(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134219
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法、配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置およびコンピュータシステム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230920BHJP
H02H 7/26 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02H7/26 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039615
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000164391
【氏名又は名称】九電テクノシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】大谷 晃平
(72)【発明者】
【氏名】藤本 享平
(72)【発明者】
【氏名】澤口 昌弘
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AA09
5G066HA13
(57)【要約】
【課題】シミュレーションにより仮想的なサージ波形を再現することにより、サージ波形の到達時刻や到達時刻差や伝播速度を正しく求めることを可能とする。
【解決手段】配電変圧器のインピーダンスと三相電源と接地変圧器の対地間インピーダンスと三相3線式の配電線路の線路定数と配電線路の配電設備および高圧需要家設備の対地静電容量とを含む変電所バンク単位の配電線モデルを生成するステップ(S104)と、三相3線の各線と、各線間と、各線と対地間のうちの1つまたは複数にスイッチとを含む故障モデルを生成するステップ(S105)と、配電線モデルの故障相の電源の故障タイミングで故障モデルのスイッチを動作させるステップ(S109)を有し、故障モデルのスイッチが動作されたときの1または複数のサージ波形観測点におけるサージ電圧またはサージ電流の波形を計測して仮想サージ波形データを得、その到達時刻や到達時刻差や伝播速度を求める。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電線路の故障点から発生するサージ電圧またはサージ電流を用いて前記故障点を特定する故障点標定方法における、配電線路のサージ電圧またはサージ電流のサージ波形の伝播を、配電線モデルを構築してシミュレーションし、仮想サージ波形データを得ることで、任意の箇所の配電線路のサージ波形の到達時刻を求めることを特徴とする配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法。
【請求項2】
前記任意の箇所を複数とし、それらの箇所のサージ波形の到達時刻の差を求めることを特徴とする請求項1に記載の配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法。
【請求項3】
前記複数の箇所のサージ波形の到達時刻の差とそれらの箇所の間の距離とからサージ伝播速度を求めることを特徴とする請求項2に記載の配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法。
【請求項4】
三相電源と配電変圧器のインピーダンスと接地変圧器の対地間インピーダンスと三相3線式の配電線路の線路定数と配電線路に設置される配電設備や高圧需要家設備の対地静電容量のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてを含む配電線モデルを生成するステップと、
三相3線の各線と、各線間と、各線と対地間のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてにスイッチを含む故障モデルを生成するステップと、
前記配電線モデルの故障時刻タイミングまたは電源電圧の位相タイミングにより前記故障モデルのスイッチを動作させるステップを有し、
前記故障モデルのスイッチが動作されたときの任意の箇所の波形観測点におけるサージ電圧またはサージ電流の波形を計測して仮想サージ波形データを得ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法。
【請求項5】
前記配電線モデルの配電設備は、配電線(架空電線・電力ケーブル)と碍子と避雷器とアークホーンと柱上変圧器と柱上開閉器と電圧調整器と架空地線のうちの1つ以上含むことを特徴とする請求項4に記載の配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法。
【請求項6】
前記配電線モデルは、配電線路と同じ線路亘長と配電設備の配置で1電柱間単位を基準とし、前記配電線モデルは1電柱間単位で構成され、あるいは1電柱間単位を基準として複数の電柱間単位が1つの設備に統合されて構成されることを特徴とする請求項4または5に記載の配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法。
【請求項7】
前記故障モデルは、発生した故障の故障相と故障タイミングと故障抵抗とを用いることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1つに記載の配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法。
【請求項8】
配電線路の故障点から発生するサージ電圧またはサージ電流のサージ波形の伝播をシミュレーションする配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置において、
三相電源と配電変圧器のインピーダンスと接地変圧器の対地間インピーダンスと三相3線式の配電線路の線路定数と配電線路に設置される配電設備や高圧需要家設備の対地静電容量のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてを含む配電線モデルと、
