(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134204
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法およびリチウムイオン電池用負極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230920BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039594
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 忍
(72)【発明者】
【氏名】寿福 誠
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA03
5H050CA04
5H050CA05
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB19
5H050EA10
5H050EA27
5H050FA18
5H050GA05
5H050GA06
5H050HA05
5H050HA13
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】メカニカルミリング時における固着を軽減し、短時間で効率よく所望の活物質を製造することができるリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法は、純SiまたはSi合金から成る原料組成物を乾式で粉砕しSi含有粉砕物を製造する第1工程S002と、第1工程で得られたSi含有粉砕物をアルコールまたはエーテルから選択される少なくとも1種と共に湿式で粉砕する第2工程S003と、第2工程の後に乾燥させたSi含有粉砕物を乾式でメカニカルミリングする第3工程S101と、第3工程で得られたSi含有粉砕物をアルコール、エーテルおよびシリコーン系オイルから選択される少なくとも1種と共に湿式で粉砕する第4工程S102と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純SiまたはSi合金から成る原料組成物を乾式で粉砕しSi含有粉砕物を製造する第1工程と、
前記第1工程で得られた前記Si含有粉砕物を、アルキル基を含むアルコール、または、アルキル基を含むエーテルから選択される少なくとも1種と共に湿式で粉砕する第2工程と、
前記第2工程の後に乾燥させた前記Si含有粉砕物を乾式でメカニカルミリングする第3工程と、
前記第3工程で得られた前記Si含有粉砕物を、アルキル基を含むアルコール、アルキル基を含むエーテル、およびシリコーン系オイルから選択される少なくとも1種と共に湿式で粉砕する第4工程と、
を備えた、リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程における処理時間を5~50時間とした、請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記第4工程の処理時間を5時間以下とした、請求項2,3の何れかに記載のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
純SiまたはSi合金から成り、表面にオルトケイ酸テトラアルキル皮膜またはSiOX皮膜が形成された一次粒子、および前記一次粒子が集合した造粒体からなるリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項5】
X線回折結果におけるSi(111)面の回折ピークの半値幅が0.2°以上である、請求項4に記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項6】
X線回折結果におけるSi(111)面の回折ピークの半値幅が0.7°以上である、請求項4に記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項7】
平均粒子径(d50)が1.0~20μmの範囲内である、請求項4~6の何れかに記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法およびリチウムイオン電池用負極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は高容量、高電圧で小型化が可能である利点を有し、携帯電話やノートパソコン等の電源として広く用いられている。また近年、電気自動車やハイブリッド自動車等のパワー用途の電源として大きな期待を集め、その開発が活発に進められている。
【0003】
