(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134263
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】負極活物質、負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230920BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039708
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】秋元 一摩
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA03
5H050CA04
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA19
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB11
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA18
5H050GA13
5H050GA18
5H050HA00
(57)【要約】
【課題】過剰な発熱を抑制できる負極活物質、負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】この負極活物質は、シリコン粒子を含み、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のX線光電子分光スペクトルを、表面から深さ方向に測定した際に、深さ方向のいずれかの位置で測定されたX線光電子分光スペクトルが、結合エネルギーが687eV以上である第1ピークを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粒子を含み、
結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のX線光電子分光スペクトルを、表面から深さ方向に測定した際に、
深さ方向のいずれかの位置で測定されたX線光電子分光スペクトルが、結合エネルギーが687eV以上である第1ピークを有する、負極活物質。
【請求項2】
前記第1ピークが測定された深さ位置と異なる深さ位置で測定されたX線光電子分光スペクトルが、前記第1ピークと異なる位置に第2ピークを有し、
前記第1ピークの結合エネルギーと前記第2ピークの結合エネルギーとのエネルギー差が1eV以上である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の負極活物質を含む、負極。
【請求項4】
請求項3に記載の負極と、前記負極と対向する正極と、前記負極と前記正極との間を繋ぐ電解質と、を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、主に電極の活物質に依存する。負極活物質には、一般に黒鉛が利用されているが、より高容量な負極活物質が求められている。そのため、黒鉛の理論容量(372mAh/g)に比べてはるかに大きな理論容量をもつシリコン(Si)が注目されている。例えば、特許文献1には、負極にシリコンを用いたエネルギー密度が高いリチウムイオン二次電池が記載されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池のエネルギー密度が高いほど、安全性に留意が必要になる。例えば、不正使用、過充電、内部短絡等でリチウムイオン二次電池の内部で発熱が生じると、非水電解液の分解、内圧の上昇等の問題が生じる場合がある。
【0005】
例えば、特許文献2には、集電体と合材層との間に絶縁部材を設けることで、リチウムイオン二次電池の内部発熱を抑制できることが記載されている。また例えば、特許文献3には、電解液に添加剤を添加し、各構成の空隙体積を調整することで、熱的安定性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-181820号公報
【特許文献2】特開2008-198591号公報
【特許文献3】特開2016-9532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の方法は、選択できない場合もある。そのため、これらの方法に限られない別の方法で過剰な発熱を抑制できる構成が求められている。
【0008】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、過剰な発熱を抑制できる負極活物質、負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかる負極活物質は、シリコン粒子を含み、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のX線光電子分光スペクトルを、表面から深さ方向に測定した際に、深さ方向のいずれかの位置で測定されたX線光電子分光スペクトルが、結合エネルギーが687eV以上である第1ピークを有する。
【0011】
(2)上記態様にかかる負極活物質は、前記第1ピークが測定された深さ位置と異なる深さ位置で測定されたX線光電子分光スペクトルが、前記第1ピークと異なる位置に第2ピークを有し、前記第1ピークの結合エネルギーと前記第2ピークの結合エネルギーとのエネルギー差が1eV以上であってもよい。
【0012】
(3)第2の態様にかかる負極は、上記態様にかかる負極活物質を含む。
【0013】
(4)第3の態様にかかるリチウムイオン二次電池は、上記態様にかかる負極と、正極と、前記正極と前記負極とを繋ぐ電解質と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