三相3線の各線と、各線間と、各線と対地間のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてにスイッチを含む故障モデルと、
配電線モデルの故障時刻タイミングまたは電源電圧の位相タイミングにより前記故障モデルのスイッチを動作させる手段を備え、
前記故障モデルのスイッチが動作されたときの任意の箇所の波形観測点におけるサージ電圧またはサージ電流の波形を計測して仮想サージ波形データを得ることを特徴とする配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置。
【請求項9】
情報を記憶する記憶手段と、情報を処理する処理手段と、前記処理手段で処理されたデータをファイルとして出力する出力手段と、外部プログラムから命令を受ける入力手段とを備え、配電線路の故障点から発生するサージ電圧またはサージ電流のサージ波形の伝播をシミュレーションする配電線路サージ波形伝播シミュレーション用コンピュータシステムであって、
前記記憶手段は、変電所バンク単位の実配電系統の配電線接続情報と単位長あたりの配電線路の線路定数と配電設備毎の対地間静電容量の定数情報を記憶し、
前記入力手段は、外部からシミュレーション条件情報として前記変電所バンク単位内でサージ波形を伝播させる特定配電線、故障相、故障電柱、故障タイミング、波形観測電柱(波形観測点)、時系列分解能(シミュレーション計算刻み)、時系列記録長(シミュレーション計算時間)が指定された場合に、前記記憶手段から当該変電所バンク単位の前記配電線接続情報と前記定数情報を自動的に読み込み、
前記処理手段は、配電線亘長と配電設備位置に前記線路定数と前記配電設備毎の対地間静電容量を関連付け、1電柱間単位を基本とした配電線モデルの電気等価回路をメモリ上に生成し、前記入力手段で読み込まれた故障相、故障電柱、波形観測電柱(波形観測点)をもとに故障モデルをメモリ上に生成し、
また、前記処理手段は、前記入力手段で読み込まれた時系列記録長(シミュレーション計算時間)と時間分解能(シミュレーション計算刻み)に基づくシミュレーションを開始し、前記入力手段に読み込まれた故障タイミングで仮想故障を発生させ、波形観測電柱(波形観測点)の仮想サージ波形の時系列データをファイルとして前記記憶手段に記憶させることを特徴とする配電線路サージ波形伝播シミュレーション用コンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際のサージ波形を利用することなく、シミュレーションにより仮想的なサージ波形を再現し、それによりサージ波形の到達時刻や到達時刻の差や伝播速度を正しく求めることを可能とする配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法、配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置およびコンピュータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電線路に発生した地絡などの故障点を標定するシステムにおいては、サージ電圧またはサージ電流を検出する複数のセンサを配電線路に配置し、GPS(Global Positioning System)の時刻信号により同期を取った各センサのサージ波形の到達時刻(以下、「サージ到達時刻」という。)を特定し、故障点を挟む1対のセンサにおけるサージ到達時刻の差に基づき故障点を標定するようにしている。
【0003】
この故障点を標定するシステムの特徴は、故障点から生じたサージ波形が、故障点を挟む1対のセンサに到達する時刻差と、1対のセンサ間の距離と、1対のセンサ間のサージ波形伝播速度により故障点を標定することにある。また、サージ波形伝播速度を求める方法としては、故障点で生じたサージ波形が、故障点を挟む1対のセンサとは別のセンサに到達した時刻差を利用して求める方法や、配電線路の柱上開閉器を開閉させて生じる開閉サージ波形を利用して、1対のセンサ間のサージ到達時刻の差から当該区間のサージ波形伝播速度を求める方法が知られている。
【0004】
このように、従来のサージ波形伝播速度を求める方法では、実際のサージ波形を利用してサージ到達時刻を求め、それからサージ波形伝播速度を算出する。
【0005】
特許文献1には、送配電線路に設置された子局において、送配電線路のいずれかの箇所で発生した故障によるサージ電圧またはサージ電流の検出時刻を標定するサージ検出時刻標定方法が記載されている。
【0006】
特許文献2および3には、故障点で生じたサージ波形が故障点を挟む1対のセンサとは別のセンサに到達した時刻差を利用してサージ波形伝播速度を求める方法が記載されている。また、特許文献4には、配電線路の柱上開閉器を開閉させて生じる開閉サージ波形を利用して、1対のセンサ間のサージ到達時間の差から当該区間のサージ波形伝播速度を求める方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-258487号公報
【特許文献2】特開2001-133504号公報
【特許文献3】特開2016-142659号公報
【特許文献4】特開2008-139145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、サージ波形伝播は、配電線路の配電設備の形態によって変化する。
図24は、隣接する区間を利用してサージ波形伝播速度を求める従来の手法を示している。ここで、サージ波形観測点をA、B、C、線路端末をEとし、サージ波形観測点B、C間で故障点が発生し、それぞれの間の距離をL
AB、L
BP、L
PC、L
CEとすると、各区間のサージ波形伝播速度は、
図24中の式で求めることができる。しかし、それぞれの区間では配電設備の形態が異なることから、当該区間のサージ波形伝播速度を正しく求めることができないという課題がある。
【0009】
図25は、柱上開閉器の開閉サージ波形を利用してサージ波形伝播速度求める従来の手法を示している。ここで、サージ波形観測点D、F間の距離をL
DFとし、サージ波形観測点D、Fでのサージ到達時刻をそれぞれTd、Tfとすると、サージ波形観測点D、F間のサージ波形伝播速度は、
