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特開2023-134258セルロース粒子、セルロース粒子含有水分散スラリー、樹脂複合体、粒子混合体、セルロース粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134258
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】セルロース粒子、セルロース粒子含有水分散スラリー、樹脂複合体、粒子混合体、セルロース粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/08 20060101AFI20230920BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230920BHJP
   C08J 3/02 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C08B15/08
C08L1/02
C08J3/02 C CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039696
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 兼司
(72)【発明者】
【氏名】峯村 淳
【テーマコード(参考)】
4C090
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4C090AA01
4C090BA24
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB52
4C090BD23
4C090BD24
4C090CA05
4C090DA22
4C090DA27
4C090DA28
4C090DA31
4F070AA02
4F070AC12
4F070AD02
4F070AE28
4F070CA19
4F070CB12
4J002AB011
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】水分散液とした際に、繊維状の場合と比べて低粘度化が可能で、分散維持性を良好にすることができるセルロース粒子を提供する。
【解決手段】走査型プローブ顕微鏡で、粒子表面を観察した際の所定基準長さの表面凹凸像において、検出された最大高さをHとしたときに、高さ0.05Hを超える変動を示すピークの数が10以上であり、粒度分布が単峰性を示すセルロース粒子である。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡で粒子表面を観察した際の所定基準長さの表面凹凸像において、検出された最大高さをHとしたときに、高さ0.05Hを超える変動を示すピークの数が10以上であり、粒度分布が単峰性を示すセルロース粒子。
【請求項2】
前記粒度分布のメジアン径が1~50μmである請求項1に記載のセルロース粒子。
【請求項3】
前記単峰性のピークにおける半値幅が1~70μmである請求項1又は2に記載のセルロース粒子。
【請求項4】
比表面積が、10~100m/gである請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース粒子。
【請求項5】
セルロースI型結晶構造を有する請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース粒子。
【請求項6】
前記セルロース粒子表面に、平均径が1~60nmである繊維状物が形成された、請求項1~5のいずれか1項に記載のセルロース粒子。
【請求項7】
前記セルロース粒子を2質量%の割合で水に分散させたセルロース粒子含有水分散スラリーの粘度が、B型回転式粘度計による25℃、60rpm、3分後の測定で、1000mPa・s以下である請求項1~6のいずれか1項に記載のセルロース粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース粒子を水に分散させたセルロース粒子含有水分散スラリー。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース粒子と、樹脂又はゴム成分とを含む、樹脂複合体。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース粒子と、無機粒子とを含む、粒子混合体。
【請求項11】
セルロース粒子原料を含む原料分散流体を80~245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させる高圧噴射処理を行う高圧噴射処理工程を含み、該高圧噴射処理工程において、得られるセルロース粒子の粒度分布のメジアン径が1~50μmとなるまで前記高圧噴射処理を行うセルロース粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース粒子、セルロース粒子含有水分散スラリー、樹脂複合体、粒子混合体、セルロース粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは医薬、食品、工業用途等、様々な種類で市販されている。特に精製されたセルロースを比較的温和な条件で酸加水分解を行うと、粉末状の微結晶セルロースが得られる。この粉末は流動性があり、圧縮すると成形体になり、水につけると崩壊するため、医薬品やサプリメントの賦形剤として広く使用されている。賦形剤としての成形加工性はその圧縮性に影響するため、空隙を多く持ち、粒子の表面積が高く、圧縮性に優れることが重要である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、セルロースは食品添加物として沈降防止、分離防止、沈降物の固結防止、乳化安定等の用途で使用されている。しかし、セルロースは不溶性の物質であり、水に分散させても時間が経過すると沈殿してしまう。このためセルロースにカルボキシルメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム等の多糖類を添加配合することで水への分散安定化を促進できることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