このリチウムイオン電池では、正極と負極との間でリチウムイオン(以下Liイオンとする)が移動して充電と放電とが行われ、負極側では充電時に負極活物質中にLiが吸蔵され、放電時には負極活物質からイオンとしてLiが放出される。
従来、一般には正極側の活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)が用いられ、また負極活物質として黒鉛が広く使用されていた。しかしながら、負極活物質の黒鉛は、その理論容量が372mAh/gに過ぎず、より一層の高容量化が望まれていた。
【0004】
炭素系電極材料の代替としては、高容量化が期待できるSi等の金属材料(Siの理論容量は4198mAh/gである)が検討されている(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-126835号公報
【特許文献2】特開2015-522679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでSiはLiとの合金化反応によりLiの吸蔵を行うため、Liの吸蔵・放出に伴って大きな体積膨張・収縮を生じる。このためSiの粒子が割れたり集電体から剥離したりし、充放電を繰り返したときの容量維持特性であるサイクル特性が悪化する問題がある。これを解決するための一つの手段は、負極活物質としてのSi含有粒子を微細化することである。しかしながら、ボールミル等の粉砕装置を用いて微粉化されたSi含有粉砕物は、ボールミル容器の壁面あるいは容器内のボールに強固に固着し、以降の粉砕が進み難く微細化に長時間を要してしまうとともに、固着により負極活物質の回収率が著しく悪化してしまう。
【0007】
更に、リチウムイオン電池における電池特性を高める観点からすれば、負極活物質としてのSi含有粉砕物は単に微細化するだけでは不十分であり、メカニカルミリング等により負極活物質におけるSi結晶面に由来する回折ピークの半値幅を拡大させることが望まれていた(例えば上記特許文献2参照)。
【0008】
本発明は以上のような事情を背景とし、メカニカルミリング時における固着を軽減し、短時間で効率よく所望の活物質を製造することができるリチウムイオン電池用負極活物質およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、前処理において湿式粉砕を行いSi含有粉砕物の表面に被膜(具体的にはオルトケイ酸テトラアルキル皮膜またはSiOX皮膜)を形成させておくことで、その後の本粉砕時におけるSi含有粉砕物の固着が軽減され、効率よく乾式粉砕を行うことができるとの知見を得た。
【0010】
而してこの発明の第1の局面のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法は、次のように規定される。即ち、
純SiまたはSi合金から成る原料組成物を乾式で粉砕しSi含有粉砕物を製造する第1工程と、
前記第1工程で得られた前記Si含有粉砕物を、アルキル基を含むアルコール、または、アルキル基を含むエーテルから選択される少なくとも1種と共に湿式で粉砕する第2工程と、
前記第2工程の後に乾燥させた前記Si含有粉砕物を乾式でメカニカルミリングする第3工程と、
前記第3工程で得られた前記Si含有粉砕物を、アルキル基を含むアルコール、アルキル基を含むエーテル、および、シリコーン系オイルから選択される少なくとも1種と共に湿式で粉砕する第4工程と、
を備えている。
【0011】
このように規定された第1の局面のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法では、第2工程においてアルコールまたはエーテルが添加され、その後に乾燥させたSi含有粉砕物の表面に、オルトケイ酸テトラアルキル皮膜またはSiOX皮膜が形成される。かかる被膜が形成された後のSi含有粉砕物については、乾式粉砕(第3工程における乾式でのメカニカルミリング処理)を継続しても強固な固着が生じることはない。このため第3工程では、適度な固着と剥離を繰り返すことで、Si含有粉砕物における半値幅(Si結晶面に由来する回折ピークの半値幅)を拡大させることができる。そして半値幅を拡大させたSi含有粉砕物は、次の第4工程において、アルコール、エーテルおよびシリコーン系オイルから選択される少なくとも1種と共に湿式で粉砕することで、そのほとんどが容器の壁面およびボールから剥離可能となる。
このように、第1の局面の負極活物質の製造方法によれば、メカニカルミリング時における固着が軽減されて、短時間で効率よく所望の負極活物質を製造することが可能である。
【0012】