図25中の式で求めることができる。しかし、開閉器の開閉サージ波形は地絡時のサージ波形と異なり、サージ波形観測点でサージを検出できる波形レベルに達しないことがあり、また、柱上開閉器が無い場合もあるため、当該区間のサージ波形伝播速度を正しく求めることができないという課題がある。
【0010】
このように、実際のサージ波形を利用してサージ到達時刻を求め、それからサージ波形伝播速度を算出する従来の手法では、サージ波形伝播速度を正しく求めることができず、これにより、故障点標定を正確に行うことができないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、実際のサージ波形を利用することなく、シミュレーションにより仮想的なサージ波形を再現し、それによりサージ到達時刻やサージ到達時刻の差やサージ波形伝播速度を正しく求めることを可能とする配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法、配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置およびコンピュータシステムを提供することを目的とし、その特徴は、配電線路の故障点から発生するサージ電圧またはサージ電流を用いて前記故障点を特定する故障点標定方法における、配電線路のサージ電圧またはサージ電流のサージ波形の伝播を、配電線モデルを構築してシミュレーションし、仮想サージ波形データを得ることで、前記配電線路の任意の箇所のサージ波形の到達時刻を求めることにある。ここで、前記任意の箇所を複数とすれば、それらの箇所のサージ波形の到達時刻の差を求めることができ、また、前記複数の箇所のサージ波形の到達時刻の差とそれらの箇所の間の距離とからサージ伝播速度を求めることができる。
【0012】
また、本発明の特徴は、三相電源および配電変圧器のインピーダンスと接地変圧器の対地間インピーダンスと三相3線式の配電線路の線路定数と配電線路に設置される配電設備や高圧需要家設備の対地静電容量のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてを含む配電線モデルを生成するステップと、三相3線の各線と、各線間と、各線と対地間のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてにスイッチを含む故障モデルを生成するステップと、前記配電線モデルの故障時刻タイミングまたは電源電圧の位相タイミング(以降は故障タイミング)により前記故障モデルのスイッチを動作させるステップを有し、前記故障モデルのスイッチが動作されたときの任意の箇所の波形観測点におけるサージ電圧またはサージ電流の波形を計測して仮想サージ波形データを得ることにある。
【0013】
また、本発明の特徴は、前記配電線モデルの配電設備は、配電線(架空電線・電力ケーブル)と碍子と避雷器とアークホーンと柱上変圧器と柱上開閉器と電圧調整器と架空地線のうちの1つ以上含むことにある。
【0014】
また、本発明の特徴は、前記配電線モデルは、配電線と同じ線路亘長と配電設備の配置で1電柱間単位を基準とし、前記配電線モデルは1電柱間単位で構成され、あるいは1電柱単位を基準として複数の電柱間単位が1つの設備に統合されて構成されることにある。
【0015】
また、本発明の特徴は、前記故障モデルは、発生した故障の故障相と故障タイミングと故障抵抗とを用いることにある。
【0016】
また、本発明の特徴は、配電線路の故障点から発生するサージ電圧またはサージ電流のサージ波形の伝播をシミュレーションする配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置であって、三相電源および配電変圧器のインピーダンスと接地変圧器の対地間インピーダンスと三相3線式の配電線路の線路定数と配電線路に設置される配電設備や高圧需要家設備の対地静電容量のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてを含む配電線モデルと、三相3線の各線と、各線間と、各線と対地間のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてにスイッチを含む故障モデルと、配電線モデルの故障タイミングにより前記故障モデルのスイッチを動作させる手段を備え、前記故障モデルのスイッチが動作されたときの任意の箇所の波形観測点におけるサージ電圧またはサージ電流の波形を計測して仮想サージ波形データを得ることにある。
【0017】
さらに、情報を記憶する記憶手段と、情報を処理する処理手段と、前記処理手段で処理されたデータをファイルとして出力する出力手段と、外部プログラムから命令を受ける入力手段とを備え、配電線路の故障点から発生するサージ電圧またはサージ電流の伝播をシミュレーションする配電線路サージ波形伝播シミュレーション用コンピュータシステムであって、前記記憶手段は、変電所バンク単位の実配電系統の配電線接続情報と単位長あたりの配電線路の線路定数と配電設備毎の対地間静電容量の定数情報を記憶し、前記入力手段は、外部からシミュレーション条件情報として前記変電所バンク単位内でサージ波形を伝播させる特定配電線、故障相、故障電柱、故障タイミング、波形観測電柱(波形観測点)、時系列分解能(シミュレーション計算刻み)、時系列記録長(シミュレーション計算時間)が指定された場合に、前記記憶手段から当該変電所バンク単位の前記配電線接続情報と前記定数情報を自動的に読み込み、前記処理手段は、配電線亘長と配電設備位置に前記線路定数と前記配電設備毎の対地間静電容量を関連付け、1電柱間単位を基本とした配電線モデルの電気等価回路をメモリ上に生成し、前記入力手段で読み込まれた故障相、故障電柱、波形観測電柱(波形観測点)をもとに故障モデルをメモリ上に生成し、また、前記処理手段は、前記入力手段で読み込まれた波形記録長と時間分解能に基づくシミュレーションを開始し、前記入力手段に読み込まれた故障タイミングで仮想故障を発生させ、波形観測電柱(波形観測点)の仮想サージ波形の時系列データをファイルとして前記記憶手段に記憶させることにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る配電線路サージ波形伝播シミュレーション方法、配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置によれば、配電線路の故障点標定におけるサージ波形伝播の到達時刻解析を対象とする配電線路を仮想配電線モデルに展開し、配電設備の設置状況、電柱間接続毎の対地間静電容量定数により伝播速度が変化する故障時のサージ波形の様子(サージ波形の到達時刻)をシミュレーションすることができる。ここで、2つ以上の仮想サージ波形の時系列データ(離散データと時間データ)を提供することで、サージ波形の到達時刻の差や伝播速度を求めることも可能になる。
