(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023134291
(43)【公開日】2023-09-27
(54)【発明の名称】銅-セラミックス接合基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20230920BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20230920BHJP
C22C 5/06 20060101ALN20230920BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C04B37/02 B
C22C9/00
C22C5/06 Z
B23K35/30 310B
B23K35/30 310C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039743
(22)【出願日】2022-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】結城 整哉
(72)【発明者】
【氏名】寺本 祐基
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA01
4G026BA16
4G026BB22
4G026BE04
4G026BF11
4G026BF16
4G026BF44
4G026BG02
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】銅-セラミックス接合基板において、外形サイズを大きく変更しなくても、良好なヒートサイクル特性を実現する。
【解決手段】セラミックス基板と、前記セラミックス基板の少なくとも一方の面に接合される銅板と、を備え、前記銅板の転位密度が1.5×10
13m
-2以下である、銅
-セラミックス接合基板が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の少なくとも一方の面に接合される銅板と、を備え、
前記銅板の転位密度が1.5×1013m-2以下である、
銅-セラミックス接合基板。
【請求項2】
前記銅板における、ヒ素の含有量が0.005ppm~1.5ppm、アンチモンの含有量が0.005ppm~0.5ppmである、請求項1に記載の銅-セラミックス接合基板。
【請求項3】
前記銅板における、硫黄の含有量が0.1ppm~7ppm、リンの含有量が0.05~2ppmである、請求項1または請求項2に記載の銅-セラミックス接合基板。
【請求項4】
前記銅板における、亜鉛の含有量が0.005ppm~0.08ppmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板。
【請求項5】
前記銅板における、銀の含有量が0.1ppm~20ppmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板。
【請求項6】
前記銅板における、硫黄、リン、ヒ素、アンチモン、亜鉛および銀を除く不純物元素の総量が0.01ppm~15ppmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板。
【請求項7】
前記銅板の材質が無酸素銅またはタフピッチ銅である、請求項1~6のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板。
【請求項8】
前記セラミックス基板と前記銅板との間にろう材接合層を備え、
前記銅板が前記ろう材接合層を介して前記セラミックス基板に接合されている、
請求項1~7のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板。
【請求項9】
セラミックス基板の少なくとも一方の面に、ヒ素の含有量が0.005ppm~1.5ppm、アンチモンの含有量が0.005ppm~0.5ppmである銅板を配置し、加熱して接合する接合工程を有し、
前記銅板の接合後の転位密度が1.5×1013m-2以下である、
銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項10】
前記接合工程では、前記セラミックス基板に前記銅板を配置し、前記セラミックス基板と前記銅板を仮加圧した状態で加熱する、
請求項9に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項11】
前記銅板における、硫黄の含有量が0.1ppm~7ppm、リンの含有量が0.05~2ppmである、請求項9又は10に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項12】
前記銅板における、亜鉛の含有量が0.005ppm~0.08ppmである、請求項9~11のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項13】
前記銅板における、銀の含有量が0.1ppm~20ppmである、請求項9~12のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項14】
前記銅板における、硫黄、リン、ヒ素、アンチモン、亜鉛および銀を除く不純物元素の総量が0.01ppm~15ppmである、請求項9~13のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項15】
前記銅板の材質が無酸素銅またはタフピッチ銅である、請求項9~14のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項16】
前記銅板をろう材を介して前記セラミックス基板の上に配置した後、加熱して接合する、請求項9~15のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項17】
前記接合工程では、500℃以上の温度域で6時間以上保持して加熱を行う、請求項9~16のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項18】
前記接合工程では、700℃以上の温度域で2時間以上保持して加熱を行う、請求項9~17のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項19】
