせて、主線路導体TLnと表記する。ここでサフィックスnは1≦n≦Nの整数であり、以下の説明において記載されたサフィックスnについても同様である。
【0032】
ダイオード31,32,...,3Nは、アノード端子が第1分岐配線41,42,...,4N(以下、第1分岐配線4と総称することもある)を介して第1の主線路12に接続されており、カソード端子が第2分岐配線51,52,...,5N(以下、第2分岐配線5と総称することもある)を介して第2の主線路14に接続されている。ダイオード3は、例えばバラクターダイオードであり、通常は電源を供給せずにパッシブ方式で使用する。
【0033】
第1分岐配線41,42,...,4Nは、各々、基板2の表面2aにおいて第1の主線路12に対して直角方向に延在し、一端側が第1の主線路12に接続され、他端側が対応するダイオード3のアノード端子に接続されている。また、第2分岐配線51,52,...,5Nは、各々、基板2の表面2aにおいて第2の主線路14に対して直角方向に延在し、一端側が第2の主線路14に接続され、他端側が対応するダイオード3のカソード端子に接続されている。
【0034】
具体的には、第1分岐配線4nは、一端側が第1の主線路12の所定の長手方向区間の主線路導体TL1nを構成する主線路導体6nと主線路導体7nとの間に接続されている。同様に、第2分岐配線5nは、一端側が第2の主線路14の所定の長手方向区間の主線路導体TL2nを構成する主線路導体8nと主線路導体9nとの間に接続されている。
【0035】
本実施形態では、主線路導体6nと主線路導体7nは長さを同一にしているが、異なる長さにしてもよく、あるいはどちらか一方だけにしてもよい。同様に、本実施形態では、主線路導体8nと主線路導体9nは長さを同一にしているが、異なる長さにしてもよく、あるいはどちらか一方だけにしてもよい。また、本実施形態では、主線路導体6nと主線路導体8nは長さを同一にしているが、異なる長さにしてもよい。同様に、本実施形態では、主線路導体7nと主線路導体9nは長さを同一にしているが、異なる長さにしてもよい。ここで、1≦n≦Nである。
【0036】
本実施形態では、第1分岐配線41,42,...,4Nは、各々、基板2の表面2aにおいて第1の主線路12に対して直角方向に延在しているが、これに限定されず、第1の主線路12に対して非直角の傾斜方向に延在して形成されていてもよい。同様に、第2分岐配線51,52,...,5Nは、各々、基板2の表面2aにおいて第2の主線路14に対して直角方向に延在しているが、これに限定されず、第2の主線路14に対して非直角の傾斜方向に延在して形成されていてもよい。
【0037】
上述のように、非線形伝送線路1は、複数のダイオード3のアノード端子とカソード端子が、第1および第2分岐配線4、5を介して第1の主線路12と第2の主線路14に並列に接続されている。また、非線形伝送線路1は、直流のバイアス電圧を加えて動作させるようにしてもよい。
【0038】
<LCフィルタ>
図2は、非線形伝送線路1の等価回路図である。
図2に示すように、ダイオード3
nは、容量成分C
nとして働き、主線路導体6
n,7
n,8
n,9
nはそれぞれインダクタンス成分L6
n,L7
n,L8
n,L9
nとして働く。ここでは、主線路導体6
n,7
n,8
n,9
nから構成される主線路導体TL
nのインダクタンス成分をL
nと表記する(1≦n≦N)。
【0039】
ダイオード3
nと主線路導体6
n,7
n,8
n,9
n(すなわち、主線路導体TL
n)とが、n番目のLCフィルタ(ローパスフィルタ10
n)を構成している。ローパスフィルタ10
nのカットオフ周波数FC
nは次式により近似できる。
【数1】
ここで、L
nは主線路導体TL
nのインダクタンス成分であり、C
nはダイオード3
nの容量成分である。
【0040】
非線形伝送線路1は、主線路導体TLnのインダクタンス成分Lnとダイオード3nの容量成分Cnによるローパスフィルタ10nのカットオフ周波数FCnが等比数列になるように構成されている。すなわち、ダイオード3nの容量成分Cnと主線路導体TLnのインダクタンス成分Lnのいずれか一方あるいは両方が、入力側から出力側に向かって徐々に小さくなるように構成される。