上記態様に係るリチウムイオン二次電池は、過剰な発熱を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態にかかる負極活物質の断面模式図である。
【
図2】第1実施形態にかかる負極活物質のX線光電子分光スペクトルである。
【
図3】第1実施形態にかかる負極活物質のX線光電子分光スペクトルである。
【
図4】第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
「負極活物質」
図1は、第1実施形態にかかる負極活物質の断面模式図である。負極活物質1は、例えば、シリコン粒子2と表面層3と被覆層4とを有する。
【0018】
シリコン粒子2は、単体のシリコンの他に、シリコン合金、シリコン化合物、シリコン複合体でもよい。シリコン粒子2は、結晶質でも非晶質でもよい。
【0019】
シリコン合金は、例えば、XnSiで表される。Xは、カチオンである。Xは、例えば、Ba、Mg、Al、Zn、Sn、Ca、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、W、Au、Ti、Na、K等である。nは、0≦n≦0.5を満たす。
【0020】
シリコン化合物は、例えば、SiOxで表記される酸化シリコンである。xは、例えば、0.8≦x≦2を満たす。酸化シリコンは、SiO2のみからなってもよいし、SiOのみからなってもよいし、SiOとSiO2との混合物でもよい。また酸化シリコンは、酸素の一部が欠損していてもよい。
【0021】
シリコン複合体は、例えば、シリコン又はシリコン化合物の粒子の表面の少なくとも一部に、導電性材料が被覆したものである。導電性材料は、例えば、炭素材料、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn等である。例えば、シリコン炭素複合化材料(Si-C)は複合体の一例である。
【0022】
表面層3は、シリコン粒子2の表面の少なくとも一部に形成されている。表面層3は、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のX線光電子分光(XPS)スペクトルを、表面から深さ方向に測定した際に、結合エネルギーが687eV以上の位置にピークが生じる部分である。XPSスペクトルは、F1sスペクトルである。以下、結合エネルギーが687eV以上の位置に生じるこのピークを第1ピークと称する。第1ピークは、例えば、結合エネルギーが687eV以上690eV以下の位置に生じる。
【0023】
表面層3では、シリコンとフッ素とが結合している。表面層3は、シリコン粒子2の表面をあらかじめフッ素処理することで形成される。
【0024】
図2は、第1実施形態にかかる負極活物質のX線光電子分光(XPS)スペクトルである。
図2に示すXPSスペクトルは、負極活物質1の表面から深さ方向に、少なくとも結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のXPSスペクトルを、X線光電子分光法で測定することで得られる。
図2には、シリコン粒子2の表面をフッ素処理した第1実施形態にかかる負極活物質1の測定結果と共に、フッ素処理していない負極活物質の測定結果を示す。サンプルs1、s2は、シリコン粒子2の表面をフッ素処理した第1実施形態にかかる負極活物質1の測定結果である。サンプルs3、s4は、フッ素処理していない負極活物質の測定結果である。
【0025】
図2に示すように、サンプルs1、s2のXPSスペクトルでは、第1ピークが確認される。他方、サンプルs3、4のXPSスペクトルでは、第1ピークが確認されない。第1ピークは、シリコン粒子2のフッ素処理によるシリコンとフッ素との結合に由来するピークと考えられる。
【0026】
被覆層4は、シリコン粒子2又は表面層3の少なくとも一部を覆うように形成されている。被覆層4は、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のXPSスペクトルを、表面から深さ方向に測定した際に、第1ピークと異なる位置にピークが生じる部分である。以下、このピークを第2ピークと称する。第2ピークは、結合エネルギーが687eV未満の位置に生じ、例えば、結合エネルギーが685eV以上686eV以下の位置に生じる。第1ピークの結合エネルギーと第2ピークの結合エネルギーとのエネルギー差は、例えば、1eV以上である。
【0027】
被覆層4は、負極活物質1において、表面層3より外側にある。負極活物質1の表面から深さ方向にエッチングしながらX線光電子分光を行うと、ある深さまで掘り進めた位置でのXPSスペクトルにおいて第2ピークが検出され、その後、さらにエッチングを行った位置でのXPSスペクトルにおいて第1ピークが検出される。
【0028】
図3は、第1実施形態にかかる負極活物質のX線光電子分光(XPS)スペクトルである。
図3に示すXPSスペクトルは、負極活物質1の表面から深さ方向に、少なくとも結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のXPSスペクトルを、X線光電子分光法で測定することで得られる。
図3には、シリコン粒子2の表面をフッ素処理した第1実施形態にかかる負極活物質1の測定結果と共に、フッ素処理していない負極活物質の測定結果を示す。サンプルs1、s2は、シリコン粒子2の表面をフッ素処理した第1実施形態にかかる負極活物質1の測定結果である。サンプルs3、s4は、フッ素処理していない負極活物質の測定結果である。
【0029】