前記接合工程における仮加圧の荷重圧力が0.5kPa~5kPaである、請求項9~18のいずれか1項に記載の銅-セラミックス接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅-セラミックス接合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、電車、工作機械などの大電力を制御するためにパワーモジュールが使用されており、このようなパワーモジュール用の電気回路基板として、セラミックス板の表面にCuやAlなどの金属回路板を接合した金属-セラミックス接合基板が使用されている。この金属-セラミックス接合基板のセラミックス基板の一方の面には回路パターン金属板が形成され、他方の面には放熱金属板が形成される。
【0003】
このような金属-セラミックス接合基板の製造方法として、活性金属とAgとCuとを混合したろう(Ag-Cu活性金属ろう)材を介在させて、加熱処理により金属板をセラミックスに接合する方法(活性金属ろう付け法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
パワーモジュール用の金属-セラミックス接合基板には、パワーモジュールの組み立て工程や、パワーモジュールの実使用環境下において、繰り返しの熱負荷が加わる。
【0005】
例えば、パワーモジュールの組み立て工程において、前記回路パターン金属板には、半田接合法や微粒子金属焼結法などの接合法によってパワー半導体素子が搭載され、また前記放熱金属板には同様の接合法によってCuやAl、Al-SiC複合材などのベース板が接合される。その際、例えばトンネル(連続)炉内を通炉することにより加熱するため、前記接合基板には通炉処理による熱負荷が掛かる。
【0006】
また例えば、パワーモジュールが実際に使用される状況においては、パワー半導体素子がスイッチング動作により発熱し、パワーモジュール動作停止時には冷却されるため、パワーモジュールにヒートサイクルの熱負荷が掛かる。
【0007】
金属-セラミックス接合基板の回路板としては例えばCuやAlが用いられている。Alを使用すると、通炉処理やヒートサイクルなどの熱負荷が掛かり、セラミックス基板と金属回路板の熱膨張差により発生する熱応力を、Alが塑性変形することにより緩和することができるが、導電性、放熱性の面でCuの金属回路板よりも劣る。一方、Cuを金属回路板として使用した場合は、Alを使用したときよりも熱負荷が発生したときの信頼性に劣るという課題がある。
【0008】
そのため、銅-セラミックス接合基板には、これらの熱負荷が掛かってもセラミックス基板が破壊し難い良好なヒートサイクル特性が求められている。
【0009】
熱負荷によって生じるセラミックスへの熱応力を緩和する方法として、セラミックスに接合されている金属板の断面形状に段差形状を設ける方法(例えば、特許文献2参照)や、セラミックスに接合されている金属板の外周にディンプル形状を設ける方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8-97554号公報
【特許文献2】特開平10-125821号公報
【特許文献3】特開2012-114203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2や3に開示される方法では、金属板の表面に実装される電子部品の実装面積が減り、そのため銅-セラミックス接合基板の外形サイズ(面積)を大きくせざるを得なくなり、パワーモジュールが大型化してしまうことがあった。
【0012】
そこで、本発明は、銅-セラミックス接合基板の外形サイズを変更しなくても、良好なヒートサイクル特性を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、
セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の少なくとも一方の面に接合される銅板と、を備え、
前記銅板の転位密度が1.5×1013m-2以下である、
銅-セラミックス接合基板である。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記銅板における、ヒ素の含有量が0.005ppm~1.5ppm、アンチモンの含有量が0.005ppm~0.5ppmである。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、
前記銅板における、硫黄の含有量が0.1ppm~7ppm、リンの含有量が0.05~2ppmである。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1~3の態様において、
前記銅板における、亜鉛の含有量が0.005ppm~0.08ppmである。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1~4の態様において、
前記銅板における、銀の含有量が0.1ppm~20ppmである。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1~5の態様において、
前記銅板における、硫黄、リン、ヒ素、アンチモン、亜鉛および銀を除く不純物元素の総量が0.01ppm~15ppmである。
【0019】
本発明の第7の態様は、第1~6の態様において、
前記銅板の材質が無酸素銅またはタフピッチ銅である。
【0020】
本発明の第8の態様は、第1~7の態様において、
前記セラミックス基板と前記銅板との間にろう材接合層を備え、
前記銅板が前記ろう材接合層を介して前記セラミックス基板に接合されている。
【0021】
本発明の第9態様は、
セラミックス基板の少なくとも一方の面に、ヒ素の含有量が0.005ppm~1.5ppm、アンチモンの含有量が0.005ppm~0.5ppmである銅板を配置し、加熱して接合する接合工程を有し、
前記銅板の接合後の転位密度が1.5×1013m-2以下である、
銅-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0022】
本発明の第10の態様は、第9の態様において、
前記接合工程では、前記セラミックス基板に前記銅板を配置し、前記セラミックス基板と前記銅板を仮加圧した状態で加熱する。
【0023】
本発明の第11の態様は、第9又は10の態様において、
前記銅板における、硫黄の含有量が0.1ppm~7ppm、リンの含有量が0.05~2ppmである。
【0024】
本発明の第12の態様は、第9~11の態様において、
前記銅板における、亜鉛の含有量が0.005ppm~0.08ppmである。
【0025】
本発明の第13の態様は、第9~12の態様において、
前記銅板における、銀の含有量が0.1ppm~20ppmである。
【0026】
本発明の第14の態様は、第9~13の態様において、