【0041】
また、複数のローパスフィルタ101,...,10N(以下、ローパスフィルタ10と総称することもある)は、入力側から順に1または複数個のローパスフィルタごとに段階的にカットオフ周波数FCnが小さくなるように構成してもよい。
【0042】
このように、ローパスフィルタ10nのカットオフ周波数FCnが漸次あるいは段階的に小さくなるように構成することにより、負パルスの場合の立ち下がり(あるいは正パルスの場合の立ち上がり)が急峻な短パルス信号を生成することができる。
【0043】
図2において、第1分岐配線4
nと第2分岐配線5
nは、寄生容量CP
nとして働き(破線で囲った部分)、カットオフ周波数FC
nを低下させる要因となるので、第1分岐配線4
nと第2分岐配線5
nの寄生容量を低減する必要がある。
【0044】
<IC構成>
図3は、非線形伝送線路1の平面図である。
図3に示すように、例えばガリウムヒ素(GaAs)などの半導体からなる基板2の表面2a上で、入力端子21、22と出力端子31、32の間に、第1の主線路12と第2の主線路14とが並行して形成されている。第1の主線路12と第2の主線路14の間には、ダイオード3が第1および第2分岐配線4、5を介してラダー状に並列に接続されている。非線形伝送線路1は、例えば、ガリウムヒ素の基板2に半導体製造プロセスを用いることによりベアチップICとして製造され、サイズは例えば縦が1.6mm、横が6mm程度である。
【0045】
図3に示す非線形伝送線路1は、入力端子21、22側から順に、4つの領域S1、S2、S3、S4が設けられており、第1の主線路12と第2の主線路14とのギャップG、および隣接するダイオード3の間隔Dが、領域ごとに段階的に狭くなっている。領域S1、S2、S3、S4のうち同一領域では、第1の主線路12と第2の主線路14とのギャップG、および隣接するダイオード3の間隔Dは、同一にしている。
【0046】
本実施形態では、4つの領域S1、S2、S3、S4が設けられているが、領域の個数はこれに限定されるものではなく、4個より多くてもよく、4個より少なくてもよく、1個でもよい。また、各領域S1、S2、S3、S4に含まれるダイオード3の個数は、全て同じでもよく、あるいは異なっていてもよく、1または任意の複数にすることができる。
【0047】
本実施形態では、領域S1、S2、S3、S4において同一の領域では第1の主線路12と第2の主線路14とのギャップGを同一にしているが、これに限定されず、領域内でギャップGを段階的あるいは漸次狭めてもよい。また、本実施形態では、領域S1、S2、S3、S4において同一領域では隣接するダイオード3の間隔Dを同一にしているが、これに限定されず、領域内で間隔Dを段階的あるいは漸次狭めてもよい。
【0048】
本実施形態に係る非線形伝送線路1において、第1分岐配線4および第2分岐配線5の幅W2は、第1の主線路12および第2の主線路14の幅W1よりも狭い構成であってもよい。この構成により、第1分岐配線4および第2分岐配線5の寄生容量を小さく抑えられる。
【0049】
<エアーブリッジ>
図4(a)は
図3のA-A断面図であり、
図4(b)は比較のため従来の非線形伝送線路の断面構造を示す模式図である。
図4(a)に示すように、第1分岐配線4は、少なくとも一部が基板2の表面2aから浮いて湾曲した例えば円弧状のエアーブリッジ構造(単にエアーブリッジともいう)4aを有しており、エアーブリッジ構造4aと基板2との間に空気層16が形成されている。第1分岐配線4の一端は基板2の表面2aに固定されるとともに、第1の主線路12に接続され、他端は基板2の表面2aに固定されるとともに、ダイオード3のアノード端子に接続されている。
【0050】
同様に、第2分岐配線5は、少なくとも一部が基板2から浮いて湾曲した例えば円弧状のエアーブリッジ構造5aを有しており、エアーブリッジ構造5aと基板2の表面2aとの間に空気層16が形成されている。第2分岐配線5の一端は基板2の表面2aに固定されるとともに、第2の主線路14に接続され、他端は基板2の表面2aに固定されるとともに、ダイオード3のカソード端子に接続されている。
【0051】
図4(a)および