【0019】
また、実在する配電線路の接続情報や配電設備情報をそのまま1電柱間単位を基準としてモデル化することで、故障事故時のサージ電圧とサージ電流のサージ波形が架空電線や電力ケーブルを伝播する様子をシミュレーションすることができ、実際のサージ波形(実測サージ波形)を利用することなく、2つ以上の仮想的なサージ波形(仮想サージ波形)を再現することで、サージ波形の到達時刻の差や伝播速度を求めることが可能となる。
【0020】
また、実際に発生した故障をシミュレーションにより再現できるので、複数の任意の電柱でのサージ波形伝播の様子(解析)や故障時のサージ波形伝播の様子をシミュレーションしてサージ波形の到達時刻を予測することができる。
【0021】
さらに、波形観測点を含まない配電線路の配電設備は、複数の電柱間で1つの設備に統合することにより、コンピュータの処理負担を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】配電線路サージ波形伝播シミュレーション用専用プログラムのフローチャートである。
【
図3】本発明で利用するDATA1(電柱径間情報)1レコード分を示す図である。
【
図4】本発明で利用するDATA2(柱上変圧器情報)1レコード分を示す図である。
【
図5】本発明で利用するDATA3(高圧需要家設備情報)1レコード分を示す図である。
【
図6】本発明で利用するDATA4(定数情報)を示す図である。
【
図7】本発明で利用するDATA5(中間データ)を示す図である。
【
図8】中間データとその他の情報との関係を示す図である。
【
図9】変電所の主電源と接地変圧器のモデルを示す図である。
【
図11】中間データと配電線系統の関係を示す図である。
【
図12】配電線系統とノード番号の関係を示す図である。
【
図13】三相T型回路とノード番号の関係を示す図である。
【
図14】配電線モデルコード化のイメージを示す図である。
【
図16】故障モデルコード化のイメージを示す図である。
【
図19】中間データ生成処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図20】サージ波形伝播を記録した配電線路(系統図)を示す図である(実施例1)。
【
図21】実サージ波形と仮想サージ波形の比較を示す図である(実施例1)。
【
図22】サージ波形伝播を記録した配電線路(系統図)を示す図である(実施例2)。
【
図23】実サージ波形と仮想サージ波形の比較を示す図である(実施例2)。
【
図24】隣接する区間を利用してサージ伝播速度を求める従来の手法を示す図である。
【
図25】柱上開閉器の開閉サージ波形を利用してサージ伝播速度求める従来の手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について説明する。
【0024】
本発明では、概略的には、木構造の配電線路を、始点となる変電所から末端に至るまで分岐線を含めて連続的な繋がりになるように、ノード(電柱および配電設備)とブランチ(配電線路)の組合せにより構成し、汎用コンピュータと記憶装置とプログラムと必要な情報データ群を用いて、ブランチの線路とノードの配電設備の電気的定数(RLC電気回路)を関連付け、ノード間をブランチで接続することにより配電線路を電気回路等価でモデル化した配電線モデルを構築し、また、三相3線の各線と各線間と各線と対地間のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてにスイッチを含む故障モデルを構築し、その配電線モデルと故障モデルを利用して、シミュレーションによる仮想サージ波形データを得る。
【0025】
図1は、木構造である配電線路を概略的に示す図である。
【0026】
図1の木構造の配電線路の配電線モデルを構築するために、上位系統を考慮した配電変圧器1のインピーダンスと三相電源2と接地変圧器3の対地間インピーダンスと三相3線式の配電線路4の線路定数と電柱などに設置される電柱および配電設備5の対地静電容量とからなる情報(以下、定数情報と称する(
図6参照))をデータベース化する。変電所(バンク)内でサージ波形を伝播させる特定配電線路6は5のノード(電柱および配電設備)とそれを接続する4のブランチ(配電線路)の組み合わせである。また、
図1のノードは電柱単位を基準としており、それを接続するブランチはノード間の線路や配電設備の三相3線式の電気等価回路で構成され、ここでは簡易的に単一の線路として記載されている。また、後述するが特定のノードには故障モデルや波形観測点が設定される。
【0027】
また、特定配電線路6の変電所を起点とする配電線接続情報は、1電柱単位を基準としたノードである電柱と電柱を結ぶブランチでの接続情報として、ブランチの配電線路に使用する架空電線または電力ケーブルの亘長および線種、ノードとなる自電柱と負荷側の相手電柱の電柱番号(固有番号)、ブランチに配置される柱上開閉器と電圧調整器を
図3のDATA1の電柱径間情報として、電柱に設置されている柱上変圧器容量と高圧需要家の受電設備契約容量を
図4のDATA2の柱上変圧器情報と
図5のDATA3の高圧需要家設備情報として含み、それらを変電所毎に変電所バンク単位でデータベース化する。木構造である配電系統の配電線接続情報の相手電柱は自電柱より負荷側とすることで、変電所を起点とした負荷側へ分岐を含め末端までのすべての線路の接続情報を示している。このデータベース化には、電力会社が管理するデータベースを利用してもよいし、前記配電線接続情報(