前記銅板における、硫黄、リン、ヒ素、アンチモン、亜鉛および銀を除く不純物元素の総量が0.01~15ppmである。
【0027】
本発明の第15の態様は、第9~14の態様において、
前記銅板の材質が無酸素銅またはタフピッチ銅である。
【0028】
本発明の第16の態様は、第9~15の態様において、
前記銅板をろう材を介して前記セラミックス基板の上に配置した後、加熱して接合する。
【0029】
本発明の第17の態様は、第9~16の態様において、
前記接合工程では、500℃以上の温度域で6時間以上保持して加熱を行う。
【0030】
本発明の第18の態様は、第9~17の態様において、
前記接合工程では、700℃以上の温度域で2時間以上保持して加熱を行う。
【0031】
本発明の第19の態様は、第9~18の態様において、
前記接合工程における仮加圧の荷重圧力が0.5kPa~5kPaである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、銅-セラミックス接合基板において、外形サイズを変更しなくても、良好なヒートサイクル特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る銅-セラミックス接合基板の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例の接合基板における一方の面に形成された回路パターンの形状を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、実施例の接合基板における他方の面に形成された放熱板パターンの形状を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<本発明者等が得た知見>
まず、本発明者等が得た知見について説明する。
【0035】
銅-セラミックス接合基板(以下、単に接合基板ともいう)に使用する銅板には、一般に、無酸素銅(C1020)やタフピッチ銅(C1100)などの銅純度99.9質量%以上の純銅の板材が用いられる。しかし、同一規格(同一の種類の純銅、同一の質別)の銅板を使用したとしても、最終的に得られる銅-セラミックス接合基板でヒートサイクル性が異なることが判明した。
【0036】
この点について検討、調査したところ、銅板では、圧延前の鋳造した銅ケークに含まれる微量の不純物元素の量や圧延条件、熱処理条件などの製造条件が伸銅メーカー毎に異なることが考えられる。そこで、銅板におけるひずみの蓄積状態(転位の蓄積状態)を測定したところ、銅-セラミックス接合基板の銅板の転位密度がメーカーや銅ケークの鋳造、加工などの製造条件等によって異なっていることが分かった。銅板は、セラミックス基板と接合する際、銅の軟化温度(例えば200℃)以上に保持されて焼きなまされるため、銅板に蓄積する転位は減少することになる。ただし、接合前の銅板の転位蓄積状態や焼きなましに影響を及ぼす微量不純物元素量が、メーカーや銅ケークの製造条件等によって異なるため、接合基板の接合工程における銅結晶の回復・再結晶・粒成長の状態も異なり、これが最終的に得られる接合基板のヒートサイクル性と関連していると推測される。
【0037】
そこで本発明者等は、銅板におけるひずみの蓄積状態をmodified Williamson-Hall/Warren-Averbach法により転位密度で定量的に評価するとともに、この転位密度と、銅板における不純物元素量、そして接合基板のヒートサイクル性との関連性についてさらに検討を行った。
【0038】
その結果、銅-セラミックス接合基板における銅板の転位密度を所定の値以下に調整することで、高いヒートサイクル特性を得られることを見出した。しかも、銅板に含まれる特定の不純物元素の含有量を一定範囲に制御することにより、接合基板における銅板の転位密度を小さく制御できることを見出した。
また、このような銅-セラミックス接合基板の製造方法として、セラミックス基板の少なくとも一方の面に銅板を配置して加熱した後、接合された銅板の転位密度が所定の値以下にすること、さらには、銅板に含まれる特定の不純物元素の含有量を一定範囲に制御した銅板を使用することにより、接合基板の銅板での転位密度を小さく制御できる銅-セラミックス接合基板の製造方法を提供することができる。
【0039】
銅板の転位密度が大きい場合、銅-セラミックス接合基板がヒートサイクルを受けたときに、銅板に蓄積する転位が銅結晶のすべり運動を阻害し、銅板が加工硬化しやすくなると考えられる。そのため、ヒートサイクルの際に、銅-セラミックス接合基板のセラミックス基板に加わる熱応力が上昇し、そのヒートサイクル性が低下すると推測される。この点、銅-セラミックス接合基板の銅板での転位密度が所定範囲となるように銅板における不純物元素の含有量を制御すること等により、接合基板において高いヒートサイクル性を実現できることを見出した。
【0040】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。
【0041】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明に係る銅-セラミックス接合基板の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る銅-セラミックス接合基板の一例を模式的に示す断面図である。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0042】
(1)銅-セラミックス接合基板
まず、銅-セラミックス接合基板について説明する。ここでは、セラミックス基板の両面に銅板が接合された場合を一例として説明する。なお、本明細書では「銅-セラミックス接合基板」は、銅板に回路パターンを形成する前の回路作製前基板、銅板に回路パターンを形成した後の回路基板の両方を示す。以下、「銅-セラミックス接合基板」を単に「接合基板」ともいう。
【0043】
図1に示すように、本実施形態の銅-セラミックス接合基板1(接合基板1)は、例えば、セラミックス基板10と、ろう材接合層11と、銅板12とを備えて構成される。接合基板1は、銅板12に所定のパターンを形成することで、銅-セラミックス回路基板(以下、回路基板ともいう)に加工される。
【0044】
(セラミックス基板)
セラミックス基板10は、銅板12を支持固定し、さらには回路基板としたときは回路間や表裏間の絶縁性を具備させるためのものである。セラミックス基板10としては、例えば、アルミナ等を主成分とする酸化物系セラミックス基板、または、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等を主成分とする非酸化物系セラミックス基板を用いることができる。セラミックス基板10のサイズとしては、好ましくは、長さ5mm~200mm、幅5mm~200mm、厚さ0.2mm~3.0mmのものを、より好ましくは、長さ10mm~100mm、幅10mm~100mm、厚さ0.25mm~2.0mmの略矩形のものを用いることができる。