ここで前記第3工程における処理時間を5~50時間とすることができる(第2の局面)。前記第3工程における処理時間を5~50時間とすることで、Si(111)面の回折ピークの半値幅を0.2°以上に拡大することができる。また同時にSi含有粉砕物の造粒が促進され、造粒体を含む負極活物質の平均粒子径を1.0μm以上に大きくすることができ、不燃性に優れた負極活物質を安定的に得ることができる。好ましくは、第3工程における処理時間を10~50時間とすることができる。
【0013】
また、前記第4工程は活物質の回収率向上に寄与する工程であるが、過度に長い時間処理を継続すると、溶媒中にオルトケイ酸テトラアルキル成分またはSiOx成分が多く生成し過ぎて粘稠な液体となり、洗浄回数が増大するため、負極活物質の回収率が低下してしまう。このため前記第4工程の処理時間は5時間以下とすることが好ましい(第3の局面)。
【0014】
この発明の第4の局面のリチウムイオン電池用負極活物質は、次のように規定される。即ち、
純SiまたはSi合金から成り、表面にオルトケイ酸テトラアルキル皮膜またはSiOX皮膜が形成された一次粒子、および前記一次粒子が集合した造粒体からなる。
このように規定された第4の局面のリチウムイオン電池用負極活物質では、オルトケイ酸テトラアルキル皮膜またはSiOX皮膜がメカニカルミリング時の固着を軽減する効果を奏するため、短時間で効率よく製造することができる。
【0015】
ここで、X線回折結果におけるSi(111)面の回折ピークの半値幅を0.2°以上とすることで、リチウムイオン電池における電池特性を向上させることができる(第5の局面)。より好ましい半値幅は0.7°以上である(第6の局面)。
【0016】
また、平均粒子径(d50)を1.0~20μmの範囲内とすることで、第2類の危険物に該当しない不燃性に優れた負極活物質とすることができる(第7の局面)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の負極活物質を構成する造粒体を模式的に示した図である。
【
図2】同実施形態の負極活物質における製造方法のフローチャートである。
【
図3】乾式粉砕工程S101における粉砕処理時間とSi(111)面の半値幅との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の負極活物質、および、本負極活物質を負極に用いたリチウムイオン電池(以下、単に電池とする場合がある)について具体的に説明する。
【0019】
1.本負極活物質
本負極活物質は、純SiまたはSi合金から成る原料組成物をメカニカルミリング処理したものである。ここでSi合金から成る原料組成物は、Si、Sn、CuおよびX元素を主構成元素とするもので、元素XはFe,Zr,Ni,Co,Mn,Ti,V,Crよりなる群の中から選択された1種以上の元素である。
【0020】
本負極活物質は、その金属組織として、Liを吸蔵するSi相のほか、Si-X化合物相およびSn-Cu化合物相を含んでいる。
【0021】
Si-X化合物相は、Li吸蔵性に乏しくLiイオンとの反応による膨張は非常に小さい。このためSiX化合物相は、電極の構造を維持する骨格の役割を果たすことができる。Si-X化合物相は、1種の化合物のみで構成する場合のほか、2種以上の化合物で構成することも可能である。
他方、Sn-Cu化合物相を構成するSn-Cu化合物は、理論容量がSiよりも低く、Si-X化合物よりも高い。このSn-Cu化合物相は導電性に優れており、電子伝導ネットワークを形成するのに有効である。またサイクル特性を向上させるのに有効である。
Si合金から成る本負極活物質では、所望の初期放電容量およびサイクル特性を考慮して、全体に占めるSi相量を10~95質量%の範囲で適宜設定することができる。
【0022】
かかる本負極活物質は、メカニカルミリングにより、X線回折結果におけるSi(111)面の回折ピークの半値幅(FWHM)の拡大が図られている。活物質を単に微粉化しただけでは初期クーロン効率を高められないが、本負極活物質によれば半値幅を拡大させることで初期クーロン効率の向上が図られている。当該半値幅の好ましい範囲としては、0.2°以上、より好ましくは0.7°以上を例示することができる。
【0023】
図1は、本負極活物質を構成する造粒体を模式的に示した図である。同図において、1は負極活物質、2は前記原料組成物が微粉化された一次粒子、3は一次粒子2が集合した造粒体である。即ち、本負極活物質1は、一次粒子2のほか、一次粒子2が集合した造粒体3を含んで構成される。
【0024】
ここで一次粒子2は、Liの吸蔵・放出に伴なう大きな体積膨張・収縮を抑制する観点から微細化するのが望ましく、本例における一次粒子2の平均粒子径は1μm未満とされている。ここで、一次粒子2の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察される粒子の輪郭線から得られる最大長さで規定される。そして一次粒子2の平均粒子径は、数~数十視野中から観察された粒子径の平均である。