図3のDATA1、
図4のDATA2、
図5のDATA3)は特定の配電線接続情報のみを分散されたデータ群から抽出編集してもよい。
図6の定数情報における配電線路の線路定数や配電設備に応じた対地間静電容量定数は、カタログ値や実測により求めてもよい。
【0028】
サージ波形伝播には、故障電柱から波形観測電柱(波形観測点)まで、サージ波形が伝播する経路の他に、特定配電線6の分岐線や同一バンクにおける特定配電線6以外の他回線7の対地間静電容量や変電所の配電変圧器等のインピーダンスも影響する。このため、配電線モデルは、変電所バンク単位での情報が必要であり、変電所バンク単位の配電線接続情報をもとに電柱単位を基本とし、
図6の定数情報に示す配電設備の対地間静電容量を主体とした電気等価回路で構成する。
【0029】
なお、汎用コンピュータの処理能力やモデル構築の計算時間の関係から、複数の電柱間単位の配電線接続情報(
図3~5)を基礎に定数情報(
図6)を用いて1つに纏めてもよい。特に、故障電柱から波形観測電柱(波形観測点)までのサージ波形伝播経路以外の分岐線や他配電線路においては当該線路に含まれるすべての配電設備を含む対地間静電容量をひとつの電気等価回路として統合して纏めることは、汎用コンピュータの処理負担を軽減させるために有効である。
【0030】
配電線モデルおよび故障モデルの構築と配電線路サージ波形伝播シミュレーション機能は、専用プログラムと汎用回路解析プログラムにより汎用コンピュータを機能させることで実行される。専用プログラムは、汎用回路解析プログラムにおいてシミュレーション可能な電気等価回路のモデルコードを生成する機能と外部コマンドにより汎用回路解析プログラムをコントロールする機能を有する。
【0031】
次に専用プログラムについて説明する。
【0032】
図2は、専用プログラムのフローチャートを示す。なお、「S」付き番号は、ステップを示す。
【0033】
S101(情報データ読込み処理)では、シミュレーション条件情報と配電線接続情報(
図3~5)と定数情報(
図6)のデータファイルを、それらが記憶されている記憶装置から読込み、汎用コンピュータのメモリ上に保存する。
【0034】
シミュレーション条件情報は、サージ波形を伝播させる特定配電線、故障相、故障電柱、故障タイミング、波形観測電柱(波形観測点)、時系列分解能(シミュレーション計算刻み)、時系列記録長(シミュレーション計算時間)の情報からなる。
【0035】
配電線接続情報は、特定配電線が所属する変電所バンク単位の変電所を起点とした負荷側への木構造の配電線接続情報であり、
図3のDATA1(電柱径間情報)、
図4のDATA2(柱上変圧器情報)、
図5のDATA3(高圧需要家設備情報)、その他の変電所設備の情報からなり、ノードとノード間のブランチの電気等価回路の接続で構成される。定数情報は、
図6のDATA4(定数情報)でありその定数情報を用い、前記複数の電気等価回路の各定数の数値を設定する。
【0036】
DATA1(電柱径間情報)は、変電所バンク単位で変電所を起点とした分岐線末端までのノード間のブランチの基本情報のレコード群からなり、これにはノードとなる自電柱番号と相手電柱番号、電線種別や亘長の情報などが含まれている。変電所を起点とするため、相手電柱のノードは自電柱のノードより負荷側となるように作成されている。
【0037】
DATA2(柱上変圧器情報)は、変電所バンク単位で同一バンクに設置されている柱上変圧器のレコード群からなり、これには設置場所の電柱番号と柱上変圧器の容量の情報などが含まれている。
【0038】
DATA3(高圧需要家設備情報)は、変電所バンク単位で同一バンクに設置されている高圧需要家のレコード群からなり、これには設置場所の電柱番号と受電設備の契約容量の情報などが含まれている。
【0039】
DATA4(定数情報)には、変電所設備の電源情報や単位あたりの配電線種別の線路定数や配電設備別の対地間静電容量などが含まれている。なお、DATA1~DATA4の情報は、例として示すものであり、それに限定されない。
【0040】
図2に戻って、S102(中間データ生成処理)では、電柱単位を基準とした配電線モデルのノードとなる電柱間の基本となる1ブランチ分の電気等価回路を構成し、汎用回路解析プログラムでシミュレーション可能な配電線モデルコードの生成に必要な中間データを生成する。S102(中間データ生成処理)での処理については、後で詳細に説明する。
【0041】
図7は、DATA5(中間データ)の一例を示し、これはDATA1(電柱径間情報)、DATA2(柱上変圧器情報)、DATA3(高圧需要家設備情報)のレコード群の情報およびDATA4(定数情報)をもとに生成することができる。
【0042】
DATA1(電柱径間情報)は、変電所バンク単位の1電柱間データのレコードを持ち、DATA1(電柱径間情報)の全てのレコード数とDATA5(中間データ)のレコード数は一致することになる。
図8に中間データとその他の情報の関係を示す。DATA5(中間データ)はDATA1の電柱径間情報の接続などの情報とDATA2の柱上変圧器情報とDATA3の高圧需要家設備情報を含みDATA4の定数情報を考慮し構成される。木構造の配電系統においてノードは電柱を基準としており、DATA5(中間データ)はノード間を接続するブランチを構成するブランチ情報で相手電柱は自電柱より負荷側であり、変電所を起点とした末端までの接続情報を示し、ブランチは電気等価回路で構成され、配電系統は複数の電気等価回路の接続で表現される。DATA5(中間データ)の電柱間線路定数や配電設備対地間静電容量定数は前記電気価回路の回路定数として算出されており、ここでは自電柱ノードの負荷側に接続されるノードである相手電柱に設置される柱上変圧器(DATA2)と高圧需要家(DATA3)の配電設備を配電設備対地静電容量の一部として構成する。それは、自電柱ノードと相手電柱ノードとを接続するブランチに対し負荷側の相手電柱ノードは一意に決まるため、設備対地静電容量を重複することなく正確に設定できるからである。ブランチに対する電源側のノードである自電柱は分岐箇所ではひとつのノードに対し複数のブランチが存在することとなり、ブランチに対するノードが一意に決まらない。DATA5(中間データ)はブランチを示し電気等価回路で構成され、ここでの電気等価回路はT型回路であることを特徴とする。
