(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013426
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】空気ばね用ダイヤフラム、鉄道車両用空気ばね、鉄道車両用懸架装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20230119BHJP
B61F 5/10 20060101ALI20230119BHJP
F16F 9/05 20060101ALI20230119BHJP
F16J 3/02 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
F16F9/32 V
B61F5/10 C
F16F9/05
F16J3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117600
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】517413605
【氏名又は名称】ニッタ化工品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】坂口 直紀
【テーマコード(参考)】
3J045
3J069
【Fターム(参考)】
3J045AA04
3J045AA06
3J045BA02
3J045CA07
3J045CA20
3J069AA28
3J069DD39
(57)【要約】
【課題】部品点数や重量の増加が極力生じないようにしながら、繰り返しの捩じり変形によるダイヤフラムのシワを防止又は抑制して耐久性向上に寄与できるように改善された鉄道車両用空気ばねを提供する。
【解決手段】車体側の上支持部と、台車側の下支持部と、上支持部と下支持部とに亘って配備される環状のダイヤフラム3とを有する鉄道車両用空気ばねAであって、ダイヤフラム3は、可撓性を有する材料からなる主材層3sと、ダイヤフラム周方向に沿って延びる状態で主材層3sに埋設される補強層3hとからなり、補強層3hのダイヤフラム周方向の端部どうし7a,7aを所定長さで重ねた重複部Jが、ダイヤフラム軸心P方向に対して傾いた方向に延びる状態に設けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被懸架側の第1支持部に嵌着可能な環状の一方のビード部と、懸架側の第2支持部に嵌着可能な環状の他方のビード部と、前記一方のビード部と前記他方のビード部との間の筒状の本体部とを有する弾性材でなる空気ばね用ダイヤフラムであって、
前記本体部は、可撓性を有する材料からなる主材層と、本体部周方向に沿って延びる状態で前記主材層に埋設される補強層とからなり、
前記補強層の本体部周方向の端部どうしを所定長さで重ねた重複部が、ダイヤフラム軸心方向に対して傾いた方向に延びる状態に設けられている空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項2】
前記補強層は、第1補強層と、前記第1補強層の径外側に配置される第2補強層とからなるとともに、前記第1補強層と前記第2補強層のそれぞれに前記重複部が形成されている請求項1に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項3】
前記第1補強層に形成される第1重複部と、前記第2補強層に形成される第2重複部とが、ダイヤフラム軸心方向に対して互いに異なる方向に傾いた状態に形成されている請求項2に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項4】
前記重複部は、ダイヤフラム軸心に対して左右対称となる状態に形成されている請求項3に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項5】
前記重複部は、前記第1重複部と前記第2重複部とが重なるクロス部位を有している請求項2~4の何れか一項に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項6】
前記クロス部位は、前記本体部の下部に配置されている請求項5に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の空気ばね用ダイヤフラムが、前記一方のビード部が嵌着される車体側の前記第1支持部と、前記他方のビード部が嵌着される台車側の前記第2支持部と、に亘って架設されてなる鉄道車両用空気ばね。