【0045】
(ろう材接合層)
セラミックス基板10の両面には、ろう材接合層11が設けられている。ろう材接合層11は、セラミックス基板10と銅板12との間に介在し、これらを接合するためのものである。ろう材接合層11は、例えば金属成分として銀や銅を含み、さらに活性金属成分を含むろう材(活性金属含有ろう材)から形成される。ろう材接合層11は、後述する接合工程において、セラミックス基板10、ろう材および銅板12の各成分が反応して生成する層である。
【0046】
ろう材接合層11の厚さは、特に限定されないが、接合基板1から作製される回路基板の耐熱衝撃性および接合性を確保する観点からは、3μm~50μmであることが好ましく、5~20μmであることがより好ましい。
【0047】
ろう材における銀の含有量は、特に限定されないが、ろう材接合層11による接合強度などの信頼性を向上させる観点からは、例えば、30~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましく、65~90質量%であることがさらに好ましい。なお、ろう材における銀の含有量とは、ろう材に含まれる金属成分の総質量に対する質量の割合を示すものとする。以下、銀以外の金属成分の含有量も同様に、ろう材に含まれる金属成分の総質量に対する割合である。
【0048】
活性金属成分としては、例えば、チタンまたはジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の活性金属を含むことが好ましい。ろう材における活性金属成分の含有量は、例えば、1.0~7.0質量%であることが好ましく、1.5~6.5質量%であることがより好ましい。これにより、セラミックス基板と銅板との接合性を向上、確保させることができる。活性金属含有ろう材が、銀-銅系の場合は、上述の銀と活性金属成分以外の金属成分(の残部)が銅の含有量となる。
【0049】
なお、ろう材は、接合欠陥を低減してマイグレーションを抑制する観点から、金属成分として錫をさらに含んでもよい。錫の含有量は、例えば金属元素の合計に対して10質量%以下とするとよい。錫によれば、セラミックス基板と銅板との接合性をより高くすることができる。すなわち銀-銅系の活性金属含有ろう材の場合、例えば上述のようにろう材の金属成分中の銀の含有量が30~95質量%、活性金属の含有量が1.0~7.0質量%、錫の含有量が10質量%以下(好ましくは1~8質量%)であり、残部が銅からなる組成であることが好ましい。
【0050】
(銅板)
セラミックス基板10の両面には、ろう材接合層11を介して銅板12が接合されている。銅板12は、銅および不純物元素を含む純銅からなる板状部材である。2枚の銅板12のうち、一方の面に接合される銅板12aは、所定の回路パターンを形成するためのものである。他方の面に接合される銅板12bは、回路パターンに搭載される半導体素子等のチップ部品から発生する熱を逃がす放熱板パターンを形成するためのものである。
【0051】
銅板12は、熱伝導率を向上させ、高い放熱性を実現する観点から、銅(Cu)の含有量が99.9質量%以上であり、99.96質量%以上の純銅であることが好ましい。また、銅板12には、不純物元素として、例えば銀(Ag)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、リン(P)、硫黄(S)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などが含まれる。
【0052】
(銅板における不純物元素)
銅に元素を添加した場合、多くの元素は一般的に、銅の再結晶温度を上昇させ、加熱時に銅の再結晶を阻害すると考えられている。純銅に含まれる不純物元素は微量のため、明確に銅の再結晶温度の上昇が認められるとは限らないが、銅板とセラミックス基板を接合するときの加熱の時に、転位の移動や消失に影響があると推測される。
この点、本発明者等の検討によると、S、P、As、SbおよびZnは、Cuの転位の移動や消失に特に大きく影響を与える元素と考えられる。例えば、SはCuの結晶粒界に偏在しやすく、Cuの加熱時に転位の移動や消失を妨げる傾向がある。この点、本発明者等の検討によると、銅板12におけるSの含有量を0.1ppm~7ppm、Pの含有量を0.05ppm~2ppm、Asの含有量を0.005ppm~1.5ppm、Sbの含有量を0.005ppm~0.5ppm、Znの含有量を0.005ppm~0.08ppmに制御することが好ましく、これらの含有量の制御によりCuの転位の移動や消失(或いは再結晶温度の上昇)が妨げられることを抑制できることが見出された。このような組成を有する銅板12によれば、加熱したときに、内部に蓄積する転位を低減させやすく、ヒートサイクルによる加工硬化を抑制することができると考えられる。つまり、銅-セラミックス接合基板1のヒートサイクル性をより向上させることができる。なお、不純物の割合は「質量ppm」を意味するが、便宜上「ppm」と示す。また、不純物の含有量は、後述の実施例に示すように、グロー放電質量分析法(GDMS法)により測定される数値を示す。
【0053】
以下、各不純物元素の含有量について説明する。
【0054】
Sの含有量は0.1ppm~7ppmであることが好ましく、接合基板1のヒートサイクル性を向上させる観点からは1ppm~6ppmであることがより好ましく、4.5ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0055】
Pは、Sと同様、Cuの結晶粒界に偏在して再結晶温度を上昇させることが知られているが、本発明者等の検討によると、PはSとの相互作用により再結晶温度の上昇の抑制に寄与することが見出された。そのため、Sの存在下においてはPを含有するとよく、Pの含有量は0.05ppm~2ppmであるとよく、0.1~1.5ppmとしてもよい。
【0056】
Asの含有量は0.005ppm~1.5ppmであることが好ましく、0.05ppm~0.5ppmであることがより好ましく、0.3ppm以下としてもよい。
【0057】
Sbの含有量は0.01ppm~0.5ppmであることが好ましく、0.02ppm~0.2ppmであることがより好ましい。
【0058】
Znの含有量は0.005ppm~0.08ppmであることが好ましく、0.01ppm~0.04ppmであることがより好ましい。
【0059】