図4(b)では、第1分岐配線4と第2分岐配線5との間に電位差があるときの両者の電磁的結合の様子を示すために、電気力線を破線で示している。
図4(a)の構成は、空気層16を含んでいるので、
図4(b)の構成に比べて電磁的結合が弱くなっており、第1分岐配線4と第2分岐配線5の寄生容量が小さくなることが分かる。
【0052】
上述のとおり、第1分岐配線4とそれに対応する第2分岐配線5との電磁的結合が弱まり、第1分岐配線4とそれに対応する第2分岐配線5の寄生容量を低減することができる。これにより、第1および第2分岐配線4、5の寄生容量がカットオフ周波数に与える影響を抑制することができ、設計通りの所望のカットオフ周波数に正確に設定することができる。したがって、広帯域で周波数特性の優れた非線形伝送線路1を提供することができる。
【0053】
本実施形態では、すべての第1分岐配線4および第2分岐配線5が、基板2の表面2aから浮いたエアーブリッジ構造4aおよび5aを有しているが、この構成に限定されない。すべての第1分岐配線4および第2分岐配線5のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線4および第2分岐配線5が、基板2の表面2aから浮いたエアーブリッジ構造4aおよび5aを有するようにしてもよい。
【0054】
<変形例1>
図5は、本発明の変形例に係る非線形伝送線路1Aについて、
図4と同様の位置で見た断面模式図である。
図5に示すように、第1分岐配線4Aは、少なくとも一部が基板2の表面2aから浮いたエアーブリッジ構造(単にエアーブリッジともいう)4Aaを有しており、エアーブリッジ構造4Aaは、基板2の表面に間隔をあけて立設された2つの立脚導体部4Ab、4Acと、2つの立脚導体部4Ab、4Acの上部に架け渡された、基板2の表面2aに平行なブリッジ導体部4Adとを有して構成され、エアーブリッジ構造4Aaと基板2の表面2aとの間に空気層16が形成されている。立脚導体部4Abの下部は第1の主線路12に接続され、立脚導体部4Acの下部はダイオード3のアノード端子に接続されている。
【0055】
同様に、第2分岐配線5Aは、少なくとも一部が基板2の表面2aから浮いたエアーブリッジ構造5Aaを有しており、エアーブリッジ構造5Aaは、基板2の表面2aに間隔をあけて立設された2つの立脚導体部5Ab、5Acと、2つの立脚導体部5Ab、5Acの上部に架け渡された、基板2の表面2aに平行なブリッジ導体部5Adとを有して構成され、エアーブリッジ構造5Aaと基板2の表面2aとの間に空気層16が形成されている。立脚導体部5Abの下部は第2の主線路14に接続され、立脚導体部5Acの下部はダイオード3のカソード端子に接続されている。
【0056】
この構成により、第1分岐配線4Aとそれに対応する第2分岐配線5Aとの電磁的結合が弱まり、第1分岐配線4Aとそれに対応する第2分岐配線5Aの寄生容量を低減することができる。これにより、第1および第2分岐配線4A、5Aの寄生容量がカットオフ周波数に与える影響を抑制することができ、設計通りの所望のカットオフ周波数に正確に設定することができる。したがって、周波数特性の優れた非線形伝送線路1Aを提供することができる。
【0057】
図5に示すエアーブリッジ構造4Aaおよび5Aaは、
図4(a)に示す湾曲したエアーブリッジ構造4aおよび5aよりも、空気層16を大きく取れる点で好ましい。
【0058】
<変形例2>
非線形伝送線路1の変形例2を説明する。変形例2に係る非線形伝送線路1の平面形状は、
図3に示すものと同じである。上述した第1の実施形態では、すべての領域S1、S2、S3、S4において、第1分岐配線4と第2分岐配線5が、エアーブリッジ形状を有していたが、変形例2に係る非線形伝送線路1では、すべての第1分岐配線4および第2分岐配線5のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線4および第2分岐配線5は、基板2の表面2aから浮いたエアーブリッジ構造4aを有し、残りの第1分岐配線4および第2分岐配線5は、全体が基板2の表面2aに接して形成されている。
【0059】