【請求項8】
請求項7に記載の鉄道車両用空気ばねが、前記第1支持部が支持される鉄道車両と、前記第2支持部が支持される台車と、の上下間に組付けられるとともに、
前記鉄道車両用空気ばねは、前記ダイヤフラムに捩り力が作用する箇所に前記重複部が合せられる状態で組付けられている鉄道車両用懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にダイヤフラムの強度や剛性の改良が施された空気ばね用ダイヤフラム、鉄道車両用空気ばね、及び鉄道車両用懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用空気ばねは、特許文献1や特許文献2において開示されるように、車体側の上支持部と、台車側の下支持部と、上支持部と下支持部とに亘って配備される環状のダイヤフラムとを有して構成されている。多くの場合、積層ゴムなどの弾性体を空気ばねの下側に伴った構成とされている。
【0003】
鉄道車両用空気ばねは、ボルスタレス台車に適用されることが多く、ダイヤフラムには上下方向の荷重だけでなく、曲線走行などにより捩り荷重も作用する。従って、ダイヤフラムには、より高強度及び高剛性が要求されてきているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-15235号公報
【特許文献2】特開2013-241990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイヤフラムには、上下荷重だけでなく捩り荷重も繰り返し作用するので、場合によってはシワが生じることがある。曲線走行などによるボルスタレス台車と鉄道車両との相対回動は、ダイヤフラムの捩じり変形やズレ変位によって吸収させているので、使用に伴ってダイヤフラム表面に折れ込みが発生する。そして、それが繰り返されることによって折れ込みの跡が、即ち、シワが残る現象が生じる不都合がある。
【0006】
シワ発生の対策としては、ダイヤフラムの剛性を上げることが効果的であり、その手段としては、補強層の数、即ちプライ数(積層数)を増すことが挙げられる。しかしながら、プライ数を増加させる手段では、部品点数や重量も増加してしまう難点がある。
【0007】
本発明の目的は、部品点数や重量の増加が極力生じないようにしながら、繰り返しの捩じり変形やズレ変位によるダイヤフラムのシワを防止又は抑制して耐久性向上に寄与できるように改善された鉄道車両用空気ばねを提供する点にある。そして、鉄道車両用空気ばねに用いられる空気ばね用ダイヤフラムや、鉄道車両用空気ばねを用いた鉄道車両用懸架装置の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被懸架側の第1支持部1に嵌着可能な環状の一方のビード部3Aと、懸架側の第2支持部2に嵌着可能な環状の他方のビード部3Bと、前記一方のビード部3Aと前記他方のビード部3Bとの間の筒状の本体部3Cとを有する弾性材でなる空気ばね用ダイヤフラムにおいて、
前記本体部3Cは、可撓性を有する材料からなる主材層3sと、本体部周方向に沿って延びる状態で前記主材層3sに埋設される補強層3hとからなり、
前記補強層3hの本体部周方向の端部どうしを所定長さで重ねた重複部Jが、ダイヤフラム軸心P方向に対して傾いた方向に延びる状態に設けられていることを特徴とする。
【0009】
前記補強層3hは、第1補強層7と、前記第1補強層7の径外側に配置される第2補強層17とからなるとともに、前記第1補強層7と前記第2補強層17のそれぞれに前記重複部Ji,Joが形成されていると好都合である。前記第1補強層7に形成される第1重複部Jiと、前記第2補強層17に形成される第2重複部Joとが、ダイヤフラム軸心P方向に対して互いに異なる方向に傾いた状態に形成されているとより好都合である。
【0010】
前記重複部Jは、ダイヤフラム軸心Pに対して左右対称となる状態に形成されていれば好都合である。前記重複部Jは、前記第1重複部Jiと前記第2重複部Joとが重なるクロス部位19を有していると好都合であり、前記クロス部位19は、前記本体部3Cの下部に配置されていればさらによい。
【0011】
第2の本発明は、鉄道車両用空気ばねにおいて、