銅板12には、上記S、P、As、SbおよびZn以外に、Agが含まれていても良い。Agは、銅板の加熱時にCuの転位の移動や消失(或いは再結晶温度の上昇)への影響が無視できると考えられる。したがって20ppm以下のAgを含有してもよい。好ましくは0.1ppm~15ppm、1~10ppmである。
【0060】
その他、上記以外の不純物元素の含有量は特に限定されないが、不純物元素の合計の含有量が0.01ppm~15ppmであることが好ましく、0.1ppm~8ppmであることがより好ましく、0.5ppm~6ppmであることが最も好ましい。さらに不純物元素の合計の含有量を3ppm以下としてもよい。
【0061】
セラミックス基板に接合されている上述した組成を有する銅板12は、modified Williamson-Hall/Warren-Averbach法(以下、mWH/WA法ともいう)によって求められた転位密度が1.5×1013m-2以下となるように構成されている。好ましくは、転位密度が1.0×1013m-2以下である。
なお、転位密度は小さいほど好ましく、その下限値は特に限定されないが、例えば下限値は1.0×1011m-2、もしくは1.0×1012m-2であるとよい。
【0062】
mWH/WA法は、X線回折ラインプロファイル法の1種である。X線回折ラインプロファイル法は、X線のラインプロファイル(回折強度曲線)の形状変化からその形状変化を引き起こしている因子である結晶子サイズや格子ひずみ、転位密度などをラインプロファイル形状の逆解析により定量評価する手法である。mWH/WA法によれば、結晶方位に依存した非等方的な格子ひずみの影響をコントラストファクターと呼ばれる補正項を導入することで考慮し、転位密度をより高精度に定量評価することが可能となる。
【0063】
本実施形態では、銅板12に含まれる特定の不純物元素の含有量が所定範囲に制御されることにより、銅板は加熱したときに転位が少なくなり、セラミックス基板10に接合された銅板12のmWH/WA法により求められる転位密度が1.5×1013m-2以下となる。
【0064】
また、銅板12は、接合の際の加熱によりCuが再結晶することで、Cuの平均結晶粒径が接合前よりも大きくなる。本実施形態の銅板12は、P、S、As、SbおよびZnの含有量が所定範囲に制御されているので、加熱により転位が減少しやすく、加熱後のCuの平均結晶粒径をより大きくすることが可能となる。Cuの平均結晶粒径は特に限定されないが、ヒートサイクル性をより向上させる観点からは、0.05~0.5mmであることが好ましく、0.08~0.4mmであることがより好ましい。
【0065】
なお、接合基板1に使用する2枚の銅板12は、同一の組成であってもよく、異なっていてもよいが、製造効率の観点から同一の組成であることが好ましい。
【0066】
(2)銅-セラミックス接合基板の製造方法
次に、上述した接合基板1の製造方法について説明する。
【0067】
(準備工程)
まず、セラミックス基板10、原料銅板、およびろう材を準備する。
【0068】
原料銅板としては、例えば無酸素銅板を用いることができ、P、S、As、SbおよびZnの含有量が上述した範囲内となるものを適宜選択するとよい。なお、原料銅板の転位密度は、特に限定されず、例えば5.0×1015m-2以下の範囲内であることが好ましく、1.0×1014m-2~2.5×1015m-2の範囲としてもよい。
【0069】
活性金属含有ろう材の形態としては、ペーストや箔などが挙げられる。ペースト状のろう材は、金属成分からなる金属粉末と、バインダーおよび溶剤を含むビヒクルを混錬する公知の手法により作製することができる。上述したように、ろう材は、金属成分として、例えば、銀および銅を含み、チタンまたはジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の活性金属を含むことが好ましく、錫またはインジウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を含んでいてもよい。
【0070】
(ろう材層形成工程)
続いて、セラミックス基板10の両面に、例えばペースト状のろう材を塗布する。そして、塗布したろう材を大気中あるいは不活性雰囲気中等で乾燥させ、ろう材層を形成する。ろう材の塗布は、例えば、スクリーン印刷、スプレー、ロールコーター等の従来公知の方法を採用することができる。ろう材が箔である場合は、セラミックス基板の表面にろう材箔が接触するように配置してろう材層を形成すればよい。
【0071】
(銅板接合工程)
続いて、ろう材層に原料銅板を接触するように配置し、原料銅板の位置ずれを抑制する等のために原料銅板に仮加圧した後、この積層体を真空中または非酸化性雰囲気中において加熱する。これにより、ろう材層が溶融して原料銅板とセラミックス基板10を接合してろう材接合層11が形成され、セラミックス基板10へろう材接合層11を介して原料銅板を接合する。また接合の際、原料銅板は加熱により焼きなまされ、またCuを再結晶させ、内部に残留する転位を低減させることで、所定の転位密度を有する銅板12を形成する。本実施形態では、銅板12に含まれる不純物元素を前述した所定の含有量とすることで、mWH/WA法により求められる転位密度を1.5×1013m-2以下とすることができる。
【0072】
なお、ろう材層へ原料銅板を接触して配置するとは、セラミックス基板10と原料銅板とをろう材層を介して積層することを示す。また原料銅板に仮加圧するとは、原料銅板の位置ずれを抑制する等のため、この積層体における原料銅板上に例えばセラミックス基板などのスペーサーを介して重りを乗せる、或いは積層体を挟持する治具などにより加圧することを示す。仮加圧とは、原料銅板の位置ずれを抑制でき、かつ、接合により得られる銅板12の転位密度を過度に上昇させないような低加圧荷重を示す。接合時の加圧荷重が過度に高いと、接合後の冷却過程で銅板12が接合荷重により変形し、転位密度が増加してしまうことがある。そのため、接合後の銅板12の転位密度を上記範囲内とする観点からは、低加圧荷重による仮加圧とするとよい。具体的には、加圧荷重としては0.5kPa~5kPaとすることが好ましい。
【0073】
接合の際の加熱条件は、接合後の銅板12においてmWH/WA法により求められる転位密度が1.5×1013m-2以下となるように、温度プロファイルを適宜調整するとよい。すなわち、Cuの軟化開始温度(約200℃)以上に保持される時間を、転位密度が所定範囲となるように適宜調整するとよい。加熱時間を短縮して製造効率を向上させる観点からは、500℃以上(Cuの軟化開始温度の2倍以上)の温度域での保持時間が6時間以上となるように加熱することが好ましく、または700℃以上の温度域での保持時間が2時間以上となるように加熱することがより好ましい。ろう接法においては、ろう材が溶融して原料銅板とセラミックス基板10が接合される接合温度として、一般的に750℃以上、好ましくは770℃以上であるが、前記温度域および保持時間を満たす条件で温度プロファイルを管理するのが好ましい。