具体的には、例えば、入力側から領域S1、S2、S3における第1分岐配線4と第2分岐配線5は、エアーブリッジ構造を有し、領域S4における第1分岐配線4と第2分岐配線5は、エアーブリッジ構造を有しておらず、全体が基板2の表面2aに接して形成されている。
【0060】
上述のように、非線形伝送線路1のカットオフ周波数FCnはダイオード3nの容量成分Cnと主線路導体TLnのインダクタンス成分Lnにより、上記(1)式で近似できる。通常、CnとLnは入力側から出力側に向かって徐々にあるいは段階的に小さくなるように設計される。すなわち、入力側のLnは大きい値となるため、主線路間の電磁的相互作用を弱めるべく主線路間のギャップGを広げることが望ましい。そのため、第1および第2分岐線路4、5は長くなるので、入力側ほどエアーブリッジにする効果が高くなる。
【0061】
一方で、出力側のLnは小さい値となるため、主線路間のギャップGを狭めることができ、第1および第2分岐配線4、5を短くできる。そのため、第1および第2分岐配線4、5をエアーブリッジにする効果は、出力側ほど低くなる傾向にある。また、短い配線のエアーブリッジ化自体は可能であるが、そのための製造設備のグレードアップが必要になる場合もあり、その際には費用対効果を考慮する必要もある。
【0062】
そこで、上記構成とすることにより、入力側の所定個数の第1分岐配線4と第2分岐配線5はエアーブリッジにし、残りの出力側の第1分岐配線4と第2分岐配線5は従来配線にするハイブリッド構造とすることにより、電気的特性を満たしつつ製造コストの上昇を抑えることができる。
【0063】
本実施形態では、エアーブリッジにする第1分岐配線4の個数と第2分岐配線5の個数は同一であるが、これに限定されず、エアーブリッジにする第1分岐配線4の個数と第2分岐配線5の個数が異なるようにしてもよい。
【0064】
<性能>
次に、本実施形態に係る非線形伝送線路1の性能を調べるために行ったシミュレーション結果を説明する。
【0065】
図6(a)は、本実施形態に係る非線形伝送線路1への入力パルス信号を示し、
図6(b)は、非線形伝送線路1からの出力パルス信号を示す図である。入力パルス信号は、20%から80%までの立ち下がり時間Tf(20%/80%)=30ps、信号電圧Vout=8Vppの三角形状のパルス波である。出力パルス信号は、立ち下がり時間Tf(20%/80%)=10ps(圧縮比率:0.33)、信号電圧Vout=6Vppであった。立ち下がり時間の圧縮比率は0.33となっており、パルス前方部の立ち下がりが急峻になっている。よって、立ち下がりが急峻なパルス幅の圧縮された出力パルス信号が得られることが分かった。
【0066】
図7(a)は、本実施形態に係る非線形伝送線路1への入力パルス信号のスペクトラムを示し、
図7(b)は、非線形伝送線路1からの出力パルス信号のスペクトラムを示す図である。非線形伝送線路1によるパルス圧縮により、出力パルス信号は、入力パルス信号に比べて、DCから200GHzまでの広帯域にて信号の減衰が少なく、比較的均一な周波数特性が得られることが分かった。
【0067】
図8は、本実施形態に係る非線形伝送線路1の透過特性を示す図である。
図8において、実線が本実施形態に係る非線形伝送線路1の透過特性を示し、点線はエアーブリッジのない従来の非線形伝送線路の透過特性を示す。本実施形態に係る非線形伝送線路1は、従来のものに比べて、DCから60GHZまでの広帯域において、透過特性が向上していることが分かった。
【0068】
[電気短パルス発生装置]
図9は、本実施形態に係る電気短パルス発生装置100の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、電気短パルス発生装置100は、パルス信号を生成するパルス生成部110と、生成されたパルス信号のパルス幅を圧縮して短パルス信号を発生させる非線形伝送線路1とを備えている。パルス生成部110は、SRDを用いてパルス信号を生成する従来の構成であってもよい。
【0069】
非線形伝送線路1の出力側に全反射回路を接続し、非線形伝送線路1の入力側に方向性結合器(またはサーキュレータ)を設け、非線形伝送線路1から出力された短パルス信号を全反射回路で全反射させて方向性結合器から取り出すようにしてもよい。
【0070】
[サンプリングオシロスコープ]