本発明による前記空気ばね用ダイヤフラム3が、前記一方のビード部3Aが嵌着される車体側の前記第1支持部1と、前記他方のビード部3Bが嵌着される台車側の前記第2支持部2、とに亘って架設されてなることを特徴とする。
【0012】
第3の本発明は、鉄道車両用懸架装置において、
第2の本発明による鉄道車両用空気ばねAが、前記第1支持部1が支持される鉄道車両25と、前記第2支持部2が支持される台車24と、の上下間に組付けられるとともに、
前記鉄道車両用空気ばねAは、前記ダイヤフラム3に捩り力が作用する箇所に前記重複部Jが合せられる状態で組付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、主材層に埋設される補強層の本体部周方向(ダイヤフラム周方向)の端部どうしを本体部周方向(ダイヤフラム周方向)での所定長さで重ねた重複部が設けられているので、重複部では、2つ補強層が重なって剛性が増強された状態になっている。
【0014】
従って、重複部が、捩り変形される箇所やそれによるシワの出来やすい箇所に合致するようにして組み込まれた本体部を有するダイヤフラムとすれば、ダイヤフラムに捩り変形が繰り返されても、剛性アップされた重複部により、その主に本体部に生じていたシワの生成が解消又は抑制されるようになる。そして、重複部は、ダイヤフラム軸心方向に対して傾いた方向に延びているので、捩り変形が生じる箇所に沿ったものにでき、より有効に捩り変形やシワの生成を抑制することができる。しかも、剛性増強手段である重複部は、補強層の端部どうしを重ねるだけであるから、部品点数は増えず重量増も殆ど無い。
【0015】
その結果、部品点数や重量の増加が極力生じないようにしながら、繰り返しの捩じり変形による本体部(ダイヤフラム)のシワを防止又は抑制でき、耐久性向上に寄与できるように改善された空気ばね用ダイヤフラム、鉄道車両用空気ばね及びそれらを用いた鉄道車両用懸架装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】部品の状態にある空気ばね用ダイヤフラムを示す一部切欠きの側面図
【
図2】空気ばね用ダイヤフラムの構造を示し、(A)重複部の断面図、(B)本体部の断面図
【
図3】(A)上ビード部の構造を示す要部の断面図、(B)下ビード部の構造を示す要部の断面図
【
図4】補強層を示し、(A)第1補強層のみの側面図、(B)第1補強層に第2補強層が重ねられた状態の側面図
【
図5】積層ゴムによる弾性部を有する鉄道車両用空気ばね及び鉄道車両用懸架装置の構造を示す断面図
【
図7】コニカルストッパーによる弾性部を有する鉄道車両用懸架装置を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明による空気ばね用ダイヤフラム、鉄道車両用空気ばね及び鉄道車両用懸架装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。以下において、基本的には、空気ばね用ダイヤフラムは「ダイヤフラム」、鉄道車両用空気ばねは「空気ばね」とそれぞれ略称する。
【0018】
空気ばね(鉄道車両用空気ばね)Aは、
図5に示されるように、鉄道車両用懸架装置Sを構成する1つの要素である。即ち、鉄道車両用懸架装置Sは、空気ばねAと、その下に配置される弾性ばねBとからなり、縦向きの軸心(=ダイヤフラム軸心)Pを有する上下二段構造の懸架装置として、台車24と鉄道車両25との上下間に介装される状態(
図6を参照)で構成されている。
【0019】
空気ばねAは、
図5に示されるように、被懸架側である鉄道車両(車体の一例であって、詳しい図示は省略)25側となる上支持部(第1支持部の一例)1と、その下方に配置される懸架側である台車24側となる下支持部(第2下支持部の一例)2と、上支持部1と下支持部2とに亘って配備されるダイヤフラム(空気ばね用ダイヤフラム)3とを備えて構成されている。ダイヤフラム3は、ゴムなどの可撓性を有する材料からなる。
弾性ばねBは、台車(図示省略)に支持される台座部4と前述の下支持部2との上下間に形成される積層ゴム構造の弾性部5を有して構成されている。
【0020】