その他、セルロースを微細繊維化することで、水に分散させる技術が報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
さらにセルロースをポリエチレン等の合成ポリマーの代替として利用するための技術開発が進められている。従来は化粧品や工業材料用研磨剤として、ポリエチレンなどの合成ポリマーの微粒子が用いられていた。粒子サイズを制御しやすく、表面積を大きくすることができ、他の物質への分散性が良好であるため合成ポリマーが広く普及していた。しかし、これらのプラスチック由来の微粒子は環境中の微量の化学汚染物質を吸着する性質があるため、その化学汚染物質を吸着したマイクロビーズをプランクトンや魚が飲み込むことで、人体へも悪影響を及ぼす可能性があり、様々な影響を与えることが懸念されている。このような懸念から、多様な用途に用いられている合成ポリマーの微粒子を、生分解性のある粒子に代替しようとする試みが試されている。合成ポリマーの代替としていくつかのセルロース粒子が報告されている。これらはセルロースII型の結晶構造を有し、比表面積の高いセルロース粒子のスクラブ剤が報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5240822号公報
【特許文献2】特開2004-41119号公報
【特許文献3】特許第5334055号公報
【特許文献4】特開2018-118917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述の技術において、まず、特許文献2は、水に分散安定させるために多糖類の添加が必要であり、セルロースのみでの分散安定性は実現できていない。
特許文献3によれば、セルロースを微細繊維化することにより、水に安定に分散した分散液を作製することが可能だが、セルロースの形状はアスペクト比の大きい繊維状であるため分散液の粘度が高くなり、ハンドリング性が悪い。また、粘度の低い状態での水への分散維持が可能な手法が望まれる。
特許文献4のセルロース粒子は、その表面が平滑であるため十分な表面積が得られず、セルロースに起因する特性が十分に発揮されない。
【0008】
以上から、本発明は、水分散液とした際に、繊維状の場合と比べて低粘度化が可能で、分散維持性を良好にすることができるセルロース粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1] 走査型プローブ顕微鏡で粒子表面を観察した際の所定基準長さの表面凹凸像において、検出された最大高さをHとしたときに、高さ0.05Hを超える変動を示すピークの数が10以上であり、粒度分布が単峰性を示すセルロース粒子。
[2] 前記粒度分布のメジアン径が1~50μmである[1]に記載のセルロース粒子。
[3] 前記単峰性のピークにおける半値幅が1~70μmである[1]又は[2]に記載のセルロース粒子。
[4] 比表面積が、10~100m/gである[1]~[3]のいずれかに記載のセルロース粒子。
[5] セルロースI型結晶構造を有する[1]~[4]のいずれかに記載のセルロース粒子。
[6] 前記セルロース粒子表面に、平均径が1~60nmである繊維状物が形成された、[1]~[5]のいずれかに記載のセルロース粒子。
[7] 前記セルロース粒子を2質量%の割合で水に分散させたセルロース粒子含有水分散スラリーの粘度が、B型回転式粘度計による25℃、60rpm、3分後の測定で、1000mPa・s以下である[1]~[6]のいずれかに記載のセルロース粒子。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載のセルロース粒子を水に分散させたセルロース粒子含有水分散スラリー。
[9] [1]~[7]のいずれかに記載のセルロース粒子と、樹脂又はゴム成分とを含む、樹脂複合体。
[10] [1]~[7]のいずれかに記載のセルロース粒子と、無機粒子とを含む、粒子混合体。
[11] セルロース粒子原料を含む原料分散流体を80~245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させる高圧噴射処理を行う高圧噴射処理工程を含み、該高圧噴射処理工程において、得られるセルロース粒子の粒度分布のメジアン径が1~50μmとなるまで前記高圧噴射処理を行うセルロース粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水分散液とした際に、繊維状の場合と比べて低粘度化が可能で、分散維持性を良好にすることができるセルロース粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例4のセルロース粒子のSPM(走査型プローブ顕微鏡)の結果であり、(a)はSPM像であり、(b)はSPM測定から求めた走査距離と高さとの関係を示す図で毛羽立ち指数の求め方を説明する説明図である。
図2】実施例5のセルロース粒子の電子顕微鏡写真である。
図3】比較例1のセルロース粒子の電子顕微鏡写真である。
図4】比較例2のセルロースの電子顕微鏡写真である。
図5】実施例5のセルロース粒子のSPM像である。
図6】比較例1のセルロース粒子のSPM像である。
図7】比較例2のセルロースのSPM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る一実施形態(本実施形態)を説明する。
【0014】
[セルロース粒子及びその製造方法]
本実施形態に係るセルロース粒子は、走査型プローブ顕微鏡で、粒子表面を観察した際の所定基準長さの表面凹凸像において、検出された最大高さをHとしたときに、高さ0.05Hを超える変動を示すピークの数が10以上となっている。
なお、本明細書において、上記変動を示すピークの数を毛羽立ち指数という。
【0015】
毛羽立ち指数とは、セルロース粒子の表面から細い繊維が突出している状態、すなわち毛羽立っている状態を示すもので、これが10以上であることで、セルロース粒子の表面が十分に毛羽立っているといえる。また、毛羽立ち指数が10以上であることで、毛羽立ちのない単なる球状粒子と比べて比表面積が大きくなって、セルロースの親水性部位が多く露出するようになり、それに起因した水への分散性が高くなると考えられる。