【0025】
一方、Siを含有する粒子を微粉化する際には不燃性についても考慮する必要がある。本発明者らの調査によれば、主に微粉化された一次粒子2で構成され(即ち、造粒化が図られていない)平均粒子径(メジアン径d50)が1.0μm未満の負極活物質1において、着火の虞が生じやすい。このため本実施形態では、負極活物質1を主に造粒体3で構成し、平均粒子径(メジアン径d50)を1.0μm以上としている。但し、平均粒子径が20μmを超えると電極剥離が発生して十分な電池特性が得られなくなることから、本負極活物質1の平均粒子径(メジアン径d50)は1.0~20μmの範囲内としている。より好ましい範囲は、1.0~10μmである。なお、平均粒子径(メジアン径d50)は、体積基準を意味し、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0026】
そして本例の負極活物質1では、下記の製造方法に基づき、一次粒子2の表面にオルトケイ酸テトラアルキル皮膜またはSiOX皮膜が形成されていることが特徴のひとつとされている。
【0027】
<本負極活物質の製造方法>
図2は本負極活物質1の製造方法のフローチャートである。
同図で示すように、本例の製造方法は、前処理と本粉砕とに大別することができる。
前処理は、
図2(A)で示すように、準備工程001、乾式粉砕工程S002、湿式粉砕工程S003、乾燥工程S004および解砕工程S005を備えている。この前処理では、原料粉を粉砕し、その表面に固着軽減のための被膜を形成する。
【0028】
先ず、準備工程S001では、本負極活物質の原料粉となるSi合金粒子を準備する。
詳しくは、所定の化学組成となるように各原料を量り取り、量り取った各原料を、アーク炉、高周波誘導炉、加熱炉などの溶解手段を用いて溶解させるなどして得た合金溶湯を、アトマイズ法を用いて急冷してSi合金粒子を得る。
【0029】
アトマイズ法では、噴霧チャンバ内に出湯されて連続的(棒状)に下方に流れ落ちる合金溶湯に対し、N2、Ar、He等によるガスを高圧(例えば、1~10MPa)で噴き付け、溶湯を粉砕しつつ冷却する。冷却された溶湯は、半溶融のまま噴霧チャンバ内を自由落下しながら球形に近づき、Si合金粒子が得られる。かかるSi合金粒子の組織内にはSi相、Si-X化合物相およびSn-Cu化合物相が形成されている。このようにして得られるSi合金粒子の平均粒子径(d50)は、20~100μmの範囲とすることが望ましい。
なおアトマイズ法においては、冷却効果を向上させる観点からガスに代えて高圧水を噴き付けても良い。また場合によってはアトマイズ法に代えてロール急冷法を用いて箔片化されたSi合金を用いることも可能である。
【0030】
乾式粉砕工程S002は、準備した原料粉を乾式で微粉化してSi含有粉砕物を製造する工程で、本発明における第1工程に相当する。
本例では、この第1工程を含む各粉砕工程において、遊星ボールミルを用いて処理を行なう。遊星ボールミルは、容器が自転回転しながら、容器を載せた台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率よく発生させることができる。なお
図2には、各粉砕工程における処理条件(回転数および処理時間)の一例が示してある。
例えば、乾式粉砕工程S002では、遊星ボールミルを用い、準備した原料粉を回転数300rpm(詳しくは公転回転数が300rpmで、その時の自転回数は約657rpm)で30分粉砕処理し、平均粒子径(d50)が0.5μm程のSi含有粉砕物を得る。この乾式粉砕工程S002(第1工程)における処理時間は、0.1~5時間とすることが好ましい。
なお、粉砕装置については上記の遊星ボールミルに限定されるものではなく、他の粉砕装置を適宜使用することが可能である。他の粉砕装置としては、ピンミル、ビーズミル、アトライター等を例示することができる。
【0031】
湿式粉砕工程S003は、乾式粉砕工程S002で得られたSi含有粉砕物をアルコール等の溶媒と共に湿式(泥状態)で粉砕する工程で、本発明における第2工程に相当する。
湿式粉砕工程S003では、遊星ボールミルを用い、例えば300rpmで15分粉砕処理する。この際に添加される溶媒としては、メチル基またはエチル基などのアルキル基を含むアルコールやエーテルを選択することが可能である。アルコールの一例として、エタノールやメタノールを選択することができる。エーテルの一例として、メチルエーテルやエチルエーテルを選択することができる。エーテルは、シリコーン系オイル、石油エーテル、炭化水素系オイルあるいはナフテン系オイル等と混和しても良い。アルコールとしては、特にエタノールが好ましい。但し、処理時間が長くなると溶媒が粘調となり固着力が高まるため、処理時間は5時間以下とすることが好ましい。より好ましくは1時間以下である。各溶媒の添加量は、粉砕物に対する重量比で1.0倍~2.0倍が好ましい。