上支持部1は、軸心P方向視で円形を呈する上部鋼板1aと、これの下面に固着される有底筒状の補強部1bと、支軸1c等から構成されている。補強部1bの径外側で、かつ、上部鋼板1aの径外側及び下面側には、ゴム(弾性材の一例)製でリング状の受止め部6が一体に装備されている。軸心Pを有する支軸1cは、補強部1bから上部鋼板1aを貫通して上方突出する状態で取付けられ、客車等の車体(図示省略)に支持される。
【0021】
受止め部6は、ダイヤフラム3の上部3aを広い面積でもって弾性的に受け止め可能に構成されている。補強部1bの下面には、ステンレス鋼板等の滑り性の良い材料製の上摺動板8が取付けられている。なお、受止め部6とダイヤフラム3との上下間に、フッ素樹脂(PTFE)などの低摩擦特性を有する材料製の摺動シートを設けてもよい。
【0022】
下支持部2は、リング状の下部基板2aと、これの上面側にボルト止めされる上部規制板2bとから構成されている。ダイヤフラム3の下端側は、軸心Pに関する径の内側で、かつ、上向きに折り返されて下ビード部3Bに形成されている。下ビード部3Bは、下部基板2aの外周部に固定される下受座9に載せ付けて受け止め支持されている。下受座9は、鋼板製の補強部11と、これの上に積層されるゴム製の受部材12とから構成され、下部基板2aの上面側の外周部に設けられている。上部規制板2bの上面には、フッ素樹脂(例:PTFE)製の板材等の滑り性の良い材料製の下摺動板10が取付けられている。
【0023】
台座部4は、支軸1cと互いに同じ軸心Pを有する筒軸13と、筒軸13の上部に嵌合一体化されるフランジ板14とで形成されており、筒軸13が台車枠(図示省略)に支持される。弾性ばねBは、台座部4のフランジ板14と下支持部2の下部基板2aとの上下間に、円筒状のゴムでなる弾性層15と金属板でなる硬質板16とを交互に複数ずつ重ねて一体化して成る中空の積層ゴムに構成されている。
【0024】
ダイヤフラム3は、上支持部1に嵌着される上ビード部3Aと、下支持部2に嵌着される下ビード部3Bと、上ビード部3Aと下ビード部3Bとの間の本体部3Cとを備えた環状(筒状)の膜体である。上ビード部3Aは、上部鋼板1aと補強部1bとでなる下外向き開放状の隅周部(符記省略)に嵌め込まれている。下ビード部3Bは、ダイヤフラム3の下端側を軸心Pに関する径の内側で、かつ、上向きに折り返された箇所の端部であり、下部基板2aと上部規制板2bとでなる上外向き開放状の隅周部(符記省略)に嵌め込まれている。
【0025】
空気ばね(鉄道車両用空気ばね)Aは次のように定義することができる。車体側の上支持部1と、台車側の下支持部2と、前記上支持部1と前記下支持部2とに亘って配備される環状のダイヤフラム3とを有する鉄道車両用空気ばねAであって、
前記ダイヤフラム3は、可撓性を有する材料からなる主材層3sと、ダイヤフラム周方向に沿って延びる状態で前記主材層3sに埋設される補強層3hとからなり、
前記補強層3hのダイヤフラム周方向の端部どうし7a,7aを所定長さで重ねた重複部Jが、ダイヤフラム軸心P方向に対して傾いた方向に延びる状態に設けられていることを特徴とする。
【0026】
次に、ダイヤフラム3について説明する。
図1,2,5に示されるように、ダイヤフラム3は、可撓性を有する材料(ゴムなど)からなる主材層3sと、ダイヤフラム周方向(本体部3C周方向)に沿って延びる状態で主材層3sに埋設される補強層3hとからなり、補強層3hは、内側の第1補強層7とその外側の第2補強層17との2枚のシート状体を有している。つまり、
図2(B)に示されるように、本体部3Cでは、ダイヤフラム3の径内側から外に向かって内側の主材層3s、第1補強層7、第2補強層17、外側の主材層3sの順で並ぶ構成とされている。なお、
図1は、空気ばねAとして組付けられる前であって部品としての製品状態にあるダイヤフラム3を示している。
【0027】
図4に示されるように、補強層3hは、2枚の積層構造、即ち2プライ構造であり、第1補強層7が1プライ、第2補強層17は2プライと呼ばれることも多い。第1,2補強層7,17は、例えば繊維状の心材(ナイロンコードなど)18(又は心材18の編込み)によるシート(シート状体)、又はそれが弾性材(ゴムなど)で被覆されたものからなり、軸心Pに対する周方向に延びるように配設されている。そして、
図2(A)及び
図4に示されるように、第1,2補強層7,17の周方向での端部7a,7a及び17a,17aどうしを、ダイヤフラム周方向での所定長さに亘って重ねた重複部J(Ji,Jo)が設けられている。
【0028】
第1補強層7の重複部Jである第1重複部Jiは、