【0074】
以上により、セラミックス基板10の表面にろう材接合層11を介して銅板12が接合された接合基板1が得られる。
【0075】
(3)銅-セラミックス回路基板およびその製造方法
次に、上述した接合基板1から回路基板を作製する方法について説明する。
【0076】
まず、接合基板1の銅板12aの表面に、例えば所定の回路パターンを有するエッチング用のレジスト膜を形成する。また、銅板12bの表面に、所定の放熱板パターンを有するエッチング用のレジスト膜を形成する。これらのレジスト膜は、例えばスクリーン印刷法、ラミネート法、フォトマスク法など公知の方法によりレジストを形成し、硬化させることで銅板12a、銅板12bの表面に形成するとよい。
【0077】
続いて、公知のエッチング液、例えば塩化第二銅、塩化鉄、フッ化水素酸、キレート剤などを用いて、銅板12およびろう材接合層11(銅板接合工程においてろう材と銅板およびセラミックス基板とが反応して生成した層)のレジスト膜で覆われていない領域を除去することにより、所定の回路パターンおよび放熱板パターンを形成する。
【0078】
続いて、回路パターンや放熱板パターンに対してめっき処理を施しても良い。めっき処理としては、例えば無電解Ni-Pめっきや電気Niめっきなどを用いることができる。
【0079】
以上により、回路基板が得られる。
【0080】
(4)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0081】
本実施形態の接合基板1は、不純物元素であるS、P、As、SbおよびZnの含有量が所定範囲であって、mWH/WA法により求められる転位密度が1.5×1013m-2以下とである銅板12を備えている。このような銅板12によれば、転位が少ないので、加熱されたときにCu結晶がすべり運動しやすく、熱変形による加工硬化を抑制することができる。そのため、例えば接合基板1から得られる回路基板に半導体チップを搭載し、パワーモジュールを作製するときに、その作製過程の通炉処理などの熱負荷による回路パターンなどの加工硬化を抑制することができる。これにより、セラミックス基板10に加わる熱応力の上昇を抑制でき、作製過程中にセラミックス基板10に蓄積するダメージを低減し、セラミックス基板10に生じるマイクロクラックを抑制することができる。しかも、パワーモジュールは、半導体チップのスイッチング動作時には発熱し、その動作停止時には冷却されるというように、使用中にヒートサイクルの熱負荷がかかることになるが、このヒートサイクルにおいてもセラミックス基板10のダメージを低減することができる。このように、本実施形態の接合基板1によれば、繰り返しの熱負荷によるダメージを低減でき、高いヒートサイクル性を実現することができる。
【0082】
また、本実施形態の接合基板1によれば、ヒートサイクル性が高いので、回路基板のセラミックス基板に加わる熱応力を緩和すべく、金属部分に段差形状を設けたり、ディンプル形状を設けたりすることを省略することができる。そのため、回路基板の表面に半導体チップを実装する実装面積を確保しつつ接合基板1の外形サイズの大型化を回避することができる。さらには段差形状を設けたり、ディンプル形状を設けたりする製造工程を省略することもでき、その場合は製造コストを低減することができる。
【0083】
接合基板1の銅板12における銅の平均結晶粒径は0.05mm~0.5mmであることが好ましい。このように平均結晶粒径を比較的大きくすることにより、ヒートサイクルによる加工硬化をより確実に低減することができ、ヒートサイクル性をより向上させることができる。
【0084】
また、本実施形態の接合基板1の作製においては、S、P、As、SbおよびZnの含有量が所定範囲である原料銅板を使用している。この原料銅板によれば、銅の再結晶温度を上昇させるS、P、As、SbおよびZnの含有量を所定範囲とすることで、銅の再結晶温度の上昇を抑制している。そのため、接合の際の加熱で、銅板12において銅を効率よく再結晶させることができ、銅板12における転位を低減し、その転位密度を1.5×1013m-2以下とすることができる。
【0085】
また、本実施形態では、セラミックス基板10と原料銅板とをろう材接合層11を介して接合(ろう接)している。ろう接によれば、セラミックス基板10と原料銅板とを直接接合する場合と比較して、接合時の加熱温度を低くできるため、セラミックス基板10と原料銅板の熱膨張係数の差に起因する応力を低減でき、また、銅板12のセラミックス基板10との接合信頼性を高く維持することができる。また、直接接合の場合、接合時の加熱温度が比較的高く、再結晶により転位密度をより低減しやすい傾向にあるが、本実施形態では、原料銅板における不純物の含有量が少ないため、加熱温度が比較的低いろう接であっても、再結晶させやすく、転位密度を低くすることができる。つまり、本実施形態の接合基板1においては、銅板12の接合信頼性を高くしつつ、銅板12の転位密度を低くすることができる。
【0086】
また、本実施形態では、セラミックス基板10と原料銅板とを配置した状態、もしくは配置後に仮加圧した状態で接合している。このような状態で接合することで、銅板12にかかる接合荷重を小さくすることができる。これにより、銅板12において、接合荷重による変形を抑制し、変形にともなう転位密度の増加を抑制することができる。
【0087】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0088】
例えば、上述の実施形態では、セラミックス基板10の両面(上面および下面)上に、銅板12が接合されている場合について説明したが、銅-セラミックス接合基板1においては、セラミックス基板10の少なくとも一方の面上に、銅板12が接合されていればよい。
【0089】
また例えば、実装面積が減少するが、熱負荷によるセラミックス基板10への熱応力をさらに緩和することを目的として、回路基板の銅板の断面形状に段差形状を設けたり、金属部の外周にディンプル形状を設けたりしてもよい。
【0090】
また、上述の実施形態では、セラミックス基板10と銅板12とをろう材を介して接合する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、セラミックス基板10と銅板12とを直接接合してもよい。この場合、例えば、セラミックス基板10と銅板12とをろう材を介さずに接触配置して不活性ガス雰囲気中で加熱して接合するとよい。このときの加熱温度は、例えば1065℃以上1083℃以下とするとよい。また、加熱時間は、セラミックス基板10と銅板12との接合信頼性を担保できれば特に限定されない。