図3に示すように、サンプルs1~s4のいずれのXPSスペクトルにおいても、第2ピークが確認される。第2ピークは、SEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜に含まれるフッ素由来するピークと考えられる。SEI被膜は、リチウムイオン二次電池の使用初期に形成される安定な被膜である。SEI被膜は、負極活物質と電解液との直接接触を防ぎ、電解液の分解を防止する。
【0030】
負極活物質1の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上10μm以下であり、好ましくは0.5μm以上8μm以下であり、より好ましくは1μm以上7μm以下である。
【0031】
負極活物質1を粒子の状態で入手可能な場合は、粒度分布測定装置(例えば、Malvern Panalytical社製)を用いてメディアン径(D50)を平均粒子径として求めることができる。粒度分布測定装置を用いる場合は、例えば、50000個の粒子の粒子径の平均を求める。負極活物質1が電極内にあり、電極から負極活物質1の分離が困難な場合は、断面画像で確認される少なくとも100個の負極活物質1を用いて平均粒子径を求めることができる。
【0032】
第1実施形態にかかる負極活物質1は、シリコン粒子2を作製した後、シリコン粒子2の表面にフッ素処理を行うことで作製できる。
【0033】
シリコン粒子2は、公知の方法で作製できる。シリコン粒子2は、市販品を購入してもよい。
【0034】
次いで、フッ素処理を行う。例えば、容器の中にシリコン粒子2を入れて、フッ素ガス中でプラズマ処理を行うことで、シリコン粒子2がフッ素処理される。またシリコン粒子2をフッ酸中に浸漬してもよい。フッ酸浸漬することで、シリコン粒子2の表面がエッチングされると共に、フッ素処理される。フッ素処理により表面層3が形成される。被覆層4は、リチウムイオン二次電池の使用初期の充放電時に形成される。
【0035】
第1実施形態にかかる負極活物質1は、表面が予めフッ素処理されていることで、リチウムイオン二次電池の過剰な発熱を抑制できる。
【0036】
例えば、リチウムイオン二次電池に内部短絡等の異常が生じると発熱が生じ、シリコンと電解液中のフッ素との反応を促進する。シリコンと電解液中のフッ素とが反応すると安定な被膜が生じるが、この被膜形成時に更なる発熱が生じる。すなわち、内部短絡で生じた発熱が、被膜形成時に生じる発熱でエンハンスされる。
【0037】
これに対し、第1実施形態にかかる負極活物質1は、表面がフッ素処理されていることで、シリコンと電解液中のフッ素とが反応する際に生じる発熱量を小さくでき、過剰な発熱を抑制できる。
【0038】
「リチウムイオン二次電池」
図4は、第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の模式図である。
図4に示すリチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と電解質(例えば、非水電解液)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
図4では、外装体50内に発電素子40が一つの場合を例示したが、発電素子40が複数積層されていてもよい。
【0039】
(発電素子)
発電素子40は、セパレータ10と正極20と負極30とを備える。発電素子40は、これらが積層された積層体でも、これらを積層した構造物を巻回した巻回体でもよい。
【0040】
<正極>
正極20は、例えば、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0041】
[正極集電体]
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。重量が軽いアルミニウムは、正極集電体22に好適に用いられる。正極集電体22の平均厚みは、例えば、10μm以上30μm以下である。
【0042】
[正極活物質層]
正極活物質層24は、例えば、正極活物質を含む。正極活物質層24は、必要に応じて、導電助剤、バインダーを含んでもよい。
【0043】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとカウンターアニオンのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を含む。
【0044】
正極活物質は、例えば、複合金属酸化物である。複合金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2の化合物(一般式中においてx+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)である。正極活物質は、有機物でもよい。例えば、正極活物質は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンでもよい。
【0045】
正極活物質は、リチウム非含有の材料でもよい。リチウム非含有の材料は、例えば、FeF3、有機導電性物質を含む共役系ポリマー、シェブレル相化合物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物、ニオブ酸化物等である。リチウム非含有の材料は、いずれか一つの材料のみを用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。正極活物質がリチウム非含有の材料の場合は、例えば、最初に放電を行う。放電により正極活物質にリチウムが挿入される。このほか、正極活物質がリチウム非含有の材料に対して、化学的又は電気化学的にリチウムをプレドープしてもよい。
【0046】