図10は、本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ200の構成を示すブロック図である。
図10に示すように、サンプリングオシロスコープ200は、周期的に繰り返す被測定信号の波形を観測するために、電気短パルス発生装置100と、サンプラ210と、信号処理部212と、表示部214とを備えている。本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ200では、電気短パルス発生装置100により生成された短パルス信号がサンプラ210におけるサンプリングに用いられている。
【0071】
サンプラ210は、電気短パルス発生装置100の非線形伝送線路1から出力された短パルス信号をトリガ信号として、被測定信号S1をサンプリングするようになっている。サンプル点をずらしながら複数回のサンプリング(等価時間サンプリング)を行うことによって、波形全体の情報を取得する。
【0072】
信号処理部212は、サンプラ210の出力信号S2に対して、A/D変換や波形表示に必要な各種の信号処理を行うようになっている。信号処理部212の出力信号S3は、表示部214に送られ、被測定信号の波形が表示される。
【0073】
サンプリングオシロスコープ200は、他にも、波形データ等を記憶する記憶部、各種設定や指示操作等を行うための操作部等を備えている。
【0074】
上述のように、電気短パルス発生装置100は、本実施形態に従い広帯域で良好な周波数特性、特に優れた透過特性を有する非線形伝送線路1を用いており、パルス幅の短い短パルス信号を発生することができる。本実施形態に係るサンプリングオシロスコープ200は、電気短パルス発生装置100により生成されたパルス幅の短い短パルス信号がサンプラ210によるサンプリングのトリガ信号として用いられるので、DCから高周波数(例えば80GHz)までの広帯域の信号を精度良く測定することが可能となる。
上述のように、電気短パルス発生装置100に用いられる本実施形態の非線形伝送線路1は、DCから高周波数までの広帯域で良好な周波数特性、特に優れた透過特性を有している。本実施形態のサンプリングオシロスコープ200は、このような特性を有する非線形伝送線路1を用いて生成された電気短パルス信号が、サンプラ210によるサンプリングのトリガ信号として用いられるので、DCを含め広帯域(例えばDC~80GHz)の信号を精度よく測定することが可能となる。
【0075】
(作用・効果)
上述のように、本実施形態に係る非線形伝送線路1は、すべての第1分岐配線4および第2分岐配線5のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線4および第2分岐配線5が、基板2の表面2aから浮いたエアーブリッジ構造4a、5aを有するようになっている。この構成により、第1分岐配線4とそれに対応する第2分岐配線5との電磁的結合が弱まり、第1分岐配線4とそれに対応する第2分岐配線5の寄生容量を低減することができる。これにより、第1および第2分岐配線4、5の寄生容量がカットオフ周波数に与える影響を抑制することができ、設計通りの所望のカットオフ周波数を正確に設定することができる。したがって、広帯域で通過特性等の周波数特性が優れた非線形伝送線路1を提供することができる。
【0076】
また、本実施形態に係る非線形伝送線路1において、ダイオード3の相互の間隔Dは、入力側から順に1または複数個のダイオード3ごとに段階的に小さくなるように構成されている。この構成により、ローパスフィルタ10nを構成する主線路導体TLnの部分の長さが段階的に短くなり、その部分のインダクタンス成分Lnを段階的に小さくすることができる。
【0077】
また、本実施形態に係る非線形伝送線路1において、第1の主線路12と第2の主線路14とのギャップGは、入力側から順に1または複数個のダイオード3ごとに段階的に狭くなるように構成されている。この構成により、第1分岐配線4および第2分岐配線5の長さを段階的に短くすることができ、第1分岐配線4および第2分岐配線5の寄生容量も段階的に小さくしていくことができる。
【0078】