【0016】
毛羽立ち指数は、10以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましく、14以上であることがさらに好ましい。毛羽立ち指数は大きければ大きいほど好ましいが、実際的には上限は100程度になる。
走査型プローブ顕微鏡による毛羽立ち指数の測定方法は、具体的には実施例に記載の方法で測定することが好ましい。
【0017】
また、本実施形態に係るセルロース粒子は、その粒度分布が単峰性を示す。この「粒度分布が単峰性を示す」とは、粒度分布が単分散の状態であって、セルロース粒子の粒度分布のヒストグラムが一つの峰(ピーク)だけを示すことをいう。単峰性であることで、セルロース粒子が繊維状でなく粒子状であるといえる。粒子状であることで、繊維状の場合のような絡まりが生じなくなり、分散液とした際に、繊維状の場合と比べて低粘度化が可能でハンドリング性を良好にすることができる。
セルロース粒子の粒度分布は、後述の実施例に記載の方法で測定することが好ましく、測定する際の粒径範囲は0.1~500μmであることが好ましい。
【0018】
セルロース粒子の上記粒度分布のメジアン径は、1~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。メジアン径が1~50μmであることで、例えば、セラミックス又は金属バインダとして使用した場合に、圧縮成形時の成形性が高くなり、保形性の高い成形物に加工しやすくなる。
【0019】
また、既述の単峰性のピークの半値幅は1~70μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましい。半値幅が1~70μmという狭い範囲にあることで、粒径が揃っていることがいえ、水に均一分散させやすくなる。
なお、半値幅は、粒度分布曲線において、頻度分布の最大頻度の高さ(単峰性のピークトップ)の半分の高さにおける幅として測り求めることができる。
【0020】
本実施形態に係るセルロース粒子の比表面積は、10~100m/gであることが好ましく、20~100m/gであることがより好ましい。比表面積が10~100m/gであることで、水に分散させた際の粘度の上昇を抑え、ハンドリング性向上させることができる。また、比表面積が10~100m/gであることで、粒子表面のみがより繊維化し毛羽立っている状態となり、一方で完全には繊維化されず粒子形状を保ちやすくなると考えられ、その結果、増粘させずに水への安定分散が可能となる。
なお、セルロース粒子の比表面積は、後述の実施例に記載の方法により測定して求めることができる。
【0021】
本実施形態に係るセルロース粒子は、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。セルロースI型結晶構造は、セルロースII型、III型、IV型結晶構造と比べ、低線膨張係数、高弾性率、高強度といった特性を出しやすくなる。また、製造時にセルロースII型は、天然セルロースを濃アルカリ水溶液で処理し、セルロースIII型は液体アンモニア処理を行い、セルロースIV型はグリセロール中での280℃の加熱処理を行う必要がある。一方で天然セルロースをそのまま活用できるセルロースI型は、他の結晶構造に比べて、環境負荷が低い。
なお、セルロース粒子の結晶構造は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
本実施形態に係るセルロース粒子表面には、平均径が1~60nmである繊維状物が形成されてなることが好ましく、当該平均径は1~40nmであることがより好ましく、10~35nmであることがさらに好ましい。平均径が1~60nmである繊維状物が形成されてなることで、より細い繊維が毛羽立ち、単なる球状粒子と比べて、比表面積を大きくすることができる。
なお、セルロース粒子の上記平均径は、得られたセルロース粒子の水分散体をt-ブタノールに溶媒置換した後、凍結乾燥処理を行うことで乾燥試料を作製し、電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、装置名JSM-6700F)にて得られた画像データからセルロース表面の繊維100本を抽出し、繊維径の平均値を算出することにより求めることができる。
【0023】
本実施形態においては、セルロース粒子を2質量%の割合で水に分散させたセルロース粒子含有水分散スラリーの粘度が、B型回転式粘度計による25℃、60rpm、3分後の測定で、1000mPa・s以下であることが好ましく、800mPa・s以下であることがより好ましい。1000mPa・s以下の低粘度であることで取り扱い性を良好にすることができる。
【0024】
本実施形態のセルロース粒子は、セルロース原料から種々の製造方法により製造されたものがあるが、なかでも機械解繊で製造された機械解繊セルロース粒子であることが好ましい。機械解繊セルロース粒子は、セルロース原料をビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0025】
他方、セルロース原料を化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化する方法がある。例えば、TEMPO酸化のような化学修飾セルロースを用いると、微細化が促進されるため、粒子形状を保持できずに繊維状になり、セルロース粒子を得ることはできない。また、化学的処理の過程で含まれる金属イオンが不純物として働く可能性がある。金属イオンは、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀である。
【0026】
これに対し、機械解繊セルロース粒子は微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、粒子に何らかの影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。なお、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊セルロース粒子は重合度の低下が起きにくい。
【0027】
ここで、機械解繊セルロース粒子は、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