導電助剤は、正極活物質の間の電子伝導性を高める。導電助剤は、例えば、カーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、導電性酸化物である。カーボン粉末は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等である。金属微粉は、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の粉である。
【0047】
正極活物質層24における導電助剤の含有率は特に限定されない。例えば、正極活物質、導電助剤、バインダーの総質量に対して導電助剤の含有率は、0.5質量%以上20質量%以下であり、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0048】
正極活物質層24におけるバインダーは、正極活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。バインダーは、電解液に溶解せず、耐酸化性を有し、接着性を有するものが好ましい。バインダーは、例えば、フッ素樹脂である。バインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体の金属イオン架橋体、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)、これらの混合物である。正極活物質層に用いるバインダーは、PVDFが特に好ましい。
【0049】
正極活物質層24におけるバインダーの含有率は特に限定されない。例えば、正極活物質、導電助剤、バインダーの総質量に対してバインダーの含有率は、1質量%以上15質量%以下であり、好ましくは1.5質量%以上5質量%以下である。バインダーの含有率が少ないと、正極20の接着強度が弱まる。バインダーの含有率が高いと、バインダーは電気化学的に不活性で放電容量に寄与しないため、リチウムイオン二次電池100のエネルギー密度が低くなる。
【0050】
<負極>
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に形成されている。
【0051】
[負極集電体]
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0052】
[負極活物質層]
負極活物質層34は、負極活物質とバインダーとを含む。負極活物質層は、必要に応じて、導電助剤、分散安定剤等を含んでもよい。負極活物質は、上述の負極活物質を用いる。
【0053】
導電助剤及びバインダーは、正極20と同様のものを用いることができる。負極30におけるバインダーは、正極20に挙げたものの他に、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。セルロースは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)でもよい。
【0054】
<セパレータ>
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。セパレータ10は、正極20及び負極30に沿って面内に広がる。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0055】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリオレフィンフィルムの単層体、積層体である。セパレータ10は、ポリエチレンやポリプロピレン等の混合物の延伸膜でもよい。セパレータ10は、セルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布でもよい。セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。固体電解質は、例えば、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。セパレータ10は、無機コートセパレータでもよい。無機コートセパレータは、上記のフィルムの表面に、PVDFやCMCなど樹脂とアルミナやシリカなどの無機物の混合物を塗布したものである。無機コートセパレータは、耐熱性に優れ、正極から溶出した遷移金属の負極表面への析出を抑制する。
【0056】
<電解液>
電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。電解液は、液系の電解質に限られず、固体での電解質でもよい。非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解塩とを有する。電解塩は、非水溶媒に溶解している。
【0057】
溶媒は、一般にリチウムイオン二次電池に用いられている溶媒であれば特に限定はない。溶媒は、例えば、環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、環状エステル化合物、鎖状エステル化合物のいずれかを含む。溶媒は、これらを任意の割合で混合して含んでもよい。環状カーボネート化合物は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等である。鎖状カーボネート化合物は、例えば、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等である。環状エステル化合物は、例えば、γ-ブチロラクトン等である。鎖状エステル化合物は、例えば、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸エチル、酢酸エチル等である。
【0058】