また、本実施形態の非線形伝送線路1において、第1の主線路12と第2の主線路14は、第1の主線路12と第2の主線路14とのギャップGが入力側から出力側に向けて漸次狭くなるように、非平行に配置された構成であってもよい。この構成により、寄生容量を生じる第1分岐配線4および第2分岐配線5の長さを漸次短くすることができ、第1分岐配線4および第2分岐配線5の寄生容量も段階的に小さくしていくことができる。
【0079】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る非線形伝送線路1Bについて、図面を参照して説明する。
【0080】
第2の実施形態に係る非線形伝送線路1Bは、第1の主線路12および第2の主線路14のうち一方が接地され、主線路がシングル型の構成となっている点で、差動型の構成の第1の実施形態とは異なっている。その他の構成は第1の実施形態と同一であり、同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は適宜省略する。
【0081】
図11は、第2の実施形態に係る非線形伝送線路1Bの概略構成を示す模式図である。
図11に示すように、本実施形態に係る非線形伝送線路1Bは、第1の実施形態の第1の主線路12が接地され、主線路がシングル型の構成となっている。この構成により、非線形伝送線路1Bは、シングルエンドの入力パルス信号に対してもパルス幅の圧縮を行うことができる。
【0082】
具体的には、ダイオード31,32,...,3Nのカソード端子がそれぞれ第2分岐配線51,52,...,5Nを介して第2の主線路14に接続され、アノード端子がそれぞれ第1分岐配線41,42,...,4Nを介してグランド(GND)に接続されている。第2の主線路14は、入力側から順に、主線路導体81,82,...,8Nと、主線路導体91,92,...,9Nとを交互に有している。主線路導体8nと主線路導体9nとを合わせて、主線路導体TLnと表記する(1≦n≦N)。
【0083】
ダイオード3nは、容量成分Cnとして働き、主線路導体TLnはインダクタンス成分Lnとして働く。よって、ダイオード3nと主線路導体TLnとが、n番目のLCフィルタ(ローパスフィルタ10n)を構成しており、ローパスフィルタ10nのカットオフ周波数FCnは上記(1)式により近似できる。
【0084】
詳細には、非線形伝送線路1Bは、主線路導体TLnのインダクタンス成分Lnとダイオード3nの容量成分Cnによるローパスフィルタ10nのカットオフ周波数FCnが等比数列になるように構成されている。すなわち、CnとLnのいずれか一方あるいは両方が入力側から出力側に向かって徐々に小さくなるように構成される。
【0085】
すべての第1分岐配線4および第2分岐配線5のうち、少なくとも入力側から所定数個までの範囲の第1分岐配線4および第2分岐配線5が、基板2の表面2aから浮いたエアーブリッジ構造4a、5aを有するようになっている。
【0086】
この構成により、第1分岐配線4とそれに対応する第2分岐配線5との電磁的結合が弱まり、第1分岐配線4とそれに対応する第2分岐配線5の寄生容量を低減することができる。これにより、第1および第2分岐配線4、5の寄生容量がカットオフ周波数に与える影響を抑制することができ、設計通りの所望のカットオフ周波数を正確に設定することができる。したがって、広帯域で通過特性等の周波数特性が優れたシングル型の非線形伝送線路1Bを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上述べたように、本発明は、DCを含めた広帯域で優れた周波数特性を有するという効果を有し、非線形伝送線路およびそれを用いたサンプリングオシロスコープの全般に有用である。
【符号の説明】
【0088】
1、1A、1B 非線形伝送線路(NLTL)
2 基板
2a 表面(一面)
31~3N ダイオード
41~4N 第1分岐配線
51~5N 第2分岐配線
61~6N、71~7N、81~8N、91~9N 主線路導体
101~10N ローパスフィルタ
12、14 主線路
16 空気層
21、22 入力端子
31、32 出力端子
100 電気短パルス発生装置
110 パルス生成部
200 サンプリングオシロスコープ
210 サンプラ
212 信号処理部
214 表示部