また、当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができるが、上記の少なくともいずれかで含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
【0028】
また、機械解繊セルロース粒子の重合度は、好ましくは50~900であり、より好ましくは50~800であり、さらに好ましくは、150~300である。重合度は、セルロースの最小構成単位であるグルコース単位の連結数であり、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法によって求められる。
【0029】
本実施形態に係るセルロース粒子は、下記のようにして製造することができる。すなわち、当該製造方法は、セルロース粒子原料を含む原料分散流体を80~245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させる高圧噴射処理を行う高圧噴射処理工程を含み、該高圧噴射処理工程において、得られるセルロース粒子の粒度分布のメジアン径が1~50μmとなるまで高圧噴射処理を行う。
以下、セルロース粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0030】
まず、セルロース粒子原料を含む原料分散流体となる、水に分散させたセルロース粒子原料のスラリーを調製する。セルロース粒子原料は、例えば、セルロースを機械粉砕して得られる繊維であり、当該セルロースとしては、結晶形がI型のセルロース(セルロースI型結晶構造)である木材パルプ等が用いられる。セルロースI型結晶構造は、分子量および結晶化度が低下しているセルロースII型よりも繊維が切断されにくく、また、耐熱性も高い。
【0031】
セルロース粒子原料を機械粉砕する方法としては、パルプをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミルなどを用いて、フィブリル化または微細化することで機械粉砕する方法が知られている。
【0032】
本実施形態においては、原料分散流体は、直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、80~245MPaの噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することで得られたものであることが好ましい。この解繊手法は、高速水噴流によるのせん断力、衝突力、キャビテーションを利用した解繊手法をウォータージェット法(WJ法)という。そして、この手法によれば、市販されている高圧ホモジナイザーのように、原料分散流体を所定の圧力と速度で狭い流路を通過させ、解放時に均質化させるせん断力だけではなく、衝突用硬質体に衝突させることによる衝突力や、キャビテーションを利用した、連続処理が可能である。
【0033】
本実施形態においては、80~245MPaで高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させる高圧噴射処理を行い、当該処理で得られるセルロース粒子の粒度分布のメジアン径が1~50μmとなるまで高圧噴射処理を行うことで、本実施形態のセルロース粒子が得られる。
【0034】
ここで、セルロース粒子の粒度分布のメジアン径が1~50μmとするには、80~245MPaとすることが好ましく、80~220MPaとすることがより好ましく、80~200MPaとすることがさらに好ましい。また、得られるセルロース粒子の粒度分布のメジアン径を1~50μmとするために、上記圧力範囲で高圧噴射処理を1回行うことを1パスとして、好ましくは1~15パス、より好ましくは1~10パスの繰り返し処理を行う。
【0035】
なお、高圧噴射の圧力を高くする場合は、パス回数を少なくし、圧力を低くする場合はパス回数を多くすることが好ましい。例えば、150MPaの場合はパス回数を3~10回、200MPaの場合はパス回数を1~3回(好ましくは1回程度)とし、セルロース粒子のメジアン径を1~50μmとすれば、本実施形態のセルロース粒子が効率よく得られる。また、このように圧力及び/又はパス数を調整することで、既述のメジアン径、比表面積、半値幅、平均繊維径等も所望の範囲に調整することができる。
【0036】
さらに、WJ法では、最大で40質量%の高濃度の原料分散流体を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することができ、一般的に行われている1~2質量%のナノファイバー化の工程に比べ、固形分当たりの処理量が飛躍的に向上することから、低コスト・環境低負荷・高効率でのセルロース粒子を得ることができる。
【0037】
上記のようにして得られたセルロース粒子は水分散体の状態にある。そこで、これを乾燥処理することで、本実施形態のセルロース粒子が乾燥した状態で得られる。
【0038】
また、凍結乾燥により乾燥状態のセルロース粒子としてもよい。凍結乾燥とは、セルロース粒子の水分散体を凍結状態のまま減圧して分散媒である水等を昇華させることによって材料を収縮させることなく乾燥することができる方法である。
【0039】
分散体の分散媒としては、水と有機溶媒の混合物を用いてもよい。有機溶媒としてアルコール類、カーボネート類が好ましい。有機溶媒を水と混合させることで、乾燥時のセルロース粒子同士の分散性を良好にすることができる。アルコール類及びカーボネート類としては、t-ブタノール及びエチレンカーボネート等が好ましい。分散体中の有機溶媒の含有量は、50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。有機溶媒への置換は遠心分離機により分離と置換を3回以上繰り返すことで、十分な溶媒置換が可能である。
【0040】
凍結方法は特に限定されないが、例えば、液体窒素等の冷媒の中に分散体を入れて凍結させる方法、大気圧下で分散体を低温雰囲気において凍結させる方法、減圧下で水分散体を低温雰囲気下に置いて凍結させる方法がある。水分散体の凍結温度は、-20℃以下が好ましく、-30℃以下であることがより好ましい。凍結乾燥は凍結後に水を昇華させるが、減圧下でないと乾燥が遅くなってしまう。減圧時の圧力は0.10kPa以下が好ましく、0.05kPa以下がより好ましい。