電解塩は、例えば、リチウム塩である。電解質は、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、LiCF3CF2SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(CF3CF2CO)2、LiBOB、LiN(FSO2)2等である。リチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。電離度の観点から、電解質はLiPF6を含むことが好ましい。カーボネート溶媒中の室温における電解塩の乖離度は10%以上であることが好ましい。
【0059】
電解液は、例えば、カーボネート溶媒にLiPF6を溶解させたものが好ましい。LiPF6の濃度は、例えば、1mol/Lである。ポリイミド樹脂が芳香族を多く含む場合、ポリイミド樹脂がソフトカーボンのような充電挙動を示すことがある。電解液が、環状カーボネートを含むカーボネート電解液溶媒の場合、均一にポリイミドにリチウムを反応させることができる。この場合、環状カーボネートは、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネートが好ましい。
【0060】
<外装体>
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
【0061】
外装体50は、例えば
図4に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
【0062】
金属箔52としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層54には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0063】
<端子>
端子60、62は、それぞれ正極20と負極30とに接続されている。正極20に接続された端子60は正極端子であり、負極30に接続された端子62は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0064】
リチウムイオン二次電池100は、負極30、正極20、セパレータ10、電解液、外装体50をそれぞれ準備し、これらを組み上げて作製される。以下、リチウムイオン二次電池100の製造方法の一例を説明する。
【0065】
負極30は、例えば、スラリー作製工程、電極塗布工程、乾燥工程、圧延工程を順に行って作製される。
【0066】
スラリー作製工程は、負極活物質、バインダー、導電助剤及び溶媒を混合してスラリーを作る工程である。負極活物質は、フッ素処理されたシリコンである。スラリーに分散安定剤を添加すると、負極活物質の凝集を抑制できる。
【0067】
スラリー作製工程は、負極活物質、バインダー、導電助剤及び溶媒を混合してスラリーを作る工程である。溶媒は、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等である。
【0068】
電極塗布工程は、負極集電体32の表面に、スラリーを塗布する工程である。スラリーの塗布方法は、特に制限はない。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法をスラリーの塗布方法として用いることができる。スラリーは、例えば、室温で塗布する。
【0069】
乾燥工程は、スラリーから溶媒を除去する工程である。例えば、スラリーが塗布された負極集電体32を、80℃~350℃の雰囲気下で乾燥させる。
【0070】
圧延工程は、必要に応じて行われる。圧延工程は、負極活物質層34に圧力を加え、負極活物質層34の密度を調整する工程である。圧延工程は、例えば、ロールプレス装置等で行われる。
【0071】
正極20は、負極30と同様の手順で作製できる。セパレータ10及び外装体50は、市販のものを用いることができる。
【0072】
次いで、作製した正極20及び負極30の間にセパレータ10が位置するようにこれらを積層して、発電素子40を作製する。発電素子40が捲回体の場合は、正極20、負極30及びセパレータ10の一端側を軸として、これらを捲回する。
【0073】
最後に、発電素子40を外装体50に封入する。非水電解液は外装体50内に注入する。非水電解液を注入後に減圧、加熱等を行うことで、発電素子40内に非水電解液が含浸する。熱等を加えて外装体50を封止することで、リチウムイオン二次電池100が得られる。なお、外装体50に電解液を注入するのではなく、発電素子40を電解液に含浸してもよい。発電素子への注液後は、24時間静置することが好ましい。
【0074】
第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100は、所定の負極活物質を有するため、衝撃等により内部短絡が発生した場合でも、安全性が高い。
【0075】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0076】
「実施例1」
厚さ15μmのアルミニウム箔の一面に、正極スラリーを塗布した。正極スラリーは、正極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒とを混合して作製した。
【0077】
正極活物質は、LixCoO2を用いた。導電助剤は、アセチレンブラックを用いた。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンを用いた。97質量部の正極活物質と、1質量部の導電助剤と、2質量部のバインダーと、70質量部の溶媒を混合して、正極スラリーを作製した。乾燥後の正極活物質層における正極活物質の担持量は、25mg/cm2とした。正極スラリーから乾燥炉内で溶媒を除去し、正極活物質層を作成した。正極活物質層をロールプレスで加圧し、正極を作製した。
【0078】