【0032】
乾燥工程S004は、湿式粉砕工程S003で処理されたSi含有粉砕物を容器内でボールとともに乾燥させアルコール等の溶媒を除去する工程である。Si含有粉砕物に向けてアルゴンなどの不活性ガスを流すことにより、または真空乾燥により実施することができる。アルコール等が除去された後、Si含有粉砕物の表面にはオルトケイ酸テトラアルキル皮膜(またはオルトケイ酸テトラアルキルが加水分解して得られるSiOX被膜)が形成される。また、容器内の表面やボール表面にもオルトケイ酸テトラアルキル皮膜が形成される。例えば、湿式粉砕工程S003にてエタノールが添加された場合は、Si(OC2H5)4で表されるオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)被膜が形成される。湿式粉砕工程S003にてメタノールが添加された場合は、Si(OCH3)4で表されるオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)被膜が形成される。
【0033】
解砕工程S005では、オルトケイ酸テトラアルキル皮膜が形成されたSi含有粉砕物を回転数100rpmで1分の条件で解砕する。これによりSi含有粉砕物は、ボールまたは容器壁面からほぼ完全に簡単に剥離し、解砕紛として回収される。
【0034】
本粉砕は、
図2(B)で示すように、乾式粉砕工程S101、湿式粉砕工程S102、乾燥工程S103および解砕工程S104を備えている。この本粉砕では、前記前処理で得た解砕紛(Si含有粉砕物)を更に粉砕し、Si結晶面に由来する回折ピークの半値幅を所望の範囲にまで拡大させる。
【0035】
乾式粉砕工程S101は、前記前処理で得た解砕紛を乾式でメカニカルミリング処理し、解砕紛(Si含有粉砕物)におけるSi結晶面に由来する回折ピークの半値幅を拡大させる工程である。メカニカルミリング処理は、機械的エネルギーを付与しながら原料粉を摩砕混合する方法であり、この方法によれば、原料に機械的な衝撃及び摩擦を与えて粒子の粉砕及び/又は造粒を行うことができる。乾式粉砕工程S101は本発明における第3工程に相当する。
表面にオルトケイ酸テトラアルキル皮膜が形成されたSi含有粉砕物は、容器壁面またはボールから剥離し易くなっており、乾式粉砕工程S101では適度な固着と剥離が繰り返されることで、前記半値幅を拡大させることができる。
【0036】
図3は、乾式粉砕工程S101における粉砕処理時間とSi(111)面の半値幅との関係を示している。同図は、遊星ボールミルを用い、前処理においてオルトケイ酸テトラアルキル皮膜が形成されたSi含有粉砕物を乾式でメカニカルミリング処理した場合に得られる半値幅を示している。同図によれば、略10時間の処理により、Si(111)面の半値幅が0.12°から0.7°以上に拡大していることが分かる。
【0037】
なお乾式粉砕工程S101では、粉砕とともに凝集が繰り返され、微粉化された一次粒子が集合した造粒体が形成される。造粒体は処理時間が長くなるとともに増大して、平均粒子径(メジアン径d50)も大きくなる。乾式粉砕工程S101では、所望の半値幅および平均粒子径が得られるように、その処理条件を決定することができる。
【0038】
続く湿式粉砕工程S102、乾燥工程S103および解砕工程S104は、前処理における湿式粉砕工程S003、乾燥工程S004および解砕工程S005と同様の内容である。ここで、乾式粉砕工程S101の後に実施される湿式粉砕工程S102は、本発明における第4工程に相当する。
これら湿式粉砕工程S102、乾燥工程S103および解砕工程S104を経ることで、Si(111)面の半値幅を拡大させたSi含有粉砕物を、ボールまたは容器壁面からほぼ完全に剥離させて負極活物質として回収することができる。
但し、湿式粉砕工程S102において添加される溶媒については、メチル基またはエチル基などのアルキル基を含むアルコールの他に、メチルエーテル,エチルエーテル等を混和したシリコーン系オイル,石油エーテル,炭化水素系オイルあるいはナフテン系オイル等を選択することも可能である。また、溶媒としてシリコーン系オイルを単体で用いても良い。
【0039】
2.電池
次に、本負極活物質を含む負極を用いて構成された電池について説明する。
【0040】
負極は、導電性基材と、導電性基材の表面に積層された導電膜とを有している。導電膜は、バインダ中に少なくとも上述した本負極活物質を含有している。導電膜は、他にも、必要に応じて、導電助材を含有していても良い。導電助材を含有する場合には、電子の導電経路を確保しやすくなる。