【0041】
上述した方法で得られた乾燥状態のセルロース粒子の保存温度は、4~40℃が好ましく、4~30℃がさらに好ましい。圧力は、常圧で保管することが好ましい。湿度は、70%以下が好ましく、60%以下がさらに好ましい。
セルロース粒子を保存する場合は、例えば、アルミパウチなどの袋や密封できる容器に添加し、密封後、保存することが好ましい。また、アルミパウチや密封した容器は、そのままの形態で輸送することができる。
【0042】
[セルロース粒子含有水分散スラリー]
本実施形態に係るセルロース粒子含有水分散スラリーは、既述のセルロース粒子を水に分散させたセルロース粒子含有水分散スラリーである。
当該セルロース粒子含有水分散スラリーは、乾燥状態とする前のセルロース粒子を含有した水分散であってもよく、又は、本実施形態に係る、乾燥状態のセルロース粒子を水に分散させて得た水分散体であってもよい。
【0043】
当該水分散スラリー中のセルロース粒子の含有量は、経済性と品質安定性の観点から、1~50質量%であることが好ましく、5~35質量%であることがより好ましい。
【0044】
[樹脂複合体及び粒子混合体]
本実施形態に係る樹脂複合体は、既述の本実施形態のセルロース粒子と、樹脂又はゴム成分とを含む。
【0045】
樹脂としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、酢酸ビニル樹脂(PVAC)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂(EP)、ケイ素樹脂(SI)、アルキド樹脂(ALK)、ポリイミド(PI)、ポリアミノビスマレイミド(PABI)、カゼイン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂(PUR)等が挙げられる。ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジェンゴム(BR)、スチレン・ブタジェンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM、EP、EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM、ANM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム(PUR、U)、シリコーンゴム(Si、Q、VMQ、SR)、フッ素ゴム(FKM、FPM)、エチレン・酢酸ビニルゴム(EVA)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多流化ゴム(T)等が挙げられる。
【0046】
樹脂複合体中のセルロース粒子の含有量は、0.01~70質量%であることが好ましい。
【0047】
また、本実施形態に係る粒子混合体は既述の本実施形態のセルロース粒子と、無機粒子とを含む。無機粒子としては、ベーマイト、アルミナ、アルミドープ酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、酸化ホウ素、窒化ホウ素、酸化ビスマス、炭酸カルシウム、水酸化リン酸カルシウム、酸化セリウム、フッ化セリウム、酸化コバルト、硝酸セシウム、水酸化セシウム、炭酸セシウム、フッ化セシウム、ヨウ化セシウム、塩化セシウム、硫酸セシウム、酸化銅、酸化ジスプロシウム、酸化エルビウム、酸化ユウロピウム、酸化鉄、酸化ガドリニウム、フッ化ガドリニウム、酸化ホルミウム、酸化インジウムスズ、スズドープ酸化インジウム、酸化インジウム、六ホウ化ランタン、酸化ランタン、フッ化ランタン、酸化ルテチウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、塩化マンガン、酸化モリブデン、塩化モリブデン、炭化モリブデン、酸化ニオブ、酸化ネオジム、酸化ネオジム、フッ化ネオジム、酸化ニッケルナノ、酸化プラセオジム、フッ化プラセオジム、炭酸ルビジウム、硝酸ルビジウム、塩化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、フッ化ルビジウム、水酸化ルビジウム、硫酸ルビジウム、リン酸ルビジウム、シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化サマリウム、酸化スズナノ、酸化スカンジウム、アンチモンドープ酸化スズ、炭酸ストロンチウム、酸化タンタル、酸化テルビウム、酸化ツリウム、酸化チタン、酸化タングステン、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化亜鉛、酸化亜鉛、ジルコニア等が挙げられる。
【0048】
粒子混合体におけるセルロース粒子と無機粒子との質量割合(セルロース粒子/無機粒子)は、1/99~99/1であることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係るセルロース粒子、あるいは、本実施形態に係る樹脂複合体若しくは粒子混合体の応用例としては、下記のようなものが挙げられる。
【0050】
(賦形剤)
セルロースは医薬品添加物として広く用いられている。味がなく、化学的に不活性であることから薬物と混合した場合に変化がなく、優れた賦形剤となる。また、打錠機で圧縮すると、粒子が絡み合い容易に成型できること、水分により容易に崩壊すること、流動性がよいことから、錠剤の結合剤、崩壊剤としても優れている。医薬品以外に、乳化安定剤として化粧品、乳製品などの食品、その他工業用にも広く用いられている。表面に繊維構造を有する本実施形態のセルロース粒子は、その比表面積が高く、圧縮性をさらに改善が期待できる。既存品と差別化した徐放性制御等、賦形剤としての活用が期待できる。
【0051】
(食品添加物)
微結晶セルロースは、飲料において沈降防止、分離防止、乳化安定、沈降物の固結防止を目的に添加されている。また固形の食品においては保形性改善、割れ防止、剥離性付与、気泡安定などを目的に添加されている。特に飲料においては、多糖を配合することでコロイド分散を維持していたが、表面に繊維状構造を有するセルロース粒子では、セルロース単体での処方が可能である。また、その比表面積が高いことから乳化安定性向上が期待できる。
【0052】
(化粧品)