図4(A)に示されるように、第1補強層7の軸心P(ダイヤフラム軸心Pでもある)に対して左に角度α傾いた方向に延びる状態に形成されている。第2補強層17の重複部Jである第2重複部Joは、
図2(B)に示されるように、第2補強層17の軸心P(ダイヤフラム軸心Pでもある)に対して右に角度β傾いた方向に延びる状態に形成されている。そして、第1,2重複部Ji,Joは、互いの傾き角度α、βの絶対値が等しく(|α|=|β|)設定されており、かつ、第1,2重複部Ji,Joが重なるクロス部位19が形成されている。なお、部品誤差や製造誤差などを考慮することもあるため、互いの傾き角度α、βの絶対値が若干(数度程度)違っていても良い。
【0029】
つまり、第1補強層7に形成される第1重複部Jiと、第2補強層17に形成される第2重複部Joとが、ダイヤフラム軸心P方向に対して互いに異なる方向に傾いている。重複部Jは、ダイヤフラム軸心Pに対して左右対称〔
図4(B)参照〕となる状態に形成され、第1重複部Jiと第2重複部Joとが重なるクロス部位19を有している。そして、空気ばねAとして組付けられる前の部品状態のダイヤフラム3〔
図4(B)を参照〕では、補強層3hの上下幅(a+b)に対する上側端からクロス部位19までの距離aの割り合いτが、τ=a/(a+b)=0.4~0.5(40~50%)に、好ましくは0.42~0.45(42~45%)に設定されている。
【0030】
図5に示されるように、空気ばねAとして組付けられた状態においては、クロス部位19は、本体部3Cの下部に配置されている。この位置は、鉄道車両用懸架装置Sとしてボルスタレス台車に適用された場合に、前述したダイヤフラムの捩じり変形による皴の発生し易い場所に相当するように配置されている。
【0031】
図3(A)に示されるように、上ビード部3Aは、上ビードコア20が主材層3sに埋設され、かつ、第1及び第2補強層7,17を上ビードコア20に巻回する状態で配備して構成されている。
図3(B)に示されるように、下ビード部3Bは、断面形状が矩形で軸心P方向視(上下方向視)が環状をなす下ビードコア21が主材層3sに埋設され、かつ、第1及び第2補強層7,17を下ビードコア21に巻回する状態で配備して構成されている。上下のビードコア20,21は、それぞれ断面の外郭形状が例えば矩形で、かつ、軸心P方向視(上下方向視)が環状をなすように束ねられた多数のビードワイヤーにより構成されているが、これには限らない。
【0032】
上及び下の各ビード部3A,3Bでは、一例として、第1補強層7は各ビードコア20,21に巻き付けて折り返された折返し部22に形成されており、第2補強層17は各ビードコア20,21の径内側にまで延びる状態に巻回された鉤状部23に形成されている。
図4(A)は第1補強層7のみの状態(1プライ)の補強層3hを示し、
図4(B)は第1補強層7に第2補強層17が被せられた状態(2プライ)の補強層3hを示している。なお、
図4(B)においては、内側の第1重複部Jiは破線で示すべきであるが、重複部Jの構造理解のし易さのため、あえて実線で描いてある。
【0033】
以上説明したように、本発明によるダイヤフラム3(空気ばねA)においては、本体部3Cの周方向(ダイヤフラム3の周方向)に延びる補強層3hの周方向での端部7a,7aどうしを周方向の所定長さに亘って重ねた重複部Jiが形成されている。重複部Jiは、2枚の補強層3hが、詳しくは第1補強層7の端部7a,7aどうしが重なって剛性が増強されている。
【0034】
ダイヤフラム3に焦点を当てると、次のように表現できる。即ち、車体側の上支持部1に嵌着可能な上ビード部3Aと、台車側の下支持部2に嵌着される下ビード部3Bと、上ビード部3Aと下ビード部3Bとの間の本体部3Cとを有する筒状の空気ばね用ダイヤフラム3であって、本体部3Cは、可撓性を有する材料からなる主材層3sと、周方向に延びる状態で主材層3sに埋設される補強層3hとからなり、補強層3hの周方向の端部どうし7a,7aを周方向での所定長さに亘って重ねた重複部Jが形成されている。
【0035】
従って、重複部Jiを、シワの出来やすい箇所に合致するようにして組み込まれた空気ばねA、又はその空気ばねAを備える鉄道車両用懸架装置Sとすれば、捩り変形が繰り返されてもシワの生成が解消又は抑制される効果が発揮される。しかも、その合成増強手段は、補強層3hの端部どうしを少しの長さでもって重ねるだけであるから、部品点数は増えず重量増も殆ど無い合理的なものである利点もある。