【0041】
また、導電膜は、必要に応じて、骨材を含有していても良い。骨材を含有する場合には、充放電時の負極の膨張・収縮を抑制しやすくなり、負極の崩壊を抑制できるため、サイクル特性を一層向上させることができる。
【0042】
上記導電性基材は、集電体として機能する。その材質としては、例えば、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、Fe、Fe基合金などを例示することができる。好ましくは、Cu、Cu合金であると良い。また、具体的な導電性基材の形態としては、箔状、板状等を例示することができる。好ましくは、電池としての体積を小さくできる、形状自由度が向上するなどの観点から、箔状であると良い。
【0043】
上記バインダの材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸などを好適に用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、機械的強度が強く、活物質の体積膨張に対しても良く耐え得、バインダの破壊によって導電膜の集電体からの剥離を良好に防ぐ意味で、ポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0044】
上記導電助材としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、電子伝導性を確保しやすいなどの観点から、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどを好適に用いることができる。
【0045】
上記導電助材の含有量は、導電性向上度、電極容量などの観点から、本負極活物質100質量部に対して、好ましくは、0~30質量部、より好ましくは、4~13質量部の範囲内であると良い。また、上記導電助材の平均粒子径(d50)は、分散性、扱い易さなどの観点から、好ましくは、10nm~1μm、より好ましくは、20~50nmであると良い。
【0046】
上記骨材としては、充放電時に膨張・収縮しない、または、膨張・収縮が非常に小さい材質のものを好適に用いることができる。例えば、黒鉛、アルミナ、カルシア、ジルコニア、活性炭などを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、導電性、Li活性度などの観点から、黒鉛などを好適に用いることができる。
【0047】
上記骨材の含有量は、サイクル特性向上などの観点から、本負極活物質100質量部に対して、好ましくは、10~400質量部、より好ましくは、43~100質量部の範囲内であると良い。また、上記骨材の平均粒子径は、骨材としての機能性、電極膜厚の制御などの観点から、好ましくは、10~50μm、より好ましくは、20~30μmであると良い。なお、上記骨材の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0048】
本負極は、例えば、適当な溶剤に溶解したバインダ中に、本負極活物質、必要に応じて、導電助材、骨材を必要量添加してペースト化し、これを導電性基材の表面に塗工、乾燥させ、必要に応じて、圧密化や熱処理等を施すことにより製造することができる。
【0049】
本負極を用いてリチウムイオン電池を構成する場合、本負極以外の電池の基本構成要素である正極、電解質、セパレータなどについては、特に限定されるものではない。
【0050】
上記正極としては、具体的には、例えば、アルミニウム箔などの集電体表面に、LiCoO2、LiNiO2、LiFePO4、LiMnO2などの正極活物質を含む層を形成したものなどを例示することができる。
【0051】
上記電解質としては、具体的には、例えば、非水溶媒にリチウム塩を溶解した電解液などを例示することができる。その他にも、ポリマー中にリチウム塩が溶解されたもの、ポリマーに上記電解液を含浸させたポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0052】
上記非水溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0053】
上記リチウム塩としては、具体的には、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiAsF6などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0054】