特にスクラブ剤としての利用が想定される。本実施形態のセルロース粒子は表面に繊維状構造を有するため、平滑な真球状粒子よりも洗浄性が向上する。またセルロースは水と油のような混じり合わないもの同士の境界面で働き、均一な状態を作る乳化作用を持つことから、洗浄剤の高機能化が期待できる。
【0053】
ここで、スクラブ剤を含有する化粧品の用途としては石鹸、洗顔フォーム、洗顔パウダー、オイルクレンジング、ジェルクレンジング、クリームクレンジング、ポイントリムーバー、美容液、乳液、フェイスクリーム、フェイスオイル・バームリップケア、洗い流すパック・マスク、シートパック・マスク、ゴマージュ・ピーリング、マッサージ料、アイケア、まつげ美容液、シャンプー、コンディショナー、ヘアパック・トリートメント、洗い流さないトリートメント、頭皮ケア、ボディ洗浄料、ボディローション・ミルク、ボディクリーム・オイルボディスクラブ、バスト・ヒップケア、レッグ・フットケア、ハンドケア、その他ボディケア、顔用日焼け止め、BBクリーム、化粧下地、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション、コンシーラー、ルースパウダー、プレストパウダー、その他ファンデーション、口紅、リップグロス、リップライナー、パウダーチークジェル・クリームチーク、アイブロウペンシル、パウダーアイブロウ、眉マスカラ、その他アイブロウ、リキッドアイライナー、ペンシルアイライナー、ジェルアイライナー、その他アイライナー、マスカラ、マスカラ下地・トップコート等への利用が挙げられる。
【0054】
(乳化剤)
水と油のように互いに溶け合わない2つの液体を激しく混ぜると、一方の液体が他方の液体中に微粒子となって分散する現象を乳化といい、その結果生成した液体をエマルションと呼ぶ。例えば塗料や接着剤ではVOC(揮発性有機化合物)排出抑制をはじめとした環境保全の観点から溶剤系塗料から水性塗料への置き換えが進められており、乳化剤は重要な技術となっている。また燃料油(重油や灯油・軽油・廃油等)では水と界面活性剤を添加し、機械的に攪拌してオイル中に水を分散させたエマルション燃料の開発が進んでおり、使用燃料が大幅に削減されるため、二酸化炭素の排出削減効果が期待されている。さらに、油脂を粉末化した粉末状油脂の製造にも油脂類と水を溶かした乳化剤、タンパク質、澱粉等を配合して水中油型エマルジョンを作製後、噴霧乾燥して製造されている。表面繊維状の本実施形態のセルロース粒子は、強い乳化作用があり、水と油の成分を乳化安定させる乳化剤として上記の用途への応用が期待できる。その他、切削油、潤滑剤、グリース等への応用が考えられる。
【0055】
(研磨剤)
研磨材には様々なものがあるが、特に液体に混ぜて遊離砥粒として使うものへの利用が想定される。遊離砥粒は液体の研磨剤であり、主にラッピングのスラリーとして使われる。砥粒は固形だが、それを保持するボンドがなく、水や油のほか、特殊な溶剤に混ぜて使われる場合がある。研磨剤としてはセリウム、コロイダルシリカ、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)等が挙げられる。これら使用する研磨剤の液体へ分散安定化が期待できる。
【0056】
(樹脂・ゴム用フィラー)
本実施形態のセルロース粒子は、樹脂やゴムの添加剤として既存のセルロース粒子よりも比表面積が高く、表面の繊維構造により、密着性が向上し、強度の向上が期待される。またマイクロ径の粒子であるため樹脂への分散性が高く、アスペクト比の高いフィラーと比べ、樹脂の流動性を下げることなく、高充填化が期待できる。
【0057】
(木粉等バイオマス素材のバインダ)
木粉は主にウッドプラスチックの原料用途で使用されている。木粉とポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの熱可塑性プラスチックを加熱下で混練し、成形させた混練型ウッドプラスチックは、林地残材等の未利用木質バイオマスや廃棄物を原料にできることから、環境資材として近年注目されている。しかし、バインダとして樹脂を使用する必要があるため、完全な環境対応型の素材ではない。樹脂の代替として本実施形態の表面繊維構造を有するセルロース粒子を利用することで、木粉を圧縮成形し、オールバイオマスでできた成形体を作製が期待できる。
【0058】
(金属粉のバインダ)
粉末冶金では金属粉末を金型に入れて圧縮して固め、高温で焼結して精度の高い部品を造ることができる。金属粉の圧縮成形性の改善や潤滑性を向上させるためにステアリン酸亜鉛、アマイドワックス等のワックス剤を添加して圧縮成形されるが、表面に繊維形状を有する本実施形態のセルロース粒子はその代替として使用でき、焼結前の成形体であるグリーンボディの強度を向上できる。また、磁性材料などでは焼結を行わず、金属粉末とバインダを圧縮成形して製品化する部材もあり、このような部材への応用は最適である。インクジェット技術を利用したバインダージェットによる金属成形技術の開発が進められており、金属粉のバインダとして利用することも考えられる。
【0059】
その他、チタンに混合することで、チタンの高強度化が期待できる。代表的なチタン合金としては、例えば、汎用のTi-6Al-4V(64チタン合金)等があるが、このようなチタン合金や強化チタンには、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、B(ホウ素)などの希少金属が使用されているため、希少金属を使用しないで強度を高める方法が求められていた。比表面積が高い本実施形態のセルロース粒子を用いることで、セルロースは炭素として複合化され、マトリックス中に酸素原子が拡散すると共に、TiC粒子が分散した組織を有することで強度向上が期待できる。
【0060】
(鋳物砂のバインダ)
鋳造用に使用される砂型は無機ベースの結合剤(水ガラス)を用いて成形しているが、使用後の鋳物砂をリサイクルできず大量の廃棄物が出るという課題がある。表面に繊維構造を有する本実施形態のセルロース粒子でコートすることで、鋳物砂の再利用につなげる。また有機高分子バインダの置き換えにより、COの排出削減が期待できる。
【0061】
(セラミックスバインダ)