【0043】
S102(中間データ生成処理)により、S104(配電線モデルコードの生成処理)で必要な中間データが生成され、以下のS103からの処理により、汎用回路解析プログラムでシミュレーション可能なコードが生成される。
【0044】
S103(三相電源等コード生成処理)では、配電線接続情報の変電所設備情報とDATA4(定数情報)により、上位系統を考慮した配電変圧器のインピーダンスと三相電源と接地変圧器の対地間インピーダンスを計算し、汎用コンピュータのメモリ上にコード生成する。
【0045】
図9は、三相3線式を基本とし、主電源を各相電源と上位系統を考慮した配電変圧器の各相リアクタンスで接地変圧器を三巻線形と制限抵抗で構成し、接地変圧器を三巻線形と制限抵抗で構成したモデルを示し、S103(三相電源等コード生成処理)では、そのモデルコードを生成する。なお、
図9において、N+0、N+1、N+2は、相毎のノードを示し、変電所側の第1電柱を意味する。
【0046】
S104(配電線モデルコード生成処理)では、DATA5(中間データ)の自電柱番号と相手電柱番号により、変電所から分岐線を含め末端に至るまで連続的に繋がるようにノード番号を割付けると同時に、DATA5(中間データ)のブランチ情報(R、 L、 Cの電柱間線路定数値)をもとに汎用回路解析プログラムでシミュレーション可能なコードを汎用コンピュータのメモリ上に生成する。例えば、DATA5(中間データ)のレコード群を
図10に示すREC01~REC05とすると、その自電柱番号と相手電柱番号から、連続的な繋がりの配電線系統は、
図11に示すようになる。
【0047】
次に、
図11をもとに各電柱に連続的なノードを割付ける。
図12は、この様子を示している。REC01~REC05のうち、自電柱番号が複数存在するレコード(例えばREC02とREC04)は分岐線がある電柱であることを示している。なお、配電線モデルの最小構成のDATA5(中間データ)のレコードが示す電気等価回路を三相のT型回路で構成することから、
図13に示すように、電柱単位を基準としたノードとノード間のブランチの電気等価回路をT型回路とする配電設備対地間静電容量と電柱間線路定数Cによる対地静電容量用の新たなノードを設けており、ノード番号は、N+0を基準にノード番号を割り付けると同時に、DATA5(中間データ)をもとにブランチ情報を割付けるようにする。
【0048】
図14は、DATA5(中間データ)の1レコード(1電柱間)のノード番号とブランチ情報をモデルコード化したイメージを示す。このようにして、全てのDATA5(中間データ)のレコードについてモデルコード化する。なお、
図13の変電所側の第1電柱の各相N+0、N+1、N+2は、S103(三相電源等コード生成処理)における
図9の変電所設備の各相のノード番号N+0、N+1、N+2と一致する。
【0049】
S105(故障モデルコード生成処理)では、シミュレーション条件情報の故障相(三相3線の各線と、各線間と、各線と対地間のうちのいずれか1つまたは複数)、故障電柱(自電柱番号からノードを特定)、故障抵抗値(Rg)、故障タイミング(時刻タイミングである投入時刻t1と開放時刻t2、これは電源電圧の位相タイミングでもよい)から、故障モデルコードを汎用コンピュータのメモリ上に生成する。
【0050】
図15は、指定のノードN+nとXX+nとの間を接続する開閉スイッチSとノードXX+nと大地との間を接続する故障抵抗Rgからなる仮想の故障モデルを示し、
図16は、故障モデルコード化のイメージを示している。ここで線路は三相3線式を1線路で簡易的に表現しており、対地間の開閉スイッチSは三線中の1線路の1線地絡である。各線間や対地間にも開閉スイッチは設定可能で種々の故障を表現できる。このように故障モデルは任意のノードに設定できる。
【0051】
以上のように、S101~S105により配電線モデルコードおよび故障モデルコードが生成され、配電線モデルおよび故障モデルが構築される。
【0052】
図17は、概略配電線路を示し、
図18は、
図17の概略配電線路を三相3線式としたT型のRLC電気等価回路でモデル化した仮想配電線モデルを示す。
【0053】
S106(サージ電流・電圧演算コード生成処理)では、シミュレーション条件情報の波形観測電柱(波形観測点)をもとに、ここではサージ零相電流・電圧の計測として三相配電線路の各相の電圧を合成および各相の電流を合成する計算条件を設定し、その演算コードを汎用コンピュータのメモリ上に生成する。サージとして観測されるのは各相の電流および電圧として計算されるので、各相のサージ電流・電圧も個別での観測も可能である。また、このように波形観測点は電柱であるノードに任意に設定できる。
【0054】
S107(計算条件コード生成処理)では、シミュレーション条件情報に示された時系列分解能(シミュレーション計算刻み)と時系列記録長(シミュレーション計算時間)からシミュレーションの計算時間と計算刻みの計算条件コードを汎用コンピュータのメモリ上に生成する。示されない場合にはデフォルト値として、例えば、計算時間50ミリ秒、計算刻み0.1マイクロ秒とする。
【0055】
S108(ファイル保存処理)では、これまでにメモリ上に生成されたモデルコードのデータを、記憶装置の指定フォルダにデータファイルとして記憶する。
【0056】
S109(シミュレーション開始処理)では、汎用回路解析プログラムに対し、シミュレーションを可能とする外部コマンドと指定フォルダに記憶されたモデルコードデータファイルの情報を引数として渡し、シミュレーションを開始する。これにより指定されたサージ波形観測電柱(波形観測点)の仮想サージ波形データ(離散データと時間データ)が汎用コンピュータのメモリ上に生成される。
【0057】
S110(波形データファイル保存処理)では、汎用回路解析プログラムのシミュレーションで得られた仮想サージ波形データを、記憶装置の指定フォルダにデータファイルとして記憶する。ここでは、ファイル保存を可能とする外部コマンドと指定フォルダの情報を引数として渡し、仮想サージ波形データファイルを保存する。
【0058】
次に、S102(中間データ生成処理)での処理について詳細に説明する。