【実施例0091】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0092】
<サンプル1~6>
本実施例では、接合基板を作製し、そのヒートサイクル性を評価した。
【0093】
まず、接合基板を作製するため、セラミックス基板、原料銅板およびろう材を準備した。
【0094】
セラミックス基板としては、AlNセラミックス基板を準備した。AlN基板は、サイズが縦68mm×横68mm×厚さ0.64mmであり、サイズ縦34mm×横34mm×厚さ0.64mmの4つの個片に分割できるように分割ラインが設けられている。
【0095】
原料銅板としては、銅純度が99.96質量%以上であって、合金番号・質別がC1020-1/2Hである無酸素銅板(サイズ68mm×68mm×0.25mm)を準備した。本実施例では、表1に示すように、無酸素銅板として、銅板A~銅板Fの6種類を準備した。
【0096】
【0097】
表1において、銅板A~銅板Fのそれぞれにおける不純物元素の含有量は、グロー放電質量分析法(GDMS法)により測定した。具体的には、まず、各原料銅板から約25mm四方の試料片を切り出した。続いて、この試料片に対して硝酸により表面の汚染を酸洗浄した。この洗浄した試料片について、GDMS法の測定装置(VG Elemental社製「VG9000」)を用いて、不純物元素の含有量を測定した。表1中、「その他不純物元素の総量」は、表に列挙した以外の元素を含む総量を示す。なお、表1の測定値はGDMS法による測定値のため、「その他不純物元素」には、GDMS法で定量評価できないH、C、N、O、第18族元素、およびGDMS測定装置のサンプルホルダーであるTaは含まれない。
GDMS法の測定条件は、以下のように各種条件を設定した。放電セル(イオン源)には平板状試料用のフラットセルを用い、分析時には液体窒素で放電セルを冷却した。放電ガスには6Nグレードの高純度Arガスを用い、グロー放電は3mAの定電流制御モードとし、放電電圧は導入する放電ガス量により1kVに制御した。イオン電流の検出・測定には、マトリックス元素であるCuに対してはファラデー検出器を、その他の不純物元素に対してはデイリー検出器を用いた。検出器の積分時間は、ファラデー検出器では取り込み時間160ms×取り込み回数1回、デイリー検出器では取り込み時間200ms×3~5回とした。質量分解能(m/Δm:5%ピーク高さ)は約4000以上となるように調整した。イオン電流強度比を濃度に換算するための相対感度係数(RSF)には、装置内蔵の値を用いた。なお、定量分析に用いるイオン電流値の測定は、予備放電(約20min)により表面汚染が消失し、各元素のイオン強度比が安定に達した後に実施している。
【0098】
ろう材は、以下のように作製した。10質量%の銅粉、1.7質量%のチタン粉、0.5質量%の酸化チタン粉(酸化チタン(IV)ルチル型)、残部が銀粉からなる粉末100質量部を計量し、これら粉末100質量部に対してアクリル系バインダーと溶剤からなるビヒクルを13.8質量部添加して、乳鉢および三本ロールミルを用いて混練し、ペースト状のろう材を作製した。
【0099】
次に、準備した材料を用いて銅-セラミックス接合基板を作製した。
【0100】
具体的には、まず、AlNセラミックス基板の両面に対して、ペースト状のろう材を塗布した。このとき、AlNセラミックス基板において、分割ラインで区切られた4つの区画のそれぞれの略全面にペースト状のろう材を厚さが約20μmとなるようにスクリーン印刷した。ろう材を塗布したAlNセラミックス基板を、大気中で乾燥させて、ろう材塗布層を形成した。
【0101】
続いて、AlNセラミックス基板の両面にろう材塗布層を介して銅板A~銅板Fをそれぞれ接触配置して積層させ、セラミックス基板(アルミナ基板)のスペーサーを介して重りを乗せて積層体に1kPaの圧力を付加した状態で、この積層体を真空炉に導入した。真空炉にて、接合温度(最高温度)として835℃で40分間、加熱した後冷却した。なお、昇温~接合温度保持~降温の一連の過程において、500℃以上の温度域は7.5時間継続した。また、同様に昇温~接合温度保持~降温の一連の過程において、700℃以上の温度域は2.5時間継続した。これにより、AlNセラミックス基板に銅板A~銅板Fを接合し、サンプル1~6として銅-セラミックス接合基板を作製した。
【0102】
(回路基板の作製)
次に、銅-セラミックス接合基板について、回路パターンおよび放熱板パターンを形成した。
【0103】
具体的には、サンプル1~6の接合基板における一方の面の銅板の表面に回路パターン形状のエッチングマスクを、他方の面の銅板の表面に放熱板パターン形状のエッチングマスクを、スクリーン印刷法で紫外線硬化型アルカリ剥離レジストインクを塗布し紫外線硬化させることで形成した。その後、銅板の不要部分とろう材接合層(エッチングマスクで被覆されていない箇所)を薬液により除去した後、エッチングマスクをアルカリ薬液で除去した。そして、回路パターンおよび放熱板パターンが形成された積層体を、AlNセラミックス基板に設けられた分割ラインに沿って4つに分割した。そして、分割された積層体に、無電解Ni-Pめっき法により、めっき厚4μmの無電解Ni-Pめっき皮膜を形成し、銅-セラミックス接合基板(サイズ34mm×34mm)を作製した。この回路基板(金属-セラミックス接合基板)の回路パターン形状および放熱板パターン形状を
図2および
図3に示す。
図2は、実施例の接合基板における一方の面に形成された回路パターンの形状を説明するための概略図である。
図3は、実施例の接合基板における他方の面に形成された放熱板パターンの形状を説明するための概略図である。
【0104】
(評価方法)
サンプル1~6の接合基板から得られた回路基板について、銅板における平均結晶粒径と転位密度、銅板とセラミックス基板のピール(接合)強度、回路基板の抗折強度、および通炉耐量を測定し、評価した。ピール強度および抗折強度は、接合基板の製造工程中にセラミックス基板に蓄積されたダメージ(セラミックス中のマイクロクラックの存在比率)と関連する指標であり、これらの強度が高くなるほど、最終的に得られる接合基板のセラミックス基板に蓄積されるダメージが少なく、接合基板のヒートサイクル性が高くなる。一方、通炉耐量は、回路基板を用いてパワーモジュールを組み立てる際の加熱による影響を評価するものであり、組み立ての際に回路基板を通炉させたときを模した熱処理(ヒートサイクル性)の加速試験となる。各測定方法について以下に説明する。