セラミックスの製造工程では、バインダとして有機高分子が使用されている。溶媒、有機高分子バインダ、助剤、原料粉末を混合分散させた後に、乾燥、成形、脱脂後に焼結し、セラミックス製品が製造される。バインダは成形体への形状強度維持、助剤は形状の緻密化や機能発現を補助が目的で添加されているが、乾燥、脱脂工程において、COの発生源となっており、発生したガスの排ガス処理が必要である。このため環境負荷の面から有機バインダを別のものに置き換える研究が進められている。表面に繊維状構造を有するセルロース粒子は比表面積が高く、圧縮成形性に優れるためバインダとしてセラミックスへの活用が期待できる。
【0062】
(3Dプリンタ)
3Dプリント技術として、金属、樹脂、ゴム、鋳造用砂型などの3次元成形技術が報告されている。それらの成形加工にはバインダによって形を成形する手法があり、対象物を成形加工するバインダとしての利用が期待できる。
【0063】
(二次電池用の正極活物質)
リチウムイオン電池(LiB)の正極はリチウムを含む酸化物粉末(LiCoO,LiNiO,LiMnOなど)が、導電性黒鉛(主にカーボンブラックなど)および結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)などと共に塗布されて使用されている。正極物質を製造する過程で、本実施形態の表面繊維状セルロース粒子を炭素源として利用でき、水酸化Liと混合し、製造工程を経ることで、体積エネルギー密度に優れる正極を得ることのできる高機能なリチウムイオン電池正極材への応用が期待できる。
【0064】
(食品廃棄物のバインダ)
食品廃棄物を再使用した部材の開発が進められている。野菜や果物など廃棄食材を乾燥後に粉砕し、適量の水を加えて熱圧縮成形することで、建設材料としても十分な強度を有する素材製造の技術が報告されている。同様に食品廃棄物の乾燥粉のバインダ材として表面に繊維状構造を有する本実施形態のセルロース粒子を使用することで、オールバイオマスで製造した部材開発が期待できる。
【0065】
(紙への添加剤)
紙を製造する時に一緒に漉きこむ、または表面にコーティングすることで高機能化を図ることができる。効果としては紙力増強、顔料の塗工性向上、光散乱性制御、サイズ剤、バリア剤、工程改善、ピッチコントロール剤としての利用が期待できる。
【0066】
(パルプモールド素材)
パルプモールドは、植物繊維(パルプ)を水で溶かし絡み合わせて、金型で抄き上げた後、乾燥させてできる紙成形品であり、緩衝材などに多く使われている技術である。原料にはパルプ、新聞・雑誌・ダンボール・印刷用紙などの古紙を使用する技術である。これらの原料に表面に繊維状構造を有する本実施形態のセルロース粒子を添加することでより補強性の高い成形体の作成が期待できる。また、PIM(パルプインジェクションモールド)という技術では、射出成形によってパルプを成形することができる。パルプモールドが繊維と水だけを混濁した材料を使用するのに対して、PIMでは結合剤としての澱粉を添加する。パルプ繊維と澱粉で調整された材料は、固形のペレットとして成形機に供給され、プラスチックの成形品のように、勘合構造やボス・リブなど、複雑な構造を成形できる。これらの素材に本実施形態のセルロース粒子を添加することで、精度が高く、高強度な製品の製造が期待できる。
【実施例0067】
[実施例1~5、比較例1、比較例2]
セルロース粒子原料として粉末セルロース(粒径5~45μm)を用い、当該セルロースを2質量%(実施例1~4、比較例1)若しくは25質量%(実施例5)の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製した。この分散液を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製スターバースト、WJ法)にて、150MPa(実施例1~4)若しくは200MPa(実施例5、比較例2)で高圧噴射処理を表1に示す回数実施して、セルロース粒子の水分散体(セルロース粒子含有水分散スラリー)を作製した。また、高圧噴射処理をしないセルロース粒子原料を比較例1とした。
【0068】
各例のセルロース粒子、比較例1のセルロース粒子原料について、下記の分析を行った。
(X線結晶回折)
水分散体をt-ブタノールに溶媒置換後に、凍結温度-20℃で凍結させた後に、圧力0.05kPa以下にて凍結乾燥させることで乾燥粉末試料を得た。
乾燥粉末試料を用いて、セルロース粒子の結晶構造を調べた。測定装置として株式会社リガク製の全自動水平型多目的X線回折装置「Smart Lab」を用いた。セルロースI型結晶構造を有していることは、CuKα(λ=1.542184Å)を用いたX線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=15~17°付近及び2θ=22~23°付近の2か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。また、セルロースII型結晶構造を有していることは、CuKα(λ=1.542184Å)を用いたX線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=11~13°付近、2θ=19~21°付近及び2θ=21~23°付近の3か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。結果を表1に示す。
【0069】
(重合度測定)
セルロースの重合度は、粘度法を用いて測定した。具体的には、既述のようにt-ブタノールに置換後に凍結乾燥したセルロース乾燥粉末を得た後、各セルロース乾燥粉末のサンプルを銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、オストワルド粘度計を用いて、溶媒に対する溶液の相対粘度から、固有粘度を求め、各セルロースの分子量(粘度平均分子量)を算出した。
【0070】
(粒度分布測定)
セルロース粒子のメジアン径(体積基準の頻度の累積が50%になる粒子径)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定方法(堀場製作所社製、装置名:LA-960)で求めた。得られたセルロース粒子の水分散体について、終濃度が0.5質量%になるようにイオン交換水で調整し、ワーリングブレンダ(WARING社製、装置名:7012S)で3400rpm、5分間の条件で処理した後、測定前に超音波による分散処理を1分間実施し、粒度分布測定を行った。半値幅は粒度分布測定で得られる山形のピークに対して、得られた最大頻度の半値をとったときの幅とした。粒径の測定範囲は0.1~500μmとした。結果を表1に示す。