図19は、S102(中間データ生成処理)の具体的なフローチャートである。
【0059】
S201(線路定数セット)では、DATA1(電柱径間情報)の線路種別、サイズおよび亘長から、DATA4(定数情報)をもとに演算された線路定数R、L、Cをそれぞれ、電柱間線路定数R用メモリエリア(変数)、演算後に電柱間線路定数L用メモリエリア(変数)、対地間静電容量定数C用メモリエリア(変数)に記憶する。
【0060】
S202(配電設備定数(碍子)セット)では、電柱には電線1条あたりの碍子2個が存在するとし、DATA4(定数情報)をもとに演算された碍子の定数Cを対地間静電容量定数C用メモリエリア(変数)に追加記憶する。
【0061】
S203(配電設備定数(柱上開閉器)セット)では、DATA1(電柱径間情報)の柱上開閉器区間番号が0以外の場合に、DATA4(定数情報)をもとに演算された柱上開閉器の定数Cを対地間静電容量定数C用メモリエリア(変数)に追加記憶する。
【0062】
S204(配電設備定数(架空地線)セット)では、DATA1(電柱径間情報)の亘長からDATA4(定数情報)をもとに演算された定数Cを対地間静電容量定数C用メモリエリア(変数)に追加記憶する。
【0063】
S205(配電設備定数(電圧調整器)セット)では、DATA1(電柱径間情報)の電圧調整器容量から0kVA以外はDATA4(定数情報)をもとに演算された電圧調整器の定数Cを対地間静電容量定数Cメモリエリア(変数)に追加記憶する。
【0064】
S206(柱上変圧器探査)では、DATA2(柱上変圧器情報)の全てのレコードから、DATA1(電柱径間情報)の相手電柱番号とDATA2(柱上変圧器情報)の電柱番号とが一致する全てのレコードを探査する。
【0065】
柱上変圧器のレコードが1つ以上見つかった場合は、S207(柱上変圧器の有無)からS208(配電設備定数(柱上変圧器)セット)に進み、DATA2(柱上変圧器情報)の容量からDATA4(定数情報)をもとに演算された柱上変圧器の定数Cを対地間静電容量定数C用メモリエリア(変数)に追加記憶してからS209に進むが、見つからなかった場合には、そのままS209に進む。
【0066】
S209(高圧需要家設備探査)では、DATA3(高圧需要家設備情報)の全てのレコードから、DATA1(電柱径間情報)の相手電柱番号とDATA3(高圧需要家設備情報)の電柱番号が一致する全てのレコードを探査する。
【0067】
高圧需要家設備のレコードが見つかった場合は、S210(高圧需要家設備の有無)からS211(配電設備定数(高圧需要家設備)セット)に進み、DATA3(高圧需要家設備情報)の契約容量からDATA4(定数情報)をもとに演算された高圧需要家設備の定数Cを対地間静電容量定数C用メモリエリア(変数)に追加記憶してからS212に進むが、見つからなかった場合には、そのままS212に進む。
【0068】
S212(配電線の所属)では、バンク内でサージ波形を伝播させる特定配電線か他回線かどうかを判定し、特定配電線と判定された場合は、S213(特定配電線レコード生成)で、これまでメモリエリア(変数)に記憶した定数を1レコードとして記憶する。また、他回線と判定された場合には、S215(他回線レコード生成)で、他回線全ての対地間静電容量Cを纏めて1レコードとして生成する。なお、他回線の線路定数Rと線路定数Lは、ダミー値とする。ここでは特定配電線と他回線と区別しているが、すべて電柱単位で表現してもよく、電気等価回路としてまとめるか否かの配電線モデルとしての制約はない。
【0069】
S214(EOF)では、DATA1(電柱径間情報)の全てのレコードが終了したかどうかを判定し、全てのレコードが終了するまで、中間データ(DATA5)の生成処理を繰り返し実行する。DATA5(中間データ)とDATA1(電柱間径間情報)とのレコード数は同数で電柱であるノードを接続するブランチの数と同じであり、またブランチの負荷側のノード(相手電柱)の数と同じである。つまり、この処理によりバンク内のすべての線路の接続(ブランチ)を網羅することができることを意味している。
【0070】
以上のS102(中間データ生成処理)が終了すれば、汎用回路解析プログラムでシミュレーション可能な配電線モデルコードの生成に必要な中間データが生成される。ここでは線間負荷を表現していないがもちろん表現してもよい。
【0071】
(実施例1)
実施例1では、故障における1線地絡事故時の実測サージ波形が観測できた配電線路において、
図20の概略配電系統をもとに仮想配電線モデルを構築し、シミュレーションを実施した。
【0072】
実測サージ波形には、GPSにより同期がとれた時刻が記録されており、サージ観測電柱A、B、Cをサージ波形が通過した様子の時系列データ(離散データと時間データ)が記録されている。
【0073】
図21は、実施例1でのシミュレーションで得られた仮想サージ波形と実測サージ波形の比較を示す。仮想サージ波形の到達部分は、サージ波形の立ち上がり変化の部分に着目すればよく、実サージ波形と仮想サージ波形が相似していることが確認できた。
【0074】
ここでのシミュレーションでは、サンプリング周期設定(前記シミュレーション計算刻み)を0.1μsecとしたが、それに限られない。また、汎用回路解析プログラムの時系列記録長(シミュレーション計算時間)は2msecとし、計算開始から1msec後に地絡点に対し、任意の地絡相対地電圧の位相、任意の地絡抵抗で、スイッチを用い閉路させる故障タイミングの設定とした。なお、目的とするサージ波形の到達時刻の差の解析には、人的な観測・判断および閾値法や2電圧法など種々の方式を適用できる。
【0075】
(実施例2)
実施例2では、実施例1とは異なる配電線路である
図22の概略配電系統をもとに仮想配電線モデルを構築し、故障としては1線地絡事故時の実測サージ波形とシミュレーションで得られた仮想サージ波形を比較した。
【0076】
図23は、実施例2でのシミュレーションで得られた仮想サージ波形と実測サージ波形の比較を示す。
図23から分かるように、実サージ波形と仮想サージ波形は相似しており、シミュレーションによる地絡時のサージ波形の伝播の様子(解析)や到達時刻を求めて、地絡時のサージ波形の到達時刻を予測できることが分かる。
【0077】