【0036】
重複部Jは軸心Pに対して傾斜させることにより、軸心Pに対して斜め向きにできるシワを効果的に(効率良く)解消又は抑制させることが可能である。補強層3hが、第1補強層7と第2補強層17との積層による2プライ構造であれば、第1及び第2重複部Ji,Joを周方向に近づけたり離したり、互いに軸心Pに対して傾けたり、或いは重ねてクロス部位19を設けたりすることにより、よりシワの発生が抑えられる空気ばねAとすることが可能である。
【0037】
特に、
図4(B)や
図5に示されるように、第1及び第2重複部Ji,Joを軸心Pに対して対称となるように互いに逆方向に傾けて、シワ発生場所にクロス部位19が位置するように形成された場合には、前述した種々の効果が最も効率良く、かつ、経済的に発揮される良さがある。
【0038】
図6は、空気ばねAの実機への適用例を示しており、鉄道車両25の下面と、ボルスタレス台車(台車の一例)24の上面との間に挟まれる状態で設けられて、鉄道車両用懸架装置Sを構成している。空気ばねAは、曲線走行などによってダイヤフラム3に捩りやズレ動きの変形が生じ易い箇所(或いは最も捩りやズレ動き変形し易い箇所)、例えば、車両進行方向(矢印X,Y)に対して左右の最外側となる箇所に、ダイヤフラム3の重複部Jが(クロス部位19が)位置するように組付けられている。
【0039】
図6においては、クロス部位19が、実機への組付け状態におけるダイヤフラム3の上下長さのほぼ中央(又は中央)に位置する例として描いてあるが、この限りではない。なお、
図6に仮想線で示される重複部J及びクロス部位19は、
図4や
図5に示されるものに対応した場合において、上下方向のみの位置(ダイヤフラム軸心P回りの位置は不問)を示すものとして参考に描いてある。
【0040】
〔別実施形態〕
(1)重複部Jは、
図4(A)に示されるように、補強層3hが単層(1プライ)であって、1ケ所(軸心Pの方向に亘った長い1ケ所)に形成される構造の空気ばねAでもよい。この場合、重複部J(Ji)は、軸心Pと平行なものでも、傾いたもの〔
図4(A)参照〕でもよい。なお、補強層3hは、3層(3プライ)以上の積層構造でもよい。
(2)補強層3hが、2枚の補強層、即ち第1及び第2補強層7,17からなる場合で、第1及び第2重複部Ji,Joが至近距離で互いに隣り合う状態で配置されたダイヤフラム3やそのダイヤフラム3を有する空気ばねAでもよい。この場合、各重複部Ji,Joの軸心Pに対する角度は0度以上で、かつ、90度未満の任意の角度に設定可能である。
【0041】
(3)第1及び第2重複部Ji,Joが重なるクロス部位19を有する場合で、そのクロス部位19が、
図4(B)や
図5に示される位置以外で本体部3Cに設けられたダイヤフラム3や、そのダイヤフラム3を有する構成の空気ばねAでもよい。
(4)クロス部位19の交わり角度α、βが、
図4(B)に示される状態より、小さい又は大きい角度の場合でもよい。
【0042】
(5)
図7に示されるように、
図5に示す鉄道車両用懸架装置Sとは主に弾性ばねBが異なる構造の鉄道車両用懸架装置Sに適用された空気ばねAやその空気ばねAに用いられるダイヤフラム3でもよい。即ち、空気ばねAが、コニカルストッパー構造の弾性ばねBに搭載された構成のものである。
図5に示すものと同じ機能の部品には同じ符号を付すものとする。ダイヤフラム3の上下のビード部3A,3Bや、その支持構造が
図5のものと若干異なっているが、ダイヤフラム3としての構成は同じである。
【0043】
図7において、弾性部5は、3つの弾性層15と2つの硬質板16とを備え、それら15,16が軸心Pに対して角度の付いたほぼ縦向き姿勢とされたコニカルストッパーに構成されている。上ビード部3Aは、上支持部1の外周下面側にボルト止めされた環状の保持部材26と上支持部1の外周部とで挟まれて支持されている。最内側の弾性層15を支持する台形台座27は、フランジ板14にボルト止めされている。
【符号の説明】
【0044】
1 上支持部(第1支持部)
2 下支持部(第2支持部)
3 ダイヤフラム(空気ばね用ダイヤフラム)
3C 本体部
3h 補強層
3s 主材層
7 第1補強層
7a 端部(補強層の端部)
17 第2補強層
19 クロス部位
24 台車
25 鉄道車両
A 空気ばね(鉄道車両用空気ばね)
J 重複部
Ji 第1重複部
Jo 第2重複部
P 軸心