次いで、平均粒子径が3.7μmのシリコン粒子を容器に入れてフッ素ガス中でプラズマ処理を行った。このフッ素処理の処理時間は60分間とした。そしてフッ素処理後のシリコン粒子を用いて、負極スラリーを作製した。導電助剤は、カーボンブラックを用いた。バインダーは、ポリイミド樹脂を用いた。溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンを用いた。90質量部のフッ素処理したシリコン粒子と、5質量部の導電助剤と、5質量部のバインダーとを、N-メチル-2-ピロリドンに混合して、負極スラリーを作製した。
【0079】
そして、スラリーを厚さ10μmの銅箔の一面に、負極スラリーを塗布し、乾燥させた。乾燥後の負極活物質層における負極活物質の担持量は、2.5mg/cm2とした。負極活物質層は、ロールプレスで加圧した後、窒素雰囲気下、300℃以上で5時間、焼成した。
【0080】
次いで、電解液を作製した。電解液の溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC):エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=10体積%:20体積%:70体積%とした。また電解液には、出力向上用添加剤、ガス抑制添加剤、サイクル特性改善添加剤、安全性能改善添加剤などを添加した。電解塩は、LiPF6を用いた。LiPF6の濃度は1mol/Lとした。
【0081】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製)
作製した負極と正極とを、正極活物質層と負極活物質層とが互いに対向するように、セパレータ(多孔質ポリエチレンシート)を介して積層して積層体を得た。この積層体を、アルミラミネートフィルムの外装体内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより閉口部を形成した。そして、最後に、外装体内に上記電解液を注入した後に、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封して、リチウムイオン二次電池を作製した。作製後のリチウムイオン二次電池は、24時間静置した。
【0082】
(釘刺し試験)
作製したリチウムイオン二次電池を用いて釘刺し試験を行った。まずリチウムイオン二次電池を充電した。充電は、25℃の環境下において充電レート1.0C(25℃で定電流充電を行ったときに1時間で充電終了となる電流値)の定電流充電で電池電圧が4.4Vとなるまで充電を行った。そして、充電状態の電池に直径2.5mmの釘を150mm/sのスピードで刺し、釘刺し試験を行った。そして、釘刺し後のリチウムイオン二次電池の表面温度を測定した。実施例1のリチウムイオン二次電池の表面温度は、27℃であった。
【0083】
(XPS測定)
また同一条件で作製したリチウムイオン二次電池を0.5Cで4.2Vまで定電流定電圧充電し、1Cで2.8Vまで定電流放電した後、負極を取り出し、XPS分析を行った。XPS分析は、負極活物質の表面から深さ方向にエッチングしながら、測定を行った。XPS分析は、PHI社製のQuantera2を用いて測定した。
【0084】
実施例1に係る負極活物質は、表面近傍で測定したXPSスペクトルにおいて、結合エネルギー686eVの位置にピークが確認された。また実施例1に係る負極活物質は、表面から40nmエッチングした位置で測定したXPSスペクトルにおいて、結合エネルギー688eVの位置にピークが確認された。すなわち、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲のX線光電子分光スペクトルを、表面から深さ方向に測定した際に、2つのピークが確認された。二つのピークのエネルギー差は、2eVであった。
【0085】
「実施例2、3」
実施例2、3は、シリコン粒子をフッ素処理する際の条件を変更した点が実施例1と異なる。具体的には、実施例2はフッ素処理の処理時間を30分とし、実施例3はフッ素処理を45分に変更した。その他の条件は、実施例1と同様にして、評価を行った。
【0086】
「実施例4」
実施例4は、初期の充放電の条件を変更した点が実施例2と異なる。実施例4は、初期の充放電を45℃の環境下で行い、被膜構造を変化させた点が実施例2と異なる。その他の条件は、実施例2と同様にして、評価を行った。
【0087】
「比較例1、比較例2」
比較例1及び比較例2は、フッ素処理を行わなかった点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様にして、評価を行った。比較例1と比較例2とは、初期の充放電条件が異なり、比較例2は、被覆層内に異なる2状態のフッ素結合が混在していた。
【0088】
以下の表1に、実施例1~4、比較例1及び比較例2の結果をまとめる。表1における「最大結合エネルギー」は、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲で確認されるピークのうち最も結合エネルギーが大きなピークのピークトップの位置である。「ピーク数」は、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲で確認されるピークの数である。「結合エネルギー差」は、結合エネルギーが678eV以上698eV以下の範囲で確認される最大エネルギーのピークと最小エネルギーのピークとの結合エネルギー差である。「釘刺し試験温度」は、釘刺し試験後のリチウムイオン二次電池の表面温度である。
【0089】
【0090】
実施例1~4は、比較例1及び2に対して釘刺し試験後の表面温度が低かった。実施例1~4は、シリコン表面がフッ素処理されているため、シリコンと電解液中のフッ素との反応を抑制できたためと考えられる。