また、その他の電池構成要素としては、セパレータ、缶(電池ケース)、ガスケット等が挙げられるが、これらについても、リチウムイオン電池で通常採用される物であれば、何れの物であっても適宜組み合わせて電池を構成することができる。
【0055】
なお、電池形状は、特に限定されるものではなく、筒型、角型、コイン型など何れの形状であっても良く、その具体的用途に合わせて適宜選択することができる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
【0057】
1.負極活物質の作製
原料粉としての粉末状のSi合金粒子もしくは純Si粒子を、遊星ボールミルを用い、下記に示す条件で、Ar雰囲気下メカニカルミリングし、18種の負極活物質を作製した。
・Si合金粒子の組成:71.4Si-23.6Zr-3Sn-2Cu(質量%)
・容器仕様:φ50容器,φ10~φ15ボール(105g/ポット)
・前処理:原料粉末5g/ポット、乾式300rpm×0.5hr、溶媒5g、湿式300rpm×0.25hr、1晩乾燥、解砕100rpm×1分
・本粉砕:原料粉末5g/ポット、乾式300rpm×3~30hr、溶媒5g、湿式300rpm×0.25~72hr、1晩乾燥、解砕100rpm×1分
・湿式溶媒:エタノール,エーテル含有Siオイルまたはナフテゾール
・各例における具体的な粉砕条件は下記表1で示す通りである
【0058】
【0059】
2. 充放電試験用コイン型電池の作製
作製した負極活物質100質量部と、導電助材としてのケッチェンブラック(ライオン(株)製)6質量部と、結着剤としてのポリイミド(熱可塑性樹脂)バインダ19質量部とを配合し、これを溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合し、各負極活物質を含む各ペーストを作製した。
【0060】
以下の通り、各コイン型半電池を作製した。ここでは、簡易的な評価とするため、負極活物質を用いて作製した電極を試験極とし、Li箔を対極とした。先ず、負極集電体となるSUS316L箔(厚み20μm)表面に、ドクターブレード法を用いて、50μmになるように各ペーストを塗布し、乾燥させ、各負極活物質層を形成した。形成後、ロールプレスにより負極活物質層を圧密化した。これにより、実施例および比較例に係る試験極を作製した。
【0061】
次いで、実施例および比較例に係る試験極を、直径11mmの円板状に打ち抜き、各試験極とした。
【0062】
次いで、Li箔(厚み500μm)を上記試験極と略同形に打ち抜き、各対極を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等量混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0063】
次いで、各試験極を各正極缶に収容するとともに(各試験極はリチウムイオン電池では負極となるべきものであるが、対極をLi箔としたときにはLi箔が負極となり、試験極が正極となる)、対極を各負極缶に収容し、各試験極と各対極との間に、ポリオレフィン系微多孔膜のセパレータを配置した。
【0064】
次いで、各缶内に上記非水電解液を注入し、各負極缶と各正極缶とをそれぞれ加締め固定した。
【0065】
3.負極活物質の評価
3-1.回収率
投入した原料紛から得られた負極活物質の重量比率を回収率(%)とした。目標は95%以上である。その結果を下記表2に示している。
【0066】
3-2.Si(111)面の半値幅
作製された負極活物質について、XRD(X線回折)による分析を行ない、得られたXRDスペクトルから、下記に示す方法を用いて、Si(111)面の半値幅(FWHM)を算出した。
(X線回折(XRD)の測定条件)
・装置名:リガク社製X線回折装置Smartlab
・管球:Co
・管電圧・電流:40kV・135mA
・2θ範囲:20~120°
・X線波長:CoKα1
(測定方法)
(1)まずXRDの生データに対して平滑化処理を行い、回折パターンのノイズを低減する。
(2)回折パターンのバックグラウンドを滑らかな曲線になるよう決定する。
(3)回折パターン上の全ピークを擬フォークト関数でフィッティングする。
(4)この時、X線波長はCoKα1を用い、Si(111)面の2θ≒33°付近のピークフィッティングの結果から、CoKα1ピークの半値幅(FWHM)を求めた。目標は0.2°以上であり、より好ましくは0.7°以上である。その結果を下記表2に示している。
【0067】
3-3.負極活物質の平均粒子径(d50)
作製された負極活物質についての平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した。目標は1.0~20μmであり、好ましくは1~10μmである。その結果を下記表2に示している。
【0068】