【0105】
(銅板における平均結晶粒径)
銅板の結晶粒径は、JIS H 0501に記載の切断法により評価した。具体的には、以下の通りである。まず、接合基板の銅板表面を銅組織観察用の腐食液で腐食して結晶粒を視認しやすくしたのち、光学顕微鏡像(倍率100倍、視野サイズ3.5mm×2.6mm)を撮影した。得られた画像の中央部に切断法の評価線分(長さ3.5mm)を引き、線分によって切られる結晶数を数え、結晶数を切断長さ3.5mmで除すことにより、その視野における粒径を算出した。この作業を任意の5視野に対して行い、その平均値をその接合基板の平均結晶粒径とした。
【0106】
(銅板の転位密度)
銅板の転位密度は、分割により得られ、無電解Ni-Pめっきを施す前の回路基板(積層体)について、X線回折ラインプロファイル法(mWH/WA法)により測定した。具体的には、まず、分割された積層体に対して、ハンドリングなどにより生じたおそれのある表面瑕疵層を除去するために、14質量%の硫酸と3.2質量%の過酸化水素と残部の水とからなる化学研磨液(45℃)に5分間浸漬して、化学研磨を施した。これにより、銅板の表面に形成された表面瑕疵層を除去した。そして、化学研磨した積層体について、放熱板パターンの銅板表面の中央部を測定箇所として、X線回折ラインプロファイル法(mWH/WA法)により銅板の転位密度を測定した。
【0107】
転位密度の測定には、X線回折測定装置(リガク株式会社製の「SmartLab」)を用いた。X線源はCu管球(管電圧45kV、管電流200mA)であり、入射側多層膜ミラーによりCuKα線に単色化した。また光学系(X線源と検出器の配置)は、対称反射法(集中法)とした。
【0108】
測定により得られたX線のラインプロファイルの解析には、Cuの回折面の(220)、(311)、(331)、(420)の4つのピークを用い、Ladell法によりKα2成分およびバックグラウンドを除去した。また、測定系起因(装置起因)によるラインプロファイルの拡がりの影響は、標準試料(純度99.96%の銅板(株式会社ニラコ製)を真空炉にて750℃、6時間加熱処理したサンプル)を測定して測定系由来のラインプロファイル変化を求め、これを用いてStokes法により装置定数を補正することで除外した。また、mWH/WA法で用いる定数項Ch00の値は、純銅の値として報告されている0.304を用いた。
【0109】
(ピール強度)
ピール強度は、回路基板について、回路パターンのうちパターン幅が3mmの箇所(
図2において一番上のパターン)を用いて、90°方向引きはがし方法(JIS C 5016準拠、クロスヘッド速度50mm/min)により測定した。なお、本実施例では、回路基板5ピースを評価し、その5箇所の測定値の平均値をピール強度とした。
【0110】
(抗折強度)
抗折強度は、3点曲げ強度測定(JIS C2141準拠、下部支点間距離30mm、回路パターン面を下に配置し上から荷重を加える)を行い、測定した。なお、本実施例では、回路基板5ピースを評価し、その平均値を抗折強度とした。
【0111】
(通炉耐量)
通炉耐量は、内部にカーボン製のホットプレートと、ホットプレートと対面する下面に昇降により接触・非接触を切り替えられる水冷式冷却板を備えたバッチ炉を用いて評価した。
具体的には、回路基板をバッチ炉のホットプレートの上面に配置して、繰り返しの通炉熱負荷を与えた。このときの通炉熱負荷1回分の温度プロファイルは、冷却板がホットプレートに非接触の状態でホットプレートを平均昇温速度約1.0℃/sで最高温度380℃まで昇温した後、最高温度380℃で10分間保持し、冷却板をホットプレートに接触させて室温まで急冷(380℃~100℃の平均冷却速度が約2.5℃/s、100℃~40℃の平均冷却速度が約0.5℃/s)する処理を1回分とした。通炉処理中のバッチ炉内雰囲気は、水素/窒素=20/80(容量%)の還元雰囲気とした。
そして、回路基板に対して通炉熱負荷を繰り返し与え、通炉熱負荷3回毎に回路基板のセラミックス基板をマイクロスコープで検査し、セラミックス基板上にクラックが初めて発見された際の回数を、そのピースの通炉耐量値として記録した。この通炉耐量値を回路基板10ピースに対して実施し、その通炉耐量値の結果に対してワイブルプロット解析を実施し、通炉耐量のワイブル分布を推定した。推定されたワイブル分布からワイブル分布の期待値を算出し、その結果を通炉耐量期待値として求めた。
なお、回路基板は無電解Ni-Pめっき皮膜を形成しているため、めっき無しの状態に比べて熱負荷によるセラミックス基板のクラックを誘引しやすく、めっき無しの状態に比べて少ない通炉熱負荷回数で評価を終了できる。
【0112】
(評価結果)
各評価結果を表2にまとめる。
【0113】
【0114】
サンプル1~5では、P、S、As、SbおよびZnの含有量が所定範囲にある銅板A~銅板Eを用いたため、セラミックス基板と接合して接合基板を作製したときに、その銅板における転位密度を1.5×1013m-2以下に調整できることが確認された。また、サンプル1~5の接合基板から作製された回路基板では、ピール強度が300N/cm以上、抗折強度が400MPa以上であった。このことから、回路基板の作製過程での熱負荷によるセラミックス基板の損傷(マイクロクラックの発生)を抑制できることが確認された。また、通炉耐量が8回以上であることから、回路基板に繰り返し熱負荷が加わった場合であっても、セラミックス基板の損傷を抑制できることが確認された。なお、特に通炉耐量においては、15回以上であるサンプル1~3が本発明の中でも優れていることがわかった。
【0115】
これに対して、サンプル6では、S、As、SbおよびZnが所定量よりも多い銅板Fを用いたため、接合基板の銅板における転位密度が2.2×1013m-2と大きいことが確認された。これは、再結晶温度を上昇させるS、As、SbおよびZnが多く、Sによる再結晶温度の上昇を抑制するPが少ないことで、接合の際にCuを効率よく再結晶できず、転位を低減できないため、と推測される。また、サンプル6では、サンプル1~5と比較してピール強度、抗折強度が小さいことが確認された。このことから、回路基板の作製過程で銅板が加工硬化し、セラミックス基板に加わる熱応力が増大することで、セラミックス基板が損傷したものと考えられる。また、通炉耐量が小さく、回路基板に繰り返し熱負荷が加わることで、セラミックス基板が損傷しやすいことが確認された。
【0116】
以上のように、接合基板において、P、S、As、SbおよびZnの含有量が所定範囲にある銅板を使用することで、セラミックス基板との接合の際の加熱で銅板における転位密度を低減することができ、高いヒートサイクル性を実現することができる。