以上、本発明の実施形態ついて説明したが、本発明は、上記実施形態に限られず、種々に変形可能である。本発明では、例えば、汎用回路解析プログラムとして既知のものを利用してシミュレーションすることができるが、オリジナルのシミュレーションプログラムを制作し、使用してシミュレーションするようにしてもよい。また、例えば、電柱単位の基準は、波形観測点を含まない配電線路であれば、複数の1電柱間を纏めたものであってもよいし、1電柱単位で設置されている柱上変圧器間や開閉器間の複数を纏めたものであってもよい。
【0078】
また、任意の複数の箇所におけるサージ波形の到達時刻の差を求めるようにすることができ、さらに、複数の箇所のサージ波形の到達時刻の差とそれらの箇所の間の距離とからサージ伝播速度を求めることもできる。
【0079】
また、本発明は、配電線路サージ波形伝播モデルシミュレーション方法としてだけでなく、配電線路サージ波形伝播モデルシミュレーション装置としても、配電線路サージ波形伝播シミュレーション用コンピュータシステムとしても実現できるものである。
【0080】
具体的には、配電線路の故障により発生するサージ電圧またはサージ電流のサージ波形伝播をシミュレーションする配電線路サージ波形伝播シミュレーション装置は、三相電源および配電変圧器のインピーダンスと接地変圧器の対地間インピーダンスと三相3線式の配電線路の線路定数と配電線路に設置される配電設備や高圧需要家設備の対地静電容量のうちのひとつまたは複数、あるいはすべてを含む変電所バンク単位の配電線モデルと、三相3線の各線と、各線間と、各線と対地間のうちのいずれか1つまたは複数、あるいはすべてにスイッチを含む故障モデルと、配電線モデルの故障時刻タイミングや電源の位相タイミング(故障タイミング)により前記故障モデルのスイッチを動作させる手段を備え、前記故障モデルのスイッチが動作されたときの任意の箇所の波形観測点におけるサージ電圧またはサージ電流の波形を計測して仮想サージ波形データを得る。
【0081】
また、配電線路の故障により発生するサージ電圧またはサージ電流のサージ波形伝播をシミュレーションする配電線路サージ波形伝播シミュレーション用コンピュータシステムは、情報を記憶する記憶手段と、情報を処理する処理手段と、前記処理手段で処理されたデータをファイルとして出力する出力手段と、外部プログラムから命令を受ける入力手段とを備え、前記記憶手段は、変電所バンク単位の実配電系統の配電線接続情報と単位長あたりの配電線路の線路定数と配電設備毎の対地間静電容量の定数情報を記憶し、前記入力手段は、外部から特シミュレーション条件情報として前記バンク内でサージ波形を伝播させる定配電線、故障相、故障電柱、故障タイミング、波形観測電柱(波形観測点)、時系列分解能(シミュレーション計算刻み)、時系列記録長(シミュレーション計算時間)が指定された場合に、前記記憶手段から当該変電所バンク単位の前記配電線接続情報と前記定数情報を自動的に読み込み、前記処理手段は、配電線亘長と配電設備位置に前記線路定数と前記配電設備毎の対地静電容量を関連付け、電柱単位を基本とした配電線モデルの電気等価回路をメモリ上に生成し、前記入力手段で読み込まれた故障相、故障電柱、波形観測電柱(波形観測点)をもとに故障モデルをメモリ上に生成し、また、前記処理手段は、前記入力手段で読み込まれた時系列分解能(シミュレーション計算刻み)と時系列記録長(シミュレーション計算時間)に基づくシミュレーションを開始し、前記入力手段に読み込まれた地絡タイミングで仮想地絡を発生させ、波形観測電柱(波形観測点)の仮想サージ波形の時系列データをファイルとして記憶手段に記憶させる。
なお、本発明における「時刻」は、絶対的な時刻だけを意味するものでなく、故障モデルのスイッチがオンされた時などを基準とする相対的な時刻(時間)であってもよい。
【符号の説明】
【0082】
1・・・配電変圧器
2・・・三相電源
3・・・接地変圧器
4・・・配電線路
5・・・電柱および配電設備
6・・・特定配電線
N + n (n:0, 1, 2,・・・)・・・ノード (名)
REC01~REC05・・・中間データのレコード群
AA01~AA04, BB02, BB03・・・電柱番号
S101・・・シミュレーション条件情報・配電線接続情報・定数対応表を読込むステップ
S102・・・中間データ生成処理のステップ
S103・・・三相電源等コード生成処理のステップ
S104・・・配電線モデルコード生成処理のステップ
S105・・・故障モデルコード生成処理のステップ
S106・・・サージ電流・電圧演算コード生成処理のステップ
S107・・・計算条件コード生成処理のステップ
S108・・・ファイル保存処理のステップ
S109・・・シミュレーション開始処理のステップ
S110・・・波形データファイル保存処理のステップ
S101・・・シミュレーション条件情報・配電線接続情報・定数対応表を読込むステップ
S102・・・中間データ生成処理のステップ
S103・・・三相電源等コード生成処理のステップ
S104・・・配電線モデルコード生成処理のステップ
S105・・・故障モデルコード生成処理のステップ
S106・・・サージ電流・電圧演算コード生成処理のステップ
S107・・・計算条件コード生成処理のステップ
S108・・・ファイル保存処理のステップ
S109・・・シミュレーション開始処理のステップ
S110・・・波形データファイル保存処理のステップ
S201・・・線路定数セットのステップ
S202・・・配電設備定数(碍子)セットのステップ
S203・・・配電設備定数(柱上開閉器)セットのステップ
S204・・・配電設備定数(架空地線)セットのステップ
S205・・・配電設備定数(電圧調整器)セットのステップ
S206・・・柱上変圧器探査のステップ
S207・・・柱上変圧器の有無判定のステップ
S208・・・配電設備定数(柱上変圧器)セットのステップ
S209・・・高圧需要家設備探査のステップ
S210・・・高圧需要家設備の有無判定のステップ
S211・・・配電設備定数(高圧需要家設備)セットのステップ
S212・・・配電線の所属判定のステップ
S213・・・特定配電線レコード生成のステップ
S214・・・電柱径間情報の全てのレコードの終了の判定のステップ
S215・・・他回線レコード生成のステップ