3-4.小ガス炎着火試験
作製された負極活物質について、危険物第2類(可燃性固体)の判定試験である小ガス炎着火試験を下記に示す手順で行った。
(1)厚さ10mm以上の無機質断熱板の上に、粉体試料(3cm3程度)を半球状に置く。
(2)先端が長い携帯用簡易着火器具を用い、液化石油ガスの火炎を長さ約70mmに調節して、試料に10秒間接触(火炎と試料の接触面積は1~2cm2,接触角度約30度)させた後、試料から炎を遠ざける。
(3)上記(1)および(2)の操作を10回以上繰り返し、接炎から試料に着火するまでの時間と、燃焼が継続するかを確認する。
判定は、着火時間3秒以下の場合(第1種可燃性固体に該当する場合)及び着火時間3秒を超えて10秒以下の場合(第2種可燃性固体に該当する場合)を「×」、着火時間10秒を超える場合又は燃焼が継続しない場合(第2類の危険物に該当しない場合)を「〇」とした。その結果を下記表2に示している。
【0069】
【0070】
3-5.充放電試験
作製した各コイン型電池を用い、電流値0.2mAの定電流充放電を1サイクル分実施した。このLi放出時に使用した容量(mAh)を活物質量(g)で割った値から初期放電容量C0(mAh/g)を算出した。また上記充放電サイクルにおける充電容量に対する放電容量の比率を、放電容量/充電容量の百分率で求めて初期クーロン効率(%)を求めた。その結果を上記表2に示している。
【0071】
以上のようにして得られた表1、表2の結果から次のことが分かる。
実験No.1~2は、表1で示した4つの粉砕工程のうち本粉砕の湿式粉砕のみを実施した比較例で、1~3時間の湿式粉砕で活物質を容器内から綺麗に取り出すことができており、回収率は比較的高い。しかしながら半値幅は拡大していない。
実験No.3は、湿式粉砕を長時間(72hr)実施した例である。溶媒が変質して粘調な液体(オルトケイ酸テトラエチルが多量に生成)になり、液体除去に必要な洗浄回数増大に伴い実験No.1~2と比較して回収率が激減している。
【0072】
実験No.4は、4つの粉砕工程のうち本粉砕の乾式粉砕のみを実施した比較例で、3時間の粉砕で固着大となり回収率が著しく悪化している。
【0073】
実験No.5は本粉砕のみを、実験No.6は前処理のみを実施した比較例である。これらの例では、粉砕終了時に固着は無く回収率は高いが、半値幅は拡大していない。また平均粒子径が1μm未満で、着火試験の結果が「×」である。即ち、得られた活物質が第2類の危険物に該当し目標の不燃性が確保できていない。
【0074】
以上のように比較例としての実験No.1~5は、回収率、半値幅、平均粒子径および着火試験のうち、何れかの評価が目標未達である。
【0075】
これに対し、実験No.7~18は前処理に続いて本粉砕を実施した実施例で、何れも粉砕時に過度な固着は無く回収率は目標とする95%以上である。半値幅についても拡大が認められ、比較例と比較しても初期容量および初期クーロン効率が優れている。また何れも平均粒子径は1μm以上で、着火試験の結果は「〇」である。即ち、得られた活物質は第2類の危険物に該当しない。このように実験No.7~18の実施例においては、回収率、半値幅、平均粒子径および着火試験、何れの評価も目標を満足している。即ち、これらの実施例ではメカニカルミリング時の固着が軽減されており、短時間で効率よく所望の活物質を製造することができていることが分かる。
【0076】
ここで、本粉砕における乾式粉砕の時間を変化させた実験No.7~13についてみると、乾式粉砕の時間が12時間の場合に半値幅が0.7°以上となっている。これらの例では、結晶格子が広がるためLiイオンが移動しやすくなることから、特に高い初期容量および初期クーロン効率が得られていることが分かる。
また回転数を変化させた実験No.14~18についてみると、乾式粉砕を30時間実施することで半値幅0.7°以上が得られている。また回転数が遅くなるに従い平均粒子径が増大している。平均粒子径が20μmを超えると、この組成物をペースト化して塗工する時、塗工不良が発生しやすくなるとともに電池特性の低下もみられるため、回転数の下限値を200rpm以上とする必要があることが分かる。
【0077】
以上、本発明のリチウムイオン電池用の負極活物質およびリチウムイオン電池について詳しく説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。例えば、各粉砕工程における具体的な粉砕条件は必要に応じて適宜変更可能である。また本発明の負極活物質は、上記実施形態のような液系リチウムイオン電池用の負極活物質ほか、全固体リチウムイオン電池用の負極活物質にも適用可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。