なお、粒度分布測定においてピークが1つの単峰性である場合は、半値幅を測定したが、ピークが複数ある多峰性の場合は半値幅を測定しなかった。
比較例2、4、6では、電子顕微鏡画像から繊維形状が観察された。粒度分布測定では、粒子が球形であると仮定して計算された回折・散乱光の光強度分布パターンに基づいて粒度分布を求めているため、繊維状の物質を測定した場合は、その短径と長径を検出し、多峰性のピークとなる。このため比較例2、4、6のメジアン径は特定できなかった。
【0071】
(SPM測定)
0.2質量%に調整されたセルロース粒子の水分散液に超音波ホモジナイザーを10秒かけ、希釈した水分散体を雲母の上に7μL滴下し、風乾した。その後、雲母上のセルロース粒子の表面を、(株)島津製作所製走査型プローブ顕微鏡であるSPM‐9700のダイナミックモード(DFM)にて測定した。カンチレバーはOMCL-AC240TS(オリンパス社製、バネ定数約2N/m、共振周波数70kHz)を用いた。
【0072】
図1は実施例4のセルロース粒子の例であるが、図1(a)の画像のように5μm×5μmの視野から、図1(b)に示すような所定基準長さ(=5μm)の表面凹凸像を得て、検出された最大高さをH(図1(b)の場合は、H=239.17nm)としたときに、高さ0.05H(図1(b)の場合は、0.05H=11.96nm)を超える変動(増加方向若しくは減少方向)を示すピークの数を毛羽立ち指数として求めた。図1(b)の場合は、下方向矢印で示されたものがピークとなり、これらの数は18となる。毛羽立ち指数の測定は、4カ所で行い、その平均を毛羽立ち指数とした。
上記のような手順で各例の毛羽立ち指数を求めた。結果を表1に示す。
【0073】
(比表面積測定)
既述のようにt-ブタノールに置換後に凍結乾燥した乾燥粉末を用いて、比表面積測定を行った。比表面積測定は自動比表面積/細孔分布測定装置(micromeritics製、装置名:トライスターIIを用いてBET多点法により測定した。
【0074】
(粒子表面繊維(繊維状物)の平均径測定)
既述のようにt-ブタノールに置換後に凍結乾燥した乾燥粉末を用いて、表面繊維状物の平均径の測定を行った。表面繊維状物の平均径の測定は、電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、装置名JSM-6700F)にて得られた画像データから表面繊維100本を抽出し、繊維径の平均値を算出することにより測定した。比較例1~6について、セルロース表面に繊維状物を確認できなかった。また、比較例2、4、6は粒子状ではなく細長い繊維状をなしており、セルロース表面の繊維ではなく、セルロース自体が繊維状になって存在していることが確認できた。比較例2、4、6について、既述の方法で繊維の平均径を測定した結果、比較例2が14.51nm、比較例4が16.05nm、比較例6が15.66nmであった。
【0075】
(水への分散安定性評価)
セルロース水分散体はセルロース粒子を2質量%濃度に調整後、ガラス容器に移し、30分、1時間、3時間経過後の沈殿状況を評価した。静置後の沈殿が生じる時間により水への分散安定性を評価した。結果を表1に示す。なお、評価基準は下記のとおりである。
【0076】
-評価基準-
◎:3時間経過後でも沈殿が発生せず、安定していた。
〇:30分経過後は沈殿が発生しなかったが、1時間経過後に沈殿が発生した。
△:30分経過後に沈殿が発生した。
×:分散直後(静置後すぐに)に沈殿が発生した。
当該評価は、〇及び◎であれば合格である。
【0077】
(粘度測定)
回転式粘度計(ブルックフィールド製、装置名DV-IPrime)を用いて粘度測定を実施した。セルロース粒子が25質量%のサンプルは、2質量%に濃度希釈後、ワーリングブレンダ(WARING社製、装置名:7012S)で8400rpm、5分間の条件で処理し、2質量%のサンプルを得た。セルロース粒子を2質量%としたサンプルは100mlのディスポカップ(アズワン製、型式5-077-01)に擦切り量を準備し、25℃の恒温槽内に一日静置後に測定した。測定条件は25℃、60rpm、3分間経過後の粘度とした。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
図2の実施例5の顕微鏡写真から、粒子径が非常に小さくなり、表面に毛羽立った形状が多く確認できる。図3の比較例1の顕微鏡写真では、表面形状が滑らかであることが確認できた。また、SPM像についても、図5の実施例5の場合は、図6の比較例1と比べて、表面には多数の繊維状構造が確認できた。さらに、図4の比較例2の顕微鏡写真から明らかなように、高圧噴射処理の条件が実施例に比べて高圧でパス回数も多いため、粒子形状が維持できず、細長い繊維状にほぐれてしまっていることが確認できた。また、SPM像についても、図5の実施例5では数μmの粒子から毛羽立ち構造が観察できるのに対して、図7の比較例2では数μmの粒子構造が観察できず、繊維状構造のみが確認できるため、粒子形状は維持できず繊維状であった。
【0080】
[実施例6~9、比較例3,4]
セルロース粒子原料として結晶性セルロース粒子(粒径10~250μm)を用い、当該セルロースを2質量%の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製した。この分散液を用いて、表2に示す圧力、パス回数とした以外は、実施例1と同様にして、セルロース粒子を作製し、各測定を行った。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
[実施例10~13、比較例5,6]
セルロース粒子原料として粉末セルロース(粒径50~300μm)を用い、当該セルロースを2質量%の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製した。この分散液を用いて、表3示す圧力、パス回数とした以外は、実施例1と同様にして、セルロース粒子を作製し、各測定を行った。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7